(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】巻上機、及び巻上機製造方法
(51)【国際特許分類】
B66B 11/08 20060101AFI20240528BHJP
B66B 7/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B66B11/08 A
B66B7/00 M
(21)【出願番号】P 2020208777
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】興梠 恵一
(72)【発明者】
【氏名】諏訪園 祥子
(72)【発明者】
【氏名】木村 健一
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/080269(WO,A1)
【文献】特開2017-100860(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01357076(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第103917473(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-31/02
H02K 5/00
F16C 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸部材と、前記回転軸部材に設けられ、前記回転軸部材とともに回転する駆動綱車と、前記回転軸部材における回転軸線方向の前記駆動綱車よりも一方側を回転自在に受ける第1軸受けと、前記回転軸部材における前記回転軸線方向の前記駆動綱車よりも他方側を回転自在に受ける第2軸受けと、前記第1軸受けを保持する第1軸受台と、前記第2軸受けを保持する第2軸受台と、前記第1軸受台及び前記第2軸受台を台面上で支持する支持台とを備える巻上機であって、
前記支持台の前記台面上に載置された前記第1軸受台の軸中心位置を、前記台面における面方向の第1所定位置に位置決めする第1位置決め部材と、
前記支持台の前記台面の面方向と直交する方向に沿い、且つ前記第1所定位置を通る仮想第1軸線を中心とする前記第1軸受台の回転を許容する第1回転許容部と、
前記仮想第1軸線を中心とする前記第1軸受台の回転を係止する第1係止部材と、
前記支持台の前記台面上に載置された前記第2軸受台の軸中心位置を、前記台面における面方向の第2所定位置に位置決めする第2位置決め部材と、
前記支持台の前記台面の面方向と直交する方向に沿い、且つ前記第2所定位置を通る仮想第2軸線を中心とする前記第2軸受台の回転を許容する第2回転許容部と、
前記仮想第2軸線を中心とする前記第2軸受台の回転を係止する第2係止部材と
を備えることを特徴とする巻上機。
【請求項2】
前記第1軸受台が、脚部としての第1脚部を備え、
前記第2軸受台が、脚部としての第2脚部を備え、
前記第1位置決め部材を脚部底面と直交する方向に沿って挿入するための被位置決め穴が、前記第1脚部に配置され、
前記第2位置決め部材を脚部底面と直交する方向に沿って挿入するための被位置決め穴が、前記第2脚部に配置され、
前記仮想第1軸線を中心として前記仮想第1軸線の軸線方向に延びる第1台座穴と、前記仮想第2軸線を中心として前記仮想第1軸線の軸線方向に延びる第2台座穴とが前記支持台に配置され、
前記第1位置決め部材が、前記第1脚部の被位置決め穴と前記支持台の前記第1台座穴とに挿入され、
前記第2位置決め部材が、前記第2脚部の被位置決め穴と前記支持台の前記第2台座穴とに挿入される
ことを特徴とする請求項1に記載の巻上機。
【請求項3】
前記第1脚部の被位置決め穴、及び前記第2脚部の被位置決め穴のそれぞれが、貫通穴からなり、
前記第1位置決め部材が、前記第1脚部の被位置決め穴を貫通し、且つ前記第1台座穴に挿入された状態で前記支持台に固定され、
前記第1脚部の被位置決め穴が、前記仮想第1軸線を中心とする前記第1脚部の回転を許容する前記第1回転許容部であり、
前記第2位置決め部材が、前記第2脚部の被位置決め穴を貫通し、且つ前記第2台座穴に係合した状態で前記支持台に固定され、
前記第2脚部の被位置決め穴が、前記仮想第2軸線を中心とする前記第2脚部の回転を許容する前記第2回転許容部である
ことを特徴とする請求項2に記載の巻上機。
【請求項4】
前記第1脚部の被位置決め穴、及び前記第2脚部の被位置決め穴のそれぞれが、脚部底面から窪む凹部からなり、
前記第1位置決め部材が、前記第1脚部の被位置決め穴と、前記第1台座穴とに挿入された状態で前記第1脚部に固定され、
前記第1台座穴が、前記仮想第1軸線を中心とする前記第1脚部の回転を許容する前記第1回転許容部であり、
前記第2位置決め部材が、前記第2脚部の被位置決め穴と、前記第2台座穴とに係合した状態で前記第2脚部に固定され、
前記第2台座穴が、前記仮想第2軸線を中心とする前記第2脚部の回転を許容する前記第2回転許容部である
ことを特徴とする請求項2に記載の巻上機。
【請求項5】
前記第1係止部材、及び前記第2係止部材のそれぞれを複数備え、
前記第1脚部及び前記第2脚部のそれぞれが、脚
部に雄ネジを貫通させるための貫通穴である雄ネジ用貫通穴を複数備え、
前記支持台が、複数の雌ネジ穴を備え、
複数の第1係止部材のそれぞれが、前記支持台の複数の雌ネジ穴の何れかに螺
合する雄ネジからなり、
複数の第2係止部材のそれぞれが、前記支持台の複数の雌ネジ穴の何れかに螺
合する雄ネジからなる
ことを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の巻上機。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の巻上機を製造する巻上機製造方法であって、
前記回転軸部材の回転軸線方向における一方側を前記第1軸受けに挿入する第1挿入工程と、
前記回転軸部材の回転軸線方向における他方側を前記第2軸受けに挿入する第2挿入工程と、
前記第1挿入工程及び前記第2挿入工程の後、前記第1軸受台の軸中心位置を前記第1位置決め部材によって前記支持台の前記台面における前記第1所定位置に位置決めする第1位置決め工程と、
前記第1挿入工程及び前記第2挿入工程の後、前記第2軸受台の軸中心位置を前記第2位置決め部材によって前記台面における前記第2所定位置に位置決めする第2位置決め工程と、
前記仮想第1軸線を中心とする前記第1軸受台の回転を前記第1係止部材によって係止する第1係止工程と、
前記仮想第2軸線を中心とする前記第2軸受台の回転を前記第2係止部材によって係止する第2係止工程とを実施する
ことを特徴とする巻上機製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータのかごなどを昇降させるための駆動力を発揮する巻上機、及び巻上機を製造するための巻上機製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転軸部材と、回転軸部材に設けられ、回転軸部材とともに回転する駆動綱車と、回転軸部材を回転自在に受ける第1軸受け及び第2軸受けと、第1軸受けを保持する第1軸受台と、第2軸受けを保持する第2軸受台と、支持台とを備える巻上機が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の巻上機は、前述のような回転軸部材、駆動綱車、第1軸受け、第2軸受け、第1軸受台、第2軸受台、及び支持台を備える。駆動綱車は、回転軸部材の回転軸線方向における中央部に設けられる。第1軸受けは、回転軸部材の回転軸線方向における駆動綱車よりも一方側を回転自在に受ける。第2軸受けは、回転軸部材の回転軸線方向における駆動綱車よりも他方側を回転自在に受ける。第1軸受けを保持する第1軸受台と、第2軸受けを保持する第2軸受台とは、支持台の台面上に支持される。
【0004】
かかる構成の巻上機においては、支持台の台面上における第1軸受台及び第2軸受台のそれぞれの位置決めが精度良く行われないと、回転軸部材の回転軸線が正規の軸線から傾いてしまう。そして、その傾きが、巻上機の振動、騒音、故障等の原因になってしまう。
【0005】
