IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-加飾部材及び加飾部材の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】加飾部材及び加飾部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 13/12 20060101AFI20240528BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240528BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240528BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240528BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20240528BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240528BHJP
   B41M 3/06 20060101ALI20240528BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B32B13/12
B32B27/00 E
B32B27/18 A
B32B27/30 A
B32B27/38
B41J2/01 501
B41M3/06 Z
E04F13/08 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020086898
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021181173
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐川 浩一
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-057131(JP,A)
【文献】特開2007-198097(JP,A)
【文献】特開2011-126947(JP,A)
【文献】特開2007-177216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
E04F 13/00 - 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系材料からなる基材と、
当該基材の一方の面に積層され、前記基材側から順に積層されたエポキシ系塗料層と第一アクリル系塗料層とを有する塗料層と、
当該塗料層の上に形成された模様層と、
当該模様層の上に積層された第二アクリル系塗料層と、
を備え、
記模様層は、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のうちの少なくともいずれか一つを含み、複数のインキドットにより形成されていることを特徴とする加飾部材。
【請求項2】
前記エポキシ系塗料層は、ガラス転移点が100℃未満であることを特徴とする請求項に記載の加飾部材。
【請求項3】
前記エポキシ系塗料層及び前記第一アクリル系塗料層の少なくともいずれか一方は、紫外線カット剤を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加飾部材。
【請求項4】
前記第二アクリル系塗料層は、紫外線カット剤を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の加飾部材。
【請求項5】
前記エポキシ系塗料層及び前記第一アクリル系塗料層の少なくともいずれか一方は、ラジカル捕捉剤を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の加飾部材。
【請求項6】
前記エポキシ系塗料層は、ポリアミド変性エポキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の加飾部材。
【請求項7】
セメント系材料からなる基材の一方の面に、前記基材側から順にエポキシ系塗料層及び第一アクリル系塗料層を含む塗料層を積層する工程と、
前記塗料層の上にアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のうちの少なくともいずれか一つを含む模様層を積層する工程と、
前記模様層の上に第二アクリル系塗料層を積層する工程と、
を備え、
