(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】蓄電素子の管理装置、蓄電装置、蓄電素子の入出力制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240528BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20240528BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240528BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240528BHJP
B60L 3/00 20190101ALN20240528BHJP
B60L 58/12 20190101ALN20240528BHJP
【FI】
H02J7/00 B
H02J7/10 Q
H02J7/10 B
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
B60L3/00 S
B60L58/12
(21)【出願番号】P 2019158285
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】柏 雄太
(72)【発明者】
【氏名】落合 誠二郎
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-352970(JP,A)
【文献】特開2006-338944(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/086368(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/048619(US,A1)
【文献】国際公開第2018/211824(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/34
H01M 10/42 -10/48
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 -13/00
B60L 15/00 -58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の連続充電または連続放電による通電電気量を算出する電気量算出部と、
制御部とを備え、
前記制御部は、前記通電電気量を前記蓄電素子の実容量で除した値であるΔSOCが、上限ΔSOCを超えないように蓄電素子の充放電時の入出力を制御する蓄電素子の管理装置。
【請求項2】
前記制御部は、所定時間を越えて前記蓄電素子の連続充電または連続放電が行われる時に、前記ΔSOCが前記上限ΔSOCを越えないように前記蓄電素子の充放電時の入出力を制御する請求項1に記載の蓄電素子の管理装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記蓄電素子の連続充電または連続放電前の充電状態に基づいて前記上限ΔSOCを決定する請求項1または請求項2に記載の蓄電素子の管理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記蓄電素子の連続充電または連続放電前の温度に基づいて前記上限ΔSOCを決定する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の蓄電素子の管理装置。
【請求項5】
蓄電素子と、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の蓄電素子の管理装置とを備える蓄電装置。
【請求項6】
前記蓄電素子の通電を遮断する電流遮断装置を備え、
前記制御部は、前記ΔSOCが前記上限ΔSOCを超えた場合に前記電流遮断装置によって前記蓄電素子の通電を遮断制御する請求項5に記載の蓄電装置。
【請求項7】
前記蓄電素子の出力を抑制する出力制御手段を備え、
前記制御部は、前記ΔSOCが前記上限ΔSOCよりも低く設定された出力抑制閾値を超えた場合に前記出力制御手段によって前記蓄電素子の出力を抑制制御する請求項6に記載の蓄電装置。
【請求項8】
蓄電素子の入出力制御方法であって、
