(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】エレクトレット
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20240528BHJP
B03C 3/28 20060101ALI20240528BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20240528BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B01D39/16 A
B03C3/28
C08L23/12
C08K5/09
(21)【出願番号】P 2021540958
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2020031197
(87)【国際公開番号】W WO2021033700
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019151213
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 義幸
(72)【発明者】
【氏名】原田 諭
(72)【発明者】
【氏名】坂口 恵子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 禎仁
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-520728(JP,A)
【文献】特開2018-040098(JP,A)
【文献】特表2013-540904(JP,A)
【文献】特表2018-523761(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0079145(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/16
B03C 3/28
C08L 23/12
C08K 5/09
D04H 3/00
D06M 10/00
H01G 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂及び含窒素化合物を含むエレクトレットであって、
前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、前記含窒素化合物が0.1~5質量部含 まれており、
前記エレクトレットは脂肪酸マグネシウム塩、脂環酸マグネシウム塩、及び芳香族マグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記含窒素化合物は2,2,6,6-テトラメチルピペリジルの構造及びトリアジン構造の少なくとも一方を含むヒンダードアミン系化合物であり、
前記エレクトレットにおけるマグネシウム元素の含有割合が5~100ppmであり、
粒径0.3~0.5μmの粒子を捕集対象としたとき、下記式で表わされるQF値が1.00mmAq
-1以上であることを特徴とするエレクトレット。
QF[mmAq
-1]=-[ln(粒子透過率(%)/100)]/[通気抵抗(mmAq)]
【請求項2】
脂肪酸マグネシウム塩を含む請求項1に記載のエレクトレット。
【請求項3】
繊維集合体である請求項1
又は2に記載のエレクトレット。
【請求項4】
メルトブローン法により作製された請求項1~
3のいずれかに記載のエレクトレット。
【請求項5】
フィルターに用いられる請求項1~
4のいずれかに記載のエレクトレット
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレクトレット及びそれを用いたフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防塵マスク、各種空調用エレメント、空気清浄機、キャビンフィルター、各種装置において集塵、保護、通気などを目的とした多孔質フィルターが用いられている。
【0003】
多孔質フィルターのうち、繊維状物からなるフィルターは高い空隙率を持ち、長寿命、低通気抵抗という利点を有しているため、幅広く用いられている。上記の繊維状物からなるフィルターでは、接触付着、拡散、慣性衝突などの機械的捕集機構により繊維上に粒子を捕捉する。これらの機構は粒子の物性、フィルターの繊維径、粒子の通過風速などにより変動するが、実用的な使用環境において、捕捉する粒子の空気力学相当径が0.1~1.0μm程度の場合にフィルターの粒子捕集効率が最も低くなることが知られている。
【0004】
