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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20240528BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240528BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240528BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240528BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240528BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/485
H01M4/58
H01M4/36 E
H01M4/131
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020140658
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2021044236
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2019163525
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 智也
(72)【発明者】
【氏名】川村 博昭
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-113783(JP,A)
【文献】特開2015-053252(JP,A)
【文献】特開2018-113130(JP,A)
【文献】特開2006-032241(JP,A)
【文献】特開2007-103298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/136
H01M 4/485
H01M 4/58
H01M 4/36
H01M 4/131
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル系リチウム金属酸化物粒子およびリン酸マンガン鉄リチウム粒子を含有するリチウムイオン二次電池用正極であって、
リン酸マンガン鉄リチウム粒子の粒子径に対するスピネル系リチウム金属酸化物粒子の粒子径の比(スピネル系リチウム金属酸化物粒子の粒子径/リン酸マンガン鉄リチウム粒子の粒子径)が2.0以上10.0以下であり、
リン酸マンガン鉄リチウム粒子の含有量に対するスピネル系リチウム金属酸化物粒子の含有量の重量比(スピネル系リチウム金属酸化物粒子の含有量/リン酸マンガン鉄リチウム粒子の含有量)が1.0以上4.0以下である、リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
前記リン酸マンガン鉄リチウム粒子の体積抵抗率が10Ω・cm以上10Ω・cm以下である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
前記リン酸マンガン鉄リチウム粒子に含まれるマンガンと鉄の合計含有量に対するマンガンの含有量のモル比(マンガンの含有量/マンガンと鉄の合計含有量)が0.6以上0.9以下である、請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
前記リン酸マンガン鉄リチウム粒子が表面に炭素層を有し、リン酸マンガン鉄リチウム粒子中における炭素層の重量割合が1%以上6%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極を用いてなるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有し、出力特性に優れる反面、不具合が生じると貯蔵されているエネルギーが短時間に放出され、電池が発火・炎上する危険性がある。そのためリチウムイオン二次電池にとっては、出力特性の向上とともに、安全性の向上が重要な課題である。
【0003】
リチウムイオン二次電池の安全性を大きく左右するのが正極活物質であることはよく知られている。電気自動車向け等の大型電池で用いられることが多いスピネル系マンガン酸リチウム正極活物質は、比較的安価であり、出力特性に優れた正極活物質であるが、高温条件下においてマンガンが溶出することや、過充電による酸素の放出を伴う結晶構造の変化に起因して劣化が促進され、過充電の程度によっては発煙・発火に至る危険性があるなど、安全性に課題がある。
【0004】
