(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】牽引車の経路探索システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/644 20240101AFI20240528BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20240528BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20240528BHJP
G05D 1/672 20240101ALI20240528BHJP
G05D 1/622 20240101ALI20240528BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240528BHJP
【FI】
G05D1/644
G08G1/00 X
G01C21/34
G05D1/672
G05D1/622
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2021010370
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】塚原 拓矢
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-137367(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0033872(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00 - 1/87
G08G 1/00 -99/00
G01C 21/00 -21/36
G01C 23/00 -25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引車の現在位置から目的地までの複数の走行経路を予め設定する走行経路設定部と、
前記走行経路設定部により予め設定された前記複数の走行経路に対して経路コストを予めそれぞれ設定する経路コスト設定部と、
前記経路コストが設定された前記複数の走行経路の中から前記経路コストの小さい最小コスト走行経路を探索する走行経路探索部と、
前記走行経路探索部により探索された前記最小コスト走行経路を走行するように前記牽引車を制御する走行制御部と、
前記牽引車が単独走行および牽引走行のいずれの走行状態であるかを検出する走行状態検出部と、を備え、
前記走行経路設定部は、予め前記牽引車が前記複数の走行経路を前記単独走行および前記牽引走行することにより、前記複数の走行経路のデータを取得し、
前記複数の走行経路のデータの取得により、前記複数の走行経路に
含まれる走行経路部のうち、前記牽引車が台車を牽引して走行する牽引走行時に
コーナーを大回りして前記台車が障害物と干渉することなく走行可能な牽引時走行経路部と、前記牽引車が
コーナーを大回りせずに単独走行する単独走行時の単独走行経路部と、が含まれるとき、
前記走行経路設定部は、
前記複数の走行経路における前記牽引時走行経路部および前記単独走行経路部を
前記複数の走行経路のデータを取得後に前記牽引車が走行する前に記憶して設定し、
前記経路コスト設定部は、
前記複数の走行経路における前記牽引時走行経路部および前記単独走行経路部に対して牽引走行時および単独走行時の経路コストをそれぞれ設定し、
かつ、単独走行と牽引走行により経路が相違しない経路部に対して、距離に応じた経路コストを設定し、
前記走行経路探索部は、前記走行状態検出部により検出された前記牽引車の走行状態に応じて前記牽引時走行経路部および前記単独走行経路部の経路コストを用いて
前記複数の走行経路の中から前記最小コスト走行経路を探索することを特徴とする牽引車の経路探索システム。
【請求項2】
前記牽引時走行経路部の経路コストは、
牽引走行時に前記単独走行経路部の経路コストよりも小さくなるように設定され、
前記単独走行経路部の経路コストは、
単独走行時に前記牽引時走行経路部の経路コストよりも小さくなるように設定されることを特徴とする請求項1記載の牽引車の経路探索システム。
【請求項3】
前記走行状態検出部は、前記牽引車が牽引する前記台車の数を検出し、
前記台車の数に基づいて前記牽引時走行経路部がそれぞれ設定され、
前記牽引時走行経路部の経路コストは、前記台車の数に応じてそれぞれ設定されることを特徴とする請求項1又は2記載の牽引車の経路探索システム。
