IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カシオ計算機株式会社の特許一覧

特許7494821印刷装置、情報処理装置、印刷方法及び印刷プログラム
<>
  • 特許-印刷装置、情報処理装置、印刷方法及び印刷プログラム 図1
  • 特許-印刷装置、情報処理装置、印刷方法及び印刷プログラム 図2
  • 特許-印刷装置、情報処理装置、印刷方法及び印刷プログラム 図3
  • 特許-印刷装置、情報処理装置、印刷方法及び印刷プログラム 図4
  • 特許-印刷装置、情報処理装置、印刷方法及び印刷プログラム 図5
  • 特許-印刷装置、情報処理装置、印刷方法及び印刷プログラム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】印刷装置、情報処理装置、印刷方法及び印刷プログラム
(51)【国際特許分類】
   A45D 29/00 20060101AFI20240528BHJP
   B41J 3/407 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A45D29/00
B41J3/407
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021138601
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2023032458
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 孝幸
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-050565(JP,A)
【文献】特開平09-299872(JP,A)
【文献】特開2012-210720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 29/00
B41J 2/00
B41J 3/407
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷対象に下地印刷を繰り返す所定の印刷処理を実行する印刷手段と、
前記印刷対象のうち、前記印刷手段によって前記下地印刷された印刷領域の色情報を前記下地印刷が繰り返されるたびに取得する取得手段と、
前記取得手段により前記下地印刷が繰り返されるたびに取得された色情報が所定の閾値以上になったときまでに繰り返された前記下地印刷の実行回数を、前記印刷手段による次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数として設定する設定手段と、
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
印刷対象に下地印刷を繰り返す所定の印刷処理を実行する印刷手段と、
前記印刷対象のうち、前記印刷手段によって前記下地印刷された印刷領域の色情報を前記下地印刷が繰り返されるたびに取得する取得手段と、
前記印刷領域の色情報に基づいて、前記印刷手段による次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数を設定する設定手段と、
エラー情報を報知する報知手段と、を備え、
前記設定手段は、前記印刷領域の色情報が所定の閾値以上の場合に、直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数を、前記次回の印刷処理における下地印刷の実行回数として設定し、
前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が規定印刷回数未満の場合に、前記印刷領域への前記印刷手段による前記下地印刷の実行回数を追加するよう設定し、
前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が前記規定印刷回数以上の場合に、前記報知手段にエラー情報を報知させる、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
前記印刷対象を撮影する撮影手段をさらに備え、
前記取得手段は、前記撮影手段により撮影された、前記印刷領域の色情報を取得する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記設定手段は、
前記印刷領域の色情報が閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が規定印刷回数未満の場合に、前記印刷領域への前記印刷手段による前記下地印刷の実行回数を追加するよう設定する
とを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記色情報は色差であり、
前記設定手段は、
前記印刷領域の色差が前記閾以上なったときまでに繰り返された前記下地印刷の実行回数を、次回の印刷処理における前記印刷手段による前記下地印刷の実行回数として設定
前記印刷領域の色差が閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が規定印刷回数未満の場合に、前記印刷領域への前記印刷手段の印刷回数を追加するよう設定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の印刷装置。
【請求項6】
エラー情報を報知する報知手段をさらに備え、
前記設定手段は、前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が前記規定印刷回数以上の場合に、前記報知手段にエラー情報を報知させる、
ことを特徴とする請求項4に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記取得手段は、前記印刷領域内の複数の座標における色情報をそれぞれ取得し、
前記設定手段は、取得された前記複数の座標における色情報の平均値を算出し、前記複数の座標における色情報の平均値と前記閾値とを比較して、前記印刷手段による前記下地印刷の実行回数を設定する、
ことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記取得手段は、前記印刷領域を分割した複数の領域の色情報の平均値をそれぞれ取得し、
前記設定手段は、前記複数の領域のそれぞれの色情報と前記閾値とを比較して、前記印刷手段による前記下地印刷の実行回数を設定する、
ことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項9】
前記印刷対象は指の爪であり、
前記取得手段は、前記爪を左部分、中央部分、右部分に分割した領域の色情報をそれぞれ取得し、
