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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】癌抗原特異的細胞傷害性T細胞
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20240528BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240528BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20240528BHJP
   C07K 14/55 20060101ALN20240528BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20240528BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
A61K35/17 ZNA
A61P35/00
G01N33/53 Y
C12N5/0783
C07K14/55
C07K14/705
C07K16/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021506967
(86)(22)【出願日】2019-08-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 KR2019010240
(87)【国際公開番号】W WO2020032780
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】62/717,236
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519001408
【氏名又は名称】ユーティレックス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】グォン ビョン セ
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨン ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム ムン キ
(72)【発明者】
【氏名】キム グワン ヒー
(72)【発明者】
【氏名】カン ユー ヒュン
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-526244(JP,A)
【文献】特表2017-508480(JP,A)
【文献】特表2015-527070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌抗原特異的細胞傷害性T細胞を含む、癌を予防または処置するための薬学的組成物であって、
該薬学的組成物は、少なくとも約7×106細胞/mLの細胞を含み、かつ
該約7×106細胞/mLの細胞のうちの少なくとも約90%がCD8+T細胞であり、かつ該CD8+T細胞のうちの少なくとも80%がCD45RO発現細胞であるか、または該CD8+T細胞のうちの20%以下がCD45RA発現細胞であ
該薬学的組成物は、
(a)癌患者の血液中に存在する癌抗原由来エピトープを選択する工程;
(b)癌患者の血液から単離された末梢血単核球(PBMC)を、該エピトープと、IL-2、IL-7、IL-15、およびIL-21からなる群より選択される少なくとも1種類のサイトカインとともにインキュベートする工程;
(c)工程(b)において培養された細胞の中から、CD8と4-1BBの両方を発現する細胞を選択する工程;ならびに
(d)工程(c)において選択されたT細胞を、抗CD3抗体およびIL-2とともにインキュベートする工程
を含む方法によって製造されている、
薬学的組成物。
【請求項2】
薬学的組成物は、少なくとも約7×10 6 細胞/mLの細胞を含み、かつ
該約7×10 6 細胞/mLの細胞のうちの90~99%がCD8 + T細胞であり、かつ該CD8 + T細胞のうちの80~99.7%がCD45RO発現細胞であるか、または該CD8 + T細胞のうちの1.7~20%がCD45RA発現細胞である、
請求項1記載の癌を予防または処置するための薬学的組成物。
【請求項3】
癌抗原が、hTERT、NY-ESO1、MAGE-A3、WT1、CMV、およびEBVからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1記載の癌を予防または処置するための薬学的組成物。
【請求項4】
少なくとも2種のエピトープが工程(a)または(b)において用いられる、請求項1記載の癌を予防または処置するための薬学的組成物。
【請求項5】
