(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】車両の遮音構造
(51)【国際特許分類】
B60J 10/50 20160101AFI20240528BHJP
B60J 10/86 20160101ALI20240528BHJP
B60J 10/24 20160101ALI20240528BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B60J10/50
B60J10/86
B60J10/24
B60J5/00 Q
(21)【出願番号】P 2021002956
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】村澤 英治
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6811194(US,B1)
【文献】特開平11-028936(JP,A)
【文献】特開平10-109662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
10/00-10/90
B60R 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェザストリップを備えたドアと、ドア開口部が形成された車体とを含み、前記ドアと前記ドア開口部の周縁部の少なくとも一部との間が前記ウェザストリップによりシールされる車両の遮音構造であって、
前記ドアは、少なくとも2枚の板材を含みかつ両板材の間に空間が形成されたドア本体を有し、当該ドア本体の周縁部の少なくとも一部に前記ウェザストリップを備え、
前記ドア開口部の周縁部は、車両の幅方向又は前後方向である第1方向に沿って延在する第1面部と、この第1面部の前記第1方向における車外側の端部から車両外側面に沿った第2方向に延びる第2面部とを含み、
ドア閉状態における、前記ウェザストリップと前記第1面部との当接長さであって前記第1方向に沿った当接長さをL1、前記ウェザストリップと前記第2面部との当接長さであって前記第2方向に沿った当接長さをL2とするとき、
10mm≦L1≦40mmであって、かつ、L1>L2×1.07
の関係を満たすことを特徴とする車両の遮音構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の遮音構造において、
前記第1面部は、前記第1方向と平行な方向に延在している、ことを特徴とする車両の遮音構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両の遮音構造において、
前記2枚の板材は前記ドア本体の外縁部で互いに接合されており、
前記板材同士の接合部のうち、前記第2方向におけるドア本体内方側の端部は、ドア閉状態において、前記第2面部よりも前記ドア本体内方側に位置する、ことを特徴とする車両の遮音構造。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両の遮音構造において、
前記ウェザストリップは、ドア閉状態において圧縮変形することにより前記第1面部から前記第2面部に亘って当接する中空のシール部を備えており、
前記L1、L2は、前記シール部が前記第1面部及び前記第2面部に当接する長さである、ことを特徴とする車両の遮音構造。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の遮音構造において、
前記シール部は、その断面中心よりも前記第1方向における車内側の位置に、当該シール部の内側に凹むくびれ部を備えている、ことを特徴とする車両の遮音構造。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の車両の遮音構造において、
前記シール部は、その断面中心よりも前記第1方向における車外側の位置に、当該シール部の内側に凹むくびれ部を備えている、ことを特徴とする車両の遮音構造。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の車両の遮音構造において、
前記ドアは、車両の左右両側に備えられる乗降用のドアである、ことを特徴とする車両の遮音構造。
【請求項8】
請求項7に記載の車両の遮音構造において、
前記ドア本体は、前記2枚の板材の間にインパクトバーを備え、
前記インパクトバーの長手方向の端部が、前記ドア本体の周縁部近傍であって前記ウェザストリップに隣接する位置に設けられている、ことを特徴とする車両の遮音構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアとドア開口部の周縁部との間がウェザストリップによりシールされることにより遮音が達成される車両の遮音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドアの外縁部には、車外からの水や音の侵入を防止する目的で、ウェザストリップと称する長尺状のシール部材が備えられる。ウェザストリップは、ドア閉時、ドアの外縁部と車体のドア開口部の周縁部との間に挟み込まれて当該ドアと車体との間を水密及び気密な状態にシールする。これにより、車室内への水や音の侵入が防止される。例えば、特許文献1には、ウェザストリップを備えた車両の一例について開示されている。具体的には、高圧水洗車時のシール性に優れたウェザストリップを備えた車両について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車室内の静粛性向上の観点から、車両を構成する部材を、内部空間を有するパネルと見なし、当該内部空間の空気の挙動をコントロールすることで、車外から車内に透過する透過音を低減する研究が進められている。例えば、車両のドアは、アウタパネルとインナパネルとから構成された二重壁構造のパネルと言える。そのため、当該ドアの内部空間の空気の挙動をコントロールすることで、車室内の静粛性が向上すると考えられる。
