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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】車両用ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20240528BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240528BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20240528BHJP
   F16J 15/324 20160101ALI20240528BHJP
【FI】
B62D3/12 507
B62D5/04
F16J15/3204 201
F16J15/324
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020204008
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091275
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲田 佳生
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-107926(JP,A)
【文献】実開平6-61653(JP,U)
【文献】特開2017-136955(JP,A)
【文献】特開2021-17908(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0331519(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第201014212367(DE,A1)
【文献】中国実用新案第202827708(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12, 5/04
F16H 57/029
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラック歯が形成されたラック歯部を有するラックシャフトと、前記ラック歯に噛み合うピニオン歯が形成されたピニオン歯部を有するピニオンシャフトと、前記ラックシャフトの一部を収容するラックシャフト収容部及び前記ピニオンシャフトの一部を収容するピニオンシャフト収容部を有するハウジングと、前記ピニオンシャフト収容部の上方に配置されたカバー部材とを備え、
前記ピニオンシャフトは、その一部が前記ピニオンシャフト収容部の上端開口部から上方に突出しており、
前記カバー部材は、前記上端開口部を覆う円盤状の笠部と、前記ピニオンシャフト収容部の外周面に隙間を介して対向する環状の側壁部とを有し、前記笠部に前記ピニオンシャフトが挿通されており、
前記側壁部は、車両走行時に掛かる水から受ける圧力によって弾性変形し、前記ピニオンシャフト収容部の外周面に当接し得る弁部を有する、
車両用ステアリング装置。
【請求項2】
前記側壁部は、前記弁部よりも剛性が高い円筒状の基体部を有し、前記弁部が前記基体部の下方に設けられている、
請求項1に記載の車両用ステアリング装置。
【請求項3】
前記側壁部は、前記弁部よりも剛性が高い円筒状の基体部を有し、前記弁部が前記基体部の内側に設けられている、
請求項1に記載の車両用ステアリング装置。
【請求項4】
前記基体部は、その外周面の少なくとも一部が、下方に向かって外径が小さくなるテーパ面である
請求項2又は3に記載の車両用ステアリング装置。
【請求項5】
前記ピニオンシャフト収容部の内側に嵌合固定されて前記カバー部材よりも下方に配置されたシールをさらに備え、
前記シールが前記ピニオンシャフトの外周面に摺接するシールリップを有しており、
前記シールと前記笠部との間における前記ピニオンシャフトの外周面を覆うように潤滑剤が充填されている、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者によるステアリングホイールの操舵操作に応じて車両の転舵輪(前輪)を転舵させる車両用ステアリング装置は、ラック歯が形成されたラックシャフトと、ピニオン歯が形成されたピニオンシャフトと、ラックシャフト及びピニオンシャフトのそれぞれの一部を収容するハウジングとを備え、ハウジング内でラック歯とピニオン歯とが噛み合わされている。ラックシャフトは、車幅方向への進退移動によって転舵輪を転舵させる。ピニオンシャフトは、その一部がハウジングから上方に突出し、継手によって揺動可能に連結されたインタミディエイトシャフト及びコラムシャフトを介してステアリングホイールに連結されている。
