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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】高圧タンクおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 12/00 20060101AFI20240528BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20240528BHJP
   F17C 1/00 20060101ALI20240528BHJP
   F17C 1/16 20060101ALI20240528BHJP
   B29D 22/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
F16J12/00 A
F17C1/06
F17C1/00 B
F17C1/16
B29D22/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021133358
(22)【出願日】2021-08-18
(65)【公開番号】P2023027963
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 雄基
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158101(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110509(WO,A1)
【文献】特開2017-030165(JP,A)
【文献】特開平09-014242(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0245447(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 12/00
F17C 1/06
F17C 1/00
F17C 1/16
B29D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を収容する収容空間が形成され、少なくとも一端側に開口部が形成されたライナと、前記ライナの外表面を覆う繊維強化樹脂からなる補強層と、を有した高圧タンクの製造方法であって、
前記収容空間が形成された胴体部と、前記胴体部に連続し前記開口部が形成されたネック部と、を有し、熱可塑性樹脂からなる前記ライナを準備する工程と、
内周面に凸状または凹状の係止部が形成された金属製の筒状体に、前記ネック部を挿入し、前記ネック部に前記筒状体を配置する工程と、
前記筒状体の内周面に前記ネック部が倣うように、前記ネック部の内周面から前記筒状体に向かって前記ネック部を熱圧成形し、前記係止部に前記ネック部を係止させる工程と、
前記筒状体とともに、前記ライナに補強層を形成してから、前記ネック部を覆う前記補強層の外周面に、環状の口金を取り付ける工程と、
を少なくとも含み、
前記高圧タンクは、前記口金を介して接続部に接続されるものであり、前記接続部は、前記口金の外周面に螺着することにより、前記ライナの前記開口部とともに前記高圧タンクの端面を覆うキャップ部と、前記キャップ部から延在し、前記開口部から前記ネック部の内周面に沿って挿入される栓状の挿入部と、前記挿入部の外周面に配置され、前記収容空間を封止する環状のシール部材と、を備えており、
前記筒状体は、前記高圧タンクが前記接続部に接続された状態で、前記シール部材に対向した位置に配置されており、
前記係止部は、前記内周面の周方向に間隔を空けて形成された複数の凸部または複数の凹部であり、
前記筒状体の両端部のうち、前記開口部側に配置される端部の内周面は、前記筒状体の径方向に広がった形状であり、
前記ネック部を係止させる工程において、前記筒状体の内周面の形状に応じた加熱ローラを、前記ライナの前記開口部から挿入し、前記ライナを、前記加熱ローラと前記筒状体で挟み込むようにして、前記端部の内周面に倣うように、前記ネック部を前記加熱ローラで熱圧成形することを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
流体を収容する収容空間が形成され、少なくとも一端側に開口部が形成されたライナと、前記ライナの外表面を覆う繊維強化樹脂からなる補強層と、を有した高圧タンクであって、
前記ライナは、熱可塑性樹脂からなり、前記収容空間が形成された胴体部と、前記開口部が形成されたネック部と、を有し、
前記高圧タンクは、ネック部を覆う前記補強層の外周面に取り付けられた環状の口金をさらに備えており、
前記ネック部と前記補強層との間に内周面に凸状または凹状の係止部が形成された金属製の筒状体が配置されており、
前記高圧タンクは、前記口金を介して接続部に接続されるものであり、前記接続部は、前記口金の外周面に螺着することにより、前記ライナの前記開口部とともに前記高圧タンクの端面を覆うキャップ部と、前記キャップ部から延在し、前記開口部から前記ネック部の内周面に沿って挿入される栓状の挿入部と、前記挿入部の外周面に配置され、前記収容空間を封止する環状のシール部材と、を備えており、
