(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】鋳造装置及び鋳造品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/22 20060101AFI20240528BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20240528BHJP
B22C 9/02 20060101ALI20240528BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20240528BHJP
B22D 15/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B22C9/22 A
B22C9/06 C
B22C9/02 103H
B22D21/04 A
B22D15/00 B
(21)【出願番号】P 2021056797
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小杉 一浩
(72)【発明者】
【氏名】山本 直彰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 修一
(72)【発明者】
【氏名】福田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】清水 康智
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-104140(JP,U)
【文献】特開昭56-062646(JP,A)
【文献】特開昭61-042472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂型と、
前記砂型の下側に配設されることによって前記砂型を支持すると共に、前記砂型と共にキャビティを形成する金型とを備え、
前記金型は、
前記キャビティに面して配設されかつ、前記キャビティに注入された溶湯に接することによって前記溶湯を冷却する冷却部と、
前記冷却部との間に空間部が設けられるよう前記冷却部の下側に配置されかつ、前記砂型を支持する支持部と、
前記冷却部における所定箇所を、前記支持部に対して固定させる固定部と、
を有し、
前記支持部は、
前記支持部の外周部において前記砂型を支持する砂型支持部と、前記冷却部の端部の下面に当接することによって前記冷却部の端部を支持する当接部
と、を有し
、
前記砂型の一部は、前記冷却部の端部の上面に乗って前記冷却部と係合し、
前記砂型支持部は、前記冷却部の端部よりも外方において、前記砂型と係合するよう上方へ突出する係合部を有し、
前記冷却部の端部が水平方向に変形することを規制しないように、前記冷却部の端部の水平方向を向いた側面と前記係合部との間には、水平方向に広がる隙間が設けられている、
鋳造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳造装置において、
前記支持部は、前記冷却部の第1端部に当接する第1当接部と、前記第1端部に対して反対側の第2端部に当接する第2当接部と、を有し、
前記固定部は、前記冷却部の前記第1端部と前記第2端部との間に設けられている、
鋳造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鋳造装置において、
前記当接部は、前記支持部に対して着脱可能に設けられている、
鋳造装置。
【請求項4】
砂型と、
前記砂型の下側に配設され前記砂型を支持すると共に、前記砂型と共にキャビティを形成する金型とを備えた鋳造装置を使って鋳造品を製造する方法であって、
前記金型は、
前記キャビティに面して配設されかつ、前記キャビティに注入された溶湯に接することによって前記溶湯を冷却する冷却部と、
前記冷却部との間に空間部が設けられるよう前記冷却部の下側に配置されかつ、前記砂型を支持する支持部と、
前記冷却部における所定箇所を、前記支持部に対して固定させる固定部と、
を有し、
前記支持部は、
前記支持部の外周部において前記砂型を支持する砂型支持部と、前記冷却部の端部の下面に当接することによって前記冷却部を支持する当接部
と、を有し、
前記砂型の一部は、前記冷却部の端部の上面に乗って前記冷却部と係合し、
前記砂型支持部は、前記冷却部の端部よりも外方において、前記砂型と係合するよう上方へ突出する係合部を有し、