そこで、特許文献1に記載の巻上機は、台面から突出する突起部を支持台に備えている。突起部の側面は、回転軸部材の回転軸線方向(以下、単に回転軸線方向と言う)と平行な方向に真っすぐに延びる。第1軸受台は、支持台の台面上において、回転軸部材の回転軸線方向と直交する方向に沿って前述の突起部の側面に突き当たった状態で固定されることで、台面上における位置決めがなされる。また、第2軸受台も、支持台の台面上において、回転軸部材の回転軸線方向と直交する方向に沿って前述の突起部の側面に突き当たった状態で固定されることで、台面上における位置決めがなされる。特許文献1によれば、かかる構成の巻上機においては、回転軸部材の回転軸線方向を容易且つ確実に正規の方向に一致させることができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この巻上機における突起部による位置決めは、支持台の台面上における回転軸線方向と直交する方向の位置決めである。支持台の台面上で第1軸受台及び第2軸受台のそれぞれを支持台の突起部の側面に突き当てることで、支持台の台面上において、第1軸受け及び第2軸受けのそれぞれにおける軸中心位置(回転軸線方向の中心点)を、回転軸線方向と直交する方向の正規位置に位置決めすることができる。ところが、支持台の突起部は、支持台の台面上において、第1軸受け及び第2軸受けのそれぞれにおける軸中心位置を、回転軸線方向の正規位置に位置決めすることができない。このため、作業者は、支持台の台面上において、第1軸受け及び第2軸受けのそれぞれにおける軸中心位置を、突起部によって回転軸線方向と直交する方向の正規位置に位置決めした後、手作業によって回転軸線方向の正規位置に位置決めする手間を強いられてしまう。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、次のような巻上機、及び巻上機製造方法を提供することである。即ち、支持台の台面上において、第1軸受け及び第2軸受けのそれぞれにおける軸中心位置を、回転軸線方向と直交する方向の正規位置と、回転軸線方向の正規位置とに容易に位置決めすることができる巻上機等である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の代表的な態様は、回転軸部材と、前記回転軸部材に設けられ、前記回転軸部材とともに回転する駆動綱車と、前記回転軸部材における回転軸線方向の前記駆動綱車よりも一方側を回転自在に受ける第1軸受けと、前記回転軸部材における前記回転軸線方向の前記駆動綱車よりも他方側を回転自在に受ける第2軸受けと、前記第1軸受けを保持する第1軸受台と、前記第2軸受けを保持する第2軸受台と、前記第1軸受台及び前記第2軸受台を台面上で支持する支持台とを備える巻上機であって、前記支持台の前記台面上に載置された前記第1軸受台の軸中心位置を、前記台面における面方向の第1所定位置に位置決めする第1位置決め部材と、前記支持台の前記台面の面方向と直交する方向に沿い、且つ前記第1所定位置を通る仮想第1軸線を中心とする前記第1軸受台の回転を許容する第1回転許容部と、前記仮想第1軸線を中心とする前記第1軸受台の回転を係止する第1係止部材と、前記支持台の前記台面上に載置された前記第2軸受台の軸中心位置を、前記台面における面方向の第2所定位置に位置決めする第2位置決め部材と、前記支持台の前記台面の面方向と直交する方向に沿い、且つ前記第2所定位置を通る仮想第2軸線を中心とする前記第2軸受台の回転を許容する第2回転許容部と、前記仮想第2軸線を中心とする前記第2軸受台の回転を係止する第2係止部材とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の他の態様は、前述の代表的な態様の巻上機を製造する巻上機製造方法であって、前記回転軸部材の回転軸線方向における一方側を前記第1軸受けに挿入する第1挿入工程と、前記回転軸部材の回転軸線方向における他方側を前記第2軸受けに挿入する第2挿入工程と、前記第1挿入工程及び前記第2挿入工程の後、前記第1軸受台の軸中心位置を前記第1位置決め部材によって前記支持台の前記台面における前記第1所定位置に位置決めする第1位置決め工程と、前記第1挿入工程及び前記第2挿入工程の後、前記第2軸受台の軸中心位置を前記第2位置決め部材によって前記台面における前記第2所定位置に位置決めする第2位置決め工程と、前記仮想第1軸線を中心とする前記第1軸受台の回転を前記第1係止部材によって係止する第1係止工程と、前記仮想第2軸線を中心とする前記第2軸受台の回転を前記第2係止部材によって係止する第2係止工程とを実施することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、支持台の台面上において、第1軸受け及び第2軸受けのそれぞれにおける軸中心位置を、回転軸線方向と直交する方向の正規位置と、回転軸線方向の正規位置とに容易に位置決めすることができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る巻上機を示す平断面図である。
【
図2】同巻上機の
図1におけるA-A断面を示す横断面図である。
【
図3】同巻上機の
図1におけるB-B断面を示す横断面図である。
【
図4】実施形態に係る巻上機製造方法の第1例によって製造される同巻上機における第1センターボスの取り付け作業を説明するための横断面図である。
【
図5】同第1例によって製造される同巻上機における第1センターボスの固定作業を説明するための横断面図である。
【
図6】同第1例によって製造される同巻上機における第1係止工程を説明するための横断面図である。
【
図7】同第1例によって製造される同巻上機における第2センターボスの取り付け作業を説明するための横断面図である。
【
図8】同第1例によって製造される同巻上機における第2センターボスの固定作業を説明するための横断面図である。
【
図9】同第1例によって製造される同巻上機における第2係止工程を説明するための横断面図である。
【
図10】実施形態に係る巻上機製造方法の第2例によって製造される同巻上機における第1センターボスの支持台に対する取り付け作業を説明するための横断面図。
【
図11】同第2例によって製造される同巻上機における第2センターボスの支持台に対する取り付け作業を説明するための横断面図。
【
図12】同第2例による第1軸受台の軸中心位置の位置決め作業を説明するための横断面図。
【
図13】同第2例による第2軸受台の軸中心位置の位置決め作業を説明するための横断面図。
【
図14】第1変形例に係る巻上機における第1軸受台の位置での断面を示す横断面図。
【
図15】同巻上機における第2軸受台の位置での断面を示す横断面図。
【
図16】実施形態に係る巻上機製造方法の第3例における第1軸受台に対する第1センターボスの取り付け作業を説明するための横断面図。
【
図17】同第3例における第2軸受台に対する第2センターボスの取り付け作業を説明するための横断面図。
【
図18】同第3例における第1位置決め工程を説明するための横断面図。
【
図19】同第3例における第2位置決め工程を説明するための横断面図。
【
図20】従来の一般的な巻上機を示す平断面図である。
【
図21】同巻上機の
図20におけるG-G断面を示す横断面図である。
【
図22】同巻上機の
図20におけるH-H断面を示す横断面図である。
【
図23】同巻上機における各種の誤差を説明するための平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係る巻上機、及び巻上機製造方法について説明する前に、従来の一般的な巻上機製造方法について説明する。
巻上機製造方法においては、心出しが重要な要素となる。心出しは、支持台の台面上において、軸受台の位置及び姿勢を正しく定めることにより、軸受台に保持される軸受けによって回転自在に受けられる回転軸部材の回転軸線の位置及び姿勢を正しく定める作業である。心出しにおいて、軸受台の位置及び姿勢が正しく定められると、回転軸部材の回転軸線に対する軸受け及び軸受台のそれぞれにおける軸線の偏心量が許容値内に留められる。
【0014】
心出しにおいては、軸受け中心を基準とする各種の距離における、回転軸部材の回転軸線に対する軸受台の軸線の偏心量を許容値内に留める方法が採用される。偏心量は、回転軸線に直行する方向の全周360〔°〕の範囲内において、角度に応じて偏差が生ずることから、最大の偏差である最大偏心量が許容値以内に収められる必要がある。
【0015】
図20は、従来の一般的な巻上機51を示す平断面図である。また、
図21は、巻上機51の
図20におけるG-G断面を示す横断面図である。また、
図22は、巻上機51の
図20におけるH-H断面を示す横断面図である。
【0016】
