(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】二重巻締構造並びにそれを有する電池及び缶詰
(51)【国際特許分類】
B65D 8/20 20060101AFI20240528BHJP
H01M 50/10 20210101ALI20240528BHJP
H01M 50/147 20210101ALI20240528BHJP
【FI】
B65D8/20 B
H01M50/10
H01M50/147
(21)【出願番号】P 2020062951
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 具実
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-250515(JP,A)
【文献】特開昭60-220552(JP,A)
【文献】特公昭38-001097(JP,B1)
【文献】特開昭51-014480(JP,A)
【文献】特開昭52-111626(JP,A)
【文献】特開2002-124219(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第00527577(GB,A)
【文献】特開2002-343310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 8/20
H01M 50/10
H01M 50/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端部に第1の折り返し部を有する第1の金属部材と、
第2の金属部材と
を備え、
前記第1の金属部材の前記第1の端部を含む第1の領域と、前記第2の金属部材の第2の端部を含む第2の領域とが二重巻締によって密接して密封を保ち、
前記第2の金属部材は、前記二重巻締によって前記第1の折り返し部により膨らんだ部分と前記膨らんだ部分に隣接した前記
第1の折り返し部ではなく膨らんでいない部分とに沿って圧着されることで形成された、前記膨らんだ部分と前記膨らんでいない部分との段差の部分に設けられた傾斜した部分を有する、
二重巻締構造。
【請求項2】
前記第2の金属部材は、前記第2の端部に第2の折り返し部を有する、請求項1に記載の二重巻締構造。
【請求項3】
前記第1の金属部材の第1の端面と前記第2の金属部材の第2の端面とは、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とのうち少なくとも一方を間に挟んでおり、当該二重巻締構造において対向していない、請求項2に記載の二重巻締構造。
【請求項4】
前記第1の領域と前記第2の領域とを電気的に絶縁する絶縁層をさらに備える、請求項1~3の何れかに記載の二重巻締構造。
【請求項5】
前記絶縁層は、少なくとも前記第2の領域に形成された塗膜である、請求項4に記載の二重巻締構造。
【請求項6】
前記第1の領域と前記第2の領域とが接している部分で固化している接着剤をさらに備える、請求項1~5の何れかに記載の二重巻締構造。
【請求項7】
前記接着剤は嫌気性接着剤である、請求項6に記載の二重巻締構造。
【請求項8】
第1の端部に第1の折り返し部を有する第1の金属部材と、
第2の金属部材と、
前記第1の金属部材の前記第1の端部を含む第1の領域と前記第2の金属部材の第2の端部を含む第2の領域とを電気的に絶縁するように構成された前記第2の領域の前記第2の金属部材の表面に形成された塗膜である絶縁層と
を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域とが二重巻締によって密接して密封を保
ち、
前記第2の金属部材は、前記二重巻締によって前記第1の折り返し部により膨らんだ部分と前記膨らんだ部分に隣接した前記第1の折り返し部ではなく膨らんでいない部分とに沿って圧着されることで形成された、前記膨らんだ部分と前記膨らんでいない部分との段差の部分に設けられた傾斜した部分を有する、
二重巻締構造と、
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とで密封された空間に収容された正極材及び負極材と
を備え、
前記正極材と前記負極材との一方は、前記第1の金属部材に接続されており、
前記正極材と前記負極材との他方は、前記第2の金属部材に接続されている、
電池。
【請求項9】
請求項1~3の何れかに記載の二重巻締構造と、
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材との一方によって形成された缶胴と、
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材との他方によって形成された缶蓋と
