(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240528BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
H01G4/30 201F
H01G4/30 513
H01G4/30 516
H01G4/30 201G
H01F27/29 123
(21)【出願番号】P 2021166942
(22)【出願日】2021-10-11
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079577
【氏名又は名称】岡田 全啓
(74)【代理人】
【識別番号】100167966
【氏名又は名称】扇谷 一
(72)【発明者】
【氏名】板持 健
(72)【発明者】
【氏名】野村 善行
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-167010(JP,A)
【文献】特開平10-172809(JP,A)
【文献】特開2000-223354(JP,A)
【文献】特開2021-028967(JP,A)
【文献】特開平11-162771(JP,A)
【文献】特開平08-203770(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0074481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01F 27/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数のセラミック層を含み、高さ方向に相対する第1の主面および第2の主面と、前記高さ方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面と、前記高さ方向および前記幅方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面および第2の端面と、を有する積層体と、
前記複数のセラミック層上に配置され、前記第1の端面に露出する第1の内部電極層と、
前記複数のセラミック層上に配置され、前記第2の端面に露出する第2の内部電極層と、
前記第1の内部電極層と電気的に接続され、前記第1の端面上、前記第1の主面の一部、前記第2の主面の一部、前記第1の側面の一部および前記第2の側面の一部に配置される第1の外部電極と、
前記第2の内部電極層と電気的に接続され、前記第2の端面上、前記第1の主面の一部、前記第2の主面の一部、前記第1の側面の一部および前記第2の側面の一部に配置される第2の外部電極と、
を有する積層セラミックコンデンサにおいて、
前記第1の外部電極および前記第2の外部電極は、金属成分を含む下地電極層と、前記下地電極層上に配置されるめっき層とを有し、
少なくとも前記下地電極層の表面上に脂肪酸が存在している、積層セラミック
コンデンサ。
【請求項2】
前記第1の外部電極と前記第2の外部電極との間の前記積層体の表面において脂肪酸が存在している、請求項1に記載の積層セラミック
コンデンサ。
【請求項3】
前記脂肪酸は、少なくともパルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸のいずれかを1つを含む、請求項1または請求項2に記載の積層セラミック
コンデンサ。
【請求項4】
前記下地電極層上に存在する脂肪酸由来、または前記第1の外部電極および前記第2の外部電極と前記積層体との間であって、前記積層体の表面に存在する脂肪酸由来の二次イオン相対強度は、8.07×10
-5以上1.27×10
-3以下である、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の積層セラミック
コンデンサ。
【請求項5】
前記下地電極層上に存在する脂肪酸由来、または前記第1の外部電極および前記第2の外部電極と前記積層体との間であって、前記積層体の表面に存在する脂肪酸由来の炭素成分量は、74atom%以上82atom%以下である、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の積層セラミック
コンデンサ。
【請求項6】
前記下地電極層と前記めっき層との間には、金属成分と熱硬化性樹脂成分を有する導電性樹脂層が配置される、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の積層セラミック
コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層セラミックコンデンサに代表されるセラミック電子部品は、従来に比べてより過酷な環境下で使用されるようになってきている。例えば、携帯電話機、携帯音楽プレーヤーなどのモバイル機器に用いられる電子部品については、落下時の衝撃に耐えることが求められている。具体的には、落下衝撃を受けても、実装基板から電子部品が脱落しない、または電子部品にクラックが生じないようにする必要がある。
【0003】
また、ECU(Electronic Control Unit)などの車載機器に用いられる電子部品については、熱サイクルの衝撃に耐えることが求められている。具体的には、熱サイクルを受けて実装基板が熱膨張収縮することにより発生するたわみ応力を受けても、電子部品にクラックが生じないようにする必要がある。
【0004】
これを受けて、セラミック電子部品の外部電極に熱硬化性樹脂ペーストを用いることが提案されている。たとえば、特許文献1では、従来の電極層とNiめっき層との間に、エポキシ系熱硬化性樹脂層を形成し、厳しい環境下でもコンデンサ本体にクラックが入らないような対策を行っている(たわみ耐性の向上)。
【0005】
このような構成においては、落下時の衝撃による応力や、熱サイクルを受けて実装基板が熱膨張することにより発生するたわみ応力が発生した際、実装基板に伝わる応力(実装基板のゆがみ)を、エポキシ系熱硬化性樹脂の先端を起点として電極層とエポキシ系熱硬化性樹脂層との間で剥離させることで応力を逃がし、セラミック電子部品本体(積層体)にクラックが入ることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような構造においても、積層セラミックコンデンサの設計によっては、熱硬化性樹脂による応力の吸収もしくは剥離機能による応力緩和が不十分であり、セラミック電子部品本体にクラックが発生することが考えられる。
【0008】
それゆえに、この発明の主たる目的は、積層セラミックコンデンサへのクラックを効果的に抑制しうる積層セラミックコンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る積層セラミックコンデンサは、積層された複数のセラミック層を含み、高さ方向に相対する第1の主面および第2の主面と、高さ方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面と、高さ方向および幅方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面および第2の端面と、を有する積層体と、複数のセラミック層上に配置され、積層体の内部に位置する第1の内部電極層と、複数のセラミック層上に配置され、積層体の内部に位置する第2の内部電極層と、第1の端面上、第1の主面の一部、第2の主面の一部、第1の側面の一部および第2の側面の一部に配置された第1の外部電極と、第2の端面上、第1の主面の一部、第2の主面の一部、第1の側面の一部および第2の側面の一部に配置された第2の外部電極と、を有する積層セラミックコンデンサにおいて、第1の外部電極および第2の外部電極は、金属成分を含む下地電極層と、下地電極層上に配置されるめっき層とを有し、少なくとも下地電極層の表面上に脂肪酸が存在している、積層セラミックコンデンサである。
【0010】
この発明にかかる積層セラミックコンデンサでは、少なくとも下地電極層の表面上に脂肪酸が存在するので、脂肪酸のもつカルボキシ基がイオン化することで、イオン結合力により下地電極層に吸着し、吸着部において、下地電極層上に設けられるめっき層のめっきの析出が阻害され、下地電極層とめっき層との間の接合面積を減少させることができる。そのため、下地電極層とめっき層との密着力が低下するため、下地電極層とその上に形成されるめっき層との剥離を促進する効果を発揮する。
したがって、本発明にかかる積層セラミックコンデンサに落下時の衝撃や熱サイクルの衝撃が加わった際に、下地電極層とめっき層との間で安定して剥離させることが可能となり、応力を逃すことが可能となる。その結果、積層セラミックコンデンサにクラックが入ることを抑制することができる。
また、積層セラミックコンデンサにおいて、外部電極に導電性樹脂層が設けられていない場合、コストの削減につながるだけでなく、導電性樹脂層の厚み分の積層体の設計の自由度が増すため、高容量化を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、積層セラミックコンデンサへのクラックを効果的に抑制しうる積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【0012】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の実施の形態に係る積層セラミック電子部品としての積層セラミックコンデンサの一例を示す外観斜視図である。
