IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-光学フィルタ及びその製造方法 図1
  • 特許-光学フィルタ及びその製造方法 図2
  • 特許-光学フィルタ及びその製造方法 図3
  • 特許-光学フィルタ及びその製造方法 図4
  • 特許-光学フィルタ及びその製造方法 図5
  • 特許-光学フィルタ及びその製造方法 図6
  • 特許-光学フィルタ及びその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】光学フィルタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20240528BHJP
   G02B 1/113 20150101ALI20240528BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240528BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B1/113
B32B7/023
B32B15/04 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021563905
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2020045056
(87)【国際公開番号】W WO2021117598
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2019223922
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019223923
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐原 啓一
(72)【発明者】
【氏名】伊村 正明
(72)【発明者】
【氏名】東條 誉子
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1587643(KR,B1)
【文献】米国特許第05398133(US,A)
【文献】国際公開第2019/085265(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G02B 1/113
B32B 7/023
B32B 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化シリコン含有膜を有する、光学フィルタであって、
ラマン分光法により測定した前記水素化シリコン含有膜のラマンスペクトルが、SiHに由来するピークと、SiH に由来するピークとを有し、
前記水素化シリコン含有膜の前記ラマンスペクトルにおいて、SiHに由来するピークの面積とSiHに由来するピークの面積との比から求めた比(SiH/SiH)が、1.15以上である、光学フィルタ。
【請求項2】
水素化シリコン含有膜を有する、光学フィルタであって、
水素前方散乱分光法により測定した前記水素化シリコン含有膜における水素原子含有量と、ラザフォード後方散乱分光法により測定した前記水素化シリコン含有膜におけるシリコン原子含有量との比(H/Si)が、0.4以下である、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
透明基板と、
前記透明基板の一方側主面上に設けられており、かつ相対的に屈折率が高い高屈折率膜及び相対的に屈折率が低い低屈折率膜を有する多層膜からなるフィルタ部と、
を備え、
前記高屈折率膜が、前記水素化シリコン含有膜である、請求項1又は2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記低屈折率膜が、酸化ケイ素含有膜である、請求項3に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記透明基板の他方側主面上に設けられており、かつ水素化シリコンを含む反射防止膜をさらに備える、請求項3又は4に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
水素化シリコン含有膜を有し、ラマン分光法により測定した前記水素化シリコン含有膜のラマンスペクトルにおいて、SiHに由来するピークの面積とSiH に由来するピークの面積との比から求めた比(SiH/SiH )が、0.7以上である、光学フィルタの製造方法であって、
スパッタリング法によりシリコン膜を成膜する工程と、
前記シリコン膜を成膜する工程の後に、キャリアガスとして水素ガス及びアルゴンガスのみを用いて、前記シリコン膜を水素化する工程と、
を備え、
前記水素ガスの前記アルゴンガスに対する流量比(H /Ar)が、0.02以上、0.5以下である、光学フィルタの製造方法。
【請求項7】
