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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】車両のトランスファ冷却構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20240528BHJP
   B60K 11/06 20060101ALI20240528BHJP
   B60R 13/08 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
F16H57/04 G
B60K11/06
B60R13/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021051757
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149547
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】山田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】榎本 正芳
(72)【発明者】
【氏名】福田 真人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼森 隆維
(72)【発明者】
【氏名】影山 和宏
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-88818(JP,A)
【文献】実開昭63-129630(JP,U)
【文献】特開2019-203593(JP,A)
【文献】特開2006-329270(JP,A)
【文献】特開2008-267465(JP,A)
【文献】実開平5-80975(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B60K 11/06
B60R 13/08
B60K 17/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方から動力源、変速機、トルク配分制御用摩擦クラッチを備えたトランスファ装置が順に配設された車両のトランスファ冷却構造であって、
前記車両には、前記変速機の変速機ケースと前記トランスファ装置のトランスファケースを上方から覆うトンネル部を有するフロアが設けられ、
前記トンネル部の下方には、前記変速機ケースと前記トランスファケースに対して隙間を空けて覆うようにインシュレータが取り付けられ、
前記インシュレータは、前記フロア側から前記トランスファケースに向けて突出している冷却促進部を備える、
ことを特徴とする車両のトランスファ冷却構造。
【請求項2】
前記インシュレータは、前記冷却促進部において、前記変速機ケース及び前記トランスファケースとの間の隙間が最小となることを特徴とする請求項1に記載の車両のトランスファ冷却構造。
【請求項3】
前記変速機ケースの上部には、他の部材が設けられ、
前記他の部材の後部には、整流カバーが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のトランスファ冷却構造。
【請求項4】
前記動力源がモータを含み、
前記他の部材がインバータを含むことを特徴とする請求項3に記載の車両のトランスファ冷却構造。
【請求項5】
前記トランスファケースの外部には、複数のフィンが設けられ、
前記トランスファケースの上部に設けられている前記フィンが、前記トランスファケースの他の部分に設けられている前記フィンより高さが高く形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両のトランスファ冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトランスファ冷却構造に関し、特に四輪駆動車に適用される車両のトランスファ冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪駆動車として、車体前部にエンジンなどの駆動源と変速機とを軸心が車体前後方向に延びるように配置し、変速機から伝達される駆動力を車体後方に延びる後輪用出力軸から後輪用プロペラシャフト及び後輪用差動装置を介して主駆動輪としての後輪に伝達すると共に、後輪用出力軸上に補助駆動輪としての前輪に伝達する駆動力を取り出すトランスファ装置を設け、トランスファ装置の前輪用出力軸に取り出された駆動力を車体前方に延びる前輪用プロペラシャフト及び前輪用差動装置を介して前輪に伝達し、後輪に加えて前輪も駆動可能に構成した所謂FR(フロントエンジン・リヤドライブ)ベースの四輪駆動車が知られている。
【0003】
このようなトランスファ装置として、後輪用出力軸上に前輪用の駆動力を取り出すトルク配分制御用摩擦クラッチを配設し、トルク配分制御用摩擦クラッチによって取り出された駆動力を、チェーン式やギヤ式の動力伝達機構を介して前輪用出力軸に伝達するようにしたものが知られている。
