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特許7494928識別タグ、識別タグの製造方法、識別タグ読み取り方法及び識別タグ付き物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】識別タグ、識別タグの製造方法、識別タグ読み取り方法及び識別タグ付き物品
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/373 20140101AFI20240528BHJP
   G09F 3/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B42D25/373
G09F3/00 M
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022553838
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2021034393
(87)【国際公開番号】W WO2022070998
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2020165585
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】永曽 悟史
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-081203(JP,A)
【文献】特開2013-232069(JP,A)
【文献】特開昭62-283872(JP,A)
【文献】特開2012-236369(JP,A)
【文献】国際公開第2019/014192(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/00-25/485
G09F 3/00- 3/20
G06K 19/00-19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子をタグ情報として用いた、物品に貼り付ける識別タグであって、前記粒子同士のネッキング形状を読み取り対象の情報として含み、
さらに、前記粒子に関する前記ネッキング形状以外の情報を読み取り対象の情報として含み、
前記ネッキング形状以外の情報が、特定面積当たりの粒子数、円形度、及びアスペクト比からなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする識別タグ。
【請求項2】
前記粒子が金属を含む粒子である請求項1に記載の識別タグ。
【請求項3】
前記粒子が金属酸化物、金属窒化物又は金属炭化物を含む粒子である請求項1に記載の識別タグ。
【請求項4】
前記ネッキング形状以外の情報が、粒子の組成及び/又は結晶構造に関する情報である請求項1~3のいずれかに記載の識別タグ。
【請求項5】
前記物品が繊維状の製品である請求項1~のいずれかに記載の識別タグ。
【請求項6】
粒子をタグ情報として用いた、物品に貼り付ける識別タグの製造方法であって、複数の前記粒子を含む組成物を熱処理して粒子同士のネッキング形状を発生させて請求項1~5のいずれかに記載の識別タグを製造することを特徴とする識別タグの製造方法。
【請求項7】
前記熱処理を行う前の粒子の前処理条件を調整することによって熱処理後のネッキング形状を変化させ、異なる種類の識別タグを作製する請求項に記載の識別タグの製造方法。
【請求項8】
前記粒子の前処理条件は、粒子の組成、粒子の結晶構造、粒子の表面状態、粒子の粒径及び粒子の形状からなる群から選択された少なくとも1つである請求項に記載の識別タグの製造方法。
【請求項9】
前記熱処理を行う前の前記組成物の前処理条件を調整することによって熱処理後のネッキング形状を変化させ、異なる種類の識別タグを作製する請求項6~8のいずれかに記載の識別タグの製造方法。
【請求項10】
前記組成物の前処理条件は、前記組成物中に含まれる粒子以外の成分の組成及び/又は前記組成物の成形条件である請求項に記載の識別タグの製造方法。
【請求項11】