前記水素ガスの前記アルゴンガスに対する流量比(H /Ar)が、0.02以上、0.125以下である、請求項6に記載の光学フィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の波長域の光を選択的に透過させることのできる光学フィルタ及び該光学フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特定の波長域の光を選択的に透過させることのできる光学フィルタが、赤外線センサなどの用途で広く用いられている。このような光学フィルタとしては、例えば、多層膜を用いたバンドパスフィルタが知られている。多層膜としては、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と、相対的に屈折率が低い低屈折率膜とを交互に繰り返し積層されたものが用いられている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、高屈折率膜として、水素化シリコンが記載されている。また、低屈折率膜として、窒化シリコンが記載されている。水素化シリコン膜が、シランガスを用いて、プラズマCVD(PECVD)で蒸着することにより形成されていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第5398133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動運転化に伴い、自動車には、レーザーレーダー、特にレーザー光により物体を検知するLiDAR(ライダー、Light Detection and Ranging)と呼ばれるセンサ等の数多くのセンサの搭載が検討されている。このようなセンサでは、特に近赤外域の特定波長域を選択的に透過させることが求められており、より一層の高性能化が求められている。
【0005】
特に、多層膜を用いた光学フィルタでは、光の入射角(光学フィルタの主面に直交する直線に対する角度)が大きくなると、通過帯域(透過帯域)が短波長側にシフトするという問題がある。そのため、入射角の大きな光を十分に透過させることができないという問題がある。特許文献1の光学フィルタによっても、この入射角依存性をなお十分に小さくすることができなかった。
【0006】
本発明の目的は、光の入射角依存性を小さくすることができる、光学フィルタ及び該光学フィルタの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1の発明に係る光学フィルタは、水素化シリコン含有膜を有する、光学フィルタであって、ラマン分光法により測定した前記水素化シリコン含有膜のラマンスペクトルにおいて、SiHに由来するピークの面積とSiHに由来するピークの面積との比から求めた比(SiH/SiH)が、0.7以上であることを特徴としている。
【0008】
本願の第2の発明に係る光学フィルタは、水素前方散乱分光法により測定した前記水素化シリコン含有膜における水素原子含有量と、ラザフォード後方散乱分光法により測定した前記水素化シリコン含有膜におけるシリコン原子含有量との比(H/Si)が、0.4以下であることを特徴としている。
【0009】
以下、本願の第1の発明及び第2の発明を総称して、本発明と称する場合があるものとする。
【0010】
本発明においては、透明基板と、前記透明基板の一方側主面上に設けられており、かつ相対的に屈折率が高い高屈折率膜及び相対的に屈折率が低い低屈折率膜を有する多層膜からなるフィルタ部と、を備え、前記高屈折率膜が、前記水素化シリコン含有膜であることが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記低屈折率膜が、酸化ケイ素含有膜であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記透明基板の他方側主面上に設けられており、かつ水素化シリコンを含む反射防止膜をさらに備えることが好ましい。
【0013】
本願発明に係る光学フィルタの製造方法は、本発明に従って構成される光学フィルタの製造方法であって、スパッタリング法によりシリコン膜を成膜する工程と、前記シリコン膜を成膜する工程の後に、前記シリコン膜を水素化する工程と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光の入射角依存性を小さくすることができる、光学フィルタ及び該光学フィルタの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。
図2図2は、ラマンスペクトルにおけるSiHに由来するピークの面積及びSiHに由来するピークの面積の求め方を説明するための図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。
図4図4は、実施例1で得られた第1の光学フィルタのバンドパスフィルタ特性を示す図である。
図5図5は、実施例1で得られた第2の光学フィルタのバンドパスフィルタ特性を示す図である。
図6図6は、比(SiH/SiH)と透過帯域の中心波長のシフト量との関係を示す図である。
図7図7は、水素化シリコン膜における水素原子含有量のシリコン原子含有量に対する比(H/Si)と透過帯域の中心波長のシフト量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0017】
[第1の実施形態]
(光学フィルタ)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。図1に示すように、光学フィルタ1は、透明基板2と、フィルタ部3とを備える。
【0018】
透明基板2の形状は、特に限定されないが、本実施形態では矩形板状である。透明基板2の厚みは、例えば、30μm以上、2mm以下とすることができる。
【0019】
