(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】組成物、光学要素、圧電素子、センサ、光電変換素子、発電装置、及び、化合物
(51)【国際特許分類】
C09K 19/34 20060101AFI20240528BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240528BHJP
H10N 30/857 20230101ALI20240528BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240528BHJP
H10K 30/60 20230101ALI20240528BHJP
C07D 333/18 20060101ALI20240528BHJP
G02B 1/08 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C09K19/34
H10N30/30
H10N30/857
H10N30/20
H10K30/60
C07D333/18
G02B1/08
(21)【出願番号】P 2019158130
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】吉尾 正史
(72)【発明者】
【氏名】関 淳志
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-108233(JP,A)
【文献】Amaresh Mishra et al.,Chem. Rev.,2009年,109,1141-1276,DOI: 10.1021/cr8004229
【文献】Atsushi Seki et al.,Phys. Chem. Chem. Phys.,19,2017年,16446-16455,DOI: 10.1039/c7cp02624b
【文献】Atsushi Seki et al.,Organic Electronics,2018年,62,311-319,DOI: 10.1016/j.orgel.2018.08.007
【文献】Takeo Sasaki et al.,Faraday Discuss.,2014年,174,203-218,DOI: 10.1039/c4f00068d
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 19/34
H10N 30/30
H10N 30/857
H10N 30/20
H10K 30/60
C07D 333/18
G02B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される第1化合物と、式2で表される第2化合物と、を含有し、
前記第1化合物がアキラル分子であり、前記第2化合物がキラル分子であり、
前記組成物中における前記第1化合物の含有量と、前記第2化合物の含有量の合計に対する、前記第2化合物の含有量の含有モル比が0.05~0.95である、組成物。
【化1】
【化2】
式1中、
R
1は、炭素原子数が3~12個の1価の鎖状炭化水素基を表し、
D
1は、繰り返し数が2~10のポリチオフェンを主骨格とする2価の基を表し、
A
1は、式A1~A4からなる群より選択される基を表し、
式A1~A4において、PL
1は、ハロゲン原子、又は、ハロゲン化アルキル基を表し、
X
1はヘテロ原子を有していてもよい炭素原子数が3~12個の1価の鎖状炭化水素基を表わす。
【化3】
【化4】
【化5】
式2中、
R
2は、炭素原子数が3~12個の1価の鎖状炭化水素基を表し、
D
2は、繰り返し数が2~10のポリチオフェンを主骨格とする2価の基を表し、
A
2は、式B1の基を表し、
式B1中、QL
1は前記主骨格との結合位置に対してメタ位、又は、パラ位に配置された式C1で表される置換基であり、
式C1中、Lpは-O-であり、Rpは式Rp1~Rp3からなる群より選択される
不斉炭素を有する1価の基であり、式Rp1~Rp3において、n=2~10の整数であり、m=3~9の整数であり、p=4~8の整数であり、
X
2は水素原子、又は、1価の基であり、複数あるX
2は同一でも異なってもよい。
式1のD
1及び式
2のD
2は同一の前記主骨格を有し、各式中、*は結合位置を表す。
【請求項2】
キラルネマチック相の形成用である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記式B1において、前記複数あるX
2の少なくとも1つが、ハロゲン化アルキル基である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記式A1~A4中の前記PL
1と、前記式B1中の前記複数あるX
2の少なくとも1つとが、同一のハロゲン化アルキル基である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ハロゲン化アルキル基がハロゲン化メチル基である、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項6】
前記含有モル比が0.05~0.6である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物を含む光学要素。
【請求項8】
円偏光発光素子である、請求項7に記載の光学要素。
【請求項9】
前記組成物がキラルネマチック相を発現している、請求項7又は8に記載の光学要素。
【請求項10】
対向して配置された一対の電極と、前記電極間に配置された請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物とを有する圧電素子。
【請求項11】
請求項10に記載の圧電素子を有するセンサ。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物を有する光電変換素子。
【請求項13】
請求項12に記載の光電変換素子を有する発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、光学要素、圧電素子、センサ、光電変換素子、発電装置、及び、化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
自発分極を有して強誘電性を示す強誘電性液晶が知られている。従来、強誘電性液晶としてはSmC*(スメクチックC*)相を発現するものがディスプレイ用途等に用いられてきた。
近年、非特許文献1に示すような、電荷輸送性を示す強誘電性液晶化合物が報告され、注目されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】A. Seki, M. Funahashi, Chem. Lett., 45, 616 (2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、強誘電性液晶化合物は、電子性キャリアの輸送を意図した材料ではなく、電荷輸送効率は低かった。また、非特許文献1に記載された強誘電性液晶化合物は、不斉炭素原子を有するキラル化合物であり、電荷輸送性を有する強誘電性液晶化合物の応用を考える場合、その製造コストに課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、不斉炭素原子を有する化合物の含有量が少なくとも、優れた強誘電性、及び、優れた電子輸送性を両立できる組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、光学要素、圧電素子、センサ、光電変換素子、発電装置、及び、化合物を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