蓄電素子の充放電による通電電気量を実容量で除した値であるΔSOCが、上限ΔSOCを超えないように前記蓄電素子の充放電時の入出力を制御する蓄電素子の入出力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子の管理装置、蓄電装置、蓄電素子の入出力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池において、連続した充放電時間が一定時間を超えると、拡散限界という現象が生じることが従来知られている。そこで、特許文献1は、電池の内部抵抗の上昇幅が所定値を超えたことを検出すると電池の出力を制御して、拡散限界の発生を制御することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで多くの場合、拡散限界が生じない範囲のみでリチウムイオン電池を使用してきた。しかしながら、拡散限界が生じる条件についての検討は十分でなく、言い換えれば、電池の性能を十分に使えていなかった。
【0005】
そこで、充電状態(SOC)、温度、抵抗から許容出力を逐次算出することで、電池の性能を十分に使う方法が検討されている。しかしながら、許容出力を逐次算出する場合であっても、拡散限界の影響により実力以上の許容出力が算出される可能性があるため、その改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
蓄電素子の管理装置は、蓄電素子の連続充電または連続放電による通電電気量を算出する電気量算出部と、制御部とを備え、前記制御部は、前記通電電気量を前記蓄電素子の実容量で除した値であるΔSOCが、上限ΔSOCを超えないように蓄電素子の充放電時の入出力を制御する。
【発明の効果】
【0007】
上記構成によれば、拡散限界に伴う蓄電素子の抵抗増加による放電時の出力低下が生じることを抑制して、電池の性能を十分にうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】蓄電素子または組電池の放電時における電圧と電流との相関関係を示したグラフ
【
図6】蓄電素子または組電池の充電時における電圧と電流との相関関係を示したグラフ
【
図7】蓄電素子または組電池の内部抵抗の変化を表す電圧と電流との相関関係を示したグラフ
【
図8】0℃、SOC15%の蓄電素子または組電池における電流の時間的推移の例を示したグラフ
【
図9】0℃、SOC15%の蓄電素子または組電池における電圧の時間的推移の例を示したグラフ
【
図10】0℃、SOC15%の蓄電素子または組電池における電圧と電流との相関関係を示したグラフ
【
図11】0℃、SOC15%の蓄電素子または組電池におけるΔSOCと電流との相関関係を示したグラフ
【
図12】-30℃、SOC45%の蓄電素子または組電池における電流の時間的推移を示したグラフ
【
図13】-30℃、SOC45%の蓄電素子または組電池における電圧の時間的推移を示したグラフ
【
図14】-30℃、SOC45%の蓄電素子または組電池における電圧と電流との相関関係を示したグラフ
【
図15】-30℃、SOC45%の蓄電素子または組電池におけるΔSOCと電流との相関関係を示したグラフ
【
図16】異なる温度における上限ΔSOCとSOCとの相関関係を示したグラフ
【
図17】異種電池における上限ΔSOCとSOCとの相関関係を示したグラフ
【
図18】実施形態1に係る入出力制御処理を示すフローチャート
【
図19】実施形態2に係る入出力制御処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本実施形態の概要)
初めに、蓄電素子の管理装置、蓄電装置および蓄電素子の入出力制御方法の概要について説明する。
蓄電素子の管理装置は、蓄電素子の連続充電または連続放電による通電電気量を算出する電気量算出部と、制御部とを備え、前記制御部は、前記通電電気量を前記蓄電素子の実容量で除した値であるΔSOCが、上限ΔSOCを超えないように蓄電素子の充放電時の入出力を制御する。
【0010】
蓄電装置は、蓄電素子と、前記管理装置とを備える。
蓄電素子の入出力制御方法は、蓄電素子の連続充電または連続放電による通電電気量を実容量で除した値であるΔSOCが、上限ΔSOCを超えないように前記蓄電素子の充放電時の入出力を制御する。
ここで、実容量(available capacity)とは、蓄電素子が完全充電された状態から取り出し可能な容量である。通電電気量はI×T、つまり、電流と通電時間の積(積分値)である。SOCは、実容量に対する残存容量の比率である。
【0011】
本発明者らは、リチウムイオン電池の使用条件(特に、出力下限電圧)と拡散限界との関係を検討した。従来、電池の出力下限電圧は、十分に安全サイドにマージンを取って設定されることが多く、電池性能を使い切っていないことに本発明者らは着目した。本発明者らは、蓄電素子の連続充電または連続放電による通電電気量を実容量で除した値であるΔSOCが、上限ΔSOCを超えないように蓄電素子の充放電時の入出力を制御することで、拡散限界を抑制できることを見出した。
