(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】受信機及び受信方法
(51)【国際特許分類】
H04L 5/02 20060101AFI20240528BHJP
H04L 27/01 20060101ALI20240528BHJP
H04B 1/10 20060101ALI20240528BHJP
H04B 1/56 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
H04L5/02
H04L27/01
H04B1/10 N
H04B1/56
H04B1/10 L
(21)【出願番号】P 2020061662
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (発行者) IEICE/電子情報通信学会 (刊行物名) 電子情報通信学会技術研究報告,vol.119,no.448,RCS2019-337,pp.93-98,2020年3月. (発行日) 令和2年2月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】趙 欧
(72)【発明者】
【氏名】廖 偉舜
(72)【発明者】
【氏名】李 可人
(72)【発明者】
【氏名】松村 武
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-011690(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0278290(US,A1)
【文献】Ou ZHAO 他,A Database-Aided Digital Cancellation for Full-Duplex Wireless Communication Systems,電子情報通信学会2020年総合大会講演論文集 通信1,2020年03月20日,p.370
【文献】田齊 広太郎 他,帯域内全二重における深層学習を用いた自己干渉除去,電子情報通信学会2019年総合大会講演論文集 通信1,2019年03月22日,p.368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 5/02
H04L 27/01
H04B 1/10
H04B 1/56
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末とチャネルを介して全二重無線通信における信号により通信する基地局において、基地局が備える送信機及び基地局が備える受信機が干渉することで生じる自己干渉信号を抑制する抑制器を有する受信機であって、
前記端末と前記基地局とが通信していない際に特徴ベクトルである入力パラメータ及び特徴ベクトルである出力パラメータから構成されるデータベースを生成する生成部と、
前記端末と前記基地局とが通信している際に前記データベースから所定の前記入力パラメータを怠惰学習により検索する検索部と、を備え、
前記抑制器は、前記所定の前記入力パラメータと対応する前記出力パラメータを算出し使用
し、
前記出力パラメータは、前記送信機と前記受信機との間のチャネルのゲインの推定値である送信機受信機間推定ゲイン、前記送信機と前記受信機との間のチャネルの位相シフトの推定値である送信機受信機間推定位相シフト、Iチャネルでの前記自己干渉信号の量子効果の実測値及びQチャネルでの前記自己干渉信号の量子効果の実測値である、受信機。
【請求項2】
端末とチャネルを介して全二重無線通信における信号により通信する基地局において、基地局が備える送信機及び基地局が備える受信機が干渉することで生じる自己干渉信号を抑制する抑制器を有する受信機であって、
前記端末と前記基地局とが通信していない際に特徴ベクトルである入力パラメータ及び特徴ベクトルである出力パラメータから構成されるデータベースを生成する
とともに、前記端末から送信されるヌル信号を前記基地局が受信することで前記入力パラメータ及び出力パラメータを生成する生成部と、
前記端末と前記基地局とが通信している際に前記データベースから所定の前記入力パラメータを怠惰学習により検索する検索部と、を備え、
前記抑制器は、前記所定の前記入力パラメータと対応する前記出力パラメータを算出し使用する、受信機。
【請求項3】
前記入力パラメータは、前記基地局によって変調された前記信号の振幅、前記基地局によって変調された前記信号の位相、前記受信機と前記端末との間のチャネルのゲイン及び前記受信機と前記端末との間のチャネルの位相シフトである、請求項1