【0003】
特許文献1に記載のステアリング装置は、ピニオンシャフトが導出されるハウジングの上端開口部からの水や埃などの異物の侵入を抑制するため、ハウジングから導出された部分のピニオンシャフトの外周にカバー部材が圧入嵌合されている。カバー部材は、ハウジングの上端開口部を覆い、ピニオンシャフトと一体となって回転する。また、ハウジング内における上端開口部付近には、ゴム製のシール材を有するシールリングが取り付けられており、このシール材がピニオンシャフトの外周面に弾接している。シールリングの下方には、操舵トルクを検出するためのトルクセンサが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-107926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステアリング装置は、左右の転舵輪の間に配置されるので、雨天の走行時等には、転舵輪が跳ね上げた水がハウジングやカバー部材に掛かることがある。上記のように構成されたステアリング装置において、カバー部材とハウジングとの隙間から水が浸入して滞留すると、シール材が弾接している部分やその周辺部のピニオンシャフトの表面が錆び付き、シールリングのシール性が低下してしまうおそれがある。
【0006】
このような水の浸入を防ぐためには、カバー部材とハウジングとの隙間を小さく設計することが考えられるが、この場合には、カバー部材あるいはハウジングの僅かな寸法誤差によってカバー部材とハウジングとが常に接触し、カバー部材がピニオンシャフトと共に回転する際の回転抵抗が大きくなったり、カバー部材がハウジングの表面を擦れる際に発生する音が運転者等に聴覚されて不快感を与えてしまうなどのおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、カバー部材とハウジングとの隙間を確保しながらも、水が掛かった際にハウジング内部への水の浸入を抑制することが可能な車両用ステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、ラック歯が形成されたラック歯部を有するラックシャフトと、前記ラック歯に噛み合うピニオン歯が形成されたピニオン歯部を有するピニオンシャフトと、前記ラックシャフトの一部を収容するラックシャフト収容部及び前記ピニオンシャフトの一部を収容するピニオンシャフト収容部を有するハウジングと、前記ピニオンシャフト収容部の上方に配置されたカバー部材とを備え、前記ピニオンシャフトは、その一部が前記ピニオンシャフト収容部の上端開口部から上方に突出しており、前記カバー部材は、前記上端開口部を覆う円盤状の笠部と、前記ピニオンシャフト収容部の外周面に隙間を介して対向する環状の側壁部とを有し、前記笠部に前記ピニオンシャフトが挿通されており、前記側壁部は、車両走行時に掛かる水から受ける圧力によって弾性変形し、前記ピニオンシャフト収容部の外周面に当接し得る弁部を有する、車両用ステアリング装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用ステアリング装置によれば、カバー部材とハウジングとの隙間を確保しながらも、水が掛かった際にハウジング内部への水の浸入を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るラックアンドピニオン式のステアリング装置を模式的に示す全体構成図である。
図2】ステアリング装置の一部を破断して示す外観図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4A】カバー部材の側面図である。
図4B】カバー部材の断面図である。
図4C】カバー部材の断面斜視図である。
図5A】通常時におけるカバー部材の側壁部の周辺部を示す断面図である。
図5B】水が掛かった際の同周辺部を示す断面図である。
図6A】第2の実施の形態に係るカバー部材の通常時の状態を示す断面図である。
図6B】水が掛かった際のカバー部材の周辺部を示す断面図である。
図7A】第3の実施の形態に係るカバー部材の通常時の状態を示す断面図である。
図7B】水が掛かった際のカバー部材の周辺部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
