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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】産業車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20240528BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20240528BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B60T7/12 F
B60T8/17 C
B60L7/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021023269
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125595
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】松木 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】川口 剛季
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-028803(JP,A)
【文献】特開2016-025723(JP,A)
【文献】特開2016-119792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B60T 8/17
B60L 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回生制動力を生じる走行モータと機械制動力を生じる機械ブレーキとを制動部として備え、前記回生制動力でバッテリが充電される産業車両の制動制御装置であって、
前記産業車両の車速情報を取得する車速情報取得部と、
前記走行モータの回生電流を取得する回生電流取得部と、
前記車速情報に基づいて、降坂中の前記産業車両の車速を目標車速とするための前記回生制動力を含む必要制動力にて自動運転を実行する自動運転制御部と、
取得された前記回生電流が、最大回生電流よりも小さい第1電流値以下となるように、前記必要制動力のうちの前記機械制動力の配分を調整することにより、回生制動の中断を抑制する制動力制御部と、を備え
前記第1電流値は、前記バッテリが満充電状態に達して前記回生制動が利用不可能となり制動力が不足する回生抜けが発生しないように設定される、産業車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記制動力制御部は、
取得された前記回生電流が前記第1電流値以上となった場合に、所定の増加量で前記機械制動力を増加させ、
取得された前記回生電流が前記第1電流値よりも小さい第2電流値以下となった場合に、所定の減少量で前記機械制動力を減少させる、請求項1に記載の産業車両の制動制御装置。
【請求項3】
前記増加量及び前記減少量での前記機械制動力の減速度変化は、前記第1電流値と前記第2電流値との差分に相当する前記回生制動力の減速度変化よりも小さい、請求項2に記載の産業車両の制動制御装置。
【請求項4】
前記増加量及び前記減少量の各絶対値は互いに等しい、請求項2又は3に記載の産業車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業車両の制動制御装置に関連する技術として、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載の産業車両の制動制御装置は、走行モータによる回生電力が充電されるバッテリの端子電圧に基づいて、走行モータの回生トルク指令値を制限するようにインバータ制御装置を制御する。特許文献2に記載の産業車両の制動制御装置は、ブレーキペダルの踏み込み量とバッテリに所定容量以上の蓄電余力があるか否かとに基づいて、摩擦制動手段による制動力が全制動力中に占める割合を、制動の初期から制動の後期に向けて低減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-200048号公報
【文献】特開2006-224768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トーイングトラクタ又はフォークリフト等の産業車両を、限られたエリア内において自動運転可能な電動車として構成することが試みられている。このような産業車両では、例えば産業車両の車速を目標車速に維持するように制動しつつ降坂する際、回生による充電でバッテリが満充電状態に近づくと、バッテリ保護のために回生制動の中断が生じる場合がある。ところが、自動運転ではブレーキペダル操作を伴わずに制動が行われるため、回生制動の中断の対策をブレーキペダル操作に基づいて行うことは適切ではない。したがって、本技術分野では、ブレーキペダル操作に基づかないで回生制動の中断を抑制することが望まれている。
【0005】
