IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEエンジニアリング株式会社の特許一覧

特許7494669排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法及び装置並びに下水処理プラントの制御方法及び装置
<>
  • 特許-排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法及び装置並びに下水処理プラントの制御方法及び装置 図1
  • 特許-排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法及び装置並びに下水処理プラントの制御方法及び装置 図2
  • 特許-排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法及び装置並びに下水処理プラントの制御方法及び装置 図3
  • 特許-排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法及び装置並びに下水処理プラントの制御方法及び装置 図4
  • 特許-排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法及び装置並びに下水処理プラントの制御方法及び装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法及び装置並びに下水処理プラントの制御方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20240528BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240528BHJP
   G06Q 50/26 20240101ALI20240528BHJP
【FI】
C02F3/12 H
C02F3/34 101C
G06Q50/26
C02F3/12 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020152230
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046281
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】冨田 洋平
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-252691(JP,A)
【文献】特開平03-081645(JP,A)
【文献】特開2007-229550(JP,A)
【文献】特開2001-334253(JP,A)
【文献】特開2006-095440(JP,A)
【文献】特開2020-032394(JP,A)
【文献】特開2019-052985(JP,A)
【文献】特開2019-215743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00- 3/34
G06Q 50/00-50/20
G06Q 50/26-99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水処理プラントのデータと排水処理シミュレータによるシミュレーションの結果に対して、確からしい各パラメータ値を探索し、
前記各パラメータ値の時系列データをデータベースに保存し、
流入下水又は反応槽中の汚泥を観察して、その汚泥画像データを取得し、
得られた汚泥画像データの特徴量と前記パラメータ値の時系列データの関係を機械学習により学習してモデルを構築し
該機械学習により構築したモデルを用いて、新しく得た汚泥画像データの特徴量から前記排水処理シミュレータのパラメータ値を予測することを特徴とする排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法。
【請求項2】
前記汚泥画像データの特徴量に加えて水質データも用いることを特徴とする請求項1に記載の排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法。
【請求項3】
前記汚泥画像データの特徴量として、処理対象水の発泡度合い、処理対象水に含まれる固形物の形状、色、濃度、大きさ、および活性汚泥のフロック近傍の水の色、原生生物の種類・数を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法。
【請求項4】
下水処理プラントのデータと排水処理シミュレータによるシミュレーションの結果に対して、確からしい各パラメータ値を探索するモデルと、
前記各パラメータ値の時系列データを保存するデータベースと、
流入下水又は反応槽中の汚泥を観察して、その汚泥画像データを取得する手段と、
得られた汚泥画像データの特徴量と前記パラメータ値の時系列データの関係を機械学習により学習してモデルを構築する手段と、
該機械学習により構築したモデルを用いて、新しく得た汚泥画像データの特徴量から前記排水処理シミュレータのパラメータ値を予測する手段と、
を備えたことを特徴とする排水処理シミュレータのパラメータ値予測装置。
【請求項5】