前記冷却部の端部が水平方向に変形することを規制しないように、前記冷却部の端部の水平方向を向いた側面と前記係合部との間には、水平方向に広がる隙間が設けられ、
前記砂型と前記金型とを組み合わせる型組み立て工程と、
前記型組み立て工程後に、前記キャビティに、溶湯を注入する鋳込み工程と、
前記キャビティ内の鋳物の冷却後に、前記砂型と前記金型とを分離する型開き工程と、
前記型開き工程後に、前記砂型を消失させる消失工程と、
を備えた、
鋳造品の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の鋳造品の製造方法において、
前記鋳物は、軽合金製鋳物である、
鋳造品の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の鋳造品の製造方法において、
前記軽合金製鋳物は、アルミニウム合金製の、エンジンのシリンダヘッドであり、
前記冷却部は、前記エンジンの燃焼室の天井面を形成する面であって、前記シリンダヘッドの下面を形成する、
鋳造品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、鋳造装置及び鋳造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上型が砂型で、下型が金型である鋳造装置を用いて鋳造品を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。砂型と金型とによって形成されたキャビティ内に溶湯が注入されると、溶湯から金型に急速に熱が伝わるため、金型に面した部分の鋳物の組織が緻密に構成される。その結果、製品の精度や強度などの機械的性質が向上する。こうした鋳造装置は、例えばエンジンのシリンダヘッドの製造に用いられる。この場合、金型は、エンジンの燃焼室の天井面を形成する面であって、シリンダヘッドの下面を形成する。燃焼熱を受けるシリンダヘッドの下面の組織を緻密にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば
図4は、エンジンのシリンダヘッドを製造するための、従来の鋳造装置1000を模式的に描いている。鋳造装置1000は、前述したように、砂型1020と金型1030とを備えている。砂型1020は、金型1030に支持されている。
【0005】
砂型1020と金型1030とを組み合わせた鋳造装置1000を用いて鋳造を行うと、キャビティ1040に面した金型1030の表面が急速に受熱する結果、金型1030には、厚み方向に大きな温度勾配が生じ、その温度勾配が金型1030の変形を招く。
【0006】
エンジンのシリンダヘッドは、気筒列方向に細長い形状を有しているため、金型1030もまた、
図4の左右方向に細長い形状を有している。細長い金型1030は、溶湯の注入時に、中央部が両端部に比べて盛り上がるような反りが生じる。反りが大きくなると、製品の寸法精度を低下させる恐れがある。尚、
図4は、金型1030の反りを誇張して描いている。
【0007】
また、例えば直列6気筒エンジンのシリンダヘッドのように鋳造品の長さが長いと、金型1030の長さも長くなる。この場合、金型1030の中央部と、両端部との高低差が、
図4に二点鎖線で示す直列4気筒エンジンのシリンダヘッド用の金型1050よりも大きくなってしまう(
図4の両端矢を付けたの矢印参照)。金型1030の長さが長くなると、製品の寸法精度がさらに低下する恐れがある。
【0008】
また、砂型1020は、金型1030に支持されているため、金型1030の反りが大きくなってしまうと、金型に支持されている砂型にも悪影響が及ぶ。金型1030の両端部が、中央部に比べて大きく下に下がってしまうことに伴い、複数の中子1021、1022、1023、1024、1025を組み合わせて構成される砂型1020において、
図4に下向きの矢印で示すように、中子1022と中子1023との係合、及び中子1022と中子1024との係合がそれぞれ外れて、中子1023、1024の位置がずれたり、中子1022と中子1023、1024との隙間が大きくなって溶湯の漏れを招いたりする恐れがある。溶湯の漏れは、鋳造品においてバリとなるから、品質不良を招くことになる。
【0009】
ここに開示する技術は、砂型と金型とを組み合わせた鋳造装置において、冷却機能を維持しながら、金型の反りを抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
