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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】生体組織修復用の生体材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/20 20060101AFI20240528BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240528BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/38
A61L27/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019098693
(22)【出願日】2019-05-27
(65)【公開番号】P2020192021
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-05-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトのアドレス:https://www.meeting-schedule.com/18jsrm/schedule.html ウェブサイトの掲載日 平成30年2月22日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトのアドレス:https://www.meeting-schedule.com/18jsrm/schedule.html ウェブサイトの掲載日 平成30年2月22日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物: Nature Communications,9,2195(2018),DOI.https://doi.org/10.1038/s41467-018-04699-3 発行日: 平成30年6月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物:第64回高分子研究発表会(神戸)予稿集 公益社団法人高分子学会関西支部発行、第96頁 発行日: 平成30年7月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物:第64回高分子研究発表会(神戸)予稿集 公益社団法人高分子学会関西支部発行、第97頁 発行日: 平成30年7月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第64回高分子研究発表会(神戸) 開催場所:兵庫県民会館(兵庫県神戸市中央区下山手通4丁目16-3) 開催日: 平成30年7月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第64回高分子研究発表会(神戸) 開催場所:兵庫県民会館(兵庫県神戸市中央区下山手通4丁目16-3) 開催日: 平成30年7月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物:第28回バイオ・高分子シンポジウム 講演要旨集 公益財団法人高分子学会発行、第37頁~第38頁 発行日: 平成30年7月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物:第28回バイオ・高分子シンポジウム 講演要旨集 公益財団法人高分子学会発行、第77頁~第78頁 発行日: 平成30年7月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第28回バイオ・高分子シンポジウム 開催場所:東京工業大学岡山キャンパス西9号ディジタル多目的ホール(東京都目黒区大岡山2-12-1) 開催日: 平成30年7月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第28回バイオ・高分子シンポジウム 開催場所:東京工業大学岡山キャンパス西9号ディジタル多目的ホール(東京都目黒区大岡山2-12-1) 開催日: 平成30年7月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物:第64回高分子学会予稿集 第67回(2018年)高分子討論会 9月12~14日 北海道大学 67巻2号 プログラム 公益財団法人高分子学会発行、1S13頁 発行日: 平成30年8月29日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物:刊行物:第64回高分子学会予稿集第67回(2018年)高分子討論会 9月12~14日 北海道大学 67巻2号 プログラム 公益財団法人高分子学会発行、2Pc051頁 発行日: 平成30年8月29日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第67回(2018年)高分子討論会 開催場所:北海道大学札幌キャンパス(北海道札幌市北区北8条西5丁目)開催日: 平成30年9月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第67回(2018年)高分子討論会 開催場所:北海道大学札幌キャンパス(北海道札幌市北区北8条西5丁目) 開催日: 平成30年9月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトのアドレス:http://kokuhoken.haru.gs/jsbm/abstract/jsb_meet_40/page_all.pdf ウェブサイトの掲載日 平成30年11月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトのアドレス:http://kokuhoken.haru.gs/jsbm/abstract/jsb_meet_40/page_all.pdf ウェブサイトの掲載日 平成30年11月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第40回日本バイオマテリアル学会大会 開催場所:神戸国際会議場(兵庫県神戸市中央区港島中町6-9-1) 開催日: 平成30年11月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第40回日本バイオマテリアル学会大会 開催場所:神戸国際会議場(兵庫県神戸市中央区港島中町6-9-1) 開催日: 平成30年11月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物:12th International Symposium on Nanomedicine(ISNM2018)日本ナノメディシン交流協会発行、第47頁 発行日: 平成30年12月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:12th International Symposium on Nanomedicine 開催場所:山口大学(山口県宇部市南小串1丁目1-1) 開催日:平成30年12月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第18回日本再生医療学会総会 開催場所:神戸国際会議場(兵庫県神戸市中央区港島中町6丁目9-1) 開催日: 平成31年3月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第18回日本再生医療学会総会 開催場所:神戸国際会議場(兵庫県神戸市中央区港島中町6丁目9-1) 開催日: 平成31年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】長濱 宏治
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】長濱宏治ほか,細胞移植用スマートゲルの開発,ケミカルエンジニヤリング,Vol.64, No.1,2019年01月01日,pp.17-26
【文献】Biomaterials,2015年,Vol.53,pp.502-521,http://dx.doi.org/10.1016/j.biomaterials.2015.02.110
【文献】JOURNAL OF ORTHOPAEDIC RESEARCH,2019年02月,Vol.37, No.6,pp.1246-1262,https://doi.org/10.1002/jor.24212
【文献】Journal of Stem Cell Biology and Transplantation,2019年05月02日,Vol.3, No.1:3,pp.1-8,DOI: 10.21767/2575-7725.100024
【文献】長濱宏治ほか,神経細胞を高分子で架橋したハイドロゲルの作製およびゲル内での神経ネットワーク構築,第17回日本再生医療学会総会講演要旨集,2018年03月21日,p.316, P-01-080
【文献】木村友香ほか,細胞架橋ゲルの創製と機能創発,第17回日本再生医療学会総会講演要旨集,2018年03月21日,p.349, P-01-113
【文献】NAGAHAMA K. et al.,Reactive & Functional Polymers,2013年,Vol.73,pp.979-985
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61K 35/00-35/768
C12M 1/00- 3/10
C12N 5/00- 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性官能基Aを有する水溶性ポリマーと、
前記反応性官能基Aに対して共有結合可能な反応性官能基Bを表面に有し、組織再生能を有する間葉系幹細胞と、を含み、
前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bが共有結合することにより、前記組織再生能を有する間葉系幹細胞が架橋点となってハイドロゲルを形成する、
生体組織修復用の生体材料。
【請求項2】
前記反応性官能基Aがアルキニル基であり、前記反応性官能基Bがアジド基である、請求項1に記載の生体組織修復用の生体材料。
【請求項3】
前記水溶性ポリマーが増粘多糖類である、請求項1又は2に記載の生体組織修復用の生体材料。
【請求項4】
前記増粘多糖類がアルギン酸である、請求項3に記載の生体組織修復用の生体材料。
【請求項5】
前記水溶性ポリマーが、分岐状化合物に2個以上の直鎖状の水溶性ポリマーが結合することにより分岐状になっている、請求項1~4のいずれか一項に記載の生体組織修復用の生体材料。
【請求項6】
