(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】電動車両の電源システム、電動車両の制動システムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6572 20140101AFI20240528BHJP
B60L 1/00 20060101ALI20240528BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20240528BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240528BHJP
B60L 58/18 20190101ALI20240528BHJP
B60L 58/26 20190101ALI20240528BHJP
B60L 58/27 20190101ALI20240528BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240528BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240528BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20240528BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240528BHJP
H01M 10/633 20140101ALI20240528BHJP
H01M 10/667 20140101ALI20240528BHJP
H01M 50/20 20210101ALI20240528BHJP
【FI】
H01M10/6572
B60L1/00 L
B60L7/24 D
B60L50/60
B60L58/18
B60L58/26
B60L58/27
H01M10/48 P
H01M10/613
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/633
H01M10/667
H01M50/20
(21)【出願番号】P 2021031598
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 嵩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 敏貴
(72)【発明者】
【氏名】對尾 良則
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 隆
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-225528(JP,A)
【文献】特開平08-178498(JP,A)
【文献】特開平04-039577(JP,A)
【文献】特開2015-130289(JP,A)
【文献】特開2004-362949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/6572
B60L 1/00
B60L 7/24
B60L 50/60
B60L 58/18
B60L 58/26
B60L 58/27
H01M 10/48
H01M 10/613
H01M 10/615
H01M 10/625
H01M 10/633
H01M 10/667
H01M 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両の電源システムであって
複数の電池モジュールと、
前記電動車両の補機に供給するための第1電圧の電力を出力する低電圧出力端子と、
前記電動車両の電動機に供給するための、前記第1電圧よりも高い第2電圧の電力を出力する高電圧出力端子と、
前記複数の電池モジュールの温度を調整する温度調整機構とを備え、
前記温度調整機構は、
複数のペルチェモジュールと、
前記複数のペルチェモジュール同士の接続状態、および、前記複数のペルチェモジュールと前記低電圧出力端子および前記高電圧出力端子との接続状態を切り替える接続切替機構を備え、
前記接続切替機構は、
前記複数のペルチェモジュールの中の1個または並列接続した2個以上を前記低電圧出力端子と接続する第1状態と、前記複数のペルチェモジュールを直列接続し、直列接続した前記複数のペルチェモジュールを前記高電圧出力端子と接続する第2状態とを設定可能である
ことを特徴とする電動車両の電源システム。
【請求項2】
