(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】歯車加工装置
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20240528BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20240528BHJP
B23F 23/12 20060101ALI20240528BHJP
B23Q 15/04 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B23F5/16
B23Q17/22 B
B23F23/12
B23Q15/04
(21)【出願番号】P 2020105739
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高須 俊太朗
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 嘉太郎
(72)【発明者】
【氏名】古畑 鉄朗
(72)【発明者】
【氏名】小椋 一成
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-025333(JP,A)
【文献】特開2018-134690(JP,A)
【文献】特開2019-115948(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146661(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/16
B23Q 17/22
B23F 23/12
B23Q 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用工具と工作物とを同期回転させながら相対的に送り、前記工作物の周面を切削加工することにより前記工作物に複数の歯車を形成する歯車加工装置であって、
前記加工用工具を回転可能に保持する工具保持装置と、
前記工作物を回転可能に保持する工作物保持装置と、
前記工具保持装置及び前記工作物保持装置の一方に設けられて、前記工作物保持装置が
前記工作物を保持した状態で前記工作物に形成された複数の前記歯車の各々の歯の回転位置を検出する工作物検出センサと、
前記加工用工具及び前記工作物の同期回転と、前記工具保持装置及び前記工作物保持装置の相対移動とを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
複数の前記歯車のうち仕上加工された前記歯車を基準歯車とすると共に複数の前記歯車のうち中仕上加工された前記歯車を補正対象歯車とし、
前記工作物検出センサの検出結果に基づいて前記基準歯車の歯位相に対する前記補正対象歯車の歯位相のずれの大きさを表すずれ量を検知する位相ずれ検知部と、
前記位相ずれ検知部によって検知された前記ずれ量に基づいて、前記補正対象歯車を仕上加工する際の歯位相のずれを補正するための補正量を算出する位相補正部と、
を備えた、歯車加工装置。
【請求項2】
前記補正対象歯車は、
算出された前記補正量によって歯位相が補正された状態で仕上加工される、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記位相補正部は、
良品の前記工作物における前記基準歯車及び前記補正対象歯車について予め記憶された基準ずれ量と、前記位相ずれ検知部によって検知された前記ずれ量との差分を前記補正量として算出する、請求項1又は2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記工作物は、
複数の前記歯車の各々の径が異なる段付き歯車である、請求項1-3の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記基準歯車の径は、前記補正対象歯車の径よりも大きい、請求項4に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
前記補正対象歯車は、テーパ歯面及びチャンファ歯面の少なくとも一方を有する特殊歯車である、請求項1-5の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項7】
前記工具保持装置は、複数の前記加工用工具を交換可能に保持し、
前記工作物検出センサは、前記工具保持装置が前記加工用工具を交換した後に、前記基準歯車及び前記補正対象歯車の各々の歯の回転位置を検出する、請求項1-6の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記加工用工具の中心軸線を前記工作物の中心軸線に対して傾斜させた状態で、前記加工用工具及び前記工作物を同期回転させながら前記加工用工具を前記工作物に対して前記工作物の中心軸線の方向に直進させるように、前記工具保持装置及び前記工作物保持装置を制御する、請求項1-7の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3には、複数の歯車を形成する技術が開示されている。又、従来から、例えば、特許文献4には、中仕上加工が施された工作物を仕上加工する際に工作物と加工用工具の位相を合わせる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-89600号公報
【文献】特開2019-111610号公報
【文献】特開2018-138319