投与前はゲル状又はゾル状であり、投与後に患部で前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bが共有結合することによりハイドロゲル状を呈する、請求項2に記載の生体組織修復用の生体材料。
【請求項7】
損傷又は欠損した筋組織に適用される、請求項1~6のいずれか一項に記載の生体組織修復用の生体材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織再生能を有する細胞を架橋点として水溶性ポリマーが架橋してゲル状を呈し、優れた生体組織修復効果を奏する、生体組織修復用の生体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは高分子の三次元ネットワークが水に膨潤したソフトマテリアルであり、吸水性、物質保持性、物質放出性、物質分離性等の特性をもつことから、食品、化粧品、生活用品、環境分野などで広く利用されている。更に、ハイドロゲルは、柔軟性、弾力性、生体適合性、細胞保持特性等のユニークな特性をもつため、センサーや診断デバイス、ドラッグデリバリーシステムや再生医療等、高い性能が要求される医療関連分野への応用展開が期待されている。
【0003】
近年、医療関連分野で応用できるハイドロゲルを開発する目的で、核酸やタンパク質(ペプチドを含む)など高い機能をもつ生体分子(物質)を共有結合により高分子ネットワークにハイブリッドしたゲルが開発されている。これら生体分子ハイブリッドゲルは従来の高分子ゲルでは得られない優れた特性をもつことが報告されている。例えば、核酸ハイブリッドゲルでは、高分子ネットワークに固定化された一本鎖核酸が完全に相補な塩基配列の核酸を認識すると二重鎖を形成し、その結果としてゲルは収縮するため、特定の塩基配列をもつ核酸分子の存在をゲルの収縮により検出できる(特許文献1、及び非特許文献1参照)。また、核酸二重鎖が高分子ネットワークに固定化されているゲルの場合、二重鎖のいずれか一方に対して完全に相補な核酸が存在すると、かかる核酸を認識して二重鎖が解離し、ゲルは膨潤する。そのため、特定の塩基配列をもつ核酸分子の存在をゲルの膨潤により検出できる。更に、このようなゲルは、完全に相補な核酸と一塩基ミスマッチの核酸に対して異なる膨潤挙動を示し、一塩基の差を識別することもできる(特許文献2参照)。また、タンパク質ハイブリッドゲルでは、抗体が高分子ネットワークに固定化されたゲルが開発されている(特許文献3、非特許文献2参照)。このようなタンパク質ハイブリッドゲルでは、特定の抗原が存在すると抗原-抗体複合体を形成してゲルは収縮するため、抗原の有無をゲルの収縮により検出できる。このように、生体分子ハイブリッドゲルは標的分子の存在をゲルのマクロ応答(膨潤及び収縮)により検出できるため、センサーや診断デバイスへの応用が期待されている。
【0004】
また、損傷を受けた組織の修復に組織再生能を有する細胞を利用する技術が注目を浴びており、細胞をゲルに内包させた複合材料についても種々検討されている。例えば、水溶性かつ生分解性を有する温度応答性ポリマーと、ナノシート構造を有する粘土鉱物とを含むハイドロゲル内に細胞を内包させた複合材料が、損傷組織修復に有効であることが報告されている(特許文献4)。しかしながら、細胞をゲルに内包させた従来の複合材料では、単に細胞がゲル内に物理的に担持されているに過ぎないため、損傷を受けた組織に投与すると、細胞や細胞が産生した増殖因子がゲル外に離脱して、十分な組織再生効果を奏し得ないことがあり、更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Y. Murakami, M. Maeda, Macromolecules, 38, 1535-1537 (2005)
【文献】T. Miyata, M. Jige, T. Nakaminami, T. Uragami, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 1190 (2006)
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-106533号公報
【文献】特開2007-244374号公報
【文献】特開2006-138656号公報
【文献】特開2015-40276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、組織再生能を有する細胞を内包させたハイドロゲルを用いて、優れた生体組織再生効果を奏する生体組織修復用の生体材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、組織再生能を有する細胞を架橋点として水溶性ポリマーを化学結合させることにより形成したハイドロゲルは、損傷を受けた生体組織に投与すると、患部で当該細胞がハイドロゲルに止まり、効果的に生体組織の修復が可能になることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 反応性官能基Aを有する水溶性ポリマーと、
前記反応性官能基Aに対して共有結合可能な反応性官能基Bを表面に有し、組織再生能を有する細胞と、を含み、
前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bが共有結合することによりハイドロゲル状を呈する、
生体組織修復用の生体材料。
項2. 前記反応性官能基Aがアジド基であり、前記反応性官能基Bがアルキニル基である、項1に記載の生体組織修復用の生体材料。
項3. 前記水溶性ポリマーが増粘多糖類である、項1又は2に記載の生体組織修復用の生体材料。
項4. 前記増粘多糖類がアルギン酸である、項3に記載の生体組織修復用の生体材料。
項5. 前記水溶性ポリマーが、分岐状化合物に2個以上の直鎖状の水溶性ポリマーが結合することにより分岐状になっている、項1~4のいずれかに記載の生体組織修復用の生体材料。
項6. 投与前はゲル状又はゾル状であり、投与後に患部で前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bが共有結合することによりハイドロゲル状を呈する、項2に記載の生体組織修復用の生体材料。
項7. 損傷又は欠損した筋組織に適用される、項1~6のいずれかに記載の生体組織修復用の生体材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明の生体材料は、ハイドロゲル内において、組織再生能を有する細胞が水溶性ポリマーを化学結合で結合しているため、損傷が生じている患部に投与されても、細胞がハイドロゲル内で維持されて患部に止まることができ、効果的に損傷部位の修復を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】アジド化マンノサミン(Ac4ManNAz)の細胞毒性をWST-1アッセイにより分析した結果を示す図である。
図2】Ac4ManNAzを含むDMEM培地で培養したC2C12細胞に対してcarboxyrhodamine 110 DBCOを反応させて、共焦点顕微鏡にて観察した結果を示す図である。
図3】Ac4ManNAzを含むDMEM培地で培養したC2C12細胞に対してcarboxyrhodamine 110 DBCOを反応させて、細胞膜表面の蛍光強度を定量した結果を示す図である。
図4】アジド化C2C12細胞と非アジド化C2C12細胞の細胞増殖曲線を示す図である。
図5】分岐型アルギン酸(bAlg)の合成経路を示す図である。
図6】シクロオクチン化分岐型アルギン酸(bAlg-DBCO)の合成経路を示す図である。
図7】bAlg-DBCO-FITCと反応させたアジド化C2C12細胞、及びbAlg-FITCと反応させたアジド化C2C12細胞を共焦点顕微鏡にて観察した結果を示す図である。
図8】bAlg-DBCO又はbAlgと、アジド化細胞とを混合し、試験管傾斜法にてハイドロゲルの形成の有無を確認した結果を示す図である。
図9】2×106個のアジド化細胞と2% bAlg-DBCO溶液とを組み合わせて形成したハイドロゲルにDMEM培地を添加して1時間静置した後に、培地を除去してハイドロゲルの外観を観察した結果を示す図である。
図10】bAlg-DBCOと、アジド化MCF-7細胞又はアジド化HL-60細胞とを混合し、試験管傾斜法にてゲルの形成の有無を確認した結果を示す図である。
図11】凍結保存していたアジド化細胞とbAlg-DBCOを混合し、試験管傾斜法にてハイドロゲルの形成の有無を確認した結果を示す図である。
図12】アジド化細胞とbAlg-DBCOを混合し、スライドガラス上に“FIRST”という文字を描き、37℃のCO2インキュベーターで30分間静置後に、その外観を観察した結果を示す図である。
図13】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCO-FITCを用いて作製したハイドロゲルを共焦点顕微鏡にて観察した結果を示す図である。
図14】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCO-FITCを用いて作製したハイドロゲルを共焦点顕微鏡にて観察し、当該ハイドロゲルの内部の一部を拡大した結果を示す図である。
図15】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCO-FITCを用いて作製したハイドロゲルを凍結乾燥し、その割断表面のSEM画像を示す図である。
図16】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを用いてハイドロゲルを作製し、ハイドロゲルを作製した時点から所定培養日数(Day 0、3、7)後にCalcein AM及びPI溶液で染色を行い、共焦点顕微鏡にて観察した結果を示す図である。
図17】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを用いてハイドロゲルを作製し、ハイドロゲルを作製した時点から経時的に生存率を測定した結果を示す図である。
図18】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを用いてハイドロゲルを作製し、ハイドロゲルを作製した時点から経時的にハイドロゲル内のアジド化C2C12細胞数を測定した結果を示す図である。
図19】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを用いてハイドロゲルを作製し、ハイドロゲルを作製した時点から経時的にハイドロゲルの乾燥重量を測定した結果を示す図である。
図20】本発明のハイドロゲルについて想定される分解機構を示す図である。
図21】MPCポリマーコートシャーレとコラーゲンコートシャーレの上で、アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを用いてハイドロゲルを形成し、各シャーレに対するハイドロゲルの接着性を評価した結果を示す図である。