前記中央部分の領域における色情報閾値と、前記左部分の領域及び前記右部分の領域の少なくとも一方における色情報閾値と、が互いに異なる値である、
ことを特徴とする請求項8に記載の印刷装置。
【請求項10】
前記取得手段は、前記印刷領域全体の色情報の平均値を取得し、
前記設定手段は、前記色情報の平均値と色情報閾値とを比較して、前記印刷手段による前記下地印刷の実行回数を設定する、
ことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項11】
少なくとも、印刷対象に下地印刷を繰り返す所定の印刷処理を実行する印刷手段と、
前記印刷対象を撮影する撮影手段と、を備える印刷装置と通信を行う通信手段と、
前記通信手段を介して前記印刷装置から、前記撮影手段により撮影された、前記下地印刷された印刷領域の色情報を前記下地印刷が繰り返されるたびに取得する取得手段と、
前記取得手段により前記下地印刷が繰り返されるたびに取得された色情報が所定の閾値以上になったときまでに繰り返された前記下地印刷の実行回数を、前記印刷手段による次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数として設定する設定手段と、
を備えことを特徴とする情報処理装置。
【請求項12】
少なくとも、印刷対象に下地印刷を繰り返す所定の印刷処理を実行する印刷手段と、前記印刷対象を撮影する撮影手段と、を備える印刷装置と通信を行う通信手段と、
前記通信手段を介して前記印刷装置から、前記撮影手段により撮影された、前記下地印刷された印刷領域の色情報を、前記下地印刷が繰り返されるたびに取得する取得手段と、
前記印刷領域の色情報に基づいて、前記印刷手段による次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数を設定する設定手段と、
エラー情報を報知する報知手段と、を備え、
前記設定手段は、前記印刷領域の色情報が所定の閾値以上の場合に、直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数を、前記次回の印刷処理における下地印刷の実行回数として設定し、
前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が規定印刷回数未満の場合に、前記印刷領域への前記印刷手段による前記下地印刷の実行回数を追加するように設定し、
前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が前記規定印刷回数以上の場合に、前記報知手段にエラー情報を報知させる、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項13】
制御手段が、
印刷対象に下地印刷を繰り返す所定の印刷処理を実行する印刷工程と、
前記印刷対象のうち、前記印刷工程によって前記下地印刷された印刷領域の色情報を前記下地印刷が繰り返されるたびに取得する取得工程と、
前記取得工程により前記下地印刷が繰り返されるたびに取得された色情報が所定の閾値以上になったときまでに繰り返された前記下地印刷の実行回数を、前記印刷工程による次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数として設定する設定工程と、
を実行し、
とを特徴とする印刷方法。
【請求項14】
制御手段が、
印刷対象に下地印刷を繰り返す所定の印刷処理を実行する印刷工程と、
前記印刷対象のうち、前記印刷工程によって前記下地印刷された印刷領域の色情報を取得する取得工程と、
前記印刷領域の色情報が所定の閾値以上になったときまでに繰り返された前記下地印刷の実行回数を、次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数として設定し、
前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷工程において前記印刷対象に対して実行された印刷の回数が規定印刷回数未満の場合に、前記印刷工程における前記下地印刷の実行回数を追加するよう設定する設定工程と、
前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷工程において前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が前記規定印刷回数以上の場合に、エラー情報を報知する報知工程と、
を実行することを特徴とする印刷方法。
【請求項15】
コンピュータを、
印刷対象のうち、印刷手段によって下地印刷された印刷領域の色情報を前記下地印刷が繰り返されるたびに取得する取得手段、
前記取得手段により前記下地印刷が繰り返されるたびに取得された色情報が所定の閾値以上になったときまでに繰り返された前記下地印刷の実行回数を、前記印刷手段による次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数として設定する設定手段、
として機能させことを特徴とする印刷プログラム。
【請求項16】
報知手段を有する印刷装置のコンピュータを、
印刷対象のうち、印刷手段によって下地印刷された印刷領域の色情報を前記下地印刷が繰り返されるたびに取得する取得手段、
前記印刷領域の色情報に基づいて、前記印刷手段による次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数を設定する設定手段、
として機能させ、
前記設定手段は、前記印刷領域の色情報が所定の閾値以上になったときまでに繰り返された前記下地印刷の実行回数を、前記次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数として設定し、
前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が規定印刷回数未満の場合に、前記印刷領域への前記印刷手段による前記下地印刷の実行回数を追加するよう設定し、
前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が前記規定印刷回数以上の場合に、前記報知手段にエラー情報を報知させる、
