(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】積層造形装置および積層造形方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/85 20210101AFI20240528BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240528BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240528BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240528BHJP
B22F 10/366 20210101ALI20240528BHJP
B22F 12/90 20210101ALI20240528BHJP
B22F 12/48 20210101ALI20240528BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20240528BHJP
【FI】
B22F10/85
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B22F10/366
B22F12/90
B22F12/48
B22F10/25
(21)【出願番号】P 2021160636
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 貴士
(72)【発明者】
【氏名】角田 貫一
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-069662(JP,A)
【文献】特開2018-027558(JP,A)
【文献】特表2019-526473(JP,A)
【文献】国際公開第2021/054127(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/095454(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/103849(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00
B22F 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形装置であって、
造形物が配置されるステージと、
前記造形物を造形するための原料
の粉末を供給する
ノズルと、
前記ノズルから供給された前記原料
の粉末に対してレーザ光を照射して、前記造形物を造形する照射部と、
前記積層造形装置を制御する制御部と、
を備え、
前記ステージと前記照射部とのいずれかは、移動することにより、互いの相対位置を変化させることが可能であり、
前記制御部は、
前記相対位置を変化させることにより前記原料
の粉末を前記ステージ上に積層して前記造形物を造形し、
前記ステージ上の前記造形物の画像を用いて、前記造形物において溶融している溶融部と、
造形開始時からの経過時間に応じて決定される基準位置との
鉛直方向に沿った誤差を算出し、
算出された前記誤差を用いて、前記相対位置を変化させるための移動速度を変化させる、積層造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の積層造形装置であって、
前記制御部は、
前記造形物の画像から、前記溶融部における頂点の鉛直方向に平行な高さを特定し、
前記基準位置から、特定された前記高さまでの差を前記誤差として算出し、
前記誤差に応じて、鉛直方向に沿って前記相対位置を変化させるための移動速度を変化させる、積層造形装置。
【請求項3】
請求項2に記載の積層造形装置であって、
前記制御部は、
前記誤差がゼロよりも大きい場合には、鉛直方向に沿う前記相対位置間の距離が広がる方向に速度を加速させ、
前記誤差がゼロよりも小さい場合には、鉛直方向に沿う前記相対位置間の距離が狭まる方向に速度を減速させる、積層造形装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の積層造形装置であって、
前記制御部は、
前記造形物の画像から、前記溶融部の水平方向に平行な幅を特定し、
特定された前記幅と前記高さとを用いて前記溶融部の形状を楕円半球として定義した場合の体積を算出し、
算出された前記楕円半球の体積と、予め設定された前記楕円半球の体積との比較に応じて、前記照射部が照射する前記レーザ光の出力強度を変化させる、積層造形装置。
【請求項5】
請求項4に記載の積層造形装置であって、
前記制御部は、
予め設定された前記楕円半球の体積として、造形物の設計値における前記基準位置の水平方向の幅を直径とし、かつ、前記直径の半分を高さとする楕円半球の体積を算出し、
予め設定された前記楕円半球の体積に、許容精度を乗じた下限の体積と上限の体積とを算出し、
算出された前記溶融部の前記楕円半球の体積が前記上限の体積よりも大きい場合には、前記照射部が照射する前記レーザ光の出力強度を減少させ、
算出された前記溶融部の前記楕円半球の体積が前記下限の体積よりも小さい場合には、前記照射部が照射する前記レーザ光の出力強度を増加させる、積層造形装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の積層造形装置であって、
前記制御部は、
前記造形物の画像から、前記溶融部の水平方向に平行な幅を特定し、
造形物の造形開始から特定された前記幅が設計値の直径に達するまで、前記誤差の大きさにかかわらず、鉛直方向に沿って前記相対位置を変化させるための移動速度を初期値から変更しない、積層造形装置。
【請求項7】
請求項6に記載の積層造形装置であって、
前記制御部は、特定された前記幅が前記設計値の直径を超えた後に、所定時間、前記移動速度が変化しているにもかかわらず、特定された前記幅が前記設計値の直径を下回らない場合に、前記造形物の造形を中止する、積層造形装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の積層造形装置であって、
前記制御部は、
前記造形物の画像から、前記溶融部の水平方向に平行な幅と、前記溶融部における頂点の鉛直方向に平行な高さとを特定し、
特定された前記幅と前記高さとを用いて前記溶融部の形状を楕円半球として定義した場合の体積を算出し、
前記造形物の造形を開始してから所定の時間、算出された前記溶融部の前記楕円半球の体積が予め設定された体積を上回らない場合には、前記造形物の造形を中止する、積層造形装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の積層造形装置であって、さらに、
前記造形物における前記溶融部の画像を取得する画像取得部を備える、積層造形装置。
【請求項10】
