(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】車両用外装部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60S 1/62 20060101AFI20240528BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240528BHJP
B60R 13/04 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B60S1/62 110B
B29C45/14
B60R13/04 Z
B60S1/62 110C
B60S1/62 120Z
(21)【出願番号】P 2021108460
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 達也
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢治
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-297707(JP,A)
【文献】特開2003-187210(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148313(WO,A1)
【文献】特開2017-119431(JP,A)
【文献】特開2018-066706(JP,A)
【文献】米国特許第05525401(US,A)
【文献】韓国登録特許第10-2160944(KR,B1)
【文献】特開2016-143914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/62
B29C 45/14
B60R 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のベース体、前記ベース体の表側にある発熱体、および、樹脂製であり前記ベース体の前記表側かつ前記発熱体の前記表側にあるカバー体が一体化され、
前記ベース体は、前記発熱体を裏側から支持する一般部と、前記発熱体の側方において前記一般部から表側に突出し前記発熱体に沿って延びる土手部と、を具備
し、
前記土手部における前記発熱体との接触部分のうち前記表側の端部は、前記一般部の表面よりも、前記表側にある、車両用外装部品。
【請求項2】
前記発熱体が前記一般部に埋められている、請求項1に記載の車両用外装部品。
【請求項3】
前記土手部の側面は、前記発熱体から遠い側かつ裏側から前記発熱体に近い側かつ前記表側に向けて傾斜する、傾斜形状をなす、請求項1または請求項2に記載の車両用外装部品。
【請求項4】
樹脂製のベース体の表側に発熱体を配置し、前記ベース体および前記発熱体を一体に加熱加圧することで前記ベース体に前記発熱体を埋め込み、前記ベース体のうち前記表側かつ前記発熱体の側方に位置する部分を前記発熱体に沿って突出させて
、前記発熱体を裏側から支持する一般部と前記発熱体の側方において前記一般部から表側に突出し前記発熱体に沿って延びる土手部とを形成する、熱プレス工程と、
前記熱プレス工程で得られた前記ベース体と前記発熱体との一体品の前記表側に樹脂製のカバー体を形成する、カバー体形成工程と、を具備
し、
前記熱プレス工程で形成された前記土手部における前記発熱体との接触部分のうち前記表側の端部は、前記一般部の表面よりも、前記表側にある、車両用外装部品の製造方法。
【請求項5】
前記カバー体形成工程においては、インサート成形により前記カバー体を形成する、請求項4に記載の車両用外装部品の製造方法。
【請求項6】
前記ベース体の材料として熱可塑性の非結晶性樹脂を用いる、請求項4または請求項5に記載の車両用外装部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に配設される車両用外装部品と、当該車両用外装部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の運転支援システムの開発が活発に行われており、車両には当該運転システムに用いる種々のセンサが取り付けられている。
【0003】
上記のセンサの一種であるLIDAR(Light Detection and Ranging)は、光を用いたリモートセンシング技術であり、運転支援システムに利用されている。
LIDARでは、レーザーを用いて比較的短波長の光を対象物に向けて出射し、かつ、対象物に当たって反射した当該光を検知する。LIDARのなかでも、近赤外線を用いたセンシングを行うものは、比較的近距離の障害物を検知するのに有利である。