【0005】
本願の発明者らは、車両のドアの内部空間の空気の挙動をコントロールする要素としてウェザストリップに着目し、ウェザストリップによるドアの支持剛性をアップすることが透過音の低減に有効であるとの知見を得た。しかし、単にウェザストリップを硬くしてその剛性をアップさせる場合には、ドアが閉まり難くなり、いわゆる半ドアが生じ易くなるという弊害がある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、ドア閉時の操作性を著しく阻害することなく、車室内の静粛性の向上を図ることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の本発明者らは、ウェザストリップの支持剛性(ドアを支持するウェザストリップの剛性)を高めることが透過音の低減に有効であるとの知見に基づき、さらに鋭意検討を重ねた結果、ウェザストリップを備えたドアと、車体のドア開口部の周縁部との間がウェザストリップによりシールされる構造では、後に詳細に説明する通り、ドア閉時の前記周縁部に対するウェザストリップの当接状態が前記支持剛性に影響すること、そして、特定の当接状態において前記支持剛性が顕著にアップするとの知見を得た。
【0008】
本発明は、この知見に基づき成されたものである。すなわち、本発明の一局面に係る車両の遮音構造は、ウェザストリップを備えたドアと、ドア開口部が形成された車体とを含み、前記ドアと前記ドア開口部の周縁部の少なくとも一部との間が前記ウェザストリップによりシールされる車両の遮音構造であって、前記ドアは、少なくとも内外2枚の板材を含みかつ両板材の間に空間が形成されたドア本体を有し、当該ドア本体の周縁部の少なくとも一部に前記ウェザストリップを備え、前記ドア開口部の周縁部は、車両の幅方向又は前後方向である第1方向に沿って延在する第1面部と、この第1面部の前記第1方向における車外側の端部から車両外側面に沿った第2方向に延びる第2面部とを含み、ドア閉状態における、前記ウェザストリップと前記第1面部との当接長さであって前記第1方向に沿った当接長さをL1、前記ウェザストリップと前記第2面部との当接長さであって前記第2方向に沿った当接長さをL2とするとき、10mm≦L1≦40mmであって、かつ、L1>L2×1.07の関係を満たすことを特徴とする。
【0009】
この遮音構造によると、10mm≦L1≦40mmであって、かつ、L1>L2×1.07の関係を満たすので、ウェザストリップの支持剛性を確保して、車室内の静粛性の向上を図ることが可能となる。すなわち、L1、L2は、ドア閉時のウェザストリップの支持剛性に影響を与える要素であり、後述する通り、上記関係を満たす場合には、満たさない場合に比べて、ウェザストリップの支持剛性が顕著にアップする。しかも、ウェザストリップを硬くすることなく、ウェザストリップの支持剛性を確保できるので、ドア閉時の操作性も阻害され難い。なお、ドアを閉じる際にウェザストリップからドアが受ける反力は、ドアの閉操作性に影響を与える要素であり、当該反力はL2が相対的に大きい程大きくなる。しかし、この遮音構造では、上記関係を満たせばよく、L2の自由度が比較的高い。従って、ドア閉時の操作性を阻害しない範囲でL2が設定されることにより、ドア閉時の操作性を著しく阻害することなく、車室内の静粛性の向上を図ることが可能となる。
【0010】
この遮音構造において、前記第1面部は、前記第1方向と平行な方向に延在しているのが好適である。
【0011】
この構造によれば、第1面部が第1方向と平行でない場合に比べて、ドア閉操作時のウェザストリップと第1面との間に生じる摩擦力が低減される。そのため、前記摩擦力によりドア閉時の操作性が阻害され難くなる。
【0012】
上記の遮音構造において、前記2枚の板材は前記ドア本体の外縁部で互いに接合されており、前記板材同士の接合部のうち、前記第2方向におけるドア本体内方側の端部は、ドア閉状態において、前記第2面部よりも前記ドア本体内方側に位置するのが好適である。
【0013】
この構造によると、ウェザストリップのうちL2に対応する部分がドア本体を加振する成分が、前記空間を形成する内外2枚の板材のうち車内側の板材に主に伝達されて車内側への放射音となることを抑制することが可能となる。そのため、より高度に車室内の静粛性の向上を図ることが可能となる。
【0014】
上記の遮音構造において、前記ウェザストリップは、ドア閉状態において圧縮変形することにより前記第1面部から前記第2面部に亘って当接する中空のシール部を備えており、前記L1、L2は、前記シール部が前記第1面部及び前記第2面部に当接する長さである。
【0015】
この構造によると、ウェザストリップを第1面部及び第2面部に対して密接させることができ、当該ウェザストリップの支持剛性のアップに寄与する。
【0016】
この場合、前記シール部は、その断面中心よりも前記第1方向における車内側の位置に、当該シール部の内側に向かって凹むくびれ部を備えているのが好適である。
【0017】
この構造によれば、ドア閉操作に伴い、車内側の位置ウェザストリップ(シール部)をより円滑にかつ再現性良く圧縮変形させることが可能となる。これにより、第1面部に対するウェザストリップの当接面積を安定的に確保する、すなわちL1を安定的に確保することが可能となる。