積層造形方法であって、情報処理装置が、
ステージ上に配置される造形物の画像を取得する画像取得工程と、
ノズルから供給された原料
の粉末に対して、照射部からレーザ光を照射して前記ステージ上に前記造形物を造形する造形工程と、
前記造形物の画像を用いて、前記造形物において溶融している溶融部の頂点と、
造形開始時からの経過時間に応じて決定される基準位置との
鉛直方向に沿った誤差を算出する演算工程と、
位置制御工程と、
を備え、
前記ステージと前記照射部とのいずれかは、移動することにより、互いの相対位置を変化させることが可能であり、
前記造形工程は、前記相対位置を変化させることにより前記原料
の粉末を前記ステージ上に積層して前記造形物を造形し、
前記位置制御工程は、算出された前記誤差を用いて、前記相対位置を変化させるための移動速度を変化させる、積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置および積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の粉末材料を融解して造形物を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された付加加工装置では、溶解した金属粉末とワークとが固まることにより、ワーク上に金属の層が形成される。この装置では、形成された層の厚さが測定されて、測定値と、所定の指令値との差に基づいて、次に形成される層の指令値が制御される。
【0003】
特許文献2に記載された積層造形装置は、積層造形と機械加工との両機能を備えたハイブリッド機である。この装置は、サーモビューアによる上部からのモニタリングにより、金属粉末が固まらずに溶融している溶融部の面積形状を把握できる。非特許文献1には、積層造形物を切削するための切削パスを決定して再生する制御データの生成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-31704号公報
【文献】特許第6626788号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】二井谷 春彦、外5名、"デポジション方式3次元金属積層造形装置の開発"、[online]、2018年、三菱重工技報vol.55 No.3 (2018) インダストリー&社会基盤特集、[令和3年9月1日検索]、インターネット<https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/553/553090.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術は、積層された層の厚さを測定して、狙いの精度にするための積層数を補正する技術である。当該技術を用いることにより、造形物の形状を所望の形状に近づけることができる。しかしながら、この技術は、造形後に加工することにより、寸法精度を担保することが前提である。そのため、造形物の形状が複雑な場合、および、造形後の加工が困難な場合に、特許文献1の技術を用いても精度の高い造形物を造形することは難しい。
【0007】
特許文献2および非特許文献1に記載された技術は、積層造形後に機械加工によって精度を担保している。特許文献2では、サーモビューアが溶融部を面として把握しているが、溶融部自体は厚さを有する3次元形状である。そのため、特許文献2に記載された技術では、溶融部の形状についての情報が不足している。すなわち、造形のための制御を行うために十分な情報が得られていないおそれがある。非特許文献1に記載された技術は、主に切削加工についてであり、積層造形時の寸法そのものを積極的に制御することについては考慮されていない。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、積層造形後の造形物に対する加工を抑制した上で、造形物の形状精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。積層造形装置であって、造形物が配置されるステージと、前記造形物を造形するための原料の粉末を供給するノズルと、前記ノズルから供給された前記原料の粉末に対してレーザ光を照射して、前記造形物を造形する照射部と、前記積層造形装置を制御する制御部と、を備え、前記ステージと前記照射部とのいずれかは、移動することにより、互いの相対位置を変化させることが可能であり、前記制御部は、前記相対位置を変化させることにより前記原料の粉末を前記ステージ上に積層して前記造形物を造形し、前記ステージ上の前記造形物の画像を用いて、前記造形物において溶融している溶融部と、造形開始時からの経過時間に応じて決定される基準位置との鉛直方向に沿った誤差を算出し、算出された前記誤差を用いて、前記相対位置を変化させるための移動速度を変化させる、積層造形装置。そのほか、本発明は、以下の形態としても実現可能である。
【0010】
(1)本発明の一形態によれば、積層造形装置が提供される。この積層造形装置は、造形物が配置されるステージと、前記造形物を造形するための原料を供給する供給部と、供給された前記原料に対してレーザ光を照射して、前記造形物を造形する照射部と、前記積層造形装置を制御する制御部と、を備え、前記ステージと前記照射部とのいずれかは、移動することにより、互いの相対位置を変化させることが可能であり、前記制御部は、前記相対位置を変化させることにより前記原料を前記ステージ上に積層して前記造形物を造形し、前記ステージ上の前記造形物の画像を用いて、前記造形物において溶融している溶融部と、予め設定された基準位置との誤差を算出し、算出された前記誤差を用いて、前記相対位置を変化させるための移動速度を変化させる。
【0011】
この構成によれば、相対位置間の距離が徐々に大きくなるにつれて、ステージ上に原料が積層された造形物が造形される。さらに、造形物の画像を用いて算出される誤差を用いて、互いの相対位置を変化させるためのステージと照射部との移動速度が適宜変化する。移動速度が変化することより、移動速度が一定のまま造形物が造形される場合と比較して、造形中の造形物が設計値に近づくように造形される。この結果、三次元的な造形物の形状精度が向上し、安定的に連続造形が行われる。特に、脆くて加工ができない材質の造形物、および、硬くて造形後の加工が難しい材質の造形物の寸法精度が向上する。また、本構成によれば、造形後の三次元形状が複雑な造形物への追加工が不要になる、又は、追加工が低減する。すなわち、本構成を用いれば、積層造形後の造形物に対する加工を抑制した上で、造形物の形状精度が向上する。
【0012】
(2)上記態様の積層造形装置において、前記制御部は、前記造形物の画像から、前記溶融部における頂点の鉛直方向に平行な高さを特定し、前記基準位置から、特定された前記高さまでの差を前記誤差として算出し、前記誤差に応じて、鉛直方向に沿って前記相対位置を変化させるための移動速度を変化させてもよい。