本発明は、回生制動を用いる自動運転で降坂中の産業車両において回生制動の中断が生じることを、ブレーキペダル操作に基づくことなく抑制することができる産業車両の制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る産業車両の制動制御装置は、回生制動力を生じる走行モータと機械制動力を生じる機械ブレーキとを制動部として備え、回生制動力でバッテリが充電される産業車両の制動制御装置であって、産業車両の車速情報を取得する車速情報取得部と、走行モータの回生電流を取得する回生電流取得部と、車速情報に基づいて、降坂中の産業車両の車速を目標車速とするための回生制動力を含む必要制動力にて自動運転を実行する自動運転制御部と、取得された回生電流が、最大回生電流よりも小さい第1電流値以下となるように、必要制動力のうちの機械制動力の配分を調整する制動力制御部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る産業車両の制動制御装置では、自動運転制御部によって、車速情報に基づいて、降坂中の産業車両の車速が目標車速となるように自動運転が実行される。降坂中の産業車両は、回生制動力を含む必要制動力で制動される。制動力制御部によって、取得された回生電流が、最大回生電流よりも小さい第1電流値以下となるように、必要制動力のうちの機械制動力の配分が調整される。これにより、最大回生電流での回生制動を行う場合と比べて回生電流が小さくなるため、回生によるバッテリの充電速度が遅くなり、バッテリが満充電状態に近づきにくくなる。したがって、この産業車両の制動制御装置によれば、回生制動を用いる自動運転で降坂中の産業車両において回生制動の中断が生じることを、ブレーキペダル操作に基づくことなく抑制することができる。
【0008】
一実施形態において、制動力制御部は、取得された回生電流が第1電流値以上となった場合に所定の増加量で機械制動力を増加させ、取得された回生電流が第1電流値よりも小さい第2電流値以下となった場合に所定の減少量で機械制動力を減少させてもよい。この場合、回生電流が第1電流値以上となった場合に機械制動力の増加量と同等の回生制動力に相当する変化量で回生電流を減少させることができる。また、回生電流が第2電流値以下となった場合に機械制動力の減少量と同等の回生制動力に相当する変化量で回生電流を増加させることができる。
【0009】
一実施形態において、増加量及び減少量での機械制動力の減速度変化は、第1電流値と第2電流値との差分に相当する回生制動力の減速度変化よりも小さくてもよい。この場合、このような増加量及び減少量で機械制動力を変化させることで、機械制動力の増減に伴って回生制動力が変化しても、第1電流値と第2電流値との間の範囲内で回生電流を変化させることができる。
【0010】
一実施形態において、増加量及び減少量の各絶対値は互いに等しくてもよい。この場合、例えば1つのパラメータを異符号で加算して増加量及び減少量として扱うことができ、処理の簡素化が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自動運転で降坂中の産業車両において回生制動の中断が生じることを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る産業車両の制動制御装置が適用された産業車両の概略構成図である。
図2図1の産業車両の制動制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】産業車両の制動制御装置の動作例を示すタイミングチャートである。
図4】降坂中の自動運転処理の一例を示すフローチャートである。
図5】制動力制御部の配分調整処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、一実施形態に係る産業車両の制動制御装置が適用された産業車両の概略構成図である。図1に示される産業車両1は、例えば電動トーイングトラクタであり、空港、工場内、港湾等で貨物を搭載したコンテナを牽引するために用いられる。
【0015】
産業車両1は、自動運転制御を実行可能に構成されている。自動運転とは、例えば運行管理システム等からの搬送司令に従って自動で産業車両1を走行させる車両制御を実行する運転状態である。運行管理システムは、産業車両1に対し、搬送司令、運行の監視、及び車両状態の監視等を行ういわゆる管制システムである。自動運転では、作業者が運転操作を行う必要が無く、自動で車両が走行する。
【0016】
ここでの自動運転は、例えば空港における滑走路、離着陸区域、誘導路、エプロン、管制塔、格納庫、荷捌き場、充電場等を含む所定のエリアにおいて実施される。産業車両1は、所定のエリア内で、固定されていない走行ルートを走行する自動運転、又は、走行ルートを予め定めるものの走行ルートに存在する下り坂の影響を考慮しない走行計画を生成する自動運転が可能である。固定されていない走行ルートとは、例えば路面上に設置された磁気テープに沿って走行する無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)のように一旦設定されると変更されにくい走行ルートではなく、地図情報等に基づいて生成される走行計画を変更することにより変更可能な走行ルートを意味する。下り坂の影響を考慮しない走行計画とは、下り坂において、下り坂の勾配を考慮してフィードフォワードで目標減速度などを予め設定することのない走行計画を意味する。したがって、本実施形態の産業車両1では、降坂中において車速が目標車速となるように、リアルタイムで車速のフィードバック制御が行われる。
【0017】
[産業車両1の走行及び制動に係る構成]
産業車両1は、車体の前部に配置されたFLタイヤ2及びFRタイヤ3と、車体の後部に配置されたRLタイヤ4及びRRタイヤ5と、を備えている。産業車両1は、走行モータとして、RLタイヤ4を駆動する左走行モータ6と、RRタイヤ5を駆動する右走行モータ7とを備えている。走行モータは、回生制動力を生じる制動部8としても機能する。