砂型と金型とを組み合わせた鋳造装置において、金型は、溶湯を冷却する機能と、砂型を支持する機能との二つの機能を有している。本願発明者らは、冷却機能を担う冷却部と、支持機能を担う支持部とによって金型を構成すると共に、冷却部と支持部との間の熱の伝達を抑制する構造を採用することにより、冷却機能を維持しながら、金型全体としての反りを抑制するようにした。
【0011】
具体的に、ここに開示する技術は、鋳造装置に係り、この鋳造装置は、
砂型と、
前記砂型の下側に配設されることによって前記砂型を支持すると共に、前記砂型と共にキャビティを形成する金型とを備え、
前記金型は、
前記キャビティに面して配設されかつ、前記キャビティに注入された溶湯に接することによって前記溶湯を冷却する冷却部と、
前記冷却部との間に空間部が設けられるよう前記冷却部の下側に配置されかつ、前記砂型を支持する支持部と、
前記冷却部における所定箇所を、前記支持部に対して固定させる固定部と、
を有し、
前記支持部は、前記支持部の外周部において前記砂型を支持する砂型支持部と、前記冷却部の端部の下面に当接することによって前記冷却部の端部を支持する当接部と、を有し、
前記砂型の一部は、前記冷却部の端部の上面に乗って前記冷却部と係合し、
前記砂型支持部は、前記冷却部の端部よりも外方において、前記砂型と係合するよう上方へ突出する係合部を有し、
前記冷却部の端部が水平方向に変形することを規制しないように、前記冷却部の端部の水平方向を向いた側面と前記係合部との間には、水平方向に広がる隙間が設けられている。
【0012】
この構成によると、金型は、冷却部と支持部と固定部とを有している。固定部は、冷却部を支持部に対して固定させる。冷却部と支持部との相対位置が定まるから、支持部によって支持されている砂型と冷却部との相対位置が定まる。キャビティを所定の形状に維持できる。
【0013】
冷却部は、キャビティに面して配設されかつ、溶湯を冷却する。冷却部は、金型の冷却機能を担う。金型が冷却部を有しているため、少なくとも冷却部に接する部分の鋳物の組織が緻密になる。
【0014】
冷却部は、溶湯からの熱を受けて変形する。当接部は、冷却部の端部の下面に当接することによって冷却部を支持している。冷却部の端部が水平方向に変形することが規制されない一方で、冷却部の端部が下方に変位することは規制される。これにより、冷却部の反りが抑制される。
【0015】
支持部は、砂型も支持する。支持部は、金型の支持機能を担う。支持部は、冷却部との間に空間部が設けられるよう冷却部の下側に配置されている。空間部は、空気による断熱機能を発揮するため、冷却部から支持部への熱の伝達が抑制される。支持部が熱によって変形することが抑制される。支持部の変形が抑制されるから、支持部に支持されている砂型に悪影響が及ぶことが抑制される。
【0016】
前記の構成の鋳造装置は、冷却部と支持部とを含んだ金型全体としての反りの発生が抑制され、製品の寸法精度の低下を抑制できると共に、砂型における中子同士の位置ずれを抑制して、品質を良好に保つことができる。
【0017】
前記支持部は、前記冷却部の第1端部に当接する第1当接部と、前記第1端部に対して反対側の第2端部に当接する第2当接部と、を有し、
前記固定部は、前記冷却部の前記第1端部と前記第2端部との間に設けられている、としてもよい。
【0018】
冷却部の第1端部及び第2端部はそれぞれ、第1当接部及び第2当接部によって、水平方向への変形が規制されずにかつ、下方への変位が規制されるよう支持されている。熱による冷却部の反りが抑制できる。
【0019】
また、冷却部の第1端部と第2端部との間に固定部が設けられているため、固定部と第1端部との距離、及び、固定部と第2端部との距離がそれぞれ短くなる。この構成は、第1端部及び第2端部の変形量を小さくする。このこともまた、冷却部の反りを抑制して、鋳造品の寸歩精度を高める上で有利になる。固定部は、冷却部の第1端部と第2端部との中央に設けてもよい。固定部を、冷却部の第1端部と第2端部との中央に設けると、固定部と第1端部との距離、及び、固定部と第2端部との距離が共に、最短になるから、冷却部の反りの抑制効果が高まる。
【0020】
前記当接部は、前記支持部に対して着脱可能に設けられている、としてもよい。
【0021】
当接部は、前述の通り、熱によって水平方向に変形する冷却部の端部を支持するため、摩耗等が生じる恐れがある。当接部が支持部に対して着脱可能に設けられることによって、摩耗した当接部を交換することが可能になる。鋳造装置のメンテナンスが容易になる。また、当接部を支持部に対して別体にすることによって、冷却部の端部から当接部を介して支持部へ熱が伝わる場合の熱抵抗が大きくなり、支持部への熱の伝達が抑制される。このことによっても、支持部の変形が抑制できる。
