IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ファンケルの特許一覧

<>
  • 特許-コラーゲン受容体産生促進用組成物 図1
  • 特許-コラーゲン受容体産生促進用組成物 図2
  • 特許-コラーゲン受容体産生促進用組成物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】コラーゲン受容体産生促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240528BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20240528BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/7048
A61P43/00 111
A61P43/00 105
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020070154
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021166475
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】蔀 泰幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 香織
(72)【発明者】
【氏名】今井 理恵
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-055924(JP,A)
【文献】特開2019-182753(JP,A)
【文献】特開2016-065019(JP,A)
【文献】特開2011-219454(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0125264(US,A1)
【文献】Neda Mimica-Dukic et. al.,Phenolic Compounds in Field Horsetail (Equisetum arvense L.) as Natural Antioxidants,Molecules,2008年,Vol. 13, No.7,pp 1455-1464,DOI:10.3390/molecules13071455
【文献】Mingzhi Zhu et. al.,Flavonoids of Lotus (Nelumbo nucifera) Seed Embryos and Their Antioxidant Potential,Journal of Food Science,2017年,Vol. 82, No. 8,pp 1834-1841,DOI:10.1111/1750-3841.13784
【文献】Sidiqat A. Shodehinde et. al.,Phenolic Composition and Evaluation of Methanol and Aqueous Extracts of Bitter Gourd (Momordica charantia L) Leaves on Angiotensin-I-Converting Enzyme and Some Pro-oxidant-Induced Lipid Peroxidation In Vitro,Journal of Evidence-Based Complementary & Alternative Medicine,2016年,Vol. 21, No. 4,NP67-NP76,DOI:10.1177/2156587216636505
【文献】Ruokun Yi et. al.,Intervention effect of Malus pumilaleaf flavonoids on senna‐induced acute diarrhea in BALB/c mice,Food Science & Nutrition,2020年04月05日,Vol. 8, No. 5,pp 2535-2542,DOI:10.1002/fsn3.1549
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K 8/
A61P 19/
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソクエルシトリンを有効成分として含有するコラーゲン受容体DDR2産生促進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン受容体産生促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外マトリックスは、細胞の周囲を隙間なく充填して生体組織に機械的強度や柔軟性・可塑性を与え、周囲の細胞が接着する際の足場を提供し、細胞が秩序正しく集合して組織・器官を形成するために必要な外部環境を提示している。さらに細胞外マトリックスは、細胞へ積極的にシグナルを伝達することにより、発生、分化、免疫応答、血液凝固、創傷治癒などの多様な生体プロセスを制御していることが知られている。細胞外マトリックスを構成する成分の代表的な分子はコラーゲンである。コラーゲンは、体内の総タンパク質量のおよそ30%を占める。また、コラーゲンは強靭な線維(膠原線維)を形成し、組織に線維方向への張力に抵抗する機械的強度を与える。