巻上機51は、回転軸部材52、駆動綱車53、第1軸受け54、第2軸受け55、第1軸受台56、第2軸受台57、及び支持台58を備える。回転軸部材52は、回転軸線Axを中心にして回転駆動する。駆動綱車53は、回転軸部材52に設けられ、回転軸部材52とともに回転軸線Axを中心にして回転駆動する。第1軸受け54は、回転軸部材52における回転軸線方向の駆動綱車53よりも一方側を回転自在に受ける。第2軸受け55は、回転軸部材52における転軸線方向の駆動綱車53よりも他方側を回転自在に受ける。第1軸受台56は、第1軸受け54を保持する。第2軸受台57は、第2軸受け55を保持する。支持台58は、第1軸受台56及び第2軸受台57を台面58g上で支持する。
【0017】
従来の一般的な心出しにおいては、台面垂直方向Zの偏心量αと、台面水平方向Xの偏心量βとを実測する。台面垂直方向Zの偏心量αは、支持台58の台面58gに直交する方向における軸受台(56、57)の軸心(56c、57c)と支持台58の台面58gとの距離と、所定の基準距離Dsとの偏差である。また、台面水平方向Xの偏心量βは、支持台58の台面58gと平行で且つ軸受台(56、57)の軸心(56c、57c)と直交する方向における軸受台(56、57)の軸心(56c、57c)と台面58g上における所定の基準位置Xsとの距離である。台面垂直方向Zの偏心量αと、台面水平方向Xの偏心量βとは、第1軸受台56、第2軸受台57のそれぞれについて個別に実測される。そして、それぞれの実測値に基づいて、第1軸受台56の最大偏心量eと、第2軸受台57の最大偏心量eとが個別に求められる。最大偏心量をeで示すと、最大偏心量eは、次式によって求められる。
e=(α2+β2)1/2
【0018】
心出しにおいては、軸受台の位置及び姿勢を微調整することで、前述の式によって求められる最大偏心量eを、許容値以内に収めることが行われる。
【0019】
一般的な心出しにおいては、次に説明する手順1、手順2、手順3が行われる。
<手順1>
まず初めに、台面垂直方向Zにおける軸受台(56、57)の軸心(56c、57c)の位置を定める。具体的には、回転軸部材52の回転軸線Ax、軸受台(56、57)の軸心(56c、57c)、及び軸受け(54、55)の軸心のそれぞれの位置偏差が許容価内に収まるように、各部材の寸法公差を定める。各部材の寸法公差は、詳しくは、回転軸部材52、軸受台(56、57)、及び軸受け(54、55)のそれぞれの寸法公差である。回転軸部材52、軸受台(56、57)、及び軸受け(54、55)のそれぞれは、定められた寸法公差になるように製造される。このようにして製造された各部材を支持台58の台面58g上で組み立てられることにより、台面58g上における回転軸部材52の回転軸線Axについて、台面垂直方向Zの偏心量(これは、第1軸受台56の軸心56cの偏心量α、第2軸受台57の軸心57cの偏心量αと同じ値である)が許容値内に収まる。
【0020】
なお、軸受台(56、57)の軸心(56c、57c)の位置について、台面垂直方向Zと台面水平方向Xとのうち、台面垂直方向を先に定めるのは、次に説明する理由による。即ち、心出しにおいて、回転軸線方向、台面垂直方向Z、及び台面水平方向Xのそれぞれの位置を同時に定めることは極めて困難であるので、仮組立の状態であっても安定した位置を保つことが可能な台面垂直方向Zにおける軸心(56c、57c)の位置を最初に許容値内に収める狙いがある。
【0021】
<手順2>
回転軸線方向及び台面水平方向Xのそれぞれにおける軸受台(56、57)の軸心(56c、57c)の位置を同時に定める。具体的には、仮組立→偏心量βを測定→軸受台の位置及び姿勢を微調整という作業を、回転軸線Axの位置、及び台面水平方向の偏心量βを許容値内に収めるまで繰り返す。この作業には、非常に手間がかかったり、多大な時間を要したり、作業者に豊富な経験及び高度の技術を要求されたりするという問題がある。
【0022】
なお、軸受台(56、57)の台面上における傾き誤差(
図23のθ1、θ2)は、いくつかの寸法公差や位置誤差が累積されて生ずる。傾き誤差が大きくなると、様々な問題を引き起こすことになる。例えば、第1軸受台にモータの固定子(例えば
図23の59)を固定し、且つ回転軸部材にモータの回転子を固定した構成において、第1軸受台の傾き誤差(例えば
図23のθ1)が大きくなったとする。すると、回転軸線(例えば回転軸線Ax)を中心とする周方向においてモータにおける固定子と回転子とのギャップ変動(例えば
図23のJ1、J2)が大きくなって、
モータの特性低下、振動・騒音などの問題が発生する。更に、第1軸受台の傾き誤差が大きくなると、第1軸受け(例えば第1軸受け54)内において、回転軸線を中心とする回転軸部材の外周部の軌道の正規軌道からの誤差変動(例えば
図23のK1、K2)が大きくなる。これにより、第1軸受けからのオイル漏れや第1軸受けの寿命低下などの問題が発生する。また、第2軸受台の傾き誤差(例えば
図23のθ2)が大きくなると、第2軸受けからのオイル漏れや第2軸受けの寿命低下などの問題が発生する。また、回転軸部材とともに回転する駆動綱車にディスクブレーキ部を設けた構成において、回転軸部材の回転軸線の正規位置からの傾きが大きくなると、回転軸線を中心とする周方向におけるディスクブレーキ部とブレーキパッドとの相対位置変動が大きくなり、ブレーキトルクが低下したり、ライニング摺り合わせに多大な時間を要したりする。
【0023】
<手順3>
心出しが完了した軸受台(56、57)の位置及び姿勢を、稼働運転においても長期間に渡って安定して維持するために、組立後の軸受台(56、57)の脚部(56a、57a)及び支持台58を台面垂直方向Zに一直線状に貫く貫通孔を加工する。そして、その貫通孔にノックピン67を打ち込む。このノックピン67の打ち込みについては、1つの軸受台(56、57)の脚部(56a、57a)における台面水平方向Xの一方側の端部、他方側の端部のそれぞれで実施する。ノックピン67の打ち込みにより、軸受台(56、57)の固定ボルト(63、66)が緩んでしまった場合であっても、懸吊体の張力による軸受台(56、57)の横滑りを防止することができる。また、軸受台(56、57)を支持台58から取り外して設置現場に搬入し、設置現場にて再組立てを行う場合に、取り外し前の心出し完了時の状態を再現することができる。但し、組立て後の巻上機51の位置まで、貫通孔を加工するための穴あけ機械を運搬・設置して、所定の精度で穴あけ加工することになるので、技術と経験が作業者に強いられたり、多くの時間を要したりという問題がある。更に、穴あけ加工で生じた切粉が巻上機51本体の内部に侵入して、振動・騒音を発生させたり、軸受け寿命を低下させたりするおそれがあるという問題もある。なお、懸吊体は、おもりを吊り下げるワイヤーロープなどの部材である。
【0024】
次に、特許文献1に記載の巻上機について説明する。
特許文献1に記載の巻上機は、支持台の台面(例えば台面58g)から突出する突起部を支持台(例えば支持台58)に備えている。突起部の側面は、回転軸部材(例えば回転軸部材52)の回転軸線方向と平行な方向に真っすぐに延びる。第1軸受台(例えば第1軸受台56)は、支持台の台面上において、回転軸部材の回転軸線方向と直交する方向に沿って前述の突起部の側面に突き当たった状態で支持台に固定されることで、台面上における位置決めがなされる。また、第2軸受台(例えば第2軸受台57)も、支持台の台面上において、回転軸部材の回転軸線方向と直交する方向に沿って前述の突起部の側面に突き当たった状態で支持台に固定されることで、台面上における位置決めがなされる。特許文献1によれば、かかる構成の巻上機においては、回転軸部材の回転軸線方向を容易且つ確実に正規の方向に一致させることができるとされる。
【0025】
なお、特許文献1には記載されていないが、特許文献1に記載の巻上機において、支持台の突起部を次のように配置することで、ノックピンの打ち込みを行こなうことなく、懸吊体の張力による軸受台の横滑りを防止することができると考えられる。即ち、支持台の台面水平方向(例えば台面水平方向X)における両側端部のうち、懸吊体の張力がかかる方の端部に突起部を配置するのである。
【0026】
しかしながら、特許文献1に記載の巻上機においては、次に説明する不具合1及び不具合2が生ずる。
<不具合1>
支持台に突起部を設けていても、上述した手順2において、軸受台を回転軸線方向の正規位置に位置決めすることができない。このため、仮組立→回転軸線方向の偏心量を測定→軸受台の位置及び姿勢を微調整という作業を、回転軸線方向の偏心量を許容値内に収めるまで繰り返す必要がある。この作業には、手間や多くの時間が必要になってしまう。
【0027】
<不具合2>
上述した手順2において、軸受台の台面上における傾き誤差(例えば