又は2に記載の受信機。
【請求項4】
前記検索部は、前記怠惰学習により、前記所定の前記入力パラメータを、前記データベースの前記入力パラメータと
、チャネル確立時測定値及びチャネル確立時推定値
から構成されるベクトル又はパラメータと
、のユークリッド距離が最も短いベクトルとし、
前記抑制器は、前記入力パラメータと対応する前記出力パラメータとして、前記送信機受信機間推定ゲイン及び前記送信機受信機間推定位相シフトと前記チャネル確立時推定値とのユークリッド距離がなくなるような前記出力パラメータを算出して使用する、
請求項
1に記載の受信機。
【請求項5】
端末とチャネルを介して全二重無線通信における信号により通信する基地局において、基地局が備える送信機及び基地局が備える受信機が干渉することで生じる自己干渉信号を抑制する抑制器を有する受信機の制御方法であって、
前記端末と前記基地局とが通信していない際に特徴ベクトルである入力パラメータ及び特徴ベクトルである出力パラメータから構成されるデータベースを生成する第1のステップと、
前記端末と前記基地局とが通信している際に前記データベースから所定の前記入力パラメータを怠惰学習により検索する第2のステップと、
前記抑制器が、前記所定の前記入力パラメータと対応する前記出力パラメータを算出し使用する第3のステップと、
を備え
、
前記出力パラメータは、前記送信機と前記受信機との間のチャネルのゲインの推定値である送信機受信機間推定ゲイン、前記送信機と前記受信機との間のチャネルの位相シフトの推定値である送信機受信機間推定位相シフト、Iチャネルでの前記自己干渉信号の量子効果の実測値及びQチャネルでの前記自己干渉信号の量子効果の実測値である、受信機の制御方法。
【請求項6】
端末とチャネルを介して全二重無線通信における信号により通信する基地局において、基地局が備える送信機及び基地局が備える受信機が干渉することで生じる自己干渉信号を抑制する抑制器を有する受信機の制御方法であって、
前記端末と前記基地局とが通信していない際に特徴ベクトルである入力パラメータ及び特徴ベクトルである出力パラメータから構成されるデータベースを生成する
とともに、前記端末から送信されるヌル信号を前記基地局が受信することで前記入力パラメータ及び出力パラメータを生成する第1のステップと、
前記端末と前記基地局とが通信している際に前記データベースから所定の前記入力パラメータを怠惰学習により検索する第2のステップと、
前記抑制器が、前記所定の前記入力パラメータと対応する前記出力パラメータを算出し使用する第3のステップと、
を備える、受信機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、受信機及び受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1には、帯域内全二重システムにおいて、自己干渉によって生じる波形などを推定して、自己干渉によって生じる信号によって引き起こされる影響を排除する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】H. Guo, J. Xu, and S. Wu, “Realtime software defined self-interference cancellation based on machine learning for in-band full duplex wireless communications,” in 2018 International Conference on Computing, Networking and Communications (ICNC), (Maui, HI, USA), pp. 1-5, IEEE, July 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら非特許文献1に記載されたような従来の手法では、自己干渉によって生じる電力を全二重無線通信システムのノイズレベルに抑えることができず、十分な効果を得ることができないという課題がある。
【0005】
本発明の実施の形態の一態様は、全二重無線通信システムにおいて、自己干渉によって生じる電力をノイズレベルに抑制することが可能な受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