ΔSOCが上限ΔSOCを超えないように制御することで、拡散限界に伴う蓄電素子の抵抗増加による放電時の出力低下を抑制して、電池の性能を十分に使うことができる。
【0012】
前記制御部は、所定時間を越えて前記蓄電素子の連続充電または連続放電が行われる時に、前記ΔSOCが前記上限ΔSOCを越えないように前記蓄電素子の充放電時の入出力を制御してもよい。
前記制御部は、前記蓄電素子の連続充電または連続放電前の充電状態に基づいて前記上限ΔSOCを決定してもよい。
【0013】
本発明者らは、上限ΔSOCが蓄電素子の連続充電または連続放電前の充電状態(SOC)に依存性があることを見出した。蓄電素子の連続充電または連続放電前の充電状態(SOC)に基づいて上限ΔSOCを決定することで、蓄電素子の連続充電または連続放電前のSOCに基づいて上限ΔSOCを決定しない場合に比べて、拡散限界抑制の精度を向上させることができる。
【0014】
前記制御部は、前記蓄電素子の連続充電または連続放電前の温度に基づいて前記上限ΔSOCを決定してもよい。
【0015】
本発明者らは、上限ΔSOCが蓄電素子の連続充電または連続放電前の温度に依存性があることを見出した。蓄電装置の連続充電または連続放電前の温度に基づいて上限ΔSOCを決定することで、温度に基づいて上限ΔSOCを決定しない場合に比べて、拡散限界抑制の精度を向上させることができる。
【0016】
蓄電装置は、前記蓄電素子の通電を遮断する電流遮断装置を備え、前記制御部は、前記ΔSOCが前記上限ΔSOCを超えた場合に前記電流遮断装置によって前記蓄電素子の通電を遮断してもよい。
【0017】
ΔSOCが上限ΔSOCを超えた場合に電流遮断装置によって蓄電素子の通電を遮断することで、蓄電素子に拡散限界が生じることを抑制できる。
【0018】
蓄電装置は、前記蓄電素子の出力を抑制する出力制御装置を備え、前記制御部は、前記ΔSOCが前記上限ΔSOCよりも低く設定された出力抑制基準値を超えた場合に前記出力制御装置によって前記蓄電素子の出力を抑制してもよい。
【0019】
上記構成によれば、上限ΔSOCよりも低く設定された出力抑制基準値をΔSOCが超えた場合に出力制御装置によって蓄電素子の出力を抑制できるため、ΔSOCが上限ΔSOCを超えて蓄電素子の通電が遮断されるまでの期間を長くすることができる。
【0020】
(実施形態の詳細)
以下、本発明の実施形態について、
図1から
図21を参照しつつ説明する。
蓄電装置は、例えば、電気自動車や、エンジンとモータとによって駆動されるハイブリッド車両に搭載される蓄電装置10であって、車両に搭載される車両負荷C1へ電力を供給すると共に、車両側発電機(例えば、オルタネータ)C2により充電を受ける。
【0021】
蓄電装置10は、
図1に示すように、複数の蓄電素子100が直列に接続された組電池20と、組電池20を管理する電池管理装置(「電気量算出部」、「制御部」の一例であって、以下、「BMU」という)30と、電流検出部(「測定部」の一例)41と、温度測定部(「測定部」の一例)42と、出力制御回路(「出力制御手段」の一例)43と、電流遮断装置44と、外部端子11と、を備えて構成されている。組電池20は、複数の蓄電素子100が直列および並列に接続されたものでもよい。
蓄電装置10は、エンジン始動装置や補機への電源供給を行う12V電源であってもよい。蓄電装置10は、車両駆動アシストや補機への電源供給を行う48V電源であってもよい。
【0022】
本実施形態における蓄電素子100は、非水電解質二次電池であって、具体的にはリチウムイオン電池である。蓄電素子100はリチウムイオン電池に限定されない。蓄電素子100は、リチウムイオン電池と同様の一過性の出力低下を生じる、リチウムイオン電池以外の電池や、キャパシターでもよい。
【0023】
蓄電素子100は、
図2から
図4に示すように、正極123及び負極124を含む電極体102と、電極体102を収容するケース103と、ケース103の外側に配置される外部端子104と、を備える。蓄電素子100は、電極体102と外部端子104とを導通させる集電体105を有する。
【0024】
電極体102は、巻芯121と、互いに絶縁された状態で巻芯121の周囲に巻回された正極123と負極124と、を備える。巻芯は、もうけられなくてもよい。電極体102においてリチウムイオンが正極123と負極124との間を移動することにより、蓄電素子100が充放電される。
【0025】
