(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】靴用インソールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A43B 17/00 20060101AFI20240528BHJP
A43B 17/14 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A43B17/00 E
A43B17/14
(21)【出願番号】P 2023188059
(22)【出願日】2023-11-01
【審査請求日】2023-11-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523422174
【氏名又は名称】株式会社RIKI
(73)【特許権者】
【識別番号】517217933
【氏名又は名称】有限会社ホマレン
(73)【特許権者】
【識別番号】521382252
【氏名又は名称】株式会社生活館
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】川端 典邦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 茂誉
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-160560(JP,A)
【文献】登録実用新案第3151499(JP,U)
【文献】実開平02-132404(JP,U)
【文献】特表平9-501079(JP,A)
【文献】登録実用新案第3026357(JP,U)
【文献】特開2004-141518(JP,A)
【文献】実開平3-106910(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0200100(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 17/00
A43B 17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方部、中央部および後方部をこの順で備える靴用インソールであって、
該中央部の最大厚み(CT)が該前方部の最大厚み(FT)と同じまたはそれよりも大きく、かつ該前方部の最大厚み(FT)が該後方部の最大厚み(RT)よりも大き
く、
該前方部および該中央部の各上面が互いに連続して略平坦な面を有し、
該前方部の厚みが前方よりも後方で大きく、
該前方部、該中央部、および該後方部において、該前方部から該中央部まで延びる1つまたはそれ以上の柔軟な第1のシートと、該中央部から該後方部に延びる1つまたはそれ以上の靭性を有する第2のシートとが、該第1のシートと該第2のシートとが平面方向から見て一部の領域が重なった状態で配置されており、
該第1のシートが該第2のシートよりも柔軟な材料で構成されている、靴用インソール。
【請求項2】
前記中央部の最大厚み(CT)が使用者の中足骨頭部に相当する部分に配置されている、請求項1に記載の靴用インソール。
【請求項3】
前記前方部と前記中央部との境界が使用者の基節骨部に相当する部分に配置されている、請求項2に記載の靴用インソール。
【請求項4】
前記第1のシートがポリウレタンシートであり、かつ前記第2のシートがポリプロピレンシートである、請求項
1に記載の靴用インソール。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の靴用インソールの製造方法であって、
表面材と裏面材との間に、該前方部から該中央部
まで延びる1つまたはそれ以上の柔軟な第1のシートと、該中央部から該後方部に延びる1つまたはそれ以上の靭性を有する第2のシートとを
、該第1のシートと該第2のシートとが平面方向から見て一部の領域が重なるように挟持する工程、
を含
み、
該第1のシートが該第2のシートよりも柔軟な材料で構成されている、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴用インソールおよびその製造方法に関し、より詳細には姿勢矯正を簡便に行うことのできる靴用インソールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健常者が行う正常歩行や適切な静止立位の姿勢は、高齢者になるほど維持することが難しく、姿勢が崩れることによって腰痛、膝痛、股関節痛などを引き起こすことが知られている。
【0003】
