(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ユニットスイングエンジン
(51)【国際特許分類】
F02P 13/00 20060101AFI20240528BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20240528BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20240528BHJP
F01P 11/04 20060101ALI20240528BHJP
B62K 11/10 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
F02P13/00 301Z
F02F1/24 H
F01P7/16 507B
F01P11/04 E
B62K11/10
(21)【出願番号】P 2021011836
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】山田 伸一
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-28323(JP,A)
【文献】特開2012-116316(JP,A)
【文献】特開2008-157253(JP,A)
【文献】特開2010-1025(JP,A)
【文献】特開2013-68161(JP,A)
【文献】特開2015-98798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 13/00
F02F 1/24
F01P 7/16
F01P 11/04
B62K 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームに揺動可能に支持されたユニットスイングエンジンであって、
水平又は水平に近づけて前傾されたシリンダと、
前記シリンダの前面に連なるシリンダヘッドと、
前記シリンダの後面に連なるクランクケースと、
前記シリンダヘッドの天面に配置された第1の点火プラグと、
前記シリンダヘッドの側面に配置された第2の点火プラグと、を備え、
前記車体フレームが前記クランクケースの前方で上下に延びるフレーム部材を有し、
前記第2の点火プラグが前記フレーム部材の内側で当該フレーム部材の前方に配置されていることを特徴とするユニットスイングエンジン。
【請求項2】
前記第1、第2の点火プラグに放電電圧を印加するイグニッションコイルを備え、
前記イグニッションコイルが前記第2の点火プラグと同じエンジン幅方向の一方側のエンジン外面にて、前記第2の点火プラグの後方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のユニットスイングエンジン。
【請求項3】
前記クランクケースの上面にはエンジン懸架部が設けられ、
前記イグニッションコイルは前記エンジン懸架部よりも前方で、前記クランクケース、前記シリンダ、前記フレーム部材に囲まれた空間に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のユニットスイングエンジン。
【請求項4】
前記イグニッションコイルの長手方向が前記フレーム部材に沿うように、当該イグニッションコイルの長手方向がエンジン揺動方向に向けられていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のユニットスイングエンジン。
【請求項5】
冷却水温に応じて冷却水路を開閉するサーモスタットと、
前記サーモスタットを覆うサーモスタットカバーと、を備え、
前記サーモスタットカバーが前記第2の点火プラグと同じエンジン幅方向の一方側で前記シリンダ又は前記シリンダヘッドの側面に取り付けられ、
前記第2の点火プラグが前記サーモスタットカバーよりもエンジン幅方向の内側に位置していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のユニットスイングエンジン。
【請求項6】
前記サーモスタットカバーは前記第2の点火プラグの上方で前記シリンダヘッドに取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載のユニットスイングエンジン。
【請求項7】
前記サーモスタットカバーには配管が取り付けられており、
