(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】廃液処理方法、および、廃液処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/72 20230101AFI20240528BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20240528BHJP
C02F 1/56 20230101ALI20240528BHJP
B01D 29/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C02F1/72 Z
C02F1/52 G
C02F1/56 G
B01D23/02 Z
(21)【出願番号】P 2021083922
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 将基
(72)【発明者】
【氏名】金澤 康平
(72)【発明者】
【氏名】高家 大
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-040506(JP,A)
【文献】特開2012-148247(JP,A)
【文献】特開2005-000801(JP,A)
【文献】特開2019-214020(JP,A)
【文献】特開2009-101262(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110436668(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107572687(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70- 1/78
C02F 1/52- 1/56
B01D 21/01
B01D 23/00-35/04
B01D 35/08-37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃液処理方法であって、
塗料含有廃液に含まれる第1固形成分を前記塗料含有廃液から分離して第1処理水を取り出す第1分離工程と、
前記第1分離工程の後に、前記第1処理水に含まれる有機物を酸化分解する酸化分解工程と、
前記酸化分解工程の後に、前記第1処理水に含まれる成分のうちで鉄化合物を含む第2固形成分を、前記第1処理水から分離して第2処理水を取り出す第2分離工程と、を備え、
前記酸化分解工程は、
前記第1処理水の温度が第1の温度に至るまで、前記第1分離工程が行われた前記第1処理水に対して第1処理を行う第1処理工程と、
前記第1処理工程の後に、前記第1処理水を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程によって前記第1処理水の温度が前記第1の温度よりも低い第2の温度に達したことを条件に、前記第1処理が行われた前記第1処理水に対して第2処理を行う第2処理工程と、を含み、
前記第1処理と前記第2処理とはそれぞれ、鉄触媒と過酸化水素とを用いたフェントン反応により生じるヒドロキシラジカルを利用して、前記第1分離工程が行われた前記第1処理水に含まれる前記有機物を酸化分解する処理である、廃液処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の廃液処理方法であって、
前記第1処理工程は、さらに、前記フェントン反応が開始される前に、前記第1分離工程が行われた前記第1処理水の温度を前記第2の温度よりも低い第3の温度に調節する温度調節工程を備える、廃液処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の廃液処理方法であって、
前記第1処理は、
前記第1分離工程が行われた前記第1処理水に対して、前記鉄触媒と前記過酸化水素とを添加する第1添加工程と、
前記第1添加工程の後に、前記第1処理水を攪拌する第1攪拌工程と、を含み、
前記第2処理は、
前記第1処理が行われた前記第1処理水に対して、前記鉄触媒と前記過酸化水素とのうちの前記過酸化水素を添加する第2添加工程と、
前記第2添加工程の後に、前記第1処理水を攪拌する第2攪拌工程と、を含む、廃液処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の廃液処理方法であって、
前記第1分離工程は、
(1a)前記塗料含有廃液に凝集剤を添加する第1凝集処理と、
(1b)前記第1凝集処理が行われた前記塗料含有廃液を静置して前記第1凝集処理によって生じた第1凝集物を沈降させると共に、前記第1凝集物と上澄み液としての第1上澄み液とを分離する第1分離処理と、
(1c)前記第1凝集物をフィルタで濾過することによって得られる濾液としての第1濾液と、残渣としての第1残渣とを分離する第1濾過処理と、を含み、
前記酸化分解工程が行われる前記第1処理水は、前記第1分離処理によって得られた前記第1上澄み液と、前記第1濾過処理によって得られた前記第1濾液と、によって構成され、
前記第2分離工程は、
(2a)前記第2処理が行われた前記第1処理水に前記凝集剤を添加する第2凝集処理と、
(2b)前記第2凝集処理が行われた前記第1処理水を静置して前記第2凝集処理によって生じた第2凝集物を沈降させると共に、前記第2凝集物と上澄み液としての第2上澄み液とを分離する第2分離処理と、
(2c)前記第2凝集物を前記フィルタで濾過することによって得られる濾液としての第2濾液と、残渣としての第2残渣とを分離する第2濾過処理と、を含み、
前記第2処理水は、前記第2分離処理において得られた前記第2上澄み液と、前記第2濾過処理によって得られた前記第2濾液と、によって構成される、廃液処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載の廃液処理方法であって、
前記鉄触媒は、硫酸第一鉄であり、
前記第1添加工程は、以下の式(1)を補正した以下の式(2)を用いて決定した量の前記硫酸第一鉄を前記第1処理水に添加する工程を含む、廃液処理方法。
y=ax+b 式(1)
y=ax+c 式(2)
上記式(1)において、xは前記第1添加工程において前記第1処理水1リットルに対して添加する前記硫酸第一鉄の添加量(mL/L)であり、yは前記第1処理と前記第2処理とが行われた前記第1処理水1リットルあたりの前記第2残渣の発生割合(%)であり、a,bはそれぞれ定数であり、
上記式(1)は、前記添加量に対する前記発生割合を示す複数の実測データを最小二乗法によって近似した式である。
上記式(2)において、定数cは、上記式(1)の定数bを予め定められた数値幅の分だけ加算した値である。
【請求項6】
廃液処理装置であって、
塗料含有廃液に含まれる第1固形成分を前記塗料含有廃液から分離して第1処理水を取り出す第1分離処理を行う凝集槽と、
前記第1分離処理の後に、酸化分解処理と第2分離処理とを行うためのフェントン槽と、
前記第1処理水の温度に応じて前記酸化分解処理の進行を制御する制御部と、を備え、
前記酸化分解処理は、
前記第1処理水の温度が第1の温度に至るまで、前記第1分離処理が行われた前記第1処理水に対して行う第1処理と、
前記第1処理の後に、前記第1処理水を冷却する冷却処理と、
前記冷却処理によって前記第1処理水の温度が前記第1の温度よりも低い第2の温度に達したことを条件に、前記第1処理が行われた前記第1処理水に対して行う第2処理と、を含み、
前記第1処理と前記第2処理とは、鉄触媒と過酸化水素とを用いたフェントン反応により生じるヒドロキシラジカルを利用して、前記第1分離処理が行われた前記第1処理水に含まれる有機物を酸化分解する処理であり、
前記第2分離処理は、前記第2処理が行われた前記第1処理水に含まれる成分のうちで鉄化合物を含む第2固形成分を、前記第1処理水から分離して第2処理水を取り出す処理である、廃液処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、廃液処理方法、および、廃液処理装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料廃水などの有機物含有廃水を処理する技術が知られている(特許文献1)。この技術では、有機物含有廃水を凝集処理して固形分を除去した後に、微生物による活性汚泥法によって生物易分解性の有機物を分解する。その後、オゾンや過酸化水素などの酸化剤を用いた促進酸化処理を行うことで、生物難分解性の有機物を分解する。これにより、有機物含有廃水のBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、塗料含有廃液のBODやCODが高い場合には、活性汚泥への負担が大きく、微生物の死滅などの理由によって、塗料含有廃液を継続的に処理できない場合が生じ得る。また、塗料含有廃液のBODやCODが高い場合における活性汚泥による処理時間は、化学反応による処理時間と比べて長くなる場合が生じ得る。よって、活性汚泥による処理とは異なる処理によって、塗料含有廃液のBODやCODを、短時間かつ継続的に所望の値まで低下させる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、廃液処理方法が提供される。この廃液処理方法は、塗料含有廃液に含まれる第1固形成分を前記塗料含有廃液から分離して第1処理水を取り出す第1分離工程と、前記第1分離工程の後に、前記第1処理水に含まれる有機物を酸化分解する酸化分解工程と、前記酸化分解工程の後に、前記第1処理水に含まれる成分のうちで鉄化合物を含む第2固形成分を、前記第1処理水から分離して第2処理水を取り出す第2分離工程と、を備え、前記酸化分解工程は、前記第1処理水の温度が第1の温度に至るまで、前記第1分離工程が行われた前記第1処理水に対して第1処理を行う第1処理工程と、前記第1処理工程の後に、前記第1処理水を冷却する冷却工程と、前記冷却工程によって前記第1処理水の温度が前記第1の温度よりも低い第2の温度に達したことを条件に、前記第1処理が行われた前記第1処理水に対して第2処理を行う第2処理工程と、を含み、前記第1処理と前記第2処理とはそれぞれ、鉄触媒と過酸化水素とを用いたフェントン反応により生じるヒドロキシラジカルを利用して、前記第1分離工程が行われた前記第1処理水に含まれる前記有機物を酸化分解する処理である。この形態によれば、微生物の生分解反応を利用した活性汚泥による処理とは異なる、化学反応を利用した処理によって、短時間かつ継続的に塗料含有廃液に含まれる有機物を酸化分解できる。また、この形態によれば、第1処理工程と第2処理工程との間に冷却工程を設けることで、フェントン反応に伴う第1処理水の過度な温度上昇を抑制できる。これにより、第1処理水の過度な温度上昇に伴い、酸化分解が阻害されることを抑制できるので、塗料含有廃液のBODやCODを所望の値まで低下させることができる。