一方で、定置用電池などに用いられることが多いリン酸鉄リチウムなどのオリビン系正極活物質は、酸素がリンと共有結合しているために容易には酸素を放出せず、高温条件下においても比較的安定である安全性の高い正極材料であることが知られている。
【0005】
そこで、これらの正極活物質を組み合わせ、高い出力特性と安全性を両立することが検討されている。例えば、正極集電体および前記正極集電体上に形成されてなる正極活物質を含む正極と、負極集電体および前記負極集電体上に形成されてなる負極活物質を含む負極と、を含むリチウムイオン二次電池用電極であって、前記負極活物質は、黒鉛であり、前記正極活物質は、複合マンガン酸リチウムおよびオリビン型複合燐酸鉄リチウムであり、前記複合マンガン酸リチウムの含有量が、前記オリビン型複合燐酸鉄リチウムと前記複合マンガン酸リチウムの総量に対して30質量%以下である、リチウムイオン二次電池用電極(例えば、特許文献1参照)、オリビン型構造のリチウム含有リン酸化合物と、スピネル型構造のマンガン酸リチウムとを含む、正極活物質(例えば、特許文献2参照)、リチウムイオンの挿入脱離が可能であるとともに、前記リチウムイオンの輸送を媒介する電解液に浸漬される正極及び負極を有する二次電池であって、前記正極は、第1の正極材料と第2の正極材料とを含み、前記第1の正極材料は、リチウムマンガン酸化物(LiMn2-X,M=Li、Fe、Co、Ni、Al、Mg)であり、前記第2の正極材料は、LiMn1-XPO(M=Fe、Co、Ni,0≦X≦1)である二次電池(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-93924号公報
【文献】国際公開第2012/090804号
【文献】特開2005-123024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガンリチウムなどのオリビン系正極活物質は、スピネル系正極活物質と比べて過充電に対する耐性が強いことが知られている。特許文献1~3に記載されるように、電気抵抗が大きいオリビン系正極活物質をスピネル系正極活物質と混合することにより、リチウムイオン二次電池に対して通常よりも著しく大きな外部電圧がかかった状態、すなわち過充電状態において、スピネル系正極活物質に流れる電流を軽減することができる。これは、リチウムイオン二次電池の正負極間の過充電時にかかる電圧V過充電にオームの法則(I=V/R)をそのまま当てはめると、過充電時に流れる電流の大きさが内部抵抗に反比例することから説明される。しかしながら、特許文献1~2に開示された電極は、出力特性が不十分である課題があり、特許文献3に開示された電極は、過充電耐性が不十分である課題があった。
【0008】
かかる課題に鑑み、本発明の目的は、出力特性が高く、過充電耐性に優れたリチウムイオン二次電池用正極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、主として以下の構成を有する。
スピネル系リチウム金属酸化物粒子およびリン酸マンガン鉄リチウム粒子を含有するリチウムイオン二次電池用正極であって、
リン酸マンガン鉄リチウム粒子の粒子径に対するスピネル系リチウム金属酸化物粒子の粒子径の比(スピネル系リチウム金属酸化物粒子の粒子径/リン酸マンガン鉄リチウム粒子の粒子径)が2.0以上10.0以下であり、
リン酸マンガン鉄リチウム粒子の含有量に対するスピネル系リチウム金属酸化物粒子の含有量の重量比(スピネル系リチウム金属酸化物粒子の含有量/リン酸マンガン鉄リチウム粒子の含有量)が1.0以上4.0以下である、リチウムイオン二次電池用正極。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極を用いることにより、出力特性が高く、さらに過充電耐性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極(以下、単に「正極」という場合がある)は、LiMnで表されるスピネル系リチウム金属酸化物粒子およびLiαMnFePO(0.9≦α≦1.1、0<a≦1、0<b≦1、0.9≦a+b≦1.1)で表されるリン酸マンガン鉄リチウム粒子を含有する。前述のとおり、スピネル系リチウム金属酸化物(以下、LMOと略す場合がある)粒子は出力特性に優れ、リン酸マンガン鉄リチウム(以下、LMFPと略す場合がある)粒子は過充電耐性に優れる。スピネル系リチウム金属酸化物粒子およびリン酸マンガン鉄リチウム粒子は、その製造条件によりそれぞれ粒子径を変化させることができるが、本発明者らの検討により、リン酸マンガン鉄リチウム粒子の粒子径に対するスピネル系リチウム金属酸化物粒子の粒子径の比(スピネル系リチウム金属酸化物粒子の粒子径/リン酸マンガン鉄リチウム粒子の粒子径)が2.0以上10.0以下であり、リン酸マンガン鉄リチウム粒子の含有量に対するスピネル系リチウム金属酸化物粒子の含有量の重量比(スピネル系リチウム金属酸化物粒子の含有量/リン酸マンガン鉄リチウム粒子の含有量)が1.0以上4.0以下である場合において、出力特性と過充電耐性が両立できることを見出した。