を備える缶詰。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重巻締構造並びにそれを有する電池及び缶詰に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製容器における缶胴と缶蓋との接合方法として、二重巻締が知られている。二重巻締によれば、安価で信頼性が高い封止が実現される。例えば特許文献1には、電気機器用ケースに二重巻締を用いることが開示されている。特許文献1には、缶胴と缶蓋とを絶縁するために、それらの間に延伸フィルムを挟んで二重巻締を行うことが開示されている。また、二重巻締では、比較的高い内圧にも耐えられるような強い接合が求められることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた二重巻締構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、二重巻締構造は、第1の端部に第1の折り返し部を有する第1の金属部材と、第2の金属部材とを備え、前記第1の金属部材の前記第1の端部を含む第1の領域と、前記第2の金属部材の第2の端部を含む第2の領域とが、二重巻締によって密接して密封を保つ。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、優れた二重巻締構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る電池の構成例の概略を示す部分切断斜視図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る巻締部の二重巻締構造の構成例の概略を示す端面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る電池の製造方法の一例の概略を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、二重巻締される前の缶胴と缶蓋との形状の一例の概略を示す断面図である。
【
図5A】
図5Aは、折り返し部の第1の成形方法について説明するための図である。
【
図5B】
図5Bは、折り返し部の第2の成形方法について説明するための図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態に係る二重巻締について説明するための図である。
【
図7】
図7は、比較例に係る二重巻締について説明するための図である。
【
図8】
図8は、比較例に係る二重巻締構造において、内圧が上昇したときに生じ得る状態を説明するための図である。
【
図9】
図9は、第2の実施形態に係る二重巻締構造の構成例の概略を示す端面図である。
【
図10】
図10は、第2の実施形態の二重巻締について説明するための図である。
【
図11A】
図11Aは、第1の変形例に係る二重巻締構造の構成例の概略を示す端面図である。
【
図11B】
図11Bは、第1の変形例に係る二重巻締構造の別の構成例の概略を示す端面図である。
【
図11C】
図11Cは、第2の変形例に係る二重巻締構造の構成例の概略を示す端面図である。
【
図11D】
図11Dは、第2の変形例に係る二重巻締構造の別の構成例の概略を示す端面図である。
【
図11E】
図11Eは、第3の変形例に係る二重巻締構造の構成例の概略を示す端面図である。
【
図11F】
図11Fは、第4の変形例に係る二重巻締構造の構成例の概略を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、電池に関する。特に、金属製の缶胴と缶蓋とが二重巻締構造により密封された電池容器を有し、当該二重巻締構造において缶胴と缶蓋とが絶縁されており、缶胴と缶蓋とがそれぞれ電極として機能する電池に関する。
【0009】
〈電池の構造〉
図1は、本実施形態に係る電池1の構成例の概略を模式的に示す部分切断斜視図である。電池1は、電池容器2の内部に電池部9が収容された構造を有する。電池容器2は、缶胴3と缶蓋4とを備え、缶胴3と缶蓋4とは、巻締部5の二重巻締構造によって接合されている。電池容器2は、この二重巻締構造で接合された缶胴3と缶蓋4とで密閉されている。説明のため、
図1は、電池容器2の内部の電池部9及び缶胴3の底面部31を除いて、電池容器2の缶胴3及び缶蓋4を縦に切断した様子を示している。
【0010】
缶胴3は、上方が開口した有底円筒形状を有している。缶胴3の底を底面部31と称し、缶胴3の側面を円筒部32と称することにする。開口した缶胴3の上方が、缶蓋4で閉じられている。缶蓋4は、缶胴3の開口部分を塞ぐ平面であって底面部31と平行な平面である平面部41と、缶胴3の円筒部32と密着する接合部42とを有する。
なお、底面部31及び平面部41は、内圧による変形に対する抵抗(剛性)を向上させるための形状(図示しないが例えばビード等)をそなえていてもよい。
