(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/414 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
G01N27/414 301U
G01N27/414 301V
G01N27/414 301E
(21)【出願番号】P 2022578160
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047529
(87)【国際公開番号】W WO2022163231
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2021011367
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】宮川 成人
(72)【発明者】
【氏名】牛場 翔太
(72)【発明者】
【氏名】品川 歩
(72)【発明者】
【氏名】中野 友美
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼田 優果
(72)【発明者】
【氏名】西尾 まどか
(72)【発明者】
【氏名】谷 晋輔
【審査官】黒田 浩一
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/414
G01N 21/414
H01L 51/05
H01L 51/30
H01L 21/336
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体と、ソース電極と、ドレイン電極と、を備え、
前記構造体は、
基材と、
前記基材の表面に配置され、二次元材料またはカーボンナノチューブを含む材料層と、
前記基材と前記材料層との間に挟まれて配置される粒子と、を備え
、
前記ソース電極は、前記構造体の基材の表面に配置され、前記構造体の材料層と電気的に接続されており、
前記ドレイン電極は、前記基材の表面に前記ソース電極と離れて配置され、前記材料層と電気的に接続されている、
電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記粒子は、金属粒子である、請求項1に記載の
電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記粒子は、金、白金およびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含む金属粒子である、請求項1に記載の
電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記粒子の粒径は、1nm以上10nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の
電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記粒子の面内数密度は、833個/μm
2以上1740個/μm
2以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の
電界効果トランジスタ。
【請求項6】
前記材料層は二次元材料を含み、前記二次元材料はグラフェンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の
電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記基材の前記材料層に接する表面の材質は、酸化シリコンまたは酸化アルミニウムである、請求項1~6のいずれか1項に記載の
電界効果トランジスタ。
【請求項8】
前記材料層に外部から電界を印加するためのゲート電極をさらに備える、請求項
1~7のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項9】
液体中で動作する、請求項
1~8のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン等の二次元材料またはカーボンナノチューブを含む材料層が基材の表面に配置される構造体を備える電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
二次元材料の1つであるグラフェンは、例えば、電界効果トランジスタ(特許文献1、非特許文献1)、バイオセンサ(特許文献2、非特許文献2)、歪みセンサ(非特許文献3)、透明導電性フィルム(特許文献3)、保護膜(特許文献4)等に応用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-525200号公報(国際公開第2017/216641号)