【
図3】
図1の線III-IIIにおける断面図である。
【
図6】(a)この発明の実施の形態にかかる積層セラミックコンデンサの内部電極層の対向電極部が2つに分割された構造を示す
図1の線II-IIにおける断面図であり、(b)この発明にかかる積層セラミックコンデンサの内部電極層の対向電極部が3つに分割された構造を示す
図1の線II-IIにおける断面図であり、(c)この発明にかかる積層セラミックコンデンサの内部電極層の対向電極部が4つに分割された構造を示す
図1の線II-IIにおける断面図である。
【
図7】この発明の実施の形態に係る積層セラミック電子部品としての積層セラミックコンデンサに含まれる脂肪酸を検出するための方法を示す要部斜視図である。
【
図8】
図7の線VIII-VIIIにおける断面図である。
【
図9】この発明の実施の形態の変形例に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサであって、
図2に対応した断面図である。
【
図10】(A)は下地電極層上に位置する脂肪酸の厚みの測定方法を示した断面模式図であり、(B)は積層体の表面上の脂肪酸の厚みの測定方法を示した断面模式図である。
【
図11】この発明の実施の形態のさらなる変形例に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサであって、
図2に対応した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.積層セラミックコンデンサ
この発明の実施の形態にかかる積層セラミック電子部品の例として、積層セラミックコンデンサについて説明する。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態に係る積層セラミック電子部品としての積層セラミックコンデンサの一例を示す外観斜視図である。
図2は、
図1の線II-IIにおける断面図である。
図3は、
図1の線III-IIIにおける断面図である。
図4は、
図2の線IV-IVにおける断面図である。
図5は、
図2の線V-Vにおける断面図である。
【0016】
図1ないし
図3に示すように、積層セラミックコンデンサ10は、直方体状の積層体12と、積層体12の両端部に配置される外部電極30を含む。
【0017】
積層体12は、積層された複数のセラミック層14と、セラミック層14上に積層された複数の内部電極層16とを有する。さらに、積層体12は、高さ方向xに相対する第1の主面12aおよび第2の主面12bと、高さ方向xに直交する幅方向yに相対する第1の側面12cおよび第2の側面12dと、高さ方向xおよび幅方向yに直交する長さ方向zに相対する第1の端面12eおよび第2の端面12fとを有する。この積層体12には、角部および稜線部に丸みがつけられている。なお、角部とは、積層体の隣接する3面が交わる部分のことであり、稜線部とは、積層体の隣接する2面が交わる部分のことである。また、第1の主面12aおよび第2の主面12b、第1の側面12cおよび第2の側面12d、ならびに第1の端面12eおよび第2の端面12fの一部または全部に凹凸などが形成されていてもよい。セラミック層14と内部電極層16は、高さ方向xに積層される。
【0018】
積層体12は、単数もしくは複数枚のセラミック層14とそれらの上に配置される複数枚の内部電極層16から構成される内層部18を有する。内部電極層16は、第1の端面12eに引き出される第1の内部電極層16aと第2の端面12fに引き出される第2の内部電極層16bを有し、内層部18では、複数枚の第1の内部電極層16aおよび第2の内部電極16bがセラミック層14を介して対向している。
【0019】
積層体12は、第1の主面12a側に位置し、第1の主面12aと第1の主面12a側の内層部18の最表面とその最表面の一直線上との間に位置する複数のセラミック層14から形成される第1の主面側外層部20aを有する。
同様に、積層体12は、第2の主面12b側に位置し、第2の主面12bと第2の主面12b側の内層部18の最表面とその最表面の一直線上との間に位置する複数のセラミック層14から形成される第2の主面側外層部20bを有する。
【0020】
積層体12は、第1の側面12c側に位置し、第1の側面12cと第1の側面12c側の内層部18の最表面との間に位置する複数のセラミック層14から形成される第1の側面側外層部22aを有する。
同様に、積層体12は、第2の側面12d側に位置し、第2の側面12dと第2の側面12d側の内層部18の最表面との間に位置する複数のセラミック層14から形成される第2の側面側外層部22bを有する。
【0021】
積層体12は、第1の端面12e側に位置し、第1の端面12eと第1の端面12e側の内層部18の最表面との間に位置する複数のセラミック層14から形成される第1の端面側外層部24aを有する。
同様に、積層体12は、第2の端面12f側に位置し、第2の端面12fと第2の端面12f側の内層部18の最表面との間に位置する複数のセラミック層14から形成される第2の端面側外層部24bを有する。
【0022】
第1の主面側外層部20aは、積層体12の第1の主面12a側に位置し、第1の主面12aと第1の主面12aに最も近い内部電極層16との間に位置する複数枚のセラミック層14の集合体である。
第2の主面側外層部20bは、積層体12の第2の主面12b側に位置し、第2の主面12bと第2の主面12bに最も近い内部電極層16との間に位置する複数枚のセラミック層14の集合体である。
【0023】
積層体12の寸法は、特に限定されないが、長さ方向zの寸法が0.186mm以上9.59mm以下、幅方向yの寸法が0.086mm以上9.59mm以下、高さ方向xの寸法が0.086mm以上9.59mm以下であることが好ましい。
【0024】
セラミック層14は、たとえば、セラミック材料として、誘電体材料により形成することができる。このような誘電体材料としては、たとえば、BaTiO3、CaTiO3、SrTiO3、またはCaZrO3などの成分を含む誘電体セラミックを用いることができる。上記の誘電体材料を主成分として含む場合、所望する積層体12の特性に応じて、たとえば、Mn化合物、Fe化合物、Cr化合物、Co化合物、Ni化合物などの主成分よりも含有量の少ない副成分を添加したものを用いてもよい。
【0025】
なお、セラミック層14に、圧電体セラミック材料を用いた場合、積層セラミック電子部品は圧電部品として機能する。圧電体セラミック材料の具体例としては、たとえば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系セラミック材料などが挙げられる。
また、セラミック層14に、半導体セラミック材料を用いた場合、積層セラミック電子部品は、サーミスタとして機能する。半導体セラミック材料の具体例としては、たとえば、スピネル系セラミック材料などが挙げられる。
また、セラミック層14に、磁性体セラミック材料を用いた場合、積層セラミック電子部品は、インダクタとして機能する。また、インダクタとして機能する場合は、内部電極層16は、コイル状の導体となる。磁性体セラミック材料の具体例としては、たとえば、フェライトセラミック材料などが挙げられる。
【0026】
焼成後のセラミック層14の厚みは、0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。積層されるセラミック層14の枚数は、10枚以上700枚以下であることが好ましい。なお、このセラミック層14の枚数は、内層部18のセラミック層14の枚数と、第1の主面側外層部20aおよび第2の主面側外層部20bのセラミック層14の枚数との総数である。
【0027】
積層体12は、複数の内部電極層16として、たとえば略矩形状の複数の第1の内部電極層16aおよび複数の第2の内部電極層16bを有する。複数の第1の内部電極層16aおよび複数の第2の内部電極層16bは、積層体12の高さ方向xに沿ってセラミック層14を挟んで等間隔に交互に配置されるように埋設されている。
【0028】
図4に示すように、第1の内部電極層16aは、複数のセラミック層14上に配置され、積層体12の内部に位置している。第1の内部電極層16aは、第2の内部電極層16bと対向する第1の対向電極部26aと、第1の内部電極層16aの一端側に位置し、第1の対向電極部26aから積層体12の第1の端面12eまでの第1の引出電極部28aとを有する。第1の引出電極部28aは、その端部が第1の端面12eの表面に引き出され、積層体12から露出している。
【0029】
第1の内部電極層16aの第1の対向電極部26aの形状は、特に限定されないが平面視矩形状であることが好ましい。もっとも、平面視コーナー部を丸められていたり、コーナー部を平面視斜めに形成したりしてよい(テーパー状)。また、どちらかに向かうにつれて傾斜がついている平面視テーパー状であってもよい。