端末とチャネルを介して全二重無線通信における信号により通信する基地局において、基地局が備える送信機及び基地局が備える受信機が干渉することで生じる自己干渉信号を抑制する抑制器を有する受信機であって、端末と基地局とが通信していない際に特徴ベクトルである入力パラメータ及び特徴ベクトルである出力パラメータから構成されるデータベースを生成する生成部と、端末と基地局とが通信している際にデータベースから所定の入力パラメータを怠惰学習により検索する検索部と、を備え、抑制器は、所定の入力パラメータと対応する出力パラメータを算出し使用し、前記出力パラメータは、前記送信機と前記受信機との間のチャネルのゲインの推定値である送信機受信機間推定ゲイン、前記送信機と前記受信機との間のチャネルの位相シフトの推定値である送信機受信機間推定位相シフト、Iチャネルでの前記自己干渉信号の量子効果の実測値及びQチャネルでの前記自己干渉信号の量子効果の実測値である、受信機を提供する。
また、端末とチャネルを介して全二重無線通信における信号により通信する基地局において、基地局が備える送信機及び基地局が備える受信機が干渉することで生じる自己干渉信号を抑制する抑制器を有する受信機であって、前記端末と前記基地局とが通信していない際に特徴ベクトルである入力パラメータ及び特徴ベクトルである出力パラメータから構成されるデータベースを生成するとともに、前記端末から送信されるヌル信号を前記基地局が受信することで前記入力パラメータ及び出力パラメータを生成する生成部と、前記端末と前記基地局とが通信している際に前記データベースから所定の前記入力パラメータを怠惰学習により検索する検索部と、を備え、前記抑制器は、前記所定の前記入力パラメータと対応する前記出力パラメータを算出し使用する、受信機を提供する。
【0007】
端末とチャネルを介して全二重無線通信における信号により通信する基地局において、基地局が備える送信機及び基地局が備える受信機が干渉することで生じる自己干渉信号を抑制する抑制器を有する受信機の制御方法であって、端末と基地局とが通信していない際に特徴ベクトルである入力パラメータ及び特徴ベクトルである出力パラメータから構成されるデータベースを生成する第1のステップと、端末と基地局とが通信している際に前記データベースから所定の前記入力パラメータを怠惰学習により検索する第2のステップと、抑制器が、所定の入力パラメータと対応する出力パラメータを算出し使用する第3のステップと、を備え、前記出力パラメータは、前記送信機と前記受信機との間のチャネルのゲインの推定値である送信機受信機間推定ゲイン、前記送信機と前記受信機との間のチャネルの位相シフトの推定値である送信機受信機間推定位相シフト、Iチャネルでの前記自己干渉信号の量子効果の実測値及びQチャネルでの前記自己干渉信号の量子効果の実測値である、受信機の制御方法を提供する。
また、端末とチャネルを介して全二重無線通信における信号により通信する基地局において、基地局が備える送信機及び基地局が備える受信機が干渉することで生じる自己干渉信号を抑制する抑制器を有する受信機の制御方法であって、前記端末と前記基地局とが通信していない際に特徴ベクトルである入力パラメータ及び特徴ベクトルである出力パラメータから構成されるデータベースを生成するとともに、前記端末から送信されるヌル信号を前記基地局が受信することで前記入力パラメータ及び出力パラメータを生成する第1のステップと、前記端末と前記基地局とが通信している際に前記データベースから所定の前記入力パラメータを怠惰学習により検索する第2のステップと、前記抑制器が、前記所定の前記入力パラメータと対応する前記出力パラメータを算出し使用する第3のステップと、を備える、受信機の制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば全二重無線通信システムにおいて、自己干渉によって生じる電力をノイズレベルに抑制することが可能な受信機を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施の形態による受信機を含む通信システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態によるデータベース生成機能及びデータ伝送機能の説明に供するシーケンス図である。
【
図3】
図3は、データベース生成処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、データ伝送処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本実施の形態による受信機を含む通信システムの評価結果を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を用いて、本発明の実施の形態の一態様を詳述する。
