(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】車両用フロア構造及び車両の製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240528BHJP
B62D 29/04 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B62D25/20 G
B62D29/04 A
B62D29/04 B
(21)【出願番号】P 2022012962
(22)【出願日】2022-01-31
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】近藤 展代
(72)【発明者】
【氏名】川口 博史
(72)【発明者】
【氏名】都築 佳彦
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-075177(JP,U)
【文献】特開2018-043615(JP,A)
【文献】特開2018-095160(JP,A)
【文献】米国特許第4255482(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0006408(KR,A)
【文献】特開2015-202686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
C09D 201/00
B05D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパンと、
前記フロアパンの上面に接合された上面側補強部材と、
前記フロアパンの下面に接合された下面側補強部材と、を備えた車両用フロア構造であって、
前記フロアパンが樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、上面に形成されると共に、下面には形成されておらず、
前記下面側補強部材が樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、前記フロアパンとの当接面に形成されている、
車両用フロア構造。
【請求項2】
前記フロアパンを構成する樹脂被覆鋼板の樹脂層は、前記フロアパンの上面の全体に形成されている、
請求項1に記載の車両用フロア構造。
【請求項3】
前記フロアパンにおける前記上面に形成された樹脂層の厚さが、前記下面側補強部材における前記当接面に形成された樹脂層の厚さよりも大きい、
請求項1又は2に記載の車両用フロア構造。
【請求項4】
前記下面側補強部材を構成する樹脂被覆鋼板において、前記当接面と反対側の表面にも樹脂層が形成されており、
前記当接面と反対側の表面に形成された樹脂層の厚さは、前記当接面に形成された樹脂層の厚さよりも小さい、
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用フロア構造。
【請求項5】
前記下面側補強部材を構成する樹脂被覆鋼板において、前記当接面と反対側の表面には樹脂層が形成されていない、
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用フロア構造。
【請求項6】
前記上面側補強部材は、樹脂被覆されていない鋼板から構成されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の車両用フロア構造。
【請求項7】
前記上面側補強部材及び前記下面側補強部材のそれぞれは、長手方向に垂直な断面がハット形状を有し、前記長手方向に延設された一対のフランジ部において、前記フロアパンと接合されている、
請求項1~6のいずれか一項に記載の車両用フロア構造。
【請求項8】
前記フロアパンに接合された前記一対のフランジ部の外周部に、防錆用のシーラーが塗布されていない、
請求項7に記載の車両用フロア構造。
【請求項9】
前記フランジ部の全体が、平坦に形成されている、
請求項7又は8に記載の車両用フロア構造。
【請求項10】
上面に上面側補強部材が接合されると共に、下面に下面側補強部材が接合されたフロアパンを、前記上面側補強部材及び前記下面側補強部材と共に電着塗装するステップを備え、
前記フロアパンが樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、上面に形成されると共に、下面には形成されておらず、
前記下面側補強部材が樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、前記フロアパンとの当接面に形成されている、
