(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】増幅装置
(51)【国際特許分類】
H03F 1/32 20060101AFI20240528BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20240528BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20240528BHJP
H03F 3/185 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
H03F1/32 141
H03F3/68
H03F3/24
H03F3/185
(21)【出願番号】P 2020204353
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】濱野 皓志
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-015708(JP,A)
【文献】特開2003-060445(JP,A)
【文献】特開2002-111414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RF信号が入力されるRF信号入力端子と、
前記RF信号入力端子に接続される入力端子を有し、前記入力端子を介して前記RF信号が入力されるバッファ回路と、
前記バッファ回路の出力側に接続されるリニアライザと、
前記リニアライザの出力側に接続されるパワーアンプと、
制御回路と、
を含み、
前記リニアライザは、前記リニアライザの入力部に設けられ、制御端子を有するトランジスタを含み、
前記制御回路は、
前記RF信号入力端子に入力される前記RF信号のレベルが第1レベルのときには前記トランジスタにB級動作を行わせる第1ゲート電圧を前記制御端子に出力し、
前記RF信号のレベルが前記第1レベルよりも高い第2レベルのときには前記トランジスタにAB級動作を行わせる第2ゲート電圧を前記制御端子に出力し、
前記リニアライザの入力側から見た前記バッファ回路の出力インピーダンスは、前記バッファ回路から前記リニアライザに入力される前記RF信号の反射損失が所定レベル以下になるように設定さ
れ、
前記制御回路は、
前記RF信号入力端子に接続される入力端子と、前記バッファ回路の入力端子に接続される第1出力端子と、第2出力端子とを有する方向性結合器と、
前記第2出力端子に接続される増幅器と、
前記増幅器の出力側に接続される整流器と、
前記整流器の出力側に接続されるレベルシフタと
を有し、
前記レベルシフタは、前記制御端子に接続され、前記第1ゲート電圧又は前記第2ゲート電圧を出力する、
増幅装置。
【請求項2】
前記リニアライザの入力側から見た前記バッファ回路の出力インピーダンスは、前記トランジスタが前記B級動作、前記B級動作及び前記AB級動作の間の動作、又は前記AB級動作を行うことによって前記バッファ回路の出力側から見た前記リニアライザの入力インピーダンスが変動しても、前記反射損失が所定レベル以下になるように設定される、請求項1に記載の増幅装置。
【請求項3】
前記RF信号は、E帯の信号であり、
前記反射損失の前記所定レベルは、前記E帯における無線通信に適用可能な上限レベルの値を表す、請求項1又は2に記載の増幅装置。
【請求項4】
前記バッファ回路は、第1ゲート端子及び第1ドレイン端子を有する第1FETを含み、
前記第1ゲート端子は、前記バッファ回路の入力端子に接続され、
前記第1ドレイン端子は、前記バッファ回路の出力端子に接続される、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の増幅装置。
【請求項5】
前記リニアライザの前記トランジスタは、
第2ゲート端子と第2ドレイン端子を有する第2FETと、
第3ゲート端子と第3ドレイン端子を有する第3FETと、
を含み、
前記制御端子は、前記リニアライザの入力端子に接続され、
前記第2ゲート端子及び前記第3ゲート端子は、前記制御端子であり、
前記第2ドレイン端子及び前記第3ドレイン端子は、前記リニアライザの出力端子に接続され、
前記第2FETの前記第2ゲート端子と前記第2ドレイン端子との間の部分と、前記第3FETの前記第3ゲート端子と前記第3ドレイン端子との間の部分とは、前記制御端子と前記リニアライザの出力端子との間で並列に接続される、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の増幅装置。
【請求項6】
前記増幅器は、前記第2出力端子に接続される第4ゲート端子と、前記整流器に接続される第4ドレイン端子とを有する第4FETであって、前記第4ゲート端子に入力される信号の交流成分を増幅して前記第4ドレイン端子から出力する第4FETを有する、
請求項
1乃至5のいずれか1項に記載の増幅装置。
【請求項7】
前記整流器は、
前記増幅器の前記第4FETの前記第4ドレイン
端子に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの出力側に接続される整流素子と、
前記整流素子の出力側に接続される平滑素子と
を有し、前記第4ドレイン
端子から入力される増幅された交流成分を整流して前記レベルシフタに出力する、
請求項
6に記載の増幅装置。
【請求項8】
前記整流素子は、前記コンデンサと前記平滑素子を結ぶ線路から分岐して接続されるダイオードであって、前記RF信号のレベルが前記第1レベルのときにはオフになり、前記RF信号のレベルが前記第2レベルのときにはオンになるダイオードを有する、
請求項
7に記載の増幅装置。
【請求項9】
前記レベルシフタは、
前記平滑素子の出力側に接続される第5ゲート端子と、前記リニアライザの制御端子に接続されるとともに前記第1ゲート電圧が印加されるソース端子とを有する第5FETを有し、
前記第5FETは、前記RF信号のレベルが前記第1レベルのときはオフになり、前記RF信号のレベルが前記第2レベルになるとオンになる、
請求項
8に記載の増幅装置。
【請求項10】
分配器と、
結合器と、
RF信号出力端子と
をさらに含むとともに、
前記バッファ回路、前記リニアライザ、及び前記パワーアンプが直列に接続された直列回路を複数含み、
前記分配器は、前記RF信号入力端子と前記複数の前記バッファ回路の入力端子との間に接続されており、
前記結合器は、前記複数のパワーアンプと前記RF信号出力端子との間に接続されており、
前記複数の直列回路は、前記分配器と前記結合器との間で互いに並列に接続されており、
前記制御回路は、前記複数のリニアライザのトランジスタの制御端子に前記第1ゲート電圧又は前記第2ゲート電圧を出力する、
請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の増幅装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パワーアンプの入力信号のレベルに対する出力信号のレベルの歪を補償するために、入力信号のレベルに応じてC級動作を行うトランジスタで実現されるアナログプレディストータを含むMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)チップセットがある。このMMICチップセットの入力信号はE帯である(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】M. Gavell, G. Granstrom, C. Fager, S. E. Gunnarsson, M. Ferndahl, H. Zirath, "An E-Band Analog Predistorter and Power Amplifier MMIC Chipset," IEEE Microwave and Wireless Components Letters, Vol. 28, No.1, pp. 31-33, Jan. 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、C級動作を行うアナログプレディストータはゲインが低いため、パワーアンプから出力される信号のゲインを増大させるには、MMICチップは、アナログプレディストータ及びパワーアンプ以外の追加的な増幅器を含む必要がある。このような場合には、MMICチップのような回路装置が大型化する。
【0005】
そこで、小型化を図った増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の増幅装置は、RF(Radio Frequency)信号が入力されるRF信号入力端子と、前記RF信号入力端子に接続される入力端子を有し、前記入力端子を介して前記RF信号が入力されるバッファ回路と、前記バッファ回路の出力側に接続されるリニアライザと、前記リニアライザの出力側に接続されるパワーアンプと、制御回路と、を含み、前記リニアライザは、前記リニアライザの入力部に設けられ、制御端子を有するトランジスタを含み、前記制御回路は、前記RF信号入力端子に入力される前記RF信号のレベルが第1レベルのときには前記トランジスタにB級動作を行わせる第1ゲート電圧を前記制御端子に出力し、前記RF信号のレベルが前記第1レベルよりも高い第2レベルのときには前記トランジスタにAB級動作を行わせる第2ゲート電圧を前記制御端子に出力し、前記リニアライザの入力側から見た前記バッファ回路の出力インピーダンスは、前記バッファ回路から前記リニアライザに入力される前記RF信号の反射損失が所定レベル以下になるように設定される。
【発明の効果】
【0007】
