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特許7494853樹脂組成物、三次元積層体及び三次元積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】樹脂組成物、三次元積層体及び三次元積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20240528BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20240528BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20240528BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20240528BHJP
   B32B 23/04 20060101ALI20240528BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240528BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240528BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240528BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240528BHJP
【FI】
C08L101/02
C08L1/08
C08L55/02
B29C64/118
B32B23/04
B32B27/30 B
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021539242
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2020030126
(87)【国際公開番号】W WO2021029311
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019147004
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 和明
(72)【発明者】
【氏名】白石 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】後藤 賢治
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038985(WO,A1)
【文献】特開2011-001061(JP,A)
【文献】特開2010-285598(JP,A)
【文献】特開2014-217948(JP,A)
【文献】特開2007-254707(JP,A)
【文献】特開2007-231050(JP,A)
【文献】国際公開第2011/045918(WO,A1)
【文献】特開平08-217851(JP,A)
【文献】特開2016-011413(JP,A)
【文献】特表2012-503682(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107450(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 64/118
B32B 23/04、27/30
B33Y 10/00、70/00、80/00
C08F 6/00-246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融押し出し方式の成形体形成に用いる樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物を構成する樹脂が、高分子体に下記一般式(1)で表される部分構造を有する樹脂であり、
フィラメント材料に含まれることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】
〔式中、Xは、-C(=O)-、-C(=O)NH-、-SiR12-、又は-S-を表す。R1及びR2は、それぞれ置換基を表す。Jは、連結基を表す。Aは、ニトリルオキシド基、チオール基、フラン環基、マレイミド環基、又は桂皮酸残基を表す。nは、1又は0を表す。〕
【請求項2】
前記樹脂を構成する高分子体が、セルロース誘導体又はスチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
成形体形成材料を含む層を2層以上有する三次元積層体であって、
前記成形体形成材料を含む層の少なくとも一層が、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物を含むことを特徴とする三次元積層体。
【請求項4】
前記成形体形成材料を含む層のすべてが、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物を含む層であることを特徴とする請求項に記載の三次元積層体。
【請求項5】
請求項又は請求項に記載の三次元積層体を熱溶融押し出し方式により製造する三次元積層体の製造方法であって、
少なくとも、第1の成形体を形成する工程と、
第2の成形体を形成する工程と、
前記第1の成形体上に、前記第2の成形体を積層して積層体を形成する工程と、かつ
前記積層体に硬化処理を施す工程と、を有する
ことを特徴とする三次元積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物と、それを用いた三次元積層体と三次元積層体の製造方法に関する。より詳しくは、外部からの応力に対する耐久性(強度)に優れた三次元積層体の形成に用いる樹脂組成物と、それを用いた三次元積層体と三次元積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元積層体を形成する方法として、3Dプリンターを用いた3Dプリンティング(以下、「3次元プリンティング」ともいう。)技術が注目されており、特に、FDM方式(Fused Deposition Modeling:熱溶解積層方式ともいう。)には環境負荷が低いプラスチック材料が求められている。
【0003】
粉体(例えば、樹脂粒子)をレーザーにより溶融し、3Dプリンターにより積層して三次元積層体を形成する方法であるSLS(Selective Laser Sintering、粉末焼結積層造形法)や、樹脂製のフィラメントを溶融するFDM方式では、1層ずつ溶融樹脂を積層して三次元積層体を形成する。溶融樹脂の温度は、樹脂種により異なるがおおむね150℃以上であるが、次の層を積層する時点では造形された樹脂温度が150℃以下となるため、ポリマー同士の層間の絡み合いが少なく、作製した三次元積層体においては、水平方向の強度に比較して、積層面の垂直方向の強度が著しく低下する。これは、SLS及びFDMの双方の方式で共通した問題である。
【0004】
三次元積層体を構成する積層間に溶剤を用いた堆積法が開示されている(例えば、特許文献1~3参照。)。特許文献1は、インク組成物の粘度や乾燥性調整を目的に使用されている。特許文献2及び3では、溶剤を付与することにより、積層している層間で、表面の一部を溶解し、層間のポリマーの絡み合いを増すことにより層間の接着強度を向上させている。
【0005】
しかしながら、単に溶剤を用いて接着性を強化する方法では、積層間での物理的な絡み合いのみで強度を得ている方法で、単に部分的にポリマー同士が入り組んでいる状態であるため、強度には限界がある。
【0006】
また、積層体の構成材料としてセルロースを適用する場合、セルロースは植物由来の原料から成り、エンジニアプラスチックに相当する機械物性をもつことが知られているが、天然セルロースは熱分解温度が溶融温度より低く溶融成形が困難であった。セルロースを用いて熱溶融による成形を行う場合は、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセルロースエステルやエチルセルロース等のセルロースエーテルなど、セルロースの2位、3位及び6位のヒドロキシ基に置換基を導入することで熱可塑性を付与することが知られている。
【0007】
これらセルロース誘導体をFDM方式の積層造形に適用することを考えた場合、高分子体の物性だけでは必ずしも造形条件を満たしきれないため、可塑剤など種々の添加剤を加えて組成物の物性をコントロールすることが想定される。しかし、可塑剤など種々の添加剤を加えると、セルロース誘導体本来の機械物性、例えば、弾性率強度の低下や、造形物の高温・高湿下での寸法安定性が劣化するという問題があった。
【0008】
すなわち、従来技術では三次元積層体としての強度が不十分であり、それらを改善する樹脂組成物が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6317791号公報
【文献】特開平09-76355号公報
【文献】特開2006-1922710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、外部からの応力に対する耐久性(強度)に優れた三次元積層体を形成する樹脂組成物と、それを用いた三次元積層体と三次元積層体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、熱溶融押し出し方式の成形体形成に用いる樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を構成する樹脂が、特定の部分構造を有することを特徴とする樹脂組成物を用いることにより、外部からの応力に対する耐久性(強度)に優れた三次元積層体を形成する樹脂組成物が得られることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.熱溶融押し出し方式の成形体形成に用いる樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物を構成する樹脂が、高分子体に下記一般式(1)で表される部分構造を有する樹脂であり、
フィラメント材料に含まれることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】
〔式中、Xは、-C(=O)-、-C(=O)NH-、-SiR12-、又は-S-を表す。R1及びR2は、それぞれ置換基を表す。Jは、連結基を表す。Aは、ニトリルオキシド基、チオール基、フラン環基、マレイミド環基、又は桂皮酸残基を表す。nは、1又は0を表す。〕
【0015】
.前記樹脂を構成する高分子体が、セルロース誘導体又はスチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体であることを特徴とする第1項に記載の樹脂組成物。
【0017】
.成形体形成材料を含む層を2層以上有する三次元積層体であって、
前記成形体形成材料を含む層の少なくとも一層が、第1項又は2項に記載の樹脂組成物を含むことを特徴とする三次元積層体。
【0018】
.前記成形体形成材料を含む層のすべてが、第1項又は2項に記載の樹脂組成物を含む層であることを特徴とする第項に記載の三次元積層体。
【0019】
.第項又は第項に記載の三次元積層体を熱溶融押し出し方式により製造する三次元積層体の製造方法であって、
少なくとも、第1の成形体を形成する工程と、
第2の成形体を形成する工程と、
前記第1の成形体上に、前記第2の成形体を積層して積層体を形成する工程と、かつ
前記積層体に硬化処理を施す工程と、を有することを特徴とする三次元積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の上記手段により、外部からの応力に対する耐久性(強度)に優れた三次元積層体を形成する樹脂組成物及びフィラメント材料と、それを用いた三次元積層体と三次元積層体の製造方法を提供することができる。
【0021】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0022】
本発明においては、樹脂の骨格に対し、末端部に100℃付近の熱、又は紫外領域の光により共有結合を形成し得る機能性基、例えば、ニトリルオキシド基、ビニル基、チオール基、フラン環基、マレイミド環基、又は桂皮酸残基を有する特定の部分構造を有する樹脂組成物を積層して三次元積層体を形成することにより、積層体の外部から応力を受けた際にも、積層間の密着性及び強度が向上することを見出したものである。
【0023】
前記特許文献1~3で提案されている溶剤を用いて接着性強度を向上させる方法、単に物理的な絡み合いのみで強度は向上する方法である。しかし、積層している層間では、部分的にポリマー同士が入り組んで、物理的に接着部を形成しているのみであり、強い応力を受けた際の耐久性には限界がある。
