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特許7495043多結晶膜の形成方法およびレーザ結晶化装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】多結晶膜の形成方法およびレーザ結晶化装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20240528BHJP
   H01L 21/268 20060101ALI20240528BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240528BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20240528BHJP
   H01L 21/3205 20060101ALI20240528BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20240528BHJP
   H01L 23/532 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L21/268 J
H01L29/78 627G
H01L21/88 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020002754
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021111697
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 順
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 香織
(72)【発明者】
【氏名】池上 浩
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-060517(JP,A)
【文献】特開2007-281465(JP,A)
【文献】特開2009-099797(JP,A)
【文献】特開平05-190449(JP,A)
【文献】特開2012-019231(JP,A)
【文献】特許第5534402(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/268
H01L 21/336
H01L 21/3205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質膜にマスクを介してレーザ光を照射して多数の結晶粒を膜面方向に沿って互いに隣接するように均等な配置に形成する多結晶膜の形成方法であって、
前記マスクは、前記非晶質膜の膜表面に対して、前記非晶質膜に均等な配置に設定された種結晶形成領域に対して、光強度を小さくするように光変調を行うように設定され、
前記種結晶形成領域を種結晶として前記結晶粒を成長させ、
互いに隣接する前記結晶粒同士を区画する粒界面における前記膜面方向の両端部に未結晶成長領域を形成する
多結晶膜の形成方法
【請求項2】
互いに隣接する前記結晶粒の前記種結晶形成領域同士の距離は、前記膜面方向における前記結晶粒の結晶成長距離の限界長の2倍の距離よりも短く設定され、
前記未結晶成長領域を挟んで隣接する前記結晶粒の前記種結晶形成領域同士の距離は、前記膜面方向における前記結晶粒の結晶成長距離の限界長の2倍の距離よりも長く設定されている
請求項1に記載の多結晶膜の形成方法。
【請求項3】
前記非晶質膜は、半導体材料、金属材料から選ばれる
請求項1または請求項2に記載の多結晶膜の形成方法
【請求項4】
レーザ光源と、前記レーザ光源から発振されたレーザ光を変調して、非晶質膜の表面に投影させるマスクと、を備えるレーザ結晶化装置であって、
前記マスクは、前記非晶質膜の膜表面に対して、前記非晶質膜に均等な配置に設定された種結晶形成領域に対して、光強度を小さくするように光変調を行うように設定され、
前記マスクを介して照射されるレーザ光により、前記種結晶形成領域に隣接する領域の前記非晶質膜を溶融させ、前記種結晶形成領域を種結晶として結晶粒を成長させることが可能であり、
互いに隣接する前記結晶粒同士を区画する粒界面における膜面方向の両端部に未結晶成長領域を形成するように設定されている
レーザ結晶化装置。
【請求項5】
前記マスクは、
互いに隣接する前記結晶粒の前記種結晶形成領域同士の距離が、前記膜面方向における前記結晶粒の結晶成長距離の限界長の2倍の距離よりも短くなり、
