(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ミリ波透過ガーニッシュ
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20240528BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20240528BHJP
【FI】
G01S7/03 246
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2021090929
(22)【出願日】2021-05-31
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】廣谷 幸蔵
(72)【発明者】
【氏名】藤本 一和
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 洋介
(72)【発明者】
【氏名】大塚 豊
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-028621(JP,A)
【文献】特開2009-091411(JP,A)
【文献】特開2004-312696(JP,A)
【文献】国際公開第2006/041093(WO,A1)
【文献】特開2009-102626(JP,A)
【文献】特開2006-267019(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104714(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111200185(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波を送信及び受信するミリ波レーダ装置が搭載された乗物に適用され、前記ミリ波の送信方向における前記ミリ波レーダ装置の前方に配置され、かつ前記送信方向に複数の層が積層されてなる層構造を有するミリ波透過ガーニッシュであって、
前記複数の層は、前記乗物を装飾する加飾層と樹脂層とを有し、
前記加飾層は、少なくとも一部が白色樹脂層により構成され、
前記樹脂層は、前記白色樹脂層に接触した状態で形成され、
前記白色樹脂層は、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンの粒子がポリカーボネート樹脂に含有されることにより形成されており、
前記白色樹脂層は、前記送信方向の厚さが
1.0mm以上2.0mm以下であり、誘電率が3.1以下であり、Lab表色系におけるL値が80以上であるミリ波透過ガーニッシュ。
【請求項2】
前記酸化チタンは、前記白色樹脂層に対し、1.8%~8.2%の添加率で添加されている請求項1に記載のミリ波透過ガーニッシュ。
【請求項3】
前記樹脂層は、ポリカーボネート樹脂からなる透明樹脂層を備えており、
前記透明樹脂層は、前記送信方向における前記白色樹脂層の前面に接触した状態で形成されている請求項1又は2に記載のミリ波透過ガーニッシュ。
【請求項4】
前記樹脂層は、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合樹脂からなる基材を備えており、
前記基材は、前記送信方向における前記白色樹脂層の後面に接触した状態で形成されている請求項1~3のいずれか1項に記載のミリ波透過ガーニッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波を送信及び受信するミリ波レーダ装置が搭載された乗物に適用され、ミリ波を透過し、かつ乗物を装飾するミリ波透過ガーニッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波レーダ装置が搭載された車両では、同装置からミリ波が車外へ向けて送信される。先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射されたミリ波は、上記ミリ波レーダ装置によって受信される。そして、ミリ波レーダ装置は、送信及び受信したミリ波により上記物体を認識し、車両と物体との距離、相対速度等を検出する。
【0003】
上記車両では、ミリ波の送信方向におけるミリ波レーダ装置の前方に、ミリ波透過性を有するフロントグリル、エンブレム等のミリ波透過ガーニッシュが配置される。ミリ波透過ガーニッシュは、上記送信方向に複数の層が積層されてなる層構造を有する。複数の層の1つは、加飾層によって構成される。加飾層は、例えば、金属光沢を自身の少なくとも一部に有する。そのため、車外からミリ波透過ガーニッシュを見た場合、加飾層の少なくとも一部が金属のように光り輝いて見える。加飾層によってミリ波透過ガーニッシュが装飾され、車両においてミリ波透過ガーニッシュの周辺部分の外観が向上する。
【0004】
ところで、近年では、ミリ波の透過性を確保しつつ加飾層における上記金属光沢を白く発色させたいといった要望がなされることがある。
