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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】車両の空調制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/32 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
B60H1/32 623Z
B60H1/32 613S
B60H1/32 623D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020070816
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167137
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】研井 暁
(72)【発明者】
【氏名】横田 和也
(72)【発明者】
【氏名】吉末 知弘
(72)【発明者】
【氏名】落合 洸矢
(72)【発明者】
【氏名】種平 貴文
(72)【発明者】
【氏名】加嶋 利浩
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-254945(JP,A)
【文献】特開2008-114740(JP,A)
【文献】特開2008-302924(JP,A)
【文献】特開2019-073288(JP,A)
【文献】特開平11-348524(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0143179(KR,A)
【文献】特開2020-117052(JP,A)
【文献】特開2020-063029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の所定のガラス面から車室内における少なくとも一部の範囲への輻射量である第1輻射量を用いて前記車室内の空調を制御する車両の空調制御装置であって、
前記所定のガラス面に設けられ、前記第1輻射量を検出する輻射量検出部と、
前記少なくとも一部の範囲を検出範囲として有し、当該検出範囲における表面温度を検出する表面温度検出部と、
前記輻射量検出部および前記表面温度検出部の各検出結果を取得し、前記車室内の空調を制御する空調制御部と、
を備え、
前記車室内における内装部材は、輻射率が予め把握されており、
前記空調制御部は、
前記表面温度検出部からの検出結果に基づいて、前記検出範囲内における前記内装部材についての検出結果だけを抽出し、当該抽出した結果を用いて、前記ガラス面から前記車室内における前記検出範囲内の前記内装部材への輻射量である第2輻射量を算出し、
前記第1輻射量から前記第2輻射量を減算して第3輻射量を求め当該第3輻射量を前記ガラス面から前記車室内における前記検出範囲内の乗員への輻射量し、
前記第3輻射量に基づいて前記車室内の空調を制御する、
車両の空調制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の空調制御装置において、
前記空調制御部は、前記第3輻射量が所定値以上である場合に、前記ガラス面に沿って空気を流すように前記空調を制御する、
車両の空調制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の空調制御装置において、
前記空調制御部は、前記乗員による設定温度に基づいて、風量、風向、および吹き出し温度を制御するオートモードでの前記空調の制御が可能であり、
前記オートモードでの制御が選択され、且つ、前記第3輻射量が所定値以上である場合に、前記空調制御部は、前記車両のフロントウィンドの前記ガラス面に沿って空気を流すデフロスタモードで前記空調を制御する、
車両の空調制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の空調制御装置において、
前記車室内の温度を検出する温度検出部をさらに備え、
前記空調制御部は、
前記温度検出部の検出結果に基づいて、前記車室内の温度および当該温度の時間微分に係る車室内温度情報を取得し、
前記車室内温度情報に基づき、前記車室内の温度に係る状態が定常状態であると判断し、且つ、前記第3輻射量が所定値以上である場合に、前記デフロスタモードで前記空調を実行させる、
車両の空調制御装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の車両の空調制御装置において、