前記熱処理の条件を調整することによって熱処理後のネッキング形状を変化させ、異なる種類のセキュリティタグを作製する請求項6~10のいずれかに記載の識別タグの製造方法。
【請求項12】
請求項1~のいずれかに記載の識別タグに含まれるネッキング形状の情報を使用して識別タグの種類を判別することを特徴とする識別タグ読み取り方法。
【請求項13】
請求項1~のいずれかに記載の識別タグが付与されたことを特徴とする識別タグ付き物品。
【請求項14】
前記物品が繊維状の製品である請求項13に記載の識別タグ付き物品。
【請求項15】
前記物品としての万年筆の一部に粒子を含むインクが印刷されることにより識別タグが付与されてなる、請求項13に記載の識別タグ付き物品。
【請求項16】
物品としての万年筆の一部に粒子を含むインクが印刷されることにより、識別タグが付与されてなる識別タグ付き物品であって、
前記識別タグは、 前記 粒子をタグ情報として用いた、物品に貼り付ける識別タグであって、前記粒子同士のネッキング形状を読み取り対象の情報として含むことを特徴とする、識別タグつき物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別タグ、識別タグの製造方法、識別タグ読み取り方法及び識別タグ付き物品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軸線に沿って整列した2つ以上の別個のセグメントを含む第1の材料と、前記セグメントが第2の材料を通して検出可能であるようにして、前記第1の材料を取り囲む第2の材料とを含み、マイクロ粒子のためのコードが設けられる、コード化されたマイクロ粒子が開示されている。
【0003】
さらに、特許文献1には、マイクロ粒子のコード化構造とギャップをコード要素として使用することが記載されている。一例として、長さの異なるセグメントと長さの等しいギャップとが交互に整列されたコード化されたマイクロ粒子が記載されている。
【0004】
そして、特許文献1では、マイクロ粒子が、溶液ベースのアレイ、バイオチップ、DNAマイクロアレイ、タンパク質マイクロアレイや、生化学(又は化学)分析システムの主要な機能的構成要素として使用することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2009-516822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された、このコード化構造は、半導体プロセスにより製造されており、製造装置が大掛かりなものとなっていた。そのため、より簡易的な方法で大量に作製することができ、かつ、タグの種類も豊富にすることができる、識別タグが望まれていた。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、簡易的な方法で大量に作製することができ、かつ、タグの種類も豊富にすることができる、識別タグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の識別タグは、粒子をタグ情報として用いた識別タグであって、上記粒子同士のネッキング形状を読み取り対象の情報として含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の識別タグの製造方法は、粒子をタグ情報として用いた識別タグの製造方法であって、複数の上記粒子を含む組成物を熱処理して粒子同士のネッキング形状を発生させて識別タグを製造することを特徴とする。
【0010】
本発明の識別タグ読み取り方法は、本発明の識別タグに含まれるネッキング形状の情報を使用して識別タグの種類を判別することを特徴とする。
【0011】
本発明の識別タグ付き物品は、本発明の識別タグが付与されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡易的な方法で大量に作製することができ、かつ、識別タグの種類も豊富にすることができる、識別タグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、熱処理前の金属酸化物粒子の一例としてのチタン酸バリウム粒子の電子顕微鏡写真である。