透明基板2は、光学フィルタ1の使用波長域で透明な基板であることが好ましい。透明基板2の材料としては、特に限定されず、例えば、ガラス、樹脂等が挙げられる。また、使用波長域が赤外域であれば、SiやGe等であってもよい。ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、結晶化ガラス、石英ガラス等が挙げられる。また、強化ガラスとして用いられるアルミノシリケートガラスであってもよい。
【0020】
透明基板2は、対向している第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。透明基板2の第1の主面2a上には、フィルタ部3が設けられている。
【0021】
フィルタ部3は、相対的に屈折率が高い高屈折率膜4と相対的に屈折率が低い低屈折率膜5とを有する、多層膜である。本実施形態では、透明基板2の第1の主面2a上に、高屈折率膜4及び低屈折率膜5がこの順に交互に設けられることにより、多層膜が構成されている。
【0022】
本実施形態において、高屈折率膜4は、水素化シリコン(hydrogenated silicon)により構成されている。高屈折率膜4における比(SiH/SiH)は、0.7以上である。
【0023】
なお、比(SiH/SiH)は、ラマン分光法により測定した高屈折率膜4である水素化シリコン含有膜のラマンスペクトルにおいて、SiHに由来するピークの面積とSiHに由来するピークの面積との比から求めることができる。
【0024】
ラマン分光法におけるラマンスペクトルは、例えば、顕微ラマン分光装置(ナノフォトン社製、品番「RAMAN touch」)を用いて測定することができる。また、ラマンスペクトルにおいて、SiHに由来するピークは、1980cm-1~2000cm-1付近に現れる。SiHに由来するピークは、2090cm-1~2100cm-1付近に現れる。従って、図2に示すように、SiHに由来するピークとSiHに由来するピークについて、ガウス関数及びBWF(Breit-Wigner-Fano)関数を用いてピークフィッティング処理を行うことで、各々のピーク面積を求めることができる。なお、ピークフィッティング処理は、例えば、スペクトル解析ソフトウェア(ナノフォトン社製、品番「ラマンビューアー」)を用いて行うことができる。
【0025】
また、低屈折率膜5は、酸化ケイ素により構成されている。もっとも、低屈折率膜5は、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化スズ、窒化シリコン等であってもよい。
【0026】
高屈折率膜4の1層当たりの厚みとしては、特に限定されないが、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、好ましくは1000nm以下、より好ましくは750nm以下である。
【0027】
低屈折率膜5の1層当たりの厚みとしては、特に限定されないが、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。
【0028】
また、フィルタ部3における多層膜を構成する膜の層数は、好ましくは16層以上、より好ましくは20層以上、好ましくは50層以下、より好ましくは40層以下である。
【0029】
本実施形態の光学フィルタ1は、このような多層膜からなるフィルタ部3を備えることにより、光の干渉で特定の波長域の光を選択的に透過させるように設計されたバンドパスフィルタである。本実施形態では、光の入射角が0°のときの通過帯域(透過帯域)の中心波長が800nm~1000nmとなるように設計されている。もっとも、光の入射角が0°のときの透過帯域の中心波長は、800nm~1000nmの範囲外にあってもよい。なお、ここでいう入射角は、光学フィルタ1の主面1aに直交する直線(図1に示す直線X)に対する角度のことをいうものとする。
【0030】
また、本実施形態における光学フィルタ1の第1の特徴は、フィルタ部3における高屈折率膜4としての水素化シリコン含有膜のラマンスペクトルを測定したときに、比(SiH/SiH)が、0.7以上であることにある。これにより、高屈折率膜4を緻密な膜とすることができ、光の入射角が0°より大きくなった場合においても、透過帯域の中心波長が短波長側にシフトすることを抑制することができ、光の入射角依存性を小さくすることができる。そのため、入射角の大きな光についても、十分に透過させることができる。
【0031】
光の入射角依存性をより一層小さくする観点から、水素化シリコン含有膜における比(SiH/SiH)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.3以上である。また、水素化シリコン膜における比(SiH/SiH)の上限値は、特に限定されないが、例えば、1.6とすることができる。
【0032】
また、本実施形態における光学フィルタ1の第2の特徴は、フィルタ部3における高屈折率膜4としての水素化シリコン含有膜において、水素原子含有量とシリコン原子含有量との比(H/Si)が、0.4以下であることにある。これにより、高屈折率膜4を緻密な膜とすることができ、光の入射角が0°より大きくなった場合においても、透過帯域の中心波長が短波長側にシフトすることを抑制することができ、光の入射角依存性を小さくすることができる。そのため、入射角の大きな光についても、十分に透過させることができる。
【0033】
