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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240528BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240528BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
H01L29/78 652Q
H01L29/78 655G
H01L29/78 653A
H01L29/78 652T
H01L29/78 652M
H01L29/78 655A
H01L29/78 657D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023002721
(22)【出願日】2023-01-11
(62)【分割の表示】P 2021094585の分割
【原出願日】2017-01-17
(65)【公開番号】P2023036996
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】御田村 直樹
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-251296(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038064(WO,A1)
【文献】特開2016-029710(JP,A)
【文献】特開2013-098415(JP,A)
【文献】特開2016-154218(JP,A)
【文献】特開2001-352067(JP,A)
【文献】特開2002-043574(JP,A)
【文献】特開2013-125806(JP,A)
【文献】特開2013-239697(JP,A)
【文献】特開2015-231022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/739
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のドリフト領域を有する半導体基板と、
前記半導体基板において、前記半導体基板の上面と前記ドリフト領域との間に形成された第2導電型のベース領域と、
前記半導体基板において、前記半導体基板の上面と前記ベース領域との間に設けられた第1導電型のエミッタ領域と、
前記半導体基板の上面に形成され、前記エミッタ領域および前記ベース領域と接する第1ゲートトレンチ部と、
前記半導体基板の上面に形成された第2ゲートトレンチ部と、
前記第1ゲートトレンチ部の第1ゲート導電部と電気的に接続された第1パッド部と、
前記第2ゲートトレンチ部の第2ゲート導電部と電気的に接続された第2パッド部と、
を備える半導体チップを備え、
前記半導体チップに接続された配線基板と、
前記半導体チップと前記配線基板とを接続する第1接続部と、
前記半導体チップと前記配線基板とを接続する第2接続部と、
を含み、
前記第1接続部は、前記第1ゲート導電部と電気的に接続され、
前記第2接続部は、前記第2ゲート導電部と電気的に接続されている
半導体モジュール。
【請求項2】
前記半導体チップは、
前記第1ゲート導電部が、所定のゲート電圧が印加されると、少なくとも前記ベース領域のうち前記第1ゲートトレンチ部に接する界面の表層にチャネルが形成される
請求項1に記載の半導体モジュール
【請求項3】
前記半導体チップは、
前記第2ゲート導電部が、ターンオン時において、前記第1ゲート導電部よりも後に前記所定のゲート電圧が印加される
請求項2に記載の半導体モジュール
【請求項4】
前記半導体チップは、
前記第1パッド部を含み、前記第1ゲート導電部と接続された第1電気経路と、
前記第2パッド部を含み、前記第2ゲート導電部と接続された第2電気経路と、
前記第1電気経路および前記第2電気経路を介して、前記第1ゲート導電部および前記第2ゲート導電部のそれぞれに電圧を印加するゲートドライバユニットと、
を備える請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体モジュール
【請求項5】
前記半導体チップは、
前記第1パッド部および前記第2パッド部と電気的に接続されたゲートパッドと、
前記第1パッド部と前記ゲートパッドの間に配置された第1抵抗部と、
前記第2パッド部と前記ゲートパッドの間に配置された第2抵抗部と、
を備える請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体モジュール
【請求項6】
第1導電型のドリフト領域を有する半導体基板と、
前記半導体基板において、前記半導体基板の上面と前記ドリフト領域との間に形成された第2導電型のベース領域と、
前記半導体基板において、前記半導体基板の上面と前記ベース領域との間に設けられた第1導電型のエミッタ領域と、
前記半導体基板の上面に形成され、前記エミッタ領域および前記ベース領域と接する第1ゲートトレンチ部と、
前記半導体基板の上面に形成された第2ゲートトレンチ部と、
前記第1ゲートトレンチ部の第1ゲート導電部と接続された第1電気経路と、
前記第2ゲートトレンチ部の第2ゲート導電部と接続された第2電気経路と、
前記第1電気経路および前記第2電気経路を介して、前記第1ゲート導電部および前記第2ゲート導電部のそれぞれに電圧を印加するゲートドライバユニットと、
を備え、
前記第1ゲート導電部は、所定のゲート電圧が印加されると、少なくとも前記ベース領域のうち前記第1ゲートトレンチ部に接する界面の表層にチャネルが形成され、
前記第2ゲート導電部は、ターンオン時において、前記第1ゲート導電部よりも後に前記所定のゲート電圧が印加される
半導体チップを備え、
前記半導体チップに接続された配線基板と、
前記半導体チップと前記配線基板とを接続する第1接続部と、
前記半導体チップと前記配線基板とを接続する第2接続部と、
を含み、
前記第1接続部は、前記第1ゲート導電部と電気的に接続され、