前記模様層を積層する工程は、前記塗料層の上に、デジタルデータに基づきインクジェット方式によりインキを吐出し、インキドットにより前記模様層を形成する工程であることを特徴とする加飾部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾部材及び加飾部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートや、プレキャストコンクリートカーテンウォール(以下、PCカーテンウォールともいう。)への加飾は、刷毛、ローラー、及びスプレー等を用いた職人による塗装が一般的である。そのため、加飾の精度や、再現性等の点で十分ではないことが多い。一部には、デジタルデータに基づいてデジタル制御を行うことにより印刷動作を行うインクジェット方式等といったデジタル塗装が用いられることもある。例えば、セメント板等といった窯業系建築板にインクジェット方式を採用することによって、塗料やインキをドット単位で吹きつけて塗装や模様をつける方法等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3731568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、その利用用途は、広告等の一時的な加飾の用途に限られており、数年から十数年以上の超長期間に亘って、模様を含めた意匠の耐久性を担保することの可能な加飾部材が望まれていた。
そこで、この発明は、従来の未解決の課題に着目してなされたものであり、超長期間に亘って、意匠の耐久性を担保することの可能な加飾部材及び加飾部材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するべく、本発明の一態様に係る加飾部材は、セメント系材料からなる基材と、基材の一方の面に積層された塗料層と、塗料層の上に形成された模様層と、を備え、塗料層は、エポキシ系塗料層と第一アクリル系塗料層とを有し、模様層は、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のうちの少なくともいずれか一つを含み、複数のインキドットにより形成されていることを特徴としている。
【0006】
また、本発明の他の態様に係る加飾部材の製造方法は、セメント系材料からなる基材の一方の面に、エポキシ系塗料層及びアクリル系塗料層を含む塗料層を積層する工程と、塗料層の上にアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のうちの少なくともいずれか一つを含む模様層を積層する工程と、を備え、模様層を積層する工程は、塗料層の上に、デジタルデータに基づきインクジェット方式によりインキを吐出し、インキドットにより模様層を形成する工程であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、長期間に亘って、意匠の耐久性を担保することの可能な加飾部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る加飾部材の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
本発明の一実施形態に係る加飾部材は、セメント系材料からなる基材と、基材の一方の面に積層された塗料層と、塗料層の上に形成された模様層と、を備え、塗料層は、エポキシ系塗料層と第一アクリル系塗料層とを有し、模様層は、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のうちの少なくともいずれか一つを含み、複数のインキドットにより形成されている部材である。
また、本発明の他の実施形態に係る加飾部材の製造方法は、セメント系材料からなる基材の一方の面に、エポキシ系塗料層及びアクリル系塗料層を含む塗料層を積層する工程と、塗料層の上にアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のうちの少なくともいずれか一つを含む模様層を積層する工程と、を備え、模様層を積層する工程は、塗料層の上に、デジタルデータに基づきインクジェット方式によりインキを吐出し、インキドットにより模様層を形成する工程である製造方法である。
【0011】
〔加飾部材の構成〕
加飾部材1は、基材2と、シーラー層3と、弾性塗料層4と、中塗層5と、模様層6と、トップコート層7と、を備え、基材2の一方の面に、シーラー層3と、弾性塗料層4と、中塗層5と、模様層6と、トップコート層7とがこの順に積層されている。シーラー層3と、弾性塗料層4と、中塗層5と、が塗料層11に対応している。
基材2は、砂、砂利、無機鉱物、無機系繊維、及び有機系繊維等のうちの少なくとも1種類以上の成分と、セメントと、水と、を混合固化した後に成形されてなる部材であって、例えば、コンクリート、窯業系サイディング、GCR(ガラス繊維補強セメント)、モルタル壁等の、セメント系材料から構成される。
【0012】