前記空調制御部は、前記オートモードでの制御が実行され、且つ、前記デフロスタモードでの制御が実行されている場合であって、前記第3輻射量が所定値未満である場合に、前記デフロスタモードでの前記空調を停止させる、
車両の空調制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の空調制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、車室内の温度等の環境を制御するための空調装置が設けられている。車両の空調装置は、車室内の温度等の環境を考慮して、吹き出し風の温度、風量、風向などを自動で制御するオートモードが設けられている。乗員がオートモードを選択した場合の空調制御では、乗員が車室内の環境をより快適であると感じるように制御を実行することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、車室内に非接触温度センサを設け、当該非接触温度センサを用いて内装部材の表面温度や乗員の表面温度を検出することが開示されている。特許文献1では、非接触温度センサを用いて検出したリヤウィンド下の内装部材の温度や後席の乗員の表面温度を基に空調装置の制御を行うことで、後席の乗員に対して車室内の環境を快適であると感じさせることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-329929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術では、非接触温度センサを用いて検出した乗員の表面温度を基に空調制御を行っているため、最適な空調制御を行うことは困難である。即ち、乗員に対して車室内の環境が快適であると感じさせるためには、ガラス面から乗員への輻射量(輻射熱の量)を考慮することが重要である。
【0006】
これに対して、上記特許文献1に開示の技術では、非接触温度センサで乗員の表面温度を検出しているが、ガラス面から乗員への輻射量については検出していない。ここで、ガラス面から乗員への輻射量については、対象となる乗員の体格や姿勢、さらには服装などにより異なる。このため、上記特許文献1に開示の技術では、必ずしも最適な空調制御が行われているとは言えない。
【0007】
なお、ガラス面から乗員への輻射量を正確に検出しようとする場合には、例えば、乗員に生体センサを装着することも理論上は可能である。
【0008】
しかしながら、上記のように生体センサを用いて乗員への輻射量を検出することは、車両に乗員が乗り降りする度ごとに生体センサの付け外しが必要となるため、現実的ではない。
【0009】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、生体センサなどを用いなくても乗員に対する輻射量を正確に求めることができ、車室内におけるより最適な空調制御を実行することができる車両の空調制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る車両の空調制御装置は、車両の所定のガラス面から車室内における少なくとも一部の範囲への輻射量である第1輻射量を用いて前記車室内の空調を制御する車両の空調制御装置であって、前記所定のガラス面に設けられ、前記第1輻射量を検出する輻射量検出部と、前記少なくとも一部の範囲を検出範囲として有し、当該検出範囲における表面温度を検出する表面温度検出部と、前記輻射量検出部および前記表面温度検出部の各検出結果を取得し、前記車室内の空調を制御する空調制御部と、を備え、前記車室内における内装部材は、輻射率が予め把握されており、前記空調制御部は、前記表面温度検出部からの検出結果に基づいて、前記検出範囲内における前記内装部材についての検出結果だけを抽出し、当該抽出した結果を用いて、前記ガラス面から前記車室内における前記検出範囲内の前記内装部材への輻射量である第2輻射量を算出し、前記第1輻射量から前記第2輻射量を減算して第3輻射量を求め当該第3輻射量を前記ガラス面から前記車室内における前記検出範囲内の乗員への輻射量し、前記第3輻射量に基づいて前記車室内の空調を制御する。
【0011】
上記態様に係る空調制御装置では、第1輻射量(ガラス面から車室内への輻射量)から第2輻射量(ガラス面から検出範囲内の内装部材への輻射量)を減算することにより、第3輻射量(ガラス面から車室内における検出範囲内の乗員への輻射量)を算出し、これに基づいて空調の制御を行うこととしているので、乗員に生体センサを装着するなどしなくても、乗員に対する輻射量を正確に求めることができ、車室内におけるより最適な空調制御を実行することができる。