図23のθ1、θ2)は、いくつかの寸法公差が累積されて生ずるので、最大偏心量eを許容値内に収めることができなくなるおそれがある。このため、特許文献1に記載の巻上機において、最大偏心量eを許容値内に収めるためには、各軸受台の台面上における傾き誤差をごく僅かな値に留めるように、支持台の突起部の側面と、各軸受台の側面とを極めて高精度に平面加工する必要があり、コストアップを引き起こしてしまう。
【0028】
なお、特許文献1に記載の巻上機において、コストアップを抑えるために、支持台の突起部の側面、及び各軸受台の側面の平面加工精度を下げると、最大偏心量eを許容値内に収めることができなくなるおそれが生じる。最大偏心量eを許容値内に収めることができない場合には、より厳密な心出しによって最大偏心量eを許容値内に収める必要が生ずる。具体的には、支持台の台面に載置された軸受台と、支持台の突起部との間にライナーを挿入することで、傾き誤差(例えばθ1、θ2)をより小さくする。このとき、仮組立→寸法測定→ライナー挿入による傾き微調整という作業を繰り返し行う必要があることから、手間や多くの時間が必要になったり、作業者に豊富な経験及び高度の技術を要求されたりするという問題が生ずる。更に、ライナーの厚さが段階的であることから、理想の寸法で傾きを微調整することができないために、ある程度の傾き誤差が残ってしまい、軸受台の台面水平方向の位置決めだけでは最大偏心量eが許容値内に収めることができなくなるおそれもある。この場合、軸受台の台面垂直方向の位置決めも、ライナー挿入による微調整を行う必要が生ずる。
【0029】
<不具合3>
心出しの後、巻上機を分解してから、設置現場にて再組立てを行う場合には、設置現場において再び心出しを行う必要が生ずる。工場にて心出し後にアイマークを付けてから巻上機を分解したとしても、設置現場におけるアイマークの目視だけでは、軸受台の位置決めを精度よく行うことができないので、設置現場において再度の心出しが必要となる。
【0030】
次に、実施形態に係る巻上機、及び巻上機製造方法について説明する。
図1は、実施形態に係る巻上機1を示す平断面図である。また、
図2は、巻上機1の
図1におけるA-A断面を示す横断面図である。また、
図3は、巻上機1の
図1におけるB-B断面を示す横断面図である。
【0031】
巻上機1は、回転軸部材2、駆動綱車3、第1軸受け4、第2軸受け5、第1軸受台6、第2軸受台7、支持台8などを備える。駆動綱車3は、回転軸部材2に設けられ、回転軸部材2とともに回転軸線Axを中心にして回転する。第1軸受け4は、回転軸部材2の回転軸線方向の駆動綱車3よりも一方側を回転自在に受ける。第2軸受け5は、回転軸部材2における回転軸線方向の駆動綱車3よりも他方側を回転自在に受ける。第1軸受台6は、脚部としての第1脚部6aを備える。また、第1軸受台6は、自らの軸線と、第1軸受け4の軸線とを一致させる態様で、第1軸受け4を保持する。第2軸受台7は、脚部としての第2脚部7aを備える。また、第2軸受台7は、自らの軸線と、第2軸受け5の軸線とを一致させる態様で、第2軸受け5を保持する。支持台8は、第1軸受台6及び第2軸受台7を台面8g上で支持する。
【0032】
巻上機1は、第1位置決め部材、第2位置決め部材、第1回転許容部、第2回転許容部、第1係止部材、第2係止部材、4つの第1軸受台固定ボルト13、及び4つの第2軸受台固定ボルト16も備える。第1位置決め部材としての第1センターボス17は、支持台8の台面8g上に載置された第1軸受台6の軸中心位置を、台面8gにおける面方向の第1所定位置に位置決めする。第1軸受台6の軸中心位置は、第1軸受台6の第1脚部6aの底面に沿った2次元座標において、第1軸受台6の軸線6cにおける軸線方向の中心点である。第1回転許容部は、台面8g上における仮想第1軸線A1を中心とする第1軸受台6の回転を許容する。仮想第1軸線A1は、台面8gの面方向と直交する方向に沿い、且つ第1所定位置を通る。第1係止部材としての4つの第1軸受台固定ボルト13は、第1軸受台6の仮想第1軸線A1を中心とする回転を係止する。
【0033】
第2位置決め部材としての第2センターボス19は、支持台8の台面8g上に載置された第2軸受台7の軸中心位置を、台面8gにおける面方向の第2所定位置に位置決めする。第2軸受台7の軸中心位置は、第2軸受台7の第2脚部7aの底面に沿った2次元座標において、第2軸受台7の軸線7cにおける軸線方向の中心点である。第2回転許容部は、台面8g上における仮想第2軸線A2を中心とする第2軸受台7の回転を許容する。仮想第2軸線A2は、台面8gの面方向と直交する方向に沿い、且つ第2所定位置を通る。第2係止部材としての4つの第2軸受台固定ボルト16は、第2軸受台7の仮想第2軸線A2を中心とする回転を係止する。
【0034】
かかる構成の巻上機1では、第1センターボス17によって第1軸受台6の軸中心位置が支持台8の台面8g上における第1所定位置に位置決めされる。この位置決めによって第1軸受台6の軸線6cと仮想第1軸線A1とが交差する。このような状態で、第1回転許容部が仮想第1軸線A1を中心とする第1軸受台6の回転を許容する。第1軸受台6は、第1軸受け4を保持するための軸受け保持空間6fを備える。第1軸受台6の軸受け保持空間6fの内径が所定の公差になるように第1軸受台6が製造される。また、第1軸受け4の外輪4bの径が所定の公差になるように第1軸受け4が製造される。すると、第1軸受台6の軸受け保持空間6fに保持される第1軸受け4の軸線と、第1軸受台6の軸線6cとがほぼ一致する。仮想第1軸線A1は第1軸受台6の軸中心位置(軸線6cの中心点)を通るので、第1軸受台6が仮想第1軸線A1を中心にしてどのような角度で回転しても、第1軸受台6の軸中心位置は変化しない。このため、第1軸受台6が仮想第1軸線A1を中心にしてどのような角度で回転しても、第1軸受け4の軸中心位置も殆ど変化しない。つまり、巻上機1においては、第1軸受台6の軸中心位置が第1センターボス17によって第1所定位置に位置決めされると、第1軸受け4の軸中心位置も第1所定位置に位置決めされる。台面8gに沿った2次元座標上における第1所定位置は、回転軸線方向と直交する方向(台面水平方向X)の正規位置であるとともに、回転軸線方向の正規位置でもある。よって、巻上機1によれば、上述の不具合1を解消することができる。
【0035】
巻上機1においては、第2センターボス19によって第2軸受台7の軸中心位置が第2所定位置に位置決めされる。この位置決めにより、第2軸受台7の軸線7cと仮想第2軸線A2とが交差する。このような状態で、第2回転許容部が仮想第2軸線A2を中心とする第2軸受台7の回転を許容する。第2軸受台7は、第2軸受け5を保持するための軸受け保持空間7fを備える。第2軸受台7の軸受け保持空間7fの内径が所定の公差になるように第2軸受台7が製造される。また、第2軸受け5の外輪5bの径が所定の公差になるように第2軸受け5が製造される。すると、第2軸受台7の軸受け保持空間7fに保持される第2軸受け5の軸線と、第2軸受台7の軸線7cとがほぼ一致する。仮想第2軸線A2は第2軸受台7の軸線7cの軸方向中心位置(軸線7cの中心点)を通るので、第2軸受台7が仮想第2軸線A2を中心にしてどのような角度で回転しても、第2軸受台7の軸中心位置は変化しない。このため、第2軸受台7が仮想第2軸線A2を中心にしてどのような角度で回転しても、第2軸受け5の軸中心位置も殆ど変化しない。よって、巻上機1によれば、第1軸受け4だけでなく、第2軸受け5についても、上述の不具合1を解消することができる。
【0036】
第1センターボス17によって第1軸受台6の軸中心位置を台面8gにおける第1所定位置に位置決めする作業は、巻上機1の設置現場でも容易に行うことができる。また、第2センターボス19によって第2軸受台7の軸中心位置を台面8gにおける第2所定位置に位置決めする作業も、巻上機1の設置現場でも容易に行うことができる。よって、巻上機1によれば、上述の不具合3を解消することができる。
【0037】
第1軸受台6の第1脚部6aは、第1センターボス17を第1脚部6aの底面と直交する方向に沿って挿入するための被位置決め穴6a1を備える。被位置決め穴6a1は、第1脚部6aの底面の面方向と直交する方向に沿って第1脚部6aを貫通する貫通穴からなる。この被位置決め穴6a1の中心を通り、且つ第1脚部6aの底面と直交する方向に沿って延びる線分は、第1軸受台6の軸線6cと交わる。支持台8は、仮想第1軸線A1を中心として仮想第1軸線A1の軸線方向に沿って延びる第1台座穴8aを備える。第1センターボス17は、第1軸受台6の第1脚部6aの被位置決め穴6a1を貫通して支持台8の第1台座穴8aに係合する。
【0038】
かかる構成では、第1軸受台6の第1脚部6aに被位置決め穴6a1を所定の精度で穴あけ加工し、且つ支持台8に第1台座穴8aを所定の精度で穴あけ加工するだけで、第1軸受台6の軸中心位置を第1センターボス17によって第1所定位置に位置決めすることが可能になる。