シーラー層3は、基材2を保護する目的、また、弾性塗料層4の密着性を向上する目的で設けられ、例えば、硬質エポキシ系樹脂の塗料層で形成される。
弾性塗料層4は、基材2のひび割れ防止のために設けられ、例えば軟質エポキシ系樹脂からなる弾性塗料層で形成される。
なお、シーラー層3となる硬質エポキシ系樹脂の塗料層と、弾性塗料層4となる軟質エポキシ系樹脂の塗料層と、のガラス転移点は100℃未満である。このように、エポキシ系樹脂のガラス転移点を100℃未満とすることで、シーラー層3及び弾性塗料層4の塗装膜の柔軟性が増し、周辺環境による基材2の形状変化に対して、塗装膜の追従性が向上する。つまり、基材2の形状変化に伴う腹割れや腹剥がれ等が生じるリスクが軽減される。
【0013】
中塗層5は、シーラー層3及び弾性塗料層4の保護、また、コンクリート等で形成される基材2の色が、表層に透けて見える事を防止する隠蔽性の付与等の目的で設けられ、例えば、アクリル系樹脂の塗料層(第一アクリル系塗料層)で形成される。
模様層6は、インクジェット方式を用いたデジタル塗装制御により形成された層であって、インキの塗出口単位でインキが塗付されることにより形成される複数のインキドットによって形成される。つまり、模様層6は、インクジェット方式の塗装装置において、デジタルデータに基づき塗装制御を行い、各色のそれぞれに対応するノズルについてインキを吐出するか否かを制御することにより、形成される。
【0014】
模様層6は、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のうちの少なくともいずれか一つからなる。また、模様層6は、少なくともシアン、マゼンタ及びイエローの3色の塗料に加えて、ブラック塗料と、ホワイト塗料とを加えた5色以上で形成される。
また、模様層6としてブラック塗料をも用いることで、シアン、マゼンタ、イエローを用いた色の三原色を利用して黒を表現する場合に比較して黒みが強調された意匠を表現することができる。
【0015】
また、シーラー層3となる硬質エポキシ系樹脂の塗料層及び弾性塗料層4となる軟質エポキシ系樹脂の塗料層を含むエポキシ系樹脂の塗料層と、中塗層5となるアクリル系樹脂の塗料層と、のうちのいずれか一つ又はその両方の色相を無色透明とすること、又は表面形状をセミマット調とすること、又は着色すること、等により得られなくなる「白色」を表現することができるようになり、意匠表現の幅が広がる。
トップコート層7は、耐候性の付与、また、模様層6を形成するインキの保護等の目的で設けられ、例えば、フッ素系樹脂又はシリコン系樹脂又はアクリル系樹脂等で形成される。トップコート層7は、アクリル系樹脂の塗料層(第二アクリル系塗料層)で形成されることが好ましい。模様層6の上に、トップコート層7を積層することによって、模様層6を保護することができ、模様層6の脱落や剥がれ、割れ等の発生を抑制することができる。
【0016】
また、硬質エポキシ系樹脂からなるシーラー層3及び軟質エポキシ系樹脂からなる弾性塗料層4と、アクリル系樹脂層からなる中塗層5と、のうち、いずれか一層以上に、紫外線カット剤が添加されている。紫外線カット剤としては、塩化亜鉛等の金属酸化物や、有機系のテトラヒドロキシベンゾフェノン系の紫外線カット剤を用いることができる。紫外線カット剤は、シーラー層3及び弾性塗料層4か、中塗層5の一方に含まれていてもよい。また、紫外線カット剤は、アクリル系樹脂からなる中塗層5に含まれていることが好ましい。
【0017】
このように、紫外線カット剤を添加することによって、基材2の一方の面に積層された各層の紫外線による劣化を抑制することができる。また、同様に模様層6の紫外線による退色をも抑制することができ、高い意匠性を長期間に亘って保持することができる。
また、硬質エポキシ系樹脂からなるシーラー層3及び軟質エポキシ系樹脂からなる弾性塗料層4と、アクリル系塗料層からなる中塗層5及びアクリル系樹脂層からなるトップコート層7のうちの少なくともいずれか一層に、ラジカル捕捉剤が添加されている。ラジカル捕捉剤としては、ヒンダードアミン系のラジカル捕捉剤を適用することができ、具体的には、BASFジャパン株式会社製のTinuvin292、Tinuvin123、Tinuvin249、Tinuvin171や、株式会社ADEKA製のアデカスタブLA72、アデカスタブLA-81、アデカスタブLA-82などを適用することができる。
【0018】
ラジカル捕捉剤を添加することにより、熱や紫外線により励起されたラジカルを無害化することができる。そのため、樹脂劣化を抑制することができ、高い意匠性を長期間に亘って保持することができる。特に、ヒンダードアミン系のラジカル捕捉剤は、ラジカル捕捉能力が高いため、効果継続が期待できる。ラジカル捕捉剤は、エポキシ系樹脂からなるシーラー層3及び軟質エポキシ系樹脂からなる弾性塗料層4、又は中塗層5の少なくとも一層に配置されていてもよい。