高屈折率膜4としての水素化シリコン含有膜において、水素原子含有量とシリコン原子含有量との比(H/Si)は、0.4以下、好ましくは0.35以下、より好ましくは0.3以下である。この場合、高屈折率膜4をより一層緻密な膜とすることができ、光の入射角が0°より大きくなった場合においても、透過帯域の中心波長が短波長側にシフトすることをより一層抑制することができ、光の入射角依存性をより一層小さくすることができる。そのため、入射角の大きな光についても、より一層十分に透過させることができる。また、水素原子含有量とシリコン原子含有量との比(H/Si)の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.1とすることができる。
【0034】
なお、水素原子含有量は、水素前方散乱分光法(Hydrogen Foward Scattering、HFS)により測定することができる。また、シリコン原子含有量は、ラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Backscattering Spectrometry、RBS)により測定することができる。なお、水素前方散乱分光法及びラザフォード後方散乱分光法による分析は同時に行ってもよい。
【0035】
水素化シリコン含有膜における水素原子含有量は、好ましくは5原子%(at%)以上、より好ましくは10原子%(at%)以上、好ましくは30原子%(at%)以下、より好ましくは25原子%(at%)以下である。この場合、光の入射角依存性をより一層小さくすることができる。
【0036】
水素化シリコン含有膜におけるシリコン原子含有量は、好ましくは70原子%(at%)以上、より好ましくは75原子%(at%)以上、好ましくは95原子%(at%)以下、より好ましくは90原子%(at%)以下である。この場合、光の入射角依存性をより一層小さくすることができる。
【0037】
本実施形態の光学フィルタ1では、光の入射角が0°のときの透過帯域における中心波長が800nm~1000nmにある場合においても、光の入射角依存性を小さくすることができるので、透過帯域の中心波長が近赤外域に設計されるLiDAR(ライダー)などのセンサ用途に特に好適に用いることができる。
【0038】
なお、本実施形態の光学フィルタ1は、高屈折率膜4としての水素化シリコン含有膜のラマンスペクトルを測定したときに、比(SiH/SiH)が、0.7以上であるという第1の特徴と、高屈折率膜4としての水素化シリコン含有膜において、水素原子含有量と、シリコン原子含有量との比(H/Si)が、0.4以下であるという第2の特徴との双方を満たしている。このように、本発明においては、第1の特徴である第1の発明と、第2の特徴である第2の発明との双方を満たしていてもよく、第1の発明及び第2の発明のうち、いずれか一方のみを満たしていてもよい。従って、本発明においては、高屈折率膜4としての水素化シリコン含有膜において、比(SiH/SiH)が0.7以上であるか、あるいは比(H/Si)が0.4以下であればよい。いずれの場合においても、光の入射角依存性を小さくすることができるという本発明の効果を得ることができる。
【0039】
以下、光学フィルタ1の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0040】
(光学フィルタの製造方法)
まず、透明基板2を用意する。次に、透明基板2の第1の主面2a上に多層膜としてのフィルタ部3を形成する。フィルタ部3は、透明基板2の第1の主面2a上に、高屈折率膜4及び低屈折率膜5をこの順に交互に積層することにより形成することができる。高屈折率膜4及び低屈折率膜5は、それぞれ、スパッタリング法により形成することができる。
【0041】
特に、高屈折率膜4である水素化シリコン含有膜は、シリコン膜を成膜した後に、成膜したシリコン膜を水素化することにより、形成することが好ましい。具体的には、スパッタリングによりシリコン膜を成膜した後に、RFプラズマを用いてシリコン膜を水素化することにより、形成することが望ましい。それにより、得られる水素化シリコン含有膜における比(SiH/SiH)をより一層大きくすることができる。また、得られる水素化シリコン含有膜における水素原子含有量とシリコン原子含有量との比(H/Si)をより一層小さくすることができる。
【0042】
高屈折率膜4を成膜するときの透明基板2(基板)の温度は、好ましくは70℃以上、より好ましくは100℃以上である。この場合、得られる水素化シリコン含有膜における比(SiH/SiH)をより一層大きくすることができる。また、得られる水素化シリコン含有膜における水素原子含有量とシリコン原子含有量との比(H/Si)をより一層小さくすることができる。なお、高屈折率膜4を成膜するときの透明基板2(基板)の温度の上限値は、例えば、300℃とすることができる。
【0043】
上記シリコン膜の成膜は、例えば、シリコンターゲットを用い、キャリアガスとしてのアルゴンガスなどの不活性ガスの流量を100sccm~500sccmとし、電力を2kW~10kWとして行うことができる。また、上記シリコン膜の水素化は、キャリアガスとしてのアルゴンガスなどの不活性ガスの流量を100sccm~500sccmとし、水素ガスの流量を5sccm~200sccmとし、RF電力1kW~5kWとして行うことができる。
【0044】