この構成によれば、レーザ光の出力強度と粉末材料の供給量とが変化しない状態で、誤差に応じて鉛直方向に沿って相対位置を変化させるための移動速度が変化する。これにより、単位時間当たりに造形物に新たに積層される頂点までの材料の高さが変化する。そのため、本構成によれば、算出された誤差に応じて造形物の形状精度をさらに向上させることができる。
【0013】
(3)上記態様の積層造形装置において、前記制御部は、前記誤差がゼロよりも大きい場合には、鉛直方向に沿う前記相対位置間の距離が広がる方向に速度を加速させ、前記誤差がゼロよりも小さい場合には、鉛直方向に沿う前記相対位置間の距離が狭まる方向に速度を減速させてもよい。
この構成によれば、誤差がゼロよりも大きい状態は、基準位置よりも造形が余分に進んでいる状態である。逆に、誤差がゼロよりも小さい状態は、基準位置よりも造形が進んでいない状態である。いずれの状態でも、相対位置の距離が増減する速度が制御されることにより、ある時刻における溶融部の高さを基準位置に近づけることができる。
【0014】
(4)上記態様の積層造形装置において、前記制御部は、前記造形物の画像から、前記溶融部の水平方向に平行な幅を特定し、特定された前記幅と前記高さとを用いて前記溶融部の形状を楕円半球として定義した場合の体積を算出し、算出された前記楕円半球の体積と、予め設定された前記楕円半球の体積との比較に応じて、前記照射部が照射する前記レーザ光の出力強度を変化させてもよい。
この構成によれば、レーザ光の出力強度が変化すると、造形物の溶融部に新たに積層さ
れる材料の積層量が変化する。本構成では、溶融部の体積としてみなす楕円半球の体積に応じて、溶融部にさらに積層される積層量が制御される。これにより、造形物の形状精度をさらに向上させることができる。
【0015】
(5)上記態様の積層造形装置において、前記制御部は、予め設定された前記楕円半球の体積として、造形物の設計値における前記基準位置の水平方向の幅を直径とし、かつ、前記直径の半分を高さとする楕円半球の体積を算出し、予め設定された前記楕円半球の体積に、許容精度を乗じた下限の体積と上限の体積とを算出し、算出された前記溶融部の前記楕円半球の体積が前記上限の体積よりも大きい場合には、前記照射部が照射する前記レーザ光の出力強度を減少させ、算出された前記溶融部の前記楕円半球の体積が前記下限の体積よりも小さい場合には、前記照射部が照射する前記レーザ光の出力強度を増加させてもよい。
この構成によれば、造形物の楕円半球の体積が予め設定された楕円半球の上限の体積よりも大きい状態は、溶融部が設計値よりも材料が余分に積層されている状態である。一方で、造形物の楕円半球の体積が予め設定された楕円半球の下限の体積よりも小さい状態は、溶融部が設計値よりも材料が積層されずに不足している状態である。溶融部に積層される材料が多い又は少ない状態の場合に、レーザ光の出力強度が調整されることにより、溶融部の形状を設計値に近づけることができる。この結果、造形物の形状精度をさらに向上させることができる。
【0016】
(6)上記態様の積層造形装置において、前記制御部は、前記造形物の画像から、前記溶融部の水平方向に平行な幅を特定し、造形物の造形開始から特定された前記幅が設計値の直径に達するまで、前記誤差の大きさにかかわらず、鉛直方向に沿って前記相対位置を変化させるための移動速度を初期値から変更しなくてもよい。
本構成によれば、造形開始時の造形物の形状は不安定であるため、造形開始から溶融部の幅が設計値の直径に達するまで、移動速度が一定の下、造形物の造形が行われる。これにより、誤差による微調整の影響に応じて造形される造形物の形状が不安定になることを抑制できる。
【0017】
(7)上記態様の積層造形装置において、前記制御部は、特定された前記幅が前記設計値の直径を超えた後に、所定時間、前記移動速度が変化しているにもかかわらず、特定された前記幅が前記設計値の直径を下回らない場合に、前記造形物の造形を中止してもよい。
造形開始後に溶融部の幅が予め設定された値に達した後、所定時間、補正が行われたにもかかわらず溶融部の幅が設計値の直径を下回らない場合、溶融部の幅が増大し続けるおそれがある。この場合に、本構成によれば、造形物の造形が中止されることにより、目標の形状と異なる造形物の造形を抑制できる。
【0018】
(8)上記態様の積層造形装置において、前記制御部は、前記造形物の画像から、前記溶融部の水平方向に平行な幅と、前記溶融部における頂点の鉛直方向に平行な高さとを特定し、特定された前記幅と前記高さとを用いて前記溶融部の形状を楕円半球として定義した場合の体積を算出し、前記造形物の造形を開始してから所定の時間、算出された前記溶融部の前記楕円半球の体積が予め設定された体積を上回らない場合には、前記造形物の造形を中止してもよい。
造形開始時の造形物の形状は不安定である。そのため、所定の時間が経過しても、溶融部の楕円半球の体積が予め設定された体積に到達しない場合、溶融部がさらに小さくなるおそれがある。この場合に、本構成によれば、造形物の造形が中止されることにより、目標の形状と異なる造形物の造形を抑制できる。
【0019】
(9)上記態様の積層造形装置において、さらに、前記造形物における前記溶融部の画像を取得する画像取得部を備えていてもよい。
この構成によれば、他の装置から溶融部の画像を取得せずに画像取得から移動速度の制御までを一貫して行うことができる。
【0020】
(10)本発明の他の一態様によれば、積層造形方法が提供される。この積層造形方法では、情報処理装置が、ステージ上に配置される造形物の画像を取得する画像取得工程と、供給部から供給された原料に対して、照射部からレーザ光を照射して前記ステージ上に前記造形物を造形する造形工程と、前記造形物の画像を用いて、前記造形物において溶融している前記溶融部の頂点と、予め設定された基準位置との誤差を算出する演算工程と、位置制御工程と、を備え、前記ステージと前記照射部とのいずれかは、移動することにより、互いの相対位置を変化させることが可能であり、前記造形工程は、前記相対位置を変化させることにより前記原料を前記ステージ上に積層して前記造形物を造形し、前記位置制御工程は、算出された前記誤差を用いて、前記相対位置を変化させるための移動速度を変化させる。
【0021】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、積層造形装置、3Dプリンタ、レーザ造形装置、およびこれらの装置を備えるシステム、積層造形方法、およびレーザ加工方法、これら装置や方法を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態としての積層造形装置の概略図である。
【
図4】各パラメータの一例についての説明図である。
【
図5】ステージの下降速度の変化についての説明図である。
【
図6】溶融部の楕円半球の体積の時系列変化のグラフである。