正極123は、金属箔と、金属箔の上に形成された正極活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。金属箔は、例えばアルミニウム箔である。
【0026】
正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2など、Li1+xM1-yO2(MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素、0≦x<1/3、0≦y<1/3)等の層状構造のリチウム遷移金属酸化物等を用いるのが好ましい。当該正極活物質として、LiMn2O4やLiMn1.5Ni0.5O4等のスピネル型リチウムマンガン酸化物や、LiFePO4等のオリビン型正極活物質等と、上記層状構造のリチウム遷移金属酸化物とを混合して用いてもよい。正極活物質は、これらに限定はされない。
【0027】
負極124は、金属箔と、金属箔の上に形成された負極活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。金属箔は、例えば銅箔である。
【0028】
本実施形態における負極活物質は、炭素材である。具体的に、負極活物質は、黒鉛、易黒鉛化カーボン、難黒鉛化カーボン等の何れか一つであってもよい。
【0029】
以上のように構成される正極123と負極124とがセパレータ125によって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体102では、正極123、負極124、及びセパレータ125が積層された状態で巻回される。セパレータ125は、絶縁性を有する部材である。セパレータ125は、正極123と負極124との間に配置され、これにより、電極体102において、正極123と負極124とが互いに絶縁される。セパレータ125は、ケース103内において電解液を保持し、これにより蓄電素子100の充放電時に、リチウムイオンが、セパレータ125を挟んで交互に積層される正極123と負極124との間を移動する。
【0030】
電極体102は、巻回タイプのものに限られない。電極体102は、板状の正極と、セパレータと、板状の負極とが積層されたスタックタイプのものでもよい。
【0031】
ケース103は、開口を有するケース本体131と、ケース本体131の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板132と、を有する。ケース103は、ケース本体131の開口周縁部136と、蓋板132の周縁部とを重ね合わせた状態で接合することによって形成される。ケース103は、ケース本体131と蓋板132とによって画定される内部空間を有する。ケース103は、電極体102及び集電体105等と共に、電解液を内部空間に収容する。
【0032】
ケース本体131は、矩形板状の閉塞部134と、閉塞部134の周縁に接続される角筒形状の胴部135とを備える。ケース本体131は、開口方向(Z軸方向)における一方の端部が塞がれた角筒形状(即ち、有底角筒形状)を有している。
【0033】
蓋板132は、ケース本体131の開口を塞ぐ板状の部材である。具体的に、蓋板132は、ケース本体131の開口周縁部136に対応した輪郭形状を有する。即ち、蓋板132は、矩形状の板材である。蓋板132は、ケース本体131の開口を塞ぐように、蓋板132の周縁部がケース本体131の開口周縁部136に重ねられる。以下、
図2に示すように、蓋板132の長辺方向を直交座標におけるX軸方向とし、蓋板132の短辺方向を直交座標におけるY軸方向とし、蓋板132の法線方向を直交座標におけるZ軸方向とする。電極体や集電体を収納する外装体は、プリズマティックケース103には限定されず、例えば、金属層と樹脂層とを含むパウチ(ラミネート外装体)でもよい。
【0034】
外部端子104は、他の蓄電素子の外部端子又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子104は、導電性を有する部材によって形成される。例えば、外部端子104は、アルミニウム又はアルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料、銅又は銅合金等の銅系金属材料等の溶接性の高い金属材料によって形成される。
【0035】
集電体105は、ケース103内に配置され、電極体102と通電可能に直接的又は間接的に接続される。集電体105は、導電性を有する部材によって形成され、ケース103の内面に沿って配置される。集電体105はもうけられなくてもよい。電極体102が、外部端子104に直接接続されてもよい。
【0036】