ことを特徴とする印刷プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、情報処理装置、印刷方法及び印刷プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、指の爪に所望のデザインの印刷を施すネイルプリンタ等の印刷装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の印刷装置では、爪本来の色に左右されずに鮮明な発色を得る目的で、カラーインクの印刷の前に白色等の下地用インクを印刷する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2003-534083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、プリンタに使用されるインク(特に、下地用インクに用いられることの多い顔料インク)は、時間経過により徐々に溶媒が蒸発してノズルやヘッドの目詰まりを引き起こしやすくなる。これらの理由からインクには有効(使用)期限が設けられることが多いが、この有効期限はあくまで目安であり、実際にインクが使用不可の状態になる時期とは前後することがある。
そこで、テストパターン印刷を行って実際のインクの状態を確認することが一般的に行われている。しかしながら、この場合には、本来の目的でないテストパターン印刷によってインクを消費してしまう。
【0005】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、インク消費を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の印刷装置は、
印刷対象に下地印刷を繰り返す所定の印刷処理を実行する印刷手段と、
前記印刷対象のうち、前記印刷手段によって前記下地印刷された印刷領域の色情報を前記下地印刷が繰り返されるたびに取得する取得手段と、
前記取得手段により前記下地印刷が繰り返されるたびに取得された色情報が所定の閾値以上になったときまでに繰り返された前記下地印刷の実行回数を、前記印刷手段による次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数として設定する設定手段と、
を備えことを特徴とする。
また、本発明の印刷装置の他の実施形態は、
印刷対象に下地印刷を繰り返す所定の印刷処理を実行する印刷手段と、
前記印刷対象のうち、前記印刷手段によって前記下地印刷された印刷領域の色情報を、前記下地印刷が繰り返されるたびに取得する取得手段と、
前記印刷領域の色情報に基づいて、前記印刷手段による次回の印刷処理における前記下地印刷の実行回数を設定する設定手段と、
エラー情報を報知する報知手段と、を備え、
前記設定手段は、前記印刷領域の色情報が所定の閾値以上になったときまでに繰り返された前記下地印刷の実行回数を、前記次回の印刷処理における下地印刷の実行回数として設定し、
前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が規定印刷回数未満の場合に、前記印刷領域への前記印刷手段による前記下地印刷の実行回数を追加するよう設定し、
前記印刷領域の色情報が前記閾値未満、かつ直前に前記印刷手段によって前記印刷対象に対して繰り返された前記下地印刷の実行回数が前記規定印刷回数以上の場合に、前記報知手段にエラー情報を報知させる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インク消費を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る印刷装置の要部外観構成を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る印刷装置と端末装置とを備える印刷システムの概略の制御構成を示す制御ブロック図である。
図3】実施形態に係る印刷処理の流れを示すフローチャートである。
図4】実施形態に係る下地印刷処理の流れを示すフローチャートである。
図5】印刷領域のうち色情報を取得する座標ポイント例を示す図である。
図6】印刷領域のうち色情報を取得する領域の分割例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1から図6を参照しつつ、本発明に係る印刷装置の一実施形態について説明する。
なお、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
また、以下の実施形態では、印刷装置が手の指の爪を印刷対象としてこれに印刷するネイルプリント装置である場合を例に説明するが、本発明における印刷装置の印刷対象は手の指の爪に限るものではなく、例えば足の指の爪を印刷対象としてもよい。また、ネイルチップや各種アクセサリの表面等、爪以外のものを印刷対象としてもよい。
【0010】
図1は、印刷装置1の要部外観構成を示す斜視図である。
なお、以下の実施形態において、上下、左右及び前後は、図1に示した向きをいうものとする。また、X方向は左右方向、Y方向は前後方向をいうものとする。
【0011】
図1に示すように、印刷装置1は、ほぼ箱形に形成された筐体2を有している。
筐体2は、前面側(印刷装置1の正面側、図1において前側)の下側部分に、左右方向(印刷装置1の横方向、図1において左右方向、X方向)のほぼ全面に亘って形成された開口部21を有している。また、筐体2の左右方向のほぼ中央部には、開口部21の上側に連続して切り欠き部22が形成されている。切り欠き部22は、後述する印刷ヘッド41を装置に対して着脱する際の出入口として機能する。
なお、図示はしないが、筐体2は、開口部21や切り欠き部22を覆うカバー部材等を備えていてもよい。カバー部材は、筐体2とは別体に分離されたものであってもよいし、例えば筐体2に対してヒンジ等を介して開閉可能に取り付けられていてもよい。
【0012】
筐体2の上面(天板)には、印刷装置1の操作部12が設けられている。操作部12は、例えば印刷装置1の電源をON/OFFする操作ボタン(電源スイッチボタン)である。操作部12が操作されると、操作信号が後述の制御装置80に出力され、制御装置80が操作信号に従った制御を行い、印刷装置1の各部を動作させる。
筐体2各部の形状や各部の配置等は、図示例に限定されず、適宜設定可能である。例えば、操作部12は、筐体2の上面ではなく側面や背面等に設けられていてもよい。また、筐体2にはその他各種の操作ボタンが操作部12として設けられていてもよいし、各種表示部やインジケータ等が設けられていてもよい。
【0013】
筐体2の内部には、装置本体10が収容されている。
装置本体10は、基台11と、これに取り付けられた指固定部6、印刷部40等を備えている。
【0014】
指固定部6は、基台11における装置前面側の左右方向(X方向)のほぼ中央部に配置されており、本実施形態における印刷対象である爪を有する指(印刷指)を印刷に適した領域内に固定する。
指固定部6は、装置前面側に開口部61を有している。また指固定部6の内部には、指固定部材62が設けられている。指固定部材62は、開口部61から挿入された指を下側から押し上げ支持するものであり、例えば柔軟性を有する樹脂等で形成されている。
指固定部6の上面には開口部61から挿入され指固定部材62により保持された指の爪部分を露出させる窓部63が形成されている。