【
図7】造形途中の実施例の造形物の概略側面図である。
【
図8】造形途中の比較例の造形物の概略側面図である。
【
図9】本実施形態の積層造形方法のフローチャートである。
【
図10】本実施形態の積層造形方法のフローチャートである。
【
図11】変形例の積層造形方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<実施形態>
1.積層造形装置の構成:
図1は、本発明の実施形態としての積層造形装置100の概略図である。本実施形態の積層造形装置100は、金属の原料粉末をレーザ光により溶融し、溶融した原料粉末をステージ30上に積層させる。積層された原料粉末は、降温すると固まって、造形物OBを構成する。積層造形装置100は、レーザ光LSを照射するレーザヘッド10に対してステージ30を三次元的に動かすことにより、溶融した原料粉末を積層させて所定の形状の造形物OBを造形する。本実施形態では、造形中の造形物OBが撮影されて、撮影画像から特定される造形物OBの各種寸法を用いて、レーザヘッド10とステージ30との距離の移動速度が制御されることにより、所定の造形物OBが造形される。
【0024】
図1には、積層造形装置100が備える構成の概略ブロック図が示されている。
図1に示されるように、積層造形装置100は、金属の原料粉末を供給するノズル(供給部)20と、レーザ光LSを照射するレーザヘッド(照射部)10と、ノズル20およびレーザヘッド10に対して位置を変更可能なステージ30と、ステージ30上で形成される造形物OBの画像を取得するカメラ(画像取得部)40と、各部を制御するPC(Personal C
omputer)50と、を備えている。
【0025】
ノズル20から供給される原料粉末は、造形物OBを造形するための原料である。ノズル20から供給される金属の原料粉末の量は、PC50により制御される。レーザヘッド10は、ノズル20から供給された原料粉末に対してレーザ光LSを照射することにより、造形物OBを造形する。レーザヘッド10から照射されるレーザ光LSの強度は、PC50により制御される。
【0026】
本実施形態では、ステージ30の位置が変更可能な一方、レーザヘッド10とノズル20との位置は固定されている。換言すると、ステージ30は、移動することによりノズル20およびレーザヘッド10に対する相対位置を変化させることができる。レーザヘッド10とステージ30との距離が変化することにより、ステージ上に積層した原料により造形物OBが形成される。ステージ30の移動量および移動速度は、PC50により制御される。カメラ40は、造形物OBのうちの先端の溶融部MPを撮影する。溶融部MPとは、ノズル20から供給された原料粉末が固まっておらず溶融した状態の部分である。本実施形態では、溶融部MPは、撮影された造形物OBの反射率等の色や、固まっていない先端部の動き等を用いて特定される。本実施形態のカメラ40の分解能は、0.1mmである。
【0027】
図1に示されるように、PC50は、CPU(Central Processing Unit)51と、記
憶部60と、各種入力を受け付ける入力部70と、画像および音声を出力する出力部80と、を備えている。記憶部60は、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive
)などで構成されている。記憶部60は、造形物OBを形成するために必要な造形物OBの三次元のCAD(computer-aided design)データを記憶している。本実施形態の入力
部70は、キーボードとマウスとで構成されている。入力部70が受け付けた入力に応じて、CPU51が制御される。出力部80は、CPU51からの制御信号に応じて各種画像を表示するモニタと、音声を出力するスピーカとを有している。
【0028】
CPU51は、図示されていないROM(Read Only Memory)に格納されているプログラムをRAM(Random Access Memory)に展開することにより、各種プログラムの機能を実行する。CPU51は、レーザヘッド10が照射するレーザ光LSを制御する照射制御部52と、ノズル20から供給される原料粉末の量を制御する供給制御部53と、ステージ30の位置を変化させる移動制御部55と、記憶部60から造形物OBのCADデータを取得する形状取得部57と、演算部56として機能する。なお、本実施形態の照射制御部52と、移動制御部55と、演算部56とは、制御部に相当する。
【0029】
形状取得部57は、入力部70が受け付けた入力に応じて、記憶部60に記憶されている造形物OBの元となるCADデータを取得する。演算部56は、形状取得部57により取得された造形物OBの造形時における照射制御部52と供給制御部53と移動制御部55とが行う初期の制御量を決定する。また、演算部56は、カメラ40から取得した撮影画像を用いて、造形物OBの造形時の各制御量を変化させる(補正する)。具体的には、演算部56は、造形物OBの撮影画像を用いて、造形物OBにおいて溶融している溶融部MPの頂点TPと、予め設定された基準位置との誤差L(t)を算出する。演算部56は、算出した誤差L(t)を用いて、各制御量を補正する。なお、補正時に用いられる後述の精度等のパラメータは、入力部70を介して受け付けられる。補正される制御量には、移動制御部55によるステージ30の移動量および移動速度が含まれる。溶融部MPの頂点TPの詳細については後述する。
【0030】
図2は、基準位置についての説明図である。
図2には、演算部56により事前に算出される、基準位置を含む時刻tにおける各パラメータの一例が示されている。本実施形態で
造形される造形物OBは、断面の直径Dstaが1mmの円を有するコイルなどの棒状部材である。
図2には、造形開始から経過した時間である時刻tによって変化する高さの基準位置Z0(t)と、造形物OBの断面の直径Dstaと、製造中に許容される精度範囲と、理想形状の楕円の半球(楕円半球)の体積Vhstaと、精度上限の場合の楕円半球の体積Vhsta_uと、精度下限の場合の楕円半球の体積Vhsta_lと、が示されている。
図2に示される各パラメータは、CADデータに基づく設計値として予め算出可能な数値である。本実施形態の許容精度範囲は、-20%~+20%に設定されている。許容精度範囲の上限値および下限値は、入力部70を介して入力される。
【0031】
楕円半球の体積Vhstaは、造形物OBの水平方向の断面積と、水平方向の半径の半分の高さと、を備える楕円半球の体積である。そのため、
図2に示される設計値の楕円半球の体積Vhstaは、下記式(1)のように表される。
【数1】
【0032】
精度上限の場合の楕円半球の体積Vhsta_uは、楕円の各長さが+20%の場合の体積である。一方で、精度下限の場合の楕円半球の体積Vhsta_lは、楕円の各長さが-20%の場合の体積である。造形前に設定される楕円半球の体積Vhsta_uとVhsta_lとのそれぞれは、下記式(2),(3)のように表される。