【0012】
なお、第2輻射量については、車両に用いられる内装部材の輻射率が予め把握できるため、正確に検出することができる。ここで、表面温度検出部で表面温度を検出する対象は、車室内における当該表面温度検出部の検出範囲であって、車室内の全てである場合もあるし、一部である場合もある。
【0013】
上記態様に係る車両の空調制御装置において、前記空調制御部は、前記第3輻射量が所定値以上である場合に、前記ガラス面に沿って空気を流すように前記空調を制御する、ことにしてもよい。
【0014】
上記のように、第3輻射量(ガラス面から車室内の乗員への輻射量)が所定値以上である場合に、ガラス面に沿って空気を流すように空調制御を行うこととすれば、ガラス面(車室内側の表面)に沿って空気(温風又は冷風)を流すことにより、効果的に車室内の温度管理を行うことができる。即ち、ガラス面に沿って空気を流すことでガラス面の温度を管理することができ、ガラス面から乗員への輻射量を低減することが可能となる。
【0015】
なお、車両が炎天下などに置かれてガラスが高温になっている場合には、ガラス面に沿って冷風を流してガラス面の温度を低下させ、逆に、車両が低温環境下に置かれてガラスが低温になっている場合には、ガラス面に沿って温風を流してガラス面の温度を上昇させることで、車室内を最適な環境とすることができる。
【0016】
上記態様に係る車両の空調制御装置において、前記空調制御部は、前記乗員による設定温度に基づいて、風量、風向、および吹き出し温度を制御するオートモードでの前記空調の制御が可能であり、前記オートモードでの制御が選択され、且つ、前記第3輻射量が所定値以上である場合に、前記空調制御部は、前記車両のフロントウィンドの前記ガラス面に沿って空気を流すデフロスタモードで前記空調を制御する、ことにしてもよい。
【0017】
上記のように、第3輻射量が所定値以上である場合であって、オートモードでの制御が選択されている場合に、デフロスタモードで空調制御を行うことにすれば、乗員が空調に関して違和感を覚えるのを防止することができる。即ち、即ち、乗員がマニュアルモードを選択している場合にまで、第3輻射量に基づいてデフロスタモードで空調制御を実行すれば、乗員の意に反した制御を実行することとなってしまうが、上記のようにオートモードが選択されている場合に限って、第3輻射量に基づくデフロスタモードでの空調制御を実行する場合には、乗員が違和感を覚えることはないものと考えられる。
【0018】
上記態様に係る車両の空調制御装置において、前記車室内の温度を検出する温度検出部をさらに備え、前記空調制御部は、前記温度検出部の検出結果に基づいて、前記車室内の温度および当該温度の時間微分に係る車室内温度情報を取得し、前記車室内温度情報に基づき、前記車室内の温度に係る状態が定常状態であると判断し、且つ、前記第3輻射量が所定値以上である場合に、前記デフロスタモードで前記空調を実行させる、ことにしてもよい。
【0019】
上記のように、第3輻射量が所定値以上である場合にデフロスタモードで空調制御を行うのは、車室内の温度に係る状態が定常状態である場合に限ることで、例えば、炎天下に放置されていた車両に乗員が搭乗したような場合には、車室内の温度に係る状態が定常状態になるまでの間は乗員の頭部および上半身に冷風を送ることで不快感を和らげることが可能となる。そして、定常状態になってからフロントウィンドからの輻射を低減するためにデフロスタモードで空調を制御することとして車室内を最適な環境とすることができる。
【0020】
上記態様に係る車両の空調制御装置において、前記空調制御部は、前記オートモードでの制御が実行され、且つ、前記デフロスタモードでの制御が実行されている場合であって、前記第3輻射量が所定値未満である場合に、前記デフロスタモードでの前記空調を停止させる、ことにしてもよい。
【0021】
上記のように、オートモードでの制御が実行され、且つ、デフロスタモードでの制御が実行されている場合であって、第3輻射量が所定値未満である場合には、デフロスタモードでの空調を停止させ、これにより乗員の快適性を向上させながら、空調に要するエネルギ消費の抑制を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
上記の各態様に係る空調制御装置は、生体センサなどを用いなくても乗員に対する輻射量を正確に求めることができ、車室内におけるより最適な空調制御を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る車両の車室内の構成を示す模式図である。
図2】車両における空調制御に係る構成を示すブロック図である。