【文献】特許第4452431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、工作物に複数の歯車を形成する場合や、複数の加工工程を行う場合、工作物を工作物主軸に対して脱着する場合がある。この場合、工作物を工作物主軸に装着する都度、歯車の位相を測定して補正量を算出し、算出した補正量を用いて再加工を行う必要がある。更に、再加工後には、工作物を取り外して歯車の位相を測定する場合もある。このため、加工工程における工作物の脱着は煩雑であると共に時間が必要であり、又、位相を測定して調整する時間も必要になるため、改善が望まれる。
【0005】
本発明は、工作物の加工工程の簡略化が可能であり、位相の調整時間の短縮が可能な歯車加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
歯車加工装置は、加工用工具と工作物とを同期回転させながら相対的に送り、工作物の周面を切削加工することにより工作物に複数の歯車を形成する歯車加工装置であって、加工用工具を回転可能に保持する工具保持装置と、工作物を回転可能に保持する工作物保持装置と、工具保持装置及び工作物保持装置の一方に設けられて、工作物保持装置が前記工作物を保持した状態で工作物に形成された複数の歯車の各々の歯の回転位置を検出する工作物検出センサと、加工用工具及び工作物の同期回転と、工具保持装置及び工作物保持装置の相対移動とを制御する制御装置とを備え、制御装置は、複数の歯車のうち仕上加工された歯車を基準歯車とすると共に複数の歯車のうち中仕上加工された歯車を補正対象歯車とし、工作物検出センサの検出結果に基づいて基準歯車の歯位相に対する補正対象歯車の歯位相のずれの大きさを表すずれ量を検知する位相ずれ検知部と、位相ずれ検知部によって検知されたずれ量に基づいて、補正対象歯車を仕上加工する際の歯位相のずれを補正するための補正量を算出する位相補正部と、を備える。
【0007】
これによれば、工作物検出センサは、工作物が工作物保持装置に保持された状態で、仕上加工された基準歯車と、中仕上加工まで施された補正対象歯車との各々の歯の回転位置を検出することができる。そして、位相ずれ検知部は、工作物検出センサの検出結果に基づいて基準歯車の歯位相に対する補正対象歯車の歯位相のずれ量を検知することができる。これにより、位相補正部は、位相ずれ検知部によって検知されたずれ量に基づいて、補正対象歯車を仕上加工する際の歯位相のずれを補正するための補正量を算出することができる。
【0008】
即ち、歯車加工装置によれば、補正対象歯車が中仕上加工された後、且つ、仕上加工されるまでに、補正対象歯車の位相のずれ量が検知され、且つ、仕上加工の際の歯位相のずれが補正される。これにより、複数の歯車を形成する際には、位相を測定するために工作物を脱着するような煩雑な作業が必要がなく、その結果、工作物を脱着するための工程を省略できると共に脱着時間が不要となる。従って、位相の調整時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】加工用工具(スカイビングカッタ)の構成を示す一部断面図である。
【
図6】検知されるずれ量を説明するための図である。
【
図7】制御装置により実行される歯車加工処理のフローチャートである。
【
図8】歯車加工処理の中で実行される位相ずれ補正処理のフローチャートである。
【
図9】基準歯車における工作物検出センサの検出位置を説明するための図である。
【
図10】
図9の検出位置にて工作物検出センサによって検出された基準歯車の出力波形を示す図である。
【
図11】補正対象歯車における工作物検出センサの検出位置を説明するための図である。
【
図12】
図11の検出位置にて工作物検出センサによって検出された補正対象歯車の出力波形を示す図である。
【
図13】出力波形に基づいて検知されるずれ量を説明するための図である。
【
図14】第1別例における歯車加工装置の構成を説明するための概略的な図である。
【
図15】工作物であるシンクロナイザースリーブの基準歯車としてのスプラインを説明するための図である。
【
図16】
図15のスプラインに形成された補正対象歯車としてのテーパ歯面を説明するための図である。
【
図17】
図16のテーパ歯面に更に形成された補正対象歯車としてのチャンファ歯面を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.適用可能な歯車加工装置)
歯車加工装置は、加工用工具と工作物とを同期回転させながら、工作物の回転軸の方向に沿って加工用工具を工作物に対して相対移動させる(送り操作する)ことにより、工作物に歯車を切削加工する。本例では、歯車加工装置は、加工用工具としてスカイビングカッタを備え、スカイビングカッタがその中心軸線と工作物の中心軸線に対して傾斜された状態(即ち、それぞれの中心軸線が平行でない状態)で工作物に歯車をスカイビング加工する場合を例示する。
【0011】
この場合、歯車加工装置は、工作物と加工用工具(スカイビングカッタ)との相対的な位置及び姿勢を変化させる駆動軸として、3つの直進軸及び2つの回転軸を有する5軸マシニングセンタの構成を適用する。ここで、本例では、歯車加工装置は、直進軸としての直交3軸(X軸、Y軸、Z軸)、並びに、回転軸としてのB軸及びCw軸を有する。尚、B軸は、例えば、Y軸線回りの回転軸であり、Cw軸は、工作物の中心軸線回りの回転軸である。
【0012】
(2.歯車加工装置1の構成)
