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  • 特許-グリース組成物および転がり軸受 図1
  • 特許-グリース組成物および転がり軸受 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】グリース組成物および転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/00 20060101AFI20240528BHJP
   F16C 19/00 20060101ALI20240528BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240528BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240528BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240528BHJP
   C10M 129/74 20060101ALN20240528BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20240528BHJP
   C10M 105/36 20060101ALN20240528BHJP
   C10M 125/30 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
C10M169/00
F16C19/00
C10N50:10
C10N40:02
C10N30:00 Z
C10M129/74
C10M135/10
C10M105/36
C10M125/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020120426
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2022024268
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩野 侑里恵
(72)【発明者】
【氏名】津田 武志
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-083956(JP,A)
【文献】特開2019-077765(JP,A)
【文献】特開2006-291011(JP,A)
【文献】特開2004-269789(JP,A)
【文献】国際公開第2009/121494(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M;C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油、増ちょう剤及び導電性添加剤を含むグリース組成物であって、
前記導電性添加剤は、セピオライトとベントナイトとを含む混合物であって、有機変性された添加剤と、ソルビタンラウレートと、トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと、を含み、
前記セピオライトとベントナイトとを含む混合物であって、有機変性された添加剤の含有量は、前記基油及び前記増ちょう剤の合計量に対して5~10質量%であり、
前記ソルビタンラウレートの含有量は、前記基油及び前記増ちょう剤の合計量に対して3~10質量%であり、
前記トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの含有量は、前記基油及び前記増ちょう剤の合計量に対して3~10質量%である、
グリース組成物。
【請求項2】
更に、防錆剤及び酸化防止剤の少なくとも一方を含む、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記基油は、トリメリット酸エステルである、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のグリース組成物が封入された、転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物および当該グリース組成物が封入された転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、EV車やハイブリット車の需要拡大に伴って、モータ用軸受における電食対策が求められている。
例えば、特許文献1では、導電性を有するため帯電や電食が生じにくく、かつ、グリース組成物の漏洩が生じにくい転がり軸受を提供するために、合成炭化水素油と、導電性添加剤としての特定の3種のカーボンブラックとを含有する導電性グリース組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-329364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンブラックを含有するグリース組成物は、黒色であり、転がり軸受から漏洩した場合には、転がり軸受や、その周辺部材を黒く汚染し、見栄えを悪化してしまうことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような状況のもと鋭意検討を行い、特定の導電性添加剤を含有するグリース組成物であれば、適度な粘性を有し、且つ導電性を有すると共に、黒色であることによる周辺部材の汚染を回避することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明のグリース組成物は、基油、増ちょう剤及び導電性添加剤を含むグリース組成物であって、
上記導電性添加剤は、セピオライトとベントナイトとを含む混合物であって、有機変性された添加剤と、ソルビタンラウレートと、トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと、を含み、
上記セピオライトとベントナイトとを含む混合物であって、有機変性された添加剤の含有量は、上記基油及び上記増ちょう剤の合計量に対して5~10質量%であり、