【0011】
図1は、本実施の形態による受信機20を含む通信システムの構成を示すブロック図である。
図1に示す通信システムにおいて、スマートフォンなどの端末6と基地局1とは、周波数帯域であるチャネルを介して全二重無線通信における信号により通信を行う。
【0012】
具体的には、基地局1は、信号を送信するための送信機10及び信号を受信するための受信機20を備える。基地局1は、送信機10の有する送信アンテナ2を介して信号を例えば端末6に送信する。端末6は、端末6が有する端末アンテナ7を介して送信機10から信号を受信する。
【0013】
全二重無線通信においては、基地局1が備える送信機10及び基地局が備える受信機20は干渉し、自己干渉信号が生じる。このため、受信機20は、端末6から送信される理想的な信号である理想信号の他に自己干渉信号も受信する。受信機20は、自己干渉信号を抑制する抑制器を有する。
【0014】
端末6は、端末6が有する端末アンテナ7を介して受信機20に信号を送信することで基地局1にデータを伝送する。受信機20は、受信機20が有する受信アンテナ3を介して端末から信号を受信する。受信アンテナ3で受信された信号には受信アンテナ3の形状や配置などによって生じる雑音が含まれる。
【0015】
受信機20は、受信アンテナ3の形状や配置などによって生じる雑音(以下、これを物理雑音と呼んでもよい)と自己干渉信号とを除去するためのアンテナキャンセル器4を有する。
【0016】
例えばアンテナキャンセル器4は受信アンテナ3に取り付ける物理的な機器とする。バランのようなアナログキャンセル器5は、アンテナキャンセル器4によって雑音及び自己干渉信号が除かれた信号からさらにアナログ成分の雑音及び残留した自己干渉信号を除去する。このようにアンテナキャンセル器4及びアナログキャンセル器5によって信号の強さは抑えられる。
【0017】
送信機10は、送信アンテナ2の他に、ファンクションジェネレータ11と変調器12と信号を増幅する増幅器16とを有する。ファンクションジェネレータ11は、バイナリデータをベクトルで表されるシンボルにマッピングすることで信号を生成する機器である。
【0018】
変調器12は、信号を変調する機器であって、スプリッタ13と発振器14と位相変換器15とを有する。スプリッタ13は、ファンクションジェネレータ11から取得した信号を正弦波成分と余弦波成分とに分解する機器である。
【0019】
スプリッタ13によって余弦波成分に分解された信号は、発振器14によって発振周波数が制御された搬送波信号と掛け合わされることでIチャネル信号となる。同様にスプリッタ13によって正弦波成分に分解された信号は、発振器14によって発振周波数が制御され位相変換器によって位相が変換された搬送波信号と掛け合わされることでQチャネル信号となる。
【0020】
Iチャネル信号とQチャネル信号とが足し合わされた信号は、増幅器16によって増幅され、送信アンテナ2を介して端末6に送信される。なお増幅器16によって増幅される際に、増幅器16による雑音である増幅器雑音がIチャネル信号とQチャネル信号とが足し合わされた信号に足される。
【0021】
ここで抑制器は、Iチャネル信号とQチャネル信号のそれぞれに対してデジタルキャンセルを行う。抑制器は、具体的にはIチャネル用デジタルキャンセル器35及びQチャネル用デジタルキャンセル器36を指す。例えばIチャネル用デジタルキャンセル器35及びQチャネル用デジタルキャンセル器36は、集積回路で実装される。
【0022】
受信機20は、受信アンテナ3、アンテナキャンセル器4及びアナログキャンセル器5の他に、チャネル確立器21と、信号検出器22と、デジタルキャンセルアルゴリズム検索器23と、復号器30と、バイナリデータ保持器24とを有する。
【0023】
チャネル確立器21は、端末6と基地局1との間のチャネルを確立し、チャネルに関する値を扱う機器である。端末6と基地局1との間のチャネルが確立された場合、チャネル確立器21は、後述のデジタルキャンセルアルゴリズム検索器23、Iチャネル用デジタルキャンセル器35及びQチャネル用デジタルキャンセル器36を使用するようにスイッチをONにする。
【0024】
端末6と基地局1との間のチャネルが確立されなかった場合、チャネル確立器21は、デジタルキャンセルアルゴリズム検索器23、Iチャネル用デジタルキャンセル器35及びQチャネル用デジタルキャンセル器36を使用しないようにスイッチをOFFにする。信号検出器22は、端末6と基地局1との間の信号を検出し、信号に関する値を扱う機器である。