蓄電素子100は、電極体102とケース103とを絶縁する絶縁部材106を備える。本実施形態の絶縁部材106は、袋状である。絶縁部材106は、ケース103(詳しくはケース本体131)と電極体102との間に配置される。本実施形態の絶縁部材106は、例えば、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド等の樹脂によって形成される。本実施形態の蓄電素子100では、袋状の絶縁部材106に収容された状態の電極体102(電極体102及び集電体105)がケース103内に収容される。絶縁部材106はもうけられなくてもよい。
各蓄電素子100の外部端子104を、例えばバスバーなどによって直列に接続することで組電池20を構成する。
【0037】
電流検出部41は、電流検出抵抗(例えばシャント抵抗)でもよい。電流検出抵抗の両端間の電位差を検出することで、組電池20に流れる電流を検出することが出来る。温度測定部42は接触式あるいは非接触式とされており、組電池20の温度[℃]を測定する。温度測定部42は、組電池20の近傍の温度を測定するものでもよいし、特定の一つの蓄電素子または複数の蓄電素子それぞれの温度を測定するものでもよい。電流検出部41と温度測定部42は、
図1に示すように、BMU30に接続されており、電流検出部41の検出値や温度測定部42の検出値は、BMU30に取り込まれる。
【0038】
出力制御回路43は、BMU30からの指令に応答し、組電池20の出力電流もしくは出力電圧を制御する。
【0039】
電流遮断装置44は、例えば、FET等の半導体スイッチやリレーであり、BMU30からの指令に応答して駆動し、組電池20と車両負荷C1および車両側発電機C2との間の電流を遮断する。
【0040】
BMU30は、
図1に示すように、電圧検出回路(「測定部」の一例)31と、中央処理装置であるCPU(「制御部」の一例)33と、メモリ34とを備えて構成されており、BMU30は、組電池20から電力の供給を受けることで駆動する。
【0041】
電圧検出回路31は、電圧検出線を介して、各蓄電素子100の両端にそれぞれ接続されており、CPU33からの指示に応答して、各蓄電素子100のセル電圧及び組電池20の電池電圧(複数の蓄電素子100の総電圧)を測定する。電圧検出回路31は、組電池20の総電圧のみを測定するものであってもよい。
【0042】
メモリ34は、例えばフラッシュメモリやEEPROM等の不揮発性メモリとされている。メモリ34には、各蓄電素子100または組電池20を管理する各種プログラム、各種プログラムの実行に必要なデータ、例えば、組電池20のOCV-SOC相関関係や組電池20の初期の実容量などが記憶されている。
【0043】
CPU33は、受信した各種の信号から組電池20の電圧、電流、温度などを検出すると共に、メモリ34から読み出したプログラムに基づいて、各部の監視および制御を行う。CPU33は、OCV-SOC相関関係に基づいて、電圧からSOCを算出し、SOCの変化量に基づいて通電電気量を算出する。電圧と電流との間には、
図5および
図6に示すように、直線的な相関関係があり、CPU33は、その傾きから組電池20の内部抵抗Rや許容出力を求めることができる。
【0044】
具体的には、放電時において下限電圧に到達する場合、
図5に示すように、電圧と電流との相関関係において下限電圧における推定電流を参照し、下限電圧と推定電流とを乗算することで、そのときの許容出力を算出する。充電時において、上限電流に到達する場合、
図6に示すように、電圧と電流との相関関係において上限電流における推定電圧を参照し、上限電流と推定電圧とを乗算することで、そのときの許容入力を算出する。
【0045】
CPU33は、この内部抵抗と下限電圧、内部抵抗と上限電流をもとに推定電流、推定電圧を求めることで、組電池20における充放電時の最大許容入出力を推定することができ、この最大許容出力に応じて出力制御回路43に対して指令を出力する。
【0046】
組電池20において、連続した充放電が一定時間を超えると、各蓄電素子100において拡散限界という現象が生じる。拡散限界が生じない範囲のみで組電池20を使用する方法があるものの、そのような場合、組電池20における出力の下限値を高く設定するため組電池20の性能を十分に使うことができない。
【0047】
そこで、充電状態(SOC)、温度、内部抵抗などから、
図7に示すように、組電池20の許容出力(電圧と電流との関係)を逐次算出することで、組電池20の性能を十分に使う方法が考えられる。
図7に示すグラフにおいて、Y軸は電圧(CCV)を表しており、X軸は電流を表している。
【0048】