【0033】
【0034】
図3は、時刻tにおける造形物OBの溶融部MPについての説明図である。
図3には、カメラ40により撮影された時刻tの造形物OBの先端の概略側面図が示されている。なお、
図3に示される溶融部MPには、ハッチングが施されている。
【0035】
演算部56は、特定した溶融部MPのうち、最も鉛直下方の位置を時刻tの高さ位置Z(t)として特定する。また、演算部56は、溶融部MPのうち、最も鉛直上方の位置を溶融部MPの頂点TPとして特定する。演算部56は、鉛直方向において、溶融部MPの頂点TPから基準位置Z0(t)を差し引いた値を、時刻tにおける高さの誤差L(t)として算出する。移動制御部55は、演算部56により算出された誤差L(t)を用いて、ステージ30の下降速度Vsを変化させる。演算部56は、さらに、溶融部MPの幅として時刻tにおける位置Z(t)を通る水平方向の幅Dhs(t)を特定する。演算部56は、さらに、位置Z(t)から頂点TPまでの高さHho(t)を算出する。
【0036】
図4は、時刻tにおける各パラメータの一例についての説明図である。
図4には、時刻tにおける誤差L(t)、幅Dhs(t)、高さHho(t)、および溶融部MPの楕円半球の体積Vho(t)の具体的な数値の一例が示されている。演算部56は、楕円半球の体積Vho(t)を、下記式(4)を用いて算出する。
【0037】
【0038】
演算部56は、時刻tにおける誤差L(t)の正負に応じて、ステージ30の鉛直方向に沿う移動速度(下降速度Vs)を変化させる。具体的には、本実施形態の演算部56は、所定時刻Δtが経過する毎に、誤差L(t)を算出する。演算部56は、誤差L(t)がゼロではない場合には、2Δt経過後の誤差L(t+2Δt)がゼロになるようにステージ30の下降速度Vsを加減速する。加減速後の下降速度をVcと定義すると、下記関係式(5)が成立する。
【数5】
【0039】
図5は、ステージ30の下降速度Vsの変化についての説明図である。
図5には、ステージ30の下降速度Vsの時間経過に伴う変化直線L1が示されている。破線L2は、時刻tの時点で算出された下降速度Vcの時系列変化である。破線L3は、時刻(t+Δt)の時点で算出された下降速度Vcの時系列変化である。破線L4は、時刻(t+2Δt)の時点で算出された下降速度Vcの時系列変化である。例えば、
図4に示されるように誤差L(t)が+0.35(mm)であり、かつ、Δtが0.5(秒)である場合には、移動制御部55は、演算部56の算出結果を用いて、時刻(t+2Δt)が経過した後に目標の下降速度Vcとなるように、ステージ30の下降速度Vsを大きくする。換言すると、移動制御部55は、誤差L(t)がゼロよりも大きい場合には、レーザヘッド10に対するステージ30の鉛直方向に沿う距離が広がる方向に速度を加速させる。一方で、移動制御部55は、誤差L(t)がゼロよりも小さい場合には、レーザヘッド10に対するステージ30の鉛直方向に沿う距離が狭まる方向に速度を減速させる(下降速度Vsを小さくする)。なお、本実施形態では、水平方向に沿うステージ30の移動速度は、造形物OBのCADデータにより決定されており、溶融部MPの形状にかかわらず補正されない。
【0040】
照射制御部52は、演算部56により算出された時刻tにおける幅Dhs(t)と楕円半球の体積Vho(t)とに応じて、レーザヘッド10から照射されるレーザ光LSの出力強度を調整する。造形開始時のレーザ光LSの出力強度は、造形物OBのCADデータに応じて決定される。本実施形態では、照射制御部52は、時刻tにおける楕円半球の体積Vho(t)が精度上限の楕円半球の体積Vhsta_uよりも大きい場合に、レーザ光LSの出力強度を低下させる。一方で、照射制御部52は、時刻tにおける楕円半球の体積Vho(t)が精度下限の楕円半球の体積Vhsta_lよりも小さい場合に、レーザ光LSの出力強度を上昇させる。
【0041】
図6は、溶融部MPの楕円半球の体積Vho(t)の時系列変化のグラフである。
図6には、溶融部MPの楕円半球の体積Vho(t)と上下限の楕円半球の体積Vhsta_u,Vhsta_lとの比較に応じて、レーザ光LSの出力強度が制御された場合の体積Vho(t)の時系列変化である曲線C1(実線)が示されている。また、
図6には、溶融部MPの楕円半球の体積Vho(t)に関わらず一定の出力強度のレーザ光LSが照射された比較例の楕円半球の体積Vho(t)の時系列変化が曲線C2(破線)で示されている。
図6に示されるように、実施例の溶融部MPの楕円半球の体積Vho(t)は、精度下限の体積Vhsta_lから精度上限の体積Vhsta_uまでの範囲に収まっている。一方で、比較例の溶融部MPの楕円半球の体積Vho(t)は、精度上限の体積Vh
sta_uを超えて時間が経過する毎に大きくなっている。すなわち、比較例の造形物OBの形状は、記憶部60に記憶された目標の形状から大きく異なっている。
【0042】
図7は、造形途中の実施例の造形物OBの概略側面図である。
図8は、造形途中の比較例の造形物OBの概略側面図である。
図7,8に示される造形物OBのうち、溶融部MPにはハッチングが施されている。
図7に示される実施例の造形物OBは、造形開始直後を除いて、高さ方向の位置にかかわらず一定の大きさの断面を有している。一方で、
図8に示される比較例の造形物OBの溶融部MPの体積は、実施例よりも非常に大きくなっている。
【0043】
なお、本実施形態では、演算部56は、造形物OBの造形開始から溶融部MPの幅Dhs(t)が予め設定された値に達するまで、幅Dhs(t)や楕円半球の体積Vho(t)の値にかかわらず、ステージ30の下降速度Vsとレーザ光LSの出力強度を初期値から変更しない。本実施形態では、予め設定された値として、直径Dsta(
図2)が設定されている。
【0044】
さらに、本実施形態の演算部56は、上述した所定時刻Δtが経過する毎のステージ30の下降速度Vsとレーザ光LSの出力強度との制御に加え、造形開始から下記2つの条件を満たした場合には、造形物OBの造形を中止するように各部を制御する。
・条件1.造形開始から閾値時間T1が経過しても溶融部MPの体積Vho(t)が下限の体積Vhsta_lに到達しない場合
・条件2.溶融部MPの幅Dhs(t)が直径Dstaを超えた後に、所定回数(例えば、10Δt)の下降速度Vsおよびレーザ光LSの出力強度が補正されているにもかかわらず、幅Dhs(t+10Δt)が直径Dstaを下回らない場合
【0045】
2.積層造形フロー:
図9および
図10は、本実施形態の積層造形方法のフローチャートである。
図9に示される積層造形フローでは、初めに、形状取得部57が、入力部70が受け付けた入力に応じて、記憶部60から1つの造形物OBのCADデータを取得する(ステップS1)。演算部56は、入力部70を介して、造形時に許容する精度範囲と、補正を行う一定間隔の所定時刻Δtと、レーザ光LSの出力強度を制御するための閾値時間T1と、を取得する(ステップS2)。