【0025】
復号器30は、信号を復号する機器であって、積分器31,34、発振器32、位相変換器33、Iチャネル用デジタルキャンセル器、Qチャネル用デジタルキャンセル器、ビット配列決定器37,38及びデータ結合器39を備える。
【0026】
信号検出器22によって検出されたIチャネル用の信号は、発振器32によって発振周波数が制御された搬送波信号と掛け合わされ、積分器31によって積分されIチャネル信号となる。
【0027】
信号検出器22によって検出されたIチャネル用の信号は、発振器32によって発振周波数が制御され位相変換器によって位相が変換された搬送波信号と掛け合わされ、積分器34によって積分されQチャネル信号となる。
【0028】
積分器31によって生成されたIチャネル信号は、ビット配列決定器37によってビット配列が決定されデータ結合器39に送信される。積分器34によって生成されたQチャネル信号は、ビット配列決定器38によってビット配列が決定されデータ結合器39に送信される。
【0029】
データ結合器39は、ビット配列決定器37,38によってビット配列が決定されたIチャネル信号及びQチャネル信号を結合してバイナリデータを生成する。バイナリデータ保持器24は、データ結合器39によって結合されたバイナリデータを保持し、図示せぬサーバなどに送信する機器である。
【0030】
データベース8は、例えばサーバなどが有し、特徴ベクトルである入力パラメータ及び特徴ベクトルである出力パラメータから構成される。データベース8のサイズはチャネルの状態などに応じて動的に調整ができるものとする。
【0031】
チャネルの状態とは、具体的には、送信アンテナ2と端末アンテナ7との間における通信可能なチャネルの数及び送信アンテナ2と受信アンテナ3との間における通信可能なチャネルの数できまる。
【0032】
特徴ベクトルとは、入力パラメータ又は出力パラメータといった複数の特徴を1つにまとめたベクトルのことを指す。データベース8は、端末6と基地局1とが通信していない際に、生成部及び変調器12からの情報に基づいて生成される。具体的には生成部は、チャネル確立器21及び積分器31,34を指す。
【0033】
デジタルキャンセルアルゴリズム検索器23(以下、これを検索部と呼んでもよい)は、例えば集積回路であって、端末6と基地局1とが通信している際に、データベース8から所定の入力パラメータを怠惰学習により検索する。
【0034】
またIチャネル用デジタルキャンセル器35及びQチャネル用デジタルキャンセル器36は、端末6と基地局1とが通信している際に、それぞれ、所定の入力パラメータと対応する出力パラメータを算出し使用する。
【0035】
ここで入力パラメータと出力パラメータについての説明を行う。
はそれぞれ、パラメータxがデータベース8に記録されていること、パラメータxがリアルタイム伝送の推定パラメータであること、パラメータxのサイズであること及びパラメータxとパラメータyとのユークリッド距離を示す。なおxと単に記載した場合は実測値とする。
【0036】
B
inは、特徴ベクトルの集合である入力パラメータを示し(1)式で表す。
【数1】
………(1)
ここでb番目の特徴ベクトルを示すB
in,bは、(2)式で表す。
【数2】
………(2)
【0037】
はそれぞれ、データベース8にb番目に記録された値を示す。具体的にはそれぞれ、基地局1の変調器12によって変調された信号の振幅の実測値である変調器信号振幅、基地局1の変調器12によって変調された信号の位相の実測値である変調器信号位相、受信機20が有する受信アンテナ3と端末6が有する端末アンテナ7との間におけるチャネルのゲインの実測値である端末受信機間ゲイン及び受信機20が有する受信アンテナ3と端末6が有する端末アンテナ7との間におけるチャネルの位相シフトの実測値である端末受信機間位相シフトを示す。受信アンテナ3と端末アンテナ7との間におけるチャネルの端末受信機間ゲインは入力に対する出力の比率を表すものとする。
【0038】
B
outは、特徴ベクトルの集合である出力パラメータを示し(3)式で表す。
【数3】
………(3)
式(3)に示すように、1つのB
in,bに対して1つのB
out,bが対応する。
【0039】
なおB
out,bは、1つの特徴ベクトルであるB
in,bとは異なり、(4)式に示すように複数の特徴ベクトルを有する。
【数4】
………(4)
ここで特徴ベクトルB
in,bに対応するb’番目の特徴ベクトルを示すB
out,b,b’は、(5)式で表す。
【数5】
………(5)