【0012】
なお、本発明の正極は、LMO粒子、LMFP粒子とともに、その他の活物質粒子を含有してもよい。
【0013】
本明細書におけるLMFPとは、LiαMnFePOにおいて、0.9≦α≦1.1、0<a≦1、0<b≦1、0.9≦a+b≦1.1を満たす化合物を指す。ただし、ドーピング元素として、上記以外の元素が0.1重量%以上10重量%以下の範囲で添加されている場合にも、本発明におけるLMFPに含めるものとする。
【0014】
LMFPにおいて、マンガン比率aが大きく、鉄比率bが小さいほど、理論的にはエネルギー密度は高まる一方、電子伝導性とイオン伝導性が低下する。本発明において、aの値は、LMFP粒子の体積抵抗率をより大きくして過充電耐性をより向上させる観点から、0.6以上が好ましく、0.75以上がより好ましい。一方、aの値は、サイクル耐性を向上する観点から、0.9以下が好ましく、0.85以下がより好ましい。
【0015】
ここで、LMFPの組成は、リチウムについては原子吸光分析、マンガン、鉄、リンについてはICP発光分析法により特定することができる。前記式α、a、bについては小数点以下第3位まで測定し、四捨五入にて小数点以下第2位までを採用する。ただし、小数点以下第2位が0の場合は小数点以下第1位まで表記する。また、LMFP製造時の原料仕込み比が既知である場合は、その仕込み比から組成を求めることができる。
【0016】
LMFP粒子は、表面に炭素層を有することが好ましく、表面全体にわたって均一に炭素層を有することがより好ましい。炭素層を有することにより、LMFP粒子を全体にわたって均一に電子伝導性を向上させることができる。LMFP粒子中における炭素層の含有量は、電子伝導性をより向上させて出力特性をより向上させる観点から、1重量%以上が好ましい。一方、LMFP粒子中における炭素層の含有量は、炭素層とLMFPとの副反応を抑制して出力特性をより向上させる観点から、6重量%以下が好ましい。
【0017】
ここで、LMFP粒子の炭素層の含有量は、例えば、炭素・硫黄同時定量分析装置EMIA-920V(株式会社堀場製作所製)を用いて測定することができる。
【0018】
LMFP粒子の粒子径は、後述する正極の製造方法におけるペーストの取り扱い性の観点から、3μm以上が好ましい。一方、LMFP粒子の粒子径は、後述する合剤層の厚みとの関係から、40μm以下が好ましい。LMFP粒子の粒子径とは、正極中に存在する粒子が造粒体である場合は2次粒子の、造粒体ではない場合は1次粒子の粒径の算術平均値を指す。
【0019】
本発明におけるLMFP粒子の体積抵抗率ρ(Ω・cm)は、10≦ρ≦10が好ましい。正極の安全性を向上させるためには、正極の抵抗を低減させることにより短絡時など異常時の電流から発生するジュール熱を抑える方法と、正極の抵抗を高くすることにより異常時の電流値そのものを低減する方法がある。LMO粒子の過充電耐性を向上させるためには後者の方が有効であり、LMFP粒子の抵抗が高いことが好ましい。そのため、本発明におけるLMFP粒子の体積抵抗率は10(Ω・cm)以上が好ましく、10(Ω・cm)以上がより好ましい。一方、LMFP粒子の体積抵抗率が10(Ω・cm)以下であると、LMFP粒子の出力特性をより高く維持することができる。ここで、LMFPの体積抵抗率は、正極中のLMFP粒子について、例えば、粉体抵抗測定システムMCP-PD51(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用いて、25MPa条件下において測定することができる。正極からLMFP粒子を取り出す方法としては、例えば、正極の集電体から合剤層を剥離した後、N-メチルピロリジノン等の有機溶剤によりバインダーを、希塩酸によりLMO粒子をそれぞれ溶解させ、残ったLFMP粒子を乾燥する方法などが挙げられる。さらにカーボンブラックなどの導電助剤を含有する場合には、バインダーおよびLMO粒子を溶解させて残った固体から、遠心分離により比重の小さいカーボンブラックを除去し、得られたLFMP粒子を乾燥する方法などが挙げられる。また、正極製造時の原料としてのLMFP粒子について、同様に体積抵抗率を測定してもよい。
【0020】
なお、LMFPの体積抵抗率は、マンガンと鉄の比率や、1次粒子径や、例えば炭素層を有するLMFPの場合、炭素層含有量や焼成温度などの炭素被覆条件によって、所望の範囲に調整することができる。
【0021】
本明細書におけるLMOとは、LiMnで表される化合物を指す。ただし、ドーピング元素として、上記以外の元素が0.1重量%以上10重量%以下の範囲で添加されている場合にも、本発明におけるLMOにそれぞれ含めるものとする。
【0022】
