(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】受注予測モデル作成方法、受注予測モデル作成装置、受注予測方法および受注予測装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 30/0202 20230101AFI20240528BHJP
【FI】
G06Q30/0202
(21)【出願番号】P 2020159643
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】397069868
【氏名又は名称】アズワン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520371404
【氏名又は名称】浅井 倫明
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 智宏
(72)【発明者】
【氏名】浅井 倫明
【審査官】永野 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-102133(JP,A)
【文献】特開2020-087023(JP,A)
【文献】再公表特許第2019/053821(JP,A1)
【文献】特開2007-293624(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109284866(CN,A)
【文献】劉 妍,管轄エリア内のコンビニエンスストアにおける新商品の需要予測に関する研究,日本情報経営学会誌 Vol.29 No.1,日本,日本情報経営学会 ,2008年09月20日,第29巻,p.63-73
【文献】関 和広,金融情報学:ファイナンスにおける人工知能応用,人工知能 第32巻 第6号,日本,(一社)人工知能学会 ,2017年11月07日,第32巻,p.905-910
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって、商品の将来の受注状況を予測するための受注予測モデルを作成する受注予測モデル作成方法であって、
過去の所定期間における前記商品の受注状況を示す受注データを取得する取得ステップと、
前記受注データを棒グラフの画像に変換する変換ステップと、
前記
画像に前記所定期間後の前記商品の受注状況をラベリングして、学習用データセットを作成する作成ステップと、
前記学習用データセットに基づいて機械学習を行い、前記受注予測モデルを作成する学習ステップと、
を有する受注予測モデル作成方法。
【請求項2】
前記受注予測モデルはCNNモデルである、請求項
1に記載の受注予測モデル作成方法。
【請求項3】
コンピュータによって、対象商品の将来の受注状況を予測する受注予測方法であって、
請求項1
または2に記載の受注予測モデル作成方法によって作成された受注予測モデルを用いて、前記対象商品の将来の受注状況を予測する受注予測方法。
【請求項4】
商品の将来の受注状況を予測するための受注予測モデルを作成する受注予測モデル作成装置であって、
過去の所定期間における前記商品の受注状況を示す受注データを取得する取得部と、
前記受注データを棒グラフの画像に変換する変換部と、
前記
画像に前記所定期間後の前記商品の受注状況をラベリングして、学習用データセットを作成する作成部と、
前記学習用データセットに基づいて機械学習を行い、前記受注予測モデルを作成する学習部と、
を有する受注予測モデル作成装置。
【請求項5】
対象商品の将来の受注状況を予測する受注予測装置であって、
請求項4に記載の受注予測モデル作成装置によって作成された受注予測モデルを用いて、前記対象商品の将来の受注状況を予測する受注予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商品の将来の受注状況を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
卸売業者や小売業者は、商品の注文に対し迅速に対応するため、受注状況をある程度予測しながら商品を仕入れている。しかし、予測に反して商品の注文が突然途絶えると、在庫がそのまま残ることになる。
【0003】
これに対し、特許文献1には、相関分析や回帰分析を利用することで、販促を実行する際の予算や販促を実行した際の商品又はサービスの受注件数又は売上の演算を可能とする販売促進計画支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のシステムでは、相互相関係数や感度係数などの因子を設定して事象の発生確率を求める必要がある。そのため、正確な受注予測を行うアルゴリズムを作成するためには、データ分析に関する専門的な知識を必要とするという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、商品の将来の受注状況を正確に予測するモデルを容易に作成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を含む。
項1.
商品の将来の受注状況を予測するための受注予測モデルを作成する受注予測モデル作成方法であって、
過去の所定期間における前記商品の受注状況を示す受注データを取得する取得ステップと、
前記受注データに前記所定期間後の前記商品の受注状況をラベリングして、学習用データセットを作成する作成ステップと、
前記学習用データセットに基づいて機械学習を行い、前記受注予測モデルを作成する学習ステップと、
を有する受注予測モデル作成方法。
項2.
前記取得ステップと前記作成ステップとの間に、前記受注データを棒グラフの画像に変換する変換ステップをさらに備え、
前記作成ステップでは、前記受注データの代わりに前記画像に前記受注状況をラベリングする、項1に記載の受注予測モデル作成方法。
項3.
前記受注予測モデルはCNNモデルである、項1または2に記載の受注予測モデル作成方法。
項4.
対象商品の将来の受注状況を予測する受注予測方法であって、
項1~3のいずれかに記載の受注予測モデル作成方法によって作成された受注予測モデルを用いて、前記対象商品の将来の受注状況を予測する受注予測方法。
項5.
商品の将来の受注状況を予測するための受注予測モデルを作成する受注予測モデル作成装置であって、
過去の所定期間における前記商品の受注状況を示す受注データを取得する取得部と、
前記受注データに前記所定期間後の前記商品の受注状況をラベリングして、学習用データセットを作成する作成部と、
前記学習用データセットに基づいて機械学習を行い、前記受注予測モデルを作成する学習部と、
を有する受注予測モデル作成装置。
項6.