側面視にて前記配管が前記第2の点火プラグに重なっていることを特徴とする請求項6に記載のユニットスイングエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユニットスイングエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガス対策や燃費向上のためにツインプラグを採用したエンジンが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のエンジンのシリンダヘッドには、燃焼室の中央に電極が向くように第1の点火プラグが配置され、燃焼室の端に電極が向くように第2の点火プラグが配置されている。第1、第2の点火プラグの電極が燃焼室内で離間しているため、第1、第2の点火プラグの電極から火炎が燃え広がって燃焼室内の混合気が効率的に燃焼される。燃焼室内の火炎伝播時間が短縮されることで、混合気の燃焼速度が高められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車体フレームに揺動可能に支持されたユニットスイングエンジンでは、シリンダヘッドの周辺に車体フレーム等の周辺部品が存在しており、シリンダヘッドと周辺部品の隙間を確保することが難しい。特許文献1のエンジンのようなツインプラグをユニットスイングエンジンに採用することはできるが、第2の点火プラグの追加は周辺部品のレイアウトに与える影響が大きい。また、ユニットスイングエンジンが揺動することを考慮して、第2の点火プラグと周辺部品の隙間を確保しなければならない。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、周辺部品との衝突を抑えると共に、周辺部品のレイアウトを変更することなく、第1、第2の点火プラグを配置することができるユニットスイングエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のユニットスイングエンジンは、車体フレームに揺動可能に支持されたユニットスイングエンジンであって、水平又は水平に近づけて前傾されたシリンダと、前記シリンダの前面に連なるシリンダヘッドと、前記シリンダの後面に連なるクランクケースと、前記シリンダヘッドの天面に配置された第1の点火プラグと、前記シリンダヘッドの側面に配置された第2の点火プラグと、を備え、前記車体フレームが前記クランクケースの前方で上下に延びるフレーム部材を有し、前記第2の点火プラグが前記フレーム部材の内側で当該フレーム部材の前方に配置されていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様のシリンダが前傾した状態でユニットスイングエンジンが車体フレームに支持されるため、クランクケースが存在するエンジン後側よりもシリンダ及びシリンダヘッドが存在するエンジン前側のエンジン幅が狭くなっている。このため、フレーム部材の前方がエンジン幅の大きなクランクケースから離されて、第2の点火プラグと周辺部品の隙間が確保し易くなっている。フレーム部材の前方に第2の点火プラグが配置されることで、周辺部品のレイアウトに影響を与えることなくユニットスイングエンジンに第2の点火プラグを追加することができる。また、ユニットスイングエンジンが揺動しても第2の点火プラグが周辺部品に干渉することがない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本実施例のユニットスイングエンジンの斜視図である。
【
図3】本実施例のユニットスイングエンジンの左側面図である。
【
図5】
図3のユニットスイングエンジンをA-A線に沿って切断した断面図である。
【
図6】
図3のユニットスイングエンジンをB-B線に沿って切断した断面図である。
【
図7】本実施例のユニットスイングエンジン及び車体フレームの左側面図である。
【
図8】本実施例のユニットスイングエンジン及び車体フレームの前面図である。
【
図9】
図7のユニットスイングエンジンをC-C線に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様のユニットスイングエンジンは、車体フレームに揺動可能に支持されている。ユニットスイングエンジンのシリンダが水平又は水平に近づけて前傾され、シリンダの前面にシリンダヘッドが連なり、シリンダの後面にクランクケースが連なっている。シリンダヘッドの天面には第1の点火プラグが配置され、シリンダヘッドの側面には第2の点火プラグが配置されている。シリンダが前傾した状態でユニットスイングエンジンが車体フレームに支持されるため、クランクケースが存在するエンジン後側よりもシリンダ及びシリンダヘッドが存在するエンジン前側のエンジン幅が狭くなっている。このため、フレーム部材の前方がエンジン幅の大きなクランクケースから離されて、第2の点火プラグと周辺部品の隙間が確保し易くなっている。車体フレームのフレーム部材がクランクケースの前方で上下に延びており、第2の点火プラグがフレーム部材の内側でフレーム部材の前方に配置されている。このため、周辺部品のレイアウトに影響を与えることなくユニットスイングエンジンに第2の点火プラグを追加することができる。また、ユニットスイングエンジンが揺動しても第2の点火プラグが周辺部品に干渉することがない。
