(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】栄養価が改善した藻類オイル
(51)【国際特許分類】
C12P 7/6409 20220101AFI20240528BHJP
C12N 1/12 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
C12P7/6409
C12N1/12 A
(21)【出願番号】P 2021519825
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 IB2019059390
(87)【国際公開番号】W WO2020089845
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-28
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】ATCC PTA-6245
(73)【特許権者】
【識別番号】516175607
【氏名又は名称】マラ リニューアブルズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ミルウェイ, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】パデュー, ローラ
(72)【発明者】
【氏名】サン, ザカリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレンティン, マーシア
(72)【発明者】
【氏名】アルメンタ, ロベルト イー.
(72)【発明者】
【氏名】ロウリー, ジョシュア
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-520636(JP,A)
【文献】特開平06-253872(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0356018(US,A1)
【文献】特表2013-507454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00
C12N 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オメガ7脂肪酸の含量が増加したオイルの生産方法であって、前記方法が、亜鉛含量が0.104~0.3mg/Lの発酵培地においてオイル生産微生物を培養することを含み、前記培養によって、脂肪酸を含むオイルが生産され、前記オイルがDHAを含み、前記オイル生産微生物がスラウストキトリッド株である、方法。
【請求項2】
前記脂肪酸が飽和脂肪酸を含み、前記飽和脂肪酸が、C16:0(パルミチン酸)及びC14:0(ミリスチン酸)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オイルが、10~30%のオメガ7脂肪酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記オメガ7脂肪酸が、パルミトレイン酸(C16:1(n-7))、バクセン酸(C18:1(n-7))、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記オイルが、5~15%のバクセン酸(C18:1(n-7))を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記オイルが、5~15%のパルミトレイン酸(C16:1(n-7))を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記微生物から前記オイルを抽出することをさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記培地が、0.104~0.15mg/Lの亜鉛を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記培地が、0.104~0.2mg/Lの亜鉛を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記培地が、0.104~0.270mg/Lの亜鉛を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記オイルが、20%未満のパルミチン酸(C16:0)を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
炭素消費速度が、1~4g/L/時間に制御される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
オメガ7脂肪酸の含量が増加したオイルの生産方法であって、前記方法が、亜鉛含量が0.104~0.3mg/Lの発酵培地においてオイル生産微生物を培養することを含み、前記培養によって、脂肪酸を含むオイルが生産され、前記脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合が35%以下であり、前記オイルが、5~15%のバクセン酸(C18:1(n-7))を含み、前記オイル生産微生物がスラウストキトリッド株である、方法。
【請求項14】
前記オイル中の前記脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合が30%未満である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記オイル中の前記脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合が25%未満である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記飽和脂肪酸が、C16:0(パルミチン酸)及びC14:0(ミリスチン酸)を含む、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記オイルが、10~30%のオメガ7脂肪酸を含む、請求項13~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記オメガ7脂肪酸が、パルミトレイン酸(C16:1(n-7))を含む、請求項13~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記オイルが、5~15%のパルミトレイン酸(C16:1(n-7))を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記微生物から前記オイルを抽出することをさらに含む、請求項13~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記培地が、0.104~0.15mg/Lの亜鉛を含む、請求項13~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記培地が、0.104~0.2mg/Lの亜鉛を含む、請求項13~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記培地が、0.104~0.270mg/Lの亜鉛を含む、請求項13~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記オイルが、20%未満のパルミチン酸(C16:0)を含む、請求項13~23のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月2日出願の米国仮出願第62/754,896号の優先権を主張し、当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