【0024】
本発明は、共有結合を形成する部分構造を有する樹脂を用いることで、積層間の界面を化学的な結合である共有結合で強化する方法である。その方法としては、積層体を構成する高分子体に共有結合を形成する機能性基を導入する。
【0025】
共有結合で強化する方法としては、100℃付近の熱により共有結合を形成し得る二重結合部位と無触媒で反応するニトリルオキシド基の反応、二重結合部位とチオール基によりスルフィド結合を形成するエン-チオール反応、100℃付近で閉環し、150℃付近で開環するフラン部位とマレイミド部位を用いたDiels-Alder反応や、紫外領域の光により共有結合を形成し得る桂皮酸の光による二量化する方法が有効であることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の樹脂組成物は、熱溶融押し出し方式の成形体形成に用いる樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を構成する樹脂が、高分子体に前記一般式(1)で表される部分構造を有する樹脂であることを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0027】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記一般式(1)におけるAとしては、100℃付近の熱、又は紫外領域等の光により共有結合を形成し得る機能性基であれば、特に限定はないが、ニトリルオキシド基、ビニル基、チオール基、フラン環基、マレイミド環基、又は桂皮酸残基である。これらの機能性基を用いて、層間を共有結合することで、三次元積層体を形成した際の積層間の外部からの応力に対し、層間剥離を起こすことなくより優れた強度が得られる。
【0028】
また、前記樹脂を構成する高分子体として、セルロース誘導体又はスチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体を適用することが、本発明の目的効果をより発現させることができる点で好ましい。
【0029】
本発明においては、熱溶融押し出し方式の成形体形成に用いるフィラメント材料が、本発明の樹脂組成物により構成することを特徴とする。
【0030】
また、成形体形成材料を含む層を2層以上有する三次元積層体は、前記成形体形成材料を含む層の少なくとも1層が、本発明の樹脂組成物を含んでいればよく、成形体形成材料を含む層のすべてが、本発明の樹脂組成物を含んでいてもよい。
【0031】
また、三次元積層体の製造方法としては、本発明の三次元積層体を熱溶融押し出し方式により製造する三次元積層体の製造方法であって、少なくとも、第1の成形体を形成する工程と、第2の成形体を形成する工程と、前記第1の成形体上に、前記第2の成形体を積層して積層体を形成する工程と、かつ前記積層体に硬化処理を施す工程と、を有することを特徴とする。
【0032】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0033】
《樹脂組成物》
本発明の樹脂組成物では、熱溶融押し出し方式の成形体形成に用いる樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を構成する樹脂が、高分子体に下記一般式(1)で表される部分構造を有する官能基を結合させた樹脂であることを特徴とする。
本発明でいう樹脂組成物とは、一般式(1)で表される部分構造を有する樹脂(以下、樹脂成分ともいう。)のほかに、必要に応じて、各種添加剤、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤を含む構成をいう。
【0034】
また、本発明では、一般式(1)で表される部分構造を有するポリマー材料を「高分子体」(又は「母核」ともいう。)といい、例えば、セルロース誘導体やスチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体を挙げることができる。
【0035】
〔一般式(1)で表される部分構造を有する樹脂〕
はじめに、下記一般式(1)で表される部分構造を有する樹脂について説明する。
【化2】
【0036】
上記一般式(1)において、Xは、-C(=O)-、-C(=O)NH-、-SiR12-、又は-S-を表す。R1及びR2は、それぞれ置換基を表す。Jは、連結基を表す。また、Aは、機能性基を表す。nは、1又は0を表す。
【0037】
1及びR2で表される置換基としては、種々のものが挙げられ特に制限はないが、代表的なものとして、アルキル、アリール、アニリノ、アシルアミノ、スルホンアミド、アルキルチオ、アリールチオ、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルキニル、複素環、アルコキシ、アリールオキシ、複素環オキシ、シロキシ、アミノ、アルキルアミノ、イミド、ウレイド、スルファモイルアミノ、アルコキシカルボニルアミノ、アリールオキシカルボニルアミノ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、複素環チオ、チオウレイド、ヒドロキシ及びメルカプトの各基、並びに、スピロ化合物残基、有橋炭化水素化合物残基、スルホニル、スルフィニル、スルホニルオキシ、スルファモイル、ホスホリル、カルバモイル、アシル、アシルオキシ、オキシカルボニル、カルボキシル、シアノ、ニトロ、ハロゲン置換アルコキシ、ハロゲン置換アリールオキシ、ピロリル、テトラゾリル等の各基及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0038】
上記アルキル基としては、炭素数1~32のものが好ましく、直鎖でも分岐でもよい。アリール基としては、フェニル基が好ましい。
【0039】
上記アシルアミノ基としては、アルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基;スルホンアミド基としては、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基;アルキルチオ基、アリールチオ基におけるアルキル成分、アリール成分は上記のアルキル基、アリール基が挙げられる。
【0040】
上記アルケニル基としては、炭素数2~32のもの、シクロアルキル基としては、炭素数3~12、特に5~7のものが好ましく、アルケニル基は直鎖でも分岐でもよい。シクロアルケニル基としては、炭素数3~12、特に5~7のものが好ましい。
【0041】
上記ウレイド基としては、アルキルウレイド基、アリールウレイド基等;スルファモイルアミノ基としては、アルキルスルファモイルアミノ基、アリールスルファモイルアミノ基等;複素環基としては、5~7員のものが好ましく、具体的には、2-フリル基、2-チェニル基、2-ピリミジニル基、2-ベンゾチアゾリル基等;複素環オキシ基としては、5~7員の複素環を有するものが好ましく、例えば、3,4,5,6-テトラヒドロピラニル-2-オキシ基、1-フェニルテトラゾール-5-オキシ基等;複素環チオ基としては、5~7員の複素環チオ基が好ましく、例えば、2-ピリジルチオ基、2-ベンゾチアゾリルチオ基、2,4-ジフェノキシ-1,3,5-トリアゾール-6-チオ基等;シロキシ基としては、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、ジメチルブチルシロキシ基等;イミド基としては、琥珀酸イミド基、3-ヘプタデシル琥拍酸イミド基、フタルイミド基、グルタルイミド基等;スピロ化合物残基としては、スピロ〔3.3〕ヘプタン-1-イル等;有橋炭化水素化合物残基としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン-1-イル、トリシクロ〔3.3.l.3.7〕デカン-1-イル、7,7-ジメチル-ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン-1-イル等が挙げられる。
【0042】
上記スルホニル基としては、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、ハロゲン置換アルキルスルホニル、ハロゲン置換アリールスルホニル等;スルフィニル基としては、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル等;スルホニルオキシ基としては、アルキルスルホニルオキシ、アリールスルホニルオキシ等;スルファモイル基としては、N,N-ジアルキルスルファモイル、N-N-ジアリールスルファモイル、N-アルキル-N-アリールスルファモイル等;ホスホリル基としては、アルコキシホスホリル、アリールオキシホスホリル、アルキルホスホリル、アリールホスホリル等;カルバモイル基としては、N,N-ジアルキルカルバモイル、N,N-ジアリールカルバモイル、N-アルキル-N-アリールカルバモイル等;アシル基としては、アルキルカルボニル、アリールカルボニル等;アシルオキシ基としては、アルキルカルボニルオキシ等;オキシカルボニル基としては、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル等;ハロゲン置換アルコキシ基としては、α-ハロゲン置換アルコキシ等;ハロゲン置換アリールオキシ基としては、テトラフルオロアリールオキシ、ペンタフルオロアリールオキシ等;ピロリル基としては1-ピロリル等;テトラゾリル基としては、1-テトラゾリル等の各基が挙げられる。
【0043】
上記置換基の他に、トリフルオロメチル基、ヘプタフルオロイソプロピル基、ノニルフルオロ-t-ブチル基や、テトラフルオロアリール基、ペンタフルオロアリール基なども好ましく用いられる。
【0044】
上記これらの基は、更に長鎖炭化水素基やポリマー残基等の耐拡散性基などの置換基を含んでいてもよい。また、これらの置換基が、更に一つ、又は複数の置換基で置換されても良い。
【0045】
上記一般式(1)において、Jは、連結基を表す。連結基とは、例えば、アルキレン基(例えば、メチレン、1,2-エチレン、1,3-プロピレン、1,4-ブチレン、シクロヘキサン-1,4-ジイルなど)、アルケニレン基(例えば、エテン-1,2-ジイル、ブタジエン-1,4-ジイルなど)、アルキニレン基(例えば、エチン-1,2-ジイル、ブタン-1,3-ジイン-1,4-ジイルなど)、少なくとも一つの芳香族基を含む化合物から誘導される連結基(例えば、置換もしくは無置換のベンゼン、縮合多環炭化水素、芳香族複素環、芳香族炭化水素環集合、芳香族複素環集合など)、ヘテロ原子連結基(酸素、硫黄、窒素、ケイ素、リン原子など)が挙げられるが、好ましくは、アルキレン基、アリーレン基で連結する基である。これら連結基は更に上記置換基により置換されても良く、連結基を組み合わせて複合基を形成してもよい。
【0046】
また、Aで表される機能性基としては、ニトリルオキシド基、ビニル基、チオール基、フラン環基、マレイミド環基、又は桂皮酸残基であることが好ましい。
【0047】
〔高分子体〕
一般式(1)で表される部分構造を有する樹脂を構成する高分子体としては、特に制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)、ポリメチルメタくリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂であれば特に限定はないが、本発明では、高分子体としては、セルロース誘導体又はスチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体であることが好ましく、更に好ましくはセルロース誘導体である。
【0048】
本発明でいうセルロース誘導体とは、セルロース構造中のヒドロキシ基が、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基等で置換された構造であり、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース等を挙げることができる。
【0049】
本発明の樹脂組成物において、一般式(1)で表される部分構造を有する高分子体として好適なセルロース(以下、無置換のセルロースをセルロース母核、置換セルロースをセルロース誘導体ともいう。)としては、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製造工程における剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。