鋭意検討した結果、本発明者らは、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
[1] 後述する式1で表される第1化合物と、後述する式2で表される第2化合物と、を含有する組成物。
[2] 上記第2化合物がキラル分子である、[1]に記載の組成物。
[3] 上記第1化合物がアキラル分子である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] キラルネマチック相の形成用である[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 上記主骨格がオリゴチオフェンである[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 後述する式B1、及び、後述する式B2において、X2として少なくとも1つのハロゲン化アルキル基を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 後述する式A1~A7中、PL
1
が、上記ハロゲン化アルキル基と同一の基である、[6]に記載の組成物。
[8] 上記ハロゲン化アルキル基がハロゲン化メチル基である、[6]又は[7]に記載の組成物。
[9] 上記組成物中における上記第1化合物の含有量と、上記第2化合物の含有量の合計に対する、上記第2化合物の含有量の含有モル比が0.05~0.95である、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] 上記含有モル比が0.05~0.6である、[9]に記載の組成物。
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の組成物を含む光学要素。
[12] 円偏光発光素子である、[11]に記載の光学要素。
[13] 上記組成物がキラルネマチック相を発現している、[11]又は[12]に記載の光学要素。
[14] 対向して配置された一対の電極と、上記電極間に配置された[1]~[10]のいずれかに記載の組成物とを有する圧電素子。
[15] [14]に記載の圧電素子を有するセンサ。
[16] [1]~[10]のいずれかに記載の組成物を有する光電変換素子。
[17] [16]に記載の光電変換素子を有する発電装置。
[18] 後述する式1で表される化合物。
[19] 後述する式2で表される化合物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、不斉炭素原子を有する化合物の含有量が少なくとも、優れた強誘電性、及び、優れた電荷輸送性を両立できる組成物を提供できる。また、本発明によれば、光学要素、圧電素子、センサ、光電変換素子、発電装置、及び、化合物も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】円偏光発光素子の一例の模式的な断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る圧電素子の一例である。
【
図3】本発明の実施形態に係る圧電素子を用いたダイアフラム型センサの断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る光電変換素子の一例である。
【
図5】本発明の実施形態に係る発電装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの双方、又は、いずれかを表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの双方、又は、いずれかを表す。また、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びメタクリロイルの双方、又は、いずれかを表す。
【0012】
[組成物]
本発明の実施形態に係る組成物(以下、「本組成物」ともいう。)は、後述する式1で表される第1化合物と、式2で表される第2化合物とを含有する。
本組成物は、分子側方に分極性置換基を有する第1化合物、及び、不斉炭素原子を有する基を有する第2化合物とを含有する組成物である。
【0013】
第1化合物は、後述するとおり所定のπ共役構造を主骨格とするため、この主骨格が電子性キャリアの輸送ユニットとして機能する。より詳細には、π軌道の重なりを介して電荷がホッピング伝導によって輸送される。すなわち、上記構造により本組成物は優れた電荷輸送性を示す。
【0014】
更に、第1化合物は、分子長軸方向の長さと、分子短軸方向の長さのそれぞれの差が大きく(言いかえればアスペクト比が大きく)、棒状の形状を有する棒状化合物であり、更に、主骨格の側方、言い換えれば、主骨格の延長方向とは異なる方向(典型的には、交差する方向)に分極性置換基を有するため、分子短軸方向に、より大きな双極子モーメントを有する。
【0015】
一方、第2化合物は第1化合物と同一の主骨格(「同一」の意味は後述する。)を有するため、第1化合物との優れた相溶性を有し、更に、不斉炭素原子を有する基を有する典型的にはキラル分子であるため、第1化合物と混合されることによって、対称性の崩れた集合構造をとる強誘電性液晶相を誘起できる。
【0016】
更に、本組成物における強誘電性液晶相では、電場による分極処理により自発分極を生じ、バルク内に内部電場が形成されやすい特徴も有している。このため、組成物に所定の波長の光を照射すると、バルク内に形成された内部電場が電荷分離を促進する。この電荷分離によって生成した正負の電子性キャリアはそれぞれπ共役部位が組織化して形成された伝導パスをホッピングされる。
これにより本組成物は、バルク光起電力効果も併せて有する。以下では、本組成物が有する各成分について詳述する。
【0017】
〔第1化合物〕
本組成物は下記式1で表される第1化合物を含有する。組成物における第1化合物の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、一般に、組成物中に含有される第1化合物の含有量と第2化合物の含有量との合計を100モル%としたとき、0.1~99.9モル%が好ましい。
なお、組成物は、第1化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の第1化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0018】
【0019】
式1中、R1は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素原子数が3~12個の1価の炭化水素基を表し、D1は、窒素原子(N)、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、及び、セレン原子(Se)からなる群より選択される少なくとも1種の原子を環構造中に有する2価の芳香族複素環基、並びに、2環以上の縮環構造を有する2価の芳香族炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種の基を主骨格とする2価の基を表す。
【0020】
第1化合物は不斉炭素原子を有する基を有しないことが好ましい。また、第1化合物はアキラル分子であることが好ましい。
【0021】
式1中、A1は、式A1~A7からなる群より選択される基を表し、式A1~A7において、PL1は分極性置換基を表し、X1は炭素原子数が3~12個のヘテロ原子を有していてもよい1価の炭化水素基を表し、Z1は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、又は、セレン原子を表す。なお、*は結合位置を表す。