【0004】
前記トランスファ装置を搭載した四輪駆動車は、トルク配分制御用摩擦クラッチの締結を制御することにより、後輪用出力軸と前輪用出力軸にそれぞれ駆動力を配分する。このとき、クラッチは摩擦により発熱する。トルク配分制御用摩擦クラッチは、温度が上昇することにより、動力伝達性能が低下するため、冷却する必要がある。
【0005】
例えば特許文献1には、フロントエンジン・フロントドライブ車ベースの四輪駆動車に関するものであるが、エンジンと、変速機及びトランスファ装置を含む動力伝達装置との間において、上下方向に延びる風通路部を形成する案内壁部を設けて、車両の下方から取り込まれた走行風を風通路部に導くことにより、動力伝達装置を冷却する冷却構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-165522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トルク配分制御用摩擦クラッチを収容しているトランスファ装置では、トルク配分制御用摩擦クラッチが特に発熱し易く、また動力伝達性能に影響を及ぼすため、トルク配分制御用摩擦クラッチが収容されている部分に走行風をできる限り当てて冷却する必要がある。トルク配分制御用摩擦クラッチを備えたトランスファ装置では、簡単な構成で冷却性能を向上させることが望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、トルク配分制御用摩擦クラッチを備えたトランスファ装置の冷却性能を向上させることができる車両のトランスファ冷却構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、車両の前方から動力源、変速機、トルク配分制御用摩擦クラッチを備えたトランスファ装置が順に配設された車両のトランスファ冷却構造であって、
前記車両には、前記変速機の変速機ケースと前記トランスファ装置のトランスファケースを上方から覆うトンネル部を有するフロアが設けられ、
前記トンネル部の下方には、前記変速機ケースと前記トランスファケースに対して隙間を空けて覆うようにインシュレータが取り付けられ、
前記インシュレータは、前記フロア側から前記トランスファケースに向けて突出している冷却促進部を備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記インシュレータは、前記冷却促進部において、前記変速機ケース及び前記トランスファケースとの間の隙間が最小となることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は前記請求項2に記載の発明において、前記変速機ケースの上部には、他の部材が設けられ、
前記他の部材の後部には、整流カバーが設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の発明において、前記動力源がモータを含み、
前記他の部材がインバータを含むことを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から前記請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記トランスファケースの外部には、複数のフィンが設けられ、
前記トランスファケースの上部に設けられている前記フィンが、前記トランスファケースの他の部分に設けられている前記フィンより高さが高く形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本願の請求項1に記載の発明によれば、冷却促進部により、車両の前方から変速機ケースとインシュレータとの間を通じて、トランスファケースとインシュレータとの間を流れる走行風の流速を増加させて、トルク配分制御用摩擦クラッチを備えたトランスファ装置の冷却性能を向上させることができる。また、変速機とトランスファ装置から生じるノイズを低減するために設けられているインシュレータの一部の形状を変えるという簡単な構成でトランスファ装置の冷却性能を向上させることができる。
【0016】
また、本願の請求項2に記載の発明によれば、冷却促進部において、インシュレータと変速機ケース及びトランスファケースとの間の隙間を最小にすることにより、トランスファ装置の冷却性能をさらに向上させることができる。
【0017】
また、本願の請求項3に記載の発明によれば、変速機ケースの上部に設けられた他の部材の後部に整流カバーを設けることにより、変速機ケースの上部に他の部材が配置される場合においても、変速機とインシュレータとの間を流れる走行風を整流させて、走行風をトランスファケースとインシュレータの冷却促進部との間を通過させてトランスファ装置を冷却させることができる。また、他の部材の後方にハーネスなどが配置される場合においても、ハーネスなどを覆うように整流カバーを設けることで、走行風に乱流が生じることを抑制してトランスファ装置の冷却を促進させることができる。