(ステアリング装置の全体構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るラックアンドピニオン式のステアリング装置を模式的に示す全体構成図である。図2は、ステアリング装置の一部を破断して示す外観図である。図3は、図2のA-A線断面図である。ステアリング装置1は、車両に搭載され、運転者の操舵操作に応じて転舵輪である前輪14L,14Rを転舵させる。
【0013】
図1及び図2では、ステアリング装置を車両前方から見た状態を示し、図面左側が車両の右側にあたり、図面右側が車両の左側にあたる。なお、図1における符号中の文字「R」は車両の右側を示し、文字「L」は車両の左側を示している。以下の説明において、「上」、「下」、「左」、「右」とは、ステアリング装置1が車両に搭載された状態における車両上下方向ならびに車両左右方向における各方向をいう。
【0014】
ステアリング装置1は、運転者によるステアリングホイール11の操舵操作に応じて回転するステアリングシャフト2と、車両左右方向に延在するラックシャフト3と、車体に対して固定されたハウジング4(図2参照)と、操舵トルクを検出するトルクセンサ5と、トルクセンサ5によって検出された操舵トルクに応じた操舵補助力を発生する操舵補助装置6と、ハウジング4の内部への異物の侵入を抑制するためのカバー部材7とを備えている。ステアリングシャフト2は、ステアリングホイール10が一端部に固定されたコラムシャフト21と、コラムシャフト21の他端部に自在継手22を介して連結されたインタミディエイトシャフト23と、インタミディエイトシャフト23に自在継手24を介して連結されたピニオンシャフト25とを有している。
【0015】
ピニオンシャフト25は、インタミディエイトシャフト23側のアッパ部材251と、操舵トルクによって捩じれるトーションバー252と、トーションバー252によってアッパ部材251に連結されたロア部材253とを有している。また、ピニオンシャフト25は、ピニオン歯254aが形成されたピニオン歯部254を有している。ピニオン歯部254は、ロア部材253の下端部に設けられている。アッパ部材251及びロア部材253は、炭素鋼等の高剛性金属からなり、トーションバー252は、操舵トルクによって捩じれる弾性を有するばね鋼等の金属からなる。ピニオンシャフト25は、ステアリングホイール11の回転に伴い、回転軸線O(図3参照)を中心として回転する。
【0016】
ラックシャフト3は、第1のラック歯31aが形成された第1のラック歯部31、及び第2のラック歯32aが形成された第2のラック歯部32を有している。ピニオンシャフト25のピニオン歯254aは、第1のラック歯31aに噛み合っている。ラックシャフト3の両端部には、ボールジョイント12L,12Rを介して左右のタイロッド13L,13Rがそれぞれ連結されている。左右のタイロッド13L,13Rは、左右の前輪14L,14Rを支持するナックルにそれぞれ連結されている。ラックシャフト3が車幅方向(左右方向)に進退移動すると、左右のタイロッド13L,13Rがそれぞれラックシャフト3に対して揺動し、左右の前輪14L,14Rがそれぞれ転舵される。
【0017】
操舵補助装置6は、トルクセンサ5の検出信号を取得可能な制御装置61と、制御装置61から出力されるモータ電流によって操舵補助力を発生する電動モータ62と、電動モータ62の出力軸621の回転を減速する減速機構63と、減速機構63によって減速された電動モータ62のトルクによって回転する出力シャフト64とを備えている。減速機構63は、電動モータ62の出力軸621と一体回転するように連結されたウォームギヤ631と、ウォームギヤ631に噛み合うウォームホイール632とからなる。出力シャフト64は、第2のラック歯32aに噛み合うピニオン歯641aが形成されたピニオン歯部641を有している。
【0018】
ハウジング4は、ラックシャフト3の一部を収容するラックシャフト収容部41と、ピニオンシャフト25の一部を収容するピニオンシャフト収容部42と、操舵補助装置6の出力シャフト64を収容する出力シャフト収容部43とを一体に有している。ラックシャフト3は、その両端部がラックシャフト収容部41から左右方向に突出し、ピニオンシャフト25は、その上端部がピニオンシャフト収容部42から上方に突出している。
【0019】
図3に示すように、ピニオンシャフト収容部42は、ラックシャフト収容部41と一体に成型されたアルミニウム合金等の金属製のベース部421と、ベース部421の上方に取り付けられた樹脂製のホルダ部422とからなる。ラックシャフト3の第1のラック歯部31は、ベース部421に設けられたラックガイド機構44によってピニオンシャフト25のピニオン歯部254に弾性的に押し付けられている。
【0020】