【請求項4】
前記牽引時走行経路部は、前記牽引車が牽引する台車の最大数に基づいて設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の牽引車の経路探索システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、牽引車の経路探索システムに関する。
【背景技術】
【0002】
牽引車の経路探索システムに関連する従来技術として、例えば、特許文献1に開示されたビークル走行決定方法を挙げることができる。特許文献1のビークル走行決定方法では、時空間グラフにおいて、出発地点ノードに、時刻t=0に搬送台車が存在する状態を表す起点状態ノードから、到着地点ノードに搬送台車が存在することを示す何れかの状態ノードに至る時空間グラフ経路のうち、状態遷移コストの総和が最小となるコスト最小遷移経路を、ダイクストラ法を用いて求める。コスト最小遷移経路に基づいて、搬送台車の走行経路および走行タイミングを決定する。
【0003】
このビークル走行決定方法によれば、コスト最小遷移経路を効率良く探索できるとともに、例えば、通常トレードオフの関係にあるジャストインタイム性と総走行時間のバランスを考慮した走行計画を決定できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トーイングトラクター等の牽引車では、牽引車が複数の台車を牽引して走行する場合(牽引走行)と、牽引車が単独で走行する場合(単独走行)のいずれかで走行する。牽引車が牽引走行する場合、牽引車および台車からなる車群としての内輪差が単独走行時の牽引車の内輪差と比べて大きくなる。このため、単独走行で走行可能な走行経路であっても、牽引走行では、例えば、走行経路の周囲の柱や壁等の構造物が障害物となり、台車が障害物と干渉するおそれがある。したがって、牽引車の走行では、特許文献1に示すような搬送台車の走行経路の決定は、単独走行だけでなく牽引走行する牽引車に適用できないという問題がある。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、単独走行だけでなく牽引走行する牽引車の走行経路を探索できる牽引車の経路探索システムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、牽引車の現在位置から目的地までの複数の走行経路を予め設定する走行経路設定部と、前記走行経路設定部により予め設定された前記複数の走行経路に対して経路コストを予めそれぞれ設定する経路コスト設定部と、前記経路コストが設定された前記複数の走行経路の中から前記経路コストの最も小さい最小コスト走行経路を探索する走行経路探索部と、前記走行経路探索部により探索された前記最小コスト走行経路を走行するように前記牽引車を制御する走行制御部と、前記牽引車が単独走行および牽引走行のいずれの走行状態であるかを検出する走行状態検出部と、を備え、前記走行経路設定部は、予め前記牽引車が前記複数の走行経路を前記単独走行および前記牽引走行することにより、前記複数の走行経路のデータを取得し、前記複数の走行経路のデータの取得により、前記複数の走行経路に含まれる走行経路部のうち、前記牽引車が台車を牽引して走行する牽引走行時にコーナーを大回りして前記台車が障害物と干渉することなく走行可能な牽引時走行経路部と、前記牽引車がコーナーを大回りせずに単独走行する単独走行時の単独走行経路部と、が含まれるとき、前記走行経路設定部は、前記複数の走行経路における前記牽引時走行経路部および前記単独走行経路部を前記複数の走行経路のデータを取得後に前記牽引車が走行する前に記憶して設定し、前記経路コスト設定部は、前記複数の走行経路における前記牽引時走行経路部および前記単独走行経路部に対して牽引走行時および単独走行時の経路コストをそれぞれ設定し、かつ、単独走行と牽引走行により経路が相違しない経路部に対して、距離に応じた経路コストを設定し、前記走行経路探索部は、前記走行状態検出部により検出された前記牽引車の走行状態に応じて前記牽引時走行経路部および前記単独走行経路部の経路コストを用いて前記複数の走行経路の中から前記最小コスト走行経路を探索することを特徴とする。
【0008】
