(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/035 20120101AFI20240528BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20240528BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20240528BHJP
B60T 8/94 20060101ALI20240528BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B60W50/035
B60T7/12 C
B60T8/1761
B60T8/94
B60T17/18
(21)【出願番号】P 2021002190
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 智孝
(72)【発明者】
【氏名】谷本 充隆
(72)【発明者】
【氏名】小城 隆博
(72)【発明者】
【氏名】中村 倫道
(72)【発明者】
【氏名】安富 大祐
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-524112(JP,A)
【文献】特許第2917491(JP,B2)
【文献】特開2020-093700(JP,A)
【文献】特開2019-077341(JP,A)
【文献】特開2009-280098(JP,A)
【文献】特開2017-056827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0180605(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0174194(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 60/00
G08G 1/00 - 99/00
B60T 7/12 - 8/1769
8/32 - 8/96
B60T 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の自動運転の制御を実行する自動運転制御装置と、
前記車両の制動時に、前記車両の車輪の前後方向のスリップ率が閾値以下となるように制御するアンチロックブレーキ装置と、
を備え、
前記自動運転制御装置が実行する自動運転の制御には、少なくとも、運転者による減速要求に基づかずに設定される目標減速度に応じて、前記車両の車輪に付加される制動力を変化させる制動力制御が含まれ、
前記自動運転制御装置は、前記車両の自動運転の制御の実行中に、前記アンチロックブレーキ装置の故障が検出された場合、前記制動力制御において設定される前記目標減速度を、減速度上限値以下の値とするように構成されていることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記自動運転制御装置は、
前記制動力制御の実行中に前記アンチロックブレーキ装置の故障が検出された場合であって、かつ、
前記故障の検出時点において設定されている前記目標減速度が前記減速度上限値を超えている場合には、
前記目標減速度の単位時間あたりの低下量を閾値以下として、前記目標減速度を前記減速度上限値まで低下させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記自動運転制御装置は、
目標走行ルートを作成し、前記目標走行ルートに従って車両を自動で走行させる自動走行制御を実行できるように構成され、
前記自動走行制御の実行中に、前記車両の前方を走行する車両又は前記車両の横の車線において前記車両の周辺を走行する車両を検出した場合、前記目標減速度を前記減速度上限値として、前記制動力制御を開始する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記自動運転制御装置は、前記自動運転の制御の実行中に、前記目標減速度が前記減速度上限値以下に制限された場合、当該制限は、前記自動運転の制御が解除されるまでの間、維持されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記自動運転制御装置は、
前記自動運転の制御の実行中に、前記アンチロックブレーキ装置の故障が検出され、かつ、当該自動運転の制御が解除される前に、前記アンチロックブレーキ装置の故障が検出されなくなった場合、