(2)上記形態であって、前記第1処理工程は、さらに、前記フェントン反応が開始される前に、前記第1分離工程が行われた前記第1処理水の温度を前記第2の温度よりも低い第3の温度に調節する温度調節工程を備えてもよい。この形態によれば、第1処理水の温度を第2の温度よりも低くした後に、第1処理を実行する。これにより、第1処理水の温度がフェントン反応に伴って過度に上昇することを抑制できる。
(3)上記形態であって、前記第1処理は、前記第1分離工程が行われた前記第1処理水に対して、前記鉄触媒と前記過酸化水素とを添加する第1添加工程と、前記第1添加工程の後に、前記第1処理水を攪拌する第1攪拌工程と、を含み、前記第2処理は、前記第1処理が行われた前記第1処理水に対して、前記鉄触媒と前記過酸化水素とのうちの前記過酸化水素を添加する第2添加工程と、前記第2添加工程の後に、前記第1処理水を攪拌する第2攪拌工程と、を含んでもよい。この形態によれば、第2添加工程では、第1処理水に対して、鉄触媒と過酸化水素とのうちの過酸化水素を添加する。これにより、第2添加工程において添加する薬品の数を減らすことができる。また、この形態によれば、第1攪拌工程と第2攪拌工程とにおいて第1処理水を攪拌することにより、鉄触媒と過酸化水素とを用いたフェントン反応を進行させることができる。
(4)上記形態であって、前記第1分離工程は、(1a)前記塗料含有廃液に凝集剤を添加する第1凝集処理と、(1b)前記第1凝集処理が行われた前記塗料含有廃液を静置して前記第1凝集処理によって生じた第1凝集物を沈降させると共に、前記第1凝集物と上澄み液としての第1上澄み液とを分離する第1分離処理と、(1c)前記第1凝集物をフィルタで濾過することによって得られる濾液としての第1濾液と、残渣としての第1残渣とを分離する第1濾過処理と、を含み、前記酸化分解工程が行われる前記第1処理水は、前記第1分離処理によって得られた前記第1上澄み液と、前記第1濾過処理によって得られた前記第1濾液と、によって構成され、前記第2分離工程は、(2a)前記第2処理が行われた前記第1処理水に前記凝集剤を添加する第2凝集処理と、(2b)前記第2凝集処理が行われた前記第1処理水を静置して前記第2凝集処理によって生じた第2凝集物を沈降させると共に、前記第2凝集物と上澄み液としての第2上澄み液とを分離する第2分離処理と、(2c)前記第2凝集物を前記フィルタで濾過することによって得られる濾液としての第2濾液と、残渣としての第2残渣とを分離する第2濾過処理と、を含み、前記第2処理水は、前記第2分離処理において得られた前記第2上澄み液と、前記第2濾過処理によって得られた前記第2濾液と、によって構成されてもよい。この形態によれば、第1分離処理において塗料含有廃液に含まれる第1処理水としての第1上澄み液を取り出した後に、第1濾過処理によって、第1凝集物に含まれる第1処理水としての第1濾液を取り出す。また、この形態によれば、第2分離処理において第1処理水に含まれる第2処理水としての第2上澄み液を取り出した後に、第2濾過処理によって、第2凝集物に含まれる第2処理水としての第2濾液を取り出す。これにより、第1処理水と第2処理水とのそれぞれの回収率を向上させることができる。
(5)上記形態であって、前記鉄触媒は、硫酸第一鉄であり、前記第1添加工程は、以下の式(1)を補正した以下の式(2)を用いて決定した量の前記硫酸第一鉄を前記第1処理水に添加する工程を含んでもよい。
y=ax+b 式(1)
y=ax+c 式(2)
上記式(1)において、xは前記第1添加工程において前記第1処理水1リットルに対して添加する前記硫酸第一鉄の添加量(mL/L)であり、yは前記第1処理と前記第2処理とが行われた前記第1処理水1リットルあたりの前記第2残渣の発生割合(%)であり、a,bはそれぞれ定数であり、上記式(1)は、前記添加量に対する前記発生割合を示す複数の実測データを最小二乗法によって近似した式である。上記式(2)において、定数cは、上記式(1)の定数bを予め定められた数値幅の分だけ加算した値である。この形態によれば、式(2)を用いて、目標とする第2残渣の発生割合に対する硫酸第一鉄の添加量を容易に決定できる。
(6)本開示の他の形態によれば、廃液処理装置が提供される。この廃液処理装置は、塗料含有廃液に含まれる第1固形成分を前記塗料含有廃液から分離して第1処理水を取り出す第1分離処理を行う凝集槽と、前記第1分離処理の後に、酸化分解処理と第2分離処理とを行うためのフェントン槽と、前記第1処理水の温度に応じて前記酸化分解処理の進行を制御する制御部と、を備え、前記酸化分解処理は、前記第1処理水の温度が第1の温度に至るまで、前記第1分離処理が行われた前記第1処理水に対して行う第1処理と、前記第1処理の後に、前記第1処理水を冷却する冷却処理と、前記冷却処理によって前記第1処理水の温度が前記第1の温度よりも低い第2の温度に達したことを条件に、前記第1処理が行われた前記第1処理水に対して行う第2処理と、を含み、前記第1処理と前記第2処理とは、鉄触媒と過酸化水素とを用いたフェントン反応により生じるヒドロキシラジカルを利用して、前記第1分離処理が行われた前記第1処理水に含まれる有機物を酸化分解する処理であり、前記第2分離処理は、前記第2処理が行われた前記第1処理水に含まれる成分のうちで鉄化合物を含む第2固形成分を、前記第1処理水から分離して第2処理水を取り出す処理である。この形態によれば、微生物の生分解反応を利用した活性汚泥による処理とは異なる、化学反応を利用した処理によって、短時間かつ継続的に塗料含有廃液に含まれる有機物を酸化分解できる。また、この形態によれば、第1処理と第2処理との間に冷却処理を設けることで、フェントン反応に伴う第1処理水の過度な温度上昇を抑制できる。これにより、第1処理水の過度な温度上昇に伴い、酸化分解が阻害されることを抑制できるので、塗料含有廃液のBODやCODを所望の値まで低下させることができる。
本開示は、上記の廃液処理方法以外の種々の形態で実現することが可能である。例えば、廃液処理装置の製造方法、廃液処理装置の制御方法、その制御方法を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムに記録した一時的でない記録媒体などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の廃液処理装置の概略構成を示す図。
【
図2】第1実施形態の廃液処理方法を示すフローチャート。
【
図3】第1実施形態の第1分離工程の詳細を示すフローチャート。
【
図4】第1実施形態の第1処理工程の詳細を示すフローチャート。
【
図5】第1実施形態の第2処理工程の詳細を示すフローチャート。
【
図6】第1実施形態の第2分離工程の詳細を示すフローチャート。
【
図8】各工程におけるCODの推移を示したグラフ。
【
図9】1次凝集剤である硫酸バンドの適正添加量を説明するためのグラフ。
【
図10】過酸化水素の適正添加量を説明するためのグラフ。
【
図11】第1処理水の温度と過酸化水素の添加量との関係性を示すデータ。
【
図12】
図11に示す各条件下における第1処理水の温度の時間変化を示すグラフ。
【
図13】添加1回目と添加2回目とを実行するタイミングを説明するためのグラフ。
【
図14】硫酸第一鉄の適正添加量の選定方法を説明するためのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
A-1:廃液処理装置の構成
図1は、第1実施形態の廃液処理方法を実行する廃液処理装置1の概略構成を示す図である。
図1では、廃液処理装置1の構成要素の一部を代表して模式的に図示している。以下において、重力方向を下側、重力方向とは反対方向を上側とする。本実施形態の廃液処理装置1は、塗装工程などで生じた塗料を含有する廃液(以下、塗料含有廃液W)を処理する装置である。具体的には、廃液処理装置1は、廃液処理方法を行うことで、塗料含有廃液Wに含まれる有機物を分解して、生物化学的酸素要求量(以下、BOD)や化学的酸素要求量(以下、COD)を低下させる。BODやCODが高いほど、処理対象となる液体に含まれる有機物の量が多く、汚染の程度が大きいことを示す。すなわち、BODやCODの値が高いほど、未処理の状態で排出した場合に環境負荷が大きい。
【0009】
塗料含有廃液Wは、例えば、自動車を製造する過程で行われる塗装工程において、塗料の流路としての塗料配管を有機溶剤などで洗浄したときの廃液である。塗料は、例えば、水性塗料や油性塗料である。本実施形態では、塗料は水性塗料である。水性塗料は、水、顔料、染料、樹脂、界面活性剤、架橋剤、その他の有機物を含む。塗料配管を洗浄するための有機溶剤は、例えば、ラッカーシンナーや水性シンナー(ミネラルターペン)である。本実施形態では、塗料配管を洗浄するための有機溶剤は水性シンナーである。なお、塗料含有廃液Wは、生物難分解性成分が含まれるため、塗料含有廃液W中の有機物の量を測定するには、微生物を用いた測定であるBODよりも、化学反応(酸化剤を用いた酸化還元反応)を利用して測定するCODの方が好適である。よって、以下において、塗料含有廃液Wに含まれる有機物の量は、CODを用いて表す。本実施形態におけるCODの単位は、1Lの塗料含有廃液Wに含まれる被酸化性物質を、酸化剤を用いて一定の条件のもとで酸化するときに消費される酸化剤の量を、酸素量(mg)に換算したものである。本実施形態では、いずれの処理も実行されていない塗料含有廃液WのCODは、15000mg/L~19000mg/L程度である。
【0010】
廃液処理装置1は、廃液貯留タンク10と、薬品槽11と、凝集槽13と、フェントン槽15と、検査槽17と、2つの濾過装置60,60aと、制御部19と、を備える。廃液処理装置1は、廃液貯留タンク10、凝集槽13、フェントン槽15、検査槽17の順に塗料含有廃液Wを搬送させて、廃液処理方法を実行する。
【0011】
廃液貯留タンク10は、本実施形態の廃液処理方法を実行する対象となる塗料含有廃液Wを貯留する。廃液貯留タンク10と凝集槽13とを接続する配管には、ポンプ50が設けられている。これにより、廃液貯留タンク10は、制御部19の制御により、凝集槽13に向けて塗料含有廃液Wを排出する。
【0012】
