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  • 特許-電動過給機 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】電動過給機
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20240528BHJP
   F02B 39/14 20060101ALI20240528BHJP
   F16C 27/02 20060101ALI20240528BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20240528BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20240528BHJP
   F02B 39/10 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
F02B39/00 P
F02B39/00 L
F02B39/14 C
F16C27/02 A
F16J15/447
F16C33/80
F02B39/14 D
F02B39/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022581256
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2022000547
(87)【国際公開番号】W WO2022172668
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2021020997
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】林 克憲
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199695(WO,A1)
【文献】実開昭63-138433(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
F16C 33/80
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサのインペラとモータとの間で回転シャフトの周囲に張出したスラストカラーと、
前記スラストカラーの前記インペラ側の面に対面して前記回転シャフトをスラスト方向で支持する第1空気軸受部と、
前記スラストカラーの前記モータ側の面に対面して前記回転シャフトをスラスト方向で支持する第2空気軸受部と、
前記第1空気軸受部と前記第2空気軸受部とで挟まれ前記スラストカラーが収容される軸受空間と、
前記スラストカラーの外周面に沿って設けられ、前記軸受空間を前記インペラ側の領域である第1領域と前記モータ側の領域である第2領域とに仕切るラビリンスシール部と、を備え、
前記第2領域と外部とを連通する排出経路を有する、電動過給機。
【請求項2】
前記排出経路は、前記第2領域と外部とを連通するためにハウジングに形成された連通路を含む、請求項に記載の電動過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動過給機として下記特許文献1に記載のものが知られている。この電動過給機は、圧縮空気を生成し内燃機関に供給するコンプレッサと、このコンプレッサの回転シャフトを内燃機関の排気ガスのエネルギーで回転させるタービンと、回転シャフトの回転を補助する電動モータと、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-062778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の電動過給機では、回転シャフトに対してモータ側からコンプレッサインペラ側に向かう方向のスラスト力が作用する。このため、回転シャフトを支持する支持部等には上記スラスト力に対応可能な仕様が要求される。従って、上記のような支持部等の要求仕様が過大にならないように、スラスト力は小さいことが望まれる。そこで、本開示は、回転シャフトに作用するスラスト力を低減する電動過給機を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る電動過給機は、コンプレッサのインペラとモータとの間で回転シャフトの周囲に張出したスラストカラーと、スラストカラーのインペラ側の面に対面して回転シャフトをスラスト方向で支持する第1空気軸受部と、スラストカラーのモータ側の面に対面して回転シャフトをスラスト方向で支持する第2空気軸受部と、第1空気軸受部と第2空気軸受部とで挟まれスラストカラーが収容される軸受空間と、スラストカラーの外周面に沿って設けられ、軸受空間をインペラ側の領域である第1領域とモータ側の領域である第2領域とに仕切るラビリンスシール部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本開示の電動過給機によれば、回転シャフトに作用するスラスト力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る電動過給機の断面図である。