図2図2は、熱処理後の、ネッキング形状を含むチタン酸バリウム粒子の電子顕微鏡写真である。
図3図3は、熱処理条件の違いとネッキング形状の対応の例を示す模式図である。
図4図4は、図3の右上に示したネッキング形状を画像処理により解析した例を示す模式図である。
図5図5は、図3の右下に示したネッキング形状を画像処理により解析した例を示す模式図である。
図6図6は、図2に示す電子顕微鏡写真で点線で囲った部分を画像処理して2値化した例を示す図である。
図7図7は、ウォーターシェッドを用いてネッキング形状を分割した例を示す模式図である。
図8図8は、ウォーターシェッドを用いてネッキング形状を分割した例を示す模式図である。
図9図9は、電子顕微鏡写真から輝度情報を解析した例を示す模式図である。
図10図10は、電子顕微鏡写真から輝度情報を解析した例を示す模式図である。
図11図11は、前処理条件と熱処理条件の違いとネッキング形状の対応の例を示す模式図である。
図12図12は、前処理条件と熱処理条件の違いとネッキング形状の対応の例を示す模式図である。
図13図13は、識別タグ付き物品の一例を模式的に示す斜視図である。
図14図14は、識別タグ付き物品の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の識別タグ、識別タグの製造方法、識別タグ読み取り方法及び識別タグ付き物品について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成及び態様に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい構成及び態様を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0015】
本発明の識別タグは、粒子をタグ情報として用いた識別タグであって、粒子同士のネッキング(necking)形状を読み取り対象の情報として含むことを特徴とする。
【0016】
ネッキング形状は、金属粒子や金属酸化物粒子、金属窒化物粒子又は金属炭化物粒子の形状である。
粒子が金属酸化物粒子である場合を例とすると、金属酸化物粒子の集合体、例えば成形体や凝集体を加熱すると、粒子間距離の近い粒子同士が接触面積を増やし、合体しながら接合する。この粒子同士が接合した状態がネッキング形状となる。
ネッキング形状とは、典型的には粒子同士が接合した部分に生じるくびれ形状を指すが、本明細書では、接合が進み、くびれとはいえないような接合状態の外観を有するものもネッキング形状に含まれると定義する。ただし、くびれ形状を有しているとネッキング形状の識別が容易となるので、くびれ形状を有していることが好ましい。
【0017】
図1は、熱処理前の金属酸化物粒子の一例としてのチタン酸バリウム粒子の電子顕微鏡写真である。
図2は、熱処理後の、ネッキング形状を含むチタン酸バリウム粒子の電子顕微鏡写真である。
図2に示す熱処理後のチタン酸バリウム粒子は、粒子同士が接合した状態となっていることがわかる。このような、粒子同士が接合した形状がネッキング形状である。
【0018】
金属酸化物粒子が熱処理により接合する挙動は、金属酸化物粒子の組成、粒径、形状や金属酸化物粒子の熱処理条件、雰囲気条件等(以下、これらの条件をネッキング形成条件ともいう)によって変化する。このような接合挙動の変化に伴い、それぞれのネッキング形成条件で作製された粒子間のネッキング形状も変化する。
【0019】
ネッキング形状を形成させる、識別タグの製造者は、そのネッキング形状がどのようなネッキング形成条件で得られたかを知っているため、特定のネッキング形成条件での処理を行うことにより特定のネッキング形状を得ることができる。
【0020】
一方、ネッキング形状からネッキング形成条件を明確にすることは容易ではない。そのため、識別タグの製造者ではない第三者は、その識別タグのネッキング形状を見ても、そのネッキング形状がどのようなネッキング形成条件で得られたのかを知ることはできない。そのため、識別タグの製造者以外がその識別タグのネッキング形状を再現することは難しい。
【0021】
このように、粒子同士のネッキング形状は、識別タグの製造者にとっては再現が容易であり、製造者以外の第三者にとっては再現が難しいことから、識別タグは製品の真贋判定に用いるセキュリティタグとして好ましく用いることができる。