特に歩行動作は重要とされており、こうした歩行動作を正常な状態に近づけるための様々な靴用インソールが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、爪先から踵にかけて所定の背屈サポート角(α)および外反サポート角(β)を設けた履物用インソールを開示している。特許文献2は、板バネ部材と積層したクッション部とを組み合わせることにより、足のアーチ部の機能を補助し得る靴用インソールを開示している。特許文献3は、中足骨に当接する上に凸状のドーム部を設け、当該ドーム部の下縁には長軸が足裏幅方向の中心線に沿う楕円状の形状を有する靴用インソールを開示している。特許文献4は、足の踵骨において踵骨前側上端が力点となり、踵骨後部が支点となって当該視点を中心としたモーメントが作用する靴用インソールを開示している。
【0005】
しかし、これら特許文献1~4に記載のインソールはいずれも、使用者の静止立位の姿勢や歩行動作を正常な状態に保つにはさらなる改良が必要であると考えられている。
【0006】
一方、ゴルフ、野球などのスポーツを行うアスリートにとって、体幹の回旋動作は重要とされており、身体への過度の負担のない状態での回旋動作を円滑に行うためには適切な姿勢矯正を可能にする靴用インソールの開発が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6522754号公報
【文献】特許第5768088号公報
【文献】特許第6138534号公報
【文献】特許第6799881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、使用者への過度の負担なく姿勢矯正を良好に行うことができる靴用インソールおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前方部、中央部および後方部をこの順で備える靴用インソールであって、
該中央部の最大厚み(CT)が該前方部の最大厚み(FT)と同じまたはそれよりも大きく、かつ該前方部の最大厚み(FT)が該後方部の最大厚み(RT)よりも大きい、靴用インソールである。
【0010】
1つの実施形態では、上記中央部の最大厚み(CT)は使用者の中足骨頭部に相当する部分に配置されている。
【0011】
さらなる実施形態では、上記前方部と上記中央部との境界は使用者の基節骨部に相当する部分に配置されている。
【0012】
1つの実施形態では、表面材と裏面材との間に、上記前方部から上記中央部に延びる1つまたはそれ以上の柔軟な第1のシートと、該中央部から上記後方部に延びる1つまたはそれ以上の靭性を有する第2のシートとが挟持されている。
【0013】
さらなる実施形態では、上記第1のシートはポリウレタンシートであり、かつ上記第2のシートはポリプロピレンシートである。
【0014】
本発明はまた、前方部、中央部および後方部をこの順で備える靴用インソールの製造方法であって、
表面材と裏面材との間に、該前方部から該中央部に延びる1つまたはそれ以上の柔軟な第1のシートと、該中央部から該後方部に延びる1つまたはそれ以上の靭性を有する第2のシートとを挟持する工程、
を含み、
該中央部の最大厚み(CT)が該前方部の最大厚み(FT)と同じまたはそれよりも大きく、かつ該前方部の最大厚み(FT)が該後方部の最大厚み(RT)よりも大きい、方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、使用者の荷重バランスを踵側に移動させて後方荷重の状態を得ることができ、例えば静止立位における姿勢矯正を行うことができる。これにより使用者自身の腰痛対策も可能となる。さらに使用者の体幹の回旋動作を容易なものにして、例えば種々のスポーツアスリートのスイング動作を増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の靴用インソールの一例を示す平面図である。
【
図2】
図1に示す靴用インソールのA-A方向断面図である。
【
図3】
図1に示す靴用インソールの前方部におけるB-B方向断面図である。
【
図4】
図1に示す靴用インソールの中央部におけるC-C方向断面図である。
【
図5】
図1に示す靴用インソールの後方部におけるD-D方向断面図である。
【
図6】
図1に示す靴用インソールの分解端面図である。
【
図7】
図1に示す靴用インソールに配置される第1のシートと、第2のシートの位置関係の一例を説明するための模式図である。
【
図9】実施例2で行った靴用インソールの長期間装着試験により得られた使用後の当該インソールの表面状態を示す写真である。
【
図10】(a)本発明の靴用インソールの装着有無の被験者(左:インソール非装着下/右:インソール装着下)が床反力計上の歩行試験の様子を説明する3D動作解析の結果を示す図であり、(b)は(a)に対応する当該被験者から取得された単位時間当たりの床反力の変化を可視化した図である。
【