車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用フロア構造及び車両の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、樹脂層によって表面が被覆され防錆性能を有する
樹脂被覆鋼板が自動車に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、樹脂被覆鋼板は通常の鋼板よりも高額であるため、自動車において使用する部位を適切に選択する必要がある。
ところで、車両用フロア構造は、フロアパン(「フロアパネル」とも呼ばれる)と当該フロアパンに接合されたフロアクロスメンバやフロアサイドメンバ等の補強部材とから構成されている。ここで、接合部における当接面は電着塗装されないため、接合部の当接面同士の隙間に水分が進入し、錆が発生する虞があるという問題があった。
他方、発明者らは、フロアパンの室内側表面が、例えば搭乗者の靴に付着した融雪剤によって腐食することを見出した。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、フロアパンと上面側補強部材及び下面側補強部材との当接面における腐食を抑制できると共に、融雪剤によるフロアパンの上面の腐食も抑制可能な車両用フロア構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る車両用フロア構造は、
前記フロアパンの上面に接合された上面側補強部材と、
前記フロアパンの下面に接合された下面側補強部材と、を備えた車両用フロア構造であって、
前記フロアパンが樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、上面に形成されると共に、下面には形成されておらず、
前記下面側補強部材が樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、前記フロアパンとの当接面に形成されているものである。
【0007】
本発明の一態様に係る車両用フロア構造では、フロアパンが樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、上面に形成されると共に、下面には形成されておらず、下面側補強部材が樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、前記フロアパンとの当接面に形成されている。そのため、フロアパンと上面側補強部材及び下面側補強部材との当接面における腐食を抑制できると共に、融雪剤によるフロアパンの上面の腐食も抑制できる。
ここで、前記フロアパンを構成する樹脂被覆鋼板の樹脂層は、前記フロアパンの上面の全体に形成されていてもよい。
【0008】
前記フロアパンにおける前記上面に形成された樹脂層の厚さが、前記下面側補強部材における前記当接面に形成された樹脂層の厚さよりも大きくてもよい。
また、前記下面側補強部材を構成する樹脂被覆鋼板において、前記当接面と反対側の表面にも樹脂層が形成されており、前記当接面と反対側の表面に形成された樹脂層の厚さは、前記当接面に形成された樹脂層の厚さよりも小さくてもよい。
さらに、前記下面側補強部材を構成する樹脂被覆鋼板において、前記当接面と反対側の表面には樹脂層が形成されていなくてもよい。
【0009】
前記上面側補強部材は、樹脂被覆されていない鋼板から構成されていてもよい。このような構成により、腐食を抑制しつつ、製造コストを低減できる。
【0010】
前記上面側補強部材及び前記下面側補強部材のそれぞれは、長手方向に垂直な断面がハット形状を有し、前記長手方向に延設された一対のフランジ部において、前記フロアパンと接合されていてもよい。
ここで、前記フロアパンに接合された前記一対のフランジ部の外周部に、防錆用のシーラーが塗布されていなくてもよい。
さらに、前記フランジ部の全体が、平坦に形成されていてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る車両の製造方法は、
上面に上面側補強部材が接合されると共に、下面に下面側補強部材が接合されたフロアパンを、前記上面側補強部材及び前記下面側補強部材と共に電着塗装するステップを備え、
前記フロアパンが樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、上面に形成されると共に、下面には形成されておらず、
前記下面側補強部材が樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、前記フロアパンとの当接面に形成されているものである。
【0012】