【0040】
はそれぞれ、特徴ベクトルB
in,bに対応してb’番目にデータベース8に記録された値を示す。
【0041】
具体的にはそれぞれ、チャネル確立器21により推定される送信機10が有する送信アンテナ2と受信機20が有する受信アンテナ3との間におけるチャネルのゲインである送信機受信機間推定ゲイン、チャネル確立器21により推定される送信機10が有する送信アンテナ2と受信機20が有する受信アンテナ3との間におけるチャネルの位相シフトである送信機受信機間推定位相シフト、Iチャネルでの自己干渉信号の量子効果の実測値であるIチャネル量子効果及びQチャネルでの自己干渉信号の量子効果の実測値であるQチャネル量子効果を示す。
【0042】
なおBin及びBout,bを構成している各パラメータの値は、データベース8を生成する際に取得される。このため、Bin及びBout,bを構成している各パラメータの値は、端末6と基地局1との間のチャネルが確立されなかった場合に測定された値である実測値又は端末6と基地局1との間のチャネルが確立されなかった場合に測定された値である実測値をもとに推定した推定値となる。
【0043】
次に
図2を用いてデータベース8を生成する際の概要及び端末6から基地局1にデータを伝送する際の概要について説明を行う。
図2は、本実施の形態によるデータベース生成機能及びデータ伝送機能の説明に供するシーケンス図である。
【0044】
まずデータベース8を生成するデータベース生成機能について説明する。データベース8を生成する際においては、端末6はヌル信号を基地局1が備える受信機20に送信する(S1)。
【0045】
ここでヌル信号とは、端末6と基地局1との間のチャネルが確立しない信号とする。ヌル信号が送信される際に、送信機10から自己干渉信号が受信機20に送信される(S2)。
【0046】
受信機20が自己干渉信号を受信すると、受信機20が有するチャネル確立器21及び積分器31,34は、入力パラメータ及び出力パラメータを生成する(S3)。なお送信機10から自己干渉信号が受信機20に送信される際に変調器12は、入力パラメータを生成する。
【0047】
具体的には、チャネル確立器21は、入力パラメータである端末受信機間ゲイン及び端末受信機間位相シフトを生成する。また送信機10が自己干渉信号を送信する際、変調器12は、入力パラメータである変調器信号振幅及び変調器信号位相を生成する。
【0048】
またチャネル確立器21は、出力パラメータである送信機受信機間推定ゲイン及び送信機受信機間推定位相シフトを生成し、積分器31,34は出力パラメータであるIチャネル量子効果及びQチャネル量子効果を生成する。
【0049】
次にデータ伝送機能について説明する。データを伝送する際においては、端末6は、端末6が意図する理想的な信号である理想信号を基地局1が備える受信機20に送信する(S4)。理想信号が送信される際に、送信機10から自己干渉信号が受信機20に送信される(S5)。
【0050】
受信機20が自己干渉信号を受信すると、受信機20が有するデジタルキャンセルアルゴリズム検索器23は、データベース8の入力パラメータと後述のチャネル確立時実測値及びチャネル確立時推定値とのユークリッド距離が最も短いベクトルを所定の入力パラメータとしてデータベース8から怠惰学習により検索する(S6)。
【0051】
怠惰学習による検索結果は(6)式のように表されるb
*を選択する。
【数6】
………(6)
ここでb
*は0を除く自然数となる。
は、怠惰学習により入力パラメータが検索される際に取得される値である。このためこれらの値は端末6と基地局1との間のチャネルが確立された場合に測定された値である実測値(以下、これをチャネル確立時実測値と呼んでもよい)又は端末6と基地局1との間のチャネルが確立された場合に測定された値である実測値をもとに推定した推定値(以下、これをチャネル確立時推定値と呼んでもよい)となる。
【0052】
具体的には、これらの値はそれぞれ変調器12によって変調された信号の振幅の実測値である変調器信号振幅、変調器12によって変調された信号の位相の実測値である変調器信号位相、受信アンテナ3と端末アンテナ7との間におけるチャネルのゲインの推定値である端末受信機間推定ゲイン及び受信アンテナ3と端末アンテナ7との間におけるチャネルの位相シフトの推定値である端末受信機間推定位相シフトを示す。なお端末受信機間推定ゲイン及び端末受信機間推定位相シフトは、チャネル確立器21によって推定される。
【0053】