小型化を図った増幅装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、増幅装置100の概略的な構成と各部のゲインとの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、ADP110のPin-ゲイン特性の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、APD110の内部構成を簡略化して示す図である。
【
図4】
図4は、増幅装置100の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、ゲート制御回路112の等価回路を示す図である。
【
図6】
図6は、バッファアンプ110A及びリニアライザ111の等価回路を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態の変形例の増幅装置100Mを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
【0011】
〔1〕 本開示の一態様に係る増幅装置は、RF信号が入力されるRF信号入力端子と、前記RF信号入力端子に接続される入力端子を有し、前記入力端子を介して前記RF信号が入力されるバッファ回路と、前記バッファ回路の出力側に接続されるリニアライザと、前記リニアライザの出力側に接続されるパワーアンプと、制御回路と、を含み、前記APDは、前記リニアライザの入力部に設けられ、制御端子を有するトランジスタを含み、前記制御回路は、前記RF信号入力端子に入力される前記RF信号のレベルが第1レベルのときには前記トランジスタにB級動作を行わせる第1ゲート電圧を前記制御端子に出力し、前記RF信号のレベルが前記第1レベルよりも高い第2レベルのときには前記トランジスタにAB級動作を行わせる第2ゲート電圧を前記制御端子に出力し、前記リニアライザの入力側から見た前記バッファ回路の出力インピーダンスは、前記バッファ回路から前記リニアライザに入力される前記RF信号の反射損失が所定レベル以下になるように設定される。
【0012】
前記リニアライザの入力側から見た前記バッファ回路の出力インピーダンスが、前記バッファ回路から前記リニアライザに入力される前記RF信号の反射損失が所定レベル以下になるように設定されることにより、B級動作とAB級動作とを行うときに前記リニアライザの入力インピーダンスに生じる変動が前記バッファ回路よりも前段に伝達されることが抑制される。また、前記制御回路が、前記RF信号のレベルが前記第1レベルのときには前記第1ゲート電圧を前記制御端子に出力し、前記RF信号のレベルが前記第2レベルのときには前記第2ゲート電圧を前記制御端子に出力することにより、前記トランジスタのゲインは、前記RF信号のレベルが前記第1レベルのときよりも前記第2レベルのときの方が増大する。これにより、前記トランジスタは、前記RF信号のレベルが高い領域でゲインが増大するC級動作のような動作を行う。また、このようなトランジスタの動作は、B級動作とAB級動作とを組み合わせることによって実現されるため、C級動作よりも大きなゲインが得られる。C級動作よりも大きなゲインが得られるため、追加的な増幅器は不要である。したがって、小型化を図った増幅装置を提供することができる。
【0013】
〔2〕 〔1〕において、
前記リニアライザの入力側から見た前記バッファ回路の出力インピーダンスは、前記トランジスタが前記B級動作、前記B級動作及び前記AB級動作の間の動作、又は前記AB級動作を行うことによって前記バッファ回路の出力側から見た前記リニアライザの入力インピーダンスが変動しても、前記反射損失が所定レベル以下になるように設定されてもよい。前記リニアライザの前記トランジスタが各動作を行うときにおいて、前記バッファ回路の出力インピーダンスは前記反射損失が所定レベル以下になるように設定されるので、前記リニアライザの前記トランジスタがいずれの動作を行うときにおいてもバッファ回路からリニアライザに効率的にRF信号を入力することができる。
【0014】
〔3〕 〔1〕又は〔2〕において、
前記RF信号は、E帯の信号であり、前記反射損失の前記所定レベルは、前記E帯における無線通信に適用可能な上限レベルの値を表してもよい。このため、E帯において反射損失が低く、良好な無線通信の環境が得られる。
【0015】
〔4〕 〔1〕~〔3〕のいずれか1つにおいて、
前記バッファ回路は、第1ゲート端子及び第1ドレイン端子を有する第1のFETを含み、前記第1ゲート端子は、前記バッファ回路の入力端子に接続され、前記第1ドレイン端子は、前記バッファ回路の出力端子に接続されてもよい。前記第1のFETを用いることによって、前記リニアライザの入力側から見た前記バッファ回路の出力インピーダンスが前記バッファ回路から前記リニアライザに入力される前記RF信号の反射損失が所定レベル以下になるようにより確実に設定できるとともに、前記第1のFETのアイソレーションの高さを利用することによって、前記リニアライザの入力インピーダンスの変動が前記バッファ回路よりも前段に伝達されることをより確実に抑制することができる。
【0016】
〔5〕 〔1〕~〔4〕のいずれか1つにおいて、
前記リニアライザの前記トランジスタは、第2ゲート端子と第2ドレイン端子を有する第2FETと、第3ゲート端子と第3ドレイン端子を有する第3FETと、を含み、前記制御端子は、前記リニアライザの入力端子に接続され、前記第2ゲート端子及び前記第3ゲート端子は、前記制御端子であり、前記第2ドレイン端子及び前記第3ドレイン端子は、前記リニアライザの出力端子に接続され、前記第2FETの前記第2ゲート端子と前記第2ドレイン端子との間の部分と、前記第3FETの前記第3ゲート端子と前記第3ドレイン端子との間の部分とは、前記制御端子と前記リニアライザの出力端子との間で並列に接続されてもよい。前記リニアライザの前記トランジスタは、前記第2FET及び前記第3FETを含むので、より大きなゲインが得られる。これにより、追加的な増幅器は不要であり、より確実に小型化を図った増幅装置を提供することができる。
【0017】
〔6〕 〔1〕~〔5〕のいずれか1つにおいて、
前記制御回路は、前記RF信号入力端子に接続される入力端子と、前記バッファ回路の入力端子に接続される第1出力端子と、第2出力端子とを有する方向性結合器と、前記第2出力端子に接続される増幅器と、前記増幅器の出力側に接続される整流器と、前記整流器の出力側に接続されるレベルシフタとを有し、前記レベルシフタは、前記制御端子に接続され、前記第1ゲート電圧又は前記第2ゲート電圧を出力してもよい。前記レベルシフタは、前記方向性結合器の前記第2出力端子の出力に基づいて前記第1ゲート電圧又は前記第2ゲート電圧を出力する。このため、前記入力端子に入力される前記RF信号の信号レベルに応じて前記リニアライザの制御端子の電圧を制御することで、前記RF信号のレベルが前記第1レベルのときには前記トランジスタにB級動作を行わせるとともに、前記RF信号のレベルが前記第2レベルのときには前記トランジスタにAB級動作を行わせることができる。したがって、パワーアンプの入出力特性の歪を確実に補償できるとともに、小型化を図った増幅装置を提供することができる。
【0018】
〔7〕 〔6〕において、
前記増幅器は、前記第2出力端子に接続される第4ゲート端子と、前記整流器に接続される第4ドレイン端子とを有する第4FETであって、前記第4ゲート端子に入力される信号の交流成分を増幅して前記第4ドレインから出力する第4FETを有していてもよい。前記増幅器の前記第4FETの前記第4ゲート端子に前記第2出力端子から入力される信号の交流成分は、前記RF信号の信号レベルを反映した信号である。このため、前記第4FETは、前記RF信号の信号レベルに応じた前記交流成分を増幅して前記整流器に出力することができ、前記RF信号の信号レベルに応じて確実に前記リニアライザの前記第4FETに前記B級動作又は前記AB級動作を行わせることができる。
【0019】
〔8〕 〔7〕において、
前記整流器は、前記増幅器の前記第4FETの前記第4ドレインに接続されるコンデンサと、前記コンデンサの出力側に接続される整流素子と、前記整流素子の出力側に接続される平滑素子とを有し、前記第4ドレインから入力される増幅された交流成分を整流して前記レベルシフタに出力してもよい。このため、前記第4FETの前記第4ドレインから入力される増幅された交流成分を反映させた直流電圧を前記レベルシフタに出力することができ、前記RF信号の信号レベルに応じて確実に前記リニアライザの前記トランジスタに前記B級動作又は前記AB級動作を行わせることができる。
【0020】
〔9〕 〔8〕において、
前記整流素子は、前記コンデンサと前記平滑素子を結ぶ線路から分岐して接続されるダイオードであって、前記RF信号のレベルが前記第1レベルのときにはオフになり、前記RF信号のレベルが前記第2レベルのときにはオンになるダイオードを有していてもよい。このため、前記RF信号のレベルが前記第1レベルのときと前記第2レベルのときとで前記レベルシフタに出力する直流電圧のレベルを確実に変化させることができ、前記RF信号の信号レベルに応じて確実に前記リニアライザの前記トランジスタに前記B級動作又は前記AB級動作を行わせることができる。
【0021】
〔10〕 〔9〕において、
前記レベルシフタは、前記平滑素子の出力側に接続される第5ゲート端子と、前記リニアライザの制御端子に接続されるとともに前記第1ゲート電圧が印加されるソース端子とを有する第5FETを有し、前記第5FETは、前記RF信号のレベルが前記第1レベルのときはオフになり、前記RF信号のレベルが前記第2レベルになるとオンになってもよい。このため、前記RF信号が前記第1レベルのときに前記ソース端子から前記第1ゲート電圧を出力できるとともに、前記RF信号が前記第2レベルのときに前記ソース端子から前記第1ゲート電圧よりも高い前記第2ゲート電圧を出力できる。したがって、前記RF信号のレベルが前記第1レベルのときに確実に前記リニアライザの前記トランジスタに前記B級動作を行わせることができるとともに、前記RF信号のレベルが前記第2レベルのときに確実に前記リニアライザの前記トランジスタに前記AB級動作を行わせることができる。
