(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】走行経路生成システム及び車両運転支援システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20240528BHJP
B60W 30/045 20120101ALI20240528BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20240528BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240528BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W30/045
B60W10/20
G08G1/16 D
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2020074227
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】西澤 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英輝
(72)【発明者】
【氏名】菅野 崇
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-264820(JP,A)
【文献】特開2011-207242(JP,A)
【文献】特開2009-061878(JP,A)
【文献】特開2019-189187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/10
G08G 1/16
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行経路生成システムであって、
車両の走行路に関する走行路情報を取得する走行路情報取得装置と、
前記走行路情報に基づいて、前記走行路において前記車両に走行させる目標走行経路を生成するよう構成された演算装置と、を有し、
前記演算装置は、
第1曲線路と、前記第1曲線路の進行方向先に存在し且つ当該第1曲線路と同方向に曲がる第2曲線路と、前記第1曲線路と前記第2曲線路とに挟まれた直線路と、から成る所定の走行路を、前記走行路情報に基づき検出し、
前記所定の走行路が検出された場合に、(1)前記直線路に対応する前記目標走行経路の部分が、前記第2曲線路の曲がる方向とは逆方向に車線中心線から離れて位置し、(2)前記第2曲線路に対応する前記目標走行経路の部分に含まれるクリッピングポイントが、前記第2曲線路の長さ方向における中央位置よりも進行方向先に位置するように、前記目標走行経路を生成するよう構成され、
前記演算装置は、
前記走行路情報に基づき、前記走行路の曲率分布を演算し、
前記曲率分布を正規化した正規化曲率分布を演算し、
前記正規化曲率分布に基づき、前記所定の走行路に含まれる前記直線路を特定し、
特定された前記直線路に対応する前記正規化曲率分布の部分を、前記第2曲線路の曲がる方向に対応する方向と逆方向にシフトさせ、このシフト後の前記正規化曲率分布に基づいて、前記直線路に対応する前記目標走行経路の部分が前記第2曲線路の曲がる方向とは逆方向に車線中心線から離れて位置するような前記目標走行経路を生成するよう構成され、
前記演算装置は、前記シフト後の前記正規化曲率分布を進行方向に対応する方向に更にシフトさせ、このシフト後の前記正規化曲率分布に基づいて、前記クリッピングポイントが前記第2曲線路の長さ方向における中央位置よりも進行方向先に位置するような前記目標走行経路を生成するよう構成され、
前記演算装置は、前記正規化曲率分布に対して所定の遅延フィルタを適用することで、前記正規化曲率分布を進行方向に対応する方向にシフトさせるよう構成されている、
ことを特徴とする走行経路生成システム。
【請求項2】
請求項
1に記載の走行経路生成システムによって生成された目標走行経路に沿って車両が走行するように、前記車両を運転制御するよう構成された制御装置を有することを特徴とする車両運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行経路を生成する走行経路生成システム、及び走行経路に基づき車両の運転支援を行う車両運転支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自車両の周辺の状況や自車両の状態などに基づき、自車両に走行させるための目標走行経路を設定し、この目標走行経路に基づき車両の運転支援(具体的には運転アシスト制御や自動運転制御)を行う技術が開発されている。例えば、特許文献1には、車線内において幅方向の中央に位置する中心線(車線中心線)の曲率半径よりも、コーナリングラインの曲率半径が大きくなるように目標走行経路を設定することで、車両の乗り心地や燃費の改善を図った技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、運転に熟練したエキスパートドライバは、曲線路を走行するときに、車線幅の範囲内において車線中心線からずれた位置を車両に通過させるように運転を行う傾向にある。また、エキスパートドライバは、クリッピングポイント(車両が曲線路を旋回するときに当該曲線路の車幅方向内側の端部に最も近付く位置)を曲線路中の適当な位置に意識的に設定して、このクリッピングポイントを車両に通過させるように運転を行う傾向にある。