【0018】
また、前記シール部は、その断面中心よりも前記第1方向における車外側の位置に、当該シール部の内側に向かって凹むくびれ部を備えているのが好適である。
【0019】
この構造によれば、ドア閉操作に伴い、車外側の位置でウェザストリップ(シール)をより円滑にかつ再現性良く圧縮変形させることが可能となる。これにより、第2面部に対するウェザストリップの当接面積を安定的に確保する、すなわちL2を安定的に確保することが可能となる。
【0020】
なお、上記の遮音構造において、前記ドアは、車両の左右両側に備えられる乗降用のドアであるのが好適である。
【0021】
この構造によれば、自動車などの車両にについて左右両側からの音の入射を効果的に抑制することができるため、車室内の静粛性の向上に寄与する。
【0022】
この場合、前記ドア本体が、前記2枚の板材の間にインパクトバーを備えるものでは、前記インパクトバーの長手方向の端部が、前記ドア本体の周縁部近傍であって前記ウェザストリップに隣接する位置に設けられているのが好適である。
【0023】
この構造によれば、ウェザストリップが存在する領域の近くにインパクトバーが配置されることで、その近傍のドア剛性がアップし、ドアの放射音をより抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の車両の遮音構造によれば、ドア閉時の操作性を著しく阻害することなく、車室内の静粛性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る車両(本発明の遮音構造が適用された車両)の左側面図である。
【
図2】
図2は、リヤドアが閉じられた状態の車両のリヤドア後端部付近の車両断面図(
図1のII-II線断面図)である。
【
図3】
図3は、リヤドアが閉じられる直前の車両のリヤドア後端部付近(
図1と同じ箇所)の車両断面図である。
【
図4】
図4は、車体に支持されたリヤドアのモデルを示す図である。
【
図5】
図5は、前記モデルのパネルの運動状態を示す図であり、(a)は、ばね定数Kw>ばね定数Ksの場合、(b)は、ばね定数Kw<ばね定数Ksの場合の各々運動状態を示す。
【
図6】
図6は、ウェザストリップの支持剛性計測試験に用いた試験装置の正面概略図である。
【
図7】
図7は、前記試験装置のプレートの下面図である。
【
図8】
図8は、前記試験装置の要部を示す概略図であり、(a)は、初期状態、(b)は、初期状態から支持台が移動した状態の各々試験装置を示す。
【
図9】
図9は、当接比とウェザストリップの支持剛性との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、当接比と遮音特性との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、L1が40mm以上の場合に生じる現象を示す、リヤドア後端部付近の車両断面図(
図2に対応する断面図)である。
【
図12】
図12は、比較例に係る車両のリヤドア後端部付近(
図2に対応する箇所)の車両断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る車両1(本発明の遮音構造が適用された車両)の左側面図である。車両1は、自動車であり、車体2と、その左右両側に各々組付けられたフロントドア5及びリヤドア6とを備える。フロントドア5及びリヤドア6は、本発明の「ドア」に相当する。フロントドア5及びリヤドア6は、各々図外のヒンジを介して車体2に回動可能に組付けられている。これにより、車体2の側面に形成された前側のドア開口部3(乗降口)がフロントドア5により開閉され、又後側のドア開口部4がリヤドア6により開閉される。
【0028】
フロントドア5及びリヤドア6の各々外縁部の車内側の面には、ドアウェザストリップ10(以下、ウェザストリップ10と略す)が組付けられている。ドア閉時には、フロントドア5と前側のドア開口部3の周縁部との間にこのウェザストリップ10が挟み込まれて当該フロントドア5と車体2との間がシールされる。同様に、リヤドア6とドア開口部4の周縁部との間にウェザストリップ10が挟み込まれて、当該リヤドア6と車体2との間がシールされる。これにより、車室内への水や音の侵入が抑制される。
【0029】
このようなウェザストリップ10によるフロントドア5及びリヤドア6のシール構造が本願発明の「遮音構造」に相当する。以下、
図1に示す車両左側のリヤドア6を例に、車両1の遮音構造について詳細に説明する。なお、以下の説明では、特に言及する場合を除き、前後、左右、上下の各方向は、車両1を基準とする。例えば前後は車両1の前後と同義であり、左右は車両1の左右と同義である。なお、左右方向を車幅方向と称する場合がある。
【0030】
[遮音構造の詳細]
リヤドア6は、その略下半部を構成するドア本体7と、略上半部を構成するウインドフレーム8とを有する。ドア本体7の前端部は、上記ヒンジを介して車体2に取り付けられている。リヤドア6には、ウインドガラス9が昇降可能に設けられており、ドア本体7の内部には、当該ウインドガラス9を昇降駆動するための図外のウインドレギュレータ及びレール等が収容されている。
【0031】
ドア本体7の外縁部に沿って前記ウェザストリップ10が設けられている。ウェザストリップ10は、ドア本体7の外縁部に沿って設けられる。ウェザストリップ10が設けられる具体的な場所や範囲は、ドア本体7や車体2の具体的な構造により異なる。当例では、ドア本体7の外縁部のうち、下縁部(下辺部)と後縁部(後辺部)とに亘ってウェザストリップ10が設けられている。因みに、フロントドア5の場合は、ドア本体の外縁部のうち下縁部(下辺部)にのみウェザストリップ10が設けられている。