図22】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを用いて形成した2つのハイドロゲルを重ね合わせて静置した後に、2つのハイドロゲルの接着性を観察した結果を示す図である。
図23】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを用いて形成したハイドロゲルにアルキン化ローダミンを反応させて共焦点顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図24】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを用いて形成した2つのハイドロゲルにアルキン化ローダミンを反応させた後に、2つのハイドロゲルを重ね合わせて静置し、2つのハイドロゲルの接着性を観察した結果を示す図である。
図25】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを用いて形成した2つのハイドロゲルを重ね合わせて、カルシウムイオン(0.3重量%、0.4重量%、及び0.5重量%)を含むDMEM培地内で静置した後に、2つのハイドロゲルの接着性を観察した結果を示す図である。
図26】未処理のマウスから摘出した各組織(肺、心筋、骨格筋、腎臓)と、Ac4ManNAz溶液を投与したマウスから摘出した各組織をbAlg-DBCO-FITCと反応させて、共焦点顕微鏡にて観察した結果に示す図である。
図27】未処理のマウスから摘出した各組織(肺、心筋、骨格筋、腎臓)と、Ac4ManNAz溶液を投与したマウスから摘出した各組織をbAlg-DBCO-FITCと反応させて、ハイドロゲルの形成の有無を観察した結果を示す図である。
図28】アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを含む懸濁液をマウスの皮下に投与した後に、投与から30分後に投与部位を開いて観察した結果を示す図である。
図29】一方の肢の内側大腿筋を損傷させたマウスの損傷部位に、アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを含む懸濁液(ハイドロゲル投与群)を投与し、損傷を作製した日から15日後に損傷形成部位を蛍光顕微鏡により観察した結果を示す図である。
図30】一方の肢の内側大腿筋を損傷させたマウスの損傷部位に、アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOを含む懸濁液(ハイドロゲル投与群)又はC2C12細胞を含むPBS(PBS投与群)を投与し、損傷した肢の筋力を経時的に測定した結果を示す図である。
図31】一方の肢の内側大腿筋を損傷させたマウスの損傷部位に、アジド化ADSCとbAlg-DBCOを含む懸濁液(ハイドロゲル投与群)又はADSCを含むPBS(PBS投与群)を投与し、損傷を作製した日から14日後に損傷形成部位を蛍光顕微鏡により観察した結果を示す図である。
図32】一方の肢の内側大腿筋を損傷させたマウスの損傷部位に、アジド化ADSCとbAlg-DBCOを含む懸濁液(ハイドロゲル投与群)又はADSCを含むPBS(PBS投与群)を投与し、損傷した肢の筋力を経時的に測定した結果を示す図である。
【0012】
また、本発明の生体材料の一態様では、投与時にはゲル状又はゾル状であるが、投与後には患部でハイドロゲルを形成するため、インジェクタブルゲルとして細胞を移植することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の生体材料は、生体組織の修復用途に使用される生体材料であって、反応性官能基Aを有する水溶性ポリマーと、前記反応性官能基Aに対して共有結合可能な反応性官能基Bを表面に有し、組織再生能を有する細胞と、を含み、前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bが共有結合することによりハイドロゲル状を呈することを特徴とする。以下、本発明の生体材料について詳述する。
【0014】
[水溶性ポリマー]
本発明の生体材料は、ハイドロゲルを形成するための基材として、反応性官能基Aを有する水溶性ポリマーを使用する。
【0015】
水溶性ポリマーの種類としては、生体適合性を有し、且つ細胞を架橋点として共有結合した際にハイドロゲルを呈し得るものであればよい。水溶性ポリマーとして、具体的には、アルギン酸、コンドロイチン、ペクチン、ジェランガム、カラギーナン、カードラン、ヒアルロン酸、アガロース等の増粘多糖類;コラーゲン、ゼラチン、フィブリン等のタンパク質;ポリエチレングリコール、MPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマーこれらのブロックコポリマー等の合成高分子等が挙げられる。これらの水溶性ポリマーの中でも、好ましくは増粘多糖類、更に好ましくはアルギン酸が挙げられる。
【0016】
また、水溶性ポリマーは、ハイドロゲルを形成し易くするために、直鎖状の水溶性ポリマーに、2個以上(好ましくは(2~10個)の反応性官能基を有する分岐状化合物(以下、分岐化剤)と結合させて分岐状にしていることが好ましい。分岐化剤の種類については、水溶性ポリマーを分岐状に連結可能であることを限度として特に制限されないが、好適な例として、マルチアーム型ポリエチレングリコール誘導体が挙げられる。マルチアーム型ポリエチレングリコール誘導体については、2アーム型、3アーム型、4アーム型、8アーム型等が知られているが、例えば、分岐化剤として使用される4アーム型ポリエチレングリコール誘導体としては、下記一般式(1)に示す構造の化合物が挙げられる。
【0017】
【化1】
【0018】
一般式(1)において、mは、メチレン基の数であり、例えば1~10、好ましくは1~5、更に好ましくは1である。
【0019】
一般式(1)において、nは、エチレンオキサイドの平均付加モル数であり、例えば10~500、好ましくは10~300、更に好ましくは10~200である。
【0020】
一般式(1)において、Xは、結合させる直鎖状の水溶性ポリマーが有する官能基と結合可能な反応性官能基である。X(反応性官能基)は、結合させる直鎖状の水溶性ポリマーが有する官能基の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、カルボキシル基、N-スクシンイミド基、スルフヒドリル基、ピリジルジスルフィド基、マレイミド基、アミノ基等から適宜選択すればよい。例えば、結合させる直鎖状の水溶性ポリマーがカルボキシル基を有している場合、X(反応性官能基)はアミノ基であればよい。また、結合させる直鎖状の水溶性ポリマーがアミノ基を有している場合、X(反応性官能基)は、カルボキシル基及びN-スクシンイミド基の中から選択すればよい。また、結合させる直鎖状の水溶性ポリマーがスルフヒドリル基を有している場合、X(反応性官能基)は、スルフヒドリル基、ピリジルジスルフィド基、マレイミド基の中から選択すればよい。
【0021】
直鎖状の水溶性ポリマーに分岐化剤を結合させて分岐状にする場合、分岐化剤の反応性官能基と直鎖状の水溶性ポリマーの反応性官能基とを公知の手法で結合させればよい。
【0022】
また、分岐化剤を結合させて分岐状の水溶性ポリマーにする場合、構成する直鎖状の水溶性ポリマーと分岐化剤との比率については、構成する直鎖状の水溶性ポリマーの種類や分子量、分岐化剤の反応性官能基の数等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、分岐状の水溶性ポリマーにおいて、構成する直鎖状の水溶性ポリマー1分子当たり、分岐化剤が1~20分子、好ましくは2~20分子、更に好ましくは2~10分子の比率であればよい。
【0023】
本発明で使用する水溶性ポリマーには、組織再生能を有する細胞と化学結合させてハイドロゲルを形成させるために、組織再生能を有する細胞が有する反応性官能基Bと共有結合可能な反応性官能基Aを有している。
【0024】
反応性官能基Aの種類については、組織再生能を有する細胞が有する反応性官能基Bの種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、アルキニル基、アジド基、カルボキシル基、アミノ基N-スクシンイミド基、スルフヒドリル基、ピリジルジスルフィド基、マレイミド基等から適宜選択すればよい。より具体的には、反応性官能基Bがアジド基である場合であれば、反応性官能基Aとしてはアルキニル基を選択すればよい。反応性官能基Bがアルキニル基である場合であれば、反応性官能基Aとしてはアジド基を選択すればよい。また、反応性官能基Bがカルボキシル基又はN-スクシンイミド基である場合であれば、反応性官能基Aとしてはアミノ基を選択すればよい。また、反応性官能基Bがアミノ基である場合であれば、反応性官能基Aとしてはカルボキシル基及びN-スクシンイミド基の中から選択すればよい。また、反応性官能基Bがスルフヒドリル基である場合であれば、反応性官能基Aとしてはスルフヒドリル基、ピリジルジスルフィド基、マレイミド基の中から選択すればよい。また、反応性官能基Bがピリジルジスルフィド基である場合であれば、反応性官能基Aとしてはスルフヒドリル基を選択すればよい。また、反応性官能基Bがマレイミド基である場合であれば、反応性官能基Aとしてはスルフヒドリル基を選択すればよい。
【0025】
これらの反応性官能基Aの中でも、アルキニル基及びアジド基はクリックケミストリーによって簡便に化学結合が可能であるので、アルキニル基又はアジド基であることが好ましい。具体的には、水溶性ポリマーに導入されている反応性官能基Aがアルキニル基であり、且つ組織再生能を有する細胞が有する反応性官能基Bがアジド基である組み合わせ;及び水溶性ポリマーに導入されている反応性官能基Aがアジド基であり、且つ組織再生能を有する細胞が有する反応性官能基Bがアルキニル基である組み合わせが、好適といえる。
【0026】
また、水溶性ポリマーに導入される反応性官能基Aの数については、特に制限されないが、例えば、水溶性ポリマー1分子当たり、反応性官能基Aが2~60個、好ましくは5~50個、更に好ましくは5~30個が挙げられる。
【0027】
水溶性ポリマーに反応性官能基Aを導入するには、反応性官能基Aと、水溶性ポリマーの官能基に結合可能な反応性官能基Cを有する二官能性リンカーを用いて、当該反応性官能基Cを水溶性ポリマーの官能基に結合させればよい。反応性官能基Cは、結合させる直鎖状の水溶性ポリマーが有する官能基の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、カルボキシル基、N-スクシンイミド基、スルフヒドリル基、ピリジルジスルフィド基、マレイミド基、アミノ基等から適宜選択すればよい。例えば、水溶性ポリマーがカルボキシル基を有している場合、反応性官能基Cは、アミノ基であればよい。また、水溶性ポリマーがアミノ基を有している場合、反応性官能基Cは、カルボキシル基及びN-スクシンイミド基の中から選択すればよい。また、水溶性ポリマーがスルフヒドリル基を有している場合、反応性官能基Cは、スルフヒドリル基、ピリジルジスルフィド基、マレイミド基の中から選択すればよい。