【0018】
左走行モータ6及び右走行モータ7は、発電機としても機能する交流モータである。左走行モータ6とRLタイヤ4との間には、減速機である左ドライブユニット6aが介在している。右走行モータ7とRRタイヤ5との間には、減速機である右ドライブユニット7aが介在している。
【0019】
左走行モータ6は、左モータドライバ6bを介してコンタクタ9と電気的に接続されている。右走行モータ7は、右モータドライバ7bを介してコンタクタ9と電気的に接続されている。左モータドライバ6b及び右モータドライバ7bは、例えばインバータを有しており、コントローラ10と電気的に接続されている。左モータドライバ6b及び右モータドライバ7bでは、左走行モータ6及び右走行モータ7の力行及び回生がコントローラ10によって制御される。左モータドライバ6b及び右モータドライバ7bは、左走行モータ6及び右走行モータ7の回生電流をそれぞれ検出する。なお、左モータドライバ6b及び右モータドライバ7bを用いて回生電流をそれぞれ検出することに加えて、あるいは左モータドライバ6b及び右モータドライバ7bを用いて回生電流をそれぞれ検出することに代えて、左走行モータ6及び右走行モータ7にそれぞれ別途設けられた電流センサによって回生電流が検出されてもよい。
【0020】
コンタクタ9は、バッテリBと電気的に接続されている。また、コンタクタ9は、コントローラ10と電気的に接続されている。コンタクタ9では、非常停止を含むバッテリBの電力供給がコントローラ10によって制御される。
【0021】
バッテリBは、左走行モータ6及び右走行モータ7に対する電力供給源である。バッテリBは、例えば鉛蓄電池で構成され、左走行モータ6及び右走行モータ7の回生制動により生成される回生電力を蓄電可能な蓄電池である。
【0022】
左走行モータ6を回転駆動させると、左走行モータ6の駆動力が左ドライブユニット6aを介してRLタイヤ4に伝わり、RLタイヤ4が回転する。また、左走行モータ6は、発電機としても機能する。具体的には、産業車両1の制動時には、RLタイヤ4の回転によって左走行モータ6が発電機として動作する。つまり、左走行モータ6の回生制動が行われ、左走行モータ6から回生電力が発生すると共に、RLタイヤ4は回生制動力で制動される。
【0023】
右走行モータ7を回転駆動させると、右走行モータ7の駆動力が右ドライブユニット7aを介してRRタイヤ5に伝わり、RRタイヤ5が回転する。また、右走行モータ7は、発電機としても機能する。具体的には、産業車両1の制動時には、RRタイヤ5の回転によって右走行モータ7が発電機として動作する。つまり、右走行モータ7の回生制動が行われ、右走行モータ7から回生電力が発生すると共に、RRタイヤ5は回生制動力で制動される。
【0024】
産業車両1は、制動部8のうちの機械ブレーキとして、車体の前部に配置され、FLタイヤ2及びFRタイヤ3のそれぞれを制動可能に取り付けられたFLディスクブレーキ8a及びFRディスクブレーキ8bを備えている。産業車両1は、車体の後部に配置され、RLタイヤ4及びRRタイヤ5のそれぞれを制動可能に取り付けられたRLドラムブレーキ8c及びRRドラムブレーキ8dを備えている。
【0025】
産業車両1は、マスターシリンダ31と、ESCユニット32とを備えている。マスターシリンダ31は、ブレーキフルードを貯留するリザーバタンクを有する。マスターシリンダ31は、油圧を発生する機能を有していてもよいが、ここではリザーバタンクの機能のみが利用される。リザーバタンクは、ESCユニット32と油圧回路で接続されている。なお、マスターシリンダ31に代えて、油圧を発生する機能を有しないリザーバタンクが設けられていてもよい。
【0026】
ESCユニット32は、例えば、プロセッサ、モータ、ポンプ、及びバルブが一体となった油圧制御ユニットである。プロセッサは、例えばCPU[Central Processing Unit]等の演算器である。プロセッサは、例えば、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、及び通信インターフェイスを統括的に制御する。
【0027】
ESCユニット32は、コントローラ10と電気的に接続されている。ESCユニット32は、例えば電動ポンプを内蔵しており、コントローラ10からの油圧増減指示の信号に応じて油圧を増減することができる。ESCユニット32には油圧センサが内蔵されており、油圧センサによって検出された油圧情報は、コントローラ10に送信される。ESCユニット32は、例えば油圧情報に基づくコントローラ10からの制御信号に応じてコントローラ10によって制御される。
【0028】
ESCユニット32は、FLディスクブレーキ8a及びFRディスクブレーキ8bと前輪制動用の油圧回路33で接続されている。ESCユニット32は、RLドラムブレーキ8c及びRRドラムブレーキ8dと後輪制動用の油圧回路34で接続されている。
【0029】
ESCユニット32がコントローラ10からの油圧増減指示の信号に応じて油圧を増減すると、作動油は、油圧回路33及び油圧回路34のそれぞれに独立して供給される。これにより、FLディスクブレーキ8a及びFRディスクブレーキ8bに作動油が供給され、FLディスクブレーキ8a及びFRディスクブレーキ8bが作動して、FLタイヤ2及びFRタイヤ3が機械制動力で制動される。また、前輪の制動とは独立して、RLドラムブレーキ8c及びRRドラムブレーキ8dに作動油が供給され、RLドラムブレーキ8c及びRRドラムブレーキ8dが作動して、RLタイヤ4及びRRタイヤ5が機械制動力で制動される。