【0032】
図2は、リヤドア6が閉じられた状態の車両1の当該リヤドア後端部付近の断面図(
図1のII-II線断面図)であり、
図3は、リヤドア6が閉じられる直前の車両1の当該リヤドア後端部付近(
図2と同じ箇所)の断面図である。
図3中の白抜き矢印は、リヤドア6の閉操作方向を示しており、ドア閉時は、時系列的には、
図3の状態から
図2の状態に移行する。
【0033】
リヤドア6のドア本体7は、車外側(車室外側)を構成するプレス成型品からなるアウタパネル32と、車内側(車室内側)を構成するプレス成型品からなるインナパネル34と、両パネル32、34の間に配置されて前後方向に延在するインパクトバー36とを備えている。アウタパネル32及びインナパネル34は、本発明の「2枚の板材」に相当するものであり、例えば鋼鈑等で形成されている。インパクトバー36は、側面衝突に対する圧壊抵抗力を確保するためにドア本体7に組付けられた鋼鉄製の棒状補強材である。
【0034】
アウタパネル32とインナパネル34とは、ドア本体7の外縁部において接着及びヘミング加工により互いに接合されている(符号33は、両パネル32、34の接合部を示し)。具体的には、
図2及び
図3に示すように、ドア本体7の外縁部(
図2、
図3では後縁部)では、アウタパネル32の外縁部とインナパネル34の外縁部(後記重合部35a)とが重ね合わされ、これらがアクリル樹脂等の接着材により互いに固定されている。また、アウタパネル32の外縁部がインナパネル34の外縁部(重合部35a)の一部を内包するように略180°折り返されることにより、インナパネル34の外縁部がアウタパネル32により厚み方向に挟み込まれている。これによりアウタパネル32とインナパネル34とがそれらの外縁部で互いに接合されている。
【0035】
アウタパネル32は、車両1の前後方向にほぼ直線的に延在している。インナパネル34は、ドア本体7の外縁部が既述の通りアウタパネル32に接合されており、それ以外の大部分は、アウタパネル32から車内側に離間するように形成されている。すなわち、ドア本体7は、アウタパネル32とインナパネル34との間に隙間(内部空間Sp)が形成された二重壁構造を有していると言える。
【0036】
インナパネル34は、アウタパネル32の外縁部に重ね合わされる重合部35aと、アウタパネル32から離反するように当該重合部35aの端部(
図2では前端)から車内側に延びる第1壁部35bと、第1壁部35bの車内側の端部(
図2では右端)からインナパネル34に沿ってドア本体内方側(
図2では前側)に延びる第2壁部35cと、第2壁部35cのドア本体内方側の端部から車内側に延びる第3壁部35dと、この第3壁部35dの車内側の端部からインナパネル34に沿ってドア本体内方側(前側)に延びる第4壁部35eとを有する。なお、「ドア本体内方側」とは、補足すると、側面視(
図1)においてドア本体7の中央部の側を指す意味である。
【0037】
前記重合部35aは、既述の通り、アウタパネル32に接着され、その末端部分が前記ヘミング加工によりアウタパネル32によって厚み方向に挟み込まれている。
【0038】
前記インパクトバー36は、ドア本体7の内部空間Sp内においてアウタパネル32の車内側の側面に沿って当該側面に固定されている。既述の通り、インパクトバー36は前後方向に延在しており、その端部は、
図2に示すように、インナパネル34を挟んで、後述するウェザストリップ10に隣接する位置に設けられている。
【0039】
一方、車体2のドア開口部4の周縁部40には、
図2及び
図3に示すように、リヤドア6を閉じた状態で、前記ドア本体7の第3壁部35dに対向して車幅方向(本発明の「第1方向」に相当する)する第1開口壁部42aと、この第1開口壁部42aの車外側の端部から車体2の外側面に沿って外向き、すなわち前後方向(本発明の「第2方向」に相当する)において開口部4から外向き(
図2では後方)に延びる第2開口壁部42bとが設けられている。
【0040】
第1開口壁部42aは、
図2に示すように、車幅方向に延びる直線Lwに対して傾斜している。具体的には、車外側から車内側に向かうに伴いドア本体7に近づくように傾斜している。また、第2開口壁部42bは、第1開口壁部42aの端部から車外側にやや斜め方向に延びている。なお、当例では、第1開口壁部42aが本発明の「第1面部」に相当し、第2開口壁部42bが本発明の「第2面部」に相当する。
【0041】
第2開口壁部42bの末端(
図2では後端)は、車体2の左外側面を形成する外壁部44に一定に繋がっており、リヤドア6を閉じた状態(以下、単にドア閉状態又はドア閉時という場合がある)では、この外壁部44の外側面と、ドア本体7のアウタパネル32の外側面とが共同して、車両1の左側側面を形成する。
【0042】
なお、上記車両1では、ドア閉状態で、
図2に示すように、ドア本体7のアウタパネル32とインナパネル34との接合部33におけるドア本体内方側(
図2では前側)の端部P1は、第2開口壁部42bのドア本体内方側の端部P2よりもドア本体内方側に位置している。すなわち、接合部33のドア本体内方側の端部P1は、第2開口壁部42bよりもドア本体内方側に位置している。
【0043】
前記ウェザストリップ10は、リヤドア6(ドア本体7)のインナパネル34の第3壁部35dの外側面(
図2では後側面)に組付けられている。ウェザストリップ10は、押出成形により形成される長尺のゴム部材である。
【0044】
図3に示すように、ウェザストリップ10は、ドア本体7に固定される部位である取付基部14と、この取付基部14と一体的に形成されて、前記ドア開口部4の周縁部40に当接する、断面ループ状の中空シール部12(本発明の「シール部」に相当する)とを長手方向に亘って備えている。