前記筒状体は、前記高圧タンクが前記接続部に接続された状態で、前記シール部材に対向した位置に配置されており、
前記係止部には、前記ネック部が係止されており、
前記係止部は、前記内周面の周方向に間隔を空けて形成された複数の凸部または複数の凹部であり、
前記筒状体の両端部のうち、前記開口部側に配置される端部の内周面は、前記筒状体の径方向に広がった形状であり、
前記ネック部は、前記端部の内周面に倣うように、前記径方向に広がっていることを特徴とする高圧タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、天然ガス自動車または燃料電池自動車等には、燃料ガスを貯蔵する高圧タンクが利用されている。この種の高圧タンクは、高圧ガスである流体を収容されるライナと、ライナの外周面を覆う繊維強化樹脂からなる補強層と、を備えている。
【0003】
高圧タンクを製造する際には、まず、熱可塑性樹脂のライナを準備する。ライナは、高圧ガスを収容する収容空間が形成された胴体部と、胴体部の端部に連続して形成されたネック部と、を有する。この準備したライナに対して、胴体部およびネック部の外周面に、繊維強化樹脂からなる補強層を成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-112189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、たとえば、特許文献1のライナのネック部において、ライナと補強層との間に、高圧タンクのシール性の確保、または、ネック部の強度確保の観点から、金属製の筒状体を配置することが想定される。しかしながら、タンクの使用時における、ライナと筒状体との熱応力差、タンク内の内圧の変動などに起因して、ライナおよび補強層に筒状体が拘束されないことがあり、高圧タンクの強度に影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、ライナのネック部において金属製の筒状体を安定して拘束することができる高圧タンクおよびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を鑑みて、本発明に係る高圧タンクの製造方法は、流体を収容する収容空間が形成され、少なくとも一端側に開口部が形成されたライナと、前記ライナの外表面を覆う繊維強化樹脂からなる補強層と、を有した高圧タンクの製造方法であって、前記収容空間が形成された胴体部と、前記胴体部に連続し前記開口部が形成されたネック部と、を有し、熱可塑性樹脂からなる前記ライナを準備する工程と、内周面に凸状または凹状の係止部が形成された金属製の筒状体に、前記ネック部を挿入し、前記ネック部に前記筒状体を配置する工程と、前記筒状体の内周面に前記ネック部が倣うように、前記ネック部の内周面から前記筒状体に向かって前記ネック部を熱圧成形し、前記係止部に前記ネック部を係止させる工程と、前記筒状体とともに、前記ライナに補強層を形成する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、ネック部に筒状体を配置した状態で、筒状体の内周面にネック部が倣うように、ネック部の内周面から筒状体に向かってネック部を熱圧成形する。これにより、筒状体の内周面の係止部に、ネック部を係止することができる。これにより、ライナのネック部に、金属製の筒状体を安定して拘束することができるので、金属製の筒状体が非拘束状態となることに起因した高圧タンクの強度低下を防止することができる。
【0009】
ここで、係止部により、ネック部に対して筒状体を係止することができるのであれば、係止部の個数、配置等は、特に限定されるものではない。しかしながら、より好ましい態様としては、前記係止部は、前記内周面の周方向に間隔を空けて形成された複数の凸部または複数の凹部である。
【0010】
この態様によれば、筒状体の内周面において、周方向に形成された複数の凸部または凹部により、筒状体がライナのネック部に拘束される。このため、ライナに対する筒状体の軸周りの回転を防止することができる。
【0011】
さらに好ましい態様としては、前記筒状体の両端部のうち、前記開口部側に配置される端部の内周面は、前記筒状体の径方向に広がった形状であり、前記ネック部を係止させる工程において、前記端部の内周面に倣うように、前記ネック部を熱圧成形する。この態様によれば、開口部側に配置された筒状体の端部の内周面に倣うように、ライナのネック部を熱圧成形するので、筒状体がライナの開口部側から抜け出すことを、より確実に防止することができる。
【0012】