オメガ7脂肪酸(主に、パルミトレイン酸(C16:1 n-7)及びバクセン酸(C18:1 n-7))は、一価不飽和脂肪酸(MUFA)と呼ばれる群に属する。近年、パルミトレイン酸(C16:1 n-7)及びバクセン酸(C18:1 n-7)が健康効果を有する可能性があることが、オメガ7脂肪酸の栄養価に関する研究によって示されている(Field et al.2009 Appl.Physiol.Nutr.Metab.34:979-91、Yang et al.2011 Lipids in Health and Disease 10:120、Bernstein et al.2014 Journal of Clinical Lipidology 8:612-17、Souza et al.2018 Mol.Nutr.Food Res.61:1700504)。現在のところ、オメガ7脂肪酸の含量が高い製品は、典型的には、植物源(シーバックソーン(Hippophae rhamnoids)及びマカダミアナッツオイル(Macadamia integrifolia)など)ならびに動物源(ミンクオイルなど)から得られる(Yang et al.2001 J.Agric.Food Chem.49:1939-47、Souza et al.2018 Mol.Nutr.Food Res.61:1700504)。しかしながら、こうした供給源からの供給は限られているため、オメガ7脂肪酸は、栄養補助食品及び化粧品のための高級成分としてのみ使用されている。
【0003】
[発明の概要]
本明細書では、微生物オイルの栄養価及び物理的特性を改善する発酵方法が提供される。具体的には、オメガ7脂肪酸の含量が増加したオイルの生産方法が提供される。この方法は、亜鉛含量が0.3mg/L未満の発酵培地においてオイル生産微生物を培養することを含み、この培養によって、脂肪酸を含むオイルが生産され、オイルのオメガ7脂肪酸の含量は、対照オイルと比較して増加する。任意選択で、オイルは、培養物の微生物から単離される。任意選択で、オイルの脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合は35%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】流加発酵の間に微量元素の添加あり(白丸)及び添加なし(黒丸)でスラウストキトリッド(thraustochytrid)を培養することによって生産された一価不飽和脂肪酸の濃度を示すグラフである。
【
図2】微量元素の添加あり及び添加なしでスラウストキトリッドを培養することによって生産された総脂質の最終的な脂肪酸プロファイルを示すグラフである。対照培養のプロファイルは、大まかには、飽和脂肪酸(C14:0、C16:0)、一価不飽和脂肪酸(C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸)ならびに多価不飽和脂肪酸(C20:5(n-3)エイコサペンタエン酸(EPA)、C22:5(n-6)ドコサペンタエン酸(DPA)、及びC22:6(n-3)DHA)から構成されていた。微量元素(銅、モリブデン酸、及び亜鉛)を培養培地に添加しない場合、オイルプロファイルを構成する一価不飽和脂肪酸の割合が高まる。
【
図3】微量元素の添加あり及び添加なしで増殖を行った培養物中の一価不飽和脂肪酸の生産濃度(g/L)を示すグラフである。当該生物の脂質プロファイルにおける一価不飽和脂肪酸の主要メンバーは、C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸である。
【
図4】培養培地への個々の微量元素の添加あり及び添加なしでスラウストキトリッドを培養することによって生産された総脂質の最終的な脂肪酸プロファイルを示すグラフである。対照の脂質プロファイルは、大まかには、飽和脂肪酸(C14:0、C16:0)、一価不飽和脂肪酸(C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸)、ならびに多価不飽和脂肪酸(C20:5(n-3)EPA、C22:5(n-6)DPA、及びC22:6(n-3)DHA)から構成されていた。亜鉛を培養培地に添加しない場合、総脂質プロファイルを構成する一価不飽和脂肪酸の割合が高まる。銅及びモリブデン酸を添加しないようにしても、微量元素を完全に補充して得られた培養物と比較して脂質プロファイルの変化は生じない。
【
図5】微量元素(TE)(銅(Cu)、亜鉛(Zn)、及びモリブデン酸(Mb))の添加あり及び添加なしで増殖を行った培養物中の一価不飽和脂肪酸の生産濃度(g/L)を示すグラフである。当該生物の脂質プロファイルにおける一価不飽和脂肪酸の主要メンバーは、C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸である。
【
図6】培養培地への微量元素(亜鉛)の添加濃度を変えてスラウストキトリッドを培養することによって生産された総脂質の最終的な脂肪酸プロファイルを示すグラフである。亜鉛元素の初期濃度が、それぞれ約0.78mg/L、約0.65mg/L、約0.44mg/L、約0.29mg/L、約0.27mg/L、約0.2mg/L、及び約0.10mg/Lとなるように硫酸亜鉛七水和物の形態で亜鉛を培地に添加した。対照オイルの脂質プロファイルは、大まかには、飽和脂肪酸(C14:0、C16:0)、一価不飽和脂肪酸(C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸)、ならびに多価不飽和脂肪酸(C20:5(n-3)EPA、C22:5(n-6)DPA、及びC22:6(n-3)DHA)から構成されていた。培養培地への亜鉛の添加量を減らすと、総脂質プロファイルを構成する一価不飽和脂肪酸の割合が高まる。
【
図7】硫酸亜鉛七水和物の形態で亜鉛元素を異なる濃度で用いて増殖を行った培養物中の一価不飽和脂肪酸の生産濃度(g/L)を示すグラフである。当該生物の脂質プロファイルにおける一価不飽和脂肪酸の主要メンバーは、C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸である。
【
図8】亜鉛元素を0.65mg/L、0.29mg/L、0.2mg/L、及び0.104mg/Lの濃度で用いて増殖を行った培養物中の一価不飽和脂肪酸の生産濃度(g/L)を示すグラフである。消費炭素(%)に対してMUFA生産をプロットしたものである。この生物の脂質中の一価不飽和脂肪酸の主要メンバーは、C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
光合成藻類(Nannochloropsis(米国公開公報第2013/0129775号)など)を使用してオメガ7脂肪酸を生産する試みは、2つの理由で課題があるものとなっている。第1に、光合成藻類は生産性が低く、それ故に、従属栄養プロセスの選択肢として商業的に実行不可能であるということである。第2に、Nannochloropsisのような光合成藻類から得られる藻類オイルは、ごく少量しかDHA(幼児の脳及び網膜の発達、ならびに加齢成人の認知機能に特有の効果を有する)を含まないということ(Swanson et al.,2012 Adv.Nutr.3:107)である。従属栄養性海洋微細藻類によって生産される藻類オイル(米国特許第7,381,558号)は、長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)(DHA、EPA、及びDPAなど)を主に含み、こうした藻類オイルのオメガ7脂肪酸含有量は最小限にとどまる。藻類の遺伝子改変を行うことなく、所望の栄養特性及び物理的特性が増進するように藻類オイルの脂肪酸プロファイルをカスタマイズすることは難易度の高いことであるが、本出願は、遺伝子改変を行うことなく、オメガ3脂肪酸及びオメガ7脂肪酸の両方を含む藻類オイルを提供する。