ホルダ部422は、例えばガラス繊維を添加することにより剛性が高められたポリプロピレン等の樹脂からなり、回転軸線Oを中心とする円筒状に形成されている。ホルダ部422は、その内部に、トルクセンサ5と、第1及び第2の軸受81,82と、シールリング9とを保持している。第1及び第2の軸受81,82は、内輪と外輪との間に転動体としての複数の玉が配置された玉軸受である。第1の軸受81は、トルクセンサ5の上側でアッパ部材251を支持し、第2の軸受82は、トルクセンサ5の下側でロア部材253を支持している。
【0021】
アッパ部材251には、その中心部に軸孔251aが形成されており、この軸孔251a内にトーションバー252の上端部が収容されている。トーションバー252は、固定ピン255によってアッパ部材251に相対回転不能に固定されている。トーションバー252の下端部は、ロア部材253に形成された嵌合孔253aへのスプライン嵌合により、ロア部材253に相対回転不能に固定されている。
【0022】
トルクセンサ5は、アッパ部材251に固定されたリング磁石51と、ホルダ部422に固定された集磁リングアセンブリー52と、環状のカラー53によってロア部材253に固定された磁気ヨークアセンブリー54と、磁界検出素子55とを有している。トーションバー252が操舵トルクによって捩じれると、リング磁石51と磁気ヨークアセンブリー54とが相対的に回動し、集磁リングアセンブリー52を通過する磁界の強度が変化する。そして、この磁界の強度の変化を磁界検出素子55によって捉えることで、操舵トルクが検出される。
【0023】
シールリング9は、芯金91とシールゴム92とを有し、第1の軸受81よりも上側でホルダ部422の内側に嵌合固定されている。シールゴム92は、ピニオンシャフト25のアッパ部材251の外周面251bに摺接する第1及び第2のシールリップ921,922を有し、ピニオンシャフト収容部42の上端開口部420からピニオンシャフト収容部42内への異物(液体および固体を含む)の侵入を抑止している。上端開口部420は、ホルダ部422における鉛直方向上側の端部である。
【0024】
ピニオンシャフト25は、アッパ部材251の一部がピニオンシャフト収容部42の上端開口部420から上方に突出している。カバー部材7は、ピニオンシャフト収容部42の上方に配置されており、シールリング9とカバー部材7との間にグリスGが充填されている。グリスGは、シールリング9とカバー部材7との間におけるアッパ部材251の外周面251bを全周にわたって覆っている。
【0025】
図4Aは、カバー部材7の側面図である、図4Bは、カバー部材7の断面図である。図4Cは、カバー部材7の断面斜視図である。カバー部材7は、例えばNBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)等のゴムからなり、ピニオンシャフト収容部42の上端開口部420を覆う円盤状の笠部71と、ピニオンシャフト収容部42における上端開口部420付近の外周面42a(図3に示す)に隙間を介して対向する環状の側壁部72と、笠部71の下側に設けられた環状の堰部73とを一体に有している。笠部71の中心部には貫通孔70が形成されており、この貫通孔70にピニオンシャフト25のアッパ部材251が挿通されている。笠部71には、強度と剛性を高めるための複数のリブ711が設けられている。堰部73は、グリスGが漏れ出ることを抑制している。
【0026】
アッパ部材251の外周面251bには、ピニオンシャフト収容部42の上端開口部420から上方に突出した部分に、周方向に延びる環状の凹溝251cが形成されている。カバー部材7は、凹溝251cに笠部71が嵌合することによってピニオンシャフト25に軸方向に位置決めされて固定されており、ピニオンシャフト25と共に回転する。カバー部材7及びその周辺部には、例えば前輪14Rが水溜まりP(図1に示す)を走行したときに、前輪14Rに跳ね上げられた水が掛かる。
【0027】
図5Aは、通常時におけるカバー部材7の側壁部72の周辺部を拡大して示す断面図であり、図5Bは、水が掛かった際の同周辺部を示す断面図である。側壁部72は、笠部71の外縁から下方に延在する円筒状の基体部721と、基体部721の下方に設けられた弁部722とを有している。弁部722は、基体部721よりも薄肉に形成された円筒状であり、車両走行時に掛かる水から受ける圧力によって弾性変形してピニオンシャフト収容部42の外周面42aに当接し得る。図5Bでは、弁部722の下端部がピニオンシャフト収容部42の外周面42aに当接した状態を示している。また、図5Bでは、一例として、前輪14Rに跳ね上げられた水が掛かる方向を複数の矢印で示している。
【0028】