次に受信機20が有するIチャネル用デジタルキャンセル器35及びQチャネル用デジタルキャンセル器36は、デジタルキャンセルアルゴリズム検索器23が怠惰学習により検索した入力パラメータと対応する出力パラメータとして、推定ゲイン及び推定位相シフトと推定値とのユークリッド距離がなくなるような出力パラメータを算出して使用する(S7)。
【0054】
算出結果は(7)式のように表されるb
’*を選択する。
【数7】
………(7)
【0055】
ここで(7)式は、左から数えて2番目の式である第2式が0(左から数えて3番目の式である第3式)となるようなb
’*(左から数えて1番目の式である第1式)を選択することを指す式とする。
は怠惰学習により入力パラメータが検索される際に取得される値である。このためこれらの値はチャネル確立時推定値となる。
【0056】
具体的には、これらの値は、それぞれ、送信アンテナ2と受信アンテナ3との間におけるチャネルのゲインの推定値である送信機受信機間推定ゲイン及び送信アンテナ2と受信アンテナ3との間におけるチャネルの位相シフトの推定値である送信機受信機間推定位相シフトを示す。
【0057】
なお怠惰学習における推定値は、例えば線形検索などの機械学習における最近傍検索によって算出される。なお推定値はkd木(k-dimensional tree)のような空間分割によって算出されてもよい。
【0058】
次にデータベース生成処理の処理手順を示すフローチャートである
図3を用いて、データベース生成処理を説明する。データベース生成処理はデータベース生成機能を実現するための処理である。まず受信アンテナ3は、端末6からヌル信号を受信する(S11)。
【0059】
受信アンテナ3がヌル信号を受信すると、チャネル確立器21は、チャネルを確立せず、入力パラメータである端末受信機間振幅ゲイン及び端末受信機間位相シフトと出力パラメータである送信機受信機間推定ゲイン及び送信機受信機間推定位相シフトを生成する(S12)。データベース8は、生成された端末受信機間振幅ゲイン、端末受信機間位相シフト、送信機受信機間推定ゲイン及び送信機受信機間推定位相シフトを記憶する。
【0060】
またヌル信号が送信される際に送信機10から受信機20に自己干渉信号が送信される際、変調器12は、入力パラメータである変調器信号振幅及び変調器信号位相を生成する。データベース8は、生成された変調器信号振幅及び変調器信号位相を記憶する。または、入力パラメータである変調器信号振幅及び変調器信号位相を生成する。データベース8は、生成された変調器信号振幅及び変調器信号位相を記憶する。
【0061】
チャネル確立器21が入力パラメータ及び出力パラメータを生成すると、信号検出器22は、Iチャネル用信号(以下、これをIチャネル成分と呼んでもよい)及びQチャネル用信号(以下、これをIチャネル成分と呼んでもよい)を検出する(S13)。
【0062】
信号検出器22がIチャネル用信号及びQチャネル用信号を検出すると、積分器31,34は、Iチャネル用信号及びQチャネル用信号を積分し、Iチャネル信号及びQチャネル信号とする。積分器31,34は、Iチャネル用信号及びQチャネル用信号を積分する際に、出力パラメータであるIチャネル量子効果及びIチャネル量子効果を生成する(S14)。
【0063】
積分器31,34がIチャネル用信号及びQチャネル用信号を積分すると、ビット配列決定器37,38は、Iチャネル信号及びQチャネル信号のビット配列を決定し、データ結合器39は、ビット配列が決定されたIチャネル信号とQチャネル信号とを結合する(S15)。
【0064】
データ結合器39がビット配列の決定されたIチャネル信号とQチャネル信号とを結合すると、バイナリデータ保持器24は、ビット配列が決定されたIチャネル信号とQチャネル信号とが結合されたバイナリデータを保持する(S16)。
【0065】
次にデータ伝送処理の処理手順を示すフローチャートである
図4を用いて、データ伝送処理を説明する。データ伝送処理はデータ伝送機能を実現するための処理である。まず受信アンテナ3は、端末6から理想信号を受信する(S21)。
【0066】
受信アンテナ3が理想信号を受信すると、チャネル確立器21はチャネルを確立する(S22)。チャネル確立器21がチャネルを確立すると、デジタルキャンセルアルゴリズム検索器23は、入力パラメータを検索する(S23)。
【0067】
デジタルキャンセルアルゴリズム検索器23が入力パラメータを検索すると、信号検出器22はIチャネル用信号及びQチャネル用信号を検出する(S24)。信号検出器22がIチャネル用信号及びQチャネル用信号を検出すると、積分器31,34は、Iチャネル用信号及びQチャネル用信号を積分し、Iチャネル信号及びQチャネル信号とする(S25)。