図11】(a)本発明の靴用インソールを装着した被験者が前屈した状態を示す写真であり、(b)は(a)の状態における爪先と指先との垂直方向の距離を示す写真である。
【
図12】(a)本発明の靴用インソールを装着していない被験者が前屈した状態を示す写真であり、(b)は(a)の状態における爪先と指先との垂直方向の距離を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を、添付の図面を参照して説明する。
【0018】
(靴用インソール)
図1に示すように、本発明の靴用インソール100は、前方部110、中央部120および後方部130をこの順で備える。
【0019】
前方部110は、使用者の足の爪先側に位置する趾骨部分が当接する領域を含み、中央部120は、当該使用者の足の中央に位置する中足骨部分が当接する領域を含み、そして後方部130は、当該使用者の足の踵側に位置する踵骨部分が当接する領域を含む。前方部110と中央部120との間、ならびに中央部120と後方部130との間には、それぞれ任意の境界112,114が設けられている。
【0020】
図2は、
図1に示す靴用インソール100のA-A方向断面図である。
【0021】
本発明の靴用インソール100は、後述するような多層構造を有するものであり、前方部110、中央部120および後方部130のそれぞれを構成する層の数や層の厚みによって様々な厚みを有している。
図2に示す断面方向において、前方部110、中央部120および後方部130のそれぞれは、一定の厚みを有していてもよく、あるいは変動する厚みを有していてもよい。
【0022】
図3は、
図1に示す靴用インソールの前方部110におけるB-B方向断面図である。
図3に示すように、前方部110は例えば、上面が略平坦な面で構成されている。
【0023】
再び
図2を参照すると、中央部120は例えば前方部110との境界112に近い側では上面が略平坦な面で構成されていてもよい。
【0024】
図4は、
図1に示す靴用インソールの中央部120におけるC-C方向断面図である。
図4に示すように、中央部120には(
図1に示す後方部130との境界114に近い側に)、使用者の土踏まずに当接する凸部126が設けられている。凸部のサイズが特に限定されず、当業者によって適切な大きさが設計され得る。
【0025】
図5は、
図1に示す靴用インソールの後方部130におけるD-D方向断面図である。
【0026】
図5に示すように後方部130は、上面が使用者の足を安定的に収容することができるようにするために、所定の大きさの窪み132を有していてもよい。窪み132の深さは特に限定されず、当業者によって適切な深さが選択される。
【0027】
再び
図2を参照すると、本発明の靴用インソール100は、例えば、
図2に示す断面方向において、前方部110、中央部120および後方部130のそれぞれの最大厚み(すなわち、前方部110、中央部120および後方部130のそれぞれにおける最も大きな厚み)が所定の関係を有するものである。すなわち、本発明では、中央部120の最大厚み(CT)が前方部110の最大厚み(FT)と同じまたはそれよりも大きく(CT≧FT)なるように設定されている。また、本発明では、前方部110の最大厚み(FT)が後方部130の最大厚み(RT)よりも大きく(FT>RT)なるように設計されている。中央部120の最大厚み(CT)、前方部110の最大厚み(FT)および後方部130の最大厚み(RT)がそれぞれ上記のような関係式を満たすことにより、得られるインソールは、使用者が靴中に装着した際に僅かに後方に傾いて、いわゆる後方荷重がかけられた状態となる。そして、このような後方荷重をかけられた状態により使用者の姿勢が矯正され、かつ体幹の回旋動作がより容易なものとなる。
【0028】
なお、本発明において、前方部110の最大厚み(FT)は好ましくは靴用インソール100の境界112よりも前方に位置するように配置されている。また、中央部120の最大厚み(CT)は好ましくは境界112と境界114との間に位置するように配置されている。さらに、後方部130の最大厚み(RT)は好ましくは靴用インソール100の境界114よりも後方に位置するように配置されている。
【0029】
中央部120の最大厚み(CT)は上記関係式を満たす限り特に限定されないが、好ましくは4mm~9mm、より好ましくは6mm~7mmであり、より具体的な例としては6.5mmが挙げられる。中央部120の最大厚み(CT)が4mmを下回ると、そのようなインソールを装着した使用者にはそれほど大きな後方荷重がかからないため、姿勢矯正や体幹の回旋動作への影響が小さくなるおそれがある。中央部120の最大厚み(CT)が9mmを上回ると、そのようなインソールを装着した使用者には中足骨部分と当接する箇所で相当な厚みを感じ、後方荷重を強く感じて静止立位の姿勢を保つことが困難となり、歩行動作がむしろ不安定になるおそれがある。