基体部721は、弁部722よりも厚肉で剛性が高く、弁部722側の下端部ほど肉厚が薄くなっている。基体部721の外周面は、その少なくとも一部が下方に向かって外径が小さくなる外側テーパ面721aであり、基体部721の内周面は、その少なくとも一部が下方に向かって内径が大きくなる内側テーパ面721bである。すなわち、基体部721は、下端部ほど剛性が低くなっており、外側テーパ面721aに掛かる水から受ける圧力によって径方向内側に変形しやすくなっている。
【0029】
水が掛からない通常時において、弁部722の外周面722a及び内周面722bは、回転軸線Oと平行である。弁部722の外周面722aは、基体部721の外側テーパ面721aと連続し、弁部722の内周面722bは、基体部721の内側テーパ面721bと連続している。側壁部72の内側におけるピニオンシャフト収容部42の外周面42aは、基体部721の内側テーパ面721bに対向する小径部42bの外径が、弁部722の内周面722bに対向する大径部42cの外径よりも小さく形成されており、小径部42bと大径部42cとの間に段部42dが形成された段付き形状である。
【0030】
以上のように構成されたステアリング装置1は、カバー部材7の弁部722が車両走行時に掛かる水から受ける圧力によって弾性変形し、カバー部材7の内側への水の浸入を抑制する。また、水の圧力が高い場合には、弁部722がピニオンシャフト収容部42の外周面42aに当接し、当接した部分からの水の浸入を防ぐので、水の圧力が高い場合でも、カバー部材7の内側への水の浸入を抑制することが可能となる。
【0031】
また、本実施の形態では、基体部721が外側テーパ面721aを有しているため、この外側テーパ面721aによって基体部721が水の圧力を受けやすくなり、内側に弾性変形しやすくなる。そして、基体部721が弾性変形した部分では弁部722がピニオンシャフト収容部42の外周面42aに近くなるので、より弁部722がピニオンシャフト収容部42の外周面42aに当接しやすくなる。
【0032】
またさらに、本実施の形態では、基体部721が内側テーパ面721bを有しているため、外側テーパ面721aと相俟って基体部721の肉厚が下端部ほど薄くなり、剛性が低下することで、特に下端部ほど基体部721が弾性変形しやすくなる。このため、より一層、弁部722がピニオンシャフト収容部42の外周面42aに当接しやすくなる。
【0033】
なお、仮にカバー部材7が弁部722を有しない場合でも、シールリング9とカバー部材7の笠部71との間でピニオンシャフト25の外周面251bを覆うように十分な量のグリスGなどのゲル状の潤滑剤が存在する使用初期状態(図3に示す状態)であれば、カバー部材7の内部に水が浸入しても、グリスGの防水効果と防錆効果によってアッパ部材251の外周面251bに錆が発生することを防ぐことができるが、カバー部材7の内部に度々水が浸入し、侵入した水の流速と流量が大きいと、グリスGが水によって流されてしまい、アッパ部材251の外周面251bに錆が発生しやすくなる。アッパ部材251の外周面251bに錆が発生すると、シールリング9のシール性が低下してしまうおそれがある。特に発生した錆が外周面251bにおいて今までグリスGに覆われていた領域からシールリング9のシールリップ921,922が接する領域まで進行すると、ピニオンシャフト25の回転に伴ってその錆によりシールリップ921,922が摩耗し、シールリング9のシール性が低下するおそれがある。本実施の形態では、弁部722によってカバー部材7の内部への水の浸入を抑制することができるので、グリスGの量を長期にわたって確保することができ、錆の発生を防ぐことができる。その結果、シールリップ921,922の摩耗を防ぐことができ、シールリング9のシール性を長期にわたって維持できる。
【0034】
[第2の実施の形態]
次に、図6A及び図6Bを参照し、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、カバー部材7Aの形状が、第1の実施の形態に係るカバー部材7の形状と異なっている。その他の構成は第1の実施の形態と同様であるので、図6A及び図6Bにおいて、第1の実施の形態と共通する構成要素については、図3等に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0035】
図6Aは、通常時におけるカバー部材7Aの周辺部を示す断面図であり、図6Bは、水が掛かった際のカバー部材7Aの周辺部を示す断面図である。本実施の形態に係るカバー部材7Aは、第1の実施の形態に係るカバー部材7と同様、笠部71と側壁部72とを有し、側壁部72が基体部721と弁部722とを有しているが、水が掛からない通常時において、基体部721の内周面721cがピニオンシャフト25の回転軸線Oと平行である。基体部721の内径は、弁部722の内径よりも小さく、基体部721の内周面721cと弁部722の内周面722bとの間には、全周にわたって段部723が形成されている。