【0030】
産業車両1は、左走行モータ6及び右走行モータ7のそれぞれを制動可能に取り付けられた左電磁ブレーキ6c及び右電磁ブレーキ7cを備えている。左電磁ブレーキ6c及び右電磁ブレーキ7cは、コントローラ10と電気的に接続されており、産業車両1の駐車時のパーキングブレーキとして用いられる。
【0031】
[産業車両1の自動運転制御及び制動制御に係る構成]
図2は、図1の産業車両の制動制御装置の機能構成を示すブロック図である。産業車両の制動制御装置100は、産業車両1の制動制御と自動運転制御とを統括するコントローラ10を有している。コントローラ10は、CPU、ROM、RAM等を有する電子制御ユニットである。コントローラ10では、例えば、ROMに記録されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。コントローラ10は、バッテリBの電圧を検出してもよい。なお、コントローラ10は、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0032】
コントローラ10は、GNSS受信機21、周辺状況センサ22、走行情報センサ23、及び地図データベース24と接続されている。
【0033】
GNSS受信機21は、3個以上のGNSS衛星から信号を受信することにより、産業車両1の地図上の位置(例えば産業車両1の緯度及び経度)を測定する。GNSS受信機21は、測定した産業車両1の位置情報をコントローラ10へ送信する。
【0034】
周辺状況センサ22は、車両の周辺の状況を検出する車載の検出器である。周辺状況センサ22は、カメラ及びライダー[LiDAR:Light Detection And Ranging]を含む。カメラの撮像情報は、例えば、路面パターン認識及びマッチングのために用いられる。ライダーで検出した障害物情報は、例えば、産業車両1の危険回避のために用いられる。周辺状況センサ22は、産業車両1の周辺状況に関する情報をコントローラ10へ送信する。
【0035】
走行情報センサ23は、産業車両1の走行状態を検出する検出器である。走行情報センサ23は、車速センサ、加速度センサ、及びヨーレートセンサ(ジャイロセンサ)を含む。車速センサは、産業車両1の速度を検出する検出器である。車速センサとしては、例えば、左走行モータ6及び右走行モータ7のそれぞれに設けられ、左走行モータ6の回転速度及び右走行モータ7の回転速度を検出するスピードセンサが用いられる。走行情報センサ23は、検出した走行情報をコントローラ10に送信する。
【0036】
地図データベース24は、地図情報を記憶するデータベースである。地図データベース24は、例えば、産業車両1に搭載された記憶装置(例えばHDD[Hard Disk Drive]等)内に形成されている。地図情報には、例えば空港における滑走路、離着陸区域、誘導路、エプロン、管制塔、格納庫、荷捌き場、充電場等を含む所定のエリアにおける情報として、道路の位置情報、道路形状の情報(例えばカーブ、直線部の種別、カーブの曲率等)、交差点及び分岐点の位置情報、及び構造物の位置情報等が含まれる。地図情報には、産業車両1の位置認識に用いる路面パターンの位置情報が含まれている。なお、地図データベース24は、産業車両1と通信可能なサーバに形成されていてもよい。
【0037】
地図情報には、産業車両1が後述の降坂中の自動運転処理をするか否かを判定するために、回生電流の抑制をしないとバッテリBが過充電となり得るような下り坂の位置情報が含まれている。このような下り坂は、例えば、一定以上長い下り坂、及び、一定以上急な下り坂の少なくとも何れかであってもよい。
【0038】
次に、コントローラ10の機能的構成について説明する。コントローラ10は、地図情報取得部11、位置情報取得部12、走行情報取得部(車速情報取得部)13、回生電流取得部14、自動運転制御部15、及び、制動力制御部16を有している。なお、以下に説明するコントローラ10の機能の一部は、車両と通信可能なサーバにおいて実行される態様であってもよい。
【0039】
地図情報取得部11は、地図データベース24に記憶された地図情報を取得する。地図情報取得部11は、例えば、産業車両1の位置認識に用いる路面パターンの位置情報、及び、回生電流の抑制をしないとバッテリBが過充電となり得るような下り坂の位置情報を取得する。
【0040】
位置情報取得部12は、GNSS受信機21の受信結果と周辺状況センサ22の検出結果と地図データベース24の地図情報とに基づいて、及び産業車両1の位置情報を取得する。位置情報取得部12は、地図情報に含まれる路面パターンの位置情報と周辺状況センサ22で検出した産業車両1に対する路面パターンの相対位置情報とに基づいて、産業車両1の自己位置を取得する。なお、位置情報取得部12は、例えばSLAM[Simultaneous Localization And Mapping]手法を用いて、産業車両1の自己位置を推定してもよい。
【0041】
走行情報取得部13は、走行情報センサ23の検出結果に基づいて、産業車両1の走行情報を取得する。ここでの走行情報取得部13は、左走行モータ6及び右走行モータ7のそれぞれに設けられたスピードセンサの検出結果に基づいて、産業車両1の車速情報を取得する。走行情報取得部13は、ジャイロセンサの検出結果に基づいて、産業車両1の向きを取得してもよい。