工程(c)が閉鎖系フローサイトメーターを用いて行われる、請求項1記載の癌を予防または処置するための薬学的組成物。
【請求項6】
(a)癌患者の血液中に存在する癌抗原由来エピトープを選択する工程;
(b)癌患者の血液から単離された末梢血単核球(PBMC)を、該エピトープと、IL-2、IL-7、IL-15、およびIL-21からなる群より選択される少なくとも1種類のサイトカインとともにインキュベートする工程;
(c)工程(b)において培養された細胞の中から、CD8と4-1BBの両方を発現する細胞を選択する工程;ならびに
(d)工程(c)において選択されたT細胞を、抗CD3抗体およびIL-2とともにインキュベートする工程
を含む、癌を予防または処置するための薬学的組成物を製造する方法であって、
該薬学的組成物は、少なくとも約7×106細胞/mLの癌抗原特異的細胞傷害性T細胞を含み、かつ
該約7×106細胞/mLの細胞のうちの少なくとも約90%がCD8+T細胞であり、かつ該CD8+T細胞のうちの少なくとも80%がCD45RO発現細胞であるか、または該CD8+T細胞のうちの20%以下がCD45RA発現細胞である、
方法。
【請求項7】
癌抗原が、hTERT、NY-ESO1、MAGE-A3、WT1、CMV、およびEBVからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
少なくとも2種のエピトープが工程(a)または(b)において用いられる、請求項6記載の方法。
【請求項9】
工程(c)が閉鎖系フローサイトメーターを用いて行われる、請求項6記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞およびそれを含む薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
CD8+T細胞は、樹状細胞、CD4+T細胞、およびNK細胞などの他の細胞と比べて比較的単純な機能を有するので、抗癌免疫療法において予想外の副作用が発生する可能性は低い。一般的に、抗原特異的CD8+T細胞を単離するためにMHCクラスI/ペプチド多量体が用いられるが、この方法には欠点がある。なぜなら、十分な量の抗原特異的CD8+T細胞を産生するには細胞単離後のアポトーシスによる細胞死の割合が高く、長期間のインキュベーションが必要だからである。従って、T細胞受容体(TCR)を刺激するMHC多量体に取って代わることで、抗原特異的CD8+T細胞を単離することができる代用マーカーが必要とされる。この目的のために、タンパク質4-1BB(CD137)が用いられる。
【0003】
4-1BBは誘導性の共刺激分子であり、活性化T細胞において発現している。特に、4-1BBを介した刺激はCD8+T細胞活性を増強するだけでなく、抗アポトーシス分子、例えば、Bcl-2、Bcl-XL、およびBfl-1の発現を増大させることによって活性化誘導細胞死(AICD)を阻害するように作用することも知られている。
【0004】
本発明者らは、抗原特異的CD8+T細胞を、活性化されたCD8+T細胞による4-1BB発現を用いて、または抗4-1BB抗体もしくは五量体COMP-4-1BBLタンパク質を用いて単離しかつ増殖させる方法を以前に開示した(大韓民国登録特許第100882445号(特許文献1)、大韓民国登録特許第101103603号(特許文献2)、大韓民国登録特許第101503341号(特許文献3))。本明細書の背景は、上記の特許に開示されたT細胞またはT細胞を製造する方法である。
【0005】
これらの特許参考文献は、ウイルス抗原(EBV/LMP2A、CMV/pp65)の形をした外来抗原または自己抗原(WT1、hTERT、NY-ESO-1など)に対する抗原特異的CD8+T細胞を単離および大量培養するための技法を開示する。しかしながら、抗4-1BB抗体コーティングプレートを用いてコーティングされたプレートを用いて抗原特異的CD8+T細胞を単離する既存の技法では、単離された細胞の純度は作業者の技能によって大きく異なり、細胞を培養するプロセスも非常に複雑である。さらに、産生プロセスは30日以上かかるので、現在、臨床用途の細胞治療剤を産生するのに必要な時間を可能な限り短縮することが引き続き必要とされている。
【0006】
従って、もっと簡単に抗原特異的CD8+T細胞を単離すること、これらの細胞を素早く大量増殖させることによってインキュベーションプロセス全体を短縮することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】大韓民国登録特許第100882445号
【文献】大韓民国登録特許第101103603号
【文献】大韓民国登録特許第101503341号
【発明の概要】
【0008】
発明の詳細な説明
技術的課題
