(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】下水処理プラントの処理水質予測方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20240528BHJP
【FI】
C02F3/12 Z
(21)【出願番号】P 2020152229
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】江川 拓也
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-081645(JP,A)
【文献】特開平03-134706(JP,A)
【文献】特開2006-043563(JP,A)
【文献】特開2020-032394(JP,A)
【文献】特開2019-052985(JP,A)
【文献】特開2019-215743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00- 3/34
G06Q 50/00-50/20
G06Q 50/26-99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物反応槽における活性汚泥画像の特徴量と最終沈殿池での固形物除去率の相関を予め
機械学習して相関データベース化し、
該
機械学習による相関データベースを用いて、前記生物反応槽から採取した活性汚泥画像から抽出した前記特徴量に対応する固形物除去率を求め、
求められた固形物除去率を用いて処理水質を予測することを特徴とする下水処理プラントの処理水質予測方法。
【請求項2】
前記活性汚泥画像の特徴量が、フロックサイズ、糸状菌とフロックの割合及び細かいフロックと大きなフロックの割合を含むことを特徴とする請求項1に記載の下水処理プラントの処理水質予測方法。
【請求項3】
前記固形物除去率を下水処理シミュレータに入力して処理水質を計算することを特徴とする請求項1又は2に記載の下水処理プラントの処理水質予測方法。
【請求項4】
プラント操作と最終沈殿池での固形物除去率の相関を機械学習することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の下水処理プラントの処理水質予測方法。
【請求項5】
糸状菌が繁殖した場合にDO及び/又はBOD負荷の調整を行い汚泥や水質の時間変化を把握し、この把握したデータを数式化することによって将来の固形物除去率の変化を予測することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の下水処理プラントの処理水質予測方法。
【請求項6】
生物反応槽における活性汚泥画像の特徴量を求める手段と、
求められた活性汚泥画像の特徴量と最終沈殿池での固形物除去率の相関を
機械学習して保存した相関データベースと、
該
機械学習による相関データベースを用いて、前記生物反応槽から採取した活性汚泥画像から抽出した前記特徴量に対応する固形物除去率を求める手段と、
求められた固形物除去率を用いて処理水質を予測する手段と、
を備えたことを特徴とする下水処理プラントの処理水質予測装置。
【請求項7】
前記活性汚泥画像の特徴量が、フロックサイズ、糸状菌とフロックの割合及び細かいフロックと大きなフロックの割合を含むことを特徴とする請求項
6に記載の下水処理プラントの処理水質予測装置。
【請求項8】
前記固形物除去率が入力されて処理水質を計算する下水処理シミュレータを更に備えたことを特徴とする請求項
6又は
7に記載の下水処理プラントの処理水質予測装置。
【請求項9】
プラント操作と最終沈殿池での固形物除去率の相関を機械学習する手段を更に備えたことを特徴とする請求項
6乃至
8のいずれかに記載の下水処理プラントの処理水質予測装置。
【請求項10】
糸状菌が繁殖した場合にDO及び/又はBOD負荷の調整を行い汚泥や水質の時間変化を把握する手段と、
この把握したデータを数式化することによって将来の固形物除去率の変化を予測する手段と、
を備えたことを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の下水処理プラントの処理水質予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理プラントの処理水質予測方法及び装置に係り、特に、最終沈殿池での固液分離性を含めた予測が可能な、下水処理プラントの処理水質予測方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物の生物化学反応を利用した活性汚泥法による下水処理が一般的に行われている。これは、曝気によって下水中の溶存酸素濃度を高めることにより、汚泥中の微生物を活性化させ、摂取した溶存酸素を使用して下水中の物質を炭酸ガスと水に酸化分解しながら増殖を繰り返す微生物の活動により、下水を浄化する方法である。