【0030】
第1の内部電極層16aの第1の引出電極部28aの形状は、特に限定されないが平面視矩形状であることが好ましい。もっとも、平面視コーナー部を丸められていたり、コーナー部を平面視斜めに形成したりしてよい(テーパー状)。また、どちらかに向かうにつれて傾斜がついている平面視テーパー状であってもよい。
【0031】
第1の内部電極層16aの第1の対向電極部26aの幅と、第1の内部電極層16aの第1の引出電極部28aの幅は、同じ幅で形成されていてもよく、どちらか一方の幅が狭く形成されていてもよい。
【0032】
図5に示すように、第2の内部電極層16bは、複数のセラミック層14上に配置され、積層体12の内部に位置している。第2の内部電極層16bは、第1の内部電極層16aと対向する第2の対向電極部26bと、第2の内部電極層16bの一端側に位置し、第2の対向電極部26bから積層体12の第2の端面12fまでの第2の引出電極部28bを有する。第2の引出電極部28bは、その端部が第2の端面12fの表面に引き出され、積層体12から露出している。
【0033】
第2の内部電極層16bの第2の対向電極部26bの形状は、特に限定されないが平面視矩形状であることが好ましい。もっとも、平面視コーナー部を丸められていたり、コーナー部を平面視斜めに形成したりしてよい(テーパー状)。また、どちらかに向かうにつれて傾斜がついている平面視テーパー状であってもよい。
【0034】
第2の内部電極層16bの第2の引出電極部28bの形状は、特に限定されないが平面視矩形状であることが好ましい。もっとも、平面視コーナー部を丸められていたり、コーナー部を平面視斜めに形成したりしてよい(テーパー状)。また、どちらかに向かうにつれて傾斜がついている平面視テーパー状であってもよい。
【0035】
第2の内部電極層16bの第2の対向電極層26bの幅と、第2の内部電極層16bの第2の引出電極部28bの幅は、同じ幅で形成されていてもよく、どちらか一方の幅が狭く形成されていてもよい。
【0036】
第1の内部電極層16aおよび第2の内部電極層16bは、たとえば、Ni、Cu、Ag、Pd、Auなどの金属や、Ag-Pd合金等の、それらの金属の少なくとも一種を含む合金などの適宜の導電材料により構成することができる。
【0037】
内部電極層16、すなわち第1の内部電極層16aおよび第2の内部電極層16bのそれぞれの厚みは、0.2μm以上2.0μm以下であることが好ましい。
また、第1の内部電極層16aおよび第2の内部電極層16bの枚数は、合わせて10枚以上700枚以下であることが好ましい。
【0038】
積層体12の第1の端面12e側および第2の端面12f側には、
図1ないし
図3に示されるように、外部電極30が配置される。
【0039】
外部電極30は、第1の外部電極30aおよび第2の外部電極30bを有する。
【0040】
第1の外部電極30aは、第1の内部電極層16aに接続され、少なくとも第1の端面12eの表面に配置されている。また、第1の外部電極30aは、積層体12の第1の端面12eから延伸して第1の主面12aの一部および第2の主面12bの一部、ならびに第1の側面12cの一部および第2の側面12dの一部にも配置される。この場合、第1の外部電極30aは、第1の内部電極層16aの第1の引出電極部28aと電気的に接続される。
【0041】
第2の外部電極30bは、第2の内部電極層16bに接続され、少なくとも第2の端面12fの表面に配置されている。また、第2の外部電極30bは、第2の端面12fから延伸して第1の主面12aの一部および第2の主面12bの一部、ならびに第1の側面12cの一部および第2の側面12dの一部にも配置される。この場合、第2の外部電極30bは、第2の内部電極層16bの第2の引出電極部28bと電気的に接続される。
【0042】
外部電極30は、金属成分を含む下地電極層32と、下地電極層32上に配置されるめっき層34とを含む。
第1の外部電極30aは、金属成分を含む第1の下地電極層32aと、第1の下地電極層32a上に配置される第1のめっき層34aとを有する。
第2の外部電極30bは、金属成分を含む第2の下地電極層32bと、第2の下地電極層32b上に配置される第2のめっき層34bとを含む。
【0043】
下地電極層32とめっき層34との間には、金属成分と熱硬化性樹脂成分とを有する導電性樹脂層36が配置されてもよい。これにより、積層セラミックコンデンサ10に対して落下時の極端に大きな衝撃や熱サイクルの衝撃が加わった場合であっても、後述する脂肪酸による電極の剥離だけでなく、導電性樹脂層36に含まれる樹脂成分による応力吸収機能および導電性樹脂層に含まれる樹脂成分における犠牲破壊の効果を得ることができ、より一層、本発明の効果を顕著なものにすることができる。
【0044】
積層体12内においては、第1の内部電極層16aの第1の対向電極部26aと第2の内部電極層16bの第2の対向電極部26bとがセラミック層14を介して対向することにより、静電容量が形成されている。そのため、第1の内部電極層16aが接続された第1の外部電極30aと第2の内部電極層16bが接続された第2の外部電極30bとの間に、静電容量を得ることができ、コンデンサの特性が発現する。
【0045】
なお、
図1に示す積層体12は、
図6に示されるように、第1の内部電極層16aおよび第2の内部電極層16bに加えて、第1の端面12eおよび第2の端面12fのどちらにも引き出されない浮き内部電極層16cが設けられており、浮き内部電極層16cによって、対向電極部26cが複数に分割された構造としてもよい。たとえば、
図6(a)に示される2連、
図6(b)に示される3連、
図6(c)に示されるような4連構造であり、4連以上の構造でもよいことは言うまでもない。このように、対向電極部26cを複数個に分割した構造とすることによって、対向する内部電極層16a、16b、16c間において複数のコンデンサ成分が形成され、これらのコンデンサ成分が直列に接続された構成となる。そのため、それぞれのコンデンサ成分に印加される電圧が低くなり、積層セラミックコンデンサ10の高耐圧化を図ることができる。
【0046】
下地電極層32は、第1の下地電極層32aおよび第2の下地電極層32bを有する。
【0047】
第1の下地電極層32aは、第1の内部電極層16aに接続され、第1の端面12eの表面に配置されている。また、第1の下地電極層32aは、第1の端面12eから延伸して第1の主面12aの一部および第2の主面12bの一部、ならびに第1の側面12cの一部および第2の側面12dの一部にも配置される。この場合、第1の下地電極層32aは、第1の内部電極層16aの第1の引出電極部28aと電気的に接続される。
【0048】
第2の下地電極層32bは、第2の内部電極層16bに接続され、第2の端面12fの表面に配置されている。また、第2の下地電極層32bは、第2の端面12fから延伸して第1の主面12aの一部および第2の主面12bの一部、ならびに第1の側面12cの一部および第2の側面12dの一部にも配置される。この場合、第2の下地電極層32bは、第2の内部電極層16bの第2の引出電極部28bと電気的に接続される。
【0049】
下地電極層32は、金属成分を含む。また、下地電極層32は、ガラス成分またはセラミック成分を含むことが好ましい。これにより、積層体12と下地電極層32との密着性を向上させることができる。なお、下地電極層32は、ガラス成分とセラミック成分の両方を含んでいてもよい。
【0050】
下地電極層32に含まれる金属成分は、たとえば、Cu、Ni、Ag、Pd、Ag-Pd合金、Au等から選ばれる少なくとも1つを含む。下地電極層32に含まれるガラス成分は、B、Si、Ba、Mg、Al、Li等から選ばれる少なくとも1つを含む。また、セラミック成分は、セラミック層14と同種のセラミック材料を用いてもよく、異なる種のセラミック材料を用いてもよい。セラミック成分は、例えば、BaTiO3、CaTiO3、(Ba,Ca)TiO3、SrTiO3、CaZrO3等から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0051】
下地電極層32は、複数層であってもよい。
【0052】
下地電極層32が、金属成分とガラス成分とを含む場合、下地電極層32は、ガラス成分および金属成分を含む導電性ペーストを積層体12に塗布して焼付けたものであり、内部電極層16およびセラミック層14と同時焼成したものでもよく、内部電極層16およびセラミック層14を焼成した後に、焼付けてもよい。なお、下地電極層32を、内部電極層16およびセラミック層14を同時に焼成する場合には、ガラス成分の代わりにセラミック材料を添加して下地電極層32を形成することが好ましい。
【0053】
第1の端面12eに位置する第1の下地電極層32aの高さ方向xの中央部における第1の端面12eおよび第2の端面12fを結ぶ長さ方向zの厚みは、たとえば、2μm以上220μm以下程度であることが好ましい。
第2の端面12fに位置する第2の下地電極層32bの高さ方向xの中央部における第1の端面12eおよび第2の端面12fを結ぶ長さ方向zの厚みは、たとえば、2μm以上220μm以下程度であることが好ましい。