前記未結晶成長領域を挟んで隣接する前記結晶粒の前記種結晶形成領域同士の距離は、前記膜面方向における前記結晶粒の結晶成長距離の限界長の2倍の距離よりも長くなるように設定されている
請求項4に記載のレーザ結晶化装置。
【請求項6】
前記非晶質膜は、半導体材料、金属材料から選ばれる
請求項4または請求項5に記載のレーザ結晶化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶膜の形成方法およびレーザ結晶化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を構成する材料膜としては、半導体薄膜、金属薄膜などの種々の薄膜がある。半導体薄膜としては、非晶質シリコン薄膜や多結晶シリコン薄膜などがある。金属薄膜としては、アルミニウム薄膜、銅薄膜などがある。
【0003】
例えば、液晶パネルや有機EL(Electro-Luminescence)パネルなどのフラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)では、スイッチング素子として多くの薄膜トランジスタ(以下、TFTという)を備えている。TFTは、活性層として非晶質シリコン薄膜や多結晶シリコン薄膜などを備えている。多結晶シリコン薄膜は、非晶質シリコン薄膜にレーザアニールを施して、短時間での溶融凝固の相転移により、結晶化させて形成されている。
【0004】
多結晶シリコン薄膜の形成方法としては、特許文献1および特許文献2に開示された方法が知られている。特許文献1に開示された方法では、第1のレーザアニールと第2のレーザアニールの工程を備えている。第1のレーザアニールでは、レーザ光を透過する透過領域と、レーザ光を遮光する遮光領域と、を互い違いに備えたマスクを介して、非晶質シリコン薄膜にレーザ光を照射してアニールを行う。第2のレーザアニールでは、マスクを用いずに、多結晶シリコン薄膜は溶融させずに非晶質シリコン薄膜を溶融させる条件でレーザ光を照射する。この方法では、非晶質シリコン薄膜において、マスクの遮光領域が投影されて温度の低い複数の領域を種結晶とし、それぞれの種結晶を中心として放射方向に結晶成長させている。その結果、均一な大きさの結晶粒でなる多結晶シリコン薄膜が得られる。
【0005】
特許文献2に開示された方法では、解像度限界の大きさより大きい透過領域と、解像度限界の大きさより小さな被透過領域と、を備えたマスクを用いて、複数の種結晶から結晶化が進行するようにして多結晶シリコン薄膜を形成している。
【0006】
一方、半導体装置を構成する金属薄膜としては、銅薄膜やアルミニウム薄膜などがある。銅(Cu)は材料の抵抗率(比抵抗)が低く、しかも、電流密度の許容値が高い。アルミニウム(Al)は、銀(Ag)と銅(Cu)に次ぐ低い抵抗率を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5534402号公報
【文献】特開2007-281465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献1および特許文献2に開示された方法で多結晶シリコン薄膜を形成した場合、互いに隣接する種結晶から成長した結晶粒は互いに境界線(粒界面)で接合する。さらに成長を続けると3つ以上の境界線が交わる三重衝突点や4つ以上の境界線が交わる四重衝突点において応力集中が起こり、高い突起が隆起して形成されるという課題がある。このような突起が多結晶シリコン薄膜の表面から突出することにより、TFTにおける耐圧が低下するという問題が発生する。
【0009】
一方、金属薄膜においては、以下のような課題がある。例えば、アルミニウム薄膜の成膜には、スパッタリングを行って成膜している。スパッタリングで成膜したままの状態では、微細なアルミニウムの結晶粒が集まった構造である。したがって、スパッタリングで成膜したままの状態では、アルミニウム薄膜の配線抵抗値が上昇するとともに、エレクトロマイグレーション寿命が低下するという問題がある。ところで、アルミニウム配線(以下、Al配線という)では、配線幅を狭くしてパターン形成した後に高温の熱処理を施すことにより、長寿命化することが知られている。これは、高温の熱処理などによりAl結晶粒界が竹の節状に配置されたバンブー構造と呼ばれる状態になるためである。しかしながら、液晶表示装置などのFPDでは、ガラス基板の軟化点が摂氏400~500度であるため、ガラス基板上に形成されたAl配線をバンブー構造とするために高温の熱処理を施すことはできない。ガラス基板よりもさらに軟化点の低い樹脂基板上に形成したAl配線に熱処理を施すことは、さらに困難である。