【0005】
特に、エキスパートドライバは、同方向に曲がる2つの曲線路とこれらの曲線路に挟まれた直線路とから成る所定の走行路(以下では適宜「複合コーナー」と呼ぶ。)を走行するときに、クリッピングポイントを特異な位置に意識的に設定して運転する傾向にある。したがって、このような複合コーナーでのエキスパートドライバによる走行経路を考慮して、複合コーナーに適用する目標走行経路を生成できれば良いと考えられる。具体的には、複合コーナーに適用する目標走行経路を生成する場合に、複合コーナーにおいてエキスパートドライバが用いるクリッピングポイントの位置を考慮に入れると良いと考えられる。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、同方向に曲がる2つの曲線路とこれらの曲線路に挟まれた直線路とから成る所定の走行路に対して、エキスパートドライバによる走行経路を適切に考慮に入れた目標走行経路を生成することができる走行経路生成システム、及び、この目標走行経路に基づき車両の運転支援を行うことができる車両運転支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、走行経路生成システムであって、車両の走行路に関する走行路情報を取得する走行路情報取得装置と、走行路情報に基づいて、走行路において車両に走行させる目標走行経路を生成するよう構成された演算装置と、を有し、演算装置は、第1曲線路と、第1曲線路の進行方向先に存在し且つ当該第1曲線路と同方向に曲がる第2曲線路と、第1曲線路と第2曲線路とに挟まれた直線路と、から成る所定の走行路を、走行路情報に基づき検出し、所定の走行路が検出された場合に、(1)直線路に対応する目標走行経路の部分が、第2曲線路の曲がる方向とは逆方向に車線中心線から離れて位置し、(2)第2曲線路に対応する目標走行経路の部分に含まれるクリッピングポイントが、第2曲線路の長さ方向における中央位置よりも進行方向先に位置するように、目標走行経路を生成するよう構成され、演算装置は、走行路情報に基づき、走行路の曲率分布を演算し、曲率分布を正規化した正規化曲率分布を演算し、正規化曲率分布に基づき、所定の走行路に含まれる直線路を特定し、特定された直線路に対応する正規化曲率分布の部分を、第2曲線路の曲がる方向に対応する方向と逆方向にシフトさせ、このシフト後の正規化曲率分布に基づいて、直線路に対応する目標走行経路の部分が第2曲線路の曲がる方向とは逆方向に車線中心線から離れて位置するような目標走行経路を生成するよう構成され、演算装置は、シフト後の正規化曲率分布を進行方向に対応する方向に更にシフトさせ、このシフト後の正規化曲率分布に基づいて、クリッピングポイントが第2曲線路の長さ方向における中央位置よりも進行方向先に位置するような目標走行経路を生成するよう構成され、演算装置は、正規化曲率分布に対して所定の遅延フィルタを適用することで、正規化曲率分布を進行方向に対応する方向にシフトさせるよう構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によれば、同方向に曲がる2つの曲線路とこれらの曲線路に挟まれた直線路とから成る所定の走行路(複合コーナー)を走行するときのエキスパートドライバによる走行経路に類似した目標走行経路を生成することができる。そして、この目標走行経路に沿って車両を走行させるように運転制御すると、複合コーナーでのエキスパートドライバによる走行経路を車両にトレースさせることができ、複合コーナーにおいてスポーティーな走行を実現することができる。
また、本発明によれば、直線路に対応する目標走行経路の部分を、車線幅の範囲内において、車線中心線の外側(曲線路の曲がる方向と逆側)に適切に位置させることができる。
また、本発明によれば、第2曲線路でのクリッピングポイントを、当該第2曲線路の中央位置よりも進行方向先に適切に位置させることができる。
【0011】