【文献】特表2019-516452号公報(国際公開第2017/186783号)
【文献】特開2016-139492号公報
【文献】特開2016-100038号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Science Vol.306,pp.666-669(2004)
【文献】Journal of Electroanalytical Chemistry Vol.855,pp.113495-1-8(2019)
【文献】Scientific Reports 10,16870(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の文献においては、グラフェンを含む層が基材の表面に配置されている。例えば、特許文献1においては、グラフェン等のナノスケール材料を含む層が電気絶縁基板の表面に配置されている。
【0006】
しかしながら、いずれの文献においても、グラフェンを含む層と基材との間の密着性に関しては認識されていない。したがって、グラフェンを含む層が基材から容易に剥離するおそれがある。
【0007】
なお、上記の問題は、グラフェンを含む層が基材の表面に配置される場合に限らず、グラフェン以外の二次元材料またはカーボンナノチューブを含む層(以下、グラフェンを含む層も含めて材料層という)が基材の表面に配置される構造体に共通する問題である。
【0008】
本発明は、材料層が基材から剥離しにくい構造体を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記構造体を備える電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構造体は、基材と、上記基材の表面に配置され、二次元材料またはカーボンナノチューブを含む材料層と、上記基材と上記材料層との間に挟まれて配置される粒子と、を備える。
【0010】
本発明の電界効果トランジスタは、本発明の構造体と、上記構造体の基材の表面に配置され、上記構造体の材料層と電気的に接続されているソース電極と、上記構造体の基材の表面に上記ソース電極と離れて配置され、上記構造体の材料層と電気的に接続されているドレイン電極と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構造体によれば、材料層が基材から剥離しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の構造体の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る構造体の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の構造体を備えるバイオセンサの構成の一例を模式的に示す概略図である。
【
図4】
図4は、ゲート電圧V
Gとソース・ドレイン間電流I
DSとの関係を示すグラフである。
【
図5】
図5A~
図5Fは、基材の表面に電極パターンを形成する工程の一例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6A~
図6Eは、電極パターンが形成された基材の表面に材料層を形成する工程の一例を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7Aは、リフトオフ後、表面改質前の基板表面のAFM像である。
図7Bは、表面改質後、グラフェン転写前の基板表面のAFM像である。
【
図8】
図8Aは、リフトオフ後、表面改質前の基板表面のXPSスペクトルである。
図8Bは、表面改質後、グラフェン転写前の基板表面のXPSスペクトルである。
【
図9】
図9は、グラフェン転写後の表面のSEM像である。
【
図11】
図11は、実施例の構造体の表面の光学顕微鏡像である。
【
図12】
図12は、比較例の構造体の表面の光学顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構造体について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。以下の実施形態において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0014】
図1は、本発明の構造体の一例を模式的に示す断面図である。なお、
図1に示す各部分の厚さは、図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されている。他の図面においても同様である。
【0015】
図1に示す構造体1は、基材11と、基材11の表面に配置され、二次元材料またはカーボンナノチューブを含む材料層12と、基材11と材料層12との間に挟まれて配置される粒子13と、を備える。材料層12は、基材11の表面の全体に配置されてもよく、基材11の表面の一部に配置されてもよい。また、粒子13は、基材11と材料層12との間に均一に存在してもよく、一部に集中して存在してもよい。