【0003】
このような活性汚泥法による下水処理プラントの基本的な下水処理フローを
図1に示す。この下水処理プラントは、下水ラインから流入する下水からトイレットペーパーなどの固形性汚濁物や砂等を除去するための最初沈殿池10と、微生物群の働きにより有機物や窒素(アンモニア)、リン酸を除去するための生物反応槽20と、活性汚泥と処理水を自然沈降により固液分離するための最終沈殿池30とを主に備えている。
【0004】
下水処理プラントの主要な処理対象物と項目は、有機物は、生物学的酸素要求量BOD5、化学的酸素要求量COD、浮遊状固形物SSであり、窒素関係は、全窒素(有機体窒素+無機窒素)T-N、アンモニア性窒素NH4-N、硝酸性窒素NO3-N、亜硝酸性窒素NO2-Nであり、リンは、全リン(有機体リン+無機リン)T-P、リン酸性リンPO4-Pである。
【0005】
このような下水処理プラントにおいて、従来は、特許文献1に示されるように、生物反応を活性汚泥モデルによって数式化し、窒素、リンや有機物(BOD、COD)の処理状況を予測するという取り組みがなされていた。生物反応式に流入水質や運転条件(各種のポンプ流量、ブロワ空気量)を入力することで、これらの水質は予測が可能であった。
【0006】
図1において、60は下水処理シミュレータであり、生物反応槽20では、活性汚泥モデルを用いて生物反応を数式化して、ポンプ流量やブロワ空気量より、有機物(菌体合成やCO
2生成)や窒素、リンの分解、菌体合成は計算可能であった。
【0007】
しかしながら、最終沈殿池30に関しては、活性汚泥モデル内に固液分離性(固形物除去率又はSS除去率)を連続的に計算できる数式がなく、従来は、(1)固定値あるいは(2)汚泥沈降性SVI(Sludge Volume Index)分析結果を元にした計算値を採用していた。
SVI(mL/g)=SV30(mL)/MLSS(mg/L)×10,000
【0008】
ここで、SV30は、1Lのメスシリンダに活性汚泥を投入したときの30分後の目盛である活性汚泥沈殿率、MLSSは、活性汚泥1Lに含まれる汚泥乾燥重量(mg)である。
【0009】
なお、SVI分析は、常時行うことは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
下水処理では最終沈殿池での固液分離性によって、大きく処理水質が変化するが、その固液分離性に関する数式やパラメータはなく、これまでは、例えば(i)固液分離効率を固定値として入力したり、(ii)汚泥沈降性(SVI)による固液分離性(固形物(SS)除去率)の評価がなされていた。
【0012】
しかしながら、この方法では、処理水質を予測するにあたり、時々刻々と変化する状況における最終沈殿池での固液分離性(SS除去率の設定)を含めた予測が困難であった。
【0013】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、活性汚泥の沈降性をリアルタイムで評価可能とし、固液分離性を算出して、処理水質をリアルタイムで計算可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、生物反応槽における活性汚泥画像の特徴量と最終沈殿池での固形物除去率の相関を予め機械学習して相関データベース化し、該機械学習による相関データベースを用いて、前記生物反応槽から採取した活性汚泥画像から抽出した前記特徴量に対応する固形物除去率を求め、求められた固形物除去率を用いて処理水質を予測することを特徴とする下水処理プラントの処理水質予測方法により、前記課題を解決するものである。
【0015】
ここで、前記活性汚泥画像の特徴量は、フロックサイズ、糸状菌とフロックの割合及び細かいフロックと大きなフロックの割合を含むことができる。
【0016】
又、前記固形物除去率を下水処理シミュレータに入力して処理水質を計算することができる。
【0017】
又、プラント操作と最終沈殿池での固形物除去率の相関を機械学習することができる。
又、糸状菌が繁殖した場合にDO及び/又はBOD負荷の調整を行い汚泥や水質の時間変化を把握し、この把握したデータを数式化することによって将来の固形物除去率の変化を予測することができる。
【0018】