請求項1記載の電動車両の電源システムにおいて、
前記接続切替機構は、
前記第1状態において、前記第1電圧の電力の供給に用いる電池モジュールに応じて、前記低電圧出力端子と接続するペルチェモジュールを切り替える
ことを特徴とする電動車両の電源システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動車両の電源システムを用い、
ブレーキ操作によって受けた要求制動力を、摩擦ブレーキと、前記電動機による回生制動とによって実現する
電動車両の制動システム。
【請求項4】
請求項3記載の電動車両の制動システムの制御方法であって、
ブレーキ操作によって受けた要求制動力を基にして、回生制動による電流値を演算するステップ(a)と、
前記複数の電池モジュールのSOC(State Of Charge)を基にして、前記複数の電池モジュールへの充電電流の上限値を演算するステップ(b)と、
ステップ(a)で演算した回生制動による電流値がステップ(b)で演算した充電電流の上限値を超えるとき、前記接続切替機構が前記第2状態に設定し、前記複数のペルチェモジュールに回生制動電流を通電することによって、前記複数の電池モジュールの加温または冷却を行うステップ(c)とを備える
ことを特徴とする電動車両の制動システムの制御方法。
【請求項5】
請求項4記載の電動車両の制動システムの制御方法において、
ステップ(c)において、加温後に前記複数の電池モジュールのいずれかが所定の下限温度を下回るとき、または、冷却後に前記複数の電池モジュールのいずれかが所定の上限温度を上回るとき、前記接続切替機構が前記第2状態を解除し、前記複数のペルチェモジュールへの回生制動電流の通電を停止する
ことを特徴とする電動車両の制動システムの制御方法。
【請求項6】
請求項5記載の電動車両の制動システムの制御方法において、
ステップ(c)において、前記複数のペルチェモジュールへの回生制動電流の通電を停止したとき、当該停止により損なわれる回生制動力を、摩擦ブレーキによって補填する
ことを特徴とする電動車両の制動システムの制御方法。
【請求項7】
請求項5記載の電動車両の制動システムの制御方法において、
ステップ(c)において、前記複数のペルチェモジュールへの回生制動電流の通電を停止した後、前記接続切替機構が前記第1状態に設定し、前記複数の電池モジュールの温度が所定の温度範囲になるように、前記低電圧出力端子と接続するペルチェモジュールを切り替えながら、前記複数のペルチェモジュールを通電制御する
ことを特徴とする電動車両の制動システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、複数の電池モジュールを備える、電動車両の電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、複数のセルスタックを含むバッテリモジュールを備えるバッテリパックの構成が開示されている。このバッテリパックは、冷却部が、複数のセルスタックを個別的に冷却するように構成されている。冷却部は、各セルスタックに提供されたバイパス経路を通して流れる充電電流によって少なくとも部分的に活性化する。活性化した冷却部は、所定範囲の領域を冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、複数の電池モジュールを備える電源システムにおいて、電池モジュール毎にペルチェ素子を設けて、電池モジュールが出力する電力を用いてペルチェ素子を動作させる構成が知られている。このような構成では、各ペルチェ素子を個別に制御することによって、各電池モジュールの温度を細かく制御することができる。
【0005】
一方、モータにより減速回生を行う場合において、電池モジュールのSOCが高いときは、全ての回生電力を電池モジュールに受け入れることが困難になる。このため、上のようなペルチェ素子を設けた構成では、各ペルチェ素子を個別に制御できるとともに、回生電力によってペルチェ素子を動作させることが可能となる構成が、求められる。
【0006】