【0016】
本発明の構造体では、基材と材料層との間に粒子が挟まれているため、基材と材料層との間に粒子が存在しない場合に比べて、材料層の接触面積および凹凸が増大する。その結果、アンカー効果により材料層と基材との間の密着性が強化され、材料層が基材から剥離しにくくなる。
【0017】
本発明の一実施形態に係る構造体は、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)として機能する。本発明の構造体が電界効果トランジスタとして機能する場合、後述するように、バイオセンサ等のセンサとして好適に用いられる。このように、本発明の構造体を備える電界効果トランジスタも、本発明の1つである。
【0018】
バイオセンサ等に用いられる電界効果トランジスタでは、グラフェン等を含む材料層が基材から剥離すると、応答に寄与する材料の量が減少するため、信号対ノイズ比(S/N比)が小さくなる懸念がある。これに対し、本発明の構造体では材料層が基材から剥離しにくいため、S/N比の低下を抑えることができる。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態に係る構造体の一例を模式的に示す断面図である。
【0020】
図2に示す構造体10は、
図1に示す構造体1と同様、基材11と、基材11の表面に配置され、二次元材料またはカーボンナノチューブを含む材料層12と、基材11と材料層12との間に挟まれて配置される粒子13と、を備える。構造体10は、基材11の表面に配置され、材料層12と電気的に接続されているソース電極21と、基材11の表面にソース電極21と離れて配置され、材料層12と電気的に接続されているドレイン電極22と、をさらに備える。したがって、構造体10は、電界効果トランジスタとして機能する。
【0021】
図2に示す例では、ソース電極21およびドレイン電極22は互いに離れて基材11の表面に配置されており、ソース電極21とドレイン電極22との間から基材11が露出している。材料層12は、ソース電極21の端部と、基材11の露出部と、ドレイン電極22の端部とを覆うように基材11の表面に配置されている。ソース電極21とドレイン電極22との間の材料層12が、電界効果トランジスタのチャネルを構成する。
【0022】
本発明の構造体において、基材の材料層に接する表面の材質は、例えば、酸化シリコンまたは酸化アルミニウムである。本発明の構造体が電界効果トランジスタとして機能する場合、基材として、例えば、シリコン(Si)基板の表面を酸化して酸化シリコン(SiO2)層を形成した熱酸化シリコン基板等の絶縁基板を用いることができる。絶縁基板の材質は特に限定されず、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、フッ化カルシウム等の無機化合物、あるいはアクリル樹脂、ポリイミド、フッ素樹脂等の有機化合物等が用いられる。絶縁基板の形状は特に限定されず、平板状でもよく、曲板状でもよい。絶縁基板は、可撓性を有してもよい。
【0023】
本発明の構造体において、材料層は、二次元材料またはカーボンナノチューブを含む。二次元材料は、平面方向の寸法に比べて厚さ方向の寸法が非常に小さい材料である。二次元材料の具体例としては、グラフェン、二硫化モリブデン、窒化ホウ素等が挙げられる。材料層の層数は1層に限定されず、2層または3層以上であってもよい。材料層の層数は、10層以下であることが好ましく、5層以下であることがより好ましい。また、層数は材料層全体で均一である必要は無く、例えば1層の部分と2層以上の部分とが混在していても良い。材料層の層数は、例えばラマン分光法や、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察を行うことで測定できる。材料層が二次元材料を含むとき、その材料層に含まれる二次元材料はグラフェンであることが好ましい。
【0024】
グラフェンは、六角形の網目状に結合した炭素原子からなる二次元材料である。グラフェンは、比表面積(体積当たりの表面積)が非常に大きく、また、電気的に非常に高い移動度を有する。
【0025】
カーボンナノチューブは、長い筒状の炭素化合物である。カーボンナノチューブとしては、グラフェンと同様の網目構造を持つ炭素層が1層からなるシングルウォールカーボンナノチューブ(SW-CNT)を用いてもよく、多数の炭素層が積層してなるマルチウォールカーボンナノチューブ(MW-CNT)を用いてもよい。いずれのカーボンナノチューブも導電性に優れている。
【0026】
本発明の構造体において、粒子の種類は特に限定されず、例えば、金属粒子、セラミック粒子、ガラス粒子等の無機粒子、樹脂粒子等の有機粒子等が挙げられる。