前記汚泥画像データの特徴量に加えて水質データも用いることを特徴とする請求項に記載の排水処理シミュレータのパラメータ値予測装置。
【請求項6】
前記汚泥画像データの特徴量として、処理対象水の発泡度合い、処理対象水に含まれる固形物の形状、色、濃度、大きさ、および活性汚泥のフロック近傍の水の色、原生生物の種類・数を用いることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の排水処理シミュレータのパラメータ値予測装置。
【請求項7】
下水処理プラントのデータと排水処理シミュレータによるシミュレーションの結果に対して、確からしい各パラメータ値を探索し、
前記各パラメータ値の時系列データをデータベースに保存し、
流入下水又は反応槽中の汚泥を観察して、その汚泥画像データを取得し、
得られた汚泥画像データの特徴量と前記パラメータ値の時系列データの関係を機械学習により学習してモデルを構築し
該機械学習により構築したモデルを用いて、新しく得た汚泥画像データの特徴量から前記排水処理シミュレータのパラメータ値を予測し、
この予測したパラメータ値を前記排水処理シミュレータに設定し、
水質データと新しく得た汚泥画像データを入力して下水処理プラントを制御することを特徴とする下水処理プラントの制御方法。
【請求項8】
前記汚泥画像データの特徴量に加えて水質データも用いることを特徴とする請求項に記載の下水処理プラントの制御方法。
【請求項9】
前記汚泥画像データの特徴量として、処理対象水の発泡度合い、処理対象水に含まれる固形物の形状、色、濃度、大きさ、および活性汚泥のフロック近傍の水の色、原生生物の種類・数を用いることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の下水処理プラントの制御方法。
【請求項10】
下水処理プラントのデータと排水処理シミュレータによるシミュレーションの結果に対して、確からしい各パラメータ値を探索するモデルと、
前記各パラメータ値の時系列データを保存するデータベースと、
流入下水又は反応槽中の汚泥を観察して、その汚泥画像データを取得する手段と、
得られた汚泥画像データの特徴量と前記パラメータ値の時系列データの関係を機械学習により学習してモデルを構築する手段と、
該機械学習により構築したモデルを用いて、新しく得た汚泥画像データの特徴量から前記排水処理シミュレータのパラメータ値を予測する手段と、
手段で予測されたパラメータ値が設定される前記排水処理シミュレータと、
水質データと新しく得た汚泥画像データを入力して下水処理プラントを制御する手段と、
を備えたことを特徴とする下水処理プラントの制御装置。
【請求項11】
前記汚泥画像データの特徴量に加えて水質データも用いることを特徴とする請求項10に記載の下水処理プラントの制御装置。
【請求項12】
前記汚泥画像データの特徴量として、処理対象水の発泡度合い、処理対象水に含まれる固形物の形状、色、濃度、大きさ、および活性汚泥のフロック近傍の水の色、原生生物の種類・数を用いることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の下水処理プラントの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法及び装置並びに下水処理プラントの制御方法及び装置に係り、特に、排水処理シミュレータに精通していなくても、そのパラメータ値を的確に予測することが可能な、排水処理シミュレータのパラメータ値予測方法及び装置並びに下水処理プラントの制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物を含む排水の処理には、微生物を使用した生物処理が用いられる。この生物処理において、下水や排水中に含まれる有機物を基質として人為的に培養された微生物の集合体を活性汚泥と呼ぶ。この活性汚泥中では、細菌(従属栄養生物)、糸状菌、酵母、原生生物、後生生物など多様な生物種が相互作用し、水中の有機物、窒素、リンなどが処理される。
【0003】
このような活性汚泥法による下水処理プラントの基本的な下水処理フローを図1に示す。この下水処理プラントは、下水ラインから流入する下水からトイレットペーパーなどの固形性汚濁物や砂等を除去するための最初沈殿池10と、微生物群の働きにより有機物や窒素(アンモニア)、リン酸を除去するための生物反応槽20と、活性汚泥と処理水を自然沈降により固液分離するための最終沈殿池30とを主に備えている。
【0004】
下水処理プラントの主要な処理対象物と項目は、有機物は、生物学的酸素要求量BOD、化学的酸素要求量COD、浮遊状固形物SSであり、窒素関係は、全窒素(有機体窒素+無機窒素)T-N、アンモニア性窒素NH4-N、硝酸性窒素NO3-N、亜硝酸性窒素NO2-Nであり、リンは、全リン(有機体リン+無機リン)T-P、リン酸性リンPO4-Pである。
【0005】
このような下水処理プラントの運転を支援する方法の一つに、数理モデルに基いた排水処理シミュレータが提案されている(特許文献1、特許文献2)。この排水処理シミュレータの一つに、活性汚泥を用いたASM(Activated sludge model)がある。このASMでは、生物の代謝を数式化し、反応の進行に伴う物質収支と反応速度から有機物、窒素、リンのような処理対象物質の移動をシミュレートする。