図3】空調制御部が実行する空調制御のフローチャートである。
図4】(a)は、ベントモードとデフロスタモードとを並行して空調を実行する場合の空調形態を示す模式図であり、(b)は、ベントモードで空調を実行する場合の空調形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明を例示的に示すものであって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0025】
[実施形態]
1.車両1における車室1a内の構成
図1は、本発明の実施形態に係る車両1の車室1a内の構成を示す模式図である。なお、図中の「FR」は車両前方、「RE」は車両後方、「UP」は車両上方、「LO」は車両下方をそれぞれ示す。
【0026】
図1に示すように、車両1には、車室1a内と車外とを仕切るフロントウィンド2が設けられている。フロントウィンド2は、ガラスで形成されている。車両1では、フロントドア3およびリヤドア4も備える。フロントドア3は、上部に開閉可能なフロントサイドウィンド3aを有し、下部に内装部材であるフロントドアトリム3bを有する。リヤドア4も、上部に開閉可能なリヤサイドウィンド4aを有し、下部に内装部材であるリヤドアトリム4bを有する。
【0027】
なお、車両1には、図1の紙面手前側にも、フロントドア3およびリヤドア4を備えるが、図1では、図示を省略している。また、図1では、車両1の後方側に設けられたリヤウィンドなどの図示も省略している。
【0028】
車室1a内には、乗員500が着座するためのシート500が設けられている。なお、図1では、運転者が着座するシート5のみを図示している。
【0029】
シート500は、シートクッション5aと、シートバック5bと、ヘッドレスト5cと、を有する。
【0030】
車室1a内におけるフロントウィンド2の前端部分の下方には、インストルメントパネル6が設けられている。インストルメントパネル6には、車両1の走行に係る各種情報を表示するためのメータクラスタや、各種の指令情報を入力するための入力部などが設けられている。入力部には、乗員500が空調に関する指示を入力するための入力部も含まれている(図示を省略)。
【0031】
シート5におけるシートバック5bの前方には、ステアリングホイール7が配置されている。ステアリングホイール7は、シート5に着座した運転者(乗員500)が腕を伸ばすことで把持できる位置に配されている。
【0032】
本実施形態に係る車両1では、フロントウィンド2の内側面(ガラス面)に熱流束センサ(輻射量検出部)11が設けられている。熱流束センサ11は、熱電変換材料を用いて形成されたセンサであって、フロントウィンド2から車室1a内への輻射量(第1輻射量)を検出するためのセンサである。
【0033】
また、本実施形態に係る車両1では、車室1a内に赤外線カメラ(表面温度検出部)12も設けられている。赤外線カメラ12は、赤外線を検出するピクセルを有し、車室1a内における撮像範囲の温度を検出する検出部である。
【0034】
さらに、車両1には、車室1a内の温度を検出する車室内温度センサ(温度検出部)13も設けられている。
【0035】
2.車両1における空調制御に係る構成
図2は、本実施形態に係る車両1における空調制御に係る構成を示すブロック図である。
【0036】
図2に示すように、車両1においては、空調制御部15を備える。空調制御部15は、CPU、RAM、ROMなどから構成されたマイクロプロセッサを有する。空調制御部15には、上述の熱流束センサ11、赤外線カメラ12、および車室内温度センサ13が各々検出した検出結果が適時に入力されるようになっている。
【0037】
また、空調制御部15には、乗員からの空調に関する入力を受け付ける空調モード入力部14からも情報が入力されるようになっている。空調モード入力部14は、乗員がオートモードを選択することが可能となっている。
【0038】
本実施形態に係る車両1では、空調制御部15、熱流束センサ11、赤外線カメラ12、および車室内温度センサ13を含んで空調制御装置10が構成されている。空調制御装置10は、車両1の各種情報を基に空調装置16を制御する装置である。
【0039】
空調装置16は、吹き出しモード設定部161、吹き出し温度設定部162、風量設定部163、および風向設定部164を有する。吹き出しモード設定部161は、空調制御装置10からの指令に従ったモードで温風又は冷風を吹き出す設定部である。本実施形態では、デフロスタモード、ベントモード、フットモード、およびそれらの複合モードが設けられている。
【0040】