【0027】
中でも、粒子は、金属粒子であることが好ましく、金、白金およびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含む金属粒子であることがより好ましい。これらの金属粒子と材料層との間の相互作用により、材料層が基材からさらに剥離しにくくなる。
【0028】
本発明の構造体において、粒子の粒径は特に限定されないが、粒径が大きくなりすぎると、本発明の構造体を用いたデバイスの特性(例えば、電気的特性または光学的特性等)に対し、粒子の特性の寄与が大きくなり、材料層の特性の寄与が相対的に小さくなるため、デバイス動作に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、粒子はナノ粒子であることが好ましい。具体的には、粒子の粒径は、1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0029】
ここで、粒子の粒径は、材料層が配置された基材の表面を、後述の実施例において記載した観察条件で走査型電子顕微鏡(SEM)により分析した際に観察される各粒子の粒径を意味する。なお、粒子の外周上の2点を結ぶ直線で定められる最大の長さを粒径と定義する。
【0030】
本発明の構造体において、粒子の面内数密度は特に限定されないが、面内数密度が高くなりすぎると、本発明の構造体を用いたデバイスの特性(例えば、電気的特性または光学的特性等)に対し、粒子の特性の寄与が大きくなり、材料層の特性の寄与が相対的に小さくなるため、デバイス動作に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、粒子の面内数密度は、833個/μm2以上1740個/μm2以下であることが好ましい。
【0031】
ここで、粒子の面内数密度は、材料層が配置された基材の表面を、後述の実施例において記載した観察条件で走査型電子顕微鏡(SEM)により分析した際に観察される各視野(1視野当たり423nm×318nm)の粒子の個数を数えることにより求められる。
【0032】
本発明の構造体が電界効果トランジスタとして機能する場合、ソース電極およびドレイン電極は、例えば、チタン(Ti)層と金(Au)層とを積層した多層構造の電極である。電極材料としては、チタンおよび金の他に、例えば金、白金、チタン、パラジウム等の金属を単層で用いてもよく、2種以上の金属を組み合わせて多層構造として用いてもよい。
【0033】
本発明の構造体が電界効果トランジスタとして機能する場合、構造体は、材料層に外部から電界を印加するためのゲート電極をさらに備えてもよい。
【0034】
本発明の構造体が電界効果トランジスタとして機能する場合、構造体は、材料層の基材と反対側の表面に修飾されたレセプターをさらに備えてもよい。これにより、本発明の構造体は、検出対象物質を特異的に検出するためのバイオセンサ等のセンサとして好適に用いられる。レセプターとしては、例えば、抗体、抗原、糖類、アプタマー、ペプチド等が挙げられる。レセプターは、材料層の表面に直接的に修飾されていなくてもよく、例えば、リンカーを介して材料層に結合されていてもよい。
【0035】
本発明の構造体がバイオセンサとして用いられる場合、具体的な検出対象物質としては、例えば、細胞、微生物、ウイルス、タンパク質、酵素、核酸、低分子生体物質等が挙げられる。
【0036】
本発明の構造体がバイオセンサとして用いられる場合、電界効果トランジスタは、例えば、液体中で動作する。この場合、構造体の液体に接する面には検出対象物質と結合可能なサイトが存在する。液体中で用いるバイオセンサでは、液流による力が材料層に加わるため、基材と材料層との間の密着性が悪いと、ノイズの増大を引き起こすおそれがある。本発明の構造体では、材料層が基材から剥離しにくいため、液体中でのセンサ動作時におけるノイズを低減することができる。
【0037】
図3は、本発明の構造体を備えるバイオセンサの構成の一例を模式的に示す概略図である。
【0038】
図3に示すバイオセンサ100は、
図2に示す構造体10を備える。材料層12の基材11と反対側の表面にはレセプター14が修飾されている。バイオセンサ100は、構造体10上に例えばシリコーンゴム製のプール31を取り付け、プール31の内部を電解液32で満たし、ゲート電極23を電解液32に浸漬させ、ソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23にバイポテンショスタット(図示せず)を接続することで構成される。電解液32には、検出対象物質33が含まれている。
【0039】