薬品槽11は、凝集槽13とフェントン槽15とのそれぞれに対して供給する過酸化水素や凝集剤、触媒としての硫酸第一鉄などの薬品を貯留する。薬品槽11は、制御部19の制御により、凝集槽13とフェントン槽15とのそれぞれに対して予め定められた薬品を供給する。
【0013】
凝集槽13は、塗料含有廃液Wに含まれる固形成分と液体成分とを分離する。凝集槽13とフェントン槽15とを接続する配管には、ポンプ51が設けられている。本実施形態では、凝集槽13の容量は5m3である。
【0014】
各槽13,15,17にはそれぞれ検査装置20,20a,20bと、攪拌機40,40a,40bと、が設けられている。検査装置20,20a,20bは、各槽13,15,17に収容された液体のpHや温度、CODなどを測定する。検査装置20,20a,20bはそれぞれ、検知部210と、COD測定装置25と、採取部250と、表示部28と、を備える。
【0015】
検知部210は、液体のpHを測定する電極と温度センサとを備える。COD測定装置25は、採取部250から採取された各槽13,15,17内の液体を用いて、CODを測定する。採取部250は、各槽13,15,17に収容された液体に浸かった状態で設けられる。表示部28は、測定されたpHと、温度と、CODと、を表示する。
【0016】
攪拌機40,40a、40bは、各槽13,15,17に収容された液体を攪拌する。攪拌機40,40a、40bは、複数の羽を有する回転翼410,410a,410bと、回転の中心となる軸部420,420a,420bと、によって構成される。回転翼410,410a,410bは、制御部19の制御により、軸部420,420a,420bを中心として回転する。
【0017】
濾過装置60,60aは、固形成分と液体成分とを分離するための装置である。第1濾過装置60は、第1引抜配管610と、第1フィルタ620と、第1濾過室630と、を備える。第1濾過装置60は、凝集槽13の下面に設けられた開口に対して、第1引抜配管610を介して接続されている。
【0018】
第1引抜配管610は、凝集槽13で凝集された第1凝集物M1を引き抜いてフィルタ620上に移送するための配管である。配管の途中には、配管の流路を開閉する弁が設けられている。第1凝集物M1は、重力により、凝集槽13から第1引抜配管610を通って第1フィルタ620上へと移送される。
【0019】
第1フィルタ620は、凝集槽13から引き抜かれた第1凝集物M1を濾過するための濾布である。第1フィルタ620は、第1濾過室630の上端側に設けられる。本実施形態では、第1凝集物M1は、重力によって第1フィルタ620上に移送されて、固形成分と液体成分とが分離される自然濾過である。
【0020】
第1濾過室630は、第1フィルタ620を通過した第1処理水W1を貯留する。第1濾過室630は、フェントン槽15に接続されている。第1濾過室630に貯留された第1処理水W1は、ポンプ52によって、フェントン槽15に向けて移送される。
【0021】
フェントン槽15は、フェントン反応によって第1処理水W1に含まれる有機物を化学的に分解処理する工程を実行するための槽である。フェントン槽15と検査槽17とを接続する配管には、ポンプ53が設けられている。フェントン反応後の第2上澄み液W21は、検査槽17に向けて移送される。本実施形態では、フェントン槽15の容量は5m3である。フェントン槽15は、第2検査装置20aと、攪拌機40aと、濾過装置60aと、温度調節機構70と、を備える。フェントン槽15における第2検査装置20aと、攪拌機40aと、の構成および機能は、凝集槽13における第1検査装置20と、攪拌機40と、の機能および構成と同一であるため説明を省略する。
【0022】
第2濾過装置60aは、第2引抜配管610aと、第2フィルタ620aと、第2濾過室630aと、を備える。第2濾過装置60aは、フェントン槽15の下面に設けられた開口に対して、第2引抜配管610aを介して接続されている。
【0023】
第2引抜配管610aは、フェントン槽15で凝集された第2凝集物M2を引き抜いて第2フィルタ620a上に移送するための配管である。本実施形態では、第2凝集物M2は、重力により、フェントン槽15から第2引抜配管610aを通って第2フィルタ620a上へと移送される。
【0024】
第2フィルタ620aは、フェントン槽15から引き抜かれた第2凝集物M2を濾過するための濾布である。第2フィルタ620aは、第2濾過室630aの上端側に設けられる。本実施形態では、第2凝集物M2は、重力によって第2フィルタ620a上に移送されて、固形成分と液体成分とが分離される自然濾過である。
【0025】
第2濾過室630aは、第2フィルタ620aを通過した第2処理水W2を貯留する。第2濾過室630aは、検査槽17に接続されている。第2濾過室630aに貯留された第2処理水W2は、ポンプ54によって、検査槽17に移送される。
【0026】
温度調節機構70は、フェントン槽15に収容された液体の温度を調節する機能を有する。温度調節機構70は、例えば、熱交換器を介し、工業用水による間接熱交換機構によって構成される。温度調節機構70は、昇温させる場合はヒーターなどによる加熱機構を、冷却の場合は工業用水による熱伝達、チラーなどによる冷却機構を持つ。
【0027】
検査槽17は、第2処理水W2のpHとCODとを測定するための槽である。本実施形態では、検査槽17の容量は5m3である。検査槽17は、第3検査装置20bと、攪拌機40bと、を備える。検査槽17における第3検査装置20bと、攪拌機40bと、の構成および機能は、凝集槽13における第1検査装置20と、攪拌機40と、の機能および構成と同一であるため説明を省略する。
【0028】
制御部19は、以上において説明した廃液処理装置1の各構成要素の動作を制御する。制御部19は、例えば、第1処理水W1の温度に応じてフェントン槽15におけるフェントン反応の進行を制御する。
図1では、制御部19に制御される廃液処理装置1の各構成要素のうち、電気的な接続の態様の一部を代表して模式的に図示している。
【0029】
A-2:廃液処理方法
図2は、第1実施形態の廃液処理方法を示すフローチャートである。本実施形態では、
図2に示すステップS1~10を実行することで、塗料含有廃液Wを処理する。本実施形態では、活性汚泥を用いた生物処理を行う前処理として、廃液処理方法が実行される。本実施形態の廃液処理方法を実行した後の塗料含有廃液Wである第2処理水W2のCODの目標値は1000mg/L程度である。
【0030】
本実施形態の廃液処理方法では、まず、第1分離工程(ステップS1)が実行される。第1分離工程(ステップS1)が開始された場合に、廃液貯留タンク10に貯留されている塗料含有廃液Wは、凝集槽13(
図1)へと移送される。第1分離工程(ステップS1)では、塗料含有廃液Wに含まれる第1固形成分を塗料含有廃液Wから分離して第1処理水W1を取り出す。具体的には、塗料含有廃液Wに凝集剤を添加することで、塗料含有廃液Wに含まれる第1固形成分を取り除く。ここで言う第1固形成分は、例えば、塗料に含まれる顔料や一部の樹脂である。凝集槽13(
図1)から取り出された処理水は、第1処理水W1としてフェントン槽15(
図1)へと移送される。
【0031】
次に、第1分離工程(ステップS1)で取り出された第1処理水W1に含まれる有機物を酸化分解する酸化分解工程(ステップS4~ステップS8)が実行される。本実施形態では、第1処理が行われる第1処理工程(ステップS4)と、第2処理が行われる第2処理工程(ステップS8)とによって、第1分離工程(ステップS1)で取り出された第1処理水W1に含まれる有機物が酸化分解される。第1処理と、第2処理とはそれぞれ、鉄触媒と過酸化水素とを用いたフェントン反応によってヒドロキシラジカルを生成して、第1分離工程(ステップS1)が行われた後の第1処理水W1に含まれる有機物を酸化分解する処理である。ここで言うフェントン反応は、酸性条件下において、過酸化水素(H2O2)と、二価鉄イオン(Fe2+)と、が反応することで、強力な酸化力を有するヒドロキシラジカル(・OH)を生成する反応である。このとき、過酸化水素は酸化剤として機能する。二価鉄イオンを含む鉄触媒は、過酸化水素に対して触媒として機能する。よって、フェントン反応は、酸化還元反応を利用してヒドロキシラジカルを生成する反応とも言える。フェントン反応は、以下の式(3)で示される。また、生成したヒドロキシラジカルによって、第1処理水W1に含まれる有機物を分解する態様は、以下の式(4)で示される。
Fe2++H2O2→Fe3++OH-+・OH 式(3)
・OH+有機物→CO2(無機成分) 式(4)
【0032】
第1処理水W1の温度は、フェントン反応における反応熱によって上昇する。そのため、第1処理工程(ステップS4)と第2処理工程(ステップS8)との間には、第1処理水W1の温度を行う工程である冷却工程(ステップS6)を有する。冷却工程(ステップS6)では、第1処理工程(ステップS4)が行われた第1処理水W1の温度を第2の温度以下になるまで冷却する。本実施形態では、温度調節機構70(
図1)を用いて第1処理水W1を冷却する。第2の温度は、後の第2処理工程(ステップS8)を好適に実行するための第1処理水W1の温度である。本実施形態では、第2の温度は45℃(セ氏)である。このように、第1処理工程(ステップS4)と第2処理工程(ステップS8)との間に冷却工程(ステップS6)を設けて、フェントン反応を2回に分けて行うことにより、第1処理水W1の過度な温度上昇を抑制する。これにより、第1処理水W1の過度な温度上昇に伴い、酸化分解が阻害されることを抑制する。
【0033】
第2処理工程(ステップS8)の後に、第2分離工程(ステップS9)が実行される。第2分離工程(ステップS9)では、第2処理工程(ステップS8)が行われた第1処理水W1に含まれる第2固形成分を、第1処理水W1から分離して第2処理水W2を取り出す。ここで言う第2固形成分は、硫酸第一鉄由来の鉄化合物で構成される。フェントン槽15(
図1)から取り出された処理水は、第2処理水W2として検査槽17(
図1)へと移送される。
【0034】
次に、第2処理水W2に対して、検査工程(ステップS10)が実行される。検査工程(ステップS10)では、第3検査装置20b(
図1)によって、第2処理水W2のpHとCODとが測定される。検査工程(ステップS10)は、前述したステップS1~ステップS9までの処理によって、固形成分や有機物がどの程度除去されたかを確認する工程である。よって、検査工程(ステップS10)は、第2処理水W2の水質を確認する工程とも言える。検査工程(ステップS10)までの各工程を実行することによって、本実施形態の廃液処理方法は終了する。なお、検査工程(ステップS10)における第2処理水W2に対する測定項目は、これに限られるものではない。