【0011】
電池容器2の密封された内部空間には、電池部9が収容されている。電池部9は、どのような電池であってもよい。電池部9は、例えばリチウムイオン電池であってもよい。電池部9の正極は缶胴3に、負極は缶蓋4にそれぞれ電気的に接続されている。本実施形態では、缶胴3と缶蓋4とは、巻締部5で絶縁されている。したがって、缶胴3は、正極として機能し、缶蓋4は、負極として機能する。正極と負極が逆であり、電池部9の負極が缶胴に接続されており、電池部9の正極が缶蓋に接続されていてもよい。
【0012】
電池1のサイズは、これに限らないが、例えば、直径70mm程度、高さ70mm程度であってもよい。これに限らないが、例えば、缶胴3はニッケルめっき鋼で形成され、缶蓋4はアルミニウムで形成されてもよい。これに限らないが、缶胴3の板厚は、例えば0.2mm程度であり、缶蓋4の板厚は、例えば0.25mm程度であってもよい。また、電池容器2は、これに限らないが、例えば1MPa程度の耐圧性を備えている。
【0013】
電池1を重ねると、下の電池1の缶蓋4の平面部41の周囲に立ち上がる接合部42の内側に、上の電池1の缶胴3が入る。このとき、下の電池1の缶蓋4の平面部41と上の電池1の缶胴3の底面部31とが接触する。缶胴3と缶蓋4とがそれぞれ正極と負極となっているので、電池1を重ねると電池1を直列に接続した状態になる。
【0014】
〈二重巻締構造〉
図2は、第1の実施形態に係る巻締部5の二重巻締構造100の概略を示す端面図である。この二重巻締構造100は、缶胴3を形成する第1の金属部材111と、缶蓋4を形成する第2の金属部材121とによって形成されている。本実施形態の二重巻締構造100は、基本的には、一般的に二重巻締構造として知られている構造と同様の構造である。すなわち、缶蓋4のカール部分を缶胴3のフランジ部分に巻き込んで圧着して接合することで形成され、缶蓋4の第2の金属部材121と缶胴3の第1の金属部材111とがそれぞれ二重になる構造を有する。
【0015】
図2に示すように、缶胴3の第1の金属部材111は、円筒部32から連なって上方向に延びるボディーウォール172と、その上端から外側に折り返されることで、下方向に延びるボディーフック171とを形成している。ボディーフック171及びボディーウォール172の合計長さは、これに限らないが、例えば5~10mm程度である。
【0016】
缶蓋4の第2の金属部材121は、ボディーフック171とボディーウォール172との間に下方向から入り込むように設けられたカバーフック173と、カバーフック173の下端から外側に折り返されてボディーフック171の外側で上方向に延びるシーミングウォール174と、シーミングウォール174の上端から内側に折り返されてボディーウォール172の内側で下方向に延びるチャックウォール175と有しており、チャックウォール175が缶蓋4の平面部41に連なっている。
【0017】
一般的な二重巻締構造と異なり、本実施形態の二重巻締構造100では、第1の金属部材111の端部である第1の端部112に、すなわち、ボディーフック171の端部に、第1の折り返し部113が設けられている。第1の折り返し部113は、ヘミング曲げとも呼ばれる、180°に折り返した後に平らに押しつぶす工程で形成されるような、端部が折り畳まれた形状を有する。第1の折り返し部113では、第1の金属部材111の第1の端面114がボディーフック171よりもボディーウォール172側に位置するように、第1の金属部材111が折り曲げられている。
【0018】
また、一般的な二重巻締構造と異なり、本実施形態の二重巻締構造100では、第2の金属部材121の端部である第2の端部122に、すなわち、カバーフック173の端部に、ヘミング曲げで折り畳まれたような形状を有する第2の折り返し部123が設けられている。第2の折り返し部123では、第2の金属部材121の第2の端面124がカバーフック173よりもシーミングウォール174側に位置するように、第2の金属部材121が折り曲げられている。
【0019】
本実施形態では、二重巻締構造100によって、第1の金属部材111の第1の端部112を含む第1の領域115と、第2の金属部材121の第2の端部122を含む第2の領域125とが密接して密封を保っている。第1の金属部材111と第2の金属部材121との間の電気的な絶縁を確保するために、第2の金属部材121と接触する領域を含む第1の金属部材111の第1の領域115には、絶縁性の塗料が塗布されて形成された塗膜である第1の絶縁層131が設けられている。同様に、第1の金属部材111と接触する領域を含む第2の金属部材121の第2の領域125には、絶縁性の塗料が塗布されて形成された塗膜である第2の絶縁層141が設けられている。本実施形態では、第1の金属部材111及び第2の金属部材121が電池1の電極として機能するので、少なくとも電極として機能する部分には、絶縁層が設けられていない。