【0036】
この第2の実施の形態に係るカバー部材7Aによっても、第1の実施の形態と同様に、車両走行時に掛かる水から受ける圧力によって弁部722が弾性変形することで、カバー部材7Aの内部への水の浸入を抑制することができる。
【0037】
[第3の実施の形態]
次に、図7A及び図7Bを参照し、本発明の第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態は、カバー部材7Bの形状が、第1の実施の形態に係るカバー部材7の形状と異なっている。その他の構成は第1の実施の形態と同様であるので、図7A及び図7Bにおいて、第1の実施の形態と共通する構成要素については、図3等に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0038】
図7Aは、通常時におけるカバー部材7Bの周辺部を示す断面図であり、図7Bは、水が掛かった際のカバー部材7Bの周辺部を示す断面図である。本実施の形態に係るカバー部材7Bは、第1の実施の形態に係るカバー部材7と同様、笠部71と側壁部72とを有し、側壁部72が基体部721と弁部722とを有しているが、弁部722が基体部721の内側に環状に設けられ、ピニオンシャフト収容部42の外周面42aにおける小径部42bに向かい合っている。弁部722は、基体部721の内周面721dから径方向内方に、かつ図7Aにおける下方に向かって突出し、下端部側ほど内外径が小さくなるテーパ状に形成されている。
【0039】
弁部722は、通常時にはピニオンシャフト収容部42の外周面42aに当接せず、車両走行時に水が掛かるとその圧力によって弾性変形し、図7Bに示すように下端部がピニオンシャフト収容部42の外周面42aに当接する。これにより、弁部722よりも上方への水の浸入を抑制することができる。
【0040】
この第3の実施の形態に係るカバー部材7Bによっても、第1の実施の形態と同様に、車両走行時に掛かる水から受ける圧力によって弁部722が弾性変形することで、カバー部材7Bの内部への水の浸入を抑制することができる。
【0041】
(付記)
以上、本発明を第1乃至第3の実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。またさらに、上記した第1乃至第3の実施の形態の一部の構成を互いに組み合わせることも可能であると共に、例えば下記のように変形することも可能である。
【0042】
上記第1乃至第3の実施の形態では、ピニオンシャフト収容部42のホルダ部422が樹脂製である場合について説明したが、ホルダ部422がベース部421と同様のアルミニウム合金等の金属製であってもよい。また、上記第1乃至第3の実施の形態では、ピニオンシャフト収容部42におけるシールリング9の下方にトルクセンサ5が配置された場合について説明したが、ピニオンシャフト収容部42にトルクセンサ5が配置されていなくてもよい。
【0043】
また、第1の実施の形態に係るカバー部材7又は第2の実施の形態に係るカバー部材7Bにおいて、さらに第3の実施の形態のように基体部721の内側に弁部722を設けてもよい。またさらに、第3の実施の形態の弁部722を、基体部721の内側に上下方向に沿って並ぶように複数設けてもよい。上記第1乃至第3の実施の形態では、ステアリングホイール11からピニオンシャフト25までが機械的に連結されたステアリング装置1を示したが、本発明はステアリングホイールからピニオンシャフトまでが、断続可能なクラッチを介して連結されているステアバイワイヤ装置、またはステアリングホイールからピニオンシャフトまでを連結する機構を持たないステアバイワイヤ装置にも適用してよい。
【符号の説明】
【0044】
1…ステアリング装置 14L,14R…前輪(転舵輪)
25…ピニオンシャフト 254…ピニオン歯部
254a…ピニオン歯 3…ラックシャフト
31…第1のラック歯部 31a…第1のラック歯
4…ハウジング 41…ラックシャフト収容部
42…ピニオンシャフト収容部 420…上端開口部
7,7A,7B…カバー部材 71…笠部
72…側壁部 721…基体部
721a…外側テーパ面 722…弁部
9…シールリング(シール) 921,922…第1及び第2のシールリップ
G…グリス(潤滑剤)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B