本発明では、走行経路設定部が牽引車の現在位置から目的地までの複数の走行経路を予め設定し、走行経路探索部は、経路コストが設定された複数の走行経路の中から経路コストの最も小さい最小コスト走行経路を探索する。走行経路が有する牽引時走行経路部および単独走行経路部には、牽引走行時および単独走行時の経路コストが設定されている。走行経路探索部は、牽引車の走行状態に応じた牽引時走行経路部および単独走行経路部の経路コストを用いる。このため、牽引車が台車を牽引して走行する牽引走行時では、牽引時走行経路部を選択され、牽引車が単独走行する単独走行時では、単独走行経路部を選択される。その結果、単独走行だけでなく牽引走行する牽引車の走行経路を探索することができ、牽引走行であっても台車が障害物と干渉することなく牽引車を走行させることができる。
【0009】
また、上記の牽引車の経路探索システムにおいて、前記牽引時走行経路部の経路コストは、牽引走行時に前記単独走行経路部の経路コストよりも小さくなるように設定され、前記単独走行経路部の経路コストは、単独走行時に前記牽引時走行経路部の経路コストよりも小さくなるように設定される構成としてもよい。
この場合、牽引走行時では、単独走行経路部の経路コストよりも経路コストの小さい牽引時走行経路部が選択される。また、単独走行時では、単独走行経路部が選択される。つまり、走行経路において牽引車の走行状態に応じて牽引時走行経路部又は単独走行経路部のいずれかを確実に選択することができる。
【0010】
また、上記の牽引車の経路探索システムにおいて、前記走行状態検出部は、前記牽引車が牽引する前記台車の数を検出し、前記台車の数に基づいて前記牽引時走行経路部がそれぞれ設定され、前記牽引時走行経路部の経路コストは、前記台車の数に応じてそれぞれ設定される構成としてもよい。
この場合、牽引時走行経路部は、牽引車が牽引する台車の数に基づいて牽引走行経路部をそれぞれ設定し、牽引時走行経路部の経路コストは、台車の数に応じて設定される。このため、牽引走行時には牽引車が牽引する台車の数に合った牽引走行経路部を選択できる。
【0011】
また、上記の牽引車の経路探索システムにおいて、前記牽引時走行経路部は、前記牽引車が牽引する台車の最大数に基づいて設定されている構成としてもよい。
この場合、牽引時走行経路部は、牽引車が牽引する台車の最大数に基づいて設定されるので、牽引車は牽引走行時においては台車の数に関わらず台車の最大数に基づいて設定された牽引時走行経路部を走行する。牽引される台車は最大数未満であっても障害物と干渉することない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、単独走行だけでなく牽引走行する牽引車の走行経路を探索できる牽引車の経路探索システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係る牽引車の経路探索システムを適用した工場を模式的に示す平面図である。
【
図2】複数の台車を牽引する牽引車の側面図である。
【
図3】牽引車の経路探索システムの概要を示す構成図である。
【
図4】(a)は走行経路における単独走行経路部および牽引時走行経路部を模式的に示す平面図であり、(b)は単独走行経路部および牽引時走行経路部の経路コストを示す図である。
【
図5】(a)は単独走行時の経路コストを示す行例表であり、(b)は牽引走行時の経路コストを示す行例表である。
【
図6】最小コスト走行経路の探索の手順を示すフロー図である。
【
図7】(a)は第2の実施形態に係る走行経路における単独走行経路部および牽引時走行経路部を模式的に示す平面図であり、(b)は第2の実施形態に係る単独走行経路部および牽引時走行経路部の経路コストを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態に係る牽引車の経路探索システムについて図面を参照して説明する。本実施形態では、工場において部品を搭載した台車を搬送する牽引車の経路探索システムについて例示する。
【0015】
図1に示す工場10には、複数の設備11、12、13、14が設置されており、これらの設備11~14を囲むように通路15が設けられている。通路15は、牽引車16と牽引車16に牽引される台車17の走行を可能としている。図示されないが作業者やフォークリフト等が通路15を通行する。また、工場10には、牽引車16の発停位置18、19が設けられている。なお、設備11~14は、牽引車16から見ると障害物である。
【0016】