【0020】
本実施形態の二重巻締構造100では、第1の金属部材111の第1の端面114と第2の金属部材121の第2の端面124とが対向している。したがって、絶縁のために、第1の端面114にも第1の絶縁層131が設けられており、第2の端面124にも第2の絶縁層141が設けられている。このため、本実施形態では、例えば材料の打ち抜き加工などよりも後に、第1の絶縁層131及び第2の絶縁層141の形成が行われる。
図2に示す例では特に、第1の折り返し部113及び第2の折り返し部123の成形よりも後に第1の絶縁層131及び第2の絶縁層141の形成が行われている。絶縁層は、金属部材の上に直接形成されるに限らず、塗装、印刷などの表面の加工が行われた後に、その上に形成されてよい。
【0021】
また、二重巻締構造100では、第1の領域115と第2の領域125とが接している部分で接着剤151が固化している。この接着剤151は、二重巻締構造100の形成前に第1の領域115と第2の領域125とうち少なくとも一方に塗布された嫌気性接着剤が固化したものである。
【0022】
嫌気性接着剤は、アクリレートモノマーを主成分とし、金属イオンとの接触と空気を遮断することで固化を開始するもので、一般には螺子のゆるみ止めや配管の接合部において多用されているものが使用可能である。本実施形態において嫌気性接着剤の固化に金属イオンが不十分となる場合には反応活性剤(アクティベータ)を併用することもできる。
【0023】
〈電池の製造方法〉
電池1の製造方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る電池の製造方法の概略を示すフローチャートである。まず、缶胴3が成形され(ステップS1)、缶蓋4が成形される(ステップS2)。
【0024】
図4は、二重巻締される前の缶胴3と缶蓋4との形状の概略を示す縦断面図である。缶胴3については、
図4(b)に示すように、底面部31と円筒部32とを有するカップ状の部材が成形される。円筒部32の上端部分には、外側に広がったフランジ部38が形成される。缶蓋4については、
図4(a)に示すように、円板状の平面部41の周縁部に、缶胴3のフランジ部38にかぶさるような形状を有するカール部48が形成される。
【0025】
さらに、フランジ部38の端部は、第1の折り返し部113となるように折り返される。また、カール部48の端部は、第2の折り返し部123となるように折り返される。この折り返しの方法はいくつかあり得る。
【0026】
図5Aは、折り返し部の第1の成形方法について説明するための図である。
図5A(a)に示すように、折り返される金属板71の端部には、中心軸C回りに回転する、凹部を有するロール72が押し付けられる。これにより、当該金属板71の端部は、
図5A(b)に示すように、反対側に折り曲げられる。このようにして折り曲げられた部分を上下から挟むことで、折り返し部が形成される。
【0027】
図5Bは、折り返し部の第2の成形方法について説明するための図である。
図5B(a)に示すように第1工程で、下型73の上に乗せられた金属板71の端部が、上型74で下側に押し下げられて、下側に曲げられる。続いて、
図5B(b)に示すように、第2工程で、略U字型の下型75と底面が平らな上型76とで挟みつけることによって、金属板71の端部は、
図5A(b)に示した場合と同様に反対側に折り曲げられる。このようにして折り曲げられた部分を上下から挟むことで、折り返し部が形成される。
折り返し部の成形は、缶胴3のフランジ部38や缶蓋4のカール部48の成形の前に行われても後に行われてもよい。
【0028】
以上のようにして缶胴3及び缶蓋4が成形されたら、それぞれの端部を含む領域に、樹脂の塗膜が形成される(ステップS3)。すなわち、缶胴3の第1の端部112の第1の領域115に樹脂が塗布され、この樹脂が硬化することで第1の絶縁層131となる塗膜が形成される。同様に、缶蓋4の第2の金属部材121の第2の領域125に樹脂が塗布され、この樹脂が硬化することで第2の絶縁層141となる塗膜が形成される。
【0029】
なお、第1の絶縁層131及び第2の絶縁層141の形成は、第1の折り返し部113及び第2の折り返し部123の成形の前に行われてもよい。端部の折り返しの前に絶縁層が形成される場合、
図2に示す状態と異なり、折り返した板の間にも絶縁層が形成されることになるが、絶縁層の機能は同じである。
【0030】
続いて、二重巻締構造100の内部に巻き込まれる領域である缶胴3のフランジ部38と缶蓋4のカール部48とに、液状の嫌気性接着剤が塗布される(ステップS4)。
なお、カール部48に液状の嫌気性接着剤を塗布する以前に、一般の缶詰用の蓋に通常用いられるシーリングコンパウンドを塗布しておいてもよい。
【0031】