【0022】
〔11〕 〔1〕~〔10〕のいずれか1つにおいて、
分配器と、結合器と、RF信号出力端子とをさらに含むとともに、前記バッファ回路、前記リニアライザ、及び前記パワーアンプが直列に接続された直列回路を複数含み、前記分配器は、前記RF信号入力端子と前記複数の前記バッファ回路の入力端子との間に接続されており、前記結合器は、前記複数のパワーアンプと前記RF信号出力端子との間に接続されており、前記複数の直列回路は、前記分配器と前記結合器との間で互いに並列に接続されており、前記制御回路は、前記複数のリニアライザのトランジスタの制御端子に前記第1ゲート電圧又は前記第2ゲート電圧を出力してもよい。前記分配器と前記結合器との間で、前記複数の直列回路が互いに並列に接続されることによって、前記入力端子に入力される前記RF信号に与えることが可能なゲインを増大させることができ、ゲインが大きく、小型化を図った増幅装置を提供することができる。
【0023】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0024】
<実施形態>
〔増幅装置100の概略的な構成〕
図1は、増幅装置100の概略的な構成と各部のゲインとの一例を示す図である。増幅装置100は、RF信号入力端子101、RF信号出力端子102、APD(Analog Predistorter)110、及び出力段増幅器50を含む。
図1には、RF信号入力端子101、RF信号出力端子102、APD110、及び出力段増幅器50の構成と、APD110、出力段増幅器50、及びRF信号出力端子102における入力信号の電力Pinに対するゲインの特性(Pin-ゲイン特性)をAPD110、出力段増幅器50、及びRF信号出力端子102のそれぞれの下側に示す。ゲイン(dB)は、出力段増幅器50等の増幅器における入力信号の電力Pin(dBm)に対する出力信号の電力Pout(dBm)の比である。
【0025】
増幅装置100は、一例として携帯電話基地局に設けられ、スマートフォン等の端末機に送信するための電波(RF信号)を増幅する。携帯電話基地局において、一例として1台の増幅装置100でRF信号を増幅可能にするために、ゲインが大きいことが求められる。また、携帯電話基地局は、複数の周波数帯域(複数バンド)のRF信号を送信するため、一例として1台の増幅装置100で複数バンドのRF信号を増幅可能にするために周波数帯域が広いこと(広帯域であること)が求められる。増幅装置100は、一例としてE帯(71GHz~76GHzの5GHzと81GHz~86GHzの5GHzの周波数帯域)を含む周波数帯域のRF信号を増幅するために用いられる。E帯のRF信号はミリ波帯(一例として、約30GHz~約300GHzの周波数帯)のRF信号である。E帯は5G(Fifth Generation)で用いられる周波数帯域である。また、携帯電話基地局の設置性を向上させるために、増幅装置100には小型化が求められる。
【0026】
なお、以下で説明するトランジスタ又はFET(Field Effect Transistor)は、一例としてミリ波帯での動作が良好なGaAs-HEMT(High Electron Mobility Transistor(高電子移動度トランジスタ)又はGaN-HEMT等によって実現される。
【0027】
RF信号入力端子101は、送信用のRF信号が入力される端子である。RF信号入力端子101には、APD110が接続される。APD110の出力側には出力段増幅器50が接続され、出力段増幅器50の出力側にはRF信号出力端子102が接続される。出力段増幅器50は、一例としてAB級動作を行う増幅器であり、Pin-ゲイン特性は、出力段増幅器50の下に示すように、入力信号の電力Pinのレベルに対してゲインが略一定になる線形領域と、入力信号の電力Pinのレベルがある程度大きくなると、ゲインが飽和する飽和領域とを有する。このようなPin-ゲイン特性で入力信号を増幅すると、出力段増幅器50の入力信号の電力Pinに対する出力信号の電力Poutの特性における飽和出力電力Psatと、1dB利得圧縮点P1dBとの差は大きくなる。ここで、入力信号の電力Pinが増加し続けたときに増幅器の出力信号の電力Poutは一定の値に収束(飽和)する。このように増幅された出力信号の電力Poutのレベルが飽和する出力電力を飽和出力電力Psatと称す。また、入力信号の電力Pinが増加し続けたときに、増幅器から出力される電力が直線的に理想的に増大する特性に対して1dB低下したときの出力信号の電力Poutを1dB利得圧縮点P1dBと称す。1dB利得圧縮点P1dBの値が大きいほど線形性の良い増幅器である。
【0028】
APD110は、
図1におけるAPD110の下に示すように、出力段増幅器50のPin-ゲイン特性を入力信号の電力Pinを表す横軸に対してゲインを表す縦軸方向に逆に歪ませたPin-ゲイン特性を有する。このようなAPD110でRF信号入力端子101から入力されるRF信号のゲインの特性を歪ませてから出力段増幅器50に入力すると、出力段増幅器50からRF信号出力端子102に出力されるRF信号のPin-ゲイン特性は、RF信号出力端子102の下に示すように、入力信号の電力Pinのレベルが低い領域から高い領域にわたって、略一定のゲインが得られる特性になる。すなわち、APD110は、出力段増幅器50の飽和出力電力Psatと、1dB利得圧縮点P1dBとの差を低減することができる。飽和出力電力Psatと、1dB利得圧縮点P1dBとの差が小さいことは、1dB利得圧縮点P1dBの値が大きくなることである。また、1dB利得圧縮点P1dBの値が大きくなれば、OIP3(Output Intercept Point 3rd)の値も良好になる。ここで、OIP3とは、増幅器の出力の3次インターセプトポイントである。具体的には、増幅器に同時に周波数帯域が近い2つの信号を入力すると3次ひずみ成分として3次相互変調ひずみ(IM)が現れる。3次相互変調ひずみ成分は2つの信号の周波数帯域の近傍に現れ、妨害波として信号波に影響を与える。3次相互変調ひずみ成分は、入力信号のレベルが高くなるに従って増大する。増幅器が飽和しないとした場合の増幅器の入力信号に対する出力信号の直線的な理想特性と、増幅器の3次相互変調ひずみ成分が直線的に増加したとみなしたときの特性との交点の出力レベル値がOIP3である。このため、OIP3が高いほど、飽和出力電力Psatと、1dB利得圧縮点P1dBとの差が小さいことになる。
【0029】
APD110は、このような出力段増幅器50のPin-ゲイン特性を補償することによって、RF信号入力端子101に入力されるRF信号の電力Pinに対してRF信号出力端子102から出力されるRF信号に与えられるゲインの関係を表すPin-ゲイン特性を平坦化させる。このため、増幅装置100は、出力段増幅器50の前段(RF信号入力端子101に近い側)にAPD110を設けることにより、高い線形性を有する電力増幅器として動作することが可能になり、入力信号の電力Pinのレベルが低い領域から高い領域にわたって電力を線形的に増幅することができる。なお、
図1に示すRF信号入力端子101に入力されるRF信号の電力Pinに対するRF信号出力端子102から出力されるRF信号のPin-ゲイン特性は、略完全に平坦(直線的)であり、理想的な特性である。
【0030】
〔ADP110のPin-ゲイン特性〕
図2は、ADP110のPin-ゲイン特性の一例を示す図である。
図2には、ADP110のPin-ゲイン特性を実線で示し、C級動作、B級動作、及びAB級動作のPin-ゲイン特性を破線で示す。C級動作、B級動作、及びAB級動作は、トランジスタの動作点の違いから、入力信号の電力Pinに対して得られるゲインがこの順に増大する。すなわち、C級動作で得られるゲインよりもB級動作で得られるゲインの方が大きく、B級動作で得られるゲインよりもAB級動作で得られるゲインの方が大きい。
【0031】
ここで、出力段増幅器50のAB級動作によるPin-ゲイン特性を入力信号の電力Pinを表す横軸に対してゲインを表す縦軸方向に逆に歪ませたPin-ゲイン特性は、一例としてC級動作のように、入力信号の電力Pinが低い領域から入力信号の電力Pinがある程度大きくなるまではゲインが略一定であり、入力信号の電力Pinがある程度大きくなってからさらに大きくなるときに、ゲインが急激に増大する特性であればよい。
【0032】
このような出力段増幅器50のAB級動作によるPin-ゲイン特性を入力信号の電力Pinを表す横軸に対してゲインを表す縦軸方向に逆に歪ませたPin-ゲイン特性は、例えば、B級動作において入力信号の電力Pinに対して略一定のゲインが得られる領域と、AB級動作において入力信号の電力Pinに対してゲインが急激に増大する領域とを組み合わせることによって実現可能である。
【0033】
このため、ADP110は、入力信号の電力Pinが低い領域から入力信号の電力Pinがある程度大きくなるまでの領域(1)ではB級動作を行い、入力信号の電力Pinが領域(1)よりもさらに大きくなる領域(2)ではB級動作からAB級動作に近づくようにゲインが急激に増大し、入力信号の電力Pinが領域(3)よりもさらに大きくなる領域(3)ではAB級動作を行うトランジスタによって、実線で示すPin-ゲイン特性を実現する。領域(2)は、B級動作からAB級動作に遷移する過渡的な領域であり、B級動作とAB級動作の間の動作を行う領域である。ADP110に含まれるトランジスタがB級動作を行うときのゲート電圧は第1ゲート電圧の一例であり、AB級動作を行うときのゲート電圧は第2ゲート電圧の一例である。
【0034】