前記減速度上限値の単位時間当たりの増加量を増加閾値以下として、前記減速度上限値を増加させるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記減速度上限値は、車両の横加速度、旋回状態、降坂路の勾配、及び、路面μのいずれか1つ以上に応じて設定されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチロックブレーキ装置を備え、自動運転が可能な車両を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪にロック傾向が生じたと判断された場合、その車輪におけるブレーキ圧の増減圧を制御することで、車輪のロックを防止するアンチロック制御が知られている。また、例えば、特許文献1には、アンチロック制御中に、車輪速センサや車体減速度センサ等のセンサに故障が発生した場合の制御が記載されている。具体的に、この制御では、故障前のセンサの出力信号に基づいて推定した直前の路面摩擦係数に応じて、ブレーキ圧の増圧量及び増圧回数が設定され、設定された増圧量及び増圧回数に従って、車輪のブレーキ圧が徐々に増圧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転支援又は自律走行による自動運転の制御の実行中にアンチロックブレーキ装置の故障が発生し、アンチロック制御が作動しない状態となると、自動運転中の制度力制御による減速操作が過剰となり、車輪ロックを生じさせる虞がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、アンチロックブレーキ装置に故障が生じた場合にも、自動運転中の過剰な減速操作を抑制することができるように改良された車両制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両制御装置は、車両の自動運転の制御を実行する自動運転制御装置と、車両の制動時に、車輪の前後方向のスリップ率が閾値以下となるように制御するアンチロックブレーキ装置とを備える。自動運転制御装置が実行する自動運転の制御には、少なくとも、運転者による減速要求に基づかずに設定される目標減速度に応じて、車両の車輪に付加される制動力を変化させる制動力制御が含まれる。自動運転制御装置は、車両の自動運転の制御の実行中に、アンチロックブレーキ装置の故障が検出された場合、制動力制御において設定される目標減速度を、減速度上限値以下の値とするように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アンチロックブレーキ装置の故障が検出された場合、自動運転での制動力制御における目標減速度は、減速度上限値に制限される。これにより、アンチロックブレーキ装置に故障がある場合にも、過重な減速操作が抑制され、車輪ロックを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る車両制御システムとそれが適用された車両の構成例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る自動運転制御装置が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態2に係る車両制御システムによる制御の概要を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態2に係る自動運転制御装置が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施の形態3に係る自動運転制御装置が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施の形態4に係る自動運転制御において設定される減速度上限値と、横加速度、旋回、降坂路の勾配との関係を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態4に係る自動運転制御において設定される減速度上限値と、路面μとの関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
【0010】
1.第1の実施の形態
1-1.自動運転制御の概要
本実施の形態に係る車両制御システムは、車両を自動で走行させる自動運転制御を実行可能に構成された車両制御装置である。本実施の形態に係る自動運転制御は、運転支援制御又は自律走行制御であり、本実施の形態に係る自動運転制御によって、例えばSAE(Society of Automotive Engineers)のレベル定義においてレベル2以上の自動運転レベルが実現される。
【0011】
自動運転制御は、車両の走行計画に基づいて行われる。走行計画は、目的地までの最適なルートに沿って車両を交通規則に従いながら安全に走行させるように立案される。走行計画には、現在の走行車線を維持する、車線変更を行う等の動作が含まれる。自動運転制御では、走行計画を基礎として、最終的に車両が採るべき走行軌道である目標走行ルートが生成される。自動運転制御では、目標走行ルートに車両を追従させるために、車両と目標走行ルートとの間の偏差(横偏差、ヨー角偏差、速度偏差、等)が算出され、その偏差が減少するように車両の操舵、制動、又は駆動を制御することが行われる。