ここに開示された技術は、複数の電池モジュールを備える電源システムにおいて、温度調整機構が備えるペルチェモジュールを、個別に制御できるとともに、回生電力によって動作させることを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示された技術では、電動車両の電源システムは、複数の電池モジュールと、前記電動車両の補機に供給するための第1電圧の電力を出力する低電圧出力端子と、前記電動車両の電動機に供給するための、前記第1電圧よりも高い第2電圧の電力を出力する高電圧出力端子と、前記複数の電池モジュールの温度を調整する温度調整機構とを備え、前記温度調整機構は、複数のペルチェモジュールと、前記複数のペルチェモジュール同士の接続状態、および、前記複数のペルチェモジュールと前記低電圧出力端子および前記高電圧出力端子との接続状態を切り替える接続切替機構を備え、前記接続切替機構は、前記複数のペルチェモジュールの中の1個または並列接続した2個以上を、前記低電圧出力端子と接続する第1状態と、前記複数のペルチェモジュールを直列接続し、直列接続した前記複数のペルチェモジュールを前記高電圧出力端子と接続する第2状態とを設定可能である。
【0008】
この構成によると、電動車両の電源システムは、複数の電池モジュールの温度を調整する温度調整機構を備える。温度調整機構は、複数のペルチェモジュールを備えており、接続切替機構によって、複数のペルチェモジュール同士の接続状態、および、複数のペルチェモジュールと低電圧出力端子および高電圧出力端子との接続状態を切り替える。そして、接続切替機構は、1個、または、並列接続した2個以上のペルチェモジュールを低電圧出力端子と接続する第1状態と、直列接続した複数のペルチェモジュールを高電圧出力端子と接続する第2状態とを設定可能である。これにより、第1状態において、ペルチェモジュールを個別に制御して各電池モジュールの温度を細かく制御することができ、かつ、第2状態において、電動機からの回生電力によって複数のペルチェモジュールを動作させることができる。したがって、温度調整機構が備えるペルチェモジュールを、個別に制御できるとともに、回生電力によって動作させることが可能になる。
【0009】
また、前記電源システムにおいて、前記接続切替機構は、前記第1状態において、前記第1電圧の電力の供給に用いる電池モジュールに応じて、前記低電圧出力端子と接続するペルチェモジュールを切り替える、としてもよい。
【0010】
これにより、低電圧電力の供給に用いる電池モジュールに応じて、ペルチェモジュールによる冷却および加温を制御することが可能になる。
【0011】
また、前記電源システムを用い、ブレーキ操作によって受けた要求制動力を、摩擦ブレーキと、電動機による回生制動とによって実現する、電動車両の制動システムを構成してもよい。
【0012】
そして、前記電動車両の制動システムの制御方法は、ブレーキ操作によって受けた要求制動力を基にして、回生制動による電流値を演算するステップ(a)と、前記複数の電池モジュールのSOC(State Of Charge)を基にして、前記複数の電池モジュールへの充電電流の上限値を演算するステップ(b)と、ステップ(a)で演算した回生制動による電流値がステップ(b)で演算した充電電流の上限値を超えるとき、前記接続切替機構が前記第2状態に設定し、前記複数のペルチェモジュールに回生制動電流を通電することによって、前記複数の電池モジュールの加温または冷却を行うステップ(c)とを備える。
【0013】
これにより、電池モジュールのSOCが高く、回生電力を電池モジュールに受け入れることが困難であるとき、回生電力を用いてペルチェモジュールを動作させて、回生制動を可能にし、かつ、電池モジュールの加温または冷却を行うことができる。
【0014】
また、ステップ(c)において、加温後に前記複数の電池モジュールのいずれかが所定の下限温度を下回るとき、または、冷却後に前記複数の電池モジュールのいずれかが所定の上限温度を上回るとき、前記接続切替機構が前記第2状態を解除し、前記複数のペルチェモジュールへの回生制動電流の通電を停止する、としてもよい。
【0015】
これにより、回生電力を用いたペルチェモジュールの動作によって、電池モジュールの温度が所定範囲内に収まらないときは、回生制動が停止されるので、電池モジュールの温度劣化およびハイレート劣化を抑制することができる。
【0016】
また、ステップ(c)において、前記複数のペルチェモジュールへの回生制動電流の通電を停止したとき、当該停止により損なわれる回生制動力を、摩擦ブレーキによって補填する、としてもよい。
【0017】
これにより、回生制動が停止されたときでも、要求制動力を確保することができる。
【0018】
また、ステップ(c)において、前記複数のペルチェモジュールへの回生制動電流の通電を停止した後、前記接続切替機構が前記第1状態に設定し、前記複数の電池モジュールの温度が所定の温度範囲になるように、前記低電圧出力端子と接続するペルチェモジュールを切り替えながら、前記複数のペルチェモジュールを通電制御する、としてもよい。
