(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】前処理液、およびそれを用いた水性インクジェットインキセット、印刷物、印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20240528BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20240528BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20240528BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41M5/00 100
B41M5/00 120
C09D11/54
C09D11/30
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2020213050
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂口 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】曽根田 裕士
(72)【発明者】
【氏名】廖 婉渝
(72)【発明者】
【氏名】服部 和昌
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-75436(JP,A)
【文献】特開2019-111763(JP,A)
【文献】特開2011-207985(JP,A)
【文献】特開2011-63016(JP,A)
【文献】特開2010-30305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
C09D 11/54
C09D 11/30
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷方式で用いる非浸透性基材の前処理液であって、
前記前処理液が、樹脂微粒子(A)と、凝集剤(B)と、水とを含み、
前記凝集剤(B)が、ビニル重合体であって、カチオン性基を含む構造単位(B1)、及び、水酸基を含む構成単位(B2)を含む、水溶性カチオン樹脂(C)を含み、
前記水溶性カチオン樹脂(C)の重量平均分子量が、10,000~100,000であり、水酸基価が50~300mgKOH/gである、前処理液。
【請求項2】
前処理液の樹脂微粒子(A)のガラス転移温度が、-50~50℃である、請求項1記載の前処理液。
【請求項3】
凝集剤(B)の含有量が、樹脂微粒子(A)100質量部に対して、60~200質量部であることを特徴とする、請求項1または2記載の前処理液。
【請求項4】
請求項1~3いずれかに記載の前処理液と、1種類以上の水性インクジェットインキとを含んでなる水性インクジェットインキセットであって、
前記水性インクジェットインキの1種類以上が、顔料(P)と、顔料分散樹脂(D)と、水とを含み、
前記顔料分散樹脂(D)の酸価が、30~375mgKOH/gである水性インクジェットインキセット。
【請求項5】
1種類以上の水性ジェットインキが、ホワイトインキを含んでなる、請求項4に記載の水性インクジェットインキセット。
【請求項6】
請求項4または5に記載の水性インクジェットインキセットの前処理液と水性インクジェットインキとを順次、非浸透性基材上に印刷してなる、印刷物。
【請求項7】
請求項4または5に記載の水性インクジェットインキセットを用いて非浸透性基材上に印刷してなる、印刷物の製造方法であって、
前記非浸透性基材に、前処理液を、乾燥後の膜厚が、0.1~1.6μmとなる量で印刷する工程と、
非浸透性基材上の、前記前処理液を印刷した部分に、水性インクジェットインキを、1パスインクジェット印刷により印刷する工程と、
前記水性インクジェットインキが印刷された、前記非浸透性基材を乾燥する工程とを含む、印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非浸透性基材に、インクジェット印刷方式で印刷する際に用いる前処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル印刷は、オフセット印刷などの従来の有版印刷とは違い、製版フィルムや製版を必要としないため、コスト削減や高速化が実現可能であり、将来的に広く普及すると期待されている。
【0003】
デジタル印刷の一種であるインクジェット印刷方式では、非常に微細なノズルからインキ液滴を印刷基材に直接吐出し、付着させることで文字や画像を得る。インクジェット印刷方式には、使用する装置の騒音が小さい、操作性がよい、カラー化が容易であるなどの利点があり、オフィスや家庭において、出力機として広く用いられている。またインクジェット技術の向上により、産業用途においても、デジタル印刷出力機として利用され始めている。
【0004】
従来、産業用途におけるインクジェット印刷方式で使用されるインキは、溶剤インキやUVインキであった。しかし近年、環境面への対応といった点から、水性インキの需要が高まっている。
【0005】
インクジェット印刷方式で用いる(以下、単に「インクジェット用」ともいう)水性インキは、従来、普通紙や専用紙(例えば、写真光沢紙)を対象としたものであった。すなわち、水を主成分とするとともに、基材に対する濡れ性や乾燥性を制御するため、グリセリンやグリコールなどの水溶性有機溶剤が添加される。これらの液体成分からなるインクジェット用水性インキを用いて、文字や画像のパターンを上記基材上に印刷すると、液体成分が前記基材中に浸透して乾燥し、定着する。
【0006】
一方で、軟包装材料の市場でも、消費者ニーズの変化や多様化に伴い、商品の多品種化、商品サイクルの短期化が進み、また、環境問題及び労働安全に対する配慮から、水性インキを用いたインクジェット方式での印刷が望まれている。それに対し、フィルム基材のような非浸透性の基材に対しては、着弾した後のインキ液滴が、基材中に全く浸透しないため、前記浸透による乾燥がほぼ起こらず、その結果液滴同士が合一して滲みやムラとなり、画像品質が損なわれていた。
【0007】
上記の課題に対する方策として、非浸透性基材に対する前処理液の付与処理が知られている。一般に、水性インクジェットインキ用の前処理液として、前記水性インクジェットインキ中の液体成分を吸収し乾燥性を向上させる層(インキ受容層)を形成するもの(特許文献1~2参照)と、固体成分の凝集やインキの増粘を意図的に引き起こすことで水性インクジェットインキ液滴間の滲みや色ムラを防止し画像品質を向上させる層(インキ凝集層)を形成するもの(特許文献3~4参照)の2種類が知られている。
【0008】
しかしながら、インキ受容層の場合、例えば一度に大量のインキを受容する際には、インキ受容層の膨潤に起因する画像のワレ、受容可能量超過による滲みや色ムラ、受容層へのインキ成分の吸収による濃度低下が発生する可能性がある。また受容層を形成する場合、後述するインキ凝集層の場合よりも、インキ受容層を形成する前処理液の塗工膜厚を厚くする必要がある。塗工量が多くなると、前処理液自身の乾燥性が低下し、乾燥不良などの不具合が生じることが懸念される。上記の通り、フィルム基材のような非浸透性の基材に使用する場合、前処理液も全く浸透しないことから、上記不具合が起こりやすいと考えられる。
【0009】
一方、インキ凝集層を形成する前処理液の例として、特許文献3には、多価金属塩、(カチオン化)ヒドロキシエチルセルロースを含有し、表面張力を規定した前処理液が記載されている。前記前処理液を使用することで、画像濃度が高く、ブリードがなく、耐擦性に優れた高品位の印刷物が得られるとされている。
【0010】
特許文献5には、支持体上にインク需要層を設けてなるインクジェット記録媒体の製造方法において、エチレン性不飽和単量体から得られるカチオン樹脂を用いた例があり、高湿環境下での画像のインク滲み耐性に優れたインク需要層が記載されている。
【0011】
特許文献6には、混色滲みや色ムラのない画像品質に優れた印刷物を得ることができ、また前記非浸透性基材に対する密着性にも優れた前処理液が記載されている。
【0012】
また、軟包装材料に用いるフィルム基材のような非浸透性基材に対して印刷する場合は、着弾した後のインキ液滴は基材へ浸透吸収しないため、フィルム基材に対する十分な密着性を得る必要がる。フィルム基材に対する密着性が不足すると、インキ膜が擦れなどにより剥がれてしまうことや、接着剤(ラミネート接着剤)を介して別のフィルムと貼り合わせた(ラミネート加工)際、積層体を構成する層間での接着力が得られず、積層間での剥離現象(デラミネーション)を起こしてしまう。
【0013】
また、軟包装材料においては、包材の形態にしたのち、ボイルまたはレトルト等の熱殺菌処理後の工程を経ることも多い。そのため、この熱殺菌処理に耐え得る強靭なインキ膜が必要であり、特に、水に対する耐性が求められる。これは、熱殺菌処理時の水蒸気や、加温により包装した内容物の水分が水蒸気となり、プラスチックフィルムを透過し、インキ膜に直接接触してしまうためである。よって、インキ膜に耐水性が不足すると、密着性と同様、積層間での接着力が低下し、剥離現象や外観不良を発生してしまう。
【0014】
しかしながら、これらの文献では凝集系の前処理液を用いており、多価金属塩などの凝集剤の水溶性が高いため、インキ膜の水に対する耐性が劣り、軟包装材料の熱殺菌処理時に接着力の低下や外観不良が発生してしまう。
【0015】
以上のように、混色滲みや色ムラがなく画像品質に優れた印刷物を得ることができ、かつ、軟包装材料の熱殺菌処理時に接着力や外観が良好な凝集系の前処理液を含む水性インクジェットインキセットは、これまで存在しない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2000-238422号公報
【文献】特開2000-335084号公報
【文献】特開2005-074655号公報
【文献】特開2006-281568号公報
【文献】特開2006-334911号公報
【文献】特開2020-075436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、フィルム基材などの非浸透性基材に対して、混色滲みや色ムラのない画像品質に優れた印刷物を得ることができ、軟包装材料の熱殺菌処理時に接着力や外観が良好な凝集系の前処理液、水性インクジェットインキセット、印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち本発明は、インクジェット印刷方式で用いる非浸透性基材の前処理液であって、
前記前処理液が、樹脂微粒子(A)と、凝集剤(B)と、水とを含み、
前記凝集剤(B)が、ビニル重合体であって、カチオン性基を含む構造単位(B1)、及び、水酸基を含む構成単位(B2)を含む、水、水溶性カチオン樹脂(C)を含み、
前記水溶性カチオン樹脂(C)の重量平均分子量が、10,000~100,000であり、水酸基価が50~300mgKOH/gである、前処理液に関する。
【0019】
また、本発明は、前処理液の樹脂微粒子(A)のガラス転移温度が、-50~50℃である、上記前処理液に関する。
【0020】
また、本発明は、凝集剤(B)の含有量が、樹脂微粒子(A)100質量部に対して、60~200質量部であることを特徴とする、上記前処理液に関する。
【0021】
また、本発明は、上記前処理液と、1種類以上の水性インクジェットインキとを含んでなる水性インクジェットインキセットであって、
前記水性インクジェットインキの1種類以上が、顔料(P)と、顔料分散樹脂(D)と、水とを含み、
前記顔料分散樹脂(D)の酸価が、30~375mgKOH/gである水性インクジェットインキセットに関する。
【0022】
また、本発明は、1種類以上の水性ジェットインキが、ホワイトインキを含んでなる、上記水性インクジェットインキセットに関する。
【0023】
また、本発明は、上記水性インクジェットインキセットの前処理液と水性インクジェットインキとを順次、非浸透性基材上に印刷してなる、印刷物に関する。
【0024】
また、本発明は、上記水性インクジェットインキセットを用いて非浸透性基材上に印刷してなる、印刷物の製造方法であって、
前記非浸透性基材に、前処理液を、乾燥後の膜厚が、0.1~1.6μmとなる量で印刷する工程と、
非浸透性基材上の、前記前処理液を印刷した部分に、水性インクジェットインキを用いて、1パスインクジェット印刷により印刷する工程と、
前記水性インクジェットインキが印刷された、前記非浸透性基材を乾燥する工程とを含む、印刷物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、フィルム基材などの非浸透性基材に対して、混色滲みや色ムラのない画像品質に優れた印刷物を得ることができ、軟包装材料の熱殺菌処理時に接着力や外観が良好な凝集系の前処理液、水性インクジェットインキセット、印刷物の提供が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、好ましい実施の形態を上げて、本発明の水性インクジェットインキについて説明する。以下、「水性インクジェットインキ」のことを、「水性インキ」「インキ」ということがある。
【0027】
<樹脂微粒子(A)>
本発明の前処理液は、樹脂微粒子(A)と、凝集剤(B)と、水とを含む。本発明における「樹脂微粒子」とは、後述する方法によって測定される粒子径が5~1000nmであるものを指す。なお、前記粒子径が1000nmより大きいものは、本発明では「樹脂粒子」と呼び、樹脂微粒子と区別する。
【0028】
本発明の前処理液に使用できる樹脂微粒子(A)の種類は、特に限定されるものではない。例えば、非浸透性基材に対する密着性の観点から、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、アクリル変性ポリウレタン樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが好ましい。より好ましくは、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、アクリル変性ポリウレタン樹脂、およびポリオレフィン樹脂からなる群より選択される樹脂微粒子を1種または2種以上含むことが好ましく、ポリオレフィン樹脂を含むことが特に好ましい。なお本発明において、「(メタ)アクリル」はアクリル及び/またはメタクリルを意味し、「(無水)マレイン酸」はマレイン酸及び/または無水マレイン酸を意味する。