【0022】
例えばブランド品などに特定のネッキング形状を読み取り対象の情報として含む識別タグを付与し、このネッキング形状を読み取ることで、ブランド品の真贋判定ができると考えられる。
特定のプロセスで作られた特定のネッキング形状を読み取り対象の情報として含む識別タグは、模倣困難性が高いセキュリティタグとして活用することができる。
【0023】
識別タグに使用する粒子としては、金属を含む粒子であることが好ましい。金属を含む粒子として金属粒子(金属単体粒子又は合金粒子)が挙げられる。金属粒子としては、銅、銀、ニッケル、錫粒子、又はこれらの金属の合金粒子等が挙げられる。金属粒子は加熱等によりネッキング形状を形成することができる。また、金属粒子としては、第1の金属からなる粒子を第2の金属でコートしたコート粉を用いることもできる。
【0024】
また、識別タグに使用する粒子としては金属酸化物、金属窒化物又は金属炭化物を含む粒子であることが好ましい。
金属酸化物を含む粒子(金属酸化物粒子)としては、ネッキング形状を形成する粒子を使用することができる。例えば、チタン酸バリウム、アルミナ、酸化チタン、フェライト、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ストロンチウム、フォルステライト、酸化ジルコニウム、ステアタイト、コージェライト、サイアロン、シリカ等が挙げられる。
金属窒化物を含む粒子(金属窒化物粒子)としては、窒化ケイ素、窒化アルミ等が挙げられる。
金属炭化物を含む粒子(金属炭化物粒子)としては、炭化ケイ素等が挙げられる。
なお、これらの例示の中ではケイ素は金属とみなしている。
【0025】
粒子が金属を含む粒子、又は、金属酸化物、金属窒化物若しくは金属炭化物を含む粒子であると、耐摩耗性、耐環境性(耐熱性、耐光性、耐酸性等)に優れるので、粒子のネッキング形状が長期間にわたって変化しない。そのため、長期間にわたって識別タグとして機能させることができる。
【0026】
粒子としては樹脂粒子を使用することもできる。樹脂粒子を使用すると安価に識別タグを製造することができる。識別タグとして使用する期間が短期間である場合には好適である。樹脂粒子としては、ポリオレフィン粒子(ポリエチレン粒子、ポリプロピレン粒子等)、ポリエステル粒子(PET粒子等)、フッ素樹脂粒子(PTFE粒子等)、シリコーン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子等が挙げられる。
【0027】
本発明の識別タグでは粒子同士のネッキング形状を読み取り対象の情報として使用する。以下には、ネッキング形状を読み取る方法の例について説明するが、下記の方法でネッキング形状を読み取る方法は、本発明の識別タグ読み取り方法の一部でもある。
以下の図面に示す粒子の形状及びネッキング形状は、顕微鏡で撮影された写真における粒子の形状及びネッキング形状を模式的に示した形状である。
ネッキング形状の読み取りは電子顕微鏡を用いて実施することができる。読み取りに使用する装置は電子顕微鏡に限定されるものではない。
【0028】
図3は、熱処理条件の違いとネッキング形状の対応の例を示す模式図である。
図3の左側には熱処理前の粒子を示している。図3の右上には熱処理温度aで熱処理した粒子のネッキング形状を示しており、右下には熱処理温度aとは異なる熱処理温度bで熱処理した粒子のネッキング形状を示している。熱処理雰囲気は同じ(雰囲気B)である。この2つのネッキング形状から情報を読み取る例について説明する。
【0029】
図4は、図3の右上に示したネッキング形状を画像処理により解析した例を示す模式図である。図5は、図3の右下に示したネッキング形状を画像処理により解析した例を示す模式図である。図4及び図5の左側には、顕微鏡写真の特定面積の領域を示していて、図4及び図5では面積は同じである。
また、図6は、図2に示す電子顕微鏡写真で点線で囲った部分を画像処理して2値化した例を示す図である。
【0030】
図4及び図5に示す左側の画像(顕微鏡写真の画像)を画像処理ソフトを使用して白と黒に2値化する。2値化された画像が図4及び図5の右側に示す画像である。実際の画像は図6に示すような白黒の画像となる。