空気力学相当径が0.1~1.0μm程度の粒子に対するフィルターでの粒子の捕集効率を向上させるため、電気的な引力を併用する方法が知られている。例えば、捕集対象となる粒子に電荷を与える方法、フィルターに電荷を与える方法、フィルターを電界中に設置する方法などが知られており、上記の方法を複数組み合わせた方法とすることも知られている。フィルターに電荷を与える方法としては、電極間にフィルターを配置し通風時に誘電分極させる方法や絶縁材料に長寿命の静電電荷を付与する方法が知られており、特に後者の手法の場合には、外部電源などのエネルギーを必要としないため、このような絶縁材料が含まれたフィルターは、エレクトレットフィルターとして幅広く用いられている。
【0005】
エレクトレットフィルターの捕集効率を向上させるために、繊維状物に対して液体を接触又は衝突させる方法(液体接触荷電法)により繊維状物に静電電荷を付与してエレクトレットとすることが好ましいことが知られている。例えば、コストと性能とを両立したエレクトレットとして、ポリオレフィン樹脂を主成分とする樹脂にヒンダードアミン系化合物などの含窒素化合物を添加した混合物から形成された繊維状物に水などの液体と接触させることにより静電電荷を付与したエレクトレットが知られている。
【0006】
ポリオレフィン樹脂を主成分とする繊維状物に対して液体接触荷電法により帯電されたエレクトレットウェブとして以下の特許文献1~3が開示されている。特許文献1には、熱可塑性高分子材から製造される繊維を含む不織エレクトレットウェブが開示されており、前記熱可塑性高分子材は、ポリマーと、極性液体での処理によって前記繊維に生成される電荷をトラップする第1の添加剤(a)と、29-50の炭素原子を有するカルボン酸および1個もしくは2個の第一級および/または第二級アミノ基を有するとともに脂肪族基中に1-6の炭素原子を有する脂肪族アミンに由来する有機アミドを含む第2の添加剤(b)とを含んでいる。特許文献2には、静電電荷が付与されフッ素を担持している担体に補強材が積層されたエレクトレット材料が開示されている。また、特許文献3には、熱可塑性樹脂と所定の帯電強化添加剤とを含むエレクトレットウェブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6346640号公報
【文献】特開2018-202369号公報
【文献】特表2018-523761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献では、エレクトレットやエレクトレットフィルターにポリオレフィン樹脂及びマグネシウム元素を含む場合の濾過性能については改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、マグネシウム元素の含有割合を少量にすることにより、濾過性能に優れたエレクトレットおよびそれを用いたフィルターが得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の発明を含む。
[1]ポリオレフィン樹脂及び含窒素化合物を含むエレクトレットであって、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、前記含窒素化合物が0.1~5質量部含まれており、前記エレクトレットにおけるマグネシウム元素の含有割合が5~100ppmであり、粒径0.3~0.5μmの粒子を捕集対象としたとき、下記式で表わされるQF値が1.00mmAq-1以上であることを特徴とするエレクトレット。
QF[mmAq-1]=-[ln(粒子透過率(%)/100)]/[通気抵抗(mmAq)]
[2]脂肪酸マグネシウム塩を含む上記[1]に記載のエレクトレット。
[3]前記含窒素化合物がヒンダードアミン系化合物を含む上記[1]又は[2]に記載のエレクトレット。
[4]繊維集合体である上記[1]~[3]のいずれかに記載のエレクトレット。
[5]メルトブローン法により作製された上記[1]~[4]のいずれかに記載のエレクトレット。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載のエレクトレットを用いたフィルター。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエレクトレットおよびそれを用いたフィルターは、QF値に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエレクトレットは、ポリオレフィン樹脂及び含窒素化合物を含み、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、前記含窒素化合物が0.1~5質量部含まれており、前記エレクトレットにおけるマグネシウム元素の含有割合が5~100ppmであり、前記エレクトレットのQF値は1.00mmAq-1以上である。