【0029】
本発明の前処理液は、上記に例示された樹脂微粒子(A)を1種のみ含んでもよいし、2種以上併用してもよい。特性や種類の異なる樹脂微粒子を組み合わせて使用することで、印刷物の密着性、耐ブロッキング性、乾燥性と、前処理液の保存安定性とを好適に両立できるためである。中でも、上記特性の両立の観点から、樹脂微粒子(A)として、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、およびポリ(メタ)アクリル樹脂、から選択される2種類以上含むことが特に好適である。
【0030】
上記樹脂微粒子(A)は、公知の合成方法により合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品から選択する場合、例えば、アデカボンタイターHUXシリーズ(ADEKA社製);ユリアーノシリーズ(荒川化学工業社製);パラゾールシリーズ(大原パラヂウム化学社製);ユーコートシリーズ、パーマリンシリーズ(以上、三洋化成工業社製);スーパーフレックスシリーズ、スーパーフレックスEシリーズ(以上、第一工業製薬社製);WBRシリーズ(大成ファインケミカル社製);ハイドランシリーズ(DIC社製);ハイテックシリーズ(東邦化学工業社製);スーパークロンシリーズ、アウローレンシリーズ(日本製紙社製);ニチゴーポリエスターシリーズ(日本合成化学社製);AQUACERシリーズ、Hordamerシリーズ(以上、ビックケミー社製)、タケラックシリーズ(三井化学社製);パスコールシリーズ(明成化学工業社製);アローベースシリーズ(ユニチカ社製);NeoCrylシリーズ、NeoRezシリーズ(DSMCoatingResins社製)等が好適に使用できる。
【0031】
本発明の前処理液に含まれる樹脂微粒子(A)の量は、前記前処理液全量に対し、固形分換算で1~40質量%であることが好ましく、1~30質量%であることがより好ましく、3~20質量%であることが特に好ましい。樹脂微粒子(A)の配合量を上記範囲内とすることで、前処理液の保存安定性が良好となり、また、非浸透性基材に対する密着性や画像品質に優れた印刷物が得られる。
【0032】
<樹脂微粒子(A)の融点>
樹脂微粒子(A)の融点は、0~130℃であることが好ましい。より好ましくは15~105℃であり、特に好ましくは30~90℃である。融点が0℃以上であれば、前処理液の保存安定性が良好となり、130℃以下であれば、非浸透性基材に対する密着性に優れる。なお上記融点は、示差操作熱量測定(DSC)を用いて測定される値であり、例えば以下のように測定できる。樹脂を乾固したサンプル約2mgをアルミニウム製試料容器上で秤量したのち、前記アルミニウム製試料容器を、DSC測定装置(例えば、島津製作所社製「DSC-60Plus」)内のホルダーにセットする。そして10℃/分の昇温条件にて測定を行い、得られたDSCチャートから読み取った吸熱ピークの温度を、本発明における融点とする。なお、温度校正にはインジウムを使用する。
【0033】
<樹脂微粒子(A)のガラス転移温度>
非浸透性基材に対する密着性に優れる印刷物が得られる観点から、樹脂微粒子(A)のガラス転移温度(Tg)は、-50~50℃であることが好ましく、-40~40℃であることがより好ましい。なお融点と同様に、ガラス転移温度も示差操作熱量測定(DSC)によって測定できる。具体的には、上記方法によって得られたDSCチャートから、低温側のベースラインと、前記ベースラインの変曲点における接線との交点を求め、前記交点の温度をガラス転移温度とする。
【0034】
<樹脂微粒子(A)の粒子径>
樹脂微粒子(A)の粒子径(D50)は、30~500nmであることが好ましく、より好ましくは40~400nmであり、特に好ましくは50~300nmである。30nm以上であれば、前処理液の保存安定性が良好となり、500nm以下であれば、非浸透性基材に対する密着性に優れた印刷物が得られる。なお、粒子径(D50)は、粒度分布測定機(例えばマイクロトラック・ベル社製マイクロトラックUPAEX-150)を用い、動的光散乱法によって測定された、体積基準での累積50%径値(メジアン径)である。
【0035】
<凝集剤(B)>
本発明の前処理液は、凝集剤(B)、水、水溶性カチオン樹脂(C)を含み、凝集剤(B)が、ビニル重合体であって、カチオン性基を含む構造単位(B1)、及び、水酸基を含む構成単位(B2)を含む。前記カチオン樹脂(C)の重量平均分子量が、10,000~100,000であり、水酸基価が50~300mgKOH/gである。上記の通り、凝集剤(B)に由来するカチオン成分が、水性インクジェットインキ中の固体成分を凝集させる、及び/または、アニオン基を有する成分に起因する増粘を引き起こし、画像品質に優れた印刷物を得ることができる。
【0036】
水溶性カチオン樹脂(C)の重量平均分子量は10,000~100,000であり、30,000~80,000であることが好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、耐水性、耐擦過性が良好になり、ラミネート加工後の接着力が十分に確保でき好ましく、熱殺菌処理後の剥離現象を抑制することができる。100,000以下であれば、水に対する溶解性・拡散性に優れ、水性インクジェットインキの液滴と接触した際、素早く混合し、前記液滴が増粘・凝集を起こすことで、非浸透性基材上での濡れ広がりを抑制し、画像品質に優れた印刷物を得ることができる。
【0037】
水溶性カチオン樹脂(C)の重量平均分子量(Mw)は常法によって測定することができる。本発明においては、TSKgelカラム(東ソー社製)及びRI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC-8120GPC)を用い、展開溶媒にTHFを用いて測定したものであり、いずれもポリスチレン換算値である。
【0038】
水溶性カチオン樹脂(C)の水酸基価は50~300mgKOH/gである。水酸基価が50mgKOH/g以上であれば、ラミネート接着剤のイソシアネート成分と化学結合することで、耐水性、耐擦過性が良好になり、ラミネート加工後の接着力が十分に確保でき好ましく、熱殺菌処理後の剥離現象を抑制することができる。300mgKOH/g以下であれば、水酸基が過剰に残ることがなく、耐水性が良好になる。
【0039】
本発明で使用する水溶性カチオン樹脂(C)は、ビニル重合体であって、カチオン性基を含む構造単位(B1)、及び、水酸基を含む構成単位(B2)を必須成分として含むものである。ただし、上記の(B1)及び(B2)を必須成分として含むものであれば、(B1)(B2)以外の構造単位を更に含んでいてもよい。
なお、カチオン性基と水酸基とを含む構成単位が存在することを排除するものでないが、少なくとも、カチオン性基を含み水酸基を含まない構造単位と、水酸基を含みカチオン性基を含まない構造単位とがあることが必須である。
【0040】
水溶性カチオン樹脂(C)中の、カチオン性基を含むエチレン性不飽和単量体(b1)由来の構造単位と、水酸基を含むエチレン性不飽和単量体(b2)由来の構成単位質量比率は、4/1~1/3の比率が好ましく、2/1~1/2の比率であればより好ましい。
【0041】
カチオン性基を含む構造単位(B1)のカチオン性基としては、4級アンモニウム塩基が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明で使用する水溶性カチオン樹脂(C)は、例えば、カチオン性基を含むエチレン性不飽和単量体(b1)と、水酸基を含むエチレン性不飽和単量体(b2)と、必要に応じて、(b1)(b2)以外のエチレン性不飽和単量体(b3)とを、ビニル重合させて得られる。
【0043】
カチオン性基を含むエチレン性不飽和単量体(b1)である、4級アンモニウム塩基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルモルホリノアンモニウムクロライド等のアルキル(メタ)アクリレート系第4級アンモニウム塩、
(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のアルキル(メタ)アクリロイルアミド系第4級アンモニウム塩、ジメチルジアリルアンモニウムメチルサルフェート、トリメチルビニルフェニルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0044】
水酸基を含むエチレン性不飽和単量体(b2)としては、公知の物を使用することが出来る。具体的にはヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート等が挙げられる。さらに、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)(エチレングリコール-プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらの水酸基を含むエチレン性不飽和単量体(b2)は、単独、あるいは複数使用可能である。
【0045】
(b1)(b2)以外のエチレン性不飽和単量体(b3)としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン等のスチレン系単量体;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、テトラトリアコンタノイル(メタ)アクリレート、ヘキサトリアコンタノイル(メタ)アクリレート等のアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体;
(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノメチルエーテル、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノブチルエーテル、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノオクチルエーテル、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノベンジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノフェニルエーテル、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノヘキサデシルエーテル、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノオクタデシルエーテル等のアルキレンオキサイド鎖含有(メタ)アクリル系単量体;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香環含有(メタ)アクリル系単量体;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル系単量体;
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリル系単量体;等が挙げられる。なお「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」から選ばれる少なくとも1種を表す。
【0046】
また、別の実施形態として、カチオン性基、または、水酸基を有しないビニル重合体を変性させて、カチオン性基、および、水酸基を含む構造単位を有するビニル重合体とすることができる。
例えば、グリシジル(メタ)アクリレートを含む単量体をビニル重合し、重合後当該グリシジル基に、グリシジル基と反応する化合物で変性すれば、水酸基を含む構造単位(B2)を有するビニル重合体となる。
【0047】
あるいは、例えば、アミノ基、アミド基、-NHCONH2基などの官能基を有するエチレン性不飽和単量体をビニル重合し、重合後当該官能基をオニウム塩化剤などでカチオン性基に変性すれば、カチオン性基を含む構造単位(B1)を有するビニル重合体となる。
オニウム塩化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、またはジプロピル硫酸等のアルキル硫酸、p-トルエンスルホン酸メチル、またはベンゼンスルホン酸メチル等のスルホン酸エステル、メチルクロライド、エチルクロライド、プロピルクロライド、またはオクチルクロライド等のアルキルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、プロピルブロマイド、またはオクチルクロブロマイド等のアルキルブロマイド、あるいは、ベンジルクロライド、またはベンジルブロマイド等が挙げられる。
【0048】
アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジt-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジイソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジイソブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジt-ブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリルアミドが挙げられ、ジメチルアミノスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン等のジアルキルアミノ基を有するスチレン類、ジアリルメチルアミン、ジアリルアミン等のジアリルアミン化合物、N-ビニルピロリジン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール等のアミノ基含有芳香族ビニル系単量体が挙げられる。