図2】電動過給機のスラスト空気軸受部近傍を拡大して示す断面図である。
図3】スラスト空気軸受部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の一態様に係る電動過給機は、コンプレッサのインペラとモータとの間で回転シャフトの周囲に張出したスラストカラーと、スラストカラーのインペラ側の面に対面して回転シャフトをスラスト方向で支持する第1空気軸受部と、スラストカラーのモータ側の面に対面して回転シャフトをスラスト方向で支持する第2空気軸受部と、第1空気軸受部と第2空気軸受部とで挟まれスラストカラーが収容される軸受空間と、スラストカラーの外周面に沿って設けられ、軸受空間をインペラ側の領域である第1領域とモータ側の領域である第2領域とに仕切るラビリンスシール部と、を備える。
【0009】
本開示の電動過給機は、第2領域と外部とを連通する排出経路を有することとしてもよい。また、排出経路は、第2領域と外部とを連通するためにハウジングに形成された連通路を含むこととしてもよい。
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面において同一又は同等の要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。なお、図面では特徴部分が適宜誇張して図示される場合があるので、各部位の寸法比が各図間で一致しない場合がある。
【0011】
図1は、電動過給機1の一例を示す断面図であり、図2は、その一部を拡大して示す断面図である。電動過給機1は、例えば、車両用や船舶用として用いられる電動アシスト型のターボチャージャーである。電動過給機1は、タービン2とコンプレッサ3とを備えており、タービン2とコンプレッサ3との間に設けられた電動モータ10を備えている。タービン2、コンプレッサ3、及び電動モータ10が、電動過給機1のハウジング12内に構築されている。
【0012】
ここでは、ハウジング12は、大きく分けてタービンハウジング4と、コンプレッサハウジング5と、モータハウジング15と、で構成されている。ハウジング12は更に細かく分かれた部位で構成されてもよい。タービン2は、タービンハウジング4内に配置されたタービンインペラ6を備えている。コンプレッサ3は、コンプレッサハウジング5内に配置されたコンプレッサインペラ7を備えている。タービンハウジング4とコンプレッサハウジング5との間にはモータハウジング15が設置されている。モータハウジング15には電動モータ10のステータ11が固定されている。
【0013】
コンプレッサインペラ7の回転シャフト14には、タービンインペラ6が固定されている。タービンインペラ6の回転は、回転シャフト14を介してコンプレッサインペラ7に伝わる。よって、タービンインペラ6が回転すると、コンプレッサインペラ7が回転する。回転シャフト14には電動モータ10のロータ13が固定されている。このロータ13とステータ11との協働によって回転シャフト14の回転が補助される。
【0014】
電動過給機1では、内燃機関(図示せず)から排出された排気ガスが、スクロール16を通じてタービンハウジング4内に流入し、タービンインペラ6を回転軸線H周りに回転させる。タービンインペラ6を回転させた排気ガスは、タービン2の吐出口8を通じて軸方向に吐出される。上記のようにタービンインペラ6が回転すると、回転シャフト14を介してコンプレッサインペラ7が回転する。このとき、電動モータ10により回転シャフト14にトルクが付与されて回転シャフト14及びコンプレッサインペラ7の回転が補助される。回転するコンプレッサインペラ7は、吸入口9を通じて外部の空気を軸方向に吸入しスクロール17に排出する。そしてスクロール17で圧縮された圧縮空気が前述の内燃機関に供給される。
【0015】