【0054】
第1の主面12aおよび第2の主面12bの一部に位置する第1の下地電極層32aの第1の端面12eおよび第2の端面12fを結ぶ長さ方向zの中央部における第1の主面12aおよび第2の主面12bを結ぶ高さ方向xの厚みは、たとえば、4μm以上15μm以下程度であることが好ましい。
第1の主面12aおよび第2の主面12bの一部に位置する第2の下地電極層32bの第1の端面12eおよび第2の端面12fを結ぶ長さ方向zの中央部における第1の主面12aおよび第2の主面12bを結ぶ高さ方向xの厚みは、たとえば、4μm以上15μm以下程度であることが好ましい。
【0055】
第1の側面12cおよび第2の側面12dの一部に位置する第1の下地電極層32aの第1の端面12eおよび第2の端面12fを結ぶ長さ方向zの中央部における第1の側面12cおよび第2の側面12dを結ぶ幅方向yの厚みは、たとえば、4μm以上15μm以下程度であることが好ましい。
第1の側面12cおよび第2の側面12dの一部に位置する第2の下地電極層32bの第1の端面12eおよび第2の端面12fを結ぶ長さ方向zの中央部における第1の側面12cおよび第2の側面12dを結ぶ幅方向yの厚みは、たとえば、4μm以上15μm以下程度であることが好ましい。
【0056】
少なくとも下地電極層32の表面上に脂肪酸40が存在する。より具体的には、少なくとも第1の下地電極層32aの表面上および第2の下地電極層32bの表面上には脂肪酸40が存在する。これにより、脂肪酸のもつカルボキシ基がイオン化することで、イオン結合力により下地電極層32に吸着し、吸着部において、下地電極層32上に設けられるめっき層34のめっきの析出が阻害され、下地電極層32とめっき層34との間の接合面積を減少させることができる。そのため、下地電極層32とめっき層34との密着力が低下するため、下地電極層32とその上に形成されるめっき層34との剥離を促進する効果を発揮する。したがって、積層セラミックコンデンサ10に落下時の衝撃や熱サイクルの衝撃が加わった際に、下地電極層32とめっき層34との間で安定して剥離させることが可能となり、応力を逃すことができる。その結果、積層セラミックコンデンサ10の積層体12にクラックが入ることを抑制することができる。なお、本発明では、特許文献1のような熱硬化性樹脂層の厚み分の積層体12の設計自由度を向上させることができるため、積層セラミックコンデンサとして高容量化を実現することが可能となる。
【0057】
ここで、下地電極層32の表面上に脂肪酸40が存在しているという状態は、具体的には、下地電極層32の表面上に脂肪酸40が点在するように分布している状態を意味する。そして、下地電極層32の表面上に点在する脂肪酸40は、それぞれ独立した層として存在する。
【0058】
下地電極層32の表面の面積に対する脂肪酸40が存在している面積の割合は、外部電極30のそれぞれの面において、40%以上70%以下であることが好ましい。これにより、本発明の下地電極層32とめっき層34との間での剥離を促進することを確保しつつも、下地電極層32とめっき層34との間の密着も確保することができる。
【0059】
下地電極層32の表面の面積に対する脂肪酸40が存在している面積の割合は、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析計)を用いて算出することができる。具体的には、以下のようにして算出される。
すなわち、まず、
図7および
図8に示すように、積層セラミックコンデンサ10の第1の外部電極30aのみを半田110を用いて実装基板100に実装し、第2の外部電極30bが宙に浮いた状態にする。次に、宙に浮いた状態の第2の外部電極30bを、下面から高さ方向に押して実装基板100に実装した側の第1の外部電極30aにおいて、下地電極層32とめっき層34との間で剥離させる。なお、第2の外部電極30bを実装基板100に実装し、第1の外部電極30aを宙に浮いた状態としてもよい。
剥離させた下地電極層32の側面、すなわち、実装基板100のランド電極102に実装されていた下地電極層32の全体に対し、加速電圧25kVで一次イオン(Bi
3
++)を照射し、脂肪酸40に対応する二次イオンの検出を確認する。ここで、脂肪酸40に対応する二次イオンとは、例えばパルミチン酸ならばC
16H
29O
2
-、オレイン酸ならばC
18H
33O
2
-などが挙げられる。そして、これらのマッピング像を取得し、脂肪酸40に対応する二次イオンが検出された領域の面積率を、たとえば、画像解析ソフトによって2値化し、面積率を算出する。画像解析ソフトは、たとえば、imageJ等を使用することができる。
【0060】
また、脂肪酸の検出方法としては、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析計)を用いる。
すなわち、まず、
図7および
図8に示すように、積層セラミックコンデンサ10の第1の外部電極30aのみを半田110を用いて実装基板100に実装し、第2の外部電極30bが宙に浮いた状態にする。次に、宙に浮いた状態の第2の外部電極30bを、下面から高さ方向に押して実装基板100に実装した側の第1の外部電極30aにおいて、下地電極層32とめっき層34との間で剥離させる。なお、第2の外部電極30bを実装基板100に実装し、第1の外部電極30aを宙に浮いた状態としてもよい。
そして、露出した下地電極層32上のランド電極102に実装していた面の全体において、加速電圧25kVで一次イオン(Bi
3
++)を照射し、脂肪酸40に対応する二次イオンの検出を確認する。ここで、脂肪酸40に対応する二次イオンとは、例えばパルミチン酸ならばC
16H
29O
2
-、オレイン酸ならばC
18H
33O
2
-などが挙げられる。また、脂肪酸40に対応する二次イオンが検出された場合、脂肪酸40が存在していると判断する。
【0061】
なお、脂肪酸40は、
図9に示すように、第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面においても存在していることが好ましい。より具体的には、第1の主面12aと第2の主面12bおよび第1の側面12cと第2の側面12dのうちの少なくともいずれか一方の表面に位置するめっき層34の先端部38が脂肪酸40の表面に接触するように積層体12の表面において存在し、かつ脂肪酸40は、第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面において存在することが好ましい。これにより、積層体12とめっき層34との間でクッションの役割を果たし、めっき層34と積層体12の表面との間において、密着しない領域を作ることができ、めっき層34の先端部38が積層体12の表面から浮いた状態となり、剥離のきっかけを作ることができる。よって、下地電極層32とめっき層34との間の剥離をより安定して促進させることができる。
【0062】
脂肪酸40は、特に限定されず、酪酸、吉草酸、カプロン酸など1分子あたりの炭素数が少ないもの(この例では炭素6個以下)、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸など1分子あたりの炭素数が多いもの(この例では26個以上)に関わらず、下地電極層32とめっき層34との間の剥離の効果が得られる。一方で、炭素数が少ないほど分子の長さが短くなるため、脂肪酸40の厚みが薄くなり、剥離の効果が得られにくい。また、炭素数が多いほど、脂肪酸の分子同士が絡み合うため、膜が連続的になりやすく、脂肪酸40の形成時に、
図2に示したような点在状態を形成しづらい。一定以上の剥離効果を得つつ下地電極層32とめっき層34との間に結合安定性を確保するためには、脂肪酸の中でも特に、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸のように1分子あたりの炭素数が15個程度であるものが好ましい。
【0063】
下地電極層32上または第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面における二次イオン相対強度は、8.07×10-5以上1.27×10-3以下であることが好ましい。これにより、脂肪酸40による下地電極層32とめっき層34との間の密着阻害効果が顕著になり、剥離が発生しやすくなるため基板曲げ強度向上の効果を得ることができる。
【0064】
なお、下地電極層32上の表面における脂肪酸40由来の二次イオン相対強度は、脂肪酸40由来の強度を測定している。
また、第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面における二次イオン相対強度は、脂肪酸40由来の強度を測定している。
【0065】
下地電極層32上の表面における二次イオン相対強度の測定方法は、以下の方法で測定することができる。
すなわち、まず、
図7および
図8に示すように、積層セラミックコンデンサの第1の外部電極30aのみを半田110を用いて実装基板100に実装し、第2の外部電極30bが宙に浮いた状態にする。次に、宙に浮いた状態の第2の外部電極30bを、下面から高さ方向に押して実装基板100に実装した側の第1の外部電極30aにおいて、下地電極層32とめっき層34との間で剥離させる。なお、第2の外部電極30bを実装基板100に実装し、第1の外部電極30aを宙に浮いた状態としてもよい。