【0012】
<ポリオレフィン樹脂>
本発明のエレクトレットは、形状の自由度及びエレクトレットの電荷安定性の観点から、疎水性かつ電気抵抗の高いポリオレフィン樹脂を用いている。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、オクテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、メチル-1-ペンテン、環状オレフィンなどのオレフィンの単独重合体や2種類以上の上記オレフィンからなる共重合体が挙げられる。ポリオレフィン樹脂は上記重合体又は共重合体の1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を選択して組み合わせて使用してもよい。ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン及びポリメチルペンテンから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリプロピレンを含むことがより好ましい。エレクトレット100質量部中におけるポリオレフィン樹脂の含有割合が80質量部以上であることが好ましく、85質量部以上であることがより好ましく、90質量部以上であることがさらに好ましく、95質量部以上であることが特に好ましく、97質量部以上であることが最も好ましい。ポリオレフィン樹脂の含有割合の上限は特に限定されず、例えば99.5質量部以下であり、99質量部以下であることが好ましい。なお、シースコア繊維やサイドバイサイド繊維など繊維の左右や芯鞘で含有している樹脂を変えている場合には、ポリオレフィン樹脂が含まれている部分のみを本発明のエレクトレットとする。
【0013】
<含窒素化合物>
ポリオレフィン樹脂100質量部中に対する含窒素化合物の含有割合が0.1~5質量部であり、0.5~3質量部であることが好ましく、0.75~1.5質量部であることがより好ましい。なお、エレクトレットにおいて2種類以上の繊維を混ぜている場合や一つの繊維に2種類以上の樹脂を混ぜている場合にはポリオレフィン樹脂に含まれている含窒素化合物の割合のことを指す。エレクトレット中にポリオレフィン以外の樹脂が含まれている場合であっても、ポリオレフィン以外の樹脂は溶媒・酸塩基に溶解したり、染色性が異なるため、判別可能であり、DSCやNMRなどの定量法でもポリオレフィン樹脂を判別可能である。含窒素化合物の含有割合が0.1質量部より低い場合には電荷量が低くなるため濾過特性が低下してしまい、5質量部より高い場合には吸湿性の増大によりエレクトレットとしての安定性が失われる。
【0014】
エレクトレット100質量部中における含窒素化合物の含有割合が0.1~5質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましく、0.75~1.5質量部であることがさらに好ましい。上記範囲内とすることによって、濾過特性を高くすることができ、かつ、吸湿性を抑制してエレクトレットとしての安定性を高くすることができる。
【0015】
含窒素化合物は上述の所望の特性が得られるものであれば特に制限されないが、2,2,6,6-テトラメチルピペリジル構造及びトリアジン構造の少なくとも一方を含むヒンダードアミン系化合物であることが好ましく、ヒンダードアミン系化合物は2,2,6,6-テトラメチルピペリジン構造及びトリアジン構造を含むことがより好ましい。
【0016】
ヒンダードアミン系化合物としては、特に限定するわけではないが、例えば、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}](キマソーブ(登録商標)944LD、BASFジャパン社製)、コハク酸ジメチル-1-(2ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン重縮合物(チヌビン(登録商標)622LD、BASFジャパン社製)、2-[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]-2-ブチルプロパン二酸ビス[1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル](チヌビン(登録商標)144、BASFジャパン社製)、ジブチルアミン1,3,5-トリアジン・N,N-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,6-ヘキサメチレンジアミン・N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(キマソーブ(登録商標)2020FDL、BASFジャパン社製)、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシルオキシ)-フェノール(チヌビン(登録商標)1577FF、BASFジャパン社製)などが挙げられる。