ここで、LMOの組成は、リチウムについては原子吸光分析、マンガンについてはICP発光分析法により特定することができる。
【0023】
LMO粒子の粒子径は、後述する正極の製造方法におけるペーストの取り扱い性の観点から、3μm以上が好ましい。一方、LMO粒子の粒子径は、後述する合剤層の厚みとの関係から、40μm以下が好ましい。LMO粒子の粒子径とは、正極中に存在する粒子が造粒体である場合は2次粒子の、造粒体ではない場合は1次粒子の粒径の算術平均値を指す。
【0024】
本発明においては、LMFP粒子の粒子径に対するLMO粒子の粒子径の比(LMO粒子の粒子径/LMFP粒子の粒子径)が2.0以上10.0以下である。前述のとおり、LMO粒子は出力特性に優れる一方で過充電耐性が低く、LMFP粒子は過充電耐性に優れる一方で出力特性が低いが、本発明においては、LMO粒子間の空隙に電気抵抗の大きいLMFP粒子を充填することにより、過充電状態においてLMO粒子に流れる電流を抑制し、過充電耐性を向上させることができる。前記粒子径の比が2.0よりも小さいと、正極内においてLMO粒子間の空隙にLMFP粒子が十分に充填されず、LMO粒子同士の接触により過充電耐性が劣化する。一方、前記粒子径の比が10.0よりも大きい場合、LMFP粒子の粒子径が小さいためにLMFPの比表面積が大きくなり、過充電状態においてで電解液とLMFP粒子との間で不可逆的な化学反応が促進され、過充電耐性およびサイクル耐性が低下する。
【0025】
ここで、LMFP粒子およびLMO粒子の粒子径とは、正極中に存在する各粒子、すなわち、造粒体である場合は2次粒子の、造粒体ではない場合は1次粒子の、粒径の算術平均値を指し、走査型電子顕微鏡を用いて測定することができる。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて、正極を倍率3,000倍にて拡大観察し、無作為に選択した粒子について粒径を測定する。このとき、粒子が球形でない場合は、2次元像において測定できる長軸と短軸の平均値をその粒径とする。また、その粒子について、エネルギー分散型X線分光法を用いて組成分析を行い、LMFP粒子とLMO粒子に分類する。同様の操作を繰り返してLMFP粒子およびLMO粒子の各100個の粒径を測定し、それぞれの数平均値を算出することにより、各粒子の粒子径を求めることができる。また、正極製造時の原料としてのLMFP粒子およびLMO粒子について、走査型電子顕微鏡を用いて同様に粒子径を測定してもよい。
【0026】
LMFP粒子およびLMO粒子の粒子径は、例えば、後述するLMFP粒子およびLMO粒子の製造方法において、スプレードライヤーを用い、原料となるLMFP水分散液およびLMO水分散液の重量濃度を変化させることにより、所望の範囲に容易に調整することができる。
【0027】
本発明においては、LMFP粒子の含有量に対するLMO粒子の含有量の重量比(LMO粒子の含有量/LMFP粒子の含有量)が1.0以上4.0以下である。前述のとおり、LMO粒子は出力特性に優れる一方で過充電耐性が低く、LMFP粒子は過充電耐性に優れる一方で出力特性が低いため、前記重量比が1.0よりも小さい場合、LMO粒子が相対的に少なくなり、出力特性が低下する。一方、前記重量比が4.0を超えると、過充電耐性が低下する。
【0028】
ここで、正極内におけるLMFP粒子およびLMO粒子の含有量比は、リチウムイオン電池の正極を集電体から剥離した後、LMFP粒子およびLMO粒子について粉末X線回折測定を行い、得られた結果にリートベルト解析を施すことにより求めることができる。また、正極製造時の原料としてのLMFP粒子およびLMO粒子の仕込み比が既知である場合は、その仕込み比から含有量比を求めることができる。
【0029】
本発明の正極が、LMO粒子、LMFP粒子とともに、その他の活物質粒子を含有する場合、LMFP粒子とLMO粒子による効果をより向上させる観点から、その他の活物質粒子の含有量は、全活物質粒子(LMO粒子、LMFP粒子、その他の活物質粒子の合計)中、30重量%以下が好ましい。
【0030】
ここで、正極内におけるその他の活物質粒子の含有量は、LMFP粒子やLMO粒子の含有量と同様に求めることができる。
【0031】
本発明の正極は、アルミ箔などの集電体上に、LMFP粒子およびLMO粒子とともに、バインダーや導電助剤などの添加剤を含有する合剤層を有することが好ましい。
【0032】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニルデン、スチレンブタジエンゴムなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0033】
正極合剤層中におけるバインダーの含有量は、0.3重量%以上10重量%以下が好ましい。バインダーの含有量を0.3重量%以上とすることにより、バインダーの結着効果により、塗膜を形成した場合に塗膜形状を容易に維持することができる。一方、バインダーの含有量を10重量%以下とすることにより、正極内の抵抗の増加を抑制することができる。