水素(H)ガスのアルゴン(Ar)ガスに対する流量比(H/Ar)は、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下である。この場合、得られる水素化シリコン含有膜における比(SiH/SiH)をより一層大きくすることができる。また、得られる水素化シリコン含有膜における水素原子含有量とシリコン原子含有量との比(H/Si)をより一層小さくすることができる。なお、流量比(H/Ar)の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.02とすることができる。
【0045】
本実施形態の製造方法では、例えば、上記のようにして、高屈折率膜4におけるスパッタリングの成膜条件を調整することにより、水素化シリコン含有膜における比(SiH/SiH)を調整することができる。また、本実施形態の製造方法では、例えば、上記のようにして、高屈折率膜4におけるスパッタリングの成膜条件を調整することにより、水素原子含有量とシリコン原子含有量との比(H/Si)を調整することができる。
【0046】
[第2の実施形態]
図3は、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。光学フィルタ21では、透明基板2の第2の主面2b上に反射防止膜6が設けられている。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0047】
反射防止膜6は、相対的に屈折率が高い高屈折率膜7と相対的に屈折率が低い低屈折率膜8とを有する、多層膜である。本実施形態では、透明基板2の第2の主面2b上に、高屈折率膜7及び低屈折率膜8がこの順に交互に設けられることにより、多層膜が構成されている。本実施形態において、高屈折率膜7は、水素化シリコンにより構成されている。また、低屈折率膜8は、酸化ケイ素により構成されている。なお、高屈折率膜7及び低屈折率膜8の材料としては、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ハフニウム、窒化シリコン、酸化ジルコニウム、酸化スズを用いてもよい。多層膜を構成する膜の層数は、好ましくは10層以上、好ましくは40層以下である。
【0048】
第2の実施形態の光学フィルタ21においても、フィルタ部3における高屈折率膜4としての水素化シリコン含有膜のラマンスペクトルを測定したときに、比(SiH/SiH)が、0.7以上である。また、フィルタ部3における高屈折率膜4としての水素化シリコン含有膜において、水素原子含有量とシリコン原子含有量との比(H/Si)が、0.4以下である。そのため、透過帯域の中心波長が短波長側にシフトすることを抑制することができ、光の入射角依存性を小さくすることができる。また、光学フィルタ21では、反射防止膜6が設けられているため、透過帯域における透過率をより一層高めることができる。
【0049】
なお、本発明においては、反射防止膜6以外の他の反射防止膜を用いてもよいが、本実施形態のように水素化シリコン膜を含んでいることが好ましい。この場合、光の入射角依存性を小さくしつつ、透過帯域における透過率をより一層高めることができる。
【0050】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0051】
(実施例1)
まず、透明基板としてガラス基板を用意した。次に、キャリアガスとしてアルゴン(Ar)ガスを用い、シリコンのターゲットをスパッタリングし、ガラス基板の一方側主面上にシリコン膜を成膜した。なお、この際、アルゴンガスの流量を150sccmした。ターゲット印加電力(成膜電力)は、10kWとした。次に、キャリアガスとして水素(H)ガス及びアルゴン(Ar)ガスを用い、RFプラズマを用いて、シリコン膜を水素化し、水素化シリコン膜を形成した。なお、この際、水素(H)ガスの流量を50sccmとし、アルゴン(Ar)ガスの流量を200sccmとした。RFプラズマ印加電力は、2.5kWとした。
【0052】
次に、キャリアガスとしてアルゴンガス及び酸素ガスを用い、シリコンのターゲットをスパッタリングし、水素化シリコン膜上に酸化ケイ素膜(SiO膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガスの流量を150sccmとし、酸素ガスの流量を15sccmとした。ターゲット印加電力は、10kWとした。なお、成膜の間、基板温度は、270℃とした。この操作を繰り返すことにより、ガラス基板上に、水素化シリコン膜とSiO膜とが、1層ずつ交互に積層された、合計28層の膜を有するフィルタ部を形成した。それによって、バンドパスフィルタとしての機能を有し、透過帯域の中心波長が940nmとなるように設計した第1の光学フィルタを得た。
【0053】
また、第1の光学フィルタを別途作製し、ガラス基板のフィルタ部とは他方側主面上に水素化シリコン膜を成膜した。具体的には、キャリアガスとしてアルゴンガスを用い、シリコンのターゲットをスパッタリングし、シリコン膜を成膜した。なお、この際、アルゴンガスの流量を150sccmした。ターゲット印加電力は、10kWとした。次に、キャリアガスとして水素(H)ガス及びアルゴン(Ar)ガスを用い、RFプラズマを用いて、シリコン膜を水素化し、水素化シリコン膜を形成した。なお、この際、水素ガスの流量を50sccmとし、アルゴンガスの流量を200sccmとした。RFプラズマ印加電力は、2.5kWとした。
【0054】
