(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】エンジンの始動装置
(51)【国際特許分類】
F02N 3/02 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
F02N3/02 Q
F02N3/02 P
(21)【出願番号】P 2020111266
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】391014000
【氏名又は名称】スターテング工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157912
【氏名又は名称】中島 健
(74)【代理人】
【識別番号】100074918
【氏名又は名称】瀬川 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】堀越 義則
(72)【発明者】
【氏名】水野 智康
(72)【発明者】
【氏名】笠井 聡人
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 博昭
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-39774(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタータケースと、
前記スタータケースに回転可能に組み付けられるロープリールと、
前記ロープリールに形成された保持溝に巻回されたロープと、
前記スタータケースと前記ロープリールとの間に収容されて前記ロープを巻き取る方向に付勢力を発揮するリコイルゼンマイと、
を備え、
前記ロープリールは、前記リコイルゼンマイの外周を囲むように立設された第1周壁部を備え、
前記スタータケースは、前記第1周壁部の内周面または外周面に隣接するように立設された第2周壁部を備え、
前記第1周壁部と前記第2周壁部とは、径方向に見て端縁が互いに重なり合うように配置されており、
前記第1周壁部の内側には、前記スタータケースと前記リコイルゼンマイとの間に
両者を仕切るように板状のプレートが配置されており、
前記第1周壁部の端縁が、前記プレートよりも前記スタータケース側に突出している、エンジンの始動装置。
【請求項2】
前記プレートの外径は、前記第1周壁部の内周面に沿うように形成されている、請求項1に記載のエンジンの始動装置。
【請求項3】
前記プレートは、前記スタータケースと前記リコイルゼンマイとで挟み込まれて保持されている、請求項1または2のいずれか1項に記載のエンジンの始動装置。
【請求項4】
前記スタータケースをエンジンに取り付けて使用したときに、エンジンを冷却するための冷却風が前記第1周壁部又は前記第2周壁部の外周面に沿って流れるように構成されており、
前記冷却風は、前記第1周壁部および前記第2周壁部のうちで外周側に設けられた方の延設方向に流れるように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のエンジンの始動装置。
【請求項5】
前記第1周壁部と前記第2周壁部との間の隙間が、冷却風の流れとは異なる方向に開口している、請求項
4に記載のエンジンの始動装置。
【請求項6】
前記第1周壁部の内側には、前記スタータケースと前記プレートとの間に環状の圧力平衡室が形成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンの始動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロープを引き操作することでエンジンに始動回転力を付与することができる始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のエンジンの始動装置として、ロープリールに巻き回されたロープを牽引することによりロープリールを回転させ、該ロープリールの回転をエンジンのクランク軸に結合された回転部材に伝達し、該回転部材を介してエンジンのクランク軸を回転させてエンジンを始動させるようにしたものが知られている。こうした始動装置では、引き出されたロープから作業者が手を離すと、リコイルゼンマイに蓄積されたバネ力によってロープリールが逆回転し、ロープリールによってロープが巻き取られるようになっている。
【0003】
なお、こうした始動装置が埃や塵の多い作業環境下で使われた際には、これらの異物が始動装置の内部に進入し、機械の破損につながる可能性がある。例えば、リコイルゼンマイの収容空間に異物が侵入した状態でロープの牽引操作が行われると、意図しない負荷がかかってリコイルゼンマイが変形する可能性がある。リコイルゼンマイが変形すると、ロープの巻き取り動作が正常に行われなくなったり、ロープの牽引操作が行えなくなったりする不具合の原因となりうる。