【0022】
ここに開示する技術は、砂型と、前記砂型の下側に配設され前記砂型を支持すると共に、前記砂型と共にキャビティを形成する金型とを備えた鋳造装置を使って鋳造品を製造する方法に係る。この鋳造品の製造方法において、
前記金型は、
前記キャビティに面して配設されかつ、前記キャビティに注入された溶湯に接することによって前記溶湯を冷却する冷却部と、
前記冷却部との間に空間部が設けられるよう前記冷却部の下側に配置されかつ、前記砂型を支持する支持部と、
前記冷却部における所定箇所を、前記支持部に対して固定させる固定部と、
を有し、
前記支持部は、前記支持部の外周部において前記砂型を支持する砂型支持部と、前記冷却部の端部の下面に当接することによって前記冷却部を支持する当接部をと、有し、
前記砂型の一部は、前記冷却部の端部の上面に乗って前記冷却部と係合し、
前記砂型支持部は、前記冷却部の端部よりも外方において、前記砂型と係合するよう上方へ突出する係合部を有し、
前記冷却部の端部が水平方向に変形することを規制しないように、前記冷却部の端部の水平方向を向いた側面と前記係合部との間には、水平方向に広がる隙間が設けられている。
【0023】
そして、前記の製造方法は、
前記砂型と前記金型とを組み合わせる型組み立て工程と、
前記型組み立て工程後に、前記キャビティに、溶湯を注入する鋳込み工程と、
前記キャビティ内の鋳物の冷却後に、前記砂型と前記金型とを分離する型開き工程と、
前記型開き工程後に、前記砂型を消失させる消失工程と、
を備えている。
【0024】
前述したように、鋳造装置は、金型の反りが抑制される。この製造方法によると、寸法精度の高い、高品質な鋳造品を製造することができる。
【0025】
前記鋳物は、軽合金製鋳物である、としてもよい。
【0026】
前記軽合金製鋳物は、アルミニウム合金製の、エンジンのシリンダヘッドであり、
前記冷却部は、前記エンジンの燃焼室の天井面を形成する面であって、前記シリンダヘッドの下面を形成する、としてもよい。
【0027】
前記の製造方法は特に、直列6気筒エンジンのシリンダヘッドのような、長いシリンダヘッドの製造に適している。また、直列4気筒エンジンのシリンダヘッドのような、相対的に短いシリンダヘッドも、前記の製造方法によって、寸法精度が高くかつ、高品質に製造できる。
【0028】
また、冷却部は、燃焼熱を受けるシリンダヘッドの下面の組織を緻密にする。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、ここに開示する鋳造装置、及び、鋳造品の製造方法によると、金型の反りを抑制することができるから、寸法精度が高くかつ、高品質な鋳造品を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図3】
図3は、従来の金型と、改良された金型とを比較する図である。
【
図4】
図4は、金型の反りに起因する砂型への悪影響を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、鋳造装置、及び、鋳造品の製造方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する鋳造装置、及び、鋳造品の製造方法は例示である。
【0032】
図1及び
図2は、鋳造装置1を例示している。
図1は鋳造装置1の縦断面図であり、
図2は鋳造装置1の横断面図である。鋳造装置1は、エンジンのシリンダヘッドを製造するための装置である。エンジンは、直列6気筒エンジンである。直列6気筒エンジンは、6個のシリンダがクランク軸方向に一列に並ぶため、そのシリンダヘッドは、その全長が比較的長い。シリンダヘッドは、軽合金製鋳物であり、具体的には、アルミニウム合金製である。
【0033】
尚、以下の説明では、
図1の紙面左右方向を、鋳造装置1の前後方向と呼び、紙面左を前、紙面右を後と呼ぶ。鋳造装置1の前後方向は、エンジンの気筒が並ぶ方向に対応する。また、
図2の紙面左右方向を、鋳造装置1の左右方向と呼び、紙面左を左、紙面右を右と呼ぶ。鋳造装置1の左右方向は、エンジンの気筒を挟んで吸気側と排気側とが並ぶ方向に対応する。
【0034】
鋳造装置1は、砂型2と金型3とを備えている。金型3は、砂型2の下側に配設されている。金型3は、砂型2を支持する。砂型2と金型3との間に、溶湯が注入されるキャビティ4が形成される。