そのほか、オニウム塩化剤などでカチオン性基に変性できる重合体として、ビニルアミン、アリルアミン、メチルジアリルアミン、エチレンイミンなどのアミン化合物;アクリルアミド、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミドなどのアミド化合物;ジシアンジアミドなどのシアナミド化合物;エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、メチルエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリン化合物;ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、ビニルイミダゾールなどの環状ビニル化合物;アミジン化合物;ピリジニウム塩化合物;イミダゾリウム塩化合物などの重合体を挙げることができる。
【0049】
なお、本発明において「水酸基価」とは、1gの試料をアセチル化するのに必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数(mgKOH/g)を意味する。上記水酸基価は、酸価と同様、前記樹脂を構成する各構成単位(単量体)から算出してもよいし、実験的に測定してもよい。実験的に測定する方法を例示すると、試料にアセチル化試薬(無水酢酸の25質量%ピリジン溶液)を加え、加熱してアセチル化したのち、放冷し、水を加えて前記無水酢酸を加水分解する。その後、溶剤としてエタノールを加え、酸価と同様の電位差自動滴定装置を用いて、水酸化カリウムのエタノール溶液(0.5mol/L)で試料溶液を滴定する。滴定終了後、終点到達までに添加した前記エタノール溶液の量から、水酸基価を算出する。
【0050】
本発明の前処理液では、水溶性カチオン樹脂(C)と金属塩とを組み合わせて用いてもよい。
【0051】
凝集剤(B)の含有量が、樹脂微粒子(A)100質量部に対して、60~200質量部であることが好ましく、80~160質量部であることがより好ましい。凝集剤(B)の配合量を上記範囲内に収めることで、にじみや混色を抑制し画像品質に優れた印刷物を得ることができ、保存安定性に優れた前処理液となることからも好適である。
【0052】
一実施形態において、本発明の前処理液で使用される凝集剤(B)は、吸湿性が小さいことが好ましい。吸湿性が小さい凝集剤(B’)を用いた場合、密着性や耐擦性に優れた印刷物が得られるだけでなく、印刷物を高湿環境下や長期で保管した場合であっても、大気中の水分を吸湿することがなく、長期にわたって優れた品質を保持できるためである。
【0053】
なお、本発明における「吸湿性が小さい凝集剤」とは、具体的には、下記方法によって測定される吸湿重量増加率が80質量%以下であるものを指す。まず、凝集剤を温度100℃、相対湿度75%RH以下の環境下で24時間保管する。なお市販品など、凝集剤が水溶液の状態でしか入手できない場合は、あらかじめ水を揮発除去したのち、100℃・75%RH以下の環境下に保管する。100℃・75%RH以下の環境下に保管したのち、凝集剤の重量を測定し(W1(g)とする)、続いて温度40℃、相対湿度80%RHの環境下で24時間保管する。40℃・80%RH環境下保管後、再度重量を測定し(W2(g)とする)、下記式(1)により吸湿重量増加率を算出する。
【0054】
式(1):吸湿重量増加率(質量%)=100×{(W2-W1)/W1}
【0055】
本発明の前処理液を付与した基材を、高湿環境下で長期間保管した際であっても、密着性や画像品質に優れた印刷物が得られる観点から、凝集剤(B’)の吸湿重量増加率は、80質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
<金属塩>
凝集剤(B)として金属塩を組み合わせる場合、水性インクジェットインキを凝集・増粘させられるものであれば、任意の材料を用いることができる。また、前処理液に対する溶解性や液中拡散性に優れるものを選択することが好ましい。なお、金属塩は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
本発明の前処理液において、金属塩は、金属イオンと前記金属イオンに結合する陰イオンとから構成されるものであれば、その種類は特に限定されない。その中でも、顔料と瞬時に相互作用することで、にじみや混色を抑制し、鮮明な画像を得ることができる点から、前記金属塩が多価金属塩を含有することが好ましい。また詳細は不明であるが、保存安定性に優れる前処理液が得られる点から、多価金属塩を構成する多価金属イオンが3価の陽イオン、特にアルミニウムイオンであることがより好ましい。
金属塩には、無機金属塩と有機金属塩がある。
【0058】
無機金属塩の具体例として、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、硝酸アルミニウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの無機金属塩の中でも、吸湿性や、水性インクジェットインキの凝集・増粘効果の点から、硫酸アルミニウム、及び/または硝酸アルミニウムを選択することが好ましい。
【0059】
また有機金属塩の具体例として、パントテン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、酢酸、乳酸などの有機酸の、アルミニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩、亜鉛塩などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの有機酸の金属塩の中でも、吸湿性や、水性インクジェットインキの凝集・増粘効果の点から、乳酸及び/または酢酸の、アルミニウム塩またはカルシウム塩を選択することが好ましい。
【0060】
<有機溶剤>
本発明の前処理液は、更に有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤を併用することで、凝集剤(B)の溶解性や、前処理液の乾燥性・濡れ性を好適なものに調整することができる。なお本実施形態の前処理液では、有機溶剤は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
本発明の前処理液に使用できる有機溶剤に特に制限はないが、水溶性の有機溶剤を含むことが好ましい。なお、本発明において「水溶性(の)有機溶剤」とは、25℃で液体であり、かつ、25℃の水に対する溶解度が1質量%以上であるものを指す。
【0062】
更に、本発明の前処理液に用いられる有機溶剤は、樹脂微粒子(A)や凝集剤(B)との親和性がよく、前記前処理液の保存安定性が向上する観点から、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤を使用することがより好ましく、非吸収性基材に対して均一な付与が実現でき、密着性や画像品質が特に向上する観点から、前記分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤として、1気圧下における沸点が75~210℃である水溶性有機溶剤を選択することが特に好ましい。なお本明細書における、1気圧下における沸点は、公知の方法、例えば示差熱分析(DTA)法や、示差走査熱量分析(DSC)法等によって測定される値である。
【0063】
本発明の前処理液に好適に用いられる、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤を例示すると、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、などの1価アルコール類;1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200、ポリエチレングリコール#400、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、などの2価アルコール(グリコール)類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、1,2-ブチレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ブチレングリコールモノメチルエーテル、などのグリコールモノアルキルエーテル類;グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジグリセリン、ポリグリセリン、などの鎖状ポリオール化合物;を挙げることができる。上記でも説明した通り、上記に例示した水溶性有機溶剤の中でも、1気圧下における沸点が75~210℃であるものが特に好適に選択される。
【0064】
また、ある好ましい実施形態では、樹脂微粒子(A)や凝集剤(B)との親和性に優れ、前記前処理液の保存安定性が向上するとともに、前処理液の濡れ性も良化できる観点から、上記で例示した化合物のうち、分子構造中に水酸基を1個または2個含む水溶性有機溶剤を選択することが好ましく、その中でも1価アルコール類を使用することが好ましい。
【0065】
また、本発明の前処理液には、上記に例示したもの以外にも、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコールジアルキルエーテル類;2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ε-カプロラクタム、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-エトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-2-エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-オクトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-オクトキシプロピオンアミドなどの含窒素系溶剤;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどの複素環化合物、などを使用することができる。
【0066】
本発明の前処理液に含まれる有機溶剤の配合量の総量は、前処理液全量に対して1~50質量%であることが好ましく、2~40質量%であることがより好ましく、3~30質量%であることが特に好ましい。有機溶剤の配合量を上記範囲内に収めることで、樹脂微粒子(A)や凝集剤(B)の溶解性と、非吸収性基材に対する濡れ性とが両立した前処理液を得ることができるとともに、前処理液の印刷方法によらず、長期にわたって、印刷欠陥を起こすことなく安定した印刷が可能となる。
【0067】
また有機溶剤として、水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤を使用する場合、その配合量は、前記有機溶剤全量に対して35~100質量%であることが好ましく、50~100質量%であることがより好ましく、65~100質量%であることが特に好ましい。配合量を上記範囲内に収めることで、水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤による効果が好適に発現されるためである。
【0068】
また本発明の前処理液では、1気圧下における沸点が240℃以上である有機溶剤の含有量が、前記前処理液全量に対して10質量%未満であることが好ましい(0質量%でも良い)。沸点が240℃以上である有機溶剤を含まないか、含むとしてもその配合量を上記範囲内とすることで、画像品質に優れた印刷物が得られるとともに、前処理液の乾燥性が十分なものとなる。
【0069】
更に上記と同様の理由により、1気圧下における沸点が240℃以上である有機溶剤の含有量が、前記前処理液全量に対して10質量%未満であることに加えて、1気圧下における沸点が220℃以上である有機溶剤の含有量が、前記前処理液全量に対して15質量%未満であることが好ましく、10質量%未満であることがより好ましい。
【0070】
<界面活性剤>
本発明の前処理液は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤には、シロキサン系、アクリル系、フッ素系、アセチレンジオール系、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系などの種類があり、これらのうちいずれか1種を選択してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
ある好ましい実施形態においては、非吸収性基材上における好適な濡れ性を付与することで、均一な前処理液層を形成し、密着性や画像品質に優れた印刷物を得ることができる観点から、上記のうち、アセチレンジオール系界面活性剤、及び/または、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤を使用することが好ましい。
【0072】
本発明の前処理液で使用される界面活性剤は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。界面活性剤を市販品から選択する場合、例えばアセチレン系界面活性剤としてサーフィノール61、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、420、440、465、485、SE、SE-F、ダイノール604、607(エアープロダクツ社製)、オルフィンE1004、E1010、E1020、PD-001、PD-002W、PD-004、PD-005、EXP.4001、EXP.4200、EXP.4123、EXP.4300(日信化学工業社製)などを、またポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤として、エマルゲンシリーズ(花王社製)、エマルミンシリーズ、サンノニックシリーズ、セドランシリーズ、ナロアクティーシリーズ(三洋化成工業社製)、ペグノールシリーズ(東邦化学工業社製)、ノニオンシリーズ、ユニルーブシリーズ、ユニセーフシリーズ(日油社製)などを挙げることができる。上記の界面活性剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0073】
本発明の前処理液が界面活性剤を含む場合、その配合量、非吸収性基材上で均一な前処理液層を形成する観点から、前処理液全量に対して0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~5質量%であることがより好ましい。特に好ましくは0.1~3質量%である。