発停位置18、19は、牽引車16が停車あるいは出発する場所である。発停位置18、19では、作業者が停車中の牽引車16に部品を搭載可能とする台車17を連結したり連結を解除したりする。また、発停位置18、19では、牽引車16が牽引する台車17に対する部品の荷積みおよび荷下ろしの少なくとも一方が作業者又は荷役機器によって行われる。このように、発停位置18、19は荷役位置であり、牽引車16のスタート地点でもありゴール地点となり得る。
【0017】
本実施形態の牽引車16は、自動運転により自律走行する牽引車である。
図2に示すように、牽引車16の車体20の前部には、前輪としての操舵輪21が備えられている。車体20の後部には、後輪としての左右一対の駆動輪22が備えている。また、車体20の後部には、台車17を連結するためのドローバ装置23が備えられている。本実施形態の牽引車16が牽引できる台車17の数は4台である。車体20には、駆動輪22を駆動する駆動モータ24と、駆動モータ24を駆動するための電力を蓄えるバッテリ25と、牽引車16の走行状態を示す走行状態検出器26と、牽引車16の各部を制御する制御装置27と、を備えている。
【0018】
走行状態検出器26は、牽引車16が単独走行であるか台車17を牽引する牽引走行であるかを検出する。走行状態検出器26は、ドローバ装置23に対する台車17の連結の有無を検出するセンサである。走行状態検出器26は制御装置27と接続されており、走行状態検出器26により検出された牽引車16の走行状態の示す信号は制御装置27へ伝達される。なお、台車17は、荷台を備えた台車本体28と、複数の車輪29と、牽引車16又は台車17と連結を可能とする連結杆30と、を備える公知の台車であり、工場10で使用する部品等を荷Wとして搬送する。
【0019】
図3に示すように、制御装置27は、中央演算処理部(CPU)31と、RAMおよびROM等からなる記憶部32と、駆動モータ24を制御するためのドライブ回路(図示せず)を有するモータ駆動部33と、を有している。制御装置27は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)を備えていてもよい。制御装置27は、コンピュータプログラムにしたがって動作する1つ以上のプロセッサ、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、それらの組み合わせを含む回路として構成し得る。
【0020】
記憶部32は、処理を中央演算処理部31に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部32には、牽引車16を制御するための種々のプログラムが記憶されているほか、牽引車16の移動を行なう工場10における走行経路に関する地図が記憶されている。この地図は、牽引車16が走行経路を移動しながら作成する地図である。記憶部32、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆるものを含む。
【0021】
本実施形態の制御装置27は、牽引車16が走行経路を移動しながら牽引車16の走行経路に関する地図を作成することから、牽引車16の現在位置から目的地までの複数の走行経路を予め設定する走行経路設定部に相当する。例えば、
図1に示すように、発停位置18における特定の地点をスタート地点Sとし、発停位置19における特定の地点をゴール地点Gとすると、スタート地点Sからゴール地点Gへ至る複数の走行経路R1、R2、R3、R4、R5、R6が考えられる。制御装置27は、牽引車16が複数の走行経路R1~R6を実際に走行することで複数の走行経路R1~R6のデータを予め取得し、取得した走行経路R1~R6を予め記憶する。走行経路R1~R6には分岐点であるノードN1、N2、N3、N4、N5、N6が存在する。制御装置27はノードN1~N6を予め記憶する。
【0022】
走行経路R1は、スタート地点SからノードN1、N3、N7を通りゴール地点Gへ至る経路である。走行経路R2は、スタート地点SからノードN1、N3、N4、N6、N7を通りゴール地点Gへ至る経路である。走行経路R3は、スタート地点SからノードN1、N3、N4、N5、N6、N7を通りゴール地点Gへ至る経路である。走行経路R4は、スタート地点SからノードN1、N2、N4、N6、N7を通りゴール地点Gへ至る経路である。走行経路R5は、スタート地点SからノードN1、N2、N4、N5、N6、N7を通りゴール地点Gへ至る経路である。走行経路R6は、スタート地点SからノードN1、N2、N5、N6、N7を通りゴール地点Gへ至る経路である。2つのノードの間はノード区間であり、走行経路の一部である走行経路部に相当する。例えば、走行経路R1におけるノードN1、N3区間は、走行経路R1の一部である走行経路部である。なお、走行経路は、一以上の走行経路部により構成される牽引車16が走行すべき経路である。