【0039】
第1軸受台6が仮想第1軸線A1を中心にして回転すると、第1軸受台6の台面8g上における傾き誤差(例えば
図23のθ1)が変化する。上述のように、傾き誤差については、ごく僅かな値に留める必要があるが、実施形態に係る巻上機1においては、簡単な作業によって前述の傾き誤差をごく僅かな値に留めることが可能である。具体的には、回転軸部材2の回転軸線方向の端部に、ダイヤルゲージを固定する。固定されたダイヤルゲージは、第1軸受け4に回転自在に受けられる回転軸部材2と一体となって回転することが可能である。回転軸部材の回転軸線方向の端部に固定されたダイヤルゲージの針は、第1軸受台6の軸線方向の外側端面に突き当てている。前述の外側端面は、第1軸受台6の軸線6cと直交する方向に延びる。作業者は、ダイヤルゲージを回転軸部材2とともに数回転させる。第1軸受台6の回転姿勢を、1回転あたりにおけるダイヤルゲージの測定値の変動を最も小さくする姿勢に調整することで、第1軸受台6の傾き誤差をごく僅かな値に留めることが可能である。このように、実施形態に係る巻上機1においては、極めて高精度な平面加工を要求される突起部を支持台8に設けることなく、且つ第1脚部6aの側面を高精度に平面加工することなく、第1軸受台6の傾き誤差をごく僅かな値に留めることが可能である。よって、巻上機1によれば、上述した不具合2を解消することができる。
【0040】
第2軸受台7の第2脚部7aは、第2センターボス19を第2脚部7aの底面と直交する方向に沿って挿入するための被位置決め穴7a1を備える。被位置決め穴7a1は、第2脚部7aの底面の面方向と直交する方向に沿って第2脚部7aを貫通する貫通穴からなる。この被位置決め穴7a1の中心を通り、且つ第2脚部7aの底面と直交する方向に沿って延びる線分は、第2軸受台7の軸線7cと交わる。支持台8は、仮想第2軸線A2を中心として仮想第2軸線A2の軸線方向に延びる第2台座穴8cを備える。第2センターボス19は、第2軸受台7の被位置決め穴7a1を貫通して支持台8の第2台座穴8cに係合する。
【0041】
かかる構成では、第2軸受台7の第2脚部7aに被位置決め穴7a1を所定の精度で穴あけ加工し、且つ支持台8に第2台座穴8cを所定の精度で穴あけ加工するだけで、第2軸受台7の軸中心位置を第2センターボス19によって第2所定位置に位置決めすることが可能になる。巻上機1によれば、第1軸受台6と同様の理由により、第2軸受台7について上述の不具合2を解消することができる。
【0042】
第1センターボス17は、貫通穴17aを備える。貫通穴17aは、第1センターボス17が挿入される第1脚部6aの被位置決め穴6a1に対する第1センターボス17の挿入方向と同じ方向に延びる。支持台8に配置される第1台座穴8aは、台面8gから窪む凹部である。支持台8は、仮想第1軸線A1を中心とし且つ仮想第1軸線A1に沿って第1台座穴8aの凹部底面から台面8gとは反対方向に窪む第1雌ネジ穴8bを備える。巻上機1において、第1ボス固定ボルト18は、第1センターボス17の貫通穴17aを貫通して支持台8の第1雌ネジ穴8bに螺合する雄ネジからなり、螺合によって第1センターボス17を支持台8に固定する。第1軸受台6は、第1脚部6aよりも第1軸受け4側に、被位置決め穴6a1に通じる作業用空間6bを備える。
【0043】
かかる構成においては、第1センターボス17を、第1軸受台6の作業用空間6b側から第1脚部6aの被位置決め穴6a1と支持台8の第1台座穴8aとに挿入するだけで、第1軸受台6を第1所定位置に容易に位置決めすることができる。
【0044】
第1脚部6aは、第1ボス固定ボルト18によって支持台8に固定された第1センターボス17を中心にして回転することが可能である。その回転に伴って、第1脚部6aの被位置決め穴6a1の内周面と、支持台8に固定された第1センターボス17の外周面とが摺擦する。かかる構成では、第1脚部6aの被位置決め穴6a1が、仮想第1軸線A1を中心とする第1脚部6aの回転を許容する第1回転許容部として機能する。
【0045】
第2センターボス19は、貫通穴19aを備える。貫通穴17aは、第2センターボス19が挿入される第2脚部7aの被位置決め穴7a1に対する第2センターボス19の挿入方向と同じ方向に延びる。支持台8に配置される第2台座穴8cは、台面8gから窪む凹部である。支持台8は、仮想第2軸線A2を中心とし且つ仮想第2軸線A2に沿って第2台座穴8cの凹部底面から台面8gとは反対方向に窪む第2雌ネジ穴8dを備える。巻上機1において、第2ボス固定ボルト20は、第2センターボス19の貫通穴19aを貫通して支持台8の第2雌ネジ穴8dに螺合する雄ネジからなり、螺合によって第2センターボス19を支持台8に固定する。第2軸受台7は、第2脚部7aよりも第2軸受け5側に、被位置決め穴7a1に通じる作業用空間7bを備える。
【0046】
かかる構成においては、第2センターボス19を、第2軸受台7の作業用空間7b側から第2脚部7aの被位置決め穴7a1と支持台8の第2台座穴8cとに挿入するだけで、第2軸受台7を第2所定位置に容易に位置決めすることができる。
【0047】
第2脚部7aは、第2ボス固定ボルト20によって支持台8に固定された第2センターボス19を中心にして回転することが可能である。その回転に伴って、第2脚部7aの被位置決め穴7a1の内周面と、支持台8に固定された第2センターボス19の外周面とが摺擦する。かかる構成では、第2脚部7aの被位置決め穴7a1が、仮想第2軸線A2を中心とする第2脚部7aの回転を許容する第2回転許容部として機能する。
【0048】
次に、実施形態に係る巻上機製造方法について説明する。
実施形態に係る巻上機製造方法では、第1挿入工程と、第2挿入工程と、第1位置決め工程と、第2位置決め工程と、第1係止工程と、第2係止工程とを実施する。
【0049】
第1挿入工程では、回転軸部材2の回転軸線方向における一方側を第1軸受け4に挿入する。また、第2挿入工程では、回転軸部材2の回転軸線方向における他方側を第2軸受け5に挿入する。
【0050】
なお、本発明の目的の1つを、実施形態に係る巻上機1を例にして捉えると、その目的は、支持台8の台面8g上において、第1軸受け4及び第2軸受け5のそれぞれにおける軸中心位置を、回転軸線方向の正規位置に容易に位置決めすることである。一方で、巻上機の構成によっては、軸受けの回転軸線方向の軸中心位置を正規位置に位置決めすることに加えて、軸受けと回転軸部材との回転軸線方向における相対位置を正規位置に位置決めすることが望まれる場合もある。
【0051】
例えば、実施形態に係る巻上機1は、モータの固定子9及び回転子10を備える。モータの固定子9は、第1軸受台6に固定される。また、モータの回転子10は、回転軸部材2の回転軸線方向における一方側の端部に固定される。かかる構成では、固定子9と回転子10とを正しく対向させる必要があり、そのためには、第1軸受け4と回転軸部材2との回転軸線方向における相対位置を正規位置に位置決めすることが望まれる。
【0052】
また、実施形態に係る巻上機1においては、駆動綱車3に一体形成されたディスクブレーキ部3aが、第2軸受台7の近傍に位置しているため、ブレーキパッドを含むブレーキキャリパーと第2軸受台7とが位置的に干渉し易い。干渉を確実に回避するためには、第2軸受台7に保持される第2軸受け5と、回転軸部材2との回転軸線方向における相対位置を正規位置に位置決めすることが望ましい。
【0053】
そこで、実施形態に係る巻上機1においては、中程度の径の中径部と、中径部よりも大きな径の大径部と、中径部よりも小さな径の小径部とを回転軸部材2に配置している。より詳しくは、回転軸部材2においては、回転軸線方向の一方側から他方側に向けて、第1中径部、大径部、第2中径部、小径部が順に並んでいる。作業者は、回転軸部材2の第1中径部と大径部との段差(第1段差)に第1軸受け4を突き当てることで、第1軸受け4と回転軸部材2との回転軸線方向における相対位置を正規位置に位置決めすることが可能である。また、回転軸部材2の小径部と第2中径部との段差(第2段差)に第2軸受け5を突き当てることで、第2軸受け5と回転軸部材2との回転軸線方向における相対位置を正規位置に位置決めすることが可能である。
【0054】
実施形態に係る巻上機1では、第1挿入工程において、上記第1段差への第1軸受け4の突き当てにより、第1軸受け4と回転軸部材2との回転軸線方向における位置決めを行うことが望ましい。また、第2挿入工程において、上記第2段差への第2軸受け5の突き当てにより、第2軸受け5と回転軸部材2との回転軸線方向における位置決めを行うことが望ましい。