【0045】
取付基部14は、例えばエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)のソリッド材で形成されており、中空シール部12は、例えばEPDMのスポンジ材で形成されている。なお、後述する支持剛性を確保可能であれば、ウェザストリップ10を形成する材料は、EPDMに限定されるものではなく、EPDM以外のゴム材料や熱可塑性樹脂等も適用可能である。
【0046】
取付基部14は、第3壁部35dに沿う底壁基部14aと、底壁基部14aの車外側の端部から反第3壁部35d側(
図3では後側)に延びる車外側側壁基部14bと、底壁基部14aの車内側の端部から反第3壁部35d側に延びる車内側側壁基部14cとを備えている。車外側側壁基部14b及び車内側側壁基部14cの各々先端部は、中空シール部12に繋がっている。これにより、底壁基部14a、車外側側壁基部14b及び車内側側壁基部14cにより囲まれた空間が取付基部14と中空シール部12との間に形成されている。
【0047】
底壁基部14aには、その長手方向に所定間隔を隔てて複数個の貫通孔が設けられている。これら貫通孔にはクリップ16が各々挿通されている。当該クリップ16は、前記インナパネル34の第3壁部35dに形成された係止孔に挿入、係止されている。これにより、ドア本体7にウェザストリップ10が固定されている。詳しくは、
図3に示すように、底壁基部14aの車外側の端部がインナパネル34の第2壁部35cに当接する状態で、インナパネル34の第3壁部35dの車外側の端部近傍の位置にウェザストリップ10が固定されている。取付基部14の車外側側壁基部14bには、車外側に突出するリップ部14dが形成されており、このリップ部14dがインナパネル34の第2壁部35cに当接している。
【0048】
中空シール部12は、
図3に示すように、インナパネル34側に位置するドア側シール部12aと、それとは反対側の車体側シール部12bとを備えた、概略、車幅方向に細長い楕円形状の断面を有している。中空シール部12は、ドア側シール部12aを介して前記取付基部14に繋がっており、ドア閉時には、車体2のドア開口部4の周縁部40に対して車体側シール部12bが当接する。中空シール部12の形状及び厚みは、ウェザストリップ10の長手方向に亘って同一である。なお、中空シール部12の頂部、すなわち中空シール部12の断面中心よりも車外側の端部及び車内側の端部には、各々当該中空シール部12の内側に向かって凹んで長手方向に延在するくびれ部13a、13bが設けられている。これにより、ドア閉時には、中空シール部12がくびれ部13a、13bを起点として圧縮変形される。
【0049】
図3に示すドア開き状態からリヤドア6を閉めると、ウェザストリップ10の中空シール部12が、
図2に示すように、車体2のドア開口部4の周縁部40に当接して押し潰され、当該中空シール部12が周縁部40の第1開口壁部42aから第2開口壁部42bに亘って当接する。これにより、リヤドア6と周縁部40との間が水密及び気密な状態にシールされて、車室内への水や音の侵入が抑制される。
【0050】
ここで、
図2に示すように、ドア閉状態における、ウェザストリップ10(中空シール部12)と周縁部40の第1開口壁部42aとの当接長さであって車幅方向に沿った長さをL1、ウェザストリップ10(中空シール部12)と第2開口壁部42bとの当接長さであって前後方向に沿った長さをL2とするとき、車両1は、
L1>L2×1.07 ……(1)
10mm≦L1≦40mm ……(2)
の関係を満たす。このような構造が採用されることにより、当該車両1では、ドア閉時の操作性を著しく阻害することなく、車室内の静粛性の向上が図られている。以下、このような構造が採用されている理由について詳述する。
【0051】
リヤドア6(ドア本体7)は、既述の通り、アウタパネル32とインナパネル34との間に隙間(内部空間Sp)を有する二重壁構造のパネルと言える。二重構造のパネルは、内部空間Spの空気の挙動をコントロールすることで、車外側から車内側に透過する透過音を低減することが可能である。本願の発明者らは、かかる観点に立脚し、リヤドア6の内部空間Spの空気の挙動をコントロールする要素としてウェザストリップ10に着目した。つまり、ウェザストリップ10の支持剛性を高めることで透過音を低減させることが可能になる点に着目した。ここで、この原理について、
図4を用いて説明する。
【0052】
図4は、車体2に支持されたリヤドア6のモデルを示す図である。このモデルでは、アウタパネル32とインナパネル34とがばねB1(ばね定数Kw)を介して接合され、リヤドア6がばねB2(ばね定数Ks)を介して車体2に支持されている。ばねB1は、アウタパネル32とインナパネル34とを接合する接着材やヘム部等、アウタパネル32とインナパネル34とを接合する接合要素に相当する。また、ばねB2は、ウェザストリップ10や前記ヒンジ等、ドア閉時にリヤドア6を車体2に支持する支持要素に相当する。
【0053】
内部空間を有する二重壁構造のパネルでは、入射音のエネルギー(加振力)に対して2つのパネルが独立して運動することによって高い遮音効果が得られる。これは、2つのパネルが独立して運動することで、音のエネルギーがパネルで反射する効果がパネル毎に得られる(2回の反射効果が得られる)ためである。よって、内部空間を有する二重壁構造のパネルであっても、これらが一体に運動する場合には、パネル全体として1回の反射効果しか得られず、高い遮音効果は望めない。
【0054】