図1に示すように、歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、回転主軸40と、工作物主軸50と、制御装置100とを主に備える。ここで、コラム20、サドル30及び回転主軸40が工具保持装置を主に構成する。ベッド10は、ほぼ矩形状に形成されており、水平方向に配置される。ベッド10の上面には、コラム20をZ軸線に平行な方向に駆動するための、Z軸ボールねじ11が配置される。そして、ベッド10には、Z軸ボールねじ11を回転駆動する図示省略のZ軸モータが配置される。
【0013】
コラム20のY軸線に平行な側面(摺動面)20aには、サドル30をY軸線に平行な方向に駆動するためのY軸線ボールねじ21が配置される。そして、コラム20には、Y軸ボールねじ21を回転駆動する図示省略のY軸モータが配置される。
【0014】
本例のサドル30は、回転主軸40を回転可能に支持すると共に、後述するように工作物主軸50に保持された工作物Wの形状、具体的には、創成された歯の回転位置を検出する工作物検出センサ31を一体に支持する。これにより、サドル30が移動する際には、工作物検出センサ31及び回転主軸40は、回転主軸40に対して工作物検出センサ31が相対移動することなく、即ち、サドル30と一体的に移動する。
【0015】
ここで、サドル30は、工作物検出センサ31及び回転主軸40を支持する。このため、サドル30に工作物主軸50に対する熱変位等が生じた場合には、工作物検出センサ31及び回転主軸40はサドル30と共に工作物主軸50に対して熱変位等が生じる。即ち、サドル30における工作物検出センサ31と回転主軸40とは相対移動不能であり、サドル30における工作物検出センサ31と回転主軸40との位置関係は維持される。
【0016】
工作物検出センサ31は、本例においては、非接触式のセンサである。工作物検出センサ31としては、例えば、渦電流センサや電磁ピックアップ、レーザセンサ等を例示することができる。本例の工作物検出センサ31は、渦電流センサを用いるものとし、工作物Wに形成された歯車の形状、具体的には、歯先面及び歯溝面までの距離を検出する。ここで、本例においては、
図1に示すように、工作物検出センサ31をY軸線に平行な方向にて下方に向けて、工具主軸40と干渉しないように設ける。しかし、工作物検出センサ31が工具主軸40と干渉しない場合には、Y軸線に平行な方向にて上方に向けて設けることも可能である。尚、工作物検出センサ31は、接触式のセンサ、例えば、タッチプローブセンサ等であっても良い。
【0017】
工作物検出センサ31は、検出方向がY軸線に平行な方向となるように、サドル30に支持される。そして、工作物検出センサ31は、サドル30と共に、Z軸線に平行な方向及びY軸線に平行な方向に移動する。これにより、工作物検出センサ31は、工作物Wに向けて移動することができ、工作物Wに創成された歯の回転位置、即ち、歯位相を検出する。ここで、歯の回転位置(歯位相)は、歯車の外周面上にて等間隔に歯が形成されている歯部の位置である。
【0018】
ここで、本例における工作物Wは、
図2に示すように、大径部W1及び小径部W2を有し、大径部W1及び小径部W2の各々に平歯が形成される段付き歯車である。このため、工作物検出センサ31は、工作物Wの大径部W1及び小径部W2の各々の位置まで移動し、工作物Wの大径部W1に形成された歯の回転位置を検出すると共に、工作物Wの小径部W2に形成された歯の回転位置(歯位相)を検出する。
【0019】
尚、工作物検出センサ31については、例えば、Z軸線に平行な方向において伸縮する伸縮機構(図示省略)を介して、工作物Wに向けて移動するように構成することも可能である。この場合には、工作物検出センサ31は、サドル30の移動に伴ってY軸線に平行な方向に移動すると共に、伸縮機構によってZ軸線に平行な方向にてサドル30側から工作物W側に向けて移動して、工作物Wの歯位相を検出する。
【0020】
回転主軸40は、Z軸線に平行に配置される。回転主軸40は、サドル30に回転可能に支持され、コラム20(又は、サドル30)内に収容された図示省略の主軸モータにより回転される。回転主軸40は、加工用工具41を支持する。加工用工具41は、工具ホルダ42に保持されて回転主軸40の先端に装着される。そして、加工用工具41は、回転主軸40の回転に伴い、Z軸線に平行で回転主軸40の中心軸線回りの回転軸であるCt軸回りに回転する。
【0021】
加工用工具41及び工具ホルダ42は、コラム20及びサドル30の移動に伴い、ベッド10に対してZ軸線に平行な方向に移動する。又、加工用工具41及び工具ホルダ42は、サドルの移動に伴い、Y軸線に平行な方向に移動する。
【0022】
本例の加工用工具41は、スカイビングカッタであり、工作物W、具体的には、後述する大径部W1及び小径部W2を有する歯車に形成される歯面の形状に基づいて設計される。加工用工具41は、
図3に示すように、工具周面に複数の工具刃41aを備えている。工具刃41aは、本例においてはインボリュート曲線形状と同一形状に形成される。
【0023】
ここで、工具刃41aは、刃先41bのCt軸と直角な平面に対し、角度γだけ傾斜したすくい角が設けられる。又、工具刃41aには、工具側面側にCt軸と平行な直線に対し、角度δだけ傾斜した前逃げ角が設けられる。更に、工具刃41aの刃溝41cは、Ct軸と平行な直線に対し、角度βだけ傾斜したねじれ角を有する。尚、加工用工具41としては、ねじれ角βを有しておらず、Ct軸に平行なストレートの工具刃41aを備えることもできる。
【0024】
又、