【0035】
砂型2は、複数の中子21、22、23、24、25、26、27、28、29が組み合わされて形成されている。複数の中子21、22、23、24、25、26、27、28、29は、上下方向に積み重なっている共に、互いに係合することによって相互に位置決めされている。
【0036】
金型3は、冷却部31、支持部32、及び、型抜部33を備えている。冷却部31、支持部32、及び、型抜部33は、上下方向に重なっている。
【0037】
冷却部31は、所定の厚みを有する略平らな板状であって、前後方向に細長い形状を有している。冷却部31は、その上面がキャビティ4に面するように、配設される。冷却部31は、キャビティ4に注入された溶湯に接することによって溶湯を急速冷却する。冷却部31は、シリンダヘッドにおいて、エンジンの燃焼室の天井面を形成する面であって、シリンダヘッドの下面を形成する。冷却部31の冷却効果によって、シリンダヘッドの下面の組織が緻密に構成される。これによって、シリンダヘッドの精度や強度などの機械的性質が向上する。
【0038】
支持部32は、冷却部31の下側に配設されている。支持部32もまた、冷却部31と同様に、前後方向に細長い形状を有している。支持部32は、
図2に示すように、砂型2を支持する第1支持部320と、第1支持部320を支える第2支持部325とから構成されている。第1支持部320は、冷却部31の下側で、冷却部31に沿うように前後方向に伸びている。第2支持部325は、第1支持部320の下面において、左右方向に間隔を空けて配置されて、第1支持部320の下面から下方に伸びると共に、前後方向に広がっている。支持部32の下側には、第1支持部320と第2支持部325とによって形成される空間であって、型抜部33が配設される空間が形成されている。
【0039】
第1支持部320は、砂型支持部321と、固定部322と、第1当接部323、第2当接部324とを有している。
【0040】
砂型支持部321は、第1支持部320の、前後左右の外周部に設けられている。砂型支持部321には、砂型2において最も下に位置する中子27が載置される。砂型支持部321は、中子27と係合することにより、砂型2と金型3との相対位置を規制しながら、砂型2を支持している。尚、中子27の一部は、冷却部31の端に乗って冷却部31と係合している。
【0041】
固定部322は、第1支持部320の中央部に設けられている。固定部322は、冷却部31の下面に固定される。固定部322によって、冷却部31と支持部32とが一体化していると共に、固定部322は、冷却部31を支持している。尚、固定部322は、第1支持部320の中央部から、ずれた位置に設けてもよい。
【0042】
第1当接部323は、第1支持部320の前端部に設けられ、第2当接部324は、第1支持部320の後端部に設けられている。第1当接部323は、冷却部31の前端部の下面に当接し、冷却部31の前端部を支持する。第2当接部324は、冷却部31の後端部の下面に当接し、冷却部31の後端部を支持する。
【0043】
図3は、第2当接部324の構成を拡大して示している。尚、
図3は、従来の金型とここに開示する管型3との構造の違いを比較するために、図の左は、従来の金型の構成を例示しており、
図3の右は、ここに開示する金型3の構成を示している。第1当接部323は、第2当接部324に対して前後方向に対称であって、第1当接部323の構成は、第2当接部324の構成と同じであるため、以下においては第2当接部324の構成を説明し、第1当接部323の構成の説明は省略する。
【0044】
第2当接部324は、前後方向について、砂型支持部321よりも中央側であって、砂型支持部321に隣接して配設されている。より詳細に、砂型支持部321には、中子27が係合する係合部3211が、上方に突出するように設けられており、第2当接部324は、この係合部3211に対して、前後方向の中央側に隣接して配設されている。第2当接部324は、前後方向の長さよりも左右方向の長さが長い、細長い平板であり、支持部32の本体の上面に対して、着脱可能に設けられている。第2当接部324は、支持部32と同じ材料によって構成してもよいが、支持部32とは異なる材料によって構成してもよい。第2当接部324は、断熱部材(例えばセラミック)によって構成してもよい。
【0045】