【0004】
こうした問題を解決するために、例えば、特許文献1には、ロープリールのエンジン側に収容部の開口部を覆う防塵カバーを配置し、ロープリールのエンジン側の側面に同心円状の環状凹凸部を形成するとともに、防塵カバーにも同心円状の環状凹凸部を形成し、防塵カバーの環状凹凸部をロープリールの環状凹凸部に入れ込む入れ子構造にして、その内部にロープリールとリコイルゼンマイとを収容した構造が記載されている。このような構成によれば、環状凹凸部によって塵埃の侵入を防止できるので、リコイルゼンマイに塵埃が付着することによる作動不良や不具合の発生を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、こうした始動装置は、例えば芝刈り機などの可搬式の機械に使用される。可搬式の機械は取り回しを良くするためにできるだけ小型化することが望ましく、始動装置についても、できるだけ省スペースで機械に内蔵することが求められる。
【0007】
しかしながら、上記した特許文献1記載の構成では、防塵カバー(環状凹凸部)によって始動装置の厚みが増すため、省スペースという点では改善が必要であった。
【0008】
また、環状凹凸部によって異物の侵入を強固に防止できる反面、一旦環状凹凸部の内部に異物が侵入してしまうと、その異物が外に排出されにくいというデメリットがあった。
【0009】
そこで、本発明は、リコイルゼンマイの変形や破損を防止するために、始動装置の内部に異物が侵入しにくい構造を省スペースで実現し、かつ、もしも異物が侵入しても排出しやすい構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するため、本発明は、スタータケースと、前記スタータケースに回転可能に組み付けられるロープリールと、前記ロープリールに形成された保持溝に巻回されたロープと、前記スタータケースと前記ロープリールとの間に収容されて前記ロープを巻き取る方向に付勢力を発揮するリコイルゼンマイと、を備え、前記ロープリールは、前記リコイルゼンマイの外周を囲むように立設された第1周壁部を備え、前記スタータケースは、前記第1周壁部の内周面または外周面に隣接するように立設された第2周壁部を備え、前記第1周壁部と前記第2周壁部とは、径方向に見て端縁が互いに重なり合うように配置されており、前記第1周壁部の内側には、前記スタータケースと前記リコイルゼンマイとの間にプレートが配置されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記の通りであり、ロープリールに形成された第1周壁部とスタータケースに形成された第2周壁部とは、径方向に見て端縁が互いに重なり合うように配置されている。よって、互いに重なり合う第1周壁部と第2周壁部とによってラビリンスシールが形成され、始動装置の内部に異物が侵入しにくい構造となっている。また、このようなラビリンスシールを、ロープリールおよびスタータケースだけで構成しているため、別部材を使用する必要がなく、始動装置の厚みが増すこともない。よって、リコイルゼンマイの変形や破損を防止するために、始動装置の内部に異物が侵入しにくい構造を省スペースで実現することができる。
【0012】
なお、ロープリールおよびスタータケースだけで構成したシール構造は簡易であるため、シールの内部に異物が侵入するおそれがある。しかしながら、本発明は、スタータケースとリコイルゼンマイとを仕切るようにプレートが配置されているため、シールの内部に異物が侵入したとしても、異物がリコイルゼンマイまで到達しないようになっている。むしろ、シール構造が簡易であるため、侵入した異物がリコイルゼンマイに到達する前にプレートの表面を流れて外部に排出されやすい構造となっており、リコイルゼンマイが異物の影響を受けないように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】(a)本体カバーの外観図、(b)本体カバーでエンジンの始動装置を覆った時のイメージ図である。
【
図3】(a)冷却風の流れを説明する断面図、(b)差圧による空気の流れを説明する平面図である。
【
図6】
図5記載のスタータケースのA-A線断面図である。
【
図8】(a)
図7記載のロープリールのB-B線断面図、(b)
図7記載のロープリールのC-C線断面図である。
【
図9】(a)始動装置の断面図、(b)プレートの平面図、(c)