前記第2接続部は、前記第2ゲート導電部と電気的に接続されている
半導体モジュール。
【請求項7】
前記半導体チップは、
前記第1ゲートトレンチ部と前記第2ゲートトレンチ部との間に設けられた第1メサ部を含み、
前記エミッタ領域は、前記第1メサ部において、前記第2ゲートトレンチ部に接していない
請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体モジュール
【請求項8】
前記半導体チップは、前記半導体基板にIGBTとFWDが形成されている
請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体モジュール
【請求項9】
前記FWDは、エミッタ電位が印加されるダミートレンチ部を有する
請求項8に記載の半導体モジュール
【請求項10】
ベース領域と、第1ゲートトレンチ部および第2ゲートトレンチ部とを備える半導体チップと、
配線基板と、
前記配線基板と前記第1ゲートトレンチ部とを電気的に接続する第1接続部と、
前記配線基板と前記第2ゲートトレンチ部とを電気的に接続する第2接続部と、
を備え、
前記第1ゲートトレンチ部は第1ゲート導電部を有し、
前記第1ゲート導電部は、所定のゲート電圧が印加されると、少なくとも前記ベース領域のうち前記第1ゲートトレンチ部に接する界面の表層にチャネルが形成され、
前記第2接続部は、ターンオン時において、前記第1接続部よりも後に前記所定のゲート電圧を印加する
半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、半導体モジュールおよび半導体装置のターンオン方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等の半導体素子を含む半導体装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特開2006-210547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
半導体装置においては、オン損失(Eon)等の所定の特性において、所定の性能を有することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一つの態様においては、半導体装置を提供する。半導体装置は、第1導電型のドリフト領域を有する半導体基板を備えてよい。半導体装置は、半導体基板において、半導体基板の上面とドリフト領域との間に形成された第2導電型のベース領域を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、半導体基板において、半導体基板の上面とベース領域との間に設けられた第1導電型のエミッタ領域を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、半導体基板の上面に形成され、エミッタ領域およびベース領域と接する第1ゲートトレンチ部を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、半導体基板の上面に形成された第2ゲートトレンチ部を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、第1ゲートトレンチ部の第1ゲート導電部と電気的に接続された第1パッド部を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、第2ゲートトレンチ部の第2ゲート導電部と電気的に接続された第2パッド部を備えてよい。
【0005】
上記いずれかの半導体装置において、第1ゲート導電部は、所定のゲート電圧が印加されると、少なくともベース領域のうち第1ゲートトレンチ部に接する界面の表層にチャネルが形成されてよい。
【0006】
上記いずれかの半導体装置において、第2ゲート導電部は、ターンオン時において、第1ゲート導電部よりも後に所定のゲート電圧が印加されてよい。
【0007】
上記いずれかの半導体装置は、第1パッド部を含み、第1ゲート導電部と接続された第1電気経路を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、第2パッド部を含み、第2ゲート導電部と接続された第2電気経路を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、第1電気経路および第2電気経路を介して、第1ゲート導電部および第2ゲートトレンチ部のそれぞれに電圧を印加するゲートドライバユニットを備えてよい。
【0008】
上記いずれかの半導体装置は、第1パッド部および第2パッド部と電気的に接続されたゲートパッドを備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、第1パッド部とゲートパッドの間に配置された第1抵抗部を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、第2パッド部とゲートパッドの間に配置された第2抵抗部を備えてよい。
【0009】
本発明の一つの態様においては、半導体装置を提供する。半導体装置は、第1導電型のドリフト領域を有する半導体基板を備えてよい。半導体装置は、半導体基板において、半導体基板の上面とドリフト領域との間に形成された第2導電型のベース領域を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、半導体基板において、半導体基板の上面とベース領域との間に設けられた第1導電型のエミッタ領域とを備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、半導体基板の上面に形成され、エミッタ領域およびベース領域と接する第1ゲートトレンチ部を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、半導体基板の上面に形成された第2ゲートトレンチ部を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、第1ゲートトレンチ部の第1ゲート導電部と接続された第1電気経路を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、第2ゲートトレンチ部の第2ゲート導電部と接続された第2電気経路を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、第1電気経路および第2電気経路を介して、第1ゲート導電部および第2ゲートトレンチ部のそれぞれに電圧を印加するゲートドライバユニットを備えてよい。