【0018】
また、本願の請求項4に記載の発明によれば、動力源としてエンジンとモータとを有するハイブリッド車両において、変速機ケースの上部にインバータが配置される場合においても、トランスファ装置を冷却させることができる。トルク配分制御用摩擦クラッチを備えたトランスファ装置を冷却することにより、ハイブリッド車両の動力伝達性能を向上させることができる。
【0019】
また、本願の請求項5に記載の発明によれば、トランスファケースの上部に設けられているフィンが、トランスファケースの他の部分に設けられているフィンより高さが高く形成されることにより、上部に設けられたフィンの表面積を大きくして、放熱効果を増加させ、トルク配分制御用摩擦クラッチを備えたトランスファ装置の冷却効果を増加させる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るトランスファ装置が搭載された四輪駆動車の動力伝達機構を示す概略図である。
図2図1の線II-IIから見た、四輪駆動車のトランスファ冷却構造の概略断面図である。
図3図2のトランスファ冷却構造のインシュレータを示す概略図である。
図4図2の線IV-IVから見た、インシュレータと変速機の概略断面図である。
図5図2の線V-Vから見た、インシュレータとトランスファ装置の概略断面図である。
図6図1のトランスファ装置のトランスファケースを車幅方向左側から見た概略図である。
図7図1のトランスファ装置のトランスファケースを車幅方向右側から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係るトランスファ装置が搭載された四輪駆動車の動力伝達機構を示す概略図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係るトランスファ装置が搭載された四輪駆動車1は、フロントエンジン・リヤドライブ車ベースのハイブリッド四輪駆動車であり、車体前部に駆動源としてのエンジン2及びモータ3と変速機4とが軸心が車体前後方向に延びるように順に配置されている。
【0023】
変速機4の車体後方には、変速機4から伝達されるエンジン2とモータ3からの駆動力を車体後方に延びる後輪用プロペラシャフト及び後輪用差動装置を介して主駆動輪としての後輪に伝達すると共に補助駆動輪としての前輪に伝達する駆動力を取り出すトランスファ装置10が設けられている。
【0024】
図2は、図1の線II-IIから見た、四輪駆動車のトランスファ冷却構造の概略断面図である。図2に示すように、変速機4の上部には、バッテリからの直流電流を交流電流に変換し、モータ3を駆動するインバータ50が配置されている。このインバータ50は、モータ3の近傍に配設されている。このインバータ50の後方には、バッテリとモータ3にそれぞれ繋がる複数のハーネス51が接続されており、該ハーネス51を覆うように車体後方に延びる整流カバー52が配置されている。この整流カバー52は、車体後方に向かうにつれて下方に緩やかに傾斜する曲面53を有するように形成されており、曲面53の車幅方向両側はインバータ50の車幅方向両側に沿って車幅方向と直交する方向に延びている。
【0025】
変速機4の変速機ケース4aとトランスファ装置10のトランスファケース10aの上方には、四輪駆動車1の室内の床面としてのフロア100が配置されている。このフロア100には、変速機4とトランスファ装置10に沿って車体前後方向に延びて、且つ変速機ケース4a及びインバータ50とトランスファケース10aとを上方から覆うように下方から上方に向けて凹んでいるトンネル部100aが設けられている。
【0026】
また、フロア100の車体前方側には、車体上方側に延びて室内とエンジンルーム113を区画するダッシュパネル110が連結されている。図1に戻り、ダッシュパネル110の車幅方向の左右両側には、車体前方側に延びるフロントサイドパネル111a,111bが連結されている。フロントサイドパネル111a,111bの車体前方側には、車幅方向の左右両側に延びるフロントバンパ112が連結されている。四輪駆動車1のエンジン2とモータ3は、フロントサイドパネル111a,111bとフロントバンパ112により囲まれるエンジンルーム113に配置されている。
【0027】
図2に戻り、フロントバンパ112の車幅方向の略中央には、複数の開口部を有するフロントグリル114が設けられている。このフロントグリル114は、四輪駆動車1が走行するとき、前方からエンジンルーム113内に向けて走行風を取り込むように構成されている。
【0028】
四輪駆動車1には、フロア100のトンネル部100aの下方において、変速機ケース4a及びインバータ50とトランスファケース10aとに対して隙間を空けて覆うようにインシュレータ120が設けられている。インシュレータ120は、四輪駆動車1が走行するとき、変速機4及びトランスファ装置10から生じるノイズを低減するものであり、板状部材によって形成され、ボルトとクリップによりフロア100に取り付けられている。