【0006】
このASMでは、モデルで定義しているパラメータ値の一般性が常に高いわけではなく、シミュレーションの精度を維持するため、個別の処理プラントやケース毎にその時の状況を的確に表現し得るパラメータセットを決めて適宜各パラメータ値をキャリブレーションする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-334287号公報
【文献】特開2005-13957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらのパラメータは、処理原水あるいは反応槽中の有機物の成分(遅分解性有機物、発酵性有機物、発酵生産物)の割合や活性汚泥中の各微生物の割合及び活性などに由来するため、実験的に定めることは難しく、ASMに精通した技術者による適宜設定が必要であった。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、ASMのような排水処理シミュレータに精通していなくても、そのパラメータ値を的確に予測可能とすることを第1の課題とする。
【0010】
本発明は、更に、予測されたパラメータ値を用いて下水処理プラントを的確に制御可能とすることを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下水処理プラントのデータと排水処理シミュレータによるシミュレーションの結果に対して、確からしい各パラメータ値を探索し、前記各パラメータ値の時系列データをデータベースに保存し、流入下水又は反応槽中の汚泥を観察して、その汚泥画像データを取得し、得られた汚泥画像データの特徴量と前記パラメータ値の時系列データの関係を機械学習により学習してモデルを構築し該機械学習により構築したモデルを用いて、新しく得た汚泥画像データの特徴量から前記排水処理シミュレータのパラメータ値を予測することにより、前記第1の課題を解決したものである。
【0012】
ここで、前記汚泥画像データの特徴量に加えて水質データも用いることができる。
又、前記汚泥画像データの特徴量として、処理対象水の発泡度合い、処理対象水に含まれる固形物の形状、色、濃度、大きさ、および活性汚泥のフロック近傍の水の色、原生生物の種類・数を用いることができる。
【0013】
本発明は、又、下水処理プラントのデータと排水処理シミュレータによるシミュレーションの結果に対して、確からしい各パラメータ値を探索するモデルと、前記各パラメータ値の時系列データを保存するデータベースと、流入下水又は反応槽中の汚泥を観察して、その汚泥画像データを取得する手段と、得られた汚泥画像データの特徴量と前記パラメータ値の時系列データの関係を機械学習により学習してモデルを構築する手段と、該機械学習により構築したモデルを用いて、新しく得た汚泥画像データの特徴量から前記排水処理シミュレータのパラメータ値を予測する手段と、を備えたことを特徴とする排水処理シミュレータのパラメータ値予測装置を提供するものである。
【0014】
ここで、前記汚泥画像データの特徴量に加えて水質データも用いることができる。
又、前記汚泥画像データの特徴量として、処理対象水の発泡度合い、処理対象水に含まれる固形物の形状、色、濃度、大きさ、および活性汚泥のフロック近傍の水の色、原生生物の種類・数を用いることができる。
【0015】
本発明は、又、下水処理プラントのデータと排水処理シミュレータによるシミュレーションの結果に対して、確からしい各パラメータ値を探索し、前記各パラメータ値の時系列データをデータベースに保存し、流入下水又は反応槽中の汚泥を観察して、その汚泥画像データを取得し、得られた汚泥画像データの特徴量と前記パラメータ値の時系列データの関係を機械学習により学習してモデルを構築し該機械学習により構築したモデルを用いて、新しく得た汚泥画像データの特徴量から前記排水処理シミュレータのパラメータ値を予測し、この予測したパラメータ値を前記排水処理シミュレータに設定し、水質データと新しく得た汚泥画像データを入力して下水処理プラントを制御することにより、前記第2の課題を解決したものである。
ここで、前記汚泥画像データの特徴量に加えて水質データも用いることができる。
又、前記汚泥画像データの特徴量として、処理対象水の発泡度合い、処理対象水に含まれる固形物の形状、色、濃度、大きさ、および活性汚泥のフロック近傍の水の色、原生生物の種類・数を用いることができる。
【0016】
本発明は、又、下水処理プラントのデータと排水処理シミュレータによるシミュレーションの結果に対して、確からしい各パラメータ値を探索するモデルと、前記各パラメータ値の時系列データを保存するデータベースと、流入下水又は反応槽中の汚泥を観察して、その汚泥画像データを取得する手段と、得られた汚泥画像データの特徴量と前記パラメータ値の時系列データの関係を機械学習により学習してモデルを構築する手段と、該機械学習により構築したモデルを用いて、新しく得た汚泥画像データの特徴量から前記排水処理シミュレータのパラメータ値を予測する手段と、該手段で予測されたパラメータ値が設定される前記排水処理シミュレータと、水質データと新しく得た汚泥画像データを入力して下水処理プラントを制御する手段と、を備えたことを特徴とする下水処理プラントの制御装置を提供するものである。