【0055】
但し、本発明における第1挿入工程及び第2挿入工程のそれぞれにおいて、軸受けと回転軸部材との回転軸線方向における相対位置を位置決めすることは、必須ではない。軸受けと回転軸部材との回転軸線方向における相対位置と正規位置との誤差がある程度許容される構成の巻上機であれば、第1挿入工程及び第2挿入工程のそれぞれにおける軸受けと回転軸部材との回転軸線方向の相対位置の位置決めを省略してもよい。
【0056】
第1位置決め工程では、第1挿入工程及び第2挿入工程の後、第1軸受台6の軸中心位置を第1センターボス17によって支持台8の台面8gにおける第1所定位置に位置決めする。また、第2位置決め工程では、第1挿入工程及び第2挿入工程の後、第2軸受台7の軸中心位置を第2センターボス19によって支持台8の台面8gにおける第2所定位置に位置決めする。また、第1係止工程では、仮想第1軸線A1を中心とする第1軸受台6の回転を、第1係止部材たる4つの第1軸受台固定ボルト13によって係止する。また、第2係止工程では、仮想第2軸線A2を中心とする第2軸受台7の回転を第2係止部材たる4つの第2軸受台固定ボルト16によって係止する。
【0057】
実施形態に係る巻上機製造方法においては、第1位置決め工程及び第2位置決め工程に先立って、第1挿入工程及び第2挿入工程が実施される。また、第1係止工程及び第2係止工程に先立って、第1位置決め工程及び第2位置決め工程が実施される。第1軸受け4を第1軸受台6に保持させる工程と、第2軸受け5を第2軸受台7に保持させる工程との組み合わせについては、第1挿入工程及び第2挿入工程に先立って実施してもよいし、第1挿入工程及び第2挿入工程の後に実施してもよい。
【0058】
次に、実施形態に係る巻上機製造方法の第1例について説明する。
実施形態に係る巻上機製造方法の第1例における第1位置決め工程、及び第2位置決め工程の詳細は、次の通りである。即ち、まず、支持台8の台面8gの上に第1軸受台6及び第2軸受台7を載置した後、第1軸受台6の被位置決め穴6a1を支持台8の第1台座穴8aの真上に位置させるように、台面8g上における第1軸受台6の位置合わせを手作業で行う。次に、第2軸受台7の被位置決め穴7a1を支持台8の第2台座穴8cの真上に位置させるように、台面8g上における第2軸受台7の位置合わせを手作業で行う。なお、第2軸受台7の位置合わせを行ってから、第1軸受台6の位置合わせを行ってもよい。
【0059】
第1軸受台6及び第2軸受台7の位置合わせを終えたら、次に、
図4に示されるように、第1センターボス17を、第1軸受台6の作業用空間6bから、第1脚部6aの被位置決め穴6a1に通しながら、第1センターボス17の先端部を、支持台8の凹部からなる第1台座穴8aに挿入する。この挿入により、第1軸受台6の軸中心位置を台面8g上における第1所定位置に位置決めする(第1位置決め工程)。その後、
図5に示されるように、第1ボス固定ボルト18を、第1センターボス17の貫通穴に通した後、
図6に示されるように、第1ボス固定ボルト18の先端部の雄ネジ部を、支持台8の第1雌ネジ穴8bに螺
合させて、第1センターボス17を支持台8に固定する。
【0060】
次に、
図7に示されるように、第2センターボス19を、第2軸受台7の作業用空間7bから、第2脚部7aの被位置決め穴7a1に通しながら、第2センターボス19の先端部を、支持台8の凹部からなる第2台座穴8cに挿入する。この挿入により、第2軸受台7の軸中心位置を台面8g上における第2所定位置に位置決めする(第2位置決め工程)。その後、
図8に示されるように、第2ボス固定ボルト20を、第2センターボス19の貫通穴に通した後、
図9に示されるように、第2ボス固定ボルト20の先端部の雄ネジ部を、支持台8の第2雌ネジ穴8dに螺
合させて、第2センターボス19を支持台8に固定する。
【0061】
第1位置決め工程が実施されると、第1軸受台6が仮想第1軸線A1を中心にして回転可能になる。また、第2位置決め工程が実施されると、第2軸受台7が仮想第2軸線A2を中心にして回転可能になる。
【0062】
巻上機製造方法の第1例における第1係止工程、及び第2係止工程の詳細は、次の通りである。第1位置決め工程を終えたら、
図6に示されるように、第1軸受台固定ボルト13を、第1軸受台6の第1脚部6aの雄ネジ用貫通穴6gに貫通させ、第1軸受台固定ボルト13の先端部を、支持台8の雌ネジ穴8eに少しだけ螺
合させる。
図6においては、第1軸受台固定ボルト13が2つだけ示されるが、第1軸受台固定ボルト13は、
図1に示されるように4つ存在する。また、支持台8には、4つの第1軸受台固定ボルト13のそれぞれを個別に螺
合させるための雌ネジ穴8eが4つ存在する。作業者は、4つの第1軸受台固定ボルト13のそれぞれを、支持台8の雌ネジ穴8eに少しだけ螺
合させる。雄ネジとしての第1軸受台固定ボルト13と、第1脚部6aの雄ネジ用貫通穴6gの内周面との間には、クリアランスがある。このため、4つの第1軸受台固定ボルト13のそれぞれを完全に締め付けていない状態では、仮想第1軸線A1を中心にして第1軸受台6をある程度の角度範囲内で回転させることが可能である。その後、作業者は、回転軸部材2の回転軸線方向における一端部にダイヤルゲージを固定する。このとき、ダイヤルゲージの針を第1軸受台6における軸線方向の一端面に突き当てる姿勢で、ダイヤルゲージを固定する。次に、回転軸部材2とともにダイヤルゲージを回転させながら、第1軸受台6の回転姿勢を、1回転あたりにおけるダイヤルゲージの測定値をごく僅かな値に留める姿勢に調整する。その後、4つの第1軸受台固定ボルト13のそれぞれを完全に締め付けて、仮想第1軸線A1を中心とする第1軸受台6の回転を係止する(第1係止工程)。第2軸受台7についても、第1軸受台6と同様にして(
図9)、仮想第2軸線A2を中心とする第2軸受台7の回転を、4つの第2軸受台固定ボルト16によって係止する(第2係止工程)。
【0063】
なお、巻上機製造方法の第1例において、第1係止工程と、第2係止工程との順序を、前述の説明の順序とは逆にしてもよい。
【0064】
次に、実施形態に係る巻上機製造方法の第2例について説明する。
実施形態に係る巻上機製造方法の第2例における第1位置決め工程、及び第2位置決め工程の詳細は、次の通りである。即ち、まず、
図10に示されるように、支持台8の凹部からなる第1台座穴8aに第1センターボス17の先端部を係合させた後、第1ボス固定ボルト18によって第1センターボス17を支持台8に固定する。また、
図11に示されるように、支持台8の凹部からなる第2台座穴8cに第2センターボス19の先端部を係合させた後、第2ボス固定ボルト20によって第2センターボス19を支持台8に固定する。次に、第1挿入工程を終えた状態の第1軸受け4を保持する第1軸受台6と、第2挿入工程を終えた状態の第2軸受け5を保持する第2軸受台7とを、支持台8の台面8g上に載置する。そして、
図12に示されるように、第1軸受台6の被位置決め穴6a1に第1センターボス17を係合させる。この係合により、第1軸受台6の軸中心位置が仮想第1軸線A1上の第1所定位置に位置決めされる(第1位置決め工程)。また、
図13に示されるように、第2軸受台7の被位置決め穴7a1に第2センターボス19を係合させる。この係合により、第2軸受台7の軸中心位置が仮想第2軸線A2上の第2所定位置に位置決めされる(第2位置決め工程)。
【0065】
実施形態に係る巻上機製造方法の第2例における第1係止工程及び第2係止工程の詳細は、次の通りである。即ち、第1位置決め工程を終えたら、第1例と同様にして、ダイヤルゲージを用いて第1軸受台6の回転姿勢を調整する。次に、第1例と同様にして、第1軸受台固定ボルト13によって第1軸受台6の回転を係止し(第1係止工程)、且つ、第1例と同様にして、第2軸受台固定ボルト16によって第2軸受台7の回転を係止する(第2係止工程)。
【0066】
次に、実施形態に係る巻上機1の一部の構成が他の構成に変形された変形例について説明する。
図14は、変形例に係る巻上機1の第1軸受台6及び支持台8を示す横断面図である。第1軸受台6の第1脚部6aに配置された被位置決め穴6a1は、第1脚部6aの底面の面方向と直交する方向に沿って前記底面から窪む凹部からなる。
【0067】
また、第1軸受台6は、仮想第1軸線A1を中心とし且つ仮想第1軸線A1に沿って第1脚部底面穴6dの凹部底面から窪む第1雌ネジ穴6eを備える。支持台8は、仮想第1軸線A1を中心として仮想第1軸線A1の軸線方向に延びる凹部からなる第1台座穴8aを備える。第1センターボス17は、第1軸受台6の第1脚部6aの被位置決め穴6a1と、支持台8の第1台座穴8aとに係合する。第1ボス固定ボルト18は、第1センターボス17の貫通穴17aを貫通して第1軸受台6の第1雌ネジ穴6eに螺合する雄ネジである。