そして、2値化された画像における白の領域の数を数える。白の領域の数が、特定面積あたりの粒子数であり、図4では3個、図5では1個である。この特定面積当たりの粒子数がネッキング形状の含有量となる。このネッキング形状の含有量の値は、ネッキング形状に含まれる読み取り対象の情報の一例である。ネッキング形状の含有量の値が異なる、図4図5のネッキング形状をそれぞれ有する識別タグは、異なる識別タグとして判別される。
また、異なるネッキング形状を有する図4及び図5のネッキング形状のうちの一方のみを識別タグとして判別し、他方は識別タグとして判別しないようにしてもよい。すなわち、ネッキング形状が所定の条件を満たすものだけを識別タグとして使用してもよい。
【0031】
ネッキング形状から得られる他の情報としては、円形度、アスペクト比、包絡度等を使用することができる。
ネッキング形状の円形度、アスペクト比、包絡度を求めるためにはネッキング形状を粒子単位に分割するようにしてもよい。その画像処理の手法は公知の画像処理手法を用いることができる。
円形度は、“円形度=4πS/L(Sが面積、Lが周囲長)”で示される指標で、真円であれば1であり、1に近いほど真円に近いことを意味する。
アスペクト比は、図形の長軸/短軸の比で示される指標である。
包絡度は、「包絡周囲長/実際の周囲長」で示される指標である。
【0032】
ネッキング形状の画像処理は、作業者が目視で画像を確認して、画像処理ソフトを使用して行ってもよい。この場合、作業者が目視でネッキング形状と他の部分を区別する。また、下記に示す領域分割の処理を作業者が手作業で行ってもよい。
【0033】
また、画像処理において人工知能を用いた解析を用いてもよい。例えば下記に示す領域分割の処理を人工知能を用いて行うことができる。また、画像中のネッキング形状と他の部分を区別するために人工知能を用いた解析を用いてもよい。その場合、ネッキング形状が含まれる画像を教師データとした学習済みモデルをあらかじめ作成して、その学習済みモデルに対して画像処理の対象となる画像を入力してネッキング形状を定めることができる。また、ネッキング形状の解析の前処理として畳み込みニューラルネットワークによる処理を用いてもよい。
【0034】
図7及び図8は、ウォーターシェッドを用いてネッキング形状を分割した例を示す模式図である。ウォーターシェッドは、領域分割手法の1つで、2値化処理では隣同士がつながりやすい対象物のつなぎ目を判別して領域を分割する手法である。
【0035】
図7の右側には、左側の画像をウォーターシェッドにより分割した結果、5つの領域に分割されたことを示している。この5つの領域をそれぞれ1つの粒子とみなして、円形度を求めたところ、図7に示す例では円形度が約0.5となったとする。
図8の右側には、左側の画像をウォーターシェッドにより分割した結果、6つの領域に分割されたことを示している。この6つの領域をそれぞれ1つの粒子とみなして、円形度を求めたところ、図8に示す例では円形度は約0.7となったとする。
【0036】
このように複数の領域に対応する各粒子の円形度を求めてその平均を求めれば、ネッキング形状の円形度が得られたことになる。この円形度の値も、ネッキング形状に含まれる読み取り対象の情報の一例である。
【0037】
ネッキング形状を構成する粒子のアスペクト比、包絡度についても、ネッキング形状を分割して、円形度と同様に求めることができる。
包絡度は、「包絡周囲長/実際の周囲長」として求められるが、包絡度を求めるための粒子としてはネッキング形状を分割した粒子を使用してもよいし、ネッキング形状の粒子全体(例えば図7の場合粒子数は1つと考える)を1つの粒子として使用してもよい。
【0038】
ネッキング形状から得られる他の情報としては、ネッキング形状の顕微鏡画像における輝度情報を使用することができる。
【0039】
図9及び図10は、電子顕微鏡写真から輝度情報を解析した例を示す模式図である。
図9の左側にはヒーター加熱により熱処理して得られたネッキング形状の電子顕微鏡写真を示している。図10の左側にはレーザー加熱により熱処理して得られたネッキング形状の電子顕微鏡写真を示している。
【0040】