図1では、走行経路R1~R6を構成する走行経路部としての各ノード区間は、説明の便宜上、走行の向きを定めている。
【0023】
本実施形態では、走行経路R1~R6のデータを取得するために牽引車16が実際に走行するとき、制御装置27は、単独走行により走行経路R1~R6のデータを取得するほか、最大数の台車17を連結した牽引車16を牽引走行により走行経路R1~R6のデータを取得する。つまり、牽引車16が実際に単独走行および牽引走行して、走行経路R1~R6のデータが予め制御装置27に記憶される。
【0024】
ところで、最大数(4台)の台車17を連結した牽引車16を牽引走行するとき、直進走行の軌跡は単独走行時と同じ経路となるが、右折や左折のように進行方向を変更するときの経路が単独走行時と異なる。例えば、
図4(a)に示すように、走行経路R1では、ノードN3、N7の区間に右折コーナーが存在するため、右折コーナー付近における牽引走行時の牽引車16の経路は、設備1
3と干渉を避けるために単独走行時の経路よりも大回りになる。したがって、制御装置27は、ノードN3、N7の区間にノードN31、N32をさらに設定され、ノードN31、N32区間の単独走行時の走行経路部を単独走行経路部Q1とし、牽引走行時の走行経路部を牽引時走行経路部Q2として記憶される。つまり、走行経路R1に、牽引車16が台車17を牽引して走行する牽引走行時に台車17が障害物と干渉することなく走行可能な牽引時走行経路部Q2と、牽引車16が単独走行する単独走行時の単独走行経路部Q1と、が含まれる。そして、他の走行経路R2~R6においても、走行経路R1のノードN31、N32と同様に、単独走行と牽引走行により経路に相違が生じるノード区間には、ノードがさらに設定され、単独走行経路部および牽引時走行経路部が記憶される。
図1では、説明の便宜上、走行経路R2~R6における牽引時走行経路部の図示を省略している。
【0025】
また、制御装置27は、予め設定した牽引車16の現在位置から目的地までの複数の走行経路R1~R6に対して経路コストを予めそれぞれ設定する。したがって、制御装置27は、複数の走行経路に対して経路コストを予めそれぞれ設定する経路コスト設定部に相当する。走行経路R1~R6においては、各ノード間(区間)に経路コストが割り当てられている。走行経路R1~R6における各ノード間(区間)の経路コストは距離に応じて設定されている。このため、走行経路R1~R6の経路コストを求めることが可能となる。
【0026】
図1に示す場合では、各ノード間(区間)に設定した経路コストは、
図5(a)の行列表M1により示すことが可能である。この行列表M1では、スタート地点Sおよびゴール地点Gをノードと同様に含めている。行列表M1のとおり行と列の交差する各セルに経路コストが示され、同じノードが交差するセルの経路コストは0である。
図5(a)の行列表M1は、牽引車16が単独走行する場合の経路コストを示す。
【0027】
複数の走行経路R1~R6に対して経路コストを設定することにより、現在位置から目的地までの最適な走行経路の探索のアルゴリズムであるダイクストラ法を利用して、複数の走行経路R1~R6の中から牽引車16の経路コストが最も小さい最小コスト走行経路の探索が可能となる。したがって、制御装置27は、経路コストが設定された複数の走行経路の中から経路コストの最も小さい最小コスト走行経路を探索する走行経路探索部に相当する。
【0028】
ところで、走行経路に含まれる経路部のうち、右折や左折のように進行方向を変更する経路部は、牽引車16が台車17を牽引して走行する場合と、牽引車16が単独走行する場合とでは異なる。例えば、
図4(a)に示すように、走行経路R1におけるノードN3、N7区間では、経路部が異なる。このため、ノードN3、N7区間では、経路コストが単独走行時と牽引走行時とは異なって設定される。
【0029】
具体的には、
