(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法、ゲストフリーシリコンクラスレートの製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20240528BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
C01B33/06
(21)【出願番号】P 2021094096
(22)【出願日】2021-06-04
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 信平
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-224488(JP,A)
【文献】特開2013-018679(JP,A)
【文献】特開2021-031349(JP,A)
【文献】特開2020-017513(JP,A)
【文献】特開2006-041134(JP,A)
【文献】DOPILKA et al.,Structural Origin of Reversible Li Insertion in Guest-Free, Type-II Silicon Clathrates,Adv. Energy Sustainability Res.,2021年03月08日,Vol.2,p.2000114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/02
C01B 33/06
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法であって、
ホストとなる材料であるSi及びゲストとなる材料を含む混合物に対して熱処理を行い、シリコンクラスレート化合物を合成する合成工程と、
前記合成工程の後に、前記シリコンクラスレート化合物とLi源とを混合し、Liを含むシリコンクラスレート化合物を合成する工程と、
前記Liを含むシリコンクラスレート化合物からLiを離脱させて空隙を形成し、空隙を有するシリコンクラスレート化合物を得る工程と、
容器に納めた前記
空隙を有するシリコンクラスレート化合物に対して、前記容器の内側の気体の吸引を行いながら、電磁波を照射して、ゲストを離脱させるゲスト離脱工程と、を含む、
ゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法。
【請求項2】
前記ゲスト離脱工程は、前記容器を回転させながらおこなう、請求項1に記載のゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はゲストフリーシリコンクラスレートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはSi粒子およびNa単体を含有する混合物に対して熱処理を行い、ジントル相を有するNaSi化合物を合成する第一熱処理工程と、このNaSi化合物に対して減圧下で熱処理を行い、Naを離脱させる第二熱処理工程とを有するゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献2にはカーボンナノチューブの製造装置であって、固定炉内の揺動具上にワークを乗せ、排気しながら炉外からヒータで加熱する構成が開示されている。
【0004】
特許文献3には積層セラミック電子部品の製造方法であって、固定炉内の回転テーブル上にワークを乗せ、真空引きをしながらマイクロ波で加熱する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-017513号公報
【文献】特開2012-140266号公報
【文献】特開2006-041134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、ゲストフリーシリコンクラスレートの製造においてゲストであるNaの離脱が促進されず、生産性の向上に問題があった。
【0007】