実線で示すPin-ゲイン特性は、B級動作によって略一定のゲインが得られる領域(1)と、B級動作からAB級動作に近づくようにゲインが増大する領域(2)と、AB級動作によってゲインが急激に増大する領域(3)とを合わせた特性である。実線で示すPin-ゲイン特性は、領域(1)から領域(3)までのPin-ゲイン特性を合わせることによって、C級動作のPin-ゲイン特性の変化特性に似た変化特性を実現している。また、実線で示すPin-ゲイン特性は、B級動作と、B級動作及びAB級動作の過渡期の動作と、AB級動作とによって実現されるため、C級動作よりも高いゲインが得られる。実線で示すPin-ゲイン特性は、出力段増幅器50のAB級動作によるPin-ゲイン特性を入力信号の電力Pinを表す横軸に対してゲインを表す縦軸方向に逆に歪ませたPin-ゲイン特性の一例である。
【0035】
〔ADP110の概略的な構成とPin-ゲイン特性〕
図3は、APD110の内部構成を簡略化して示す図である。
図3には、APD110に加えて、出力段増幅器50と各部におけるPin-ゲイン特性とを示す。APD110は、リニアライザ(線形化回路)111及びゲート制御回路112を有する。リニアライザ111は、ゲート端子(制御端子)を有するトランジスタ(
図3では図示を省略)を含む。
図2で説明したADP110のPin-ゲイン特性とは、
図3におけるリニアライザ111のPin-ゲイン特性のことである。
【0036】
ゲート制御回路112は、RF信号入力端子101から入力されるRF信号の信号レベルを検出するカプラ112Aを有し、カプラ112Aで検出したRF信号の信号レベルに応じて、リニアライザ111のトランジスタのゲート端子のゲート電圧Vgを制御する。カプラ112Aは、方向性結合器の一例である。
【0037】
図3では、ゲート制御回路112が出力するゲート電圧Vgの入力信号の電力Pinに対するPin-Vg特性を破線の吹き出しの中に示す。また、リニアライザ111、出力段増幅器50、及びRF信号出力端子102の下に、各々におけるPin-ゲイン特性を示す。
図3に示すリニアライザ111、出力段増幅器50、及びRF信号出力端子102のPin-ゲイン特性には、ゲート制御回路112が出力するゲート電圧Vgによってリニアライザ111のトランジスタのゲート電圧が制御される場合のゲインを実線で示す。
【0038】
また、比較用に、リニアライザ111のトランジスタがB級動作のみを行う場合のリニアライザ111のPin-ゲイン特性におけるゲインを破線で示す。すなわち、比較用に示す破線の特性は、リニアライザ111のトランジスタのゲート電圧がゲート制御回路112によって制御されずに、リニアライザ111のトランジスタがB級動作のみを行う場合のゲインを示す。
【0039】
また、RF信号出力端子102におけるPin-ゲイン特性には、ゲート制御回路112が出力するゲート電圧Vgによってリニアライザ111のトランジスタのゲート電圧Vgが制御される場合に信号出力端子102から出力されるRF信号に与えられるゲインを実線で示す。また、比較用に、RF信号出力端子102におけるPin-ゲイン特性には、ゲート電圧Vgがゲート制御回路112によって制御されずに、リニアライザ111のトランジスタがB級動作のみを行う場合に信号出力端子102から出力されるRF信号に与えられるゲインを破線で示す。
【0040】
ゲート制御回路112は、破線の吹き出しの中に示すPin-Vg特性のように、領域(1)、(2)、(3)においてゲート電圧Vgを制御する。ゲート電圧Vgは、領域(1)では入力信号の電力Pinの増大に伴って緩やかに増大し、領域(2)では入力信号の電力Pinの増大に伴って領域(1)よりも急激に増大し、領域(3)では入力信号の電力Pinの増大に伴って領域(2)よりもさらに急激に増大する。
【0041】
このようなPin-Vg特性によってゲート電圧Vgが制御されるリニアライザ111のPin-ゲイン特性は、領域(1)では破線で示すB級動作のゲインと等しいが、領域(2)及び(3)ではB級動作よりもゲインが増大し、
図2に示すC級動作と同様に入力信号の電力Pinが大きい領域で急激にゲインが増大している。このようにゲート制御回路112がゲート電圧Vgを制御することによって、
図2に実線で示すとともに、
図3のリニアライザ111の下に実線で示すPin-ゲイン特性が実現される。
【0042】
このようなリニアライザ111のPin-ゲイン特性で増幅されたRF信号が出力段増幅器50に入力されると、出力段増幅器50のPin-ゲイン特性の歪の影響を受ける。このため、ゲート制御回路112によってゲート電圧Vgが制御されない場合の信号出力端子102におけるPin-ゲイン特性は、破線で示すように領域(2)に入るあたりでゲインが急激に低下する特性になる。
【0043】
これに対して、ゲート制御回路112によってゲート電圧Vgが制御される場合の信号出力端子102におけるPin-ゲイン特性は、実線で示すように領域(2)に入っても領域(1)と同様に略一定のゲインが得られ、領域(3)における入力信号の電力Pinが最も高い領域でゲインが飽和するまで、略一定のゲインが得られる。ADP110を用いて出力段増幅器50のPin-ゲイン特性を補償することによって、RF信号入力端子101に入力されるRF信号の電力Pinに対してRF信号出力端子102から出力されるRF信号に与えられるゲインの関係を表すPin-ゲイン特性を平坦化させることができる。
【0044】
なお、ADP110のリニアライザ111のトランジスタにC級動作を行わせずに、B級動作と、B級動作及びAB級動作の過渡期の動作と、AB級動作とを行わせるのは、C級動作よりも高いゲインを得るためである。このようにしてC級動作よりも高いゲインを得ることにより、増幅装置100の小型化を実現する。この詳細は後述する。
【0045】
〔増幅装置100の構成〕
図4は、増幅装置100の構成を示す図である。増幅装置100は、
図1及び
図3に示すRF信号入力端子101、RF信号出力端子102、APD110、及び出力段増幅器50の他に、分配器120及び結合器130を含む。また、APD110は、リニアライザ111及びゲート制御回路112に加えて、バッファアンプ110Aを有する。バッファアンプ110Aは、バッファ回路の一例であり、リニアライザ111の前段に設けられている。バッファアンプ110Aとリニアライザ111は、線形化回路113を構成する。
【0046】
図4では、RF信号入力端子101及びRF信号出力端子102を3つの端子で示す。3つの端子は、GSG(グランド-シグナル-グランド)を表し、RF信号入力端子101とRF信号出力端子102との間の多くの区間は、マイクロストリップラインのように特性インピーダンスが設定された伝送線路によって接続されている。特性インピーダンスは、一例として50Ωである。
【0047】
図4に示す増幅装置100では、APD110が2つのリニアライザ111と2つのバッファアンプ110Aとを有する。2つのリニアライザ111と2つのバッファアンプ110Aとは、それぞれ直列に接続されている。また、増幅装置100は、2つの出力段増幅器50を含む。各出力段増幅器50は、DA(Driver Amplifier)51とPA(Power Amplifier)52とを有する。PA52は、パワーアンプの一例である。各出力段増幅器50の内部において、DA51とPA52は直列に接続されている。
図4に示す増幅装置100では、分配器120と結合器130の間に、バッファアンプ110A、リニアライザ111、DA51、及びPA52が直列に接続された直列回路が2つ並列に接続されている。分配器120と結合器130との間で、分配器120と結合器130の間に、バッファアンプ110A、リニアライザ111、DA51、及びPA52が直列に接続された直列回路が2つ並列に接続されることによって、RF信号入力端子101に入力されるRF信号を増大させることができる。なお、ここでは分配器120と結合器130の間に、2つの直列回路が並列に接続される形態について説明するが、互いに並列に接続される直列回路の数は3つ以上であってもよい。
【0048】
〔RF信号入力端子101及びカプラ112Aの構成〕
RF信号入力端子101にはゲート制御回路112のカプラ112Aが接続されている。カプラ112Aは、方向性結合器の一例であり、入力端子112A1と出力端子112A2及び112A3を有する。出力端子112A2は第1出力端子の一例であり、出力端子112A3は第2出力端子の一例である。入力端子112A1は、RF信号入力端子101に接続されている。カプラ112Aは、RF信号入力端子101から入力端子112A1に入力されるRF信号を出力端子112A2から出力するとともに、入力端子112A1に入力されるRF信号の交流成分の一部を出力端子112A3から出力する。
【0049】
〔分配器120の構成〕
分配器120は、入力端子121と出力端子122A及び122Bとを有する。入力端子121は、カプラ112Aの出力端子112A2に接続されている。出力端子122Aは、
図4で上側に示す直列回路のバッファアンプ110Aの入力端子110A1に接続され、出力端子122Bは、
図4で下側に示す直列回路のバッファアンプ110Aの入力端子に接続される。分配器120は、カプラ112Aから入力端子121に入力されるRF信号の電力を均等に二分して出力端子122A及び122Bから出力する。
【0050】
〔バッファアンプ110Aの構成〕
バッファアンプ110Aは、入力端子110A1と出力端子110A2とを有する。
図4における上側の直列回路のバッファアンプ110Aの入力端子110A1は、分配器120の出力端子122Aに接続され、出力端子110A2は、上側のリニアライザ111の入力端子111A1に接続されている。
図4における下側の直列回路のバッファアンプ110Aの入力端子110A1は、分配器120の出力端子122Bに接続され、出力端子110A2は、下側のリニアライザ111の入力端子111A1に接続されている。バッファアンプ110Aは、FETを含み、FETのゲート端子にはゲート電圧Vg1が印加され、ドレイン端子にはドレイン電圧Vd1が印加される。