拡散限界が生じた場合には、
図7の実線R1に示すように、組電池20の出力が急激に低下する。
図7の二点鎖線R2に示すように、組電池20の実力以上の許容出力が算出される場合、充放電システムの挙動が不安定となる。
【0049】
本発明者らは、組電池20に対して連続充電または連続放電を行うことにより拡散限界が生じた時の電圧値および電流値に基づいてΔSOCの上限値(以下、「上限ΔSOC」という)を予め決定しておき、組電池20の使用時における電圧値および電流値に基づいて決定されるΔSOCが上限ΔSOCを超えないように制御することで、組電池20が拡散限界に至ることを回避できることを見出した。ここで、連続充電および連続放電とは、連続して充電が継続される、もしくは連続して放電が継続されることをいい、例えば、放電が途中で充電に切り替わった場合や放電が一次停止されて再度放電が開始された場合は、連続放電からは除外される。
【0050】
例えば、SOCが15%、温度0℃の組電池20を複数の条件で連続放電させて、
図8および
図9に示すような組電池の複数の所定電流における電圧挙動を測定する。
図8に示すグラフは、Y軸が組電池20の電流[A]、X軸が経過時間[sec]を表しており、
図9に示すグラフは、
図8に対応したグラフであって、Y軸が組電池20の電圧[V]、X軸が経過時間[sec]を表している。
【0051】
図8および
図9に示す電圧/電流挙動のグラフの、連続放電を開始してから所定時間t0経過時における電流値I1,I2・・・Inおよび各電圧V1,V2・・・Vnをもとに、
図10に示すような電圧-電流の関係(組電池の出力)を求め、各条件に対応する内部抵抗R1,R2・・・Rnを求めることができる。
図10に示すグラフにおいて、Y軸が電圧[V]、X軸が電流[A]を表している。
【0052】
図10に示すように、蓄電素子の内部抵抗Rは、特定の条件RPを境にその後急激に大きくなり(蓄電素子100内において拡散限界が生じ)、放電時における出力が急激に低下する。
【0053】
放電中の通電電気量を電流積算法により求め、この通電電気量を組電池20の実容量で除してΔSOC(通電電気量/実容量)を算出することで、
図11に示すようなΔSOCと電圧との関係を得ることができる。実容量とは、組電池が完全充電された状態から取り出し可能な容量である。
図11のグラフにおいて、Y軸がΔSOC[%]、X軸が電圧[V]を表している。
【0054】
ΔSOCと電流との関係に、電圧-電流の関係から得られた拡散限界の結果を照らし合わせることで、
図11に示すように、拡散限界が生じるΔSOCの上限値である上限ΔSOCを決定することができる。
【0055】
具体的には、
図11に示すΔSOCと電流との関係に、拡散限界となった場合における
図10の各電圧を照らし合わせることで、
図11における上限ΔSOCを決定することができる。
【0056】
組電池20を連続して放電する際に、ΔSOCが上限ΔSOCを超えないようにすることで、組電池20において拡散限界が生じることを抑制することができる。
【0057】
また、本発明者らは、上限ΔSOCが、連続放電や連続充電する前のSOCであるSOC初期値や、連続放電や連続充電する前の蓄電素子の温度にそれぞれ依存性があることを見出した。
【0058】
例えば、SOCが45%、温度-30℃の組電池20を連続放電させて(
図12および
図13参照)、その時の電圧-電流の関係(
図14参照)およびΔSOCと電流との関係(
図15)を求める。本発明者らは、複数のSOC初期値における上限ΔSOCを求めることで、
図16に示すように、X軸をSOC[%]、Y軸を上限ΔSOC[%]としたSOC初期値と上限ΔSOCとの関係において、SOC初期値が増加すると上限ΔSOCも上昇する傾向があることを見出した。本発明者らは、組電池20の温度に関しても、SOC初期値と同様に、温度の増加と共に上限ΔSOCが上昇する傾向があることを見出した。組電池20の温度毎のSOC初期値と上限ΔSOCの相関性を示すデータ(
図16のグラフ)をメモリ34に記憶しておいてもよい。
【0059】
本発明者らは、蓄電素子における極板の厚みや極板およびセパレータの空孔率を変更した異種の組電池(組電池Aおよび組電池B)においても、
図17に示すように、SOC初期値が増加すると上限ΔSOCも上昇する傾向があることを見出した。
【0060】
連続充電における組電池20の上限ΔSOCについては、放電の場合と同様の方法で求めることができるため、説明を省略する。
【0061】
図14および