ここで、前記汚泥画像データの特徴量に加えて水質データも用いることができる。
又、前記汚泥画像データの特徴量として、処理対象水の発泡度合い、処理対象水に含まれる固形物の形状、色、濃度、大きさ、および活性汚泥のフロック近傍の水の色,原生生物の種類・数を用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、活性汚泥画像を解析することにより、ASMのような排水処理シミュレータに精通していなくても、そのパラメータ値を的確に予測することが可能となる。従って、この予測されたパラメータ値を用いた高精度な排水処理シミュレータにより下水処理プラントの的確な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】下水処理プラントの基本的な下水処理フローを示す図
図2】本発明に係る下水処理プラントの実施形態の全体的な構成を示す図
図3】本発明の第1実施形態の要部構成を示すブロック図
図4】前記実施形態で活性汚泥画像から得られる特徴量の例を示す図
図5】本発明の第2実施形態の要部構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0020】
本発明の実施形態の構成を図2に示す。
【0021】
本実施形態は、従来と同様の、下水ライン8から下水が流入する最初沈殿池10と、該最初沈殿池10と流入ライン12を介して接続された生物反応槽20と、最終沈殿池30とを主に備えている。
【0022】
なお、最初沈殿池10の入側に、大きな重い夾雑物を除去して、ポンプ等を保護するための沈砂池(図示省略)が設けられる。
【0023】
前記生物反応槽20は、細胞内のリンを放出し、PHAを細胞内に合成するための嫌気槽22と、硝酸内の酸素を用いて有機物を酸化分解し、硝酸を窒素ガスに還元するための無酸素槽24と、溶存酸素を用いて有機物を酸化分解し、アンモニアを硝酸化、PHAを分解して、リン酸を細胞内に過剰蓄積させることによってリンを除去するための好気槽26とを備えている。
【0024】
前記最終沈殿池30の出側には、処理水を消毒して河川等に放流するための処理水ライン32と、汚泥の一部を生物反応槽20の入側に返送するための汚泥返送ライン34と、余剰汚泥を脱水して排出するための余剰汚泥ライン36とが設けられている。
【0025】
前記汚泥返送ライン34には、返送ポンプ38及び流量計39が設けられており、最終沈殿池30に蓄積した汚泥の一部が生物反応槽20の入側に戻される。この返送ポンプ38による返送汚泥量の調整により、MLSS(汚泥濃度)の維持や調整が図られる。
【0026】
前記余剰汚泥ライン36には、余剰汚泥ポンプ40及び流量計41が設けられており、余剰汚泥は脱水されて排出される。この余剰汚泥ポンプ40による余剰汚泥量の調整により、系内の汚泥量の調整、汚泥の新陳代謝を整えて、汚泥滞留時間を制御する。
【0027】
前記好気槽26には、空気ブロワ42と空気量計43が設けられ、空気を吹き込むようにされている。この空気ブロワ42の空気量は、DO(溶存酸素濃度)の維持及び制御に用いられる。
【0028】
前記生物反応槽20の好気槽26の出側には、硝化液を無酸素槽24に循環させるための硝化液循環ライン44が設けられており、この硝化液循環ライン44には、硝化液循環ポンプ46が設けられている。この硝化液循環ポンプ46による硝化液循環量は、無酸素槽24への硝酸性窒素の供給量を調整して、窒素を除去するために用いられる。
【0029】
前記流入ライン12には水量センサ14が設けられ、前記嫌気槽22にはORP(酸化還元電位)センサ52が設けられ、前記無酸素槽24には、例えばpHセンサ及びORPセンサからなるセンサ54が設けられ、前記好気槽26には、例えばO2センサ、MLSS(汚泥濃度)センサ、pHセンサからなるセンサ56が設けられ、処理水ライン32には水質センサ58が設けられている。
【0030】
前記各センサ14、52、54、56、58の出力は、コンピュータ60に入力され、コンピュータ60による演算処理結果に基づいて、各ポンプやブロワなどのアクチュエータが制御される。本実施形態では、前記コンピュータ60にASM64が接続されている。
【0031】
ここで、pHは、環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22と無酸素槽24では例えばpH7~8、好気槽26では例えばpH6~7に保たれる。
【0032】
又、前記ORP(酸化還元電位)に関しても、やはり環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22では例えば-300~-400mV未満に維持され、無酸素槽24では例えば0~-200mV未満に維持される。
【0033】
又、前記DO(溶存酸素濃度)に関しても、やはり環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22や無酸素槽24では例えば0.2mg/L未満、好気槽26では例えば1.0~2.0mg/Lに保たれる。
【0034】
又、前記MLSS(汚泥濃度)は、活性汚泥中の微生物量の管理に用いられ、遠心分離汚泥の乾燥重量で全体的に例えば2,000~3,000mg/Lに保たれる。
【0035】