【0022】
R1の炭素原子数は3~12個であれば特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、6~12個が好ましい。
ヘテロ原子としては特に制限されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、及び、硫黄原子等が挙げられ、中でも酸素原子が好ましい。なお、典型的には、酸素原子、窒素原子、及び、硫黄原子は、R1のC-C結合の炭素原子の1つ又は2つ以上を置換し、ハロゲン原子は、R1の炭素原子に結合する水素原子を置換する。
【0023】
より具体的には、R1としては、炭素原子数3~12個の炭化水素基、この炭化水素基の炭素-炭素結合に1個以上の2価のヘテロ原子(-NRZ-、-O-、及び、-S-等;RZは水素原子、又は、1価の置換基を表す。)を有する基(α)、上記炭化水素基、及び、基(α)が有する水素原子の一部又は全部を1価のヘテロ原子含有基で置換した基等が挙げられる。
【0024】
炭素原子数3~12個の1価の炭化水素基としては、例えば、炭素原子数3~12個の1価の脂肪族の非環式炭化水素基(以下、「鎖状炭化水素基」ともいう。)、及び、炭素原子数3~12個の脂環式炭化水素基等が挙げられる。
【0025】
炭素原子数3~12個の1価の鎖状炭化水素基としては、特に制限されないが、例えば、n-プロピル基、及び、i-プロピル基等のアルキル基;プロペニル基、及び、ブテニル基等のアルケニル基;プロピニル基、及び、ブチニル基等のアルキニル基;等が挙げられ、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、アルキル基が好ましい。
【0026】
炭素原子数3~12個の1価の脂環式炭化水素基としては、特に制限されないが、例えばシクロペンチル基、及び、シクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、及び、シクロヘキセニル基等の単環のシクロアルケニル基;ノルボルニル基、アダマンチル基、及び、トリシクロデシル基等の多環のシクロアルキル基;ノルボルネニル基、及び、トリシクロデセニル基等の多環のシクロアルケニル基;等が挙げられる。
【0027】
より優れた本発明の効果を有する組成物が得られやすい点で、R1としては、炭素原子数3~12個の直鎖状のアルキル基、炭素原子数3~12個のアルコキシ基、炭素原子数3~12個のアルコキシアルキル基(例えば、-CH2-O-C2H5、及び、-CH2CH2-OCH3等)、並びに、これらとアルキレン基、及び、オキシアルキレン基等とを組み合わせた基が挙げられる。
【0028】
R
1の具体例としては、例えば、以下の式RFaで表される基が挙げられる。
【化3】
【0029】
式RFa中、Lxは単結合、又は、アルキレン基、オキシアルキレン基、及び、ポリオキシアルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種の基であり、Rxは水素原子、アルキレン基、及び、アルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1種である。なお、Lx及びRxの炭素原子数の合計は3~12個であることが好ましい。ただし、Lxが単結合の時、Rxは水素原子以外の基を表す。
【0030】
特に制限されないが、R
1の具体例としては、以下の式で表される基が挙げられる。
【化4】
【0031】
上記式中、mは2~11の整数を表し、pは、1~11の整数、qは1~5の整数を表し、p+2q≦11を満たし、rは2~11の整数を表し、tは1~5の整数を表す。
【0032】
また、R1の他の形態としては、重合性基を有する基であることも好ましい。R1が重合性基を有する基であると、得られる組成物に対してエネルギーを付与して第1化合物を(後述する第2化合物もともに)重合させることで、液晶相を固定しやすくなり、所望の光学特性を有する部材(エネルギー付与済み組成物)が得られやすい。
本明細書において、重合性基を有する基とは、重合性基を1つ以上有する置換基を意味し、典型的には、*-LQ-RQで表される基が好ましい。上記式中、LQは、単結合、又は、2価の基を表し、RQは重合性基を表す。
【0033】
本明細書において重合性基とは重合反応に寄与しうる基を意味し、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基、及び、スチリル基等のエチレン性不飽和基、並びに、エポキシ基等が挙げられ、重合反応性の観点から、エチレン性不飽和基が好ましく、(メタ)アクリル基がより好ましい。
これらの基は高分子反応や共重合によってポリマーに導入することができる。例えば、カルボキシ基を側鎖に有するポリマーとグリシジルメタクリレートとの反応、又は、エポキシ基を有するポリマーとメタクリル酸等のエチレン性不飽和基含有カルボン酸との反応を利用できる。
【0034】
D1は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、及び、セレン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を環構造中に有する2価の芳香族複素環基、並びに、2環以上の縮環構造を有する2価の芳香族炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種の基を主骨格とする2価の基である。
【0035】
窒素原子、酸素原子、硫黄原子、及び、セレン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を環構造中に有する2価の芳香族複素環基としては特に制限されないが、少なくとも1つの硫黄原子を環構造内に有する2価の芳香族複素環基が好ましい。
また、上記2価の芳香族複素環基は、単環であっても、2環以上の縮環構造を有していてもよく、単環の2価の芳香族複素環基を2個以上組み合わせた構造であるか、単環の2価の芳香族複素環基の2つ以上と、2環以上の縮環構造を有する2価の芳香族複素環基の1つ以上を組み合わせた構造であってもよい。なお、上記2価の芳香族複素環基は更に置換基を有していてもよい。
【0036】
特に制限されないが、上記2価の芳香族複素環基の例を以下に示す。なお、下記構造中、水素原子はハロゲン原子、又は、1価の置換基によって置換されていてもよい。なお、下記式中、*は結合位置を表し、nは1以上の整数を表し、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下が好ましい。また、Rは水素原子、又は、1価の基を表す。
なお、本明細書において、オリゴチオフェンとは、繰り返し数が2~10のポリチオフェンを意味する。
【化5】
【0037】
【0038】
【0039】
2環以上の縮環構造を有する芳香族炭化水素基としては、特に制限されないが、炭素原子数として10~20個の芳香族炭化水素基が好ましく、フルオレン基、及び、ナフチレン基等が挙げられる。また、アントラセン環、フェナントレン環、クリセン環、及び、ピレン環から水素原子を2つ除いた基が好ましい。なお、上記芳香族炭化水素基が有する水素原子は1価の置換基で置換されていてもよい。
【0040】
【0041】
なお、上記式中RD1は1価の置換基を表す。
【0042】
式1中A1は、以下の式A1~A7からなる群より選択される基であり、分子の対称性をより崩し、自発分極をより生じさせやすい点で、式A1~A4からなる群より選択される基が好ましく、式A1又はA2で表される基がより好ましい。
