(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】磁気式酸素分析計
(51)【国際特許分類】
G01N 27/74 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
G01N27/74
(21)【出願番号】P 2020039662
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大石 満
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-045754(JP,A)
【文献】特開昭47-015080(JP,A)
【文献】特開2017-125689(JP,A)
【文献】特開平03-211058(JP,A)
【文献】特開昭55-086769(JP,A)
【文献】特開平03-118159(JP,A)
【文献】特開2005-022137(JP,A)
【文献】特開2009-008690(JP,A)
【文献】国際公開第2007/049332(WO,A1)
【文献】特開2005-300528(JP,A)
【文献】特開2005-030905(JP,A)
【文献】特開2004-279202(JP,A)
【文献】特開2004-093558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-G01N 27/9093
G01N 21/03-G01N 21/15
B41J 2/00-B41J 2/525
G01N 33/48-G01N 33/98
G01N 35/00-G01N 37/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定ガスが供給されるガス流路を有
し、第1セル板と、前記第1セル板の表に面接触状態で積層して拡散接合された第2セル板と、前記第1セル板の裏に面接触状態で積層して拡散接合された第3セル板と、を備え、前記第1セル板において、前記ガス流路がつながっており、前記第1セル板、前記第2セル板及び前記第3セル板によって前記ガス流路が内部に区画・形成されるセル本体と、
前記ガス流路に補助ガスが流出する測定側流路と、
前記ガス流路に補助ガスが流出する基準側流路と、
前記測定側流路と前記ガス流路との連通箇所付近に形成される磁界領域と、
前記測定側流路を流れる補助ガスと前記基準側流路を流れる補助ガスとの流量差を検出する流量センサと、
前記流量センサの出力信号に基づいて前記測定ガスに含まれる酸素濃度を測定する検出回路と、を備え
る、
磁気式酸素分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定ガスに含まれる酸素の濃度を測定する磁気式酸素分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気式酸素分析計は、酸素分子が磁力によって吸引される性質を利用して測定ガスに含まれる酸素の濃度を測定する装置として知られている。
始めに、磁気式酸素分析計の測定原理を
図3に基づいて説明する。
【0003】
酸素分子を含むガス中に磁石200N,200Sを配置すると、磁界が強く、しかもその強さが変化している箇所(磁界が不均一である磁極端部)に酸素を引き付ける力が作用する。この磁極端部では、
図3に示す右向きの力と左向きの力が押し合ってバランスしており、磁石200N,200S間の磁界内部では酸素の圧力(濃度)が外部に比べて高くなる。
従って、磁石200N,200Sによって形成された磁界領域にガスを供給した時の磁界領域の圧力変化や、この圧力変化に起因するガスの流量変化に基づいて、ガス中の酸素濃度を測定することができる。
【0004】
上記測定原理を用いた従来の磁気式酸素分析計の主要部の構造を、
図4の模式図によって示す。
この磁気式酸素分析計は、外部プロセスから測定ガスF1が供給される測定セル10と、測定ガスF1に含まれる酸素濃度を測定する検出回路100とを備えている。
【0005】
測定セル10はセル本体11を備え、このセル本体11には、測定ガスF1が流入する測定ガス流入口12と、ガス流路11xを介して測定ガス流入口12の反対側に配置された測定ガス流出口13とを有する。
また、測定ガス中の酸素による圧力変動を有効に検出するための補助ガスF2が、補助ガス供給流路16から供給される。この補助ガス供給流路16は、分岐点P0により分岐して測定側流路15aと基準側流路15bとに連通していると共に、測定側流路15aは分岐点P1を介して反対側の測定側流路17aに連通し、基準側流路15bは分岐点P2を介して反対側の基準側流路17bに連通している。更に、測定側流路17aと基準側流路17bとは熱式流量センサ(:マスフローセンサ、以下、単に流量センサという)17を介して連結されている。