上記いずれかの半導体装置において、第1ゲート導電部は、所定のゲート電圧が印加されると、少なくともベース領域のうち第1ゲートトレンチ部に接する界面の表層にチャネルが形成されてよい。上記いずれかの半導体装置において、第2ゲート導電部は、ターンオン時において、第1ゲート導電部よりも後に所定のゲート電圧が印加されてよい。
【0010】
上記いずれかの半導体装置は、第1ゲートトレンチ部と第2ゲートトレンチ部との間に設けられた第1メサ部を含んでよい。上記いずれかの半導体装置において、エミッタ領域は、第1メサ部において、第2ゲートトレンチ部に接していなくてよい。
【0011】
上記いずれかの半導体装置には、半導体基板にIGBTとFWDが形成されていてよい。
【0012】
上記いずれかの半導体装置において、FWDは、エミッタ電位が印加されるダミートレンチ部を有してよい。
【0013】
半導体モジュールは、上記いずれかの半導体装置である半導体チップを含んでいてよい。半導体モジュールは、半導体チップに接続された配線基板を含んでいてよい。上記いずれかの半導体モジュールは、半導体チップと配線基板とを接続する第1接続部を含んでいてよい。上記いずれかの半導体モジュールは、半導体チップと配線基板とを接続する第2接続部を含んでいてよい。上記いずれかの半導体モジュールにおいて、第1接続部は、第1ゲート導電部と電気的に接続されてよい。上記いずれかの半導体モジュールにおいて、第2接続部は、第2ゲート導電部と電気的に接続されていてよい。
【0014】
本発明の一つの態様においては、半導体モジュールを提供する。半導体モジュールは、ベース領域を備えてよい。半導体モジュールは、第1ゲートトレンチ部および第2ゲートトレンチ部を備える半導体チップを備えてよい。上記いずれかの半導体モジュールは、配線基板を備えてよい。上記いずれかの半導体モジュールは、配線基板と第1ゲートトレンチ部とを電気的に接続する第1接続部を備えてよい。上記いずれかの半導体モジュールは、配線基板と第2ゲートトレンチ部とを電気的に接続する第2接続部を備えてよい。上記いずれかの半導体モジュールにおいて、第1ゲートトレンチ部は第1ゲート導電部を有してよい。上記いずれかの半導体モジュールにおいて、第1ゲート導電部は、所定のゲート電圧が印加されると、少なくともベース領域のうち第1ゲートトレンチ部に接する界面の表層にチャネルが形成されてよい。上記いずれかの半導体モジュールにおいて、第2接続部は、ターンオン時において、第1接続部よりも後に所定のゲート電圧を印加してよい。
【0015】
本発明の一つの態様においては、半導体装置のターンオン方法を提供する。半導体装置のターンオン方法においては、第1ゲートトレンチ部および第2ゲートトレンチ部を含み、所定のゲート電圧が印加されると、少なくともベース領域のうち第1ゲートトレンチ部に接する界面の表層にチャネルが形成されてよい。半導体装置のターンオン方法は、第1ゲートトレンチ部の第1ゲート導電部と電気的に接続された第1パッド部に、所定のゲート電圧を印加する工程を含んでよい。半導体装置のターンオン方法は、第2ゲートトレンチ部の第2ゲート導電部と電気的に接続された第2パッド部に、第1ゲート導電部よりも後に所定のゲート電圧を印加する工程を含んでよい。
【0016】
上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。これらの特徴群のサブコンビネーションも発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一つの実施形態に係る半導体装置100の一例を示す図である。
図2図1におけるA-A断面の一例を示す図である。
図3】第1電気素子81および第2電気素子82の一例を示す上面図である。
図4図3におけるB-B断面の一例を示す。
図5図3におけるC-C断面の一例を示す。
図6】半導体装置100のターンオン時におけるコレクタ電流Ic1の波形の一例を示す図である。
図7】半導体装置100および比較例における、FWDのdVak/dtと、IGBTのオン損失(Eon)との関係を示す図である。
図8】他の実施形態に係る半導体装置200の一例を示す上面図である。
図9図8におけるD-D断面を示す図である。
図10】他の実施形態に係る半導体装置300の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向を指すものではない。
【0020】
本明細書では、適宜、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。本明細書では、Z軸方向を上下方向とする。
【0021】
本明細書においては「エミッタ」および「コレクタ」の用語を用いているが、半導体装置に含まれる素子はIGBT等のトランジスタに限定されない。MOSFET等のトランジスタにおける「ソース」および「ドレイン」も、本明細書における「エミッタ」および「コレクタ」の用語の範囲に含まれ得る。
【0022】
各実施例においては、第1導電型をN型、第2導電型をP型とした例を示しているが、第1導電型をP型、第2導電型をN型としてもよい。この場合、各実施例における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の極性となる。