本発明として、高圧タンクをさらに開示する。本発明に係る高圧タンクは、流体を収容する収容空間が形成され、少なくとも一端側に開口部が形成されたライナと、前記ライナの外表面を覆う繊維強化樹脂からなる補強層と、を有した高圧タンクであって、前記ライナは、熱可塑性樹脂からなり、前記収容空間が形成された胴体部と、前記開口部が形成されたネック部と、を有し、前記ネック部と前記補強層との間には、内周面に凸状または凹状の係止部が形成された金属製の筒状体が配置されており、前記係止部に前記ネック部が係止されていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、筒状体の内周面の係止部に、ネック部を係止することができる。これにより、ライナのネック部に金属製の筒状体を安定して拘束することができるので、金属製の筒状体が非拘束状態となることに起因した高圧タンクの強度低下を防止することができる。
【0014】
ここで、係止部により、ネック部に対して筒状体を拘束することができるのであれば、係止部の個数、配置等は、特に限定されるものではない。しかしながら、より好ましい態様としては、前記係止部は、前記内周面の周方向に間隔を空けて形成された複数の凸部または複数の凹部である。この態様によれば、筒状体の内周面において、周方向に形成された複数の凸部または凹部が、ネック部に係止されるため、筒状体がライナのネック部に拘束される。このため、ライナに対する筒状体の軸周りの回転を防止することができる。
【0015】
さらに好ましい態様としては、前記筒状体の両端部のうち、前記開口部側に配置される端部の内周面は、前記筒状体の径方向に広がった形状であり、前記ネック部は、前記端部の内周面に倣うように、前記径方向に広がっている。
【0016】
この態様によれば、開口部側に配置される筒状体の端部の内周面に倣うように、ライナのネック部が、径方向に広がっているので、筒状体がライナの開口部側から抜け出すことを、より確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ライナのネック部における金属製の筒状体を安定して拘束することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る高圧タンクを備えたタンクユニットの構造を示す斜視図である。
図2図1のA-A線に沿った高圧タンクユニットの断面図である。
図3A図2に示すブラケット側のタンクユニットの要部拡大断面図である。
図3B図2に示すマニホールド側のタンクユニットの要部拡大断面図である。
図4A図3Aに示すB-B線に沿った高圧タンクの断面図である。
図4B図4Aに示す高圧タンクの変形例に係る断面図である。
図5A図3Aに示す高圧タンクの製造方法において、ライナを準備する工程と、筒状体を配置する工程とを説明するための断面図である。
図5B図5Aに示すC-C線に沿った高圧タンクの模式的断面図である。
図6A図5Aに示す高圧タンクのネック部を係止させる工程を説明するための断面図である。
図6B図6Aに示すD-D線に沿った高圧タンクの模式的断面図である。
図7図6Aに示す高圧タンクのライナに補強層を形成する工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.高圧タンク10について
以下に、まず、図1図4Bを参照しながら、高圧タンク10を備えたタンクユニット1の実施形態について説明する。図1および図2に示すように、本実施形態に係るタンクユニット1は、高圧タンク10と、高圧タンク10の両端に接続される一対の接続部材30、30と、を備えている。
【0020】
高圧タンク10は、燃料電池車両に搭載される高圧の水素ガスが充填されるタンクである。高圧タンク10に充填可能なガスとしては、高圧の水素ガスに限定されず、CNG(圧縮天然ガス)等の各圧縮ガス、LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)等の各種液化ガス、その他のガス(流体)が充填されてもよく、耐圧試験用に一時的に液体などの流体が、充填されてもよい。
【0021】
高圧タンク10は、水素ガスを収容する収容空間Sが形成され、両側に開口部13が形成されたライナ11と、ライナ11の外周面11aを覆うように、ライナ11に積層された補強層12と、を備えている。ライナ11は、ガスバリア性を有する材料からなり、補強層12は、繊維強化樹脂からなる。
【0022】
ライナ11は、上述した収容空間Sを含む胴体部14と、胴体部14の端部に連続し、開口部13が形成された一対のネック部15、15と、を備えている。本実施形態では、ライナ11の両側にネック部15、15が形成されているが、高圧タンク10は、一方側にのみネック部15が形成されたボトル状の構造であってもよい。
【0023】
胴体部14およびネック部15には、補強層12が積層されており、本実施形態では、ネック部15と、補強層12との間に中間層として、後述する金属製の筒状体40が配置されている。なお、後述する筒状体40は、ネック部15の外周面15bの一部を覆ってもよい。しかしながら、後述するシール性を確保することができるのであれば、筒状体40は、ネック部15の外周面15bの一部を覆い、残りの表面(具体的には、開口部13側の外周面)を、補強層12で覆ってもよい。
【0024】