【0006】
本明細書に記載の発酵プロセスを使用すると、微生物は、異なる条件の下に置かれた同じ微生物と比較して栄養学的な健康効果が顕著に向上したオイルを生産する。こうした改善によって、市場にある典型的な藻類オイルに勝る競争上の優位性が得られる。本明細書で提供される微生物発酵プロセスからは、オメガ3脂肪酸(例えば、C22:6(n-3)DHA)、オメガ6脂肪酸(例えば、C22:5(n-6)DPA)、ならびにオメガ7脂肪酸(例えば、C16:1(n-7)パルミトレイン酸及びC18:1(n-7)バクセン酸)の含量が高いオイルが得られる。こうしたオイルは、飽和脂肪酸(例えば、C16:0パルミチン酸及びC14:0ミリスチン酸)の含量が低くもある。そのような脂肪酸プロファイルは、DHAまたはオメガ3の含量が高い栄養オイルと調和するものであると共に、オメガ7脂肪酸の含量が低いオイルと比較して栄養組成及び栄養価が改善したものである。提供される方法は、培養培地中の亜鉛濃度を変更することを含む。提供される方法では、有利なことに、追加の設備、成分、またはプロセス制御は不要である。
【0007】
培養培地中の亜鉛のレベルを制御することを含めて、本明細書に記載のプロセス条件を適用することによって、他の発酵方法によって生産されるオイルと比較して多価不飽和脂肪酸(PUFA)及び一価不飽和脂肪酸(MUFA)の量が顕著に増加し、飽和脂肪酸(SFA)が減少したオイルが微生物によって生産される。培養培地中の亜鉛含量は、0.3ng/ml未満に減らされる。亜鉛含量は、培養培地に添加される亜鉛の量と、発酵に使用される水中に存在する亜鉛の残留量と、を含む。オイルの栄養価は改善されており、この改善は、総脂肪酸中のPUFA(DHA及びDPA)ならびにMUFA(オメガ7脂肪酸)の量が対照オイルと比較して増加することによるものである。
【0008】
低温流動特性があれば、抽出されたオイルの取り扱い及び加工が容易になる。最初のオイル内容物は、例えば、オメガ3脂肪酸(例えば、C22:6(n-3)DHA)ならびに飽和脂肪酸(例えば、C16:0パルミチン酸及びC14:0ミリスチン酸)を高い割合で含み得る。提供される方法は、オイルの流動性を得るために、オメガ6脂肪酸(例えば、C22:5(n-6)DPA)ならびにオメガ7脂肪酸(例えば、C16:1(n-7)パルミトレイン酸及びC18:1(n-7)バクセン酸)を含む一価不飽和脂肪酸へと飽和脂肪酸を変換するように細胞を促すものである。培養培地中の亜鉛濃度は、飽和脂肪酸を一価不飽和にする代謝経路を誘導する。本発明の方法によって生産されるオイルは、融点、曇点、及び流動点が改善されている。例えば、本明細書に記載のように、提供される方法によって生産されるオイルは、流動点が-9℃にまで低下しており、この流動点は、これまでの発酵プロセス条件によって生産される典型的な脂質の流動点範囲(18℃~21℃の間で変動する)と比較してはるかに低い。任意選択で、オイルは室温で流動する。亜鉛濃度を変化させると、オイルの脂肪酸組成に変化が生じ、オイルの融点、曇点、及び流動点が低下した。結果として、オイルは、顕著に向上した低温流動特性を示し、例えば、オイルは、室温で流動性を有する。
【0009】
本明細書で使用される融点という用語は、オイルが完全に透明になる温度を指す。本明細書で使用される曇点という用語は、オイルが結晶化し始めるオイル温度を指す。本明細書で使用される流動点は、規定の試験条件の下で試験検体(例えば、オイル)の移動が観察される最低温度の指標である。こうした温度は、米国油化学会(American Oil Chemistry Society)(AOCS)及び米国材料試験協会(American Society of Testing and Materials)(ASTM)によって確立されたものを含めて、既知の方法によって決定することができ、こうした機関は、流体(脂質及びオイルなど)の融点、曇点、及び流動点を決定するための規格を確立している。例えば、融点は、AOCS Official Method Cc 1-25を使用して決定することができ、曇点は、AOCS Official Method Cc 6-25を使用して決定することができ、流動点は、ASTM Official Method D97を使用して決定することができる。
【0010】
オメガ7脂肪酸の含量が増加したオイルの生産方法が提供される。この方法は、亜鉛含量が0.3mg/L未満の発酵培地においてオイル生産微生物を培養することを含む。培養によって、脂肪酸を含むオイルが生産され、オイルのオメガ7脂肪酸の含量は、対照オイルと比較して増加する。任意選択で、オイルは、DHAを含む。任意選択で、脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合は35%以下である。任意選択で、オイル中の脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合は30%未満である。任意選択で、オイル中の脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合は25%未満である。
【0011】
微量元素は、非常に低いレベルで通常は供給されるが、微生物の増殖に重要な必要物であると一般に考えられる成分である。微量元素には、限定されないが、鉄、銅、亜鉛、及びモリブデン酸が含まれる。例えば、スラウストキトリッドを最適に増殖させるためには、鉄及び亜鉛が特に重要であることが決定され、亜鉛濃度は0.61mg/Lが最適であると考えられた(Nagano et al.,2013 Journal of Bioscience and Bioengineering 116(3):337-39)。さらに、DHA高含有藻類脂質を生産するためのSchizochytrium株を培養するための培地では、0.61~0.75mg/Lの範囲の亜鉛濃度が使用された(EP公開公報第2960325号の例えば、10ページの17~18行目)。対照的に、本明細書に記載のように、亜鉛は、培養増殖に必須のものではなく、亜鉛レベルを変化させると、オイルのプロファイル及び特性が変化する。したがって、提供される方法は、亜鉛含量が0.3mg/L未満の発酵培地中でオイル生産微生物を培養することを含む。任意選択で、発酵培地は、0.3mg/L未満、0.29mg/L未満、0.28mg/L未満、0.27mg/L未満、0.26mg/L未満、0.25mg/L未満、0.24mg/L未満、0.23mg/L未満、0.22mg/L未満、0.21mg/L未満、0.20mg/L未満、0.19mg/L未満、0.18mg/L未満、0.17mg/L未満、0.16mg/L未満、0.15mg/L未満、0.14mg/L未満、0.13mg/L未満、0.12mg/L未満、0.11mg/L未満、0.10mg/L未満、0.09mg/L未満、0.08mg/L未満、0.07mg/L未満、0.06mg/L未満、0.05mg/L未満、0.04mg/L未満、0.03mg/L未満、0.02mg/L未満、または0.01mg/L未満の亜鉛を含む。任意選択で、培養中に使用される発酵培地に添加される微量元素に亜鉛を含めることは行われない。しかしながら、亜鉛は、培地中の水に低レベル(例えば、約0.1mg/L)で存在し得る。