【0029】
図3は、図2のトランスファ冷却構造のインシュレータ120を示す概略図である。図3に示すように、インシュレータ120は、変速機ケース4aとトランスファケース10aに沿って車体前後方向に延びて、変速機ケース4aとトランスファケース10aの上方と左右両側を覆うように下方から上方に向けて突出している形状を有する。
【0030】
図1に戻り、トランスファ装置10は、変速機4の出力軸4bに連結されて車体前後方向一方側である車体後方側に延びる主駆動輪用出力軸としての後輪用出力軸11と、後輪用出力軸11に平行に配置された補助駆動輪用出力軸としての前輪用出力軸12と、後輪用出力軸11から取り出された駆動力を前輪用出力軸12に伝達する動力伝達機構13とを有している。
【0031】
トランスファ装置10はまた、後輪用出力軸11上に設けられると共に後輪用出力軸11に連結されて後輪用出力軸11に伝達された駆動力から前輪用の駆動力を取り出すトルク配分制御用摩擦クラッチ16を備えたカップリングを有している。トルク配分制御用摩擦クラッチ16は、図示しないソレノイドに対する制御ユニットによる通電制御によって制御されるようになっている。
【0032】
動力伝達機構13は、ギヤ式のものであり、後輪用出力軸11上におけるトルク配分制御用摩擦クラッチ16の車体前方側に設けられてトルク配分制御用摩擦クラッチ16に連結されたドライブギヤ14と、前輪用出力軸12上に設けられると共に前輪用出力軸12に連結されてドライブギヤ14に噛み合うドリブンギヤ15とを備え、後輪用出力軸11からトルク配分制御用摩擦クラッチ16によって取り出された前輪用の駆動力を前輪用出力軸12に伝達するように構成されている。
【0033】
前輪用出力軸12には、車体前方側の端部に車体前方側に延びる前輪用プロペラシャフト30が連結されている。前輪用プロペラシャフト30は、車体後方側の端部に自在継手31を有し、自在継手31を介して前輪用出力軸12に連結されている。
【0034】
前輪用プロペラシャフト30はまた、車体前方側の端部に自在継手32を有し、自在継手32を介して前輪用差動装置40の入力軸41に連結されている。前輪用差動装置40の入力軸41は、左右の前輪にそれぞれ連結された車軸42に連結されている。
【0035】
これにより、トルク配分制御用摩擦クラッチ16によって後輪用出力軸11から取り出された前輪用の駆動力は、動力伝達機構13を介して前輪用出力軸12に伝達され、前輪用出力軸12から前輪用プロペラシャフト30及び前輪用差動装置40を介して前輪に伝達される。
【0036】
四輪駆動車1では、トルク配分制御用摩擦クラッチ16は、前輪と後輪とのトルク配分を前輪:後輪=0:100~50:50の範囲で可変して前輪用の駆動力を取り出すようになっている。なお、トルク配分制御用摩擦クラッチ16の作動は、図示しない制御ユニットによって制御される。
【0037】
トランスファ装置10はまた、後輪用出力軸11上におけるトルク配分制御用摩擦クラッチ16とドライブギヤ14との間にダンパ装置17を有している。ダンパ装置17は、トルク配分制御用摩擦クラッチ16からドライブギヤ14、ドリブンギヤ15、前輪用出力軸12、前輪用プロペラシャフト30及び前輪用差動装置40を介して前輪に至る前輪側の駆動系がエンジン2のトルク変動に共振する共振周波数をエンジン2の実用領域下に低下させるように構成されている。
【0038】
次に、トランスファ冷却構造のインシュレータ120についてさらに詳しく説明する。
【0039】
図2に戻り、インシュレータ120は、車体前後方向における位置がトランスファ装置10のトルク配分制御用摩擦クラッチ16と合うように設けられて、トランスファケース10aに沿って車体前後方向に延びて、且つフロア100側からトランスファケース10aに向けて突出している冷却促進部121を備える。この冷却促進部121は、車体前後方向において、トルク配分制御用摩擦クラッチ16とオーバーラップする位置に設けられている。
【0040】
図2及び図3に示すように、冷却促進部121は、車体前後方向に延びる略U字状の曲面122を有する。この曲面122は、車体前後方向に沿って、曲面122の車体前方側端部122aから曲面122の中央部122bに向かうにつれて、下方に向けて円弧状に曲がり、トランスファケース10aとの隙間が徐々に小さくなる一方、曲面122の中央部122bから曲面122の車体後方側端部122cに向かうにつれて、上方に向けて円弧状に曲がり、トランスファケース10aとの隙間が徐々に大きくなるように構成されている。また、曲面122は、中央部122bにおいて、車幅方向に沿って、トランスファケース10aの上方と左右両側を覆うように下方から上方に向けて突出しているインシュレータ120の形状に沿うように下方から上方に向けて突出している円弧部122dを有する。