【0006】
流量センサ17は、測定側流路17aから流入する補助ガスF21の流量と基準側流路17bから流入する補助ガスF22の流量との差(言い換えれば圧力の差)に応じた信号を検出するものであり、この信号が検出回路100により増幅され、測定ガスF1中の酸素濃度として測定される。なお、20は流量センサ17を含む酸素濃度測定ユニットである。
測定側流路15aと基準側流路15bとは、互いに対向するように配置されてガス流路11xに連通している。また、測定側流路15aの流出口付近のガス流路11xには、後述のポールピースによって磁界領域Mfが形成されている。
なお、
図4はあくまで模式図であり、セル本体11の形状等は
図5以下に示すものと必ずしも一致していない。
【0007】
次に、
図5(a)は、上記磁界領域Mfを形成するためのコイル21a,21b及びコア22をセル本体11と共に示した主要部の正面図、
図5(b)は同じく側面図、
図5(c)はセル本体11及びその周辺部の底面図である。
これらの図において、23a,23bはコイル21a,21bによる磁束が通過するポールピース、24aは測定ガス流入口12に連通するガス入口、24bは測定ガス流出口13に連通するガス出口、25a,25bはセル本体11を挟んで固定する固定ブロックであり、他の部材については
図4と同一の参照符号を付してある。
【0008】
いま、
図4の測定ガス流入口12から流入した測定ガスF1は、F11やF12のようにガス流路11xの全体を通って測定ガス流出口13から流出する。
また、補助ガス供給流路16から流入した補助ガスF2は、分岐点P0で二方向(分岐点P1,P2方向)に分流し、更に、分岐点P1では測定側流路15a,17aに分流すると共に、分岐点P2では基準側流路15b,17bに分流する。
測定側流路15a及び基準側流路15aからガス流路11xにそれぞれ流出した補助ガスF21,F22は、測定ガスF11,F12と合流し、測定ガスF1及び補助ガスF2として測定ガス流出口13から流出する。
【0009】
測定側流路15a,17aと、基準側流路15b,17bとは、測定ガス流入口12と測定ガス流出口13とを結ぶ直線の両側に対称な構造であり、各流路の内部を通過する補助ガスの流量や圧力の変化が測定側と検出側とでほぼ等しくなるように考慮されている。
【0010】
ここで、測定側流路15aからガス流路11xに流出する補助ガスF21は、前記ポールピース23a,23bによって形成された磁界領域Mfを通過する。
前述したように、酸素(常磁性の気体)は磁界の強い方に吸引されるため、吸引された部分の圧力が上昇する。測定ガスに酸素が含まれていない場合、この測定ガスが磁界領域Mfを通過しても磁界領域Mfの圧力は上昇しない。このため、測定側流路15a及び基準側流路15bからガス流路11xに補助ガスF21,F22がそれぞれ流出する際の流体抵抗は等しく、分岐点P1,P2の圧力も等しくなる。よって、分岐点P1,P2に圧力差がないので、流量センサ17によって補助ガスの圧力変化が検出されることはなく、検出回路100は測定ガスF1中の酸素濃度として零を出力する。
【0011】
一方、測定ガスF1に酸素が含まれている場合、酸素は磁界領域Mfに引き付けられ、酸素の凝集圧によって測定側流路15aからガス流路11xに補助ガスF21が流出する際の流体抵抗が増加し、流出量が減少する。逆に、基準側流路15bの流出口には磁界領域Mfが存在しないため、補助ガスF22がガス流路11xに流出する際の流体抵抗は増加しない。
その結果、補助ガスF21,F22がガス流路11xへ流出する際の流体抵抗に差が生じることになり、分岐点P1の圧力は分岐点P2の圧力より高くなる。
【0012】
これにより、測定側流路17aと基準側流路17bとに分流して流量センサ17に到達する補助ガスの分流比、すなわち補助ガスの流量ひいては圧力が変化する。従って、流量センサ17は、測定ガスF1に含まれる酸素濃度に応じた圧力変化を検出し、検出回路100は、流量センサ17による検出信号に基づいて酸素(酸素ガス)の濃度を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2017-26410号公報 (
図3,
図5等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ここで、
図6(a)はセル本体11の平面図であり、15a’,15b’は前記測定側流路15a及び基準側流路15bにそれぞれ連結される連結孔を示している。