対象商品の将来の受注状況を予測する受注予測装置であって、
項5に記載の受注予測モデル作成装置によって作成された受注予測モデルを用いて、前記対象商品の将来の受注状況を予測する受注予測装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、商品の将来の受注状況を正確に予測するモデルを容易に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る受注予測モデル作成装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本明の一実施形態に係る受注予測モデル作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】(a)は、リピート商品の受注量(個数)の一例であり、(b)は、失注商品の受注量(個数)の一例である。
【
図4】(a)は、リピート商品の受注データの棒グラフ画像の一例であり、(b)は、失注商品の受注データの棒グラフ画像の一例である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る受注予測装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
(システム構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る受注予測モデル作成装置1の概略構成を示すブロック図である。受注予測モデル作成装置1は、商品の将来の受注状況を予測するための受注予測モデルを作成する装置である。
【0012】
受注予測モデル作成装置1は、例えば汎用のコンピュータで構成することができる。受注予測モデル作成装置1は、ハードウェア構成として、CPUやGPUなどのプロセッサ(図示省略)、主記憶装置(メモリ、図示省略)および補助記憶装置10などを備えている。補助記憶装置10には、後述する各種プログラムや畳み込みニューラルネットワーク(CNN)モデルなどの各種データが記憶されている。
【0013】
また、受注予測モデル作成装置1は、機能ブロックとして、受注データ取得部11と、画像変換部12と、学習用データセット作成部13と、学習部14とを備えている。これらの機能ブロックの少なくともいずれかは、受注予測モデル作成装置1のプロセッサが、受注予測モデル作成プログラムをメモリに読み出して実行することによりソフトウェア的に実現することができる。すなわち、受注予測モデル作成プログラムは、受注予測モデル作成装置1の受注データ取得部11、画像変換部12、学習用データセット作成部13および学習部14としてコンピュータを機能させ、これにより、受注予測モデル作成装置1に、本実施形態に係る受注予測モデル作成方法を実行させる。
【0014】
受注予測モデル作成プログラムは、通信ネットワークを介して受注予測モデル作成装置1にダウンロードしてもよいし、受注予測モデル作成プログラムのプログラムコードを記録したCD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体を介して、受注予測モデル作成プログラムを受注予測モデル作成装置1に供給してもよい。
【0015】
(受注予測モデルの作成)
図2は、本実施形態に係る受注予測モデル作成方法の処理手順を示すフローチャートである。当該方法は、受注予測モデル作成装置1によって実行される。
【0016】
ステップS1(取得ステップ)では、受注データ取得部21が、過去の所定期間(本実施形態では1年間)における商品の受注状況を示す受注データを取得する。まず、受注予測モデル作成装置1または他の装置で作成された取扱商品の受注量の一覧を取得する。
図3に、受注量一覧の一例を示す。
【0017】
図3(a)は、注文が継続しているリピート商品の受注量(個数)を示しており、
図3(b)は、注文がなくなった失注商品の受注量(個数)を示している。失注商品の定義は特に限定されないが、例えば、受注量が所定期間(例えば3ヶ月)以上0または0に近い数量である状態が続いた商品を意味する。
【0018】
リピート商品の場合、受注データ取得部11は、任意の1年間(例えば2019年1月~12月)の受注量を切り出す。失注商品の場合、受注データ取得部11は、注文がなくなる直近の1年間の受注量を切り出す。
【0019】
続いて、
図2に示すステップS2(変換ステップ)では、画像変換部12が、受注データを棒グラフの画像に変換する。本実施形態では、画像変換部12は、各商品の1年間の受注量を棒グラフの画像に変換する。
図4(a)は、リピート商品の受注データの棒グラフ画像の一例であり、
図4(b)は、失注商品の受注データの棒グラフ画像の一例である。なお、最大値に対応する棒の長さが各グラフ間で等しくなるように補正することが好ましい。
【0020】
続いて、
図2に示すステップS3(作成ステップ)では、学習用データセット作成部13が、棒グラフの画像に、当該棒グラフに対応する所定期間後の商品の受注状況をラベリングして、学習用データセットDを作成する。具体的には、学習用データセット作成部13は、リピート商品の画像には、受注継続を示す値(例えば「1」)をラベリングし、失注商品の画像には、受注途絶を示す値(例えば「0」)をラベリングする。あるいは、学習用データセット作成部13は、各商品の画像に、上記所定期間後の受注量(例えば直後の3ヶ月の受注量)をラベリングしてもよい。
【0021】