第2当接部324の上面は、冷却部31の後端部の下面311に当接し、第2当接部324は、冷却部31の後端部を下から支えている。ここで、第2当接部324の前後の長さは短いため、冷却部31と第2当接部324との当接面積は比較的小さい。
【0046】
冷却部31の後端部の側面312と、係合部3211との間には、隙間313が設けられている。この隙間313は、冷却部31の後端部が、溶湯の鋳込み時に、前後方向及び左右方向に、熱変形することを許容する。つまり、第2当接部324(及び第1当接部323)は、冷却部31の端部が水平方向に変形することを規制せず、冷却部31の端部が下方に変位することを規制するように、冷却部31を支持している。
【0047】
支持部32は、固定部322、第1当接部323、及び、第2当接部324の三箇所で冷却部31を支持している。これら固定部322、第1当接部323、及び、第2当接部324以外の箇所において、冷却部31と支持部32との間には、空間部34が設けられている。空間部34は、冷却部31の下面と、支持部32の上面との間に形成されている。空間部34は、冷却部31と支持部32との間の空気断熱機能を有している。空間部34は、後述する溶湯の鋳込み時に、冷却部31から支持部32へ熱が伝わることを抑制する。
【0048】
型抜部33は、支持部32の下側において、第1支持部320と第2支持部325とによって形成される空間内に配設されている。型抜部33は、上下方向に昇降可能に設けられている。型抜部33には、複数の鋳抜きピン331が固定されている。鋳抜きピン331は、型抜部33から上方に向かって伸びている。支持部32及び冷却部31にはそれぞれ、鋳抜きピン331が通過する通過孔が、上下方向に貫通して設けられている。鋳抜きピン331の上端面は、鋳込み時には、冷却部31の上面の一部を構成する。そして、砂型2と金型3とを分離する型開き時には、型抜部33が上方へ移動することにより、鋳抜きピン331が冷却部31の上面から上方へ突出し、鋳物を砂型2内に残した状態で、型開きができる。
【0049】
ここで、冷却部31に形成されている鋳抜きピン331用の通過孔の径は、相対的に小さい。これにより、冷却部31の通過孔の内周面と鋳抜きピン331との間の隙間を小さくして、溶湯の漏れを抑制する。一方、支持部32に形成されている鋳抜きピン331用の通過孔の径は、相対的に大きい。これにより、支持部32の通過孔の内周面と鋳抜きピン331との間の隙間を大きくして、キャビティ4に面する鋳抜きピン331から支持部32への熱の伝達を抑制する。尚、射抜きピン331の径は比較的小さいため、キャビティ4に面する鋳抜きピン331を伝わる熱量は、少ない。
【0050】
また、型抜部33は、
図1に示すように、その前端部及び後端部に設けられた位置決めピン332を介して、支持部32に支持されていると共に、支持部32及び冷却部31に対して位置決めされている。支持部32の前端部及び後端部はそれぞれ、キャビティ4から離れていると共に、後述するように、支持部32は冷却部31からの熱の伝達が抑制されている。支持部32の前端部及び後端部はそれぞれ、熱の影響を受けにくい箇所である。支持部32の前端部及び後端部において、型抜部33のための位置決めピン332を設けることにより、型抜部33の位置決めを精度良く行うことができると共に、型抜部33及び鋳抜きピン331が、スムースに昇降する。
【0051】
ここで、前記の構成の鋳造装置1を用いた鋳造品、つまりシリンダヘッドの製造方法について、簡単に説明をする。
【0052】
製造方法は、型組み立て工程と、鋳込み工程と、型開き工程と、消失工程とを備えている。型組み立て工程では、複数の中子21~29からなる砂型2と、金型3とが組み合わされて、キャビティ4が形成される(
図1又は
図2参照)。また、図には示していないが、組み合わされた砂型2と金型3に対して、上下方向のクランプ荷重が加えられる。
【0053】
続く鋳込み工程では、キャビティ4に、溶湯が注入される。鋳込み工程後、キャビティ4内の鋳物が冷却されれば、砂型2と金型3とを分離する型開きが行われる。この型開き工程時に、型抜部33及び鋳抜きピン331が上昇することで、鋳物が砂型2内に残る。
【0054】
型開き工程の後に、砂型2を消失させることによって、鋳造品が完成する。
【0055】
従来の鋳造装置は、
図3の左に例示するように、金型が冷却部と支持部とに分かれておらず、空間部も有していない。これに対し、前記構成の鋳造装置1は、