【0034】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0035】
合剤層中における導電助剤の含有量は、0.3重量%以上10重量%以下が好ましい。導電助剤の含有量を0.3重量%以上とすることにより、正極の導電性を向上させ、電子抵抗を低減することができる。一方、導電助剤の含有量を10重量%以下とすることにより、導電助剤によるリチウムイオンの移動の阻害を抑制し、イオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0036】
リチウムイオン二次電池を高エネルギー密度化するためには、正極合剤層中にできるだけ高い割合で正極活物質が含まれていることが好ましく、正極合剤層中の活物質粒子の合計含有量は、80重量%以上が好ましく、85重量%以上がより好ましい。ここで、活物質粒子の合計含有量とは、LMO粒子、LMFP粒子および必要に応じてその他の活物質粒子の含有量の合計を指す。
【0037】
正極合剤層の厚みは、10μm以上200μm以下が好ましい。合剤層の厚みを10μm以上とすることにより、正極に占める集電体の割合を抑え、エネルギー密度をより向上させることができる。一方、合剤層の厚みを200μm以下とすることにより、充放電反応を合剤層全体に速やかに進行させ、高速充放電特性を向上させることができる。
【0038】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記の正極に加え、負極、セパレータ、電解液を有することが好ましい。電池の形状としては、例えば、角型、巻回型、ラミネート型などが挙げられ、使用する目的に応じて適宜選択することができる。負極を構成する材料としては、例えば、黒鉛、チタン酸リチウム、シリコン酸化物などが挙げられる。セパレータ、電解液についても、任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0039】
次に、本発明の正極の製造方法について説明する。
【0040】
まず、本発明におけるLMO粒子は、公知の方法に従って固相法あるいは液相法により得ることができるし、市販のマンガン酸リチウム粉末を用いることもできる。本発明におけるLMFP粒子は、固相法、液相法などの任意の手法によって得ることができるが、マンガンと鉄の割合を本発明の範囲内とし、平均粒径が前述の好ましい範囲にある粒子をより簡便に得られる点において、液相法が好適である。液相には、水の他、粒径をナノ粒子まで微細化するために有機溶媒を用いることも好適であり、その溶媒種としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2-プロパノール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールなどのアルコール系溶媒や、ジメチルスルホキシドを用いることが好ましい。合成の過程において、粒子の結晶性を高めるために加圧してもかまわない。また、LMFP粒子に含まれるマンガンと鉄の比率は、原料の仕込み比により所望の範囲に調整することができる。
【0041】
液相法によりLMFP粒子を得る場合、平均1次粒径は、例えば、溶媒中の水と有機溶媒の混合比、合成溶液の濃度、合成温度などの条件により、所望の範囲に調整することができる。典型的には、平均粒径を大きくするためには、溶媒中の水の割合を増やすこと、合成溶液の濃度を高めること、合成温度を高めることなどが有効である。
【0042】
液相法により得られたLMFP粒子に炭素層を形成するカーボンコート方法としては、LMFP粒子と糖類を混合した後に、不活性ガス雰囲気下において焼成する方法が好ましく用いられる。糖類としては、焼成後の灰分が少ない点から、グルコースやスクロースが好ましい。焼成温度は、500℃以上800℃以下が好ましい。
【0043】
本発明におけるLMFP粒子およびLMO粒子の製造方法としては、得られる2次粒子の粒度分布をできるだけ狭くするために、スプレードライヤーを用いることが好ましい。
【0044】
本発明の正極は、例えば、前述のLMFP粒子およびLMO粒子を分散媒に分散させたペーストを、集電体上に塗布し、乾燥し、加圧して合剤層を形成することにより得ることができる。ペーストの製造方法としては、前述のLMFP粒子およびLMO粒子、さらに必要に応じて導電助剤などの添加剤、バインダー、N-メチルピロリジノンなどの分散媒を混合して固練りし、水やN-メチルピロリジノンなどの分散媒を添加して粘度を調整することが好ましい。ペーストの固形分濃度は、塗布方法に応じて適宜選択することができる。塗布膜厚を均一にする観点から、30重量%以上80重量%以下が好ましい。ペーストの各材料は、一度に混合してもよいし、各材料をペースト中に均一に分散させるために、固練りを繰り返しながら、順番をつけて添加して混合してもよい。スラリーの混練装置としては、均一に混練できる点で、プラネタリーミキサーや薄膜旋回型高速ミキサーが好ましい。