なお、指固定部6は、指を固定するものでなくともよく、単に指を配置(載置)するだけのものであってもよい。
【0015】
印刷部40は、印刷対象である爪に印刷を施す印刷手段である。
印刷部40は、印刷動作を行う印刷ヘッド41、及びこれを移動させるためのヘッド移動機構49(図2参照)を備えている。
【0016】
本実施形態では、印刷ヘッド41として、印刷対象面(爪の表面)に互いに異なる色を印刷する下地用ヘッド41aとデザイン用ヘッド41bとが搭載されている。以下、単に「印刷ヘッド41」と記載したときは、下地用ヘッド41a及びデザイン用ヘッド41bの双方を含むものとする。なお、下地用ヘッド41aとデザイン用ヘッド41bとの配置等は図示例に限定されない。
【0017】
下地用ヘッド41aは、デザイン以外を印刷するヘッドであり、デザインを印刷する前に、デザインが印刷される領域に下地となる液剤(以下「下地用インク」という。)を印刷するものである。下地用ヘッド41aによって印刷される下地用インクは、デザインの印刷を行ったときにインクの発色がよくなるように、白色若しくはこれに近い色の液剤であることが好ましく、本実施形態では酸化チタンを主成分とする顔料インクである。白色等で下地を形成することにより、爪周辺の皮膚の色(肌色等)との区別もつきやすくなり、爪画像から爪の領域をより正確に認識しやすくなる。
【0018】
デザイン用ヘッド41bは、下地用ヘッド41aによる下地印刷後に、下地が印刷された領域にデザインを印刷するものであり、例えばシアン(C;CYAN)、マゼンタ(M;MAGENTA)、イエロー(Y;YELLOW)等の各色のインク(以下「色インク」という。)を吐出可能となっている。なお、デザイン用ヘッド41bが吐出可能な色インクの種類はこれに限定されず、この他の色のインクを吐出可能となっていてもよい。
【0019】
本実施形態の印刷ヘッド41は、爪表面に対向する面がインクを吐出させる複数のノズル口を備えたインク吐出面(図示せず)となっており、インクを微滴化し、インク吐出面から印刷対象(爪)の被印刷面である爪表面に対して直接にインクを吹き付けて印刷を行うインクジェット方式のインクジェットヘッドである。印刷ヘッド41の構成は特に限定されないが、例えばインク吐出面等の吐出機構部とインクカートリッジ(いずれも図示せず)とが一体となったカートリッジ一体型のヘッドである。
【0020】
ヘッド移動機構49は、印刷ヘッド41を装置の左右方向(X方向)に移動させるための図示しないX方向移動機構及び印刷ヘッド41を装置の前後方向(Y方向)に移動させるための図示しないY方向移動機構からなる。印刷ヘッド41は、図示しないガイドシャフトに沿ってX方向及びY方向に移動可能となっている。
X方向移動機構は、X方向移動モータ46(図2参照)を含んでおり、X方向移動モータ46が駆動することにより印刷ヘッド41を装置の左右方向(X方向)に移動させる。Y方向移動機構は、Y方向移動モータ48(図2参照)を含んでおり、Y方向移動モータ48が駆動することにより印刷ヘッド41を装置の前後方向(Y方向)に移動させる。
【0021】
また、筐体2の上面(天板)の内側であって、指固定部6の窓部63の上方位置には、窓部63から露出する爪(爪を含む指)を撮影して爪の画像(爪を含む指の画像、以下「爪画像」という。)を取得する撮影装置50が設けられている。
撮影装置50は、例えばカメラ等である撮影部51と、撮影対象である爪を照明する白色LED等で構成された照明部52とを備えている(図2参照)。
撮影部51は、例えば、200万画素以上の画素を有するCCD(Charge Coupled Device)型やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型等の固体撮影素子とレンズ等を備えて構成された小型カメラである。
なお、撮影装置50は、指固定部6に載置された指の爪を撮影可能な位置に設けられていればよく、具体的な配置は特に限定されない。例えば、撮影装置50は、印刷ヘッド41を移動させるヘッド移動機構49等によってXY方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0022】
図2は、印刷装置1と後述の端末装置9とを備える印刷システムの概略の制御構成を示す制御ブロック図である。
この図に示すように、印刷装置1は、上述した印刷部40及び撮影装置50のほかに、通信部55と、制御装置80とを備えている。
【0023】
通信部55は、印刷装置1と連携して動作する後述の端末装置9との間で情報の送受信が可能に構成されたものである。
印刷装置1と端末装置9との間での通信は、例えば無線LAN等により行われる。なお、印刷装置1と端末装置9との間での通信はこれに限定されず、いかなる方式によるものでもよい。例えば、インターネット等のネットワーク回線を使うものであってもよいし、Bluetooth(登録商標)やWi-Fi等の近距離無線通信規格に基づく無線通信を行うものであってもよい。また、この通信は無線に限定されず、有線接続により両者間で各種データの送受信が可能な構成としてもよい。通信部55は端末装置9の通信方式に対応するアンテナチップ等を備えている。
【0024】
制御装置80は、図示しないCPU(Central Processing Unit)により構成される制御部81と、ROM(Read Only Memory)821及びRAM(Random Access Memory)822等を有して構成される記憶部82とを備えるコンピュータである。
【0025】
記憶部82には、印刷装置1を動作させるための各種プログラムや各種データ等が格納されている。
具体的には、記憶部82のROM821には、例えば印刷処理を行うための印刷プログラム等の各種プログラムが格納されており、これらのプログラムが制御装置80によって実行されることによって、印刷装置1の各部が統括制御される。
【0026】
制御部81は、撮影制御部811、印刷制御部813、通信制御部814等の機能部を備えている。これら各機能部の機能は、制御部81のCPUと記憶部82のROM821に記憶されたプログラムとの協働によって実現される。
【0027】
撮影制御部811は、撮影装置50の撮影部51及び照明部52を制御し、撮影部51により、指固定部6に固定された印刷指の爪の画像を含む指の画像(爪画像)を撮影させる。
撮影装置50により取得された爪画像の画像データは、通信部55を介して後述の端末装置9に送信される。なお、画像データは記憶部82に記憶されてもよい。
【0028】
印刷制御部813は、後述の端末装置9から送信された印刷用データに基づいて印刷部40に制御信号を出力し、爪に対してこの印刷用データにしたがった印刷を施すように印刷部40のX方向移動モータ46、Y方向移動モータ48、印刷ヘッド41等を制御する。
【0029】