【0068】
図15は、変形例に係る巻上機1の第2軸受台7及び支持台8を示す横断面図である。第2軸受台7の第2脚部7aに配置された被位置決め穴7a1は、第2脚部7aの底面の面方向と直交する方向に沿って前記底面から窪む凹部からなる。
【0069】
また、第2軸受台7は、仮想第2軸線A2を中心とし且つ仮想第2軸線A2に沿って第2脚部底面穴7dの凹部底面から窪む第2雌ネジ穴7eを備える。支持台8は、仮想第2軸線A2を中心として仮想第2軸線A2の軸線方向に延びる凹部からなる第2台座穴8cを備える。第2センターボス19は、第2軸受台7の第2脚部7aの被位置決め穴7a1と、支持台8の第2台座穴8cとに係合する。第2ボス固定ボルト20は、第2センターボス19の貫通穴19aを貫通して第2軸受台7の第2雌ネジ穴7eに螺合する雄ネジである。
【0070】
変形例に係る巻上機1においては、第1軸受台6及び第2軸受台7のそれぞれに、作業用空間(6b、7b)を設けることなく、第1位置決め工程及び第2位置決め工程を実施することができる。支持台8の台面8gから回転軸部材2の回転軸線までの距離を比較的短くすることが望まれる場合には、各軸受台に作業用空間を配置することが困難な場合がある。このような場合に、変形例に係る巻上機1は有効である。
【0071】
次に、実施形態に係る巻上機製造方法の第3例について説明する。この第3例では、変形例に係る巻上機1を組み立て製造するものである。
【0072】
実施形態に係る巻上機製造方法の第3例における第1位置決め工程、及び第1固定工程の詳細は、次の通りである。即ち、まず、
図16に示されるように、第1軸受台6の第1脚部6aの被位置決め穴6a1に第1センターボス17を係合させた後、第1ボス固定ボルト18によって第1センターボス17を第1軸受台6に固定する。この固定については、第1挿入工程、及び第1軸受け4を第1軸受台6に保持させる工程の前に実施してもよいし、後に実施してもよい。次いで、
図17に示されるように、第2軸受台7の第2脚部7aの被位置決め穴7a1に第2センターボス19を係合させた後、第2ボス固定ボルト20によって第2センターボス19を第2軸受台7に固定する。この固定については、第2挿入工程、及び第2軸受け5を第2軸受台7に保持させる工程の前に実施してもよいし、後に実施してもよい。
【0073】
第1センターボス17を第1軸受台6に固定し、且つ、第2センターボス19を第2軸受台7に固定したら、次に、第1軸受台6及び第2軸受台7を支持台8の台面8g上に持っていく。そして、
図18に示されるように、第1軸受台6に固定されている第1センターボス17を、支持台8の第1台座穴8aに係合させる。この係合により、第1軸受台6の軸中心位置が、台面8g上における第1所定位置に位置決めされる(第1位置決め工程)。その後、作業者は、
図19に示されるように、第2軸受台7に固定されている第2センターボス19を、支持台8の第2台座穴8cに係合させる。この係合により、第2軸受台7の軸中心位置が、台面8g上における第2所定位置に位置決めされる(第2位置決め工程)。
【0074】
実施形態に係る巻上機製造方法の第3例における第1係止工程、及び第2係止工程の詳細は、次の通りである。即ち、まず、作業者は、第1例及び第2例と同様にして、ダイヤルゲージを用いて第1軸受台6の回転姿勢を調整する。このとき、第1軸受台6に固定された第1センターボス17の外周面と、支持台8の第1台座穴8aの内周面とを摺擦させながら、第1軸受台6を回転させる。かかる構成では、支持台8の第1台座穴8aが、仮想第1軸線A1を中心とする第1軸受台6の回転を許容する第1回転許容部として機能する。作業者は、第1軸受台6の回転姿勢を調整したら、第1例と同様にして、第1軸受台固定ボルト13の締め付けによって第1軸受台6の回転を係止する(第1係止工程)。その後、第1例及び第2例と同様にして、ダイヤルゲージを用いて第2軸受台7の回転姿勢を調整する。このとき、第2軸受台7に固定された第2センターボス19の外周面と、支持台8の第2台座穴8cの内周面とを摺擦させながら、第2軸受台7を回転させる。かかる構成では、支持台8の第2台座穴8cが、仮想第2軸線A2を中心とする第2軸受台7の回転を許容する第2回転許容部として機能する。作業者は、第2軸受台7の回転姿勢を調整したら、第1例と同様にして、第2軸受台固定ボルト16の締め付けによって第2軸受台7の回転を係止する(第2係止工程)。
【0075】
本発明は上述の実施形態に限られず、本発明の構成を適用し得る範囲内で、実施形態とは異なる構成を採用することもできる。本発明は、以下に説明する態様毎に特有の作用効果を奏する。
【0076】
〔第1態様〕
第1態様は、回転軸部材(例えば回転軸部材2)と、前記回転軸部材に設けられ、前記回転軸部材とともに回転する駆動綱車(例えば駆動網車3)と、前記回転軸部材における回転軸線方向の前記駆動綱車よりも一方側を回転自在に受ける第1軸受け(例えば第1軸受け4)と、前記回転軸部材における前記回転軸線方向の前記駆動綱車よりも他方側を回転自在に受ける第2軸受け(例えば第2軸受け5)と、前記第1軸受けを保持する第1軸受台(例えば第1軸受台6)と、前記第2軸受けを保持する第2軸受台(例えば第2軸受台7)と、前記第1軸受台及び前記第2軸受台を台面(例えば台面8g)上で支持する支持台(例えば支持台8)とを備える巻上機(例えば巻上機1)であって、前記支持台の前記台面上に載置された前記第1軸受台の軸中心位置を、前記台面における面方向の第1所定位置に位置決めする第1位置決め部材(第1センターボス17)と、前記支持台の前記台面の面方向と直交する方向に沿い、且つ前記第1所定位置を通る仮想第1軸線(例えば仮想第1軸線A1)を中心とする前記第1軸受台の回転を許容する第1回転許容部(例えば被位置決め穴6a1又は第1台座穴8a)と、前記仮想第1軸線を中心とする前記第1軸受台の回転を係止する第1係止部材(例えば第1軸受台固定ボルト13)と、前記支持台の前記台面上に載置された前記第2軸受台を、前記台面における面方向の第2所定位置に位置決めする第2位置決め部材(例えば第2センターボス19)と、前記支持台の前記台面の面方向と直交する方向に沿い、且つ前記第2所定位置を通る仮想第2軸線(例えば仮想第2軸線A2)を中心とする前記第2軸受台の回転を許容する第2回転許容部(例えば被位置決め穴7a1又は第2台座穴8c)と、前記仮想第2軸線を中心とする前記第2軸受台の回転を係止する第2係止部材(例えば第2軸受台固定ボルト16)とを備えることを特徴とするものである。
【0077】
第1態様では、第1位置決め部材によって第1軸受台の軸中心位置が第1所定位置に位置決めされることで、第1軸受台の軸線と仮想第1軸線とが交差した状態で、第1位置決め部材が仮想第1軸線を中心とする第1軸受台の回転を許容する。第1軸受台の軸受け保持空間の内径が所定の公差になるように第1軸受台が製造され、且つ、第1軸受けの外輪の径が所定の公差になるように第1軸受けが製造されると、第1軸受台に保持される第1軸受けの軸線と、第1軸受台の軸心とがほぼ一致する。仮想第1軸線は第1軸受台の軸中心位置を通るので、第1軸受台が仮想第1軸線を中心にしてどのような角度で回転しても、第1軸受台の軸中心位置は変化しない。このため、第1軸受台が仮想第1軸線を中心にしてどのような角度で回転しても、第1軸受けの軸中心位置も殆ど変化しない。つまり、第1態様においては、第1軸受台の軸中心位置が第1位置決め部材によって台面上の第1所定位置に位置決めされると、第1軸受けの軸中心位置も台面上の第1所定位置に位置決めされる。台面に沿った2次元座標上における第1所定位置は、回転軸線方向と直交する方向の正規位置であるとともに、回転軸線方向の正規位置でもある。よって、第1態様によれば、上述の不具合1を解消することができる。
【0078】
また、第1態様では、第2位置決め部材によって第2軸受台が第2所定位置に位置決めされることで、第2軸受台の軸線と仮想第2軸線とが交差した状態で、第2位置決め部材が仮想第2軸線を中心とする第2軸受台の回転を許容する。第2軸受台の軸受け保持空間内径が所定の公差になるように第2軸受台が製造され、且つ、第2軸受けの外輪の径が所定の公差になるように第2軸受けが製造されると、第2軸受台に保持される第2軸受けの軸心と、第2軸受台の軸心とがほぼ一致する。仮想第2軸線は第2軸受台の軸線の軸方向中心を通るので、第2軸受台が仮想第2軸線を中心にしてどのような角度で回転しても、第2軸受台の軸線の軸方向中心の位置は変化しない。このため、第2軸受台が仮想第2軸線を中心にしてどのような角度で回転しても、第2軸受けの軸線の軸方向中心の位置も殆ど変化しない。つまり、第1態様においては、第2軸受台が第2位置決め部材によって第2所定位置に位置決めされると、第2軸受台の軸線方向の位置決めが自然になされるので、上述の不具合1を解消することができる。