【0028】
反応性官能基Aと反応性官能基Cを有する二官能性リンカーは、公知のもの、又は公知の手法で合成されるものを使用することができる。
【0029】
[組織再生能を有する細胞]
本発明の生体材料は、前記反応性官能基Aに対して共有結合可能な反応性官能基Bを表面に有し、組織再生能を有する細胞を使用する。このような細胞を使用することにより、細胞自体が水溶性ポリマーの架橋点になってハイドロゲルの形成に寄与する。また、本発明の生体材料において、組織再生能を有する細胞は化学結合によってハイドロゲル中で保持されるので、患部に適用されても、ハイドロゲル中から離脱することなく維持され、組織再生を効果的に促進させることができる。
【0030】
本発明の生体材料に使用される細胞の種類については、組織再生能を有し、損傷した組織の修復に寄与するものであればよく、適用される損傷組織の種類に応じて適宜選定すればよいが、例えば、筋芽細胞、骨芽細胞、軟骨芽細胞、間葉系幹細胞、iPS細胞、筋衛星細胞、心筋細胞、Muse細胞等が挙げられる。
【0031】
本発明で使用する細胞には、前記水溶性ポリマーと化学結合させてハイドロゲルの架橋点になる役割を担うために、前記水溶性ポリマーが有する反応性官能基Aと共有結合可能な反応性官能基Bを有している。
【0032】
反応性官能基Bの種類については、前記水溶性ポリマーが有する反応性官能基Aの種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、アルキニル基、アジド基、カルボキシル基、アミノ基N-スクシンイミド基、スルフヒドリル基、ピリジルジスルフィド基、マレイミド基等から適宜選択すればよい。
【0033】
前述の通り、アルキニル基及びアジド基はクリックケミストリーによって簡便に化学結合が可能であるので、反応性官能基Bはアルキニル基又はアジド基であることが好ましい。
【0034】
反応性官能基Bを細胞表面に存在させるには、例えば、細胞表面に存在する糖鎖に含まれるシアル酸に反応性官能基Bを導入すればよい。具体的には、シアル酸に代謝される糖(例えば、マンノサミン)に反応性官能基Bを結合させ、反応性官能基Bを有する糖を含有する培地で細胞を培養することによって、反応性官能基Bが結合したシアル酸を表面に有する細胞を得ることができる。
【0035】
より具体的には、カルボキシル基又はN-スクシンイミド基と、反応性官能基Bとを有する二官能性リンカーを用いて、当該二官能性リンカーのカルボキシル基又はN-スクシンイミド基とマンノサミンのアミノ基とを結合させて、反応性官能基Bを有するマンノサミンを合成し、反応性官能基Bを有するマンノサミンを含む培地で細胞を培養することにより、反応性官能基Bを有するマンノサミンが細胞の糖代謝反応を受けて、反応性官能基Bを有するシアル酸に変換され、これが細胞表面の糖鎖の構成成分となることにより、表面に反応性官能基Bを有する細胞が得られる。なお、細胞の培養に使用する反応性官能基Bを有するマンノサミンは、水酸基はアセチル化等によって存在しないようにしておいてもよい。このように水酸基部分が存在しないようにすることによって、細胞表面の糖鎖の末端に位置するシアル酸に反応性官能基Bを配することができ、水溶性ポリマーとの共有結合が形成され易くなる。また、細胞を培養する際の培地中の反応性官能基Bを有するマンノサミンの濃度については、導入すべき反応性官能基Bの量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、10~200μM、好ましくは10~100μM、更に好ましくは40~100μMが挙げられる。また、反応性官能基Bを有するマンノサミンを含む培地を用いて、細胞を培養する際の培養時間については、例えば、6~96時間、好ましくは12~72時間、更に好ましくは24~72時間が挙げられる。
【0036】
[ハイドロゲル]
本発明の生体材料では、反応性官能基Aを有する水溶性ポリマーと、共有結合可能な反応性官能基Bを表面に有する細胞とを、水を含む環境下で共存させて、反応性官能基Aと反応性官能基Bとを共有結合させることにより、当該細胞が架橋点となったハイドロゲルが形成される。
【0037】
本発明の生体材料において、形成されるハイドロゲルに含まれる水溶性ポリマーの含有量については、使用する水溶性ポリマーの種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、ハイドロゲルの総量当たり、1~20重量%、好ましくは1~10重量%、更に好ましくは1~5重量%が挙げられる。
【0038】
また、本発明の生体材料において、形成されるハイドロゲルに含まれる細胞の含有量については、使用する細胞の種類、適用対象となる疾患の種類や程度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、5.0×106~5.0×107cells/ml、好ましくは8.0×106~5.0×107cells/ml、更に好ましくは1.0×107~5.0×107cells/mlが挙げられる。
【0039】
本発明の生体材料において、形成されるハイドロゲルには、水溶性ポリマー、細胞、及び水分以外に、必要に応じて、細胞の増殖を促進させる成分、薬効成分、緩衝剤、安定化剤等が更に含まれていてもよい。
【0040】
水溶性ポリマーに導入されている反応性官能基Aと細胞表面に導入されている反応性官能基Bとを共有結合させてハイドロゲルを形成するには、反応性官能基Aと反応性官能基Bの種類に応じて両者が共有結合できる条件でインキュベートすればよい。
【0041】
また、本発明の生体材料は、液状又はゾル状の状態で投与して、患部でハイドロゲルを形成させてもよい。特に、投与時に液状又はゾル状の状態の場合、流動性があり、シリンジ等での投与が可能になるため、投与時に液状又はゾル状であり、患部でハイドロゲルを形成させる態様は、取扱の簡便性等の点から好ましいといえる。このように、投与時に液状又はゾル状で、投与後に患部でハイドロゲルを形成させるには、例えば、反応性官能基A及び反応性官能基Bとして、クリックケミストリーによって連結可能な反応性官能基(例えば、アルキニル基又はアジド基)を使用すればよい。アルキニル基とアジド基は、両者が共存することにより共有結合の形成が進行するので、患部に投与する前に、水、生理食塩水等の水性溶媒中で、反応性官能基Aを有する水溶性ポリマーと反応性官能基Bを有する細胞を混合して液状又はゾル状の混合物を調製し、共有結合の形成が進行してハイドロゲルが形成される前に、当該液状又はゾル状の混合物をシリンジ等で患部に適量投与すればよい。投与された液状又はゾル状の混合物は、患部でクリックケミストリーによる共有結合の形成が進行し、ハイドロゲルが形成される。
【0042】
また、本発明の生体材料は、投与前に予めハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル自体を患部に投与してもよい。投与前に予めハイドロゲルを形成するには、例えば、(1)所定の形状の型を用いて、反応性官能基Aを有する水溶性ポリマーと、共有結合可能な反応性官能基Bを表面に有する細胞とを、水性溶媒中で混合し、反応性官能基Aと反応性官能基Bが共有結合できる条件でインキュベートして、所望の形状のハイドロゲルを形成する方法、(2)共有結合可能な反応性官能基Bを表面に有する細胞とを、水性溶媒中で混合し、反応性官能基Aと反応性官能基Bが共有結合できる条件でインキュベートしてハイドロゲルを形成した後に、所定の形状になるようにハイドロゲルをカットする方法等によって行うことができる。
【0043】
また、反応性官能基Aを有する水溶性ポリマーと、反応性官能基Bを表面に有する細胞と用いて、反応性官能基Aと反応性官能基Bが共有結合させて形成したハイドロゲルは、当該ハイドロゲル2個以上を接触させた状態でインキュベートすると、接触面において一方のハイドロゲルと他方のハイドロゲルが、カドヘリンを介した細胞接着により結合して、2個以上のハイドロゲルを接着させることができる。従って、投与前に予めハイドロゲルを形成し、ハイドロゲル自体を患部に投与する場合には、反応性官能基Aを有する水溶性ポリマーと反応性官能基Bを表面に有する細胞を用いて形成した第1ハイドロゲルを2個以上作製した後に、更に2個以上の第1ハイドロゲルを所望の形状になるように接触させてインキュベートすることにより2個以上の第1ハイドロゲルが接着した第2ハイドロゲルを作製して、当該第2ハイドロゲルを患部に投与してもよい。ここで、2個以上の第1ハイドロゲルを接触させた状態でインキュベートする際、2個以上の第1ハイドロゲルを接触させた状態で、細胞が生育可能な培地に浸漬して行われる。また、2個以上の第1ハイドロゲルは、カルシウムイオンが必要になるカドヘリンを介した細胞間接着によって接着するので、前記培地には、カルシウムイオンが0.2重量%以上、好ましくは0.2~1.0重量%含まれていることが望ましい。2個以上の第1ハイドロゲルを接触させた状態でインキュベートする際の条件としては、例えば、37℃程度で6~24時間が挙げられる。
【0044】
[用途]
本発明の生体材料は、生体組織の損傷部位や欠損部位に投与し、生体組織の修復を行うために使用される。本発明の生体材料を損傷又は欠損した組織に適用すると、患部に定着したハイドロゲルが徐々に加水分解されると共に、ハイドロゲルに維持されている細胞によって生体組織の修復が効率的に行われる。
【0045】
本発明の生体材料によって修復の対象となる生体組織については、特に制限されず、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織、及びそれらが複合することによって形成されている臓器のいずれであってもよく、例えば、皮膚、骨、軟骨、心筋を含む筋肉などが対象となるが、より一層効果的に修復効果を奏させるという観点から、好ましくは上皮組織及び/又は上皮組織に隣接する結合組織(特に皮膚)、並びに筋組織(特に骨格筋)が挙げられ、より好適な例として、III度の状態の火傷、骨又は筋肉の挫滅や欠損に対して有効である。
【0046】
本発明の生体材料の投与方法については、修復の対象となる生体組織の種類に応じて適宜設定すればよく、例えば、経皮投与、注射等による局所投与等が挙げられる。
【0047】
また、本発明の生体材料の投与量については、修復の対象となる生体組織の種類や状態等に応じて適宜設定すればよい。本発明の生体組織修復剤が投与された部位は、正常組織への再生が行われるため、本発明の生体材料の投与量は、再生させるべき領域に補充するように投与すればよい。
【実施例