【0023】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る半導体装置100の一例を示す図である。半導体装置100は、半導体基板10、第1電気素子81および第2電気素子82を備える。半導体装置100は、第3電気素子83を更に備えてもよい。半導体基板10は、シリコン、炭化シリコンまたは窒化ガリウム等の半導体材料で形成された基板である。
【0024】
半導体基板10には、IGBT等の半導体素子が形成されている。図1においては、半導体基板10の上面の一部と、第1電気素子81、第2電気素子82および第3電気素子83を模式的に示している。半導体基板10の上面とは、半導体基板10において対向して設けられた2つの主面の一方を指す。本明細書における半導体基板10の上面は、X-Y面と平行な面である。
【0025】
図1においては、半導体基板10において半導体素子が形成された活性領域を部分的に示すが、半導体基板10は、活性領域を囲んでエッジ終端部を有してよい。活性領域は、例えば半導体装置100を動作させた場合に電流が流れる領域を指す。エッジ終端部は、半導体基板の上面近傍の電界集中を緩和する。エッジ終端部は、例えばガードリング、フィールドプレート、リサーフおよびこれらを組み合わせた構造を有する。
【0026】
半導体基板10は、第1導電型のドリフト領域18を有する。図1に示すドリフト領域18は、半導体基板10の上面に露出する部分を有するが、ドリフト領域18は、半導体基板10の上面に露出していなくともよい。
【0027】
半導体基板10の上面には、第1ゲートトレンチ部30および第2ゲートトレンチ部40が形成されている。第1ゲートトレンチ部30および第2ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面から、半導体基板10の内部まで形成された溝形状を有する。本例の第1ゲートトレンチ部30および第2ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面において、X軸方向に伸びる直線部分を有する。半導体基板10の上面において、第1ゲートトレンチ部30の1つ以上の直線部分と、第2ゲートトレンチ部40の1つ以上の直線部分とが、Y軸方向において交互に配置される。図1の例では、第1ゲートトレンチ部30の直線部分と、第2ゲートトレンチ部40の直線部分とが1つずつ交互に配置されている。
【0028】
本明細書では、それぞれのトレンチ部に挟まれた半導体基板10の領域を、メサ部70と称する。図1の例では、各メサ部70において、半導体基板10の上面にドリフト領域18が露出している。それぞれのメサ部70には、第2導電型のベース領域14および第1導電型のエミッタ領域12が形成される。
【0029】
図1の例では、それぞれのメサ部70において、X軸方向においてベース領域14およびエミッタ領域12が離散的に配置されている。本例では、メサ部70の上面のうち、ベース領域14およびエミッタ領域12が露出していない部分には、ドリフト領域18が露出している。Y軸方向において隣接するメサ部70においては、ベース領域14およびエミッタ領域12が設けられているX軸上の位置が異なっていてよい。一例として、それぞれのメサ部70においてベース領域14が設けられるX軸上の位置は、隣接するメサ部70において2つのベース領域14が設けられるX軸上の位置の中央である。それぞれのメサ部70において、ベース領域14が設けられるX軸方向のピッチは同一であってよい。
【0030】
ベース領域14は、メサ部70において半導体基板10の上面に露出している。また、ベース領域14は、第1ゲートトレンチ部30に接して設けられる。ベース領域14は、第2ゲートトレンチ部40にも接していてよい。
【0031】
エミッタ領域12は、メサ部70において半導体基板10の上面に露出している。エミッタ領域12は、第1ゲートトレンチ部30に接して設けられる。本例のエミッタ領域12は、第2ゲートトレンチ部40には接していない。本例のエミッタ領域12は、半導体基板10の上面において、ベース領域14および第1ゲートトレンチ部30に囲まれている。
【0032】
半導体基板10の上面には、第1ゲートトレンチ部30、第2ゲートトレンチ部40、エミッタ領域12、ベース領域14およびドリフト領域18を覆う層間絶縁膜が形成されている。層間絶縁膜の上には、ゲート電極およびエミッタ電極が設けられる。エミッタ電極は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホール15を介して、エミッタ領域12およびベース領域14と電気的に接続する。ゲート電極も同様に、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを介して、それぞれのゲートトレンチ部に電気的に接続してよい。
【0033】
図2は、図1におけるA-A断面の一例を示す図である。A-A断面は、Y-Z面と平行であり、且つ、いずれかのエミッタ領域12を通る面である。本例の半導体基板10は、N-型のドリフト領域18を有する。
【0034】
半導体基板10において、半導体基板10の上面11とドリフト領域18との間には、P-型のベース領域14が形成される。上述したように、ベース領域14は、メサ部70において選択的に形成されてよい。ベース領域14が形成されていない領域においては、半導体基板10の上面11にドリフト領域18が露出している。当該断面では、ベース領域14が上面に露出するメサ部70と、ドリフト領域18が上面に露出するメサ部70とが交互に配置されている。
【0035】
半導体基板10において、半導体基板10の上面11とベース領域14との間には、N+型のエミッタ領域12が形成されている。エミッタ領域12の不純物濃度は、ドリフト領域18の不純物濃度よりも高い。エミッタ領域12は、ベース領域14が設けられたメサ部70において、第1ゲートトレンチ部30と接しており、且つ、第2ゲートトレンチ部40とは接していない。
【0036】
半導体基板10の上面には、層間絶縁膜26が形成されている。層間絶縁膜26は、例えばボロンおよびリンの少なくとも一方がドープされたシリケートガラスである。層間絶縁膜26には、それぞれのベース領域14およびエミッタ領域12を露出させるコンタクトホール15が設けられる。