【0004】
また、その他のセンサとして、ミリ波レーダやレーザレーダ等の電磁波レーダ装置も知られている。当該電磁波レーダ装置は、車両のA.C.C(Adaptive Cruise control)に用いられる。
A.C.C.は、車両前側に搭載されているセンサによって前方車両と自車との車間距離や相対速度等の走行情報を測定し、この走行情報を基にスロットルやブレーキを制御して自車を加減速し、車間距離をコントロールする技術である。A.C.C.は、近年、渋滞緩和や事故減少を目指す高度道路交通システム(ITS)の中核技術の一つとして注目されている。電磁波レーダ装置の一種であるミリ波レーダは、周波数30GHz~300GHz、波長1~10mmのミリ波を送信し、かつ、対象物にあたって反射したミリ波を受信する。この送信波と受信波との差から前方車両と自車との車間距離や相対速度を算出できる。
【0005】
上記した各種のセンサにおける出射部および検知部は、車両の最外側(つまり、車両の前端側、側端側、後端側等)に搭載される。当該出射部および検知部が車外から視認されると車両の意匠性が損なわれるため、出射部および検知部の更に外側には、出射部および検知部を覆う車両用外装部品を設けるのが一般的である。
【0006】
ここで、上記の車両用外装部品は、車両の最外側に配置されるために、寒冷時に霜がついたり、降雪時に雪が積もったりする場合がある。これら車両用外装部品が霜雪で覆われると、その奥側に配置されるセンサのセンシング機能や通信機の通信機能等が阻害される虞がある。
【0007】
特許文献1には、通信機を覆う車両用外装部品として、通電されることで発熱する導電体を有するものが提案されている。この種の車両用外装部品によると、霜雪を加熱し溶かすことが可能であるために、霜雪に因るセンシング機能や通信機能等の阻害を抑制できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に紹介されている車両用外装部品は、基材25上に導電体30が形成された導電体付シート20を具備する。
【0010】
樹脂を用いた車両用外装部品を製造する際にも、上記の導電体付シート20を用いることができると考えられる。例えば、予め成形したカバー体用の樹脂層を加熱し軟化させつつ、導電体付シート20における導電体30側の面に重ね、これらを加熱しつつ加圧することで、導電体付シート20にカバー体を一体化する方法を挙げることができる。または、インサート成形により、導電体付シート20における導電体30側の面にカバー体を一体に形成する方法を挙げることもできる。これらの製造方法は、車両用外装部品の製造工数や製造コスト低減の面から有用と考えられる。
【0011】
しかし実際には、上記した製造方法によると、カバー体用の樹脂層を導電体付シート20に一体化する際に変形が生じることで、車両用外装部品における発熱部位が位置変化する問題が生じる。
【0012】
具体的には、カバー体用の樹脂層を導電体付シート20に一体化する際に、加熱され軟化したカバー体用の樹脂が流動し、それに伴い導電体30すなわち車両用外装部品における発熱部位が位置変化してしまう場合がある。導電体30が位置変化すると、車両用外装部品における発熱部位をコントロールするのが困難になり、上記した霜雪を効率よくまたは十分に除去し難くなり、ひいては、霜雪に因るセンシング機能や通信機能等の阻害が依然として生じることが想定される。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、車両用外装部品における発熱部位の位置変化を抑制し得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明の車両用外装部品は、
樹脂製のベース体、前記ベース体の表側にある発熱体、および、樹脂製であり前記ベース体および前記発熱体の表側にあるカバー体が一体化され、
前記ベース体は、前記発熱体を裏側から支持する一般部と、前記発熱体の側方において前記一般部から表側に突出し前記発熱体に沿って延びる土手部と、を具備する、車両用外装部品である。
【0015】
また、上記課題を解決する本発明の車両用外装部品の製造方法は、
樹脂製のベース体の表側に発熱体を配置し、前記ベース体および前記発熱体を一体に加熱加圧することで前記ベース体に前記発熱体を埋め込み、前記ベース体のうち前記表側かつ前記発熱体の側方に位置する部分を前記発熱体に沿って前記表側に突出させ土手部を形成する、熱プレス工程と、