本発明の一態様に係る車両の製造方法では、フロアパンが樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、上面に形成されると共に、下面には形成されておらず、下面側補強部材が樹脂被覆鋼板から構成され、当該樹脂被覆鋼板の樹脂層が、前記フロアパンとの当接面に形成されている。そのため、フロアパンと上面側補強部材及び下面側補強部材との当接面における腐食を抑制できると共に、融雪剤によるフロアパンの上面の腐食も抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、フロアパンと上面側補強部材及び下面側補強部材との当接面における腐食を抑制できると共に、融雪剤によるフロアパンの上面の腐食も抑制可能な車両用フロア構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る車両用フロア構造の模式斜視断面図である。
【
図2】
図1における領域IIの模式部分断面図である。
【
図3】
図2における領域IIIの模式部分断面図である。
【
図4】第1の実施形態の変形例に係る車両用フロア構造の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0016】
(第1の実施形態)
<車両用フロア構造の構成>
まず、
図1を参照して、第1の実施形態に係る車両用フロア構造の構成について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る車両用フロア構造の模式斜視断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る車両用フロア構造は、フロアパン10、上側フロアサイドメンバ21、トンネルサイドフレーム22、フロアクロスメンバ23、及び下側フロアサイドメンバ30を備えている。
【0017】
ここで、上側フロアサイドメンバ21、トンネルサイドフレーム22、及びフロアクロスメンバ23は、フロアパン10の上面(室内側表面)に接合された上面側補強部材である。他方、下側フロアサイドメンバ30は、フロアパン10の下面(室外側表面)に接合された上面側補強部材である。
【0018】
なお、当然のことながら、
図1及びその他の図に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものであり、図面間で共通である。図示した例では、x軸正方向が車両前側方向、y軸方向が車幅方向、z軸正方向が鉛直上向き方向を示している。
【0019】
また、本実施形態に係る車両用フロア構造は、車両前方(x軸正方向)から見て、左右対称の構造を有しており、
図1には、車両用フロア構造の左半分のみ示されている。
さらに、本実施形態に係る車両用フロア構造は、フロアパン10の上面に接合された上面側補強部材及びフロアパン10の下面に接合された下面側補強部材を、少なくとも1つずつ備えればよい。上面側補強部材及び下面側補強部材は、
図1に示されたものに限定されない。
【0020】
フロアパン10は、車両用フロア構造の本体を構成する板状の鋼板部材である。
図1に示すように、フロアパン10は、車幅方向(y軸方向)の中央部に、平坦部から上側にトンネル状に張り出すと共に、車両前後方向(x軸方向)に延設されたフロアトンネル11を有している。
フロアパン10の車幅方向(y軸方向)の両端部には、平坦部から上側に立ち上がったフランジ部12が設けられている。フランジ部12は、例えばサイドシル(不図示)に接合される。
フロアパン10は、例えば1枚の鋼板からプレス成形される。
【0021】
上側フロアサイドメンバ21は、フロアパン10の上面に接合された上面側補強部材である。
図1に示すように、上側フロアサイドメンバ21は、例えばフロアパン10におけるフロアトンネル11とフランジ部12との中程において、車両前後方向(x軸方向)に延設されている。
【0022】
ここで、
図2は、
図1における領域IIの模式部分断面図である。
図2に示すように、上側フロアサイドメンバ21は、長手方向(x軸方向)に垂直な断面形状がハット形状の鋼板部材である。すなわち、上側フロアサイドメンバ21は、天板21a、一対の側壁21b、及び一対のフランジ部21cを備えている。
なお、上側フロアサイドメンバ21におけるこれらの部位は、説明のために便宜的に定めたものである。また、上側フロアサイドメンバ21の構成は、
図1、
図2に示す例に限定されない。
【0023】
より詳細には、車両前後方向(x軸方向)に延設された天板21aの幅方向(y軸方向)の端部から一対の側壁21bが下向きに形成されている。さらに、それぞれの側壁21bの下端部からフランジ部21cが外側に張り出している。上側フロアサイドメンバ21は、例えば1枚の鋼板からプレス成形される。