【0042】
回生電流取得部14は、走行モータの回生電流を取得する。ここでの回生電流取得部14は、左モータドライバ6b及び右モータドライバ7bを用いて、左走行モータ6及び右走行モータ7の回生電流を取得する。なお、回生電流取得部14は、左走行モータ6及び右走行モータ7にそれぞれ電流センサが別途設けられている場合、当該電流センサの検出結果に基づいて回生電流を検出してもよい。
【0043】
自動運転制御部15は、位置情報と走行情報と地図情報とに基づいて、産業車両1の要求減速度の算出を含む自動運転制御を実行する。自動運転制御部15は、GNSS受信機21の測定した産業車両1の位置情報、地図データベース24の地図情報、周辺状況センサ22の検出結果から認識された産業車両1の周辺状況(障害物の位置等)、及び走行情報センサ23の検出結果から認識された走行状態(車速、ヨーレート等)に基づいて、目標ルートに沿った走行計画を生成する。目標ルートは、運行管理システムの搬送司令等に応じて設定される。
【0044】
自動運転制御部15は、走行計画に沿って自動運転を実行する。走行計画には、例えば、目標速度、要求加速度、及び要求減速度が含まれる。走行計画には、目標操舵角が含まれていてもよい。ここでの自動運転制御部15は、左ドライブユニット6a、右ドライブユニット7a、及びESCユニット32に制御信号を送信することで、目標速度、要求加速度、及び要求減速度が実現されるように自動運転制御及び制動制御を実行する。
【0045】
自動運転制御部15は、車速情報に基づいて、降坂中の産業車両1を必要制動力にて制動することで自動運転を実行する。必要制動力とは、降坂中の産業車両1の車速を目標車速とするための制動力であり、回生制動力を含む。必要制動力は、機械制動力を含んでもよいし、機械制動力を含まず回生制動力のみであってもよい。ここでの必要制動力は、一例として、要求減速度を実現するために必要とされる制動力を意味する。本実施形態では、必要制動力は、必要となる制動力の大きさを表す概念的なものであり、必ずしもコントローラ10によって算出されなくてもよい。
【0046】
自動運転制御部15は、一例として、産業車両1の位置に応じて目標速度を設定する。自動運転制御部15は、例えば下り坂を産業車両1が降坂する場合において、目標速度を所定の一定速度(例えば10km/h等)に設定すると共に、産業車両1の車速を目標速度で維持するような要求減速度として0の減速度を算出する。この場合、下り坂で産業車両1に作用する力によって産業車両1が加速して車速が増加すると、増加した車速を目標車速に向けて減少させるように、必要制動力が大きくなる。例えば下り坂が一定勾配であれば、必要制動力は略一定の制動力として算出される。
【0047】
制動力制御部16は、要求減速度に基づいて、制動部8を制御する。制動力制御部16は、例えば、産業車両1の位置情報と地図データベース24の地図情報と回生電流とに基づいて、回生制動力と機械制動力との配分を調整する。制動力制御部16は、取得された回生電流が第1電流値以下となるように、必要制動力のうちの機械制動力の配分を調整する。
【0048】
第1電流値は、降坂中の回生電流の上限値である。第1電流値は、最大回生電流よりも小さい。最大回生電流は、バッテリBを最も高速で充電できる回生電流を意味する。第1電流値は、例えば、産業車両1が自動運転で走行する所定のエリア内で最も長さ及び急さで厳しい下り坂において、バッテリBが満充電状態に達して回生制動が利用不可能となり制動力が不足する事態(いわゆる回生抜け)が発生しないように設定される。第1電流値は、例えば実験又はシミュレーションによって設定することができる。
【0049】
制動力制御部16は、取得された回生電流が第1電流値以上となった場合に、所定の増加量で機械制動力を増加させる。制動力制御部16は、例えば、取得された回生電流が第1電流値以上となった場合に、所定の変化量ΔPでブレーキ油圧を増加させることで、機械制動力を増加させてもよい。
【0050】
制動力制御部16は、取得された回生電流が第1電流値よりも小さい第2電流値以下となった場合に、所定の減少量で機械制動力を減少させる。第2電流値は、機械制動力を発生させている場合における降坂中の回生電流の下限値である。第2電流値は、例えば、回生及び力行の無用な切り替わりを避けるため、0よりも所定電流値だけ大きくされている。所定電流値は、例えば実験又はシミュレーションによって設定することができる。なお、第2電流値は0であってもよい。
【0051】
制動力制御部16は、例えば、取得された回生電流が第2電流値以下となった場合に、所定の変化量ΔPでブレーキ油圧を減少させることで、機械制動力を減少させてもよい。つまり、ここでは、一例として、機械制動力の増加量及び減少量の各絶対値は互いに等しくされている。なお、制動力制御部16は、機械制動力を発生させていない場合には、回生電流が第2電流値以下となっても、機械制動力を発生させない状態を維持する。
【0052】
本実施形態において、回生制動力と機械制動力との配分の調整とは、機械制動力を変化させることに応じて回生制動力が変化することを意味する。具体的には、制動力制御部16は、スピードセンサで検出された左走行モータ6及び右走行モータ7のそれぞれの回転速度の変化率に基づいて、回生制動力を算出する。制動力制御部16は、要求減速度(産業車両1の負の加速度)が生じるような目標回転速度を算出し、検出された回転速度の変化率が当該目標回転速度となるように、回生制動力を算出する(例えば所定秒後に回転速度を所定量落とす等)。したがって、機械制動力が併存する場合、機械制動力に起因して生じる減速度分を差し引いた減速度に対応した目標回転速度が算出される。そのため、機械制動力の配分が大きくなるほど、回生制動力の配分は小さくなり、機械制動力の配分が小さくなるほど、回生制動力の配分は大きくなる。