【0046】
演算部56は、取得した許容精度範囲と造形物OBのCADデータとを用いて、造形開始時の各部の制御量を算出する(ステップS3)。演算部56は、造形物OBのCADデータを用いて、ステージ30の水平方向および鉛直方向の移動量および移動速度と、レーザ光LSの出力強度とを決定する。また、演算部56は、造形物OBのCADデータと許容精度範囲とを用いて、
図3に示される基準位置を含む各種パラメータを算出する。
【0047】
照射制御部52と供給制御部53と移動制御部55とは、演算部56により算出された制御量を用いて造形物OBの造形を開始し、カメラ40は、造形物OBの撮影を開始する(ステップS4)。演算部56は、造形物OBの造形開始から閾値時間T1が経過したか否かを判定する(ステップS5)。閾値時間T1が経過していない場合には(ステップS5:NO)、演算部56は、閾値時間T1が経過するのを待機する。
【0048】
閾値時間T1が経過した場合には(ステップS5:YES)、演算部56は、溶融部MPの体積Vho(t)が下限の体積Vhsta_lに到達したか否かを判定する(ステップS6)。溶融部MPの体積Vho(t)が下限の体積Vhsta_lに到達していない場合には(ステップS6:NO)、上記の条件1が満たされるため、
図10に示されるように、積層造形フローが終了する。
【0049】
溶融部MPの体積Vho(t)が下限の体積Vhsta_lに到達した場合には(ステップS6:YES)、演算部56は、
図4に示される溶融部MPの幅Dhs(t)が直径Dstaに達したか否かを判定する(ステップS7)。幅Dhs(t)が直径Dstaに達していない場合には(ステップS7:NO)、積層造形フローが終了する。
【0050】
溶融部MPの幅Dhs(t)が直径Dstaに達している場合には(ステップS7:YES)、演算部56は、時刻tにおける基準位置Z(t)と、カメラ40により撮影された造形物OBの溶融部MPの頂点TPとの誤差L(t)を算出する(ステップS8)。演算部56は、撮影された造形物OBの画像から、溶融部MPと、溶融部MPの頂点TPとを特定する。演算部56は、特定した溶融部MPおよび頂点TPから、溶融部MPの幅Dhs(t)を特定する。演算部56は、溶融部MPの高さ位置Z(t)から頂点TPまでの高さHho(t)を算出する。演算部56は、幅Dhs(t)と高さHho(t)とを用いて、誤差L(t)と楕円半球の体積Vho(t)とを算出する。
【0051】
演算部56は、算出した誤差L(t)がゼロであるか否かを判定する(ステップS9)。誤差L(t)がゼロである場合には(ステップS9:YES)、レーザ光LSの出力強度が変化せずに、
図10のステップS11の処理が行われる。誤差L(t)がゼロでない場合には(ステップS9:NO)、移動制御部55は、ステージ30の下降速度Vsを変化させる(ステップS10)。移動制御部55は、ステージ30の下降速度Vsを上記式(5)から算出される下降速度Vcになるように上昇または減少させる。
【0052】
演算部56は、算出した楕円半球の体積Vho(t)と精度上下限の体積Vhsta_u,Vhsta_lとの比較を行う(ステップS11)。楕円半球の体積Vho(t)が下限の体積Vhsta_lから上限の体積Vhsta_uまでの精度範囲内であるか否かを判定する。体積Vho(t)が精度範囲内である場合には(ステップS12:YES)、ステップS15の処理が行われる。
【0053】
体積Vho(t)が精度範囲外である場合には(ステップS12:NO)、照射制御部52は、レーザ光LSの出力強度を変化させる(ステップS13)。本実施形態では、照射制御部52は、体積Vho(t)が精度上限の体積Vhsta_uよりも大きい場合には、レーザ光LSの出力強度を増加させる。一方で、照射制御部52は、体積Vho(t)が精度下限の体積Vhsta_lよりも小さい場合には、レーザ光LSの出力強度を減少させる。
【0054】
レーザ光LSの出力強度の変化後に、演算部56は、出力強度を変化させる条件を満たしたまま所定回数の所定時刻Δtが経過したか否かを判定する(ステップS14)。所定回数の所定時刻Δtが経過していると判定された場合には(ステップS14:YES)、積層造形フローが終了する。所定回数の所定時刻Δtが経過していないと判定された場合には(ステップS14:NO)、演算部56は、造形物OBの造形が完了したか否かを判定する(ステップS15)。造形物OBの造形が完了していないと判定された場合には(ステップS15:NO)、演算部56は、所定時刻Δtが経過したか否かを判定する(ステップS16)。所定時刻Δtが経過していない場合には(ステップS16:NO)、演算部56は、所定時刻Δtが経過するのを待機する。所定時刻Δtが経過した場合には(ステップS16:YES)、
図9のステップS8以降の処理が繰り返される。ステップS13の処理において、造形物OBの造形が完了した場合には(ステップS15:YES)、積層造形フローが終了する。
【0055】
3.効果
以上説明したように、本実施形態の積層造形装置100では、ステージ30は、移動す
ることによりノズル20およびレーザヘッド10に対する相対位置を変化させることができる。演算部56は、造形物OBの撮影画像を用いて、造形物OBにおいて溶融している溶融部MPの頂点TPと、予め設定された基準位置との誤差L(t)を算出する。演算部56は、算出した誤差L(t)を用いて、各制御量を補正する。そのため、本実施形態の積層造形装置100では、レーザヘッド10とステージ30との距離が大きくなるにつれて、ステージ30上に原料が積層された造形物OBが積層される。さらに、撮影画像から算出される誤差L(t)を用いてステージ30の下降速度Vs等の制御量が適宜補正される。この補正により、移動速度が一定のまま造形物OBが造形される場合と比較して、造形中の造形物OBが目標となる設計値の形状に近づくように造形される。この結果、三次元的な造形物OBの形状精度が向上し、安定的に連続造形が行われる。特に、脆くて加工ができない材質の造形物OB、および、硬くて造形後の加工が難しい材質の造形物OBの寸法精度が向上する。また、本実施形態の積層造形装置100を用いれば、造形後の三次元形状が複雑な造形物OBへの追加工が不要になる、又は、追加工が低減する。すなわち、積層造形後の造形物OBに対する加工を抑制した上で、造形物OBの形状精度が向上する。
【0056】