図9(a)記載のD部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。各図において、矢印X、Y、Zは互いに直交する方向を示し、X方向はエンジンを可搬式の機械(例えば、芝刈り機)に搭載した状態における機械の前後方向(前進後退方向)、Y方向は機械の幅方向(左右方向)、Z方向は上下方向(重力方向)を示す。なお、以下の説明において、左右方向は、機械の前進側を向いた状態での左右を指すものとする。
【0015】
本実施形態に係るエンジンの始動装置10は、エンジンクランク軸43に回転力を付与することにより、エンジンの始動を行うためのものであり、
図1に示すように、スタータケース11にロープリール20を回転可能に組み付けて構成されている。本実施形態に係る始動装置10は、例えばエンジン式の芝刈り機などに内蔵されるものである。芝刈り機のエンジン部41および始動装置10は、
図2(a)に示すような本体カバー40の内部に収容される。すなわち、
図2(b)に示すように、エンジン部41の表面に始動装置10が取り付けられるとともに、これらのエンジン部41および始動装置10を覆うように本体カバー40が取り付けられる。
【0016】
なお、本実施形態に係るエンジンクランク軸43には、
図3(a)に示すような回転部材42が取り付けられている。この回転部材42は、ロープリール20の回転軸(後述するリール支軸12a)と同軸上において、回転可能に支持されている。この回転部材42にロープリール20の回転力が伝達されると、回転部材42に一体的に結合されたエンジンクランク軸43が回転し、エンジンに始動回転力が付与されるようになっている。
【0017】
また、この回転部材42には、吸い込み型の冷却ファン44が一体的に設けられている。この冷却ファン44は、エンジンに冷却風を送風するためのものであり、回転部材42(およびエンジンクランク軸43)と一体的に回転する。冷却ファン44によって生じる冷却風は、
図3(a)の矢印P1が示すように、本体カバー40の側面に沿って始動装置10の方向へ流れ、その後、始動装置10の内部(後述するケース開孔部14およびリール開孔部23)を通過してエンジン部41の方向(重力方向下側)へ流れるようになっている。
【0018】
ただし、本実施形態においては、機械の小型化を達成するために、本体カバー40が始動装置10に近接して取り付けられており、
図3(a)に示すように、本体カバー40の裏面と始動装置10の表面との間隔が狭くなっている。このため、本体カバー40と始動装置10との間を流れるときに冷却風の流速が変化し、それに伴い気圧が変化する。そして、この気圧の変化は本体カバー40や始動装置10の形状などによって影響を受けるため、位置によって気圧が異なることになる。この圧力差によって、
図3(b)の矢印P2が示すように、始動装置10を横切る方向(水平方向)に冷却風の流れが発生する。このように始動装置10を横切る冷却風の流れが発生すると、この流れによって異物が始動装置10の中心方向へ流れるおそれがある。本実施形態に係る始動装置10は、このような流れが発生した場合でも、リコイルゼンマイ31の収容空間に異物が侵入することを防止できるようになっている。
【0019】
本実施形態に係る始動装置10は、
図9(a)に示すように、スタータケース11と、ロープリール20と、ロープ30と、リコイルゼンマイ31と、ラチェット部材32と、プレート33と、を備える。なお、これらの構成部材は例示に過ぎず、本発明の目的を達成できる範囲で異なる構成部材を使用してもよいことは言うまでもない。
【0020】
スタータケース11は、始動装置10の主要構成部品を収容しつつ、エンジンの上面部に固定される部材である。このスタータケース11は、
図4~6に示すように、中央に平面視略円形のケース円盤部12を備え、このケース円盤部12の外周縁から放射状にケースブリッジ部13が延設されている。ケースブリッジ部13の先端には、スタータケース11の外周を覆うように外周壁15が形成されている。言い換えると、中央のケース円盤部12と外側の外周壁15とが複数のケースブリッジ部13によって接続されている。外周壁15には、後述するロープ30を外部に引き出すためのロープ引き出し口15aが開口形成されている。また、複数のケースブリッジ部13の間の間隙は、表裏方向へ貫通したケース開孔部14を形成している。
【0021】
上記したケース円盤部12の中心には、エンジンクランク軸43と対向するように突出したリール支軸12aが設けられている。このリール支軸12aは、後述するロープリール20を回転可能に取り付けるためのものである。
【0022】
また、このリール支軸12aの周囲には、