【0053】
図3は、産業車両の制動制御装置の動作例を示すタイミングチャートである。図3の(a)には、産業車両1が下り坂を自動運転で降坂する様子が示されている。図3の(b)には、産業車両1の車速が目標車速となるように制御されている様子が示されている。図3の(c)には、産業車両1の車速が目標車速となるように制御するための必要制動力の大きさが示されている。図3の(d)には、産業車両1の走行モータにおけるモータ電流が示されており、縦軸上側が力行電流、縦軸下側が回生電流となっている。図3の(e)には、機械制動力の増加又は減少の様子が、ブレーキ油圧の時間変化として示されている。
【0054】
図3に示されるように、産業車両1が位置P1に達すると、下り勾配の増加に伴って走行モータの力行電流が減少し始める。産業車両1が位置P2に達すると、走行モータが力行から回生に切り替わり、車速を目標車速に維持するために、回生制動が開始される。下り勾配は、位置P1から位置P5まで徐々に増加する。
【0055】
その後、産業車両1が位置P3に達すると、走行モータの回生電流が増加した結果、回生電流が第1電流値に達する。すると、ブレーキ油圧が変化量ΔPで増加されて機械制動力が増加させられる。車速を目標車速に維持するための必要制動力が瞬間的には一定であることから、機械制動力が増加すると、同等の回生制動力が減少する。つまり、回生電流が第1電流値から減少する。このとき、回生電流は第2電流値よりは大きい電流値となる。すなわち、この増加量での機械制動力の減速度変化は、第1電流値と第2電流値との差分に相当する回生制動力の減速度変化(回生電流が第1電流値から第2電流値まで減少すると仮定したときの減速度変化)よりも小さい。
【0056】
その後、産業車両1が位置P4に達すると、回生電流が増加した結果、再び回生電流が第1電流値に達する。すると、再びブレーキ油圧が変化量ΔPで増加されて機械制動力が増加させられ、回生電流が第1電流値から減少する。産業車両1が位置P5に達すると下り勾配が一定となり、位置P5から位置P6まで必要制動力が不変となる。そのため、回生電流及びブレーキ油圧は、位置P5での状態のまま推移する。
【0057】
産業車両1が位置P6に達すると、下り勾配の減少が始まる。必要制動力が減少し始めるため、回生制動が緩められ、回生電流が減少する。産業車両1が位置P7に達すると、回生電流が減少した結果、回生電流が第2電流値に達する。すると、ブレーキ油圧が変化量ΔPで減少されて機械制動力が減少させられる。ここでも車速を目標車速に維持するための必要制動力が瞬間的には一定であることから、機械制動力が減少すると、同等の回生制動力が増加する。つまり、回生電流が第2電流値から増加する。このとき、回生電流は第1電流値よりは小さい電流値となる。すなわち、この減少量での機械制動力の減速度変化は、第1電流値と第2電流値との差分に相当する回生制動力の減速度変化(回生電流が第2電流値から第1電流値まで増加すると仮定したときの減速度変化)よりも小さい。
【0058】
その後、産業車両1が位置P8に達すると、回生電流が減少した結果、再び回生電流が第2電流値に達する。すると、再びブレーキ油圧が変化量ΔPで減少されて機械制動力が減少させられ、機械制動力が0となると共に、回生電流が第2電流値から増加する。産業車両1が位置P9に達すると回生から力行に切り替わり、位置P10で下り勾配がなくなり平坦となるまで、力行電流が増加する。
【0059】
以上のように動作することで、最大回生電流での回生制動を行う場合と比べて回生電流が小さくなるため、回生によるバッテリの充電速度が遅くなり、バッテリBが満充電状態に近づきにくくなる。
【0060】
[コントローラ10による演算処理の一例]
次に、コントローラ10による演算処理の一例について説明する。図4は、降坂中の自動運転処理の一例を示すフローチャートである。図4に示される処理は、例えば回生電流の抑制をしないとバッテリBが過充電となり得るような長い及び/又は急な下り坂を、自動運転中の産業車両1が走行する場合に実行される。コントローラ10は、位置情報取得部12により、GNSS受信機21の受信結果(産業車両1の位置情報)と周辺状況センサ22の検出結果と地図データベース24の地図情報とに基づいて、このような下り坂を自動運転中の産業車両1が走行しているか否かを判定してもよい。
【0061】
図4に示されるように、コントローラ10は、S01において、走行情報取得部13により、産業車両1の車速情報及び目標車速の取得を行う。走行情報取得部13は、例えば、走行情報センサ23の検出結果に基づいて、産業車両1の車速情報を取得する。走行情報取得部13は、例えば、位置情報取得部12で取得結果と地図データベース24の地図情報とに基づいて、産業車両1の位置に応じた目標車速を取得する。
【0062】
コントローラ10は、S02において、回生電流取得部14により、回生電流の取得を行う。回生電流取得部14は、例えば、左モータドライバ6b及び右モータドライバ7bを用いて、左走行モータ6及び右走行モータ7の回生電流をそれぞれ検出する。
【0063】