【0019】
これにより、電池モジュールの温度を所定の温度範囲に収めることによって、再び、回生電力を用いてペルチェモジュールを動作させることが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、複数の電池モジュールを備える電源システムにおいて、温度調整機構が備えるペルチェモジュールを、個別に制御できるとともに、回生電力によって動作させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】電池モジュールを備える電源システムの構成例
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図1は電動車両のシステム構成の例である。
図1に示す電動車両1は、駆動源として、エンジン(内燃機関)2と、モータ(電動機)3とを備える。エンジン2は、当該エンジン2を始動させるためのスタータ4を有する。なお、本開示において、電動車両のシステム構成は
図1に示したものに限られず、例えば、電動車両はエンジンを備えない電気自動車であってもよい。
【0024】
電動車両1は、複数の電池モジュールを備える電源システム20を備える。電源システム20は、電動車両1の主として補機5に供給するための、例えば12Vの電力を出力する低電圧出力端子21と、電動車両1の主としてモータ3に供給するための、例えば48Vの電力を出力する高電圧出力端子22とを備える。ただし、ここでの電圧値は一例であり、本開示において、電源システム20の出力電圧は、12Vや48Vに限られるものではない。低電圧出力端子21から出力される電力は、補機5の他にも例えば、エンジン2のスタータ4に供給される。
【0025】
図2は実施形態に係る電動車両の電源システム20の構成例である。
図2の電源システム20は、4個の電池モジュール10(図では1~4の番号を付しており、以下、適宜、モジュール1~4と称する)を備える。各電池モジュール10は、電圧12Vの電力を出力するものとする。ただし、本開示において、電源システムが備える電池モジュール10の個数は4個に限られるものではなく、また、電池モジュール10の出力電圧は12Vに限られるものではない。
【0026】
図2の電源システム20は、低電圧出力端子21と、高電圧出力端子22と、接地端子23とを備える。また、各電池モジュール10には、その温度を測定する温度センサ(図示せず)が設けられている。
【0027】
図2の電源システム20における電源ラインには、合計16個のリレー30(図では1~16の丸数字を付しており、以下、適宜、リレー1~16と称する)が設けられている。各リレー30は、制御部15から送られる制御信号によって、オン(閉状態)とオフ(開状態)とが切り換え可能に構成されている。各リレーは、例えば、MOSFET等によって構成される。リレー30がオンのとき、その両端の電源ラインは接続状態になり、リレー30がオフのとき、その両端の電源ラインは非接続状態になる。電源ラインとリレー30によって、複数の電池モジュール10と、低電圧出力端子21および高電圧出力端子22との接続状態を切り替える、切替機構が構成されている。なお、本開示における電源システムの構成は、
図2に示すものに限られるものではない。
【0028】
図2の電源システム20では、各電池モジュール10の正極と低電圧出力端子21とを接続する電源ラインに、リレー1,3,5,7(複数の第1リレー)がそれぞれ設けられている。各電池モジュール10の負極と接地端子23とを接続する電源ラインに、リレー2,4,6,8(複数の第2リレー)がそれぞれ設けられている。複数の電池モジュール10を直列かつ環状に接続する環状電源ラインにおいて、電池モジュール10同士の間に、リレー9,10,11,12(複数の第3リレー)がそれぞれ設けられている。そして、各電池モジュール10の正極と高電圧出力端子22とを接続する電源ラインに、リレー13,14,15,16(複数の第4リレー)がそれぞれ設けられている。なお、リレー12の一端とモジュール1の負極とは接続されている(
図1では破線および黒太矢印で示している)。
【0029】
図2の電源システム20は、4個の電池モジュール10を直列接続して高電圧出力端子22から48V電力を出力することができ、かつ、この状態で、いずれかの電池モジュール10から低電圧出力端子21を介して12V電力を出力することができる。すなわち、