図5に示すように、放射状リブ12bと円形リブ12cとが設けられている。放射状リブ12bおよび円形リブ12cは、リール支軸12aの突出方向と同じ方向(重力方向)に、リール支軸12aよりも小さい突出量で立設されている。このうち、放射状リブ12bは、直線的に形成された板状部であり、リール支軸12aを中心に放射状に設けられている。これらの放射状リブ12bは、リール支軸12aの周方向に見て一定間隔で設けられている。また、円形リブ12cは、円形に形成された板状部であり、放射状リブ12bの先端を繋ぐように、リール支軸12aを中心とする円周上に設けられている。
【0023】
円形リブ12cの外周側には、
図6に示すように、リブが設けられていない。このリブが設けられていない箇所は、周溝部12dとなっている。言い換えると、円形リブ12cの外周側に周溝部12dが隣接して形成されている。この周溝部12dは、後述する圧力平衡室Sを形成するために設けられている。
【0024】
この周溝部12dの更に外周側には、対向部12eが隣接して設けられており、この対向部12eの更に外周側には、第2周壁部12fが隣接して設けられている。
【0025】
対向部12eは、周溝部12dよりもやや高く形成された部位であり、周溝部12dの外周に沿って円形で形成されている。この対向部12eは、
図6に示すように、リール支軸12aの突出方向と同じ方向(重力方向かつロープリール20側)に、放射状リブ12bおよび円形リブ12cよりも小さい突出量で形成されている。また、この対向部12eの突出量は、第2周壁部12fの突出量よりも小さく設定されている。この対向部12eは、
図10に示すように、後述する第1周壁部21cの端縁21eに臨む、あるいは第1周壁部21cの端縁21eに当接するように配置される。また、この対向部12eの径方向(
図10の左右方向)の幅Y1は、第1周壁部21cの径方向の幅Y2よりも大きく形成されている。
【0026】
第2周壁部12fは、対向部12eよりもやや高く形成された部位であり、対向部12eの外周に沿って円形で立設されている。この第2周壁部12fは、
図6および
図10に示すように、リール支軸12aの突出方向と同じ方向(重力方向かつロープリール20側)に、放射状リブ12bおよび円形リブ12cの突出量X1よりも小さい突出量X2で形成されている。この第2周壁部12fは、
図9(c)に示すように、後述する第1周壁部21cの外周面に隣接、あるいは当接するように配置される。このため、第2周壁部12fは、対向部12eと第1周壁部21cとの対向位置を外側から覆うように配置されている。なお、本実施形態においては、第2周壁部12fを第1周壁部21cの外周面に隣接するように立設しているが、これに限らず、第2周壁部12fを第1周壁部21cの内周面に隣接するように立設してもよい。
【0027】
ロープリール20は、周囲にロープ30を巻き付けるための保持溝24aを形成したホイール状の部材であり、リール支軸12aに対して回転自在に取り付けられている。このロープリール20に巻回されたロープ30は、一端がロープリール20に固定され、他端がスタータケース11の外部に引き出されている。このため、この引き出されたロープ30を作業者が勢いよく牽引することで、ロープリール20がリール支軸12aを中心に回転するようになっている。
【0028】
このロープリール20は、
図7~8に示すように、中央に平面視略円形のリール円盤部21を備え、このリール円盤部21の外周縁からリールブリッジ部22が延設されている。また、このリールブリッジ部22の外側には、ロープ保持部24が設けられている。
【0029】
上記したリール円盤部21には、
図8(a)(b)に示すように、スタータケース11に臨む面に、軸孔21dおよびゼンマイ収容孔21bが形成されている。軸孔21dは、リール円盤部21の中心に形成された円形の凹部である。また、ゼンマイ収容孔21bは、軸孔21dと同心で形成された円形の凹部であり、軸孔21dよりも大径かつ浅く形成されている。このように形成することで、軸孔21dとゼンマイ収容孔21bとで段付き穴のような形状が形成されている。
【0030】
軸孔21dは、リール支軸12aを挿入するためのものである。この軸孔21dにリール支軸12aを挿通させることで、ロープリール20がリール支軸12aに対して回転自在に取り付けられている。
【0031】
ゼンマイ収容孔21bは、後述するリコイルゼンマイ31を収容するための凹部である。このゼンマイ収容孔21bは、外周を第1周壁部21cによって囲まれている。言い換えると、円形に立設された第1周壁部21cによって、ゼンマイ収容孔21bが形成されている。そして、この第1周壁部21cは、ゼンマイ収容孔21bに収容したリコイルゼンマイ31の外周を囲むように立設されている。
【0032】