図2に示すように、上側フロアサイドメンバ21の一対のフランジ部21cが溶接やネジ止め等によってフロアパン10の平坦部の上面に接合されている。フランジ部21cの全体が、平坦に形成されており、上側フロアサイドメンバ21はシンプルな構成を有している。
【0024】
トンネルサイドフレーム22は、フロアパン10の上面に接合された上面側補強部材である。
図1に示すように、トンネルサイドフレーム22は、フロアパン10の平坦部とフロアトンネル11の側壁とに跨がって、車両前後方向(x軸方向)に延設されている。すなわち、トンネルサイドフレーム22は、フロアパン10におけるフロアトンネル11を補強している。
【0025】
より詳細には、
図1に示すように、トンネルサイドフレーム22は、長手方向(x軸方向)に垂直な断面形状がL字状の本体部と、本体部の車幅方向(y軸方向)の両端から張り出した一対のフランジ部を備えている。
図1に示すように、トンネルサイドフレーム22の一方のフランジ部は、フロアパン10の平坦部に接合されており、トンネルサイドフレーム22の他方のフランジ部は、フロアパン10のフロアトンネル11の側壁に接合されている。
【0026】
フロアクロスメンバ23は、フロアパン10の上面に接合された上面側補強部材である。
図1に示すように、フロアクロスメンバ23は、フロアパン10のフランジ部12からトンネルサイドフレーム22に亘って、車幅方向(y軸方向)に延設されている。
【0027】
より詳細には、フロアクロスメンバ23も、上側フロアサイドメンバ21と同様に、長手方向(y軸方向)に垂直な断面形状がハット形状の鋼板部材である。すなわち、フロアクロスメンバ23は、天板、一対の側壁、及び一対のフランジ部を備えている。フロアクロスメンバ23のフランジ部が、溶接やネジ止め等によってフロアパン10の本体部の上面に接合されている。フロアクロスメンバ23のフランジ部の全体が、平坦に形成されており、フロアクロスメンバ23はシンプルな構成を有している。
フロアクロスメンバ23は、例えば1枚の鋼板からプレス成形される。
【0028】
下側フロアサイドメンバ30は、フロアパン10の下面に接合された下面側補強部材である。
図1に示すように、下側フロアサイドメンバ30は、例えばフロアパン10におけるフロアトンネル11とフランジ部12との中程において、車両前後方向(x軸方向)に延設されている。ここで、下側フロアサイドメンバ30は、フロアパン10を介して、上側フロアサイドメンバ21と対向配置されている。ここで、下側フロアサイドメンバ30は、上側フロアサイドメンバ21に対して、車幅方向(y軸方向)にずれて配置されてもよい。
【0029】
図2に示すように、下側フロアサイドメンバ30は、上側フロアサイドメンバ21を上下反転させた形状を有しており、長手方向(x軸方向)に垂直な断面形状がハット形状の鋼板部材である。すなわち、下側フロアサイドメンバ30は、底板30a、一対の側壁30b、及び一対のフランジ部30cを備えている。ここで、下側フロアサイドメンバ30の底板30aは、上側フロアサイドメンバ21の天板21aに該当する。
【0030】
より詳細には、車両前後方向(x軸方向)に延設された底板30aの幅方向(y軸方向)の端部から一対の側壁30bが上向きに形成されている。さらに、それぞれの側壁30bの上端部からフランジ部30cが外側に張り出している。下側フロアサイドメンバ30は、例えば1枚の鋼板からプレス成形される。
図2に示すように、下側フロアサイドメンバ30の一対のフランジ部30cが溶接やネジ止め等によってフロアパン10の平坦部の下面に接合されている。フランジ部30cの全体が、平坦に形成されており、下側フロアサイドメンバ30はシンプルな構成を有している。
【0031】
ここで、本実施形態に係る車両用フロア構造では、フロアパン10の上面に上面側補強部材(上側フロアサイドメンバ21等)を接合すると共に、フロアパン10の下面に下面側補強部材(下側フロアサイドメンバ30)を接合する。その後、上面側補強部材及び下面側補強部材が接合されたフロアパン10すなわち本実施形態に係る車両用フロア構造を電着塗装する。当該車両用フロア構造は、電着塗装後、さらに例えば中塗塗装及び上塗塗装されてもよい。
【0032】
ここで、
図3は、
図2における領域IIIの模式部分断面図である。
図2、
図3に示すように、フロアパン10は、樹脂被覆鋼板から構成されている。フロアパン10では、鋼板SS1の上面が樹脂層RL11によって被覆されると共に、鋼板SS1の下面は樹脂層によって被覆されていない。すなわち、
図2、
図3に示すように、フロアパン10における上面側補強部材(上側フロアサイドメンバ21等)との当接面に樹脂層RL11が形成されている。
【0033】
また、