ここで、
図4のモデルにおいて、Kw>>Ksの場合には、車外側からの入射音(加振力)に対して、ばねB2がばねB1に比して伸縮し易い。そのため、
図5(a)に示すように、アウタパネル32とインナパネル34とが一体に、つまり、リヤドア6全体が一体に運動する。この場合には、同図に示す通り、リヤドア6全体として1度の反射効果しか得ることができず、遮音効果はさほど高くない。
【0055】
一方、Kw<<Ksの場合には、入射音に対して、ばねB1がばねB2に比して伸縮し易い。そのため、
図5(b)に示すように、インナパネル34に対してアウタパネル32がより大きく変位し、アウタパネル32とインナパネル34とが互いに独立して運動する。この場合には、同図に示す通り、パネル毎に反射効果が得られるため、Kw>>Ksの場合に比べて各段に高い遮音効果を得ることができる。
【0056】
本願の発明者らは、以上のことから、ウェザストリップ10の剛性を高めて透過音を低減することを検討した。そして、鋭意検討を重ねた結果、車体2のドア開口部4の周縁部40に対するウェザストリップ10の当接状態がその支持剛性に影響すること、具体的には、既述のL1とL2との比(L1/L2)がウェザストリップ10の支持剛性に影響すること、さらに、以下に説明するウェザストリップの支持剛性計測試験に基づき、L1とL2との比(以下、当接比という)が所定値以上になると、所定値未満の場合に比べてウェザストリップ10の支持剛性が顕著にアップするとの知見を得た。
【0057】
図6は、ウェザストリップの支持剛性計測試験の試験装置を概略的に示している。
図6中の符号50は、ドアを模したプレート50であり、図外の機構により上下方向(Z方向)に移動可能に支持されている。プレート50は、X方向にやや細長い平面視長方形の金属板である。プレート50の下面50aには2つの加速度センサ52a、52b(第1加速度センサ52a、第2加速度センサ52b)が固定されている。各加速度センサ52a、52bは、
図7に示すように、プレート50の中心OからY方向に等距離だけ離れた互いに対称な位置に配置されている。
【0058】
また、プレート50のX方向両端には、ウェザストリップに相当するゴム製チューブが各々配置されている。詳しくは、プレート50をX方向の外側(側面50b側)から支持するための大径チューブ55aと、プレート50を下側(下面50a側)から支持するための小径チューブ55bとが各々配置されている。各チューブ55a、55bは、プレート50の辺に沿ってY方向に延在している。プレート50の片側に配置される大小一組のチューブ55a、55bが各々上記ウェザストリップ10に相当する。つまり、大径チューブ55aがウェザストリップ10のうち、前記第1開口壁部42aに当接する部分に相当し、小径チューブ55bが前記第2開口壁部42bに当接する部分に相当する。一組のチューブ55a、55bは、ブラケットを介して共通の支持台60に支持されており、図外の移動機構により一体的に左右方向に移動可能となっている。
【0059】
ウェザストリップの支持剛性計測試験では、まず、試験装置を初期状態にセットした。初期状態は、
図8(a)に示すように、プレート50(側面50b)が小径チューブ55bのみに当接し、かつ、プレート50(側面50b)に対する当該小径チューブ55bのX方向に沿った当接長さL2′が所定長さとなるように、当該小径チューブ55bが押し潰された状態である。そして、この初期状態で、プレート50を加振しながら、その振動周波数を変化させ、各加速度センサ52a、52bによりプレート50の振動加速度を計測し、振動加速度が最大値を示す周波数を各加速度センサ52a、52bの位置における共振周波数として検出した。なお、便宜上、第1加速度センサ52aの位置を第1検出位置、第2加速度センサ52bの位置を第2検出位置と称す。
【0060】
次に、
図8(b)に示すように、小径チューブ55bとプレート50との当接状態(当接長さL2′)を維持したままで、プレート50(側面50b)に対する大径チューブ55aのZ方向に沿った当接長さL′が所定長さとなるように、各支持台60を互いに接近する方向に移動させ、この状態で、上記と同様にしてプレート50の各検出位置の共振周波数を求めた。
【0061】
以後、小径チューブ55bとプレート50との当接状態を維持した状態、つまりL2′を一定に保った状態で、各支持台60を移動させ、上記と同様にしてプレート50の共振周波数を検出した。このように、各支持台60を移動させてL1′とL2′との比(当接比=L1′/L2′)を変化させ、互いに当接比が異なる6つの当接状態のサンプル(第1サンプル~第6サンプルという)について、第1、第2検出位置における共振周波数を検出した。この際、サンプル毎に共振周波数の検出を3回実施した。
【0062】
そして、上記のようにして検出された各サンプルの共振周波数に基づき、共振周波数と剛性との関係を定めた下記関係式に基づき、ウェザストリップを模したチューブ55a、55bの支持剛性を求めた。
【0063】
f=[1/(2π)]×(2k/m)0.5
ここで、「f」は共振周波数、「k」は剛性(ばね定数)、「m」はプレート50の質量である。
【0064】
図9は、上記支持剛性計測試験の結果を示すグラフ、つまり、当接比(L1′/L2′)と支持剛性との関係を示すグラフである。グラフ中のプロット群を示す符号S1~S6は、既述の6つのサンプルに対応している。つまり、符号S1のプロット群は、第1サンプル(初期状態)の当接比と支持剛性との関係を示しており、符号S2~S6のプロット群は、第2~第6のサンプルの当接比と支持剛性との関係を各々示している。「黒丸」のプロットは、第1検出位置での計測結果に基づく支持剛性を、「白四角」のプロットは、第2検出位置での計測結果に基づく支持剛性を各々示している。なお、1つのサンプルにおいて同一の値が複数回検出された場合には、重複する何れかのプロットについては図示を省略している。また、各サンプルにおけるプロットの当接比の値にバラツキが見られるが、これは各チューブ55a、55bの変形誤差などに起因するものである。