【0068】
積分器31,34がIチャネル用信号及びQチャネル用信号を積分すると、Iチャネル用デジタルキャンセル器25及びQチャネル用デジタルキャンセル器26は、デジタルキャンセルを行う(S26)。
【0069】
Iチャネル用デジタルキャンセル器25及びQチャネル用デジタルキャンセル器26がデジタルキャンセルを行うと、ビット配列決定器37,38は、Iチャネル信号及びQチャネル信号のビット配列を決定し、データ結合器39は、ビット配列が決定されたIチャネル信号とQチャネル信号とを結合する(S27)。
【0070】
データ結合器39がビット配列の決定されたIチャネル信号とQチャネル信号とを結合すると、バイナリデータ保持器24は、ビット配列が決定されたIチャネル信号とQチャネル信号とが結合されたバイナリデータを保持する(S28)。
【0071】
次に
図5を用いて本実施の形態による受信機20を含む通信システムの評価について信号雑音比を固定した際のシミュレーション結果をもとに説明する。
図5は、本実施の形態による受信機を含む通信システムの評価結果を示す概略図である。
【0072】
図5において横軸はアンテナキャンセル器4及びアナログキャンセル器5によって抑えられる信号の強さを示し、縦軸は基地局1と端末6との間の通信におけるビットエラー率を示す。グラフ51は、本実施の形態による受信機20を使用した場合を示す。グラフ52は、自己干渉信号がない受信機を使用した場合を示す。
【0073】
グラフ53は、予め送信機と受信機とで定めたパターンの信号を使用することで自己干渉信号を推測する受信機を使用した場合や学習モデルを使用して自己干渉信号を推測する受信機を使用した場合を示す。なおビットエラー率による自己干渉信号の評価は、ビット配列決定器37,38によってビットが決定され信号が定量化されるために可能である。
【0074】
グラフ53に示された場合では、アンテナキャンセル器4及びアナログキャンセル器5によって抑えられる信号の強さに関係なく、ビットエラー率は10-1を超えており、安定して通信状況が悪いことがわかる。
【0075】
グラフ52に示された場合では、アンテナキャンセル器4及びアナログキャンセル器5によって抑えられる信号の強さに関係なく、ビットエラー率は10-1を下回っており、安定して通信状況が良いことがわかる。
【0076】
グラフ51に示された場合では、アンテナキャンセル器4及びアナログキャンセル器5によって抑えられる信号の強さが-40dB程度までであれば、ビットエラー率は10-1を下回っている。このことからグラフ51に示された場合では、極端な条件下でなければ、安定して通信状況が良いことがわかる。
【0077】
グラフ51とグラフ53とを比較してわかることは、例えばモデルトレーニングが不要であるため予測エラーが入らず、予測エラーが入らないために極端な条件下でなければ、安定して通信状況が良くなることがわかる。
【0078】
以上のように本実施の形態によれば、例えばセルラーネットワークにおいて、自己干渉によって生じる電力をノイズレベルに抑制することが可能となり、安定して通信状況が良い帯域内全二重(IBFD: in-band full-duplex)通信が可能となる。
【0079】
なお、上述の実施の形態においては、デジタルキャンセルアルゴリズム検索器23、Iチャネル用デジタルキャンセル器35及びQチャネル用デジタルキャンセル器36が集積回路の場合について述べたが、本実施の形態はこれに限らない。例えば、デジタルキャンセルアルゴリズム検索器23、Iチャネル用デジタルキャンセル器35及びQチャネル用デジタルキャンセル器36はサーバなどに記憶されたプログラムによって実装されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1……基地局、2……送信アンテナ、3……受信アンテナ、4……アンテナキャンセル器、5……アナログキャンセル器、6……端末、7……端末アンテナ、8……データベース、10……送信機、11……ファンクションジェネレータ、12……変調器、13……スプリッタ、14,32……発振器、15,33……位相変換器、16……増幅器、20……受信機、21……チャネル確立器、22……信号検出器、23……デジタルキャンセルアルゴリズム検索器、24……バイナリデータ保持器、30……復号器、31,34……積分器、35……Iチャネル用デジタルキャンセル器、36……Qチャネル用デジタルキャンセル器、37,38……ビット配列決定器、39……データ結合器。