【0043】
【0044】
式A1~A7中、PL1は分極性置換基を表す。本明細書において分極性置換基とは、その基が結合することで、結合される側の原子団に対して電子密度の偏りを生じさることができ、結果として分子内に存在する双極子モーメントの方向の偏りを生じさせることができる基を意味し、自身の電子親和性と、結合対象となる原子団の電子親和性との相対的関係により定まる。
第1化合物は、分極性置換基を所定の位置に有するため、全体として双極子モーメントに偏りが生じ、自発分極を生じる。所定の位置とは、式A1~A4で表される基であれば主骨格との結合位置「*」に対して、オルト位、又は、メタ位を意味する。
【0045】
分極性置換基としては特に制限されないが、例えば、ニトロ基、ニトリル基、シアネート基、イソシアネート基、チオシアネート基、チオイソシアネート基、ハロゲン原子、及び、ハロゲン化アルキル基、並びに、これらを有する基(例えば、上記を有するアルキル基等の炭化水素基)等が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、分極性置換基としては、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、及び、これらを有する基からなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましく、ハロゲン化アルキル基が好ましい。
【0046】
分極性置換基がハロゲン原子を有する炭化水素基である場合、上記炭化水素基が有する炭素原子数としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、1~3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0047】
なかでも、特に優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、分極性置換基としては、炭素原子数1~3個のハロゲン化アルキル基が好ましく、ハロゲン化メチル基がより好ましく、トリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0048】
式A1~A7中、X1は、炭素原子数が3~12個のヘテロ原子を有していてもよい1価の炭化水素基を表し、具体的には、すでに説明した式1中のR1と同様の基が挙げられ、好適形態についてもR1と同様である。
【0049】
式A5~A7中、Z1は酸素原子、硫黄原子、セレン原子、及び、-NH-で表される基からなる群より選択される少なくとも1種を表し、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、硫黄原子、又は、セレン原子が好ましい。
【0050】
式1で表される化合物は、鈴木カップリング反応等の公知の方法で合成でき、例えば、特開2017-149659号公報、国際公開2017/086320号、及び、Y. Funatsu, A. Sonoda, M. Funahashi, J. Mater. Chem. C, 3, 1982 (2015).(特に「Scheme1」)等を参照すればよい。
【0051】
〔第2化合物〕
本組成物は下記式2で表される第2化合物を含有する。組成物における第2化合物の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、一般に組成物中における第1化合物の含有量と第2化合物の含有量の合計含有量を100モル%としたとき、0.1~99.9モル%が好ましい。
なお、組成物は、第2化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の第2化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0052】
【0053】
式2中、R2は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素原子数が3~12個の1価の炭化水素基を表し、D2は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、及び、セレン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を環構造中に有する2価の芳香族複素環基、並びに、2環以上の縮環構造を有する2価の芳香族炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種の基を主骨格とする2価の基を表し、A2は式B1又は式B2の基であり、式B1中、QL1は上記主骨格との上記結合位置に対してメタ位、又は、パラ位に配置された不斉炭素原子を有する基であり、X2は水素原子、又は、1価の基であり、複数あるX2は同一でも異なってもよく、式B2中、Z2は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、又は、-NH-で表される基を表し、R2f、及び、R2gからなる群より選択される一方は不斉炭素原子を有する基であり、他方、及び、R2hは水素原子、又は、1価の基であり、*は結合位置を表す。
【0054】
第2化合物は不斉炭素原子を有する基を有する化合物であり、典型的にはキラル分子であることが好ましい。第2化合物は、第1化合物と同一の主骨格を有するため、優れた相溶性を有し、更に、不斉炭素原子を有する典型的にはキラル分子であるため、自発分極を有する第1化合物との組み合わせによれば、組成物全体として対称性の崩れた集合構造をとる強誘電性液晶相を誘起可能である。
【0055】
式2中R2のヘテロ原子を有していてもよい炭素原子数が3~12個の1価の炭化水素基としては、式1のR1の基として説明した基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。また、R2はすでに説明した重合性基を有する基であってもよい。
【0056】
D2の窒素原子、酸素原子、硫黄原子、及び、セレン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を環構造中に有する2価の芳香族複素環基、並びに、2環以上の縮環構造を有する2価の芳香族炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種の基を主骨格とする2価の基としては、式1のD1の基としてすでに説明した基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0057】
なお、D1、及び、D2は同一の主骨格を有する。本明細書において「同一の主骨格を有する」とは、D1及びD2として説明した基について、互いに全く同一の基であるか、又は、D1及びD2の一方、又は、両方の水素原子の1個以上が任意の1価の置換基で置換されたもの同士であることを意味する。
本組成物は第1化合物と、第2化合物の主骨格が所定のπ共役系を有する同一又は類似の基であるため、上記2種の化合物が優れた相溶性を有し、更に、組成物全体として、優れた電荷輸送性を有する。
【0058】
式B2中のR2f、及び、R2gからなる群より選択される一方の基、並びに、式B1においてQL1で表される基は、それぞれ独立に、不斉炭素原子を有する基、言い換えれば、不斉炭素原子を有する基を有する置換基である。上記置換基が有する不斉炭素原子の数としては特に制限されないが、1~3個が好ましく、1、又は2個がより好ましく、1個が更に好ましい。
【0059】