【0065】
図9に示す通り、第1~第6の各サンプルの支持剛性は、当接比が0.0~1.0の付近までは総じて同等であり大きな差は見られない。しかし、当接比が1.0付近以上、正確には1.07以上になると、それ未満のときよりも顕著に支持剛性がアップしている。既述の通り、大径チューブ55aは前記ウェザストリップ10のうち第1開口壁部42aに当接する部分に相当し、小径チューブ55bは前記ウェザストリップ10うち第2開口壁部42bに当接する部分に相当する。つまり、大径チューブ55aとプレート50(下面50a)とが当接する長さL1′は、ウェザストリップ10の中空シール部12と第1開口壁部42aとの当接長さL1に相当し、小径チューブ55bとプレート50(側面50b)とが当接する長さL2′は、ウェザストリップ10の中空シール部12と第2開口壁部42bとの当接長さL2に相当する。
【0066】
従って、実際のウェザストリップ10についても、当接比を1.07以上にすることにより、ウェザストリップ10の支持剛性をアップすることができ、
図5(b)に示したような、パネル毎の音の反射効果が得られ易くなるものと考えられる。
図10は、その検証結果を示すグラフ、つまり、当接比と遮音特性との関係を示すグラフである。
【0067】
検証は、図示を省略するが、音源部と受音部との間に、ドアに見立てた二重壁のパネルを、ウェザストリップを介して固定し、音源部のスピーカー(音源)から発した音を、受音部のマイクロホンで受音することにより行った。
【0068】
図10に示す検証結果は、
図9に示した支持剛性の結果にほぼ対応している。すなわち、当接比が0.0~1.0の付近までは総じて大きな差は見られないが、当接比が1.07以上では、それ未満の場合よりも顕著に遮音特性がアップしている。これは、当接比が1.07以上では、それ未満の場合に比べてウェザストリップの支持剛性がアップするため、
図5(b)に示したような、ドアを構成するパネル毎の音の反射効果が顕著に現れたものと考察できる。従って、ウェザストリップ10の当接比を1.07以上に設定することが、遮音特性を高める上で、ひいては車両1の車室内の静粛性を高める上で有効と言える。以上のような知見に基づき、上記車両1では、上記式(1)で規定される構造が適用されている。
【0069】
但し、当接比を1.07以上にする場合であっても、L1が10.0mm未満である場合には、第1開口壁部42aに対するウェザストリップ10(中空シール部12)の絶対的な当接面積が不足して、ウェザストリップ10の基本的なシール性能が損なわれる傾向がある。他方、L1が40.0mmを超える場合には、リヤドア6の閉操作時の中空シール部12(車体側シール部12b)と第1開口壁部42aとの摩擦力が大きくなり、例えば
図11に示すように、車体側シール部12bに皺が生じ易くなる。このよう皺が車体側シール部12bに生じた状態では、高い支持剛性を達成することはもとより、基本的なシール性能を達成することも難しくなる。以上のような理由から、上記車両1では、上記式(1)で規定される構造に加えて、上記式(2)で規定される構造が適用されている。
【0070】
なお、この車両1の遮音構造では、上記式(1)、(2)で規定されるように車体2の開口部4(周縁部40)に対するウェザストリップ10の当接状態を構成することによりウェザストリップ10の支持剛性のアップが図られる。そのため、ウェザストリップ10自体を硬く設ける必要がなく、よって、リヤドア6の閉操作性を著しく損なうことなく、車両1の静粛性を高めることが可能になる。
【0071】
[作用効果]
以上説明したように、車両1の遮音構造は、二重壁構造のリヤドア6と車体2のドア開口部4の周縁部40との間がウェザストリップ10によりシールされる構造である。前記周縁部40には、車幅方向に沿って延在する第1開口壁部42aと、車両1の前後方向に沿った方向に延びる第2開口壁部42bとが備えられている。そして、リヤドア6の閉状態において、ウェザストリップ10(中空シール部12)と第2開口壁部42bとの当接長さをL1、ウェザストリップ10(中空シール部12)と第2開口壁部42bとの当接長さをL2とするとき、10mm≦L1≦40mmであって、かつ、L1>L2×1.07の関係を満たす。
【0072】
このような遮音構造によれば、既述の通り、ウェザストリップ10の支持剛性を効果的にアップすることができ、これにより、リヤドア6の遮音特性の向上、ひいては車室内の静粛性の向上を図ることができる。しかも、ウェザストリップ10を硬く設けることなく、当該ウェザストリップ10の支持剛性をアップできるので、ドア閉時の操作性も阻害され難い。そのため、ドア閉時の操作性を著しく阻害することなく、車室内の静粛性の向上を図ることが可能となる。
【0073】
なお、リヤドア6を閉じる際に、ウェザストリップ10からリヤドア6が受ける反力は、リヤドア6の閉操作性に影響を与える要素であり、当該反力はL2が相対的に大きい程大きくなる。しかし、上記の遮音構造では、ウェザストリップ10の支持剛性を確保するには、上記関係を満たせばよいため、L2についての自由度は比較的高く、ドア閉時の操作性を阻害しないような範囲にL2を設定し易い。従って、この遮音構造によれば、この点でも、ドア閉時の操作性を著しく阻害することなく、車室内の静粛性の向上を図ることができると言える。