【0003】
生体内にはコラーゲンと相互作用する様々な分子が存在する。また、コラーゲンはフィブロネクチンやラミニンなどの多数の細胞外マトリックスを構成する分子と結合して高次構造を形成し、細胞が接着する際の足場を提供する。さらに、コラーゲンは内皮細胞の直下に存在することから、血管壁の損傷時におけるセンサーとしての役割を果たしている。生体の細胞表面には、コラーゲンと結合するレセプターが発現している。
コラーゲンは、このレセプターを介して、細胞間の情報伝達や、細胞間の結合に関与している。細胞の表面に発現しているコラーゲン受容体として代表的なものは、Integrin(インテグリン)、Discoidin Domain Receptor(DDR、ディスコイディン・ドメイン・レセプター)、Glycoprotein IV、Leukocyte-associated immunoglobulin-like receptor-1、Endo180が代表的レセプターとして知られている。
【0004】
インテグリンは最も古くから研究されている受容体で、これまでに4つのコラーゲン結合性インテグリン(α1β1、α2β1、α10β1、α11β1)が報告されており、インテグリンβ1サブユニット(ITGB1)は共通の構成分子である(非特許文献1~3)。その働きは細胞-細胞、細胞-細胞外マトリックスを繋ぐ接着分子であり、細胞増殖や組織の形成・修復に関わっている。
DDRは、DDR1とDDR2のアイソフォームが存在し、それぞれ上皮系細胞と間葉系細胞に主に発現している。DDRはネイティブな構造を保持したコラーゲン分子によって活性化される受容体型チロシンキナーゼであり、細胞接着や遊走に関与している(非特許文献1~4参照)。皮膚線維芽細胞に発現しているDDR2は、細胞外マトリックスのリモデリングを介した発生や分化、創傷治癒に重要な膜タンパク質で、ノックアウトマウスでは、骨の形成が未熟となる小人症を示し、皮膚の創傷治癒が抑制されることが報告されている(非特許文献5)。
Endo180は、断片化したコラーゲンや変性したコラーゲンを認識して、それらを細胞内へ取り込むことで、貪食作用によるコラーゲンのリモデリングを制御する膜タンパク質である(非特許文献6)。いずれの受容体も線維芽細胞の膜上に存在し、コラーゲンを介した細胞内外の情報を伝達する役割を担っている。
これらの細胞表面のコラーゲン受容体の発現が増加することによって、細胞間の結合が強化され、細胞相互の情報交換が活性化されて創傷治癒や修復が促進される。
【0005】
これまでも、コラーゲン受容体産生促進剤について様々な提案がなされている。
特許文献1には、コラーゲン受容体であるDDR2の産生を促進する物質として、メマツヨイグサエキスや果物トケイソウエキスが有用であることが記載されている。
特許文献2には、ペラルゴニジンを有効成分とするインテグリンの産生促進剤が記載されている。また特許文献3には、ナガレイシ、ミツガシワ、ヒメウコギ、ミツバアケビ、キクラゲ、ピーポーレン等の抽出物を有効成分とするインテグリン発現促進物が記載されている。特許文献4には、リンゴ抽出物を有効成分とするインテグリン産生促進剤、特許文献5にはシカク豆抽出物を有効成分とするインテグリン産生促進剤が記載されている。
【0006】
特許文献6には、コラーゲン受容体であるEndo180の産生を促進するハス胚芽抽出物、月桃葉抽出物、ラクトバシルス・プランタラムが記載されている。また特許文献7には、ロスマリン酸、カフェ酸、メリッサ抽出物が、特許文献8には、タイソウ、藤茶、ゲンチアナ、プルーン、ガイヨウ、スターフルーツ、ローヤルゼリー、緑茶、ワイルドタイム、スギナ、サンショウ、キンモクセイ、キンギンカ、セイヨウノコギリソウからなる群から選択される植物抽出物が、Endo180の産生を促進することが記載されている。
【0007】
一方、ケルセチンと呼ばれる化合物は、野菜や果物に含有されているフラボノイド化合物である。ケルセチンの配糖体の一つであるイソクエルシトリンは、ケルセチンの3位にグルコース1つが結合したフラボノール配糖体であり、強力な抗酸化活性を有し、色素の退色を防止することが知られており(特許文献9)、さらに抗動脈硬化、血流改善等の生体への作用も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-199441号公報
【文献】特開2011-20951号公報
【文献】特開2016-65019号公報
【文献】特開2011-219454号公報
【文献】特開2010-24211号公報
【文献】特開2019-182753号公報
【文献】特開2019-108398号公報
【文献】特開2019-55924号公報
【文献】特開2008-131888号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】B. Leitinger, Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 27, 265~290(2011)