【0035】
図3は、第1実施形態の第1分離工程(ステップS1)の詳細を示すフローチャートである。第1分離工程(ステップS1)では、まず、ステップS110において、塗料含有廃液WのpH調整を行う。ステップS110では、後の工程である第1凝集処理(ステップS120~ステップS130)において行われる1次凝集工程(ステップS120)に適したpHに塗料含有廃液Wが調整される。ステップS110では、塗料含有廃液Wに薬品槽11(
図1)が有する硫酸と水酸化ナトリウムとの少なくとも一方を添加することで、塗料含有廃液WのpHが6.5~7.5に調整される。
【0036】
ステップS110の後に、第1凝集処理を行う。本実施形態では、第1凝集処理は、1次凝集工程(ステップS120)と、pH調整(ステップS122)と、2次凝集工程(ステップS130)と、を含む。
【0037】
1次凝集工程(ステップ120)では、塗料含有廃液Wに含まれる有機物のうち、塗料含有廃液Wに分散した状態で存在する第1固形成分を凝集させる。第1固形成分は、水不溶性成分として塗料含有廃液Wに分散した状態で存在する。
【0038】
一般に、液体中に分散した状態で存在する固形成分の表面は、負に帯電しており、互いに反発する。そのため、固形成分は液体中において凝集しない。これに対して、1次凝集工程(ステップS120)では、正電荷を有する1次凝集剤を塗料含有廃液Wに添加する。これにより、負に帯電した固形成分(ここでは、第1固形成分)の表面の電荷が1次凝集剤によって中和されて凝集する。この第1固形成分の凝集により、第1固形成分の集合体としての基礎フロックが形成される。
【0039】
1次凝集剤は、第1固形成分を凝集させるための凝集剤であり、金属水酸化物等で構成される無機凝集剤である。無機凝集剤は、pHが中性付近の場合に、正電荷を有する。そのため、1次凝集工程(ステップS120)を開始する前の工程(ステップS110)において、pHを6.5~7.5に調整している。無機凝集剤は、例えば、アルミニウム系凝集剤や鉄系凝集剤である。本実施形態では、後のフェントン反応を生じさせる工程で添加される鉄触媒の量に影響を与えないように、1次凝集剤としてアルミニウム系凝集剤である硫酸バンドを用いる。
【0040】
本実施形態において、1次凝集工程(ステップS120)では、1Lの塗料含有廃液Wに対して硫酸バンド(酸化アルミニウム含有量8%品)を17.5mL添加する。このとき、塗料含有廃液Wは、攪拌機40(
図1)によって、300rpmの回転数で攪拌される。
【0041】
図3に示すように、ステップS120の後に、ステップS122において、塗料含有廃液WのpH調整を行う。ステップS122では、薬品槽11(
図1)が有する硫酸と水酸化ナトリウムとの少なくとも一方を添加することで、塗料含有廃液WのpHが6.5~7.5に調整される。
【0042】
ステップS122の後に、2次凝集工程(ステップS130)が実行される。2次凝集工程(ステップS130)では、塗料含有廃液Wに2次凝集剤を添加することで、第1固形成分の集合体としての基礎フロックをさらに凝集させる。具体的には、2次凝集工程(ステップS130)の開始時点において、基礎フロックを吸着させる性質を有する2次凝集剤を塗料含有廃液Wに添加して攪拌する。これにより、塗料含有廃液W中において基礎フロック同士が接触して吸着することによって凝集した粗大フロック(以下、第1凝集物M1)が形成される。ここで、後述するステップS150では、塗料含有廃液Wを静置して、第1凝集物M1を沈降分離させることで固液分離を行う。このとき、塗料含有廃液W中に含まれる基礎フロックの大きさは、大きければ大きいほど自重によって沈降しやすい。そのため、本実施形態では、無機凝集剤によって基礎フロックを形成させた後に、2次凝集工程(ステップS130)を設けて基礎フロックの集合体としての第1凝集物M1を形成させている。
【0043】
2次凝集剤は、基礎フロックを凝集させるための高分子凝集剤である。高分子凝集剤には、例えば、アニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤など種類がある。アニオン系高分子凝集剤には、例えば、アクリルアミド系ポリマーがある。2次凝集剤の種類を選択する際は、1次凝集工程(ステップS120)と2次凝集工程(ステップS130)との間において、塗料含有廃液WのpHを大きく変動させることなく使用できる高分子凝集剤を2次凝集剤として使用するのが好ましい。本実施形態では、ステップS110において、塗料含有廃液WのpHを6.5~7.5(中性付近)に調整している。そこで、2次凝集工程(ステップS130)において使用する高分子凝集剤としては、中性付近の溶液の処理に適した高分子凝集剤が好適である。本実施形態では、中性からアルカリ性の溶液の処理に適しており、塗料含有廃液Wにおいて凝集性が良好であるアニオン系高分子凝集剤を2次凝集剤として用いる。
【0044】
本実施形態において、2次凝集工程(ステップS130)では、1Lの塗料含有廃液Wに対してアニオン系高分子凝集剤を6mL添加する。このとき、塗料含有廃液Wは、攪拌機40(
図1)によって、180rpmの回転数で攪拌される。
【0045】
ステップS150において、塗料含有廃液Wに含まれる第1凝集物M1を塗料含有廃液Wから分離して第1処理水W1を取り出す。ステップS150では、第1分離処理と、第1濾過処理と、がこの順に実行される。
【0046】
第1分離処理では、第1凝集処理(ステップS120~ステップS130)が行われた塗料含有廃液Wに含まれる第1凝集物M1と、上澄み液としての第1上澄み液W11とを、凝集槽13(
図1)を用いて分離する。具体的には、攪拌機40(
図1)の駆動を停止して塗料含有廃液Wを静置することで、第1凝集物M1を自重により凝集槽13(
図1)の下面に沈降させる。これにより、第1上澄み液W11と、第1凝集物M1とが分離される。
【0047】
第1濾過処理では、第1凝集物M1と、第1凝集物M1と共に第1濾過装置60(
図1)に移送された第1上澄み液W11とを、第1濾過装置60(
図1)を用いて分離する。第1濾過処理では、凝集槽13(
図1)から移送されてきた第1凝集物M1と、第1上澄み液W11と、が第1フィルタ620(
図1)上に載置される。この状態において、予め定められた時間だけ放置すると、第1フィルタ620(
図1)上に第1残渣M11が溜まる。第1残渣M11は、ステップS165において、焼却処分される。
【0048】
一方で、濾液としての第1濾液W110は、第1フィルタ620(
図1)を通過して、第1濾過室630(
図1)に貯留される。ここでは、第1分離処理で得られた第1上澄み液W11と、第1濾過処理で得られた第1濾液W110と、を総称して第1処理水W1としている。第1処理水W1としての第1濾液W110は、ステップS175において、フェントン槽15(
図1)へと移送される。なお、第1濾過処理は省略してもよい。
【0049】
ステップS110からステップS175までの実行により、本実施形態の第1分離工程(ステップS1)は終了する。本実施形態では、第1分離工程(ステップS1)の所要時間は、約6時間である。第1分離工程(ステップS1)が行われた第1処理水W1のCODは、5000mg/L~6000mg/L程度である。なお、第1分離工程(ステップS1)における1次凝集剤および2次凝集剤の種類および添加量、塗料含有廃液WのpH、攪拌機40(
図1)の回転数、凝集の態様等の各種条件はこれに限られるものではない。
【0050】
図4は、第1実施形態の第1処理工程(ステップS4)の詳細を示すフローチャートである。第1処理工程(ステップS4)では、まず、ステップS410において、第1処理水W1のpH調整を行う。ステップS410では、後の工程である第1処理(ステップS430およびステップS450)において行われるフェントン反応に適したpHに第1処理水W1が調整される。ステップS410では、第1処理水W1に薬品槽11(
図1)が有する硫酸を添加することで、第1処理水W1のpHが2.5~3.5に調整される。
【0051】
ステップS410の後に、温度調節工程(ステップS420)が実行される。温度調節工程(ステップS420)は、第1処理水W1の温度が予め定められた第3の温度になるように調節する工程である。本実施形態では、第3の温度は30℃である。なお、本実施形態では、第3の温度は、第2の温度(本実施形態では45℃)以下とすることが好ましい。このようにすれば、第1処理を行う第1処理水W1の温度がフェントン反応に伴って過度に上昇することを抑制できる。なお、温度調節工程(ステップS420)は省略可能である。
【0052】
ステップS420の後に、第1添加工程(ステップS430)が実行される。第1添加工程(ステップS430)は、フェントン反応に必要となる薬品をフェントン槽15(
図1)内の第1処理水W1に添加する工程である。第1添加工程(ステップS430)では、消泡剤と、鉄触媒と、酸化剤としての過酸化水素と、を添加する。
【0053】
第1添加工程(ステップS430)では、まず、消泡剤を第1処理水W1に添加する。消泡剤は、例えば、シリコーン系やポリエーテル系で構成される薬品である。本実施形態では、第1処理水W1に対する消泡剤の濃度は、100ppm以上としている。次に、鉄触媒を第1処理水W1に添加する。本実施形態では、鉄触媒は、二価鉄イオンを含む硫酸第一鉄である。本実施形態では、1Lの第1処理水W1に対して、硫酸第一鉄を17mL添加する。次に、過酸化水素を第1処理水W1に添加する。本実施形態では、1Lの第1処理水W1に対して、35wt%過酸化水素を110mL添加する。
【0054】
ステップS430の後に、第1攪拌工程(ステップS450)が実行される。第1攪拌工程(ステップS450)では、第1処理水W1を攪拌することで、フェントン反応を進行させる。よって、第1添加工程(ステップS430)と、第1攪拌工程(ステップS450)と、をこの順に実行することで、第1処理水W1中でフェントン反応が進行する。第1攪拌工程(ステップS450)において、第1処理水W1は、攪拌機40a(
図1)によって、300rpmの回転数で攪拌される。以下において、第1添加工程(ステップS430)と、第1攪拌工程(ステップS450)と、をまとめて、第1処理と呼ぶ。
【0055】
第1処理において、第1処理水W1の温度は、反応熱によって上昇し、最大値(ピーク温度)に達する。その後、第1処理水W1の温度は下降する。本実施形態では、第1処理水W1の温度が80℃となった場合に、第1攪拌工程(ステップS450)を終了することで、第1処理が終了する。以下において、第1処理の終了時点における第1処理水W1の温度を第1の温度と呼ぶ。