他の観点では、本発明において、車両運転支援システムは、上述した走行経路生成システムによって生成された走行経路に沿って車両が走行するように、車両を運転制御するよう構成された制御装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の走行経路生成システムによれば、同方向に曲がる2つの曲線路とこれらの曲線路に挟まれた直線路とから成る所定の走行路(複合コーナー)に対して、エキスパートドライバによる走行経路を適切に考慮に入れた目標走行経路を生成することができ、また、本発明の車両運転支援システムによれば、このような目標走行経路に基づき車両の運転支援を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態による走行経路生成システムが適用された車両運転支援システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態による目標走行経路の基本概念の説明図である。
【
図3】本発明の実施形態による目標走行経路生成及び運転支援に係るフローチャートである。
【
図4】
図3のフローチャートに係る処理を適用する複合コーナーの一例である。
【
図5】
図3のフローチャートの各ステップに係る処理を
図4の複合コーナーに適用した場合の結果を示す。
【
図6】
図3のフローチャートの処理を
図4の複合コーナーに対して実行した場合に生成された目標走行経路を示す。
【
図7】
図6の目標走行経路中の第2左カーブ部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による走行経路生成システム及び車両運転支援システムについて説明する。
【0015】
[システム構成]
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態による走行経路生成システムが適用された車両運転支援システムの構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態による走行経路生成システムが適用された車両運転支援システムの概略構成を示すブロック図である。
【0016】
車両運転支援システム100は、走行路において車両1に走行させるための目標走行経路を設定する走行経路生成システムとしての機能を有すると共に、車両1をこの目標走行経路に沿って走行させるように運転支援制御(運転アシスト制御や自動運転制御)を行うように構成されている。
図1に示すように、車両運転支援システム100は、演算装置及び制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)10と、複数のセンサ類と、複数の制御システムと、を有する。
【0017】
具体的には、複数のセンサ類には、カメラ21、レーダ22や、車両1の挙動や乗員による運転操作を検出するための車速センサ23、加速度センサ24、ヨーレートセンサ25、操舵角センサ26、アクセルセンサ27、ブレーキセンサ28が含まれている。さらに、複数のセンサ類には、車両1の位置を検出するための測位システム29、ナビゲーションシステム30が含まれている。複数の制御システムには、エンジン制御システム31、ブレーキ制御システム32、ステアリング制御システム33が含まれている。
【0018】
また、他のセンサ類として、車両1に対する周辺構造物の距離及び位置を測定する周辺ソナー、車両1の4箇所の角部における周辺構造物の接近を測定するコーナーレーダや、車両1の車室内を撮影するインナーカメラが含まれていてもよい。
【0019】
ECU10は、複数のセンサ類から受け取った信号に基づいて種々の演算を実行し、エンジン制御システム31、ブレーキ制御システム32、ステアリング制御システム33に対して、それぞれエンジンシステム、ブレーキシステム、ステアリングシステムを適宜に作動させるための制御信号を送信する。ECU10は、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)と、各種プログラムを記憶するメモリ(ROM、RAMなど)と、入出力装置などを備えたコンピュータにより構成される。なお、ECU10は、本発明における「演算装置」及び「制御装置」の一例に相当する。
【0020】
カメラ21は、車両1の周囲を撮影し、画像データを出力する。ECU10は、カメラ21から受信した画像データに基づいて、対象物(例えば、先行車両(前方車両)、後続車両(後方車両)、駐車車両、歩行者、走行路、区画線(車線境界線、白線、黄線)、交通信号、交通標識、停止線、交差点、障害物等)を特定する。なお、ECU10は、交通インフラや車々間通信等により、外部から対象物の情報を取得してもよい。これにより、対象物の種類、相対位置、移動方向等が特定される。
【0021】
レーダ22は、対象物(特に、先行車両、後続車両、駐車車両、歩行者、走行路上の落下物等)の位置及び速度を測定する。レーダ22として、例えばミリ波レーダを用いることができる。レーダ22は、車両1の進行方向に電波を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離)や、車両1に対する対象物の相対速度を測定する。なお、本実施形態において、レーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等を用いて対象物との距離や相対速度を測定してもよい。また、複数のセンサ類を用いて、位置及び速度測定装置を構成してもよい。