また、本実施形態の演算部56は、鉛直方向において、溶融部MPの頂点TPから基準位置Z0(t)を差し引いた値を、時刻tにおける高さの誤差L(t)として算出する。移動制御部55は、演算部56により算出された誤差L(t)を用いて、ステージ30の鉛直方向に沿う下降速度Vsを変化させる。レーザ光LSの出力強度と粉末材料の供給量とが変化しない状態で、誤差に応じてステージ30の下降速度Vsが変化する。これにより、単位時間当たりに造形物OBに新たに積層される材料の高さが変化する。そのため、本実施形態の積層造形装置100では、算出された誤差L(t)に応じて造形物OBの形状精度をさらに向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態の移動制御部55は、誤差L(t)がゼロよりも大きい場合には、レーザヘッド10に対するステージ30の鉛直方向に沿う距離が広がる方向に速度を加速させる。一方で、移動制御部55は、誤差L(t)がゼロよりも小さい場合には、レーザヘッド10に対するステージ30の鉛直方向に沿う距離が狭まる方向に速度を減速させる。誤差L(t)がゼロよりも大きい状態は、基準位置Z0(t)よりも造形が余分に進んでいる状態である。逆に、誤差L(t)がゼロよりも小さい状態は、基準位置Z0(t)よりも造形が進んでいない状態である。いずれの状態でも、ステージ30の下降速度Vsを増加させる又は減少させることにより、時刻tにおける位置Z(t)を基準位置Z0(t)に近づけることができる。
【0058】
また、本実施形態の演算部56は、さらに、溶融部MPの幅として時刻tにおける位置Z(t)を通る水平方向の幅Dhs(t)を特定する。演算部56は、位置Z(t)から頂点TPまでの高さHho(t)と、を算出する。演算部56は、楕円半球の体積Vho(t)を、上記式(4)を用いて算出する。照射制御部52は、演算部56により算出された時刻tにおける幅Dhs(t)と楕円半球の体積Vho(t)とに応じて、レーザ光LSの出力強度を調整する。レーザ光LSの出力強度が変化すると、造形物OBの溶融部MPに積層される材料の積層量が変化する。本実施形態の積層造形装置100では、溶融部MPの体積としてみなす楕円半球の体積Vho(t)に応じて、溶融部MPにさらに積層される積層量が制御される。これにより、造形物OBの形状精度をさらに向上させることができる。
【0059】
また、本実施形態の照射制御部52は、時刻tにおける楕円半球の体積Vho(t)が精度上限の楕円半球の体積Vhsta_uよりも大きい場合に、レーザ光LSの出力強度を低下させる。また、照射制御部52は、時刻tにおける楕円半球の体積Vho(t)が精度下限の楕円半球の体積Vhsta_lよりも小さい場合に、レーザ光LSの出力強度
を上昇させる。体積Vho(t)が体積Vhsta_uよりも大きい状態は、溶融部MPが設計値よりも材料が余分に積層されている状態である。一方で、体積Vho(t)が体積Vhsta_lよりも小さい状態は、溶融部MPが設計値よりも材料が積層されずに不足している状態である。溶融部MPに積層される材料が多い又は少ない状態の場合に、レーザ光LSの出力強度が調整されることにより、溶融部MPの形状を設計値に近づけることができる。この結果、造形物OBの形状精度をさらに向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態の演算部56は、造形物OBの造形開始から溶融部MPの幅Dhs(t)が予め設定された設計値としての直径Dstaに達するまで、幅Dhs(t)や楕円半球の体積Vho(t)の値にかかわらず、ステージ30の下降速度Vsとレーザ光LSの出力強度を初期値から変更しない。本実施形態では、造形開始時の造形物OBの形状は不安定であるため、造形開始から溶融部MPの幅Dhs(t)が直径Dstaに達するまで一定の下降速度Vsの下、造形物OBの造形が行われる。これにより、誤差L(t)による微調整の影響に応じて造形される造形物OBの形状が不安定になることを抑制できる。
【0061】
また、本実施形態の演算部56は、溶融部MPの幅Dhs(t)が直径Dstaを超えた後に、所定回数(例えば、10Δt)の下降速度Vsおよびレーザ光LSの出力強度が補正されているにもかかわらず、幅Dhs(t+10Δt)が直径Dstaを下回らない場合、造形物OBの造形を中止させる(上記条件2)。造形開始後に幅Dhs(t)が直径Dstaに達した後、所定回数の補正が行われたにもかかわらず幅Dhs(t+10Δt)が直径Dstaを下回らない場合、幅Dhs(t)が増大し続けるおそれがある。この場合に、造形物OBの造形が中止されることにより、目標の形状と異なる造形物OBの造形を抑制できる。
【0062】
また、本実施形態の演算部56は、造形開始から閾値時間T2が経過しても溶融部MPの体積Vho(t)が下限の体積Vhsta_lに到達しない場合、造形物OBの造形を中止させる(上記条件1)。本実施形態では、造形開始時の造形物OBの形状は不安定である。そのため、閾値時間T2が経過しても、体積Vho(t)が下限の体積Vhsta_lを到達しない場合、溶融部MPがさらに小さくなるおそれがある。この場合に、造形物OBの造形が中止されることにより、目標の形状と異なる造形物OBの造形を抑制できる。
【0063】
また、本実施形態のカメラ40は、溶融部MPの撮影画像を取得する。そのため、本実施形態の積層造形装置100は、他の装置から溶融部MPの画像を取得せずに画像取得からステージ30の下降速度Vsの制御までを一貫して行うことができる。
【0064】
<上記実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0065】
[変形例1]
上記実施形態では、積層造形装置100の一例について説明したが、積層造形装置100が備える構成等については変形可能である。例えば、他の実施形態の積層造形装置は、カメラ40を備えていなくてもよい。この場合の積層造形装置は、他の装置が撮影した造形物OBの溶融部MPの画像を用いて、ステージ30等を制御してもよい。また、溶融部MPを撮影するカメラ40は、サーモグラフィであってもよい。サーモグラフィは、造形物OBのうち予め設定された温度以上の部分を溶融部MPとして特定してもよい。溶融部MPを撮影する画像取得部は、溶融部MPを特定できる範囲で周知の装置を採用できる。カメラ40の分解能は、0.1mm以下が好ましいが、溶融部MPを特定できる範囲で0
.1mmを超えていてもよい。
【0066】
ノズル20から供給される原料粉末は、金属製であってもよいし、その他の材質で構成されていてもよい。原料粉末に応じて、レーザ光LSの出力強度等が制御されてもよい。原料粉末とレーザ光LSとの組み合わせについては、周知の組み合わせを適用できる。上記実施形態では、レーザヘッド10とノズル20とに対してステージ30が三次元的に移動することにより、レーザヘッド10とノズル20とステージ30との相対位置が変化したが、相対位置を変化させる方法は、変形可能である。例えば、レーザヘッド10と、ノズル20と、ステージ30とのいずれもが移動可能に構成されていてもよい。レーザヘッド10に対するノズル20の位置は、例えば、造形される造形物OBの形状に応じて変化してもよい。
【0067】