図2の電源システム20を利用することによって、48V出力と12V出力を同時に行うことができる。加えて、12V出力を行う電池モジュール10を適宜切り換えることができる。これにより、例えば、各電池モジュール10のSOC(State Of Charge)のバランスを容易にとることができる。
【0030】
本実施形態では、
図3に示すように、電源システム20において、複数の電池モジュール10の温度を調整するために、ペルチェモジュール40が設けられている。ペルチェモジュール40は、ペルチェ素子を有しており、供給される電流が流れる向きに応じて、放熱または吸熱を行う。ペルチェモジュール40に供給する電流を制御することによって、電池モジュール10の加温および冷却を行うことができる。
【0031】
図4は本実施形態における温度調整機構の回路構成例である。
図4の温度調整機構は、4個のペルチェモジュール40(図では1~4の丸数字を付しており、以下、適宜、ペルチェモジュール1~4と称する)を備えている。各ペルチェモジュール40は、例えば、4個の電池モジュール10に対応してそれぞれ、配置されている。ただし、本開示において、温度調整機構が備えるペルチェモジュール40の個数は4個に限られるものではなく、また、ペルチェモジュール40と電池モジュール10との配置関係はここで示したものに限られるものではない。
【0032】
各ペルチェモジュール40は、正極および負極を有しており、各ペルチェモジュール40を直列接続、または、並列接続可能なように、配線構造50が構成されている。配線構造50には、9個のスイッチング(SW)素子51(図では1~9の数字を付しており、以下、適宜、SW素子1~9と称する)が配置されている。各スイッチング素子51は、制御部45から送られる制御信号によって、オン(閉状態)とオフ(開状態)とが切り換え可能に構成されている。スイッチング素子51は、例えば、MOSFET等によって構成される。
【0033】
例えば、SW素子1~6をオフにし、SW素子7~9をオンにすることによって、4個のペルチェモジュール1~4を直列接続することができる。また、SW素子1~6をオンにし、SW素子7~9をオフにすることによって、4個のペルチェモジュール1~4を並列接続することができる。また、1個のペルチェモジュール40のみに電流を流すように接続することも可能である。例えば、SW素子4をオンにし、他のSW素子をオフすることによって、ペルチェモジュール1のみに電流を流すことができる。同様にして、並列接続した2個または3個のペルチェモジュール51に電流を流すことができる。
【0034】
また、
図4の温度調整機構は、極切替構造60を備える。極切替構造60は、ペルチェモジュール40に流れる電流の向きを切り替えるものであり、4個のスイッチング素子61(図では、A1,A2,B1,B2の文字を付しており、以下、適宜、SW素子A1,A2,B1,B2と称する)を備える。各スイッチング素子61は、制御部45から送られる制御信号によって、オン(閉状態)とオフ(開状態)とが切り換え可能に構成されている。スイッチング素子61は、例えば、MOSFET等によって構成される。
【0035】
例えば、SW素子A1,B1をオンにし、SW素子A2,B2をオフにすることによって、端子Aからペルチェモジュール40の正極に向かう向きに電流を流すことができる。一方、SW素子A1,B1をオフにし、SW素子A2,B2をオンにすることによって、端子Aからペルチェモジュール40の負極に向かう向きに電流を流すことができる。
【0036】
さらに、
図2に戻り、本実施形態における温度調整機構は、電源系切替構造70を備えている。電源系切替構造70は、ペルチェモジュール40に与える電源を切り替えるものであり、ここでは、12V出力か48V出力かを切り替える。電源系切替構造70は、2個のスイッチング素子71,72を備える。スイッチング素子71は、低電圧出力端子21と、極切替構造60の端子Aとの間に設けられている。スイッチング素子72は、高電圧出力端子22と、極切替構造60の端子Aとの間に設けられている。スイッチング素子71,72は、制御部45から送られる制御信号によって、オン(閉状態)とオフ(開状態)とが切り換え可能に構成されている。スイッチング素子71,72は、例えば、MOSFET等によって構成される。また、極切替構造60の端子Bは、接地端子23と接続されている。
【0037】
本実施形態では、配線構造50、極切替機構60および電源系切替構造70と、制御部45とによって、複数のペルチェモジュール40同士の接続状態、および、複数のペルチェモジュール40と低電圧出力端子21および高電圧出力端子22との接続状態を切り替える、接続切替機構が構成されている。