本実施形態では、胴体部14は、筒状の一例として円筒状の本体14aと、本体14aから胴体部14の端部に進むに従って、内径および外径が縮径した肩部14bと、を備えている。肩部14bは、円錐台状の筒状部分であり、肩部14bに連続するように、ネック部15が形成されている。
【0025】
本実施形態では、ネック部15を覆う補強層12の外周面12aには、環状の口金20が取り付けられている。口金20の内周面22には、複数の突起が形成されており、補強層12は、内周面22に食い込む(具体的には突起同士の間に食い込む)ように形成されている。これにより、口金20を、補強層12に係止することができる。口金20の外周面21には、雄ネジが形成されており、この雄ネジを、後述する接続部材30に形成された内壁面34の雌ネジに螺合することができる。
【0026】
ここで、本実施形態では、ライナ11を構成する樹脂としては、ガスバリア性が良好な樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ナイロン系樹脂(たとえば6-ナイロン樹脂または6,6-ナイロン樹脂)、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ABS系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、またはポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0027】
補強層12は、強化繊維に、マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が含浸されたものである。本実施形態では、強化繊維は、繊維束である。強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、および炭素繊維等の強化繊維を用いることができ、特に、軽量性や機械的強度等の観点から炭素繊維を用いることが好ましい。マトリクス樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、またはエポキシ系樹脂であり、機械的強度等の観点からエポキシ系樹脂前駆体を用いることが好ましい。エポキシ系樹脂は、未硬化状態では流動性があり、熱硬化後は強靭な架橋構造を形成するエポキシ系樹脂となる。
【0028】
補強層12は、フィラメントワインディング法またはシートワインディング法により、ライナ11の外周面11aに、マトリクス樹脂が含浸された繊維束を巻回したものである。補強層12は、高圧タンク10の軸線CLに対して、繊維束が傾斜するように巻かれたヘリカル巻の層であってもよく、たとえば、高圧タンク10の軸線CLに対して、繊維束が傾斜するように織り込まれた層であってもよい。
【0029】
一対の接続部材30、30は、アルミニウム、鋼などの金属製の部材であり、ブラケット30Aと、マニホールド30Bとで構成されている。ブラケット30Aは、複数の高圧タンク10、10、…を、一体的に拘束し、車両に取り付けるための部材である。
【0030】
マニホールド30Bは、高圧タンク10の収容空間Sに水素ガスを導入し、この収容空間Sから水素ガスを放出するガス流路が形成された部材である。ブラケット30Aおよびマニホールド30Bは、図3Aおよび図3Bに示すように、ガス流路の形成の有無が主に相違するため、図3Bを参照して、接続部材30としての、マニホールド30Bの構造について説明する。
【0031】
マニホールド30Bは、高圧タンク10の軸線CL方向の端部に形成された開口部13を覆うように形成されており、マニホールド30Bは、挿入部31と、キャップ部32と、を備えている。キャップ部32は、口金20の外周面21で、口金20に螺着するとともに、高圧タンク10の端面を覆う部分であり、キャップ部32の中央に、挿入部31が形成されている。
【0032】
挿入部31は、ネック部15において、開口部13からネック部15の内周面15aに沿って挿入される栓状部分である。挿入部31の外周面31aには、その周方向に沿って、環状溝35が形成されており、環状溝35には、収容空間Sを封止する環状のシール部材61、62が配置されている。シール部材61、62は、ガスバリア性を有した樹脂材料またはゴム材料等の弾性を有した材料からなる。
【0033】
本実施形態では、高圧タンク10は、ネック部15と補強層12との間において、ライナ11の外周面15bを周回するように、シール部材61、62に対向した位置に、筒状体40を備えている。筒状体40は、ネック部15の内周面15aが径方向に広がる変形を制限する部材である。
【0034】
筒状体40の材料としては、ステンレス鋼、アルミニウム鋼などの金属材料であり、ネック部15の内周面15aが、径方向に広がる変形を制限することができるのであれば、その材料は、特に限定されるものではない。
【0035】
ここで、「ネック部15の内周面15aが径方向に広がる変形」とは、水素ガスの圧力で、ネック部15にフープ応力が発生し、径方向に広がろうとする変形であり、ネック部15を形成するライナ11(より具体的にはシール部材61、62に当接するライナ11の部分)が、径方向に広がる変形のことである。
【0036】