【0074】
<水>
上記の通り、本発明の前処理液は水を主成分として含む。なお、本明細書において「水を主成分として含む」とは、全ての構成成分のうち水の配合量が最も多いことを意味する。
【0075】
本発明の前処理液に含まれる水の含有量は、前処理液全量に対し30~95質量%の範囲であることが好ましく、40~90質量%であることがより好ましく、50~85質量%であることが更に好ましい。水によって、樹脂微粒子(A)や凝集剤(B)、更には界面活性剤等の各種材料の相互溶解性が高まるため、前処理液の保存安定性向上には欠かせない材料である。
【0076】
<pH調整剤>
本発明の前処理液は、pH調整剤を含むことができる。pH調整剤を使用することで、塗工装置に使用される部材へのダメージを抑制するとともに、経時でのpH変動を抑えて前処理液の性能を長期的に維持し、保存安定性を維持・向上させることができる。pH調整剤として使用できる材料に制限はなく、また1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。具体的に、前処理液を塩基性化させる場合には、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、などのアルカノールアミン;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを使用することができる。また、前処理液を酸性化させる場合には、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸、ホウ酸、フマル酸、マロン酸、アスコルビン酸、グルタミン酸などを使用することができる。
【0077】
pH調整剤の配合量は、前処理液全量に対して0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~4.5質量%であることがより好ましい。pH調整剤の配合量を上記範囲内に収めることで、大気中の二酸化炭素の溶解など外部刺激によるpH変化が起きにくくなり、また、や凝集剤(B)の効果の発現を阻害することがない。
【0078】
<着色剤>
ある好ましい実施形態において、本発明の前処理液は、顔料や染料などの着色剤を実質的に含まない。着色剤を含まず、実質的に透明な前処理液を用いることで、基材特有の色味や透明感を活かした印刷物を得ることができる。なお本発明において「実質的に含まない」とは、本実施形態の効果発現を妨げる程度まで、当該材料を意図的に添加することを認めないことを表すものであり、例えば、不純物や副生成物としての意図せぬ混入まで排除するものではない。具体的には、前処理液全量に対し、当該材料を2.0質量%以上含まないことであり、好ましくは1.0質量%以上含まないことであり、より好ましくは0.5質量%以上含まないことであり、特に好ましくは0.1質量%以上含まないことである。
【0079】
一方、別の好ましい実施形態では、本発明の前処理液は、着色剤として、白色顔料を含む。白色の前処理液を、有色及び/または透明な基材に対して用いることで、鮮明性や視認性に優れた印刷物を得ることができる。本発明の前処理液が白色顔料を含む場合、前記白色顔料として、従来より既知の材料を任意に用いることができる。具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;チタン酸ストロンチウム、硫酸バリウムなどの水不溶性無機塩;中空樹脂粒子、非中空樹脂粒子などの水分散性樹脂粒子(エマルジョン);などが使用可能である。
【0080】
<その他材料>
また本発明の前処理液は、所望の物性値とするために、必要に応じて消泡剤、増粘剤、防腐剤などの添加剤を適宜使用できる。これらの添加剤を使用する場合、その配合量は、前処理液全量に対して0.01~5質量%とすることが好ましく、0.01~3質量%とすることが更に好ましい。過剰に配合してしまうと、前処理液中の凝集剤の機能を阻害してしまう可能性があることから、添加量は上記範囲にすることが好ましい。
【0081】
また、本発明の前処理液は、重合性単量体を実質的に含まないことが好ましい。
【0082】
<前処理液の物性>
本発明の前処理液が、平均粒子径(D50)が1μm以上である水不溶性粒子を含む場合、その含有量が、前記前処理液全量に対して1質量%以下であることが好ましい。平均粒子径が1μm以上である水不溶性粒子の配合量を制限することで、長期にわたって、前処理液の保存安定性が好適なものとなる。
【0083】
本発明において「水不溶性」とは、25℃の水に対する溶解度が1質量%未満であるものを指す。平均粒子径が1μm以上である水不溶性粒子の具体例として、前記粒子径条件を満たす、有機顔料、無機酸化物、水不溶性無機塩、水分散性樹脂粒子(エマルジョン)が挙げられる。なお、凝集剤(B)、着色剤などの上記で説明した材料であっても、平均粒子径が1μm以上であるものは、上記の水不溶性粒子に該当するものとする。
【0084】
本発明の前処理液は、25℃における粘度が5~200mPa・sであることが好ましく、5~180mPa・sであることがより好ましく、10~160mPa・sであることが更に好ましく、15~140mPa・sであることが特に好ましい。上記粘度範囲を満たす前処理液は、基材に対して均一に塗布できるため、画像品質や密着性に優れた印刷物となる。なお前処理液の粘度は、処理液の粘度に応じて、例えばE型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)やB型粘度計(東機産業社製TVB10形粘度計)を用いて測定することができる。
【0085】
本発明の前処理液の静的表面張力は、非吸収性基材上における好適な濡れ性を付与し、均一な前処理液層を形成することで、画像品質に優れた印刷物を得るという観点から、20~45mN/mであることが好ましく、22~40mN/mであることがより好ましく、25~35mN/mであることが特に好ましい。なお、本明細書における静的表面張力は、25℃環境下における、Wilhelmy法(プレート法、垂直板法)に基づく値であり、例えば、自動表面張力計DY-300(協和界面科学社製)と白金プレートとを用いて測定することができる。
【0086】
<前処理液の製造方法>
上記の成分からなる本発明の前処理液は、例えば、樹脂微粒子(A)、凝集剤(B)及び、必要に応じて、有機溶剤、界面活性剤、pH調整剤や、上記で挙げたような適宜に選択される添加剤成分を加え、撹拌・混合したのち、必要に応じて濾過することで製造される。ただし、前処理液の製造方法は上記に限定されるものではない。例えば着色剤として白色顔料を使用する場合、あらかじめ、前記白色顔料と水とを含む白色顔料分散液を作製したのち、樹脂微粒子(A)、凝集剤(B)と混合してもよい。
【0087】
<水性インクジェットインキセット>
本発明の前処理液は、1種類以上の水性インクジェットインキと組み合わせ、水性インクジェットインキセットの形態で使用できる。以下に、本発明の水性インクジェットインキセットを構成する水性インクジェットインキの構成要素について説明する。
本発明で使用される水性インクジェットインキは、少なくとも1種類が、顔料(P)と、顔料分散樹脂(D)と、水とを含む。水性インクジェットインキセットのすべての水性インクジェットインキが、顔料(P)と、顔料分散樹脂(D)と、水とを含むことがより好ましい。
【0088】
<顔料(P)>
本発明で使用される水性インクジェットインキは、耐ブロッキング性、耐水性、耐光性、耐候性、耐ガス性などを有する観点から、色材として顔料(P)を含む。前記顔料(P)として、既知の有機顔料、無機顔料のいずれも使用することができる。これらのうち、ホワイトインキ以外の顔料は、水性インキ全量に対して2~20質量%の範囲で含まれることが好ましく、2.5~15質量%の範囲で含まれることがより好ましく、3~10質量%の範囲で含まれることが特に好ましい。またホワイトインキの場合、顔料の含有量は、前記ホワイトインキ全量に対して3~40質量%であることが好ましく、5~35質量%であることがより好ましく、7~30質量%であることが特に好ましい。顔料の含有量を2質量%以上(ホワイトインキの場合は3質量%以上)にすることで、十分な発色性や鮮明性を有する印刷物が得られる。また顔料の含有量を20質量%以下(ホワイトインキの場合は40質量%以下)とすることで、水性インキの粘度を、インクジェット印刷に適した範囲に収められるとともに、前記水性インキの保存安定性も良好となり、結果として長期にわたって吐出安定性を確保できる。
【0089】
本発明で使用される水性インキで使用することができるシアン有機顔料として、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、66などが挙げられる。中でも発色性や耐光性に優れる点から、C.I.ピグメントブルー15:3、及び15:4からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0090】
また、マゼンタ有機顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、22、23、31、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、112、122、146、147、150、185、202、209、238、242、254、255、266、269、282、C.I.ピグメントバイオレッド19、23、29、30、37、40、43、50などが使用できる。中でも発色性や耐光性に優れる点から、C.I.ピグメントレッド122、150、166、185、202、209、266、269、282、及びC.I.ピグメントバイオレッド19からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0091】
なお発色性を更に高める観点で、マゼンタ有機顔料として、キナクリドン顔料を含む固溶体顔料を用いることも好ましい。具体的には、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントバイオレッド19とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド202とC.I.ピグメントバイオレッド19とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド209とC.I.ピグメントバイオレッド19とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド282とC.I.ピグメントバイオレッド19とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントレッド150とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントレッド185とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントレッド269とを含む固溶体顔料などを挙げることができる。
【0092】
また、イエロー有機顔料として、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213などが使用できる。中でも発色性に優れる点からC.I.ピグメントイエロー12、13、14、74、120、180、185、及び213からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0093】
また、ブラック有機顔料として、例えば、アニリンブラック、ルモゲンブラック、アゾメチンアゾブラックなどが使用できる。なお、上記のシアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料や、下記のオレンジ顔料、グリーン顔料、ブラウン顔料などの有彩色顔料を複数混合使用し、ブラック顔料とすることもできる。
【0094】
水性インクジェットインキには、オレンジ顔料、グリーン顔料、ブラウン顔料などの特色顔料を使用することもできる。具体的には、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71、C.I.ピグメントグリーン7、36、43、58、ピグメントブラウン23、25、26などが挙げられる。
【0095】
水性インクジェットインキで使用できる無機顔料には特に限定がなく、例えば黒色顔料としてカーボンブラックや酸化鉄、白色顔料として酸化チタンを用いることができる。
【0096】
カーボンブラックとして、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラックが挙げられる。中でも、これらのカーボンブラックのうち、一次粒子径が11~50nm、BET法による比表面積が50~400m2/g、揮発分が0.5~10質量%、pHが2~10であるものが好適である。このような特性を有する市販品として、例えばNo.25、30、33、40、44、45、52、850、900、950、960、970、980、1000、2200B、2300、2350、2600;MA7、MA8、MA77、MA100、MA230(三菱化学(株)製)、RAVEN760UP、780UP、860UP、900P、1000P、1060UP、1080UP、1255(ビルラカーボン社製)、REGAL330R、400R、660R、MOGULL(キャボット社製)、Nipex160IQ、170IQ、35、75;PrinteX30、35、40、45、55、75、80、85、90、95、300;SpecialBlack350、550;Nerox305、500、505、600、605(オリオンエンジニアドカーボンズ社製)などが挙げられ、いずれも好ましく使用することができる。
【0097】
また、白色顔料として好適に用いられる酸化チタンとして、アナターゼ型、ルチル型のいずれも使用することができるが、印刷物の隠蔽性を上げるためにもルチル型を用いるのが好ましい。また、塩素法、硫酸法などいずれの方法で製造したものを選択してもよいが、白色度が高いことから、塩素法にて製造された酸化チタンが好ましく使用される。
【0098】