【0010】
また、銅薄膜の形成には、一般的な成膜技術である化学的気相成長(CVD)やスパッタリングでは配線に十分な厚みの薄膜を作れないという課題がある。さらに、銅薄膜はエッチングによるパターン加工がきわめて難しいという課題がある。銅薄膜の形成におけるこれらの課題を解決するために、予め形成した溝内に電気めっき法で銅を成長させて配線形状を形成するダマシン法という製造方法が採用されている。
【0011】
しかし、電気めっき法で銅薄膜を成長させた場合、バルク材料では認められない柱状組織や疎らな粒界が発生することが知られている。このような銅薄膜では、高抵抗化や粒界断線を生じるなどの配線の信頼性を低下させる問題がある。この方策としては、結晶品質を向上するために熱処理を施すことで、配線の急速な断線の抑制を図っている。しかしながら、他の材料で覆われたり接したりしている銅配線では、熱処理後に高い引っ張り応力が残留することでストレスマイグレーションが生じて配線の信頼性を低下させるという問題がある。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、表面平坦性を有し、かつ均一で安定な電気的特性および高い機械的特性を備える多結晶シリコン薄膜、アルミニウム薄膜、銅薄膜などの多結晶膜の形成方法および多結晶膜の製造に用いるレーザ結晶化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の態様は、非晶質膜にマスクを介してレーザ光を照射して多数の結晶粒を膜面方向に沿って互いに隣接するように均等な配置に形成する多結晶膜の形成方法であって、前記マスクは、前記非晶質膜の膜表面に対して、前記非晶質膜に均等な配置に設定された種結晶形成領域に対して、光強度を小さくするように光変調を行うように設定され、前記種結晶形成領域を種結晶として前記結晶粒を成長させ、互いに隣接する前記結晶粒同士を区画する粒界面における前記膜面方向の両端部に未結晶成長領域を形成することを特徴とする。
【0019】
上記態様としては、互いに隣接する前記結晶粒の前記種結晶形成領域同士の距離は、前記膜面方向における前記結晶粒の結晶成長距離の限界長の2倍の距離よりも短く設定され、前記未結晶成長領域を挟んで隣接する前記結晶粒の前記種結晶形成領域同士の距離は、前記膜面方向における前記結晶粒の結晶成長距離の限界長の2倍の距離よりも長く設定されていることが好ましい。
【0020】
上記態様としては、前記非晶質膜は、半導体材料、金属材料から選ばれることが好ましい。
【0021】
本発明の他の態様は、レーザ光源と、前記レーザ光源から発振されたレーザ光を変調して、非晶質膜の表面に投影させるマスクと、を備えるレーザ結晶化装置であって、前記マスクは、前記非晶質膜の膜表面に対して、前記非晶質膜に均等な配置に設定された種結晶形成領域に対して、光強度を小さくするように光変調を行うように設定され、前記マスクを介して照射されるレーザ光により、前記種結晶形成領域に隣接する領域の非晶質膜を溶融させ、前記種結晶形成領域を種結晶として結晶粒を成長させることが可能であり、互いに隣接する前記結晶粒同士を区画する粒界面における前記膜面方向の両端部に未結晶成長領域を形成するように設定されていることを特徴とする。
【0022】
上記態様としては、前記マスクは、互いに隣接する前記結晶粒の前記種結晶形成領域同士の距離が、前記膜面方向における前記結晶粒の結晶成長距離の限界長の2倍の距離よりも短くなり、前記未結晶成長領域を挟んで隣接する前記結晶粒の前記種結晶形成領域同士の距離は、前記膜面方向における前記結晶粒の結晶成長距離の限界長の2倍の距離よりも長くなるように設定されていることが好ましい。
【0023】
上記態様としては、前記非晶質膜は、半導体材料、金属材料から選ばれることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、表面平坦性を有し、かつ均一で安定な電気的特性および高い機械的特性を備える多結晶シリコン薄膜、アルミニウム薄膜、銅薄膜などの多結晶膜の形成方法および多結晶膜の製造に用いるレーザ結晶化装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置を模式的に示す説明図である。
図2図2は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置における光強度分布の説明図である。
図3図3は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置でレーザ照射を行ったときの結晶核(種結晶)から放射方向に結晶成長することを示す説明図である。