【0041】
上述のように、インシュレータ120は、変速機ケース4a及びインバータ50とトランスファケース10aとに対して隙間を空けて覆うように配置されている。特に、インシュレータ120は、冷却促進部121において、トランスファケース10aとの間の隙間が最小となるように構成されている。実施形態において、インシュレータ120は、冷却促進部121において、トランスファケース10aとの隙間が最小となるように構成され、該隙間は、これに限定されるものではないが、約30mmに設定されている。また、インシュレータ120は、これに限定されるものではないが、インバータ50の後端部との隙間も、冷却促進部121とトランスファケース10aとの隙間と同等の大きさになるように構成されている。
【0042】
図4は、図2の線IV-IVから見た、インシュレータ120と変速機4の概略断面図である。図4に示すように、インシュレータ120と変速機ケース4aの上部に配置されているインバータ50との間の隙間は、車幅方向の左右両側に形成されている。
【0043】
図5は、図2の線V-Vから見た、インシュレータ120とトランスファ装置10の概略断面図である。図5に示すように、インシュレータ120とトランスファケース10aとの間の隙間は、トランスファケース10aの上方と左右両側を覆うインシュレータ120に沿って形成されている。
【0044】
図2に戻り、インシュレータ120が変速機ケース4a及びインバータ50とトランスファケース10aとに対して隙間を空けて覆うように配置されていることにより、四輪駆動車1が走行するとき、フロントグリル114を通してエンジンルーム113内に取り込まれる走行風は、矢印で示すように、変速機ケース4aの車体前方側において、インシュレータ120と変速機ケース4aとの間の隙間を通過する。インシュレータ120と変速機ケース4aとの間の隙間を通過する走行風は、インシュレータ120とインバータ50との間の隙間を通過した後、インバータ50の後方に配置されている整流カバー52において、トランスファケース10aに向けて整流される。
【0045】
上述のように、トランスファケース10aに向けて整流された走行風は、インシュレータ120の冷却促進部121とトランスファケース10aとの間の隙間を通過する。冷却促進部121がフロア100側からトランスファケース10aに向けて突出しているため、インシュレータ120とトランスファケース10aとの間の隙間は小さくなり、該隙間を通過する走行風の流速は増加する。インシュレータ120の冷却促進部121とトランスファケース10aとの間の隙間を通過する走行風の流速が増加することにより、トランスファケース10a、特にトランスファケース10aのトルク配分制御用摩擦クラッチ16を収容している部分が大きく冷却される。インシュレータ120の冷却促進部121とトランスファケース10aとの間の隙間を通過した走行風は、車体後方に向けて放出される。
【0046】
次に、トランスファケース10aについてさらに詳しく説明する。
【0047】
図6は、図1のトランスファ装置10のトランスファケース10aを車幅方向左側から見た概略図である。トランスファケース10aは、ケース本体18と、該ケース本体18の前側を覆う前側カバーと、該ケース本体18の後側を覆う後側カバーとを備え、互いにボルトで締結されている。ケース本体18は、後輪用出力軸11の軸方向に沿って略円筒状に延びる筒状部18aと、該筒状部18aから前輪用出力軸12の軸方向に直交する方向に延びる縦壁部18bとを備え、該筒状部18a内にトルク配分制御用摩擦クラッチ16が収容されている。
【0048】
筒状部18aの外部、具体的には上部、下部、左部、右部には、車両前後方向に延びるフィンが設けられている。図5に戻り、筒状部18aの上部に設けられている上部フィン19aは、後輪用出力軸11に平行に車幅方向と直交する方向に延び、筒状部18aの下部に設けられている下部フィン19b、筒状部18aの左部に設けられている左部フィン19c、筒状部18aの右部に設けられている右部フィン19dより高く形成されている。また、図6に戻り、縦壁部18bにも、車両前後方向に延びる縦壁部フィン19eが設けられており、上部フィン19aは、該縦壁部フィン19eより高く形成されている。
【0049】
図7は、図1のトランスファ装置10のトランスファケース10aを車幅方向右側から見た概略図である。図7に示すように、車幅方向右側に設けられている右部フィン18cは、車両前後方向に沿って、上方から下方に向けて傾斜する形状を有する。
【0050】
トランスファケース10aの上部に設けられている上部フィン19aが、トランスファケース10aの他の部分に設けられているフィンより高さが高く形成されていることにより、上述のように、走行風がインシュレータ120の冷却促進部121とトランスファケース10aとの間の隙間を通過するとき、上部フィン19aの表面積が大きいため、放熱効果を増加させ、トランスファケース10a、特にトランスファケース10aのトルク配分制御用摩擦クラッチ16を収容している筒状部18aの冷却効果を増加させる。