上記実施形態では、形状取得部57が記憶部60から造形物OBの元となるCADデータを取得したが、造形物OBの形状についてのデータの取得方法は変形可能である。例えば、PC50は、記憶部60を備えておらず、無線通信により他の記憶装置等から造形する造形物OBのデータを取得してもよい。
【0068】
上記実施形態では、所定時刻Δtや精度の上下限について具体的な一例を挙げたが、これらの数値については、変形可能である。例えば、ユーザが入力部70を介して、自由な数字を入力してもよい。また、造形物OBの形状データに対して、所定時刻Δtおよび精度に関連付けられた所定の数値が存在してもよい。
【0069】
上記実施形態の溶融部MPは、造形物OBの反射率や造形物OBの先端部の動き等を用いて特定されたが、溶融部MPの特定方法については変形可能である。例えば、固まっていない溶融部MPは、液体特有の揺らぎを生じさせる。そのため、演算部56は、時系列に沿った造形物OBの撮影画像を用いて揺らぎを特定し、揺らぎが生じている部分を溶融部MPとして特定してもよい。この場合に、演算部56は、人工知能を用いた機械学習により生成された学習モデルを用いて、揺らぎの部分と溶融部MPとを特定してもよい。
【0070】
上記実施形態の演算部56は、誤差L(t)を用いてステージ30の下降速度Vsを制御したが、制御するパラメータについては変形可能である。例えば、誤差L(t)は、基準位置から溶融部MPの頂点TPまでの高さ方向の差の代わりに、基準位置から溶融部MPの位置Z(t)までの高さ方向の差であってもよい。また、誤差L(t)として、溶融部MPの別の位置と基準位置との差が用いられてもよい。演算部56は、ステージ30の下降加速度を制御してもよいし、下降速度Vsに合わせて水平方向に沿う速度や加速度を制御してもよい。
【0071】
上記実施形態では、造形物OBの溶融部MPの幅Dhs(t)が特定され、幅Dhs(t)を用いた制御が行われたが、幅Dhs(t)が特定されずに誤差L(t)のみで各制御が行われてもよい。上記実施形態では、上限および下限の許容精度から、基準となる上限の楕円半球の体積Vhsta_uと下限の楕円半球の体積Vhsta_uとのそれぞれが算出されたが、体積Vhsta_u,Vhsta_lの数値そのものが入力されてもよい。また、演算部56は、溶融部MPのうちの最大径を幅Dhs(t)として特定してもよい。幅Dhs(t)の特定に、機械学習により生成された学習モデルが用いられてもよい。
【0072】
[変形例2]
図11は、変形例の積層造形方法のフローチャートである。
図11に示される変形例の積層造形フローでは、ステップS21からステップS24までの各処理は、上記実施形態の積層造形フロー(
図9)におけるステップS1からステップS4までの各処理と同じで
ある。そのため、変形例では、ステップS25以降の処理について説明する。
【0073】
造形物OBの造形開始およびカメラ40の撮影開始が行われると(ステップS24)、演算部56は、造形開始から所定時刻Δtが経過したか否かを判定する(ステップS25)。所定時刻Δtが経過していない場合には(ステップS25:NO)、演算部56は、所定時刻Δtが経過するのを待機する。所定時刻Δtが経過した場合には(ステップS25:YES)、演算部56は、誤差L(t)を算出する(ステップS26)。
【0074】
算出された誤差L(t)がゼロではない場合には(ステップS27:NO)、移動制御部55は、演算部56の算出結果を用いて、ステージ30の下降速度Vsを変化させる(ステップS28)。下降速度Vsの変化後またはステップS27の処理において誤差L(t)がゼロであった場合には(ステップS27:YES)、演算部56は、造形物OBの造形が完了したか否かを判定する(ステップS29)。造形が完了していない場合には(ステップS29:NO)、ステップS25以降の処理が繰り返される。造形が完了した場合には(ステップS29:YES)、積層造形フローが終了する。なお、ステップS24の処理は、画像取得工程に相当する。ステップS25からステップS29までの処理は、造形工程に相当する。ステップS26の処理は、演算工程に相当する。ステップS28の処理は、位置制御工程に相当する。
【0075】
上記実施形態の積層造形フローと異なり、
図11に示される変形例の積層造形フローのように、造形開始後に溶融部MPの幅Dhs(t)が直径Dstaに達したか否かの判定が行われなくてもよい。また、上記実施形態の
図9,10におけるステップS9からステップS11まで処理であるレーザ光LSの出力強度が制御されなくてもよく、その後のステップS12の閾値時間T1を用いた判定が行われなくてもよい。一方で、ステップS9からステップS11までの処理におけるレーザ光LSの出力制御が行われ、その後のステップS11の閾値時間T1を用いた判定が行われなくてもよい。
【0076】
上記実施形態のステップS9からステップS11までの処理では、照射制御部52は、幅Dhs(t)と直径Dstaとの比較結果、および、体積Vho(t)と上下限の体積Vhsta_u,Vhsta_lとの比較結果に応じて、レーザ光LSの出力強度を制御したが、幅Dhs(t)と直径Dstaとの比較結果に応じて制御してもよい。具体的には、照射制御部52は、時刻tにおける楕円半球の体積Vho(t)が精度上限の楕円半球の体積Vhsta_uよりも大きい場合に、レーザ光LSの出力強度を低下させる。一方で、照射制御部52は、時刻tにおける楕円半球の体積Vho(t)が精度下限の楕円半球の体積Vhsta_lよりも小さい場合に、レーザ光LSの出力強度を上昇させてもよい。
【0077】
上記実施形態において、ハードウェアによって実現されるとした構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されるとした構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0078】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0079】
10…レーザヘッド(照射部)
20…ノズル(供給部)
30…ステージ
40…カメラ(画像取得部)
51…CPU
52…照射制御部(制御部)
55…移動制御部(制御部)
56…演算部(制御部)
57…形状取得部
60…記憶部
70…入力部
80…出力部
100…積層造形装置
C1,C2…曲線
Dhs(t)…時刻tにおける溶融部の幅
Dsta…直径
L(t)…時刻tにおける誤差
L1…変化直線
L2,L3,L4…破線
LS…レーザ光
MP…溶融部
TP…溶融部の頂点
OB…造形物
T1…閾値時間
Δt…所定時刻
Vs,Vc…下降速度(移動速度)
Vho(t)…時刻tにおける楕円半球の体積
Vhsta…楕円半球の体積
Vhsta_u…楕円半球の上限の体積
Vhsta_l…楕円半球の下限の体積
Z0(t)…基準位置
Z(t)…時刻tにおける溶融部の高さ位置