本開示は上記問題に鑑み、生産性を向上させることができるゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法を提供することを目的とする。また、そのための製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、ホストをSi、ゲストをNaとして用いることを例として鋭意検討し、シリコンクラスレートであるNaSi化合物からゲストであるNaを離脱させる際、減圧下においてヒータを照射するだけでは、熱が十分に伝わり難いことからNaの離脱が促進されないとの知見を得た。また、離脱したNaが、気体中、容器壁面、材料表面に残留してしまうことも処理時間が長くなる原因の1つであると知見も得た。これらの知見に基づいて以下のようにして問題を解決した。
【0009】
本願は1つの態様として、ゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法であって、ホストとなる材料であるSi及びゲストとなる材料を含む混合物に対して熱処理を行い、シリコンクラスレート化合物を合成する合成工程と、容器に納めたシリコンクラスレート化合物に対して、容器の内側の気体の吸引を行いながら、電磁波を照射して、ゲストを離脱させるゲスト離脱工程と、を含む、ゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法を開示する。
これによれば、ゲストフリーシリコンクラスレートの生産性を高めることができる。
【0010】
ゲスト離脱工程は、容器を回転させながら行ってもよい。これによればさらに均一性の高い加熱により生産性を高めることができる。
【0011】
合成工程の後に、シリコンクラスレート化合物とLi源とを混合し、Liを含むシリコンクラスレート化合物を合成する工程と、Liを含むシリコンクラスレート化合物からLiを離脱させて空隙を形成し、空隙を有するシリコンクラスレート化合物を得る工程と、含み、空隙を有するシリコンクラスレート化合物に対してゲスト離脱工程を行ってもよい。
これによれば、空隙を有するゲストフリーシリコンクラスレートの生産性を高めることができる。
【0012】
本願は他の態様として、容器に納めたシリコンクラスレート化合物からゲストを離脱させるゲストフリーシリコンクラスレートの製造装置であって、容器に対して電磁波を照射する電磁波照射器と、電磁波照射器による電磁波照射を行いつつ容器から容器内の気体を吸引することが可能な吸引器と、を備える、ゲストフリーシリコンクラスレートの製造装置を開示する。
【0013】
さらに、容器を回転可能に保持する回転軸を有するように構成したゲストフリーシリコンクラスレートの製造装置としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、シリコンクラスレートからゲストの離脱を効率よく行うことができ、ゲストフリーシリコンクラスレートの生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、ゲストフリーシリコンクラスレート1の構成を概念的に表した図である。
【
図2】
図2は、ゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法S1の流れを示した図である。
【
図3】
図3は、空隙形成の工程S20の流れを示した図である。
【
図4】
図4は、Liを含むシリコンクラスレート化合物を説明する図である。
【
図5】
図5は、空隙3が形成されたシリコンクラスレート化合物を説明する図である。
【
図6】
図6は、ゲストフリーシリコンクラスレートの製造装置10の構成を説明する図である。
【
図9】
図9は、容器12及びその外周部に配置された電磁波照射器14及び反射器16について説明する図である。
【
図10】
図10は、
図6のうち回転軸18、吸引管20の周囲について拡大して表した図である。
【
図12】
図12は、ゲストフリーシリコンクラスレートの製造装置10’の構成を説明する図である。
【
図13】
図13は、ゲストフリーシリコンクラスレートの製造装置10’の構成を説明する図である。
【
図14】
図14は、ゲスト離脱の工程S30について説明する図である。
【
図15】
図15は、ゲスト離脱の工程S30について説明する図である。
【
図16】
図16は、ゲスト離脱の工程S30において容器12の回転について説明する図である。
【
図17】
図17は、ゲスト離脱の工程S30において容器12の回転について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.ゲストフリーシリコンクラスレート