回転シャフト14は複数の軸受によって回転自在に支持されている。例えば、モータハウジング15内に2つのラジアル軸受21,22が設けられており、ラジアル軸受21,22はロータ13を軸方向に挟むように配置されている。これらのラジアル軸受21,22によって回転シャフト14がラジアル方向に支持される。また、回転シャフト14をスラスト方向に支持するために、一対のスラスト空気軸受23,27と、円板状のスラストカラー29と、が設けられている。一対のスラスト空気軸受23,27は、ラジアル軸受21とコンプレッサインペラ7との間に位置している。スラストカラー29は、回転シャフト14の周囲に鍔状に張出すように設けられている。スラストカラー29は、回転軸線Hに直交する面29h,29tと、面29h,29t同士を接続する円柱面をなす外周面29cと、で画成されている。外周面29cは回転軸線Hを円柱軸とする円柱面をなす。面29h(以下「前面29h」という)はスラストカラー29のコンプレッサインペラ7側の面であり、面29t(以下「背面29t」)はスラストカラー29の電動モータ10側の面である。
【0016】
スラスト空気軸受23(第1空気軸受部)とスラスト空気軸受27(第2空気軸受部)とは回転軸線H方向に並んで平行に配置されている。スラスト空気軸受23,27は、スペーサ31を挟持するような態様で、複数の締結ボルトによって一体となるように締結されている。そして、一体になったスラスト空気軸受23,27及びスペーサ31が、モータハウジング15内に固定されている。スペーサ31は、スラストカラー29の外周を包囲するリング状をなし、スラストカラー29に比較して軸方向の厚みが大きい。スラスト空気軸受23,27及びスペーサ31によって囲まれた空間内に、スラストカラー29が収容されている。この収容空間内で、スラストカラー29は、スラスト空気軸受23,27及びスペーサ31に非接触の状態で回転する。
【0017】
スラスト空気軸受23は軸受面23aを有し、軸受面23aはスラストカラー29の前面29hに対面している。同様に、スラスト空気軸受27は軸受面27aを有し、軸受面27aはスラストカラー29の背面29tに対面している。上記のようにスラストカラー29が収容される空間を以下「軸受空間33」と呼ぶ。すなわち、軸受面23a,27a及びスペーサ31で囲まれた空間が軸受空間33である。また、軸受空間33のうち、スラストカラー29の前面29hと、スラスト空気軸受23の軸受面23aと、の間の領域を「第1領域R1」と呼ぶ。また、軸受空間33のうち、スラストカラー29の背面29tと、スラスト空気軸受27の軸受面27aと、の間の領域を「第2領域R2」と呼ぶ。
【0018】
図3に示されるように、スラスト空気軸受23,27は、円環の板状に形成されている。スラスト空気軸受23,27の中央には回転シャフト14を挿通させる穴35が形成されている。スラスト空気軸受23の軸受面23aには、扇形をなす複数の凸部37が周方向に等間隔に形成されている。凸部37は、例えば、軸方向にフォイル(図示せず)を含むような公知の構造に形成され、僅かな厚みで軸方向に盛り上がっている。一方、スラスト空気軸受27はスラスト空気軸受23と同様に構成されている。すなわち、スラスト空気軸受27の軸受面27aにも、上記同様の複数の凸部37が形成されている。
【0019】
このように凸部37が形成された軸受面23a,27aの存在により、回転シャフト14の回転中には、第1領域R1及び第2領域R2に安定した空気膜が形成され、回転シャフト14のスラスト方向の空気軸受機能が実現される。なお、凸部37の厚みが小さいので、図1及び図2においては、凸部37が図面上に現れていない。
【0020】
電動過給機1では、図2に示されるように、スラストカラー29の外周面29cに沿ってラビリンスシール部41が設けられている。ラビリンスシール部41は、スラストカラー29の外周面29cと、この外周面29cに対面するスペーサ31の内周面31cと、の隙間をシールしている。ラビリンスシール部41は、軸受空間33を第1領域R1と第2領域R2とに仕切っている。
【0021】
ラビリンスシール部41においては、径方向内側に向けて突出するとともに周方向に延在する凸条部がスペーサ31の内周面31cに形成されている。このような複数の凸条部により、スラストカラー29の外周面29cとスペーサ31の内周面31cとの間隔が断続的に絞られることで、ラビリンスシール部41が構成されている。なお、上記のような凸条部がスペーサ31の内周面31cに形成されることに代えて、上記のような凸条部がスラストカラー29の外周面29cに形成されてもよい。
【0022】
また、電動過給機1では、第2領域R2とタービン2の吐出口8とを連通させる空気排出経路43(図1参照)が形成されている。空気排出経路43(連通路)は、スラスト空気軸受27の軸受面27a上に形成された流路と、ハウジング12内に形成された流路と、で構成される。これにより、第2領域R2は、空気排出経路43と吐出口8とを通じて電動過給機1の外部と連通されている。電動過給機1の運転中には、第2領域R2内の空気が、空気排出経路43と吐出口8とを通じて少しずつ外部に排出される。本実施形態の空気排出経路43は吐出口8と連通している。しかし、ハウジング12に開口を設け、空気排出経路43をハウジング12の開口に連通させてもよい。すなわち、ハウジング12に設けられた空気排出経路43が第2領域R2とハウジング12の外部とを直接連通するようにしてもよい。