図4図4は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置でレーザ光を照射された領域に結晶成長が起こった状態を示す説明図である。
図5図5は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置の概略を示す斜視図である。
図6図6は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置に用いるマスクの平面説明図である。
図7図7は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置を用いた多結晶膜の形成方法により形成した多結晶膜の表面拡大図である。
図8図8は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置を用いた多結晶膜の形成方法により形成した多結晶膜の表面を示す説明図である。
図9図9は、図8のIX-IX断面を示す断面説明図である。
図10図10は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置を用いた多結晶膜の形成方法により形成した多結晶膜の表面を示す説明図である。
図11-1】図11-1は、本発明の第2の実施の形態に係る多結晶膜の形成方法におけるアルミニウム薄膜の断面説明図である。
図11-2】図11-2は、本発明の第2の実施の形態に係る多結晶膜の形成方法におけるレーザ光を照射した状態を示す工程断面説明図である。
図11-3】図11-3は、本発明の第2の実施の形態に係る多結晶膜の形成方法により形成されたアルミニウム膜の断面説明図である。
図12図12は、本発明の第1の実施の形態に係る多結晶膜の形成方法で形成した多結晶膜をボトムゲート方式の薄膜トランジスタに用いた第1実施例を示す断面説明図である。
図13図13は、本発明の第1の実施の形態に係る多結晶膜の形成方法で形成した多結晶膜をトップゲート方式の薄膜トランジスタに用いた第2実施例を示す断面説明図である。
図14図14は、本発明の各実施の形態における未結晶成長領域と粒界面との関係を示す説明図である。
図15図15は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置に用いるマスクの変形例を示す平面説明図である。
図16図16は、本発明の他の実施の形態に係るレーザ結晶化装置の説明図である。
図17図17は、本発明の他の実施の形態に係るレーザ結晶化装置に対する比較例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の実施の形態に係る多結晶膜、多結晶膜の形成方法、レーザ結晶化装置、および半導体装置の詳細を図面に基づいて説明する。但し、図面は模式的なものであり、各部材の寸法や寸法の比率や形状や数などは現実のものと異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率や形状や数が異なる部分が含まれている。
【0037】
ここで、本発明の実施の形態に係る多結晶膜、多結晶膜の形成方法、レーザ結晶化装置、および半導体装置の説明に先駆けて、図1から図4を用いてレーザ結晶化装置の概略構成および作用について説明する。図1に示すように、レーザ結晶化装置は、マスク1を介して非晶質膜2にレーザ光Lを照射する。マスク1は、透明なガラス基板1Aに遮光領域1Bが形成されて構成されている。したがって、非晶質膜2における遮光領域1Bが投影された領域は非照射領域3となる。このとき、非晶質膜2における非照射領域3以外の領域は、レーザ光Lが照射されて溶融する。
【0038】
マスク1を通して非晶質膜2にレーザ光Lが照射されると、非晶質膜2の表面では、図2に示すような光強度分布となる。この光強度分布は、非晶質膜2における膜面方向の温度分布と対応する。図3および図4に示すように、非晶質膜2における非照射領域3は、周縁部分3Bが、レーザ光Lが照射された領域からの熱伝導により加熱されて溶融される。非照射領域3の中央部は、周辺のレーザ光Lが照射された領域からの熱伝導の影響が少ないため、溶融せずに種結晶形成領域(結晶核)としての微結晶領域3Aとして残る。この微結晶領域3Aは、結晶核(種結晶)として放射方向Gに沿って結晶成長する。このような結晶成長は、非照射領域3からレーザ光Lが照射された領域にも及ぶ。
【0039】
[第1の実施の形態]
(レーザ結晶化装置および多結晶膜の形成方法)