初めにゲストフリーシリコンクラスレートについて説明する。本開示の製造方法、及び製造装置によりゲストフリーシリコンクラスレートを製造することができる。
公知のようにシリコンクラスレートは、ホストとしてのSiの結合により形成された籠状骨格構造の内側にゲストの物質(本形態ではゲストとしてNaを用いている。)が配置されたものである。そしてゲストフリーシリコンクラスレートは、シリコンクラスレートからゲストが離脱され、Siによる籠状骨格構造が残った材料である。すなわち、ゲストフリーシリコンクラスレートは、通常のSiの結合による構造に比べてSi間の結合距離が大きい構造を有している。
【0017】
このようなゲストフリーシリコンクラスレートを例えばリチウムイオン電池の負極材料として用いるとSi間の距離が大きいため、電池の充放電時のLiの移動に際してLiがSi間の結合を破壊し難くなり、負極の膨張を抑えて負極の割れ等の不具合を抑制することができる。負極に通常のSiの結合による構造の材料を用いた場合にはSi間が狭いため、Liイオンが移動する際にSiの結合を破壊し、これが負極の膨張の原因の1つとなっている。
【0018】
図1に、1つの形態例にかかるゲストフリーシリコンクラスレート1の態様を模式的に表した。本形態ではゲストフリーシリコンクラスレートであるとともに、さらに空隙3を備える形態とされている。
図1のうち小さい円形で示した符号2の部位はゲストが離脱した部位であることを表している(以下、「ゲスト離脱部2」と表すことがある。)。
一方、空隙3はSiによる籠状骨格構造とは無関係に形成された空隙を表す。空隙3の形成方法等は後で説明するが、この空隙3によりゲストフリーシリコンクラスレート(負極)の体積変化を吸収することができ、さらに割れ等の不具合を抑制することができる。
【0019】
2.ゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法
上記したゲストフリーシリコンクラスレート1は次のような工程を経て製造することができる。
図2に流れを示した。
図2からわかるようにゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法S1はシリコンクラスレート化合物を合成する工程S10、空隙3を形成する工程S20、及び、ゲストを離脱する工程S30を含んでいる。以下に各工程について説明する。
【0020】
2.1.シリコンクラスレート化合物の合成(工程S10)
シリコンクラスレート化合物を合成する工程S10(以下「工程S10」と記載することがある。)は、シリコンクラスレート化合物を合成する工程である。本形態ではホストとしてSi、ゲストとしてNaであるシリコンクラスレート化合物を作製する。このようなシリコンクラスレートを作製する具体的方法は特に限定されることはなく公知の通りであるが、例えばSiとNaとを1:1で混合して高温(例えば850℃)で焼成してNa1Si1とした後、低温(例えば450℃)でさらに焼成することでNa20Si136を得て行うことができる。これによれば、Siの結合による籠状骨格構造の内側の少なくとも一部にNaが配置されたシリコンクラスレート化合物となる。すなわち、低温の焼成によりゲスト(Na)が残る部位と、Naが離脱したゲスト離脱部2とが混在する材料となる。
【0021】
2.2.空隙形成(工程S20)
空隙3を形成する工程S20(以下「工程S20」と記載することがある。)は、工程S10で得られたシリコンクラスレート化合物に対して空隙3を形成する。
図3には工程S20の流れを示した。
図3かわかるように工程S20は、微粒化工程S21、LiSi合金化工程S22、及び、Li離脱工程S23を含んでいる。以下に各工程について説明する。
【0022】
微粒化工程S21では、工程S10で得られたシリコンクラスレート化合物をボールミル等により微粒化する。
【0023】
LiSi合金化工程S22では、微粒化工程S21で微粒化したシリコンクラスレート化合物とLiを混ぜて、
図4に示したようにLiを含むシリコンクラスレート化合物を作製する。具体的な方法は特に限定されることはないが、微粒化したシリコンクラスレート化合物と小さくしたLi箔とを乳鉢等に入れて不活性雰囲気(Arガス雰囲気等)の下で混合する。なお、このときシリコンクラスレート化合物において工程S10で得たようにゲスト(Na)が残る部位とゲスト離脱部2とが混在している方がLiの混合がより安定する。一方で残存するゲスト(Na)がないとSiの籠状骨格構造が崩れてしまう傾向にある。