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、露点が-50℃以下のドライ環境下にて、上記正極を、セパレータを介して負極電極と積層させ、電解液を添加することにより得ることができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。まず、実施例における評価方法について説明する。
【0047】
[測定A]粒子径
各実施例および比較例に用いたLMFP粒子およびLMO粒子を、走査型電子顕微鏡S-5500(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、倍率3,000倍にて拡大観察し、無作為に選択した100個の2次粒子についてそれぞれ粒径を測定し、数平均値を算出することにより、粒子径を算出した。ただし、粒子が球形でない場合は、2次元像において測定できる長軸と短軸の平均値をその粒径とした。
【0048】
[測定B]正極の出力特性
各実施例および比較例において作製した電極板を直径15.9mmに切り出して正極とし、直径16.1mm、厚さ0.2mmに切り出したリチウム箔を負極とし、セパレータとして“セティーラ”(登録商標)、電解液としてLiPFを1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)を用いて、2032型コイン電池を作製した。
【0049】
作製した2032型コイン電池について、カットオフ電圧を2.5V、最大充電電圧を4.3Vとし、充放電を0.1Cレートとして2回、続けて充放電を5Cレートとして2回行った。それぞれの充放電レートについて、2回目の放電からエネルギー密度(Wh/kg)を測定し、5Cレートと0.1Cレートにおけるエネルギー密度の比を計算し、出力特性とした。エネルギー密度の比が1に近いほど、出力特性に優れる。
【0050】
[測定C]正極の過充電耐性
各実施例および比較例において作製した電極板と、負極電極として市販のカーボン系負極(負極活物質:日立化成株式会社製 人造黒鉛MAG)、セパレータとして“セティーラ”(登録商標)、電解液としてLiPFを1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)を用いて、1Ahセルの積層ラミネートセルを作製した。積層数は正極(サイズ:70mm×40mm)を7層、負極(サイズ:74mm×44mm)を8層とし、対向する正極と負極の容量比率(NP比)は1.05とした。
【0051】
作製したラミネートセルを、25℃環境の下、1Cレートで、定格容量の250%(2.5Ah)に到達するか、充電電圧が10Vに到達するまで充電し続け(過充電)、セルの最大温度を測定した。最大温度が低いほど、過充電耐性に優れる。
【0052】
[測定D]正極のサイクル耐性
測定Cと同様に作製したラミネート型セルを、25℃環境下、0.1Cレートで3回充放電させた後、55℃の環境下、1Cレートでの充放電を繰り返すサイクル試験を実施した。55℃の環境下における1回目の放電試験でのエネルギー密度を100%とし、エネルギー密度が80%を下回るまでのサイクル回数を測定し、サイクル耐性として評価した。サイクル回数が大きいほど、サイクル耐性に優れる。
【0053】
[実施例1]
(工程1:LMO粒子の作製)
純水150gに硝酸リチウム50ミリモルと硝酸マンガン(II)六水和物100ミリモルを溶解し、LMO前駆体溶液を調製した。このLMO前駆体溶液を超音波噴霧化装置(オムロン社製超音波ネブライザーNE-U12)に導入して噴霧化した後、800℃に加熱した電気炉内に導入して乾燥および熱分解を施し、2次粒子であるLMO粒子を得た。
【0054】
(工程2:LMFP粒子の作製)
純水150gにジメチルスルホキシド200gを加え、水酸化リチウム1水和物を360ミリモル添加した。得られた溶液に、85重量%リン酸水溶液を用いてリン酸を120ミリモルさらに添加し、さらに硫酸マンガン(II)1水和物を96ミリモル、硫酸鉄(II)7水和物を24ミリモル添加した。得られた溶液をオートクレーブに移し、容器内が150℃を維持するように4時間加熱保持した。加熱後に溶液の上澄みを捨て、沈殿物としてリン酸マンガン鉄リチウムLiMn0.8Fe0.2POを得た。得られたリン酸マンガン鉄リチウムを純水にて洗浄した後に、遠心分離により上澄みを除去する操作を5回繰り返し、最後に再度純水を加えて分散液とした。続いて分散液中のリン酸マンガン鉄リチウムの15重量%と同重量のグルコースを分散液に添加して溶解させた後、純水を加えて分散液の固形分濃度を20重量%に調整し、LMFP分散液を得た。