そこで、例えば、特許文献1には、鱗片状ガラス基体にルチル型二酸化チタンが被覆された白色顔料が、比較例2,3の顔料7として記載されている。この顔料7が、加飾層を構成する光輝性被膜に含有される。
【0005】
また、特許文献2には、フレーク状ガラス上に、ルチル型酸化チタンからなる酸化チタン層と銀層とを順に積層した光輝性顔料が記載されている。この光輝性顔料が含有された組成物を用いて上記加飾層を形成すると、その加飾層を白く発色させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-102626号公報
【文献】特許第6227850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1及び特許文献2に記載された技術は、加飾層における金属光沢を白く発色させるためのものである。そのため、これらの技術は、加飾層の少なくとも一部が白色樹脂層によって構成されているミリ波透過ガーニッシュにおいて、その白色樹脂層を白く発色させたい場合には、適していない。
【0008】
こうした問題は、上記ミリ波透過ガーニッシュが車両とは異なる乗物に取付けられた場合にも、同様に起こり得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するミリ波透過ガーニッシュは、ミリ波を送信及び受信するミリ波レーダ装置が搭載された乗物に適用され、前記ミリ波の送信方向における前記ミリ波レーダ装置の前方に配置され、かつ前記送信方向に複数の層が積層されてなる層構造を有するミリ波透過ガーニッシュであって、前記複数の層は、前記乗物を装飾する加飾層と樹脂層とを有し、前記加飾層は、少なくとも一部が白色樹脂層により構成され、前記樹脂層は、前記白色樹脂層に接触した状態で形成され、前記白色樹脂層は、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンの粒子がポリカーボネート樹脂に含有されることにより形成されており、前記白色樹脂層は、前記送信方向の厚さが2.0mm以下であり、誘電率が3.1以下であり、Lab表色系におけるL値が80以上である。
【0010】
上記の構成によるように、白色樹脂層のL値が80以上であると、同白色樹脂層が白く発色する。そのため、乗物の外部からは、白色樹脂層が白色に見える。
また、白色樹脂層の誘電率が3.1以下であると、その白色樹脂層における必要なミリ波透過性が得られる。
【0011】
酸化チタンの一般的な結晶構造としては、ルチル型とアナターゼ型とがある。ルチル型では、アナターゼ型に比べ誘電率及び誘電正接がともに小さい。そのため、ルチル型の酸化チタンは、アナターゼ型の酸化チタンに比べ、ミリ波の減衰を抑制し、ミリ波透過性を確保するうえで適している。
【0012】
ミリ波レーダ装置から送信されたミリ波も、乗物の外部の物体に当たって反射されたミリ波も、白色樹脂層を透過する際に少なからず減衰される。ミリ波の減衰量と白色樹脂層の厚さとの間には、厚さが大きくなるに従い減衰量が多くなる関係がある。白色樹脂層の厚さが2.0mm以下の場合には、ミリ波の減衰量が許容範囲にとどめられる。
【0013】
上記ミリ波透過ガーニッシュにおいて、前記酸化チタンは、前記白色樹脂層に対し、1.8%~8.2%の添加率で添加されていることが好ましい。
ここで、白色樹脂層に対する酸化チタンの添加率と、同白色樹脂層の誘電率との間には一定の関係が見られ、同添加率とL値との間には一定の関係が見られる。添加率が8.2%以下の範囲では誘電率が3.1以下になり、同添加率が8.2%よりも大きな範囲では誘電率が、3.1よりも大きくなる。また、添加率が1.8%以上の範囲ではL値が80以上になり、同添加率が1.8%よりも小さな範囲ではL値が80よりも小さくなる。
【0014】
従って、添加率が上記のように1.8%~8.2%に設定されることで、白色樹脂層の誘電率を3.1以下に抑え、かつL値を80以上にすることが可能である。
上記ミリ波透過ガーニッシュにおいて、前記樹脂層は、ポリカーボネート樹脂からなる透明樹脂層を備えており、前記透明樹脂層は、前記送信方向における前記白色樹脂層の前面に接触した状態で形成されていることが好ましい。
【0015】
上記の構成によれば、上記送信方向における白色樹脂層の前面には透明樹脂層が接触している。透明樹脂層の形成に用いられるポリカーボネート樹脂の誘電率は2.7である。これに対し、白色樹脂層の誘電率は上述したように3.1以下であり、上記透明樹脂層の誘電率に近い。そのため、ミリ波が白色樹脂層及び透明樹脂層を透過する際に、両者の界面で反射したり屈折したりする現象が抑制され、反射及び屈折に起因するミリ波の減衰が抑制される。
【0016】