ゲート電極23は、ソース電極21およびドレイン電極22に対して電位を印加させるものであり、一般的には貴金属を用いる。ゲート電極23は、ソース電極21およびドレイン電極22を形成した位置以外のところに設けられる。通常は基材11上あるいは基材11以外の場所に設けられるが、ソース電極21またはドレイン電極22の上方に設けられることが好ましい。
【0040】
図4は、ゲート電圧V
Gとソース・ドレイン間電流I
DSとの関係を示すグラフである。
【0041】
図4では、レセプターが検出対象物質と結合していない場合のソース・ドレイン間電流I
DSを実線Aで示し、レセプターが検出対象物質と結合している場合のソース・ドレイン間電流I
DSを破線Bで示している。
図4に示すように、レセプターが検出対象物質と特異的に結合した際には、検出対象物質であるターゲット分子の電荷によって伝導特性が変調される。その変調を観測することで、検出対象物質の有無または濃度をセンシングすることができる。
【0042】
以下、
図2に示す構造体10の製造方法の一例について説明する。
【0043】
まず、基材の表面に、一般的なフォトリソグラフィー工程により電極パターンを形成する。
【0044】
図5A~
図5Fは、基材の表面に電極パターンを形成する工程の一例を模式的に示す断面図である。
【0045】
図5Aに示すように、基材11の表面にレジスト40を塗布する。
【0046】
図5Bに示すように、レジスト40に重なる位置を遮光するようにマスク45を配置した後、レジスト40を露光する。
【0047】
図5Cに示すように、露光部分を現像により除去し、レジスト像41を形成する。
【0048】
図5Dに示すように、基材11の露出部およびレジスト像41の上に、電極材料20を蒸着する。
【0049】
図5Eに示すように、超音波洗浄を用いてリフトオフを行い、レジスト像41とその上の電極材料20を除去する。
図5Eに示すリフトオフを行う際の超音波洗浄により、除去された電極材料20が微粉砕された後、金属粒子である粒子13として基材11の表面に再付着すると推定される。
【0050】
図5Fに示すように、酸素プラズマを用いて表面改質を行うことが好ましい。
図5Fに示す表面改質を行う際の酸素プラズマにより、一部蒸発した電極材料20が金属粒子である粒子13として基材11の表面に再付着すると推定される。
【0051】
リフトオフまたは表面改質の条件によって、粒子の面内数密度を調整することができる。例えば、表面改質の出力が高くなるほど、また、表面改質の時間が長くなる程、粒子の面内数密度を高くすることが可能である。
【0052】
以上の工程により、基材11の表面に、例えばソース電極21およびドレイン電極22が電極パターンとして形成される。
【0053】
続いて、電極パターンが形成された基材の表面に、二次元材料またはカーボンナノチューブを含む材料層を形成する。例えば、電極パターンが形成された基材の表面に、二次元材料またはカーボンナノチューブを転写する。
【0054】
図6A~
図6Eは、電極パターンが形成された基材の表面に材料層を形成する工程の一例を模式的に示す断面図である。
【0055】
図6Aに示すように、銅箔50上に成膜された材料層12を用意する。
【0056】
図6Bに示すように、材料層12の上に、転写媒体55を塗布する。
【0057】
【0058】
図6Dに示すように、電極パターンとしてソース電極21およびドレイン電極22が形成された基材11の表面に材料層12を転写する。材料層12および転写媒体55は柔軟性を有するため、
図6Dに示すように、ソース電極21およびドレイン電極22が形成された基材11の表面の形状に沿って、材料層12および転写媒体55が変形して転写される。
【0059】
【0060】
以上の工程により、
図2に示す構造体10が得られる。
【0061】
[実施例]
以下、本発明の構造体をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
【0063】
図5Aに示す工程では、基材11として、表面に290nmの熱酸化膜を有するSiウエハ基板(市販品)を用意した。
【0064】
図5Dに示す工程では、電子ビーム蒸着装置を用いて、電極材料20として、チタン(Ti)を10nm、続いて金(Au)を90nm堆積させた。
【0065】
図5Eに示すリフトオフを行う工程では、超音波洗浄機(シャープ(株)製 UT-206)を用いて、レジスト像41とその上の電極材料20(金属材料)を除去してアセトン中で超音波洗浄を5分行った。その後、新たなアセトン中で超音波洗浄を15分行い、さらに、超純水中で超音波洗浄を5分行った。
【0066】
図5Fに示す表面改質を行う工程では、反応性イオンエッチング装置(サムコ(株)製 RIE-10NR)を用いて、酸素100Pa中、出力300W、4分間の表面処理を行った。
【0067】
図6Aに示す工程では、銅箔50上に成膜された材料層12として、グラフェン(市販品)を用意した。
【0068】