次に、別途用意された電池部9が缶胴3の内部に配置され、缶蓋4が缶胴3の開口にかぶせられる(ステップS5)。このとき、電池部9の正極は、缶胴3に接続され、電池部9の負極は、缶蓋4に接続される。
【0032】
最後に、缶胴3のフランジ部38と缶蓋4のカール部48とが巻締られる(ステップS6)。本実施形態の巻締について、
図6を参照して説明する。
図6(a)に示すように、巻締時には缶胴3のフランジ部38の上に、缶蓋4のカール部48が置かれる。ここで、フランジ部38を形成する第1の金属部材111の第1の端部112には、第1の折り返し部113が形成されている。第1の金属部材111の第1の領域115には、第1の絶縁層131が形成されている。カール部48を形成する第2の金属部材121の第2の端部122には、第2の折り返し部123が形成されている。第2の金属部材121の第2の領域125には、第2の絶縁層141が形成されている。
【0033】
この状態で、ファースト巻締ロールを用いたファースト巻締めが行われることにより、
図6(b)に示すように、缶胴3の第1の金属部材111と、缶蓋4の第2の金属部材121とが巻き込まれる。このとき、第1の金属部材111の第1の折り返し部113は、第2の金属部材121の第2の絶縁層141の上を擦りながら滑る。同時に、第2の金属部材121の第2の折り返し部123は、第1の金属部材111の第1の絶縁層131の上を擦りながら滑る。特に、第1の折り返し部113の先端部分は丸まっており、さらに、この部分には潤滑剤として機能する液状の嫌気性接着剤が塗布されているので、第1の折り返し部113は、滑らかに第2の絶縁層141の上を滑る。同等に、第2の折り返し部123の先端部分は丸まっており、この部分には潤滑剤として機能する液状の嫌気性接着剤が塗布されているので、第2の折り返し部123は、滑らかに第1の絶縁層131の上を滑る。
【0034】
続いて、セカンド巻締ロールを用いたセカンド巻締めが行われることにより、
図6(c)に示すように、第1の金属部材111の第1の領域115と第2の金属部材121の第2の領域125とは、しっかりと圧着し、二重巻締構造100が形成される。二重巻締構造100内の空気は遮断されるため、二重巻締構造100では、塗布された嫌気性接着剤が固化する。このため、二重巻締構造100の強度と密封性はさらに向上する。
以上のようにして、電池1は製造される。
【0035】
〈本実施形態の二重巻締構造について〉
本実施形態に係る二重巻締構造100についてさらに説明する。本実施形態の二重巻締構造100では、第1の絶縁層131及び第2の絶縁層141による良好な絶縁性が保たれる。これは、特に第1の金属部材111の第1の端部112に第1の折り返し部113が設けられ、第2の金属部材121の第2の端部122に第2の折り返し部123が設けられていることによる。
【0036】
図7は、比較例に係る二重巻締について説明するための図である。
図7は、第1の金属部材111bのフランジ部38bと第2の金属部材121bのカール部48bとで二重巻締構造が形成される例を示しており、
図7(a)は巻締前の状態を示し、
図7(b)はファースト巻締後の状態を示し、
図7(c)はセカンド巻締後の状態を示している。
【0037】
図7(a)に示すように、この例では、第1の金属部材111bには、折り返し部が設けられておらず、第1の絶縁層131bは板材の状態で形成されており、第1の端面114bが第1の端部112bで露出している。同様に、第2の金属部材121bには、折り返し部が設けられておらず、第2の絶縁層141bは板材の状態で形成されており、第2の端面124bが第2の端部122bで露出している。
図7(a)において矢印で示すように、第1の金属部材111bの第1の端面114bは、第2の金属部材121bの第2の絶縁層141bに接触している。
【0038】
この状態でファースト巻締を行うと、
図7(b)において矢印で示すように、第1の金属部材111bの第1の端面114bは、第2の金属部材121bの第2の絶縁層141bに食い込んで、第2の絶縁層141bを破壊する。同様に、第2の金属部材121bの第2の端面124bは、第1の金属部材111bの第1の絶縁層131bに食い込んで、第1の絶縁層131bを破壊する。
【0039】
このような絶縁層の破壊は、セカンド巻締においてさらに進行する。その結果、セカンド巻締によって完成した二重巻締構造100bでは、第1の金属部材111bの第1の端部112bと、第2の金属部材121bの第2の端部122bとにおいて、電気的な絶縁が破れ、第1の金属部材111bと第2の金属部材121bとが電気的に導通する。このような状態の容器は、上述のような電池容器として不適である。
【0040】
これに対して、本実施形態に係る二重巻締構造100では、端部が折り返し部によって丸められており、製造時には、これが絶縁層の上を滑らかに動いて絶縁層を破壊することがない。このため、本実施形態に係る二重巻締構造100では、第1の金属部材111と第2の金属部材121との電気的絶縁性が良好に維持され、本実施形態に係る二重巻締構造100を有する電池容器2は、電池の容器として適している。