図1に示すように、ベッド10の上面には、工作物主軸50をZ軸線に平行な方向に移動するためのZ軸ボールねじ12が配置される。そして、ベッド10には、Z軸ボールねじ12を回転駆動する図示省略のZ軸モータが配置される。工作物主軸50は、図示省略のB軸モータによってB軸回りに旋回可能に設けられると共に、図示省略の工作物主軸モータによりCw軸回りに回転される。ここで、工作物主軸50は、工作物Wを相対回転不能に保持する保持器を有しており、保持器を介して工作物Wを支持する。従って、工作物主軸50は、工作物保持装置を主に構成する。
【0025】
又、歯車加工装置1は、図示を省略する周知の工具交換装置を備える。工具交換装置は、回転主軸40に工具ホルダ42を介して装着された加工用工具41と、工具マガジンに収容された他の加工用工具41との交換を自動的に行う。尚、工具交換装置の構成及び作動については、周知であり、例えば、特開2018-103330号公報等を参照することができるため、その説明を省略する。
【0026】
制御装置100は、CPU、ROM、RAM、各種インターフェースを主要構成部品とするコンピュータ装置であり、各種プログラムを実行することによって歯車加工装置1の作動を統括的に制御する。制御装置100は、
図4に示すように、工具回転制御部101と、工作物回転制御部102と、旋回制御部103と、位置制御部104と、記憶部105と、位相ずれ検知部106と、位相補正部107とを主に備える。
【0027】
工具回転制御部101は、主軸モータ(図示省略)に設けられたエンコーダ(図示省略)によって検出された回転角度を用いて主軸モータの駆動制御を行い、回転主軸40と共に工具ホルダ42及び加工用工具41をCt軸線回りに回転させる。工作物回転制御部102は、工作物主軸モータ(図示省略)に設けられたエンコーダ(図示省略)によって検出された回転角度を用いて工作物主軸モータの駆動制御を行い、工作物主軸50と共に保持器に保持(固定)された工作物WをCt軸線回りに回転させる。旋回制御部103は、B軸モータ(図示省略)の駆動制御を行い、工作物主軸50をB軸回りに旋回させる。
【0028】
位置制御部104は、コラム20即ち工作物検出センサ31及び回転主軸40を支持するサドル30と、工作物主軸50とを相対移動可能に位置制御する。位置制御部104は、Z軸ボールねじ11(Z軸モータ)の駆動制御を行い、コラム20及びコラム20に支持されたサドル30を一体にZ軸線に平行な方向へ移動させる。又、位置制御部104は、Y軸ボールねじ21(Y軸モータ)の駆動制御を行い、サドル30をY軸線に平行な方向へ移動させる。更に、位置制御部104は、X軸ボールねじ12(X軸モータ)の駆動制御を行い、工作物主軸50をX軸線に平行な方向へ移動させる。
【0029】
記憶部105は、歯車加工装置1の作動に用いられる各種情報を記憶する。又、記憶部105は、良品であるマスタの工作物Wの大径部W1及び小径部W2における位相の基準ずれ量DB(以下、「マスタずれ量DB」と称呼する。)を記憶する。マスタずれ量DBは、
図5に示すように、マスタの工作物Wの大径部W1及び小径部W2の各々について、工作物検出センサ31によって検出された出力波形HB1及び出力波形HB2から得られる。
【0030】
ここで、本例における位相のずれ量Dは、
図6に示すように、大径部W1及び小径部W2の各々に創成された歯の間、即ち、歯溝の幅方向(回転方向)における中央位置同士のずれの大きさである。従って、本例においては、マスタずれ量DBは、
図5に示すように、工作物検出センサ31によって検出された出力波形HB1の振幅の正のピーク(即ち、歯溝の中央位置)に対応する位相と、出力波形HB2の振幅の正のピーク(即ち、歯溝の中央位置)に対応する位相との差分とする。記憶部105は、位相ずれ検知部106にマスタずれ量DBを出力する。
【0031】
本例の位相ずれ検知部106は、工作物検出センサ31による検出結果に基づいて、工作物Wを構成する基準歯車である大径部W1と補正対象歯車である小径部W2との間に生じた位相のずれ量Dを検知する。位相ずれ検知部106は、
図6に示すように、大径部W1の歯溝の中間位置を基準とする。そして、位相ずれ検知部106は、基準である大径部W1の歯溝の中間位置と、小径部W2の歯溝の中間位置とのずれの大きさをずれ量Dとして検知する。そして、位相ずれ検知部106は、ずれ量Dが記憶部105に予め記憶されたマスタずれ量DBよりも大きい場合に、大径部W1と小径部W2との間に位相ずれが生じていると検知する。
【0032】
ここで、本例では、後述するように、基準歯車である大径部W1の歯車加工が完了した状態(即ち、大径部W1の仕上加工まで完了した状態)で、補正対象歯車である小径部W2の歯車加工の途中にて位相ずれを検知する場合を例示して説明する。しかし、必要に応じて、小径部W2の歯車加工が完了した状態(即ち、小径部W2の仕上加工まで完了した状態)で、大径部W1の歯車加工の途中にて位相ずれを検知するようにしても良い。即ち、大径部W1及び小径部W2の歯車加工の順序については、限定されない。
【0033】
又、歯車加工装置1においては、加工用工具41を工具ホルダ42に対して脱着して加工を行うことが可能である。この場合、加工用工具41の脱着によって、加工用工具41の工具ホルダ42に対する回転位置が加工用工具41の交換によって生じる場合がある。従って、位相ずれ検知部106が、例えば、加工用工具41の交換に伴って発生する位相ずれを検知することも可能である。
【0034】