上記不斉炭素原子に結合している置換基は、例えば、炭素原子数1~11個のアルキル基、炭素原子数1~11個のアルコキシキ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、ヒドロキシ基、及び、シアノ等が挙げられる。
上記不斉炭素原子を有する基としては例えば、以下の式(C1)で表される置換基が挙げられる。
【0060】
【0061】
上記式中、Lpは、単結合、又は、2価の基であり、Rpは不斉炭素原子を有する1価の基であり、*は結合位置を表す。
Lpの2価の基としては特に制限されないが、炭素原子数1~6個のアルキレン基、炭素原子数2~6個のアルケニレン基、炭素原子数2~6個のアルケニレン基、-O-、-NR-(Rは水素原子、又は、1価の置換基)、-C(O)-、-S-、-Se-、及び、これらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましく、-O-、炭素原子数1~6個のアルキレン基、及び、炭素原子数1~6個のオキシアルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0062】
Rpの不斉炭素原子を有する1価の基としては特に制限されないが、不斉炭素原子を有する炭素原子数が1~12個のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、及び、ハロゲン原子等が挙げられる。なお、光学活性は、S,Rのいずれであってもよい。
【0063】
炭素原子数が1~12個のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基としては、特に制限されないが、以下の式Rp1~式Rp8で表される基が挙げられる。
なお、式Rp1中、nは2以上の整数を表し、10以下が好ましく、8以下がより好ましい。また、式Rp2中、mは3以上の整数を表し9以下が好ましく、8以下がより好ましい。また、式Rp3中、pは4以上の整数を表し、8以下が好ましい。また、式Rp4中、qは1以上の整数を10以下が好ましく、8以下がより好ましい。また、式Rp5中rは1以上の整数を表し、9以下が好ましく、8以下がより好ましい。また、式Rp6中、tは1以上の整数を表し、8以下が好ましい。また、Rp7中、vは1以上の整数を表し、10以下が好ましく、8以下がより好ましい。また、Rp8中wは1以上の整数を表し、10以下が好ましく、8以下がより好ましい。なお、下記式中*は結合位置を表す。
【0064】
【0065】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、式C1で表される基としてはLpが-O-であって、かつ、Rpが式Rp1~Rp8からなる群より選択される基であることが好ましく、Lpが-O-であって、かつ、Rpが式Rp1~Rp6からなる群より選択される基であることがより好ましい。
【0066】
X2の1価の基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を有していてもよい炭素原子数が1~12個の炭化水素基を用いることができる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、式B1、及び、式B2で表される基において、複数あるX2のうち少なくとも1つがハロゲン化アルキル基であることが好ましく、複数あるX2のうち1つがハロゲン化アルキル基であることがより好ましい。
ハロゲン化アルキル基が有するハロゲン原子としては特に制限されず、塩素原子、及び、フッ素原子等が挙げられるが、より優れた本発明効果を有するの組成物が得られる点で、フッ素原子が好ましい。
【0067】
式B1、及び、式B2で表される基が、X2としてハロゲン化アルキル基を有する場合、すでに説明したPL
1
もハロゲン化アルキル基であることが好ましく、これらが同一の基であることがより好ましい。
このようにすることで、第1化合物と第2化合物と相溶性がより高まるとともに、得られる組成物が自発分極しやすくなるという利点がある。
なお、上記ハロゲン化アルキル基としては特に制限されず、すでに説明したPL
1
におけるハロゲン化アルキル基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0068】
式2で表される化合物は、鈴木カップリング反応等の公知の方法で合成でき、例えば、特開2017-149659号公報、国際公開2017/086320号、及び、Y. Funatsu, A. Sonoda, M. Funahashi, J. Mater. Chem. C, 3, 1982 (2015).(特に「Scheme1」)等を参照すればよい。
【0069】
組成物中における第1化合物の含有量と、後述する第2化合物の含有量の合計に対する、第2化合物の含有量の含有モル比(以下、単に「含有モル比」ともいう。)としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、0.05~0.95が好ましく、キラルネマチック相が得られやすい点で、0.05~0.5がより好ましく、0.05~0.4が更に好ましく、加熱過程と冷却過程の違いによらず、同一温度でキラルネマチック相を示す領域が存在する点で、0.05~0.4が特に好ましい。
【0070】
また、キラルスメクチックC相を得る観点では、上記含有モル比は、0.4~0.9が好ましい。
【0071】
〔他の成分〕
本発明の形態に係る組成物は、本発明の効果を奏する範囲内において、公知の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、特に制限されないが、例えば、溶媒、重合開始剤、及び、バインダ等が挙げられる。
【0072】
<溶媒>
本組成物は溶媒を含有してもよい。本組成物が溶媒を含有する場合、第1化合物と第2化合物とを溶解させてより均一化しやすく、結果的により優れた本発明の効果を有する組成物が得られやすい点、及び、塗布印刷等のプロセスにより組成物を成形しやすい点で好ましい。
組成物中における溶媒の含有量としては特に制限されず、用途に応じて適宜調整すればよいが、一般に、組成物の全固形分が0.1~99質量%となるよう、調整されることが好ましい。なお、組成物は、溶媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の溶媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0073】
溶媒としては特に制限されないが、水、及び/又は、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては特に制限されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、及び、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、及び、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及び、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、乳酸メチル、及び、乳酸エチル等のエステル系溶媒;トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、メシチレン、アニソール、ベンジルアルコール、フェニルグリコール、及び、クロロベンゼン等の芳香族系溶媒;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及び、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、及び、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;N-メチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド、及び、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;モルフォリン等のアミン系溶媒;これらの混合物;等が挙げられる。