【0030】
前方部110の最大厚み(FT)は上記関係式を満たす限り特に限定されないが、好ましくは3mm~8mm、より好ましくは4mm~6mmであり、より具体的な例としては5mmが挙げられる。前方部110の最大厚み(FT)が3mmを下回ると、そのようなインソールは前方部110がかなり薄いものとなり、インソール自体の強度が低下するおそれがある。前方部110の最大厚み(CT)が8mmを上回ると、そのようなインソールを装着した使用者には趾骨付近に不快な厚みを感じるだけでなく、上記中央部120自体もそれと同等またはそれ以上の最大厚みとなるよう設計される必要があり、インソール全体の厚みが増して靴内での圧迫感が強くなる等の所望でない装着感が得られるおそれがある。
【0031】
後方部130の最大厚み(RT)は上記関係式を満たす限り特に限定されないが、好ましくは1.5mm~5mm、より好ましくは3mm~4.5mmであり、より具体的な例としては4mmが挙げられる。後方部130の最大厚み(RT)が1.5mmを下回ると、そのようなインソールは後方部130がかなり薄いものとなり、インソール自体の強度が低下するおそれがある。後方部130の最大厚み(RT)が5mmを上回ると、そのようなインソールを装着した使用者にはそれほど大きな後方荷重がかからないため、姿勢矯正や体幹の回旋動作への影響が小さくなるおそれがある。
【0032】
なお、本発明においては、上記中央部120の最大厚み(CT)は使用者の中足骨頭部に相当する部分(すなわち、使用者の中足骨頭部に当接する部分)に配置されていることが好ましい。このような関係を満足することにより、使用者は、中央部120の最大厚み(CT)を有する部分を通じてより効果的に後方荷重を実感することができる。
【0033】
さらに、本発明においては、前方部110と中央部120との境界112が使用者の基節骨部に相当する部分に配置されていることが好ましい。この基節骨部に相当する部分は、中足趾節関節(MTP関節)と趾節間関節(IP関節)とが位置し、足趾の求心性収縮が行われ易い部分である。当該求心性収縮が行われ易くなることにより、後方荷重がより促され、使用者の姿勢が一層矯正され易くなる。
【0034】
図6は、
図1に示す靴用インソールの分解端面図である。
【0035】
図1に示す靴用インソール100は、表面材142と裏面材144との間に中間材146と、第2のシート150と、第1のシート148とが挟持されている。
【0036】
表面材142は、例えば、通気性、伸縮性、耐滑り性に優れた材料から構成されている。表面材142を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ウルトラスエード(登録商標)などの合成皮革が挙げられる。表面材142の厚みは特に限定されないが、それぞれ独立して好ましくは1mm~1.2mmである。表面材142がこのような範囲内の厚みを有していることにより、摩耗による劣化を抑えることができる。
【0037】
裏面材144は、例えば柔軟性に優れた材料から構成されている。裏面材144は好ましくは樹脂製のシートまたは皮革製のシートである。裏面材144を構成する材料の種類は特に限定されないが、例えば、ポリウレタン(PU)、塩化ビニル(PVC)、天然皮革および合成皮革、ならびにそれらの組み合わせ(例えば、任意の積層体)が挙げられる。汎用性に富み、得られる靴用インソール全体が水洗い可能であるという理由から、裏面材144はPUであることが好ましい。裏面材144の厚みは特に限定されないが、1層あたり好ましくは0.8mm~1.4mmである。裏面材144がこのような範囲内の厚みを有していることにより、摩耗による劣化を抑えることができる。
【0038】
中間材146は靴型インソール100の全体に対して、所定の強度を付与するために設けられており、前方部110から、例えば、中央部120および後方部130にまで延びる1枚の樹脂製シートで構成されている。中間材146を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、発泡樹脂(例えば、ポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォーム、およびそれらの組み合わせ)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。汎用性に富み、足の形に馴染みやすいという理由から、中間材146を構成する材料はEVAであることが好ましい。
【0039】