上記ソルビタンラウレートの含有量は、上記基油及び上記増ちょう剤の合計量に対して3~10質量%であり、
上記トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの含有量は、上記基油及び上記増ちょう剤の合計量に対して3~10質量%である。
【0007】
本発明のグリース組成物は、基油及び増ちょう剤に加えて特定の導電性添加剤を含有しており、優れた導電性を有する。そのため、転がり軸受に封入することにより、当該転がり軸受における電食を抑制することができる。
また、上記グリース組成物は、特定の導電性添加剤を基油及び上記増ちょう剤の合計量に対して所定量含有しており、適度な粘性を有する。そのため、転がり軸受に封入することにより、当該転がり軸受からのグリースの漏洩を抑制することができる。
さらに、上記グリース組成物において、上記導電性添加剤は、セピオライトとベントナイトとを含む混合物であって、有機変性された添加剤と、ソルビタンラウレートと、トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含む。上記グリース組成物は、このような特定の導電性添加剤を含むため、単に導電性を付与する(体積抵抗率を低減する)だけではなく、耐熱性にも優れる。
【0008】
上記グリース組成物において、上記基油は、トリメリット酸エステルであることが好ましい。
本発明の転がり軸受は、本発明のグリース組成物が封入された、転がり軸受である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のグリース組成物は優れた導電性を有し、上記グリース組成物が封入された転がり軸受は、グリースの漏洩が抑制され、且つ電食が発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る玉軸受を示す断面図である。
図2】ベースグリースの調製工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施形態に係る転がり軸受は、本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースが封入された玉軸受である。
図1は、本発明の一実施形態に係る玉軸受を示す断面図である。
玉軸受1は、内輪2と、この内輪2の径方向外側に設けられている外輪3と、これら内輪2と外輪3との間に設けられている複数の転動体としての玉4と、これらの玉4を保持している環状の保持器5とを備えている。また、この玉軸受1は、軸方向一方側及び他方側のそれぞれにシール6が設けられている。
さらに、内輪2と外輪3との間の環状の領域7は、本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースGが封入されている。
【0012】
内輪2は、その外周に玉4が転動する内軌道面21が形成されている。
外輪3は、その内周に玉4が転動する外軌道面31が形成されている。
玉4は、内軌道面21と外軌道面31との間に複数介在し、これら内軌道面21及び外軌道面31を転動する。
領域7に封入されたグリースGは、玉4と内輪2の内軌道面21との接触箇所、及び、玉4と外輪3の外軌道面31との接触箇所にも介在する。なお、グリースGは、内輪2と外輪3とシール6とで囲まれた空間から玉4と保持器5を除いた空間の容積に対して、20~40体積%を占めるように封入されている。
シール6は、環状の金属環6aと金属環6aに固定された弾性部材6bとを備えた環状の部材であり、径方向外側部が外輪3に固定され、径方向内側部のリップ先端が内輪2に摺接可能に取付けられている。シール6は、封入されたグリースGが外部へ漏れるのを防止している。
【0013】
このように構成された玉軸受1は、グリースGとして、後述する本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースが封入されている。そのため、グリースGが封入された玉軸受1は、グリースの漏洩及び電食の発生が抑制される。
また、グリースGは、カーボンブラックを含有しておらず、玉軸受1から漏れてしまっても周辺部材を黒色に汚染することはない。
【0014】
次に、グリースGを構成するグリース組成物について詳細に説明する。
グリースGを構成するグリース組成物は、本発明の実施形態に係るグリース組成物であり、基油、増ちょう剤及び導電性添加剤を含有する。
上記導電性添加剤は、3種類の添加剤を含む。即ち、(A)セピオライトとベントナイトとを含む混合物であって、有機変性された鉱物系の添加剤(本明細書では、有機親和性フィロケイ酸塩ともいう)と、(B)ソルビタンラウレートと、(C)トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと、を含む。
導電性添加剤として、これらの成分を含有する上記グリース組成物は、体積抵抗率が低く、優れた導電性を有する。
【0015】
上記基油としては、エステル油が好ましい。
上記エステル油としては、トリメリット酸エステルが好ましく、トリメリット酸トリエステルがより好ましい。グリースの耐熱性を向上させるのに適しているからである。
上記トリメリット酸トリエステルとしては、例えば、トリメリット酸と炭素数6~18のモノアルコールとの反応物が挙げられる。これらの中では、トリメリット酸と、炭素数8及び/又は10のモノアルコールとの反応物が好ましい。
上記トリメリット酸トリエステルの具体例としては、トリメリット酸トリ2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリノルマルアルキル(C8、C10)、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリノルマルオクチル等が挙げられる。
上記トリメリット酸トリエステルは、1種類のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0016】
上記トリメリット酸トリエステルは、40℃における基油動粘度が、37~57mm/sであることが好ましい。この場合、耐熱性を確保しつつ、低トルク化を図るのに適している。