中でも、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン構造及びトリアジン構造を含むことが好ましく、キマソーブ(登録商標)944LD又はキマソーブ(登録商標)2020FDであることがより好ましい。ヒンダードアミン系化合物としては上記化合物のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0017】
<マグネシウム元素>
エレクトレットにおけるマグネシウム元素の含有割合が5ppm以上100ppm以下であり、好ましくは10ppm以上70ppm以下であり、より好ましくは15ppm以上40ppm未満であり、さらに好ましくは15ppm以上35ppm以下である。マグネシウム元素の含有率が低すぎる場合も高すぎる場合も、エレクトレットにおける電荷量が小さいため、通気抵抗が小さく、濾過性能も不十分である。
【0018】
ポリオレフィン樹脂100質量部中に対するマグネシウム元素の含有割合が5ppm以上100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは10ppm以上70ppm以下であり、さらに好ましくは15ppm以上40ppm未満であり、特に好ましくは15ppm以上35ppm以下である。なお、エレクトレットにおいて2種類以上の繊維を混ぜている場合や一つの繊維に2種類以上の樹脂を混ぜている場合にはポリオレフィン樹脂に混合されているマグネシウム元素の割合のことを指す。マグネシウム元素の含有率が上記範囲内である場合、通気抵抗が大きく、高い濾過性能を有するエレクトレットとすることができる。
【0019】
ポリオレフィン樹脂へのマグネシウム元素の添加方法は、所望の特性が得られるものであれば特に制限されないが、溶融混合、溶解混合、イオン衝突、蒸散付着、超臨界、吸尽処理などによりエレクトレットの表面の少なくとも一部にマグネシウム元素が存在していることが好ましい。ポリオレフィン樹脂は有機溶媒や酸アルカリ水溶液に対して安定であるため、混合等を行う場合は破砕混合や分散混合を行ったり、マグネシウム化合物に溶融混合性に優れた特性を与えたりすることが好ましい。また、ポリオレフィン樹脂の重合時にマグネシウム化合物を予め添加しておくことも好ましい方法である。
【0020】
均質性や加工性に優れたポリオレフィン樹脂へのマグネシウム元素の添加方法として、例えば、マグネシウム塩、アイオノマー、各種キレートなどのマグネシウム化合物を用いることができ、中でも、有機物との複合体である脂肪酸マグネシウム塩を溶融したポリオレフィン樹脂に溶解させることが好ましい。
【0021】
ポリオレフィンとの混和性や熱安定性に優れているという観点から、本発明のエレクトレットはマグネシウム塩を含むことが好ましく、脂肪酸マグネシウム塩、脂環酸マグネシウム塩、及び芳香族マグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、脂肪酸マグネシウム塩を含むことがさらに好ましい。マグネシウム塩の融点は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、熱分解温度は200℃以上であることが好ましい。熱分解温度や融点が低い場合には加工時や使用時に分解物の放散やべたつきが生じるおそれがある。マグネシウム塩の熱分解温度又は融点の上限は特に限定されていないが、例えば300℃以下である。
【0022】
脂肪酸マグネシウム塩としては特に限定されないが、炭素数10~50の脂肪酸基を有するものが好ましく、炭素数12~30の脂肪酸基を有するものがより好ましく、炭素数16~22の脂肪酸基を有するものがさらに好ましい。また、脂肪酸マグネシウム塩としては直鎖状脂肪酸基を有するものが好ましく、また、マグネシウムと結合する脂肪酸鎖が1本であっても2本であってもよいが、2本であることが好ましい。脂肪酸マグネシウム塩としては、具体的には、ラウリル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ベヘニン酸マグネシウム等の直鎖状飽和脂肪酸のマグネシウム塩;オレイン酸マグネシウム、エルシン酸マグネシウム等の直鎖状不飽和脂肪酸のマグネシウム塩;が挙げられるが、融点や反応性の観点から直鎖状飽和脂肪酸のマグネシウム塩であることが好ましく、ステアリン酸マグネシウムであることがより好ましい。