【0079】
また、第1態様において、第1係止部材及び第2係止部材が装着されていない状態では、第1軸受けの軸中心位置が仮想第1軸線を中心に回転し、且つ第2軸受けの軸中心位置が仮想第2軸線を中心にして回転する。このような状態において、第1軸受台の回転姿勢と、第2軸受台の回転姿勢とを微調整することで、第1軸受台の傾き誤差、及び第2軸受台の傾き誤差のそれぞれを、ごく僅かな値に留めることが可能である。このように、第1態様によれば、極めて高精度な平面加工を要求される突起部を支持台に設けることなく、第1軸受台、第2軸受台のそれぞれにおける傾き誤差をごく僅かな値に留めることが可能であるので、上述の不具合2を解消することができる。
【0080】
また、第1態様において、第1位置決め部材によって第1軸受台の軸中心位置を支持台の台面における第1所定位置に位置決めする作業は、巻上機の設置現場でも容易に行うことができる。また、第2位置決め部材によって第2軸受台の軸中心位置を支持台の台面における第2所定位置に位置決めする作業も、巻上機1の設置現場でも容易に行うことができる。よって、第1態様によれば、上述の不具合3を解消することができる。
【0081】
〔第2態様〕
第2態様は、第1態様の構成を備え、且つ、前記第1軸受台が、脚部としての第1脚部(例えば第1脚部6aを備え、前記第2軸受台が、脚部としての第2脚部(例えば第2脚部7a)を備え、前記第1位置決め部材を脚部底面と直交する方向に沿って挿入するための被位置決め穴(例えば被位置決め穴6a1)が、前記第1脚部に配置され、前記第2位置決め部材を脚部底面と直交する方向に沿って挿入するための被位置決め穴(例えば被位置決め穴7a1)が、前記第2脚部に配置され、前記仮想第1軸線を中心として前記仮想第1軸線の軸線方向に延びる第1台座穴(例えば第1台座穴8a)と、前記仮想第2軸線を中心として前記仮想第1軸線の軸線方向に延びる第2台座穴(例えば第2台座穴8c)とが前記支持台に配置され、前記第1位置決め部材が、前記第1脚部の被位置決め穴と前記支持台の前記第1台座穴とに挿入され、前記第2位置決め部材が、前記第2脚部の被位置決め穴と前記支持台の前記第2台座穴とに挿入されることを特徴とするものである。
【0082】
第2態様においては、第1軸受台の第1脚部に被位置決め穴を所定の精度で穴あけ加工し、且つ支持台に第1台座穴を所定の精度で穴あけ加工するだけで、第1軸受台の軸中心位置を第1位置決め部材によって第1所定位置に位置決めすることが可能になる。また、第2態様においては、第2軸受台の第2脚部に被位置決め穴を所定の精度で穴あけ加工し、且つ支持台に第2台座穴を所定の精度で穴あけ加工するだけで、第2軸受台の軸中心位置を第2位置決め部材によって第2所定位置に位置決めすることが可能になる。
【0083】
〔第3態様〕
第3態様は、第2態様の構成を備え、且つ、前記第1脚部の被位置決め穴、及び前記第2脚部の被位置決め穴のそれぞれが、貫通穴からなり、前記第1位置決め部材が、前記第1脚部の被位置決め穴を貫通し、且つ前記第1台座穴に挿入された状態で前記支持台に固定され、前記第1脚部の被位置決め穴が、前記仮想第1軸線を中心とする前記第1脚部の回転を許容する前記第1回転許容部であり、前記第2位置決め部材が、前記第2脚部の被位置決め穴を貫通し、且つ前記第2台座穴に係合した状態で前記支持台に固定され、前記第2脚部の被位置決め穴が、前記仮想第2軸線を中心とする前記第2脚部の回転を許容する前記第2回転許容部であることを特徴とするものである。
【0084】
第3態様においては、第1位置決め部材を、第1軸受台の第1脚部の被位置決め穴と支持台の第1台座穴とに挿入するだけで、第1軸受台の軸中心位置を第1所定位置に容易に位置決めすることができる。また、第2位置決め部材を、第2軸受台の第2脚部の被位置決め穴と支持台の第2台座穴とに挿入するだけで、第2軸受台を第2所定位置に容易に位置決めすることができる。
【0085】
〔第4態様〕
第4態様は、第2態様の構成を備え、且つ、前記第1脚部の被位置決め穴、及び前記第2脚部の被位置決め穴のそれぞれが、脚部底面から窪む凹部からなり、前記第1位置決め部材が、前記第1脚部の被位置決め穴と、前記第1台座穴とに挿入された状態で前記第1脚部に固定され、前記第1台座穴が、前記仮想第1軸線を中心とする前記第1脚部の回転を許容する前記第1回転許容部であり、前記第2位置決め部材が、前記第2脚部の被位置決め穴と、前記第2台座穴とに係合した状態で前記第2脚部に固定され、前記第2台座穴が、前記仮想第2軸線を中心とする前記第2脚部の回転を許容する前記第2回転許容部であることを特徴とするものである。
【0086】
第4態様においては、第1位置決め部材を、第1軸受台の第1脚部の被位置決め穴と支持台の第1台座穴とに挿入するだけで、第1軸受台の軸中心位置を第1所定位置に容易に位置決めすることができる。また、第2位置決め部材を、第2軸受台の第2脚部の被位置決め穴と支持台の第2台座穴とに挿入するだけで、第2軸受台を第2所定位置に容易に位置決めすることができる。また、第1脚部及び第2脚部のそれぞれに作業用空間を設けることが困難なレイアウト(例えば台面と回転軸部材の回転軸線との距離が短いなど)であって、第1軸受台の軸中心位置と、第2軸受台の軸中心位置とを容易に位置決めすることができる。
【0087】
〔第5態様〕
第5態様は、第2態様~第4態様の何れかの構成を備え、且つ、前記第1係止部材、及び前記第2係止部材のそれぞれを複数備え、前記第1脚部及び前記第2脚部のそれぞれが、脚部に雄ネジを貫通させるための貫通穴である雄ネジ用貫通穴(例えば雄ネジ用貫通穴6g、7g)を複数備え、前記支持台が、複数の雌ネジ穴(例えば雌ネジ穴8e、8f)を備え、複数の第1係止部材のそれぞれが、前記支持台の複数の雌ネジ穴の何れかに螺合する雄ネジ(ボルト)からなり、複数の第2係止部材のそれぞれが、前記支持台の複数の雌ネジ穴の何れかに螺合する雄ネジ(ボルト)からなることを特徴とするものである。
【0088】
第5態様によれば、雄ネジ用貫通穴に通した雄ネジを支持台の雌ネジ穴に螺合させるという簡単な作業により、第1軸受台及び第2軸受台のそれぞれの回転を係止することができる。
【0089】
〔第6態様〕
第6態様は、第1態様~第5態様の何れかの巻上機を製造する巻上機製造方法であって、前記回転軸部材の回転軸線方向における一方側を前記第1軸受けに挿入する第1挿入工程と、前記回転軸部材の回転軸線方向における他方側を前記第2軸受けに挿入する第2挿入工程と、前記第1挿入工程及び前記第2挿入工程の後、前記第1軸受台の軸中心位置を前記第1位置決め部材によって前記支持台の前記台面における前記第1所定位置に位置決めする第1位置決め工程と、前記第1挿入工程及び前記第2挿入工程の後、前記第2軸受台の軸中心位置を前記第2位置決め部材によって前記台面における前記第2所定位置に位置決めする第2位置決め工程と、前記仮想第1軸線を中心とする前記第1位置決め部材の回転を前記第1係止部材によって係止する第1係止工程と、前記仮想第2軸線を中心とする前記第2位置決め部材の回転を前記第2係止部材によって係止する第2係止工程とを実施することを特徴とするものである。
【0090】
第6態様によれば、上述の不具合1、不具合2、及び不具合3を何れも解消することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、エレベータ用の巻上機などに適用が可能である。
【符号の説明】
【0092】
1:巻上機、 2:回転軸部材、 3:駆動綱車、 4:第1軸受け、 4a:内輪、 4b:外輪、 5:第2軸受け、 5a:内輪、 5b:外輪、 6:第1軸受台、 6a:第1脚部、 6a1:被位置決め穴(第1回転許容部)、 6b:作業用空間、 6c:第1軸受台の軸線、 6e:第1雌ネジ穴、 7:第2軸受台、 7a:第2脚部、 7a1:被位置決め穴(第1回転許容部)、 7b:作業用空間、 7c:第1軸受台の軸線、 7e:第2雌ネジ穴、 8:支持台、 8a:第1台座穴(第1回転許容部)、 8b:第1雌ネジ穴、 8c:第2台座穴(第2回転許容部)、 8d:第2雌ネジ穴、 13:第1軸受台固定ボルト(第1係止部材)、 16:第2軸受台固定ボルト(第2係止部材)、 18:第1ボス固定ボルト、 20:第2ボス固定ボルト、 A1:仮想第1軸線、 A2:仮想第2軸線、 Ax:回転軸線