本発明は、又、生物反応槽における活性汚泥画像の特徴量を求める手段と、求められた活性汚泥画像の特徴量と最終沈殿池での固形物除去率の相関を機械学習して保存した相関データベースと、該機械学習による相関データベースを用いて、前記生物反応槽から採取した活性汚泥画像から抽出した前記特徴量に対応する固形物除去率を求める手段と、求められた固形物除去率を用いて処理水質を予測する手段と、を備えたことを特徴とする下水処理プラントの処理水質予測装置により、同様に前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、活性汚泥の沈降性をリアルタイムで評価して、最終沈殿池での固液分離性を算出し、リアルタイムで処理水質が計算可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】実施形態で活性汚泥画像から得られる特徴量の例を示す図
【
図4】前記実施形態における(A)学習時と(B)実際の処理手順を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0022】
【0023】
本実施形態は、従来と同様の、下水ライン8から下水が流入する最初沈殿池10と、該最初沈殿池10と流入ライン12を介して接続された生物反応槽20と、最終沈殿池30とを主に備えている。
【0024】
なお、最初沈殿池10の入側に、大きな重い夾雑物を除去して、ポンプ等を保護するための沈砂池(図示省略)が設けられる。
【0025】
前記生物反応槽20は、細胞内のリンを放出し、PHAを細胞内に合成するための嫌気槽22と、硝酸内の酸素を用いて有機物を酸化分解し、硝酸を窒素ガスに還元するための無酸素槽24と、溶存酸素を用いて有機物を酸化分解し、アンモニアを硝酸化、PHAを分解して、リン酸を細胞内に過剰蓄積させることによってリンを除去するための好気槽26とを備えている。
【0026】
前記最終沈殿池30の出側には、処理水を消毒して河川等に放流するための処理水ライン32と、汚泥の一部を生物反応槽20の入側に返送するための汚泥返送ライン34と、余剰汚泥を脱水して排出するための余剰汚泥ライン36とが設けられている。
【0027】
前記汚泥返送ライン34には、返送ポンプ38及び流量計39が設けられており、最終沈殿池30に蓄積した汚泥の一部が生物反応槽20の入側に戻される。この返送ポンプ38による返送汚泥量は、MLSS(汚泥濃度)の維持や調整に用いられる。
【0028】
前記余剰汚泥ライン36には、余剰汚泥ポンプ40及び流量計41が設けられており、余剰汚泥は脱水されて排出される。この余剰汚泥ポンプ40による余剰汚泥量は、系内の汚泥量の調整、汚泥の新陳代謝を整えて、汚泥滞留時間を制御するために用いられる。
【0029】
前記好気槽26には、空気ブロワ42と空気量計43が設けられ、空気を吹き込むようにされている。この空気ブロワ42の空気量は、DO(溶存酸素濃度)の維持及び制御に用いられる。
【0030】
前記生物反応槽20の好気槽26の出側には、硝化液を無酸素槽24に循環させるための硝化液循環ライン44が設けられており、この硝化液循環ライン44には、硝化液循環ポンプ46が設けられている。この硝化液循環ポンプ46による硝化液循環量は、無酸素槽24への硝酸性窒素の供給量を調整して、窒素を除去するために用いられる。
【0031】
前記流入ライン12には水量センサ14が設けられ、前記嫌気槽22にはORP(酸化還元電位)センサ52が設けられ、前記無酸素槽24には、例えばpHセンサ及びORPセンサからなるセンサ54が設けられ、前記好気槽26には、例えばO2センサ、MLSS(汚泥濃度)センサ、pHセンサからなるセンサ56が設けられ、処理水ライン32には水質センサ58が設けられている。
【0032】
前記各センサ14、52、54、56、58の出力は、下水処理シミュレータ60に入力され、下水処理シミュレータ60による演算処理結果に基づいて、各ポンプやブロワなどのアクチュエータが制御される。本実施形態では、前記下水処理シミュレータ60に相関データベース62が接続されている。
【0033】
ここで、pHは、環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22と無酸素槽24では例えばpH7~8、好気槽26では例えばpH6~7に保たれる。
【0034】
又、前記ORP(酸化還元電位)に関しても、やはり環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22では例えば-300~-400mV未満に維持され、無酸素槽24では例えば0~-200mV未満に維持される。
【0035】