コントローラ10は、S03において、自動運転制御部15により、産業車両1の要求減速度の算出を行う。自動運転制御部15は、例えば、走行情報取得部13で取得した車速と目標車速との差分に基づいて、産業車両1の要求減速度を算出する。
【0064】
コントローラ10は、S04において、制動力制御部16により、回生電流が第1電流値以下となるように必要制動力のうちの機械制動力の配分の調整を行う。コントローラ10は、S04の処理として、具体的には図5に例示される配分調整処理を行う。
【0065】
図5は、制動力制御部16の配分調整処理の一例を示すフローチャートである。図5に示されるように、コントローラ10は、S11において、制動力制御部16により、回生電流が第1電流値以上となったか否かの判定を行う。制動力制御部16は、例えば、回生電流取得部14の取得結果と予め記憶された第1電流値とに基づいて、回生電流が第1電流値以上となったか否かを判定する。
【0066】
コントローラ10は、回生電流が第1電流値以上となったと制動力制御部16により判定された場合(S11=YES)、S12において、制動力制御部16により、所定の増加量で機械制動力の増加を行う。制動力制御部16は、例えば、制動部8の機械ブレーキに作用するブレーキ油圧を変化量ΔPだけ増加させることで、所定の増加量で機械制動力を増加させる。その後、コントローラ10は、図5の処理を終了し、図4のS05に移行する。
【0067】
一方、コントローラ10は、回生電流が第1電流値以上となっていないと制動力制御部16により判定された場合(S11=NO)、S13において、制動力制御部16により、回生電流が第2電流値以下となったか否かの判定を行う。制動力制御部16は、例えば、回生電流取得部14の取得結果と予め記憶された第2電流値とに基づいて、回生電流が第2電流値以下となったか否かを判定する。
【0068】
コントローラ10は、回生電流が第2電流値以下となったと制動力制御部16により判定された場合(S13=YES)、S14において、制動力制御部16により、所定の減少量で機械制動力の減少を行う。制動力制御部16は、例えば、制動部8の機械ブレーキに作用するブレーキ油圧を変化量ΔPだけ減少させることで、所定の減少量で機械制動力を減少させる。その後、コントローラ10は、図5の処理を終了し、図4のS05に移行する。
【0069】
なお、コントローラ10は、S14において、回生制動を開始してから回生電流が未だ第1電流値以上となっていないため制動部8の機械ブレーキに作用するブレーキ油圧が0である状況、あるいは、第2電流値を超えた回生電流が減少させられた結果として制動部8の機械ブレーキに作用するブレーキ油圧が0となった状況にあっては、機械制動力が無い状態を維持すればよい。
【0070】
他方、コントローラ10は、回生電流が第2電流値以下となっていないと制動力制御部16により判定された場合(S13=NO)、ブレーキ油圧を増加も減少もさせず機械制動力の状態を維持する。その後、コントローラ10は、図5の処理を終了し、図4のS05に移行する。
【0071】
図4に戻り、コントローラ10は、S05において、自動運転制御部15により、産業車両1の加速度が要求減速度となるように制動を実行する。自動運転制御部15は、例えば、下り坂で産業車両1に作用する斜面に沿う重力に抗して、制動力制御部16で調整した配分の機械制動力で制動部8の機械ブレーキを作動させると共に、この機械ブレーキに加えて要求減速度から機械制動力の配分を除いた減速度で制動部8の走行用モータの回生制動を行う。これにより、自動運転制御部15は、走行情報取得部13で取得した車速が目標車速となるように、産業車両1の加速度が要求減速度となるように制動を実行する。その後、コントローラ10は、図4の処理を終了し、所定演算周期後に図4の処理を繰り返す。
【0072】
[作用及び効果]
以上、本実施形態に係る産業車両の制動制御装置100では、自動運転制御部15によって、車速情報に基づいて、降坂中の産業車両1の車速が目標車速となるように自動運転が実行される。降坂中の産業車両1は、回生制動力を含む必要制動力で制動される。制動力制御部16によって、取得された回生電流が、最大回生電流よりも小さい第1電流値以下となるように、必要制動力のうちの機械制動力の配分が調整される。これにより、最大回生電流での回生制動を行う場合と比べて回生電流が小さくなるため、回生によるバッテリの充電速度が遅くなり、バッテリBが満充電状態に近づきにくくなる。したがって、この産業車両の制動制御装置100によれば、回生制動を用いる自動運転で降坂中の産業車両1において回生制動の中断が生じることを、ブレーキペダル操作に基づくことなく抑制することができる。
【0073】
産業車両の制動制御装置100では、制動力制御部16は、取得された回生電流が第1電流値以上となった場合に所定の増加量で機械制動力を増加させ、取得された回生電流が第1電流値よりも小さい第2電流値以下となった場合に所定の減少量で機械制動力を減少させる。これにより、回生電流が第1電流値以上となった場合に機械制動力の増加量と同等の回生制動力に相当する変化量で回生電流を減少させることができる。また、回生電流が第2電流値以下となった場合に機械制動力の減少量と同等の回生制動力に相当する変化量で回生電流を増加させることができる。
【0074】
産業車両の制動制御装置100では、増加量及び減少量での機械制動力の減速度変化は、第1電流値と第2電流値との差分に相当する回生制動力の減速度変化よりも小さい。これにより、このような増加量及び減少量で機械制動力を変化させることで、機械制動力の増減に伴って回生制動力が変化しても、第1電流値と第2電流値との間の範囲内で回生電流を変化させることができる。