【0056】
図5は、第1実施形態の第2処理工程(ステップS8)の詳細を示すフローチャートである。第2処理工程(ステップS8)では、第1処理工程(ステップS4)と同様にフェントン反応が実行されるため、第1処理水W1のpHは酸性側となっている必要がある。このとき、第1処理水W1のpHは、ステップS410(
図4)においてpH調整を行った後に大きく変動することなく酸性側の状態で維持されている。よって、第2処理工程(ステップS8)の開始時点において、第1処理水W1のpHの調整は行う必要がない。
【0057】
第2処理工程(ステップS8)では、まず、第2添加工程(ステップS830)が実行される。第2添加工程(ステップS830)は、第1処理水W1に対して、鉄触媒と過酸化水素とのうちの過酸化水素を再度添加する工程である。本実施形態では、第2添加工程(ステップS830)において、35wt%過酸化水素を第1処理水W1に110mL添加する。これにより、フェントン反応が開始される。
【0058】
硫酸第一鉄はフェントン反応の触媒として機能するため、第1処理水W1中の硫酸第一鉄の残存量は、第1処理の開始時点と第2処理の開始時点とで大きな増減は見られない。よって、過酸化水素のように複数回に分けて添加する必要はない。本実施形態では、第1処理水W1に対する硫酸第一鉄の添加は、第2添加工程(ステップS830)においては行わず、第1添加工程(
図4のステップS430)においてのみ行う。このようにすれば、第2添加工程(ステップS830)において添加する薬品の数を減らすことができる。なお、硫酸第一鉄は、第1添加工程(ステップS430)と、第2添加工程(ステップS830)と、の2回に分けて添加してもよい。また、第2添加工程(ステップS830)では、第1処理水W1に対して、再度消泡剤を添加してもよい。
【0059】
ステップS830の後に、第2攪拌工程(ステップS850)が実行される。第2攪拌工程(ステップS850)では、第1処理水W1を攪拌することで、フェントン反応を進行させる。よって、第2添加工程(ステップS830)と、第2攪拌工程(ステップS850)と、をこの順に実行することで、第1処理水W1中でフェントン反応が進行する。第2攪拌工程(ステップS850)において、第1処理水W1は、攪拌機40a(
図1)によって、300rpmの回転数で攪拌される。以下において、第2添加工程(ステップS830)と、第2攪拌工程(ステップS850)と、をまとめて、第2処理と呼ぶ。
【0060】
第2処理において、第1処理水W1の温度は、反応熱によって上昇し、最大値(ピーク温度)に達する。その後、第1処理水W1の温度は、下降する。よって、本実施形態では、第1処理水W1の温度が第1の温度としての80℃となった時点で第2攪拌工程(ステップS850)を終了することで、第2処理が終了する。
【0061】
図6は、第1実施形態の第2分離工程(ステップS9)の詳細を示すフローチャートである。第2分離工程(ステップS9)では、まず、ステップS910において、第1処理水W1のpH調整を行う。ステップS910では、後の工程である第2凝集処理(ステップS920)に適したpHに第1処理水W1を調整する。ステップS910では、第1処理水W1に薬品槽11(
図1)が有する水酸化ナトリウムを添加することで、第1処理水W1のpHが6.5~7.5に調整される。
【0062】
ステップS910の後に、第2凝集処理(ステップS920)を実行する。第2凝集処理(ステップS920)では、第2処理工程(ステップS8)が行われた第1処理水W1に凝集剤を添加することで、第1処理水W1に含まれる第2固形成分を取り除く。第2固形成分は、水不溶性成分として第1処理水W1に分散した状態で存在する。
【0063】
第2凝集処理(ステップS920)において、第1処理水W1に添加する凝集剤は、高分子凝集剤である。本実施形態では、表面に正電荷を有する鉄化合物を含む第2固形成分を凝集させるため、この正電荷を中和して凝集させることができるアニオン系高分子凝集剤を用いる。本実施形態において、第2凝集処理(ステップS920)では、1Lの第1処理水W1に対してアニオン系高分子凝集剤を4mL添加する。このとき、第1処理水W1は、攪拌機40a(
図1)によって、180rpmの回転数で攪拌される。
【0064】
ステップS950において、第1処理水W1に含まれる第2凝集物M2を第1処理水W1から分離して第2処理水W2を取り出す。ステップS950では、第2分離処理と、第2濾過処理と、がこの順に実行される。
【0065】
第2分離処理では、第2凝集処理(ステップS920)が行われた第1処理水W1に含まれる第2凝集物M2と、上澄み液としての第2上澄み液W21とを、フェントン槽15(
図1)を用いて分離する。具体的には、攪拌機40a(
図1)の駆動を停止して第1処理水W1を静置することで、第2凝集物M2を自重によりフェントン槽15(
図1)の下面に沈降させる。これにより、第2上澄み液W21と、第2凝集物M2とを分離する。
【0066】
第2濾過処理では、第2凝集物M2と、第2凝集物M2と共に第2濾過装置60a(
図1)に移送された第2上澄み液W21とを、第2濾過装置60a(
図1)を用いて分離する。第2濾過処理では、フェントン槽15(
図1)から移送されてきた第2凝集物M2と、第2上澄み液W21と、が第2フィルタ620a(
図1)上に載置される。この状態において、予め定められた時間だけ放置すると、第2フィルタ620a(
図1)上に残渣としての第2残渣M21が留まる。第2残渣M21は、ステップS965において、焼却処分される。
【0067】
一方で、濾液としての第2濾液W210は、第2フィルタ620a(
図1)を通過して、第2濾過室630a(
図1)に貯留される。ここでは、第2分離処理で得られた第2上澄み液W21と、第2濾過処理で得られた第2濾液W210と、を総称して第2処理水W2としている。第2処理水W2としての第2濾液W210は、ステップS975において、検査槽17(
図1)へと移送される。なお、第2濾過処理は省略してもよい。
【0068】
ステップS910からステップS975までの実行により、本実施形態の第2分離工程(ステップS9)は終了する。本実施形態では、第1処理工程(ステップS4)の開始時点から第2処理工程(ステップS8)の終了時点までの所要時間は、約9時間である。
【0069】
第2分離工程(ステップS9)の後に、検査工程(ステップS10)が実行される。
図7は、検査工程(ステップS10)の詳細を示すフローチャートである。ステップS1100において、第2処理水W2のCODが目標値以下であるか否かを判定する。第2処理水W2のCODは、第3検査装置20b(
図1)によって測定される。制御部19は、第2処理水W2のCODを第3検査装置20b(
図1)から取得して、ステップS1100を実行する。
【0070】
ステップS1100において「Yes」の判定が成された場合には、本実施形態の廃液処理方法の全工程を終了する。ステップS1100において「No」の判定が成された場合には、再フェントン工程(ステップS1200)が実行される。
【0071】
再フェントン工程(ステップS1200)は、第2処理水W2のCODが目標値以下となるように、再度第1処理と第2処理とを実行する工程である。再フェントン工程(ステップS1200)における過酸化水素の添加条件は、再フェントン工程(ステップS1200)実行前における第2処理水W2のCODに応じて決定すればよい。例えば、第2処理水W2のCODと目標値との差が予め定められた値未満である場合には、第1添加工程(ステップS430)および第2添加工程(ステップS830)よりも少ない量の過酸化水素を添加して、フェントン反応を1回のみ実行してもよい。また、再フェントン工程(ステップS1200)は、フェントン槽15(
図1)とは別の槽で実行されてもよい。
【0072】
ステップS1300において、再フェントン工程(ステップS1200)実行後の第2処理水W2のCODが目標値以下であるか否かを判定する。ステップS1300において「Yes」の判定が成された場合には、本実施形態の廃液処理方法の全工程を終了する。ステップS1300において「No」の判定が成された場合には、再び再フェントン工程(ステップS1200)が実行される。
【0073】
A-3:各工程の実行によるCODの推移
図8は、各工程におけるCODの推移を示したグラフである。
図8では、いずれの処理も実行されていない塗料含有廃液Wと、
図2に示す第1分離工程(ステップS1)後の第1処理水W1と、
図2に示す第2分離工程(ステップS9)後の第2処理水W2と、のCODをこの順で示している。
図8では、生物処理の前処理としての位置づけである、本実施形態の廃液処理方法を実行した後に、第2処理水W2に対して、活性汚泥を用いた生物処理工程を行った場合のCODを併せて記載している。
【0074】
第1分離工程(ステップS1)後の第1処理水W1のCODは、5000mg/L~6000mg/L程度となっている。すなわち、第1分離工程(ステップS1)において、塗料含有廃液Wから第1固形成分を取り除くことで、塗料含有廃液WのCODを5000mg/L~6000mg/L程度まで低下させることができる。
【0075】
第2分離工程(ステップS9)後の第2処理水W2のCODは、800mg/L~1000mg/L程度となっている。すなわち、第1処理(
図4)と、第2処理(
図5)と、によって、第1処理水W1に含まれる有機物を酸化分解した後に、第2分離工程(ステップS9)において、第2固形成分を取り除くことで、塗料含有廃液WのCODを800mg/L~1000mg/L程度まで低下させることができる。よって、活性汚泥への負荷を下げた状態において、本実施形態の廃液処理方法を実行した後の第2処理水W2を生物処理できる。さらに、本実施形態の廃液処理方法は、化学反応を利用した処理であるため、第2処理水W2に含まれる生物難分解性物質の量が低減されている。よって、活性汚泥を用いた場合の生分解性を向上させることができる。さらに、本実施形態の廃液処理方法を実行した後の第2処理水W2に含まれる有機物を、活性汚泥を用いて生物処理した場合、第2処理水W2のCODを600mg/L以下にまで低下させることができる。
【0076】