中間材146の厚みは特に限定されないが、好ましくは0.5mm~1.5mmである。中間材146がこのような範囲内の厚みを有していることにより、得られる靴用インソールを靴内に挿入した際に使用者が感じる靴内の圧迫を最小限に抑えつつ履き心地を向上させることができる。
【0040】
第1のシート148は、主に前方部110から中央部120にかけて延びる1つまたはそれ以上の柔軟なシートである。特に第1のシート148は後述する第2のシート150よりも柔軟な材料で構成されていることが好ましい。第1のシート148を構成する材料は特に限定されないが、例えば、樹脂製のシート(例えば、ポリウレタン(PU)および塩化ビニル(PVC)、ならびにそれらの組み合わせ)、および皮革製のシート(例えば、天然皮革および合成皮革)、ならびにそれらの組み合わせ(例えば、任意の積層体)が挙げられる。汎用性に富み、得られる靴用インソール全体が水洗い可能であるという理由から、第1のシート148を構成する材料はPUであることが好ましい。
【0041】
第1のシート148の厚みは特に限定されないが、1層あたり好ましくは0.8mm~1.2mmである。1層当たりの厚みがこのような範囲内にあることにより、任意の枚数を積層して第1のシート148は様々な厚みを有することができる。また、このような層の積層枚数と当該層の面方向の任意の大きさおよび/または形状との組み合わせにより、第1のシート148における荷重位置のコントロール(すなわち、第1のシート148内で荷重が集中し易い位置の移動およびその調整)が可能となる。
【0042】
第2のシート150は、主に中央部120から後方部130にかけて延びる1つまたはそれ以上の靭性を有するシートである。なお、
図6に示すように、第2のシート150は、その端部が中央部120から前方部110の一部にまで延びるものであってもよい。第2のシート150は、靭性を有することにより、インソールの底面側から受ける衝撃(例えば、歩行やランニングの際に地面から受ける衝撃)を適度に吸収することにより、当該衝撃から使用者の足を適切に保護して疲労の発生や怪我を予防または低減することができる。また当該靭性により吸収された衝撃は時間経過とともに放出され、スムーズな蹴り出し等の次の動作の補助となり得る。第2のシート150を構成する材料は特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン(PP)および炭素繊維強化プラスチック(CFRP)ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。汎用性に富み、靭性が良好でありかつ加工性および量産性に優れているという理由から、第2のシート150を構成する材料はPPであることが好ましい。
【0043】
第2のシート150の厚みは特に限定されないが、1層あたり好ましくは1.5mm~3mmである。第2のシート150がこのような範囲内の厚みを有していることにより、得られる靴用インソールは体重以上の力がかかる動作においても靭性を発揮することができる。
【0044】
なお、
図6において、表面材142、中間材146、第2のシート150、第1のシート148、および裏面材144を構成する各層の間には、任意の接着剤で構成される接着層が配置されていてもよい。接着層は、表面材142、中間材146、第2のシート150、第1のシート148、および裏面材144のそれぞれが有する特性を保持する目的でできるだけ薄くなるように配置されていることが好ましい。
【0045】
図7は、
図1に示す靴用インソールに配置される第1のシートと、第2のシートの位置関係の一例を説明するための模式図である。
【0046】
図7に示すように靴用インソール100において、第1のシート148と第2のシート150とは、平面方向から見て一部の領域が重なった状態で配置されている。また、本発明においては、これらの重なりで生じた境界部分の一部が上記前方部と中間部との間の境界112に略一致していることが好ましい。境界112がこのような配置と略一致していることにより、本発明の靴用インソール100は、境界112よりも前方は比較的柔軟であり、かつ当該境界112よりも後方は比較的靭性を有することになる。これにより、本発明の靴用インソール100は、例えば1種類の材料(例えば樹脂やゴム)を用いて一体的に作製した従来のインソールと比較して、前方部110、中央部120および後方部130のそれぞれに求められる、より細かな特性に対応可能なものとして提供可能である。
【0047】
【0048】
図8に示すように、靴用インソール100の底部には、例えば、上記第1のシート148(
図6に示すように複数の第1のシート148が積層された状態)によって所定の段差154が形成されている。本発明では、この段差154により、使用者は後方荷重を受け易くなり、それにより、例えば、静止立位の姿勢が矯正され易くなる、歩行動作が改善される、体幹の回旋動作を容易に行うことができる、前屈がし易くなる、床反力の変化に伴い筋活動を変えることができる等の姿勢矯正に伴う様々な効果を実感することができる。