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0049】
1.アジドキが導入され、且つ水酸基がアセチル化されたマンノサミンの合成
DMT-MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)を縮合剤としてD-マンノサミン塩酸塩とアジド酢酸のカップリング反応を行った。D-マンノサミン塩酸塩(200 mg、0.93 mmol)を秤量し、40 mLの超純水(Milli-Q水)に溶かした。そこにDMT-MM(515 mg、1.86 mmol)とアジド酢酸 (139 μL、1.86 mmol)を加え、45℃に加熱して2日間反応させた。2日後、溶媒をエバポレーターで除去し、沈殿した副生成物と未反応物を除去するためメタノールで粗精製を行った。シリカゲルクロマトグラフィーでカラム精製を行い、薄層クロマトグラフィー(TLC)で目的物を確認できた分画のみ溶液を回収した。その際、使用した展開溶媒の組成は、メタノール:クロロホルム= 2 : 1(容量比)である。合成物をIR測定に供して、D-マンノサミンのアミノ基に基-CO-CH2-N3が結合している化合物(以下、「ManNAz」)が合成されていることを確認した。
【0050】
次に、ManNAzの4つのヒドロキシ基に対してアセチル化反応を行った。ManNAzと反応容器のフラスコを脱水するため一日減圧乾燥させた。窒素雰囲気下でManNAz(200 mg、0.76 mmol)をピリジン (5.5 mL、68.0 mmol)に溶かし、そこに無水酢酸(0.6 mL、6.84 mmol)を加え、30分間反応させた。合成物は以下のようにロートを用いた抽出により精製を行った。ジクロロメタンに溶かし、1 M塩酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で抽出を行った。有機相を硫酸マグネシウムで脱水し、吸引濾過で回収した溶液をエバポレーターにて溶媒の除去を行った。得られた合成物をIR測定、ESI-MS測定、及び1H-NMR測定に供し、D-マンノサミンのアミノ基に基-CO-CH2-N3が結合し、且つD-マンノサミンの4つの水酸基がアセチル化されているアジド化マンノサミン(以下、「Ac4ManNAz」)が合成されていることを確認した。
【0051】
2.Ac 4 ManNAzの細胞毒性試験
合成したAc4ManNAzの細胞毒性を調べるため、マウス筋芽細胞(C2C12細胞)を用いて、WST-1アッセイにより細胞への毒性を評価した。96 wellプレートに細胞を1×104 cells/wellずつ播種し、DMEM培地に溶かしたAc4ManNAzを所定量(終濃度0、0.0001、0.001、0.01、0.1、1 mM)加え、37℃のCO2インキュベーターで1日培養した。各wellにWST-1溶液(WST-1 : 1-Methoxy PMS = 9 : 1)を10 μL加え、2時間CO2インキュベーターで反応させた後、マイクロプレートリーダーで吸光度を測定した。吸光度から細胞の生存率を算出した。
【0052】
WST-1アッセイの結果を図1に示す。いずれの濃度においても生存率が90%以上であったことより、少なくとも5~100 μMであれば細胞に毒性なく使用できることが分かった。
【0053】
4.Ac 4 ManNAzの細胞糖代謝反応によるアジド化細胞の作製
100 μMのAc4ManNAzを含むDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養させ、Ac4ManNAzの細胞糖代謝反応により細胞膜タンパク質の糖鎖末端にアジド化シアル酸を生合成させた。培養後の細胞をPBSで2回洗浄した後、アジド基が導入されているかを確認するため、培地にcarboxyrhodamine 110 DBCO(終濃度5 μM)を加え、CO2インキュベーターで1時間反応させた。次いで、細胞をPBSで2回洗浄した後、live cell imaging buffer (溶液の組成:140 mM NaCl、2.5 mM KCl、1.8 mM CaCl2、1.0 mM MgCl2、20 mM HEPES pH 7.4) を加え、共焦点顕微鏡により細胞を観察した。
【0054】
Carboxyrhodamine 110 DBCOと反応させた後の細胞の共焦点顕微鏡画像を図2に示す。Ac4ManNAzを添加していない細胞ではcarboxyrhodamine 110由来の緑色蛍光は見られなかったが、Ac4ManNAzを添加した細胞では、細胞膜表面にのみ強い緑色蛍光が観察された。以上の結果より、細胞内に取り込まれたAc4ManNAzが糖代謝経路により細胞膜タンパク質糖鎖に導入され、そのアジド基は水中でクリック反応可能であることが示された。また、細胞膜表面の蛍光強度を定量した結果を図3に示す。Ac4ManNAzの濃度増大に伴い、緑色蛍光強度は増大したが、100 μM以上では飽和した。このことから細胞表面にアジド基を最大量導入できるAc4ManNAz濃度は100 μMであることがわかった。以下、Ac4ManNAzを含むDMEM培地でC2C12細胞を培養することにより得られた細胞を「アジド化C2C12細胞」と表記する。
【0055】
5.アジド化細胞の細胞増殖能の分析
アジド化C2C12細胞(NH3(+)-C2C12)と非アジド化C2C12細胞(未処理のC2C12細胞、NH3(-)-C2C12)をそれぞれ6 wellプレートに5×104 cells/well播種し、1週間培養した。その間、細胞を回収し、トリパンブルーアッセイにて細胞数をカウントした。これらの結果から培養日数と総細胞数の相関を表す細胞増殖曲線を作成した。
【0056】
アジド化C2C12細胞と非アジド化C2C12細胞の細胞増殖曲線を図4に示す。この結果から、アジド化C2C12細胞と非アジド化C2C12細胞との倍加時間は同程度であったことより、細胞膜上糖鎖にアジド基を導入しても細胞の増殖は変化しないことが分かった。
【0057】
6.分岐型アルギン酸の合成
分岐型アルギン酸(bAlg)の合成経路を図5に示す。bAlgは、DMT-MMを縮合剤として、以下のようにアルギン酸ナトリウム塩(Mw: 100,000)と4-arm PEG-amine(SUNBRIGHT PTE-200PA、Mw: 20,000)のカップリング反応により合成した。アルギン酸ナトリウム塩(100 mg、1 μmol)を秤量し、15 mLの超純水(MilliQ水)に溶かした。そこに、DMT-MM (33.2 μg、0.12 μmol) と4-arm PEG-amine(2 mg、0.1 μmol) 加え、溶液量をトータル20 mLにメスアップした。反応を開始してから6時間後、透析膜(MWCO:14,000)を用いて、2日間の透析を行い、更に2日間の凍結乾燥を行って合成物を得た。DLS測定により、合成物のサイズを調べた。また、1H-NMR測定(D2O, 85℃)により分子組成を調べた。
【0058】
アルギン酸一分子あたりに結合している4-arm-PEGの導入本数を求めた結果、4-arm-PEGは0.1本結合していることが分かった。これは、bAlgを合成する際の仕込み量であるアルギン酸:4-arm-PEG-NH2 = 10:1(モル比)と同程度であることより、目的のbAlgが生成できていることが確認できた。
【0059】
7.シクロオクチン化分岐型アルギン酸の合成
シクロオクチン化分岐型アルギン酸(bAlg-DBCO)の合成経路を図6に示す。DMT-MMを縮合剤として、bAlgとDBCO-PEG4-amineのカップリング反応を行った。bAlg (100 mg、1 μmol) を15 mLの超純水(Milli-Q水)に溶かした。そこに、DMT-MM(4.2 mg、15.3 μmol)とDBCO-PEG4-amine (6.7 mg、12.7 μmol)を加え、アルミホイルで遮光し、24時間室温で反応させた。24時間後、透析膜(MWCO:14,000)を用いて、2日間の透析を行い、更に2日間の凍結乾燥を行って合成物(bAlg-DBCO)を得た。1H-NMR測定 (D2O、85℃)により、bAlg一分子あたりのDBCO結合本数を算出した。
【0060】
1H-NMR測定の結果、合成されたbAlg-DBCOにおけるbAlg一分子あたりに導入されたDBCOの数は13本であることが分かった。以上より、bAlg-DBCOのおおよその分子量は1,026,807 g/molであることが分かった。
【0061】
8.アジド化細胞とbAlg-DBCOとのクリック反応の確認
前記で得られたbAlg-DBCOをFITCでラベル化した(bAlg-DBCO-FITC)。bAlg-DBCO(30 mg、0.029 μmol)を秤量し、5 mlの超純水(Milli-Q水)に溶かした。そこに、DMT-MM(2.9 mg、10.5 μmol)とFITC(1.2 mg、2.9 μmol)を加え、溶液量をトータル6 mLにメスアップした。反応を開始してから2日後、透析膜(MWCO:14,000)を用いて、2日間の透析を行い、さらに2日間の凍結乾燥を行って合成物(bAlg-DBCO-FITC)を得た。
【0062】
bAlg-DBCO-FITC水溶液(0.5 mg/mL)を調製し、KOH水溶液でpH7.4に調整した。100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養してアジド化した。トリプシン処理にてシャーレからアジド化細胞を剥がし、遠心分離(1000 rpm、3 min)で細胞のペレットを作製し、アジド化細胞に取り込まれていないAc4ManNAzを含む上清をアスピレーターで除去した。次いで、DMEM培地を加え、再度細胞懸濁液を作製し、CO2インキュベーターで1時間静置した。1時間後、4.5×104個のアジド化細胞のペレットを作製し、そこに125 μLの2% bAlg-DBCO-FITC水溶液と375 μLのDMEM培地を加え、bAlg-DBCO-FITCの終濃度を0.5%にし、振盪培養装置にて30分間反応させた。その後、アジド化細胞を1 mLのPBS溶液で2回洗浄し、8ウェルチャンバーに入れ、共焦点顕微鏡でアジド化細胞の観察を行った。また、bAlg-DBCO-FITCの代わりに、FITC標識したbAlg(bAlg-FITC)を用いて、同様の操作を行った。
【0063】
bAlg-DBCO-FITCと反応させたアジド化C2C12細胞、及びbAlg-FITCと反応させたアジド化C2C12細胞の共焦点顕微鏡画像を図7に示す。bAlg-DBCO-FITCでは、アジド化C2C12細胞の細胞膜上にFITC由来の緑色蛍光が観察された。アジド化細胞とbAlg-FITCの組み合わせでは緑色蛍光が見られなかったことより、細胞膜タンパク質糖鎖に導入されたアジド基は、bAlg-DBCOのアルキニル基とクリック反応可能であることが分かった。
【0064】
9.ハイドロゲルの作製