上記基油動粘度は、JIS K 2283に準拠した値である。
【0017】
上記増ちょう剤としては、例えば、ウレア系増ちょう剤が用いられる。
上記増ちょう剤としては、ジウレアが好ましい。
上記ジウレアとしては、下記構造式(1)で表されるジウレアが好ましい。
-NHCONH-R-NHCONH-R・・・(1)
(式中、R及びRは互いに独立して、-C2n+1(nは、6~10の整数)で表される官能基であり、Rは、-(CH-、-C(CH)-、又は、-C-CH-C-である。)
ここで、Rが-C(CH)-の場合、フェニレン基は、メチル基を1位として2,4位又は2,6位で結合していることが好ましい。また、Rが-C-CH-C-の場合、両フェニレン基は、どちらもパラ位で結合していることが好ましい。
としては、-C-CH-C-が好ましい。
【0018】
上記構造式(1)で表されるジウレアは、R及びRが炭素数6~10のアルキル基であり、炭素鎖長が短い脂肪族ジウレアである。このような脂肪族ジウレアを用いたグリース組成物は、導電性が向上しやすい。
【0019】
上記構造式(1)で表されるジウレアは、脂肪族アミンと、ジイソシアネート化合物とが反応して生成した生成物である。
上記脂肪族アミンは炭素数6~10の脂肪族アミンであり、具体例としては、1-アミノヘキサン、1-アミノヘプタン、1-アミノオクタン、1-アミノノナン、1-アミノデカンなどが挙げられる。
これらのなかでは、1-アミノオクタンが好ましい。
上記の脂肪族アミンは、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0020】
上記ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,4-トルエンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トルエンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-TDIと2,6-TDIとの混合物、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などが挙げられる。
【0021】
上記構造式(1)で表されるジウレアを得るために、上記脂肪族アミンと上記ジイソシアネート化合物とは種々の条件下で反応させることができるが、増ちょう剤としての均一分散性が高いジウレア化合物が得られることから、基油中で反応させることが好ましい。
また、上記脂肪族アミンと上記ジイソシアネート化合物との反応は、脂肪族アミンを溶解した基油中に、ジイソシアネート化合物を溶解した基油を添加して行っても良いし、ジイソシアネート化合物を溶解した基油中に、脂肪族アミンを溶解した基油を添加して行っても良い。
【0022】
上記の脂肪族アミンとジイソシアネート化合物との反応における温度及び時間は特に制限されず、通常この種の反応で採用される条件と同様の条件を採用すれば良い。
反応温度は、脂肪族アミン及びジイソシアネート化合物の溶解性、揮発性の点から、150℃~170℃が好ましい。
反応時間は、脂肪族アミンとジイソシアネート化合物との反応を完結させるという点や、製造時間を短縮してグリース組成物の製造を効率良く行うという点から、0.5~2.0時間が好ましい。
【0023】
上記増ちょう剤の含有量は、基油及び増ちょう剤の合計量に対して、15~25質量%が好ましい。
上記増ちょう剤の含有量が10質量%未満では、グリースが基油を保持する能力が低下して、転がり軸受の回転中にグリースから基油が離油する量が多くなる可能性が大きくなる。一方、上記増ちょう剤の含有量が22質量%を超えると、転がり軸受の回転により生じる、内輪、外輪、玉、保持器の相対運動によるグリースのせん断によって生じる撹拌抵抗が大きくなる。そのため、転がり軸受のトルクが大きくなったり、グリースの発熱によるグリースの酸化や基油の蒸発、離油による劣化が促進されたりすることがある。
上記増ちょう剤の特に好ましい含有量は、基油及び増ちょう剤の合計量に対して、18~22質量%である。
【0024】
上記グリース組成物は、導電性添加剤として、(A)セピオライトとベントナイトを含む混合物であって、有機変性された添加剤(有機親和性フィロケイ酸塩)を含む。
セピオライトは鎖状の構造を有する鉱物であり、ベントナイトは層状又は板状の構造を有する鉱物である。
上記有機親和性フィロケイ酸塩は、セピオライトと、ベントナイトとが複雑に絡み合った三次元網目構造が構築されたものである。上記有機親和性フィロケイ酸塩は、上記三次元網目構造によって導電パスが形成されるため、導電性を有する。また、上記有機親和性フィロケイ酸塩は、有機変性されているため基油との親和性にも優れる。
そのため、上記有機親和性フィロケイ酸塩が配合された上記グリース組成物は導電性を有する。
また、上記有機親和性フィロケイ酸塩は、上記グリース組成物のチャンネリング性を向上させ、軸受の低トルク化に寄与することができる。
さらに、上記有機親和性フィロケイ酸塩は、鉱物系の添加剤であり、グリース組成物の耐熱性を確保するための添加剤としても適している。
【0025】
上記有機親和性フィロケイ酸塩は、セピオライトとベントナイトとを含む混合物であって、有機変性されたものである。ここで、セピオライトとベントナイトとは、両方が有機変性されていても良く、いずれか一方のみが有機変性されていても良い。
上記有機親和性フィロケイ酸塩は、セピオライト及びベントナイトの両方が有機変性されていることが好ましい。この場合、上記グリースが封入された軸受の低トルク化の達成により適している。
【0026】
上記セピオライトや上記ベントナイトが有機変性されているとは、例えば、カチオン界面活性剤で処理されていることをいう。
上記カチオン界面活性剤としては、例えば、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、よう化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、臭化ジアルキルジメチルアンモニウム、よう化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルベンザルコニウム等の第4級アンモニウム塩型のカチオン系界面活性剤;モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩等のアルキルアミン塩型のカチオン系界面活性剤などが挙げられる。