【0023】
また、本発明においてはマグネシウム化合物と含窒素化合物が予め一体化された成分を用いることで、上記の特性を一成分で発現させることが可能である。マグネシウム化合物の準備方法又は作製方法は特に限定されず、市販のマグネシウム化合物を用いてもよく、一体化する前にマグネシウムを用いてマグネシウム化合物を作製してもよく、キレート性を有する化合物とマグネシウムを別々に添加し、エレクトレット加工前までに溶融などの方法により反応させてもよい。
【0024】
マグネシウム元素以外の金属元素は、ポリオレフィン樹脂の高分子としての安定性および電荷安定性、電荷発生を阻害するため、ごく少量含まれるか全く存在しないことが好ましい。エレクトレットにおけるマグネシウム元素以外の金属元素の含有量は、各金属元素につき500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは250ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下であり、最も好ましくは50ppm以下である。特にアルカリ金属および有色の遷移金属元素は含まないことが好ましく、具体的にはエレクトレットにおけるアルカリ金属および有色の遷移金属元素の含有量は合計で100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは25ppm以下、最も好ましくは10ppm以下である。
【0025】
<エレクトレットの物性>
本発明のエレクトレットのQF値は、1.00mmAq-1以上であり、1.20mmAq-1以上であることが好ましく、1.45mmAq-1以上であることがより好ましい。QF値の上限は特に限定されないが、例えば6.00mmAq-1以下であり、好ましくは4.00mmAq-1以下であり、より好ましくは2.00mmAq-1以下である。QF値が1.00mmAq-1を下回るとエレクトレットによって粒子が十分に捕捉されておらず、濾過性能が不十分である。なお、QF値は下記の式により算出される値であり、粒子透過率及び通気抵抗の測定方法については後述する。また、本明細書では「粒子透過率」は、粒径0.3~0.5μmの粒子を捕集対象としたときの粒子透過率のことを指す。
QF[mmAq-1]=-[ln(粒子透過率(%)/100)]/[通気抵抗(mmAq)]
【0026】
本発明のエレクトレットにおける粒子透過率が15%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。上記粒子透過率の下限は特に限定されないが、通気性とのバランスを考慮し、例えば0.00001%以上である。
【0027】
本発明のエレクトレットにおける通気抵抗は、1.0mmAq以上であることが好ましく、2.0mmAq以上であることがより好ましく、3.0mmAq以上であることがさらに好ましい。通気抵抗を1.0mmAq以上とすることにより粒子透過率を低くすることができ、すなわち、QF値を大きくすることができる。通気抵抗の上限は特に限定されないが、10mmAq以下であり、好ましくは8.0mmAq以下である。通気抵抗が上記範囲内のエレクトレットを用いることにより、高い初期効率とすることが可能となり、空気清浄機、空調フィルター用途に好適である。
【0028】
本発明のエレクトレットにおける繊度は、好ましくは0.5~15μmであり、より好ましくは0.7~10μm さらに好ましくは0.9~7μm、最も好ましくは1.0~3.5μmである。上記繊度は、走査型電子顕微鏡を使用し、同一視野で繊維の重複が無いように50本の繊維径を計測し幾何平均にて算出する。繊維が細すぎる場合には目詰まりや糸切れが生じやすく、繊維が太すぎる場合には厚みが大きくなるために効率向上やプリーツ形状とすることが困難となる。
【0029】
<エレクトレットの形状>
本発明のエレクトレットの形状は特に限定されず、例えば、繊維状物、射出成型体、フィルム形状、粉末状物、粒子状物などのいずれの形状であってもよいが、気体浄化等の目的でフィルターとして用いる場合には繊維状物であることが好ましい。本発明のエレクトレットとしては、用途に応じて適当な形状および厚みに成形したものを使用することができる。
【0030】
上記繊維状物は繊維集合体であることが好ましく、繊維集合体としては、例えば、長繊維または短繊維からなる織編物、不織布、綿状物等の繊維状物や延伸フィルムから得られる繊維状物などが挙げられる。繊維集合体とは、エレクトレットを走査型電子顕微鏡、光学顕微鏡などの装置で表面観察した際に繊維状の形態であることが認められ、かつ、繊維集合体を構成する繊維同士の少なくとも一部が溶融一体化している状態のことを指す。