【0037】
層間絶縁膜26の上には、エミッタ電極52が形成されている。エミッタ電極52は、コンタクトホール15の内部にも充填される。これにより、エミッタ電極52は、エミッタ領域12およびベース領域14と電気的に接続する。なお、ドリフト領域18は、層間絶縁膜26により覆われており、エミッタ電極52とは電気的に接続されていない。
【0038】
エミッタ電極52は、金属を含む材料で形成される。例えば、エミッタ電極52の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金で形成される。エミッタ電極52は、アルミニウム等で形成された領域の下層にチタンまたはチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよく、コンタクトホール15内においてタングステン等で形成されたプラグを有してもよい。
【0039】
半導体基板10の下面側において、ドリフト領域18と、半導体基板10の下面との間には、P型のコレクタ領域22が形成されている。コレクタ領域22が形成されている場合、半導体装置100はIGBTとして動作する。半導体基板10の下面には、コレクタ電極24が形成されている。コレクタ電極24は、金属を含む材料で形成される。例えば、コレクタ電極24の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金で形成される。
【0040】
第1ゲートトレンチ部30は、半導体基板10の上面から、ベース領域14の下端よりも深い位置まで形成される。第1ゲートトレンチ部30の側壁は、エミッタ領域12およびベース領域14と接している。
【0041】
第1ゲートトレンチ部30は、トレンチの内壁を覆って形成されたゲート絶縁膜32と、ゲート絶縁膜32に囲まれたゲート導電部34とを有する。ゲート絶縁膜32は、ゲート導電部34と、半導体基板10とを絶縁する。ゲート絶縁膜32は、例えばトレンチ内壁を酸化または窒化した酸化膜または窒化膜である。ゲート導電部34は、例えば不純物がドープされたポリシリコンで形成される。
【0042】
ゲート導電部34は、Z軸方向において、少なくともベース領域14と対向する領域を含む。ゲート導電部34に所定のゲート電圧が印加されることで、ベース領域14のうち第1ゲートトレンチ部30に接する界面の表層にチャネルが形成される。
【0043】
第2ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面から、所定の深さ位置まで形成される。第2ゲートトレンチ部40は、第1ゲートトレンチ部30と同一の構造、材料および大きさを有してよい。第2ゲートトレンチ部40は、トレンチの内壁を覆って形成されたゲート絶縁膜42と、ゲート絶縁膜42に囲まれたゲート導電部44とを有する。
【0044】
第1電気素子81は、第1ゲートトレンチ部30のゲート導電部34に電気的に接続される。第1電気素子81は、ゲート導電部34にゲート電圧を印加する電気経路に設けられる。第2電気素子82は、第2ゲートトレンチ部40のゲート導電部44に電気的に接続される。第2電気素子82は、ゲート導電部44にゲート電圧を印加する電気経路に設けられる。第1電気素子81および第2電気素子82は、半導体基板10に設けられてよく、半導体基板10とは異なる基板に設けられてもよい。
【0045】
本例の半導体装置100は、第1電気素子81および第2電気素子82に対して共通に設けられる第3電気素子83を有する。第3電気素子83は、外部のゲートドライバユニット(GDU)に電気的に接続される抵抗であってよい。ゲートドライバユニットは、第1電気素子81、第2電気素子82および第3電気素子83を介して、それぞれのゲートトレンチ部に電圧および電流を印加する。
【0046】
第1電気素子81は、第1ゲートトレンチ部30とRC回路を構成し、所定の時定数を有する。第2電気素子82は、第2ゲートトレンチ部40とRC回路を構成し、所定の時定数を有する。一例として、第1電気素子81および第2電気素子82は、抵抗およびキャパシタの少なくとも一方を含む。第2電気素子82と第2ゲートトレンチ部40とにより構成されるRC回路の時定数は、第1電気素子81と第1ゲートトレンチ部40とにより構成されるRC回路の時定数よりも大きい。これにより、半導体装置100の特性を調整することができる。
【0047】
一例として、IGBT等のスイッチング素子と、フリーホイールダイオード(FWD)等の素子を並列に設けた回路を考える。当該回路は、電力変換回路等において用いられる。当該回路がスイッチング動作すると、EMCノイズが発生する場合がある。特に、FWDのアノード/カソード間電圧の時間変化dVak/dtが大きいほど、EMCノイズは大きくなる。このため、EMCノイズを小さくしたい場合、dVak/dtを小さくすることが好ましい。FWDのdVak/dtは、電力変換回路の対向アームにおけるスイッチング素子のゲート抵抗Rgを大きくすることで、小さくできる。
【0048】
一方で、スイッチング素子のゲート抵抗Rgを大きくすると、スイッチング素子のオン損失(Eon)が増大する。つまり、dVak/dtとEonとは、ゲート抵抗Rgにより調整した場合にトレードオフの関係にある。
【0049】
一般に、IGBTをターンオンすると、コレクタ側からドリフト領域にホールが注入されて伝導度変調し、オン電圧を小さくできる。当該ホールの一部は、ゲートトレンチ部の側壁に蓄えられる。ホールがゲートトレンチ部の側壁近傍に蓄積されると、ゲート/エミッタ間電圧Vgeが上昇して、ターンオン時におけるコレクタ電流Icが急速に増大する。コレクタ電流Icが急速に増大すると、FWDのdVak/dtが大きくなってしまう。
【0050】