通信制御部814は、通信部55の動作を制御するものである。本実施形態では、通信制御部814は、通信部55による後述の端末装置9との間での通信を制御し、当該端末装置9から印刷用データ等が送信された場合にこれを受信する。
【0030】
また、本実施形態の印刷装置1は、端末装置9との間で通信可能に構成されており、端末装置9からの動作指令に基づいて印刷動作等を実行する。
【0031】
端末装置9は、例えばスマートフォンやタブレット等の携帯端末である。ただし、端末装置9は、印刷装置1と通信可能な情報処理装置であれば特に限定されず、例えばノート型又は定置型のパソコンや、ゲーム用の端末装置等であってもよい。
具体的に、端末装置9は、操作部91、表示部92、通信部94、制御装置95等を備えている。
【0032】
操作部91は、ユーザの操作に応じて各種の入力・設定等を行うことができるようになっており、操作部91が操作されると、当該操作に対応する入力信号が制御装置95に送信される。なお、本実施形態では表示部92の表面にタッチパネルが一体的に設けられており、ユーザはタッチパネルへのタッチ操作によっても各種の入力・設定等の操作を行うことができるようになっている。
なお、各種の入力・設定等の操作を行う操作部91はタッチパネルである場合に限定されない。例えば各種の操作ボタンやキーボード、ポインティングデバイス等が操作部91として設けられていてもよい。
本実施形態では、ユーザが操作部91を操作することで、端末装置9から印刷装置1に対して印刷開始等の各種指示が出力されるようになっており、端末装置9は専ら印刷装置1のユーザインターフェースとして機能する。
【0033】
表示部92は、例えば液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイその他のフラットディスプレイ等で構成されている。
表示部92は、後述する制御部96の制御にしたがって、例えば印刷装置1から送信された画像等を含む各種表示画面を表示可能となっている。
なお、前述のように、表示部92の表面に各種の入力を行うためのタッチパネルが一体的に構成されていてもよい。この場合にはタッチパネルが操作部91等としても機能する。
【0034】
通信部94は、印刷装置1の通信部55との間で通信を行う。例えば、印刷装置1から各種の画像等のデータが送信されたときには、これを受信する。通信部94は、印刷装置1の通信部55との間で通信可能な無線通信モジュール等を備えている。
なお、通信部94は、印刷装置1との間で通信を行うことのできるものであればよく、印刷装置1の通信部55の通信規格と合致するものが適用される。
【0035】
制御装置95は、図示しないCPU(Central Processing Unit)等により構成される制御部96と、図示しないROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等で構成される記憶部97とを備えるコンピュータである。
【0036】
制御部96は、端末装置9の各部の動作を統合的に制御する。制御部96は、記憶部97に記憶されたプログラムとの協働により、爪への印刷を行うための各種機能を実現する。
【0037】
記憶部97には、端末装置9の各部を動作させるための各種プログラムや各種データ等が格納されている。
具体的に、本実施形態の記憶部97には、端末装置9の各部を統括制御するための動作プログラムの他、印刷装置1を用いたネイルプリントを行うためのネイルプリントアプリケーションプログラム等の各種プログラムが格納されており、制御装置95がこれらのプログラムを例えば記憶部97の作業領域に展開して実行することによって、端末装置9が制御される。
【0038】
続いて、印刷対象の爪を印刷する印刷処理について説明する。
図3は、この印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【0039】
図3に示すように、印刷処理では、まずユーザは、印刷指の爪にインク受容層組成物を手塗り等で塗布し、当該爪にインク受容層を形成する(ステップT1)。
なお、このステップの後、必要に応じてインク受容層の乾燥等を行ってもよい。
【0040】
次に、印刷装置1により、インク受容層が形成された爪に下地用インクを塗布する下地印刷を実行し、インク受容層上に下地層を形成する(ステップT2)。
ここでは、ユーザ操作に基づいて制御部81が所定のプログラムを実行することにより、印刷対象の爪に下地用インクを塗布(印刷)する下地印刷処理が実行される。下地印刷処理の詳細については後述する。
なお、このステップの後、必要に応じて下地用インクの乾燥等を行ってもよい。
【0041】
次に、ユーザは、下地用インクが塗布された爪に再びインク受容層組成物を手塗り等で塗布し、下地層上にインク受容層を形成する(ステップT3)。
なお、このステップの後、必要に応じてインク受容層の乾燥等を行ってもよい。
【0042】
次に、印刷装置1により、ステップT3でインク受容層が形成された爪に色インクを塗布するデザイン印刷(カラー印刷)を実行する(ステップT4)。
ここでは、制御部81は、印刷領域(下地領域)に対して所定のデザインが印刷されるように、予め選択されたネイルデザインのデータに基づいて印刷データを生成し、当該印刷データに基づいて印刷部40によりデザイン印刷を実行する。
なお、このステップの後、必要に応じて色インクの乾燥等を行ってもよい。
【0043】
次に、ユーザは、色インクを塗布した爪にトップコートを手塗り等で塗布する(ステップT5)。
こうして、印刷対象の爪に所望のネイルデザインが印刷される。
【0044】
続いて、上述した下地印刷処理を実行する際の印刷装置1の動作について説明する。
図4は、下地印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【0045】
図4に示すように、下地印刷処理が実行されると、まず制御部81は、繰返し印刷回数Ncを設定する(ステップS1)。繰返し印刷回数Ncとは、後述のステップS7~S8の一連の工程の繰り返しにより実行されるステップS7の印刷の回数である。また、本実施形態でいう印刷回数(吐出回数)とは、例えば図1において、印刷ヘッド41をヘッド移動機構により印刷装置1の正面に対して右から左へと移動させ、印刷対象である爪に下地用インクを吐出したときを1回としている。なお、印刷ヘッド41が右から左へ移動してインクを吐出した後に、さらに左から右へ印刷ヘッド41を移動させてインクを吐出させたときには、印刷回数を2回とカウントしても良い。なお、繰返し印刷回数Ncのデフォルト値を1回とすると、印刷品位が不十分である(下地の印刷領域が所望の明度に達さない、又は爪本来の色が見えてしまう)可能性があるため、本実施形態では繰返し印刷回数Ncのデフォルト値を3回としている。
【0046】
次に、制御部81は、印刷対象の爪を含む印刷指を撮影装置50により撮影する(ステップS2)。