本発明は、高度の純度で調製されたCD8+T細胞含有薬学的組成物を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、癌抗原特異的CD8+T細胞を7日以内に産生するのに必要な癌抗原由来エピトープをスクリーニングするためのエピトープアドバンススクリーニング方法、ならびに抗原特異的CD8+T細胞を20日以内に選択的に単離しかつ大量増殖させるための方法を提供することを目的とする。
【0010】
課題を解決する手段
1. 癌抗原特異的細胞傷害性T細胞を含む、癌を予防または処置するための薬学的組成物であって、
該薬学的組成物は、少なくとも約7×106細胞/mLの細胞を含み、かつ
該約7×106細胞/mLの細胞のうちの少なくとも約90%がCD8+T細胞であり、かつ該CD8+T細胞のうちの少なくとも80%がCD45RO発現細胞であるか、または該CD8+T細胞のうちの20%以下がCD45RA発現細胞である、
薬学的組成物。
【0011】
2. (a)癌患者の血液中に存在する癌抗原由来エピトープを選択する工程;
(b)癌患者の血液から単離された末梢血単核球(PBMC)を、該エピトープと、IL-2、IL-7、IL-15、およびIL-21からなる群より選択される少なくとも1種類のサイトカインとともにインキュベートする工程;
(c)工程(b)において培養された細胞の中から、CD8と4-1BBの両方を発現する細胞を選択する工程;ならびに
(d)工程(c)において選択されたT細胞を、抗CD3抗体およびIL-2とともにインキュベートする工程
を含む方法によって製造されている、項目1の癌を予防または処置するための薬学的組成物。
【0012】
3. 癌抗原が、hTERT、NY-ESO1、MAGE-A3、WT1、CMV、およびEBVからなる群より選択される少なくとも1つである、項目1の癌を予防または処置するための薬学的組成物。
【0013】
4. 少なくとも2種のエピトープが工程(a)または(b)において用いられる、項目2の癌を予防または処置するための薬学的組成物。
【0014】
5. 工程(c)が閉鎖系フローサイトメーターを用いて行われる、項目2の癌を予防または処置するための薬学的組成物。
【0015】
6. (a)癌患者の血液中に存在する癌抗原由来エピトープを選択する工程;
(b)癌患者の血液から単離された末梢血単核球(PBMC)を、該エピトープと、IL-2、IL-7、IL-15、およびIL-21からなる群より選択される少なくとも1種類のサイトカインとともにインキュベートする工程;
(c)工程(b)において培養された細胞の中から、CD8と4-1BBの両方を発現する細胞を選択する工程;ならびに
(d)工程(c)において選択されたT細胞を、抗CD3抗体およびIL-2とともにインキュベートする工程
を含む、癌を予防または処置するための薬学的組成物を製造する方法であって、
該薬学的組成物は、少なくとも約7×106細胞/mLの癌抗原特異的細胞傷害性T細胞を含み、かつ
該約7×106細胞/mLの細胞のうちの少なくとも約90%がCD8+T細胞であり、かつ該CD8+T細胞のうちの少なくとも80%がCD45RO発現細胞であるか、または該CD8+T細胞のうちの20%以下がCD45RA発現細胞である、
方法。
【0016】
7. 癌抗原が、hTERT、NY-ESO1、MAGE-A3、WT1、CMV、およびEBVからなる群より選択される少なくとも1つである、項目6の方法。
【0017】
8. 少なくとも2種のエピトープが工程(a)または(b)において用いられる、項目6の方法。
【0018】
9. 工程(c)が閉鎖系フローサイトメーターを用いて行われる、項目6の方法。
【0019】
10. 薬学的に有効な量の癌抗原特異的細胞傷害性T細胞を含む、癌を予防または処置するための薬学的組成物を、その必要がある対象に投与する工程を含む、癌を予防または処置するための方法であって、
該薬学的組成物は、少なくとも約7×106細胞/mLの細胞を含み、かつ
該約7×106細胞/mLの細胞のうちの少なくとも約90%がCD8+T細胞であり、かつ該CD8+T細胞のうちの少なくとも80%がCD45RO発現細胞であるか、または該CD8+T細胞のうちの20%以下がCD45RA発現細胞である、
方法。
【0020】
11. 薬学的組成物が、
(a)癌患者の血液中に存在する癌抗原由来エピトープを選択する工程;
(b)癌患者の血液から単離された末梢血単核球(PBMC)を、該エピトープと、IL-2、IL-7、IL-15、およびIL-21からなる群より選択される少なくとも1種類のサイトカインとともにインキュベートする工程;
(c)工程(b)において培養された細胞の中から、CD8および4-1BBの両方を発現する細胞を選択する工程;ならびに
(d)工程(c)において選択されたT細胞を、抗CD3抗体およびIL-2とともにインキュベートする工程
を含む方法によって製造されている、項目10の方法。
【0021】
12. 癌抗原が、hTERT、NY-ESO1、MAGE-A3、WT1、CMV、およびEBVからなる群より選択される少なくとも1つである、項目10の方法。