半導体装置100においては、エミッタ領域12と接する第1ゲートトレンチ部30には比較的にRC回路の時定数が小さくなるような第1電気素子81を接続し、エミッタ領域12と接しない第2ゲートトレンチ部40には比較的にRC回路の時定数が大きくなるような第2電気素子82を接続する。一例として、第1電気素子81は第1抵抗を有し、第2電気素子82は第1抵抗よりも抵抗値の大きい第2抵抗を有する。また、第1ゲートトレンチ部30のトレンチ容量は、第2ゲートトレンチ部40のトレンチ容量と略同じとする。第2抵抗の抵抗値は、第1抵抗の抵抗値の10倍以上であってよく、20倍以上であってもよい。
【0051】
RC回路の時定数の違いにより、ターンオン時においては、第2ゲートトレンチ部40のゲート導電部44の電位は、第1ゲートトレンチ部30のゲート導電部34の電位よりも緩やかに上昇する。このため、第1ゲートトレンチ部30よりも、第2ゲートトレンチ部40の側壁近傍にホールが多く蓄積される。しかし、第2ゲートトレンチ部40にはエミッタ領域12が接していないので、第2ゲートトレンチ部40におけるVgeが上昇しても、コレクタ電流Icに影響を与えない。
【0052】
従って、半導体装置100によれば、ホールを蓄積して電子注入促進効果(IE効果)を生じさせて、オン損失を低減しつつ、コレクタ電流Icの急峻な変動を抑制できる。このため、dVak/dtとEonとのトレードオフを改善することができる。なお、第2ゲートトレンチ部40を用いることで、エミッタ電位を印加するダミートレンチを用いる場合に比べて、IE効果を高くできる。例えば、ゲート電位の第2ゲートトレンチ部40を用いることで、ゲート絶縁膜42を通過してトレンチ内のゲート導電部44に抜ける正電荷のホールを減らすことができる。
【0053】
図3は、第1電気素子81および第2電気素子82の一例を示す上面図である。図4は、図3におけるB-B断面の一例を示し、図5は、図3におけるC-C断面の一例を示す。図3は、半導体基板10の上面における、各部材の配置例を示している。本例の第1電気素子81および第2電気素子82は、半導体基板10の上面11の上方に形成される。
【0054】
本例の半導体装置100は、ゲートパッド94、第1電気経路61および第2電気経路62を、半導体基板10の上方に有する。ゲートパッド94は、アルミニウム等を含む金属で形成され、ゲート電圧が印加される。ゲートパッド94は、ワイヤ等を含む配線により、外部のゲートドライバユニットに接続されてよい。
【0055】
ゲートパッド94、第1電気経路61および第2電気経路62は、層間絶縁膜26等により、半導体基板10と絶縁されている。ゲートパッド94の下方には、接続部90が配置されてよい。本例の接続部90は、不純物がドープされたポリシリコンで形成される。ゲートパッド94と接続部90との間には、絶縁膜28が設けられる。絶縁膜にはコンタクトホール92が形成されており、コンタクトホール92の内部にもゲートパッド94が形成される。これにより、ゲートパッド94と接続部90とが電気的に接続される。
【0056】
第1電気経路61は、ゲートパッド94と、第1ゲートトレンチ部30のゲート導電部34とを電気的に接続する。第1電気経路61は、第1電気素子81、接続部64、金属配線66および接続部67を有する。本例の第1電気素子81は、不純物がドープされたポリシリコンで形成されている。第1電気素子81と半導体基板10の上面11との間には、層間絶縁膜26が設けられてよい。第1電気素子81の一方の端部は、接続部90と接続されている。
【0057】
第1電気素子81の他方の端部は、接続部64と接続される。本例の接続部64は、不純物がドープされたポリシリコンで形成されている。接続部64の上方には、金属配線66の端部が設けられている。金属配線66は、他の領域よりも幅の大きいパッド部65を端部に有してよい。パッド部65は、接続部64の上方に配置される。
【0058】
接続部64とパッド部65の間には、絶縁膜28が設けられる。絶縁膜28にはコンタクトホール63が形成されており、コンタクトホール63の内部にもパッド部65が形成される。これにより、接続部64とパッド部65とが電気的に接続される。
【0059】
金属配線66は、接続部64から、第1ゲートトレンチ部30の上方まで形成される。本例では、複数の第1ゲートトレンチ部30が、Y軸方向に沿って配列される。それぞれの第1ゲートトレンチ部30は、半導体基板10の上面において環状に設けられてよい。一例として金属配線66は、Y軸方向に伸びて設けられ、複数の第1ゲートトレンチ部30と接続される。
【0060】
それぞれの第1ゲートトレンチ部30と、金属配線66との間には、接続部67が設けられる。本例の接続部67は、不純物がドープされたポリシリコンで形成されている。接続部67は、層間絶縁膜26に設けられたコンタクトホールを通って、第1ゲートトレンチ部30のゲート導電部34と接続される。接続部67と、金属配線66との間には、絶縁膜28が設けられる。絶縁膜28にはコンタクトホール68が形成されており、コンタクトホール68の内部にも金属配線66が形成される。これにより、接続部67と金属配線66とが電気的に接続される。
【0061】
第2電気経路62は、ゲートパッド94と、第2ゲートトレンチ部40のゲート導電部44とを電気的に接続する。第2電気経路62は、第2電気素子82、接続部64、金属配線66および接続部67を有する。本例の第2電気素子82は、不純物がドープされたポリシリコンで形成されている。第2電気素子82と半導体基板10の上面11との間には、層間絶縁膜26が設けられてよい。第2電気素子82の一方の端部は、接続部90と接続されている。
【0062】
第2電気素子82の抵抗値は、第1電気素子81の抵抗値よりも大きい。本例では、接続部90と接続部64とを結ぶ直線と垂直なY-Z面における断面積が、第2電気素子82のほうが、第1電気素子81よりも小さい。つまり第2電気素子82は、Y軸方向における幅と、Z軸方向における厚みの少なくとも一方が、第1電気素子81よりも小さい。
【0063】
第2電気経路62における、接続部64、金属配線66および接続部67の構造は、第1電気経路61における接続部64、金属配線66および接続部67と同様である。ただし、接続部67は、それぞれの第2ゲートトレンチ部40の上方に設けられる。第2ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面において、直線形状を有してよい。