【0024】
Li離脱工程S23では、LiSi合金化工程S22で得たLiを含むシリコンクラスレート化合物からLiを離脱させて
図5に示したように空隙3を有するシリコンクラスレート化合物を得る。Liを離脱させる方法は特に限定されることはないが、溶媒中に懸濁したLiを含むシリコンクラスレート化合物にエタノールを入れ、Liをエタノールと反応させることでLiを選択的に離脱させることが挙げられる。
【0025】
以上により、工程S20によれば、
図5に表れているように、ゲスト(Na)が残る部位と、Naが離脱したゲスト離脱部2とが混在するとともに、空隙3が形成されたシリコンクラスレート化合物を得ることができる。
【0026】
2.3.ゲスト離脱(工程S30)
ゲストを離脱する工程(以下「工程S30」と記載することがある。)は、工程S20において得られたシリコンクラスレート化合物(
図5参照)から、残存したゲスト(本形態ではNa)を離脱させる。
ゲストであるNaの離脱は加熱により行われるが、酸化を防止するために減圧した容器内に材料を入れて加熱する必要があることから、従来においては加熱の効率や離脱したNaの再付着等の問題があり、効率のよいゲストの離脱が難しかった。これに対して本開示では、この後に説明する装置、及び、製造方法によりゲストの離脱を効率よく行うことができる。
【0027】
2.4.補足
以上の工程10~工程30を含む製造方法によりゲストフリーシリコンクラスレート1を得ることができる。なお、本形態では空隙3を有するゲストフリーシリコンクラスレートを例に説明したが、空隙3を有しないゲストフリーシリコンクラスレートを製造する場合であっても工程S20を除けばよく、同様に考えることができる。
以下には、工程S30におけるゲスト離脱のための装置及び製造方法について説明する。
【0028】
3.ゲストフリーシリコンクラスレートの製造装置
図6~
図11に工程S30におけるゲスト離脱のためのゲストフリーシリコンクラスレート製造装置10(以下「製造装置10」と記載することがある。)の構成の概要を表した。特に
図6には製造装置10の全体の構成(一部が断面)が表れている。
製造装置10は、容器12、電磁波照射器14、反射器16、回転軸18、吸引管20、ゲスト吸着器22、吸引器24を備える。以下に各構成について説明する。
【0029】
3.1.容器
容器12は、工程S20で作製された、ゲスト(Na)を離脱させる対象物であるシリコンクラスレート化合物を収納する容器である。
図7、
図8には容器12のみを表した。
図6、
図7には容器12の深さ方向(円筒である容器12の軸線に沿った方向)の断面が表れている。また
図8には容器12の深さ方向に直交する方向(円筒である容器12の径方向に沿った方向)の断面が表れている。
容器12の具体的態様は、対象物であるシリコンクラスレート化合物を収納し、その内側を減圧(大気圧よりも低い圧力、真空ポンプにより可能な真空に近い状態)にしたときにも形状を維持する耐久性を有するとともに、電磁波照射器14により容器12の外部から電磁波を照射したときに収納されたシリコンクラスレート化合物を加熱することができるように構成されていればよい。本形態では、より効率よくゲストの離脱を行うことができる観点から形態例として次のような態様を具備している。
【0030】
本形態例で容器12は一方に底を有し、他方が開口した円筒状である。円筒状とすることにより後述するように容器12を軸線周りに回転させたときにシリコンクラスレート化合物を効率よくかき混ぜ、電磁波による加熱に対して加熱ムラの発生を抑えることができる。なお、容器12は、開口側端部で径が小さくなるとともに開口部でフランジ部12aが形成されている。後述するようにこのフランジ部12aにより容器12が回転軸18と連結される。
【0031】
本形態で容器12は、その内周面から軸線に向けて立ち上がり、軸線に平行な方向に延びるように形成された板状の部材である撹拌板12bを有している。撹拌板12bによりシリコンクラスレート化合物の撹拌が効率よく行われ、電磁波による加熱ムラを低減することができる。本形態では、容器12の内周面から軸線に向けて立ち上がり、軸線に平行な方向延びるように形成された撹拌板12bが1つ具備されているが、撹拌板12bの数や形状は特に限定されることはない。すなわち、容器12に収納されたシリコンクラスレート化合物が容器12の回転に伴って撹拌板12bにより撹拌されるように構成されていればよく、容器12の内壁面から突出する部材とすることができる。