【0019】
また、模様層6を除く各塗料層、つまり、シーラー層3、弾性塗料層4、中塗層5、及びトップコート層7の色相が無色透明、又は表面形状がセミマット調である。
シーラー層3、弾性塗料層4、中塗層5及びトップコート層7の色相を無色透明、又は表面形状をセミマット調とすることにより、基材2の質感を活かした意匠表現が可能となる。基材2はセメント(石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料、せっこう)、砂、砂利などの無機成分のみから構成される為、高分子材料のように、紫外線や熱などによる自然負荷により脱落や割れ等が発生する事はない。
【0020】
ここで、シーラー層3及び弾性塗料層4となるエポキシ系樹脂からなる塗料層と、中塗層5となるアクリル系樹脂からなる塗料層と、の少なくとも一方に、白色の顔料が添加されている。このように、エポキシ系樹脂からなる塗料層と、アクリル系樹脂からなる塗料層と、の少なくとも一方に白色顔料を添加することにより、基材2の質感を反対に消すことができ、意匠の精度をより向上させることができる。つまり、基材2の表面の細かな孔や傷、色むら等を隠蔽する事ができ、繰り返し生産における意匠の再現精度が向上する。白色の顔料を用いた場合、シーラー層3、弾性塗料層4及び中塗層5からなる塗料層11、すなわち白色ベース層の上に、模様層6が形成され、すなわち、白色ベース層(塗料層11)の上に加飾する形になる。そのため、色の再現幅が大きい。
【0021】
また、シーラー層3及び弾性塗料層4となるエポキシ系樹脂からなる塗料層と、中塗層5となるアクリル系樹脂からなる塗料層との少なくとも一方を模様層6に類似した色調に調色してもよい。この場合は、基材2の色が視認できる部分には、模様層6が設けられていないことになる。そのため、模様層6の構成に必要な塗料の使用料を低減することができ、経済的利点が大きい。
【0022】
〔加飾部材の製造方法〕
図1に示す加飾部材1の断面図において、基材2は、砂、砂利、無機鉱物、無機系繊維、有機系繊維等のうちの少なくとも1種類以上の成分と、セメントと、水とを混合し、固化した後に成形して得られる。
基材2の一方の面に、シーラー層3となる硬質エポキシ系樹脂層と、弾性塗料層4となる軟質エポキシ系樹脂層と、中塗層5となるアクリル系樹脂層(第一アクリル系塗料層)と、をこの順に塗装し、各層を塗装する毎に固化させて、これらの積層体を得る。このとき、シーラー層3となる硬質エポキシ系樹脂層と、弾性塗料層4となる軟質エポキシ系樹脂層とについては、これらを塗装し、固化した後の硬質エポキシ系樹脂層及び軟質エポキシ系樹脂層のガラス転移点が100℃未満となるように形成する。
【0023】
また、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、及びホワイトの5つの塗料を用いてインクジェット方式を用いてデジタルデータに基づき中塗層5の上に塗料を塗出し、模様層6を形成する。
次に、模様層6の上に、トップコート層7となるアクリル系樹脂層(第二アクリル系塗料層)を塗装し、固化する。
これにより、セメント系材料を含む基材2の上に、シーラー層3、弾性塗料層4、中塗層5、模様層6、トップコート層7がこの順に積層された加飾部材1が形成される。
【0024】
〔効果〕
本発明の一実施形態に係る加飾部材1は、セメント等の無機質な質感の基材2に対し、デジタルデータに基づいたデジタル塗装によって模様層6を形成して加飾している。そのため、加飾の精度、すなわち、塗布位置、塗布量、色再現性等を向上させることができると共に、再現性を高めることができる。その結果、意匠性が向上する。
また、基材2の一方の面に、シーラー層3及び弾性塗料層4となるエポキシ系樹脂からなる塗料層と、中塗層5となるアクリル系樹脂からなる塗料層とを積層し、硬化させている。そのため、基材2に含まれるセメント成分と、空気中の二酸化炭素とからなる中性化反応によるコンクリートの劣化が抑制されるため、加飾部材の耐久性を向上させることができる。
【0025】
また、模様層6を、インクジェット方式を用いてデジタルデータに基づいたデジタル塗装制御により作製している。そのため、高い精度及び再現性を得ることができる。
また、このようにして形成される加飾部材1を、屋外の壁面加飾に用いれば、意匠性に富み、且つ屋外で使用したとしても十分な耐久性を有する壁装材を実現することができる。
なお、上述した実施形態は、本発明の一例であり、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【実施例
【0026】
〔実施例1〕
重量比で、ポルトランドセメント100に対して、砂を200、砂利を300の割合で配合した後に均一になるように混合し、次に水を78の割合で添加した後によく混合して、生コンクリートを作成した。