【0041】
第1の金属部材と第2の金属部材との間の電気的な絶縁のため、それら金属部材の間に延伸高分子フィルムを挟んでもよい。一方で、延伸高分子フィルムは比較的高価である。これに対して、本実施形態のように、塗膜により絶縁膜を形成することで、第1の金属部材と第2の金属部材との間の電気的な絶縁を安価に実現できる。また、高分子フィルムを間に挟んだ場合、第1の金属部材と第2の金属部材と密着が悪くなり、高分子フィルムを挟み込んだ二重巻締構造では、密封性が悪くなるおそれがある。これに対して、塗膜で絶縁層を形成する本実施形態に係る二重巻締構造100では、高い密封性も得られる。
【0042】
また、本実施形態の二重巻締構造100では、第1の金属部材111の第1の折り返し部113及び第2の金属部材121の第2の折り返し部123では、金属材料が二枚重ねになっているので、剛性が高くなっている。したがって、本実施形態の二重巻締構造100は、比較例に係る二重巻締構造100bのような一般的な二重巻締構造よりも強度が強い。
【0043】
さらに、本実施形態の二重巻締構造100は、高い耐圧強度を有する。
図8は、比較例に係る二重巻締構造100bにおいて、内圧が上昇したときに生じ得る状態を説明するための図である。特に第1の金属部材111b及び第2の金属部材121bの板厚を薄くした場合に、このような事態が生じやすい。すなわち、第1の金属部材111b及び第2の金属部材121bの板厚が薄くなると、二重巻締構造100bにおいて、第1の金属部材111bと第2の金属部材121bとが互いに締め付ける力が弱くなる。その結果、内圧が高くなると、
図8の(a)→(b)→(c)の順に示すように、ボディーフック171bが抜けて、二重巻締構造100bが破壊される。
【0044】
これに対して、本実施形態に係る二重巻締構造100では、
図2に示すように、ボディーフック171の第1の端部112が第1の折り返し部113により膨らんでおり、また、ボディーフック171と接するカバーフック173の第2の端部122が第2の折り返し部123により膨らんでいる。このような膨らみが互いに抵抗になり、本実施形態の二重巻締構造100では、
図8に示した比較例に係る二重巻締構造100bで生じるようなボディーフック171の抜けが生じにくい。その結果、比較例に係る二重巻締構造100bよりも本実施形態に係る二重巻締構造100によれば、電池容器2の高い耐圧性を実現することができたり、第1の金属部材111及び第2の金属部材121の板厚をより薄くすることができたりする。
【0045】
本実施形態では、特に、第1の端面114と第2の端面124とが対向しているので、第1の端面と第2の端面との接触が変形に対して大きな抵抗となる。
なお、この耐圧性を高める効果は、第1の金属部材111及び第2の金属部材121に絶縁層が設けられていなくても得られるので、本構成は、電池容器のような絶縁性が求められる用途以外の用途にも適用され得る。
【0046】
ここでは、本実施形態に係る二重巻締構造100を電池容器に用いる場合を例に挙げて説明したが、この二重巻締構造100は、電池に限らず他の物品において、二つの金属部材の接合に用いられてもよいことはもちろんである。
【0047】
[第2の実施形態]
第2の実施形態について説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0048】
図9は、第2の実施形態に係る二重巻締構造102の構成例の概略を示す端面図である。
図9に示すように、第2の実施形態に係る二重巻締構造102では、第1の金属部材111の第1の折り返し部213及び第2の金属部材121の第2の折り返し部223の折り返しの向きが、第1の実施形態の場合と反対になっている。すなわち、第1の折り返し部213は、第1の金属部材111の第1の端面114がボディーフック171よりもシーミングウォール174側に位置するように折り曲げられている。また、第2の折り返し部223は、第2の金属部材121の第2の端面124がカバーフック173よりもチャックウォール175側に位置するように折り曲げられている。
【0049】
図10は、第2の実施形態の二重巻締について説明するための図である。
図10の(a)(b)(c)は、それぞれ