図4(b)に示すように、制御装置27は、牽引車16の単独走行時にノードN31、N32区間における単独走行経路部Q1の経路コストが1となるように設定するとともに、牽引時走行経路部Q2のコストが単独走行時に無限大となるように設定する。また、制御装置27は、牽引車16の牽引走行時にノードN31、N32区間における牽引時走行経路部Q2のコストが2となるように設定するとともに、単独走行経路部Q1のコストが牽引独走行時に無限大となるように設定する。牽引時走行経路部Q2は単独走行経路部Q1と比較して大回りの経路部であるため、経路コストが増大している。
【0030】
図4(b)に示すとおり、単独走行経路部Q1および牽引時走行経路部Q2の経路コストが設定されるので、牽引車16が単独走行するときには、経路探索の際に必ず単独走行経路部Q1が選択される。また、牽引車16が牽引走行するときには、経路探索の際に必ず牽引時走行経路部Q2が選択される。なお、ノードN3、N31区間の経路コストは、単独走行時の経路コストと同様に4に設定され、ノードN32、N7区間の経路コストは2に設定される。このため、ノードN3、N7区間の経路コストは12となる。
【0031】
走行経路R2~R6の各ノード間について、走行経路R1と同様に大回りとなる経路部は、経路コストが増大するように設定される。
図5(b)の行列表M2は、牽引車16が牽引走行する場合の経路コストを示す。行列表M2では、行列表M1と共通する経路コストのノード間と、行列表M1よりも増大した経路コスト(太字の数字で示す)のノード間が存在する。行列表M1よりも増大した経路コストのノード間には、単独走行時よりも大回りとなる経路部が含まれる。
【0032】
制御装置27は、
図5(b)の行列表M2に基づいて、牽引走行時の走行経路R1~R6の経路コストをそれぞれ算出することができ、この場合、経路コストの最も小さい走行経路R1を牽引車16が走行すべき走行経路として選択する。そして、制御装置27は、選択された走行経路を牽引車16が走行するように制御する。したがって、制御装置27は、走行経路探索部により探索された走行経路を走行するように牽引車16を制御する走行制御部に相当する。
【0033】
次に、本実施形態の牽引車16の経路探索システムによる走行経路を探索する手順について説明する。走行経路探索の手順は、
図6のフロー図に示す一連のステップに従う。
図6のフロー図に示す一連のステップに係る制御プログラムは、制御装置27に予め記憶されている。
【0034】
まず、制御装置27は、現在位置から目的地までの経路探索を開始する(ステップS01)。次に、制御装置27は、牽引車16の走行状態を取得する(ステップS02)。牽引車16の走行状態は、走行状態検出器26により検出され、検出された信号は制御装置27へ伝達される。制御装置27は、牽引車16の走行状態が牽引走行であるか単独走行であるかを判別する(ステップS03)。
【0035】
制御装置27は、走行状態が牽引走行であると判別する場合、牽引走行時の経路コストを選択する(ステップS04)。制御装置27は、牽引走行時の経路コストに基づいてダイクストラ法により経路コストの最も小さい最小コスト走行経路を探索する(ステップS05)。したがって、制御装置27は行列表M2を選択に基づいて経路コストの最も小さい最小走行経路を選択し、選択された最小走行経路を牽引車16が走行するように各部を制御する。
【0036】
なお、ステップS03において、制御装置27が、単独走行であると判別する場合には、単独走行時の経路コストを選択する(ステップS06)。この場合、制御装置27は、行列表M1に基づいて経路コストの最も小さい走行経路を最小コスト走行経路として選択し、選択された走行経路を牽引車16が走行するように各部を制御する。
【0037】
次に、
図1に示すスタート地点Sからゴール地点Gへの牽引車16の経路探索について具体的に説明する。牽引車16は4台の台車17を牽引する牽引走行しているものとする。まず、制御装置27は、牽引車16の走行経路を探索するが、予め記憶されている走行経路R1~R6が探索結果として得られる。次に、制御装置27は、牽引車16の走行状態を判別するが、牽引走行と判別する。制御装置27は、牽引車16の走行状態を牽引走行と判別しているので、牽引走行時の行列表M2を選択し、ダイクストラ法により各走行経路R1~R6の経路コストを算出し、経路コストの最も小さい最小コスト走行経路を決定する。
【0038】
走行経路R1の走行コストは、3+6+12+3=24となる。
走行経路R2の走行コストは、3+6+8+9+6+3=35となる。
走行経路R3の走行コストは、3+6+8+8+11+6+3=45となる。
走行経路R4の走行コストは、3+7+9+9+6+3=37となる。