【0050】
セルロースに導入される一般式(1)で表される部分構造を有する基以外の置換基としては、溶融成形の観点から、炭素数が1~5の直鎖、或いは分岐アルキル基を導入したセルロースエーテル、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、2-メチル酪酸、ピバリン酸といった、炭素数が3~7程度までの有機酸を導入したセルロースエステルが挙げられる。セルロースエーテルでは、エチル基、プロピル基が好ましく、より好ましいのがエチル基である。またセルロースエステルでは、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバリン酸が好ましく、より好ましいのは、酢酸、プロピオン酸、酪酸である。上記セルロース誘導体の中で最も好ましいのは、酢酸、プロピオン酸で置換したセルロースエステルであるセルロースアセテートプロピオネートである。
【0051】
セルロースアセテートプロピオネートのアセチル基の置換度をX、プロピオニル基の置換度をY、一般式(1)で表される部分構造を有する基の置換度をZとしたときに、溶融成形できれば特に限定はないが、成形の観点から下記式(1)、(2)及び式(3)を満たすセルロース誘導体であることが好ましい。
【0052】
式(1) 2.0≦X+Y+Z≦3.0
式(2) 0.3≦Y≦2.5
式(3) 0.1≦Z≦0.5
【0053】
一般式(1)で表される部分構造を有する基の置換度Zが0.1未満下の場合、成形体表面に存在する置換基数が少なく、成形体表面同士の共有結合形成が十分ではなく、良好な強度を得ることができない。また、0.5を超える置換度になると、成形体全体の強度低下を引き起こし、所望の物性を得ることができない。よって、上記式(3)の範囲が好ましく、より好ましくは、0.15≦Z≦0.3である。
上記アシル基の置換度の測定方法は、ASTM-D817-96に準じて測定することができる。
【0054】
セルロース誘導体の重量平均分子量Mwは、弾性率や寸法安定性を制御する観点から、80000~300000の範囲であることが好ましく、120000~250000の範囲であることがより好ましい。本発明において、FMD方式における積層造形時に弾性率の制御が行ないやすく、3次元積層体の寸法安定化や、添加剤の耐染みだし性が向上する。
【0055】
セルロース誘導体の数平均分子量(Mn)は、30000~150000の範囲内であることが、得られた3次元積層体の機械的強度が高く好ましい。さらに40000~100000の範囲内のセルロース誘導体が好ましく用いられる。
【0056】
セルロース誘導体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値は、1.4~3.0の範囲内であることが好ましい。
【0057】
セルロース誘導体の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定できる。
【0058】
本発明に係るセルロース誘導体は、公知の方法により製造することができる。一般的には、原料のセルロースと所定の有機酸(酢酸、プロピオン酸など)と酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸など)、触媒(硫酸など)と混合して、セルロースをエステル化し、セルロースのトリエステルができるまで反応を進める。トリエステルにおいてはグルコース単位の三個のヒドロキシ基は、有機酸のアシル酸で置換されている。同時に二種類の有機酸を使用すると、混合エステル型のセルロースエステル、例えばセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートを作製することができる。次いで、セルロースのトリエステルを加水分解することで、所望のアシル置換度を有するセルロースエステルを合成する。その後、濾過、沈殿、水洗、脱水、乾燥などの工程を経て、セルロース誘導体ができあがる。
【0059】
本発明に係るセルロース誘導体は、具体的には特開平10-45804号公報や特開2017-170881号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0060】
本発明において、高分子体がセルロース誘導体である場合には、セルロース構造の3位、4位、又は6位に、本発明に係る一般式(1)で表される部分構造を置換基として有する。
【0061】
また、高分子体として、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(略称:ABS樹脂)を適用する場合は、ABS樹脂中のブタジエンのモル比率が1~50%が好ましく、より好ましくは3~40%、更に好ましくは、5~30%である。また、本発明に係る一般式(1)で表される部分構造が、ABS母格のブタジエンの二重結合に20~80%の範囲に導入されていることが好ましく、より好ましくは40~60%の範囲内である。
【0062】
〔樹脂の具体的化合物例〕
以下に、本発明に係る高分子体に一般式(1)で表される部分構造を有する樹脂の具体例として、例示化合物1~118を示すが、本発明ではこれら例示する化合物にのみ限定されるものではない。なお、下記各例示化合物に記載の「Cellulose」は、樹脂を構成する高分子体がセルロース誘導体であることを表し、「ABS」は、高分子体がスチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体であることを表す。
【0063】
【化3】
【0064】
【化4】
【0065】
【化5】
【0066】
【化6】
【0067】
【化7】
【0068】
【化8】
【0069】
【化9】
【0070】
【化10】
【0071】
【化11】
【0072】
【化12】
【0073】
【化13】
【0074】
【化14】
【0075】
【化15】
【0076】
【化16】
【0077】
〔樹脂組成物を構成する樹脂の合成方法〕
次いで、上記例示した樹脂組成物を構成する樹脂について、代表的な合成例を以下に示す。
【0078】
《樹脂の合成》
〔合成例1:セルロース誘導体-Aの合成〕
セルロースアセテートプロピオネートであるセルロース誘導体-Aを、特表平6-501040号公報の実施例に記載の例Bを参考にして合成した。
【0079】
(各溶液の調製)
以下の示す溶液A~Eを調製した。
【0080】
・溶液A;プロピオン酸:濃硫酸=5:3(質量比)
・溶液B;酢酸:純水=3:1(質量比)
・溶液C;酢酸:純水=1:1(質量比)
・溶液D;酢酸:純水:炭酸マグネシウム=12:11:1(質量比)
・溶液E;純水14.6kg中に、炭酸カリウム0.5モル、クエン酸1.0モルを溶解した水溶液
【0081】
(セルロースアセテートプロピオネート(CAP)の合成)
機械式撹拌機を備えた反応容器に、綿花から精製したセルロース100質量部、酢酸317質量部、プロピオン酸67質量部を添加し、55℃で30分間撹拌した。反応容器の温度を30℃に低下させた後、溶液Aを2.3質量部添加し、30分間撹拌した。反応容器の温度を-20℃に冷却した後、無水酢酸100質量部及び無水プロピオン酸250質量部を添加し、1時間撹拌した。反応容器の温度を10℃に昇温した後、溶液Aを4.5質量部添加し、60℃に昇温して3時間撹拌した。さらに溶液Bを533質量部添加し、17時間撹拌した。さらに、溶液Cを333質量部、溶液Dを730質量部添加し、15分間撹拌した。不溶物をろ過した後、溶液を撹拌しながら、沈殿物の生成が終了するまで水を添加した後、生成した白色沈殿をろ過した。得られた白色固体は、洗浄液が中性になるまで純水で洗浄した。この湿潤生成物に、溶液Eを1.8質量部添加し、次いで真空下で、70℃で3時間乾燥し、セルロースアセテートプロピオネート(CAP、セルロース誘導体-A)を得た。
【0082】
得られたセルロースアセテートプロピオネート(セルロース誘導体-A)の置換度を、ASTM-D817-96に基づいて算出すると、アセチル基による置換度が1.9、プロピオニル基による置換度が0.7であった。また下記の条件でGPCを測定したところ、重量平均分子量は20万であった。
【0083】
(GPC測定条件)
溶媒:塩化メチレン
カラム:Shodex K806、K805、K803(昭和電工(株)製を3本接続して使用)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0mL/min
【0084】
〔合成例2:セルロース誘導体にエステル結合を有する二重結合部位が導入された例示化合物1の合成〕
500mLのナスフラスコにジクロロメタン200mLを投入し、撹拌しながら高分子体として上記セルロース誘導体-Aの10.0gを少量ずつ添加し、室温でしばらく撹拌した。セルロース誘導体-Aの完溶を確認した後、ピリジン0.64g、ジメチルアミノピリジン0.1gを添加し、溶液を氷浴にて0℃に冷却した。10mLの滴下ロートに、ジクロロメタン5mLと3-ブテノイルクロリド(Alfa Chemical社製)0.63gを投入し、10分かけて冷却された上記ジアセチルセルロース溶液中に滴下した。滴下後、氷浴をはずし、室温で24時間撹拌して、反応溶液を得た。
【0085】
次いで、5Lのビーカーに4Lのエチルアルコールを入れ、メカニカルスターラーとテフロン(登録商標)羽を設置し、撹拌した中へ、得られた反応溶液を1時間かけて滴下した。2時間撹拌した後、直径30cmのヌッチェ、ろ紙にて、減圧濾過した。得られた固体を60℃で減圧乾燥し、10.2gの例示化合物1を得た。例示化合物1について、1H-NMR、IRより測定した結果、高分子体であるセルロース誘導体にエステル結合を有する二重結合部位が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.21であった。
【0086】
〔合成例3:セルロース誘導体にウレア構造を有する二重結合部位が導入された例示化合物18の合成〕
500mLのナスフラスコにジクロロメタン200mLを投入し、撹拌しながら上記セルロース誘導体-Aの10.0gを少量ずつ添加し、室温でしばらく撹拌した。セルロース誘導体-Aの完溶を確認した後、アリルイソシアネート(Aldrich社製)を0.50gと、MoO2Cl2(DMF)2錯体を2.1mg添加し、室温で5時間撹拌した。得られた溶液を上記合成例2と同様な方法により処理し、10.5gの例示化合物18を得た。例示化合物18について、1H-NMR、IRより測定した結果、高分子体であるセルロース誘導体にウレア構造を有する二重結合部位が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.23であった。
【0087】
〔合成例4:セルロース誘導体にケイ素を有する二重結合部位が導入された例示化合物13の合成〕
上記合成例2(例示化合物1の合成)において、3-ブテノイルクロリドに代えて、アリールクロロジメチルシラン(Aldrich社製)の0.81gを用いた以外は同様にして、10.6gの例示化合物13を得た。例示化合物13について、1H-NMR、IRにより測定した結果、高分子体であるセルロース誘導体にケイ素を有する二重結合部位が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.21であった。
【0088】
〔合成例5:セルロース誘導体にエーテル結合を有する二重結合部位が導入された例示化合物16の合成〕
500mLのナスフラスコを用い禁水反応に耐えうる装置を組み、窒素をフローしながら操作を実施した。装置内に脱水ジクロロメタンを200mL投入し、撹拌しながらセルロース誘導体-Aの10.0gを少量ずつ添加し、室温にてしばらく撹拌した。セルロース誘導体-Aの完溶を確認した後、水素化ナトリウムの0.22gを少量ずつ添加した。水素発生が収まった後、アリルクロリド(東京化成社製)を0.46g投入し、室温で24h撹拌した。得られた溶液を、上記合成例2と同様な方法により処理し、10.2gの例示化合物16を得た。例示化合物16について、1H-NMR、IRより測定した結果、高分子体であるセルロース誘導体にエーテル結合を有する二重結合部位が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.20であった。
【0089】
〔合成例6:ABS誘導体にチオエーテル結合を有する二重結合部位が導入された例示化合物21の合成〕
(ステップ1:ヒドロキシ基を有するABS誘導体(ABS誘導体-OH)の合成)