【0074】
<重合開始剤>
すでに説明した第1化合物、及び/又は、第2化合物が重合性基を有する場合、組成物は重合開始剤を含有することが好ましい。重合開始剤としては特に制限されないが、光重合開始剤、及び/又は、熱重合開始剤が使用できる。
組成物中における重合開始剤の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、一般に組成物の重合性基を有する化合物100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましい。なお、組成物は、重合開始剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の重合開始剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0075】
光重合開始剤としては特に制限されず、公知の光重合開始剤が使用できる。光重合開始剤としては、例えば、「イルガキュア250」、「イルガキュア651」、「イルガキュア184」、「ダロキュア1173」、「イルガキュア907」、「イルガキュア127」、「イルガキュア369」、「イルガキュア379」、「イルガキュア819」、「イルガキュア2959」、「イルガキュア1800」、「イルガキュア250」、「イルガキュア754」、「イルガキュア784」、「イルガキュアOXE01」、「イルガキュアOXE04」、「ルシリンTPO」、「ダロキュア1173」、「ダロキュアMBF」、「エサキュア1001M」、「エサキュアKIP150」、「スピードキュアBEM」、「スピードキュアBMS」、「スピードキュアMBP」、「スピードキュアPBZ」、「スピードキュアITX」、「スピードキュアDETX」、「スピードキュアEBD」、「スピードキュアMBB」、「スピードキュアBP」、「カヤキュアDMBI」、「TAZ-A」、「アデカオプトマーSP-152」、「アデカオプトマーSP-170」、「アデカオプトマーN-1414」、「アデカオプトマーN-1606」、「アデカオプトマーN-1717」、「アデカオプトマーN-1919」、「サイラキュアーUVI-6990」、「サイラキュアーUVI-6974」、「サイラキュアーUVI-6992」、「アデカオプトマーSP-150、SP-152、SP-170、SP-172」、「PHOTOINITIATOR2074」、「UV-9380C」、「DTS-102」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0076】
熱重合開始剤としては、公知の熱重合開始剤を特に制限なく使用でき、例えば、メチルアセトアセテイトパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パ-オキシジカーボネイト、t-ブチルパーオキシベンゾエイト、メチルエチルケトンパーオキサイド、1,1-ビス(t-ヘキシルパ-オキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、p-ペンタハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネイト、及び、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、及び、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾニトリル化合物;2,2′-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオン-アミヂン)ジハイドロクロライド等のアゾアミヂン化合物、2,2′アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物;2,2′アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等のアルキルアゾ化合物等;が使用できる。具体的には、「V-40」、「VF-096」、「パーへキシルD」、及び、「パーへキシルI」等が挙げられる。
【0077】
本組成物の製造方法としては特に制限されず、すでに説明した各成分を公知の方法を用いて混合すればよい。例えば、第1化合物(又は第2化合物)を溶媒に溶解し、そこに他の成分を添加して攪拌、混合すればよい。
【0078】
本組成物が溶媒を含有する場合、各成分を混合した後、上記溶媒を除去して、組成物中の溶媒の含有量を調整してもよい。溶媒を除去する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用でき、例えば、減圧、及び/又は、加熱する方法が挙げられる。
【0079】
また、第1化合物、及び/又は、第2化合物が重合性基を有する場合、液晶相を固定するために、組成物を加熱、及び/又は、組成物に光照射してもよい。
【0080】
組成物の形状としては特に制限されない。液体状であってもよいし、固体状である場合、平板状であってもよいし、曲面を有する3次元形状であってもよい。
【0081】
本組成物は、外部からのエネルギー付与により(典型的には、熱エネルギーの付与により)強誘電性液晶相を誘起できる。なかでも、らせん構造の分子配向を有するN*(キラルネマチック)相であると、上記らせん構造を起源とする光の選択反射、及び/又は、円偏光発光を利用した電子素子にも応用可能である点で、優れている。すなわち、本組成物は、キラルネマチック相の形成用であることが好ましい。
【0082】
本組成物のホール移動度としては特に制限されないが、30~150℃の温度域において、10-5~10-3cm2V-1s-1であることが好ましい。
【0083】
[光学要素]
上記組成物は、以下の光学要素として使用可能である。本明細書において光学要素とは、具体的には、円偏光発光フィルム、位相差フィルム、強誘電性フィルム、反強誘電性フィルム、及び、圧電フィルム等の機能性フィルム;円偏光発光素子、光励起あるいは電界励起によるレーザー発振素子、液晶ディスプレイ用バックライト、非線形光学素子、電気光学素子、焦電素子、圧電素子、及び、光変調素子等の機能性素子;等をいう。
【0084】
上記光学要素は、例えば、一枚の支持体の上、又は、一対の支持体(例えばセル)の間等に上記組成物を用いて組成物層を形成する方法等により製造できる。
【0085】
なかでも、本組成物は優れた強誘電性と優れた電子輸送性とを両立するため、上記光学要素としては、円偏光発光素子であることも好ましい。
図1は、本組成物を用いた円偏光発光素子の一例の模式的な断面図である。円偏光発光素子10は、対向して配置された一対の電極(上部電極11と下部電極12)と、上記電極間に配置された、上記組成物を含有する層(組成物層)13と、下部電極12上であって、上記組成物層13とは反対側に配置された支持体14とを有する。
【0086】
円偏光発光素子10において、下部電極12、及び、支持体14は、光透過性の材料(例えば、下部電極12がITO(酸化インジウムスズ)電極であり、支持体14がガラス基板である。)で構成されている。
円偏光発光素子10において、一対の電極間に電位を印加すると、組成物層13から円偏光が生じ、下部電極12及び支持体14を透過して外部へと照射される。
【0087】