【0075】
産業車両の制動制御装置100では、増加量及び減少量の各絶対値は互いに等しい。これにより、例えば1つのパラメータ(例えばブレーキ油圧の変化量ΔP)を異符号で加算して増加量及び減少量として扱うことができ、処理の簡素化が可能となる。
【0076】
なお、産業車両1では、同等の下り勾配の下り坂であっても、牽引又は荷役している荷の重量に応じて必要制動力の取り得る値が多岐に亘る。また、牽引又は荷役している荷の重量が同等であっても、下り坂の勾配の大きさに応じて必要制動力の取り得る値が多岐に亘る。この点、産業車両の制動制御装置100によれば、回生電流が第1電流値を超えることが抑制されるため、走行モータ及びバッテリBの負担を抑制することができる。また、回生電流に応じて機械制動力が自動的に増減されるため、例えば制動部8の機械ブレーキに作用するブレーキ油圧の目標値又は回生制動力の目標値などの設定を走行ごとに見直すといった手間が省かれる。また、SOCではなく回生電流を一定以下に抑えるため、充電速度が低下する。よって、バッテリBが満充電状態に達するまでの時間を延ばすこととなり、回生制動が利用不可能となり制動力が不足する事態(いわゆる回生抜け)が発生するまでの時間も延ばすことができる。その結果、産業車両1を走行させる空港などの所定のエリア内において、全ての下り坂について回生抜けの回避を図るような自動運転の走行計画の策定が容易となる。
【0077】
[変形例]
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限られるものではない。
【0078】
上記実施形態では、図4に示される処理は、回生電流の抑制をしないとバッテリBが過充電となり得るような長い及び/又は急な下り坂を、自動運転中の産業車両1が走行する場合に実行されたが、これに限定されない。例えば、図4に示される処理は、産業車両1の走行する道路の勾配が一定勾配閾値以上の場合に実行されるように構成してもよい。この場合、勾配閾値は、予め地図データベース24の地図情報に含めることができる。勾配閾値は、産業車両1に設けられた勾配センサの検出結果と比較されてもよい。その他、図4に示される処理は、全ての下り坂を自動運転中の産業車両1が降坂中に実行されるように構成してもよい。
【0079】
上記実施形態では、増加量及び減少量の各絶対値は互いに等しかったが、これに限定されない。増加量及び減少量は、互いに異なる大きさであってもよい。
【0080】
上記実施形態では、増加量及び減少量での機械制動力の減速度変化は、第1電流値と第2電流値との差分に相当する回生制動力の減速度変化よりも小さかったが、これに限定されない。
【0081】
上記実施形態では、制動力制御部16は、取得された回生電流が第1電流値以上となった場合に所定の増加量で機械制動力を増加させ、取得された回生電流が第1電流値よりも小さい第2電流値以下となった場合に所定の減少量で機械制動力を減少させたが、これに限定されない。例えば、取得された回生電流が、第1電流値よりも小さい可変の電流閾値以上となった場合に機械制動力を増加させてもよい。要は、取得された回生電流が、最大回生電流よりも小さい第1電流値以下となるように、必要制動力のうちの機械制動力の配分を調整されればよい。
【0082】
上記実施形態では、産業車両1にブレーキペダル及びマスターシリンダが設けられていなかったが、例えば自動運転では用いられない保守用などとしてのブレーキペダル及びマスターシリンダが設けられていてもよい。
【0083】
上記実施形態では、図1のような電動トーイングトラクタを産業車両1として例示したが、これに限定されず、産業車両1は、例えば電動フォークリフトであってもよいし、ハイブリッド式の産業車両であってもよい。要は、回生制動によるバッテリBの充電が可能であり、回生制動力を生じる走行モータと機械制動力を生じる機械ブレーキとを制動部として備え、要求減速度に基づいて回生制動力と機械制動力との配分を調整可能な産業車両であればよい。
【0084】
また、機械制動力を生じる機械ブレーキのシステムとして、ESCユニット32を用いる構成を例示したが、その他の油圧制御デバイスを用いてもよい。機械ブレーキとしては、油圧を用いたディスクブレーキ及びドラムブレーキに限定されず、左電磁ブレーキ6c及び右電磁ブレーキ7cの制動力を機械制動力として扱ってもよい。
【0085】
産業車両1の自動運転のための構成は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、周辺状況センサ22にてライダーを用いていたが、別のセンサで代用してもよい。
【0086】
以上に記載された実施形態及び種々の変形例の少なくとも一部が任意に組み合わせられてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1…産業車両、6…左走行モータ(走行モータ)、7…右走行モータ(走行モータ)、8…制動部、8a…FLディスクブレーキ(機械ブレーキ)、8b…FRディスクブレーキ(機械ブレーキ)、8c…RLドラムブレーキ(機械ブレーキ)、8d…RRドラムブレーキ(機械ブレーキ)、10…コントローラ、11…地図情報取得部、12…位置情報取得部、13…走行情報取得部、14…回生電流取得部、15…自動運転制御部、16…制動力制御部、100…産業車両の制動制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5