前記熱プレス工程で得られた前記ベース体と前記発熱体との一体品の前記表側に樹脂製のカバー体を形成する、カバー体形成工程と、を具備する、車両用外装部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の車両用外装部品の製造方法によると、車両用外装部品における発熱部位の位置変化を抑制し得る。また、本発明の車両用外装部品は、発熱部位の位置変化の抑制されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1の車両用外装部品を厚さ方向に切断した様子を模式的に表す説明図である。
【
図3】実施例1の車両用外装部品の製造方法を模式的に表す説明図である。
【
図4】実施例1の車両用外装部品の製造方法を模式的に表す説明図である。
【
図5】実施例1の車両用外装部品の製造方法を模式的に表す説明図である。
【
図6】実施例1の車両用外装部品の製造方法を模式的に表す説明図である。
【
図7】実施例1の車両用外装部品の製造方法を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに、これらの数値範囲内から任意に選択した数値を、新たな上限や下限の数値とすることができる。
【0019】
本発明の車両用外装部品は、樹脂製のベース体、当該ベース体の表側にある発熱体、および、樹脂製であり当該発熱体の表側にあるカバー体が一体化されたものである。したがって、本発明の車両用外装部品は発熱体を有することに因り霜雪を加熱し溶かすことが可能である。
【0020】
本発明の車両用外装部品においては、ベース体のうち表側かつ発熱体の側方に位置する部分が、表側に突出し発熱体に沿って延びる土手部を形成している。当該土手部により、発熱体はその側方から保護または支持される。したがって、カバー体を形成する際に、加熱され軟化したカバー体用の樹脂が流動しても、発熱体に作用する力はさほど大きくなく、発熱体すなわち本発明の車両用外装部品における発熱部位は、位置変化し難い。
これにより、本発明の車両用外装部品は、発熱部位の位置変化の抑制されたものであるといい得る。
【0021】
本発明の車両用外装部品の製造方法は、熱プレス工程およびカバー体形成工程を具備する。このうち熱プレス工程では、ベース体の表側に発熱体を配置し、これらを一体に加熱加圧することで当該ベース体に発熱体を埋め込む。このとき、ベース体のうち発熱体が埋め込まれた部分は、溶融または軟化して、ベース体における表側かつ発熱体の側方に流動し、当該発熱体に沿って、表側に向けて突出して土手部を形成する。
【0022】
カバー体形成工程では、上記した熱プレス工程で得られた、ベース体と発熱体との一体品の表側に、樹脂製のカバー体を形成する。既述したように、発熱体はベース体の土手部によってその側方から保護または支持されるため、カバー体を形成する際にも発熱体は位置変化し難い。
これにより、本発明の車両用外装部品の製造方法は、発熱部位の位置変化を抑制できる製造方法といい得る。
以下、本発明の車両用外装部品をその構成要素毎に説明する。
【0023】
本発明の車両用外装部品は、ベース体、発熱体およびカバー体を有し、これらが一体化されたものである。したがって、本発明の車両用外装部品は、少なくとも、ベース体と発熱体とが一体化され、かつ、発熱体とカバー体とが一体化されたものといい得る。
【0024】
ベース体は、樹脂製であれば良く、単層構造であっても良いし多層構造であっても良い。
【0025】
例えば、上記した熱プレス工程によりベース体に発熱体を埋め込む場合には、土手部は一般部すなわちベース体における土手部以外の部分と同じ材料で構成される。この場合のベース体は、単層構造をなすといい得る。
また、例えば土手部を一般部に接着し一体化することでベース体を形成する場合等には、土手部と一般部とを異なる層とみなし得る。つまりこの場合のベース体は多層構造をなすといい得る。
【0026】
何れの場合にも、ベース体は一般部と土手部とを具備し、このうち一般部によって発熱体を裏側から支持するといい得る。そして土手部は、当該発熱体の側方において一般部から表側に突出し、発熱体に沿って延びるといい得る。
【0027】
ベース体と発熱体とは既知の方法、例えば、接着や融着等の方法で一体化すれば良い。熱プレス工程によりベース体と発熱体とを一体化する場合、ベース体とカバー体とは互いに融着されて一体化される。
熱プレス工程によりベース体と発熱体とを一体化する場合、ベース体の材料としては熱可塑性樹脂を選択するのが好ましい。
【0028】
ここで、本発明の車両用外装部品はベース体、発熱体に加えてカバー体を有する。当該カバー体の形成方法としては、既述したように、ベース体と発熱体との一体品をインサートとして当該一体品における発熱体側にカバー体を成形するインサート成形法を例示できる。または、ベース体と発熱体との一体品とシート状のカバー体とを一体に加熱加圧することで一体化する方法も例示できる。