図2、
図3に示すように、下面側補強部材(下側フロアサイドメンバ30)も、樹脂被覆鋼板から構成されている。下側フロアサイドメンバ30では、鋼板SS3の上面が樹脂層RL31によって被覆されている。すなわち、
図2、
図3に示すように、下側フロアサイドメンバ30におけるフロアパン10との当接面に樹脂層RL31が形成されている。
【0034】
上述の通り、従来は、上面側補強部材及び下面側補強部材が接合されたフロアパンを電着塗装すると、上面側補強部材及び下面側補強部材とフロアパンとの当接面は電着塗装できず、腐食が発生する虞があった。そのため、フロアパンと上面側補強部材及び下面側補強部材のフランジ部との境界線上すなわち上面側補強部材及び下面側補においてフロアパンと接合されるフランジ部の外周部に、防錆用のシーラーを塗布する必要があった。
【0035】
これに対し、本実施形態に係る車両用フロア構造では、
図2に示すように、フロアパン10及び下面側補強部材(下側フロアサイドメンバ30)が樹脂被覆鋼板から構成されている。ここで、フロアパン10における上面側補強部材(上側フロアサイドメンバ21等)との当接面に樹脂層RL11が形成されている。また、下側フロアサイドメンバ30におけるフロアパン10との当接面に樹脂層RL31が形成されている。
【0036】
そのため、樹脂層RL11により、水、酸素、塩素等の腐食因子がフロアパン10の鋼板SS1及び鋼板である上面側補強部材(上側フロアサイドメンバ21等)に到達し難くなる。同様に、樹脂層RL31により、腐食因子がフロアパン10の鋼板SS1及び下側フロアサイドメンバ30の鋼板SS3に到達し難くなる。従って、上面側補強部材(上側フロアサイドメンバ21等)及び(下側フロアサイドメンバ30)とフロアパン10との当接面における腐食を抑制できる。
【0037】
その結果、フロアパン10と上面側補強部材のフランジ部(上側フロアサイドメンバ21のフランジ部21c等)との境界線上すなわちフランジ部の外周部に、防錆用のシーラーを塗布する必要がない。同様に、フロアパン10と下面側補強部材のフランジ部(下側フロアサイドメンバ30のフランジ部30c等)との接合部の境界線上すなわちフランジ部の外周部に、防錆用のシーラーを塗布する必要がない。
【0038】
また、従来の車両用フロア構造では、上側フロアサイドメンバや下側フロアサイドメンバのフランジ部に、内部に電着塗装液を導入するための流路(背切り構造)が設けられていた。これに対し、本実施形態に係る車両用フロア構造では、フロアパン10が樹脂被覆鋼板から構成されているため、上側フロアサイドメンバ21のフランジ部21cや下側フロアサイドメンバ30のフランジ部30cに背切り構造を設ける必要がない。そのため、上側フロアサイドメンバ21のフランジ部21cや下側フロアサイドメンバ30のフランジ部30cの全体を平坦に形成できる。すなわち、上側フロアサイドメンバ21や下側フロアサイドメンバ30の構成がシンプルになり、製造コストを抑制できる。
【0039】
さらに、フロアパン10における鋼板SS1の上面のほぼ全体が樹脂層RL11によって被覆されているため、例えば搭乗者の靴に付着した融雪剤によるフロアパン10の腐食も抑制できる。
なお、後述するように、樹脂層RL11、RL31が防錆顔料を含有する場合、腐食をさらに抑制できる。
【0040】
ここで、鋼板SS1、SS3は、特に限定されないが、例えば普通鋼やクロム等の添加元素を含有する鋼から構成される。また、防錆性能を高めるために、鋼板SS1、SS3の表面にめっき被膜を設けてもよい。すなわち、鋼板SS1、SS3はめっき鋼板でもよい。めっき皮膜は、特に限定されないが、例えば、亜鉛、アルミニウム、コバルト、錫、ニッケル等の金属元素のいずれか一つを含むめっき皮膜や、これらの金属元素を含む合金めっき皮膜等が挙げられる。
【0041】
また、樹脂層RL11、RL31は、特に限定されないが、例えば、水系塗装用組成物、有機溶剤系塗装用組成物等の有機樹脂からなる。当該有機樹脂は、例えばポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、それらの変性体、あるいは、それらの混合物等である。
【0042】
当該有機樹脂は、例えば防錆顔料を含有し、防錆性能を有する。防錆顔料は、特に限定されないが、例えば珪酸塩化合物、燐酸塩化合物、バナジン酸塩化合物、及び金属酸化物の微粒子のいずれか一つ以上を含む。防錆顔料は、例えば、体積平均径が1~50nm程度のナノ微粒子、体積平均径が0.5~10μm程度の微粒子、又は両者の混合物等である。樹脂層RL1、RL2における防錆顔料の添加量は、例えば1~40体積%であり、2~20体積%でもよい。
【0043】