上記実施形態によれば、凝集剤を添加して分離処理を行うことで第1固形成分と第2固形成分とを取り出す工程と、フェントン反応を利用して有機物を酸化分解する工程と、を組み合わせることで、塗料含有廃液WのCODを所望の値まで低下させることができる。すなわち、微生物の生分解反応を利用した活性汚泥による処理とは異なる、化学反応を利用した処理によって、塗料含有廃液WのBODやCODを所望の値まで低下させることができる。これにより、活性汚泥への負荷を下げた状態において、生物処理を実行することができる。そのため、活性汚泥を構成する微生物の死滅などの可能性を低減することができる。また、これにより、活性汚泥による処理時間を短縮することができる。これらによって、塗料含有廃液Wを短時間かつ継続的に処理できる。
【0077】
また、上記実施形態によれば、第1処理工程(ステップS4)と第2処理工程(ステップS8)との間に冷却工程(ステップS6)を設けることで、フェントン反応に伴う第1処理水W1の過度な温度上昇を抑制できる。これにより、第1処理水W1の過度な温度上昇に伴い、酸化分解が阻害されることを抑制できるので、塗料含有廃液WのBODやCODを所望の値まで低下させることができる。
【0078】
また、上記実施形態によれば、化学反応を利用した処理によって、塗料含有廃液WのBODやCODを所望の値まで低下させた後に、生物処理を実行する。このとき、化学反応を利用した処理によって、第2処理水W2に含まれる生物難分解性物質の量は低減されている。そのため、活性汚泥を用いた場合の生分解性を向上させることができる。
【0079】
また、上記実施形態によれば、化学反応を利用した処理によって、塗料含有廃液WのBODやCODを所望の値まで低下させた後に、生物処理を実行する。これにより、生物処理によって発生する余剰汚泥の量を低減させることができる。すなわち、塗料含有廃液Wの処理における廃棄物の量を低減させることができる。
【0080】
また、上記実施形態によれば、フェントン反応を利用して有機物を酸化分解する工程を2回に分けて行う。これにより、第1処理水W1の温度が過度に上昇する前にフェントン反応を行うことで、塗料含有廃液WのCODを所望の値である1000mg/L程度まで低下させることができる。
【0081】
また、上記実施形態によれば、凝集剤を添加して固形成分の分離処理を行う分離工程と、フェントン反応を利用して有機物を酸化分解する酸化分解工程と、を組み合わせることで、塗料含有廃液WのCODを1000mg/L程度まで低下させる。このとき、分離工程の所要時間は約6時間であり、酸化分解工程の所要時間は約9時間である。よって、塗料含有廃液Wを1日ごとに連続して処理することができる。
【0082】
また、上記実施形態によれば、第1処理工程(ステップS4)では、第1処理水W1の温度を第2の温度よりも低い第3の温度に調節する温度調節工程(ステップS420)を有する。これにより、第1処理水W1の温度がフェントン反応に伴って過度に上昇することを抑制できる。
【0083】
また、上記実施形態によれば、第1攪拌工程(ステップS450)と、第2攪拌工程(ステップS850)と、において第1処理水W1を攪拌することにより、鉄触媒と過酸化水素とを用いたフェントン反応を進行させることができる。
【0084】
また、上記実施形態によれば、第1分離処理において塗料含有廃液Wに含まれる第1処理水W1としての第1上澄み液W11を取り出した後に、第1濾過処理によって、第1凝集物M1に含まれる第1処理水W1としての第1濾液W110を取り出す。また、この形態によれば、第2分離処理において第1処理水W1に含まれる第2処理水W2としての第2上澄み液W21を取り出した後に、第2濾過処理によって、第2凝集物M2に含まれる第2処理水W2としての第2濾液W210を取り出す。これにより、第1処理水W1と第2処理水W2とのそれぞれの回収率を向上させることができる。
【0085】
また、上記実施形態によれば、廃液処理装置1の主な構成要素は、薬品槽11、凝集槽13、フェントン槽15、および、濾過装置60,60aである。すなわち、本実施形態の廃液処理方法は、シンプルな設備構成で実行することができる。これにより、低コストで廃液処理装置1を構築することができる。
【0086】
B.他の実施形態:
B-1.他の実施形態1:
上記実施形態では、1Lの第1処理水W1に対して35wt%過酸化水素を合計で220(mL/廃液1L)添加することで、第2処理水W2のCODを1000mg/L程度まで低下させていた。しかし、本開示は、これに限られるものではない。第1処理水W1に添加する過酸化水素の量を増やすことで、第1処理水W1のCODをより低下させることができる。例えば、
図4の第1添加工程(ステップS430)と、
図5の第2添加工程(ステップS830)と、において第1処理水W1に添加する過酸化水素の量をそれぞれ増やしてもよい。1回あたりの過酸化水素の添加量を一定(例えば、110mL/廃液1L)にした状態で、フェントン反応を行う回数を3回以上に増やしてもよい。
【0087】
このような形態であれば、第2処理水W2のCODを100mg/Lまで低下させることができる。よって、生分解反応を利用した生物処理を実行することなく、化学反応を利用した処理のみで、塗料含有廃液WのCODを所望の値まで低下させることができる。
【0088】
B-2:他の実施形態2:
上記実施形態では、
図2に示す冷却工程(ステップS6)において、温度調節機構70(
図1)を用いて第1処理水W1の温度が第2の温度以下になるまで冷却していた。しかし、本開示は、これに限られるものではない。冷却工程(ステップS6)では、例えば、大気との熱交換によって第1処理水W1を冷却する自然空冷であってもよい。このような形態であっても、
図4に示す第1処理工程(ステップS4)が行われた第1処理水W1の温度を第2の温度以下になるまで冷却させることができる。
【0089】
C.好ましい添加条件
C-1.1次凝集剤の好ましい添加量
図9は、1次凝集剤である硫酸バンドの適正添加量を説明するためのグラフである。本測定では、塗料含有廃液Wに添加する硫酸バンドの添加量を変化させた場合に、塗料含有廃液Wにおける有機物の除去率をそれぞれ測定している。本測定では、硫酸バンドの直接的な効果を確認するために、硫酸バンドを塗料含有廃液Wに添加した後に、塗料含有廃液Wを静置して基礎フロックを沈降分離させて、得られた上澄み液のCODを測定している。
【0090】
図9の横軸は、1Lの塗料含有廃液Wに対して添加した硫酸バンドの添加量を表している。
図9では、硫酸バンドの添加量の単位を(mL/廃液1L)としている。
図9の縦軸は、COD除去率を表している。ここで言うCOD除去率は、硫酸バンドを添加する前の塗料含有廃液WのCODに対して、本測定の上澄み液のCODがどの程度低下したかを百分率で表した数値である。すなわち、
図9の縦軸に示す上澄み液のCOD除去率の分だけ、硫酸バンドの添加により第1固形成分が凝集されたことを示している。
【0091】
図9では、1Lの塗料含有廃液Wに添加する硫酸バンドの添加量のみを変化させて測定したときのデータを示している。その他の条件については、第1分離工程(ステップS1)の各条件と同様としている。本測定では、塗料含有廃液WのCODが15000mg/L~19000mg/L程度である場合について検討している。本測定では、
図9に示すように、塗料含有廃液Wに対する硫酸バンドの添加量を段階的に増やした場合に、以下のような傾向が見られた。硫酸バンドの添加量を5.0mLから17.5mLに増やした場合、上澄み液のCOD除去率は25%向上した。一方で、硫酸バンドの添加量17.5mLから35.0mLに増やしても、上澄み液のCOD除去率は3%向上するに留まり、上澄み液のCOD除去率の大幅な向上は見られなかった。すなわち、本測定では、硫酸バンドを添加することで塗料含有廃液Wに含まれる第1固形成分を凝集させる場合において、1Lの塗料含有廃液Wに対して17.5mLよりも多く硫酸バンドを添加しても、顕著な効果は得られなかった。以上のことから、1Lの塗料含有廃液Wに対する硫酸バンドの添加量の上限は、17.5mL以下であることが好ましい。これにより、硫酸バンドの添加量を抑制しつつ、第1固形成分の凝集効果を得ることができる。なお、上記実施形態では、硫酸バンドの添加量は17mLとしている。
【0092】
C-2.フェントン反応で用いる過酸化水素の好ましい添加量
図10は、過酸化水素の適正添加量を説明するためのグラフである。本測定では、第1処理水W1に添加する過酸化水素の添加量を変化させた場合に、第1処理水W1のCODをそれぞれ測定することで、過酸化水素の適正添加量を検討した。本測定では、第1処理水W1のCODが6000mg/Lである場合について検討している。
【0093】
図10の横軸は、1Lの第1処理水W1に対して添加した過酸化水素の添加量を表している。
図10では、過酸化水素の添加量の単位を(mL/廃液1L)としている。また、本測定では、35wt%過酸化水素を使用している。
図10の縦軸は、第1処理水W1に含まれる有機物の分解率をCOD分解率として表している。ここで言うCOD分解率は、フェントン反応が起こる前の第1処理水W1のCODに対して、フェントン反応が起こった後に、第2分離工程(ステップS9)と同様の方法で鉄化合物を除去した第2処理水W2のCODが、どの程度低下したかを百分率で表した数値である。すなわち、
図10の縦軸に示すCOD分解率の分だけ、ヒドロキシラジカルによって第1処理水W1に含まれていた有機物が分解されたことを示している。
【0094】
図10では、1Lの第1処理水W1に添加する過酸化水素の添加量のみを変化させて測定したときのデータを示している。その他の条件については、第1実施形態の第1処理工程(ステップS4)の各条件と同様としている。本測定では、
図10に示すように、第1処理水W1に対する過酸化水素の添加量を段階的に増やした場合に、過酸化水素の添加量が多いほどCOD分解率が高くなる傾向が見られた。すなわち、過酸化水素の添加量に比例して、ヒドロキシラジカルによる有機物の酸化分解が促進される傾向が見られた。
【0095】
上記実施形態では、第2処理水W2のCODを1000mg/L程度まで低下させることを目標としている。
図10に示す例では、COD分解率が84%のとき、第2処理水W2のCODが960mg/Lとなっており、このときの過酸化水素の添加量は220mLである。よって、CODが6000mg/L程度の第1処理水W1に含まれる有機物をフェントン反応によって酸化分解し、第2処理水W2のCODを1000mg/L程度まで低減させるためには、次のようにすればよい。すなわち、1Lの第1処理水W1に対して、220mLの35wt%過酸化水素を添加すればよい。よって、上記実施形態では、1Lの第1処理水W1に対する35wt%過酸化水素の添加量を合計で220mLとしている。
【0096】