【0012】
1-2.車両制御システムの構成及び機能
図1は、本実施の形態に係る車両制御システム10とそれが適用された車両1の構成例を示す図である。車両1は、車両制御システム10と、車両制御システム10に情報を入力する車載センサ20と、車両制御システム10から出力される信号によって動作する車両アクチュエータ30とを備える。
【0013】
車載センサ20は、自律センサ21、車両状態センサ22、及び、GPSセンサ23を含む。自律センサ21は、車両1の周辺環境に関する情報を取得するセンサであり、例えばカメラ、ミリ波レーダ、LiDAR(Light Detection And Ranging)等のセンサを含む。自律センサ21で得られた情報に基づき、車両1の周辺に存在する先行車等の物体の検知、検知した物体の車両1に対する相対位置や相対速度の計測、及び検知した物体の形状の認識等の処理が行われる。車両状態センサ22は、車両1の運動に関する情報を取得するセンサであり、例えば車輪速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、操舵角センサ、ストロークセンサ等のセンサを含む。GPSセンサ23は、車両1の現在位置に関する情報の取得に用いられる。
【0014】
車両アクチュエータ30は、車輪を操舵する操舵アクチュエータ31、車両1を駆動する駆動アクチュエータ32、及び車両1を制動するブレーキアクチュエータ33を含む。操舵アクチュエータ31には、例えば、パワーステアリングシステム、ステアバイワイヤ操舵システム、後輪操舵システムが含まれる。駆動アクチュエータ32には、例えば、エンジン、EVシステム、ハイブリッドシステムが含まれる。ブレーキアクチュエータ33には、例えば、油圧ブレーキ、電力回生ブレーキが含まれる。油圧ブレーキは、ブレーキキャリパ、ロータ、パッド、及び、油圧配管等を備える。回生ブレーキは電動機等を備える。
【0015】
車両制御システム10は、自動運転制御装置100と、操舵ECU(Electronic Control Unit)201と、駆動ECU202と、ブレーキECU203と、を備える。これらの制御装置(100、201~203)は、それぞれが独立したECUであり、少なくともプロセッサと記憶装置とを備える。記憶装置は、主記憶装置と補助記憶装置とを含む。自動運転制御装置100と、各ECU201~203の間で、CAN通信やイーサネット(登録商標)規格の通信等の有線通信や無線通信を介して必要な情報の入出力が行われる。
【0016】
自動運転制御装置100は、車両1の自動運転の管理及び制御を担う。自動運転制御装置100が備える記憶装置には、プロセッサで実行可能な自動運転制御プログラムとそれに関連する種々のデータとが記憶されている。自動運転制御プログラムがプロセッサで実行されることにより、プロセッサは、車載センサ20からセンサ情報を取得し、地図上における車両1の位置を認識するとともに、車両1の周辺の状況を認識する。プロセッサは、地図上における車両1の位置と車両1の周辺の状況に基づいて、自動運転中の車両1の目標走行ルートを生成し、車両1が目標走行ルートを追従するように車両1の操舵、駆動、及び制動量を決定する。
【0017】
操舵ECU201は、車両の操舵アクチュエータ31を制御する。駆動ECU202は駆動アクチュエータ32を制御する。ブレーキECU203は、ブレーキアクチュエータ33を制御する。自動運転制御が介入する場合には、操舵ECU201、駆動ECU202、ブレーキECU203は、それぞれ、自動運転制御装置100からの制御信号を受けて、車両1の操舵、駆動、及び制動動作を制御する。
【0018】
ブレーキECU203は、アンチロックブレーキ装置(以下、「ABS」と称する。ABSは、Anti-lock Braking Systemの略)204を備えている。ABS204は、車両1の制動時に車輪のロックを防ぐためのアンチロック制御を実行する。具体的に、ABS204は、推定車体速度と車輪速度とから車輪の前後方向のスリップ率を演算し、スリップ率が閾値を超えた場合に制動力を低下させる。即ち、例えば、ブレーキアクチュエータが油圧ブレーキである場合には、車輪のブレーキ油圧を減圧する。
【0019】
1-3.ABSの故障時の制御の概要
本実施の形態において、自動運転制御装置100が実行する自動運転の制御には、運転者による減速要求に基づかずに設定される目標減速度に応じて、車両の車輪に付加される制動力を変化させる制動力制御が含まれている。
【0020】