これらの中では、第4級アンモニウム塩型のカチオン系界面活性剤が好ましい。
【0027】
上記セピオライトとベントナイトとを含む混合物であって、有機変性されたものとしては、市販品を使用することもできる。
市販品の具体例としては、例えば、GARAMITE(登録商標) 1958(BYK社製)、GARAMITE(登録商標) 2578(BYK社製)、GARAMITE(登録商標) 7303(BYK社製)、GARAMITE(登録商標) 7305(BYK社製)、等が挙げられる。
【0028】
上記導電性添加剤は、(B)ソルビタンラウレートを含む。
ソルビタンラウレートは極性の大きい化合物であり、当該ソルビタンラウレートを含有させると、グリース組成物の体積抵抗率をより低減することができる。
これは、セピオライトと、ベントナイトとが複雑に絡み合って構築された三次元網目構造の隙間にソルビタンラウレートが入り込むためと考えている。
【0029】
上記導電性添加剤は、(C)トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含む。
トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドは、高い導電性を有する、イオン性の四級アンモニウム系の液体である。
当該トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含有させると、グリース組成物の体積抵抗率をより低減することができる。
【0030】
上記有機親和性フィロケイ酸塩の含有量は、上記基油及び上記増ちょう剤の合計量に対して、5~10質量%である。上記有機親和性フィロケイ酸塩の含有量を5質量%以上とすることで、グリース組成物の体積抵抗率が低減される。また、上記有機親和性フィロケイ酸塩の含有量を10質量%以下とすることで、グリース組成物の硬化が抑制される。
【0031】
上記ソルビタンラウレートの含有量は、上記基油及び上記増ちょう剤の合計量に対して、3~10質量%である。上記ソルビタンラウレートの含有量を3質量%以上とすることで、グリース組成物の体積抵抗率が低減される。また、上記ソルビタンラウレートの含有量を10質量%以下とすることで、グリース組成物の硬化が抑制される。
【0032】
上記トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの含有量は、上記基油及び上記増ちょう剤の合計量に対して、3~10質量%である。上記トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの含有量を3質量%以上とすることで、グリース組成物の体積抵抗率が低減される。また、上記トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの含有量を10質量%以下とすることで、グリース組成物の軟化に伴う軸受けからの漏洩が抑制される。
【0033】
上記グリース組成物は、さらに、酸化防止剤を含有していても良い。上記酸化防止剤を配合することで、上記グリース組成物の潤滑寿命を向上させることができる。
上記グリース組成物は、さらに、上記導電性添加剤以外のその他の添加剤を含有していても良い。その他の添加剤としては、例えば、極圧剤、油性剤、防錆剤、耐摩耗剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤等が挙げられる。
上記グリース組成物は、カーボンブラックを含有しないことが好ましい。転がり軸受から漏洩してしまった際に、周辺部材を黒く汚染してしまうことを回避するためである。
【0034】
次に、上記グリース組成物の製造方法について説明する。
上記グリース組成物の製造は、例えば、最初に、基油及び増ちょう剤からなるベースグリースを調製する。その後、得られたベースグリースに上記導電性添加剤及び必要に応じて含有させる任意の添加剤を投入し、自転・公転ミキサー等で撹拌して各成分を混合することによって行うことができる。
【0035】
この実施形態によれば、玉軸受1に封入されたグリースGを構成するグリース組成物として、上述した基油及び増ちょう剤に加えて、上述した特定の導電性添加剤を含有させたものを採用する。このようなグリース組成物を採用することにより、上記グリースGが封入された玉軸受1では、電食の発生を抑制することができる。
また、上記グリース組成物は、軸受用グリースとして要求される耐熱性を有する。
【0036】
本発明は、上記の実施形態に制限されることなく、他の実施形態で実施することもできる。
本発明の実施形態に係る転がり軸受は、本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースが封入された玉軸受に限定されず、上記転がり軸受は、本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースが封入されたものであれば、転動体として玉以外のものが使用された、ころ軸受等、他の転がり軸受であっても良い。
【実施例
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
ここでは、複数のグリース組成物を調製し、各グリース組成物の特性を評価した。各グリース組成物の組成及び評価結果は、表1に示した。
【0038】
(ベースグリースの調製)
ベースグリースとして、基油としてのトリメリット酸トリエステルと、増ちょう剤としてのジウレアとを含有するグリース組成物を下記の工程を経て調製した。
図2は、ベースグリースの調製工程を説明するための図である。
【0039】
(1)トリメリット酸トリエステルの1種であるトリメリット酸トリノルマルアルキル(C8,C10)(花王社製、(商品名)トリメリック N-08)を基油とし、この基油を100℃に加熱しておく。