100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、アジド化した。トリプシン処理にてシャーレからアジド化細胞を剥がし、遠心分離(1000 rpm、3 min)でアジド化細胞のペレットを作製し、取り込まれていないAc4ManNAzを含む上清をアスピレーターで除去した。次いで、DMEM培地を加え、再度細胞懸濁液を作製し、CO2インキュベーターで1時間静置させ、アジド化細胞のナーシングを行った。1時間後、エッペンチューブに所定数のアジド化細胞のペレット(0.5×106個、1×106個、2×106個)を作製し、そこに、前記で得られたbAlg-DBCOをHEPES buffer(200 mM HEPES、800 mM KOH水溶液でpH7.4に調整)で溶かしたbAlg-DBCO水溶液(bAlg-DBCOの濃度は1重量%又は2重量%、KOH水溶液でpH7.4に調整)を加え、30回優しくピペッティングを行い、均一に懸濁した。懸濁液をサンプル管に移し、所定時間後(0、0.5、3、6、24時間後)に試験管傾斜法(試験管を傾けて30秒維持したとき、溶液が流れればゾル、流れなければゲルと評価する方法)でゲル化の有無を調べた。また、bAlg-DBCOの代わりに、bAlgを用いて同様の操作を行った。
【0065】
試験管傾斜法の結果を図8に示す。bAlg-DBCO濃度が高い場合(2%)、いずれの細胞数(0.5×106、1×106、2×106個)においてもゲルが形成した。コントロールであるアジド化細胞とbAlgとの組み合わせでは、ゲル化は起こらなかった。以上のことより、得られたゲルは、アジド化C2C12細胞とbAlg-DBCOとのクリック架橋反応により得られたゲルであることがわかった。また、2×106個のアジド化細胞と2% bAlg-DBCO溶液との組み合わせでは、反応させて30秒後にはゲル化した。更に、この条件で形成されたゲルの上に500 μLのDMEM培地を添加し、CO2インキュベーターに1時間静置させてもゲルは崩壊しなかった。培地を除去し、取り出したゲルをスライドガラスに乗せた写真を図9に示す。ゲルはスライドガラス上でも崩壊せず、そのままの形状を維持した。このことより、bAlg-DBCOとアジド化細胞を用いて形成させたハイドロゲルは、比較的高いハンドリング特性を有することがわかった。
【0066】
10.様々な細胞を用いたハイドロゲルの作製
使用する細胞種としてC2C12細胞以外に、MCF-7細胞(ヒト乳がん由来細胞)とHL-60細胞(ヒト白血病由来細胞)を用いてハイドロゲルの作製を行った。ハイドロゲルを作製する方法は前述の通りである。100 μMでAc4ManNAzを溶かしたDMEM培地(MCF-7細胞)又はRPMI培地(HL-60細胞)で各細胞を3日間培養してアジド化し、2×106個のアジド化細胞のペレットを2重量% bAlg-DBCO水溶液 (KOH水溶液でpH7.4に調整)で懸濁し、試験管傾斜法でゲル化の有無を調べた。
【0067】
アジド化MCF-7細胞及びアジド化HL-60細胞を用いてクリック架橋反応させた結果を図10に示す。MCF-7細胞及びHL-60細胞は、共に細胞数が2×106個、2重量%のbAlg-DBCO濃度の条件において、撹拌30秒後にハイドロゲルを形成した。即ち、本手法では、普遍的な手法により細胞をアジド化しているため、今回使用した3種類の細胞種だけではなく、組織再生能を有する幅広い細胞種でハイドロゲルを作製可能であることが確認された。
【0068】
11.凍結保存していた細胞を用いたハイドロゲルの作製
100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、作製したアジド化C2C12細胞を凍結保存した。凍結したアジド化C2C12細胞を融解再培養し、エッペンチューブに2×106個のアジド化細胞のペレットを作製し、そこにHEPES bufferで溶かした100 μLの2%のbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)を加えて反応させ、ゲル化するかを試験管傾斜法で調べた。
【0069】
凍結保存していたアジド化細胞を用いて作製したハイドロゲルの画像を図11に示す。この結果、凍結保存していたアジド化細胞を用いbAlg-DBCO溶液と混合した後、1分以内にはゲルを形成した。これより、アジド化細胞は凍結による長期保存が可能であり、化学素材として十分な長期保存特性を有することが示された。
【0070】
12.ハイドロドゲルの成型性の評価
100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、アジド化C2C12細胞を作製した。次いで、2×106個のアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、そこにHEPES bufferで溶かした100 μLの2重量%のbAlg-DBCO-FITC水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)を加え、30回優しくピペッティングを行い、均一に懸濁した。懸濁液をピペットで吐出し、スライドガラス上に“FIRST”という文字を描き、37℃のCO2インキュベーターで30分間静置させた。
【0071】
その結果、図12に示すように、意図した通りの形状でゲルが形成された。このように、自在に文字を書けることより、細胞ハイブリッドゲルは高い成型性を有することが分かった。
【0072】
13.ハイドロゲルの共焦点顕微鏡観察及びSEM観察
100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、作製したアジド化C2C12細胞をCytoTellTM Redで染色した。2×106個のアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、それに前記で作製したbAlg-DBCO-FITCを2重量%となるようにHEPES bufferで溶かしたbAlg-DBCO-FITC水溶液100 μLを混合し、サンプル管内で細胞架橋ゲルを作製した。次いで、500 μLのDMEM培地を静かに加え、1時間CO2インキュベーターで静置させた後、スパチュラを使ってゲルを3.5 cmのガラスボトムディッシュの上に取り出した。得られたゲルの共焦点顕微鏡観察を行った。観察後、1 mLのPBS溶液で2回洗浄し、凍結乾燥を行った。得られたサンプルを割断して、割断表面を上に向け試料台に固定した。オスミウムでサンプルをコーティングし、ゲルネットワーク構造の走査型電子顕微鏡(JSM-7001FA、日本電子、以下SEM)観察を行った。
【0073】
作製したハイドロゲルの共焦点顕微鏡の3次元画像を図13に示す。bAlg-DBCO-FITC由来の緑色蛍光が3次元画像全体に見られ、その中にCytoTellTM Redで染色した赤色の細胞が存在している。つまり、得られたハイドロゲルは、細胞が系全体に均一に分散している三次元の構造体であることが分かった。図14に、ハイドロゲル内の一部を拡大した画像を示す。細胞の周囲には繊維状のアルギン酸ネットワークが存在しているが、細胞が存在するところにアルギン酸ネットワークは存在してない。つまり、ゲル内で細胞とアルギン酸ネットワークはミクロ相分離していることが分かった。図15に、得られたハイドロゲルを凍結乾燥し、その割断表面のSEM画像を示す。ゲル特有のスポンジ状のネットワーク構造が見られ、またゲルネットワークと細胞がつながっていることが確認できた。
【0074】
14.ハイドロゲル内の細胞の生存性の評価
100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、アジド化C2C12細胞を作製した。トリプシン処理にてシャーレからアジド化C2C12細胞を剥がし、遠心分離(1000 rpm、3 min)でアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、取り込まれていないAc4ManNAzを含む上清をアスピレーターで除去した。更にアジド化C2C12細胞のペレットにDMEM培地を加え、再度細胞懸濁液を作製し、CO2インキュベーターで1時間静置させ、アジド化C2C12細胞のナーシングを行った。1時間後、エッペンチューブに所定数のアジド化C2C12細胞のペレットのペレットを作製し、そこに前記で作製したbAlg-DBCOを2重量%に溶解させたbAlg-DBCO水溶液 (KOH水溶液でpH7.4に調整)を加え、30回優しくピペッティングを行い、撹拌した。得られた懸濁液を8ウェルチャンバーに30 μLずつ分注した。30分間、CO2インキュベーター内に静置後、DMEM培地を400 μLずつ加え、培養を行った。所定培養日数(Day 0、1、3、5、7)後にCalcein AM及びPI溶液を各1 μLずつを加え、30分染色を行った。30分後、共焦点顕微鏡でゲル内の細胞を観察した。共焦点顕微鏡画像3枚から、生細胞および死細胞の数をカウントし、生存率を算出した。
【0075】
ハイドロゲル内のアジド化C2C12細胞の共焦点顕微鏡画像を図16に示す。Calcein AM由来の緑色蛍光を発する細胞は生細胞を示し、PI由来の赤色蛍光を発する細胞は死細胞を示している。ハイドロゲルを作製した直後のDay 0では、ゲル全体に生細胞が多く見られ、それはゲルを培養してから1週間後においても同様であった。図17には、共焦点顕微鏡画像より生細胞数、死細胞数をそれぞれカウントし、生存率を算出した結果を示す。細胞ハイブリッドゲル内の細胞は、培養してから1週間後においても生存率が90%以上を維持しており、高い生存性を示した。以上のことより、ハイドロゲル内の細胞は長期的に生存可能であることが確認された。
【0076】
15.ハイドロゲル内の細胞の増殖性及びハイドロゲルの分解特性の評価
100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、アジド化C2C12細胞を作製した。次いで、トリプシン処理にてシャーレからアジド化C2C12細胞を剥がし、遠心分離(1000 rpm、3 min)でアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、取り込まれていないAc4ManNAzを含む上清をアスピレーターで除去した。更に得られたアジド化C2C12細胞のペレットにDMEM培地を加え、再度細胞懸濁液を作製し、CO2インキュベーターで1時間静置させ、アジド化C2C12細胞のナーシングを行った。1時間後、エッペンチューブに所定数のアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、そこに前記で得られたbAlg-DBCOを2重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)100 μLを加え、30回優しくピペッティングを行い、撹拌した。得られた懸濁液を96 wellプレートの各ウェルに10 μLずつ分注し、190 μLのDMEM培地を加え、CO2インキュベーターで培養を行った。所定日数(Day 0、1、2、3、4、5、6、7)後、5 μLのWST-1溶液を加え、2時間反応させた。ゲルを50回のピペッティングで、粉砕し、遠心分離(4000 rpm、3 min)を行い細胞と高分子を沈めた。上清100 μLを96 well の別のwellに移し、マイクロプレートリーダーで吸光度を測定した。コントロールでは、24 wellプレートにC2C12細胞を1.6×103個播種し、1週間後まで培養した時の、各日数で得られた吸光度を用いた。