図9及び図10においてそれぞれ点線で囲った領域について画像に含まれるピクセルの輝度分布を求めた結果を、それぞれ右側に示している。図9では黒と白が分離している傾向があり、輝度分布を示す標準偏差σは73.63%である。一方、図10では色の違いが少なく、輝度分布を示す標準偏差σ=58.51%である。すなわち、図10に示すネッキング形状のほうが輝度のばらつきが小さいといえる。
このような輝度情報(輝度のばらつきの情報)も、ネッキング形状に含まれる読み取り対象の情報の一例である。
【0041】
識別タグには、粒子に関するネッキング形状以外の情報を読み取り対象の情報として含んでいてもよい。ネッキング形状の情報に加えて、ネッキング形状以外の情報を読み取り対象の情報として含むことによって、より多くの情報を含んだ識別タグとなる。
【0042】
ネッキング形状以外の情報としては、粒子の組成及び/又は結晶構造に関する情報が挙げられる。
粒子の組成に関する情報としては、粒子を構成する元素の元素分析結果が挙げられる。
元素分析を行う手法としては、EDXによる元素分析、WDSによる元素分析、XRFによる元素分析、ICPによる元素分析等の手法を用いることができる。
SEM-EDXのように、撮像装置と元素分析装置が組み合わされた装置を使用すると、粒子の形状の分析と粒子の組成及び/又は結晶構造の分析を同時に行うことができるので好ましい。
【0043】
粒子の結晶構造に関する情報としては、粒子の結晶化率、特定の回折角に対する半値幅や相に関する情報が挙げられる。結晶構造解析の手法としてはXRDによる分析、ラマン分光分析、UV-VISスペクトル分析等を用いることができる。
また、蛍光分光光度計による分析を行ってもよい。
【0044】
識別タグが付された物品から識別タグを分離して元素分析を行ってもよい。また、分析の種類によっては、識別タグに含まれる粒子を含む溶液を調製しての分析を行う必要があるので、識別タグの破壊検査となる。
【0045】
識別タグは、真贋判定に用いるセキュリティタグとして用いることができることから、製品の製造元を読み取り対象の情報として含むことができるといえる。その他に識別タグに含ませることができる情報としては、製品の品番表示、ロット表示、製造地表示等が挙げられる。識別タグを構成する粒子同士のネッキング形状が、これらの情報に対応する形状となっている。読み取り装置に、ネッキング形状とその形状が意味する情報を紐づけておくことで、ネッキング形状から製品の品番表示、ロット表示、製造地表示等の様々な情報を得ることができる。
【0046】
また、本発明の識別タグに含まれるネッキング形状の情報を使用して識別タグの種類を判別することを特徴とする識別タグ読み取り方法は、本発明の識別タグ読み取り方法である。
ネッキング形状の読み取り方法は、上述した通りである。
本発明の識別タグ読み取り方法では、電子顕微鏡等の顕微鏡を用いて粒子同士のネッキング形状を読み取る。一方、ネッキング形状と、識別タグの種類を関連付けたライブラリを準備しておく。読み取ったネッキング形状を上記ライブラリと対比することで、ネッキング形状が識別タグに該当するか否か、及び/又は、識別タグの種類を判別することができる。
【0047】
続いて、識別タグの製造方法について説明する。
本発明の識別タグの製造方法は、粒子をタグ情報として用いた識別タグの製造方法であって、複数の粒子を含む組成物を熱処理して粒子同士のネッキング形状を発生させて識別タグを製造することを特徴とする。
【0048】
上述したように、識別タグに含まれる、粒子同士のネッキング形状は、粒子同士が接合した形状である。本発明の識別タグの製造方法では、ネッキング形状が所定の形状となるようにネッキング形成条件を定めて、熱処理により粒子同士のネッキング形状を発生させて識別タグを製造する。
【0049】
ネッキング形状を定める方法として、熱処理を行う前の条件を定める方法と、熱処理時の条件を定める方法がある。
熱処理を行う前の条件を定める方法としては、熱処理を行う前の粒子の前処理条件を調整することによって熱処理後のネッキング形状を変化させ、異なる種類の識別タグを作製する方法がある。
【0050】
粒子の前処理条件としては、粒子の組成、粒子の結晶構造、粒子の表面状態、粒子の粒径及び粒子の形状からなる群から選択された少なくとも1つを使用することができる。