上記ミリ波透過ガーニッシュにおいて、前記樹脂層は、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合樹脂からなる基材を備えており、前記基材は、前記送信方向における前記白色樹脂層の後面に接触した状態で形成されていることが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、上記送信方向における白色樹脂層の後面には基材が接触している。基材の形成に用いられるアクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合樹脂の誘電率は約2.7である。これに対し、白色樹脂層の誘電率は上述したように3.1以下であり、上記基材の誘電率に近い。そのため、ミリ波が基材及び白色樹脂層を透過する際に、両者の界面で反射したり屈折したりする現象が抑制され、反射及び屈折に起因するミリ波の減衰が抑制される。
【発明の効果】
【0018】
上記ミリ波透過ガーニッシュによれば、加飾層の少なくとも一部を構成する白色樹脂層にミリ波を透過させつつ、その白色樹脂層を白く発色させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ミリ波透過ガーニッシュを車両用のエンブレムに具体化した一実施形態において、同エンブレムの層構成を、ミリ波レーダ装置とともに示す部分平断面図。
【
図2】白色樹脂層に対する酸化チタンの添加率と、同白色樹脂層の誘電率及びL値との関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、ミリ波透過ガーニッシュを車両用のエンブレムに具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の記載に関し、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。また、
図1では、エンブレムにおける各部を認識可能な大きさとするために、各部の縮尺を適宜変更して図示している。
【0021】
図1に示すように、車両10の前部の左右方向における中央部分であって、二点鎖線で示すフロントグリル11の後方には、前方監視用のミリ波レーダ装置12が搭載されている。ミリ波レーダ装置12は、電磁波の一形態であるミリ波を車外のうち、車両10の前方における所定の角度範囲へ向けて送信し、先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射されたミリ波を受信するセンサ機能を有する。ミリ波とは、波長が1mm~10mmであり、かつ周波数が30GHz~300GHzである電波をいう。ミリ波レーダ装置12は、雨や霧、雪といった悪天候に強く、他の方式と比較して検出可能距離が長いといった特徴を有している。
【0022】
なお、上述したように、ミリ波レーダ装置12が車両10の前方に向けてミリ波を送信することから、ミリ波レーダ装置12によるミリ波の送信方向は、車両10の後方から前方へ向かう方向である。ミリ波の送信方向における前方は、車両10の前方と概ね合致し、同送信方向における後方は車両10の後方と概ね合致する。そのため、以後の記載では、ミリ波の送信方向における前方を単に「前方」、「前」等といい、同送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0023】
上記フロントグリル11の厚さ、この場合、前後方向の寸法は、一般的なフロントグリルと同様、一定ではない。また、フロントグリル11では、樹脂製基材の表面に金属めっき層が形成されることがある。この場合、フロントグリル11は、送信又は反射されたミリ波と干渉する。そこで、フロントグリル11において、ミリ波レーダ装置12のミリ波の経路となる箇所、具体的には、フロントグリル11において、ミリ波レーダ装置12の前方となる箇所には、窓部13が開口されている。
【0024】
窓部13には、エンブレム20が配置されている。エンブレム20は、その前面が車両10の前方を向き、かつ後面が車両10の後方を向くように、起立した状態で配置される。
【0025】
エンブレム20は、前後方向に複数の層が積層されてなる層構造を有している。複数の層は、後方から前方に向けて順に配置された基材21、加飾層22及び透明樹脂層23を備えている。これらの層のうち、基材21及び透明樹脂層23は、特許請求の範囲における樹脂層に該当する。
【0026】
<基材21>
上記樹脂層の一部を構成する基材21は、ミリ波透過性を有する樹脂材料によって形成されている。本実施形態では、基材21は、AES(アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合)樹脂によって、青色、黒色等の有色に形成されている。AESの誘電率は約2.7であり、誘電正接は0.007である。
【0027】
誘電率とは、誘電体、この場合、基材21が有する電荷に対して誘電分極が引き起こされる性質の度合いを示す物性値であり、電束密度と電界の強さとの比である。一般に、誘電率が大きいほど、電荷が溜まりやすい。誘電正接は、誘電体内での電気エネルギ損失の度合い、すなわち、誘電体内を伝搬する信号が熱に変換されて失われる量を表す指標値である。誘電正接が小さいと、ミリ波が熱エネルギに変換され難く、ミリ波の減衰を抑制することが可能である。