【0077】
別途、100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、アジド化C2C12細胞を作製した。次いで、トリプシン処理にてシャーレからアジド化C2C12細胞を剥がし、遠心分離(1000 rpm、3 min)でアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、取り込まれていないAc4ManNAzを含む上清をアスピレーターで除去した。アジド化C2C12細胞のペレットにDMEM培地を加え、再度細胞懸濁液を作製し、CO2インキュベーターで1時間静置させ、アジド化C2C12細胞のナーシングを行った。1時間後、エッペンチューブに1×106個のアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、そこに前記で得られたbAlg-DBCOを2重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)50 μLを加え、30回優しくピペッティングを行い、撹拌した。次いで、懸濁液の重量を計ったエッペンチューブに移し、1 mLのDMEM培地を加えた。エッペンのフタを軽く閉じ、CO2が入るだけの隙間を作った。所定日数(Day 0、1、2、3、4、5、6、7)後、アスピレーターでDMEM培地を除去し、ゲルの重量を測定した。その後、ゲルを凍結乾燥し、重量を測定した。
【0078】
ハイドロゲル内に存在するアジド化C2C12細胞数の時間変化を図18に示す。ハイドロゲル内のアジド化C2C12細胞数は4日目までは増え、それ以降は減少した。ハイドロゲルの乾燥重量の時間変化を図19に示す。また、ハイドロゲル全体の乾燥重量を調べたところ、4日目までは増え、それ以降は減少した。ハイドロゲルの乾燥重量の増大分は、ゲル内で増えた細胞数の乾燥重量とよく一致したことより、乾燥重量の変化は主にハイドロゲル内のアジド化C2C12細胞数の変化によるものだと考えられる。想定されるハイドロゲルの分解機構を図20に示す。本発明のハイドロゲルでは、細胞が架橋点であり、その細胞に高分子ネットワークが結合しているため、細胞の分裂は架橋点の減少を意味する。つまり、細胞分裂を伴う細胞増殖が起こるにつれてゲル重量は増大するが、同時に架橋点は徐々に減少し、4日目以降はネットワークを維持できなくなりゲルは崩壊したと考えられる。つまり、本発明のハイドロゲルでは、架橋点である細胞の増殖(分裂)がゲル全体に伝わり、ゲルの崩壊につながったと言える。このシステムでは、様々な細胞を用いて架橋ゲルをつくることができるため、用いる細胞の倍加時間によりゲルの崩壊時間を変化させることができると考えられる。
【0079】
16.ハイドロゲルの表面に存在する細胞の接着性の評価
100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、アジド化C2C12細胞を作製した。トリプシン処理にてシャーレからアジド化C2C12細胞を剥がし、遠心分離(1000 rpm、3 min)でアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、取り込まれていないAc4ManNAzを含む上清をアスピレーターで除去した。更に、得られたアジド化C2C12細胞のペレットにDMEM培地を加え、再度細胞懸濁液を作製し、CO2インキュベーターで1時間静置させ、アジド化C2C12細胞のナーシングを行った。後半の30分間には、CytoTellTM Red(1 μL/mL)を加え、細胞の染色を行った。1時間後、エッペンチューブにアジド化細胞のペレットを作製し、そこに前記で得られたbAlg-DBCOを2重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)100 μLを加え、30回優しくピペッティングを行い、撹拌した。次いで、2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine (MPC) ポリマーコートシャーレとコラーゲンコートシャーレ上にブルーチップを加工して作った囲いを置き、その中に前記で得られた懸濁液を流し込みゲルを作製した。更に8 mLのDMEM培地を加え、CO2インキュベーター内で培養し、24時間後にゲルの表面に存在する細胞がシャーレと接着しているかを共焦点顕微鏡観察により調べた。
【0080】
コラーゲンコートしたシャーレに接着したハイドロゲルに1 mLのトリプシン溶液を加え、CO2インキュベーター内で10分間静置した後、別のコラーゲンコートシャーレに移し、再度ゲルが接着するか調べた。
【0081】
位相差顕微鏡画像及びゲルの画像を図21に示す。ハイドロゲルをコラーゲンコートシャーレ上に置くと、ハイドロゲル表面の細胞はシャーレに接着し、ハイドロゲル全体としてもシャーレに接着した。一方、MPCポリマーコートシャーレ上では、ハイドロゲル表面の細胞は接着せず、ハイドロゲル全体としてもシャーレに接着しなかった。ハイドロゲル、コラーゲンコートシャーレ上に接着したハイドロゲルをトリプシンで処理すると、ハイドロゲル表面の細胞がシャーレからはがれ、ゲル全体もシャーレから剥がれた。その後、ハイドロゲルをシャーレ上に置いておくと再びゲルは接着した。つまり、ハイドロゲルでは、ハイドロゲル表面の細胞が示す基質選択的な接着反応が高分子ネットワークを介して伝わり、ハイドロゲル全体が基質選択的な接着反応を示したことになる。これらの結果より、本発明のハイドロゲルは、架橋点である細胞の反応を利用して、ハイドロゲル全体に新しい機能を発現させることができるシステムであることを実証した。
【0082】
一般に、ハイドロゲルは多く含まれる水が潤滑剤となるため、固体の素材よりも摩擦係数が著しく低く、ほとんどの素材に接着できないことが知られている。それに対して、細胞は、幅広い表面特性を有する素材に接着性を示すことが知られている。本発明のハイドロゲルの場合も、アルギン酸ゲルはシャーレに接着しないが、細胞が接着するため、ハイドロゲル全体としてシャーレに接着している。つまり本発明のハイドロゲルは、ゲルの応用を著しく制限する重大な問題点である「素材非接着性」を解決できるものであり、ゲル科学にブレークスルーをもたらすと期待される。
【0083】
17.ハイドロゲル同士の接着性の評価
100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、アジド化C2C12細胞を作製した。トリプシン処理にてシャーレからアジド化C2C12細胞を剥がし、遠心分離(1000 rpm、3 min)でアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、取り込まれていないAc4ManNAzを含む上清をアスピレーターで除去した。次いで、アジド化C2C12細胞2×106個をエッペンチューブに集めてペレットにし、そこに前記で得られたbAlg-DBCOを2重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)100 μLを加え、30回優しくピペッティングを行い、撹拌した。得られた懸濁液を速やかにトランスウェルに入れ、30分インキュベーター内で静置した後、0.5重量%塩化カルシウムを含むDMEM培地内にトランスウェルのまま入れインキュベーター内で3時間静置し、トランスウェル内でハイドロゲルを形成させた。次いで、トランスウェル内のハイドロゲルを取り出し、別途同条件で作製したハイドロゲルにトランスウェル内で重ね合わせた状態にして、ガラス破片で重しをして0.5重量%塩化カルシウムを含むDMEM培地内で更に18時間インキュベーター内で静置し、取り出した。
【0084】
結果を図22に示す。その結果、ハイドロゲルを重ね合わせ、静置すると細胞ゲル同士は界面で接着し、培地内でゆすったり、ピンセットでつまみあげたりしても離れることはなかった。
【0085】
18.ハイドロゲル同士の接着要因の解明
100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、アジド化C2C12細胞を作製した。トリプシン処理にてシャーレからアジド化C2C12細胞を剥がし、遠心分離(1000 rpm、3 min)でアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、取り込まれていないAc4ManNAzを含む上清をアスピレーターで除去した。次いで、アジド化C2C12細胞2×106個をエッペンチューブに集めてペレットにし、そこに前記で得られたbAlg-DBCOを2重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)100 μLを加え、30回優しくピペッティングを行い、撹拌した。得られた懸濁液を速やかにトランスウェルに入れ、30分インキュベーター内で静置した後、0.5重量%塩化カルシウムを含むDMEM培地内にトランスウェルのまま入れインキュベーター内で3時間静置し、トランスウェル内でハイドロゲルを形成させた。次いで、得られたハイドロゲルを8wellチャンバーにいれ、アルキン化ローダミン(終濃度30 μM)を添加し、1時間インキュベートして、ハイドロゲル表面に存在する未反応のアジド基を反応させた。。その後、PBSでwashし、同処理を行った2つのハイドロゲルを重ね合わせ、重しを置き、DMEM培地(Ca2+イオン濃度0.5%)内で18時間静置した。
【0086】
図23に、ハイドロゲル作製後にアルキン化ローダミンを反応させて共焦点顕微鏡で観察した結果を示す。この結果、ハイドロゲル内部の細胞膜表面にローダミン由来の蛍光が見られたことから、クリック反応が行われなかった未反応のアジド基の存在が明らかになった。また、アルキン化ローダミンと反応させたハイドロゲル2つを重ね合わせてインキュベートした結果を図24に示す。この結果、2つのハイドロゲルは接着したため、ハイドロゲル同士の接着は、クリック反応ではなく、細胞間結合が共同的に働いたり、アルギン酸ネットワークのゲル間で絡まり合いが増強されたりしたことに起因していると考えられた。
【0087】
17.ハイドロゲル同士の接着にカルシウムイオンが及ぼす影響の解明