【実施例】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例について詳細に説明する。
図1は本実施例の鞍乗型車両の左側面図である。以下の説明では、鞍乗型車両としてスクータタイプの自動二輪車を例示して説明する。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0011】
図1に示すように、スクータタイプの鞍乗型車両1は、鋼製又はアルミ合金製の車体フレーム10(
図7参照)に車体外装として各種カバーを装着して構成されている。車両前側にはフロントフレームカバー21が設けられており、フロントフレームカバー21の後側にはライダーの足回りを保護するレッグシールド22が設けられている。レッグシールド22の下端から後方に向かってステップボード23が延在しており、ステップボード23の後方にはリアフレームカバー24が設けられている。ステップボード23上には、レッグシールド22とリアフレームカバー24を連ねるセンターカバー25が設けられている。
【0012】
フロントフレームカバー21の上側にはハンドル31が設けられ、フロントフレームカバー21の下側には一対のフロントフォーク32を介して前輪33が回転可能に支持されている。リアフレームカバー24の上側にはライダーシート26とピリオンシート27が設けられ、リアフレームカバー24の下側にはCVT(Continuously Variable Transmission)カバー44が設けられている。CVTカバー44の後部に後輪34が回転可能に支持されている。CVTカバー44の内側にはベルト式の無段変速機(不図示)が収容されており、ユニットスイングエンジン40の駆動力がベルトを介して後輪34に伝達されている。
【0013】
ユニットスイングエンジン40は、リアフレームカバー24の内側で車体フレーム10に揺動可能に支持されている。ユニットスイングエンジン40は、クランクケース41の前側でシリンダユニット50を前傾させている。シリンダユニット50の上部には吸気管を介してエアクリーナ(不図示)が接続されており、シリンダユニット50の下部には排気管を介してマフラ35が接続されている。クランクケース41の左側にはCVTカバー44が取り付けられている。これらエアクリーナ、マフラ35、CVTカバー44、後輪34と一体になってユニットスイングエンジン40が揺動される。
【0014】
このようなユニットスイングエンジン40においては、排気ガス規制をクリアするために排気系への触媒の追加や触媒の大型化といった手法が一般的である。しかしながら、触媒には貴金属が使用されているためコストが増加するという問題がある。排気ガス対策としてユニットスイングエンジン40にツインプラグを採用することも考えられるが、ユニットスイングエンジン40の周辺部品に対して大幅なレイアウト変更が必要になる。そこで、本実施例のユニットスイングエンジン40は、ツインプラグの配置を工夫して、周辺部品の既存レイアウトからの変更を最小限に抑えている。
【0015】
以下、
図2から
図6を参照して、ユニットスイングエンジンについて説明する。
図2は、本実施例のユニットスイングエンジンの斜視図である。
図3は、本実施例のユニットスイングエンジンの左側面図である。
図4は、本実施例のシリンダヘッドの正面図である。
図5は、
図3のユニットスイングエンジンをA-A線に沿って切断した断面図である。
図6は、
図3のユニットスイングエンジンをB-B線に沿って切断した断面図である。なお、
図2から
図6ではユニットスイングエンジンから一部の部材を省略して記載している。
【0016】
図2及び
図3に示すように、ユニットスイングエンジン40は、クランクケース41の前側にシリンダユニット50が配置されている。シリンダユニット50は、クランクケース41から前方に延びるシリンダ51と、シリンダ51の前面に取り付けられたシリンダヘッド52と、シリンダヘッド52の前面に取り付けられたシリンダヘッドカバー53とを有している。シリンダ51は水平に近づくように前傾しており、シリンダ軸方向を斜め上方に向けている。シリンダ51の前面に連なるシリンダヘッド52も前傾しており、シリンダ51の後面に連なるクランクケース41は略水平に配置されている。