図6の(a)(b)(c)に対応し、それぞれ、巻締前、ファースト巻締後、セカンド巻締後の状態を示す。第2の実施形態においても巻締時に、第1の金属部材111の第1の折り返し部213は、第2の金属部材121の第2の絶縁層141の上を擦りながら滑る。第1の折り返し部213の先端部分は丸まっており、この部分には液状の嫌気性接着剤が塗布されているので、第1の折り返し部213は、滑らかに第2の絶縁層141の上を滑る。同時に、第2の金属部材121の第2の折り返し部223は、第1の金属部材111の第1の絶縁層131の上を擦りながら滑る。第2の折り返し部223の先端部分は丸まっており、この部分には液状の嫌気性接着剤が塗布されているので、第2の折り返し部223は、滑らかに第1の絶縁層131の上を滑る。したがって、本実施形態の二重巻締構造102においても、第1の実施形態の二重巻締構造100の場合と同様に、第1の絶縁層131及び第2の絶縁層141による第1の金属部材111と第2の金属部材121との電気的絶縁性が良好に維持される。したがって、本実施形態に係る二重巻締構造102を有する電池容器2も、電池の容器として適している。
【0050】
また、本実施形態の二重巻締構造102においても、ボディーフック171の第1の端部112が第1の折り返し部213により膨らんでおり、また、ボディーフック171と接するカバーフック173の第2の端部122が第2の折り返し部223により膨らんでいる。このような膨らみが互いに抵抗になり、本実施形態の二重巻締構造102でも、ボディーフック171の抜けが生じにくい。その結果、本実施形態に係る二重巻締構造102によれば、電池容器2の高い耐圧性を実現することができたり、第1の金属部材111及び第2の金属部材121の板厚をより薄くすることができたりする。
【0051】
また、本実施形態に係る二重巻締構造102では、第1の金属部材111の第1の端面114と、第2の金属部材121の第2の端面124とは、第1の金属部材111及び第2の金属部材121を間に挟んでおり、対向していない。第1の端面114と第2の端面124との接触が生じないので、第1の実施形態に係る二重巻締構造100の場合と比較して、より絶縁性が維持されやすい。
【0052】
第1の端面114と第2の端面124とが対向していないので、第1の端面114と第2の端面124とには絶縁層が形成されていなくてもよい。したがって、本実施形態では、製造方法の自由度が第1の実施形態の場合よりも高くなる。すなわち、例えば、平板の状態で絶縁性の塗膜が形成されて、その後に打ち抜かれた第1の金属部材111及び第2の金属部材121を用いて缶胴3及び缶蓋4が成形されてもよい。この場合、打ち抜きされた第1の金属部材111の第1の端面114と、打ち抜きされた第2の金属部材121の第2の端面124とに絶縁層が形成されておらず金属が露出してることになるが、二重巻締構造102の絶縁性は確保される。
【0053】
[変形例]
上述の実施形態のいくつかの変形例を示す。ここでも、上述の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0054】
〈第1の変形例〉
図11Aは、第1の変形例に係る二重巻締構造104aの概略を示す端面図である。第1の変形例では、第1の金属部材111には第1の折り返し部113が形成されているが、第2の金属部材121には折り返し部が形成されていない。この例では、第2の金属部材121には第2の絶縁層141が形成されているが、第1の金属部材111には絶縁膜が形成されていない。第1の金属部材111の第1の端部112に第1の折り返し部113が形成されて第1の端部112が丸められているので、巻締時に第2の絶縁層141は破壊されない。第2の金属部材121の第2の端部122の絶縁性が維持されるようにすれば、第2の金属部材121に形成されている第2の絶縁層141によって、第1の金属部材111と第2の金属部材121との絶縁性が確保される。なお、第1の金属部材111にも絶縁層が設けられてもよい。
【0055】
第1の折り返し部113は、
図11Aに示すように、第1の金属部材111の第1の端面114がボディーフック171よりもボディーウォール172側に位置するように折り曲げられてもよい。また、第1の折り返し部213は、
図11Bに示すように、第1の金属部材111の第1の端面114がボディーフック171よりもシーミングウォール174側に位置するように折り曲げられてもよい。
【0056】
〈第2の変形例〉
図11Cは、第2の変形例に係る二重巻締構造104bの概略を示す端面図である。第2の変形例では、第2の金属部材121には第2の折り返し部123が形成されているが、第1の金属部材111には折り返し部が形成されていない。この例では、第1の金属部材111には第1の絶縁層131が形成されているが、第2の金属部材121には絶縁膜が形成されていない。第2の金属部材121の第2の端部122に第2の折り返し部123が形成されて第2の端部122が丸められているので、巻締時に第1の絶縁層131は破壊されない。第1の金属部材111の第1の端部112の絶縁性が維持されるようにすれば、第1の金属部材111に形成されている第1の絶縁層131によって、第1の金属部材111と第2の金属部材121との絶縁性が確保される。なお、第2の金属部材121にも絶縁層が設けられてもよい。