図6Bに示す工程では、銅箔50上に成膜された材料層12(グラフェン)の上に、転写媒体55としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Polymethyl methacrylate:PMMA)をスピンコートにより塗布し、ホットプレートで加熱することで、PMMAを硬化させた。
【0069】
図6Cに示す工程では、銅箔50を化学溶媒で溶解除去し、超純水ですすいだ。
【0070】
図6Dに示す工程では、超純水に浮かべたPMMA/グラフェンのシートを、ソース電極21およびドレイン電極22の電極パターンが形成された基材11(基板)上にすくい取り、その後、ホットプレートで加熱、乾燥させた。
【0071】
図6Eに示す工程では、転写媒体55(PMMA)を有機溶媒で溶解除去し、超純水ですすいだ。
【0072】
実施例の構造体について、
図5Eに示すリフトオフ後で
図5Fに示す表面改質前の基板表面、および、
図5Fに示す表面改質後で
図6Dに示すグラフェン転写前の基板表面を、原子間力顕微鏡(AFM)により分析した。AFMとしてブルカージャパン(株)製 Dimension-Fastscanを使用し、タッピングモードを用いて基板表面を観察した。
【0073】
図7Aは、リフトオフ後、表面改質前の基板表面のAFM像である。
図7Bは、表面改質後、グラフェン転写前の基板表面のAFM像である。
【0074】
図7Aおよび
図7Bより、高さ10nm弱のナノ粒子が観測された。ナノ粒子の量は、
図7A<
図7Bであった。
図7Aにおいて観測されたナノ粒子は、リフトオフを行う際の超音波洗浄により基板表面に付着した金属粒子と推定される。一方、
図7Bにおいて観測されたナノ粒子は、リフトオフを行う際の超音波洗浄により基板表面に付着した金属粒子に加えて、表面改質を行う際の酸素プラズマにより基板表面に付着した金属粒子と推定される。
【0075】
実施例の構造体について、
図5Eに示すリフトオフ後で
図5Fに示す表面改質前の基板表面、および、
図5Fに示す表面改質後で
図6Dに示すグラフェン転写前の基板表面を、X線光電子分光法(XPS)により分析した。XPS装置としてアルバック・ファイ(株)製 VersaProbeを使用し、電極間のΦ50μm領域にX線を照射して基板表面のスペクトルを観察した。
【0076】
図8Aは、リフトオフ後、表面改質前の基板表面のXPSスペクトルである。
図8Bは、表面改質後、グラフェン転写前の基板表面のXPSスペクトルである。
【0077】
【0078】
AFM分析およびXPS分析から、基板表面にナノ粒子が存在することと、電極が形成されていない部分にも金が存在することが分かった。後述の走査型電子顕微鏡(SEM)分析および透過型電子顕微鏡(TEM)分析と合わせると、これらの粒子が金ナノ粒子に対応していると推定される。さらに、これらの粒子は、リフトオフを行う際の超音波洗浄により除去された電極材料の再付着、および、表面改質を行う際の酸素プラズマにより蒸発した電極材料の再付着により生成されていると推定される。
【0079】
実施例の構造体について、
図6Eに示すグラフェン転写後の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により分析した。SEMとして(株)日立ハイテク製 Regulus 8230を使用し、観察条件は、加速電圧3kV、エミッション電流10μA、作動距離2mm、倍率300k(30万)倍、撮像面積423nm×318nm(0.1345μm
2)とし、反射電子像を撮像した。
【0080】
【0081】
図9より、1nm~10nm弱の明点が観測された。反射電子像は重い元素で構成された物質ほど明るく見えるという特徴があるので、先述のXPS分析、後述のTEM分析と合わせると、これらの明点は金の存在に対応している、つまり金ナノ粒子が観測されていると推定される。
【0082】
実施例の構造体について、複数箇所で同様のSEM像を撮像し、各視野における明点の数を数えて撮像面積(0.1345μm2)で割ることで、ナノ粒子の面内数密度とそのばらつきを評価した。結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
グラフェン転写後の実施例の構造体の上に、電子ビーム蒸着装置を用いてチタンを0.8nm、続いて原子層堆積装置を用いて酸化アルミニウムを約2.5nm成膜した構造体の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)-エネルギー分散型X線分析(EDX)により分析した。TEMとして日本電子(株)製 JEM-F200を使用し、加速電圧は200kVとした。また、EDXとしてサーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製 NORAN system 7を使用した。