汚泥性状としては、例えば前記MLSS、1Lメスシリンダで30分沈殿させた場合の汚泥界面の目盛である活性汚泥沈殿率SV30、30分沈降後の汚泥1gが占める容積である汚泥沈降目標SVI(=SV30×10,000/MLSS)が分析される。
【0036】
本発明の第1実施形態のコンピュータ60は、図3に示す如く、学習・モデル構築部62とパラメータ値導出部90を備えている。
【0037】
前記学習・モデル構築部62では、機械学習によるモデル構築を行う。
【0038】
そのため、水質データと運転データを収集し、ASM64を介して自動キャリブレーションモデル部66に入力することで、下水処理プラントのセンサデータとASM64によるシミュレーションの結果に対して確からしい各パラメータ値を探索する。探索された各パラメータ値の時系列データがデータベース68に保存される。ここでの水質データは、センサから直接測定されたものでも良いし、ソフトセンサのような手法で一部間接的に求めても良い。又、水質データを省略することもできる。
【0039】
そして、最初沈殿池10の流出水又は反応槽タンクから得られた活性汚泥を汚泥観察部70で観察し、画像解析部72で図4に例示するような画像解析、例えばセグメンテーションといった手法を実施して、嫌気槽22の流入水や最初沈殿池10の流出水の場合には、例えば、下水の色、固形物の形状、色、濃度、大きさ、発泡度合いなどの数値情報を入手する。又、活性汚泥の場合には、例えばフロックの大きさ、フロックの色、フロックの数、フロックの形状、糸状菌の数、糸状菌の長さ、水の色、フロック近傍の水の色、原生生物の種類、原生生物の数などのパラメータについて数値情報を入手する。
【0040】
そして、自動キャリブレーションモデル部66で求められ、データベース68に保存されている確からしいパラメータ値、画像解析部72で画像解析により得られた数値、水質データについて機械学習部80で機械学習を行い、モデル82を構築する。
【0041】
そして、操業時には、パラメータ値導出部90で画像データから特徴量を抽出し、学習・モデル構築部62で機械学習により構築されたモデル82に対して、水質データと画像分析から得られた数値データを入力することでASM64内部のパラメータ値を導出する。
【0042】
次に本発明の第2実施形態を説明する。
【0043】
この第2実施形態は、図5に示す如く、第1実施形態と同様の学習・モデル構築部62とパラメータ値導出部90に、最適運転条件提案部100を加えたものである。
【0044】
前記最適運転条件提案部100では、前記パラメータ値導出部90で導出されたパラメータ値と、水質データをASM64に入力し、ASM64を利用して、処理水質を満足し、且つ、消費電力又は薬品使用量が最小となるような運転パラメータを提案する。
【0045】
本実施形態では、第1実施形態と同様の学習・モデル構築部62でモデル82を構築し、パラメータ値導出部90で、構築されたモデル82に水質データと実際の汚泥画像データを入力してパラメータ値を導出した後、最適運転条件提案部100のASM64に水質データと共に導入して、処理水質を満足し、且つ、消費電力量又は薬品使用量が最小となるような運転条件を提案することができる。
【0046】
他の点については第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0047】
この第2実施形態によれば、最適運転条件を提案することが可能となる。
【0048】
前記実施形態においては、いずれもASMのパラメータ値の算出に汚泥画像データと水質データを用いていたので高精度の算出が可能である。なお、水質データは省略することもできる。
【0049】
又、前記実施形態においては、本発明が、嫌気-無酸素-好気法により有機物、窒素、リンを除去するための、生物反応槽20が嫌気槽22、無酸素槽24及び好気槽26を備えた下水処理プラントに適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、例えば無酸素-好気法(循環式硝化脱窒素法)により有機物と窒素を除去するための、生物反応槽が嫌気槽を含まない下水処理プラントや、嫌気-好気法により有機物とリンを除去するための、生物反応槽が無酸素槽を含まず、嫌気槽と好気槽を備えた下水処理プラントや、標準活性汚泥法により有機物を除去するための、生物反応槽が好気槽のみからなる下水処理プラントにも適用できることは明らかである。
【符号の説明】
【0050】
8…下水ライン
10…最初沈殿池
12…流入ライン
14…水量センサ
20…生物反応槽
22…嫌気槽
24…無酸素槽
26…好気槽
30…最終沈殿池
32…処理水ライン
34…汚泥返送ライン
36…余剰汚泥ライン
38…返送ポンプ
39、41…流量計
40…余剰汚泥ポンプ
42…空気ブロワ
43…空気量計
44…硝化液循環ライン
46…硝化液循環ポンプ
52…ORPセンサ
54…pHセンサ+ORPセンサ
56…O2センサ+MLSSセンサ+pHセンサ
58…水質センサ
60…コンピュータ
62…学習・モデル構築部
64…ASM
66…自動キャリブレーションモデル部
68…データベース
70…汚泥観察部
72…画像解析部
80…機械学習部
82…モデル
90…パラメータ値導出部
100…最適運転条件提案部
図1
図2
図3
図4
図5