また、酸化チタンは、無機化合物及び/または有機化合物によって表面処理されたものであることが好ましい。無機化合物の例として、シリコン(Si)、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン、チタンの化合物、及びこれらの水和酸化物を挙げることができる。また有機化合物の例として、多価アルコール、アルカノールアミンまたはその誘導体、高級脂肪酸またはその金属塩、有機金属化合物などを挙げることができる。これらの中でも、多価アルコールまたはその誘導体は、酸化チタン表面を高度に疎水化し、インキの保存安定性を向上できるため、好ましく用いられる。
【0099】
なお、本発明で使用される水性インクジェットインキでは、印刷物の色相や発色性を好適な範囲に収めるため、上記の顔料を複数混合して用いることができる。例えば、カーボンブラック顔料を使用したブラックインキに対し、低印字率における色味を改善するため、シアン有機顔料、バイオレッド有機顔料、マゼンタ有機顔料、オレンジ有機顔料、ブラウン有機顔料から選択される1種以上の顔料を少量添加してもよい。
【0100】
<顔料分散樹脂(D)>
顔料を水性インキ中で安定的に分散保持する方法として、(1)水溶性顔料分散樹脂を顔料表面に吸着させ分散する方法、(2)水溶性及び/または水分散性の界面活性剤を顔料表面に吸着させ分散する方法、(3)顔料表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、分散樹脂や界面活性剤なしでインキ中に分散する方法(自己分散顔料)、(4)水不溶性樹脂で顔料を被覆し、必要に応じて更に別の水溶性顔料分散樹脂や界面活性剤を用いてインキ中に分散させる方法などを挙げることができる。
【0101】
本発明で使用される水性インキでは、上記のうち(1)または(4)の方法、すなわち、顔料分散樹脂を用いる方法が選択され、かつ、前記顔料分散樹脂が、芳香環構造を有する単量体を、前記顔料分散樹脂を構成する単量体全量に対し20~90質量%含むことが好適である。これは、顔料分散樹脂中に含まれる芳香環と、前処理液に含まれる凝集剤(B)とが形成するπ-カチオン相互作用による密着性・画像品質の向上や、水溶性有機溶剤を含む水性インクジェットインキにおける保存安定性の確保・向上を目的としたものである。なお本明細書において「顔料分散樹脂」とは、上記(1)や(4)の方法において用いられる水溶性顔料分散樹脂や、上記(4)の方法において用いられる水不溶性樹脂を総称する用語として定義される。また「水不溶性樹脂」とは、対象となる樹脂の、25℃・1質量%水溶液が、肉眼で見て透明でないものを指す。
【0102】
本発明で使用される水性インキでは、上記の中でも、(1)の水溶性顔料分散樹脂を用いる方法を選択することが特に好ましい。これは、樹脂を構成する単量体組成や分子量を選定・検討することにより、顔料に対する樹脂吸着能や顔料分散樹脂の電荷を容易に調整でき、結果としてインキの保存安定性の向上や、本実施形態の前処理液による顔料凝集能力の制御が可能となるためである。
【0103】
上記顔料分散樹脂の種類は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、(無水)マレイン酸樹脂、スチレン(無水)マレイン酸樹脂、オレフィン(無水)マレイン酸樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂(多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体)などを使用することができる。中でも、芳香環構造を有する単量体を含む材料選択性の大きさや合成の容易さの点で、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂を使用することが特に好ましい。また上記の顔料分散樹脂は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。
【0104】
上記の通り、顔料分散樹脂は、その合成で使用する全単量体のうち、芳香環構造を有する単量体を20~90質量%含むことが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、20~70質量%であることが特に好ましい。芳香環構造の量を上記範囲に収めることで、π-カチオン相互作用を利用した密着性・画像品質向上の効果や、沸点の低い水溶性有機溶剤を含む水性インキにおける保存安定性の確保・向上の効果が好適なものとなる。
【0105】
一実施形態において、顔料分散樹脂は、芳香環構造に加えて炭素数10~36のアルキル基を含むことが好ましい。アルキル基の炭素数を10~36とすることにより、顔料分散液の低粘度化と更なる画像品質向上、保存安定性向上を実現できるためである。なおアルキル基の炭素数として、水性インキ中の水溶性有機溶剤との相溶性が好適化し、印刷物の乾燥性が良化する観点から、好ましくは炭素数12~30であり、更に好ましくは炭素数18~24である。またアルキル基は炭素数10~36の範囲であれば、直鎖であっても分岐していてもよいが、直鎖状のものが好ましい。直鎖のアルキル基としてはラウリル基(C12)、ミリスチル基(C14)、セチル基(C16)、ステアリル基(C18)、アラキル基(C20)、ベヘニル基(C22)、リグノセリル基(C24)、セロトイル基(C26)、モンタニル基(C28)、メリッシル基(C30)、ドトリアコンタノイル基(C32)、テトラトリアコンタノイル基(C34)、ヘキサトリアコンタノイル基(C36)などが挙げられる。
【0106】
炭素数10~36のアルキル鎖を含有する単量体の、顔料分散樹脂中に含まれる含有量は、顔料分散液の低粘度化と印刷物の耐擦性、乾燥性、耐ブロッキング性や光沢性とを両立させる観点から5~60質量%であることが好ましく、15~55質量%であることがより好ましく、25~50質量%であることが特に好ましい。
【0107】
また一実施形態において、顔料分散樹脂が、芳香環構造に加えて、アルキレンオキサイド基を含むことも好適である。アルキレンオキサイド基を導入することで、前記顔料分散樹脂の親水・疎水性を任意に調整し、水性インキの保存安定性を向上できるとともに、前記アルキレンオキサイド基が、前処理液層中の樹脂微粒子(A)や非吸収性基材と水素結合を引き起こし、印刷物の密着性が特段に向上する。上記機能を好適に発現させるため、顔料分散樹脂として水溶性顔料分散樹脂を用いる場合、前記アルキレンオキサイド基としてエチレンオキサイド基を選択することが好ましい。同様に、上記顔料分散樹脂として水不溶性樹脂を用いる場合、前記アルキレンオキサイド基としてプロピレンオキサイド基を選択することが好ましい。
【0108】
アルキレンオキサイド基を有する単量体の、顔料分散樹脂中に含まれる含有量は、顔料分散液の低粘度化、水性インキの保存安定性、印刷物の密着性を両立させる観点から、樹脂合成で使用する全単量体のうち、5~40質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることが特に好ましい。
【0109】
なお、顔料を水性インキ中で安定的に分散保持する方法として、上記(1)の方法を選択する、すなわち、上記顔料分散樹脂として水溶性顔料分散樹脂を用いる場合、インキへの溶解度を上げるため、前記顔料分散樹脂中の酸基を塩基で中和することが好ましい。しかしながら過剰に塩基を投入してしまうと、前処理液中にカチオン成分が含まれている場合、カチオン成分が中和されてしまい、十分な効果を発揮することができないため、その添加量には注意を払う必要がある。塩基の添加量が過剰かどうかは、例えば顔料分散樹脂の10質量%水溶液を作製し、前記水溶液のpHを測定することにより確認することができる。中でも、前処理液の機能を十分に発現させるために、前記水溶液のpHが7~11.5であることが好ましく、7.5~11であることがより好ましい。
【0110】
上記の、顔料分散樹脂を中和するための塩基としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを挙げることができる。
【0111】
顔料をインキ中で安定的に分散保持する方法として、上記(1)の方法を選択する、すなわち、上記顔料分散樹脂として水溶性顔料分散樹脂を用いる場合、その酸価が30~375mgKOH/gであることが好ましい。酸価を上記の範囲内に収めることで、顔料分散樹脂の水に対する溶解性が確保できるうえ、顔料分散樹脂間での相互作用が好適なものとなることで、顔料分散液の粘度を抑えることができるためである。酸価が30mgKOH/g以上であれば、水に対する溶解性が良好となり、顔料分散液の粘度を抑えることができ、400mgKOH/g以下であれば、水性インキの保存安定性が優れる。顔料分散樹脂の酸価は、65~340mgKOH/gであることがより好ましく、更に好ましくは、100~300mgKOH/gであり、特に好ましくは135~270mgKOH/gである。
【0112】
一方、上記(4)の方法を選択する、すなわち、上記顔料分散樹脂として水不溶性樹脂を用いる場合、その酸価は0~100mgKOH/gであることが好ましく、5~90mgKOH/gであることがより好ましく、更に好ましくは、10~80mgKOH/gである。酸価を上記の範囲内に収めることで、耐ブロッキング性や耐擦性に優れた印刷物が得られるためである。なお、顔料分散樹脂の酸価は、前記顔料分散樹脂1g中に含まれる酸を中和するために必要となる水酸化カリウム(KOH)のmg数であり、エタノール/トルエン混合溶媒中で、KOH溶液にて滴定した値である。前記測定は、例えば京都電子工業株式会社製「電位差自動滴定装置AT-610」を用いて行うことができる。
【0113】
また顔料分散樹脂の分子量は、重量平均分子量が1,000以上300,000以下の範囲内であることが好ましく、5,000以上200,000以下の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量が前記範囲であることにより、顔料が水中で安定的に分散することで水性インキの保存安定性が向上し、また、前記水性インキに使用した際の粘度調整などが行いやすい。重量平均分子量が1,000以上であると、水性インキ中に添加されている水溶性有機溶剤に対して顔料分散樹脂が溶解しにくいために、顔料に対しての分散樹脂の吸着が強くなり、インキの保存安定性が向上する。重量平均分子量が300,000以下であると、分散時の粘度が低く抑えられるだけでなく、インクジェットヘッドからの吐出安定性が良好となり、長期にわたって安定な印刷が可能になる。
【0114】
本発明において、顔料分散樹脂の配合量は、顔料に対して2~60質量%であることが好ましい。顔料分散樹脂の配合量を、顔料に対して2~60質量%とすることで、顔料分散液の粘度を抑え、前記顔料分散液や水性インキの保存安定性・分散安定性が良化するとともに、本実施形態の前処理液と混合した際に、速やかに凝集が引き起こる。顔料と顔料分散樹脂の比率としてより好ましくは4~55質量%、更に好ましくは5~50質量%である。
【0115】
<水溶性有機溶剤>
本発明で使用される水性インクジェットインキは、水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。また、1気圧下における沸点が250℃以上である水溶性有機溶剤の量が、水性インクジェットインキ全量に対し5質量%以下(0質量%でもよい)であることが好ましい。高沸点の水溶性有機溶剤量を5質量%以下にすることで、水性インクジェットインキの乾燥性、吐出安定性が良好になる上に、前処理液と組み合わせた際、にじみなどの画質欠陥がなく、耐ブロッキング性も良好な水性インキが得られる。また画像品質や耐ブロッキング性を更に向上させる観点から、1気圧下における沸点が250℃以上である水溶性有機溶剤の量は、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい(いずれも、0質量%であってもよい)。
【0116】
また同様の理由により、1気圧下における沸点が220℃以上である水溶性有機溶媒の量が、水性インキ全量に対し5質量%以下(0質量%でもよい)であることが好ましく、2質量%以下(0質量%でもよい)であることが特に好ましい。なお上記1気圧下における沸点が220℃以上である水溶性有機溶剤の量は、1気圧下で沸点が250℃以上である水溶性有機溶剤も含めて算出するものとする。
【0117】
一実施形態において、水性インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤の、1気圧下における加重沸点平均値は、145~215℃であることが好ましく、150~200℃であることがより好ましく、155~190℃であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤の加重沸点平均値を上記範囲に収めることで、本実施形態の前処理液と組み合わせたときに、高速印刷であっても高画質な画像を得ることができるとともに、吐出安定性も優れたものとなる。なお、上記加重沸点平均の算出には、上記の1気圧下で沸点が250℃以上である水溶性有機溶剤や沸点が220℃以上である水溶性有機溶剤も含めるものとする。また、上記1気圧下における加重沸点平均値は、それぞれの水溶性有機溶剤について算出した、1気圧下での沸点と、全水溶性有機溶剤に対する質量割合との乗算値を、足し合わせることで得られる値である。
【0118】
なお、上記の1気圧下での沸点は、DSC(示差走査熱量分析)などの熱分析装置を用いることにより測定することができる。
【0119】
水性インクジェットインキで使用される、水溶性有機溶剤の総量は、水性インクジェットインキ全量に対し3~40質量%であることが好ましい。更に、ノズルからの吐出安定性と、前処理液と組み合わせたときに十分な濡れ性と乾燥性を確保し、密着性や画像品質に優れた印刷物を得るという観点から、5~35質量%であることがより好ましく、8~30質量%以下であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤の総量を3質量%以上にすることでインキの保湿性が良好となり、吐出安定性に優れたインキとなる。また水溶性有機溶剤の含有量を40質量%以下にすることで、乾燥性が良好なインキが得られ、画像品質に優れた印刷物となる。なお、顔料分散樹脂や、後述するバインダー樹脂、界面活性剤などの材料成分との相溶性、親和性の観点から、グリコールエーテル系溶剤及び/またはアルキルポリオール系溶剤を含有することが好ましい。