(2)基油、1-アミノオクタン、及び、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を計量する。
(3)ステンレス容器Aに、半量の基油(100℃)とMDIとを投入し、100℃で30分間撹拌する。
(4)別のステンレス容器Bに、残りの半量の基油(100℃)と1-アミノオクタンとを投入し、100℃で30分間撹拌する。
上記工程(3)及び(4)を一次工程という。
【0040】
(5)ステンレス容器B内のアミン溶液を、ステンレス容器Aに滴下し、イソシアネート溶液に徐々に投入する。このとき、反応熱により液温は20℃程度昇温する。
(6)ステンレス容器B内のアミン溶液が、ステンレス容器A内に全量投入されたことを確認した後、170℃まで昇温する。
(7)加熱しながら撹拌し、30分間、温度を170℃に保持する。本工程(7)を二次工程という。
(8)加熱を止め、撹拌しながら自然放冷し、100℃まで冷却する。
(9)温度が100℃以下になったことを確認した後、撹拌を停止し、そのまま常温になるまで自然放冷する。
(10)三本ロールミルで均質化処理を実施する。このとき、処理条件は、
ロール間すき間:50μm
ロール間圧力:1MPa
回転速度:200r/min
処理温度:25℃
とする。
このような工程(1)~(10)を経て、ベースグリースを調製した。
また、このベースグリースは、比較例1のグリース組成物として後述する評価に供した。このようにして生成したベースグリースの増ちょう剤は、次の構造式を有するジウレアである。
【0041】
【化1】
【0042】
上記ベースグリースを用いて、実施例1、実施例2、及び比較例2~4のグリース組成物を調製した。このとき、下記試薬を使用した。
・有機親和性フィロケイ酸塩:GARAMITE(登録商標) 7303、ビックケミー社製
・ソルビタンラウレート:レオドール(登録商標) SP-L10、花王社製
・トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド: イオン液体型帯電防止剤 FC-4400、3M社製
【0043】
(実施例1)
上記ベースグリース100質量部に、有機親和性フィロケイ酸塩5質量部、ソルビタンラウレート5質量部、及びトリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド5重量部を混合してグリース組成物を調製した。
ここでは、自転・公転ミキサーを使用し、回転数:2000rpm、時間:3分間の条件で有機親和性フィロケイ酸塩、ソルビタンラウレート及びトリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドをベースグリースに混合した。
【0044】
(実施例2)
トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの添加量を10質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてグリース組成物を調製した。
【0045】
(比較例2)
トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加しなかった以外は実施例1と同様にしてグリース組成物を調製した。
【0046】
(比較例3)
トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの添加量を2質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてグリース組成物を調製した。
【0047】
(比較例4)
トリブチルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの添加量を20質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてグリース組成物を調製した。
【0048】
(グリース組成物の評価)
実施例1、実施例2、及び比較例1~4で調製したグリース組成物を評価した。結果を表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示した各評価の評価方法は、下記の通りである。
(1)体積抵抗率の測定
実施例及び比較例で調製したグリース組成物の体積抵抗率は、下記の方法で計測した。
電極として「ADCMT製、液体抵抗試料箱 12707」を、測定装置として「ADCMT製、デジタル超高抵抗/微小電流計 R8340A」を使用し、上記液体抵抗試料箱に試料としてのグリース組成物0.8mlを入れ、このグリース組成物の体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。測定条件は、表2に示す通りである。
【0051】
【表2】
【0052】
表1には、各実施例及び各比較例の体積抵抗率を示した。
体積抵抗率が小さいほど、グリース組成物は導電性に優れ、軸受に封入した際の電食抑制効果に優れると考えられる。
【0053】
表1から明らかなように、実施例1、実施例2及び比較例4のグリース組成物は、比較例1~3のグリース組成物に比べ、体積抵抗率が小さいことが分かる。また、比較例4のグリース組成物は、柔らかすぎるため、軸受に封入した際に漏洩が生ずる恐れがあると判断した。
このことから、実施例1及び実施例2のグリース組成物は、軸受に封入した際の電食抑制効果が高く、また軸受からの漏洩が抑制されることが分かる。
【0054】
実施例及び比較例の結果の通り、本発明の実施形態に係るグリース組成物は、導電性を有するため、上記グリース組成物を封入した転がり軸受における電食の発生を抑制することができる。また、上記グリース組成物は、適度な粘性を有するため、上記グリース組成物を封入した転がり軸受におけるグリース組成物の漏洩を抑制することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:玉軸受、2:内輪、3:外輪、4:玉、5:保持器、6:シール、7:領域、100:回転式レオメータ、G:グリース
図1
図2