【0022】
なお、カメラ21及びレーダ22は、本発明における「走行路情報取得装置」の一例に相当する。また、「走行路情報」は、例えば、走行路の形状(直線、カーブ、カーブ曲率)、走行路幅、車線数、車線幅、標識などに規定された走行路の規制情報(制限速度など)、交差点、横断歩道等に関する情報を含んでいる。ECU10は、このような走行路情報に加えて、障害物情報に基づき、車両1に走行させるための目標走行経路を設定する。この障害物情報は、車両1の走行路上の障害物(例えば先行車両や後続車両や駐車車両や歩行者などの車両1の走行において障害となり得る対象物)の有無や、障害物の移動方向、障害物の移動速度等に関する情報を含んでいる。
【0023】
車速センサ23は、車両1の絶対速度を検出する。加速度センサ24は、車両1の加速度を検出する。この加速度は、前後方向の加速度と、横方向の加速度(つまり横加速度)とを含む。なお、加速度には、速度が増加する方向の速度の変化率だけでなく、速度が減少する方向の速度の変化率(つまり減速度)も含むものとする。
【0024】
ヨーレートセンサ25は、車両1のヨーレートを検出する。操舵角センサ26は、車両1のステアリングホイールの回転角度(操舵角)を検出する。ECU10は、車速センサ23が検出した絶対速度、及び、操舵角センサ26が検出した操舵角に基づいて所定の演算を実行することにより、車両1のヨー角を取得することができる。アクセルセンサ27は、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。ブレーキセンサ28は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する。
【0025】
測位システム29は、GPSシステム及び/又はジャイロシステムであり、車両1の位置(現在車両位置情報)を検出する。ナビゲーションシステム30は、内部に地図情報を格納しており、ECU10に地図情報を提供することができる。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両1の周囲(特に、進行方向)に存在する道路、交差点、交通信号、建造物等を特定する。地図情報は、ECU10内に格納されていてもよい。なお、ナビゲーションシステム30も、本発明における「走行路情報取得装置」の一例に相当する。
【0026】
エンジン制御システム31は、車両1のエンジンを制御する。エンジン制御システム31は、エンジン出力(駆動力)を調整可能な構成部であり、例えば、点火プラグや、燃料噴射弁や、スロットルバルブや、吸排気弁の開閉時期を変化させる可変動弁機構などを含む。ECU10は、車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御システム31に対して、エンジン出力を変更するために制御信号を送信する。
【0027】
ブレーキ制御システム32は、車両1のブレーキ装置を制御する。ブレーキ制御システム32は、ブレーキ装置の制動力を調整可能な構成部であり、例えば液圧ポンプやバルブユニットなどを含む。ECU10は、車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、制動力を発生させるために制御信号を送信する。
【0028】
ステアリング制御システム33は、車両1のステアリング装置を制御する。ステアリング制御システム33は、車両1の操舵角を調整可能な構成部であり、例えば電動パワーステアリングシステムの電動モータなどを含む。ECU10は、車両1の進行方向を変更する必要がある場合に、ステアリング制御システム33に対して、操舵方向を変更するために制御信号を送信する。
【0029】
[目標走行経路の生成]
次に、本発明の実施形態において上述したECU10によって実行される目標走行経路の生成について説明する。
【0030】
まず、
図2を参照して、本発明の実施形態による目標走行経路の基本概念について説明する。
図2に示すように、本実施形態では、ECU10は、車両1が、同方向に曲がる2つの曲線路(
図2の例では2つの右カーブ(第1右カーブ及び第2右カーブ)であり、以下では適宜「同方向曲線路」と呼ぶ。)とこれらの曲線路に挟まれた直線路とから成る走行路を走行する場合、つまり複合コーナーを走行する場合に、適用すべき目標走行経路を生成するようにする。なお、本実施形態で取り扱う「複合コーナー」の走行路であるが、この走行路には、2つの曲線路の間に直線路が含まれているため、厳密にはコーナーではないが、直線路の区間が比較的短いため、本明細書では「複合コーナー」の文言を用いている。
【0031】