【0029】
これらの方法によると、ベース体と発熱体との一体品にカバー体を一体化する際に、当該一体品に熱が作用してベース体が溶融または軟化することで発熱体が位置変化する虞がある。
【0030】
したがって、本発明の車両用外装部品においては、ベース体のうち表側かつ発熱体の側方に位置する部分によって、表側に突出し発熱体に沿って延びる土手部を形成する。
【0031】
当該土手部を形成する方法は特に限定せず、また、土手部はベース体の他の部分(すなわち一般部)と同じ材料からなっても良いし、当該一般部とは異なる材料からなっても良い。例えば、接着シート等からなる土手部をベース体に接着し一体化しても良い。
【0032】
または、既述したように、加熱され軟化した状態のベース体に発熱体を押し付けることで、発熱体をベース体に埋め込み、流動したベース体の一部によって土手部を形成しても良い。
【0033】
何れの場合にも、土手部により発熱体が保護または支持されることで、ベース体と発熱体との一体品にカバー体を一体化する際における発熱体の位置変化を抑制することが可能である。
【0034】
土手部の形状は特に限定しないが、車両用外装部品の厚さ方向において、発熱体のなるべく多くの領域を覆うのが好ましい。
本明細書でいう車両用外装部品の厚さ方向とは、車両用外装部品の表面に対して接線L1をとり、当該接線に直交する方向を意味する。車両用外装部品の表面とは、車両用外装部品における最表側にある面を意味し、当該表面は平面であっても良いし、曲面であっても良い。
以下、車両用外装部品の厚さ方向を単に厚さ方向と称する場合がある。
【0035】
発熱体のうち、土手部を含むベース体に覆われる領域は、厚さ方向における発熱体の長さの50%以上であるのが好ましく、75%以上または90%以上であるのがより好ましい。発熱体の多くの領域を、土手部を含むベース体で覆うことで、既述した発熱部の位置変化をより信頼性高く抑制できる。
【0036】
発熱体のうち、土手部を含むベース体に覆われる領域は、厚さ方向における発熱体の長さの100%であるのが特に好ましい。換言すると、発熱体はベース体に完全に埋められるのが特に好ましい。
【0037】
なお、発熱体がベース体に完全に埋められた場合にも、発熱体の側方、場合によっては発熱体の側方および表側には、他の部分に比べて表側に隆起する部分が形成される。この場合には、当該隆起した部分を土手部と捉えれば良い。
【0038】
ここで、発熱体はベース体のうち土手部のみによって覆われても良い。または、発熱体の一部が一般部に埋め込まれ、かつ、他の一部が土手部によって覆われても良い。
【0039】
カバー体を形成する際に発熱体に作用する力を低減するためには、発熱体の一部が一般部に埋め込まれ、かつ、他の一部が土手部によって覆われるのが好ましく、土手部の高さ、すなわち、厚さ方向における土手部の長さには好ましい範囲がある。
【0040】
土手部の高さ、すなわち厚さ方向における土手部の長さは、厚さ方向における発熱体の長さの30%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましく、10%以下であるのが特に好ましい。
土手部の高さにつき、下限値は特にないが、強いていえば、厚さ方向における発熱体の長さの1%以上であれば良い。
【0041】
本発明の車両用外装部品においては、土手部の形状に特に限定はないが、カバー体を形成する際に流動状態のカバー体から発熱体に作用する力を逸らすか、または緩和することを考慮すると、当該土手部の側面は傾斜形状をなすのが好ましい。
【0042】
土手部の傾斜角、すなわち、車両用外装部品の厚さ方向に対する土手部の側面の傾斜角θは、5°以上であるのが好ましく、10°以上、15°以上または20°以上であるのがより好ましい。
【0043】
また、後述するように、土手部の形状は土手部を構成する材料を適宜適切に選択することによってコントロールすることが可能であり、具体的には、土手部を含むベース体の材料としては熱可塑性の樹脂を用いるのが好ましい。熱硬化性の樹脂は、硬化後には溶融または軟化しないため、既述したようにベース体に発熱体を埋め込んでも土手部が形成し難いことに因る。
【0044】
熱可塑性の樹脂としては、熱可塑性の非結晶性樹脂を選択するのが好適である。当該熱可塑性の非結晶性樹脂は、溶融または軟化した状態において比較的粘度が高く、上記した傾斜形状をなす土手部を形成し易いためである。
【0045】
なお、後述するように、熱可塑性の結晶性樹脂を用いる場合には傾斜形状でなく垂直形状の土手部が形成されるが、この場合にも土手部により発熱体をその側方から保護または支持する効果は得られるため、発熱体の位置変化を抑制することが可能である。