【0017】
シリンダヘッド52の上面には、吸気管が接続される吸気側接続部55が形成されている。吸気側接続部55はシリンダヘッド52の上面から前斜め上方に突き出し、吸気側接続部55からシリンダヘッド52の内側に向かって吸気ポート56が形成されている。シリンダヘッド52の下面には、排気管が接続される排気側接続部57が形成されている。排気側接続部57は右斜め下方に突き出し、排気側接続部57からシリンダヘッド52の内側に向かって排気ポート58(
図5参照)が形成されている。このように、シリンダ軸よりも上側に吸気ポート56が形成され、シリンダ軸よりも下側に排気ポート58が形成されている。
【0018】
ユニットスイングエンジン40はツインプラグ方式の単気筒エンジンであり、シリンダヘッド52の前面に第1の点火プラグ61(
図4参照)が配置され、シリンダヘッド52の左側面に第2の点火プラグ64が配置されている。第1の点火プラグ61はシリンダヘッド52の内側に入り込み、第2の点火プラグ64はシリンダヘッド52の左側面から外方に突き出ている。詳細は後述するが、シリンダヘッド52の左側面を部分的に窪ませることで、第2の点火プラグ64の取付座面65(
図6参照)が形成され、シリンダヘッド52の左側面からの第2の点火プラグ64の突き出し量が抑えられている。
【0019】
シリンダヘッド52の左側面にはサーモスタットカバー83が取り付けられ、シリンダ51の左側面にはコネクタ84が取り付けられている。サーモスタットカバー83の内側には、冷却水温に応じて冷却水路の開閉するサーモスタット82(
図6参照)が取り付けられている。サーモスタットカバー83にはラジエータ(不図示)に冷却水を送るインレット配管(配管)85が接続され、コネクタ84にはラジエータから冷却水を戻すアウトレット配管86が接続されている。また、コネクタ84にはシリンダヘッド52からラジエータを迂回してコネクタ84に冷却水を戻すバイパス配管87が接続されている。
【0020】
クランクケース41は、左右割り構造であり、左側ケース42と右側ケース43を有している。左側ケース42は右側ケース43よりも後方に延びており、左側ケース42の左側面が開口している。左側ケース42の左側面にCVTカバー44が取り付けられて無段変速機の収容空間が形成されている。右側ケース43の右側面が開口しており、右側ケース43の右側面にマグネトカバー45が取り付けられてマグネト(不図示)の収容空間が形成されている。左側ケース42と右側ケース43の合わせ面46を基準にして、クランクケース41の左側が右側よりも車幅方向の外側に膨らんでいる(
図8参照)。
【0021】
左側ケース42の前面にはイグニッションコイル67が設けられている。イグニッションコイル67にはハイテンションコード68、69(
図7参照)を介して第1、第2の点火プラグ61、64が接続されている。イグニッションコイル67から第1、第2の点火プラグ61、64に放電電圧が印加されることで、第1、第2の点火プラグ61、64によって燃焼室71(
図4参照)内の混合気が点火される。なお、イグニッションコイル67は左側ケース42ではなく、CVTカバー44に設けられていてもよい。クランクケース41の上部には、車体フレーム10に懸架されるエンジン懸架部47が設けられている。
【0022】
図4に示すように、シリンダヘッド52の中央には動弁室72が形成され、シリンダヘッド52の右端にはカムチェーン室73が形成されている。動弁室72の四隅がボルト74を介してシリンダ51に固定されている。シリンダヘッド52の前面に正対した状態で、動弁室72の中央を左右に横切る平面Pよりも上側に一対の吸気バルブ75が配置され、この平面Pよりも下側に一対の排気バルブ76が配置されている。
図4では、動弁室72の底面から各吸気バルブ75及び各排気バルブ76のバルブタペットが露出した状態を示している。一対の吸気バルブ75の間及び一対の排気バルブ76の間には、動弁室72を左右に仕切る隔壁77が形成されている。
【0023】
隔壁77の上下方向の中央位置には円筒状の収容部78が形成されており、収容部78内には燃焼室71の中央を狙うように第1の点火プラグ61が挿し込まれている(
図9参照)。シリンダヘッド52の左側面には燃焼室71の左端を狙うように第2の点火プラグ64が挿し込まれている(
図9参照)。第2の点火プラグ64は、第1の点火プラグ61を挟んでカムチェーン室73とは逆側に配置されている。このため、第2の点火プラグ64にカムチェーン室73を貫通させるために、部品点数や作業工数を増加させる必要がない。また、第2の点火プラグ64の交換時のメンテナンスも容易になっている。