したがって、提供される方法は、亜鉛が存在しない条件または亜鉛が実質的に存在しない条件の下でオイル生産微生物を培養することを含む。本明細書で使用される亜鉛が存在しない条件とは、培養培地に添加される微量元素にも、培地中の水にも亜鉛が存在しないことを意味する。本明細書で使用される亜鉛が実質的に存在しない条件とは、培養培地に添加される微量元素には亜鉛は存在しないが、培地中の水には残留量の亜鉛(例えば、約0.1mg/L濃度の亜鉛)が存在し得ることを意味する。任意選択で、培養培地に添加される微量元素に存在する亜鉛の量は、対照培地(例えば、典型的な培養培地)中の亜鉛の量と比較して少ない。通常、微量元素が含む硫酸亜鉛七水和物(または他の塩形態)は3mg/L(実際の亜鉛としては0.682mg/L)である。提供される方法は、約0.68mg/L未満となるように培養培地に亜鉛を添加することを含む。任意選択で、提供される方法は、約0.68mg/L未満、約0.65mg/L未満、約0.6mg/L未満、約0.55mg/L未満、約0.5mg/L未満、約0.45mg/L未満、約0.4mg/L未満、約0.35mg/L未満、約0.3mg/L未満、約0.25mg/L未満、約0.2mg/L未満、約0.15mg/L未満、約0.1mg/L未満、約0.05mg/L未満、または約0mg/Lとなるように培養培地に亜鉛を添加することを含む。任意選択で、提供される方法は、水中に存在する残留亜鉛を含めた亜鉛含量が0.3mg/L未満の発酵培地中でオイル生産微生物を培養することを含む。任意選択で、培地は、0~0.1mg/Lの亜鉛を含む。任意選択で、培地は、0~0.15mg/Lの亜鉛を含む。任意選択で、培地は、0~0.2mg/Lの亜鉛を含む。任意選択で、培地は、0~0.3mg/Lの亜鉛を含む。
【0012】
提供される方法によって生産されるオイルは、低温流動特性が改善されており、例えば、融点温度、曇点温度、及び流動点温度が改善されている。したがって、提供される方法によって調製されるオイルは、20~33℃の融点または20~33℃の間(両端値を含む)の任意の温度の融点を有し得る。したがって、オイルは、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、もしくは33℃の融点温度、またはそれらの間に介在する任意の非整数の融点温度を有し得る。任意選択で、提供される方法によって調製されるオイルは、5~20℃の曇点または5~20℃の間(両端値を含む)の任意の温度の曇点を有する。したがって、オイルは、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、もしくは20℃の曇点温度、またはそれらの間に介在する任意の非整数の曇点温度を有し得る。任意選択で、提供される方法によって調製されるオイルは、-10~15oCの流動点または-10~15℃の間(両端値を含む)の任意の温度の流動点を有する。したがって、オイルは、-10℃、-9℃、-8℃、-7℃、-6℃、-5℃、-4℃、-3℃、-2℃、-1℃、0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、もしくは15℃の流動点温度、またはそれらの間に介在する任意の非整数温度の流動点温度を有し得る。任意選択で、脂質は、19~22℃の温度(すなわち、室温)または19~22℃の間の任意の温度で流動性を有する。
【0013】
本明細書に記載のように、発酵培地中でオイル生産微生物を培養すると、脂肪酸を有するオイルが生産され、オイル中の脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合は35%未満である。任意選択で、オイル中の脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合は、約20%未満、約25%未満、または約30%未満である。例えば、オイル中の脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合は、15%未満、16%未満、17%未満、18%未満、19%未満、20%未満、21%未満、22%未満、23%未満、24%未満、25%未満、26%未満、27%未満、28%未満、29%未満、30%未満、31%未満、32%未満、33%未満、34%未満、または35%未満である。任意選択で、飽和脂肪酸は、C16:0(パルミチン酸)及びC14:0(ミリスチン酸)を含む。飽和脂肪酸のパーセントは、本明細書全体を通じて、オイル中の総脂肪酸に占めるパーセントとして表される。任意選択で、オイル中の脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合は30%~35%であり、オイルは、9~15℃の間の温度で流動性を有する。任意選択で、オイル中の脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合は25%~30%であり、オイルは、-9℃~9℃の間の温度で流動性を有する。任意選択で、オイル中の脂肪酸に占める飽和脂肪酸の割合は25%未満であり、オイルは、0℃~4℃の間の温度で流動性を有する。
【0014】
提供される方法からは、オメガ7脂肪酸を有するオイルが得られる。本明細書で提供されるオイルが含むオメガ7脂肪酸のパーセントは、これまでの発酵方法によって生産される対照オイルと比較して高い。高まる、増加する、上昇する、または上昇のような用語は、対照を上回る増加を指す。例えば、オメガ7脂肪酸の対照レベルは、培養培地中に通常の量の亜鉛が存在する場合の培養条件(例えば、微量元素に含めた亜鉛が約0.69mg/Lとなるように培養培地に添加されるもの)の下で得られるレベルである。対照オイルは、他の発酵方法を使用して微生物によって生産されるオイルであり、そのような対照オイルは、典型的には、5%未満のオメガ7脂肪酸を含む。本明細書に記載のように発酵培地中でオイル生産微生物を培養すると、10~30%のオメガ7脂肪酸を含むオイルが生産される。したがって、提供される方法によって生産されるオイル中の総脂肪酸に占めるオメガ7脂肪酸の割合は、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、もしくは30%、またはそれを超える%であり得る。オイル中のオメガ7脂肪酸は、例えば、パルミトレイン酸(C16:1(n-7))、シス-バクセン酸(C18:1(n-7))、またはそれらの組み合わせを含む。任意選択で、オイルは、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、または14~15%のバクセン酸(C18:1(n-7))を含む。任意選択で、オイルは、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、または14~15%のパルミトレイン酸(C16:1(n-7))を含む。
【0015】
提供される方法によって生産されるオイルは、アルファリノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、ガンマ-リノレン酸、リノール酸、リノレン酸、またはそれらの組み合わせも含み得る。任意選択で、オイルは、パルミチン酸(C16:0)、ミリスチン酸(C14:0)、パルミトレイン酸(C16:1(n-7))、バクセン酸(C18:1(n-7))、ドコサペンタエン酸(C22:5(n-6))、ドコサヘキサエン酸(C22:6(n-3))、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される脂肪酸を含む。任意選択で、オイルは、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも26%、少なくとも27%、少なくとも28%、少なくとも29%、少なくとも30%、少なくとも31%、少なくとも32%、少なくとも33%、少なくとも34%、少なくとも35%、少なくとも36%、少なくとも37%、少なくとも38%、少なくとも39%、少なくとも40%、少なくとも41%、少なくとも42%、少なくとも43%、少なくとも44%、少なくとも45%、少なくとも46%、少なくとも47%、少なくとも48%、少なくとも49%、または少なくとも50%のDHAを含む。任意選択で、オイルは、少なくとも35%のDHAを含む。例えば、オイルは、約35~45%のDHAを含み得る。