500mLの石英製フラスコに、ジクロロメタン200mLを投入し、撹拌しながらトヨラック700-314(スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)、東レ社製)の10.0gを少量ずつ添加し、室温でしばらく撹拌した。ABS樹脂の完溶を確認した後、2-メルカプトエタノール(Aldrich社製)の1.85gを加え、Green Chemistry,2013、15(4)、1016と同様の手法により、撹拌しながらUV光(254nm)を照射した。得られた溶液を合成例2と同様な方法により処理し、10.9gのABS誘導体-OHを得た。
【0090】
(ステップ2:例示化合物21の合成)
上記ステップ1で得たABS誘導体-OHの10.0g、3-ブテノイルクロリド(Alfa Chemical社製)2.47gを用い、上記合成例2と同様にして、ABS誘導体である例示化合物21を10.4g得た。例示化合物21について、1H-NMR、IRで分析した結果、高分子体であるABSを構成するブタジエン二重結合の52%にチオエーテル結合を有する二重結合部位が導入されたことを確認した。
【0091】
〔合成例7:セルロース誘導体にエステル結合を有するニトリルオキシド基が導入された例示化合物24の合成〕
(ステップ1:4-ホルミル-3,5-ジメトキシベンゾイルクロリドの合成)
200mLのフラスコに、特許第5708936号公報に記載の方法を参考して得た4-ホルミル-3,5-ジメトキシ安息香酸の10.0gを、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記する。)の100mLに溶解し、氷浴にて0℃に冷却した。この溶液中に7.25gのオキサリルクロリドとN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)の1mLを投入し、2時間反応させた後、氷浴からはずし室温で3時間反応させた。THFをエバポレーターにより減圧留去した後、THFの100mLを投入し、再度THFを減圧留去した。この操作をもう一度行ない、10.9gの4-ホルミル-3,5-ジメトキシベンゾイルクロリドを得た。
【0092】
(ステップ2:例示化合物24の合成)
上記ステップ1で得た4-ホルミル-3,5-ジメトキシベンゾイルクロリドを用い、上記合成例2と同様な方法にて、セルロース誘導体-OCO-CHOを得た。以後、溶媒としてジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記する。)を使用し、Chem.Lett.,39,420に記載されている方法を参考にして、ニトリルオキシド基を側鎖に有するセルロース誘導体である例示化合物24を得た。例示化合物24について、1H-NMR、IRより測定した結果、例示化合物24には、高分子体であるセルロース誘導体にエステル結合を有するニトリルオキシド基が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.22であった。
【0093】
〔合成例8:セルロース誘導体にウレア構造を有するニトリルオキシド基が導入された例示化合物38の合成〕
(ステップ1:末端ヒドロキシ基含有ウレア置換基を有するセルロース誘導体(セルロース誘導体-OCONH-OH)の合成)
500mLの石英製フラスコにジクロロメタン200mLを投入し、撹拌しながら合成例3で合成した例示化合物18の10.0gを少量ずつ添加し、室温でしばらく撹拌した。例示化合物18の完溶を確認した後、2-メルカプトエタノール(Aldrich社製)の0.47gを加え、Green Chemistry,2013、15(4)、1016と同様の手法により、撹拌しながらUV光(254nm)を照射した。得られた溶液を合成例2と同様な方法により処理し、10.5gのセルロース誘導体-OCONH-OHを得た。
【0094】
(ステップ2:例示化合物38の合成)
上記ステップ1で得たセルロース誘導体-OCONH-OHの10.0g、合成例7のステップ1で得られた4-ホルミル-3,5-ジメトキシベンゾイルクロリド1.38gを用い、前記合成例7のステップ2と同様にして、セルロース誘導体である例示化合物38を10.6g得た。例示化合物38について、1H-NMR、IRより測定した結果、例示化合物38には、高分子体であるセルロース誘導体にウレア構造を有するニトリルオキシド基が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.21であった。
【0095】
〔合成例9:セルロース誘導体にケイ素を有するニトリルオキシド基が導入された例示化合物37の合成〕
(ステップ1:末端ヒドロキシ基含有ケイ素置換基を有するセルロース誘導体(セルロース誘導体-Si-OH)の合成)
合成例4で合成した例示化合物13の10.0g、2-メルカプトエタノール(Aldrich社製)の0.47gを用い、合成例8のステップ1と同様な方法により、10.5gのセルロース誘導体-Si-OHを得た。
【0096】
(ステップ2:例示化合物37の合成)
上記ステップ1で得たセルロース誘導体-Si-OHの10.0gを用い、合成例8のステップ2と同様にして、セルロース誘導体である例示化合物37を10.3g得た。例示化合物37について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物37には、高分子体であるセルロース誘導体にケイ素を有するニトリルオキシド基が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.23であった。
【0097】
〔合成例10:セルロース誘導体にエーテル結合を有するニトリルオキシド基が導入された例示化合物40の合成〕
(ステップ1:末端ヒドロキシ基含有エーテル置換基を有するセルロース誘導体(セルロース誘導体-O-OH)の合成)
合成例5で合成した例示化合物16の10.0g、2-メルカプトエタノール(Aldrich社製)の0.47gを用い、合成例8のステップ1と同様な方法により、10.7gのセルロース誘導体-O-OHを得た。
【0098】
(ステップ2:例示化合物40の合成)
上記ステップ1で得たセルロース誘導体-O-OHの10.0gを用い、合成例8のステップ2と同様にして、例示化合物40を10.2g得た。例示化合物40について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物40には、高分子体であるセルロース誘導体にエーテル結合を有するニトリルオキシド基が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.23であった。
【0099】
〔合成例11:ABS誘導体にチオエーテル結合を有するニトリルオキシド基が導入された例示化合物43の合成〕
(ステップ1:アミノ基を有するABS誘導体(ABS誘導体-NH2)の合成)
2-アミノエタンチオール(Aldrich社製)の1.83gを用い、合成例6のステップ1と同様な方法により、10.6gのABS誘導体-NH2を得た。
【0100】
(ステップ2:例示化合物43の合成)
上記ステップ1で得たABS誘導体-NH2の10.0gを用い、合成例8のステップ2と同様にして、ABS誘導体である例示化合物43の10.6g得た。例示化合物43について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物43には、高分子体であるABSを構成するブタジエン二重結合の49%に、チオエーテル結合を有する二重結合部位が導入されたことを確認した。
【0101】
〔合成例12:セルロース誘導体にエステル結合を有するチオール基が導入された例示化合物44の合成〕
上記合成したセルロース誘導体-Aの10.0g、3-メルカプトブタン酸(Aldrich社製)の0.73gを用い、特開2011-84479号公報に記載されている方法と同様にして、セルロース誘導体である例示化合物44を10.4g得た。例示化合物44について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物44には、高分子体であるセルロース誘導体にエステル結合を有するチオ-ルが導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.20であった。
【0102】
〔合成例13:セルロース誘導体にウレア構造を有するチオールが導入された例示化合物58の合成〕
合成例8のステップ1で得られたセルロース誘導体-OCONH-OHの10.0gを用い、合成例12と同様にして、セルロース誘導体である例示化合物58を10.7g得た。例示化合物58について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物58には、高分子体であるセルロース誘導体にウレア構造を有するチオールが導入されていることを確認した。また、置換度は、0.22であった。
【0103】
〔合成例14:セルロース誘導体にケイ素を有するチオール基が導入された例示化合物55の合成〕
合成例9のステップ1で得られたセルロース誘導体-Si-OHの10.0gを用い、合成例12と同様にして、セルロース誘導体である例示化合物55を10.1g得た。例示化合物55について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物55には、高分子体であるセルロース誘導体にケイ素を有するチオールが導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.21であった。
【0104】
〔合成例15:セルロース誘導体にエーテル結合を有するチオール基が導入された例示化合物60の合成〕
(ステップ1:末端アミノ基含有エーテル置換基を有するセルロース誘導体(セルロース誘導体-O-NH2)の合成)
合成例10のステップ1において、2-メルカプトエタノール(Aldrich社製)を2-アミノエタンチオール(Aldrich社製)に変更した以外は同様な方法にて、10.3gのセルロース誘導体-O-NH2を得た。
【0105】
(ステップ2:アセチル基でチオール基が保護されたセルロース誘導体(セルロース誘導体-O-SAc)の合成)
上記ステップ1で得たセルロース誘導体-O-NH2の10.0g、3-(アセチルチオ)ブタノイルクロリド(Chemieliva Pharmaceutical社製)1.09gを用い、上記合成例2と同様な方法にて、セルロース誘導体-O-SAcを得た。
【0106】
(ステップ3:例示化合物60の合成)
上記ステップ2で得たセルロース誘導体-O-SAcを用い、Organic Letters,2001、3(2)、283を参考にアセチル基を脱保護し、セルロース誘導体である例示化合物60を10.5g得た。例示化合物60について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物60には、高分子体であるセルロース誘導体にエーテル結合を有するチオールが導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.22であった。
【0107】
〔合成例16:ABS誘導体にチオエーテル結合を有するチオール基が導入された例示化合物61の合成〕
合成例6のステップ1で得られたABS誘導体-OHの10.0g、3-(アセチルチオ)ブタノイルクロリド(Chemieliva Pharmaceutical社製)を4.28g用い、合成例15のステップ2及びステップ3の方法と同様にして、ABS誘導体である例示化合物61の10.8g得た。例示化合物61について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物61には、高分子体であるABSを構成するブタジエン二重結合の50%に、チオエーテル結合を有するチオールが導入されたことを確認した。
【0108】
〔合成例17:セルロース誘導体にエステル結合を有するマレイミド部位が導入された例示化合物86の合成〕
Egyptian Journal of Chemistry, 1993, 36(2),149の記載を参考に合成したp-N-スクシンイミド安息香酸クロリドを用い、上記合成例2と同様な方法にて、セルロース誘導体である例示化合物86を10.9g得た。例示化合物86について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物86には、高分子体であるセルロース誘導体にエステル結合を有するマレイミド部位が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.23であった。
【0109】
〔合成例18:セルロース誘導体にウレア構造を有するマレイミド部位が導入された例示化合物91の合成〕