【0064】
第2電気素子82の他方の端部は、接続部64と接続される。接続部64の上方には、金属配線66の端部が設けられている。金属配線66は、他の領域よりも幅の大きいパッド部65を端部に有してよい。パッド部65は、接続部64の上方に配置される。
【0065】
接続部64とパッド部65の間には、絶縁膜28が設けられる。絶縁膜28にはコンタクトホール63が形成されており、コンタクトホール63の内部にもパッド部65が形成される。これにより、接続部64とパッド部65とが電気的に接続される。
【0066】
金属配線66は、接続部64から、第2ゲートトレンチ部40の上方まで形成される。本例では、複数の第2ゲートトレンチ部40が、Y軸方向に沿って配列される。一例として金属配線66は、Y軸方向に伸びて設けられ、複数の第2ゲートトレンチ部40と接続される。
【0067】
それぞれの第2ゲートトレンチ部40と、金属配線66との間には、接続部67が設けられる。接続部67は、層間絶縁膜26に設けられたコンタクトホールを通って、第2ゲートトレンチ部40のゲート導電部44と接続される。接続部67と、金属配線66との間には、絶縁膜28が設けられる。絶縁膜28にはコンタクトホール68が形成されており、コンタクトホール68の内部にも金属配線66が形成される。これにより、接続部67と金属配線66とが電気的に接続される。
【0068】
半導体基板10には、X軸方向における各ゲートトレンチ部の端部を囲むように、第2導電型のウェル領域16が設けられる。これにより、各ゲートトレンチ部の端部における電界集中を緩和できる。また、ウェル領域16は、ゲートパッド94、第1電気経路61および第2電気経路62の下方にも形成されてよい。
【0069】
なお、図3に示すように、第1電気経路61の金属配線66は、第1ゲートトレンチ部30の上方に設けられてよい。一方で、第2電気経路62の金属配線66は、第2ゲートトレンチ部40の上方には設けられなくともよい。この場合、第2電気経路62は、金属配線66から分岐して、第2ゲートトレンチ部40の上方まで設けられた分岐配線69を有する。分岐配線69は、金属配線66と同一材料で形成されてよい。
【0070】
このような配置により、第2電気経路62と、第1ゲートトレンチ部30とを容易に絶縁できる。また、分岐配線69を設けることで、第2電気経路62の経路長が長くなり抵抗値が上昇するが、第2ゲートトレンチ部40に接続される経路なので、抵抗値が上昇しても問題が生じない。
【0071】
図6は、半導体装置100のターンオン時におけるコレクタ電流Ic1の波形の一例を示す図である。また図7においては、比較例におけるコレクタ電流Ic2の波形を示す。比較例では、半導体装置100における第2電気素子82を第1電気素子81に変更して、且つ、第2ゲートトレンチ部40にもエミッタ領域12およびベース領域14が隣接して設けられる。
【0072】
半導体装置100においては、第2ゲートトレンチ部40の近傍により多くのホールが蓄積し、第1ゲートトレンチ部30の近傍に蓄積するホールが少なくなる。エミッタ領域12に隣接する第1ゲートトレンチ部30の近傍に蓄積するホールが、コレクタ電流Icの変動に影響を与えるので、半導体装置100においては、ターンオン時におけるコレクタ電流Icの跳ね上がりを抑制できる。
【0073】
図7は、半導体装置100および比較例における、FWDのdVak/dtと、IGBTのオン損失(Eon)との関係を示す図である。図7では、半導体装置100の特性を実線で示し、比較例の特性を点線で示している。本例では、半導体装置100における第1電気素子81の抵抗値を3.5Ωとし、第2電気素子82の抵抗値を100Ωとした。また、比較例におけるゲート抵抗を3.5Ωとした。
【0074】
図7に示すように、第2電気素子82の抵抗値を、第1電気素子81の抵抗値よりも大きくすることで、dVak/dtと、Eonとのトレードオフを改善できている。
【0075】
図8は、他の実施形態に係る半導体装置200の一例を示す上面図である。図9は、図8におけるD-D断面を示す図である。半導体装置200においては、エミッタ領域12、ベース領域14およびドリフト領域18の配置が、半導体装置100とは異なる。他の構造は、半導体装置100と同一であってよい。
【0076】
半導体装置200においては、第1ゲートトレンチ部30および第2ゲートトレンチ部40の両方に、エミッタ領域12が接している。ただし、第1ゲートトレンチ部30に接して設けられたエミッタ領域12は、第2ゲートトレンチ部40に接して設けられたエミッタ領域12と比べて、半導体基板10の上面における面積が大きい。このような構成によっても、コレクタ電流Icに対する影響が比較的に小さい第2ゲートトレンチ部40に、比較的にRC回路の時定数が大きくなる第2電気素子82を接続することで、dVak/dtと、Eonとのトレードオフを改善できる。
【0077】
一例として図8に示すように、それぞれのメサ部70の、第1ゲートトレンチ部30に隣接する領域には、エミッタ領域12がストライプ状に連続して設けられている。一方で、それぞれのメサ部70の、第2ゲートトレンチ部40に隣接する領域には、エミッタ領域12が離散的に設けられている。第2ゲートトレンチ部40に隣接するエミッタ領域12の総面積は、第1ゲートトレンチ部30に隣接するエミッタ領域12の総面積の半分以下であってよく、1/10以下であってもよい。
【0078】
図8および図9に示すように、それぞれのメサ部70の上面には、ベース領域14が形成されてよい。本例のドリフト領域18は、半導体基板10の上面に露出していない。
【0079】
なお、半導体装置100および半導体装置200は、同一の半導体基板10に、IGBTとFWDが形成されていてもよい。FWDは、エミッタ電位が印加されるダミートレンチ部を有する。ダミートレンチ部に挟まれるメサ部70の上面には、ベース領域14が形成される。
【0080】