【0051】
リニアライザ111のトランジスタのゲート端子に印加されるゲート電圧Vgが変化してリニアライザ111のトランジスタの動作がB級動作から過渡状態を経てAB級動作に変わると、リニアライザ111のトランジスタの入力インピーダンスが変動する。また、リニアライザ111のトランジスタの動作がAB級動作から過渡状態を経てB級動作に変わると、リニアライザ111のトランジスタの入力インピーダンスが変動する。
【0052】
バッファアンプ110Aは、リニアライザ111のトランジスタの入力インピーダンスが変動しても、リニアライザ111の入力側から見たバッファアンプ110Aの出力インピーダンスと、バッファアンプ110Aの出力側から見たリニアライザ111の入力インピーダンスとがある程度整合した状態になるようにするために設けられている。
【0053】
例えば、リニアライザ111のトランジスタがB級動作を行っている状態で、バッファアンプ110Aの出力インピーダンスと、リニアライザ111の入力インピーダンスとを整合させたとする。この場合には、リニアライザ111のトランジスタがAB級動作を行っている状態でも、バッファアンプ110Aの出力インピーダンスと、リニアライザ111の入力インピーダンスとがある程度整合した状態になるようにすればよい。これは、リニアライザ111のトランジスタがAB級動作を行っている状態で、バッファアンプ110Aの出力インピーダンスと、リニアライザ111の入力インピーダンスとを整合させた場合においても同様である。
【0054】
また、リニアライザ111のトランジスタがB級動作とAB級動作の間の動作を行っている状態で、バッファアンプ110Aの出力インピーダンスと、リニアライザ111の入力インピーダンスとを整合させてもよい。この場合には、リニアライザ111のトランジスタがB級動作とAB級動作のいずれを行っている状態においても、バッファアンプ110Aの出力インピーダンスと、リニアライザ111の入力インピーダンスとがある程度整合された状態になる。
【0055】
また、より具体的には、バッファアンプ110Aは、リニアライザ111のトランジスタの入力インピーダンスが変動しても、バッファアンプ110Aの出力端子110A2からリニアライザ111の入力端子111A1に入力されるRF信号の反射損失が所定値以下に収まるようにするために設けられている。反射損失が大きいと、バッファアンプ110Aからリニアライザ111にRF信号が効率的に入力しなくなり、RF信号の伝送効率が低下するからである。ここで、反射損失とは、RF信号が入力される高周波回路における入力電力に対する反射電力の比をデシベル(dB)で表したものである。
【0056】
例えば、リニアライザ111のトランジスタがB級動作を行っている状態で反射損失の所定値を-10dBに設定すればよい。このようにすれば、リニアライザ111のトランジスタがAB級動作、又は、B級動作とAB級動作の間の動作を行っている状態では反射損失は-10dBよりも上昇し、例えば-7dBや-5dBになる。このように、リニアライザ111のトランジスタがB級動作を行っている状態で反射損失の所定値を設定した場合には、リニアライザ111のトランジスタがAB級動作、又は、B級動作とAB級動作の間の動作を行っている状態における反射損失が、一例としてE帯における無線通信に増幅装置100を適用可能な上限レベル以下(所定レベル以下)になっていればよい。これは、リニアライザ111のトランジスタがAB級動作を行っている状態で反射損失の所定値を設定した場合においても同様である。リニアライザ111のトランジスタが各動作を行うときにおいて、バッファアンプ110Aの出力インピーダンスは反射損失が所定レベル以下になるように設定されるので、リニアライザ111のトランジスタがいずれの動作を行うときにおいてもバッファアンプ110Aからリニアライザ111に効率的にRF信号を入力することができる。
【0057】
このように、一例としてE帯における無線通信に増幅装置100を適用可能な上限レベルは、例えば上述した-7dBや-5dBであり、無線通信の利用状況等に応じて-10dBや-15dBのようにさらに反射損失が少なくなるレベルに設定してもよい。このようにすれば、E帯において反射損失が低く、良好な無線通信の環境が得られる。
【0058】
また、バッファアンプ110Aは、リニアライザ111の入力インピーダンスが変動しても、入力インピーダンスの変動による影響がバッファアンプ110Aよりも前段の分配器120に及ぶことを抑制するために設けられている。分配器120とバッファアンプ110Aとの間はマイクロストリップライン等によってインピーダンスが整合されている。このため、リニアライザ111の入力インピーダンスの変動の影響がバッファアンプ110Aの前段に及ぶと、分配器120とバッファアンプ110Aとの間におけるインピーダンス整合に影響が生じ、RF信号の伝送効率が低下する。このようなリニアライザ111の入力インピーダンスの変動の影響がバッファアンプ110Aよりも前段に及ばないようにするために、バッファアンプ110Aを設けている。バッファアンプ110AはFETを含む。FETは入力側と出力側との間で高いアイソレーション(分離性)が得られる。このようなバッファアンプ110AのFETの高いアイソレーションを利用して、リニアライザ111の入力インピーダンスの変動の影響がバッファアンプ110Aよりも前段に及ばないようにする構成を実現することができる。
【0059】
〔リニアライザ111の構成〕
リニアライザ111は、入力端子111A1と出力端子111A2とを有する。入力端子111A1は、バッファアンプ110Aの出力端子110A2に接続され、出力端子111A2は、DA51の入力端子51Aに接続されている。リニアライザ111のトランジスタはFETによって実現され、FETのゲート端子にはゲート制御回路112からゲート電圧Vgが印加され、ドレイン端子にはドレイン電圧Vdが印加される。リニアライザ111のFETは、ゲート制御回路112からゲート電圧VgがRF信号のレベルに応じて変動することによって、B級動作、AB級動作、又は、B級動作とAB級動作の間の過渡状態における動作を行う。このようにリニアライザ111のFETの動作が変動することによって、リニアライザ111の入力インピーダンスは変動する。
【0060】
〔DA51の構成〕
DA51は、入力端子51Aと出力端子51Bとを有する。入力端子51Aは、リニアライザ111の出力端子111A2に接続され、出力端子51Bは、PA52の入力端子52Aに接続されている。DA51は、下側のDA51の下の吹き出しの中に示すように、複数のFETによって構成される複数のアンプを並列に接続した構成を有する。DA51のFETのゲート端子にはゲート電圧Vg6が印加され、ドレイン端子にはドレイン電圧Vd6が印加される。DA51の増幅率は、PA52の増幅率よりも低く、高出力電力増幅器であるPA52に対して、中出力電力増幅器である。DA51は、PA52のドライバアンプとして設けられている。
【0061】
〔PA52の構成〕
PA52は、入力端子52Aと出力端子52Bとを有する。入力端子52Aは、DA51の出力端子51Bに接続される。
図4における上側のPA52の出力端子52Bは、結合器130の入力端子131Aに接続され、
図4における下側のPA52の出力端子52Bは、結合器130の入力端子131Bに接続されている。PA52は、下側のPA52の下の吹き出しの中に示すように、複数のFETによって構成される複数のアンプを並列に接続した構成を有する。PA52の複数のアンプは、DA51の複数のアンプとそれぞれ直列に接続され、直列に接続されたDA51のアンプとPA52のアンプとが互いに並列に接続されている。PA52のFETのゲート端子にはゲート電圧Vg7が印加され、ドレイン端子にはドレイン電圧Vd7が印加される。PA52の増幅率は、DA51の増幅率よりも高く、高出力電力増幅器である。
【0062】
〔結合器130の構成〕
結合器130は、入力端子131A及び131Bと出力端子132とを有する。入力端子131Aは、
図4で上側に示す直列回路のPA52の出力端子52Bに接続され、入力端子131Bは、
図4で下側に示す直列回路のPA52の出力端子52Bに接続されている。出力端子132は、RF信号出力端子102に接続されている。結合器130は、2つのPA52から2つの入力端子131A及び131Bに入力されるRF信号を合成して出力端子132から出力する。
【0063】
〔ゲート制御回路112の構成〕
ゲート制御回路112は、カプラ112A、増幅器112B、整流器112C、及びレベルシフタ112Dを有し、これらのうちのカプラ112Aについては既に説明済みであるため、ここでは、増幅器112B、整流器112C、及びレベルシフタ112Dについて説明する。
【0064】
増幅器112Bは、入力端子112B1と出力端子112B2とを有する。入力端子112B1は、カプラ112Aの出力端子112A3に接続されており、出力端子112B2は、整流器112Cの入力端子112C1に接続されている。増幅器112BはFETを有する。増幅器112BのFETは、第4FETの一例である。FETのゲート端子にはゲート電圧Vg4が印加され、ドレイン端子にはドレイン電圧Vd4が印加される。ゲート電圧Vg4及びドレイン電圧Vd4は固定電圧である。増幅器112Bは、カプラ112Aから入力されるRF信号の交流成分を所定のゲインで増幅して整流器112Cに出力する。
【0065】
整流器112Cは、入力端子112C1と出力端子112C2とを有する。出力端子112C2は、レベルシフタ112Dの入力端子112D1に接続されている。整流器112Cは、増幅器112Bで増幅された交流成分を整流して得る直流成分をレベルシフタ112Dに出力する。
【0066】