【0024】
第1、第2の点火プラグ61、64は平面P上に配置されている。第1、第2の点火プラグ61、64の軸線が同一の平面P内にあるため、シリンダヘッド52に対して第1、第2の点火プラグ61、64の挿し込み穴63、66(
図5、6参照)を容易に加工することができる。また、第1、第2の点火プラグ61、64が吸気側及び排気側に偏ることがなく、平面P上で第1、第2の点火プラグ61、64の軸線が離間している。このため、第1、第2の点火プラグ61、64の点火によって混合気が吸気側と排気側に均一に火炎が伝播すると共に、火炎伝播時間が短縮されて燃焼速度が高められている。
【0025】
また、シリンダヘッド52の左側面にはサーモスタット取付部81が形成されている。サーモスタット取付部81はシリンダヘッド52の左側面から僅かに突き出しており、サーモスタット取付部81の内側に冷却水路が形成されている。サーモスタット取付部81の冷却水路にサーモスタット82(
図6参照)が介在されており、このサーモスタット82を覆うようにサーモスタット取付部81にサーモスタットカバー83が取り付けられている。サーモスタット取付部81は一対の吸気バルブ75よりも上方に形成されており、サーモスタット82及びサーモスタットカバー83は第2の点火プラグ64よりも上方に位置付けられている。
【0026】
図5に示すように、シリンダヘッド52の収容部78の底面は第1の点火プラグ61(
図4参照)の取付座面62になっている。取付座面62には第1の点火プラグ61の挿し込み穴63が形成されている。シリンダヘッド52の内側には収容部78を囲むようにウォータジャケット88が形成されている。ウォータジャケット88の底面には一対の開口89が形成されており、この一対の開口89を通じてシリンダ51のウォータジャケット(不図示)からシリンダヘッド52のウォータジャケット88に冷却水が流れ込んでいる。ウォータジャケット88の冷却水によって収容部78内の第1の点火プラグ61が冷却されている。
【0027】
図6に示すように、シリンダヘッド52の左側面が窪んで第2の点火プラグ64(
図4参照)の取付座面65が形成されている。取付座面65には第2の点火プラグ64の挿し込み穴66が形成されている。取付座面65は左側の一対のボルト74の中心を通る直線L1上に位置している。直線L1から取付座面65が大幅にはみ出すことがなく、シリンダヘッド52とシリンダ51の合わせ面を小さくしてシリンダユニット50がコンパクトに形成される。取付座面65の近辺にウォータジャケット88が形成されており、ウォータジャケット88の冷却水によって第2の点火プラグ64が冷却されている。
【0028】
このようにユニットスイングエンジン40にはシリンダヘッド52の左側面に第2の点火プラグ64が追加されている。このとき、ユニットスイングエンジン40の揺動を考慮して、車体フレーム10(
図7参照)等の周辺部品に衝突しないように第2の点火プラグ64が配置されている。第2の点火プラグ64の追加が周辺部品のレイアウトに大きな影響を与えないため、周辺部品については既存のレイアウトを採用することができる。よって、最小限の設計変更でユニットスイングエンジン40に対してツインプラグを導入することが可能になっている。
【0029】
図7から
図9を参照して、第2の点火プラグと周辺部品の位置関係について説明する。
図7は、本実施例のユニットスイングエンジン及び車体フレームの左側面図である。
図8、本実施例のユニットスイングエンジン及び車体フレームの前面図である。
図9、
図7のユニットスイングエンジンをC-C線に沿って切断した断面図である。なお、
図8ではハイテンションコードを省略して記載している。
【0030】
図7及び
図8に示すように、車体フレーム10は、一対のアッパフレーム11、一対のフロントフレーム(不図示)、一対のロアフレーム12、一対のリアフレーム(フレーム部材)13によってクレードル形状に形成されている。各アッパフレーム11は車両前後方向に延びており、各フロントフレームは各アッパフレーム11の前部から斜め後方に立ち下がっている。各ロアフレーム12は各フロントフレームの下部から車両後方に延びており、各リアフレーム13は各ロアフレーム12の後部から斜め後方に立ち上がっている。各リアフレーム13の上部にはエンジン懸架用のブラケット14が設けられている。
【0031】
この車体フレーム10のクレードル形状の内側にシリンダユニット50が入り込むようにして、ユニットスイングエンジン40のエンジン懸架部47が車体フレーム10のブラケット14に支持されている。一対のリアフレーム13はクランクケース41の前方で上下方向に延びている。より詳細には、一対のリアフレーム13がシリンダ51の側方を横切るように、ロアフレーム12の下部から斜め後方に立ち上がっている。リアフレーム13の前方には比較的エンジン幅が狭いシリンダヘッド52が存在し、リアフレーム13の後方には比較的エンジン幅が広いクランクケース41が存在している。