図15に示す四角ドットは、丸ドットと同種の組電池の結果、三角ドットは、丸ドットと同種の組電池を一定期間(数百日以上)放置して経年劣化した時の結果であり、このときの上限ΔSOCは、組電池20の劣化前と劣化後のいずれの場合も同様の傾向でとなっている。つまり、同種の組電池の場合、いずれかの組電池における上限ΔSOCを適用することで、組電池20において拡散限界が生じることを抑制することができる。経年劣化した組電池の上限ΔSOCを求める際の実容量は、例えば、実使用の累計時間や組電池の充放電回数に基づいて容量が低下していく法則(ルート側)により求めることができる。
【0062】
本実施形態では、組電池20において拡散限界が生じることを回避するために、CPU33が、
図18に示すように組電池20の充放電時に入出力制御を行う。
【0063】
入出力制御処理では、例えば、定期的に電圧検出回路31に指令を与えることで、組電池20の開放電圧(OCV)検出しており、車両のイグニッションがオンされて組電池20から車両側負荷への電力供給が開始されることで、直前の開放電圧(OCV)を求める。そして、検出されたOCVをもとにメモリ34に記憶されたOCV-SOC対応関係からSOC初期値を求める(S11)。また、CPU33は、温度測定部42からの信号によりイグニッションがオンされた時の組電池20の初期温度を検出する(S12)。
【0064】
次に、CPU33は、組電池20に対する充放電による通電の開始後に、CPU33が電流検出部41からの出力により電流値を算出すると共に、電圧検出回路33からの組電池20の閉路電圧(CCV)を検出し、通電開始後の組電池20のSOCを算出する(S13)。SOCは、組電池20の実容量に対する残存容量の比率である。SOCは、電流値から電流積算法により求めてもいいし、閉路電圧からCCV-SOCの相関性を利用して求めてもよい。
【0065】
そして、SOCが算出されたところで、CPU33は、SOCとSOC初期値とに基づいて通電電気量を算出し、通電電気量をメモリ34に記憶された実容量で除することでΔSOCを算出する(S14)。通電電気量は、通電開始後に計測された電流の積算値により、算出してもよい。
【0066】
次に、CPU33は、ΔSOCを算出する際の通電が、連続充電もしくは連続放電によるものであったか、電流検出部41からの信号を基に判定し(S15)、連続充電もしくは連続放電ではなかった場合(S15:NO)、拡散限界に至る虞がないものとして、S11に戻る。
【0067】
一方、SOC初期値からSOCが算出されたまでの間の通電が、連続充電もしくは連続放電であった場合(S15:YES)、CPU33は、SOC初期値及び組電池20の初期温度の条件と一致する上限ΔSOCを決定する(S16)。上限SOCは、SOC初期値又は組電池20の初期温度のうち、いずれか一方の条件のみから決定してもよい。
【0068】
次に、CPU33は、S16によって決定された上限ΔSOCとΔSOCとを比較し(S17)、ΔSOCが上限ΔSOCよりも小さい場合(S16:YES)、拡散限界を生じさせずに連続通電を継続できるものとして、S12に戻る。
【0069】
一方、ΔSOCが上限ΔSOCよりも小さくない場合(S16:NO)、電流遮断装置44に指令を与え、電流遮断装置44による通電の遮断を行うことで、組電池20と車両側発電機C2および車両負荷C1との間の連続通電を停止する(S18)。
【0070】
以上のように、本実施形態の蓄電装置10によると、組電池20において拡散限界が生じる出力限界まで組電池20を使用できるものの、拡散限界に至る直前で組電池20から車両負荷C1への連続放電を遮断して、組電池20における拡散限界を防ぐことができるから、組電池20の出力の急激な低下を抑制することができる。
【0071】
本実施形態によると、CPU33が、組電池20の連続充電または連続放電前のSOCや温度に応じて上限ΔSOCを決定するため、組電池20における拡散限界抑制の精度を高めることができる。
<実施形態2>
次に、実施形態2について
図19を参照して説明する。
【0072】
実施形態2の入出力制御処理は、実施形態1と異なり、上限ΔSOCとΔSOCとを比較する前に充放電時の出力抑制を行って、ΔSOCが上限ΔSOCに到達することを延命するものである。実施形態1と共通する構成、作用、および効果については重複するためその説明を省略し、実施形態1と同じ構成については同一の符号を用いるものとする。
【0073】
実施形態2の出力制御処理は、まず、CPU33が、電圧検出回路31に指令を与えることで、車両のイグニッションがオンされる直前の組電池20に流れる開放電圧(OCV)検出し、検出されたOCVに基づいてメモリ34に記憶されたOCV-SOC対応関係からSOC初期値を求める(S111)。CPU33は、温度測定部42からの信号によりイグニッションがオン時の組電池20の初期温度を検出する(S112)。