又、前記DO(溶存酸素濃度)に関しても、やはり環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22や無酸素槽24では例えば0.2mg/L未満、好気槽26では例えば1.0~2.0mg/Lに保たれる。
【0036】
又、前記MLSS(汚泥濃度)は、活性汚泥中の微生物量の管理に用いられ、遠心分離汚泥の乾燥重量で全体的に例えば2,000~3,000mg/Lに保たれる。
【0037】
汚泥性状としては、例えば前記MLSS、SV30、SVIが分析される。
【0038】
処理水の固形物除去率が悪化するときには、糸状菌の繁殖やフロックサイズの小型化等の活性汚泥の顕微鏡画像に変化が表れると予想できる。
【0039】
糸状菌の繁殖が見られた場合に、DO調整やBOD負荷の調整や微生物調整剤の投入を行い、活性汚泥画像の変化や最終沈殿池30の固形物除去率の回復に関する時間変化のデータを入手する。この取得データを機械学習により数式化し、下水処理シミュレータ60に保有させることで、将来の固形物除去率の変化を予測させることができる。
【0040】
そこで、本実施形態では、
図2に示したような下水処理プラントにおいて、
図4(A)に示す如く、まず生物反応槽20の活性汚泥画像と、最終沈殿池30の処理水質のデータを用いて、活性汚泥画像の特徴量と最終沈殿池30での固形物除去率の相関を機械学習し、その結果を相関データベース62に保存する(ステップ100)。
【0041】
本実施形態で活性汚泥を顕微鏡やカメラで観察して得られる活性汚泥画像の特徴としては、
図3に例示する如く、フロックの大きさ、フロックの色、フロックの数、フロックの形状、糸状菌の数、糸状菌の長さ、水の色、フロック近傍の水の色、原生生物の種類、原生生物の数などがあるが、学習に用いる特徴量としては、活性汚泥中の微生物(群)が形成するフロックのサイズや、糸状菌とフロックの割合、細かいフロックと大きなフロックの割合等を含むフロックの状態を用いることができる。
【0042】
図4(A)のように学習した後、実際には、
図4(B)に示す如く、生物反応槽20の活性汚泥画像データから画像の特徴量を抽出する(ステップ200)。
【0043】
次いで、学習工程で作成した相関データベース62と画像の特徴量から活性汚泥の沈降性をリアルタイムで評価して固形物除去率を算出する(ステップ210)。
【0044】
次いで、下水処理シミュレータ60に算出結果を入力することで、リアルタイムに処理水質を計算可能とする(ステップ220)。
【0045】
下水処理シミュレータ60は、生物反応に加えて、汚泥性状に合わせた最終沈殿池30での固形物除去率を用いて処理水質を予測する(ステップ230)。
【0046】
なお、下水処理シミュレータ60によらず、機械学習のようなAIによる処理水質予測に反映することも可能である。
【0047】
活性汚泥の連続撮影を行うことで、時々刻々と変化する固形物除去率を入力することで、常に最新の状況を計算することができる。
【0048】
又、画像の特徴量(フロックの状態)と固形物除去率の相関に加えて、プラント操作と固形物除去率の経時変化を機械学習させることにより、現在のプラント操作に対応する将来の固形物除去率が予測できるようになり、将来の処理水質が予測可能となる。
【0049】
なお、前記実施形態においては、本発明が、嫌気-無酸素-好気法により有機物、窒素、リンを除去するための、生物反応槽20が嫌気槽22、無酸素槽24及び好気槽26を備えた下水処理プラントに適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、例えば無酸素-好気法(循環式硝化脱窒素法)により有機物と窒素を除去するための、生物反応槽が嫌気槽を含まない下水処理プラントや、嫌気-好気法により有機物とリンを除去するための、生物反応槽が無酸素槽を含まず、嫌気槽と好気槽を備えた下水処理プラントや、標準活性汚泥法により有機物を除去するための、生物反応槽が好気槽のみからなる下水処理プラントにも適用できることは明らかである。
【符号の説明】
【0050】
8…下水ライン
10…最初沈殿池
12…流入ライン
14…水量センサ
20…生物反応槽
22…嫌気槽
24…無酸素槽
26…好気槽
30…最終沈殿池
32…処理水ライン
34…汚泥返送ライン
36…余剰汚泥ライン
38…返送ポンプ
39、41…流量計
40…余剰汚泥ポンプ
42…空気ブロワ
43…空気量計
44…硝化液循環ライン
46…硝化液循環ポンプ
52…ORPセンサ
54…pHセンサ+ORPセンサ
56…O2センサ+MLSSセンサ+pHセンサ
58…水質センサ
60…下水処理シミュレータ
62…相関データベース