また、自動運転制御装置100が実行する制御には、自動運転中にABS204の故障が検出された場合の故障時制御が含まれる。具体的に、車両1の自動運転制御中に、ABS204の故障が検知された場合、自動運転で設定される目標減速度が減速度上限値に制限される。即ち、自動運転制御中の目標減速度は、自動運転の制御プログラムに従って演算される目標減速度の演算値と、減速度上限値とのうち、小さい方の減速度とされる。ここで減速度上限値は、車輪のロックを防ぐために、予め設定された値である。また、自動運転制御の実行中でない場合には、減速度の上限値は設けられない。
【0021】
1-4.具体的な制御動作
図2は、本実施の形態に係る自動運転制御装置100が実行する具体的な制御のルーチンをフローチャートに示す図である。以下、
図2のフローチャートを用いて、自動運転制御装置が実行するABS204の故障時制御について具体的に説明する。
図2の制御ルーチンは、一定の制御間隔で繰り返し実行される。
【0022】
図2の処理では、まず、ステップS1において、車両1の自動運転制御の実行中であるか否かが判別される。ステップS1において、車両1の自動運転制御の実行中であると判別された場合、次に、処理はS2に進む。
【0023】
ステップS2では、ABS204の故障が検知された、又は、故障履歴のフラグがONであるか否かが判別される。故障履歴のフラグは、ABS204の故障と診断された場合に後述する処理によりONとされ、自動運転が解除されたときにOFFとされるフラグである。
【0024】
ステップS1又はステップS2の判定結果がNO判定の場合、即ち、現在、自動運転制御の実行中でない場合、あるいは、ABS204の故障が検知されず、かつ、故障履歴のフラグがOFFである場合、次に、ステップS10に進む。
【0025】
ステップS10では、ABS204の故障履歴のフラグがOFFとされる。次に、ステップS11に進み、目標減速度に対し制限値は設定されず、自動運転制御において演算された目標減速度の演算値が目標減速度として採用される。即ち、自動運転制御装置100が自動運転の制御プログラムに従って演算した目標減速度が、そのまま利用できる状態とされる。その後、今回の処理は一旦終了する。
【0026】
一方、ステップS2でABS204の故障が検知された、又は、故障履歴のフラグがONであると判別された場合には、次に、処理はステップS20に進む。ステップS20では、故障履歴のフラグがONとされる。
【0027】
次に、ステップS21では、自動運転制御における目標減速度が、減速度上限値以下となるように制限される。即ち、自動運転制御中の減速制御では、自動運転制御において演算された目標減速度の演算値と減速度上限値のうち小さな方が選択され、自動運転制御中の減速制御に用いられる。その後、今回の処理は一旦終了とされる。
【0028】
以上説明したように、本実施の形態の車両制御システム10によれば、ABS204が故障した場合に、自動運転制御の減速度に制限が設けられる。これにより自動運転中の過剰な減速操作が回避され、車輪ロックを防止することができる。
【0029】
1-5.故障時制御の他の構成例
本実施の形態では、ABS204の故障と診断された場合に、自動運転制御における目標減速度に制限をかける場合について説明した。しかし、例えば、車両1にEBD(Electronic Brake force Distribution)装置及びVSC(Vehicle Stability Control)装置等のシステムが搭載されている場合、これらの故障診断を参照して、故障が検出された場合に、目標減速度に減速度上限値を設定する構成としてもよい。
【0030】
また、ABS204の故障が、ブレーキECU203の電源故障によるものである場合には、ABS204の故障を自動運転制御装置100に通知することができない。この場合、他の判定手段として、例えば、電源失陥の検出結果を参照することで、ABS204の故障を検出し、故障時制御を実行する構成としてもよい。また例えば、ブレーキECU203からの受信途絶の検出結果を参照して、ABS204の故障を検出し、故障時制御を実行する構成としてもよい。これらに限られず、ABS204の故障を自動運転制御装置100で検出できない場合にも、他の検出結果を参照することでABS204の故障を検出できる場合には、それにより故障制御装置を実行させる構成とすることができる。
【0031】
また、本実施の形態では、自動運転制御の実行中に一度ABS204の故障が検知されると故障履歴のフラグがONとされ、自動運転制御が解除されるまで、目標減速度に対する減速度上限値による制限が維持される構成となっている。しかし、この構成に限られず、例えば、自動運転制御の実行中に、ABS204の故障が検知されなくなった場合には、減速度上限値を徐々に大きくなるように変化させていき、最終的に減速度上限値による制限を解除する構成としてもよい。
【0032】
ここで、減速度上限値を徐々に大きくするとは、単位時間当たりの増加量が増加閾値を超えない範囲で、減速度上限値を大きくすることを意味する。これには、減速度上限値を増加関数的に増加させる場合、及び、減速度上限値を段階的に増加させる場合との両者を含む。段階的な増加としては、例えば自動運転制御において目標減速度が演算される制御サイクルごとに一定の増加量ずつ増加されるような方法がある。