図5から図10は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ結晶化装置10およびこのレーザ結晶化装置10を用いた多結晶膜の形成方法を示す。なお、本実施の形態においては、非晶質膜として非晶質シリコン薄膜20を用い、形成される多結晶膜は多結晶シリコン膜30である。
【0040】
図5に示すように、レーザ結晶化装置10は、レーザ光源11と、マスク12-1と、レンズ14と、を備える。図6に示すように、マスク12-1は、ガラス基板12Aに、遮光領域12Bがマトリクス状に配列されている。すなわち、ガラス基板12Aの表面に複数の遮光領域12Bが縦横に行列をなすように、等間隔に配列されている。マスク12-1において、遮光領域12Bが形成されていない領域は、レーザ光Lを透過する透過領域である。
【0041】
マスク12-1は、レーザ光源11から発振されたレーザ光Lを変調し、レンズ14を介して、非晶質膜としての非晶質シリコン薄膜20の表面に投影させる。マスク12-1は、非晶質シリコン薄膜20の膜表面に対して、非晶質シリコン薄膜20に均等な配置に設定された微結晶領域31A(図9参照)を含む非照射領域(図1および図2の説明図参照)に対して、光強度を小さくするように光変調を行うように設定されている。
【0042】
このレーザ結晶化装置10では、マスク12-1を介して照射されるレーザ光Lにより、結晶核としての微結晶領域31Aを含むレーザ光Lが遮光される非照射領域に隣接する領域の非晶質シリコン薄膜20を溶融できる。この結果、非照射領域の周縁部分は熱伝導により加熱されて溶融し、非照射領域の中央に微結晶領域31Aを形成できる。そして、この微結晶領域31Aを種結晶として、図7および図8に示すような結晶粒31を成長させることができる。結晶粒31における微結晶領域31Aの周囲の領域は、結晶成長部31Bである。
【0043】
さらに、このレーザ結晶化装置10では、図14に示すように、互いに隣接する一対の結晶粒31同士を区画する粒界面32における膜面方向の両端部に未結晶成長領域33を形成するように設定されている。
【0044】
さらに詳しくは、非晶質シリコン薄膜20の表面において、互いに隣接する結晶粒31の中央の微結晶領域31A同士の距離が、膜面方向における結晶粒31の結晶成長距離の限界長(例えば、1.5μm)の2倍の距離よりも短くなるように設定されている。したがって、図6に示すように、マスク12-1では、このような設定を具現化できるようにd1の長さが設定されている。
【0045】
また、非晶質シリコン薄膜20の表面における未結晶成長領域33を挟んで隣接する(マトリクスの対角線方向に対峙する)結晶粒31の微結晶領域31A同士の距離は、膜面方向における結晶粒31の結晶成長距離の限界長の2倍の距離よりも長くなるように設定されている。したがって、図6に示すように、マスク12-1では、このような設定を具現化できるようにd2の長さが設定されている。
【0046】
このようなレーザ結晶化装置10およびこれを用いた多結晶膜の形成方法では、上述のようなマスク12-1の構成としたことにより、微結晶領域31Aを種結晶として、図7図8および図10に示すような結晶粒31を成長させることが可能である。この多結晶シリコン膜30においては、互いに隣接する一対の結晶粒31同士を区画する粒界面32における膜面方向の両端部に未結晶成長領域33を形成するように設定されている。
【0047】
また、本実施の形態に係る多結晶シリコン膜30では、結晶粒31および未結晶成長領域33の膜表面は、面一の平坦面となる。その理由は、微結晶領域31Aを中心として結晶成長部31Bが膜面方向に沿って限界長まで成長してもそれ以上は結晶成長が進まないため、互いに隣接する結晶粒31の応力集中を回避できるからである。すなわち、未結晶成長領域33は、結晶成長による応力集中を緩和する緩和部となる。
【0048】
本実施の形態では、結晶粒31は、図9および図10に示すように、膜表裏面に亘る高さを有する柱状に形成される。そして、結晶粒31の膜面方向の中央部には、膜表裏面に亘る高さを有する柱状の結晶核としての微結晶領域31Aが形成されている。この微結晶領域31Aの膜面方向における占有面積は、ごく僅かであり、この微結晶領域31Aを取り囲む結晶成長部31Bの膜面方向の面積が大部分を示す。このため、本実施の形態に係る多結晶膜および多結晶膜の形成方法によれば、多結晶シリコン膜30の電気抵抗を低くすることができる。また、多結晶シリコン膜30では、マスク12-1に設計された間隔で微結晶領域31Aが均一に配置されるため、それぞれの微結晶領域31Aを結晶核として成長した結晶粒31の大きさ形状もバラツキが小さい。このため、本実施の形態で形成した多結晶シリコン膜30は、電気的特性および機械的特性が均一であり、良質な半導体活性領域として機能する。