【0120】
好適に用いられる、1気圧下の沸点が250℃未満であるグリコールエーテル系溶剤を例示すると、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ブチレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ブチレングリコールモノメチルエーテル、などのグリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、などのグリコールジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0121】
特に、優れた保湿性と乾燥性を両立することができる点で、上記グリコールエーテル系溶剤の中でも、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、1,2-ブチレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ブチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテルを選択することが好ましい。
【0122】
また、1気圧下の沸点が250℃未満であるアルキルポリオール系溶剤としては、例えば1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、などを挙げることができる。
【0123】
中でも、優れた保湿性と乾燥性を両立することができる点で、上記アルキルポリオール
系溶剤の中でも1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールを選択することが好ましい。
【0124】
<バインダー樹脂>
本発明で使用される水性インクジェットインキはバインダー樹脂を含むことが好ましい。バインダー樹脂の形態は、水溶性樹脂、エマルジョン、及び、両者の中間的形態であるディスパージョンのいずれであってもよく、水性インクジェットインキや印刷物に要求される特性に応じて、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。例えばエマルジョンやディスパージョンは、水性インクジェットインキの粘度を低くすることができ、より多量の樹脂を配合することができることから、印刷物の耐性を高めるのに適している。また、バインダー樹脂として水溶性樹脂を使用した水性インクジェットインキは、吐出安定性や、本実施形態の前処理液と組み合わせた際の印刷物の画像品質に優れる。
【0125】
またバインダー樹脂の種類に関しても、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、(無水)マレイン酸樹脂、スチレン(無水)マレイン酸樹脂、オレフィン(無水)マレイン酸樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂などを、いずれも好適に使用できる。中でも、水性インクジェットインキの保存安定性や、本実施形態の前処理液と組み合わせた際の、印刷物の密着性や耐擦性の観点から、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂が好ましく使用される。
【0126】
なお、バインダー樹脂としてエマルジョンを使用する場合、吐出安定性を好適なものとする観点から、前記エマルジョンを構成する単量体の種類や配合比を調整することにより、最低造膜温度(MFT)を50℃以上にすることが好ましい。
【0127】
なお、上記MFTは、例えばテスター産業社製MFTテスターによって測定することができる。具体的には、フィルム上にWET膜厚300μmとなるように樹脂微粒子の25質量%水溶液を塗工したのち、温度勾配をかけた状態で上記テスター上に静置し、乾燥後に白い析出物が生じた領域と透明な樹脂膜が形成された領域との境界の温度をMFTとする。
【0128】
また、バインダー樹脂として水溶性樹脂およびディスパージョンを使用する場合、水性インクジェットインキの吐出安定性と印刷物の耐擦性とを両立する観点から、その重量平均分子量を5,000~80,000の範囲とすることが好ましく、8,000~60,000の範囲とすることがより好ましく、10,000~50,000の範囲とすることが特に好ましい。また同様の理由により、水溶性樹脂およびディスパージョンの酸価が5~80mgKOH/gであることが好ましく、酸価が10~50mgKOH/gであることがより好ましい。
【0129】
前記バインダー樹脂の、水性インクジェットインキ全量中における含有量は、固形分換算で水性インクジェットインキ全量の1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは2~15質量%であり、特に好ましくは3~10質量%である。
【0130】
<界面活性剤>
本発明で使用される水性インキは、表面張力を調整し画像品質を向上させる目的で界面活性剤を使用することが好ましい。一方で、表面張力が低すぎるとインクジェットヘッドのノズル面が水性インキで濡れてしまい、吐出安定性を損なうことから、界面活性剤の種類と量の選択は非常に重要である。基材に対する濡れ性の確保と、ノズルからの吐出安定性の最適化という観点から、シロキサン系、アセチレンジオール系、フッ素系、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系の界面活性剤を使用することが好ましく、シロキサン系、アセチレンジオール系の界面活性剤を使用することが特に好ましい。界面活性剤の添加量としては、水性インキ全量に対して、0.01~5.0質量%が好ましく、0.05~3.0質量%が更に好ましい。
【0131】
界面活性剤は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。界面活性剤を市販品から選択する場合、例えばアセチレンジオール系界面活性剤やポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤は、前処理液で使用できる界面活性剤として上記に挙げたものが好適に選択できる。またシロキサン系界面活性剤としては、BY16-201、FZ-77、FZ-2104、FZ-2110、FZ-2162、F-2123、L-7001、L-7002、SF8427、SF8428、SH3749、SH8400、8032ADDITIVE、SH3773M(東レ・ダウコーニング社製)、Tegoglide410、Tegoglide432、Tegoglide435、Tegoglide440、Tegoglide450、Tegotwin4000、Tegotwin4100、Tegowet250、Tegowet260、Tegowet270、Tegowet280(エボニックデグサ社製)、SAG-002、SAG-503A(日信化学工業社製)、BYK-331、BYK-333、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-UV3500、BYK-UV3510(ビックケミー社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF355A、KF-615A、KF-640、KF-642、KF-643(信越化学工業社製)などを、フッ素系界面活性剤としては、ZonylTBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、CapstoneFS-30、FS-31(DuPont社)、PF-151N、PF-154N(オムノバ社製)などを使用できる。なお、上記の界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0132】
水性インキに使用する界面活性剤と前処理液に使用する界面活性剤は、同じでも異なっていてもよい。各々異なる界面活性剤を使用する際は、両者の表面張力に注意したうえで配合量を決定することが好ましい。
【0133】
<水>
本発明で使用される水性インキに含まれる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0134】
水性インキに使用することができる水の含有量としては、インキの全質量の20~90質量%の範囲であることが好ましい。
【0135】
<その他の成分>
本発明で使用される水性インキは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするためにpH調整剤を添加することができ、pH調整能を有する材料を任意に選択することができる。塩基性化させる場合は、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを使用することができる。また酸性化させる場合は塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸、ホウ酸、フマル酸、マロン酸、アスコルビン酸、グルタミン酸などを使用することができる。上記のpH調整剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0136】
pH調整剤の配合量は、水性インクジェットインキ全量に対し0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.2~1.5質量%であることが最も好ましい。上記範囲内に収めることで、空気中の二酸化炭素の溶解などによるpH変化を起こすことなく、また、前処理液と水性インキとが接触した際に、凝集剤(B)による凝集効果を阻害することなく、本発明の効果を好適に発現させることができるため、好ましい。
【0137】
また、水性インキは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするために、消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤などの添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、インキの全質量に対して、0.01~5質量%が好適である。
【0138】
なお、水性インキは、前処理液と同様、重合性単量体を実質的に含有しないことが好ましい。
【0139】
<水性インクジェットインキのセット>
本発明で使用される水性インクジェットインキは単色で使用してもよいが、用途に合わせて複数の色を組み合わせた水性インクジェットインキのセットとして使用することもできる。組み合わせは特に限定されないが、シアン、イエロー、マゼンタの3色を使用することでフルカラーの画像を得ることができる。また、ブラックインキを追加することで黒色感を向上させ、文字などの視認性を上げることができる。更にオレンジ、グリーンなどの色を追加することで色再現性を向上させることも可能である。非吸収性基材の一例であるフィルム基材では、透明フィルムに対して、ホワイトインキの印刷を行うことで、鮮明な画像を得ることができ、特にブラックインキで印刷された文字などの鮮明性や視認性を上げることができるため、好ましく組み合わされる。
【0140】
<水性インクジェットインキの製造方法>
上記した成分を含む、水性インクジェットインキは、例えば、以下のプロセスを経て製造される。ただし、水性インクジェットインキの製造方法は以下に限定されるものではない。
【0141】
(1)顔料分散液の製造
顔料分散樹脂として、水溶性顔料分散樹脂を用いる場合、前記水溶性顔料分散樹脂と水と、必要に応じて水溶性有機溶剤とを混合・攪拌し、水溶性顔料分散樹脂混合液を作製する。前記水溶性顔料分散樹脂混合液に、顔料を添加し、混合・攪拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、必要に応じて遠心分離、濾過や、固形分濃度の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0142】
また、水不溶性樹脂により被覆された顔料の分散液を製造する場合、あらかじめ、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に水不溶性樹脂を溶解させ、必要に応じて前記水不溶性樹脂を中和した、水不溶性樹脂溶液を作製する。前記水不溶性樹脂溶液に、顔料と、水とを添加し、混合・撹拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、減圧蒸留により前記有機溶媒を留去し、必要に応じて、遠心分離、濾過や、固形分濃度の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0143】
顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機ならいかなるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザーなどが挙げられる。上記の中でもビーズミルが好ましく使用され、具体的にはスーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミルなどの商品名で市販されている。
【0144】
顔料分散液の粒度分布を制御する方法として、上記に挙げた分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの材質を変更すること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、撹拌部材(アジテータ)の形状を変更すること、分散処理時間を長くすること、分散処理後フィルターや遠心分離機などで分級すること、及びこれらの手法の組み合わせが挙げられる。顔料を好適な粒度範囲に収めるためには、上記分散機の粉砕メディアの直径を0.1~3mmとすることが好ましい。また粉砕メディアの材質として、ガラス、ジルコン、ジルコニア、チタニアが好ましく用いられる。
【0145】
(2)水性インクジェットインキの調製
次いで、上記顔料分散液に、水溶性有機溶剤、水、及び必要に応じて上記で挙げたバインダー樹脂、界面活性剤やその他の添加剤を加え、撹拌・混合する。なお、必要に応じて前記混合物を40~100℃の範囲で加熱しながら撹拌・混合してもよい。
【0146】
(3)粗大粒子の除去