ここで、過酸化水素は、特定の要素に起因して、水と酸素とに分解する性質を有する。ここで発生する酸素は、気体状の酸素ガスである。過酸化水素の分解反応を以下の式(5)に示す。過酸化水素の分解に起因する特定の要素は、例えば、濃度、温度などである。過酸化水素は、溶液中、ここでは第1処理水W1中の過酸化水素の濃度が高くなるほど分解しやすくなる。また、過酸化水素は、第1処理水W1の温度が高くなるほど分解しやすくなる。具体的には、過酸化水素を含む溶液の温度が60℃以上となった場合に、式(5)に示す分解反応が活発に進行する。
2H2O2→2H2O+O2 式(5)
【0097】
第1処理水W1の有機物をヒドロキシラジカルによって酸化分解する過程(前述の式(4))では、反応熱が生じる。また、第1処理水W1に対する過酸化水素の添加量が多いほど、式(4)に示す酸化分解は促進される。すなわち、過酸化水素の添加量の増大に伴って、反応熱は大きくなる。例えば、初期温度が30℃である1Lの第1処理水W1に対して、過酸化水素を198mL添加した場合、第1処理水W1の温度は80℃以上に達する。反応熱によって第1処理水W1の温度が60℃以上となった場合、未反応の状態で第1処理水W1に含まれる過酸化水素は、式(5)の分解反応を起こしやすい。
【0098】
過酸化水素の自己分解によって生成した酸素ガスは、フェントン槽15(
図1)内に滞留する。この酸素ガスによって、第1処理水W1の急激な膨張と、フェントン槽15(
図1)の内圧上昇とが生じる。よって、安全にフェントン反応を進行させるためには、式(5)に示した過酸化水素の分解反応を最小限にすることが好ましい。以下において、1Lの第1処理水W1に対して、過酸化水素を220mL添加する場合における過酸化水素の適正な添加条件を、
図11~
図13を用いて説明する。
【0099】
図11は、第1処理水の温度と過酸化水素の添加量との関係性を示すデータである。
図11では、本測定の条件と結果とをそれぞれ示している。
図11では、条件X1~X9でのそれぞれにおいて、第1処理水W1がフェントン反応に伴ってピーク温度に達するまでの時間と、ピーク温度と、酸素発生量と、第1処理水W1の膨張の有無と、を示す。
図11の測定結果を用いることで、過酸化水素の分解反応を最小限にするための添加条件を決定できる。条件X1~X9は、第1処理水W1の初期温度と、第1処理水W1に対して添加する35wt%過酸化水素の添加量と、がそれぞれ異なる。
図11の「初期温度」は、ステップS420後の第1処理水W1の温度を表している。
図11の「ピーク温度に達するまでの時間」は、第1処理水W1の温度が最大値となるまでの時間を分単位で表している。
図11の「ピーク温度」は、第1処理水W1の温度が最大値となったときの値を表している。
図11の「酸素発生量」は、1Lの第1処理水W1に対して、条件X1~X9でフェントン反応を行った場合に、発生する酸素ガスの量を表している。酸素発生量の単位は(L/廃液1L)である。なお、本測定では、1Lの第1処理水W1に対して、硫酸第一鉄を17mL添加している。
【0100】
図12は、
図11に示す各条件下における第1処理水W1の温度の時間変化を示すグラフである。
図12では、
図11のピーク温度に達するまでの時間と、ピーク温度と、を条件X1~X9ごとに可視化している。
図12には、
図11における条件X1~X9に対応する符号を付している。
図12では、条件X1~X9のそれぞれについて、フェントン反応の開始からの経過時間と第1処理水W1の温度との関係を示している。
図12の横軸は、過酸化水素を添加することで、フェントン反応が開始された時点からの経過時間を表している。
図12では、経過時間を30分単位で示している。
図12の縦軸は、第1処理水W1の温度を表している。なお、
図11のピーク温度は、
図12の条件X1~X9に係る各グラフの頂点における第1処理水W1の温度と一致する。また、
図11のピーク温度に達するまでの時間は、
図12において、条件X1~X9に係る各グラフの頂点における経過時間と一致する。
【0101】
条件X1,X4,X7は、第1実施形態における過酸化水素の添加量(220mL)に最も近い条件である。条件X1,X4,X7では、
図11および
図12に示すように、いずれの条件においても、第1処理水W1の顕著な温度上昇が見られた。初期温度が条件X7よりも高い条件X1,X4では、
図11に示すように、第1処理水W1の膨張も見られた。
【0102】
一方で、条件X7では、
図11に示すように、第1処理水W1の膨張は見られなかった。第1処理水W1の膨張が見られた他の条件X1,X2,X4,X5と比較すると、
図12に示すように、条件X7は、他の条件X1,X2,X4,X5と比べて、ピーク温度に達するまでの時間が長い。さらに、酸素発生量について、条件X5と条件X7とを比較した場合、条件X5よりも条件X7の方が多いにも関わらず、条件X7では第1処理水W1の膨張が見られない。以上のことから、より安全にフェントン反応を進行させるためには、ピーク温度が同程度の場合、ピーク温度に達するまでの時間をより長くできる条件が好ましいと言える。
【0103】
条件X2,X5,X8は、条件X1,X4,X7よりも過酸化水素の添加量を減らした条件である。初期温度を30℃以上とした条件X2,X5では、
図11および
図12に示すように、いずれも第1処理水W1の顕著な温度上昇が見られた。条件X2,X5では、
図11に示すように、第1処理水W1の膨張も見られた。これに対して、初期温度を25℃とした条件X8では、
図11および
図12に示すように、条件X1~X7よりもピーク温度が低くなっている。また、条件X8では、
図11に示すように、第1処理水W1の膨張も見られない。以上のことから、より安全にフェントン反応を進行させるためには、ピーク温度をより低くできる条件が好ましいと言える。
【0104】
条件X3,X6,X9は、条件X2,X5,X8よりもさらに過酸化水素の添加量を減らした条件である。条件X3,X6,X9における過酸化水素の添加量は、第1実施形態の過酸化水素添加量(220mL)の半分である。初期温度を35℃とした条件X3では、第1処理水W1の膨張は見られなかったものの、第1処理水W1の顕著な温度上昇が見られた。
【0105】
一方、初期温度を30℃以下とした条件X6,X9では、ピーク温度が70℃付近であり、他の条件X1~X5,X7と比べて、第1処理水W1の温度上昇が抑えられていた。また、条件X6,X9では、条件X1~X5と比べて、ピーク温度に達するまでの時間が長くなっていた。さらに、条件X6,X9では、他の条件X1,X2,X4,X5,X7,X8と比べて、酸素発生量が少なく、第1処理水W1の膨張も見られなかった。
【0106】
以上のことから、より安全にフェントン反応を進行させるためには、以下の条件(i)~(iii)を満たすことが好ましい。
(i)第1処理水W1の膨張が見られない
(ii)ピーク温度に達するまでの時間をより長くする
(iii)ピーク温度をより低くする
図11および
図12に示す条件X1~X9のうち、条件(i)~(iii)を満たすのは、条件X6および条件X9である。
【0107】
ここで、第1処理水W1の初期温度と、フェントン反応が開始された後の第1処理水W1の温度と、が高いほど、フェントン反応の反応速度は大きくなる。このとき、フェントン反応の反応速度が大きくなるほど、より短時間で第1処理水W1に含まれる有機物を酸化分解できる。よって、過酸化水素の添加条件を決定するにあたり、フェントン反応の反応速度も考慮することが好ましい。よって、より安全にフェントン反応を進行させるための条件(i)~(iii)を満たす条件X6およびX9のうち、より初期温度の高い条件X6が最適条件となる。
【0108】
なお、本実施形態では、第2処理水W2のCODを1000mg/L以下とするため、1Lの第1処理水W1に対する35wt%過酸化水素の添加量を合計で220mLとしている。一方で、より安全かつ所望の反応速度を維持した状態でフェントン反応を行うには、以下のようにすることが好ましい。第1処理水W1の初期温度は、最適条件である条件X6(
図11,
図12)のように、30℃程度とすることが好ましい。過酸化水素の添加条件は、最適条件である条件X6(
図11,
図12)のように、1Lの第1処理水W1に対して35wt%過酸化水素を110mLずつ添加することが好ましい。そこで、本実施形態では、第1処理水W1に対して、過酸化水素を2回に分けて添加することとした。具体的には、
図4の第1添加工程(ステップS430)において、1Lの第1処理水W1に対して35wt%過酸化水素を110mL添加する(以下、添加1回目)。さらに、
図5の第2添加工程(ステップS830)において、1Lの第1処理水W1に対して35wt%過酸化水素を110mL添加する(以下、添加2回目)。
【0109】
図13は、添加1回目と、添加2回目と、を実行するタイミングを説明するためのグラフである。
図13は、上記実施形態のフェントン槽15(
図1)においてフェントン反応を実行した場合の第1処理水W1の温度変化を予測するため、上記実施形態のフェントン槽15(
図1)よりも容量が小さい2m
3の簡易槽を用いて試験的に測定した結果を示している。
図13では、第1実施形態と同様の条件にて、第1処理工程(ステップS4)と、第2処理工程(ステップS8)と、を簡易槽において実行した場合の第1処理水W1の温度変化を示している。
図13では、同一の条件にて3回測定を行っている。それぞれの測定結果を区別するため、
図13には、X6(1),X6(2),X6(3)の表記を付している。
【0110】
図13の横軸は、添加1回目が行われた時点からの経過時間を表している。
図13は、経過時間を15分単位で示している。
図13の縦軸は、第1処理水W1の温度を表している。本測定では、
図11および
図12に係る測定と同様に、フェントン反応の進捗を第1処理水W1の温度変化から読み取る。
【0111】
本測定では、
図13に示すように、いずれの場合も、同様の傾向を示している。具体的には、添加1回目が行われた後に、第1処理水W1の温度は徐々に上昇している。その後、経過時間が2時間30分から3時間程度になった時点で、第1処理水W1の温度は、最大値(ピーク温度)に達している。いずれの場合も、本測定における第1処理水W1のピーク温度は、80℃付近である。その後、第1処理水W1の温度は下降している。
【0112】