【文献】J. Heinoa et al., Int. J. Biochem. Cell Biol., 41, 341~348,(2009)
【文献】YC. Yeh et al., Am. J. Physiol. Cell Physiol., 303, C1207~C1217(2012)
【文献】B. Leitinger, Int. Rev. Cell Mol. Biol., 310, 39~87,(2014)
【文献】JP. Labrador, EMBO Rep., 2, 446~452,(2001)
【文献】MC Melander et al., Int. J. Oncol., 47, 1177~1188,(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、新たなコラーゲン受容体産生促進用の組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成からなる。
(1)イソクエルシトリンを有効成分として含有するコラーゲン受容体産生促進用組成物。
(2)コラーゲン受容体が、インテグリン、DDR2、Endo180から選択される1以上である(1)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、イソクエルシトリンを有効成分として含有する新規なコラーゲン受容体産生促進用組成物が提供される。本発明の組成物は、細胞の表面に発現している代表的なコラーゲン受容体であるインテグリン、DDR2、Endo180の産生を促進する作用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】イソクエルシトリンがコラーゲン受容体の一つであるDDR2の産生を促進したことを確認する試験結果のグラフである。
図2】イソクエルシトリンがコラーゲン受容体の一つであるEndo180の産生を促進したことを確認した試験結果のグラフである。
図3】イソクエルシトリンがコラーゲン受容体の一つであるインテグリンβ1(ITGB1)の産生を促進したことを確認した試験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について具体的に説明する。
本発明でいう「コラーゲン受容体」とは、コラーゲンと特異的に結合する部位を有する細胞外タンパク質をいう。本願明細書においては、コラーゲン受容体をコラーゲンレセプターと称する場合がある。このコラーゲンに特異的に結合する部位を有する細胞外タンパク質は、コラーゲン受容体として細胞外のコラーゲンと選択的に結合することができる。このようなコラーゲン結合タンパク質としては、フィブロネクチン、インテグリン、ラミニン、DDR、Endo180、CD49b、CD29、Glycoprotein IV、Leukocyte-associated immunoglobulin-like receptor-1、Secreted protein acidic and rich in cysteineを代表的なものとして例示できる。
【0015】
「イソクエルシトリン」とは、ケルセチンにグルコース残基が結合している、下記化学式1であらわされる配糖体である。
【0016】
【化1】
【0017】
イソクエルシトリンの製造方法は、特に限定されない。例えば、特公昭54-32073号公報に記載されているように、クエルシトリンと澱粉質などのグルコース供与体を含有する溶液に対して糖転移酵素を作用させることにより、クエルシトリンにグルコース供与体からグルコース残基を等モル以上転移させ、次いで、アミラーゼを作用させてα-グルコシルイソクエルシトリンを生成させればよい。この方法によって製造したα-グルコシルイソクエルシトリンは、酵素処理イソクエルシトリン(Enzyme-Modified Isoquercitrin:EMIQ)と呼ばれる。さらに、多孔性合成吸着剤に接触させて、その吸着性の違いを利用することにより、α-グルコシルイソクエルシトリンのみを精製することも可能である。本発明においては、精製したα-グルコシルクエルシトリンも、EMIQもいずれも使用可能である。なお、EMIQは、市販品が入手可能であり、例えば、サンエミック、サンメリンAO-3000、サンメリンパウダーC-10(三栄源エフ・エフ・アイ)などを用いてもよい。
【0018】
本発明でいう「組成物」とは、イソクエルシトリンを含有し、コラーゲン受容体の産生を促進するものをいう。「組成物」には食品、医薬品、健康食品、動物用飼料を包含する。
本発明のイソクエルシトリンを含有する組成物は、コラーゲン受容体産生促進剤あるいは各種医薬品として、あるいは食品、健康食品、動物飼料等とすることが可能である。剤形としては特に制限されず、種々の形態とすることができ、具体的には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等経口投与のための形態とすることができる。なお製剤化するにあたって添加する賦形剤には特に制限がない。また本発明の作用効果を阻害しない範囲で、その他の生理活性成分等を含有させることができる。