【0016】
提供される方法を使用して生産されるオイルは、オイルを生産する藻類、真菌、細菌、及び原生生物を含めて、さまざまな微生物から得られるものであり得る。微生物は、任意選択で、Oblongichytrium属のもの、Aurantiochytrium属のもの、Thraustochytrium属のもの、Schizochytrium属のもの、及びUlkenia属のもの、またはそれらの任意の混合物から選択される。任意選択で、微生物は、Thraustochytriales目のスラウストキトリッドであり、より具体的には、Thraustochytrium属のThraustochytrialesである。微生物の例としては、米国特許第5,340,594号及び同第5,340,742号に記載のThraustochytrialesが挙げられ、これらの文献は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。任意選択で、微生物は、Thraustochytriaceae科のものである。微生物は、Thraustochytrium種であり得、こうしたThraustochytrium種は、ATCC受入番号PTA-6245として預託されているThraustochytrium種(すなわち、ONC-T18)(米国特許第8,163,515号(当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)に記載のもの)などである。微生物は、ONC-T18であり得る。
【0017】
微細藻類は、多様な生物群を表すものであることが当該分野で認知されている。微細藻類は、真核生物の性質または原核生物の性質を有するものであり得る。微細藻類は、非運動性または運動性であり得る。本明細書で使用されるスラウストキトリッドという用語は、Thraustochytriales目(Thraustochytriaceae科を含む)の任意のメンバーを指す。スラウストキトリッドとして説明される株には、下記の生物が含まれる。目:Thraustochytriales;科:Thraustochytriaceae;属:Thraustochytrium(種:sp.、arudimentale、aureum、benthicola、globosum、kinnei、motivum、multirudimentale、pachydermum、proliferum、roseum、striatum)、Ulkenia(種:sp.、amoeboidea、kerguelensis、minuta、profunda、radiata、sailens、sarkariana、schizochytrops、visurgensis、yorkensis)、Schizochytrium(種:sp.、aggregatum、limnaceum、mangrovei、minutum、octosporuni)、Japoniochytrium(種:sp.、marinum)、Aplanochytrium(種:sp.、haliotidis、kerguelensis、profunda、stocchinoi)、Althornia(種:sp.、crouchii)、またはElina(種:sp.、marisalba、sinorifica)。Ulkeniaに含まれると説明される種は、Thraustochytrium属のメンバーであるとみなされる。Thraustochytrium属に含まれると説明される株は、Schizochytrium属と共通の形質を共有し得、Schizochytrium属に含まれるとも説明され得る。例えば、いくつかの分類学的分類では、ONC-T18は、Thraustochytrium属に含まれると考えられる可能性がある一方で、他の分類ではSchizochytrium属に含まれると説明される可能性があり、この理由は、これら両方の属の指標となる形質をONC-T18が含むことによるものである。
【0018】
記載のように、本明細書で提供される微生物は、目的化合物(例えば、脂肪酸)が生産される条件の下で培養されるか、または目的化合物が所望のレベル(例えば、飽和脂肪酸が35%以下)で生産される条件の下で培養される。培養は、1日~数日間実施され得る。任意選択で、方法は、微生物からオイルを抽出することをさらに含む。提供される方法は、当該技術分野で知られる方法に従って微生物を培養するための追加ステップ、そこからオイルを得るための追加ステップ、またはさらにオイルを精製するための追加ステップを含むか、または当該追加ステップと併用され得る。例えば、スラウストキトリッド(例えば、Thraustochytrium)は、米国特許公開公報2009/0117194、同2012/0244584、または同2015/0176042(これらの文献は、それらの全体が、そこに含まれる方法の各ステップまたはそこに含まれる各組成物を対象として参照によって本明細書に組み込まれる)に記載の方法に従って培養及び抽出され得る。
【0019】
任意選択で、方法は、炭素消費速度の制御下で、発酵培地中でオイル生産微生物を培養することを含む。任意選択で、炭素消費速度は、1.0~4.5g/L/時間の間に制御されか、または1.0~4.5g/L/時間に含まれる任意の範囲(例えば、1.0~2.0g/L/時間、1.0~3.0g/L/時間、もしくは1.0~4.0g/L/時間)に制御される。任意選択で、炭素消費速度は、炭素0.01~0.15g/バイオマスg/時間の間に制御される。炭素消費速度は、さまざまな方法によって制御され得る。任意選択で、炭素消費速度は、エアレーション、撹拌、容器背圧、またはそれらの組み合わせによって制御される。任意選択で、炭素消費速度は、培養を通じて(1つ以上の)炭素源(複数可)を連続的に添加することによって制御される。
【0020】
微生物からオイルを単離するため、増殖培地(培養培地としても知られる)において微生物の増殖が行われる。本明細書に記載の微生物の培養における使用には、さまざまな培地のいずれも適する。任意選択で、培地は、炭素源及び窒素源を含めて、微生物に対してさまざまな栄養成分を供給する。スラウストキトリッド培養のための培地は、さまざまな炭素源のいずれも含み得る。炭素源の例としては、脂肪酸(例えば、オレイン酸)、脂質、グリセロール、トリグリセロール、糖質、ポリオール、アミノ糖、及び任意の種類のバイオマスまたは廃棄物が挙げられる。糖質には、限定されないが、グルコース、セルロース、ヘミセルロース、フルクトース、デキストロース、キシロース、ラクツロース、ガラクトース、マルトトリオース、マルトース、ラクトース、グリコーゲン、ゼラチン、デンプン(トウモロコシまたはコムギ)、酢酸、m-イノシトール(例えば、コーンスティープリカー由来のもの)、ガラクツロン酸(例えば、ペクチン由来のもの)、L-フコース(例えば、ガラクトース由来のもの)、ゲンチオビオース、グルコサミン、アルファ-D-グルコース-1-リン酸(例えば、グルコース由来のもの)、セロビオース、デキストリン、アルファ-シクロデキストリン(例えば、デンプン由来のもの)、及びスクロース(例えば、糖蜜由来のもの)が含まれる。ポリオールには、限定されないが、マルチトール、エリスリトール、及びアドニトールが含まれる。アミノ糖には、限定されないが、N-アセチル-D-ガラクトサミン、N-アセチル-D-グルコサミン、及びN-アセチル-ベータ-D-マンノサミンが含まれる。