さらに、筒状体40の内周面(対向面)41は、ネック部15の外周面15bに当接している。図4Aに示すように、ネック部15と補強層12との間には、筒状体40の内周面41に凹状の係止部43が形成されている。本実施形態では、係止部43にネック部15が係止されている。
【0037】
具体的には、係止部43は、凹部43Aであり、本実施形態では、軸線CLに沿って形成された溝状の凹部43Aである。本実施形態では、凹部43Aは、シール部材61、62と対向する領域を含むように、軸線CLに沿って部分的に形成されているが、例えば、軸線CLに沿った筒状体40の一端から他端にわたって、形成されていてよい。図4Aに示すように、係止部43(凹部43A)は、筒状体40の内周面41の周方向に間隔を空けて複数形成されている。
【0038】
本実施形態では、係止部43である各凹部43Aには、ライナ11の一部であるネック部15の凸部17が充填されるように入り込んでいる。これにより、ネック部15を係止部43により強固に係止することができる。
【0039】
本実施形態では、筒状体40は、高圧タンク10の端面から、胴体部14の肩部14bの一部まで延在している。筒状体40の両端部48A、48Bのうち、開口部13側に配置される端部48Aの内周面48aは、筒状体40の径方向に広がった形状であり、ネック部15は、端部48Aの内周面48aに倣うように、径方向に広がっている。本実施形態では、筒状体40の両端部48A、48Bのうち、胴体部14側に配置される端部48Aを含む部分は、肩部14bの外周面の形状に応じて、径方向に広がっている。
【0040】
このように、本実施形態によれば、筒状体40の内周面41の係止部43(凹部43A)に、ライナ11のネック部15を係止することができる。これにより、ライナ11のネック部15に金属製の筒状体40を安定して拘束することができる。このような結果、金属製の筒状体40が非拘束状態となることに起因した高圧タンク10の強度低下を防止することができる。
【0041】
特に、筒状体40の内周面41において、周方向に形成された複数の係止部43(凹部43A)が、ネック部15に係止されるため、筒状体40がライナ11のネック部15に拘束される。このため、ライナ11に対する筒状体40の軸周りの回転を防止することができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、開口部13側に配置される筒状体40の端部48Aの内周面48aに倣うように、ライナ11のネック部15が、径方向に広がっているため、筒状体40がライナ11の開口部13側から抜け出すことを、より確実に防止することができる。
【0043】
図4Aでは、係止部43は、軸線CLに沿った複数の溝状の凹部(凹溝)43Aであった。しかしながら、たとえば、凹部43Aにより、ライナ11のネック部15を係止することができるのであれば、係止部43は、軸線CLに交差するように形成された複数の溝状の凹部であってもよく、周方向および軸線CLに沿った方向に間隔を空けて形成された複数の点状の凹部であってもよい。
【0044】
たとえば、図4Bに示すように、係止部43は、軸線CLに複数の突出した筋状の凸部(凸条)43Bであってもよい。ライナ11のネック部15は、凸部43Bを含む筒状体40の内周面41を覆っており、ネック部15の外周面が、凸部43Bに係止される。
【0045】
このように、凸部43Bにより、ライナ11のネック部15を係止することができるのであれば、係止部43は、軸線CLに交差するように形成された複数の凸条であってもよく、周方向および軸線CLに沿った方向に間隔を空けて形成された複数の点状の凸部であってもよい。
【0046】
2.高圧タンク10の製造方法について
2-1.準備工程について
以下に、図5A図7を参照しながら、高圧タンク10の製造方法を説明する。本実施形態では、まず、準備工程において、図2および図5A、5Bで示すように、収容空間Sが形成された胴体部14と、胴体部14に連続し開口部13が形成されたネック部15と、を有したライナ11(ライナ単体)を準備する。ネック部15は、円筒形状であり、端部側は径方向には広がっていない。
【0047】
準備するライナ11は、熱可塑性樹脂からなり、上述した形状のライナである。ただし、この時点では、ライナ11のネック部15の外周面15bの表面には、図4Aに示す凸部17は形成されていない。
【0048】
本実施形態では、溶融した熱可塑性樹脂から押出し成形により、ライナ11を作製してもよく、胴体部14の本体14aの直径の熱可塑性樹脂の円筒を準備し、その両端をネック部15の形状に絞るように成形することにより、ライナ11を作製してもよい。この他にも、胴体部14の本体14aに相当する部材と、胴体部14の肩部14bとネック部15に相当する一対の部材を準備し、これらを融着させることにより、ライナ11を作製してもよい。
【0049】
さらに、この準備工程では、内周面41に凹状の係止部43(具体的には、凹部43A)が、形成された金属製の筒状体40を準備する。具体的には、図4Aに示す如く、筒状体40の内周面41には、内周面41の周方向に間隔を空けて、複数の凹部43Aが形成されている。なお、図4Bに示す変形例の場合には、内周面41には、その周方向に間隔を空けて、複数の凸部43Bが形成されている。