さらに、当該有機樹脂が、例えば導電顔料を含有し、導電性を有してもよい。導電顔料は、特に限定されないが、例えば金属、合金、導電性炭素、燐化鉄、炭化物、及び半導体酸化物の微粒子いずれか一つ以上を含む。当該微粒子の体積平均径は、例えば0.5~10μm程度である。樹脂層RL1、RL2における導電顔料の添加量は、例えば1~40体積%であり、2~20体積%でもよい。
【0044】
樹脂層RL1、RL2の厚さは、例えば0.5~10μmである。樹脂層RL1、RL2の厚さが0.5μm以上であるため、耐食性が得られると共に、樹脂層RL1、RL2の厚さが10μm以下であるため、プレス成形時等における樹脂層RL1、RL2の破壊もしくは剥離を抑制できる。樹脂層RL1、RL2の厚さは、例えば1~5μmでもよい。
【0045】
また、樹脂層RL11、RL31の厚さは、特に限定されない。しかしながら、フロアパン10の上面に形成された樹脂層RL11の厚さが、下側フロアサイドメンバ30におけるフロアパン10との当接面に形成された樹脂層RL31の厚さよりも大きくてもよい。融雪剤によるフロアパン10の腐食をより効果的に抑制できる。
【0046】
なお、樹脂層RL11の鋼板SS1への密着性や耐食性等を改善するため、樹脂層RL11と鋼板SS1の表面との間に下地処理皮膜を設けてもよい。また、樹脂層RL31の鋼板SS3への密着性や耐食性等を改善するため、樹脂層RL31と鋼板SS3の表面との間に下地処理皮膜を設けてもよい。下地処理皮膜の層数、組成は、特に限定されない。
また、本実施形態では、鋼板SS1、SS3の端面には、樹脂層は形成されていないが、鋼板SS1、SS3の端面に樹脂層が形成されていてもよい。
【0047】
以上に説明したように、本実施形態に係る車両用フロア構造では、フロアパン10及び下面側補強部材(下側フロアサイドメンバ30)が樹脂被覆鋼板から構成されている。ここで、フロアパン10における上面側補強部材(上側フロアサイドメンバ21等)との当接面に樹脂層RL11が形成されている。また、下側フロアサイドメンバ30におけるフロアパン10との当接面すなわち上面に樹脂層RL31が形成されている。そのため、フロアパン10と上面側補強部材(上側フロアサイドメンバ21等)及び下面側補強部材(下側フロアサイドメンバ30)との当接面における腐食を抑制できると共に、融雪剤によるフロアパン10の上面の腐食も抑制できる。
【0048】
なお、上面側補強部材(上側フロアサイドメンバ21等)を樹脂被覆鋼板から構成してもよい。
しかしながら、
図2に示すように、フロアパン10及び下面側補強部材のみを樹脂被覆鋼板から構成し、上面側補強部材を樹脂被覆されていない通常の鋼板から構成することによって、製造コストを低減できる。
【0049】
(変形例)
次に、
図4を参照して、本実施形態の変形例に係る車両用フロア構造の構成について説明する。
図4は、第1の実施形態の変形例に係る車両用フロア構造の模式断面図である。
図4は、
図3に対応する断面図である。
本実施形態に係る車両用フロア構造は、
図1に示す第1の実施形態に係る車両用フロア構造と同様の構成を有している。
【0050】
図4に示すように、変形例に係る車両用フロア構造では、下面側補強部材(下側フロアサイドメンバ30)の下面も樹脂層RL32によって被覆されている。
図4に示す下側フロアサイドメンバ30では、鋼板SS3の上面が樹脂層RL31によって被覆され、鋼板SS3の下面が樹脂層RL32によって被覆されている。換言すると、下側フロアサイドメンバ30におけるフロアパン10との当接面に樹脂層RL31が形成されると共に、当接面と反対側の表面に樹脂層RL32が形成されている。
樹脂層RL32により、下側フロアサイドメンバ30の下面の腐食を抑制できる。
【0051】
樹脂層RL32は、樹脂層RL31と同様の樹脂層である。特に限定されないが、樹脂層RL32の厚さは、樹脂層RL31の厚さよりも小さくてもよい。このような構成によって、製造コストを低減できる。
【0052】
その他の構成は、
図3に示す第1の実施形態に係る車両用フロア構造と同様であるため、説明を省略する。なお、
図3に示すように、下側フロアサイドメンバ30において、上面の樹脂層RL31のみを形成し、下面の樹脂層RL32を形成しない構成によって、変形例よりも製造コストを低減できる。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 フロアパン
11 フロアトンネル
12 フランジ部
21 上側フロアサイドメンバ
21a 天板
21b 側壁
21c フランジ部
22 トンネルサイドフレーム
23 フロアクロスメンバ
30 下側フロアサイドメンバ
30a 底板
30b 側壁
30c フランジ部
RL11、RL31、RL32 樹脂層
SS1、SS3 鋼板