ここで、デフロスタモードでは、フロントウィンド2およびフロントサイドウィンド3aの内側に沿って空気(温風又は冷風)が吹き出される。また、ベントモードでは、乗員の上半身に向けて空気が吹き出され、フットモードでは、乗員の足元に向けて空気が吹き出される。
【0041】
3.空調制御部15が実行する空調制御
図3は、空調制御部15が実行する空調制御のフローチャートである。図4(a)は、ベントモードとデフロスタモードとを並行して空調を実行する場合の空調形態を示す模式図であり、図4(b)は、ベントモードで空調を実行する場合の空調形態を示す模式図である。
【0042】
図3に示すように、空調装置16の運転が開始されると、空調制御部15は、各種情報の読込を実行する(ステップS1)。空調制御部15は、ステップ1において、熱流束センサ11、赤外線カメラ12、車室内温度センサ13、および空調モード入力部14からの情報を少なくとも読み込む。
【0043】
次に、空調制御部15は、空調モードとしてオートモードが選択されているか否かを判断する(ステップS2)。ステップS2での空調制御部15の判断は、空調モード入力部14への乗員の入力情報を基に行われる。ステップS2において、オートモードが選択されていないと空調制御部15が判断した場合には(ステップS2:NO)、乗員により選択されたモードで空調装置16を運転する(ステップS10)。
【0044】
空調制御部15は、ステップS2において、オートモードが選択されていると判断した場合に(ステップS2:YES)、車室1a内の温度が設定温度と略同じであるか否か(ステップS3)、および車室1a内の温度の時間微分が略0であるか否か(ステップS4)を判断する。ステップS3およびステップS4の判断は、車室1a内が定常状態であるか否かの判断である(ステップS5)。
【0045】
空調制御部15は、ステップS3およびステップS4の何れかがNOであると判断した場合には、ベントモードで空調装置16を運転する(ステップS9)。これは、例えば、炎天下に駐車されていた車両に乗員が乗車したような場合に、車室1a内の温度が設定温度と略同じとなり、且つ、車室1a内の温度の時間微分が略0になるまでは、ベントモードで空調装置16を運転することで、冷風を直接乗員の上半身に吹き付けて乗員が熱いと感じるのを和らげるためである。
【0046】
空調制御部15は、ステップS3およびステップS4の何れもがYESであると判断した場合には、フロントウィンド2から乗員への輻射量の算出を行う(ステップS6)。フロントウィンド2から乗員への輻射量の算出は、次式により行われる。
【0047】
【数1】
【0048】
上式において、Qは輻射量、σはステファンボルツマン定数、εは輻射率、Fは形態係数、Tは温度を示し、Sglassはフロントウィンド2の表面積を指す。そして、上式の左辺が「フロントウィンド2から乗員への輻射量(第3輻射量)」を示す。また、上式における右辺第1項の「Qglass→cabin」が「フロントウィンド2から車室1a内全体への輻射量(第1輻射量)」を示し、右辺第2項の「σ・εglass・εetc・Fglass→etc・Sglass・(T glass-T etc)」が「フロントウィンド2から車室1a内の乗員以外(内装部材)への輻射量(第2輻射量)」を示す。
【0049】
次に、空調制御部15は、ステップS6で算出した「フロントウィンド2から乗員への輻射量」が所定値以上であるか否かを判断する(ステップS7)。ステップS7で判断基準として用いられる“所定値”は、経験および実験により予め設定された値であって、乗員の体格や姿勢、さらには服装を考慮した上で乗員が快適と感じるか不快と感じるかの閾値である。なお、当該所定値については、車両1の仕向地ごとに設定することなども可能である。
【0050】
空調制御部15は、「フロントウィンド2から乗員への輻射量(第3輻射量)」が所定値以上であると判断した場合には(ステップS7:YES)、図4(a)に示すようなベントモードとデフロスタモードとを並行して空調を制御する(ステップS8)。
【0051】
図4(a)に示すように、日射SRによりフロントウィンド2が高温になっている場合には、乗員500の頭部500aや上半身500bに対する輻射量が大きく、乗員500が不快に感じる。この場合に、空調制御部15は、ベントモードで空気(Flow1)を吹き出すことで、乗員500の頭部500aおよび上半身500bを直接冷やすとともに、デフロスタモードで空気(Flow2)を吹き出すことで、フロントウィンド2のガラス面に沿って冷風を流すことでフロントウィンド2の温度を下げて乗員500への輻射量を低減する。
【0052】