ここでは、ユーザが印刷指を指固定部6に配置することにより、この印刷指の爪が撮影装置50により撮影される。これにより爪画像(印刷対象である爪を含む指の画像)が取得され、この爪画像が記憶部82に記憶される。
【0047】
次に、制御部81は、ステップS2で取得した爪画像を公知の画像処理方法により解析して、下地用インクを印刷する印刷領域を決定(生成)する(ステップS3)。
ここでは、まず制御部81は、取得した爪画像に基づいて爪の形状(爪領域)を検出し、記憶部82に記憶させる。そして、検出した爪領域を下地用インクの印刷領域として設定する。ただし、この印刷領域の範囲は特に限定されず、爪の全部でも一部でもよいし、検出された爪領域と一対一で対応していなくともよい。
【0048】
次に、制御部81は、ステップS3において印刷領域が適正に決定されたか否かを判定する(ステップS4)。
そして、印刷領域が適正に決定されていないと判定した場合(ステップS4;No)、制御部81は、端末装置9の表示部92にエラー表示を出力(ユーザに報知)させ(ステップS5)、下地印刷処理を終了する。
【0049】
また、ステップS4において、印刷領域が適正に決定されていると判定した場合(ステップS4;Yes)、制御部81は、印刷初期処理を実行する(ステップS6)。
本実施形態では、印刷初期処理として、印刷領域の範囲設定や下地用ヘッド41aのクリーニング等が実行される。
なお、このステップS6での印刷初期処理のタイミングは特に限定されない。
【0050】
次に、制御部81は、印刷領域に下地用インクを塗布(印刷)する(ステップS7)。
ここでは、制御部81は、印刷部40を制御し、下地用ヘッド41aから白色の下地用インクを吐出させて印刷領域に塗布する。
【0051】
次に、制御部81は、ステップS7の印刷回数が、ステップS1で設定された繰返し印刷回数Ncに到達したか否かを判定する(ステップS8)。ここで計数される印刷回数は、1回の下地印刷処理におけるステップS7の実行回数である。
そして、ステップS7の印刷回数が繰返し印刷回数Nc未満である場合(ステップS8;No)、制御部81は、上述のステップS7へ処理を移行する。
これにより、ステップS7の印刷回数が繰返し印刷回数Ncに達するまで、ステップS7~S8の処理が繰り返される。本実施形態では繰返し印刷回数Ncがデフォルト値の3回であるため、この一連のループ処理ではステップS7の下地印刷が3回実行される。
【0052】
また、ステップS8において、ステップS7の印刷回数が繰返し印刷回数Ncに等しいと判定した場合(ステップS8;Yes)、制御部81は、印刷対象の爪を含む印刷指を撮影装置50により再び撮影する(ステップS9)。
ここでは、ステップS2での1回目の撮影と同様に印刷指が撮影され、爪画像が取得される。
【0053】
次に、制御部81は、下地用インクが塗布された印刷領域のうち、ここに続くステップS11で色情報を取得する座標ポイント(位置)を、例えば図5のように規定数(例えば10点)分設定する(ステップS10)。S11で色情報を取得済の座標ポイントがあった場合、そのポイントを避けた座標ポイントが設定される。
なお、座標ポイントの設定方法については特に限定されず、ユーザがタッチパネル等を用いて座標ポイントや規定数を自由に設定可能にしても良い。制御部81によって座標ポイントが自動で設定される場合は、座標ポイントは印刷領域全体にわたって一定間隔おきに分布されても良いし、印刷領域内にランダムに分布されていても良い。また、規定数の全ての座標ポイントを、最初の当該ステップS10で設定しておいてもよい。
【0054】
次に、制御部81は、ステップS9で取得した爪画像のうち、ステップS10で設定した各座標ポイントの色情報を取得する(ステップS11)。本実施形態では、色情報として、R、G、Bの各値が取得される。
そして、制御部81は、ステップS11で取得したRGB値をLab(L*、a*、b*)値に変換する(ステップS12)。この際の変換方式は行列等を用いた既知の変換式による。変換により求められたL*、a*、b*の各値は、その座標ポイントと対応付けて記憶部82に記憶される。
【0055】
次に、制御部81は、色情報を取得した座標ポイント数が規定数(例えば10点)に到達したか否かを判定する(ステップS13)。
そして、色情報を取得した座標ポイント数が規定数未満である場合(ステップS13;No)、制御部81は、上述のステップS10へ処理を移行する。
これにより、規定数の全座標ポイントの色情報が取得されるまで、ステップS10~S13の処理が繰り返される。
【0056】
また、ステップS13において、色情報を取得した座標ポイント数が規定数に達したと判定した場合(ステップS13;Yes)。制御部81は、全座標ポイントの明度L*の平均値として平均明度aveL*を算出する(ステップS14)。
【0057】
次に、制御部81は、ステップS14で算出した平均明度aveL*が所定の閾値(色情報閾値LT)以上であるか否かを判定する(ステップS15)。閾値には、ネイルプリントの下地としての所望の明度値(例えば90)が予め設定されている。ここでいう所望の明度値はユーザによって自由に定められても良いし、新品の下地用インクを繰返し印刷回数Ncのデフォルト値(本実施形態では3回)の回数分印刷した時の平均明度aveL*としても良い。
そして、平均明度aveL*が閾値未満であると判定した場合(ステップS15;No)、制御部81は、追加印刷回数を含めた全印刷回数が所定の最大印刷回数Nmax(例えば6回)に達しているか否かを判定する(ステップS16)。
ここでの印刷回数とはステップS7の下地印刷の回数であり、追加印刷回数とは、直前の繰返し印刷回数Ncの印刷の後に行われる、ステップS7の下地印刷の回数である。また、最大印刷回数Nmaxとは、例えばその回数以上印刷を繰り返したとしても、平均明度aveL*が閾値に達しない(平均明度aveL*が殆ど変化しない)と想定される回数、つまり長期間の使用による劣化等が原因で、インクが正常に吐出されていないと見なした回数である。最大印刷回数(規定印刷回数)は特に限定されず、繰返し印刷回数Nc以上に設定されていればよい。
【0058】
ステップS16において、全印刷回数が最大印刷回数に達したと判定した場合(ステップS16;Yes)。制御部81は、下地用インクを正常に塗布できない状況であると判断し、端末装置9の表示部92にエラー表示(例えば「下地用インクを正常に吐出できていません」等の文字表示)を出力(ユーザに報知)させ(ステップS17)、下地印刷処理を終了する。また、インクカートリッジを交換するよう、ユーザに報知しても良い。
【0059】
一方、ステップS16において、全印刷回数が最大印刷回数未満であると判定した場合(ステップS16;No)。制御部81は、繰返し印刷回数Ncをインクリメント(+1)して記憶部82に記憶させた後(ステップS18)、上述のステップS7へ処理を移行する。