【0032】
また、本形態で容器12はその材質が石英ガラスである。これにより耐熱性を得ることができ、透明度も高いことから電磁波を効率よく内部に透過させることが可能である。ただし、容器の材質はこれに限定されることはなく、他の材料により構成してもよい。
【0033】
3.2.電磁波照射器
電磁波照射器14は、容器12の内側に向けて電磁波を照射する機器である。ここで電磁波は、減圧されて熱を伝える媒体が極端に少なくなっている容器12の内側に収納されたシリコンクラスレート化合物を効率よく加熱するものである。このような環境にあるシリコンクラスレート化合物を効率よく加熱することができれば具体的な電磁波の種類は特に限定されることはないが、近赤外線(波長が0.7μm~2.5μm程度)の電磁波を挙げることができる。これにより大きく減圧された容器12に収納されたシリコンクラスレート化合物を効率よく加熱することができる。
電磁波照射器14の具体的態様は照射する電磁波に応じて公知のものを用いることができるが、近赤外線を照射する場合にはランプヒータ(ハロゲンランプ)を適用することができる。
【0034】
電磁波照射器14は電磁波が容器12の内側に達するように配置されればよい。そのための具体的態様は特に限定されることはないが、本形態では
図6、
図9(
図6のIX-IX断面)からわかるように複数の電磁波照射器14が容器12の外周に沿って配置されている。本形態では1つの電磁波照射器14は容器12の軸線に平行な方向に延び、当該方向については1つの電磁波照射14で容器12の全部に電磁波を照射するように構成されている。
【0035】
また、
図9からわかるように本形態では電磁波照射器14は容器12の外周のうち下半分に配置されている。これは本形態では容器12の外周のうち上半分には反射器16が配置されることによる。後述するように反射器16の代わりに当該上半分にも電磁波照射器14が配置されてもよく、この場合には容器12の外周の全周に亘って電磁波照射器14が配置される。
【0036】
3.3.反射器
反射器16は、電磁波照射器14から出射した電磁波のうち容器12を透過して容器12の反対側外周部から出た電磁波を容器12に向けて戻すように反射する機器である。
反射器16の具体的態様は、電磁波を容器12の内側に向けて反射することができれば特に限定されることはないが、例えば鏡や鏡面加工した表面を有する金属板等を挙げることができる。
【0037】
反射器16は電磁波が容器12の内側に達するように反射する位置に配置されればよい。そのための具体的態様は特に限定されることはないが、本形態では
図6、
図9からわかるように、反射器16は、容器12の外側のうち、容器12の軸線を挟んで電磁波照射器14と反対となる位置のそれぞれに配置されている。これにより電磁波照射器14から達した電磁波を反射器16で効率よく容器12に戻すように反射することができる。従って、
図9からわかるように本形態では反射器16は容器12の外周のうち上半分に配置されている。ただし、反射器16の代わりに電磁波照射器14が配置された場合には反射器16は配置しなくてもよい。
【0038】
電磁波照射器14が容器12の外周の全部に亘って配置された場合には必ずしも反射器16を配置する必要はないが、容器12の交換の際の当該容器12の取り回し、エネルギーの効率的な利用、及び、設備コストの低減等の観点から、電磁波照射器14の数を減らすことが好ましく、当該減らした部分について反射器16を配置することができる。
【0039】
3.4.回転軸
回転軸18はその軸線周りに回転する回転軸であり、容器12に連結して容器12を回転させる。
図10には
図6のうち回転軸18を含む部分(
図6にXで示した部分)を拡大した図を示した。
図6、
図10からわかるように回転軸18は円筒状の軸部材である。また、回転軸18の軸線方向一端側の外周端部は外径が大きくなるように形成されてフランジ部18aとされている。
【0040】
図6、
図10からわかるように、本形態では回転軸18の軸線と円筒である容器12の軸線とが水平方向に一直線(
図6、