位相補正部107は、ずれ量Dがマスタずれ量DB以下となるように、補正量Mを算出する。そして、位相補正部107は、工作物回転制御部102と協働することにより、補正量Mに対応して工作物W即ち工作物主軸50を回転させる。これにより、位相補正部107は、小径部W2の大径部W1に対して生じた位相ずれを補正する。
【0035】
ここで、本例においては、スカイビング加工によって工作物W(歯車)を形成する歯車加工装置1を用いる。一般に、スカイビング加工に用いられる歯車加工装置1においては、工作物主軸50の回転角分解能は、回転主軸40の回転角分解能に比べて優れている。このため、本例においては、位相補正部107は、工作物主軸50を回転させることにより、位相ずれを補正する。但し、位相補正部107が、工作物Wにおいて生じたずれ量Dに対応するように回転主軸40、即ち、加工用工具41を回転させることにより、相対的に工作物Wの位相ずれを補正するようにすることも可能である。
【0036】
(3.歯車加工処理(歯車加工方法))
次に、
図7に示すフローチャートを用いて、制御装置100により実行される歯車加工処理(歯車加工方法)について説明する。歯車加工処理は、大径部W1と小径部W2とを有するブランクである工作物Wに対し、歯車加工によって大径部W1及び小径部W2の各々に歯車を形成する際に実行される。尚、本例の歯車加工処理においては、歯車加工により、大径部W1と小径部W2との各々に平歯を形成する場合を例示する。しかし、歯車加工により、大径部W1と小径部W2との各々にはす歯を形成する場合にも、歯車加工処理を適用することができる。
【0037】
歯車加工処理は、ステップS1において、保持器に保持された工作物Wの大径部W1に対する歯車加工を行い、大径部W1に平歯歯車を形成する。即ち、ステップS1においては、回転主軸40に工具ホルダ42を介して保持された加工用工具41と、工作物主軸50に保持器を介して保持された工作物Wとを同期回転させた状態で、加工用工具41を大径部W1に対してZ軸線に平行な方向に送り操作する。これにより、大径部W1に対して、スカイビング加工による平歯歯車を形成する。ここで、ステップS1においては、大径部W1に形成された平歯歯車は、仕上加工まで行われる。
【0038】
続くステップS2において、歯車加工処理は、大径部W1に平歯歯車が形成された工作物Wを保持器から脱する(取り外す)ことなく、換言すれば、大径部W1における平歯歯車の形成に引き続いて小径部W2に歯車を形成する。即ち、ステップS2においては、回転主軸40に工具ホルダ42を介して保持された加工用工具41と、工作物主軸50に保持器を介して保持されたままの工作物Wとを同期回転させた状態で、加工用工具41を小径部W2に対してZ軸線に平行な方向に送り操作する。これにより、小径部W2対して、スカイビング加工による平歯歯車を形成する。ここで、ステップS2においては、小径部W2に形成された平歯歯車は、中仕上加工まで行われる。尚、小径部W2に平歯歯車を形成する際には、適宜、加工用工具41を交換することも可能である。
【0039】
ステップS3においては、歯車加工処理は、工作物Wの小径部W2に形成されて中仕上加工された平歯歯車について、大径部W1の平歯歯車に対する位相ずれを検知すると共に生じた位相ずれの補正を行う。尚、この位相ずれ補正処理については、後に詳述する。
【0040】
ステップS4においては、歯車加工処理は、小径部W2の平歯歯車に中仕上加工が施された工作物Wを保持器から脱する(取り外す)ことなく、換言すれば、位相ずれが補正された小径部W2の平歯歯車に仕上加工を施す。即ち、ステップS2においては、回転主軸40に工具ホルダ42を介して保持された加工用工具41と、工作物主軸50に保持器を介して保持されたままの工作物Wとを同期回転させた状態で、加工用工具41を小径部W2に対してZ軸線に平行な方向に送り操作する。これにより、小径部W2に形成された平歯歯車は、仕上加工が施される。
【0041】
(3-1.位相ずれ補正処理について)
次に、上述した歯車加工処理における前記ステップS3にて行われる位相ずれ補正処理について説明する。本例における位相ずれ補正処理は、前記ステップS1における大径部W1の仕上加工完了後であって、前記ステップS2における小径部W2の中仕上加工後、且つ、前記ステップS4にて仕上加工を開始するまでの間に行われる。本例における位相ずれ補正処理は、
図8に示すように、ステップS31にて開始される。
【0042】
ステップS31においては、制御装置100の位置制御部104及び位相ずれ検知部106は、協働して、基準歯車である大径部W1の歯位相を検知する。即ち、位置制御部104は、
図9に示すように、工作物検出センサ31を第一検出位置P1に移動させる。第一検出位置P1は、仕上加工が施された工作物Wの大径部W1の歯位相を検出する位置である。位置制御部104は、コラム20をZ軸線に平行方向に移動させると共にサドル30をY軸線に平行な方向に移動させ、且つ、工作物主軸50をX軸線に平行な方向に移動させることにより(
図1を参照)、工作物検出センサ31を第一検出位置P1に配置する。
【0043】
そして、位相ずれ検知部106は、第一検出位置P1に配置された工作物検出センサ31を用い、工作物Wを回転させながら大径部W1の歯位相を検出する。これにより、
図10に示すように、大径部W1の歯及び歯溝に応じて出力される出力波形H1が得られる。制御装置100は、出力波形H1を取得すると、ステップS32のステップ処理を実行する
【0044】
ステップS32においては、制御装置100の位置制御部104及び位相ずれ検知部106は、協働して、補正対象歯車である小径部W2の歯位相を検知する。即ち、位置制御部104は、