【0031】
エレクトレットをフィルター用途として利用する場合は、繊維集合体は不織布であることが好ましい。不織布を得る方法としては、単成分繊維、芯鞘繊維やサイドバイサイド繊維といった複合繊維、分割繊維等の短繊維をカーディング、エアレイド、湿式抄紙法などによりシート化する方法、連続繊維よりなるスパンボンド法、メルトブローン法、エレクトロスピニング法、フォーススピニング法などにより得る方法など、従来公知の方法を用いることが可能である。中でも、機械的捕集機構を効果的に利用する観点から緻密で細繊度を容易に得られるメルトブローン法、エレクトロスピニング法、又はフォーススピニング法で得られる不織布が好ましく、残溶剤の処理を必要としない観点からメルトブローン法、溶融エレクトロスピニング法、又は溶融フォーススピニング法で得られる不織布がより好ましく、メルトブローン法で得られる不織布が特に好ましい。
【0032】
上記繊維状物に用いられる繊維の平均繊維直径は、0.001~100μmであることが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、0.2~10μmであることがさらに好ましく、0.5~5μmであることが特に好ましく、1~3μmであることが最も好ましい。繊維の平均繊維直径が100μmよりも太い場合には実用的な捕集効率を得ることが困難であり、電荷減衰時の効率低下が大きい。繊維の平均繊維直径が0.001μmよりも細い場合には電荷を付与したエレクトレットを作製することが困難である。
【0033】
上記繊維状物は単独の製法、素材からなる均一物であってもよく、製法、素材および繊維径の異なる2種以上の素材を用いてなる混合物であってもよい。
【0034】
<エレクトレット化法>
本発明におけるエレクトレット化法はエレクトレットの使用時に所望の特性が得られるものであれば特に制限されないが、上記繊維状物に液体を接触又は衝突させる方法(液体接触荷電法)が好ましく、液体接触荷電法により高い濾過特性を有するエレクトレットを得ることができる。より具体的には、繊維集合体に吸引、加圧、噴出などの方法により液体を接触又は衝突させる方法であることが好ましい。
【0035】
液体接触荷電法において接触又は衝突させる液体は所望の特性が得られるものであれば特に制限されないが、取扱い性ならびに性能面から鑑みて水であることが好ましい。水の導電率及びpHは、カルシウムイオンやマグネシウムイオンの含有量などによって変化する。水に代えて水に副成分(水以外の成分)を添加した液体を用いてもよく、該液体の導電率及びpHは、添加する副成分の種類や添加量等で調整可能である。
【0036】
液体接触荷電法において接触又は衝突させる液体は、pHが1~11であることが好ましく、pHが3~9であることがより好ましく、pHが5~7であることがさらに好ましい。また、液体接触荷電法において接触又は衝突させる液体は、導電率が100μS/cm以下であることが好ましく、10μS/cm以下であることがより好ましく、3μS/cm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
<その他>
本発明のエレクトレットは必要に応じて他の構成部材と併用して用いることができる。すなわち、本発明のエレクトレットはプレフィルター層、繊維保護層、補強部材、機能性繊維層などと組み合わせて用いることができる。
【0038】
プレフィルター層および繊維保護層としては、例えばスパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、発泡ウレタンなどであり、補強部材としては、例えばサーマルボンド不織布、各種ネットを例示することができる。また、機能性繊維層としては例えば抗菌、抗ウイルスおよび識別や意匠を目的とした着色繊維層などを例示することができる。
【0039】
本発明のエレクトレットおよびそれを用いたフィルターは、本発明により得られる集塵、保護、通気、防汚、防水などの機能により幅広く用いることが可能であり、とりわけ、防塵マスク、各種空調用エレメント、空気清浄機、キャビンフィルター、各種装置の保護を目的としたフィルターとして好適に用いることができる。
【0040】
本願は、2019年8月21日に出願された日本国特許出願第2019-151213号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年8月21日に出願された日本国特許出願第2019-151213号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施の形態について説明する。試験方法を下記に示す。