また、
図6(b)は
図6(a)のA-A断面図である。セル本体11は、ステンレス等からなる3枚のセル板11a,11b,11cを積層したうえで電子ビーム溶接やレーザービーム溶接等を行って接合されており、各セル板11a,11b,11cの内面によってガス流路11xが形成されている。
【0015】
しかし、溶接によってセル本体11を形成する場合には、セル板11a,11cの表裏から線状に順次溶接していくため、溶接の始めの部位と終わりの部位との間の温度差に起因する熱膨張差等により、セル板11a,11cがガス流路11x側に歪むおそれがあった。
図7は、
図6(a)のB-B断面図に相当しており、
図5における固定ブロック25a,25bをセル本体11と共に示した図面である。
前述した如くセル板11a,11cに歪みが生じると、周囲温度の変化等による固定ブロック25a,25bを含む構造体の熱膨張、熱収縮等にも起因して、ガス流路11xを形成するセル板11a,11cの歪みが破線で示すように大きくなる。その結果、ガス流路11xの断面積が変化して測定のたびごとにゼロ点が異なるため、測定誤差が生じるという問題があった。
【0016】
なお、
図8は、従来の溶接方法により3枚のセル板を接合したセル本体を対象として、温度変化によるセル本体の歪みを確認するために行った温度試験結果を示す波形図であり、試験の条件としては、所定の時間間隔で常温(約25[℃])、高温(約45[℃])、低温(約-5[℃])の3段階に周囲温度を切り換える処理を1サイクルとし、セル本体の歪み量を電圧の出力値として測定した。
図8によれば、温度が変化するたびに出力値が大きく変動しており、温度変化がセル本体の歪みに大きく影響していることがわかる。
【0017】
従って、本発明の解決課題は、セル板同士の接合方法を改良してセル板の厚さ方向の歪みを抑制し、ガス流路の断面積を所定値に保って酸素濃度を高精度に測定可能とした磁気式酸素分析計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、測定ガスが供給されるガス流路を有し、第1セル板と、前記第1セル板の表に面接触状態で積層して拡散接合された第2セル板と、前記第1セル板の裏に面接触状態で積層して拡散接合された第3セル板と、を備え、前記第1セル板において、前記ガス流路がつながっており、前記第1セル板、前記第2セル板及び前記第3セル板によって前記ガス流路が内部に区画・形成されるセル本体と、前記ガス流路に補助ガスが流出する測定側流路と、前記ガス流路に補助ガスが流出する基準側流路と、前記測定側流路と前記ガス流路との連通箇所付近に形成される磁界領域と、前記測定側流路を流れる補助ガスと前記基準側流路を流れる補助ガスとの流量差を検出する流量センサと、前記流量センサの出力信号に基づいて前記測定ガスに含まれる酸素濃度を測定する検出回路と、を備える磁気式酸素分析計である。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、複数のセル板を面接触状態で積層して拡散接合を行うことによりセル本体を形成する。
これにより、電子ビーム溶接やレーザービーム溶接等により複数のセル板同士を接合する場合に比べて、周囲温度の変化により表裏のセル板が歪んでガス流路側に変形する恐れがない。このため、ガス流路の断面積を一定に保って測定時におけるゼロ点の変動を防止し、測定ガス中の酸素濃度を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態におけるセル本体の製造工程を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るセル本体について、温度試験を行った結果を示す波形図である。
【
図3】磁気式酸素分析計の測定原理を示す図である。
【
図4】磁気式酸素分析計の主要部の構成を示す模式図である。
【
図5】磁気式酸素分析計の主要部の構成を示す正面図(
図5(a))、同じく側面図(
図5(b))、セル本体及びその周辺部の底面図(
図5(c))である。
【
図6】従来のセル本体の平面図(
図6(a))及び
図6(a)のA-A断面図(
図6(b))である。
【
図7】セル板の歪みを模式的に示した
図6(a)のB-B断面図である。
【
図8】従来技術における温度試験の結果を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。なお、磁気式酸素分析計の測定原理は従来と同様であり、その全体的な構成もセル本体を除けば従来と同様である。
【0023】
図1は、本発明の実施形態におけるセル本体11の製造工程を示す断面図である。