そして、露出した下地電極層32上のランド電極102に実装していた面の全体において、加速電圧25kVで一次イオン(Bi
3
++)を照射し、脂肪酸に対応する二次イオンの検出を確認する。ここで、脂肪酸に対応する二次イオンとは、例えばパルミチン酸ならばC
16H
29O
2
-、オレイン酸ならばC
18H
33O
2
-などが挙げられる。ここで検出された全二次イオン強度の総和に対する脂肪酸由来の二次イオン強度から相対強度を求める。
【0066】
第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面における二次イオン相対強度は、以下の方法で測定することができる。
すなわち、まず、積層セラミックコンデンサの第1の主面と、第2の主面と、第1の側面と、第2の側面の中央部の4か所において、加速電圧25kVで一次イオン(Bi3
++)を照射し、脂肪酸に対応する二次イオンの検出を確認する。ここで、脂肪酸に対応する二次イオンとは、例えばパルミチン酸ならばC16H29O2
-、オレイン酸ならばC18H33O2
-などが挙げられる。ここで検出された全二次イオン強度の総和に対する脂肪酸由来の二次イオン強度から相対強度を求める。最後に4か所の平均値を取り、積層体12の表面における二次イオン相対強度とする。
【0067】
下地電極層上の表面における炭素成分量は、74atom%以上82atom%以下であることが好ましい。また、同様に、第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面における炭素成分量は、74atom%以上82atom%以下であることが好ましい。これにより、めっき層34と接合する金属部分の露出量が十分に抑制可能となり、下地電極層32とめっき層34との密着領域を減少させることができる。そのため、下地電極層32とめっき層34との密着力が低下するため下地電極層32とその上に形成されるめっき層34との剥離を促進する効果を十分に発揮することができる。
【0068】
下地電極層32上の表面における脂肪酸40由来の炭素成分量は、以下の方法で測定することができる。
すなわち、定量化にはXPS(X線光電子分光法)を用いる。そして、
図7および
図8に示すように、積層セラミックコンデンサ10の第1の外部電極30aのみ半田110を用いて実装基板100に実装し、第2の外部電極30bが宙に浮いた状態にする。次に、宙に浮いた状態の第2の外部電極30bを、下面から高さ方向に押して実装基板100に実装した側の一方の外部電極30において、下地電極層32とめっき層34との間で剥離させる。なお、第2の外部電極30bを実装基板100に実装し、第1の外部電極30aを宙に浮いた状態としてもよい。
そして、露出した下地電極層32上のランド電極102に実装していた面の全体においてX線を照射する。この際の熱電子の加速電圧は15kVとする。ワイドスキャンで全元素の定性分析を実施した後、全元素の存在比(atom%)をナロースキャンで定量化し、下地電極層32上の表面における脂肪酸40由来の炭素成分量を算出することができる。
【0069】
第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面における脂肪酸40由来の炭素成分量は、以下の方法で測定することができる。
すなわち、定量化にはXPS(X線光電子分光法)を用いる。そして、積層セラミックコンデンサ10の第1の主面12aと、第2の主面12bと、第1の側面12cと、第2の側面12dの中央部の4か所において、15kVで加速したX線を照射する。ワイドスキャンで全元素の定性分析を実施した後、全元素の存在比(atom%)をナロースキャンで定量化し、下地電極層32上、または第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面における脂肪酸40由来の炭素成分量を算出することができる。最後に4か所の平均値をとり、積層体12の表面における炭素成分量とする。
【0070】
下地電極層32の表面上や積層体12の表面上に点在して存在している脂肪酸のそれぞれの層の厚みは、10nm以上500nm以下であることが好ましい。より好ましくは、50nm以上200nm以下であることが好ましい。さらにより好ましくは、60nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0071】
脂肪酸40の厚みの測定は、積層セラミックコンデンサ10の断面から走査電子顕微鏡(SEM)像解析によって行う。
【0072】
下地電極層32上に位置する脂肪酸40の厚みの測定方法として、具体的には、以下のようにして行う。
図10(A)は下地電極層上に位置する脂肪酸の厚みの測定方法を示した断面模式図である。
すなわち、
図10(A)に示すように、積層セラミックコンデンサ10の第1の主面12a上に位置するどちらか一方の外部電極30の中央部、第2の主面12b上に位置するどちらか一方の外部電極30の中央部、第1の側面12c上に位置するどちらか一方の外部電極30の中央部、第2の側面12d上に位置するどちらか一方の外部電極30の中央部の4箇所に対し、収束イオンビーム(FIB)装置を用いて、測定する面に対し、45度の角度で切削を行う。下地電極層32とめっき層34との間の断面が確認できる深さまで加工を行った後、SEM像の取得を行う。1万倍の倍率で二次電子像(5kV)を取得する。なお、
図10(A)では、第1の主面12a上に位置する第1の外部電極30aの中央部を示す。ここで、それぞれの4箇所において、下地電極層32とめっき層34との界面に存在する脂肪酸40において、めっき層34と脂肪酸40との境界の点a
1と、下地電極層32と脂肪酸40との界面の点b
1をとり、2つの点の厚み方向の距離を測定することで、脂肪酸40の厚みを測定する。最後に平均値をとり、脂肪酸40の厚みとする。
【0073】
次に、積層体12の表面上の脂肪酸40の厚みの測定方法として、具体的には、以下のようにして行う。(B)は積層体の表面上の脂肪酸の厚みの測定方法を示した断面模式図である。
すなわち、
図10(B)に示すように、積層セラミックコンデンサ10の全面に対して、スパッタ装置を用いてAuコーティングを行い、Auコーティング層50を形成する。まず、放電電流30mAで5分間スパッタを行った後、積層セラミックコンデンサ10の第1の主面12aと、第2の主面12bと、第1の側面12cと、第2の側面12dの中央部の4か所において、収束イオンビーム(FIB)装置を用いて、測定する面に対し、45度の角度で切削を行う。スパッタしたAuコーティング層50と、積層体12の表面との間に断面が確認できる深さまで加工を行った後、SEM像の取得を行う。1万倍の倍率で二次電子像(5kV)を取得する。なお、
図10(B)では、積層体12の第1の主面12aの中央部を示す。ここで、それぞれの4か所において、Auコーティング層50と脂肪酸40との界面の点a
2と、積層体12の表面と脂肪酸40との界面の点b
2とを取り、2つの点の厚み方向の距離を測定することで、脂肪酸40の厚みを測定する。最後に平均値を取り、脂肪酸40の厚みとする。
【0074】
また、下地電極層32上に配置される脂肪酸40由来の炭素成分量と、第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面に配置される脂肪酸40由来の炭素成分量は、異なっていてもよい。その場合、下地電極層32上に配置される脂肪酸40由来の炭素成分量が、第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面に配置される脂肪酸40由来の炭素成分量よりも多いことが好ましい。これにより、下地電極層32とその上に形成されるめっき層34との剥離のきっかけを生じやすくすることができる。
【0075】
同様に、下地電極層32上に配置される脂肪酸40由来の二次イオン相対強度と、第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面に配置される脂肪酸40由来の二次イオン相対強度は、異なっていてもよい。その場合、下地電極層32上に配置される脂肪酸40由来の二次イオン相対強度は、第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面の脂肪酸40由来の二次イオン相対強度よりも大きいことが好ましい。
【0076】
また、
図11に示すように、下地電極層32上には、下地電極層32上に配置される樹脂成分および金属成分を含む導電性樹脂層36を設けてもよい。これにより、積層セラミックコンデンサ10に極端に大きな落下時の衝撃や熱サイクルの衝撃が加わった場合であっても、脂肪酸40による電極の剥離だけでなく、導電性樹脂層36に含まれる樹脂成分による応力吸収機能および導電性樹脂層36に含まれる樹脂成分における犠牲破壊の効果を得ることができ、より一層本発明の効果を顕著なものにすることができる。