図3の右に示すように、金型3が、冷却部31と支持部32とを有していて、冷却部31と支持部32との間に空間部34が設けられている。これにより、鋳込み工程時に、冷却部31から支持部32への熱の伝達が抑制されるから、支持部32の熱変形が抑制される。支持部32は、
図2に示すように、第1支持部320と第2支持部325とが組み合わさることによって、横断面が、逆U字状を有しているため、冷却部31と異なり、長手方向に対する反りが生じにくい形状を有している。支持部32は、鋳込み工程時における熱変形が抑制される。支持部32は、その砂型支持部321において砂型2を支持しているが、支持部32は、砂型2を安定して支持することができる。その結果、複数の中子21~29を組み合わせて構成される砂型2において、中子同士の位置ずれを抑制でき、鋳造品の寸法精度の低下が抑制される。また、中子同士の位置ずれに起因する溶湯の漏れも抑制して、鋳造品の品質が高品質に維持される。
【0056】
型抜部33は、熱の影響を受けにくい支持部32の前端部及び後端部に対して位置決めされているため、型抜部33の位置ずれも抑制される。その結果、型抜部33及び鋳抜きピン331の昇降がスムースになる。
【0057】
一方、冷却部31は、キャビティ4に面して溶湯を急速冷却できると共に、冷却部31の前端部及び後端部がそれぞれ、支持部32の第1当接部323及び第2当接部324に、水平方向の変形を規制しないように、下面が支持されている。このため、冷却部31の熱による反りを抑制できる。冷却部31はまた、
図3に示すように、従来の鋳造装置と比較して、厚みが薄いため、厚み方向の温度勾配が生じにくく、このこともまた、冷却部31の熱による反りを抑制する上で有利である。さらに、冷却部31の中央部を固定部322によって固定する一方で、冷却部31の前端部及び後端部をそれぞれ下側から支えることによって、冷却部31の反りを効果的に抑制することができる。
【0058】
冷却部31の反りを抑制することによって、鋳造品の寸法精度の向上が図られる。また、冷却部31の反りを抑制することによって、冷却部31と、冷却部31の端に係合している中子27との隙間が大きくなることが抑制される。冷却部31の反りを抑制することは、溶湯の漏れを抑制する上でも有利である。
【0059】
さらに、冷却部31と支持部32とを固定する固定部322を、冷却部31及び支持部32における長手方向の中央部に設けており、固定部322と第1当接部323との距離、及び、固定部322と第2当接部324との距離を、それぞれ最短にしている。このこともまた、冷却部31の熱による変形を抑制する上で有利になる。
【0060】
また、第1当接部323及び第2当接部324において、冷却部31と第1当接部323及び第2当接部324との接触面積をできるだけ小さくすることによって、冷却部31から支持部32への熱の伝達を抑制することができる。支持部32の熱変形がさらに抑制できる。
【0061】
第1当接部323及び第2当接部324はそれぞれ、第1支持部320に対して着脱可能に取り付けられ、支持部32とは別体であるため、熱抵抗が大きくなり、第1当接部323又は第2当接部324から、支持部32の本体への熱の伝達が抑制できる。このこともまた、支持部32の熱変形を抑制する上で有利になる。また、第1当接部323及び第2当接部324を断熱部材によって構成すれば、冷却部31から支持部32への熱の伝達をさらに抑制できる。
【0062】
また、別体にすることで、第1当接部323又は第2当接部324が摩耗等した場合には、第1当接部323又は第2当接部324を交換することが可能になる。
【0063】
尚、前記の鋳造装置1における金型3は、冷却部31の前端部を支持する第1当接部323と、冷却部31の後端部を支持する第2当接部324とを備えているが、第1当接部323及び第2当接部324の一方を残し、他方を固定部に変えてもよい。つまり、冷却部31の前端部又は後端部を支持部32に対して固定し、冷却部31の後端部又は前端部を、当接部によって、水平方向に変形することを規制しないように支持してもよい。この構成の鋳造装置も、前述した鋳造装置1と同様に、金型3の反りを抑制できる。但し、固定部と当接部との距離が長いため、冷却部31の反りを抑制する効果は低下する。
【0064】
尚、鋳造装置1は、直列4気筒エンジンのシリンダヘッドの製造に利用することができる。また、ここに開示する鋳造装置は、その他の鋳造品の製造に利用することもできる。
【符号の説明】
【0065】
1 鋳造装置
2 砂型
3 金型
31 冷却部
32 支持部
322 固定部
323 第1当接部
324 第2当接部
34 空間部
4 キャビティ