添加2回目を実行するタイミングは、第1処理水W1の温度に基づいて決定すればよい。例えば、第1処理水W1の温度が十分に下がっていない状態において、添加2回目を実行したとする。この場合、添加2回目を実行する時点において、既に第1処理水W1の温度が所望の温度よりも高い状態で再びフェントン反応が開始される。これにより、式(5)に示した過酸化水素の分解反応が起こりやすい状態となり得る。そこで、第1処理水W1のピーク温度が、添加1回目と添加2回目とで、同程度となるように、添加2回目を実行するタイミングを決定することが好ましい。このようにすれば、第2処理においても第1処理水W1の過度な温度上昇を抑制することができる。これにより、第1処理水W1の過度な温度上昇に伴い、酸化分解が阻害されることを抑制できる。なお、第1処理水W1のピーク温度を、添加1回目と添加2回目とで同程度にすることは、必須ではない。
【0113】
図13に示すように、第1処理水W1の温度が45℃に到達した時点で、添加2回目を実行した場合、添加2回目が行われた後のピーク温度は80℃付近となった。以上のことから、添加2回目を実行するタイミングは、添加1回目の実行により、第1処理水W1の温度がピーク温度に達した後に、第1処理水W1の温度が45℃以下となった時点とすることが好ましい。なお、初期温度(第1実施形態における第3の温度)は、後の第2処理工程(ステップS8)を好適に実行するための第1処理水W1の温度(第1実施形態における第2の温度)以下とする必要がある。
【0114】
以上で決定した条件に基づいて、
図4の第1添加工程(ステップS430)において、消泡剤と、硫酸第一鉄と、過酸化水素(添加1回目)と、を第1処理水W1に添加する。これにより、第1処理におけるフェントン反応が開始される。
図5の第2添加工程(ステップS830)において、過酸化水素(添加2回目)を第1処理水W1に添加する。これにより、第2処理におけるフェントン反応が開始される。
【0115】
上記形態によれば、第1処理水W1の初期温度と、過酸化水素の添加条件と、を選定した上で、フェントン反応を伴う第1処理と、第2処理と、を実行している。また、初期温度としての第3の温度を、第2処理開始時における第1処理水W1の温度としての第2の温度以下としている。これにより、より安全にフェントン反応を進行させることができる。
【0116】
C-3.フェントン反応の触媒である硫酸第一鉄の好ましい添加量
図4の第1添加工程(ステップS430)における硫酸第一鉄の添加量を増やすほど、第2残渣M21の発生量は増大する。第2残渣M21は焼却処分の対象となるため、第2残渣M21の発生量を最小限に抑える必要がある。一方、第一硫酸鉄の添加量を増やすほど、第1処理および第2処理におけるフェントン反応の反応速度は向上する。そこで、硫酸第一鉄の添加量と第2残渣M21の発生量との関係性を調査し、必要最小限となる硫酸第一鉄の添加量を選定する方法を検討した。
【0117】
図14は、硫酸第一鉄の適正添加量の選定方法を説明するためのグラフである。
図14では、硫酸第一鉄の添加量と第2残渣M21の発生量との関係性を示している。
図14の横軸は、第1分離工程(ステップS1)が行われた1Lの第1処理水W1に対して添加した硫酸第一鉄の添加量を表している。
図14では、硫酸第一鉄の添加量の単位を(mL/廃液1L)としている。
図14の縦軸は、第1処理と、第2処理と、が実行された後の第1処理水W1に対する第2残渣M21の発生割合を表している。ここで言う第2残渣M21の発生割合は、1Lの第1処理水W1に含まれる第2残渣M21の量を百分率で表した数値である。
【0118】
なお、
図14では、第1処理工程(ステップS4)と、第2処理工程(ステップS8)と、が実行された1Lの第1処理水W1に添加する硫酸第一鉄の添加量のみを変化させて測定したときのデータを示している。その他の条件については、第1実施形態における各条件と同様である。
【0119】
まず、第1添加工程(ステップS430)における硫酸第一鉄の添加量を変化させて、第1処理と第2処理とを実行した場合における第2残渣M21の発生割合を測定する。
図14に示す例では、ここで得られた複数の実測データをプロットしている。
【0120】
次に、複数の実測データを用いて、硫酸第一鉄の添加量と第2残渣M21の発生割合との関係を示す関係式を算出する。具体的には、関係式の算出は、いわゆるxとyとを変数とした重回帰分析によって行う。ここで言う関係式は、硫酸第一鉄の添加量に対する第2残渣M21の発生割合を示す複数の実測データ(
図14のプロット)を最小二乗法によって近似した式である。以下において、Xは、第1添加工程(ステップS430)において、1Lの第1処理水W1に添加する硫酸第一鉄の添加量とする。また、以下において、yは、第1処理と、第2処理と、が行われた1Lの第1処理水W1に対する第2残渣M21の発生割合(%)とする。ここで算出した関係式を以下の式(6)に示す。なお、a,bはそれぞれ定数である。
y=ax+b 式(6)
【0121】
図14に示す例では、複数の実測データを用いて算出した関係式は、y=0.123x+1.351である。
【0122】
続いて、式(6)に示した関係式から補正関係式を算出する。具体的には、補正関係式の算出は、いわゆる区間推定によって行う。
図14に示す例では、補正関係式として、95%信頼区間上限と、95%信頼区間下限と、95%予測区間上限と、95%予測区間下限と、をそれぞれ算出している。
図14において、95%信頼区間は、式(6)が95%の確率でその範囲に入ると考えられる領域を指す。95%信頼区間上限は、95%信頼区間の領域のうちで上限を表している。95%信頼区間下限は、95%信頼区間の領域のうちで下限を表している。
図14では、式(6)に示した関係式は1次関数である。そのため、95%信頼区間上限および95%信頼区間下限を表す補正関係式は、1次関数となる。95%信頼区間上限を示す補正関係式を以下の式(7.1)に示す。また、95%信頼区間下限を示す補正関係式を以下の式(7.2)に示す。なお、定数c1は、式(6)に示した定数bを予め定められた数値幅の分だけ加算した値である。定数d1は、式(6)に示した定数bを予め定められた数値幅の分だけ減算した値である。
図14に示す例では、予め定められた数値幅は、定数c1と定数d1とで同一である。
y=ax+c1 式(7.1)
y=ax+d1 式(7.2)
【0123】
図14において、95%予測区間は、95%の確率で95%信頼区間に入ると考えられる領域を指す。95%予測区間では、本測定と同一の条件において、後に第1処理と第2処理とを実行した場合に、95%の確率で95%信頼区間に入る領域を示している。95%予測区間上限は、95%予測区間の領域のうちで上限を表している。95%予測区間下限は、95%予測区間の領域のうちで下限を表している。
図14では、式(7.1)および式(7.2)に示した補正関係式は1次関数である。そのため、95%予測区間上限および95%予測区間下限を表す補正関係式は、1次関数となる。
【0124】
95%予測区間上限を示す補正関係式を以下の式(7.1.1)に示す。また、95%予測区間下限を示す補正関係式を以下の式(7.2.1)に示す。なお、定数c2は、式(6)に示した定数bを予め定められた数値幅の分だけ加算した値である。さらに、定数d2は、式(7.1.1)に示した定数c1を予め定められた数値幅の分だけ加算した値でもある。すなわち、式(6)、式(7.1)、および、式(7.1.1)に示す定数b,c1,c2では、b<c1<c2の関係が成り立つ。定数d2は、式(6)に示した定数bを予め定められた数値幅の分だけ減算した値である。さらに、定数d2は、式(7.2)に示した定数d1を予め定められた数値幅の分だけ減算した値でもある。すなわち、式(6)、式(7.2)、および、式(7.2.1)に示す定数b,d1,d2では、d2<d1<bの関係が成り立つ。
図14に示す例では、予め定められた数値幅は、定数c2と定数d2とで同一である。
y=ax+c2 式(7.1.1)
y=ax+d2 式(7.2.1)
【0125】
続いて、式(7.1)、式(7.2)、式(7.1.1)、および、式(7.2.1)に示す補正関係式を用いて、硫酸第一鉄の適正な添加量を選定する。このとき、第1処理水W1に対する第2残渣M21の発生割合について、目標値を予め定めておく。
図14では、第2残渣M21の発生割合の目標値を9%とした場合を図示している。硫酸第一鉄の適正な添加量を選定するには、今後観測し得るデータとして、後に第1処理と第2処理とを実行した場合に発生し得る第2残渣M21の発生割合を考慮する必要がある。そこで、本実施形態では、式(7.1.1)に示した95%予測区間上限の補正関係式を用いて、硫酸第一鉄の適正添加量を選定する。第1実施形態では、硫酸第一鉄の適正添加量を選定するための補正関係式は、式(7.1.1)に相当する。
【0126】
具体的には、式(7.1.1)に示した95%予測区間上限の補正関係式において、第1処理水W1に対する第2残渣M21の発生割合(
図14の縦軸)が目標値となるときの硫酸第一鉄の添加量を参照する。
図14に示す例では、式(7.1.1)に示した95%予測区間上限の補正関係式において、第2残渣M21の発生割合が9%となるときの硫酸第一鉄の添加量は、17(mL/廃液1L)である。そこで、第1実施形態では、
図4の第1添加工程(ステップS430)において、第1処理水W1に対して、硫酸第一鉄を17mL添加することとしている。なお、硫酸第一鉄の添加量の決定において、式(6)に示す関係式や式(7.1)、式(7.1.1)、式(7.2)、および、式(7.2.1)に示す補正関係式を用いることは必須ではない。
【0127】
上記実施形態によれば、第2残渣M21の発生割合が最小限となるように、硫酸第一鉄の添加量を選定した上で、第1処理と、第2処理と、を実行している。これにより、焼却処分の対象となる第2残渣M21の発生量を抑えることができる。また、上記実施形態では、式(7.1.1)を用いて、目標とする第2残渣M21の発生割合に対する硫酸第一鉄の添加量を容易に決定できる。
【0128】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0129】
1…廃液処理装置、10…廃液貯留タンク、11…薬品槽、13…凝集槽、15…フェントン槽、17…検査槽、19…制御部、20,20a,20b…検査装置、25…COD測定装置、28…表示部、40,40a,40b…攪拌機、50,51,52,53,54…ポンプ、60,60a…濾過装置、70…温度調節機構、210…検知部、250…採取部、410,410a,410b…回転翼、420,420a,420b…軸部、610,610a…引抜配管、620,620a…フィルタ、630,630a…濾過室、M1…第1凝集物、M2…第2凝集物、M11…第1残渣、M21…第2残渣、W…塗料含有廃液、W1…第1処理水、W2…第2処理水、W11…第1上澄み液、W21…第2上澄み液、W110…第1濾液、W210…第2濾液