【0077】
導電性樹脂層36は、第1の導電性樹脂層36aと第2の導電性樹脂層36bとを有している。
第1の導電性樹脂層36aは、第1の下地電極層32a上に配置されている、なお、第1の導電性樹脂層36aは、第1の下地電極層32aを覆うように配置されており、第1の導電性樹脂層36aの端部は積層体12に接触していることが好ましい。
第2の導電性樹脂層36bは、第2の下地電極層32b上に配置されている、なお、第2の導電性樹脂層36bは、第2の下地電極層32bを覆うように配置されており、第2の導電性樹脂層36bの端部は積層体12に接触していることが好ましい。
【0078】
導電性樹脂層36は、樹脂成分である熱硬化性樹脂を含むため、例えば、めっき膜や金属成分とガラス成分の焼成物からなる下地電極層32よりも柔軟性に富んでいる。このため、実装基板にたわみ応力が加わり積層セラミックコンデンサ10に物理的な衝撃や熱サイクルに起因する衝撃が加わった場合であっても、導電性樹脂層36が緩衝層として機能し、積層セラミックコンデンサ10に対してクラックが発生することを防止することができる。
【0079】
導電性樹脂層36の熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などの公知の種々の熱硬化性樹脂を使用することができる。その中でも、耐熱性、耐湿性、密着性などに優れたエポキシ樹脂は最も適切な樹脂の一つである。
また、導電性樹脂層36には、熱硬化性樹脂とともに、硬化剤を含むことが好ましい。硬化剤としては、ベース樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、エポキシ樹脂の硬化剤としては、フェノール系、アミン系、酸無水物系、イミダゾール系、活性エステル系、アミドイミド系など公知の種々の化合物を使用することができる。
【0080】
導電性樹脂層36に含まれる金属成分としては、金属フィラーであることが好ましく、Agを含むことが好ましい。Ag単体であってもよいし、Agを含む合金や、金属粉の表面にAgコーティングされた金属粉を使用することもできる。金属粉の表面にAgコーティングされたものを使用する際には金属粉としてCu、Ni、Sn、Bi又はそれらの合金粉を用いることが好ましい。金属フィラーにAgを用いる理由としては、Agは金属の中でもっとも比抵抗が低いため電極材料に適しており、Agは貴金属であるため酸化せず耐候性が高いためである。また、上記のAgの特性は保ちつつ、母材の金属を安価なものにすることが可能になるためである。
【0081】
導電性樹脂層36に含まれる金属フィラーの形状は、特に限定されない。金属フィラーは、球状、扁平状等であってもよい。また、球形状金属粉と扁平状金属粉とを混合されていてもよい。
【0082】
導電性樹脂層36に含まれる金属フィラーの平均粒径は、特に限定されない。金属フィラーの平均粒径は、例えば、0.3μm以上10μm以下程度であってもよい。
【0083】
導電性樹脂層36に含まれる金属フィラーの平均粒径の測定方法は、フィラーの形状によらず、ISO13320に基づくレザー回折粒度測定法を用いることで算出することができる。
【0084】
導電性樹脂層36に含まれる金属フィラーは、主に導電性樹脂層36の通電性を担う。具体的には、金属フィラーどうしが接触することにより、導電性樹脂層36の内部に通電経路が形成される。
【0085】
導電性樹脂層36の厚みは、例えば、10μm以上200μm以下程度であることが好ましい。
【0086】
なお、下地電極層32上に導電性樹脂層36が設けられる場合でも、脂肪酸40は、第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面において存在していてもよい。より具体的には、第1の主面12aと第2の主面12bおよび第1の側面12cと第2の側面12dのうちの少なくともいずれか一方の表面に位置するめっき層34の先端部38が脂肪酸40の表面に接触するように積層体12の表面において存在し、かつ脂肪酸40は、第1の外部電極30aと第2の外部電極30bとの間の積層体12の表面において存在していてもよい。
【0087】
続いて、下地電極層32の上に配置されるめっき層34である第1のめっき層34a及び第2のめっき層34bについて、
図2及び
図3を参照して説明する。
第1のめっき層34a及び第2のめっき層34bとしては、例えば、Cu、Ni、Sn、Ag、Pd、Ag-Pd合金、Au等から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0088】
第1のめっき層34aは、第1の下地電極層32aを覆うように配置されている。
第2のめっき層34bは、第2の下地電極層32bを覆うように配置されている。
【0089】
第1のめっき層34a及び第2のめっき層34bは、複数層により形成されていてもよい。この場合、めっき層34は、下地電極層32上に形成されるNiめっきによる下層めっき層(Niめっき層)と、下層めっき層上に形成されるSnめっきによる上層めっき層(Snめっき層)の2層構造であることが好ましい。
すなわち、第1のめっき層34aは、第1の下層めっき層と、第1の下層めっき層の表面に位置する第1の上層めっき層とを有する。
また、第2のめっき層34bは、第2の下層めっき層と、第2の下層めっき層の表面に位置する第2の上層めっき層とを有する。
【0090】
Niめっきによる下層めっき層は、下地電極層32が積層セラミックコンデンサ10を実装する際のはんだによって侵食されることを防止するために用いられ、Snめっきによる上層めっき層は、積層セラミックコンデンサ10を実装する際の半田の濡れ性を向上させて、容易に実装することができるようにするために用いられる。
めっき層一層あたりの厚みは、2.0μm以上、15.0μm以下であることが好ましい。
【0091】
なお、下地電極層32上に導電性樹脂層36が形成される場合は、めっき層34は導電性樹脂層36を覆うように配置される。
【0092】
積層体12、第1の外部電極30aおよび第2の外部電極30bを含む積層セラミックコンデンサ10の長さ方向zの寸法をL寸法とし、積層体12、第1の外部電極30aおよび第2の外部電極30bを含む積層セラミックコンデンサ10の高さ方向xの寸法をT寸法とし、積層体12、第1の外部電極30aおよび第2の外部電極30bを含む積層セラミックコンデンサ10の幅方向yの寸法をW寸法とする。
積層セラミックコンデンサ10の寸法は、長さ方向zのL寸法が0.2mm以上10.0mm以下、幅方向yのW寸法が0.1mm以上10.0mm以下、高さ方向xのT寸法が0.1mm以上10.0mm以下である。また、積層セラミックコンデンサ10の寸法は、マイクロスコープにより測定することができる。
【0093】
図1に示す積層セラミックコンデンサ10は、少なくとも第1の下地電極層32aの表面上および第2の下地電極層32bの表面上には脂肪酸40が存在するので、脂肪酸のもつカルボキシ基がイオン化することで、イオン結合力により下地電極層32に吸着し、吸着部において、下地電極層32上に設けられるめっき層34のめっきの析出が阻害され、下地電極層32とめっき層34との間の接合面積を減少させることができる。そのため、下地電極層32とめっき層34との密着力が低下するため、下地電極層32とその上に形成されるめっき層34との剥離を促進する効果を発揮する。
したがって、積層セラミックコンデンサ10に落下時の衝撃や熱サイクルの衝撃が加わった際に、下地電極層32とめっき層34との間で安定して剥離させることが可能となり、応力を逃すことが可能となる。その結果、積層セラミックコンデンサ10の積層体12にクラックが入ることを抑制することができる。
【0094】
また、
図1に示す積層セラミックコンデンサ10において、外部電極30に導電性樹脂層36が設けられていない場合、コストの削減につながるだけでなく、導電性樹脂層36の厚み分の積層体12の設計の自由度が増すため、高容量化を実現することが可能となる。
【0095】
2.積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。
【0096】
まず、セラミック層用の誘電体シートおよび内部電極層用の導電性ペーストが準備される。誘電体シートおよび内部電極層用の導電性ペーストは、バインダおよび溶剤を含む。バインダおよび溶剤は、公知のものであってよい。
【0097】
そして、誘電体シート上に、内部電極層用の導電性ペーストが、たとえば、スクリーン印刷やグラビア印刷などにより所定のパターンで印刷される。これにより、第1の内部電極層のパターンが形成された誘電体シート、および第2の内部電極層のパターンが形成された誘電体シートが準備される。
【0098】
また、誘電体シートに関しては、内部電極層のパターンが印刷されていない外層用の誘電体シートも準備される。
【0099】
続いて、内部電極層のパターンが印刷されていない外層用の誘電体シートが所定枚数積層されることにより、第2の主面側の第2の主面側外層部となる部分が形成される。そして、第2の主面側外層部となる部分の上に第1の内部電極層のパターンが印刷された誘電体シート、および第2の内部電極層のパターンが印刷された誘電体シートを本発明の構造となるように順次積層されることにより、内層部となる部分が形成される。この内層部となる部分の上に、内部電極層のパターンが印刷されてない外層用の誘電体シートが所定枚数積層されることにより、第1の主面側の第1の主面側外層部となる部分が形成される。