図10は、他の実施形態に係る半導体装置300の一例を示す断面図である。本例の半導体装置300は、半導体モジュールである。半導体装置300は、電力変換用の半導体モジュールであってよい。半導体装置300は、インバータ装置、無停電電源装置、パワーコンディショナー、鉄道等の車両、工作機械、および、産業用ロボット等に用いることができるが、半導体装置300の用途は上記に限定されない。
【0081】
半導体装置300は、1つ以上の半導体チップ320を搭載している。図10に示した半導体装置300は、複数の半導体チップ320を搭載している。半導体チップ320は、図1から図9に示した半導体装置100または半導体装置200と同一の構造を有してよい。半導体装置300は、インバータ回路の上アーム部および下アーム部を搭載していてよい。それぞれのアーム部に、複数の半導体チップ320が含まれてよい。
【0082】
それぞれの半導体チップ320は、樹脂等の絶縁材料で形成されたパッケージ部310に収容されている。パッケージ部310は、半導体チップ320が露出しないように封止している。
【0083】
半導体チップ320は、銅等の導電材料で形成された板状の上側ベース部316の上に配置される。上側ベース部316は、半導体チップ320のいずれかの端子と電気的に接続されてよい。本例の上側ベース部316は、半導体チップ320のコレクタ電極24に接続されている。上側ベース部316には、主外部接続ピン342が接続されている。主外部接続ピン342の上側ベース部316とは逆側の端部は、パッケージ部310の外部に露出している。
【0084】
上側ベース部316は、絶縁基板314を挟んで板状の下側ベース部312の上に配置される。上側ベース部316、絶縁基板314および下側ベース部312は、パッケージ部310に収容されている。ただし、放熱効率を向上させるために、下側ベース部312の下面がパッケージ部310の下面に露出していてもよい。
【0085】
半導体装置300は、パッケージ部310に収容され、半導体チップ320と対向して配置された配線基板318を備える。配線基板318は、一例としてプリント基板である。配線基板318には、半導体装置300の外部に設けられた回路と、半導体チップ320の端子とを電気的に接続する配線が形成されている。配線基板318は、第1ゲートトレンチ部30に接続される配線と、第2ゲートトレンチ部40に接続される配線とを含んでよい。
【0086】
本例の配線基板318には、制御外部接続ピン341が接続されている。制御外部接続ピン341は、配線基板318を介して半導体チップ320のゲートパッド94に接続される。制御外部接続ピン341の配線基板318とは逆側の端部は、パッケージ部310の外部に露出している。
【0087】
なお、図1には制御外部接続ピン341および主外部接続ピン342を示しているが、半導体装置300は、より多くの外部接続ピンを有してよい。一例として、配線基板318に一方の端部が接続され、他方の端部がパッケージ部310の外部に露出する主外部接続ピン342を有してもよい。当該主外部接続ピン342は、配線基板318を介して半導体チップ320の主端子に接続される。
【0088】
半導体装置300は、パッケージ部310に収容された複数の内部接続ピン330を備える。内部接続ピン330は、半導体チップ320と配線基板318との間に設けられ、半導体チップ320の端子と、配線基板318における配線とを電気的に接続する。複数の内部接続ピン330は、半導体チップ320のエミッタ電極52に接続されるピンと、半導体チップ320のゲートパッド94に接続されるピンとを含む。
【0089】
なお、図3から図5に示した例においては、半導体チップに第1電気素子81および第2電気素子82が設けられていた。他の例においては、配線基板318に第1電気素子81および第2電気素子82が設けられてもよい。この場合、多様な第1電気素子81および第2電気素子82を容易に設けることができるので、第1電気素子81と第1ゲートトレンチ部40とにより構成されるRC回路および第2電気素子82と第2ゲートトレンチ部40とにより構成されるRC回路の時定数を容易に調整できる。また、第1ゲートトレンチ部30に接続される内部接続ピン330と、第2ゲートトレンチ部40に接続される内部接続ピン330との抵抗や容量が異なっていてもよい。この場合、内部接続ピン330が、第1電気素子81および第2電気素子82の少なくとも一部として機能する。
【0090】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0091】
10・・・半導体基板、11・・・上面、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクトホール、16・・・ウェル領域、18・・・ドリフト領域、22・・・コレクタ領域、24・・・コレクタ電極、26・・・層間絶縁膜、28・・・絶縁膜、30・・・第1ゲートトレンチ部、32・・・ゲート絶縁膜、34・・・ゲート導電部、40・・・第2ゲートトレンチ部、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、52・・・エミッタ電極、61・・・第1電気経路、62・・・第2電気経路、63・・・コンタクトホール、64・・・接続部、65・・・パッド部、66・・・金属配線、67・・・接続部、68・・・コンタクトホール、69・・・分岐配線、70・・・メサ部、81・・・第1電気素子、82・・・第2電気素子、83・・・第3電気素子、90・・・接続部、92・・・コンタクトホール、94・・・ゲートパッド、100・・・半導体装置、200・・・半導体装置、300・・・半導体装置、310・・・パッケージ部、312・・・下側ベース部、314・・・絶縁基板、316・・・上側ベース部、318・・・配線基板、320・・・半導体チップ、330・・・内部接続ピン、341・・・制御外部接続ピン、342・・・主外部接続ピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10