レベルシフタ112Dは、入力端子112D1と出力端子112D2とを有する。出力端子112D2は、リニアライザ111のFETのゲート端子に接続されており、ゲート電圧Vgを出力する。レベルシフタ112Dは、整流器112Cから入力される直流成分に応じたゲート電圧Vgを出力する。レベルシフタ112Dが出力するゲート電圧Vgは、RF信号の信号レベルが
図3のリニアライザ111のPin-ゲイン特性における領域(1)のレベルのときには、リニアライザ111のFETにB級動作を行わせる電圧になる。また、レベルシフタ112Dが出力するゲート電圧Vgは、RF信号の信号レベルが
図3のリニアライザ111のPin-ゲイン特性における領域(2)のレベルのときには、リニアライザ111のFETにB級動作とAB級動作との間の動作を行わせる電圧になる。また、レベルシフタ112Dが出力するゲート電圧Vgは、RF信号の信号レベルが
図3のリニアライザ111のPin-ゲイン特性における領域(3)のレベルのときには、リニアライザ111のFETにAB級動作を行わせる電圧になる。
【0067】
〔ゲート制御回路112の等価回路〕
図5は、ゲート制御回路112の等価回路を示す図である。ここでは、カプラ112A、増幅器112B、整流器112C、及びレベルシフタ112Dの等価回路について説明する。
【0068】
カプラ112Aは、入力端子112A1と出力端子112A2及び112A3とに加えて、2本の伝送線路112A4及び112A5を有する。伝送線路112A4及び112A5は、一例としてマイクロストリップラインで構成される。伝送線路112A4は、入力端子112A1と出力端子112A2との間を接続しており、伝送線路112A5は、出力端子112A3と、グランドに接続された抵抗器との間を接続している。伝送線路112A4及び112A5は、近接した状態で平行に延在しており、容量結合している。伝送線路112A4に入力端子112A1からRF信号が入力されると、RF信号は出力端子112A2から出力され、伝送線路112A5にはRF信号の交流成分を表す信号が発生する。伝送線路112A5に発生するRF信号の交流成分を表す信号は、出力端子112A3から出力される。
【0069】
増幅器112Bは、入力端子112B1及び出力端子112B2に加えて、コンデンサ112B3、FET112B4、直流電源112B5及び112B6、及びコンデンサ112B7を有する。FET112B4は、第4FETの一例であり、FET112B4のゲート端子は第4ゲート端子の一例であり、FET112B4のドレイン端子は第4ドレイン端子の一例である。コンデンサ112B3は、入力端子112B1とFET112B4のゲート端子との間に直列に接続されており、入力端子112B1に入力される信号の直流成分を遮断する。
【0070】
FET112B4は、コンデンサ112B3に接続されるゲート端子(G)と、コンデンサ112B7に接続されるドレイン端子(D)と、グランドに接続されるソース端子(S)とを有する。ゲート端子には、ゲート電圧Vg4を出力する直流電源112B5が接続され、ドレイン端子にはドレイン電圧Vd4を出力する直流電源112B6が接続されており、FET112B4はオンにされている。このため、FET112B4は、ゲート端子に入力されるRF信号の交流成分を増幅してドレイン端子からコンデンサ112B7を介して整流器112Cに出力することができる。コンデンサ112B7は、ドレイン端子と出力端子112B2との間に直列に接続されており、FET112B4によって増幅された信号の直流成分を遮断する。FET112B4は、RF信号の信号レベルに応じた交流成分を増幅して整流器112Cに出力することができ、RF信号の信号レベルに応じて確実にリニアライザ111のトランジスタにB級動作又はAB級動作を行わせることができる。
【0071】
整流器112Cは、入力端子112C1及び出力端子112C2に加えて、コンデンサ112C3、ダイオード112C4、コンデンサ112C5、コイル112C6、及び抵抗器112C7を有する。コンデンサ112C5は、平滑素子の一例である。コンデンサ112C3は、入力端子112C1とダイオード112C4のカソードとの間に直列に接続されており、入力端子112C1に入力される信号の直流成分を遮断する。
【0072】
ダイオード112C4は、整流素子の一例である。ダイオード112C4は、アノードがグランドに接続され、カソードがコンデンサ112C3と、コンデンサ112C5の一方(
図5中の上側)の電極と、コイル112C6とに接続されている。ダイオード112C4は、コンデンサ112C3とコンデンサ112C5とを結線路から分岐して、グランドとの間に接続されている。ダイオード112C4の閾値は、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(1)にあるときの交流成分の振幅に設定されている。
【0073】
このため、ダイオード112C4は、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(1)の信号レベルのときにはオフであり、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(2)の信号レベルになるとオンになる。ダイオード112C4は、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(2)又は(3)の信号レベルであるときに、コンデンサ112C3を介して入力される交流成分を整流して出力する。ダイオード112C4は、半波整流を行う。なお、半波整流を行うダイオード112C4の向きは逆向きであってもよい。すなわち、ダイオード112C4のアノードがコンデンサ112C3、コンデンサ112C5、及びコイル112C6に接続され、カソードがグランドに接続されていてもよい。また、ダイオード112C4の代わりに4つのダイオードをブリッジ状に接続して全波整流を行ってもよい。
【0074】
コンデンサ112C5は、平滑用コンデンサであり、ダイオード112C4が半波整流によって生成した信号を平滑化する。コイル112C6は、コンデンサ112C5の一方の電極(
図5における上側の電極)と出力端子112C2との間に直列に接続されており、コンデンサ112C5によって平滑化された電圧の交流成分を遮断し、直流成分のみを出力する。抵抗器112C7は、コイル112C6と出力端子112C2との間から分岐してグランドとの間に接続されており、ダイオード112C4がオンになって交流成分が整流されたときに、出力端子112C2に直流電圧ΔVdcを生成するために設けられている。
【0075】
整流器112Cの出力端子112C2の直流電圧ΔVdcは、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(1)の信号レベルのときには略約ゼロであり、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(2)又は(3)の信号レベルのときには、ダイオード112C4が整流する交流成分の電圧値の増大に伴って増大する。直流電圧ΔVdcは、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(1)の信号レベルのときには、出力端子112C2に接続されるゲート端子を有するレベルシフタ112DのFET112D5をオフにする電圧になる。また、直流電圧ΔVdcは、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(2)又は(3)の信号レベルのときには、レベルシフタ112DのFET112D5をオンにする電圧になる。
【0076】
整流器112Cは、FET112D4のドレイン端子から入力される増幅された交流成分を反映させた直流電圧をレベルシフタ112Dに出力することができ、RF信号の信号レベルに応じて確実にリニアライザ111のトランジスタにB級動作又はAB級動作を行わせることができる。また、ダイオード112C4は、RF信号のレベルが
図3に示す領域(1)の信号レベルのときと、領域(2)又は(3)の信号レベルのときとで、レベルシフタ111に出力する直流電圧のレベルを確実に変化させることができ、RF信号の信号レベルに応じて確実にリニアライザ111のトランジスタにB級動作又はAB級動作を行わせることができる。
【0077】
レベルシフタ112Dは、入力端子112D1及び出力端子112D2に加えて、直流電源112D3、抵抗器112D4、FET112D5、ダイオード112D6、及びコンデンサ112D7を有する。FET112D5は、第5FETの一例であり、FET112D5のゲート端子は第5ゲート端子の一例である。
【0078】
直流電源112D3は、電圧Vcを出力する。直流電源112D3は、抵抗器112D4を介してFET112D5のドレイン端子に接続されており、直流電源112D3及び抵抗器112D4は、出力端子112D2とグランドの間で直列に接続されている。FET112D5がオフのとき、レベルシフタ112Dが出力端子112D2から出力するゲート電圧Vgは、電圧Vcになる。電圧Vcは、リニアライザ111のFETに領域(1)でB級動作を行わせる電圧である。
【0079】
FET112D5は、入力端子112D1に接続されるゲート端子と、抵抗器112D4及び出力端子112D2に接続されるソース端子と、ダイオード112D6のアノードに接続されるドレイン端子とを有する。FET112D5は、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(1)の信号レベルのときにはオフであり、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(2)又は(3)の信号レベルのときにはオンになる。
【0080】
ダイオード112D6は、FET112D5のドレイン端子に接続されるアノードと、グランドに接続されるカソードとを有する。コンデンサ112D7は、FET112D5のソース端子と抵抗器112D4との接続点と、出力端子112D2との間から分岐してグランドとの間に接続されている。