上記混合物に含まれる粗大粒子を、濾過分離、遠心分離などの手法により除去し、水性インクジェットインキとする。濾過分離の方法としては、既知の方法を適宜用いることができる。またフィルター開孔径は、粗大粒子、ダストが除去できるものであれば、特に制限されないが、好ましくは0.3~5μm、より好ましくは0.5~3μmである。また濾過を行う際は、フィルターは単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0147】
<水性インクジェットインキの特性>
水性インクジェットインキは、25℃における粘度を3~20mPa・sに調整することが好ましい。この粘度領域であれば、特に通常の4~10KHzの周波数を有するインクジェットヘッドから10~70KHzの高周波数のインクジェットヘッドにおいても安定した吐出特性を示す。特に、25℃における粘度を4~10mPa・sとすることで、600dpi以上の設計解像度を有するインクジェットヘッドに対して用いても、安定的に吐出させることができる。
【0148】
なお、上記粘度は常法により測定することができる。具体的にはE型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)を用い、インキ1mLを使用して測定することができる。
【0149】
また、安定的に吐出できる水性インクジェットインキにするとともに、本発明の前処理液と組み合わせた際、密着性や画像品質に優れた印刷物が得られる点から、本実施形態の水性インクジェットインキは、25℃における静的表面張力が18~35mN/mであることが好ましく、19~32mN/mであることがより好ましく、20~28mN/mであることが特に好ましい。また印刷物のにじみや混色を防ぎ、画像品質に特段に優れた印刷物が得られる観点から、水溶性有機溶剤や界面活性剤の種類・量を調整することで、本実施形態の水性インキの表面張力を、前処理液の表面張力以下とすることが好ましい。なお、本実施形態における静的表面張力は、例えば表面張力計(協和界面科学社製CBVP-Z)を用い、25℃環境下で白金プレート法によって測定することができる。
【0150】
また上記と同様の理由から、水性インクジェットインキは、25℃・10msecにおける動的表面張力が25~40mN/mであることが好ましく、28~38mN/mであることがより好ましく、30~36mN/mであることが特に好ましい。なお、本実施形態における動的表面張力は、Kruss社製バブルプレッシャー動的表面張力計BP100を用いて、25℃環境下で最大泡圧法によって測定することができる。
【0151】
水性インクジェットインキは、優れた発色性を有する印刷物を得るために、顔料の平均二次粒子径(D50)を40nm~500nmとすることが好ましく、より好ましくは50nm~400nmであり、特に好ましくは60nm~300nmである。平均二次粒子径を上記好適な範囲内に収めるためには、上記のように顔料分散処理工程を制御すればよい。
【0152】
<印刷物の製造方法>
本発明の前処理液と、上記水性インクジェットインキとを組み合わせた、水性インクジェットインキセットで印刷物を製造する方法として、非吸収性基材に前記前処理液を印刷する工程と、前記非吸収性基材上の、前記前処理液を印刷した部分に、前記水性インクジェットインキを、1パスインクジェット印刷により印刷する工程と、前記水性インクジェットインキが印刷された、前記非吸収性基材を乾燥する工程とを含む方法が好ましく用いられる。なお上記の工程は、この順番に実施することが好ましい。
【0153】
本発明において「1パスインクジェット印刷」とは、停止している基材に対しインクジェットヘッドを一度だけ走査させる、または、固定されたインクジェットヘッドの下部に基材を一度だけ通過させて印刷する方法であり、印字されたインキの上に再度インキが印字されることがない。ただし、インクジェットヘッドを走査させる場合、前記インクジェットヘッドの動きを加味して吐出タイミングを調整する必要があり、着弾位置のずれが生じやすい。そのため、本実施形態の水性インキを印刷する際は、固定されたインクジェットヘッドの下部に基材を通過させる方法が好ましく用いられる。
【0154】
以下に、本発明の水性インクジェットインキセットを用いた印刷物の製造方法について説明する。
【0155】
<前処理液の印刷方法>
本発明の前処理液を用いて印刷物を製造する際、好適には、水性インクジェットインキを印刷する前に、非吸収性基材上に前処理液が印刷される。その印刷方法として、インクジェット印刷のように基材に対して非接触で印刷する方式と、基材に対し前処理液を当接させて印刷する方式のどちらを採用してもよい。また、前処理液の印刷方法として、前処理液を当接させる印刷方式を選択する場合、オフセットグラビアコーター、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、ロールコーターなどのローラ形式が好適に使用できる。
【0156】
<前処理液印刷後の乾燥方法>
本発明の前処理液は、前処理液を非吸収性基材に印刷したのち、前記非吸収性基材を乾燥させ、前記基材上の前処理液を乾燥させたのち、水性インクジェットインキを印刷してもよいし、前記基材上の前処理液が完全に乾燥する前に、水性インクジェットインキを印刷してもよい。一実施形態において、水性インクジェットインキを印刷する前に前処理液を完全に乾燥させる、すなわち、前記前処理液の液体成分を完全に除去された状態とすることが好ましい。前処理液が完全に乾燥した後で水性インクジェットインキを印刷することで、後から着弾する水性インクジェットインキが乾燥不良を起こすことなく、耐擦性に優れた印刷物が得られるためである。
【0157】
本発明の前処理液の印刷で使用される乾燥方法に特に制限はなく、例えば加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法など、従来既知の方法を挙げることができる。上記の乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよいが、非吸収性基材へのダメージを軽減し効率よく乾燥させるため、熱風乾燥法を用いることが好ましい。また、基材へのダメージや前処理液中の液体成分の突沸を防止する観点から、加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35~100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50~150℃とすることが好ましい。
【0158】
<水性インクジェットインキの印刷方法>
水性インクジェットインキは、非吸収性基材上の前処理液を印刷した部分に、1パスインクジェット印刷により付与される方式が好ましい。なお、前記1パスインクジェット印刷で用いるインクジェットヘッドの設計解像度は、画像品質に優れた画像が得られる点から、600dpi(DotsPerInch)以上であることが好ましく、720dpi以上であることがより好ましい。
【0159】
<水性インクジェットインキ印刷後の乾燥方法>
水性インクジェットインキを印刷したあと、前記水性インキ、及び未乾燥の前処理液を乾燥させるため、前記水性インクジェットインキが付与された非吸収性基材を乾燥する工程を含むことが好ましい。なお好適に用いられる乾燥方法は、上記前処理液の場合と同様である。
【0160】
<前処理液、及び水性インクジェットインキの印刷量>
前処理液を印刷してなる乾燥後の層の膜厚が、0.1~1.6μmとなることが好ましい。
あるいは、本発明の水性インクジェットインキセットを印刷する際、非吸収性基材に対する本実施形態の前処理液の印刷量(乾燥後)は、1~25g/m2であることが好ましい。膜厚や塗布量を上記範囲に収めることで、混色にじみを抑えるとともに、塗布後の前処理液層の乾燥性が良好なものとなり、塗工装置内部への付着や、印刷物を重ねた際のブロッキングを防止し、タック感(べたつき)がなく、また耐擦性に優れた印刷物を得ることができる。
【0161】
また本発明の水性インクジェットインキセットを印刷する際は、前処理液の印刷量に対する水性インクジェットインキの印刷量の比を0.1以上10以下とすることが好ましい。なお印刷量の比としてより好ましくは0.5以上9以下であり、特に好ましくは1以上8以下である。印刷量の比を上記範囲に収めることにより、前処理液量が過剰となることで起こる基材の風合いの変化や、水性インクジェットインキ量が過剰となり前処理液の効果が不十分となることで起こる、画像品質の悪化を防ぐことができる。
【0162】
<非吸収性基材>
本発明の水性インクジェットインキセットを用いて印刷する際、非吸収性基材として、従来から既知のものを任意に用いることができる。例えば、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルムの様な熱可塑性樹脂基材や、アルミニウム箔の様な金属基材などが使用できる。上記の基材は印刷媒体の表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。また、これらの基材の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。更に印字面の反対側に剥離粘着層などを設けても良く、また印字後、印字面に粘着層などを設けても良い。また本発明のインキセットの印刷で使用される基材の形状は、ロール状でも枚葉状でもよい。
【0163】
中でも、本発明の前処理液の機能を十分に発現させるために、前記非吸収性基材が熱可塑性樹脂基材であることが好ましく、PETフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルムであることが特に好ましい。
【0164】
また、本発明の前処理液を均一に印刷することで画像品質を向上させ、また、密着性を特段に向上させるため、上記に例示した非吸収性基材に対し、コロナ処理やプラズマ処理といった表面改質方法を施すことも好ましい。
【0165】
<コーティング処理>
本発明の水性インクジェットインキセットを用いて作製した印刷物は、必要に応じて、印刷面をコーティング処理することができる。前記コーティング処理の具体例として、コーティング用組成物の塗工・印刷や、ドライラミネート法、無溶剤ラミネート法、押出しラミネート法などによるラミネート加工などが挙げられ、いずれを選択してもよいし、複数を組み合わせても良い。
【0166】
なお、コーティング用組成物を塗工・印刷することによって印刷物にコーティング処理を施す場合、その塗工・印刷方法として、インクジェット印刷のように基材に対して非接触で印刷する方式と、基材に対し前記コーティング用組成物を当接させて印刷する方式のどちらを採用してもよい。また、コーティング用組成物を基材に対して非接触で印刷する方式を選択する場合、前記コーティング用組成物として、本実施形態の水性インクジェットインキから顔料を除外した、実質的に着色剤成分を含まないインキ(クリアインキ)を使用することが好適である。
【実施例】
【0167】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の実施形態である前処理液、及び水性インクジェットインキを含む水性インクジェットインキセットを更に具体的に説明する。なお、以下の記載において「部」及び「%」とあるものは、特に断らない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0168】
<前処理液の製造>
<水溶性カチオン樹脂1の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水100部とイソプロピルアルコール(IPA)100部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、アクリルエステルDMC(三菱ケミカル製)50部と2-ヒドロキシエチルメタクリレート50部との混合液と、過硫酸アンモニウム15%水溶液50部をそれぞれ3時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、110℃で1時間反応させ、熟成した。さらに、液中のイソプロピルアルコールと水分を留出させ、固形分が30%になるように水を添加して調整することで、水溶性カチオン樹脂1(固形分30%)を得た。なお、上記に示した方法で測定した水溶性カチオン樹脂1の水酸基価は166mgKOH/g、重量平均分子量は10,000であった。
【0169】
<水溶性カチオン樹脂2~17の製造例>
表1に記載の材料を使用する以外は、水溶性カチオン樹脂1と同様の方法により、水溶性カチオン樹脂2~17を製造した。
【0170】
【0171】
DMC:アクリルエステルDMC(三菱ケミカル製)メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩
2HE-DMC:メタクリル酸(2-ヒドロキシエチル)メチルアミノエチルメチルクロライド塩
2HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
2HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
St:スチレン
【0172】
<前処理液1の製造例>
下記材料を、攪拌機を備えた混合容器内に投入し、室温(25℃)にて1時間混合したのち、50℃に加温し、更に1時間混合した。その後、混合物を室温まで冷却したのち、孔径1μmのメンブランフィルターにて濾過を行うことで、前処理液1を得た。
・NeoCrylXK-190(固形分40%)18.75部
・水溶性カチオン樹脂1(固形分30%)20.0部
・アデカノールUH-526(固形分30%)5.0部
・サーフィノール465 1.0部
・IPA5.0部
・プロキセルGXL0.10部
・イオン交換水50.15部
【0173】
<(1-4)前処理液2~25の製造例>
表2に記載の材料を使用する以外は、前処理液1と同様の方法により、前処理液2~25を製造した。
【0174】
【0175】
なお上記製造例において、使用した原料の詳細は以下である。
<樹脂微粒子>
NeoCrylXK-190:DSMCoatingResins社製スチレン-アクリル樹脂微粒子(ガラス転移温度32℃、固形分40%)
NeoRezR-9621:DSMCoatingResins社製ウレタン樹脂微粒子(ガラス転移温度-31℃、固形分38%)