【0074】
また、上記車両1の遮音構造では、
図2に示すように、ドア閉状態で、ドア本体7のアウタパネル32とインナパネル34との接合部33におけるドア本体内方側(
図2では前側)の端部P1が、前記第2開口壁部42bよりもドア本体内方側に位置している。そのため、車室内の静粛性をより向上させるこができる。
【0075】
例えば
図12に示すように、接合部33におけるドア本体内方側の端部P1が、前記第2開口壁部42bのドア本体内方側(
図2では前側)の端部P2よりもドア本体外方側(
図2では後側)に位置するような構造も考えられる。しかし、この構造の場合には、同図に示すように、ウェザストリップ10(中空シール部12)が、インナパネル34のうち前記端部P1よりもドア本体内方側の位置にのみ当接した状態となり易く、L2の部分がドア本体7を加振する成分が、主にインナパネル34に伝達されて車室内への放射音となり易い。これに対して、
図2に示す構造によれば、同図に示すように、ウェザストリップ10が、インナパネル34のうち前記接合部33に当接した状態となり易くなる。この場合には、L2の部分がドア本体7を加振する成分がアウタパネル32に伝達され易くなり、既述のような車室内への放射音が抑制される。従って、車室内の静粛性をより向上させるこが可能となる。
【0076】
特に、上記車両1の遮音構造では、インパクトバー36の前後方向の端部が、ドア本体7の周縁部近傍であってインナパネル34を挟んでウェザストリップ10に隣接する位置に設けられている。この構造によれば、ウェザストリップ10が存在する領域の近くにインパクトバー36が配置されることで、その近傍のドア本体7の剛性がアップする。そのため、リヤドア6の上記のような放射音を効果的に抑制することができる。
【0077】
また、上記車両1の遮音構造では、ウェザストリップ10の中空シール部12のうち、その中心部よりも車内側の位置には、当該中空シール部12の内側に向かって長手方向に延在するくびれ部13aが形成されている。また、中空シール部12のうち、その中心部よりも車外側の位置には、当該中空シール部12の内側に向かって凹んで長手方向に延在するくびれ部13bが形成されている。
【0078】
この構造によれば、リヤドア6の閉操作に伴い、中空シール部12を第1開口壁部42a及び第2開口壁部42bとドア本体7との間に挟み込みながら、
図2に示すような所定形状に再現性良くスムーズに圧縮変形させることが可能となる。従って、第1開口壁部42a及び第2開口壁部42bに対する中空シール部12の当接面積を安定的に確保する、つまり、L1及びL2を安定的に確保することが可能となる。
【0079】
なお、上記実施形態では、リヤドア6及びドア開口部4の構造について説明したが、フロントドア5及びドア開口部3の構造も基本的には上述したリヤドア6及びドア開口部4の構造と同等である。よって、フロントドア5及びドア開口部3についても、上述した作用効果と同等の作用効果を享受することができる。
[変形例等]
以上説明した車両1の遮音構造は、本発明に係る車両の遮音構造の好ましい実施形態の例示であって、その具体的な構造は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、以下のような構造も適用可能である。
【0080】
(1)実施形態では、ウェザストリップ10の中空シール部12は、車幅方向に細長い楕円形状の断面を有している。しかし、中空シール部12の断面形状は楕円形状に限定されない。リヤドア6を閉じた状態で、ドア開口部4の周縁部40の第1開口壁部42aから第2開口壁部42bに亘って当該中空シール部12を適切に当接させることが可能な断面形状であればよい。また、L1、L2を形成する部分は、必ずしも中空シール部12のような中空の部分でなくても良い。
【0081】
(2)また、実施形態では、
図2に示すように、周縁部40の第1開口壁部42aは、車幅方向に延びる直線Lwに対して車室側が前方側に角度θだけ傾斜しているが、第1開口壁部42aは直線Lwと平行であってもよい。この場合には、第1開口壁部42aが傾斜している場合に比べて、ドア閉操作時にウェザストリップ10(中空シール部12)と第1開口壁部42aとの間に生じる摩擦力が低減されるため、より良好なリヤドア6の閉操作性を確保する観点から有利と言える。また、
図11に示すような皺が中空シール部12に生じることを抑制する上でも有利と言える。
【0082】
(3)実施形態では、リヤドア6は、ドア本体7の下縁部(下辺部)及び後縁部(後辺部)に亘る部分にのみウェザストリップ10が設けられ、フロントドア5は、ドア本体の下縁部(下辺部)にのみウェザストリップ10が設けられている。しかし、ウェザストリップ10は、ドア本体7の周縁部のより広い領域に亘って設けられていてもよい。フロントドア5についても同様である。
【0083】
(4)実施形態では、車両1のフロントドア5やリヤドア6について本発明を適用した例について説明したが、例えばハッチバックタイプやバンタイプなど、バックドアを備える車両1については、当該バックドアについて本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 車両
2 車体
4 ドア開口部
6 リヤドア
7 ドア本体
10 ドアウェザストリップ(ウェザストリップ)
12 中空シール部
12a ドア側シール部
12b 車体側シール部
13a、13b くびれ部
14 取付基部
32 アウタパネル(板材)
33 接合部
34 インナパネル(板材)
36 インパクトバー
40 周縁部
42a 第1開口壁部(第1面部)
42b 第2開口壁部(第2面部)