【0042】
(1)試料中のマグネシウムの濃度
試料0.5gを白金製るつぼに秤量し、ホットプレート上で400℃まで予備炭化を行った。その後、ヤマト科学社製電気炉FO610型を用いて、550℃で8時間灰化処理を実施した。灰化後、6.0Nの塩酸を3mL添加し、ホットプレート上で100℃で酸分解を行い、塩酸が完全に揮発するまで加熱処理を行った。酸分解終了後に、1.2Nの塩酸を20mL添加し、これを測定検液として日立ハイテクサイエンス社製ICP発光分析装置 SPECTROBLUE型を用いて、目的元素の標準液で作成した検量線により、検液中のマグネシウム量の定量を実施し、試料中におけるマグネシウム濃度を下記式により求めた。
試料中のマグネシウム濃度:A(ppm(=mg/kg))
上記検液中のマグネシウム濃度:B(mg/L)
試料を用いない(試料を白金製るつぼに秤量しない)以外は上記と同様の方法で測定したマグネシウム濃度:C(mg/L)
A=(B-C)×(20÷1000)(L)/(0.5÷1000)(kg)
【0043】
(2)通気抵抗
72mmφに打ち抜いたサンプルを有効通気径50mmφアダプターに装着し、微差圧計を接続した内径50mmの配管を上下に連結、10cm/sにて通風し、絞りの無い状態での通気抵抗(圧力損失)を計測した。
【0044】
(3)粒子透過率
72mmφに打ち抜いたサンプルを有効通気径50mmφのアダプターに装着し、光散乱式粒子計数装置リオン社製KC-01Eを用いて以下の方法にて、フィルターの粒子透過率を実施した。
評価粒子:大気塵
風速 :10cm/s
効率算出:粒径0.3~0.5μmの粒子個数を光散乱計数法により測定した。
粒子透過率(%)=(エレクトレットを透過した粒径0.3~0.5μmの粒子個数÷エレクトレット透過前の粒径0.3~0.5μmの粒子個数)
【0045】
(4)濾材品質係数(QF)
上記(2)で測定した通気抵抗及び上記(3)で測定した粒子透過率の値を用いて、以下の式よりQF値を求めた。
QF[mmAq-1]=-[ln(粒子透過率(%)/100)]/[通気抵抗(mmAq)]
【0046】
<実施例1>
メルトフローレート(MFR)1200g/10分、マグネシウム濃度0.1ppm以下のポリプロピレンホモポリマー100質量部にステアリン酸マグネシウム(融点:88℃)を0.00025質量部、ヒンダードアミン系化合物であるBASF社製キマソーブ(登録商標)944を1質量部添加したものを、メルトブローン装置を用い、樹脂温度260℃、空気温度260℃にて紡糸し目付20g/m2の繊維シートを得た。得られた繊維シートに対して、電気伝導度0.7μS/cm、pH6.8の水を衝突させることで荷電を行った後に100℃にて30分放置することで乾燥を行いエレクトレットフィルターを得た。通気抵抗は3.60mmAq、QF値は1.13mmAq-1、マグネシウム濃度は7.8ppmであった。
【0047】
<実施例2~実施例8、比較例1~4>
添加するステアリン酸マグネシウムの量を表1に記載の量とした以外は実施例1と同様にエレクトレットフィルターを作製した。
【0048】
<比較例5>
ヒンダードアミン系化合物を添加しなかった以外は実施例5と同様にエレクトレットフィルターを作製した。
【0049】
<比較例6>
得られた繊維シートに対してコロナ放電法により荷電を行った以外は実施例5と同様にエレクトレットフィルターを作製した。
【0050】
実施例、比較例の結果を以下の表1で整理する。
【0051】
【0052】
実施例1~8より、マグネシウム元素及び含窒素化合物の含有割合が所定の範囲内であり、水を衝突させて荷電させたエレクトレットフィルターは、QF値が大きく、高い濾過特性を示した。なお、実施例1~8のエレクトレットについて、走査型電子顕微鏡を使用し、同一視野で繊維の重複が無いように50本の繊維径を計測し幾何平均にて繊度を算出したところ、いずれのエレクトレットの繊度も2~2.5μmの範囲内であった。
【0053】
一方、比較例1~4では、マグネシウム元素の含有割合が所定の範囲外であるため、QF値が小さく、濾過特性が不十分であった。また、ヒンダードアミン系化合物を添加していない比較例5、コロナ放電法により荷電した比較例6では共にQF値が小さく、濾過特性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のエレクトレットは濾過性能に優れているため、防塵マスク、空気清浄機等の各種用途においてフィルターとして用いることができる。