【0033】
あるいは、自動運転制御が解除される前に、ABS204の故障が検出されなくなった場合に、減速制御中でない場合には、直ちに、減速度上限値による制限を解除し、自動運転制御において演算される目標減速度の演算値をそのまま目標減速度として採用できる構成としてもよい。ただし、この場合、ABS204の故障が検出されなくなった時点で、自動運転制御による減速制御中である場合には、目標減速度を減速度上限値以下に制限する故障時制御を維持し、減速制御が終了した後で、減速度上限値による制限を解除する構成とすることが望ましい。
【0034】
2.第2の実施の形態
実施の形態2の車両1及び車両制御システム10の構成は、
図1で説明した実施の形態1の構成と同一である。実施の形態2の車両制御システム10は、ABS204の故障が検知された時点で、自動運転制御の目標減速度が、既に、減速度上限値を超えている場合に、実施の形態1の制御と異なる制御を実行する。
【0035】
図3は、自動運転制御中であって、ABS204の故障が検知された時点の目標減速度が、減速度上限値を超えている場合の減速度の制御例を示す図である。
図3に示される例では、自動運転制御中の時点t1でABS204の故障が検知されている。この時点で、自動運転制御における目標減速度は、既に、減速度上限値を超えている。このような場合、本実施の形態では、
図3の例に示されるように、故障が検出された時点t1から目標減速度の低下が開始され、目標減速度が減速度上限値に低下する時点t2までの間、徐々に目標減速度が低下するように制御される。
【0036】
なお、「徐々に小さくする」とは、単位時間当たりの目標減速度の低下量が、所定の閾値以下となるように、目標減速度を低下させることを意味する。これには、目標減速度を減少関数的も減少させる場合と、目標減速度を段階的に減少させる場合とが含まれる。段階的に減少させる方法には、例えば、自動運転制御において目標減速度が演算される演算サイクルごとの目標減速度の低下量が所定値となるように低下させる方法がある。
【0037】
図4は、本実施の形態において自動運転制御装置100が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。
図4の制御ルーチンは、
図2の制御ルーチンのステップS20とS21との間に、ステップS201~S203の処理を有する点を除き、
図2の制御ルーチンと同一である。
【0038】
具体的に、ステップS20で、故障履歴のフラグがONとされた後、ステップS201では、現在の自動運転における目標減速度が減速度上限値以下であるか否かが判別される。なお、ここでは、現在、車両1が減速されていない場合、即ち、減速度が0以下である場合も、現在の減速度が減速度上限値より小さい場合に含まれる。ステップS201で現在の目標減速度が減速度上限値以下と判別された場合、処理はステップS21に進み、目標減速度は減速度上限値以下に制限される。
【0039】
一方、ステップS201で、現在の目標減速度が減速度上限値より大きいと判別された場合には、次に、処理はステップS202に進む。ステップS202では、自動運転における目標減速度が、減速度上限値に向けて徐々に下げられる。
【0040】
次に、ステップS203で、目標減速度が減速度上限値以下になったか否が判別される。ステップS203で目標減速度が減速度上限値より大きいと判別された場合、処理はステップS202に戻され、目標減速度を低下させる処理が継続される。ステップS202の処理及びステップS203の判定処理は、ステップS203において、目標減速度が減速度上限値以下と判別されるまでの間継続される。ステップS203において、目標減速度が減速度上限値以下と判別された場合、処理はステップS21に進み、目標減速度は、減速度上限値に制限される。
【0041】
以上説明したように、実施の形態2の車両制御システム10によれば、自動運転中に既に減速度が減速度上限値より大きい状態で、ABS204の故障が検知された場合にも、減速度が急激に低下するのを防ぎ、緩やかに減速度を変化させることができる。
【0042】
3.第3の実施の形態
実施の形態3の車両1の構成は、
図1に示す実施の形態1の車両1の構成と同一である。実施の形態3の自動運転制御装置100は、車両1を目標走行ルートに従って車両1を自動で走行させる自動走行制御を実行することができる。自動運転制御装置100は、自動走行制御中、自律センサ21によって取得された車両1の周辺情報を取得して、車両1の前方を走行する車両を検知した場合に先行車有りと判定する。また、車両1が走行するレーンの横のレーンの車両1の周辺を走行する車両を検知した場合、先行横レーン車ありと判定する。
【0043】