【0074】
次に、CPU33は、組電池20に対する充放電による通電の開始後に、CPU33が電流検出部41からの出力により電流値を算出すると共に、電圧検出回路31による閉路電圧(CCV)を検出し、通電開始後のSOCを算出する(S113)。
【0075】
SOCが算出されたところで、SOCとSOC初期値とに基づいて通電電気量を算出し、通電電気量をメモリ34に記憶された実容量で除することでΔSOCを算出する(S114)。
【0076】
次に、CPU33は、ΔSOCを算出する際の通電が、連続充電もしくは連続放電であったか判定し(S115)、連続充電もしくは連続放電ではなかった場合(S115:NO)、拡散限界に至る虞がないものとして、S111に戻る。
【0077】
一方、SOC初期値からSOCが算出されたまでの間の通電が、連続充電もしくは連続放電であった場合(S115:YES)、CPU33は、ΔSOCと出力抑制閾値とを比較する(S116)。ここで、出力抑制閾値とは、車両負荷C1などの消費電力に応じて上限ΔSOCよりも小さい値に決定され、例えば、本実施形態における出力抑制閾値は、上限ΔSOCの90%の値とされている。
【0078】
そして、ΔSOCが出力抑制閾値よりも小さい場合(S116:YES)、拡散限界が生じる虞がなく連続通電を継続できるものとして、S111に戻る。
【0079】
一方、ΔSOCが出力抑制閾値よりも小さくない場合(S116:NO)、出力制御回路43に指令を与え、組電池20の出力電流もしくは出力電圧を制御する(S117)。
【0080】
次に、CPU33は、SOC初期値および組電池20の初期温度の条件と一致する上限ΔSOCを決定(S118)する。上限SOCは、SOC初期値又は組電池20の初期温度のうち、いずれか一方の条件のみから決定してもよい。
CPU33は、ΔSOCと上限ΔSOCとを比較する(S119)。そして、ΔSOCが上限ΔSOCよりも小さい場合(S119:YES)、出力制御回路43よる出力制限は継続されているものの、連続通電を継続できるものとして、S113に戻る。
【0081】
一方、ΔSOCが上限ΔSOCよりも小さくない場合(S119:NO)、電流遮断装置44に指令を与え、電流遮断装置44による通電の遮断より、組電池20と車両側発電機C2および車両負荷C1との間の連続通電を停止する(S120)。
【0082】
すなわち、本実施形態によると、ΔSOCが、上限ΔSOCよりも低く設定された出力抑制基準値を超えた場合、組電池20の充放電時の出力を抑制することができるから、ΔSOCが上限ΔSOCを超えて組電池20の通電が遮断されるまでの期間を長くすることができ、蓄電装置10において充放電可能な期間を長くすることができる。
【0083】
<他の実施形態>
本明細書で開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も含まれる。例えば、ある実施形態の構成に多の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0084】
(1)上記実施形態では、電気自動車やハイブリッド車両に搭載される蓄電装置10を説明したが、これに限らず、二輪車や他の機械や装置などにおける蓄電装置として構成されてもよい。
【0085】
(2)上記実施形態では、SOC初期値などのSOCを、OCV-SOC対応関係から求める構成にした。しかしながら、これに限らず、充放電開始時からの電流積算によりSOCを求める構成にしてもよい。
【0086】
(3)上記実施形態では、蓄電素子100または組電池20を収納する容器の中に、管理装置30が配置されるが、本発明はこの例に限定されない。管理装置30または管理装置30の一部(例えばCPU33やメモリ34)は、蓄電素子100(組電池20)とは離れた場所に配置されてもよい。例えば、車両に備えられた制御部が、蓄電素子の電池制御装置としての機能を果たしてもよい。
【0087】
上記実施形態では、上限ΔSOCを、連続放電や連続充電する前のSOCであるSOC初期値や、連続放電や連続充電する前の蓄電素子の温度に応じて決定したが、これに限らず、連続通電時間t0に応じて上限ΔSOCを決定してもよい。
【符号の説明】
【0088】
10:蓄電装置
30:電池管理装置
31:電圧検出回路(「測定部」の一例)
33:CPU(「電気量算出部」、「制御部」の一例)
41:電流検出部(「測定部」の一例)
42:温度測定部(「測定部」の一例)
43:出力制御回路(「出力制御手段」の一例)
44:電流遮断装置
100:蓄電素子