【0023】
続いて、上述したような電動過給機1による作用効果について説明する。電動過給機1のハウジング12内においては、コンプレッサインペラ7の背面側にインペラ背面空間47が形成されている。インペラ背面空間47は、回転シャフト14とディフューザプレート18とのクリアランス及び回転シャフト14とスラスト空気軸受23とのクリアランスを通じて軸受空間33に連通されている。具体的には、インペラ背面空間47は軸受空間33の第1領域R1に連通されている。
【0024】
またハウジング12内には、電動モータ10が収容されたモータ空間49が形成されている。モータ空間49は、回転シャフト14とラジアル軸受21とのクリアランス及び回転シャフト14とスラスト空気軸受27とのクリアランスを通じて軸受空間33に連通されている。具体的には、モータ空間49は軸受空間33の第2領域R2に連通されている。
【0025】
電動過給機1の運転中において、インペラ背面空間47には、コンプレッサインペラ7からスクロール17に向けて排出される空気の一部が流入するので、インペラ背面空間47は比較的高圧の空間である。従って、軸受空間33のうちインペラ背面空間47に連通された第1領域R1も比較的高圧の空間である。なお、この種の従来の圧縮機では、インペラ背面空間47と軸受空間33との間にラビリンスシールが設けられる場合があるが、電動過給機1にはそのようなラビリンスシールは存在しないので、インペラ背面空間47と第1領域R1との圧力差は小さい。
【0026】
一方、モータ空間49には、ラジアル軸受21,22等の冷却のために、冷却空気流路51(図1参照)を通じてコンプレッサ3のディフューザの空気の一部が流れ込んでいる。この冷却用の空気は、インペラ背面空間47の圧力に比較すれば低圧であるので、モータ空間49はインペラ背面空間47に比較して低圧であり、軸受空間33のうちモータ空間49に連通された第2領域R2は比較的低圧の空間である。また、前述の空気排出経路43によって第2領域R2から空気が外部に排出されるので、第2領域R2が比較的低圧に維持される。
【0027】
更に、第1領域R1と第2領域R2とはラビリンスシール部41によって仕切られているので、第1領域R1と第2領域R2との間には圧力差が生じ、第1領域R1が第2領域R2よりも高圧である。そうすると、上記の圧力差に起因して、スラストカラー29に対しては、第1領域R1から第2領域R2に向かう方向の(図1において左向きの)力が作用する。
【0028】
なお、電動過給機1の運転中において、軸受空間33近傍の空気の流れは次の通りである。モータ空間49からの空気は、第2領域R2に流れ、空気排出経路43及び吐出口8を通じて外部に排出される。一方、インペラ背面空間47からの空気は、第1領域R1に流れ、前述の圧力差によってラビリンスシール部41を通じて第2領域R2に僅かに漏出する。その後、第2領域R2の空気に合流して、空気排出経路43及び吐出口8を通じて外部に排出される。
【0029】
この種の過給機においては、タービンインペラ6からコンプレッサインペラ7に向かう方向の(図1において右向きの)スラスト力が回転シャフト14に作用することが知られている。一方、電動過給機1によれば、前述したように、第1領域R1と第2領域R2との圧力差に起因して、図1における左向きの力が回転シャフト14に作用する。この左向きの力によって上記のスラスト力が一部相殺され軽減される。このように、電動過給機1によれば、回転シャフト14に作用するスラスト力を軽減することができる。そして、スラスト力が軽減されることにより、スラスト力を支持する各部位の要求仕様が軽減される。例えば、スラスト力が軽減されれば、スラストカラー29及びスラスト空気軸受23,27を小さくすることが可能になる。以上の結果、電動過給機1の小型化を図ることも可能になる。
【0030】
本開示は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。例えば、第2領域R2の空気を外部に排出するためには、空気排出経路43のような流路を設けることは必須ではなく、例えば、ハウジング12の部品の隙間から第2領域R2の空気が電動過給機1の外部に漏出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 電動過給機
3 コンプレッサ
7 コンプレッサインペラ
10 電動モータ
14 回転シャフト
23 スラスト空気軸受(第1空気軸受部)
27 スラスト空気軸受(第2空気軸受部)
29 スラストカラー
29c 外周面
33 軸受空間
41 ラビリンスシール部
43 空気排出経路(連通路)
R1 第1領域
R2 第2領域

図1
図2
図3