【0032】
第2の点火プラグ64は、リアフレーム13の内側でリアフレーム13の前方のシリンダヘッド52の左側面に配置されている。リアフレーム13の後方よりも前方がエンジン幅の大きなクランクケース41から離間されるため、第2の点火プラグ64を周辺部品から離し易くなっている。第2の点火プラグ64は、大径のアッパフレーム11とリアフレーム13から十分に離されているため、ユニットスイングエンジン40が揺動しても第2の点火プラグ64がアッパフレーム11やリアフレーム13に衝突することがない。第2の点火プラグ64付近にも小径フレーム15が存在するが、小径フレーム15が第2の点火プラグ64に接することはない。
【0033】
第2の点火プラグ64の後方のクランクケース41の前面にはイグニッションコイル67が設けられている。イグニッションコイル67はリアフレーム13を挟んで第2の点火プラグ64の逆側に配置されている。イグニッションコイル67と第1、第2の点火プラグ61、64がユニットスイングエンジン40に取り付けられることで、イグニッションコイル67と第1、第2の点火プラグ61、64の位置関係が固定される。ユニットスイングエンジン40が揺動しても、イグニッションコイル67と第1、第2の点火プラグ61、64を接続するハイテンションコード68、69が動かない。
【0034】
このため、ハイテンションコード68、69の長さに余裕を持たせる必要がなく、ハイテンションコード68、69を短くして、周辺部品のレイアウトに対する影響を抑えることができる。特に、イグニッションコイル67と第2の点火プラグ64がユニットスイングエンジン40の左側に取り付けられることで、イグニッションコイル67と第2の点火プラグ64を繋ぐハイテンションコード69を短くすることができる。イグニッションコイル67は、エンジン懸架部47よりも前方に配置されており、イグニッションコイル67の揺動範囲が抑えられて周辺部品のレイアウトに対する影響が抑えられている。
【0035】
イグニッションコイル67の長手方向がリアフレーム13の延在方向に沿うように、イグニッションコイル67の長手方向がエンジン揺動方向Dに向けられている。これにより、イグニッションコイル67とリアフレーム13の隙間が確保される。また、ユニットスイングエンジン40の揺動時にイグニッションコイル67に加わる重力に対して強度が高められる。なお、イグニッションコイル67の長手方向がエンジン揺動方向Dに完全に一致している状態に限らず、イグニッションコイル67の長手方向がエンジン揺動方向Dに向けられていると見做すことができる程度にズレが生じていてもよい。
【0036】
図9に示すように、第2の点火プラグ64の後方には、クランクケース41、シリンダ51、リアフレーム13によってデッドスペース(空間)Sが形成されている。このデッドスペースSにイグニッションコイル67が配置されて、デッドスペースSがイグニッションコイル67の配置スペースとして有効に活用されている。また、イグニッションコイル67がクランクケース41、シリンダ51、リアフレーム13の内側に配置されているため、ユニットスイングエンジン40の側方や後方からの飛来物からイグニッションコイル67が効果的に保護されている。
【0037】
図7及び
図8に戻り、第2の点火プラグ64の上方には、シリンダヘッド52の左側面から僅かに突き出したサーモスタット取付部81が形成されている。サーモスタット取付部81にはサーモスタット82(
図6参照)を覆うサーモスタットカバー83が取り付けられている。第2の点火プラグ64とサーモスタットカバー83は共にシリンダヘッド52の左側面に設けられているが、サーモスタットカバー83よりも第2の点火プラグ64がエンジン幅方向の内側に位置している。サーモスタットカバー83よりも外側(左側)に第2の点火プラグ64が突き出さないため、第2の点火プラグ64と周辺部品の隙間が確保されている。
【0038】
このように、ユニットスイングエンジン40に対する第2の点火プラグ64の追加によってエンジン幅が大きくなることがない。また、サーモスタットカバー83と第2の点火プラグ64が上下に並ぶことで、シリンダヘッド52の前後の寸法を小さくなってユニットスイングエンジン40のコンパクト化が図られている。なお、サーモスタットカバー83はシリンダヘッド52の左側面から突き出しているが、第2の点火プラグ64と同様にサーモスタットカバー83がリアフレーム13の内側でリアフレーム13の前方に配置されているため、サーモスタットカバー83がリアフレーム13等に衝突することがない。