【0081】
RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(1)の信号レベルのときにはFET112D5がオフになるため、レベルシフタ112Dが出力するゲート電圧Vgは、電圧Vcになる。ゲート電圧Vgが電圧Vcであることは、ゲート電圧Vgが第1ゲート電圧であることの一例である。このため、リニアライザ111のFETはB級動作を行う。
【0082】
また、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(2)又は(3)の信号レベルのときにはFET112D5がオンになる。ここで、FET112D5のゲート端子に対するソース端子の電圧をVgsとすると、FET112D5がオンの状態ではソース端子からドレイン端子に電流が流れるため、出力端子112D2のゲート電圧Vgは、Vg=Vc-Vgs+ΔVdcになる。ゲート電圧VgがVg=Vc-Vgs+ΔVdであることは、ゲート電圧Vgが第2ゲート電圧であることの一例である。
【0083】
出力端子112C2から出力される直流電圧ΔVdcは、RF信号入力端子101に入力されるRF信号のレベルが
図3に示す領域(2)又は(3)の信号レベルのときにはダイオード112C4が整流する交流成分の電圧値の増大に伴って増大するため、出力端子112D2のゲート電圧Vgは、ダイオード112C4が整流する交流成分の電圧値の増大に伴って増大することになる。このため、RF信号が領域(1)の信号レベルのときにソース端子から電圧Vcを出力できるとともに、RF信号が領域(2)又は(3)の信号レベルのときにソース端子から電圧Vcよりも高いVg=Vc-Vgs+ΔVdを出力できる。したがって、RF信号のレベルが領域(1)の信号レベルのときに確実にリニアライザ111のトランジスタにB級動作を行わせることができるとともに、RF信号のレベルが領域(2)又は(3)の信号レベルのときに確実にリニアライザ111のトランジスタにAB級動作を行わせることができる。以上のようなゲート制御回路112を用いることにより、出力段増幅器50の入出力特性の歪を確実に補償できることができる。
【0084】
〔バッファアンプ110A及びリニアライザ111の等価回路〕
図6は、バッファアンプ110A及びリニアライザ111の等価回路を示す図である。バッファアンプ110Aは、入力端子110A1及び出力端子110A2に加えて、整合回路201と、FET202と、整合回路203と、整合回路204及び205とを有する。FET202は、第1FETの一例である。FET202のゲート端子は第1ゲート端子の一例であり、FET202のドレイン端子は、第1ドレイン端子の一例である。
【0085】
整合回路201は、入力端子110A1とFET202のゲート端子との間に設けられており、入力端子201Aと出力端子201Bとを有する。入力端子201Aは入力端子110A1に接続されており、出力端子201Bは、FET202のゲート端子と、整合回路204の出力端子204Bとに接続されている。整合回路201は、一例として2つのコンデンサと1つのコイルを有する。整合回路201は、分配器120とバッファアンプ110Aとの間のインピーダンス整合を取るために設けられている。
【0086】
整合回路203は、FET202のドレイン端子と出力端子110A2との間に設けられており、入力端子203Aと出力端子203Bとを有する。入力端子203Aは、FET202のドレイン端子と整合回路205の出力端子205Bとに接続されており、出力端子203Bは出力端子110A2に接続されている。整合回路203は、一例として1つのコイルと1つのコンデンサとを有する。整合回路203は、カプラ111Cを介して接続されるリニアライザ111との間のインピーダンス整合を取るために設けられている。また、リニアライザ111の入力インピーダンスは、リニアライザ111のFETの動作状態がB級動作又はAB級動作になることで変化する。このため、整合回路203は、リニアライザ111のFETの動作状態が変化しても、出力端子110A2からリニアライザ111の入力端子111A1に入力されるRF信号の反射損失が所定値以下に収まるように、コンデンサの静電容量と、コイルのインダクタンスとが設定されている。
【0087】
整合回路204は、電源端子204Aと出力端子204Bとを有する。電源端子204Aは、直流電圧Vg1を出力する直流電源に接続されている。整合回路204の電源端子204Aと出力端子204Bとの間には、FET202のゲート端子と電源端子204Aとの間でインピーダンス整合を取るために、一例として、2つのコンデンサと、1つのコイルと、1つの抵抗器とが設けられている。出力端子204Bは、FET202のゲート端子と整合回路201の出力端子201Bとに接続されている。整合回路204は、FET202のゲート端子にゲート電圧Vg1を出力する。ゲート電圧Vg1は固定の直流電圧である。
【0088】
整合回路205は、電源端子205Aと出力端子205Bとを有する。電源端子205Aは、直流電圧Vd1を出力する直流電源に接続されている。整合回路205の電源端子205Aと出力端子205Bとの間には、FET202のドレイン端子と電源端子205Aとの間でインピーダンス整合を取るために、一例として、2つのコンデンサと、1つのコイルと、1つの抵抗器とが設けられている。出力端子205Bは、FET202のドレイン端子と、整合回路203の入力端子203Aとに接続されている。整合回路205は、FET202のドレイン端子にドレイン電圧Vd1を出力する。ドレイン電圧Vd1は固定の直流電圧である。
【0089】
FET202は、整合回路201の出力端子201Bと整合回路204の出力端子204Bとに接続されるゲート端子と、整合回路203の入力端子203Aと整合回路205の出力端子205Bとに接続されるドレイン端子と、グランドに接続されるソース端子とを有する。FET202は、ゲート端子にゲート電圧Vg1が印加されるとともに、ドレイン端子にドレイン電圧Vd1が印加されることによってオンになり、整合回路201を介してゲート端子に入力される信号を増幅して出力する。
【0090】
バッファアンプ110Aは、整合回路201で分配器120との間のインピーダンス整合を取るとともに、整合回路203でバッファアンプ110Aの出力インピーダンスと、リニアライザ111の入力インピーダンスとを整合させている。また、FET202は入力側と出力側との間で高いアイソレーションが得られるため、リニアライザ111の入力インピーダンスの変動の影響がバッファアンプ110Aよりも前段に及ばないようにしている。
【0091】
以上のようなバッファアンプ110Aと、リニアライザ111とは、カプラ112Aで交流的に接続されている。カプラ112Aは、容量結合した2つの伝送路を有する。2つの伝送路は、一例としてマイクロストリップラインで構成され、一方の伝送路はバッファアンプ110Aの出力端子110A2に接続され、他方の伝送路はリニアライザ111の入力端子111A1に接続されている。
【0092】
リニアライザ111は、入力端子111A1及び出力端子111A2に加えて、整合回路211と、2つのFET212と、整合回路213と、整合回路214及び215とを有する。2つのFET212は、リニアライザ111のトランジスタの一例であり、2つのFET212のゲート端子は、リニアライザ111のトランジスタの制御端子の一例である。
【0093】
2つのFET212のうちの1つは、第2FETの一例であり、他の1つは第3FETの一例である。2つのFET212のうちの第2FETの一例としてのFET212のゲート端子及びドレイン端子は、それぞれ、第2ゲート端子及び第2ドレイン端子の一例である。2つのFET212のうちの第3FETの一例としてのFET212のゲート端子及びドレイン端子は、それぞれ、第3ゲート端子及び第3ドレイン端子の一例である。
【0094】
整合回路211は、入力端子111A1と2つのFET212のゲート端子との間に設けられており、入力端子211Aと、出力端子211B1及び211B2と、接続端子211Cとを有する。入力端子211Aは入力端子111A1に接続されており、出力端子211B1及び211B2は、2つのFET212のゲート端子にそれぞれ接続されている。接続端子211Cは、整合回路214の出力端子214Bに接続されている。整合回路211は、一例として1つのコンデンサと2つのコイルと1つの抵抗器とを有する。整合回路211は、バッファアンプ110Aとリニアライザ111との間のインピーダンス整合を取るために設けられており、より具体的には、バッファアンプ110Aの出力インピーダンスに整合するリニアライザ111の入力インピーダンスを実現するために設けられている。整合回路211の抵抗器は、2つのFET212のゲート端子の間に接続されるとともに、接続端子211Cに接続されている。2つのFET212のゲート端子の間に整合回路211の抵抗器を接続するのは、2つのFET212のゲート端子の間のアイソレーションを向上させるためである。接続端子211Cには、整合回路214を介してゲート制御回路112からゲート電圧Vgが入力される。なお、整合回路211の抵抗器を接続しなくても2つのFET212のゲート端子の間のアイソレーションが得られる場合には、整合回路211の抵抗器を設けなくてもよい。
【0095】