図2において、実線L11は、運転に熟練したエキスパートドライバが複合コーナーを走行するときの車両1の走行経路(走行軌跡)の一例を示し、破線L12は、比較例に係る目標走行経路の生成方法によって複合コーナーに対して生成された目標走行経路を示し、一点鎖線L13は、複合コーナー中の車線中心線(走行路の車線内において幅方向の中央に位置する中心線)を示している。比較例では、車両1の乗り心地を改善する観点などから、基本的には車両1がほぼアウトインアウトの経路を走行するように目標走行経路L12が生成される。特に、比較例では、曲線路に対応する経路の曲率半径が、曲線路自体の曲率半径(具体的には車線中心線L13の曲率半径)よりも大きくなるように、目標走行経路L12が生成される。この目標走行経路L12では、第2右カーブでのクリッピングポイントP12が、第2右カーブの長さ方向における中央位置に位置している。つまり、比較例による目標走行経路L12によれば、車両1は、第2右カーブを旋回するときに、第2右カーブの中央位置において、第2右カーブの車幅方向内側の端部に最も近付くこととなる。
【0032】
一方で、エキスパートドライバによる複合コーナーの走行経路L11は、基本的にはアウトインアウトの経路になっているが、直線路の出口付近(換言すると第2右カーブの入口付近)における経路が車線中心線L13から大きく外側(左方向)にずれている。また、この走行経路L11では、第2右カーブでのクリッピングポイントP11が、第2右カーブの長さ方向における中央位置よりも進行方向先に位置している(矢印A11参照)。つまり、エキスパートドライバによる走行経路L11では、車両1は、第2右カーブを旋回するときに、第2右カーブの中央位置よりも進行方向先の位置において、第2右カーブの車幅方向内側の端部に最も近付くこととなる。このようクリッピングポイントP11をエキスパートドライバが用いるのは、例えば、第2右カーブでの走行経路を直線に近付けることで(矢印A12参照)、第2右カーブを速く走行するためや、直線路の出口付近において先の第2右カーブを見るための視界を確保するためと考えられる。
【0033】
上述したようなエキスパートドライバによる走行経路L11をトレースするような目標走行経路を生成できれば、比較例による目標走行経路L12よりも、複合コーナーにおいてスポーティーな走行を実現できるものと考えられる。したがって、本実施形態では、ECU10は、複合コーナーについて目標走行経路を生成する場合に、(1)直線路に対応する目標走行経路の部分が、曲線路の曲がる方向とは逆方向に車線中心線から離れて位置し、(2)進行方向先にある曲線路(第2曲線路)に対応する目標走行経路の部分に含まれるクリッピングポイントが、当該曲線路の長さ方向における中央位置よりも進行方向先に位置するように、目標走行経路を生成するようにする。
【0034】
次に、
図3を参照して、本発明の実施形態による目標走行経路生成及び運転支援に係るフローチャートについて説明する。このフローチャートに係る処理は、ECU10によって所定の周期(例えば、0.05~0.2秒毎)で繰り返し実行される。ここでは、
図3のフローチャートに係る処理の説明と並行して、本処理を
図4に示すような複合コーナーに対して適用した場合を例に挙げて、この場合に得られた結果を
図5乃至
図7を参照して説明する。
図4に示す複合コーナーは、進行方向に沿って見ると、第1左カーブ、直線路、第2左カーブ及び右カーブにより構成されている。また、
図5は、
図3のフローチャートの各ステップに係る処理を
図4の複合コーナーに適用した場合の結果を示し、
図6は、
図4の複合コーナーに対して
図3のフローチャートに係る処理を実行した場合に生成された目標走行経路を示し、
図7は、
図6の目標走行経路中の第2左カーブ部分の拡大図を示している。
【0035】
図3のフローチャートに係る処理が開始されると、ステップS1において、ECU10は、
図1に示した複数のセンサ類(特にカメラ21、レーダ22、及びナビゲーションシステム30など)から各種種の情報を取得する。この場合、ECU10は、上述した走行路情報を少なくとも取得する。
【0036】
次いで、ステップS2において、ECU10は、ステップS1で取得された走行路情報に基づき、走行路の曲率分布、詳しくは走行路の車線中心線の曲率分布を演算する。典型的な例では、ECU10は、走行路情報に含まれる走行路を構成する複数の点(車線中心線上の所定間隔ごとに規定された複数の点)の位置座標から、走行路の曲率分布を演算する。なお、走行路情報に走行路の曲率の情報が含まれている場合、例えばナビゲーションシステム30の地図情報に走行路の曲率の情報が含まれている場合には、ECU10は、この曲率の情報から曲率分布を求めればよい。ここで、
図5のグラフG11は、
図4の複合コーナーから得られた曲率分布を示している。
図5において、横軸は、