【0049】
(靴用インソールの製造方法)
本発明の靴用インソールは、例えば、表面材と裏面材との間に、前方部から中央部に延びる1つまたはそれ以上の柔軟な第1のシートと、中央部から後方部に延びる1つまたはそれ以上の靭性を有する第2のシートとを挟持することにより製造され得る。
【0050】
上記挟持にあたり各層の積層方法は特に限定されず、機械的に中間材、第2のシートおよび第1のシートが配置されてもよく、あるいは作業者の手でこれらが順次配置されてもよい。また、上述のように各層の間には、必要に応じて接着剤が塗布されてもよい。さらに、このような配置に伴う製造条件は特に限定されず、当業者によって適切な条件が適宜選択され得る。
【0051】
なお、この挟持は、中央部の最大厚み(CT)が前方部の最大厚み(FT)と同じまたはそれよりも大きく、かつ前方部の最大厚み(FT)が後方部の最大厚み(RT)よりも大きくなるように行われる。
【0052】
このようにして本発明の靴用インソールが製造され得る。
【0053】
本発明の靴用インソールは、例えば、スニーカー(例えば、ローカット、ミッドカット、ハイカット、ハイテク、ローテク、シューレースタイプ、スリッポン、ハンドタイプ等)、各種スポーツシューズ(例えば、ランニングシューズ、トレッキングシューズ、ベースボールシューズ(スパイク)、ゴルフシューズ、サッカーシューズ、バスケットボールシューズ、バレーボールシューズ、スケート靴、アウトドアシューズ等)、革靴(例えば、ビジネスシューズ、紳士靴、パンプス、ローファー、オックスフォード等)、カジュアルシューズ、ブーツ、レインブーツなどの種々の靴における中敷きとして使用することができる。
【0054】
本発明の靴用インソールはまた、任意の足のサイズ(例えば、22.0cm~30.0cm)に合わせて、右足用および左足用にそれぞれ大量生産することができる。あるいは、例えば、膝疾患や外反母趾などの各種疾患を抱える患者や、高度な運動動作が求められるスポーツアスリートからの個々の要求に応じて、オーダーメードで作製することもできる。
【0055】
本発明の靴用インソールはさらに着脱が自在であり、個々のインソール自体を洗濯することにより清浄な状態を保つことも可能である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1:靴用インソールの作製)
サイズ26.0cmおよび23.5cmの靴用インソールを以下のようにして作製した。
【0058】
1.1mmの厚みを有するウルトラスエート(登録商標)(東レ株式会社製)を表面材に用い、1枚の中間材(エチレン-酢酸共重合体(EVA);厚み0.8mm)、1枚の第2のシート(ポリプロピレン(PP);厚み2mm)、3枚の第1のシート(ポリウレタン(PU);各厚み0.8mm)、および裏面材(ポリウレタン(PU);厚み0.8mm)を
図6に示すような順序で積層した。ここで、中間材146については得られる靴用インソール100の全体形状に沿って配置し、第2のシート150については前方部110の一部から、中間部120および後方部130まで延びるように配置し、そして第1のシート148については前方部110から中間部120の一部まで延びるように配置した。なお、積層にあたり、各層の間には接着剤(Renia株式会社製オーテック・コルデコローネ・スーパーフィックス・トップフィット)を薄く全面に塗布した。
【0059】
このような靴用インソールを、右足用および左足用の合計2つ作製した。
【0060】
(実施例2;靴用インソールの長期間装着試験)
実施例1で得られた一組の靴用インソール(サイズ:26.0cm)を、被験者(30代男性)のビジネスシューズ内に装着し、これを約3カ月間通勤および勤務時間中に履き続け手使用した。その後、当該使用後のインソール(左足側)の表面状態を写真に撮り、表面の状態を目視観察した。得られた写真を
図9に示す。
【0061】
図9に示すように使用後のインソールは、長期間の使用によって被験者の足の骨部分が当接した箇所の表面材が変色していた。特に、趾骨(末節骨)が当接した部分、中足骨頭部が当接した部分、および踵骨が当接した部分が大きく変色し、特に踵骨が当接した部分が最も大きく変色していた。
【0062】
このことから、実施例1で得られた靴用インソールをビジネスシューズに装着した被験者は、長期間の使用を通じて踵骨側に大きく重心が傾き、結果として後方荷重が高められた状態にあったことがわかる。
【0063】
(実施例3;靴用インソールの装着有無による被験者の動作解析)