【0055】
得られたLMFP分散液をスプレードライヤー(藤崎電機株式会社製 MDL-050B)を用いて200℃の熱風により乾燥し、2次粒子を得た。得られた2次粒子を、ロータリーキルン(高砂工業株式会社製 デスクトップロータリーキルン)を用いて窒素雰囲気下700℃で4時間加熱し、カーボンコートされたLMFP粒子を得た。
【0056】
(工程3:電極板の作製)
アセチレンブラック(デンカ株式会社製 Li-400)とバインダー(株式会社クレハKFポリマー L#9305)を混合した後、上記方法により得られたLMO粒子とLMFP粒子を重量比2:1の割合で添加して乳鉢で固練りを実施した。その際、含まれる各材料の重量比は造粒体(LMO粒子とカーボンコートされたLMFP粒子の合計):アセチレンブラック:バインダーが90:5:5となるようにした。その後、N-メチルピロリジノンを添加して固形分が48重量%となるように調整し、スラリー状の電極ペーストを得た。得られたペーストに流動性がでるまでN-メチルピロリジノンを追加し、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス株式会社製“フィルミックス”(登録商標)40-L型)を用いて、40m/秒の撹拌条件で30秒間処理した。
【0057】
得られた電極ペーストを、ドクターブレード(300μm)を用いてアルミニウム箔(厚さ18μm)に塗布し、80℃30分間乾燥した後、プレスを施し電極板を作製した。
【0058】
[実施例2]
工程3におけるLMO粒子とLMFP粒子の重量比を3:1としたこと以外は実施例1と同様にして、電極板を作製した。
【0059】
[実施例3]
工程2におけるLMFP分散液の固形分濃度を40重量%としたこと以外は実施例1と同様にして、電極板を作製した。
【0060】
[実施例4]
工程2における硫酸マンガン(II)1水和物の添加量を84ミリモル、硫酸鉄(II)7水和物の添加量を36ミリモルとし、加熱温度を250℃としたこと以外は実施例3と同様にして、電極板を作製した。
【0061】
[実施例5]
工程2において最初に添加する純水の添加量を100g、ジメチルスルホキシドの添加量を120gとしたこと以外は実施例3と同様にして、電極板を作製した。
【0062】
[実施例6]
工程2における硫酸マンガン(II)1水和物の添加量を108ミリモル、硫酸鉄(II)7水和物の添加量を12ミリモルとしたこと以外は実施例3と同様にして、電極板を作製した。
【0063】
[実施例7]
工程2におけるグルコースの添加量をリン酸マンガン鉄リチウムの7重量%と同重量にしたこと以外は実施例3と同様にして、電極板を作製した。
【0064】
[実施例8]
工程2におけるグルコースの添加量をリン酸マンガン鉄リチウムの25重量%と同重量にしたこと以外は実施例3と同様にして、電極板を作製した。
【0065】
[実施例9]
工程2における硫酸マンガン(II)1水和物の添加量60ミリモル、硫酸鉄(II)7水和物の添加量を60ミリモルとしたこと以外は実施例8と同様にして、電極板を作製した。
【0066】
[実施例10]
工程3において、LMO粒子とLMFP粒子に加え層状酸化物系活物質粒子(ユミコア社製LiNi0.5Co0.2Mn0.3 平均粒径13μmの造粒体)を、LMO粒子:LMFP粒子:層状酸化物系活物質粒子割合が60:30:10(重量比)となるように添加し、含まれる各材料の重量比が造粒体(LMO粒子とカーボンコートされたLMFP粒子と層状酸化物系活物質粒子の合計):アセチレンブラック:バインダーが90:5:5となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、電極板を作製した。
【0067】
[実施例11]
工程1における硝酸マンガン(II)六水和物の添加量を95ミリモルとし、さらにLMO前駆体溶液に硝酸亜鉛六水和物5ミリモルを添加したこと以外は実施例1と同様にして、電極板を作製した。
【0068】
[比較例1]
工程2におけるLMFP分散液中の固形分濃度を60重量%としたこと以外は実施例1と同様にして、電極板を作製した。
【0069】
[比較例2]
工程2におけるLMFP分散液中の固形分濃度を8重量%としたこと以外は実施例1と同様にして、電極板を作製した。
【0070】
[比較例3]
工程3におけるLMO粒子とLMFP粒子の重量比を5:1としたこと以外は実施例3と同様にして、電極板を作製した。
【0071】
[比較例4]
工程3におけるLMO粒子とLMFP粒子の重量比を0.5:1としたこと以外は実施例3と同様にして、電極板を作製した。
【0072】
各実施例および比較例の評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】