【0100】
次に、積層シートが静水圧プレスなどの手段により積層方向にプレスされることにより、積層ブロックが作製される。
【0101】
そして、積層ブロックを所定のサイズにカットされることにより、積層チップが切り出される。このとき、バレル研磨などにより積層チップの角部および稜線部に丸みをつけてもよい。
【0102】
次に、積層チップが焼成されることにより、積層体12が作製される。焼成温度は、誘電体であるセラミック層や内部電極層の材料にもよるが、900℃以上1400℃以下であることが好ましい。
【0103】
つづけて、積層体の第1の端面および第2の端面に下地電極層となる導電性ペーストを塗布し、下地電極層を形成する。下地電極層として焼付け層を形成する場合には、ガラス成分と金属とを含む導電性ペーストを例えばディッピングなどの方法により、塗布し、その後、焼付け処理を行い、下地電極層が形成される。この時の焼付け処理の温度は、700℃以上950℃以下であることが好ましい。
【0104】
また、下地電極層を焼付け層で形成する場合は、焼き付け層はセラミック成分を含有させてもよい。この場合、ガラス成分の代わりにセラミック成分を含有させてもよいし、その両方を含有させてもよい。
【0105】
セラミック成分は、例えば、積層体と同種のセラミック材料であることが好ましい。なお、焼付け層にセラミック成分を含ませる場合には、焼成前の積層チップに対して、導電性ペーストを塗布し、焼成前の積層チップと焼成前の積層チップに塗布された導電性ペーストを同時に焼付けて(焼成して)、焼付け層が形成された積層体を形成することが好ましい。この時の焼付け処理の温度(焼成温度)は、900℃以上1400℃以下であることが好ましい。
【0106】
次に、下地電極層上に脂肪酸が点在する層を形成する。下地電極層上に脂肪酸が点在する層を形成する方法としては、脂肪酸を有機溶媒で希釈し溶液浸漬して形成することができる。具体的には、例えば、オレイン酸をIPA(2-プロパノール)で希釈した溶液を作成する。下地電極層を形成した積層体を網かごに入れ、溶液に所定時間(例えば5分)浸漬する。その後、網かごを溶液から取り出して所定時間(例えば30秒間)液切りし、下地電極層を形成した積層体をろ紙上に広げ、150℃のオーブンで所定時間(例えば30分)熱処理することで脂肪酸を硬化させる。
【0107】
また、脂肪酸を有機溶媒で希釈し溶液を作成した後、下地電極層を形成した積層体に、溶液を塗布し熱硬化することで形成することもできる。ここで、溶液を塗布する方法としては、ディッピング、スプレーなどで行うことができる。
【0108】
なお、脂肪酸の二次イオン相対強度や炭素成分量、下地電極層上に対する脂肪酸が存在している面積の割合、脂肪酸の厚みは、溶液濃度や、塗布方法、塗布時間、塗布時の温度をコントロールすることで制御することができる。
【0109】
(導電性樹脂層を設ける場合)
なお、外部電極において導電性樹脂層を設ける場合は、以下のようにして形成される。
導電性樹脂層は、下地電極層上に形成される。
導電性樹脂層の形成方法としては、樹脂成分と金属成分を含む導電性樹脂ペーストを準備し、下地電極層上にディッピング工法を用いて塗布する。その後、200℃以上550℃以下の温度で熱処理を行い、樹脂を熱硬化させ、導電性電極層が形成される。
この時の熱処理時の雰囲気は、N2雰囲気であることが好ましい。
また、樹脂の飛散を防ぎ、かつ、各種金属成分の酸化を防ぐため、酸素濃度は100ppm以下に抑えることが好ましい。
【0110】
次に、下地電極層の表面にめっき層が形成される。より詳細には、下地電極層上に、Niめっき層およびNiめっき層上にSnめっき層が形成される。めっき処理を行うにあたっては、電解めっき、無電解めっきのどちらを採用してもよい。但し、無電解めっきはめっき析出速度を向上させるために、触媒などによる前処理が必要となり、工程が複雑化するというデメリットがある。したがって、通常は、電解めっきを採用することが好ましい。なお、導電性樹脂層が形成された場合は、導電性樹脂層の表面にめっき層が形成される。
【0111】
上述のようにして、本実施の形態にかかる積層セラミックコンデンサ10が製造される。
【0112】
3.実験例
上述した製造方法にしたがって、積層セラミック電子部品として、試料である積層セラミックコンデンサを作製し、脂肪酸を形成した効果を評価するために、たわみ強度試験を行い、積層体内へのクラックの有無を確認することにより評価を行った。
【0113】
(a)実施例1の試料の仕様
実施例1として、以下の仕様の積層セラミックコンデンサを準備した。
すなわち、実施例1の積層セラミックコンデンサは、
図2に示すように下地電極層上に脂肪酸を存在させ、その脂肪酸を含めて下地電極層を覆うようにNiめっき層を形成し、さらにNiめっき層の上にSnめっき層を形成した積層セラミックコンデンサの試料を準備した。
【0114】
・積層セラミックコンデンサの寸法(設計値):L×W×T=1.0mm×0.5mm×0.5mm
・セラミック層の主成分の材料:BaTiO3
・容量:10nF
・内部電極層の材料:Ni
・外部電極層の仕様
・下地電極層の仕様
・下地電極層:金属成分とガラス成分を含む焼付け層
・金属成分:Cu
・下地電極層の厚み
・1/2W位置の積層体の断面における第1の端面および第2の端面に位置する下地電極層の高さ方向xの中央部における長さ方向zの厚み:28μm
・1/2W位置の積層体の断面における第1の主面および第2の主面に位置する下地電極層の長さ方向zの中央部における第1の主面および第2の主面を結ぶ高さ方向xの厚み(e寸中央部部分の下地電極層の厚み):10μm
・1/2T位置の積層体の断面における第1の側面および第2の側面に位置する下地電極層の長さ方向zの中央部における第1の側面および第2の側面を結ぶ幅方向yの厚み(e寸中央部部分の下地電極層の厚み):10μm
・脂肪酸の仕様:オレイン酸を2-プロパノールで希釈し、下地電極層の部分のみ5分間浸漬後、アルミバット上にチップを広げオーブン(150℃で30分)中で硬化させた。
・下地電極層の表面の面積に対する脂肪酸が存在している面積の割合:55%(すべての面において設計上同様となるようにした。)
・二次イオン相対強度:6.75×10-4
・炭素成分量:80atom%
・脂肪酸を設けた位置:下地電極層上の表面のみ
・めっき層の仕様:2層で形成し、脂肪酸が配置された下地電極層上にNiめっき層、Niめっき層上にSnめっき層を形成した。
・Niめっき層の厚み:3.5μm
・Snめっき層の厚み:3.0μm
【0115】
(b)実施例2の試料の仕様
実施例2として、以下の仕様の積層セラミックコンデンサを準備した。
すなわち、実施例2の積層セラミックコンデンサは、
図9に示すように、下地電極層上だけでなく、第1の外部電極と第2の外部電極との間の積層体の表面、より具体的には、第1の主面と第2の主面および第1の側面と第2の側面の表面に位置するめっき層の先端部が脂肪酸の表面に接触するように積層体の表面に脂肪酸を存在させ、かつ、第1の外部電極および第2の外部電極との間の積層体の表面に脂肪酸を存在させ、その脂肪酸を含めて下地電極層を覆うように該めっき層であるNiめっき層を形成し、さらにNiめっき層の上にSnめっき層を形成した積層セラミックコンデンサの試料を準備した。
【0116】
・積層セラミックコンデンサの寸法(設計値):L×W×T=1.0mm×0.5mm×0.5mm
・セラミック層の主成分の材料:BaTiO3
・容量:10nF
・内部電極層の材料:Ni
・外部電極層の仕様
・下地電極層の仕様
・下地電極層:金属成分とガラス成分を含む焼付け層
・金属成分:Cu
・下地電極層の厚み
・1/2W位置の積層体の断面における第1の端面および第2の端面に位置する下地電極層の高さ方向xの中央部における長さ方向zの厚み:28μm
・1/2W位置の積層体の断面における第1の主面および第2の主面に位置する下地電極層の長さ方向zの中央部における第1の主面および第2の主面を結ぶ高さ方向xの厚み(e寸中央部部分の下地電極層の厚み):10μm
・1/2T位置の積層体の断面における第1の側面および第2の側面に位置する下地電極層の長さ方向zの中央部における第1の側面および第2の側面を結ぶ幅方向yの厚み(e寸中央部部分の下地電極層の厚み):10μm
・脂肪酸の仕様:オレイン酸を2-プロパノールで希釈し、下地電極層を形成した積層体全体を5分間浸漬後、アルミバット上にチップを広げオーブン(150℃で30分)中で硬化させた。
・下地電極層の表面の面積に対する脂肪酸が存在している面積の割合:55%(すべての面において設計上同様となるようにした。)
・二次イオン相対強度:6.75×10-4
・炭素成分量:80atom%
・脂肪酸を設けた位置:下地電極層上と各外部電極間の積層体の表面
・めっき層の仕様:2層で形成し、脂肪酸が配置された下地電極層上にNiめっき層、Niめっき層上にSnめっき層を形成した。
・Niめっき層の厚み:3.5μm