【0051】
このように、本実施形態に係るトランスファ冷却構造では、変速機4の変速機ケース4aとトランスファ装置10のトランスファケース10aに対して隙間を空けて覆うように設けられているインシュレータ120がフロア100のトンネル部100aの下方に取り付けられ、インシュレータ120は、フロア100側から、トランスファケース10aに向けて突出している冷却促進部121を備える。
【0052】
これにより、冷却促進部121によって、四輪駆動車1の前方から変速機ケース4aとインシュレータ120との間を通じて、トランスファケース10aとインシュレータ120との間を流れる走行風の流速を増加させて、トルク配分制御用摩擦クラッチ16を備えたトランスファ装置10の冷却性能を向上させることができる。また、変速機4とトランスファ装置10から生じるノイズを低減するために設けられているインシュレータ120の一部の形状を変えるという簡単な構成でトランスファ装置10の冷却性能を向上させることができる。
【0053】
また、インシュレータ120は、冷却促進部121において、変速機ケース4a及びトランスファケース10aとの間の隙間が最小となることにより、トランスファ装置10の冷却性能をさらに向上させることができる。
【0054】
また、変速機ケース4aの上部には、インバータ50が設けられ、インバータ50の後部には、整流カバー52が設けられていることにより、変速機4とインシュレータ120との間を流れる走行風を整流させて、走行風をトランスファケース10aとインシュレータ120の冷却促進部との間を通過させてトランスファ装置10を冷却させることができる。したがって、ハイブリッド車両としての四輪駆動車1の動力伝達性能を向上させることができる。また、インバータ50の後方にハーネス51などが配置される場合においても、ハーネス51などを覆うように整流カバー52を設けることで、走行風に乱流が生じることを抑制してトランスファ装置10の冷却を促進させることができる。
【0055】
また、トランスファケース10aの外部には、複数のフィン19a,19b,19c,19d,19eが設けられ、トランスファケース10aの上部に設けられている上部フィン19aが、トランスファケース10aの他の部分に設けられているフィン19b,19c,19d,19eより高さが高く形成されていることにより、上部フィン19aの表面積を大きくして、放熱効果を増加させ、トルク配分制御用摩擦クラッチ16を備えたトランスファ装置10の冷却効果を増加させる。
【0056】
本実施形態では、インシュレータ120は、冷却促進部121において、トランスファケース10aとの隙間が最小となるように構成され、インバータ50の後端部との隙間も、冷却促進部121とトランスファケース10aとの隙間と同等の大きさになるように構成されているが、冷却促進部121とトランスファケース10aとの隙間だけをさらに小さくしてもよい。
【0057】
本実施形態では、四輪駆動車1は、ハイブリッド四輪駆動車であるが、動力源としてエンジン2だけを有する四輪駆動車であってもよい。この場合、変速機ケース4aの上部において、インバータ50の代わりに他の部材が配置されてもよい。また、変速機ケース4aの上部には、他の部材が配置されなくてもよい。
【0058】
本実施形態では、インバータ50は、変速機ケース4aの上部に配置されているが、例えば変速機ケース4aの側面などの他の位置に取り付けられてもよい。
【0059】
本実施形態では、インシュレータ120と変速機ケース4a及びトランスファケース10aとの隙間を通る走行風により、トランスファケース10aを冷却するので、エンジン2、モータ3、及び変速機4の下方に配設されたアンダーカバーに穴を開けて、エンジン2、モータ3、及び変速機4を冷却する場合のように、アンダーカバーの下を流れる空気の流れに影響を及ぼさない。
【0060】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0061】
以上のように、本発明によれば、車両の前方から動力源、変速機、トルク配分制御用摩擦クラッチを備えたトランスファ装置が順に配設された四輪駆動車のトランスファ冷却構造において、トランスファ装置のトルク配分制御用摩擦クラッチを簡単な構成で冷却することが可能となるから、この種の車両において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0062】
1 四輪駆動車
2 エンジン
3 モータ
4 変速機
4a 変速機ケース
10 トランスファ装置
10a トランスファケース
16 トルク配分制御用摩擦クラッチ
100 フロア
100a トンネル部
120 インシュレータ
121 冷却促進部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7