次いで、作成した生コンクリートを、奥行30mmの型枠に流し込み、卓上振とう器を、型枠底面部から5分間かけ続けて脱気を行なった。その後、型枠のまま50℃のオーブンで24時間養生した後、型枠を外して基材(基材2)を作製した。
【0027】
作製した基材に対して、透明のポリアミド変性エポキシ樹脂と硬化剤としてのTDI(トリレンジイソシアネート)とを適宜混合したのち、刷毛を使って膜厚50μm狙いで塗装し、40℃のオーブンで24時間加温し、シーラー層3と弾性塗料層4とを兼ねるコート層を設けた。また、上記の未塗装(硬化済)の樹脂に対してDSC(示差走査熱量計)を用いてガラス転移点を測定したところ、110℃であった。
【0028】
次に、水系のアクリルエマルション樹脂を、水分揮発後に膜厚100μmになるように刷毛で塗装し、80℃のオーブンで4時間、40℃のオーブンで20時間の加熱養生をそれぞれ行った。膜厚100μmの水系のアクリルエマルション樹脂は、塗装液の状態では乳白色であったが、塗装乾燥後は透明膜(中塗層5)となった。
さらに、透明膜の上に、フラットベッドタイプのインクジェット機(株式会社トライテック製・ステージジェット)を用い、アクリル系のUV硬化型インキ(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)を用いてレンガ調の模様層(模様層6)を付与した。
さらに、模様層側最表層側に、再度水系のアクリルエマルション樹脂を塗布量100μmで積層し(トップコート層7)、実施例1の加飾部材(加飾部材1)を作製した。
【0029】
〔実施例2〕
実施例1における加飾部材の作製方法において、硬化剤量を削減し、ポリアミド変性エポキシ樹脂のガラス転移点を104℃まで低下させたほかは実施例1と同じ方法を用いて、実施例2の加飾部材を作製した。
〔実施例3〕
実施例1における加飾部材の作製方法において、硬化剤量をさらに削減し、ポリアミド変性エポキシ樹脂のガラス転移点を100℃まで低下させたほかは実施例1と同じ方法を用いて、実施例3の加飾部材を作製した。
【0030】
〔実施例4〕
実施例1における加飾部材の作製方法において、硬化剤量をさらに削減し、ポリアミド変性エポキシ樹脂のガラス転移点を96℃まで低下させたほかは実施例1と同じ方法を用いて、実施例4の加飾部材を作製した。
〔実施例5〕
実施例4における加飾部材の作製方法において、再表層のアクリルエマルション樹脂に、耐候剤としてトリアジン系の水分散型紫外線吸収剤Tinuvin 479-DW(N)(BASFジャパン株式会社製)を、アクリルエマルション100重量部に対して3重量部添加した他は、実施例4と同じ方法を用いて、実施例5の加飾部材を作製した。
【0031】
〔実施例6〕
実施例4における加飾部材の作製方法において、ポリアミド変性エポキシ樹脂の主剤100重量部に対して、耐候剤としてヒンダードアミン系の液状のラジカル捕捉剤Tinuvin 123-DW(N)(BASFジャパン株式会社製)を1.5重量部添加した。また中間層(中塗層5)のアクリルエマルション樹脂、再表層(トップコート層7)のアクリルエマルション樹脂のそれぞれに、アクリルエマルション樹脂100重量部に対して、耐候剤としてトリアジン系の水分散型紫外線吸収剤Tinuvin 479-DW(N)(BASFジャパン株式会社製)3重量部、ヒンダードアミン系の水分散型ラジカル捕捉剤Tinuvin 123-DW(N)(BASFジャパン株式会社製)を5重量部添加した。その他は実施例4と同じ方法を用いて、実施例6の加飾部材を作製した。
【0032】
〔実施例7〕
実施例6における加飾部材の作製方法において、中間層(中塗層5)のアクリルエマルション樹脂中に、白色の顔料を分散させ、他は、実施例6と同じ方法を用いて、実施例7の加飾部材を作製した。白色をベースにレンガの画像を印刷した為、レンガ画像の継ぎ目(実際の継ぎ目ではなく、画像データ上で再現した継ぎ目)の白色がベースエマルションの白色で表現された為、より高意匠の加飾部材を得る事ができた。
(実施例1~6の加飾部材では、画像の継ぎ目部は基材色のグレーで表現されていた)
【0033】
〔実施例8〕
実施例6における加飾部材の作製方法において、中間層(中塗層5)のアクリルエマルション樹脂中に、赤色の顔料を分散させるとともに、インクジェット方式の塗装装置に白色のインキを吐出することのできるヘッドを取り付けた他は、実施例6と同じ方法を用いて、実施例8の加飾部材を作製した。この際、レンガ画像の継ぎ目(実際の継ぎ目ではなく、画像データ上で再現した継ぎ目)の白色の見栄えが良く、意匠感は他の実施例7と遜色ないレベルであった。
【0034】
〔比較例1〕
実施例1における加飾部材の作製方法において、透明のポリアミド変性エポキシ樹脂からなる層(シーラー層3と弾性塗料層4を兼ねる層)を設けない他は実施例1と同じ方法を用いて、比較例1の加飾部材を作製した。