・Snめっき層の厚み:3.0μm
【0117】
(c)実施例3の試料の仕様
実施例3として、以下の仕様の積層セラミックコンデンサを準備した。
すなわち、実施例3の積層セラミックコンデンサは、
図9に示すように、下地電極層上だけでなく、第1の外部電極と第2の外部電極との間の積層体の表面、より具体的には、第1の主面と第2の主面および第1の側面と第2の側面の表面に位置するめっき層の先端部が脂肪酸の表面に接触するように積層体の表面に脂肪酸を存在させ、かつ、第1の外部電極および第2の外部電極との間の積層体の表面に脂肪酸を存在させ、金属成分と熱硬化性樹脂成分とを有する導電性樹脂層を形成し、脂肪酸を含めて導電性樹脂層を覆うように該めっき層であるNiめっき層を形成し、さらにNiめっき層の上にSnめっき層を形成した積層セラミックコンデンサの試料を準備した。
【0118】
・積層セラミックコンデンサの寸法(設計値):L×W×T=1.0mm×0.5mm×0.5mm
・セラミック層の主成分の材料:BaTiO3
・容量:10nF
・内部電極層の材料:Ni
・外部電極層の仕様
・下地電極層の仕様
・下地電極層:金属成分とガラス成分を含む焼付け層
・金属成分:Cu
・下地電極層の厚み
・1/2W位置の積層体の断面における第1の端面および第2の端面に位置する下地電極層の高さ方向xの中央部における長さ方向zの厚み:28μm
・1/2W位置の積層体の断面における第1の主面および第2の主面に位置する下地電極層の長さ方向zの中央部における第1の主面および第2の主面を結ぶ高さ方向xの厚み(e寸中央部部分の下地電極層の厚み):10μm
・1/2T位置の積層体の断面における第1の側面および第2の側面に位置する下地電極層の長さ方向zの中央部における第1の側面および第2の側面を結ぶ幅方向yの厚み(e寸中央部部分の下地電極層の厚み):10μm
・脂肪酸の仕様:オレイン酸を2-プロパノールで希釈し、下地電極層を形成した積層体全体を5分間浸漬後、アルミバット上にチップを広げオーブン(150℃で30分)中で硬化させた。
・下地電極層の表面の面積に対する脂肪酸が存在している面積の割合:55%(すべての面において設計上同様となるようにした。)
・二次イオン相対強度:6.75×10-4
・炭素成分量:80atom%
・脂肪酸を設けた位置:下地電極層上と各外部電極間の積層体の表面
・導電性樹脂層の仕様
・金属成分:AgコートCu
・熱硬化性樹脂成分:エポキシ系
・1/2W位置の積層体の断面における第1の端面および第2の端面に位置する導電性樹脂層の高さ方向xの中央部における長さ方向zの厚み:25μm
・1/2W位置の積層体の断面における第1の主面および第2の主面に位置する導電性樹脂層の長さ方向zの中央部における第1の主面および第2の主面を結ぶ高さ方向xの厚み(e寸中央部部分の下地電極層の厚み):8μm
・1/2T位置の積層体の断面における第1の側面および第2の側面に位置する導電性樹脂層の長さ方向zの中央部における第1の側面および第2の側面を結ぶ幅方向yの厚み(e寸中央部部分の下地電極層の厚み):8μm
・めっき層の仕様:2層で形成し、脂肪酸が配置された下地電極層上にNiめっき層、Niめっき層上にSnめっき層を形成した。
・Niめっき層の厚み:3.5μm
・Snめっき層の厚み:3.0μm
【0119】
(d)比較例の試料の仕様
比較例として、下地電極層上に脂肪酸を形成する処理を行わない、すなわち、下地電極層上に、Niめっき層、さらにNiめっき層の上にSnめっき層を形成した積層セラミックコンデンサを準備した。従って、脂肪酸が存在していない点以外は、実施例1の構造と同等の設計とした。
【0120】
(e)たわみ強度試験によるクラックの有無の確認方法
まず、試料である積層セラミックコンデンサを、半田ペーストを用いて1.6mmの厚さの実装基板に実装した。その後、積層セラミックコンデンサの実装されていない実装基板の裏面から曲率半径1μmの押し棒にて基板を曲げ、機械的ストレスをかけた。このとき、たわみ量は2mmとし、60秒間たわませた。なお、今回の試験では車載で要求されるAEC-Q200規格より厳しい条件とした。基板曲げを行った後、実装基板から積層セラミックコンデンサを外し、断面研磨を行い積層体の内部におけるクラックの有無を観察した。断面研磨は、積層セラミックコンデンサの第1の側面および第2の側面を結ぶ幅方向yの1/2Wとなる位置まで積層セラミックコンデンサのLT面が露出するように研磨を行った。実施例1ないし実施例3、ならびに比較例の各試料として、それぞれ30個準備した。
【0121】
(f)結果
表1は、実施例1ないし実施例3、ならびに比較例の各試料に対するたわみ強度試験による積層体の内部におけるクラックの有無の確認を行った結果を示す。
【0122】
【0123】
表1によれば、比較例の試料では、たわみ強度試験において、30個中18個の試料に対して、積層体の内部へのクラックが確認された。
【0124】
一方、実施例1の試料では、下地電極層上のみに脂肪酸を存在させたところ、30個中6個の試料に対して、積層体の内部へのクラックが確認され、比較例の試料に比べて、良好な結果が得られた。
また、実施例2の試料では、下地電極層上および積層体の表面に脂肪酸を存在させたところ、30個中4個の試料に対して、積層体の内部へのクラックが確認され、実施例1の試料に比べて、より良好な結果が得られた。
さらに、実施例3の試料では、下地電極層上に脂肪酸が存在し、さらにその表面に下地電極層を覆うように導電性樹脂層を設けたところ、30個中の試料に対して、積層体の内部へのクラックが確認されず、実施例1や実施例2の試料に比べて、より良好な結果が得られた。
【0125】
以上の結果から、実施例1の積層セラミックコンデンサの構造によれば、少なくとも下地電極層の表面上に脂肪酸を存在させることにより、脂肪酸のもつカルボキシ基がイオン化することで、イオン結合力により下地電極層に吸着し、吸着部において、下地電極層上に設けられるめっき層のめっきの析出が阻害され、下地電極層とめっき層との間の接合面積が減少させることができる。そのため、下地電極層とめっき層との密着力が低下するため下地電極層とその上に形成されるめっき層との剥離を促進する効果を発揮すると考えられる。
したがって、積層セラミックコンデンサに落下時の衝撃や熱サイクルの衝撃が加わった際に、下地電極層とめっき層との間で安定して剥離させることが可能となり応力を逃がすことが可能となる。結果、積層セラミックコンデンサの積層体にクラックが入ることを抑制することができることが確認された。
【0126】
なお、実施例1の積層セラミックコンデンサの構造では、特許文献1のような熱硬化性樹脂層を有していないため、コストの削減につながるだけでなく、熱硬化性樹脂層の厚み分の積層体の設計自由度が増すため、高容量化を実現することが可能となる。
【0127】
また、実施例2の積層セラミックコンデンサの構造によれば、外部電極の間の積層体の表面において脂肪酸を存在させることで、積層体とめっき層との間でクッションの役割を果たし、めっき層と積層体の表面との間において、密着しない領域を作ることができ、めっき層の先端部が積層体の表面から浮いた状態となり、剥離のきっかけをつくることができる。よって、下地電極層とめっき層との間の剥離をより安定して促進させることができることが確認された。
【0128】
さらに、実施例3の積層セラミックコンデンサの構造によれば、下地電極層上および外部電極の間の積層体の表面に脂肪酸を存在させ、さらに下地電極層を覆うように導電性樹脂層を形成しているので、導電性樹脂層が緩衝層として機能し、積層セラミックコンデンサに対してクラックが発生することをより防止しうることが確認された。
【0129】
なお、以上のように、本発明の実施の形態は、前記記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上説明した実施の形態に対し、機序、形状、材質、数量、位置又は配置等に関して、様々の変更を加えることができるものであり、それらは、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0130】
10 積層セラミックコンデンサ
12 積層体
12a 第1の主面
12b 第2の主面
12c 第1の側面
12d 第2の側面
12e 第1の端面
12f 第2の端面
14 セラミック層
16 内部電極層
16a 第1の内部電極層
16b 第2の内部電極層
18 内層部
20a 第1の主面側外層部
20b 第2の主面側外層部
22a 第1の側面側外層部
22b 第2の側面側外層部
24a 第1の端面側外層部
24b 第2の端面側外層部
26a 第1の対向電極部
26b 第2の対向電極部
28a 第1の引出電極部
28b 第2の引出電極部
30 外部電極
30a 第1の外部電極
30b 第2の外部電極
32 下地電極層
32a 第1の下地電極層
32b 第2の下地電極層
34 めっき層
34a 第1のめっき層
34b 第2のめっき層
36 導電性樹脂層
36a 第1の導電性樹脂層
36b 第2の導電性樹脂層
38 先端部
40 脂肪酸
50 Auコーティング層
100 実装基板
102 ランド電極
110 半田
x 高さ方向
y 幅方向
z 長さ方向