【0046】
当該熱可塑性の非結晶性樹脂として、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、アクリロニトリルスチレン共重合合成樹脂(AS)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)等を例示できる。熱可塑性の結晶性樹脂としてはポリプロピレン(PP)を例示できる。
【0047】
発熱体は、車両用外装部品を加熱して霜雪を溶かし得るものであれば良い。発熱体としては、ヒータ線を用いても良いし、上記した特許文献1に紹介されているような導電体を用いても良い。
【0048】
発熱体が発熱する作用機序は特に問わないが、本発明の車両用外装部品は車両に搭載されるものであることから、当該発熱体は、シンプルな構造であるのが好ましく、給電を受けて発熱するものが特に好適である。
【0049】
発熱体は、車両用外装部品の全体に満遍なく配置しても良いし、車両用外装部品のうち加熱すべき位置にのみ設けても良い。
【0050】
カバー体は樹脂製であればよく、発熱体とカバー体とを一体化する方法は特に限定しない。
【0051】
カバー体と発熱体とを一体化する方法としては、例えば、インサート成形や接着等の方法を例示でき、製造工数を考慮するとインサート成形を採用するのが好適である。
何れの場合にも、ベース体の土手部によって発熱体が保護または支持されて、ベース体と発熱体との一体品にさらにカバー部を一体化する際にも、発熱体の位置変化を抑制できる。
【0052】
カバー体は、単なる平坦な透明層であっても良いし、各種センサにおける出射部および検知部を外側から隠して人の注意を引き付けるために、各種の意匠を表示するものであっても良い。具体的には、カバー体は、各種の意匠を構成する立体形状を有しても良いし、または、少なくもその表面に、塗料や金属メッキ、金属蒸着等による文字や図形、模様等を有しても良い。
【0053】
以下、具体例を挙げて本発明の車両用外装部品およびその製造方法を説明する。
【0054】
(実施例1)
実施例1の車両用外装部品の製造方法で製造する実施例1の車両用外装部品は、車両のフロントグリルに配設されるものである。
図1は実施例1の車両用外装部品を厚さ方向に切断した様子を模式的に表す説明図である。
図2は
図1の要部拡大図である。
図3~
図7は実施例1の車両用外装部品の製造方法を模式的に表す説明図である。なお、
図3は実施例1の車両用外装部品の製造方法における熱プレス工程を表し、
図4は熱プレス工程で得られたベース体と発熱体との一体品を表す。
図5~
図7は実施例1の車両用外装部品の製造方法におけるカバー体形成工程を表す。
以下、表、裏とは、各図に示す表、裏を意味する。参考までに、表側は車両進行方向における先側に相当し、裏側は車両進行方向における後側に相当する。
【0055】
図1に示すように、実施例1の車両用外装部品1は、ベース体2、発熱体3およびカバー体4を具備する。
ベース体2はABS製であり湾曲板状をなす。ベース体2における各部分の厚さについては後述する。
【0056】
発熱体3は、線径約400μmのヒータ線であり、図略の電源に接続される。発熱体3の線径は、厚さ方向における発熱体3の長さL3と言い換えることができる。
発熱体3は、ベース体2の表側にある。また、厚さ方向における発熱体3の一部は、ベース体2に埋め込まれている。厚さ方向における発熱体3の残部は、ベース体2の表側に露出している。
【0057】
ベース体2は、一般部20と土手部21とを有する。
土手部21は、ベース体2のうち表側かつ発熱体3の側方に位置する部分であり、加えて、表側に突出するとともに発熱体3に沿って延びる部分である。
一般部20は、ベース体2における土手部21以外の部分であり、発熱体3を裏側から支持する部分である。実施例1の車両用外装部品において、ベース体2の一般部20および土手部21は、一体に形成されている。
【0058】
図2に示すように、発熱体3のうち裏側の部分は、ベース体2の一般部20に埋め込まれている。
実施例1の車両用外装部品1において、発熱体3のうち、一般部20に埋め込まれている部分の長さは約320μmであり、厚さ方向における発熱体3の長さすなわち発熱体3の線径L3の80%程度であった。
【0059】
さらに、実施例1の車両用外装部品1において、厚さ方向における土手部21の長さL21は70μm程度であった。また、発熱体3のうち土手部21の前側に露出する部分の厚さ方向の長さLeは、10μm程度であった。したがって、厚さ方向において、発熱体3のうち土手部21を含むベース体2に覆われる領域の長さは、発熱体3の線径L3の97%程度であった。