この実施形態の特徴は、セル本体11を構成するステンレス製のセル板11a,11b,11c同士を面接触させて積層し、これらを拡散接合(固相拡散接合)により一体的に形成することにある。周知のように、拡散接合は、母材を密着させて母材の融点以下の温度条件により塑性変形をできるだけ生じない程度に加圧することにより、接合面に生じる原子の拡散を利用して母材同士を接合する方法である(JIS Z3001-2の22702)。
【0024】
まず、
図1(a)は、前工程として、セル本体11を補強するための補強板31を、外側のセル板11aの表面に拡散接合する状態を示している。
セル板11aと補強板31とには孔部11a’,31aがそれぞれ設けられており、これらの孔部11a’ ,31aを連通させた状態でセル板11aと補強板31とを重ね合わせ、補強板31の表面とセル板11aの裏面とから加圧して拡散接合する。なお、接合時の温度や時間等の条件については、次の
図1(b)の場合と同様とする。
【0025】
図1(b)は、3枚のセル板11a,11b,11cを一体的に拡散接合する状態を示しており、例えば、
図6のガス入口24aやガス出口24bの断面図に相当している。つまり、
図1(b)の孔部11a’は、例えば
図6のガス入口24aやガス出口24bに相当する。
【0026】
前述した
図1(a)により補強板31と一体化させたセル板11aと、反対側のセル板11cとによって中央のセル板11bを挟むことによりセル板11a,11b,11cを面接触させて積層し、セル板11aの表面及びセル板11cの裏面をセル板11b方向に加圧する。その際の温度条件の一例としては、加熱炉内において、積層されたセル板11a,11b,11cを加圧しながら、炉内温度を950[℃]から1060[℃]まで1.5時間かけて昇温し、更に、炉内温度1060[℃]を3分間維持した後に加熱を中止して自然冷却する。
【0027】
上述した一連の拡散接合により、セル板11a,11b同士の接触面及びセル板11b,11c同士の接触面が、原子の拡散作用により緊密かつ強固に接合され、セル板11a,11cがガス流路11x側に歪む恐れもない。
なお、
図1(b)において、ガス流路11xの両側に破線で囲んだ部分cは、ガス流路11x側に変形するのを防ぐために拡散接合を行わない部位である。
【0028】
上記のように、積層されたセル板11a,11b,11cを拡散接合してセル本体11を形成することにより、電子ビーム溶接やレーザービーム溶接等によってセル板11a,11cの表裏から線状に溶接する場合に比べて、セル板11a,11cが歪んでガス流路11x側に膨らむ恐れがない。また、セル本体11の外側の固定ブロック25a,25bを含む構造体の熱膨張、熱収縮によってセル板11a,11cが歪む心配もない。
従って、この実施形態によれば、ガス流路11xの断面積を一定に保って測定時のゼロ点の変動を防止し、測定ガス中の酸素濃度を高精度に測定することができる。
【0029】
図2は、本発明の効果を確認するために行った温度試験の結果を示す波形図である。試験の条件は
図8とほぼ同様であり、所定の時間間隔で常温(約25[℃])、高温(約45[℃])、低温(約-5[℃])の3段階に周囲温度を切り換える作業を1サイクルとし、セル板11a,11b,11cを拡散接合して形成されたセル本体11を対象として、温度変化により発生する歪みを電圧の出力値として測定した。
図2によれば、周囲温度が変化しても出力値はほぼ初期値(時間0[Hr]における値)から変化しておらず、歪みがほとんど発生していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の磁気式酸素分析計は、加熱炉・触媒再生塔[石油・科学分野]、アンモニアプラント・電解プラント[化学]、熱風炉・転炉[鉄鋼]、焼鈍炉・加熱炉[非鉄金属]、ゴミ消却炉・汚泥焼却炉[環境]など、酸素濃度の測定を必要とする各種分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10:測定セル
11:セル本体
11a,11b,11c:セル板
11a’:孔部
11x:ガス流路
12:測定ガス流入口
13:測定ガス流出口
15a,15b:測定側流路
15b,17b:基準側流路
15a’,15b’:連結孔
16:補助ガス供給流路
17:熱式流量センサ
20:酸素濃度測定ユニット
21a,21b:コイル
22:コア
23a,23b:ポールピース
24a:ガス入口
24b:ガス出口
25a,25b:固定ブロック
31:補強板
31a:孔部
100:検出回路
200N,200S:磁石
Mf:磁界領域