【0028】
なお、基材21は、AES樹脂に代えて、透明樹脂層23に対し比誘電率が近い樹脂、例えば、ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂等によって形成されてもよい。比誘電率とは、誘電体、この場合、基材21の誘電率と真空の誘電率との比であり、誘電体内の分極の程度を示すパラメータである。比誘電率が高い程、ミリ波の伝搬遅延が大きくなる。従って、ミリ波の伝搬速度を高め、ミリ波レーダ装置12の高速演算を可能にするためには、比誘電率は低いほうが好ましい。
【0029】
また、基材21は、PC樹脂とABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合)樹脂とのポリマーアロイによって形成されてもよい。
<透明樹脂層23>
上記樹脂層の一部を構成する透明樹脂層23は、ミリ波透過性を有する樹脂材料によって形成されており、上記基材21の前方に配置されている。透明樹脂層23は、誘電正接の小さな樹脂材料であるPC樹脂により透明に形成されている。PC樹脂の誘電率は、2.7であり、誘電正接は、0.006であり、比誘電率はAES樹脂の比誘電率とほぼ同じである。なお、透明樹脂層23は、上記PC樹脂と同様に、誘電正接の小さな樹脂材料であるPMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂によって形成されてもよい。
【0030】
<加飾層22>
加飾層22は、エンブレム20と、車両10の前部のうちエンブレム20の周辺部分とを装飾するためのものであり、基材21と透明樹脂層23との間に形成されている。
【0031】
加飾層22の少なくとも一部は、白色樹脂層24によって構成されている。白色樹脂層24は、本実施形態では、文字、マーク等の模様部分の表現に用いられている。こうした模様部分の表現は、一般には、金属材料からなる光輝加飾層によってなされている。本実施形態では、エンブレム20の意匠性の観点から、光輝加飾層に代えて白色樹脂層24によって模様部分が表現されている。白色樹脂層24の後面は基材21の前面に接触し、同白色樹脂層24の前面は透明樹脂層23の後面に接触している。
【0032】
白色樹脂層24は、酸化チタン(TiO2 )の粒子を白色顔料として用い、これを、ミリ波透過性を有する樹脂材料であるPC樹脂に含有させることによって形成されている。
酸化チタンは、無機顔料の中では最も高い屈折率を有する。酸化チタンは、被覆力及び隠蔽力に優れ、さらに化学的にも安定である。隠蔽力とは、顔料が有する、光の反射と散乱、吸収によって下地を覆い隠す力のことである。白色顔料の場合には、反射及び散乱により隠蔽力を示す。これらのことから、酸化チタンは白色顔料を主な用途とされる。酸化チタンは、可視光領域に吸収がないことから、より白く発色する。
【0033】
ここで、酸化チタンは、アナターゼ型(正方晶)、ブルーカイト型(斜方晶)及びルチル型(正方晶)の3種類の結晶構造を有する。これらの中で工業的に製造されているのは、アナターゼ型とルチル型である。ルチル型酸化チタンは、塗料組成物や樹脂組成物に顔料として配合する場合に適している。さらに、ルチル型酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタンよりも緻密な原子配列をとっていて、屈折率が高い。
【0034】
アナターゼ型の酸化チタンを900℃以上に加熱すると、ルチル型に転移する。また、ブルーカイト型の酸化チタンを650℃以上に加熱すると、ルチル型に転移する。酸化チタンは、一度ルチル型に転移すると、低温に戻されてもルチル型を維持する。このように、ルチル型酸化チタンは、3種類の結晶構造のうち、最も安定している。
【0035】
ルチル型及びアナターゼ型のそれぞれの酸化チタンについて、誘電率及び誘電正接を測定したところ、誘電率及び誘電正接のいずれに関しても、ルチル型の方が、アナターゼ型に比べ小さいことが判った。
【0036】
本実施形態では、ルチル型酸化チタンの粒子がPC樹脂に含有されることによって白色樹脂層24が形成されている。
白色樹脂層24は、以下の条件を満たしている。
【0037】
(A)厚さ、この場合、前後方向の寸法が2.0mm以下である。
(B)ミリ波レーダ装置12が、76.5GHzの周波数を中央値とする帯域でミリ波を送信する場合、誘電率が3.1以下である。この値は、PC樹脂の誘電率(2.7)及びAES樹脂の誘電率(約2.7)に近い値である。
【0038】
(C)Lab表色系におけるL値が80以上である。
Lab表色系は、物体の色を数値で表すための方式の1つである。Lab表色系におけるL値は明るさ(明度)を表している。L値が小さくなるに従い暗くなり、L値が大きくなるに従い明るくなる。
【0039】