次に、キャリアガスとしてアルゴンガス及び酸素ガスを用い、シリコンのターゲットをスパッタリングして、水素化シリコン膜上にSiO膜を成膜した。なお、この際、アルゴンガスの流量を150sccmとし、酸素ガスの流量を15sccmとした。ターゲット印加電力は、10kWとした。なお、成膜の間、基板温度は、270℃とした。この操作を繰り返すことにより、ガラス基板上に、水素化シリコン膜と、SiO膜とが、1層ずつ交互に積層された、合計22層の膜を有する反射防止膜を形成した。それによって、バンドパスフィルタとしての機能を有し、透過帯域の中心波長が940nmとなるように設計した第2の光学フィルタを得た。第2の光学フィルタにおける各層の厚みは、下記表1に示す通りである。
【0055】
【表1】
【0056】
比(SiH/SiH);
別途、上記と同様の方法で、ガラス基板上に、水素化シリコン膜を成膜し、ラマン分光法によりラマンスペクトルを測定した。得られたSiHに由来するピークの面積とSiHに由来するピークの面積との比から、比(SiH/SiH)を求めたところ、1.02であった。
【0057】
ラマン分光法におけるラマンスペクトルは、顕微ラマン分光装置(ナノフォトン社製、品番「RAMAN touch」)を用いて測定した。また、SiHに由来するピークとSiHに由来するピークについて、ガウス関数及びBWF(Breit-Wigner-Fano)関数を用いてピークフィッティング処理を行うことで、各々のピーク面積を求めた。なお、ピークフィッティング処理は、スペクトル解析ソフトウェア(ナノフォトン社製、品番「ラマンビューアー」)を用いて行った。
【0058】
比(H/Si);
別途、上記と同様の方法で、ガラス基板上に、水素化シリコン膜を成膜し、水素原子含有量とシリコン原子含有量との比(H/Si)を求めたところ、0.25であった。
【0059】
水素原子含有量は、水素前方散乱分光法により求めた。シリコン原子含有量は、ラザフォード後方散乱分光法により求めた。水素前方散乱分光法及びラザフォード後方散乱分光法における測定は、量子ビーム生体分子動態解析実験システムにより、ファン・デ・グラーフ型加速装置(マイクロビーム)、型式6SHD-2を用いて行った。イオンビーム種としてはO4+を用い、エネルギーは9MeVとした。また、試料の傾きは、ビーム入射軸に対する試料法線の角度75度とした。
【0060】
水素前方散乱分光法による分析条件は、以下の通りである。
【0061】
検出器:Si半導体検出器
反跳角度:30度
ストッパーフォイル:アルミ6μm厚
検出器立体角:1.4mSr
照射量:20μC
【0062】
ラザフォード後方散乱分光法における分析条件は、以下の通りである。
【0063】
検出器:Si半導体検出器
散乱角度:165度
検出器立体角:0.64mSr
照射量:20μC
【0064】
また、図4は、実施例1で得られた第1の光学フィルタのバンドパスフィルタ特性を示す図である。また、図5は、実施例1で得られた第2の光学フィルタのバンドパスフィルタ特性を示す図である。図4及び図5においては、入射角0°の結果を実線で示し、入射角30°の結果を破線で示している。
【0065】
図4及び図5より、第1の光学フィルタ及び第2の光学フィルタのいずれを用いた場合においても、入射角0°から入射角30°に変更したときの透過帯域における中心波長のシフト量を14nmと小さくできていることがわかる。また、反射防止膜を設けた第2の光学フィルタにおいて、透過帯域における中心波長のシフト量は、第1の光学フィルタと同じであることがわかる。もっとも、反射防止膜を設けることにより、透過帯域における光の透過量は大きくなっていることがわかる。
【0066】
(実施例2~14及び比較例1~2)
基板温度、シリコン膜成膜時の成膜電力、RFプラズマによる水素化時の水素(H)ガスの流量、及びRFプラズマ印加電力を下記の表2のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして第2の光学フィルタを得た。なお、いずれの場合においても、バンドパスフィルタとしての機能を有し、入射角が0°のときの透過帯域の中心波長が940nmとなるように設計した第2の光学フィルタを得た。
【0067】
結果を下記の表2、図6、及び図7に示す。なお、表2においては、実施例1と同様の方法により測定したフィルタ部の水素化シリコン膜における比(SiH/SiH)及び比(H/Si)を併せて示している。また、表2、図6、及び図7では、第2の光学フィルタにおける透過帯域の中心波長のシフト量を求めているが、第1の光学フィルタにおいても、第2の光学フィルタと同様のシフト量となることが確認されている。
【0068】
【表2】
【0069】
表2及び図6に示すように、比(SiH/SiH)が、0.7以上である実施例1~14の光学フィルタでは、バンドパスのシフト量が15nm以下であり、光の入射角依存性を小さくでき、入射角の大きな光についても、十分に透過させることができることが確認された。
【0070】
表2及び図7に示すように、比(H/Si)が、0.4以下である実施例1~14の光学フィルタでは、バンドパスのシフト量が15nm以下であり、光の入射角依存性を小さくでき、入射角の大きな光についても、十分に透過させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
1,21…光学フィルタ
1a…主面
2…透明基板
2a…第1の主面
2b…第2の主面
3…フィルタ部
4,7…高屈折率膜
5,8…低屈折率膜
6…反射防止膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7