そして、先行車又は先行横レーン車ありとの判定が出され、かつ、自動運転制御中にABS204の故障が検知された場合、現在減速制御中であるか否かに関わらず、目標減速度を減速度上限値として車両1の減速制御を開始する。
【0044】
図5は、本実施の形態に係る自動運転制御装置100が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。
図5の制御ルーチンは、ステップS20とステップS21との間に、ステップS300及びS301の処理を有する点を除き、
図2の制御ルーチンと同一である。
【0045】
図5の制御ルーチンでは、ステップS20で故障履歴のフラグがONとされた後、ステップS300で、先行車又は先行横レーン車が検知されたか否かが判別される。ステップS300で先行車又は先行横レーン車が検知されない場合、処理はステップS21に進み、目標減速度が減速度上限値以下に制限される。
【0046】
一方、ステップS300で先行車又は先行横レーン車が検知されたと判別された場合、次に処理は、ステップS301に進む。ステップS301では、自動運転制御の目標減速度が減速度上限値に設定されて、直ちに減速が開始される。その後、今回の処理は一旦終了とされる。
【0047】
実施の形態3の制御によれば、自動運転制御中かつABS204が故障中の状態で、車両1の周辺を走行する車両が検知された場合、直ちに減速が開始される。このように早めに減速を行うことで車輪ロックを防ぎつつ、衝突の危険を回避することができ、自動運転の安全性を更に向上させることができる。
【0048】
4. 実施の形態4
本実施の形態に係る車両1は、
図1で説明した実施の形態1の車両1と同一の構成を有している。本実施の形態におけるABS204の故障時制御は、自動運転制御の目標減速度に対して設定される減速度上限値を、一定の定数とせず、横加速度に応じて設定するように構成されている点を除き、実施の形態1~3の何れかの制御と同一である。
【0049】
図6は、本実施の形態で設定される減速度上限値と、横加速度との関係を模式的に示す図である。
図6に示されるように、本実施の形態では、横加速度が大きい場合、横加速度が小さい場合よりも、減速度上限値が小さくなるように設定される。ここで、減速度上限値は、
図6に示されるように、横加速度に応じて関数的に減速度上限値が小さくなるように設定されるものとしてもよい。また、横加速度と減速度上限値との関係はマップ等で定義されていてもよい。この場合、横加速度がある範囲に属する場合に設定される減速度上限値は、横加速度がそれより大きい他の範囲に属する場合に設定される減速度上限値よりも、大きくなるように、横加速度と減速度上限値との関係が設定される。
【0050】
横加速度が大きい場合には旋回のリア内輪で荷重抜けによる車輪ロックが発生しやすい。このため、横加速度に応じて減速度上限値を小さくすることで、より効果的に車輪ロックの発生を回避することができる。また、横加速度が小さい場合には、減速度上限値が大きく設定されることで、目標減速度を適正に増加させることができる。
【0051】
また、同様に、旋回状態を検出して、旋回状態に応じて減速度上限値を変化させるようにしてもよい。この場合にも横加速度の場合と同様に、旋回が大きい場合、旋回が小さい場合に比べて、減速度上限値が小さくなるように設定される。
【0052】
また、同様に、降坂路を走行している場合には、降坂路の勾配に応じて減速度上限値を変化させるようにしてもよい。降坂路の場合、勾配が大きい場合、制動時にリア荷重が抜けやすく車輪ロックが発生しやすい。従って、
図6に示されるのと同様に、勾配が大きい場合、勾配が小さい場合に比べて、減速度上限値が小さくなるように設定する。これにより、効果的に車輪ロックの発生が抑制される。
【0053】
また、車両制御システムが、路面μを推定する手段を有する場合には、路面μに応じて、減速度上限値を変化させる構成としてもよい。この場合、
図7に示されるように、路面μが大きい場合、路面μが小さい場合に比べて、減速度上限値が大きくなるように設定される。
【0054】
以上のように、減速度上限値を、車両の運転状態や路面の状態に応じて変化させることで、より確実に車輪ロックを防ぎつつ、適切な減速制御を実行することができる。
【0055】
なお、以上の実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、この実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【符号の説明】
【0056】
10 車両制御システム
20 車載センサ
21 自律センサ
22 車両状態センサ
23 GPSセンサ
30 車両アクチュエータ
31 操舵アクチュエータ
32 駆動アクチュエータ
33 ブレーキアクチュエータ
100 自動運転制御装置
201 操舵ECU
202 駆動ECU
203 ブレーキECU