図4の複合コーナーを含む走行路上の基準位置(出発点など)からの経路長を示し、縦軸は、走行路の曲率を示している。グラフG11に示すように、ステップS2の処理によれば、各曲線路(第1左カーブ、第2左カーブ及び右カーブ)ごとに曲率が求められ、また、直線路では曲率が0になっている。
【0037】
次いで、ステップS3において、ECU10は、ステップS2で求められた曲率分布を正規化する。具体的には、ECU10は、曲率の値が-1から1までの範囲に収まるように、所定のシグモイド関数などを用いて曲率を符号化する。例えば、ECU10は、「f(s)=2/π×arctan{R
half・κ(s)}」という式を用いて、曲率分布を正規化する。この式において、「f(s)」は、正規化された曲率を示し、「κ(s)」は、元の曲率を示し、「R
half」は、曲線路を判定するために適宜設定される閾値に相当する(曲率半径(1/κ(s))がR
halfのときにf(s)が0.5となる)。ここで、
図5のグラフG12は、グラフG11の曲率分布を正規化したものである。グラフG12に示すように、ステップS3の処理(正規化)によれば、曲率の値が全て-1から1までの範囲に収まっている。また、グラフG12において符号G12aで示す部分は、正規化された曲率の値がほぼ0である直線路部分を表している。なお、上述したシグモイド関数を用いて曲率分布を正規化することに限定はされず、公知の種々の方法を用いて曲率分布を正規化してもよい。
【0038】
次いで、ステップS4において、ECU10は、ステップS3で正規化された曲率分布(正規化曲率分布)に基づき、同方向曲線路に挟まれた直線路が存在するか否かを判定する。すなわち、ECU10は、処理対象となっている走行路が、同方向に曲がる2つの曲線路に挟まれた直線路を含んでいるか否かを判定する。ECU10は、正規化された曲率がほぼ0である走行路を直線路として判定し、この直線路の進行方向における前方及び後方に、正規化された曲率の絶対値が0よりも大きく、且つ曲率の正負の符号が同じ曲線路が存在する場合に、同方向曲線路に挟まれた直線路が存在すると判定する(ステップS4:Yes)。この場合、ECU10は、ステップS5に進む。これに対して、ECU10は、同方向曲線路に挟まれた直線路が存在しない場合(ステップS4:No)、
図3に示すフローチャートに係る処理を終了する。
【0039】
次いで、ステップS5において、ECU10は、ステップS4による判定で特定された直線路部分を加工する。具体的には、ECU10は、直線路に対応する正規化曲率分布の部分を、直線路に繋がった曲線路の曲がる方向に対応する方向と逆方向にシフトさせる。こうすることで、直線路に対応する目標走行経路の部分を、車線中心線の外側(曲線路の曲がる方向と逆側)に位置させるようにする。この結果、直線路に対応する目標走行経路の部分が、緩やかな曲線路になる。ここで、
図5のグラフG13は、直線路に対応する正規化曲率分布の部分G12a(グラフG12の一部分)を、曲線路の左方向とは逆の右方向にシフトさせたものである(矢印A21参照)。
【0040】
次いで、ステップS6において、ECU10は、ステップS5でシフトされた正規化曲率分布に対して所定の遅延フィルタを適用する。すなわち、ECU10は、正規化曲率分布を進行方向へと更にシフトさせると共に、正規化曲率分布の変化を滑らか(緩やか)にする処理を行う。こうすることで、複合コーナーにおいて進行方向先にある曲線路でのクリッピングポイントを、当該曲線路の長さ方向における中央位置よりも進行方向先に位置させるようにする。この結果、複合コーナーにおいて進行方向先にある曲線路に対応する目標走行経路の部分が、直線に近付くことになる。
【0041】
1つの例では、ECU10は、前の値を加重平均して後の値を求めるような一次遅れ関数を遅延フィルタとして適用する。この例では、ECU10は、「g(s+1)=(1-p)g(s)+pu(s)」という式を一次遅れ関数として用いる。「g(s)」は、前回の曲率の値を示し、「g(s+1)」は、今回得られた曲率の値を示し、「u(s)」は、事前に設定された所定の関数を示し、「p」は、事前に設定された所定の係数を示す。他の例では、ECU10は、遅延フィルタによる処理として、スプライン補間を行うと共に、スプラインの制御点を進行方向へとシフトさせる処理を行う。ここで、
図5のグラフG14は、ステップS4でシフトされた正規化曲率分布G13に対して一次遅れ関数を適用したものである。グラフG14に示すように、ステップS6の処理によれば、正規化曲率分布が進行方向にシフトすると共に(矢印A22参照)、正規化曲率分布の変化が滑らかになっている。これにより、第2左カーブでのクリッピングポイントが、第2左カーブの長さ方向における中央位置よりも進行方向先に位置するようになる(矢印A23参照)。
【0042】