円偏光発光素子10においては、下部電極12及び支持体14が光透過性の材料で構成されているが、円偏光発光素子としては上記に制限されず、上部電極11も光透過性の材料で構成されていてもよい。また、支持体14は、下部電極12上に配置されているが、円偏光発光素子としては上記に制限されず、上部電極11上にも(又は、上部電極11側にのみ)配置されていてもよいし、支持体14を有していなくてもよい。
【0088】
[圧電素子]
図2は本発明の実施形態に係る圧電素子の一例である。圧電素子20は対向して配置された一対の電極(上部電極21と下部電極22)と、上記電極間に配置された、上記組成物を含有する層(組成物層)23と、下部電極22上であって、上記組成物層23とは反対側に配置された支持体24とを有する。
【0089】
支持体24は圧電素子20を支持する機能を有しており、本発明の実施形態に係る圧電素子は支持体を有していなくてもよい。
支持体24としては例えば、厚みが300μm~5mmのSi(シリコン)基板等を用いることができる。
【0090】
一対の電極(上部電極21と下部電極22)は、圧電素子用の電極として公知の電極を特に制限なく使用できる。
電極としては、例えば、白金電極、及び、ITO電極を用いてもよい。厚みとしては特に制限されないが、一般に、0.1μm~1mmである場合が多い。
【0091】
組成物層23は、すでに説明した組成物を含有する層であり、組成物が有する圧電性が発揮されれば特に制限されず、他の成分を含有してもよい。他の成分としては特に制限されないが、例えば、バインダー等が挙げられる。
上記圧電素子は、アクチュエータ、及び、センサ等に使用できる。
【0092】
[センサ]
図3は本発明の実施形態に係る圧電素子を用いたダイアフラム型センサの断面図である。センサ30は、支持体31の片側面に、下部電極32、組成物層33、上部電極34が積層された構成を有する。組成物層33を挟んで下部電極32と上部電極34とが対向して配置された構成により、組成物層33の変位を電圧信号に変換する圧電素子が形成される。
【0093】
一方、支持体31には、圧電素子が形成されている面と反対側の面から支持体31の一部が除去されてなる凹部Cが形成されている。
上記凹部Cは、平面視で略矩形であるが、矩形に限らず、他の多角形、円形、楕円形なども可能である。凹部Cの空隙部の位置に対応した組成物層33の部分は、その下面が拘束されていない状態(非拘束)となり、変位可能な領域となる。上記非拘束領域が受信部要素となる。
【0094】
組成物層33が外部から例えば音波等を受信して変位すると、その歪み変形に応じて電圧が発生する。組成物層33が
図3の下方に撓むと、真ん中付近では圧縮方向に応力がかかり、端の方(拘束部に近い周辺部)では伸びる方向に応力がかかる。なお、
図3では、配線のための引き出し電極等の図示は省略した。
【0095】
なお、本センサは上記に制限されず、圧力センサ、及び、加速度センサ等であってもよい。また、本センサは、特開2010-164331号公報等に記載された超音波センサであってもよい。
【0096】
[光電変換素子]
図4は本発明の実施形態に係る光電変換素子の一例である。光電変換素子40は、すでに説明した組成物41と、上記組成物41に生じた電気エネルギーを取り出すための一対の電極42とを有する。上記組成物41に光を照射すると(
図4中、hνと記載した)組成物41が有するバルク光起電力効果により起電力が生ずるため、光エネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができる。
上記組成物は、すでに説明したとおり、優れた電荷輸送性を有するため、上記光電変換素子は、より優れた光電エネルギー変換効率を有する。
【0097】
電極42としては、公知の電極を特に制限なく使用可能であり、例えば、白金電極、及び、ITO電極等が使用できる。
また、光電変換素子40においては、一対の電極は、組成物41の一方の主面の端部にそれぞれ配置されているが、本発明の実施形態に係る光電変換素子として上記に制限されず、対向する一対の電極の電極間に上記組成物が配置された形態でもよい。その場合、上記電極のいずれか一方が透明電極であることが好ましく、透明電極としては例えば、ITO電極等が使用できる。
【0098】
[発電装置]
図5は本発明の実施形態に係る発電装置の一例である。発電装置50は、光電変換素子51と、上記光電変換素子51で発生した電気エネルギーを貯蔵するための貯蔵装置52とを有し、光電変換素子51と貯蔵装置52とは、導線53により電気的に接続されている。
【0099】
光電変換素子51は、支持体54と、支持体54上に配置された組成物55と、組成物55に接するように配置された一対の電極56とを有しており、光が照射(図中、hνと記載した)されるとバルク光起電力効果によって起電力が生じ、これを貯蔵装置52に貯蔵できる。
貯蔵装置52としては、特に制限されないが、鉛蓄電池、及び、アルカリ蓄電池等の二次電池;セラミックスコンデンサ、及び、フィルムコンデンサ等のコンデンサ;等が使用可能である。
【実施例】
【0100】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0101】
〔化合物1の合成〕
不活性ガス雰囲気下で、5-ブロモ-5″-ヘキシル-2,2′:5′,2″-ターチオフェン(950mg)、4-ヘキシルオキシ-3-トリフルオロメチルフェニルボロン酸-2,2-ジメチル-1,3-プロパンジイルエステル (914mg)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(133mg)をテトラヒドロフラン(60mL)に懸濁させ、2molL-1の炭酸カリウム水溶液(35mL)を加えた後、6時間、還流、攪拌させた。
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、テトラヒドロフランを減圧留去し、固形の生成物と水層とを濾過により分別した。
濾液にわずかに混入している生成物をヘキサンで分液抽出し、抽出液を硫酸マグネシウムによって脱水処理した。これを濾過し、濾液から溶媒を減圧留去した。残渣を先の固形分とまとめ、ヘキサンに溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン→ヘキサン/トルエン=10/1;v/v)によって精製した。更に、ヘキサンを用いて再結晶を2回行った。
得られた黄色の固体を濾別し、減圧乾燥し、化合物1を得た(収量:960mg、収率72%)。反応式、及び、化合物1の構造を以下に示した。
【0102】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ = 7.77 (d, 1H, J = 1.8 Hz), 7.66 (dd, 1H, J = 8.4, 2.1 Hz), 7.14 (d, 1H, J = 4.2 Hz), 7.11 (d, 1H, J = 3.6 Hz), 7.07 (d, 1H, J = 3.9 Hz), 7.01 (d, 1H, J = 3.6 Hz), 6.99 (d, 1H, J = 3.6 Hz), 6.69 (d, 1H, J = 3.3 Hz), 4.07 (t, 2H, J = 6.3 Hz), 2.80 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 1.83 (quin, 2H, J = 7.0 Hz), 1.68 (quin, 2H, J = 7.4 Hz), 1.53-1.27 (m, 12H), 0.96-0.85 (m, 6H); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3): δ = 156.50, 145.73, 141.44, 136.93, 136.41, 135.27, 134.39, 130.11, 126.21, 125.26, 124.84, 124.34, 124.17, 123.55, 123.48, 121.65, 119.39 (q, J = 30.8 Hz), 113.27, 68.96, 36.29, 31.56, 31.40, 30.19, 28.95, 28.75, 25.46, 22.56, 14.06, 13.95