走行経路R5の走行コストは、3+7+9+8+11+6+3=47となる。
走行経路R6の走行コストは、3+7+16+11+6+3=46となる。
【0039】
経路コストを算出する際に、例えば、走行経路R1のノードN3、N7区間に含まれるノードN31、N32区間では、制御装置27は、牽引時走行経路部Q2の経路コストを2とし、単独走行経路部Q1の経路コストが無限大とする。したがって、制御装置27は、より経路コストの小さい牽引時走行経路部Q2の経路コストの2を選択し、牽引時走行経路部Q2の経路コストの2は、走行経路R1のノードN3、N7区間の経路コストの12に含まれることになる。
【0040】
走行経路R1~R6の経路コストが算出されると、制御装置27は、経路コストの最も小さい走行経路R1を、スタート地点Sからゴール地点Gへの牽引走行時の最小コスト走行経路として決定する。台車17を牽引する牽引車16は走行経路R1を走行する。
【0041】
なお、牽引車16が単独走行する場合、走行経路R1~R6の経路コストは以下のとおりである。
走行経路R1の走行コストは、3+6+11+3=23となる。
走行経路R2の走行コストは、3+6+7+7+6+3=32となる。
走行経路R3の走行コストは、3+6+7+7+10+6+3=42となる。
走行経路R4の走行コストは、3+6+7+7+6+3=32となる。
走行経路R5の走行コストは、3+6+7+7+10+6+3=42となる。
走行経路R6の走行コストは、3+6+15+10+6+3=43となる。
【0042】
経路コストを算出する際に、例えば、走行経路R1のノードN3、N7区間に含まれるノードN31、N32区間では、制御装置27は、単独走行経路部Q1の経路コストを1とし、牽引時走行経路部Q2の経路コストが無限大とする。したがって、制御装置27は、より経路コストの小さい単独走行経路部Q1の経路コストの1を選択し、単独走行経路部Q1の経路コストの1は、走行経路R1のノードN3、N7区間の経路コストの11に含まれることになる。
【0043】
走行経路R1~R6の経路コストが算出されると、制御装置27は、経路コストの最も小さい走行経路R1を、スタート地点Sからゴール地点Gへの単独走行時の最小コスト走行経路として決定する。牽引車16は台車17を牽引しないので走行経路R1を単独走行する。
【0044】
本実施形態の牽引車16の経路探索システムは以下の効果を奏する。
(1)走行経路設定部としての制御装置27が牽引車16の現在位置から目的地までの複数の走行経路を予め設定し、走行経路探索部としての制御装置27は、経路コストが設定された複数の走行経路の中から経路コストの最も小さい最小コスト走行経路を探索する。走行経路に牽引時走行経路部および単独走行経路部が含まれるときには、牽引走行時および単独走行時の経路コストが設定されている。走行経路探索部は、牽引車16の走行状態に応じた牽引時走行経路部および単独走行経路部の経路コストを用いる。このため、牽引車16が台車17を牽引して走行する牽引走行時では、牽引時走行経路部を選択され、牽引車16が単独走行する単独走行時では、単独走行経路部を選択される。その結果、単独走行だけでなく牽引走行する牽引車16の走行経路を探索することができ、牽引走行であっても台車17が障害物と干渉することなく牽引車16を走行させることができる。
【0045】
(2)牽引走行時では、単独走行経路部の経路コストよりも経路コストの小さい牽引時走行経路部が選択される。また、単独走行時では、単独走行経路部が選択される。つまり、走行経路において牽引車16の走行状態に応じて牽引時走行経路部又は単独走行経路部のいずれかを確実に選択することができる。
【0046】
(3)牽引時走行経路部は、牽引車16が牽引する台車17の最大数(4台)に基づいて設定されるので、牽引車16は牽引走行時においては台車17の数に関わらず台車17の最大数に基づいて設定された牽引時走行経路部を走行する。牽引される台車17は最大数未満であっても障害物と干渉することない。
【0047】
(4)走行経路における牽引時走行経路部および単独走行経路部は、予め制御装置27に記憶されている。したがって、制御装置27は牽引走行時に障害物を回避するための走行経路の補正のための処理を行う必要がなく、牽引走行時における走行経路の補正のための処理によって制御装置27の負荷が増大することはない。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るについて説明する。本実施形態では、制御装置が牽引車により牽引される台車の数に基づいて牽引走行経路部をそれぞれ設定する点で、第1の実施形態と相違する。本実施形態では、第1の実施形態と同じ構成については第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0049】