図10の軸線A)になるように配置され、回転軸18のフランジ18aと容器12のフランジ12aとが付き合わされるように重ねられて連結される。フランジ12aとフランジ18aとの連結は特に限定されることはないが、両フランジをその外周側から挟むようにして保持するクランプ等により行うことができる。
このような回転軸18と容器12との連結により、回転軸18を軸線A周りに回転させることで、容器12を軸線A周りに回転させることができる。
【0041】
なお、回転軸18と容器12との連結は気密性を有するように行われる。後述するように容器12の内側は真空引きが行われ減圧されるため、この減圧が阻害されないように気密が保たれる。気密を得るための具体的手段は特に限定されることはないが適切な位置にOリング等のシール部材を配置することで行うことができる。
【0042】
3.5.吸引管
吸引管20は管状の部材であり、回転軸18に連結した容器12の内側から吸引器24の吸引力により気体を抜くための導管となる。吸引管20の形態は
図6、
図10に表れている。上記のように吸引管は管状の部材であるが、本形態ではその一端側(容器12側となる端部)には底部20aが具備され、該底部20aに穴20bが設けられて吸引管20の内外が連通している。ただし、吸引管20の一端側(容器12側となる端部)の具体的形状は特に限定されることはなく、容器12内の気体を吸引することができればよい。
【0043】
図6、
図10からわかるように、本形態で吸引管20は回転軸18と同軸で配置され、吸引管20が、円筒状である回転軸18の内側を通されるように位置付けられる。このとき底部20aが容器12に対向するように配置される。本形態では後述するように底部20aの外側にはゲスト吸着器22が取り付けられる。
【0044】
なお、吸引管20は回転軸18の回転により回転することなく設けられる。このとき、吸引管20と回転軸18との間から容器12の内側に連通することがないように気密性が保たれる。後述するように容器12の内側は真空引きが行われ減圧されるため、この減圧が阻害されないように気密が保たれる。気密を得るための具体的手段は特に限定されることはないが適切な位置にOリング等のシール部材を配置することで行うことができる。
【0045】
本形態では吸引管20の内周面に冷却部材21が配置されている。本形態の冷却部材21は筒状であり、吸引管20の内周面に沿って位置付けられる。
図6及び
図10に表れているように冷却部材21には螺旋状に流路21aが形成されており、当該流路21aに不図示の冷却水ポンプから送られた冷却水が流される。
【0046】
3.6.ゲスト吸着器
ゲスト吸着器22は、容器12の内側でシリコンクラスレート化合物から離脱したゲスト(本形態ではNa)の少なくとも一部を吸着する部材である。
図11にゲスト吸着器22の外観斜視図を表した。
図11では紙面左上の端部が吸引管20に接続され、紙面右下が自由端側である。
図6、
図10にもゲスト吸着器22の一部が表れている。
これら図からもわかるようにゲスト吸着器22は、吸着材22a及び受け容器22bを有している。
【0047】
吸着材22aにはゲスト(本形態ではNa)を吸着することができる材料が含まれる。例えば吸着材22aは、ゲスト(Na)を吸着する材料が網材からなる筒状部材に収納されたものが挙げられる。当該材料はゲストを吸着することができれば特に限定されることはないがゲストがNaである場合には酸化鉄(FeO)を挙げることができる。
【0048】
受け容器22bは樋状の部材であり、その内側に吸着材22aを配置する。従って受け容器22bは吸着材22aの形状に基づいて構成される。受け容器22bは吸着材22aから脱落した吸着のための材料が容器12に収納されたシリコンクラスレート化合物に混濁しないように、当該脱落した吸着のための材料を受けて保持する。
【0049】
このようなゲスト吸着器22は、受け容器22bが下側となり上向きに開口した樋の溝に吸着材22aが配置され、容器12の内側に位置付けられる。このようなゲスト吸着器22は、受け容器22bの一端が上記した吸引管20の底部20aの外側に固定され、受け容器22bの他端側(自由端側)が容器22の内側に向けて延びるように配置される。
【0050】
ゲスト吸着器22を用いることにより吸引器24による容器12の内部の気体を吸引する際に吸引される気体に含まれるゲストの量を減らすことができ、ゲストによる装置の不具合の発生を抑制することができる。従ってゲストの性質上、吸引される気体に離脱したゲスト多く含まれていても問題がない場合にはゲスト吸着器22を用いる必要はない。