【0103】
【0104】
〔化合物(S)-2の合成〕
不活性ガス雰囲気下で、5-ブロモ-5″-ヘキシル-2,2′:5′,2″-ターチオフェン(761mg)、4-{(S)-2-オクチルオキシ}-3-トリフルオロメチルフェニルボロン酸-2,2-ジメチル-1,3-プロパンジイルエステル(828mg)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(96mg)をテトラヒドロフラン(45mL)に懸濁させ、2molL-1の炭酸カリウム水溶液(30mL)を加えた後、6時間、還流、攪拌させた。
次に、化合物1と同様の手順で化合物(S)-2の精製を行なった(収量:946mg,収率85%)。化合物(S)-2の構造を以下に示した。
【0105】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ = 7.76 (d, 1H, J = 2.1 Hz), 7.64 (dd, 1H, J = 8.9, 2.3 Hz), 7.13 (d, 1H, J = 3.6 Hz), 7.10 (d, 1H, J = 3.6 Hz), 7.07 (d, 1H, J = 3.6 Hz), 7.00 (d, 1H, J = 3.9 Hz), 6.99 (dd, 1H, J = 3.6, 2.4 Hz), 6.69 (d, 1H, J = 3.6 Hz), 4.49 (sext, 1H, J = 6.0 Hz), 2.80 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 1.86-1.58 (m, 4H), 1.53-1.23 (m, 14H), 1.34 (d, 3H, J = 5.7 Hz), 0.95-0.84 (m, 6H); 13C-NMR (75 MHz, CDCl3) : δ = 155.75, 145.74, 141.57, 136.92, 136.35, 135.32, 134.41, 130.02, 125.92, 125.29, 124.85, 124.54 (q, J = 5.6 Hz), 124.35, 124.15, 123.57, 123.43, 121.68, 120.13 (q, J = 30.8 Hz), 114.25, 75.06, 36.29, 31.75, 31.56, 30.20, 29.19, 28.75, 25.17, 22.56, 19.42, 14.05
【0106】
【0107】
〔組成物の調製〕
化合物1を秤取し、化合物(S)-2のテトラヒドロフラン希薄溶液の所定量を加えて、攪拌混合し、溶媒を加熱留去した。これを減圧乾燥し、混合物を得た。
【0108】
〔物性〕
化合物1と化合物(S)-2のそれぞれの単独での液晶性と、それらの組成が異なる混合物(組成物)の液晶性を表1にまとめた。
【0109】
化合物(S)-2を混合することより、キラル液晶相(表中「*」と付している相)が誘起され、化合物(S)-2の含有量によって、液晶相の温度範囲、転移温度が変調可能であることを示す結果が得られた。
【0110】
化合物(S)-2は単独でも強誘電性液晶相を発現した。また、化合物1と化合物(S)-2の混合物においても強誘電性液晶相の発現が認められた。
電極間距離が2μmの液晶セルに封入し、自発分極値を見積もった結果、組成物中における化合物(S)-2含有量に応じて自発分極値が変化する結果を得た。自発分極値は、最高で80nCcm-2(80℃)に達した。
【0111】
Time-of-Flight法によって,強誘電性液晶相(80℃)におけるホール移動度を見積もった結果、化合物(S)-2単独、及び、化合物(S)-2を50mol%含有する化合物1との混合物(例6)は,4×10-5~5×10-5cm2V-1s-1のホール移動度を示した。
強誘電性液晶相におけるホール移動度は、正の温度依存性を示し、高温側で高くなる傾向が認められ、10-4cm2V-1s-1のオーダーまで達した。
【0112】
【0113】
表1は、DSC測定で、上記混合物を200℃まで加熱し、その後、冷却速度10℃/minで-100℃まで冷却したときの各相転移温度を示している。
例1であれば、組成物(混合物)中の化合物(S)-2の含有量が0mol%であり(すなわち、化合物1の含有量が100mol%)、加熱後にIso(アイソタクチック相)であったものが、149℃でN(ネマチック相)に転移し、142℃でSmC(スメクチックC相)に転移し、更に、79℃でSmF(スメクチックF相)に転移したことを示している。
なお、上記の相転移挙動の観察は、温度可変ステージを用いた偏光顕微鏡観察で行った。液晶相の帰属は温度可変粉末X線回折測定により行った。
【0114】
なお、表1中、N*は「キラルネマチック相」、SmC*は「キラルスメクチックC相」、SmF*は「キラルスメクチックF相」、更に、SmE*は「キラルスメクチックE相」を示している。
【0115】
表1に示した結果から、化合物(S)-2を含有する例2~例10の組成物は、強誘電性液晶相を発現することがわかった。一方、化合物(S)-2を含有しない例1の組成物は、強誘電性液晶相を発現しなかった。
【0116】
Time-of-flight法によるホール移動度は、ホール移動度(μ)、過渡時間(τ)、セル厚(d)、印加電圧(V)としたとき、μ=d
2/(V×τ)で表せる。
図6~10には、d=25μm、V=180Vにおける、化合物1:化合物(S)-2がそれぞれ、100:0(
図6)、90:10(
図7)、50:50(
図8)80:20(
図9)、0:100(
図10)(それぞれモル比)である場合のホール移動度を示した。
【0117】
上記の結果から、同一温度(85℃)にて、ホール移動度は、4×10-5~5×10-5cm2V-1s-1であり、組成によらず同程度の電荷輸送性を示した。また、表2には、上記の結果をまとめて示した。
【0118】
【0119】
表1及び表2に示した結果から、含有モル比が0.05~0.95である例3の組成物は、優れた強誘電性と優れた電子輸送性を有していた。
また、表1に示した結果から、含有モル比が0.05~0.5である例3の組成物は、例7の組成物と比較して、キラルネマチック相が得られやすいことがわかった。また、含有モル比が0.05~0.4である例3の組成物は、例6の組成物と比較して、キラルネマチック相が得られる温度範囲が広く、加熱過程と冷却過程の違いによらず、同一温度でキラルネマチック相を示す領域が存在することがわかった。
【0120】
また、含有モル比が0.05~0.5である例5の組成物は例6の組成物と比較して、キラルスメクチックF相が得られたこととから、冷却時に相転移する過程における体積収縮はより低減され、構造欠陥をより生じさせづらいものと推測される。
【符号の説明】
【0121】
10 :円偏光発光素子
11、21、34 :上部電極
12、22、32 :下部電極
13、23、33 :組成物層
14、24、31、54 :支持体
20 :圧電素子
30 :センサ
40、51 :光電変換素子
41、55 :組成物
42、56 :電極
50 :発電装置
52 :貯蔵装置
53 :導線