粒子の組成や粒子の結晶構造が異なると溶融温度や軟化点(温度)が変化する。そのため、同じ熱処理条件であっても異なるネッキング形状となる。
また、組成物を調製する際に粉砕メディアと共に粒子を混合することがあるが、その際の粉砕メディアの種類や大きさ、ボールミルの回転数を調整することで粒子の粒径や粒子の形状を調整することができる。粒子の粒径の調整には、平均粒子径の調整だけではなく粒度分布の調整も含まれる。粒度分布がシャープであるか、ブロードであるかによってもネッキング形状は異なる。
また、粒子が金属粒子である場合には粒子の表面処理を行って粒子の表面状態を変化させることでネッキング形状を変化させることができる。
表面処理の方法としては一般的な金属粒子の表面処理方法(湿式、乾式、化学的処理、物理的処理等)を使用することができる。
これらの条件のうち1つ又は複数を変化させるとネッキング形状が変化する。
【0051】
熱処理を行う前の条件を定める別の方法としては、熱処理を行う前の組成物の前処理条件を調整することによって熱処理後のネッキング形状を変化させ、異なる種類の識別タグを作製する方法がある。熱処理を行う前の組成物には、複数の粒子と粒子以外の成分が含まれる。
【0052】
組成物の前処理条件としては、組成物中に含まれる粒子以外の成分の組成及び/又は組成物の成形条件を使用することができる。
組成物中に含まれる粒子以外の成分としては、バインダー、分散剤、可塑剤、消泡剤等が挙げられる。これらの成分の種類、配合量及び分散状態を変化させるとネッキング形状が変化する。
【0053】
組成物の成形条件としては、組成物の乾燥、整粒の条件、加圧成型時の設備、金型、成形圧等の条件が挙げられる。また、成形方法としてはプレス成形、射出成形、押出成形、シート成形等が挙げられる。これらの条件を変化させるとネッキング形状が変化する。
【0054】
また、熱処理の条件を調整することによって熱処理後のネッキング形状を変化させ、異なる種類の識別タグを作製する方法がある。
複数の粒子を含む組成物として同じ組成物を使用したとしても、熱処理の条件を変化させることによってネッキング形状を変化させることができる。
【0055】
熱処理時の条件を調整する場合の条件の例としては、熱処理をヒーター炉で行うか、レーザー加熱設備で行うか、といった加熱方法の条件が挙げられる。加熱源の例としては、マイクロ波、レーザー、赤外ヒーターや遠赤外ヒーター、アークプラズマ、誘導加熱、電流や電圧印加による抵抗加熱、化学反応時の発熱、熱源との接触による伝熱等を使用することができる。また、熱処理を2回以上行うことにしてそれぞれ異なる加熱方法、加熱条件を用いてもよい。
【0056】
熱処理条件として、熱処理温度(最高到達温度)、熱処理時間(最高到達温度での保持時間)、温度上昇/温度下降のプロファイル、熱処理雰囲気(大気中、低酸素濃度、不活性ガス中、等の条件)、熱処理に使用するサヤの部材の種類等といった条件が挙げられる。
【0057】
上述した図9図10には、加熱方法によるネッキング形状の違いが示されている。図9にはヒーター加熱により熱処理して得られたネッキング形状が示されており、図10にはレーザー加熱により熱処理して得られたネッキング形状が示されている。ネッキング形状が異なることは2つの図の違いから明らかである。
【0058】
図11及び図12は、前処理条件と熱処理条件の違いとネッキング形状の対応の例を示す模式図である。
図11及び図12の左側に示すように、図11では熱処理前の粒子の粒子径が相対的に小さく、図12では熱処理前の粒子の粒子径が相対的に大きい。
これらを異なる熱処理条件(図11では熱処理温度b、熱処理雰囲気Bであり、図12では熱処理温度c、熱処理雰囲気C)で熱処理した結果、図11及び図12の右側に示すようなネッキング形状となる。
図11に示すネッキング形状では、熱処理前の粒子の形状があまり残っておらず、粒子の溶融の度合いが大きい形状となっている。一方、図12に示すネッキング形状では、熱処理前の6つの粒子の形状に由来する構造が残っており、6つの粒子の間をネック部がつなぐことによって接合したネッキング形状となっている。
【0059】