【0049】
[第2の実施の形態]
図11-1から図11-3は、本発明の第2の実施の形態に係る多結晶膜の形成方法および多結晶膜としてのアルミニウム膜40Cを示す。
【0050】
まず、本実施の形態では、図示しないガラス基板上に、アルミニウム膜40Aを形成する。このアルミニウム膜40Aの形成は、アルミニウム(Al)を、スパッタリングを行ってガラス基板上に成膜している。なお、スパッタリングで成膜したままの状態では、図11-1に示すように、微細なアルミニウムの微結晶41が集まった構造である。したがって、スパッタリングで成膜したままの状態では、アルミニウム膜40Aの電気抵抗値は高い。このようなアルミニウム膜40Aをパターニングして配線を形成した場合、エレクトロマイグレーション寿命が低下するという問題を無視できない。
【0051】
次に、図11-2に示すように、上述の第1の実施の形態で用いたレーザ結晶化装置10と同様の遮光領域12Bの配列構成を有するマスク12-2を用いて、アルミニウム膜40Aの表面にレーザ光Lを変調して照射する。この結果、図11-2に示すように、マスク12-2における遮光領域12Bと対応するアルミニウム膜40Aの領域には、アルミニウム膜40Aが溶融しないで残った微結晶領域41Aが形成される。そして、この微結晶領域41Aを結晶核として結晶成長部41Bが成長する。
【0052】
その後、図11-3に示すように、各結晶核は粒界面42で区画される。また、上述の第1の実施の形態における多結晶シリコン膜30と同様に、粒界面42の膜面方向の両端部に、図示しない未結晶成長領域が形成されたアルミニウム膜40Cとなる。したがって、このアルミニウム膜40Cにおいても、図示しない未結晶成長領域が応力集中の緩和部となるため、膜面が平坦になる。このようなアルミニウム膜40Cをパターニングして配線を形成した場合、Al結晶粒界が竹の節状に配置されたバンブー構造と呼ばれる状態になり、電気的特性が向上する。
【0053】
また、本実施の形態では、レーザ光の照射条件を設定することにより、アルミニウム膜40Cが形成されたガラス基板への熱的損傷の発生を抑制できる。
【0054】
(半導体装置)
図12は、第1の実施の形態に係る多結晶シリコン膜30をチャネル領域として用いたボトムゲート方式の薄膜トランジスタ50を示している。
【0055】
この薄膜トランジスタ50は、ガラス基板51上にゲート電極52がパターン形成され、その上にゲート絶縁膜53が形成され、さらにその上に、チャネル領域を形成する活性半導体層として多結晶シリコン膜30が形成されている。多結晶シリコン膜30の上には、ソース電極54Sとドレイン電極54Dが形成されている。
【0056】
この薄膜トランジスタ50では、多結晶シリコン膜30の表面が平坦であるため、コンタクト抵抗のバラツキを抑制できる。また、多結晶シリコン膜30の下面側においても応力集中が緩和されている構造であるため突起の発生がなく、耐圧の低下を抑制できる。
【0057】
なお、この薄膜トランジスタ50においては、ゲート電極52、ソース電極54Sやドレイン電極54Dなどの配線に、本実施の形態に係る多結晶膜の形成方法を適用して形成するバンブー構造のアルミニウム膜、または同様の工程を経て形成する銅薄膜を用いてもよい。このようなアルミニウム膜や銅薄膜を用いることにより、ゲート電極52におけるゲート絶縁膜53に接する表面を平坦にすることで、高耐圧化を図ることが可能である。
【0058】
図13は、第1の実施の形態に係る多結晶シリコン膜30をチャネル領域として用いたトップゲート方式の薄膜トランジスタ60を示している。
【0059】
この薄膜トランジスタ60は、ガラス基板61上に絶縁膜62が形成され、その上にソース電極63Sとドレイン電極63Dとが形成されている。これらソース電極63Sとドレイン電極63Dの上には、多結晶シリコン膜30が形成されている。さらに、その上にゲート絶縁膜64が形成され、ゲート絶縁膜64の上にゲート電極65がパターン形成されている。
【0060】
この薄膜トランジスタ60では、多結晶シリコン膜30の表面が平坦であるため、高耐圧化を図ることができる。
【0061】
なお、この薄膜トランジスタ60においては、ゲート電極65、ソース電極63Sやドレイン電極63Dなどの配線に、本実施の形態に係る多結晶膜の形成方法を適用して形成したバンブー構造のアルミニウム膜や銅薄膜を用いてもよい。このようなアルミニウム膜や銅薄膜を用いて、ゲート電極65におけるゲート絶縁膜64に接する表面を平坦にすることで、高耐圧化を図ることが可能である。