【0021】
微生物は、生理食塩水または塩含有培地中で培養され得る。選択される培養培地は、NaClあるいは天然もしくは人工の海塩及び/または人工の海水を任意選択で含む。スラウストキトリッドは、例えば、約0.5g/L~約50.0g/L、約0.5g/L~約35g/L、または約18g/L~約35g/Lの塩濃度を有する培地中で培養され得る。任意選択で、本明細書に記載のスラウストキトリッドの増殖は、低塩条件(例えば、約0.5g/L~約20g/Lまたは約0.5g/L~約15g/Lの塩濃度)の下で行われ得る。
【0022】
あるいは、培養培地は、ナトリウム源として非塩化物含有ナトリウム塩を含み得、この培養培地は、さらにNaClを含むか、またはNaClは含まない。本発明の方法に従う使用に適した非塩化物ナトリウム塩の例としては、限定されないが、ソーダ灰(炭酸ナトリウム及び酸化ナトリウムの混合物)、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ならびにそれらの混合物が挙げられる。例えば、米国特許第5,340,742号及び同第6,607,900号を参照のこと。これらの文献のそれぞれの内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。総ナトリウムのかなりの部分が、例えば、非塩化物塩によって供給される可能性があり、その結果、培養培地中の総ナトリウムに占める塩化ナトリウムの割合は、約100%未満、約75%未満、約50%未満、または約25%未満となる。
【0023】
微生物培養のための培地は、さまざまな窒素源のいずれも含み得る。窒素源の例としては、アンモニウム溶液(例えば、NH4を含むH2O)、アンモニウム塩またはアミン塩(例えば、(NH4)2SO4、(NH4)3PO4、NH4NO3、NH4OOCH2CH3(NH4Ac))、ペプトン、トリプトン、酵母エキス、麦芽エキス、魚粉、グルタミン酸ナトリウム、大豆エキス、カザミノ酸、及び醸造かすが挙げられる。適切な培地中の窒素源の濃度の範囲は、典型的には、約1g/L~約25g/L(両端値を含む)である。
【0024】
培地は、リン酸塩(リン酸カリウムまたはリン酸ナトリウムなど)を任意選択で含む。培地中の無機塩及び微量栄養素には、硫酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、オルトバナジウム酸ナトリウム、クロム酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム、亜セレン酸、硫酸ニッケル、硫酸銅、硫酸亜鉛、塩化コバルト、塩化鉄、塩化マンガン、塩化カルシウム、及びEDTAが含まれ得る。ビタミン(ピリドキシン塩酸塩、チアミン塩酸塩、パントテン酸カルシウム、p-アミノ安息香酸、リボフラビン、ニコチン酸、ビオチン、葉酸、及びビタミンB12など)が含まれ得る。
【0025】
培地のpHは、酸または塩基を使用して、必要に応じて、及び/または窒素源を使用して、3.0~10.0(両端値を含む)に調整され得る。任意選択で、培地の滅菌処理が行われ得る。
【0026】
一般に、微生物の培養に使用される培地は液体培地である。一方で、微生物の培養に使用される培地が固形培地であることもあり得る。固形培地は、本明細書で論じられる炭素源及び窒素源に加えて、構造を支持し、及び/または培地が固形を留めることを可能にする1つ以上の成分(例えば、寒天またはアガロース)を含み得る。
【0027】
得られるバイオマスは、バイオマス中に存在する望ましくない物質を不活化するために低温殺菌され得る。例えば、バイオマスは、化合物分解物質(分解酵素など)を不活化するために低温殺菌され得る。低温殺菌ステップを行うにあたって、バイオマスは、発酵培地中に存在するか、または発酵培地から単離され得る。低温殺菌ステップは、バイオマス及び/または発酵培地を加熱して温度を上昇させることによって実施され得る。例えば、バイオマス及び/または発酵培地は、約50℃~約95℃(例えば、約55℃~約90℃または約65℃~約80℃)の温度に加熱され得る。任意選択で、バイオマス及び/または発酵培地は、約30分~約120分(例えば、約45分~約90分または約55分~約75分)加熱され得る。低温殺菌は、適切な加熱手段(例えば、水蒸気を直接的に注入することによるものなど)を使用して実施され得る。
【0028】
バイオマスは、当業者に現在知られているものを含めて、さまざまな方法に従って収集され得る。例えば、発酵培地からバイオマスを収集することをでき、この収集は、例えば、遠心分離(例えば、固形排出遠心分離機を用いるもの)及び/またはろ過(例えば、クロスフローろ過)を使用して行われる。任意選択で、収集ステップは、細胞バイオマスの収集を加速させるための沈降剤(例えば、リン酸ナトリウムまたは塩化カルシウム)を使用することを含む。
【0029】
バイオマスは、任意選択で、水で洗浄される。バイオマスは、固形分が最大で約20%となるように濃縮され得る。例えば、バイオマスは、固形分が約1%~約20%、約5%~約20%、約7.5%~約15%、または記載の範囲内の任意のパーセントとなるように濃縮され得る。
【0030】
任意選択で、オイルをさらに処理することができ、この処理は、例えば、脱ろうによって行われる。脱ろうに先立って、当業者に現在知られているものを含めて、さまざまな方法のうちの1つ以上を使用してバイオマスまたは微生物からオイルまたは多価不飽和脂肪酸が得られるか、または抽出される。例えば、オイルまたは多価不飽和脂肪酸の単離方法は、米国特許第8,163,515号に記載されており、当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。あるいは、オイルまたは多価不飽和脂肪酸は、米国公開公報第2015/0176042号に記載のように単離され、当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。任意選択で、1つ以上の多価不飽和脂肪酸は、アルファリノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、ガンマ-リノレン酸、リノール酸、リノレン酸、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。
【0031】
オイル、脂質、またはその誘導体(例えば、多価不飽和脂肪酸(PUFA)及び他の脂質)は、その生物学的特性、栄養学的特性、または化学的特性を利用するさまざまな用途のいずれにおいても利用され得る。したがって、オイル、脂質、またはその誘導体は、バイオ燃料の生産に使用され得る。任意選択で、オイル、脂質、またはその誘導体は、医薬品、栄養補給食品、栄養補助食品、動物用飼料添加物、化粧品、及び同様のものにおいて使用される。
【0032】
任意選択で、本明細書に記載の方法に従って生産されるオイルまたはバイオマスは、最終製品(例えば、栄養補助食品または栄養補助飼料、乳児用調製粉乳、医薬品、燃料、及び同様のもの)に組み込まれ得る。任意選択で、バイオマスは、動物用飼料(例えば、雌ウシ、ウマ、魚、または他の動物のための飼料)に組み込まれ得る。任意選択で、オイルは、ビタミンのような栄養剤または栄養補助食品に組み込まれ得る。オイルまたは脂質を組み込み得る先として適した栄養補助食品または栄養補助飼料には、飲料(ミルク、水、スポーツドリンク、栄養ドリンク、茶、及びジュースなど)、菓子(キャンディ、ゼリー、及びビスケットなど)、脂肪含有食品及び飲料(乳製品など)、加工食品(姫飯(もしくは粥)など)、乳児用調製粉乳、朝食用シリアル、または同様のものが含まれる。