また、リール円盤部21において、これら軸孔21dおよびゼンマイ収容孔21bが形成された面とは反対面には、ラチェット揺動軸21aが設けられている。このラチェット揺動軸21aは、後述するラチェット部材32を揺動可能に取り付けるためのものであり、リール円盤部21の中心からずらした偏心位置に設けられている。
【0033】
リールブリッジ部22は、中央のリール円盤部21と外側のロープ保持部24とを接続するために網目状に形成されている。また、網目状に形成されたリールブリッジ部22の間隙は、表裏方向へ貫通したリール開孔部23を形成している。このリールブリッジ部22およびリール開孔部23が形成された領域は、
図1に示すように、上記したケースブリッジ部13およびケース開孔部14が形成された領域と平面視で重力方向に重なるようになっている。このため、スタータケース11の上方から流れてきた冷却風が、ケース開孔部14とリール開孔部23とを通過して、エンジン側へと通り抜けられるようになっている。
【0034】
ロープ保持部24は、ロープリール20の外周に沿ってリング状に形成された部位である。このロープ保持部24の外周には、ロープ30を巻き付けるための保持溝24aが形成されている。このロープリール20の保持溝24aに巻き回されたロープ30は、一端が保持溝24a内でロープリール20に係止されており、他端がロープ引き出し口15aからスタータケース11の外部へと引き出されている。スタータケース11の外部へと引き出されたロープ30の端部には、
図1に示すように、作業者がロープ30の引き操作をするときに把持するための略T字形のグリップ30aが設けられている。
【0035】
リコイルゼンマイ31は、スタータケース11とロープリール20との間に収容されてロープ30を巻き取る方向に付勢力を発揮するゼンマイバネである。このリコイルゼンマイ31は、作業者によってロープ30が引き出し操作されてロープリール20が回転したときにバネ力を蓄積する。そして、作業者が引き出したロープ30を離したときに、蓄積したバネ力によってロープリール20を逆回転させ、自動的にロープ30を巻き取るようにしている。このリコイルゼンマイ31は、
図9(a)に示すように、ゼンマイ収容孔21bの内部において、リール支軸12aの周囲に巻き付けるように配置される。このリコイルゼンマイ31は、中心側の端部がスタータケース11(リール支軸12a)に固定され、外側の端部が第1周壁部21cに固定される。
【0036】
ラチェット部材32は、ロープ30が引き操作されたときに、ロープリール20の回転力をエンジン側に伝達するとともに、エンジン始動後は、エンジン側の回転力をロープリール20に伝達しないようにするための部材である。このラチェット部材32は、ロープリール20の側面に形成されたラチェット揺動軸21aに揺動可能に取り付けられている。
【0037】
このラチェット部材32の作用については、周知の構造を応用可能であるため詳しくは説明しないが、ロープリール20がエンジンを始動させる方向に回転しようとしたときにのみ揺動して、エンジン側の回転部材42に形成された係合部42aに係合するようになっている。すなわち、ロープ30が引き出し操作されてロープリール20が回転したときには、ラチェット部材32が揺動することで係合部42aに係合し、ロープリール20の回転力がエンジン側に伝達される。一方、ロープリール20がロープ30を巻き取る方向に回転しているときや、ロープリール20が回転していないときには、ラチェット部材32は退避方向に揺動してエンジン側に係合しないようになっている。
【0038】
プレート33は、第1周壁部21cの内部、すなわちゼンマイ収容孔21bに配置される円形の板状部材である。このプレート33の外径は、第1周壁部21cの内周面に沿うように形成されている。また、このプレート33の中央には、
図9(b)に示すように、円形の貫通孔33aが形成されている。この貫通孔33aは、リール支軸12aを貫通させるためのものである。このプレート33は、
図9に示すように、ゼンマイ収容孔21bに収容したリコイルゼンマイ31の上から覆うように取り付けられる。これにより、スタータケース11とリコイルゼンマイ31とを仕切るようにプレート33が配置されている。
【0039】
また、このプレート33は、
図9(c)に示すように、スタータケース11の円形リブ12cおよび放射状リブ12bによって、浮き上がらないように押さえ込まれている。すなわち、プレート33は、スタータケース11とリコイルゼンマイ31とで挟み込まれて保持されている。このため、プレート33はガタつきなく第1周壁部21cの内部に収容されている。
【0040】
上記した各部材は、
図9(a)に示すような状態で組み合わせられて使用される。このとき、第1周壁部21cの端縁21eと第2周壁部12fの端縁12gとは、