【0085】
【0086】
図10A~
図10Fより、基板の上かつグラフェン層(
図10BのC分布参照)の下に、断続的に金が存在することが観測された。断続的に存在する元素は金以外に観測されなかったことから、先述のAFM分析およびSEM分析で観測されたナノ粒子の構成元素は金であると推定される。
【0087】
実施例の構造体について、金ナノ粒子による密着性向上の効果を確認するため、グラフェン転写後の表面を光学顕微鏡で観察し、グラフェンの剥離の程度を評価した。密着性が低いと、PMMAの除去洗浄時にかかる力によりグラフェンが剥離する。
【0088】
図11は、実施例の構造体の表面の光学顕微鏡像である。
図11では、破線で囲まれた領域にグラフェンが転写されている。
【0089】
図11より、実施例の構造体では、転写したグラフェンがほとんど剥離しておらず、ほぼ100%残存している。
【0090】
一方、比較例として、電極の形成を行わず、金ナノ粒子が存在しない基板上にグラフェンを転写し、上記と同様にグラフェンの剥離の程度を光学顕微鏡で評価した。
【0091】
図12は、比較例の構造体の表面の光学顕微鏡像である。
図12では、破線で囲まれた領域にグラフェンが転写されている。
【0092】
図12より、比較例の構造体では、転写したグラフェンの多くが剥離している。
【0093】
以上の結果から、基板等の基材とグラフェン等を含む材料層との間に、金ナノ粒子等の粒子が存在することにより、材料層が基材から剥離しにくくなることが確認された。
【0094】
上記の実施例では、リフトオフを行う際の超音波洗浄により除去された電極材料の再付着、および、表面改質を行う際の酸素プラズマにより蒸発した電極材料の再付着により金ナノ粒子が生成されていると推定されるが、金ナノ粒子に加えて、チタンナノ粒子が生成されていてもよい。
【0095】
本発明の構造体は、上記実施形態に限定されるものではなく、構造体の構成、製造条件等に関し、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0096】
本発明の構造体は、基材と材料層と粒子とを備える限り、ソース電極およびドレイン電極等の電極を備えなくてもよい。
【0097】
例えば、本発明の構造体がグラフェンを含む材料層を備える場合、電極を備えない形態でのグラフェンの応用例としては、上述した歪みセンサ(非特許文献3)、透明導電性フィルム(特許文献3)、保護膜(特許文献4)等が挙げられる。
【0098】
歪みセンサでは、グラフェンの光透過性を利用する。歪みの印加で光の透過率等が変化するため、光で歪みを検知することができる。このように、歪みセンサでは光学応答を観測するため、電極は不要である。本発明の構造体を歪みセンサとして用いる場合、基材としては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のポリマーが挙げられる。
【0099】
本発明の構造体では材料層が基材から剥離しにくいため、本発明の構造体を歪みセンサとして用いる場合においても、電界効果トランジスタとして用いる場合と同様に、S/N比の低下を抑えることができる。
【0100】
透明導電性フィルムでは、グラフェンの、光を透過するほどの薄さでも高い導電性、高い曲げ耐性といった特性を利用する。本発明の構造体を透明導電性フィルムとして用いる場合、基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルムが挙げられる。
【0101】
透明導電性フィルムでは、材料層が基材から剥離すると、導電性が低下する懸念がある。これに対して、本発明の構造体では材料層が基材から剥離しにくいため、導電性の低下を抑えることができる。
【0102】
また、グラフェンの耐腐食性、耐摩耗性を利用して、磁気記録材料等の保護膜に応用することも可能である。本発明の構造体を磁気記録材料の保護膜として用いる場合、基材としては、例えば、磁性層等が挙げられる。
【0103】
保護膜では、材料層が基材から剥離すると、剥離した部分で保護機能が得られなくなる懸念がある。これに対して、本発明の構造体では材料層が基材から剥離しにくいため、保護機能の低下を抑えることができる。
【0104】
本発明の構造体が電極を備えない場合、基材と材料層との間に金ナノ粒子等の粒子を分散させることで構造体を作製することができる。例えば、静電噴霧法等の方法を用いて、市販されている金ナノ粒子の分散液を基材上に塗布した後、材料層を形成すればよい。
【符号の説明】
【0105】
1、10 構造体
11 基材
12 材料層
13 粒子
14 レセプター
20 電極材料
21 ソース電極
22 ドレイン電極
23 ゲート電極
31 プール
32 電解液
33 検出対象物質
40 レジスト
41 レジスト像
45 マスク
50 銅箔
55 転写媒体
100 バイオセンサ