【0035】
〔評価方法〕
作製した実施例1~6及び比較例1の加飾部材に対して、以下の物性評価を行った。
(1)凍結融解試験
(a)作製した加飾部材を、常温の水に18時間浸漬し、(b)-20℃の冷凍庫で3時間冷凍し、(c)60℃のオーブンで3時間加温すること。(a)~(c)を1サイクルとして、5、10、15、20サイクル後に、セロハンテープ剥離試験を実施して、塗膜の剥がれを評価した。
【0036】
(2)耐候促進試験
作製した加飾部材に対して、メタルハライドランプを用いた促進耐候試験機(ダイプラメタルウェザー ダイプラウインテス株式会社製)による試験を実施した。試験条件は以下の4ステップを1サイクルとし、試験機内の条件バラツキに由来する影響を最小限にするために、2サイクル実施毎にサンプルのローテーションを行なった。評価方法としては、6サイクル完了毎に表面のセロハンテープ剥離試験を実施して、塗膜の剥がれを評価した。
1:ブラックパネル温度63℃、層内湿度50%、紫外線照度65mW/cm、20時間
2:純水シャワー、(紫外線未照射)、30秒
3:ブラックパネル温度30℃、層内湿度95%、紫外線未照射、4時間
4:純水シャワー、(紫外線未照射)、30秒
なお、照度は、ウシオ電機製の照度計を用いて測定を行い、72時間毎に過不足量の調整を行った。
〔評価結果〕
実施例1~6、比較例1における加飾部材における凍結融解試験及び耐候促進試験における評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示すように、実施例1~6及び比較例1における加飾部材は、冷凍及び加温を行う前の時点では、セロハンテープによる剥離が生じなかった。また、(1)凍結融解試験を実施した後は、実施例1~6における加飾部材は、冷凍と加温とを20サイクル繰り返した場合でも塗膜の剥離が生じないことが確認された。これに対し、基材2と、中塗層5との間に、透明のポリアミド変性エポキシ樹脂からなる層を設けない比較例1については、冷凍融解試験を行った結果、10サイクルまでは、塗膜の剥離は確認されていないが、冷凍と加温とを15サイクル、さらに20サイクル繰り返した場合には、塗膜の剥離が確認された。
【0039】
また、実施例1~6及び比較例1における加飾部材は、上記4ステップの処理を実行する前の時点では、セロハンテープによる剥離が生じなかった。また、(2)促進耐候試験を実施した後、6サイクル繰り返した時点では、実施例1~6及び比較例1における加飾部材のいずれも塗膜の剥離は確認されなかった。12サイクル繰り返した時点で、実施例1~6における加飾部材は剥離が確認されなかったが、比較例1における加飾部材で塗膜の剥離が確認された。
【0040】
さらに、18サイクル及び24サイクル繰り返した場合に、ポリアミド変性エポキシ樹脂のガラス転移点が100℃以上である実施例1及び実施例2における加飾部材において剥離が生じたが、実施例3~6における加飾部材は剥離が確認されなかった。さらに、30サイクル及び36サイクル繰り返すと、ポリアミド変性エポキシ樹脂のガラス転移点が100℃未満である実施例3及び実施例4においても、加飾部材に塗膜の剥離が確認されたが、最表層のトップコート層7に耐候剤を添加した実施例5及び実施例6では、塗膜の剥離が確認されなかった。さらに、42サイクル繰り返すと、トップコート層7のみに耐候剤を添加した実施例5における加飾部材は剥離が確認されたが、シーラー層3及び弾性塗料層4となるポリアミド変性エポキシ樹脂と、中塗層5となるアクリルエマルション樹脂と、トップコート層7としてのアクリルエマルション樹脂とのそれぞれに耐候剤を添加した実施例7における加飾部材は、剥離が確認されなかった。
【0041】
以上のように、本発明の一実施形態に係る加飾部材1は、セメント系材料からなる基材2と、基材2の一方の面に積層された塗料層と、塗料層の上に形成された模様層6と、を備え、塗料層は、シーラー層3及び弾性塗料層4となるエポキシ系塗料層と、中塗層5となるアクリル系塗料層とを有し、模様層6は、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂のうちの少なくともいずれか一つを含み、デジタルデータに基づき規定される位置に塗布された複数のインキドットにより形成されている。
そのため、高い加飾の精度を得ることができると共に高い再現性を得ることができ、さらに、屋外で使用する場合であっても、長期間に亘って高い意匠性を維持することの可能な加飾部材1を実現することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 加飾部材
2 基材
3 シーラー層
4 弾性塗料層
5 中塗層
6 模様層
7 トップコート層
図1