(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】アルミニウム合金を用いた水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/08 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
C01B3/08 Z
(21)【出願番号】P 2021063762
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】514169714
【氏名又は名称】アルハイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】水木 伸明
(72)【発明者】
【氏名】角谷 哲哉
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-089971(JP,A)
【文献】特開2018-002557(JP,A)
【文献】特開平05-279020(JP,A)
【文献】特開2003-190906(JP,A)
【文献】特表2016-509570(JP,A)
【文献】特開平07-268659(JP,A)
【文献】伊藤尚,ドロマイトを用いたアルミン酸ソーダ溶液の脱ケイ酸処理,日本鉱業会誌,1968年08月18日,Vol.84,No.958,p.123-128,DOI: 10.2473/shigentosozai1953.84.958_123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00 - 6/34
B09B 3/00 - 3/80
C01D 1/20 - 1/24
C01F 7/00 - 7/788
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを9.6~12.0%含有するアルミニウム合金の端材又は切粉をアルカリ水溶液と反応させて水素を製造する方法であって、
前記水素を製造した反応終了後の反応液にCa(OH)
2
を添加し、下記反応式(1)によりNaOHを再生することで、前記反応終了後の反応液を再生しながら繰り返し水素の製造に用いることを特徴とする水素の製造方法。
Na
2SiO
3(Na
2O・SiO
2)+Ca(OH)
2 → CaO・SiO
2+2NaOH・・・・・・・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムとアルカリ水溶液とを反応させて、水素を得る水素の製造方法に関し、特にアルミニウム合金に含まれるアルミニウム以外の成分の影響を改善した水素の製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムをpH3以上のアルカリ水溶液に反応させると、溶解反応により水素が発生する。
アルカリ水溶液として、水酸化ナトリウムを例にして反応式を下記に示す。
(1)2Al+2NaOH+2H2O → 2NaAlO2+3H2
ここで、水素の発生に必要なNaOHは、反応によりNaAlO2として消耗されるが、ある程度の濃度になると、水溶性のNaAlO2(アルミン酸ソーダ)は加水分解により、下記のようにNaOHが再生される。
(2)NaAlO2+2H2O → Al(OH)3+NaOH
しかし、アルミニウム合金中には、鋳造性や展伸性、強度や切削性等を考慮して、各種添加成分が含有する。
例えば、JIS ADC12等は、ダイカスト鋳造用合金であり、Siが多く含まれる。
したがって、各種製品の製造に使用されたアルミニウム合金の端材や、製造工程で発生する切削クズや切粉等を水素製造の原材料に用いた場合に、アルミニウム以外の成分が問題となる。
【0003】
特許文献1には、反応器から固形物を排出しながら連続的に水素を得る方法を開示するが、Si等のアルミニウム合金中の添加成分はアルカリ水溶液中に溶解した状態で存在するので、除去することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルミニウム合金を水素製造の原材料に用いた場合に、アルカリ水溶液中に溶解するアルミニウム以外の成分の影響を抑えた水素の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る水素の製造方法は、アルミニウム合金をアルカリ水溶液に反応させて水素を製造する方法であって、前記アルカリ水溶液中に溶解された前記アルミニウム合金に含まれるアルミニウム以外の成分を不溶化し除去するための不溶化補助剤が前記アルカリ水溶液に添加されていることを特徴とする。
このように、不溶化補助剤は、水素製造に用いる反応液中に予め、あるいは途中で添加してもよい。
【0007】
また、反応が終了した反応液の再生に使用することもでき、アルミニウム合金をアルカリ水溶液に反応させて水素を製造する方法であって、反応液中に含まれる前記アルミニウム合金中のアルミニウム以外の成分を不溶化し除去するための不溶化補助剤を前記反応液中に添加し、前記アルカリ水溶液を再生し、再利用することを特徴としてもよい。
【0008】
ここで、不溶化補助剤はCaSO4,CaCO3,CaCl2,Ca(OH)2,MgSO4,MgCO3,MgCl2,Mg(OH)2,FeSO4,FeCO3,FeCl2,Fe(OH)2のうち、いずれか1つ以上であるのが好ましい。
【0009】
例えば、アルミニウム合金中に含まれるSiもアルカリ水溶液と反応し、その反応式を下記に示す。
(3)Si+2NaOH+H2O → Na2SiO3+2H2
これにより、NaOHは、Na2SiO3として消耗されるが、このNa2SiO3は加水分解しないので、NaAlO2のようにNaOHが再生されない。
そこで、例えば不溶化補助剤としてCa(OH)2を添加すると、下記のような反応が生じる。
Na2SiO3(Na2O・SiO2)+Ca(OH)2 → CaO・SiO2+2NaOH
ここで、CaO・SiO2は、アルカリ水溶液に不溶性となり、固形物として除去でき、NaOHが再生される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る水素の製造方法にあっては、アルミニウム合金をアルカリ水溶液に溶解した際に、アルミニウム合金中に含まれるアルミニウム以外の可溶性成分を不溶化補助剤にて反応液から除去できるとともにアルカリ成分が再生されるので、効率よく水素を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る効果を実験にて実証したので、以下説明する。
水酸化ナトリウム(NaOH)40g/l,50mlの反応液をビーカーに準備し、アルミニウム合金の切粉0.2gを添加し、発生した水素(ガス)を回収した。
アルミニウム合金は、Si:9.6~12.0%,Cu:1.5~3.5%が含有しているものを用いた。
【0012】
上記の方法で、第1回目に反応させた反応終了後の反応液から濾過にて固形分を除去し、順次第2回目,3回目と実験を繰り返した。
実施例としては、反応終了後の反応液にCa(OH)2を約1%添加し、反応実験を繰り返した。
一方、比較例にはCa(OH)2を添加せずに、そのまま反応実験を繰り返した。
その結果、比較例では5回の実験の繰り返しにより、水素の発生量が第1回目の発生量に対して約80%まで低下したが、実施例は5回目の実験による水素発生量は、第1回目の発生量よりも約95%の低下に留まっていた。
これにより、不溶化補助剤の反応液への添加により、水素発生量の低下を抑えることができることが確認できた。
なお、不溶化補助剤の添加量は、アルミニウム合金中のアルミニウム以外の成分量に応じて選定されるが、概ね反応液に対して0.1~10質量%添加されるのが好ましい。