【0039】
さらに、サーモスタットカバー83から下方にインレット配管85が延びており、側面視にてインレット配管85が第2の点火プラグ64に部分的に重なっている。インレット配管85によって側方からの飛来物から第2の点火プラグ64が効果的に保護されている。また、第2の点火プラグ64の外側をインレット配管85が通るため、第2の点火プラグ64によってインレット配管85の設置が阻害されることがない。インレット配管85よりも外側(左側)に第2の点火プラグ64が突き出さないため、第2の点火プラグ64と周辺部品の隙間が確保されている。
【0040】
ハイテンションコード68、69が第1、第2の点火プラグ61、64からインレット配管85の外側を通ってイグニッションコイル67に接続されている。このため、インレット配管85によってハイテンションコード68、69の設置が阻害されることがない。シリンダヘッド52の下面から排気側接続部57が右斜め下方に突き出しており、排気側接続部57に接続された排気管(不図示)がユニットスイングエンジン40の右側方を通って後方に延びている。排気管の通り道が確保されるように、排気管の反対側であるユニットスイングエンジン40の左側に、第2の点火プラグ64及びイグニッションコイル67が配置されている。
【0041】
以上、本実施例によれば、シリンダユニット50が前傾した状態でユニットスイングエンジン40が車体フレーム10に支持される。クランクケース41が存在するエンジン後側よりもシリンダ51及びシリンダヘッド52が存在するエンジン前側のエンジン幅が狭くなっている。このため、リアフレーム13の前方がエンジン幅の大きなクランクケース41から離され、第2の点火プラグ64と周辺部品の隙間が確保し易くなっている。リアフレーム13の前方に第2の点火プラグ64が配置されることで、周辺部品のレイアウトに影響を与えることなくユニットスイングエンジン40に第2の点火プラグ64を追加することができる。また、ユニットスイングエンジン40が揺動しても第2の点火プラグ64が周辺部品に干渉することがない。
【0042】
なお、本実施例では、ユニットスイングエンジンの左側に第2の点火プラグ、イグニッションコイル、サーモスタットカバーが設けられたが、ユニットスイングエンジンの右側に第2の点火プラグ、イグニッションコイル、サーモスタットカバーが設けられていてもよい。
【0043】
また、本実施例では、車体フレームがクレードル形状に形成されたが、車体フレームがクレードル形状に限定されない。車体フレームはクランクケースの前方を上下に延びるフレーム部材を有していればよい。
【0044】
また、本実施例では、イグニッションコイルの長手方向がエンジン揺動方向に向けられているが、フレーム部材の延在方向に沿っていれば、イグニッションコイルの長手方向がエンジン揺動方向に向けられていなくてもよい。
【0045】
また、本実施例では、シリンダヘッドにサーモスタット及びサーモスタットカバーが設けられているが、シリンダにサーモスタット及びサーモスタットカバーが設けられていてもよい。
【0046】
また、本実施例のユニットスイングエンジンは、図示の鞍乗型車両に限らず、他のタイプの鞍乗型車両に採用されてもよい。鞍乗型車両とは、ライダーがシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、ライダーがシートに跨らずに乗車する小型のスクータタイプの車両も含んでいる。
【0047】
以上の通り、本実施例のユニットスイングエンジン(40)は、車体フレーム(10)に揺動可能に支持されたユニットスイングエンジンであって、水平又は水平に近づけて前傾されたシリンダ(51)と、シリンダの前面に連なるシリンダヘッド(50)と、シリンダの後面に連なるクランクケース(41)と、シリンダヘッドの天面に配置された第1の点火プラグ(61)と、シリンダヘッドの側面に配置された第2の点火プラグ(64)と、を備え、車体フレームがクランクケースの前方で上下に延びるフレーム部材(リアフレーム13)を有し、第2の点火プラグがフレーム部材の内側で当該フレーム部材の前方に配置されている。この構成によれば、シリンダが前傾した状態でユニットスイングエンジンが車体フレームに支持されるため、クランクケースが存在するエンジン後側よりもシリンダ及びシリンダヘッドが存在するエンジン前側のエンジン幅が狭くなっている。このため、フレーム部材の前方がエンジン幅の大きなクランクケースから離されて、第2の点火プラグと周辺部品の隙間が確保し易くなっている。フレーム部材の前方に第2の点火プラグが配置されることで、周辺部品のレイアウトに影響を与えることなくユニットスイングエンジンに第2の点火プラグを追加することができる。また、ユニットスイングエンジンが揺動しても第2の点火プラグが周辺部品に干渉することがない。