【0062】
[その他の実施の形態]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0063】
上記第1および第2の実施の形態では、図6に示すような縦横方向にマトリクス状に遮光領域12Bが配列されたものを用いたが、図15に示すように、遮光領域12Cの行が、半ピッチずれた配列のマスク12-2を用いてもよい。このようなマスク12-2では、隣接する遮光領域12C同士の間隔d3,d4,d5が同じ(d3=d4=d5)に設定されている。なお、このマスク12-2を用いて多結晶膜に未結晶成長領域が形成されるように、間隔d3,d4,d5の寸法が設定されている。
【0064】
上記第1および第2の実施の形態では、ガラス基板12Aに遮光領域12Bを配列したマスク12-1を用いたが、位相シフトマスクを用いてもよい。
【0065】
上記の実施の形態では、結晶粒および前記未結晶成長領域は、半導体材料としてシリコン(Si)を適用したが、他の半導体材料を適用してもよい。また、上記の実施の形態では、金属材料として、アルミニウムと銅を適用した例を示したが、結晶膜を形成する他の金属材料を適用することも勿論可能である。
【0066】
図16は、本発明の他の実施の形態に係るレーザ結晶化装置を示す。この実施の形態では、非晶質シリコン薄膜20と同サイズのマスク12-3を適用する。そして、マスク12-3と、非晶質シリコン薄膜20と、は、互いに対向させた状態で、膜面方向で互いに相対的にずれないように、一体的に固定されている。なお、非晶質シリコン薄膜20は、図示しない基板上に形成されている。
【0067】
図16に示すように、この実施の形態では、断面矩形状のパターンとなるように加工されたレーザ光Lを位置固定した状態で照射し、マスク12-3および非晶質シリコン薄膜20を矢印S1で示すよう一定速度で連続的に移動させる。本実施の形態では、非晶質シリコン薄膜20に対して、マスク12-3が固定されているため、非晶質シリコン薄膜20の表面に対して遮光領域12Bの位置が固定されている。このため、マスク12-3および非晶質シリコン薄膜20を移動させることにより、レーザ光Lによって微結晶領域31Aと結晶成長部31Bを適正な位置に形成することができる。
【0068】
図17は、この実施の形態に対する比較例を示す。この比較例では、レーザ光Lを出射する光学系と、レーザ光Lのビーム断面サイズと同程度のサイズのマスク12と、が固定されており、レーザ光Lとマスク12の組に対して非晶質シリコン薄膜20を相対移動させるように設定されている。この比較例では、マスク12側と非晶質シリコン薄膜20とを位置設定した状態でレーザ光Lをスポット照射する。次に、レーザ光Lの照射を予定する隣の領域にマスク12側が配置されるように非晶質シリコン薄膜20を矢印S2で示すように所定のストロークで移動させて、レーザ光Lを照射する。このような動作を繰り返して非晶質シリコン薄膜20を全面に亘って多結晶シリコン膜30に変えるように設定されている。この比較例では、多結晶シリコン膜30の表面における、マスク12の輪郭が投影される場所に継ぎ目が発生し易いという課題がある。
【0069】
これに対して、図16に示した実施の形態によれば、作製された多結晶シリコン膜30の表面に、マスク12-3の輪郭を投影する継ぎ目が発生することがない。また、この実施の形態では、レーザ光Lを、非晶質シリコン薄膜20に沿って連続移動させながら照射できるため、非晶質シリコン薄膜20の移動方向に直交する方向に延びる継ぎ目が発生することを抑えることができる。
【符号の説明】
【0070】
L レーザ光
G 放射方向
1 マスク
1A ガラス基板
1B 遮光領域
2 非晶質膜
3 非照射領域
3A 微結晶領域(種結晶形成領域)
3B 周縁部分
10 レーザ結晶化装置
11 レーザ光源
12-1,12-2,12-3 マスク
12A ガラス基板
12B 遮光領域
14 レンズ
20 非晶質シリコン薄膜
30 多結晶シリコン膜
31 結晶粒
31A 微結晶領域
31B 結晶成長部
32 粒界面
33 未結晶成長領域
40A アルミニウム膜(微結晶構造)
40B アルミニウム膜(微結晶領域を結晶核として成長する段階)
40C アルミニウム膜(多結晶膜)
41 微結晶
41A 微結晶領域
41B 結晶成長部
50 薄膜トランジスタ(ボトムゲート方式)
60 薄膜トランジスタ(トップゲート方式)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図12
図13
図14
図15
図16
図17