また、図3には、同じ組成物を用いて熱処理条件の違いによりネッキング形状を異なる形状とした例を示している。
【0060】
このように、ネッキング形成条件を調整することにより異なるネッキング形状を形成させることができるが、ネッキング形状を決定する条件は多数あり、その条件は識別タグの製造者しか知りえず、ネッキング形状からネッキング形成条件を知ることは難しい。
また、ネッキング形成条件を調整することによって異なる種類のネッキング形状を発生させることができるので、識別タグの種類を増やすことができる。
上記のことから、本発明の識別タグの製造方法を用いることによって、第三者が知りえない方法で多くの種類の識別タグを製造することができる。このような識別タグは模倣困難性が高いセキュリティタグとして活用することができる。
【0061】
本発明の識別タグを物品に付与することにより、識別タグ付き物品とすることができる。本発明の識別タグ付き物品は、本発明の識別タグが付与されたことを特徴とする。
【0062】
図13及び図14は、識別タグ付き物品の一例を模式的に示す斜視図である。
図13に示す識別タグ付き物品1は、物品としての万年筆の一部に粒子を含むインクが印刷により付与された識別タグ10を有する。
粒子を含むインクを付与する方法は印刷に限定されるものではなく、粒子を含むインクへ物品の一部を接触させる方法、刷毛塗り等による塗布等の方法が挙げられる。
インクに含まれる粒子は、ネッキング形状を有しているので、識別タグにより物品に情報を付与することができる。
【0063】
図14に示す識別タグ付き物品2は、物品としてのバッグの一部に粒子を含む貼付物が貼り付けられた識別タグ20を有する。
貼付物に粒子を付与したものを識別タグとして、その貼付物を識別タグを付与する対象の物品に貼り付けることで識別タグ付き物品を得ることができる。
貼付物としては、基材の一方面側に粒子を含むインクが付与され、他方面側に接着剤あるいは粘着剤が付与されたステッカー(シール)を使用することができる。また、物品が繊維状の製品(バッグ、衣類等)である場合、粒子を含むインクを布に付与したものを貼付物として、布を物品に縫い付けることによって識別タグを付与してもよい。このような付与方法における粒子を含むインクを付与した布は貼付物に該当する。
【0064】
物品に識別タグを付与するために使用する、粒子を含むインクは、ネッキング形状を有する粒子と、溶剤、分散剤、バインダー樹脂等を混合することにより製造することができる。ネッキング形状を有する粒子は、本発明の識別タグの製造方法により製造された熱処理を経た粒子であり、熱処理後の成形体を粒子のネッキング形状が識別できる程度に粉砕や解砕することにより得ることができる。また、充分に小さな成形体を熱処理することによって成形体自体を個々の粒子として扱うこともできる。
【0065】
識別タグは物品の外観において視認しやすい位置に配置してもよく、物品の外観からは視認しにくい(視認できない)位置に配置してもよい。
識別タグをセキュリティタグとして使用する場合には、識別タグを物品の外観において視認しやすい位置に配置することで、模倣品を製造しようとする第三者は識別タグも含めて偽造する必要が生じる。識別タグが付いていることを明確にすることで模倣防止を図るという考え方である。
一方、識別タグを物品の外観において視認しにくい(視認できない)位置に配置することで、識別タグが物品の外観(デザイン)に与える影響を排除することができる。また、模倣品を製造しようとする第三者が識別タグの存在に気づかなければ、第三者は識別タグの部分も含めて模倣することはないので、識別タグも含めた完全な模倣品が製造されることはない。
【0066】
識別タグを付与する物品は、特に限定されるものではないが、模倣、偽造されやすい製品が挙げられる。例えばブランド品(バッグ、財布、宝飾品、化粧品、腕時計、衣類、文具等)、CD、DVD、ゲームソフト、玩具、医薬品、医療機器、紙幣、電子部品、基板、モジュール、電化製品、カメラ、OA機器、家具、各種製品の搬送資材、梱包材等が挙げられる。
【符号の説明】
【0067】
1、2 識別タグ付き物品
10、20 識別タグ
図1
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