なお、白色樹脂層24の厚さの下限値は、安定して同白色樹脂層24を樹脂成形する観点からは、1.0mmであることが好ましい。
ここで、白色樹脂層24の誘電率及びL値の両者に関連する要素として、白色樹脂層24に対する酸化チタンの添加率がある。添加率は、PC樹脂と酸化チタンとからなる白色樹脂層24の全体の体積を100とした場合、酸化チタンが占める割合である。
【0040】
図2は、添加率を0%~10%の範囲で変化させた場合に、誘電率及びL値がそれぞれどのように変化するのかを測定した結果を示している。
図2中、誘電率は特性線L1で示され、L値は特性線L2で示されている。
【0041】
添加率が0%、すなわち、酸化チタンが添加されておらず、白色樹脂層24がPC樹脂のみによって形成されている場合には、誘電率が2.7であり、L値が15程度である。これに対し、添加率が10%の場合には、誘電率が3.2程度であり、L値が100程度である。
【0042】
添加率が0%~2%の範囲で変化する場合には、添加率の増加に伴い誘電率が増加する。添加率が2%~4%の範囲で変化する場合には、誘電率は2.8程度で略一定となる。添加率が4%~10%の範囲で変化する場合には、添加率の増加に伴い誘電率が増加する。
【0043】
また、添加率が0%~2%の範囲で変化する場合には、添加率の増加に伴いL値が増加する。添加率が2%~4%の範囲で変化する場合には、添加率の増加に伴いL値が一旦増加した後に減少して100程度になる。添加率が4%~10%の範囲で変化する場合には、L値は100程度で略一定となる。
【0044】
上記
図2から、次のことが判る。
・添加率が0%~8.2%の範囲では、誘電率が3.1以下となり、上記(B)の条件が満たされる。
【0045】
・添加率が1.8%~10%の範囲では、L値が80以上となり、上記(C)の条件が満たされる。
・上記0%~8.2%の範囲と、上記1.8%~10%の範囲とが重複する範囲を「2特性適合範囲」というものとすると、この「2特性適合範囲」では、誘電率が3.1以下になり、かつL値が80以上になる。
【0046】
そこで、本実施形態では、添加率が、1.8%~8.2%に設定されることにより、上記(B),(C)の条件がともに満たされるようにしている。
上記白色樹脂層24が加飾層22の一部を構成する場合、同加飾層22のうち白色樹脂層24とは異なる箇所は、白色とは異なる色、例えば、黒色、青色等の濃色を有する有色加飾層によって構成されてもよい。また、上記箇所は、インジウム(In)等の金属材料からなる光輝加飾層によって構成されてもよい。
【0047】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
<白色樹脂層24のミリ波透過性について>
図1において、ミリ波レーダ装置12からミリ波が送信されると、そのミリ波は、エンブレム20の各層、すなわち基材21、加飾層22及び透明樹脂層23を順に透過する。エンブレム20を透過したミリ波は、先行車両、歩行者等を含む車両前方の物体に当たって反射された後、再びエンブレム20の各層を上記とは逆の順に透過し、ミリ波レーダ装置12によって受信される。ミリ波レーダ装置12では、送信及び受信された上記ミリ波に基づき、物体が認識され、車両10と同物体との距離、相対速度等の検出等が行われる。
【0048】
(1-1)ここで、
図2を用いて上述したように、白色樹脂層24に対する酸化チタンの添加率と、同白色樹脂層24の誘電率との間には一定の関係が見られる。添加率が8.2%以下の範囲では誘電率が3.1以下になる。この点、本実施形態では、添加率が1.8%~8.2%に設定されている。そのため、白色樹脂層24の誘電率が3.1以下となり、必要なミリ波透過性を得ることができる。
【0049】
すなわち、
図1に示すように、白色樹脂層24の後面には基材21が接触している。基材21の形成に用いられるAES樹脂の誘電率は約2.7である。これに対し、白色樹脂層24の誘電率は上述したように3.1以下であり、基材21の誘電率に近い。そのため、ミリ波が基材21及び白色樹脂層24を透過する際に、両者の界面で反射したり屈折したりする現象が抑制され、反射及び屈折に起因するミリ波の減衰が抑制される。
【0050】
また、白色樹脂層24の前面には透明樹脂層23が接触している。透明樹脂層23の形成に用いられるPC樹脂の誘電率は2.7である。これに対し、白色樹脂層24の誘電率は上述したように3.1以下であり、透明樹脂層23の誘電率に近い。そのため、ミリ波が白色樹脂層24及び透明樹脂層23を透過する際に、両者の界面で反射したり屈折したりする現象が抑制され、反射及び屈折に起因するミリ波の減衰が抑制される。
【0051】
(1-2)さらに、本実施形態では酸化チタンとして、ルチル型の結晶構造を有するものが用いられている。上述したように、ルチル型酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタンに比べ誘電率及び誘電正接がともに小さい。そのため、酸化チタンとして、アナターゼ型の結晶構造を有するものが用いられる場合に比べ、ミリ波の減衰を抑制してミリ波透過性を確保することができる。