【0033】
任意選択で、オイルまたはそこに含まれる化合物(例えば、PUFA)のうちの1つ以上は、栄養補給食品または医薬品に組み込まれ得る。そのような栄養補給食品または医薬品の例としては、さまざまな型の錠剤、カプセル、飲用剤などが挙げられる。任意選択で、栄養補給食品または医薬品は、局所適用または経口適用に適したものである。剤形には、例えば、カプセル、オイル、顆粒、顆粒状微粉末(granula subtilae)、散剤、錠剤、丸剤、トローチ剤、または同様のものが含まれ得る。
【0034】
本明細書に記載の方法に従って生産されるオイルまたはそのオイル成分は、さまざまな他の剤のずれかと組み合わせて製品に組み込まれ得る。例えば、オイルまたはバイオマスは、1つ以上の結合剤または賦形剤、キレート剤、色素、塩、界面活性剤、保湿剤、粘度調整剤、増粘剤、皮膚軟化剤、芳香剤、保存剤など、またはそれらの組み合わせと組み合わせられ得る。
【0035】
開示の方法及び組成物のために使用され得るか、開示の方法及び組成物と併用され得るか、開示の方法及び組成物の調製において使用され得るか、または開示の方法及び組成物から得られるものである、材料、組成物、及び成分が開示される。本明細書には、こうした材料及び他の材料が開示されており、こうした材料の組み合わせ、サブセット、相互関連、群などが開示される場合、こうした化合物のさまざまな個々及び集合的な組み合わせ及び順列のそれぞれを具体的に指して明示的に開示しない場合があるが、それぞれが本明細書にて具体的に企図及び説明されることが理解されよう。例えば、方法が開示されて論じられ、その方法において利用される多くの分子に対して実施可能ないくつかの改変が論じられる場合、異なる具体的な記載がない限り、その方法のそれぞれ及びあらゆる組み合わせ及び順列、ならびに考え得るそうした改変が具体的に企図される。同様に、こうしたものの任意のサブセットまたは組み合わせも具体的に企図及び開示される。この概念は、限定されないが、開示の組成物を使用する方法におけるステップを含めて、本開示のすべての態様に適用される。したがって、実施可能なさまざまな追加ステップが存在する場合、こうした追加ステップはそれぞれ、開示の方法の任意の特定の方法ステップまたは開示の方法の方法ステップの組み合わせと共に実施可能であり、そのような組み合わせまたは組み合わせのサブセットのそれぞれが具体的に企図され、開示されると考えられるべきことが理解されよう。
【0036】
本明細書で引用される刊行物及びそうした刊行物の引用対象である材料は、それらの全体が参照によって本明細書に明確に組み込まれる。
【0037】
以下の実施例は、本明細書に記載の方法及び組成物のある特定の態様をさらに例示することを意図するものであり、特許請求の範囲の限定を意図するものではない。
【実施例】
【0038】
すべての実施例において、ATCC受入番号PTA-6245として預託されているスラウストキトリッド株(T18としても知られる)を使用した。この株は、C14:0ミリスチン酸、C16:0パルミチン酸、C16:1(n-7)パルミトレイン酸、C18:1(n-9)バクセン酸、C22:5(n-6)ドコサペンタエン酸(DPA)、及びC22:6(n-3)ドコサヘキサエン酸(DHA)を含めて、いくつかの主要脂肪酸を含む脂質を生産する。本明細書に記載のように、適用される発酵条件に応じて、各主要脂肪酸の合成レベルが変化し得、その結果、全脂質プロファイル内のこうした主要脂肪酸の相対含量が変わり得る。プロセス条件を異なるものにすることで、脂質合成において、より望ましい脂肪酸プロファイルが得られるようになり、すなわち、そうした条件が適用されない場合のレベルと比較して、DHAレベルが上昇し、一価不飽和脂肪酸(MUFA)レベルが上昇し、飽和脂肪酸(SFA)レベルが低下するようになる。
【0039】
実施例1.微量元素の低減
この実施例では、炭素消費速度の制御を伴う微生物発酵によって達成可能な典型的な脂肪酸プロファイルが示される。30Lの発酵槽において仕込体積を20L~30Lとして発酵を実施し、発酵の間にグルコースシロップを供給したことにより内容物体積は増加した。対照発酵培地には通常量の亜鉛を含めた(リットル当たり):グルコース60g、大豆ペプトン2g、塩化ナトリウム1.65g、硫酸マグネシウム七水和物4g、リン酸二水素カリウム2.2g、リン酸水素二カリウム2.4g、硫酸アンモニウム20g、塩化カルシウム二水和物0.1g、塩化鉄3mg、硫酸銅五水和物3mg、モリブデン酸ナトリウム二水和物1.5mg、硫酸亜鉛七水和物3mg、塩化コバルト六水和物1.5mg、塩化マンガン四水和物1.5mg、硫酸ニッケル六水和物1.5mg、ビタミンB12 0.03mg、ビオチン0.03mg、及びチアミン塩酸塩6mg。シリコーンベースの消泡剤を必要に応じて控え目に使用して発泡を抑制し、発酵全体を通じてこの消泡剤の使用量を0.3g/L未満とした。培養における非制限的な炭素消費速度が最大で3g/L/時間となるように発酵槽の撹拌及びエアレーションを制御した。培養物が消費する利用可能なグルコースが培地中に常に存在するように、培養または発酵を通じてグルコースシロップの形態の炭素を発酵槽に追加供給した。
【0040】
培地コストを抑制するために、上記成分のうちの3つを培養培地に含めないようにした。これまでの小スケール実験から、硫酸銅五水和物、モリブデン酸ナトリウム二水和物、及び硫酸亜鉛七水和物が培養増殖に必須ではない可能性が示されていた。こうした成分は、通常は非常に低いレベルで供給されることから微量元素と称され、一般に、培養増殖に必要な元素の重要な供給物であるとみなされる。培養培地に微量元素が存在しないことでオイルプロファイル及び生産性がどのような影響を受けるかについて、発酵を実施して調べた。対照発酵は、表1及び図において「完全微量元素」と称され、約0.68mg/Lの亜鉛を含めて、そこに微量元素を添加して完全に補充して行ったものである。水には約0.1mg/Lの亜鉛が含まれていた。したがって、対照発酵培地は、約0.8mg/Lの亜鉛を含む。試験発酵培地には硫酸銅五水和物、モリブデン酸ナトリウム二水和物、及び硫酸亜鉛七水和物を供給しないようにし、この試験発酵培地は、表1及び図において「微量元素なし」と称される。しかしながら、水については、約0.1mg/Lの亜鉛を含むものをそのまま用いた。驚くべきことに、試験発酵培地中に銅、モリブデン酸、及び亜鉛を含めなかった培養物中ではMUFAレベルが急激に上昇した。具体的には、総脂肪酸に占めるパルミトレイン酸の含量は1.03%から12.58%に増加し、総脂肪酸に占めるバクセン酸の含量は1.94%から16.87%に増加し(表1)、これによって総脂肪酸に占める全MUFA含量は2.97%(対照培地)から29.45%(試験培地)に増加した(
図1)。表1に示されるように、試験培地では、パルミチン酸は23.26%から12.59%に減少し、DHAは50.65%から40.56%に減少した。しかしながら、40%というDHA含量は依然として十分なものである。表1中の値は、オイルの総脂肪酸に占める脂肪酸のパーセントである。
図2は、対照培地では、プロファイルが、大まかには、飽和脂肪酸(C14:0、C16:0)、一価不飽和脂肪酸(C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸)、ならびに多価不飽和脂肪酸(C20:5(n-3)EPA、C22:5(n-6)DPA、及びC22:6(n-3)DHA)から構成されることを示す。試験発酵培地を使用した場合、オイルプロファイルを構成する一価不飽和脂肪酸の割合が高まった(