整合回路213は、2つのFET212のドレイン端子と出力端子111A2との間に設けられており、入力端子213A1及び213A2と、出力端子213Bと、接続端子213Cとを有する。入力端子213A1及び213A2は、2つのFET212のドレイン端子にそれぞれ接続されている。出力端子213Bは出力端子111A2に接続されている。接続端子213Cは、整合回路215の出力端子215Bに接続されている。整合回路213は、一例として2つのコイルと、2つのコンデンサと、1つの抵抗器とを有する。整合回路213は、リニアライザ111と出力段増幅器50との間のインピーダンス整合を取るために設けられている。また、出力段増幅器50から見たリニアライザ111の出力インピーダンスは、リニアライザ111のFETの動作状態がB級動作又はAB級動作になることで変化する。このため、整合回路213は、リニアライザ111のFETの動作状態が変化しても、出力端子111A2から出力段増幅器50に入力されるRF信号の反射損失が所定値以下に収まるように、コンデンサの静電容量と、コイルのインダクタンスとが設定されている。
【0096】
整合回路214は、電源端子214Aと出力端子214Bとを有する。電源端子214Aは、直流電圧Vgを出力するゲート制御回路112のレベルシフタ112Dの出力端子112D2(
図4及び
図5参照)に接続されている。整合回路214の電源端子214Aと出力端子214Bとの間には、2つのFET212のゲート端子と電源端子214Aとの間でインピーダンス整合を取るために、一例として、2つのコンデンサと、1つのコイルとを有する整合回路が設けられている。出力端子214Bは、整合回路211の接続端子211Cと出力端子211B1及び211B2を介して、2つのFET212のゲート端子に接続されている。整合回路214は、2つのFET212のゲート端子にゲート電圧Vgを出力する。
【0097】
整合回路215は、電源端子215Aと出力端子215Bとを有する。電源端子215Aは、直流電圧Vdを出力する直流電源に接続されている。整合回路215の電源端子215Aと出力端子215Bとの間には、2つのFET212のドレイン端子と電源端子215Aとの間でインピーダンス整合を取るために、一例として、2つのコンデンサと、1つのコイルとを有する整合回路が設けられている。出力端子215Bは、整合回路213の2つのコイルを介して2つのFET212のドレイン端子に接続されている。整合回路215は、2つのFET212のドレイン端子にドレイン電圧Vdを出力する。ドレイン電圧Vdは固定の直流電圧である。
【0098】
2つのFET212は、整合回路211の出力端子211B1及び211B2に接続されるゲート端子と、整合回路213の入力端子213A1及び213A2に接続されるドレイン端子と、グランドに接続されるソース端子とを有する。2つのFET212のゲート端子とドレイン端子との間は、リニアライザ111の入力端子111A1と出力端子111A2との間で並列に接続されている。リニアライザ111の内部において、2つのFET212は整合回路211を介して入力端子111A1に接続されている。このため、2つのFET212は、リニアライザ111の入力部に設けられている。2つのFET212は、ゲート端子にゲート電圧Vgが印加されるとともに、ドレイン端子にドレイン電圧Vdが印加されることによってオンになり、整合回路211を介してゲート端子に入力される信号を増幅して出力する。
【0099】
2つのFET212は、ゲート電圧Vgに応じてB級動作、B級動作とAB級動作の間の動作、及びAB級動作を行う。これにより、
図3のリニアライザ111のPin-ゲイン特性に実線で示す特性を実現する。また、2つのFET212のゲート端子とドレイン端子との間を並列に接続することにより、入力端子111A1に入力されるRF信号に対して、より大きなゲインをより安定的に与えることができるため、より大きな電力のRF信号を出力することができる。
【0100】
〔増幅装置100の動作〕
図4に示すように、RF信号入力端子101に入力されたRF信号は、ゲート制御回路112のカプラ112Aを通り、分配器120で分配され、バッファアンプ110Aで増幅され、さらにリニアライザ111によって出力段増幅器50のPin-ゲイン特性を入力信号の電力Pinを表す横軸に対してゲインを表す縦軸方向に逆に歪ませたPin-ゲイン特性で増幅されて、出力段増幅器50に入力される。出力段増幅器50では、RF信号は、DA51及びPA52で増幅される。このときに、リニアライザ111のPin-ゲイン特性で歪まされたRF信号は、DA51及びPA52のPin-ゲイン特性で歪むため、DA51に入力するRF信号の電力Pinに対するRF信号出力端子102から出力されるRF信号のゲインの関係を表すPin-ゲイン特性は、入力信号の電力Pinのレベルが低い領域から高い領域にわたって、略一定のゲインが得られる特性になる。すなわち、出力段増幅器50の飽和出力電力Psatと、1dB利得圧縮点P1dBとの差を低減することができる。また、1dB利得圧縮点P1dBの値が大きくなれば、OIP3の値も良好になる。
【0101】
以上のように、バッファアンプ110Aを設けることによって、リニアライザ111の入力インピーダンスが変動しても、バッファアンプ110Aの出力インピーダンスとリニアライザ111の入力インピーダンスとをある程度のレベルで整合させることができ、バッファアンプ110Aとリニアライザ111との間における反射損失を低減することができる。
【0102】
反射損失が小さいことで、バッファアンプ110Aからリニアライザ111にRF信号が低損失な状態で効率的に入力され、リニアライザ111に入力されたRF信号がPA52のPin-ゲイン特性の逆特性に従って増幅されてからPA52で増幅されることにより、RF信号入力端子101に入力されるRF信号の電力Pinに対してRF信号出力端子102から出力されるRF信号に与えられるゲインの関係を表すPin-ゲイン特性を平坦化させることができる。リニアライザ111がRF信号に与えるゲインは、B級動作又はAB級動作によるものであり、C級動作によって与えられるゲインよりも大きい。このため、増幅装置100は、Pin-ゲイン特性が平坦化され、追加的な増幅器を用いなくても大きなゲインによって増幅されたRF信号を出力することができる。
【0103】
したがって、バッファアンプ110Aからリニアライザ111に入力されるRF信号の反射損失が所定値以下に収まるようにすることにより、増幅装置100の小型化を図ることができる。
【0104】
また、リニアライザ111の入力インピーダンスは、リニアライザ111のトランジスタがB級動作、B級動作及びAB級動作の間の動作、又はAB級動作を行うことによって、ある程度の値に決まる。このため、バッファアンプ110Aの出力インピーダンスをリニアライザ111の入力インピーダンスに合わせて調整することによって、バッファアンプ110Aからリニアライザ111に入力されるRF信号の反射損失が所定値以下に収まるようにすることができる。すなわち、バッファアンプ110Aからリニアライザ111に入力されるRF信号の反射損失は、少なくともバッファアンプ110Aの出力インピーダンスの設定値によって決まることになる。
【0105】
〔実施形態の変形例の増幅装置100M〕
以上では、
図4に示すように、分配器120と結合器130の間に、バッファアンプ110A、リニアライザ111、DA51、及びPA52の直列回路が2つ並列に接続されている形態について説明した。しかしながら、直列回路は1つであってもよい。
【0106】
図7は、実施形態の変形例の増幅装置100Mを示す図である。増幅装置100Mは、バッファアンプ110A、リニアライザ111、DA51、及びPA52の直列回路を1つ含むため、分配器120と結合器130を含まない。このため、ゲート制御回路112のカプラ112Aの出力端子112A2は、バッファアンプ110Aの入力端子110A1に接続され、PA52の出力端子52Bは、RF信号出力端子102に接続されている。カプラ112Aとバッファアンプ110Aとの間はマイクロストリップライン等によってインピーダンスが整合されている。また、PA52とRF信号出力端子102との間は、マイクロストリップライン等によってインピーダンスが整合されている。
【0107】
増幅装置100Mにおいても、増幅装置100と同様に、バッファアンプ110Aとリニアライザ111との間は、リニアライザ111の入力インピーダンスが変動しても、インピーダンスがある程度整合した状態にされる。また、バッファアンプ110Aは、リニアライザ111の入力インピーダンスの変動がバッファアンプ110Aよりも前段のカプラ112Aに及ぶことを抑制する。バッファアンプ110AはFET202(
図6参照)を含むため、バッファアンプ110Aの入力側と出力側との間で高いアイソレーションが得られる。このようなバッファアンプ110AのFETの高いアイソレーションを利用して、リニアライザ111の入力インピーダンスの変動の影響がバッファアンプ110Aよりも前段に及ばないようにする構成を実現することができる。
【0108】
このため、増幅装置100は、増幅装置100と同様に、Pin-ゲイン特性が平坦化され、追加的な増幅器を用いなくても大きなゲインによって増幅されたRF信号を出力することができる。したがって、バッファアンプ110Aからリニアライザ111に入力されるRF信号の反射損失が所定値以下に収まるようにすることにより、増幅装置100Mの小型化を図ることができる。
【0109】
以上、本発明の例示的な実施形態の増幅装置について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0110】
100、100M 増幅装置
101 RF信号入力端子
102 RF信号出力端子
50 出力段増幅器
51 DA
52 PA(パワーアンプ)
110 APD
110A バッファアンプ(バッファ回路)
110A1 入力端子
202 FET(第1FET)
111 リニアライザ
212 FET(第2FET、第3FET)
112 ゲート制御回路(制御回路)
112A カプラ(方向性結合器)
112B 増幅器
112B4 FET(第4FET)
112C 整流器
112C3 コンデンサ
112C4 ダイオード
112C5 コンデンサ(平滑素子)
112D レベルシフタ
112D5 FET(第5FET)
120 分配器
130 結合器