<凝集剤>
PAS-H-1L:ニットーボーメディカル社製ポリジメチルジアリルアンモニウム塩酸塩(重量平均分子量8,500、固形分28%)
カチオマスタPD-7:四日市合成社製ポリエピクロロヒドリン(水酸基価410mgKOH/g、重量平均分子量5,000、固形分50%)
カチオマスタPD-30:四日市合成社製ポリエピクロロヒドリン(水酸基価405mgKOH/g、重量平均分子量9,000、固形分50%)
カチオマスタPE-30:四日市合成社製ポリエピクロロヒドリン(水酸基価340mgKOH/g、重量平均分子量9,000、固形分50%)
<増粘剤>
アデカノールUH-526:ADEKA社製水溶性ウレタン樹脂(固形分30%)
<界面活性剤>
サーフィノール465:エアープロダクツ社製アセチレンジオール系界面活性剤(固形分100%)
<防腐剤>
プロキセルGXL:アーチケミカルズ社製1,2-ベンゾイソチアゾールー3-オン(固形分100%)
【0176】
<水性インクジェットインキの製造>
<顔料分散樹脂1の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール95部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてスチレン35部、アクリル酸35部、ラウリルメタクリレート30部、及び重合開始剤であるV-601(和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、110℃で3時間反応させた後、V-601(和光純薬製)0.6部を添加し、更に110℃で1時間反応を続けて、顔料分散樹脂1の溶液を得た。更に、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノールを添加して完全に中和したのち、水を100部添加し水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、固形分が30%になるように調整することで、顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分30%)を得た。なお、上記に示した方法で測定した顔料分散樹脂1の酸価は272mgKOH/g、重量平均分子量は28,000であった。
【0177】
<顔料分散樹脂2~6の水性化溶液の製造例>
下記表3に示したように、重合性単量体の種類や量を変更した以外は、顔料分散樹脂1の場合と同様にして、顔料分散樹脂2~6の水性化溶液(固形分30%)を得た。
【0178】
【0179】
<顔料分散液1C、1M、1Y、1Kの製造例>
トーヨーカラー社製LIONOLBLUE7358G(C.I.ピグメントブルー15:3)を20部、顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分30%)を20部、水60部を混合し、攪拌機でプレミキシングした後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、顔料分散液1Cを得た。また上記C.I.ピグメントブルー15:3を、以下に示す顔料にそれぞれ置き換える以外は顔料分散液1Cと同様にして、顔料分散液1M、1Y、1Kを得た。
・Magenta:DIC社製FASTGENSUPERMAGENTARG(C.I.ピグメントレッド122)
・Yellow:トーヨーカラー社製LIONOLYELLOWTT1405G(C.I.ピグメントイエロー14)
・Black:オリオンエンジニアドカーボンズ社製PrinteX85(カーボンブラック)
【0180】
<顔料分散液2~6(C、M、Y、K)の製造例>
顔料分散樹脂として顔料分散樹脂1の水性化溶液を顔料分散樹脂2~6の水性化溶液(固形分30%)を置き換えて使用する以外は、顔料分散液1C、1M、1Y、1Kと同様の方法を用いることで、顔料分散液2~6(それぞれC、M、Y、K)を得た。
【0181】
<顔料分散液1Wの製造例>
石原産業社製タイペークCR-90-2(酸化チタン)を40部、顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分30%)を20部、水40部を混合し、攪拌機でプレミキシングした後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、顔料分散液1W(顔料濃度40%)を得た。
【0182】
<顔料分散液2W~6Wの製造例>
顔料分散樹脂として顔料分散樹脂1を顔料分散樹脂2~6の水性化溶液(固形分30%)を置き換えて使用する以外は、顔料分散液1Wと同様の方法を用いることで、顔料分散液2W~6Wを得た。
【0183】
<水性インクジェットインキのセット1(CMYKW)の製造例>
下記材料を、攪拌機を備えた混合容器内に順次投入し、十分に均一になるまで撹拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、インクジェットヘッド詰まりの原因となる粗大粒子を除去することで、水性インクジェットシアンインキ1を得た。また顔料分散液1Cの代わりに、顔料分散液1M、1Y、1K、1Wをそれぞれ使用することにより、シアン(C)、マゼンタ(M)イエロー(Y)、ブラック(K)ホワイト(W)の5色からなる水性インクジェットインキのセット1を得た:
・顔料分散液1C25部
・ジョンクリル8211(固形分44%)15部
・1,2-プロパンジオール(1,2-PD)20部
・サーフィノール465 1部
・プロキセルGXL0.05部
・イオン交換水38.95部
【0184】
なお上記製造例において、ジョンクリル8211は、BASF製アクリル樹脂エマルジョン(MFT57℃、固形分44%)である。
【0185】
<インクジェットインキのセット2~6(CMYKW)の製造例>
下記表4に記載の材料を使用する以外はインクジェットインキのセット1と同様の方法により、シアン(C)、マゼンタ(M)イエロー(Y)、ブラック(K)ホワイト(W)の5色からなるインクジェットインキのセット2~6を得た。
【0186】
【0187】
[実施例1~18、比較例1~12]
<前処理液を付与したフィルム基材の作製例>
松尾産業社製KコントロールコーターK202、ワイヤーバーNo.0を用い、下記フィルム基材に、上記で作成した前処理液をウェット膜厚4.0±0.2μmで塗布(印刷)したのち、前記前処理液を塗布したフィルム基材を、70℃のエアオーブンに投入し3分間乾燥させることで、前処理液を塗布したフィルム基材を作製した。
【0188】
<評価に使用したフィルム基材>
・ユニチカ社製ナイロンフィルム「エンブレムON」
(厚さ15μm、以下「NY」と記載)
【0189】
<印刷物の作製例>
基材を搬送できるコンベヤの上部にインクジェットヘッドKJ4B-QA(京セラ社製、設計解像度600dpi)を設置し、上記で製造した水性インクジェットインキのセットを、上流側からK、C、M、Y、Wの順番に充填した。次いで、前記コンベヤ上に、上記で作製した、前処理液を付与したフィルム基材を固定したのち、前記コンベヤを一定速度で駆動させ、前記インクジェットヘッドの設置部を通過する際に、インクジェットインキをそれぞれドロップボリューム10pLで吐出し、下記画像を印刷した。印刷後速やかに、前記印刷物を70℃エアオーブンに投入し5分間乾燥させることで、印刷物を作成した。
【0190】
なおコンベヤ駆動速度は、30m/分または50m/分の2条件とし、それぞれで印刷を行った。また印刷画像として、5cm×5cmの印字率100%ベタパッチが、CMYKの順番で隣接した画像(以下、「ベタパッチ画像」と呼ぶ)と、総印字率(各色の印字率の合計)を40~320%まで連続的に変化させた4色(CMYK)画像(以下、「グラデーション画像」と呼ぶ。なお、各総印字率における、各色の印字率は同一である)との2種類を準備し、それぞれの印刷物を作製した。
【0191】
表5に示した、前処理液と水性インクジェットインキのセットとの組み合わせで、上記印刷物を作製した。この印刷物、または、前処理液そのものを使用し、下記の評価1~5を行った。また評価結果は、表5に示した通りであった。
【0192】
【0193】
<評価1:混色滲みの評価>
上記の条件で印刷を行い、前処理液を塗工したフィルム基材上に印字率を40~320%まで諧調を変えた4C(CMYK)印刷物を作製し、印刷部のドット形状について光学顕微鏡を用いて200倍で観察し、混色滲みの評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用上可能領域とした。
◎:いずれの印字率においても4C印刷部のドットが独立しており、混色滲みが見られ
なかった
○:印字率40~280%の4C印刷部のドットが独立しており、混色滲みが見られな
かったが、印字率280%を超える印刷部で混色滲みが見られた
△:印字率40~240%の4C印刷部のドットが独立しており、混色滲みが見られな
かったが、印字率240%を超える印刷部で混色滲みが見られた。
×:印字率40~240%の4C印刷部で明らかに混色滲みが見られた
【0194】
<評価2:色ムラの評価>
上記の評価1と同様の条件で印刷を行い、前処理液を塗工したフィルム基材上に印字率を40~320%まで諧調を変えた4C(CMYK)印刷物を作製し、4C(CMYK)印刷物における色ムラの程度を目視観察し、色ムラの評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用上可能領域とした。
◎:いずれの印字率においても4C印刷部の色ムラが見られなかった
○:印字率40~280%の4C印刷部の色ムラが見られなかったが、印字率280%を超える印刷部で色ムラが見られた
△:印字率40~240%の4C印刷部の色ムラが見られなかったが、印字率240%を超える印刷部で色ムラが見られた
×:印字率40~240%の4C印刷部で明らかに色ムラが見られた
【0195】
<評価3:ラミネート強度(接着力)>
テストコーターを用い、前処理液を塗工した下記フィルム基材上に、1色の印字率100%のベタ印刷、および2色の合計印字率200%のベタ印刷した印刷物の印刷面に、下記ラミネート接着剤を、温度60℃、塗工速度50m/分の条件にて塗布した(塗布量:2g/m2)。なお、ラミネート接着剤に溶剤成分を含むものについては、塗布後に溶剤成分を乾燥させ、乾燥後の塗布量を2g/m2となるように塗布した。さらに、ラミネート接着剤の塗工面に下記シーラントフィルムを重ね合わせたのち、40℃、80%RHの環境下にて、1日間エージングすることで、ラミネート接着剤組成物を硬化させ、ラミネート加工した積層体を作製した。
<フィルム基材>
・ユニチカ社製ナイロンフィルム「エンブレムON」(厚さ15μm)
<シーラントフィルム>
・三井化学東セロ社製直鎖状低密度ポリエチレンフィルム「TUX-FC-D」(厚さ40μm)
<ラミネート接着剤>
・東洋モートン社製TM-265L/CAT-RT37(溶剤型ラミネート接着剤)
【0196】
作製したラミネート加工した積層体を、長さ300mm、幅15mmに切り取り、テストピースとした。インストロン型引張試験機を使用し、25℃の環境下にて、300mm/分の剥離速度で引張り、透明基材1/基材4間のT型剥離強度(N)を測定した。この試験を5回行い、その平均値を求めることで、接着力の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用上可能領域とした。
◎:接着力1.5N以上
〇:接着力0.6N以上、1.5N未満
△:接着力0.3N以上、0.6N未満
×:接着力0.3N未満
【0197】
<評価4:熱殺菌処理後の接着力>
ラミネート加工した積層体2枚を、シーラントフィルムが内側になるように重ね合わせ、ヒートシーラーを用い、150℃、2kg/cm2、1秒の条件にてシールして風袋を作製した。これを、日坂製作所製「RCS-40RTGN」高温高圧調理殺菌試験機により95℃、30分間の条件で熱水殺菌を行った。試験後、前記ラミネート強度と同様の方法にて評価を行った。
【0198】
<評価5:外観の評価>
熱殺菌処理後の接着力評価で用いた積層体試験片について、フィルム基材側から目視で観察することで、外観の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、〇評価を実使用上可能領域とした。
◎:積層体にデラミネーションおよび起泡が無いか、3%未満の面積でデラミネーションおよび起泡がある
〇:積層体に3%以上、20%未満の面積でデラミネーションおよび起泡がある
△:積層体に20%以上、50%未満の面積でデラミネーションおよび起泡がある。
×:積層体に50%以上の面積でデラミネーションおよび起泡がある。
【0199】
実施例1~18は、前処理液は本発明で規定する水溶性カチオン樹脂を用いた系であり、インクジェットインキセットは本発明で規定する顔料分散樹脂を用いた系であり、混色滲みや色ムラがなく画像品質に優れた印刷物を得ることができ、ラミネート加工後の接着力、熱水細菌処理後においても良好な状態を維持し、全てが実用可能領域であった。
【0200】
比較例1は、水溶性カチオン樹脂の重量平均分子量が10,000未満であり、熱殺菌処理後の外観が劣る結果となった。比較例2は、水溶性カチオン樹脂の重量平均分子量が100,000を超えるため、画像品質が劣る結果となった。比較例3は、水溶性カチオン樹脂の水酸基価が50mgKOH/g未満であり、ラミネート接着剤との架橋反応が劣り、熱水細菌処理後ラミネート加工後の接着力、熱水細菌処理後の外観が劣る結果となった。比較例4は、水溶性カチオン樹脂の水酸基価が300mgKOH/gを超えるため、水酸基が過剰に残ることで耐水性が劣り、熱水細菌処理後の外観が劣る結果となった。比較例5、6は水酸基価を持たない水溶性カチオン樹脂であり、比較例8~10は水溶性カチオン樹脂重量平均分子量と水酸基価が本発明で規定する範囲でないため、比較例11~12は、本発明で規定する樹脂でない、水溶性の高いカチオン性物質であるため、熱水細菌処理後ラミネート加工後の接着力、熱水細菌処理後の外観が劣る結果となった。比較例7は、水溶性カチオン樹脂が、本発明で規定する樹脂でない、カチオン性基を含む構造単位中に水酸基を含む構造であり、水に対する溶解性が劣るため顔料分散液の粘度を抑えることができず、非浸透性基材上での濡れ広がってしまい、画像品質が劣る結果となった。