図2)。試験発酵培地において増殖を行った培養物中の一価不飽和脂肪酸の主要メンバーは、C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸であった(
図3)。
【0041】
【0042】
実施例2.亜鉛は、MUFAの抑制を担う
この実施例では、亜鉛が、MUFA合成の抑制を担う微量元素であることが示される。7Lの発酵槽において発酵を実施した。対照発酵培地には、実施例1と同じ栄養材料を含めた。硫酸銅五水和物、モリブデン酸ナトリウム二水和物、及び硫酸亜鉛七水和物を含めない発酵培地を調製した。この発酵培地は、
図4及び
図5ならびに表2において「TEなし」と称される。発酵培地を追加で3つ調製した。1つ目は銅を含めないもの(「Cuなし」)とし、2つ目はモリブデン酸を含めないもの「Mbなし」とし、3つ目は亜鉛を含めないもの(「Znなし」)とした。しかしながら、「Znなし」培地は、水由来の残留亜鉛を約0.1mg/Lでそのまま含むものとした。こうした培地は、これら3つのうちのどれが、非添加時にMUFA生産を引き起こすのかを特定するために調製した。実験は2連で実施し、平均値を示す。亜鉛に曝露されなかった培養物(「Znなし」)のオイルプロファイルは、微量元素を添加しなかった培養物(「TEなし」)のものと非常に類似していた(表2)。微量元素を含めなかった培養物中のMUFA含量、及び亜鉛を含めなかった培養物中のMUFA含量は、それぞれ25.31%及び22.85%であった一方で、銅を含めなかった培養物中のMUFA含量(5.76%)、またはモリブデンを含めなかった培養物中のMUFA含量(3.36%)は、微量元素を完全に補充して含めた培養物のもの(6.73%)と非常に類似していた。脂質プロファイルにおける主要な飽和脂肪酸は、ミリスチン酸(C14:0)及びパルミチン酸(C16:0)の2つであった。脂質プロファイルに存在した他の飽和脂肪酸(C12:0、C13:0、C15:0、C17:0、C18:0、及びC20:0)は、濃度がはるかに低く、「他の脂肪酸」カテゴリー下のデータを構成する。ミリスチン酸濃度は変化せずそのままであり(11.21~12.22%)、どの発酵培地を使用したかとは無関係であった。亜鉛を含めなかった培養物(「Znなし」及び「TEなし」)では、亜鉛を添加して含めた培養物のもの((28.21%(「Cuなし」)、27.62%(「Mbなし」)、及び26.69%(「完全TE」)、表2)と比較してパルミチン酸の大幅な減少が見られた(14.9%及び16.37%、表2)。その結果、亜鉛を含めなかった培養物中の飽和脂肪酸含量は、亜鉛を含めた培養物のものと比較してはるかに少なかった(31.21%(「TEなし」)及び31.72%(「Znなし」)、表2)。そのようなオイルプロファイルでは、低温流動特性が改善している。銅及びモリブデン酸を添加せずに増殖を行った培養物からは、飽和脂肪酸含量がそれぞれ43.72%及び44.05%である脂質プロファイルが得られ、これらの脂質プロファイルは、飽和脂肪酸含量が42.97%である対照培養脂質と非常に類似している。これら3つの培養物のいずれからも、低温流動特性(例えば、室温でのオイル流動性)が改善したオイルは得られなかった。銅及びモリブデン酸を添加しないようにしても、微量元素を完全に補充して得られた培養物と比較して脂質プロファイルの変化は生じない(
図4)。亜鉛を添加せずに増殖を行った培養物中の一価不飽和脂肪酸の主要メンバーは、C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸であり(
図5、「Znなし」及び「TEなし」)、オメガ7脂肪酸の総量は7.27g/Lから20.03g/Lとなり、175%増加した(
図5、「Znなし」及び「完全TE」)。
【0043】
【0044】
MUFA含量が増加すると想定される培養培地中最大亜鉛濃度を特定するために、さらなる実験を実施した。上記のように、市水供給の分析を行ったところ、地元の水の亜鉛含量は約0.1mg/Lであることが示された。硫酸亜鉛七水和物の形態で亜鉛元素を培地に添加して初期濃度を0.682mg/Lとした。結果として、完全微量元素対照発酵培地の亜鉛含量は0.786mg/L、すなわち約0.8mg/Lとなった。亜鉛を追加で添加しない培地の亜鉛含量は約0.1mg/Lであった。これら2点の間で添加亜鉛濃度をいくつか試験した(表3)。亜鉛濃度が約0.270mg/Lまでは、添加亜鉛濃度を下げてもMUFA含量は10%未満で安定したままである。濃度が約0.3mg/Lを下回ると、MUFAは一貫して10%を超えている。
図6は、培養培地に添加する亜鉛の量を減らすと、総脂質プロファイルを構成する一価不飽和脂肪酸の割合が高まることを示す。さらに、一価不飽和脂肪酸の主要メンバーは、C16:1(n-7)パルミトレイン酸及び18:1(n-7)バクセン酸である(
図7)。
【0045】
【0046】
実施例3.発酵を通じてのMUFA生産
亜鉛制限培養物でのMUFAの生産は、時間依存的様式で生じる。流加発酵においてスラウストキトリッドを培養し、発酵の過程にわたって約440g/Lのグルコースが消費された。消費速度を2~3g/L/時間に維持した。発酵制御の差異に起因して、この実施例及び前の実施例に記載のプロセスに要する時間は100~300時間となり得る。そのため、この実施例で論じる発酵を、時間ではなく総消費炭素のパーセントに標準化した。亜鉛元素を0.104mg/L、0.195mg/L、0.286mg/L、及び0.651mg/Lとして培養物を得た。0.104mg/Lの亜鉛は水中に存在する亜鉛の量であり、この培養培地に亜鉛を追加で添加することは行わなかった。利用可能な炭素が80%消費された後、亜鉛の濃度が0.65mg/L未満の培養物ではMUFAの生産が始まる一方で、亜鉛を過剰に含む培養物では全MUFA含量の増加は見られない(表4)。発酵プロセスの最後の数時間の間に、すべての発酵においておよそ23g/Lのバイオマスが生産され、新たなバイオマスの80~100%が脂質であった。表4は、炭素供給の最後の20%が消費される間の脂肪酸プロファイルの変化を示す。亜鉛の濃度を0.65mg/L未満とした培養物では、新たに生産された脂質の大部分がパルミトレイン酸(C16:1(n-7))、バクセン酸(C18:1(n-7))、及びドコサヘキサエン酸(C22:6(n-3))の形態であった(表4及び
図8)。対照培養物は、亜鉛を添加して含めて0.65mg/Lとし、完全微量元素を含めたものであるが、新たに生産されたものは、ほどんどがパルミチン酸(C16:0)及びドコサヘキサエン酸であった。添加した亜鉛が0.65mg/L未満の培養物では、新たに生産されたすべての脂質に占める一価不飽和脂肪酸の割合は32%、60%、及び56%であった一方で、対照培養物によって新たに生産されたすべての脂質に占めるMUFAの割合は11%にすぎなかった。
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【0048】
脂質プロファイルにおけるMUFA含量の増加は、飽和脂肪酸の代償として生じたものであった。本明細書には、培養培地に添加する亜鉛の量を変えることによって飽和脂肪酸の生産を減らすと共に、MUFAの生産を促進するための方法が記載されている。培地中の亜鉛含量が低い場合、低温流動特性が改善された飽和脂肪酸低含有オイルが得られる。このプロセスでは、培養物のバイオマス含量または総脂質含量は減少せず、コストの増加、処理、または処理助剤の添加を伴うことなく微生物オイルの価値が改善される。