次いで、ステップS7において、ECU10は、ステップS6で遅延フィルタが適用された正規化曲率分布に基づき、目標走行経路を生成する。具体的には、ECU10は、この正規化曲率分布に規定された曲率に応じて、走行路(複合コーナー)の車線中心線から法線方向(車幅方向)にオフセットさせた線を、適用すべき目標走行経路として生成する。すなわち、ECU10は、車線中心線上の所定間隔ごとに規定された複数の点のそれぞれを、正規化曲率分布に規定された曲率に応じて法線方向にオフセットさせ、こうしてオフセットさせた複数の点を繋いだ線を、適用すべき目標走行経路として生成する。
【0043】
次いで、ステップS8において、ECU10は、ステップS7で生成された目標走行経路に沿って車両1が走行するように、車両1の速度制御及び操舵制御を含む運転制御を実行する。具体的には、ECU10は、エンジン制御システム31、ブレーキ制御システム32及びステアリング制御システム33のうちの少なくとも1以上に制御信号を送信して、エンジン制御、制動制御及び操舵制御の少なくとも1以上を実行する。
【0044】
ここで、
図3のフローチャートに係る処理を
図4に示す複合コーナーに対して実行した場合、
図6及び
図7に示すような目標走行経路L3が得られる。
図6に示すように、この目標走行経路L3は、概してアウトインアウトの経路になっている。より詳しくは、直線路に対応する目標走行経路L3の部分、特に直線路の出口付近(換言すると第2左カーブの入口付近)の目標走行経路L3の部分が、車線中心線の外側(つまり第2左カーブとは逆の右方向)にずれている。また、
図7に示すように、第2左カーブに対応する目標走行経路L3の部分に含まれるクリッピングポイントP2が、第2左カーブの長さ方向における中央位置よりも進行方向先に位置している(矢印A3参照)。
【0045】
[作用及び効果]
次に、本発明の実施形態による作用及び効果について説明する。
【0046】
本実施形態によれば、ECU10は、第1曲線路と、第1曲線路の進行方向先に存在し且つ当該第1曲線路と同方向に曲がる第2曲線路と、これら第1曲線路と第2曲線路とに挟まれた直線路と、から成る所定の走行路(複合コーナー)について目標走行経路を生成する場合に、(1)直線路に対応する目標走行経路の部分が、第2曲線路の曲がる方向とは逆方向に車線中心線から離れて位置し、(2)第2曲線路に対応する目標走行経路の部分に含まれるクリッピングポイントが、第2曲線路の長さ方向における中央位置よりも進行方向先に位置するように、目標走行経路を生成する。これにより、複合コーナーを走行するときのエキスパートドライバによる走行経路に類似した目標走行経路を生成することができる。このような目標走行経路に沿って車両1を走行させるように運転制御すると、複合コーナーでのエキスパートドライバによる走行経路をトレースすることができ、複合コーナーにおいてスポーティーな走行を実現することができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、ECU10は、走行路情報に基づき、走行路の曲率分布を演算し、曲率分布を正規化した正規化曲率分布を演算し、正規化曲率分布に基づき、所定の走行路(複合コーナー)中の直線路を特定し、特定された直線路に対応する正規化曲率分布の部分を、第2曲線路の曲がる方向に対応する方向と逆方向にシフトさせ、このシフト後の前記正規化曲率分布に基づき目標走行経路を生成する。これにより、直線路に対応する目標走行経路の部分を、車線幅の範囲内において車線中心線の外側(曲線路の曲がる方向と逆側)に適切に位置させることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、ECU10は、上記のようにシフトさせた後の正規化曲率分布を進行方向に対応する方向に更にシフトさせ、このシフト後の正規化曲率分布に基づき目標走行経路を生成する。これにより、第2曲線路でのクリッピングポイントを、当該第2曲線路の長さ方向における中央位置よりも進行方向先に適切に位置させることができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、ECU10は、正規化曲率分布に対して所定の遅延フィルタを適用することで、正規化曲率分布を進行方向に対応する方向に適切にシフトさせることができる。
【0050】
[変形例]
上記した実施形態では、エンジンを駆動源とする車両1に本発明を適用する例を示したが(
図1参照)、本発明は、電気モータを駆動源とする車両(電気自動車やハイブリッド車)にも適用可能である。加えて、上述した実施形態では、ブレーキ装置(ブレーキ制御システム32)により制動力を車両1に付与していたが、他の例では、電気モータの回生により制動力を車両に付与してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 車両
10 ECU
21 カメラ
22 レーダ
30 ナビゲーションシステム
31 エンジン制御システム
32 ブレーキ制御システム
33 ステアリング制御システム
100 車両運転支援システム(走行経路生成システム)