【0051】
3.7.吸引器
吸引器24は、吸引管20を通じて容器12の内側から気体を吸引する手段である。従って、吸引器24は吸引管20の端部(容器12側の端部とは反対側の端部)に連結している。
吸引器24は当該吸引をすることができればその具体的態様は特に限定されることはないが、例えば真空ポンプを用いることができる。
【0052】
4.ゲストフリーシリコンクラスレートの製造装置の他の形態
図12、
図13には他の形態にかかるゲストフリーシリコンクラスレート製造装置10’(以下、「製造装置10’」と記載することがある。)を説明する図を示した。
図12、
図13は
図10と同じ視点による図である。
製造装置10’は、製造装置10に加えて、弁付きフタ30、押圧ロッド31、及び、カム32を備えている。他の部位については製造装置10と同様に考えることができるため、同じ符号を付して説明を省略する。ただし本形態では吸引管20は底部20aを有せず、ゲスト吸着器22を具備していないものとする。
【0053】
弁付きフタ30は、容器12の開口を塞ぐように配置されたフタ材である。さらに弁付きフタ30は弁30cを有している。本形態の弁付きフタ30に具備された弁30cは弁付きフタ30の本体30aに設けられた穴30bの内側に配置され、不図示のバネによる付勢力で通常時は穴30bを通じる容器12の内外の気体の連通が禁止(気密状態が維持)され、不図示のバネの付勢力に抗して弁30cが容器12側に押圧されることにより穴30bを通じて気体の連通が許容(気密状態が解除)される。
【0054】
押圧ロッド31は棒状の部材であり、吸引管20の内側に、吸引管20の軸線に沿って配置される。押圧ロッド31の端部のうち容器12側の端部は弁付きフタ30の弁30cに対向するように配置されている。
カム32は押圧ロッド31の端部のうち容器12側とは反対側の端部に接触可能に配置されたカムであり、その姿勢により押圧ロッド31を弁付きフタ30に向けて移動させることができる。カム32の具体的形態は特に限定されることはなく公知の形態を適用することができ、例えば、偏心した回転体や楕円形状のものを挙げることができる。また、カム32の姿勢の変更は不図示の制御装置により行われる。
【0055】
製造装置10’によれば、
図12に示したようにカム32の姿勢により押圧ロッド31が弁30cを押圧していないときには、穴30bを通じての容器12の内外の気体の連通が禁止(気密状態が維持)されている。これに対して、
図13に示したようにカム32の回転等によるカム32の姿勢の変更により押圧ロッド31が移動して押圧ロッド31が弁30cを押圧しているときには穴30bを通じて気体の連通が許容(気密状態が解除)される。
【0056】
このような製造装置10’によれば、容器12を回転軸18に着脱する際には
図12のように押圧ロッド31が弁30cを押圧していない状態としておくことで、容器12の内外の気体の連通が禁止(気密状態が維持)されているため容器12内への外気の流入をより確実に防ぐことができる。
一方、容器12を回転軸18に連結した後は、カム32の姿勢の変更により
図13のように押圧ロッド31を移動して押圧ロッド31が弁30cを押圧させ、穴30bを通じて気体の連通を許容(気密状態が解除)することにより製造装置10と同様に作用させることができる。
【0057】
5.ゲストフリーシリコンクラスレートの製造方法
以下に工程S30におけるゲスト離脱のためのゲストフリーシリコンクラスレート製造方法(以下「本形態の製造方法」と記載することがある。)について説明する。ここではわかりやすさのため製造装置10を用いた例により説明するが、これに限定することはなく他の製造装置を用いて本形態の製造方法を行うこともできる。
【0058】
初めに、シリコンクラスレートが収納された容器12を回転軸18に連結する。連結の態様は上記した通りである。
図14、
図15にシリコンクラスレートが収納された容器12が回転軸18に連結された状態の図を示した。
図14は
図6、
図15は
図9と同じ視点による図である。
その後、吸引器24を作動させて最初の真空引きを行う。吸引器24を作動させると
図14に直線矢印で示したように容器12の内側の気体が吸引されて、ゲスト吸着器22の吸着材22a、吸引管20を通って排出される。これにより容器12の内側は減圧され、大気圧より圧力が低い状態となる(完全な真空状態ではないが、通常の真空ポンプにより達成可能な減圧状態となる。)。