一方、空調制御部15は、「フロントウィンド2から乗員への輻射量(第3輻射量)」が所定値未満であると判断した場合には(ステップS7:NO)、図4(b)に示すようなベントモードで空調を制御する(ステップS9)。図4(b)に示すように、「フロントウィンド2から乗員への輻射量(第3輻射量)」が所定値未満である場合には、図4(a)のようにフロントウィンド2を冷却しなくても、ベントモードで空気(Flow1)を吹き出すだけで(ステップS9)、十分に乗員500の不快感を和らげることが可能となる。
【0053】
本実施形態に係る車両1では、上記のように制御を実行することにより、生体センサなどを用いなくても乗員500に対する輻射量(第3輻射量)を正確に求めることができ、車室1a内におけるより最適な空調制御を実行することができる。
【0054】
[変形例]
上記実施形態では、炎天下に車両1を駐車することで高温となった場合を一例に説明したが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、寒冷な状況下での車両を想定し、当該車両に乗車した乗員の快適性を確保する場合にも、本発明を適用することができる。具体的には、寒冷な状況下では車両のフロントウィンドやフロントサイドウィンドなどから乗員に対して冷輻射が生じる場合がある。このような場合には、ベントモードなどで温風を吹き出して車室内の温度を上昇させても、冷輻射により乗員が寒く感じる。この冷輻射に対しても、デフロスタモードでフロントウィンドやフロントサイドウィンドに沿って温風を吹くことで、これらウィンドを温めて冷輻射を低減することが可能である。
【0055】
上記実施形態では、ステップS8で「ベントモードとデフロスタモードでオート運転」を実行することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、ベントモードの代わりにフットモードを採用することもできるし、ベントモードとフットモードとデフロスタモードとを並行して空調装置を運転することもできる。
【0056】
また、上記実施形態では、ステップS9で「ベントモードでオート運転」を実行することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、フットモードで空調装置を運転することとしてもよい。
【0057】
上記実施形態では、前席に乗車した乗員500に対する輻射量を勘案して空調制御を行うこととしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、車両において、リヤウィンドに沿って空気を吹き出し可能な吹き出し口を設けておき、リヤウィンドから乗員(例えば、後席に乗車の乗員)に対する輻射量を上記実施形態と同様に算出するようにもできる。これにより、後席の乗員に対する最適な空調が可能となる。
【0058】
また、リヤサイドウィンドに沿って空気を流すことができる吹き出し口を設けておき、リヤサイドウィンドから乗員(例えば、後席に乗車の乗員)への輻射量に基づいて、空調制御を実行することにしてもよい。
【0059】
さらに、サンルーフに沿って空気を流すことができる吹き出し口を設けておき、サンルーフから乗員への輻射量に基づいて、空調制御を実行することにしてもよい。
【0060】
上記実施形態では、表面温度検出部の一例として赤外線カメラ12を設けることとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。車室内の主要な部位に対して表面温度を検出できる温度計を設けておくこととしてもよい。なお、車室内における全ての内装部材の表面温度を検出する必要は必ずしもなく、一部の内装部材の表面温度を検出して予め規定された関係式に基づいて車室内の全ての内装部材の表面温度を算出することとしてもよい。
【0061】
上記実施形態では、空調制御における内気循環と外気導入との切り替えについては特に言及しなかったが、車室内の環境(温度や湿度や酸素濃度など)に応じて適宜に切り替えを行うように制御することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 車両
1a 車室
2 フロントウィンド
3b フロントドアトリム(内装部材)
4b リヤドアトリム(内装部材)
5 シート(内装部材)
6 インストルメントパネル(内装部材)
10 空調制御装置
11 熱流束センサ(輻射量検出部)
12 赤外線カメラ(表面温度検出部)
13 車室内温度センサ(温度検出部)
16 空調装置
161 吹き出しモード設定部
162 吹き出し温度設定部
163 風量設定部
164 風向設定部
図1
図2
図3
図4