合成例8のステップ1で得られたセルロース誘導体-OCONH-OHの10.0g、2、5-ジヒドロ-2,5-ジオキソ-1H-ピロール-1-ブタノイルクロリド(Chemieliva Pharmaceutical社製)1.22gを用い、上記合成例2と同様な方法にて、セルロース誘導体である例示化合物91を10.2g得た。例示化合物91について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物91には、高分子体であるセルロース誘導体にウレア構造を有するマレイミド部位が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.21であった。
【0110】
〔合成例19:セルロース誘導体にケイ素を有するマレイミド部位が導入された例示化合物89の合成〕
(ステップ1:末端イソシアネート基含有ケイ素置換基を有するセルロース誘導体(セルロース誘導体-Si-NCO)の合成)
セルロース誘導体-Aの10.0g、クロロ(3-イソシアネートプロピル)ジメチルシラン(Alfa Chemistry社製)の1.07gを用い、上記合成例2と同様な方法にて、セルロース誘導体-Si-NCOを10.8g得た。
【0111】
(ステップ2:末端ヒドロキシ基含有ケイ素置換基を有するセルロース誘導体(セルロース誘導体-Si-OH-2)の合成)
上記ステップ1で得たセルロース誘導体-Si-NCOの10.0g、2-アミノエタンチオール(Aldrich社製)の0.47gを用い、Journal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry,2014、52(5)、728と同様な方法にて、セルロース誘導体-Si-OH-2を10.3g得た。
【0112】
(ステップ3:例示化合物89の合成)
上記ステップ2で得たセルロース誘導体-Si-OH-2、2、5-ジヒドロ-2,5-ジオキソ-1H-ピロール-1-プロパノイルクロリド(Chemieliva Pharmaceutical社製)1.13gを用い、上記合成例2と同様な方法にて、セルロース誘導体である例示化合物89を10.3g得た。例示化合物89について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物89には、高分子体であるセルロース誘導体にケイ素を有するマレイミド部位が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.19であった。
【0113】
〔合成例20:セルロース誘導体にエーテル結合を有するマレイミド部位が導入された例示化合物94の合成〕
合成例15のステップ1で得たセルロース誘導体-O-NH2の10.0g、合成例17で得られたp-N-スクシンイミド安息香酸クロリド1.22gを用い、上記合成例2と同様な方法にて、セルロース誘導体である例示化合物94を10.6g得た。例示化合物94について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物94には、高分子体であるセルロース誘導体にエーテル結合を有するマレイミド部位が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.22であった。
【0114】
〔合成例21:ABS誘導体にチオエーテル結合を有するマレイミド部位が導入された例示化合物95の合成〕
合成例6のステップ1で得られたABS誘導体-OHの10.0g、2、5-ジヒドロ-2,5-ジオキソ-1H-ピロール-1-プロパノイルクロリド(Chemieliva Pharmaceutical社製)の4.44gを用い、上記合成例2と同様な方法にて、ABS誘導体である例示化合物95を得た。例示化合物95について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物95には、高分子体であるABSを構成するブタジエン二重結合の52%に、チオエーテル結合を有する二重結合部位が導入されたことを確認した。
【0115】
〔合成例22:セルロース誘導体にエステル結合を有するフラン環が導入された例示化合物66の合成〕
前記例示化合物1の10.0g、フルフリル-3-メルカプトプロピオネート(Alfa Chemstry社製)の1.13gを用い、合成例6と同手法のエン-チオール反応によりセルロース誘導体である例示化合物66を10.4g得た。例示化合物66について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物66には、高分子体であるセルロース誘導体にエステル結合を有するフラン環が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.20であった。
【0116】
〔合成例23:セルロース誘導体にウレア構造を有するフラン環が導入された例示化合物71の合成〕
(ステップ1:フラン部位基含有イソシアネートの合成)
3-イソシアネートプロパノイルクロリド(Alfa Chemistry社製)、フルフリルアルコール(東京化成社製)を用い、上記合成例2と同様な方法にて、フラン部位基含有イソシアネートを合成した。
【0117】
(ステップ2:例示化合物71の合成)
セルロース誘導体-Aの10.0g、上記ステップ1で得られたフラン部位基含有イソシアネートの1.18gを用い、Journal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry,2014、52(5)、728と同様な方法にて、セルロース誘導体である例示化合物71を得た。例示化合物71について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物71には、高分子体であるセルロース誘導体にウレア構造を有するフラン環が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.21であった。
【0118】
〔合成例24:セルロース誘導体にケイ素を有するフラン環が導入された例示化合物75の合成〕
合成例4で得られた例示化合物13の10.0g、フルフリル-3-メルカプトプロピオネート(Alfa Chemistry社製)の1.18gを用い、上記合成例6のステップ1と同様なエンチオール反応により、セルロース誘導体である例示化合物75を得た。例示化合物75について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物75には、高分子体であるセルロース誘導体にケイ素を有するフラン環が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.20であった。
【0119】
〔合成例25:セルロース誘導体にエーテル結合を有するフラン環が導入された例示化合物76の合成〕
合成例5で得られた例示化合物16の10g、フルフリル-3-メルカプトプロピオネート(Alfa Chemistry社製)の1.18gを用い、上記合成例6のステップ1と同様なエンチオール反応により、セルロース誘導体である例示化合物76を得た。例示化合物76について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物76には、高分子体であるセルロース誘導体にエーテル結合を有するフラン環が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.22であった。
【0120】
〔合成例26:ABS誘導体にチオエーテル結合を有するフラン環が導入された例示化合物77の合成〕
トヨラック700-314(スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)、東レ社製)の10.0g、フルフリル-3-メルカプトプロピオネート(Alfa Chemistry社製)の4.62gを用い、上記合成例6のステップ1と同様なエンチオール反応により、ABS誘導体である例示化合物77の10.6gを得た。例示化合物77について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物77には、高分子体であるABSを構成するブタジエン二重結合の52%に、チオエーテル結合を有するフラン環が導入されたことを確認した。
【0121】
〔合成例27:セルロース誘導体にエステル結合を有する桂皮酸残基が導入された例示化合物97の合成〕
東京化成社から入手した桂皮酸クロリドを用い、上記合成法2と同様な方法にて、セルロース誘導体である例示化合物97の10.6gを得た。例示化合物97について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物97には、高分子体であるセルロース誘導体にエステル結合を有する桂皮酸残基が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.20であった。
【0122】
〔合成例28:セルロース誘導体にウレア構造を有する桂皮酸残基が導入された例示化合物114の合成〕
(ステップ1:末端アミノ基含有ウレア置換基を有するセルロース誘導体(セルロース誘導体-OCONH-NH2)の合成)
合成例8のステップ1の2-メルカプトエタノール(Aldrich社製)を2-アミノエタンチオール(Aldrich社製)に代えた以外は同様な方法にて、セルロース誘導体-OCONH-NH2を得た。
【0123】
(ステップ2:例示化合物114の合成)
上記ステップで得たセルロース誘導体-OCONH-NH2の10.0g、桂皮酸クロリド1.01gを用い合成例2と同様にして、セルロース誘導体である例示化合物114の10.1gを得た。例示化合物114について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物114には、高分子体であるセルロース誘導体にウレア構造を有する桂皮酸残基が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.22であった。
【0124】
〔合成例29:セルロース誘導体にケイ素を有する桂皮酸残基が導入された例示化合物111の合成〕
合成例19のステップ2で得たセルロース誘導体-Si-OH-2の10.0g、桂皮酸クロリドの1.01gを用い、合成例2と同様にして、セルロース誘導体である例示化合物111の10.5gを得た。例示化合物111について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物111には、高分子体であるセルロース誘導体にケイ素を有する桂皮酸残基が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.21であった。
【0125】
〔合成例30:セルロース誘導体にエーテル結合を有する桂皮酸残基が導入された例示化合物115の合成〕
合成例10のステップ1で得たセルロース誘導体-O-OHの10.0g、桂皮酸クロリドの1.01gを用い、合成例2と同様にして、セルロース誘導体である例示化合物115の10.5gを得た。例示化合物115について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物115には、高分子体であるセルロース誘導体にエーテル結合を有する桂皮酸残基が導入されていることを確認した。また、1H-NMRから算出した置換度は、0.21であった。
【0126】
〔合成例31:ABS誘導体にチオエーテル結合を有する桂皮酸残基が導入された例示化合物117の合成〕
合成例6のステップ1で得られたABS誘導体-OHの10.0g、桂皮酸クロリドの3.94gを用い合成例2と同様にして、ABS誘導体である例示化合物117の10.3gを得た。例示化合物117について、1H-NMR、IRより分析を行った結果、例示化合物117には、高分子体であるABSを構成するブタジエン二重結合の50%に、チオエーテル結合を有する桂皮酸残基が導入されたことを確認した。
【0127】
上記例示した以外の化合物について、上記で示した方法を参照して合成することができる。
【0128】
〔樹脂組成物のその他の添加剤〕
本発明においては、三次元積層体を形成する際に、本発明の樹脂組成物には、本発明に係る樹脂の他に、各種添加剤を本発明の目的効果を損なわない範囲で適用することができる。以下に、適用可能な添加剤の一例を示す。
【0129】
(可塑剤)
本発明において、可塑剤として知られる化合物を添加することは、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水分透過率の低減等の樹脂組成物の改質の観点において好ましい。
【0130】