かかる状態とした後、本形態の製造方法ではさらに、加熱、撹拌、吸引を行う。以下に説明する。
【0059】
5.1.加熱
加熱は容器12の外周に沿って配置された電磁波照射器14、及び、反射器16により行う。すなわち、電磁波照射器14を作動させ電磁波を容器12の内側に収納されたシリコンクラスレート化合物に照射する。また、容器12の反対側から透過した電磁波を反射器16により反射して容器12に戻し、シリコンクラスレート化合物に照射する。
本開示ではこのように電磁波を照射することでシリコンクラスレート化合物を加熱するため、容器中に熱を伝える媒体が少ない減圧状態であっても効率よくシリコンクラスレート化合物を加熱、昇温させることができる。この加熱、昇温によりシリコンクラスレート化合物からゲスト(本形態ではNa)が離脱し容器12にガスとして放出される。
【0060】
5.2.撹拌
回転軸18を軸線周りに回転させることで、容器12を軸線周りに回転させて撹拌を行う。
図16、
図17に説明のための図を示した。
図16、
図17は
図15と同じ視点による図である。
本形態の容器12は、撹拌板12bを有しているので容器12の回転により
図15~
図17が繰り返されることによりシリコンクラスレート化合物が撹拌されて均一性高く加熱が行われてゲストの離脱がより円滑に行われる。
図15~
図17からもわかるように容器12の回転につられてシリコンクラスレート化合物の位置が変わるが、位置が変わっても容器12の外周に沿って電磁波照射器14及び反射器16が配置されているため位置の変化によらず均一性高くシリコンクラスレート化合物を加熱することができる。
【0061】
5.3.吸引
加熱により、シリコンクラスレートからゲスト(本形態ではNa)が離脱すると容器12の内側にガスとして存在する。このガスの濃度が高くなるとゲスト離脱の処理速度が低下し、効率が低下する。そこで本形態の製造方法では、加熱及び撹拌と合わせて容器内の気体を吸引する。
この吸引は上記した最初の真空引きと同様である。すなわち、吸引器24を作動させて真空引きを行うと
図14に直線矢印で示したように容器12の内側の気体が吸引されて、ゲスト吸着器22の吸着材22a、吸引管20を通って排出される。ただし、この吸引で吸引される気体にはゲストが多く含まれている。従って、吸引により容器12の内側にゲストが充満して処理速度が低下することを抑制することができ、効率の良い工程の進行が可能となる。
【0062】
ここで吸引されるゲストを多く含む気体が機器の不具合を生じさせるものである場合には、本形態のようにゲスト吸着器22や吸引管20内壁に冷却部材21を配置することが有効である。
ゲスト吸着器22によりゲストが吸着されることで排出される気体に含まれるゲストの濃度を低下させることができる。
また、冷却部材21で冷却することで吸引された気体が冷やされて冷却部材21の壁面にゲストが付着する。これによっても排出される気体に含まれるゲストの濃度を低下させることができる。冷却部材21は必要に応じて清掃や交換すればよい。
【0063】
5.4.その他
なお、工程S30が終了した際には大気への暴露を防止するため、容器12を回転軸18から離脱させる前にAr等の不活性ガスを容器12に充填してもよい。その際、容器内の圧力を外気圧より若干高くすることで容器内への大気の流入をより確実に抑制することができる。このような容器12の回転軸18からの離脱や容器12の回転軸18への連結の際に容器内の密閉性を高めることができる観点からは、上記した製造装置10’のように弁付きフタ30、押圧ロッド31、カム32を配置することができる。
【0064】
6.効果等
以上のように、容器内のシリコンクラスレート化合物に対して電磁波による加熱と吸引を合わせて行うことでゲストの離脱を効率よく行うことができ、ゲストフリーシリコンクラスレートの製造の生産性を高めることができる。さらに容器の回転によるシリコンクラスレート化合物の撹拌を行うことで、その効率はより高まる。
【符号の説明】
【0065】
1 ゲストフリーシリコンクラスレート
2 ゲスト離脱部
3 空隙
10、10’ ゲストフリーシリコンクラスレート製造装置
12 容器
14 電磁波照射器
16 反射器
18 回転軸
20 吸引管
22 吸着器
24 吸引器
30 弁付きフタ
31 押圧ロッド31
32 カム