【0057】
第2の折り返し部123は、
図11Cに示すように、第2の金属部材121の第2の端面124がカバーフック173よりもボディーフック171側に位置するように折り曲げられてもよい。また、第2の折り返し部223は、
図11Dに示すように、第2の金属部材121の第2の端面124がカバーフック173よりもボディーウォール172側に位置するように折り曲げられてもよい。
【0058】
上述の第1の実施形態又は第2の実施形態においても、第1の変形例又は第2の変形例のように、第1の絶縁層131又は第2の絶縁層141の何れか一方のみで絶縁性が実現されてもよい。ただし、第1の絶縁層131と第2の絶縁層141とが両方設けられている方が、より確実に絶縁される。
【0059】
第1の変形例に係る二重巻締構造104a又は第2の変形例の二重巻締構造104bによっても、上述の実施形態の場合と同様の効果が得られる。例えば、第1の折り返し部113又は第2の折り返し部123の何れか一方のみであっても、ボディーフック171の抜けにくさはある程度実現される。すなわち、二重巻締構造の耐圧性は高くなる。特に、絶縁性が求められない用途において、耐圧性を向上させたい場合、第1の変形例又は第2の変形例のような構成も有効である。なお、絶縁性が求められていない場合、第2の絶縁層141も第1の絶縁層131も不要である。
【0060】
〈第3の変形例〉
図11Eは、第3の変形例に係る二重巻締構造の概略を示す端面図である。第3の変形例では、第1の金属部材111には第1の折り返し部113が形成されており、第2の金属部材121には第2の折り返し部223が形成されている。本変形例では、第1の折り返し部113は、
図11Eに示すように、第1の金属部材111の第1の端面114がボディーフック171よりもボディーウォール172側に位置するように折り曲げられている。また、第2の折り返し部223は、
図11Eに示すように、第2の金属部材121の第2の端面124がカバーフック173よりもボディーウォール172側に位置するように折り曲げられている。本変形例の二重巻締構造104cによっても、上述の実施形態の場合と同様の効果が得られる。第1の端面114と第2の端面124とは、第2の金属部材121を間に挟んでおり、対向していないので、第1の端面114及び第2の端面124における絶縁が確保されやすい。この場合、第1の端面114及び第2の端面124に絶縁層が形成されていなくてもよい。
【0061】
〈第4の変形例〉
図11Fは、第4の変形例に係る二重巻締構造の概略を示す端面図である。第4の変形例では、第1の金属部材111には第1の折り返し部213が形成されており、第2の金属部材121には第2の折り返し部123が形成されている。本変形例では、第1の折り返し部213は、
図11Fに示すように、第1の金属部材111の第1の端面114がボディーフック171よりもシーミングウォール174側に位置するように折り曲げられている。また、第2の折り返し部123は、
図11Fに示すように、第2の金属部材121の第2の端面124がカバーフック173よりもボディーフック171側に位置するように折り曲げられている。本変形例の二重巻締構造104dによっても、上述の実施形態の場合と同様の効果が得られる。第1の端面114と第2の端面124とは、第1の金属部材111を間に挟んでおり、対向していないので、第1の端面114及び第2の端面124における絶縁が確保されやすい。この場合、第1の端面114及び第2の端面124に絶縁層が形成されていなくてもよい。
【0062】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【0063】
例えば、嫌気性の接着剤151が用いられることが一つの好ましい形態ではあるが、他の種類の接着剤が用いられても、接着剤が用いられなくてもよい。
【0064】
また、上述の実施形態及び変形例に係る二重巻締構造は、電池容器ではなく、他の容器に用いられてもよく、例えば、飲料や食品等の缶詰の缶に用いられてもよい。この場合、絶縁層は設けられなくてもよい。上述の実施形態及び変形例に係る二重巻締構造によれば、高い密封性と耐圧性とが缶詰の缶などに与えられる。
【符号の説明】
【0065】
1…電池
2…電池容器
3…缶胴
31…底面部、32…円筒部、38…フランジ部
4…缶蓋
41…平面部、42…接合部、48…カール部
5…巻締部
9…電池部
100…二重巻締構造
111…第1の金属部材、112…第1の端部、113…第1の折り返し部
114…第1の端面、115…第1の領域
121…第2の金属部材、122…第2の端部、123…第2の折り返し部
124…第2の端面、125…第2の領域
131…第1の絶縁層、141…第2の絶縁層
151…接着剤
171…ボディーフック、172…ボディーウォール
173…カバーフック、174…シーミングウォール、175…チャックウォール