本発明に適用可能な可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤、エチレングリコールエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、ジグリセリンエステル系可塑剤(脂肪酸エステル)、多価アルコールエステル系可塑剤、ジカルボン酸エステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤等が挙げられる。
【0131】
この中でも多価アルコールエステル系可塑剤(多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤)、多価カルボン酸エステル系可塑剤(多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤)のどちらか、またはその両方を使用することが好ましい。
【0132】
本発明の樹脂組成物を用いた三次元積層体に適用可能な可塑剤の詳細については、例えば、特許第461383号公報の段落(0089)~同(0103)に記載されている化合物を挙げることができる。添加量は、本発明の樹脂組成物が熱溶融し、混錬、射出成型等ができれば特に限定はないが、本発明の樹脂組成物100質量部において、好ましくは0.001~50質量部、より好ましくは0.01~30質量部、更に好ましくは、0.1~15質量部である。
【0133】
(酸化防止剤)
本発明の三次元積層体形成時には、熱による樹脂の分解を防止するため、酸化防止剤を適用することもできる。
【0134】
本発明に適用可能な酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、耐熱加工安定剤、酸素スカベンジャー等が挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にフェノール化合物のヒドロキシ基に対してオルト位置にかさ高い分岐アルキルを有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0135】
本発明の樹脂組成物を用いた三次元積層体に適用可能な酸化防止剤の詳細については、例えば、特許第461383号公報の段落(0104)~同(0109)に記載されている化合物を挙げることができる。酸化防止剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明の樹脂組成物100質量部において、好ましくは0.001~5質量部、より好ましくは0.01~3.0質量部、更に好ましくは、0.1~1.0質量部である。
【0136】
(光安定剤)
本発明の三次元積層体形成時には、熱や光による樹脂の分解を防止するために、光安定剤を適用することもできる。
【0137】
本発明に適用可能な光安定剤としては、N原子近傍にかさ高い有機基(例えば、かさ高い分岐アルキル基)を有するところのヒンダードアミン光安定剤(HALS)化合物が挙げられ、これは既知の化合物であり、例えば、米国特許第4619956号明細書の第5~11欄及び米国特許第4839405号明細書の第3~5欄に記載されているように、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含まれる。光安定剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明の樹脂組成物100質量部において、好ましくは0.001~5.0質量部、より好ましくは0.01~3.0質量部、更に好ましくは、0.1~1.0質量部である。
(酸掃去剤、紫外線吸収剤)
本発明の樹脂組成物を用いた三次元積層体に適用可能な添加剤としては、例えば、特許第461383号公報の段落(0115)~同(0117)に記載されている酸掃去剤、段落(0118)~同(0122)に記載されている紫外線吸収剤等を挙げることができる。
(他の添加剤)
また、本発明の樹脂組成物を用いた三次元積層体に併用できる各種樹脂添加剤としては、微粒子、離型剤、染顔料、難燃剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、分散剤、防菌剤などが挙げられる。また、各種充填剤も配合することができる。配合する充填材は、この種の熱溶融押出式用材料一般に用いられるものであれば特に制限は無く、粉末状、繊維状、粒状及び板状の無機充填材が、また、樹脂系の充填材又は天然系の充填材も好ましく使用できる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0138】
《三次元積層体》
〔樹脂組成物から成形体の形成〕
本発明の熱溶融押し出し方式用の樹脂組成物は、例えば、混合機を使用して前記の各成分を混合した後、溶融混練することによって製造することができる。混合機としては、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー等が使用され、溶融混練には、単軸混練押し出し機、二軸混練押し出し機、ニーダー等が使用される。また、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみ予め混合してフィーダーで押し出し機に供給して溶融混練する方法も採用できる。特に、本発明に係る極性基を有する化合物成分を他の成分を混合せずにフィーダーで押し出し機に供給して溶融混練する方法は、押し出し作業性の点で好ましい。
【0139】
本発明の樹脂組成物から成形体を製造する方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂について一般に採用されている成形法を採用することもできる。例えば、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング)成形法、押し出し成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法も採用できる。
【0140】
本発明において、熱溶融押し出し方式による成形体の形成方法としては、例えば、射出成形法を用いて、熱溶融した樹脂組成物を、所定のサイズの金型中に射出して特定の形状のプレート状成形体を形成する方法や、熱溶融した樹脂組成物をフィラメント状に熱溶融押し出しした後、大気中又は水中にて冷却・固化して、成形体として、フィラメント材料としてフィラメント糸を形成する方法が挙げられる。フィラメント糸は、連続線状であり、ボビンに巻いて保管する、又はかせ状にすることにより、コンパクトな形態にできるため好ましい。
【0141】
冷却・固化に使用する液体としては、水、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、シリコーンなどが使用できるが、液体浴を高温にする必要がないため、作業性のよい、環境汚染を起こしにくい水が最も好ましい。水が最も好ましい。
【0142】
冷却・固化されたフィラメント材料であるフィラメント糸は乾燥後、そのまま巻き取ってもよい。あるいは、必要に応じて、温度20~80℃の雰囲気中で延伸してもよい。延伸する場合は、一段又は二段以上の多段で行うことができる。
【0143】
〔三次元積層体の形成〕
本発明の三次元積層体は、成形体形成材料を含む層を2層以上有する三次元積層体であって、成形体形成材料を含む層の少なくとも1層が、本発明の樹脂組成物を含むことを特徴とする。更に好ましくは、成形体形成材料を含む層のすべてが、本発明の樹脂組成物を含む構成であることが好ましい。
【0144】
三次元積層体は、例えば、前述の様にプレート状の成形体を複数層積層した構成であっても、フィラメント状の成形体を積層した構成であってもよい。
【0145】
例えば、プレート状の成形体を積層する際には、プレート間の密着性を高める点から、第1層目の第1成形体プレートを形成した後、第1プレート状上に溶媒を付与した後、第2層目の第2成形体プレートを付与して積層する方法であってもよい。
【0146】
また、熱溶融押し出し方式により製造する本発明の三次元積層体の製造方法では、少なくとも、第1の成形体を形成する工程と、前記第1の成形体上に、第2の成形体を積層して積層体を形成する工程と、かつ前記積層体に硬化処理を施す工程と、を有することを特徴とする。
【0147】
ここでいう積層体の硬化処理としては、100℃付近の熱、或いは紫外領域の光等により機能性基同士が反応し、共有結合を形成する処理を指す。積層体を形成した後の各成形体間の接着強度を高めるための方法であり、適用する樹脂組成物において、二重結合部位と無触媒で反応するニトリルオキシド基の反応や、二重結合部位とチオール基によりスルフィド結合を形成するエン-チオール反応、100℃付近で閉環し、150℃付近で開環するフラン部位とマレイミド部位を用いたDiels-Alder反応は、100℃付近の熱を付与することにより共有結合を形成し、硬度が向上する。また、桂皮酸残基を有する樹脂組成物を用いる系では、活性エネルギー、例えば、紫外線を照射することにより二量化が起こり、層間で共有結合が形成することで硬度が向上する。
【0148】
本発明の熱溶融押し出し方式用の樹脂組成物を用いた三次元積層体の製造方法においては、特に、樹脂組成物としてフィラメント材料を用いる場合には、3Dプリンターを適用することが有効である。
【0149】
3Dプリンターによる三次元積層体の成形方法としては、熱溶融積層法(FDM法)、インクジェット方式、光造形方式、石膏パウダー積層方式、レーザー焼結方式(SLS法)等が挙げられるが、本発明においては、熱溶融押し出し方式を用いた熱溶融積層法(FDM法)により製造することを特徴とする。以下、熱溶融積層法について説明する。
【0150】
3Dプリンターは一般に、チャンバーを有しており、該チャンバー内に、加熱可能な基盤、ガントリー構造に設置された押し出しヘッド、加熱溶融器、本発明の熱溶融押し出し方式の成形体形成に用いる樹脂組成物(混練物)のガイド、熱溶融押し出し式用材料カートリッジ設置部等の原料供給部を備えている。3Dプリンターの中には押し出しヘッドと加熱溶融器とが一体化されているものもある。
【0151】
押し出しヘッドはガントリー構造に設置されることにより、基盤のX-Y平面上に任意に移動させることができる。基盤は目的の3次元積層体や保持材等を構築するプラットフォームであり、加熱保温することで各層を構成する成形体間の密着性を得たり、得られる成形体を所望の3次元積層体として寸法安定性を改善したりできる仕様であることが好ましい。押し出しヘッドと基盤とは、通常、少なくとも一方がX-Y平面に垂直なZ軸方向に可動となっている。
【0152】
3Dプリンター成形用のフィラメントは原料供給部から繰り出され、対向する1組のローラー又はギアーにより押し出しヘッドへ送り込まれ、押し出しヘッドにて加熱溶融され、先端ノズルより押し出される。例えば、CAD(Computer Aided Design)モデルを基にして発信される信号により、押し出しヘッドはその位置を移動しながら熱溶融押し出し式用材料であるフィラメント材料を基盤上に供給して積層堆積させていく。この工程が完了した後、基盤から積層堆積物を取り出し、必要に応じて保持材等を剥離したり、余分な部分を切除したりして所望の3次元積層体として得ることができる。
【0153】
押し出しヘッドへ連続的に熱溶融押し出し式用材料であるフィラメント材料として供給する手段は、熱溶融押し出し式用材料である本発明の樹脂組成物を繰り出て供給する方法、粉体又は液体の本発明の樹脂組成物をタンク等から定量フィーダーを介して供給する方法、ペレット又は顆粒の本発明の樹脂組成物を押し出し機等で可塑化したものを押し出して供給する方法等が例示できるが、工程の簡便さと供給安定性の観点から、熱溶融押し出し方式用材料である本発明の樹脂組成物を繰り出して供給する方法が最も好ましい。
【0154】
3Dプリンターに本発明の樹脂組成物であるフィラメント材料を供給する場合、ニップローラーやギアローラー等の駆動ローラーにフィラメント材料を係合させて、引き取りながら押し出しヘッドへ供給することが一般的である。ここでフィラメント材料と駆動ローラーとの係合による把持をより強固にすることで原料供給を安定化させるために、フィラメント材料の表面に微小凹凸形状を転写させておいたり、係合部との摩擦抵抗を大きくするための無機添加剤、展着剤、粘着剤、ゴム等を配合したりすることも好ましい。
【0155】
本発明の熱溶融押し出し方式で適用する樹脂組成物は、押し出し時に適当な流動性を得るための温度が、通常190~240℃程度と、汎用的な3Dプリンターが設定可能な設定可能な温度であり、本発明に用いられる製造方法においては、加熱押し出しヘッドの温度を通常230℃以下、好ましくは200~220℃とし、また、基盤温度を通常80℃以下、好ましくは50~70℃として安定的に造形物を製造することができる。
【0156】