実施例1で得られた一組の靴用インソール(サイズ:23.5cm)を、膝疾患を抱える被験者(70代女性)の素足にテープを巻き付けて固定した。
【0064】
この状態で、
図10の(a)の右側に示すように、床反力計(AMTY株式会社製BP6001200)上を歩行し、その際の歩行状態を3D動作解析装置(Vicon motion systems社製VICON MXに記録し、得られた単位時間(t)で変動する床反力の大きさおよび向きを当該解析装置に付属の画像診断ソフト(Vicon motion systems社製VICON POLYGON VIEWER)を使ってイメージ化した。
【0065】
さらに、同じ被験者が靴用インソールを外した非装着の状態で、素足のまま上記床反力計上を歩行し(
図10の(a)の左側)その際の歩行状態を上記3D動作解析装置に記録し、得られた単位時間(t)で変動する床反力の大きさおよび向きを当該解析装置に付属の上記画像診断ソフトを使ってイメージ化した。
【0066】
【0067】
図10の(b)に示すように、靴用インソールを装着していない状態では、得られた3Dイメージは、被験者が歩行の際に足が床上に最初に接触した段階で最も床反力が大きくなり、その後当該床反力が急激に減衰する波形を示していた。このような波形は健常者に多く観察される後述の正常歩行における床反力波形から大きく逸脱している。これは、躓きによる転倒リスクの増加、歩行速度低下、筋力低下等に繋がる。
【0068】
これに対し、実施例1で得られた靴用インソールを装着した状態では、得られた3Dイメージは、被験者が歩行の際足が床上に最初に接触した段階で一旦大きな床反力を示し、その後床反力は緩やかに減少した後再び増大して第2のピークを示し、その後減衰する(いわゆるM形状の)波形を示していた。このようなM形状の波形は健常者に多く観察される正常歩行パターンに近く、実施例1で得られた靴用インソールを装着することにより健常者と同等の歩行が可能になったことがわかる。
【0069】
また、この歩行試験を行った被験者自身から、実施例1で得られた靴用インソールを装着した場合、被験者自身の姿勢が幾分後方に傾斜したような感覚とともに歩行が非常に楽になったとの感想を得ることができた。
【0070】
(実施例4;靴用インソールの装着有無による被験者の前屈運動試験)
後方荷重によって腰椎骨盤リズムが変化し、体幹動作の協調性が増加し得る。このため、実施例1で得られた靴用インソールの装着有無の相違により、腰椎骨盤リズムの変化の有無を確認するため、被験者により以下の前屈運動試験を行った。
【0071】
まず、実施例1で得られた一組の靴用インソール(サイズ:26.0cm)の上に、健常者の被験者(30代男性)が乗った。その後、被験者は水平な台の上に立ち、そのまま床面に向かって両手を降ろし、ゆっくりと前屈を行ってそれ以上降下できない位置(
図11の(a))での爪先から指先までの垂直方向の距離を測定した。得られた測定値は約25mmであった(
図11の(b))。
【0072】
さらに、同じ被験者が靴用インソールを外した非装着の状態(素足)で、上記と同様にして台の上での前屈を行い、それ以上降下できない位置(
図12の(a))での爪先から指先までの垂直方向の距離を測定した。得られた測定値は100mmであった(
図12の(b))。
【0073】
図11の(b)と
図12の(b)との対比から明らかなように、実施例1で得られた靴用インソールの装着した被験者は、装着していない場合と比較してより深く前屈を行うことができた。このことから、実施例1で得られた靴用インソールによって、被験者が後方荷重の姿勢に矯正され、それにより腰椎骨盤リズムが変動してより深くまでの前屈が可能になったと考えられる。
【符号の説明】
【0074】
100 靴用インソール
110 前方部
112,114 境界
120 中央部
126 凸部
130 後方部
132 窪み
142 表面材
144 裏面材
146 中間材
148 第1のシート
150 第2のシート
154 段差
【要約】
【課題】 使用者への過度の肉体的な負担なしに姿勢矯正を良好に行うことができる靴用インソールおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の靴用インソールは、前方部、中央部および後方部をこの順で備える。ここで、中央部の最大厚み(CT)は前方部の最大厚み(FT)と同じまたはそれよりも大きく、かつ前方部の最大厚み(FT)は後方部の最大厚み(RT)よりも大きくなるように設計されている。このような靴用インソールは、例えば、表面材と裏面材との間に、前方部から中央部に延びる1つまたはそれ以上の柔軟な第1のシートと、中央部から後方部に延びる1つまたはそれ以上の靭性を有する第2のシートとを挟持することにより製造され得る。
【選択図】
図2