これにより、下地の印刷領域が所望の明度を得られていない場合、当該所望の明度が得られるか、全印刷回数が最大印刷回数に達するまで、下地印刷が1回ずつ追加されて実行される。つまり、初期設定された繰返し印刷回数Ncの下地印刷後に所望の明度が得られない場合に、追加の下地印刷が1回ずつ実行され、その都度明度判定が行われる。なお、繰返し印刷回数Ncの追加回数は1(回)ずつに限らず、2(回)以上の値でも良い。これにより、その時点(新品又はある程度劣化が進んだ状態等)での下地用インクに応じて、所望の明度を得るための下地印刷を速やかに行うことができる。すなわち、顔料インクである下地用インクは、長期間の使用による劣化や、これに伴うヘッドの目詰まり等によって塗布する量や回数を調整する手間が生じやすいが、本実施形態ではこのような顔料インクであっても所望の明度を速やかに得ることができ、さらにテストパターン印刷や過剰な印刷等によるインクの消費を抑制できる。
【0060】
上述のステップS15において、ステップS14で算出した平均明度aveL*が閾値以上であると判定した場合(ステップS15;Yes)、制御部81は、その時点での繰返し印刷回数Ncを記憶部82に記憶させ、保持しておく(ステップS19)。
これにより、同一のインクカートリッジを使用した場合の次回以降の下地印刷において、速やかに所望の明度を得ることができる。これに加えて、明度不足等によって仕上がりが所望のイメージと異なることを防ぐことができる。なお、下地用インクのカートリッジ(下地用ヘッド41a)が交換された場合には、繰返し印刷回数Ncの設定値がリセットされてデフォルト値に戻される。
その後、制御部81は、下地印刷処理を終了させる。
【0061】
以上のように、本実施形態によれば、下地用インクが印刷された爪の印刷領域の色情報が取得され、この色情報に基づいて下地用インクの吐出回数(繰返し印刷回数Nc)が設定される。
これにより、実際のインク状態を確認するためだけのテストパターン印刷を行う必要なく、色情報から下地用インクの状態を取得できる。また、インクの有効期限には達しているが、まだインクを正常に吐出することが可能であった場合に、有効期限を順守するあまり、使用可能なインクを処分してしまうのを防ぐことができる。
したがって、本実施形態ではインク消費を抑えつつ実際のインク状態を把握することもできる。
【0062】
また、本実施形態によれば、印刷領域の色情報(平均明度aveL*)が閾値未満の場合、下地用インクの印刷回数が追加される。
これにより、好適に所望の明度が得られる。
【0063】
また、印刷領域の色情報(平均明度aveL*)が閾値以上の場合、直前に印刷対象に対して実行された印刷回数(その時点での繰返し印刷回数Nc)が、次回の印刷処理における規定の印刷回数(新たな繰返し印刷回数Nc)として設定される。
これにより、次回以降の下地印刷では速やかに所望の明度を得ることができる。例えば、同じ下地用インクを使って連続して印刷する場合(例えば、親指の次に人差し指、中指と塗布していく場合)などに有効である。
【0064】
また、本実施形態によれば、印刷領域内の複数の箇所(座標ポイント)における色情報(明度L*)が取得され、その平均値が閾値と比較される。
これにより、印刷領域の所定範囲(全体含む)の明度を取得してこれを評価することができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、印刷領域の色情報(平均明度aveL*)が閾値未満、かつ直前に印刷対象に対して実行された印刷の回数が規定の最大印刷回数に達した場合、表示部92にエラー情報が報知される。
これにより、例えば下地用インクを正常に吐出できていない等の異常発生時に、ユーザはこれを速やかに認識することができる。
【0066】
なお、以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で、種々変形が可能であることは言うまでもない。
【0067】
例えば、本実施形態では、下地印刷処理において、印刷領域のうち複数の座標ポイントの色情報(明度)を取得することとしたが、この座標ポイントの設定の仕方は特に限定されない。
例えば、印刷領域全体の色情報の平均値を取得し、この色情報の平均値を閾値と比較してもよい。
あるいは、印刷領域を分割した複数の領域の色情報を取得し、当該複数の領域の色情報の各々を閾値と比較してもよい。具体的には、図6に示すように、例えば爪を左部分、中央部分、右部分に3分割した3つの領域の色情報を取得し、当該3つの領域の色情報の各々を閾値と比較してもよい。この場合、3つの領域の色情報の各々と比較される閾値は、中央部分の領域用のものと、左部分及び右部分の少なくとも一方の領域用のものとで互いに異なっているのが好ましい。これは、爪が中央部から左端又は右端に行くにつれて曲率が変化することにより、爪の中央部分では両側(左部分及び右部分)よりも明るく(明度が大きく)撮影されるためである。
【0068】
また、爪(又はその周囲の皮膚)の色情報を取得し、この爪の色情報に基づいて下地用インクの印刷回数を補正することとしてもよい。具体的には、例えば、取得した爪画像から爪の色情報を取得し、爪の明度等が所定の閾値よりも小さい場合は「印刷回数を-1回」、大きい場合は「印刷回数を+1回」などしてもよい。
【0069】
また、本実施形態では、下地用インクによる下地層を評価するための色情報として、明度を用いることとした。しかし、この色情報は、印刷領域の色を特定するためのものであれば明度に限定されず、例えば色差を用いてもよい。この場合、下地印刷処理のステップS14では、平均明度aveL*と所望の明度との色差ΔEを算出し、ステップS15では、算出した色差が判定値以上の場合にステップS16に処理を移行し、当該色差が所定の判定値未満の場合にステップS19に処理を移行するなどすればよい。
また、RGBの色情報を取得してLab変換により明度L*を算出することとしたが、これらの色空間の種別やその変換手法なども特に限定されない。
【0070】
また、本実施形態では、顔料インクである下地用インクを使用する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明は、顔料インク以外のインク、例えば染料インクを使用する場合にも同様に適用できる。ただし、顔料インクは、染料インクに比べて乾燥によるノズルの目詰まり等を起こしやすいため、本発明をより好適に適用できる。
【0071】
また、本実施形態では、下地用インクに白インクを用いることとしたが、白色以外の下地色を用いてもよい。例えば、薄ピンク色や薄青色など、白色の入った不透明色を下地色としてもよい。
【0072】
また、本実施形態では、印刷装置1が端末装置9と連携して印刷システムを構成し、ネイルデザインの選択等を端末装置9側で行った上で、印刷動作を印刷装置1側で実行する場合を例示したが、印刷装置1はここに示すようなものに限定されない。