【0048】
本実施例のユニットスイングエンジンは、第1、第2の点火プラグに放電電圧を印加するイグニッションコイル(67)を備え、イグニッションコイルが第2の点火プラグと同じエンジン幅方向の一方側のエンジン外面にて、第2の点火プラグの後方に配置されている。この構成によれば、イグニッションコイルがユニットスイングエンジンに取り付けられることで、イグニッションコイルと第1、第2の点火プラグの位置関係が固定される。ハイテンションコードの長さに余裕を持たせる必要がなく、ハイテンションコードを短くして、周辺部品のレイアウトに対する影響を抑えることができる。特に、イグニッションコイルと第2の点火プラグが、ユニットスイングエンジンのエンジン幅方向の一方側に取り付けられることで、イグニッションコイルと第2の点火プラグを繋ぐハイテンションコードを短くすることができる。第2の点火プラグの後方にはシリンダ及びクランクケースによってデッドスペースが形成されており、イグニッションコイルの配置スペースとしてデッドスペースを有効利用することができる。
【0049】
本実施例のユニットスイングエンジンにおいて、クランクケースの上面にはエンジン懸架部(47)が設けられ、イグニッションコイルはエンジン懸架部よりも前方で、クランクケース、シリンダ、フレーム部材に囲まれた空間に配置されている。この構成によれば、エンジン懸架部の近くにイグニッションコイルを配置することで、イグニッションコイルの揺動範囲を抑制して周辺部品のレイアウトに対する影響を抑えることができる。クランクケースの前方のデッドスペースが有効に活用されると共に、飛来物からイグニッションコイルが効果的に保護される。
【0050】
本実施例のユニットスイングエンジンにおいて、イグニッションコイルの長手方向がフレーム部材に沿うように、当該イグニッションコイルの長手方向がエンジン揺動方向(D)に向けられている。この構成によれば、イグニッションコイルとフレーム部材の隙間を確保できる。また、ユニットスイングエンジンの揺動時にイグニッションコイルに加わる重力に対して強度が高められる。
【0051】
本実施例のユニットスイングエンジンは、冷却水温に応じて冷却水路を開閉するサーモスタット(82)と、サーモスタットを覆うサーモスタットカバー(83)と、を備え、サーモスタットカバーが第2の点火プラグと同じエンジン幅方向の一方側でシリンダ又はシリンダヘッドの側面に取り付けられ、第2の点火プラグがサーモスタットカバーよりもエンジン幅方向の内側に位置している。この構成によれば、サーモスタットカバーよりも第2の点火プラグが外側に突き出さないため、第2の点火プラグと周辺部品の隙間が確保される。また、ユニットスイングエンジンに対する第2の点火プラグの追加によってエンジン幅が大きくなることがない。
【0052】
本実施例のユニットスイングエンジンにおいて、サーモスタットカバーは第2の点火プラグの上方でシリンダヘッドに取り付けられている。この構成によれば、第2の点火プラグの近辺に冷却水が流れて第2の点火プラグが冷却される。サーモスタットと第2の点火プラグが上下に並ぶことで、シリンダヘッドの前後の寸法を小さくすることができる。
【0053】
本実施例のユニットスイングエンジンにおいて、サーモスタットカバーには配管(インレット配管85)が取り付けられており、側面視にて配管が第2の点火プラグに重なっている。この構成によれば、配管によって側方からの飛来物から第2の点火プラグが保護される。また、第2の点火プラグの側方を配管が通るため、第2の点火プラグによって配管の設置が阻害されることがない。配管よりも第2の点火プラグが外側に突き出さないため、第2の点火プラグと周辺部品の隙間が確保される。
【0054】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0055】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0056】
10:車体フレーム
13:リアフレーム
40:ユニットスイングエンジン
41:クランクケース
47:エンジン懸架部
51:シリンダ
52:シリンダヘッド
61:第1の点火プラグ
64:第2の点火プラグ
67:イグニッションコイル
82:サーモスタット
83:サーモスタットカバー
85:インレット配管(配管)
D :エンジン揺動方向
S :デッドスペース(空間)