【0052】
(1-3)ミリ波レーダ装置12から送信されたミリ波も、車両10の外部の物体に当たって反射されたミリ波も、白色樹脂層24を透過する際に少なからず減衰される。ミリ波の減衰量と白色樹脂層24の厚さとの間には、厚さが大きくなるに従い減衰量が多くなるといった関係が見られる。本実施形態では、白色樹脂層24の厚さが2.0mm以下に設定されていることから、ミリ波の減衰量を許容範囲にとどめることができる。
【0053】
上記(1-1)~(1-3)の項で説明したように、本実施形態によると、ミリ波がエンブレム20を透過する際に減衰されるのを抑制し、ミリ波減衰に起因するミリ波レーダ装置12の検出性能の低下を抑制できる。
【0054】
<白色樹脂層24での白色の発色について>
一方、
図1に示すように、エンブレム20に対し車両10の前方から可視光が照射されると、その可視光は、透明樹脂層23を透過し、白色樹脂層24に含有されている酸化チタンの粒子に照射される。可視光は、上記粒子によって吸収されず、又はされにくく、多くが乱反射される。そのため、車両10の前方からエンブレム20を見ると、透明樹脂層23を通して、その裏側(奥側)に白色樹脂層24が位置するように見える。
【0055】
(2-1)ここで、
図2を用いて上述したように、白色樹脂層24に対する酸化チタンの添加率と、L値との間には一定の関係が見られる。添加率が1.8%以上の範囲ではL値が80以上になる。この点、本実施形態では、添加率が1.8%~8.2%に設定されている。そのため、白色樹脂層24のL値が80以上になり、同白色樹脂層24が白く発色する。透明樹脂層23を通じて白色樹脂層24が白色に見える。上述したように、白色樹脂層24によって、文字、マーク等の模様部分が表現されている本実施形態では、その模様部分が白く見える。
【0056】
このように、本実施形態によると、白色樹脂層24によってエンブレム20を装飾し、同エンブレム20と、車両10の前部のうちエンブレム20の周辺部分との外観を向上できる。
【0057】
本実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
(3-1)可視光の白色樹脂層24での上記反射は、ミリ波レーダ装置12よりも前方で行われる。しかも、白色樹脂層24の後側には、青色、黒色等の濃色の基材21が位置している。これらの白色樹脂層24及び基材21は、ミリ波レーダ装置12を覆い隠す機能を発揮する。そのため、エンブレム20よりも前方からは、ミリ波レーダ装置12が見えにくい。従って、ミリ波レーダ装置12がエンブレム20を通して透けて見える場合に比べて、車両10の前部の外観が向上する。
【0058】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0059】
<白色樹脂層24について>
・加飾層22は、少なくとも一部が白色樹脂層24によって構成されていればよい。従って、加飾層22の全部が白色樹脂層24によって構成されてもよい。また、加飾層22が、上述した有色加飾層及び光輝加飾層の少なくとも一方と白色樹脂層24との組み合わせによって構成されてもよい。
【0060】
<エンブレム20の層構造について>
エンブレム20は、加飾層22を含む複数の層が前後方向に積層された層構造を有する。この層構造における加飾層22以外の層の構成が、上記実施形態とは異なる構成、例えば、下記のように変更されてもよい。
【0061】
・層構造における層の数が、2又は4以上に変更されてもよい。
・上記実施形態における透明樹脂層23及び基材21の少なくとも一方が省略されてもよい。
【0062】
・加飾層22よりも前側に層が設けられる場合、その層は、車両10の外部から同層を通して白色樹脂層24が透けて見えるようにするために、無色透明な樹脂材料によって形成される。
【0063】
・加飾層22よりも後側に層が設けられる場合、その層は、透明であってもよいし不透明であってもよい。
<その他>
・ミリ波透過ガーニッシュは、車両10において、ミリ波レーダ装置12からのミリ波の送信方向の前方に配置されて、同車両10を装飾するとともに、ミリ波透過性を有するものであることを条件に、エンブレム20とは異なる装飾部品に適用されてもよい。
【0064】
・ミリ波レーダ装置12は、前方監視用以外にも、後方監視用、前側方監視用、又は後側方監視用の装置であってもよい。この場合、ミリ波透過ガーニッシュは、上記送信方向におけるミリ波レーダ装置12の前方に配置される。
【0065】
・ミリ波透過ガーニッシュは、ミリ波レーダ装置12が、車両とは異なる種類の乗物、例えば、電車、航空機、船舶等の乗物に搭載された場合にも配置可能である。
【符号の説明】
【0066】
10…車両(乗物)
12…ミリ波レーダ装置
20…エンブレム(ミリ波透過ガーニッシュ)
21…基材(樹脂層)
22…加飾層
23…透明樹脂層(樹脂層)
24…白色樹脂層