押し出しヘッドから吐出される樹脂組成物の温度(吐出温度)は180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、一方、250℃以下であることが好ましく、240℃以下であることがより好ましく、230℃以下であることが更に好ましい。熱溶融押し出し方式の成形体形成に用いる樹脂組成物の温度が上記下限値以上であると、耐熱性の高い樹脂を押し出す上で好ましく、また、一般に造形物中に糸引きと呼ばれる、樹脂組成物が細く伸ばされた破片が残り、外観を悪化させることを防ぐ観点からも好ましい。一方、樹脂組成物の温度が上記上限値以下であると、熱可塑性樹脂の熱分解や焼け、発煙、臭い、べたつきといった不具合の発生を防ぎやすく、また、高速で吐出することが可能となり、造形効率が向上する傾向にあるために好ましい。
【0157】
押し出しヘッドから吐出される熱溶融押し出し方式の成形体形成に用いる樹脂組成物は、好ましくは直径0.01~1mm、より好ましくは直径0.02~0.5mmのフィラメント状で吐出され、モノフィラメント糸を形成する。このようなモノフィラメント糸で形成されると、汎用性が高い造形物となる。
【0158】
3Dプリンター成形用の樹脂組成物を用いて3Dプリンターにより三次元積層体を製造するにあたり、押し出しヘッドから吐出させたモノフィラメント糸状の樹脂組成物を積層しながら三次元積層体を成形する際に、先に吐出させた樹脂組成物より形成されるモノフィラメント糸と、その上に吐出させた第2の樹脂組成物のモノフィラメント糸との接着性が十分でないことや吐出ムラによって、成形物の表面に凹凸部(段差)が生じることがある。成形物の表面に凹凸部が存在すると、外観の悪化だけでなく、造形物が破損しやすい等の問題が生じることがある。
【0159】
本発明の3Dプリンター成形用の樹脂組成物は、成形時の吐出ムラが抑制され、外観や表面性状等に優れた成形体を安定して製造することができる。
【0160】
3Dプリンターによって押し出しヘッドから吐出させたモノフィラメント糸の樹脂組成物を積層しながら三次元積層体を成形する際に、樹脂組成物の吐出を止めた上で次工程の積層箇所にノズルを移動する工程がある。この時、樹脂組成物が途切れずに細いフィラメント糸が生じ、糸を引いたように造形物表面に残ることがある。上記の様な糸引きが発生すると三次元積層体の外観が悪化する等の問題が生じることがある。
【0161】
3Dプリンターによって押し出しヘッドから吐出させたモノフィラメント糸の熱溶融押し出し方式用材料を積層しながら三次元積層体を成形する際に、押し出しヘッドのノズル部に付着することがあり、さらに付着した樹脂組成物が熱によって着色し、黒い異物(黒点や黒条)となることがある。そして、このような異物が造形物中に混入することで、外観の悪化だけでなく、造形物が破損しやすい等の問題が生じることがある。
【0162】
本発明の3Dプリンター用の樹脂組成物は、耐熱性に優れ、ノズル部に付着しても熱による着色が生じにくいことから、優れた外観の造形物を安定して製造することができる。
【0163】
《樹脂組成物及び三次元積層体の適用分野》
本発明の樹脂組成物は、透明性、高剛性、耐熱性に優れているという特徴がある。この様な特徴を有する本発明の樹脂組成物は、3Dプリンター用の三次元積層体として幅広い分野に使用することが可能であり、電気・電子機器やその部品、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌用部材、医療用器具、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などの各種用途に有用であり、特に電気・電子機器、車輌用部材及び医療用器具への適用が期待できる。
【0164】
電気・電子機器やOA機器、情報端末機器のハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ部材としては、パソコン、ゲーム機、テレビ等のディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ、携帯オーディオプレーヤー等のハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ部材が挙げられる。
【0165】
車輌用部材としては、へッドランプ、ヘルメットシールド等が挙げられる。また、内装部材としては、インナードアハンドル、センターパネル、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、ラゲッジフロアボード、カーナビゲーション等のディスプレイハウジング等が挙げられる。
【0166】
医療用器具としては、義手、義足への適用が挙げられる。
【実施例
【0167】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0168】
実施例1
《樹脂組成物を構成する樹脂の調製》
前述の合成例に従って、樹脂として、セルロース誘導体-A、例示化合物1、例示化合物13、例示化合物16、例示化合物18、例示化合物21、例示化合物24、例示化合物37、例示化合物38、例示化合物40、例示化合物43、例示化合物44、例示化合物55、例示化合物58、例示化合物60、例示化合物61、例示化合物66、例示化合物71、例示化合物75、例示化合物76、例示化合物77、例示化合物86、例示化合物89、例示化合物91、例示化合物94、例示化合物95、例示化合物97、例示化合物114、例示化合物111、例示化合物115及び例示化合物117を調製した。
《試験プレートの作製》
上記方法で調製した樹脂を用いて、樹脂組成物を調製した後、各試験プレートを作製した。
〔試験プレートTP-Xの作製〕
(樹脂組成物の調製)
樹脂成分:セルロース誘導体-A 91質量部
可塑剤:ペンタエリスリトールテトラアセチルサリチレート(略称:PETAS、下記合成方法を参照) 8質量部
酸化防止剤:イルガノックス1010(BASFジャパン社製、略称:I1010) 0.5質量部
光安定剤:チヌビン144(BASFジャパン社製、略称:T144)
0.5質量部
上記の各構成材料を、Xplore MC15小型混練機(Xplore Instruments社製)のホッパーへ順次投入し、ホッパーからスクリューへ粉体を送り込み、200℃、130rpm、5分間の条件下で溶融混練して樹脂組成物を調製した後、樹脂組成物を射出成型機(Xplore Instruments社製)のシリンダー(200℃)に移動した。シリンダーを射出成型機にセットした後、60℃の金型内へ射出成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ8mmの板状の試験プレートTP-Xを作製した。
【0169】
(可塑剤:ペンタエリスリトールテトラアセチルサリチレート(略称:PETAS)の合成)
可塑剤として、ペンタエリスリトールテトラアセチルサリチレートを、Chem.Abstr.64号9810h頁に記載の方法を参考にして合成した。
【0170】
反応容器中に、136質量部のペンタエリスリトールと、1070質量部のサリチル酸フェニルと、7質量部の炭酸カリウムを添加し、13.3kPa下、155℃で3時間加熱したのち、375質量部のフェノールを留去した。
【0171】
次いで、反応容器を常圧に戻した後、100℃まで冷却し、1質量部の濃硫酸、450質量部の無水酢酸を添加し、100℃で1時間撹拌した。反応終了後、2000質量部のトルエンを添加して氷冷すると、白色の結晶が生成した。生成した白色結晶をろ過し、純水で2度洗浄した後、真空下40℃で減圧乾燥を行い、白色結晶であるペンタエリスリトールテトラアセチルサリチレートを667質量部(収率85%)得た。得られた白色結晶の融点は47℃であった。
【0172】
〔試験プレートTP-Aの作製〕
上記試験プレートTP-Xの作製において、試験プレートを作製する金型のサイズを、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmに変更した以外は同様にして、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの板状の試験プレートTP-Aを作製した。
【0173】
〔試験プレートTP-1-1の作製〕
上記試験プレートTP-Aの樹脂組成物の調製において、樹脂成分として、セルロース誘導体-Aを、セルロース誘導体である例示化合物1に変更した以外は同様にして、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの板状の試験プレートTP-1-1を作製した。
【0174】
〔試験プレートTP-1-2~TP-1-5の作製〕
上記試験プレートTP-1-1の作製において、表Iに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物18、13、16、21に変更した以外は同様にして、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの板状の試験プレートTP-1-2~TP-1-5を作製した。
【0175】
〔試験プレートTP-2-1~TP-2-5の作製〕
上記試験プレートTP-1-1の作製において、表Iに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物24、38、37、40、43に変更した以外は同様にして、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの板状の試験プレートTP-2-1~TP-2-5を作製した。
【0176】
〔試験プレートTP-3-1~TP-3-5の作製〕
上記試験プレートTP-1-1の作製において、表Iに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物44、58、55、60、61に変更した以外は同様にして、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの板状の試験プレートTP-3-1~TP-3-5を作製した。
【0177】
〔試験プレートTP-4-1~TP-4-5の作製〕
上記試験プレートTP-1-1の作製において、表Iに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物86、91、89、94、95に変更した以外は同様にして、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの板状の試験プレートTP-4-1~TP-4-5を作製した。
【0178】
〔試験プレートTP-5-1~TP-5-5の作製〕
上記試験プレートTP-1-1の作製において、表Iに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物66、71、75、76、77に変更した以外は同様にして、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの板状の試験プレートTP-5-1~TP-5-5を作製した。
【0179】
〔試験プレートTP-6-1~TP-6-5の作製〕
上記試験プレートTP-1-1の作製において、表Iに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物97、114、111、115、117に変更した以外は同様にして、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの板状の試験プレートTP-6-1~TP-6-5を作製した。
【0180】
《造形物の作製》
〔造形物ST-101の準備:比較例〕
上記作製した長さ80mm、幅10mm、厚さ8mmの試験プレートTP-X単体を、造形物ST-101とした。
【0181】
〔造形物ST-102、ST-130の作製:比較例〕
上記作製した長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験プレートTP-A上に、スポイトにてジクロロメタンを数滴滴下したのち、直ちに同じく長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験プレートTP-Aを張り合わせて、2枚の試験プレートを積層した造形物ST-102を作製した。同様にして、ST-130を作製した。
【0182】
〔造形物ST-103の作製:本発明〕
上記作製した長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験プレートTP-1-1上に、スポイトにてジクロロメタンを数滴滴下したのち、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験プレートTP-2-2を張り合わせて、2枚の試験プレートを積層した造形物ST-103を作製した。