例えば、ユーザが印刷装置1の操作部や表示部により各種操作等を行い、印刷装置1の制御装置がこれらの処理を行うようにしてもよい。このように構成した場合には、端末装置9と連携することなく、印刷装置1が単体で印刷動作を完結できるように構成することもできる。
【0073】
また、ネイルデザインや撮影された爪の画像、爪の形状情報等の各種データは、端末装置の記憶部に記憶されてもよいし、印刷装置1の記憶部に記憶されていてもよい。
あるいは、ネットワーク回線等を介して接続可能なサーバ装置等に各種データを記憶させておき、端末装置又は印刷装置1がサーバ装置等にアクセスしてこのデータを参照可能に構成してもよい。
【0074】
以上本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定するものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
以下に、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載した発明を付記する。付記に記載した請求項の項番は、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲のとおりである。
〔付記〕
<請求項1>
印刷対象に液剤を印刷する印刷手段と、
前記印刷対象のうち、前記印刷手段によって前記液剤が印刷された印刷領域の色情報を取得する取得手段と、
前記印刷領域の色情報に基づいて、前記印刷手段による前記液剤の印刷回数を設定する設定手段と、を備える、
ことを特徴とする印刷装置。
<請求項2>
前記印刷対象を撮影する撮影手段をさらに備え、
前記取得手段は、前記撮影手段により撮影された、前記液剤が印刷された前記印刷領域の色情報を取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
<請求項3>
前記設定手段は、
前記印刷領域の色情報が色情報閾値未満、かつ直前に前記印刷対象に対して実行された印刷の回数が規定印刷回数未満の場合に、前記印刷領域への前記液剤の印刷回数を追加するよう設定し、
前記印刷領域の色情報が前記色情報閾値以上の場合に、直前に前記印刷対象に対して実行された印刷の回数を、次回の印刷処理における初期印刷回数として設定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷装置。
<請求項4>
前記色情報は色差であり、
前記設定手段は、
前記印刷領域の色差が色情報閾値以上、かつ直前に前記印刷対象に対して実行された印刷の回数が規定印刷回数未満の場合に、前記印刷領域への前記液剤の印刷回数を追加するよう設定し、
前記印刷領域の色差が前記色情報閾値未満の場合に、直前に前記印刷対象に対して実行された印刷の回数を、次回の印刷処理における初期印刷回数として設定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷装置。
<請求項5>
エラー情報を報知する報知手段をさらに備え、
前記設定手段は、前記印刷領域の色情報が前記色情報閾値未満、かつ直前に前記印刷対象に対して実行された印刷の回数が前記規定印刷回数に達した場合に、前記報知手段にエラー情報を報知させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
<請求項6>
前記取得手段は、前記印刷領域内の複数の座標における色情報をそれぞれ取得し、
前記設定手段は、取得された前記複数の座標における色情報の平均値を算出し、前記複数の座標における色情報の平均値と前記色情報閾値とを比較して、前記液剤の印刷回数を設定する、
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の印刷装置。
<請求項7>
前記取得手段は、前記印刷領域を分割した複数の領域の色情報の平均値をそれぞれ取得し、
前記設定手段は、前記複数の領域のそれぞれの色情報と前記色情報閾値とを比較して、前記液剤の印刷回数を設定する、
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の印刷装置。
<請求項8>
前記印刷対象は指の爪であり、
前記取得手段は、前記爪を左部分、中央部分、右部分に分割した領域の色情報をそれぞれ取得し、
前記中央部分の領域の色情報閾値と、前記左部分の領域及び前記右部分の領域の少なくとも一方の色情報閾値と、が互いに異なる値である、
ことを特徴とする請求項7に記載の印刷装置。
<請求項9>
前記取得手段は、前記印刷領域全体の色情報の平均値を取得し、
前記設定手段は、前記色情報の平均値と色情報閾値とを比較して、前記液剤の印刷回数を設定する、
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の印刷装置。
<請求項10>
前記印刷対象は指の爪であり、
前記取得手段は、前記爪又は前記爪の周囲の皮膚の色情報を取得し、
前記設定手段は、前記爪又は前記爪の周囲の皮膚の色情報に基づいて、前記液剤の印刷回数を補正する、
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の印刷装置。
<請求項11>
少なくとも、印刷対象に液剤を印刷する印刷手段と、前記印刷対象を撮影する撮影手段と、を備える印刷装置と通信を行う通信手段と、
前記通信手段を介して前記印刷装置から、前記撮影手段により撮影された、前記液剤が印刷された印刷領域の色情報を取得する取得手段と、
前記印刷領域の色情報に基づいて、前記印刷手段による前記液剤の印刷回数を設定する設定手段と、
を備えることを特徴とする情報処理装置。
<請求項12>
制御手段が、
印刷対象に液剤を印刷する印刷工程と、
前記印刷対象のうち、前記印刷工程によって前記液剤が印刷された印刷領域の色情報を取得する取得工程と、
前記印刷領域の色情報に基づいて、前記印刷工程による前記液剤の印刷回数を設定する設定工程と、
を実行することを特徴とする印刷方法。
<請求項13>
コンピュータを、
印刷対象のうち、印刷手段によって液剤が印刷された印刷領域の色情報を取得する取得手段、
前記印刷領域の色情報に基づいて、前記印刷手段による前記液剤の印刷回数を設定する設定手段、
として機能させることを特徴とする印刷プログラム。
【符号の説明】
【0075】
1 印刷装置
9 端末装置
40 印刷部
41 印刷ヘッド(印刷手段)
41a 下地用ヘッド
50 撮影装置(撮影手段)
80 制御装置
81 制御部(取得手段、設定手段)
92 表示部(報知手段)
94 通信部(通信手段)
aveL* 平均明度
L* 明度
LT 閾値(色情報閾値)
Nc 繰返し印刷回数
図1
図2
図3
図4
図5
図6