【0050】
本実施形態では、筒状体40の両端部48A、48Bのうち、開口部13側に配置される端部48Aの内周面48aは、筒状体40の径方向に広がった形状である。一方、筒状体40の端部48Bを含む部分(内周面)は、ライナ11の胴体部14の肩部14bの外周面の形状に応じた形状になっている。
【0051】
2-2.配置工程について
この工程では、図5A図5Bに示すように、金属製の筒状体40に、ネック部15を挿入し、ネック部15に筒状体40を配置する。具体的には、ライナ11の端部から、ネック部15を筒状体40に挿入し、筒状体40の端部48Bを含む部分を、ライナ11の胴体部14の肩部14bに当接させる。
【0052】
この状態では、筒状体40の凹部43Aには、ネック部15の熱可塑性樹脂が入り込んでおらず、隙間S1が形成されている。さらに、準備したライナ11のネック部15の端部は径方向には広がっていないので、筒状体40の端部48の内周面48aとネック部15の外周面15bとの間にも、隙間S2が形成されている。
【0053】
2-3.係止工程(熱圧成形工程)について
この工程では、筒状体40の内周面41にネック部15が倣うように、ネック部15の内周面15aから筒状体40に向かってネック部15を熱圧成形し、係止部43(具体的には凹部43A)にネック部15を係止させる。さらに、本実施形態では、開口部13側に配置される端部48の内周面48aは、筒状体40の径方向に広がった形状であり、本実施形態では、端部48の内周面48aに倣うように、ネック部15を熱圧成形する。
【0054】
具体的には、図6A図6Bに示すように、筒状体40の内周面41の形状に応じた加熱ローラ90を、ライナ11の開口部13から挿入し、ライナ11を、加熱ローラ90と筒状体40で挟み込むようにして、ライナ11のネック部15を熱圧成形する。より具体的には、本実施形態では、ライナ11の熱可塑性樹脂の軟化点温度以上の温度に加熱された加熱ローラ90で、ネック部15の内周面15aを押圧しながら、ネック部15を内周面15aに沿って、加熱ローラ90を回転軸RL周りに回転させる。
【0055】
これにより、ネック部15は、熱可塑性樹脂の軟化点温度以上で、加熱ローラ90により加熱および加圧されるので、ネック部15の熱可塑性樹脂が軟化するとともに、筒状体40の内周面41に沿って変形する。このようにして、内周面15aに形成された凹部43A(隙間S1)に、ネック部15の熱可塑性樹脂が充填される。この結果、ネック部15の内周面41の係止部43(凹部43A)に、ネック部15を係止することができる。特に、筒状体40の内周面41において、周方向に形成された複数の凹部43Aにより、ライナ11のネック部15に筒状体40が拘束される。このため、ライナ11に対する筒状体40の軸周りの回転を防止することができる。
【0056】
これと同時に、端部48の内周面48aに対向するネック部15の端部の樹脂も、加熱ローラ90の熱で軟化して、ネック部15の端部は、ネック部15の内周面15aに倣うように変形する。このようにして、ライナ11の開口部13側に配置された、筒状体40の端部48の内周面48aに倣うように、ライナ11のネック部15を熱圧成形するので、筒状体40がライナ11の開口部13側から抜け出すことを、より確実に防止することができる。
【0057】
2-4.補強層形成工程について
この工程では、図7に示すように、筒状体40とともに、ライナ11に補強層12を形成する。具体的には、筒状体40とともにライナ11に、例えばフィラメントワインディング法などにより、ライナ11の外周面11aに、マトリクス樹脂(熱硬化性樹脂)が含浸された繊維束を巻回するにより、補強層12を形成する。
【0058】
補強層12は、高圧タンク10の軸線CLに対して、繊維束が傾斜するようにヘリカル巻により形成してもよく、高圧タンク10の軸線CLに対して、繊維束が傾斜するように織り込むように形成してもよい。その後、補強層12のマトリクス樹脂である熱硬化性樹脂を、熱硬化させる前に、両端の各ネック部15に口金20を取り付けて、熱硬化性樹脂を熱硬化させる。このようにして、図3Aに示すように、高圧タンク10を製造することができる。
【0059】
得られた高圧タンク10は、ライナ11のネック部15に金属製の筒状体40を安定して拘束することができるので、金属製の筒状体40が非拘束状態となることに起因した高圧タンク10の強度低下を防止することができる。
【0060】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0061】
10:高圧タンク、11:ライナ、12:補強層、13:開口部、14:胴体部、15:ネック部、30:接続部材、31:挿入部、40:筒状体、41内周面、43:係止部、43A:凹部、43B:凸部、S:収容空間
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7