【0183】
〔造形物ST-104~ST-129、ST-131~ST-138の作製:本発明〕
上記造形物ST-103の作製において、試験プレートTP-1-1及びTP-2-2を、それぞれ表Iに記載の試験プレートの組み合わせに変更した以外は同様にして、2枚の試験プレートを積層した造形物ST-104~ST-129、ST-131~ST-138を作製した。
【0184】
《造形物の硬化処理》
(造形物ST-101~ST-129の硬化処理)
上記作製した造形物ST-101~ST-129を100℃のオーブンに投入し、10時間後取り出し、室温まで放冷した。
【0185】
(造形物ST-130~ST-138の硬化処理)
上記作製した造形物ST-130~ST-138について、365nmのUV光源(2000mW/cm2)を10cmの距離に調整し、60℃で3時間照射して、硬化処理を行った。
【0186】
《造形物の評価》
(強度測定)
上記作製した造形物ST-101~138について、TENSIRON(ORIENTEC RTC-1250A;株式会社A&D社製)を用い、ギャップ間距離64mm、押込み速度2mm/minの条件下で曲げ強度(MPa)を測定した。試験プレートTP-X単体で構成されている造形物ST-101の強度(MPa)を基準(100%)とし、これに対する各造形物の強度の相対値を求め、下記の基準に従って、造形物の上からの応力に対する強度を評価した。
【0187】
◎:試験プレートTP-X(造形物ST-101)の強度の100%以上である
○:試験プレートTP-X(造形物ST-101)の強度の75%以上、100%未満である
△:試験プレートTP-X(造形物ST-101)の強度の50%以上、75%未満である
×:試験プレートTP-X(造形物ST-101)の強度の50%未満である。
【0188】
(強制劣化処理後の強度)
上記作製した造形物ST-101~ST-129を、100℃のオーブンに投入し、10時間後取り出し、室温まで放冷した後に、60℃・90%RHの環境下に1週間置いたのち、23±3℃、55±3%RHの環境下で1時間以上調湿し、上記と同様の方法で強度測定を行なった。
【0189】
一方、造形物ST-130~ST-138は、365nmのUV光源(2000mW/cm2)を10cmの距離に調整し、60℃で3時間照射した後に、60℃・90%RHの環境下にて365nmのUV光源(2000mW/cm2)を10cmの距離に調整し、6時間照射した。その後、23±3℃、55±3%RHの環境下で1時間以上調湿し、上記と同様の方法で強度測定を行なった。
【0190】
次いで、上記方法と同様にして、試験プレートTP-X単体で構成されている造形物ST-101の強制劣化処理後の強度(MPa)を基準(100%)とし、これに対する各造形物の強度の相対値を求め、上記と同様の基準に従って評価した。
【0191】
以上により得られ結果を、表Iに示す。
【表1】
【0192】
表Iに記載の結果より明らかなように、樹脂組成物として少なくとも一方に本発明に係る一般式(1)で表される置換基を有するセルロース誘導体を用いて作製した造形物は、比較例に対し、上からの応力に対する強度が向上していることがわかる。特に、2つの試験プレートのいずれも本発明に係る一般式(1)で表される置換基を有するセルロース誘導体を用いて作製した造形物が、特に優れた効果を発現していることがわかる。また、本発明の造形物は、強制劣化処理を施した後でも、優れた強度が維持されていることがわかる。
【0193】
実施例2
《造形物形成用のフィラメントの作製》
〔フィラメントFI-Aの作製〕
ラボプラストミル マイクロ(東洋精機社製)を用い、ダイ、シリンダー1及びシリンダー2の温度をそれぞれ220℃とし、スクリュー回転数を18rpmに設定した。また、粉体フィーダーの回転数を20rpmに設定し、巻き取り速度を2.3m/minとした。
【0194】
(フィラメントFI-A作製用の樹脂組成物の調製〕
樹脂成分:セルロース誘導体-A 91質量部
可塑剤:ペンタエリスリトールテトラアセチルサリチレート(略称:PETAS、前出) 8質量部
酸化防止剤:イルガノックス1010(BASFジャパン社製、略称:I1010) 0.5質量部
光安定剤:チヌビン144(BASFジャパン社製、略称:T144)
0.5質量部
上記のフィラメントFI-A作製用組成物を粉体フィーダーへ投入し、220℃に加熱し、直径が1.75mmのフィラメントFI-Aを作製した。
【0195】
〔フィラメントFI-1-1の作製〕
上記フィラメントFI-Aの作製において、樹脂成分として、セルロース誘導体-Aを、セルロース誘導体である例示化合物1に変更した以外は同様にして、直径が1.75mmのフィラメントFI-1-1を作製した。
【0196】
〔フィラメントFI-1-2~FI-1-5の作製〕
上記フィラメントFI-1-1の作製において、表IIに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物18、13、16、21に変更した以外は同様にして、直径が1.75mmのフィラメントFI-1-2~FI-1-5を作製した。
【0197】
〔フィラメントFI-2-1~FI-2-5の作製〕
上記フィラメントFI-1-1の作製において、表IIに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物24、38,37,40、43に変更した以外は同様にして、直径が1.75mmのフィラメントFI-2-1~FI-2-5を作製した。
【0198】
〔フィラメントFI-3-1~FI-3-5の作製〕
上記フィラメントFI-1-1の作製において、表IIに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物44、58、55、60、61に変更した以外は同様にして、直径が1.75mmのフィラメントFI-3-1~FI-3-5を作製した。
【0199】
〔フィラメントFI-4-1~FI-4-5の作製〕
上記フィラメントFI-1-1の作製において、表IIに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物86、91、89、94、95に変更した以外は同様にして、直径が1.75mmのフィラメントFI-4-1~FI-4-5を作製した。
【0200】
〔フィラメントFI-5-1~FI-5-5の作製〕
上記フィラメントFI-1-1の作製において、表IIに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物66、71、75、76、77に変更した以外は同様にして、直径が1.75mmのフィラメントFI-5-1~FI-5-5を作製した。
【0201】
〔フィラメントFI-6-1~FI-6-5の作製〕
上記フィラメントFI-1-1の作製において、表IIに示すように、樹脂組成物として、例示化合物1を、それぞれ例示化合物97、114、111、115、117に変更した以外は同様にして、直径が1.75mmのフィラメントFI-6-1~FI-6-5を作製した。
【0202】
《造形物(フィラメント積層体)の作製》
〔造形物FP-201、FP-229の作製:比較例〕
長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの造形物をCADで作製するSTL Dataを2ヘッドタイプの熱溶解積層プリンター(以下、FDMプリンターともいう。)であるValue 3D MagiX MF-2200D(武藤工業社製)に読み込ませ、更に2つのヘッドに、それぞれフィラメントFI-Aをセットした。テーブル温度を100℃、積層ピッチを交互に0.19mmで造形を実施し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの造形物FP-201を作製した。同様にして、FP-229を作製した。
【0203】
〔造形物FP-202の作製〕
上記造形物FP-201の作製において、Value 3D MagiX MF-2200D(武藤工業社製)の一方のヘッドにフィラメントFI-1-1をセットし、他方のヘッドにフィラメントFI-2-2をセットした。テーブル温度を100℃、積層ピッチを交互に0.19mmで造形を実施し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの造形物FP-202を作製した。
【0204】
〔造形物FP-203~FP-228、FP-230~FP-237の作製〕
上記造形物FP-202の作製において、Value 3D MagiX MF-2200D(武藤工業社製)の2つのヘッドに装着するフィラメントを、それぞれ表IIに記載のフィラメントの組み合わせに変更した以外は同様にして、2つのフィラメントを積層した造形物FP-203~FP-228、FP-230~FP-237を作製した。
【0205】
《造形物(フィラメント積層体)の硬化処理》
(造形物FP-201~FP-228の硬化処理)
上記作製した造形物FP-201~FP-228を100℃のオーブンに投入し、10時間後取り出し、室温まで放冷した。
【0206】
(造形物FP-229~FP-237の硬化処理)
上記作製した造形物FP-229~FP-237について、365nmのUV光源(2000mW/cm2)を10cmの距離に調整し、60℃で3時間照射して、硬化処理を行った。
【0207】
《造形物の評価》
(強度測定)
上記作製した造形物FP-201~FP-237について、TENSIRON(ORIENTEC RTC-1250A;株式会社A&D社製)を用い、ギャップ間距離64mm、押込み速度2mm/minの条件下で曲げ強度(MPa)を測定した。フィラメントFI-Aのみで構成されている造形物FP-201の強度(MPa)を基準(100%)とし、これに対する各造形物の強度の相対値を求め、下記の基準に従って、フィラメントにより形成された各造形物の上からの応力に対する強度を評価した。
【0208】
レベル3:造形物FP-201の強度の120%以上である
レベル2:造形物FP-201の強度の110%以上、120%未満である
レベル1:造形物FP-201の強度の100%以上、110%未満である
レベル0:造形物FP-201の強度の100%未満である。
【0209】
(強制劣化処理後の強度)
上記作製した造形物FP-201~FP-228を、100℃のオーブンに投入し、10時間後取り出し、室温まで放冷した後に、60℃・90%RHの環境下に1週間置いたのち、23±3℃、55±3%RHの環境下で1時間以上調湿し、上記と同様の方法で強度測定を行なった。
【0210】
一方、造形物FP-229~FP-237は、365nmのUV光源(2000mW/cm2)を10cmの距離に調整し、60℃で3時間照射した後に、60℃・90%RHの環境下にて365nmのUV光源(2000mW/cm2)を10cmの距離に調整し、6時間照射した。その後、23±3℃、55±3%RHの環境下で1時間以上調湿し、上記と同様の方法で強度測定を行なった。
【0211】
次いで、上記方法と同様にして、フィラメントFI-A単体で構成されている造形物FP-201の強制劣化処理後の強度(MPa)を基準(100%)とし、これに対する各造形物の強度の相対値を求め、上記と同様の基準に従って評価した。
【0212】
以上により得られ結果を、表IIに示す。
【表2】
【0213】
表IIに記載の結果より明らかなように、少なくとも一方に本発明に係る一般式(1)で表される置換基を有するセルロース誘導体又はABS誘導体を用いて作製した造形物は、比較例に対し、上からの応力に対する強度が向上していることがわかる。特に、2つのフィラメントのいずれも本発明に係る一般式(1)で表される置換基を有するセルロース誘導体又はABS誘導体を用いて作製した造形物が、特に優れた効果を発現していることがわかる。また、本発明の造形物は、強制劣化処理を施した後でも、優れた強度が維持されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明の樹脂組成物は、透明性、高剛性、耐熱性に優れている樹脂組成物であり、3Dプリンター用の三次元積層体として幅広い分野に使用することが可能であり、電気・電子機器やその部品、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌用部材、医療用器具、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などの各種用途に有用であり、特に電気・電子機器、車輌用部材及び医療用器具に好適に利用できる。