図9(c)に示すように、径方向(
図9(c)の左右方向)に見て互いに重なり合うように配置されている。よって、互いに重なり合う第1周壁部21cと第2周壁部12fとによってラビリンスシールが形成されている。このため、リコイルゼンマイ31の収容部に異物が侵入しにくい構造となっている。また、このようなラビリンスシールを、ロープリール20およびスタータケース11だけで構成しているため、別部材を使用する必要がなく、始動装置10の厚みが増すこともない。よって、リコイルゼンマイ31の変形や破損を防止するための構造を省スペースで実現することができる。
【0041】
また、本実施形態においては、第1周壁部21cの先端が対向部12eに臨む、あるいは当接することで、第1周壁部21cの先端側の隙間が最小限となっている。このため、更にリコイルゼンマイ31の収容部に異物が侵入しにくい構造となっている。
【0042】
なお、ロープリール20およびスタータケース11だけで構成したシール構造は簡易であるため、部品の成形誤差や組み付け誤差等により隙間が生じた場合、シールの内部に異物が侵入するおそれがある。特に、本実施形態のように機械の小型化を達成するために、本体カバー40を始動装置10に近接して取り付けることで、始動装置10を横切る方向に冷却風の流れが発生した場合(
図3(b)の矢印P2参照)、中央のリコイルゼンマイ31の収容部に異物が流れ込む可能性がある。しかしながら、スタータケース11とリコイルゼンマイ31とを仕切るようにプレート33が配置されているため、シールの内部(
図9(c)の圧力平衡室Sを参照)に異物が侵入したとしても、異物がリコイルゼンマイ31まで到達しないようになっている。むしろ、シール構造が簡易であるため、侵入した異物がプレート33の表面を流れて外部に排出されやすい構造となっており、リコイルゼンマイ31が異物の影響を受けないように構成されている。
【0043】
また、本実施形態においては、スタータケース11をエンジンに取り付けて使用したときに、エンジンを冷却するための冷却風が、ケース開孔部14およびリール開孔部23を通過して、第1周壁部21cおよび第2周壁部12fの外周面に沿って流れるように構成されている。このとき、冷却風は、第1周壁部21cよりも外周側に設けられた第2周壁部12fの延設方向(
図9(a)の下方向)に流れるように構成されている(
図3(a)参照)。このため、第1周壁部21cと第2周壁部12fとの間の隙間G(
図9(c)参照)が、冷却風の流れとは異なる方向に開口しており、冷却風の流れに向かって開口しないので、隙間Gから異物が侵入しにくい構造となっている。
【0044】
なお、本実施形態においては、冷却風が第2周壁部12fの延設方向に流れるように構成したが、これに限らず、冷却風は、第1周壁部21cおよび第2周壁部12fのうちで外周側に設けられた方の延設方向に流れるように構成されていればよい。すなわち、第2周壁部12fよりも外周側に第1周壁部21cを設けた場合は、冷却風が第1周壁部21cの延設方向に流れるように構成してもよい。
【0045】
また、本実施形態においては、
図9(c)に示すように、第1周壁部21cの内側に、環状(ドーナツ状)の圧力平衡室Sを形成している。この圧力平衡室Sは、スタータケース11の周溝部12dとプレート33との間に形成された空間である。この圧力平衡室Sを形成することで、周方向の圧力差を低減することができ、
図3(b)の矢印P2が示すような空気の流れを減少させることができる。これにより、リコイルゼンマイ31の収容部を横断するような空気の流れが減り、異物の侵入を低減することができる。また、シールの内部に異物が侵入したとしても、この圧力平衡室Sの内部で異物を移動させることで、リコイルゼンマイ31の収容部に異物が流れることを防止できる。
【符号の説明】
【0046】
10 始動装置
11 スタータケース
12 ケース円盤部
12a リール支軸
12b 放射状リブ
12c 円形リブ
12d 周溝部
12e 対向部
12f 第2周壁部
12g 端縁
13 ケースブリッジ部
14 ケース開孔部
15 外周壁
15a ロープ引き出し口
20 ロープリール
21 リール円盤部
21a ラチェット揺動軸
21b ゼンマイ収容孔
21c 第1周壁部
21d 軸孔
21e 端縁
22 リールブリッジ部
23 リール開孔部
24 ロープ保持部
24a 保持溝
30 ロープ
30a グリップ
31 リコイルゼンマイ
32 ラチェット部材
33 プレート
33a 貫通孔
40 本体カバー
41 エンジン部
42 回転部材
42a 係合部
43 エンジンクランク軸
44 冷却ファン
S 圧力平衡室
G 隙間