100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地でC2C12細胞を3日間培養し、アジド化C2C12細胞を作製した。トリプシン処理にてシャーレからアジド化C2C12細胞を剥がし、遠心分離(1000 rpm、3 min)でアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、取り込まれていないAc4ManNAzを含む上清をアスピレーターで除去した。次いで、アジド化C2C12細胞2×106個をエッペンチューブに集めてペレットにし、そこに前記で得られたbAlg-DBCOを2重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)100 μLを加え、30回優しくピペッティングを行い、撹拌した。得られた懸濁液を速やかにトランスウェルに入れ、30分インキュベーター内で静置した後、0.5重量%塩化カルシウムを含むDMEM培地内にトランスウェルのまま入れインキュベーター内で3時間静置し、トランスウェル内でハイドロゲルを形成させた。次いで、トランスウェル内のハイドロゲルを取り出し、別途同条件で作製したハイドロゲルにトランスウェル内で重ね合わせた状態にして、ガラス破片で重しをしてカルシウムイオン(0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%、及び0.5重量%)を含むDMEM培地内で更に18時間インキュベーター内で静置し、取り出した。
【0088】
結果を図25に示す。カルシウムイオンが0.4重量%及び0.5重量%の条件で2つのハイドロゲルを接触させてインキュベートすると、ハイドロゲル同士の接着が認められたが、カルシウムイオンが0.3重量%以下の条件で2つのハイドロゲルを接触させてインキュベートしても、ハイドロゲル同士の接着が認められなかった。即ち、ハイドロゲル同士の接着にはカルシウムイオンの濃度が関与していることがわかった。カドヘリンを用いた細胞間結合にはカルシウムイオンが必要であるため、本発明におけるハイドロゲル同士の接着はカドヘリンを介した細胞間結合によって生じていると考えられる。
【0089】
17.生体組織を用いたハイドロゲルの作製
6 mgのAc4ManNAzをDMSOとPBS溶液の混合溶媒(58% DMSO)に溶かし、Ac4ManNAz溶液を調製した。得られたAc4ManNAz溶液200 μLをマウス(ICR、5週齢、雌)の腹腔内に1日1回の頻度で7日間連続投与し、マウスの組織をアジド化した。1週間後、マウスの肺、心筋、骨格筋、腎臓をそれぞれ摘出した。摘出した組織を100 μMのcarboxyrhodamine 110 DBCOで1時間反応させた後、PBS溶液を加え、ボルテックスを行い、10分静置させる作業を3回繰り返した。コントロールとしては、Ac4ManNAz溶液を投与していないマウスから摘出した組織にcarboxyrhodamine 110 DBCO を1時間反応させたものを用いた。更に、Ac4ManNAz溶液を投与したマウスの組織を用いて、前記で得られたbAlg-DBCOを0.1重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)と反応させ、組織を構成するアジド化細胞とbAlg-DBCOとの間でクリック反応が起こるか否かを共焦点顕微鏡で観察し調べた。マウスの組織を用いてゲル化反応を行うため、上記と同様の操作でマウスにAc4ManNAz溶液を投与し、マウスから肺、脳、筋組織、腎臓、心臓、肝臓を摘出した。前記で得られたbAlg-DBCOを2重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液を、摘出した組織と同重量となるように摘出した組織に加え、ピペッティングを行い、試験管傾斜法によりゲル化の有無を調べた。
【0090】
未処理のマウスから摘出した各組織(肺、心筋、骨格筋、腎臓)と、Ac4ManNAz溶液を投与したマウスから摘出した各組織をbAlg-DBCO-FITCと反応させて、共焦点顕微鏡にて観察した画像を図26に示す。Ac4ManNAz溶液を投与したマウスの組織はいずれにおいても、FITC由来の緑色蛍光が観察されたが、Ac4ManNAz溶液を投与していないコントロールマウスでは緑色蛍光が見られなかったことより、Ac4ManNAzの投与により生体レベルでアジド化が可能であり、更に組織を構成する細胞表面のアジド基もシクロオクチン基とクリック反応可能であることが分かった。以上の結果を踏まえ、2重量%のbAlg-DBCO水溶液とアジド化された各組織とのゲル反応を試みた。ゲル化の有無を試験管傾斜法より調べ、その結果を図27に示す。この結果、いずれの組織においてもハイドロゲル形成が確認された。以上の結果より、組織を高分子で架橋した組織ハイブリッドゲルを世界で初めて作製することができた。
【0091】
18.In vivoでのハイドロゲルの作製
LifeAct-EGFP遺伝子をトランスフェクションしたC2C12細胞を作製した。当該C2C12細胞を、100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地で3日間培養し、アジド化C2C12細胞を作製した。次いで、4×106個のアジド化C2C12細胞のペレットを作製し、そこに前記で得られたbAlg-DBCOを2重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)200 μLを加え、30回優しくピペッティングを行い、撹拌した。得られた懸濁液200 μLをヌードマウス(BALB/c-nu/nu、5週齢、雌)の背中に皮下注入した。投与して30分後に投与部位を開き、投与した懸濁液のハイドロゲルの形成の有無調べた。
【0092】
マウス皮下の画像を図28に示す。この結果、投与部位でハイドロゲルが存在していたことより、アジド化細胞とbAlg-DBCOの懸濁液は生体に注射投与可能であり、投与された生体内でハイドロゲルを形成可能であることが分かった。
【0093】
19.大腿筋損傷モデルマウスへのハイドロゲルの投与試験(1)
ヌードマウス(雌、5週齢、BALB/c-nu/nu)を、ハイドロゲルゲル投与群、及びPBS投与群(各群3匹)に分けた。各ヌードマウスの一方の肢の内側大腿筋を約100 mg切除して損傷を作製した後に、ナイロン製縫合糸で皮膚を縫合した。損傷の作製から1日後に、各群のヌードマウスに対して以下の処置を行った。
【0094】
ハイドロゲルゲル投与群では、以下の処置を行った。LifeAct-EGFP遺伝子をトランスフェクションしたC2C12細胞を、100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地で3日間培養し、アジド化C2C12細胞を作製した。得られたアジド化C2C12細胞5×106個のペレットを作製し、そこに前記で得られたbAlg-DBCOを2重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)250 μLを加え、30回優しくピペッティングを行い、撹拌した。得られた懸濁液250μlを損傷の作製から1日後の筋損傷部に注入した。
【0095】
また、PBS投与群では、LifeAct-EGFP遺伝子をトランスフェクションしたC2C12細胞 5×106個をPBS 250μlに懸濁させ、当該懸濁液を損傷の作製から1日後の筋損傷部に注入した。
【0096】
損傷を作製する前日、及び損傷を作製した日から15日後まで経時的に、損傷を作製した肢の筋力を測定した。肢の筋力の測定は、損傷を作製していない肢の指をマスキングテープで覆い、自由を奪った後に、小動物用握力測定装置(「GPM-100B」、有限会社メルクエスト)を用いて、損傷を作製した肢の筋力を測定した。損傷後の筋力を0として、損傷を作製した日以降の筋力を測定し、その差から回復率を求めた。また、損傷を作製した日から15日後に損傷形成部位を切開し、内側大腿筋の状態を観察した。
【0097】
ハイドロゲルゲル投与群において、切り出した部位の蛍光顕微鏡画像を図29に示す。ハイドロゲルゲル投与群では、移植した細胞が密に存在し、また細胞の配向性が高いことが分かった。更に、ハイドロゲルゲル投与群では、未熟ではあるものの筋繊維の形成が見られた。H&E染色した組織切片の解析結果も同様で、ハイドロゲルゲル投与群では、再建した組織内に高い割合で筋繊維が存在した。筋力の時間推移を図30に示す。切除後の筋力を0とし、そこからの回復量を測定したところ、PBS投与群と比べ、ハイドロゲルゲル投与群では、有意に高い筋力回復を示した。これらの結果より、本発明のハイドロゲルは、損傷部位に細胞を近くに留めておくことができるため、細胞融合による筋繊維の形成が促進され、高い筋力回復につながったと考えられる。
【0098】
20.大腿筋損傷モデルマウスへのハイドロゲルの投与試験(2)
ヌードマウス(雌、5週齢、BALB/c-nu/nu)を、ハイドロゲルゲル投与群、及びPBS投与群(各群3匹)に分けた。各ヌードマウスの一方の肢の内側大腿筋を約100 mg切除して損傷を作製した後に、ナイロン製縫合糸で皮膚を縫合した。損傷の作製から1日後に、各群のヌードマウスに対して以下の処置を行った。
【0099】
ハイドロゲルゲル投与群では、以下の処置を行った。DiIで細胞膜を染色したヒト脂肪由来幹細胞(ADSC)を、100 μMのAc4ManNAzのDMEM培地で3日間培養し、アジド化ADSCを作製した。得られたアジド化ADSC 4.5×106個のペレットを作製し、そこに前記で得られたbAlg-DBCOを2重量%となるようにHEPES bufferで溶解したbAlg-DBCO水溶液(KOH水溶液でpH7.4に調整)200 μLを加え、30回優しくピペッティングを行い、撹拌した。得られた懸濁液200μlを損傷の作製から1日後の筋損傷部に注入した。
【0100】
また、PBS投与群では、DiIで細胞膜を染色したADSC 5×106個をPBS 250μlに懸濁させ、当該懸濁液を損傷の作製から1日後の筋損傷部に注入した。
【0101】
損傷を作製する前日、及び損傷を作製した日から14日後まで経時的に、損傷を作製した肢の筋力を測定した。肢の筋力の測定は、損傷を作製していない肢の指をマスキングテープで覆い、自由を奪った後に、小動物用握力測定装置(「GPM-100B」、有限会社メルクエスト)を用いて、損傷を作製した肢の筋力を測定した。損傷を作製した日以降の筋力を測定し、回復率を求めた(筋損傷前の筋力が100%)。また、損傷を作製した日から14日後に損傷形成部位を切開し、内側大腿筋の状態を観察した。
【0102】
切り出した部位の蛍光顕微鏡画像を図31に示す。PBS投与群では、筋組織の再生は見られなかったが、ハイドロゲル投与群では、筋繊維の再生が確認でき、本発明は従来法よりも高い筋組織再生促進効果を示すことが分かった。また、筋力の時間推移を図32に示す。PBS投与群と比べ、ハイドロゲルゲル投与群では、有意に高い筋力回復を示した。
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