【0038】
例えば、配線構造50においてSW素子4のみがオンになり、電源系切替構造70においてスイッチング素子71がオン、スイッチング素子72がオフになることによって、12V電力が、ペルチェモジュール1のみに供給される(
図4の線P1)。また、配線構造50においてSW素子7-9のみがオンになり、電源系切替構造70においてスイッチング素子71がオフ、スイッチング素子72がオンになることによって、48V電力が、直列接続されたペルチェモジュール1-4に供給される(
図4の線P2)。そしていずれの場合でも、極切替機構60によって、ペルチェモジュール40に流す電流の向きを切り替えることができる。すなわち、ペルチェモジュール40によって加温を行うか冷却を行うかを制御することができる。
【0039】
本実施形態に係る電動車両1の電源システム20は、複数の電池モジュール10の温度を調整する温度調整機構を備える。温度調整機構は、複数のペルチェモジュール40を備えており、接続切替機構によって、複数のペルチェモジュール40同士の接続状態、および、複数のペルチェモジュール40と低電圧出力端子21および高電圧出力端子22との接続状態を切り替える。そして、接続切替機構は、1個、または、並列接続した2個以上のペルチェモジュール40を低電圧出力端子21と接続する第1状態と、直列接続した複数のペルチェモジュール40を高電圧出力端子22と接続する第2状態とを設定可能である。これにより、第1状態において、ペルチェモジュール40を個別に制御して各電池モジュール10の温度を細かく制御することができ、かつ、第2状態において、モータ3からの回生電力によって複数のペルチェモジュール40を動作させることができる。したがって、温度調整機構が備えるペルチェモジュール40を、個別に制御できるとともに、回生電力によって動作させることが可能になる。
【0040】
そして、本実施形態では、電動車両の制動システムが、上述した電源システムを用いて、ブレーキ操作によって受けた要求制動力を、摩擦ブレーキと、電動機による回生制動とによって実現する。
【0041】
図5は電動車両の制動システムの主要部の構成例である。コントローラ80は、ブレーキペダル踏み込み量センサ91からデータを受けて、要求制動量を演算する要求制動量演算部81を備える。要求制動量演算部81は、電池電圧センサ16から電池モジュール10の電圧値を受け、SOCセンサ17から電池モジュール10のSOCデータを受け、電池モジュール温度センサ18から電池モジュール10の温度データを受ける。また、図示していないが、各種センサから車速データ等も受ける。液圧ブレーキ演算部82は、要求制動量を基にして摩擦ブレーキ力を設定し、液圧ブレーキアクチュエータ92を制御する。回生制動量演算部83は、要求制動量を基にして回生制動量を設定し、インバータ6を制御する。ペルチェ素子制御部45は、
図4に示す制御部45に相当しており、ペルチェ素子接続回路となる配線構造50、極切替機構60、および、電源系切替構造70を制御する。
【0042】
図6および
図7は
図5の制動システムの動作例を示すフローチャートである。
【0043】
図6に示すように、コントローラ80は、ブレーキ踏み込み量Brk、車速V,電池モジュール10のSOC、電池モジュール10の温度Ta~Tdを読み込む(S11)。そして、ブレーキ踏み込み量Brkが生じたとき(S12でYes)、ブレーキ踏み込み量Brkから要求制動量を演算し(S13)、要求制動量を基にして、回生制動力を設定し、摩擦ブレーキ力を設定する(S14)。そして、回生制動による電流値Irを演算する(S15)。また、電池モジュール10のSOCを基にして、電池モジュール10への充電電流の上限値Imaxを演算する(S16)。
【0044】
コントローラ80は、ペルチェモジュール40を直列接続して通電することが禁止されているか否かを判定する(S21)。禁止されているときは、回生制動による電流値Irが電池モジュール10への充電電流の上限値Imaxを超えているか否かを判定する(S22)。超えていないときは、回生制動による電流を全て電池モジュール10に充電することが可能である。一方、超えているときは、IrがImaxと等しくなるように回生制動力を減量補正し(S23)、回生制動力の減量分について、摩擦ブレーキ力を増量補正する(S24)。これにより、回生制動が困難なときであっても、要求制動量を確保することができる。その後、