図11に示すように、工作物検出センサ31を第一検出位置P1(
図9を参照)から第二検出位置P2に移動させて、工作物Wの小径部W2の歯位相を検出する。第二検出位置P2は、仕上加工前の工作物Wの小径部W2の歯位相を検出する位置である。位置制御部104は、例えば、コラム20を第一検出位置P1からZ軸線に平行な方向に移動させると共にサドル30をY軸線に平行な方向にて小径部W2に接近させることにより、工作物検出センサ31を第二検出位置P2に配置する。
【0045】
そして、位相ずれ検知部106は、第二検出位置P2に配置した工作物検出センサ31を用い、小径部W2の歯位相を検出する。これにより、
図12に示すように、小径部W2の歯先及び歯溝に応じて出力される出力波形H2が得られる。ここで、位相ずれ検知部106は、工作物Wを工作物主軸50から脱することなく、小径部W2の歯位相を検出する。制御装置100は、出力波形H2を取得すると、ステップS33のステップ処理を実行する。
【0046】
ステップS33においては、位相ずれ検知部106は、基準歯車としての大径部W1の出力波形H1と、補正対象歯車である小径部W2の出力波形H2とに基づいて、大径部W1と小径部W2の位相のずれ量Dを算出する。この場合、位相ずれ検知部106は、
図13に示すように、出力波形H1の正のピーク(即ち、歯溝の中央位置)となる位相と出力波形H2の正のピーク(即ち、歯溝の中央位置)となる位相とを比較することにより、位相のずれ量Dを算出する。制御装置100は、ずれ量Dを算出すると、ステップS34のステップ処理を実行する。
【0047】
再び、
図8に戻り、ステップS34においては、位相ずれ検知部106は、算出したずれ量Dと予め記憶しているマスタずれ量DBとを比較し、ずれ量Dがマスタずれ量DBよりも大きいか否かを判定する。即ち、位相ずれ検知部106は、位相のずれ量Dがマスタずれ量DBよりも大きければ、「Yes」と判定し、大径部W1と小径部W2の位相差が許容範囲外であるため、ステップS35のステップ処理を実行する。
【0048】
一方、位相ずれ検知部106は、ずれ量Dがマスタずれ量DB以下であれば、「No」と判定する。この場合は、大径部W1と小径部W2との位相差は許容範囲内であり、小径部W2の大径部W1に対する位相を補正する必要がない。このため、制御装置100は、歯車加工処理に戻り、前記ステップS4にて小径部W2に仕上加工を行う。
【0049】
ステップS35においては、制御装置100の位相補正部107は、前記ステップS34の判定結果に基づいて、小径部W2の大径部W1に対する位相差を補正するための補正量Mを算出する。具体的に、位相補正部107は、ずれ量Dがマスタずれ量DB以下となるように、ずれ量Dとマスタずれ量DBとの差分を補正量Mとして算出する。そして、制御装置100は、補正量Mを算出すると、ステップS36のステップ処理を実行する。
【0050】
ステップS36においては、位相補正部107は、工作物回転制御部102と協働することにより、前記ステップS35にて算出した補正量Mに基づいて、工作物W即ち工作物主軸50を回転させる。これにより、位相補正部107は、小径部W2の大径部W1に対する位相を補正する。ここで、位相補正部107は、補正量Mに基づいて、ずれ量Dが少なくなる方向に工作物主軸50を回転させて補正する。そして、制御装置100は、小径部W2の位相を補正した状態で、
図7に示した歯車加工処理のステップS4にて小径部W2の仕上加工処理を行う。これにより、小径部W2は、大径部W1に対する位相が補正された状態で最終的な仕上加工処理が施されるため、工作物Wの加工精度を向上させることができる。
【0051】
尚、位相を補正する場合、本例においては、回転角分解能の高い工作物主軸50を回転させるようにする。しかし、回転主軸40を回転させて、加工用工具41の位相を補正することも可能である。この場合、位相補正部107は、補正量Mに基づいて、ずれ量Dが少なくなる方向に回転主軸40を回転させて補正する。
【0052】
以上の説明からも理解できるように、歯車加工装置1によれば、工作物検出センサ31は、工作物Wが工作物主軸50に保持された状態で、仕上加工された基準歯車である大径部W1と、中仕上加工まで施された補正対象歯車である小径部W2との各々の歯の回転位置を検出することができる。そして、位相ずれ検知部106は、工作物検出センサ31の検出結果に基づいて大径部W1の歯位相に対する小径部W2の歯位相のずれ量Dを検知することができる。これにより、位相補正部107は、位相ずれ検知部106によって検知されたずれ量Dに基づいて、小径部W2を仕上加工する際の歯位相のずれを補正するための補正量Mを算出することができる。
【0053】
即ち、歯車加工装置1によれば、小径部W2が中仕上加工された後、且つ、仕上加工されるまでに、補正対象歯車の位相のずれ量Dが検知され、且つ、仕上加工の際の歯位相のずれが補正される。これにより、段付き歯車である工作物Wのように、複数の歯車である大径部W1及び小径部W2を形成する際には、位相を測定するために工作物Wを脱着するような煩雑な作業が必要がなく、その結果、工作物Wを脱着するための工程を省略できると共に脱着時間が不要となる。従って、位相の調整時間を短縮することが可能となる。
【0054】
又、補正対象歯車である小径部W2は、補正量Mによって歯位相が補正された状態で仕上加工が施される。これにより、小径部W2を高い精度で形成することができる。更に、補正量Mは、予め記憶された良品(マスタ)の基準ずれ量であるマスタずれ量DBと、工作物検出センサ31によって検出されたずれ量Dとの差分として算出することができる。これにより、簡便且つ正確に補正量Mを算出することができると共に、小径部W2を仕上加工する際の位相を適切に補正することができる。その結果、歯車加工装置1は、小径部W2を高い精度で仕上加工することができる。