学習用データセットDのデータ量が機械学習を適度に行えるほど十分ではない場合(ステップS4においてNO)、上記のステップS1~S3を繰り返す。学習用データセットDのデータ量が機械学習を適度に行えるほど十分である場合(ステップS4においてYES)、ステップS5(学習ステップ)に移行し、学習部14が、学習用データセットDに基づいて機械学習を行う。本実施形態では、学習部14は、補助記憶装置10に記憶されているCNNモデルを読み出して、学習用データセットDをCNNモデルに入力し、誤差逆伝播法で機械学習する。これにより、未知の商品の棒グラフの画像を入力すると、当該商品の将来の受注状況(受注が継続するか否か、または今後の所定期間の受注量等)を出力する学習済みの受注予測モデルMが作成される。
【0022】
なお、ステップS1~S3、S5は、受注予測モデル作成装置1のみで実行してもよいし、複数の装置で実行してもよい。
【0023】
(受注状況の予測)
図5は、本実施形態に係る受注予測装置2の概略構成を示すブロック図である。受注予測装置2は、対象商品の将来の受注状況を予測する装置であり、例えば汎用のコンピュータで構成することができる。受注予測装置2は、ハードウェア構成として、CPUやGPUなどのプロセッサ(図示省略)、主記憶装置(メモリ、図示省略)および補助記憶装置20などを備えている。補助記憶装置20には、上述の受注予測モデル作成方法によって作成された受注予測モデルMが記憶されている。
【0024】
また、受注予測装置2は、機能ブロックとして、受注データ取得部21と、画像変換部22と、予測部23とを備えている。これらの機能ブロックの少なくともいずれかは、受注予測装置2のプロセッサが、受注予測プログラムをメモリに読み出して実行することによりソフトウェア的に実現することができる。すなわち、受注予測プログラムは、受注予測装置2の受注データ取得部21、画像変換部22および予測部23としてコンピュータを機能させ、これにより、受注予測装置2に、本実施形態に係る受注予測方法を実行させる。
【0025】
受注予測プログラムは、通信ネットワークを介して受注予測装置2にダウンロードしてもよいし、受注予測プログラムのプログラムコードを記録したCD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体を介して、受注予測プログラムを受注予測装置2に供給してもよい。
【0026】
受注データ取得部21および画像変換部22は、
図1に示す受注予測モデル作成装置1の受注データ取得部11および画像変換部12とそれぞれ同様の機能を有している。受注データ取得部21は、対象商品の受注状況を示す受注データを取得すると、直近の1年間の受注量を切り出して、画像変換部22に入力する。画像変換部22は、対象商品の直近の1年間の受注量を棒グラフの画像に変換する。
【0027】
予測部23は、受注予測モデルMを用いて、対象商品の将来の受注状況を予測する。具体的には、予測部23は、補助記憶装置20から受注予測モデルMを読み出し、画像変換部22によって変換された棒グラフの画像を入力する。これにより、受注予測モデルMは、対象商品の将来の受注状況を示す値を出力し、予測部23は、当該値に基づいて対象商品の将来の受注状況を出力する。受注状況の例としては、受注が継続/失注するか、または今後の所定期間の受注量(の平均)などが挙げられる。予測結果は、例えば図示しない表示装置に表示される。
【0028】
(総括)
本実施形態では、商品の受注データを棒グラフの画像に変換し、当該画像を用いて機械学習を行うことにより、受注予測モデルを作成している。そのため、標準化処理等のデータ分析に関する専門的な知識を必要とすることなく、商品の将来の受注状況を正確に予測するモデルを容易に作成することができる。これにより、今後受注が途絶えると予測された商品については、宣伝を強化する等の対策を事前に講じることが可能となる。
【0029】
(付記事項)
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。例えば、機械学習に用いるモデルはCNNモデルに限定されない。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0031】
本実施例では、実際の継続商品1173件および失注商品609件の計1782件の商品について、12ヶ月間における受注量を棒グラフの画像に変換し、当該棒グラフの画像をCNNモデルに入力して機械学習を行うことにより、受注予測モデル(「棒グラフモデル」とする)を作成した。また、比較例として、同一の商品について、12ヶ月間における受注量を折れ線グラフの画像に変換し、当該折れ線グラフの画像をCNNモデルに入力して機械学習を行うことにより、受注予測モデル(「折れ線グラフモデル」とする)を作成した。
【0032】
そして、729個の商品について、棒グラフモデルおよび折れ線グラフモデルを用いて、将来の受注状況(継続または失注)を予測し、実際の受注状況と照らし合わせることにより、モデルの精度を算出した。
【0033】
【0034】
棒グラフモデルでは、継続商品の正答率は88.89%、失注商品の正答率は91.79%、合計正答率は89.71%であった。
【0035】
次に、折れ線グラフモデルの精度を表2に示す。
【表2】
【0036】
折れ線グラフモデルでは、継続商品の正答率は62.84%、失注商品の正答率は63.29%、合計正答率は62.96%であった。
【0037】
以上のように、棒グラフモデルのほうが、折れ線グラフモデルよりも格段に高い精度で商品の受注状況を予測できることが分かった。特に、失注商品の正答率は、棒グラフモデルと折れ線グラフモデルとで、28ポイント以上も差があった。その理由としては、棒グラフの方が画像の情報量が多いことが考えられるが、これほどまでに顕著な差が生じることは、当業者には予測し得ないことであった。
【符号の説明】
【0038】
1 受注予測モデル作成装置
10 補助記憶装置
11 受注データ取得部
12 画像変換部
13 学習用データセット作成部
14 学習部
2 受注予測装置
20 補助記憶装置
21 受注データ取得部
22 画像変換部
23 予測部
D 学習用データセット
M 受注予測モデル