【0019】
本発明に係るコラーゲン受容体産生促進用組成物中の有効成分であるイソクエルシトリンの配合量は、特に制限されず、また、目的、対象とする疾病により異なるので、一概に規定できるものではないが、一般的には、イソクエルシトリンを組成物当たり0.001~99質量%、好ましくは0.1~99質量%、より好ましくは1~99質量%とすることで、コラーゲン受容体の産生を促進することができる。
【実施例
【0020】
以下にイソクエルシトリン(以下「IQC」と略記する。)を用いたコラーゲン受容体産生促進効果の確認試験例を示し、本発明についてさらに説明する。
<試験方法>
1.細胞の培養
試験用細胞として、正常ヒト線維芽細胞(NHDF:Normal Human Dermal Fibroblasts、Neonatal skin、Cat.# CC-2509; Lot No. 0000490825; LONZA)を、10%(v/v)牛胎児血清(FBS)SA(ニチレイ)及び1%(v/v)Penicillin-Streptomycin(Sigma-Aldrich)含有DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium、GIBCO)培地を用いて、37℃、5% CO存在下のインキュベーターで培養した。
【0021】
2.IQCの調製
IQC(イソクエルシトリン、富士フイルム和光純薬)を、DMEM培地(血清なし)で必要濃度に希釈して本試験に使用した。
【0022】
3.コラーゲン受容体産生促進活性の評価試験方法
DDR2、Endo180、インテグリンβ1(ITGB1)の3種の受容体に対する産生促進効果を確認した。
NHDF細胞を12-well プレートに80,000 cells/wellで播種して、24時間培養した。培養後、培地を除去して、培地を用いて調製したIQCを1.5mlずつ添加した。なおIQCは、0.05%DMSO含有DMEM培地(血清なし)で希釈して、100及び400μg/mlに調製した。
IQCを添加後48時間培養し、その後、培地を除去して、細胞を2mlのPBSで洗浄した。細胞は100μl Laemmli buffer(0.09 M Tris-HCl(pH6.8)、3% SDS、10.3% glycerol)に溶解し、エッペンドルフチューブに回収して、超音波破砕(10秒処理、5秒氷上静置を3回)にかけて細胞を溶解させた。
次いで、4°Cで15,000×gの条件で5分間遠心分離した。上清を4×SDS-loading bufferと混合し、95°Cで3分間熱処理した。次いで、SDS-PAGEにかけてタンパク質を分離した。ゲル内のタンパク質は電気的にPVDF膜に転写した。
転写後、膜をStartingBlock T20(PBS) Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific)に浸し、約15分間ブロッキングした。次に、PVDF膜をStartingBlockで1,000倍に希釈した一次抗体、Anti-DDR2(AF2538、R&D Systems)、Anti-Endo180(ab70132、abcam)、Anti-Integrin β1(MAB1965、Millipore)、またはAnti-βActin(sc-47778、Santa Cruz Biotechnology)に浸し、4℃で一晩反応させた。
その後PBST(PBS、0.05% Tween 20)を用いて4回洗浄後、10,000倍に希釈した二次抗体、Rabbit anti-Goat IgG(H+L) Secondary Antibody(HRP, Polyclonal, Invitrogen, 81-1620, Thermo Fisher Scientific)、Goat Anti-rabbit IgG, HRP-linked Antibody(7074S, CST)又は Goat anti-Mouse IgG (H+L) Cross-Adsorbed(HRP, Polyclonal, Secondary Antibody, Invitrogen, G21040, Thermo Fisher Scientific)に浸し、室温で1時間反応させた。
反応終了後にPBSTで4回洗浄し、次いでECL detection kitを用いて、化学発光検出装置(LAS-4000 mini、富士フイルム)でシグナルを検出した。検出されたバンドのシグナル強度を解析(Multi Gauge,富士フイルム)し、βActinのバンドシグナル強度で標準化して、DMSOのみを添加したコントロールに対する相対値を算出し各コラーゲン受容体の増加量を評価した。
【0023】
4.結果
IQCによるコラーゲン受容体タンパク質の産生促進効果
IQCは、図1~3に示すように、NHDFに発現する3種のコラーゲン受容体(DDR2、Endo180、ITGB1)すべてに対し、産生を促進した。特に、IQC400μg/mlの濃度でDMSOのみを添加したコントロール(DMSO)に対して、それぞれ2.98、1.65、1.73倍に増加していた。
IQCはコラーゲン受容体の産生を促進することが明らかとなった。
図1
図2
図3