参考までに、厚さ方向における一般部20の長さL20は、700μm程度であった。
【0060】
なお、上記した各部分の長さは、実施例1の車両用外装部品1の断面を画像解析し、任意の3点で各部分の長さを測定し、その平均値をとったものである。
【0061】
図1および
図2に示すように、実施例1の車両用外装部品1におけるカバー体4は、発熱体3の表側にあり、発熱体3の表側部分を覆うとともにベース体2の表側部分および側部を覆う。カバー体4は、ベース体2と同じABS製であり、発熱体3およびベース体2に一体化されている。
なお、カバー体4の表面は滑らかであり、目視確認ではヒケ等を確認できなかった。
【0062】
図2に示すように、土手部21の側面21sは、発熱体3から遠い側かつ裏側から発熱体3に近い側かつ表側に向けて傾斜している。実施例1の車両用外装部品1の厚さ方向に対する土手部21の側面21sの傾斜角θは、20°程度であった。
実施例1の車両用外装部品1の製造方法を以下に説明する。
【0063】
〔熱プレス工程〕
実施例1の車両用外装部品1における熱プレス工程では、
図3に示すように、予め準備しておいたシート状のベース体2上に発熱体3を載置し、これらをプレス機90によって一体に加熱加圧した。
【0064】
このとき、プレス機90によって加熱されたベース体2は軟化し、発熱体3はベース体2に埋め込まれた。また、ベース体2のうち、発熱体3が埋め込まれた領域にあった部分は、表側に流動して、発熱体3の側方において当該発熱体3に沿って表側に突出した。これにより、土手部21が形成され、
図4に示すベース体2と発熱体3との一体品10が得られた。
【0065】
〔カバー体形成工程〕
カバー体形成工程においては、先ず、熱プレス工程で得た一体品10を賦形した。
【0066】
このとき、
図5に示すように、隣り合う発熱体3同士の間の位置Cで一体品10のベース体2に切れ目を入れ、当該ベース体2を賦形型96に向けつつ、一体品10を賦形型96上に載置した。
【0067】
賦形型96は図略の減圧経路を有する真空型である。当該減圧経路に接続された図略の減圧ポンプを動作させることにより、賦形型96が減圧され、賦形型96上の一体品10は、賦形型96の型面に向けて吸引され、当該型面に沿って賦形された(
図6)。
【0068】
次いで、
図6に示すように、上記した賦形型96を第2型として用い、当該第2型96と第1型97とでインサート成形型95のキャビティ95cを区画形成した。当該キャビティ95cには、賦形型96上の一体品10がインサートして持ち込まれる。
【0069】
このキャビティ95cに加熱され流動状態となった樹脂材料を注入するインサート成形を行うことで、
図7に示すように、ベース体2、発熱体3およびカバー体4を有する実施例1の車両用外装部品1を得た。
【0070】
実施例1の車両用外装部品1において、発熱体3は、狙い通りの位置に配置されていた。つまり、実施例1の車両用外装部品1においては、発熱部位の位置変化が抑制されていた。
【0071】
これは、カバー体形成工程において、流動状態の樹脂材料により発熱体3に作用した力が、土手部21により緩和されたことに因るものと考えられる。
また、土手部21が傾斜形状をなすことから、流動状態の樹脂材料による力が車両用外装部品1の厚さ方向に向けて逸らされ、その結果、当該厚さ方向と直交する方向、すなわち、実施例1の車両用外装部品1の面方向においては、発熱体3の位置変化が顕著に抑制されたものと考えられる。
【0072】
なお、実施例1とは別に、ベース体の材料およびカバー体の材料としてPPを用いたこと以外は実施例1の製造方法と同様にして、車両用外装部品を製造した。
この方法で得られた車両用外装部品は、土手部の側面が概略厚さ方向に延び、土手部が傾斜形状でなかったこと以外は、実施例1の車両用外装部品1と同様であった。
【0073】
当該車両用外装部品においても発熱体の位置変化はみられず、また、当該車両用外装部品の表面もヒケ等のない滑らかな形状であった。この結果から、熱可塑性の結晶性樹脂であるPPを用いる場合にも、車両用外装部品には土手部が形成され、当該土手部に因り発熱体の位置変化を抑制できることがわかる。
【0074】
本発明は、上記し且つ図面に示した実施形態にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。また、実施形態を含む本明細書に示した各構成要素は、それぞれ任意に抽出し組み合わせて実施できる。
【符号の説明】
【0075】
1:車両用外装部品
2:ベース体
21:土手部
3:発熱体
4:カバー体