図7のフローのS41に続く。S41以降の動作については後述する。
【0045】
コントローラ80は、ペルチェモジュール40を直列接続して通電することが禁止されていないときは(S21でNO)、回生制動による電流値Irが電池モジュール10への充電電流の上限値Imaxを超えているか否かを判定する(S30)。超えていないときは、回生制動による電流を全て電池モジュール10に充電することが可能である。
【0046】
一方、超えているときは、配線構造50の制御によって、ペルチェモジュール40を直列接続する(S31)。そして、電流値Irのうち充電電流の上限値Imaxを超えた分の電流値をペルチェモジュール40に流す。このとき、極切替機構60の制御によって、ペルチェモジュール40が放熱を行い、電池モジュール10の加温を行うように設定する(S32)。電池モジュール10の温度Ta~Tdが所定の上限値Tmaxを超えていないときは(S33でNO)、スタートにもどる。電池モジュール10の温度Ta~Tdのいずれかが所定の上限値Tmaxを超え(S33でYES)、かつ、電池モジュール10の温度Ta~Tdが所定の下限値Tminを下回っていないときは(S34でNO)、極切替機構60の制御によって、ペルチェモジュール40が吸熱を行い、電池モジュール10の冷却を行うように設定する(S35)。その後、
図7のS36に進む。電池モジュール10の温度Ta~Tdが所定の下限値Tminを下回っていないときは(S36でNO)、スタートにもどる。また、電池モジュール10の温度Ta~Tdのいずれかが所定の下限値Tminを下回り(S36でYES)、かつ、電池モジュール10の温度Ta~Tdが所定の上限値Tmaxを超えていないときは(S37でNO)、スタートにもどる。
【0047】
一方、加温後に、電池モジュール10の温度Ta~Tdのいずれか所定の下限値Tminを下回っているとき(S34でYES)、または、冷却後に、電池モジュール10の温度Ta~Tdのいずれかが所定の上限値Tmaxを上回っているとき(S37でYES)は、S41に進む。
【0048】
S41以降の動作では、各電池モジュール10の温度Ta~Tdが所定の適用温度の範囲内になるように、温度調整機構を動作させる。まず、ペルチェモジュール40の直列接続を解除し、ペルチェモジュール40の直列接続による通電を禁止する(S41)。そして、配線構造50の制御によってペルチェモジュール40を並列接続し、電力系切替構造70の制御によって、ペルチェモジュール40を12V電源すなわち低電圧出力端子21に接続する(S42)。各電池モジュール10の温度Ta~Tdが所定の適用温度の中心温度Tcになるように、配線構造50の制御によって、12V電源に接続するペルチェモジュール40を適宜切り替え、また、極切替機構60の制御によって、ペルチェモジュール40に流れる電流の向きを適宜切り替える(S43)。S43の制御を所定期間行い、各電池モジュール10の温度Ta~Tdが所定の適用温度の中心温度Tc近くになったときは(S44でYES)、再び、回生電力を用いてペルチェモジュール40を動作させることが可能になるため、ペルチェモジュール40の直列接続による通電禁止を解除し(S45)、スタートにもどる。一方、各電池モジュール10の温度Ta~Tdが所定の適用温度の中心温度Tc近くにならなかったときは(S44でNO)、ペルチェモジュール40の直列接続による通電を禁止したまま、スタートにもどる。
【0049】
以上のような動作によって、電源システム20を用いた制動システムにおいて、電池モジュール10のSOCが高く、回生電力を電池モジュール10に受け入れることが困難であるとき、回生電力を用いてペルチェモジュール40を動作させて、回生制動を可能にし、かつ、電池モジュール10の加温または冷却を行うことができる。また、回生電力を用いたペルチェモジュール40の動作によって、電池モジュール10の温度が所定範囲内に収まらないときは、回生制動が停止されるので、電池モジュール10の温度劣化およびハイレート劣化を抑制することができる。
【0050】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0051】
1 電動車両
3 モータ(電動機)
5 補機
10 電池モジュール
20 電源システム
21 低電圧出力端子
22 高電圧出力端子
40 ペルチェモジュール
45 制御部
50 配線構造
51 スイッチング素子
60 極切替構造
61 スイッチング素子
70 電源系切替構造
71,72 スイッチング素子
80 コントローラ