【0055】
(第1別例)
上述した本例においては、工作物Wが大径部W1と小径部W2とに平歯を形成する場合を例示した。工作物Wの歯形状については、単純な形状に限られず、例えば、車両のトランスミッションに用いられるシンクロナイザースリーブのように、歯が特殊な形状(特殊歯車)であっても、上述した歯車加工処理及び位相ずれ補正処理を適用することができる。以下、第1別例として、工作物W即ちシンクロナイザースリーブにテーパ歯面及びチャンファ歯面を形成する場合を例示して説明する。
【0056】
ここで、工作物Wとしてのシンクロナイザースリーブの歯車加工について簡単に説明しておく。シンクロナイザースリーブに歯車加工を行う場合、歯車加工装置1は、加工する歯車の形状に応じて、
図14に示すように、複数(例えば、3つ)の加工用工具41A,41B,41Cを交換する。そして、歯車加工装置1は、例えば、加工用工具41Aを用いて、
図15に示すように、スプラインG1を形成する。続いて、歯車加工装置1は、例えば、加工用工具41Aから加工用工具41Bに交換して、
図16に示すように、スプラインG1の一端側の歯側面にテーパ歯面G2を形成する。更に、歯車加工装置1は、例えば、加工用工具41Bから加工用工具41Cに交換して、
図17に示すように、テーパ歯面G2にチャンファ歯面G3を形成する。
【0057】
ところで、テーパ歯面G2及びチャンファ歯面G3は、歯切りの位相が決まっている。このため、テーパ歯面G2及びチャンファ歯面G3を形成する場合には、既に形成されたスプラインG1に対して、加工用工具41B,41Cを適切な加工開始位置、即ち、適切な歯切り位相角度に配置する必要がある。従って、テーパ歯面G2及びチャンファ歯面G3のような特殊歯車を形成する場合にも、上述した歯車加工処理(
図7を参照)及び位相ずれ補正処理(
図8を参照)を適用することができる。
【0058】
第1別例においては、例えば、加工用工具41Aを用いて形成されたスプラインG1が基準歯車になる。従って、
図7に示した歯車加工処理のステップS1において、スプラインG1は、仕上加工処理まで施される。そして、第1別例においては、例えば、加工用工具41Bを用いて形成されたテーパ歯面G2及び加工用工具41Cを用いて形成されたチャンファ歯面G3が補正対象歯車になる。
【0059】
従って、テーパ歯面G2及びチャンファ歯面G3は、それぞれ、
図7に示した歯車加工処理のステップS2にて中仕上加工処理が施された後、ステップS3にて位相ずれ補正処理が行われ、その後、ステップS4にて仕上加工処理が施される。ここで、第1別例における位相ずれ補正処理も、上述した本例の位相ずれ補正処理と同様に行われる。但し、第1別例においては、テーパ歯面G2及びチャンファ歯面G3の各々について、位相ずれ補正処理(
図8を参照)が行われる。
【0060】
具体的に、テーパ歯面G2については、歯車加工処理の前記ステップS2における中仕上加工処理により、
図16に示すように、例えば、テーパ歯面G21が形成されその後テーパ歯面G22が形成された後、前記ステップS3にて位相ずれ補正処理が行われる。そして、位相ずれ補正処理においては、前記ステップS31及び前記ステップS32にて、工作物検出センサ31により、基準歯車であるスプラインG1の出力波形と、中仕上加工処理された補正対象歯車であるテーパ歯面G2の出力波形とが検出される。
【0061】
これにより、位相ずれ検知部106は、前記ステップS33にて位相のずれ量Dを算出する。そして、位相ずれ検知部106は、前記ステップS34において、ずれ量Dと、予め記憶部105に記憶されているマスタのシンクロナイザースリーブ(工作物W)におけるスプラインG1とテーパ歯面G2との位相のずれ量を表すマスタずれ量DBとを比較する。この比較により、ずれ量Dがマスタずれ量DBよりも大きい場合には、位相補正部107は、前記ステップS35にて補正量Mを算出し、前記ステップS36にて補正量Mに基づいて工作物主軸50を回転させることにより、位相のずれを補正する。
【0062】
ここで、テーパ歯面G2の加工においては、テーパ歯面G21及びテーパ歯面G22の加工を開始する加工開始位置位相のずれ、即ち、工作物Wの割出し角度が補正される。そして、歯車加工処理のステップS4にて、テーパ歯面G2即ちテーパ歯面G21及びテーパ歯面G22は、最終的に仕上加工処理が施される。
【0063】
同様に、チャンファ歯面G3については、歯車加工処理の前記ステップS2における中仕上加工処理により、
図17に示すように、例えば、チャンファ歯面G31が形成されその後チャンファ歯面G32が形成された後、前記ステップS3にて位相ずれ補正処理が行われる。そして、位相ずれ補正処理においては、前記ステップS31及び前記ステップS32にて、工作物検出センサ31により、基準歯車であるスプラインG1の出力波形と、中仕上加工処理された補正対象歯車であるチャンファ歯面G3の出力波形とが検出される。
【0064】
これにより、位相ずれ検知部106は、前記ステップS33にて位相のずれ量Dを算出する。そして、位相ずれ検知部106は、前記ステップS34において、ずれ量Dと、予め記憶部105に記憶されているマスタのシンクロナイザースリーブ(工作物W)におけるスプラインG1とチャンファ歯面G3との位相のずれ量を表すマスタずれ量DBとを比較する。この比較により、ずれ量Dがマスタずれ量DBよりも大きい場合には、位相補正部107は、前記ステップS35にて補正量Mを算出し、前記ステップS36にて補正量Mに基づいて工作物主軸50を回転させることにより、位相のずれを補正する。