本実施形態の制御装置27は、走行経路設定部として牽引時走行経路部および単独走行経路部を予め設定する。例えば、
図7(a)に示すように、ノードN31、N32区間では、単独走行経路部Q1に対して、台車17の数に応じた複数の牽引時走行経路部Q21、Q22、Q23、Q24が設定される。牽引時走行経路部Q21は台車1台を牽引するときに設備13と干渉しない経路部である。そして、牽引時走行経路部Q22は台車2台を牽引するときの経路部であり、牽引時走行経路部Q23は台車3台を牽引するときの経路部である。牽引時走行経路部Q24は台車4台を牽引するときの経路部であり、第1の実施形態の牽引時走行経路部Q2と同じである。
【0050】
本実施形態では、
図7(b)に示すように、牽引時走行経路部Q21~Q24には、単独走行時の経路コストおよび台車数に応じた牽引走行時の経路コストが設定されている。牽引時走行経路部Q21~Q24にそれぞれ異なる経路コストが設定されているため、走行状態検出器26は、牽引車16の単独走行か牽引走行かを検出するだけでなく、牽引走行の場合には、牽引車16が牽引する台車17の数を検出する。検出された台車17の数は、制御装置27に伝達される。
【0051】
本実施形態では、牽引時走行経路部は、牽引車16が牽引する台車17の数に基づいて牽引走行経路部をそれぞれ設定し、牽引時走行経路部の経路コストは、台車17の数に応じて設定される。このため、牽引走行時には牽引車16が牽引する台車17の数に合った牽引走行経路部を選択できる。
【0052】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0053】
○ 上記の実施形態では、牽引車に搭載されている制御装置が、走行経路設定部、経路コスト設定部、走行経路探索部および走行制御部の機能を果たしたが、これに限定されない。牽引車の経路探索システムは、例えば、牽引車と通信可能であって牽引車の運行を制御する上位システムを備えてよく、この場合、上位システムが走行経路設定部、経路コスト設定部および走行経路探索部の機能を果たすようにしてもよい。
○ 上記の実施形態では、牽引車の走行状態を自動的に検出する走行状態検出部を設けたが、これに限らない。走行状態検出部は、例えば、荷役を行う作業者の操作によって走行状態を検出する走行状態検出部としてもよい。走行状態検出部が作業者の操作によって走行状態を検出する場合、台車の数についても作業者の操作によって検出するようにしてもよい。
○ 上記の実施形態では、現在位置から目的地までの最小コスト走行経路の探索のアルゴリズムであるダイクストラ法を利用したが、これに限らない。最小コスト走行経路の探索のアルゴリズムとして、例えば、エースターアルゴリズム等の探索アルゴリズムを用いてもよい。
○ 上記の実施形態では経路コストを走行経路における距離に基づいて設定したが、これに限定されない。経路コストは距離に代えて時間に基づいて設定してもよい。時間に基づいて設定することで、例えば、走行経路における勾配の有無や路面の状態を経路コストに反映させることが可能となる。
○ 上記の実施形態では、牽引走行時の最小コスト走行経路と単独走行時の最小コスト走行経路が同じとなったが、単独走行時の最小コスト走行経路と牽引時の最小コスト走行経路が同じでなくてもよい。
○ 上記の実施形態では、障害物として工場における設備を例示したが、障害物は工場の設備に限定されない。障害物は、壁や柱などの構造物の一部でもよく、また、床面に設けた歩行者用の通路や進入禁止区域を障害物として認識するように設定してもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 工場
11、12、13、14 設備(障害物)
15 通路
16 牽引車
17 台車
18 発停位置
19 発停位置
26 走行状態検出器
27 制御装置
G ゴール地点
M1 行列表(単独走行)
M2 行列表(牽引時走行)
N1、N2、N3、N31、N32、N4、N5、N6、N7 ノード
Q1 単独走行経路部
Q2、Q21、Q22、Q23、Q24 牽引時走行経路部
R1、R2、R3、R4、R5、R6 走行経路
S スタート地点