【0065】
ここで、チャンファ歯面G3の加工においては、チャンファ歯面G31及びチャンファ歯面G32の加工を開始する加工開始位置の位相のずれ即ち、工作物Wの割出し角度が補正される。そして、歯車加工処理のステップS4にて、チャンファ歯面G3即ちチャンファ歯面G31及びチャンファ歯面G32は、最終的に仕上加工処理が施される。
【0066】
以上に説明からも理解できるように、第1別例においても、上述した本例と同様の効果が得られる。又、第1別例においては、中仕上加工から仕上加工において、工作物Wを工作物主軸50から脱する(取り外す)ことない。特に、位相ずれ補正処理においては、工作物検出センサ31により、基準歯車であるスプラインG1の計測と補正対象歯車であるテーパ歯面G2及びチャンファ歯面G3の各々計測とが連続的に行われる。これにより、工作物W(シンクロナイザースリーブ)や工作物検出センサ31を支持するサドル30に生じる熱変位による計測への影響を良好に抑制することができ、その結果、位相ずれを精度よく補正することができる。
【0067】
尚、第1別例において例示したテーパ歯面G2やチャンファ歯面G3のように、工作物Wの軸線に対して左右対称の形状の場合には、工作物検出センサ31を配置する検出位置は特に限定されることはない。即ち、スプラインG1、テーパ歯面G2及びチャンファ歯面G3の各々を含む位置を各々の検出位置として工作物検出センサ31を配置することにより、適切な出力波形が得られる。
【0068】
しかし、特殊歯車においては、歯の形状が工作物Wの軸線に対して左右対称ではない場合がある。例えば、
図16にて例示したテーパ歯面G21の角度とテーパ歯面G22の角度とが異なる、或いは、チャンファ歯面G31の角度とチャンファ歯面G32の角度とが異なる場合がある。このように、工作物Wの軸線に対して左右対称ではない歯の形状を有する特殊歯車の場合には、例えば、マスタの工作物Wを用いてマスタずれ量DBを計測した際の工作物検出センサ31の検出位置に対応するように、工作物検出センサ31を配置すると良い。或いは、マスタの工作物Wのおけるテーパ歯面やチャンファ歯面の角度を用いて、工作物検出センサ31によって検出されて出力された出力波形を補正すると良い。
【0069】
(その他の別例)
上述した本例及び第1別例においては、工作物Wに形成される歯形状が工作物Wの回転軸Cwに平行な平歯である場合を例示した。しかし、スカイビング加工では、工作物Wに回転軸Cwとねじれの位置関係になるはす歯を形成することも可能である。
【0070】
又、上述した本例及び第1別例においては、工作物検出センサ31を工具保持装置であるサドル30に組み付けるようにした。しかし、工作物検出センサ31を工作物保持装置側に設けることも可能である。この場合であっても、工作物検出センサ31は、基準歯車及び補正対象歯車の回転位置即ち歯位相を検出することができる。
【0071】
又、上述した本例及び第1別例においては、歯車加工装置1のコラム20(サドル30)がZ軸線に平行な方向へ移動すると共にY軸線に平行な方向へ移動し、工作物主軸50がX軸線に平行な方向へ移動するようにした。これに代えて、例えば、工作物主軸50をベッド10に対して移動不能に固定し、コラム20(サドル30)がX軸線に平行な方向、Y軸線に平行な方向及びZ軸線に平行な方向へ移動するように構成することも可能である。
【0072】
このように歯車加工装置1を構成した場合であっても、上述した本例及び第1別例と同様に、サドル30即ち工作物検出センサ31と工作物主軸50即ち工作物Wとの相対位置を変更することが可能である。従って、この場合においても、上述した本例及び第1別例と同様の効果が得られる。
【0073】
又、上述した本例及び第1別例においては、工作物検出センサ31が工作物Wのまでの距離を検出するようにした。工作物検出センサ31が検出する物理量としては距離に限定されるものではなく、例えば、工作物検出センサ31が電磁的な物理量の強弱や接触子の直接的な変位を検出しても良い。
【0074】
更に、上述した本例においては、加工用工具41がスカイビングカッタであり、歯車加工装置1は、スカイビング加工による歯車加工を行う場合について説明した。これに対し、加工用工具がホブカッタである場合には、歯車加工装置は、ホブ加工により歯車加工を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1…歯車加工装置、10…ベッド、20…コラム(工具保持装置)、20a…側面(摺動面)、30…サドル(工具保持装置)、31…工作物検出センサ、40…回転主軸(工具保持装置)、41…加工用工具、41a…工具刃、41b…刃先、41c…刃溝、42…工具ホルダ、50…工作物主軸(工作物保持装置)、100…制御装置、101…工具回転制御部、102…工作物回転制御部、103…旋回制御部、104…位置制御部、105…記憶部、106…位相ずれ検知部、107…位相補正部、Cw…回転軸、D…ずれ量、DB…マスタずれ量(基準ずれ量)、G1…スプライン(基準歯車)、G2…テーパ歯面(補正対象歯車)、G3…チャンファ歯面(補正対象歯車)、H1,H2,HB1,HB2…出力波形、M…補正量、P1…第一検出位置、P2…第二検出位置、W…工作物、W1…大径部(基準歯車)、W2…小径部(補正対象歯車)