【0022】
13. 少なくとも2種のエピトープが工程(a)または(b)において用いられる、項目11の方法。
【0023】
14. 工程(c)が閉鎖系フローサイトメーターを用いて行われる、項目11の方法。
【0024】
発明の効果
本発明のCD8+T細胞含有薬学的組成物は高度の純度で癌抗原特異的CD8+T細胞を含むことができる。
【0025】
本発明のCD8+T細胞含有薬学的組成物は癌に対して優れた有効性を有する。
【0026】
本発明のCD8+T細胞含有薬学的組成物はT細胞治療剤として優れた臨床有効性を有する。
【0027】
本発明のCD8+T細胞産生方法は、癌抗原特異的CD8+T細胞を産生するのに必要な癌抗原由来エピトープを迅速に、かつ直接スクリーニングすることができる。
【0028】
本発明のCD8+T細胞産生方法を用いると、癌抗原特異的CD8+T細胞を高純度で選択的に単離および大量培養することが可能になる。
【0029】
本発明のCD8+T細胞産生方法を用いると、癌抗原特異的CD8+T細胞を迅速に産生することが可能になる。
【0030】
本発明のCD8+T細胞産生方法はGMPプロセスに適用され得る。
【0031】
本発明のCD8+T細胞産生方法を用いると、癌抗原特異的CD8+T細胞を高純度で選択的に分離および大量培養することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】癌抗原特異的CD8+T細胞を産生するためのプロセスを模式的に示す。
図2】従来の方法に従うエピトープスクリーニング結果と、本発明の方法に従うエピトープスクリーニング結果とを示す。
図3】抗原特異的CD8+T細胞治療剤産生プロセスと20日プロセスによって産生された抗原特異的CD8+T細胞の表現型を確認した結果を示す。
図4】T細胞治療剤製品を対象にした自己評価基準および試験項目に対する試験結果を示す。
図5】抗原特異的CD8+T細胞治療剤産生プロセスと15日プロセスによって産生された抗原特異的CD8+T細胞の表現型を確認した結果を示す。
図6】T細胞治療剤製品を対象にした自己評価基準および試験項目に対する試験結果を示す。
図7】自動セルソーターを用いてEBV特異的CD8+T細胞を単離し、フローサイトメーターを用いて分析した結果を示す。
図8】自動セルソーターを用いてEBV特異的CD8+T細胞を単離し、フローサイトメーターを用いて分析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明を実施する最良の態様
本発明は、高度の純度で、癌抗原(例えば、EBV、CMV、hTERT、NY-ESO-1、WT1、MAGE-A3など)に特異的な細胞傷害性T細胞を含む、癌を予防または処置するための薬学的組成物に関する。
【0034】
さらに、癌細胞特異的免疫細胞を用いた癌細胞療法の分野において、本発明は、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の産生に必要な癌ペプチド(エピトープ)を迅速に、7日以内にスクリーニングし、該癌ペプチドを使用して、抗原特異的CD8+T細胞を高純度で20日以内に素早く、かつ簡単に単離および大量培養するのを可能にする、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞を単離しかつ増殖させる方法に関する。
【0035】
本発明の薬学的組成物は、癌抗原(例えば、EBV、CMV、hTERT、NY-ESO-1、WT1、MAGE-A3、ネオアンチゲンなど)に特異的な細胞傷害性T細胞を含む。最初の増殖から、最後のT細胞大量培養が終了した後の凍結までかかる時間は31日になる場合がある。改善された産生プロセスも26日、20日または15日を要する場合がある(図1)。
【0036】
本発明の薬学的組成物は65%以上の癌抗原特異的細胞傷害性T細胞(例えば、CD8+T細胞)を含んでもよい。例えば、本発明の薬学的組成物は65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%以上のCD8+T細胞を含んでもよい。
【0037】
本発明の一態様では、本発明の薬学的組成物は、CD8+T細胞の10%以上、または20%以上で発現しているTCRβ型の1つまたは複数の種でもよい。
【0038】
本発明の一態様では、CD45ROを発現する細胞が本発明の薬学的組成物のCD8+T細胞の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%を構成する。本発明の別の態様では、本発明の薬学的組成物のCD8+T細胞の少なくとも80%は、CD45ROを発現する細胞である。
【0039】
本発明の一態様では、CD45RAを発現する細胞が本発明の薬学的組成物のCD8+T細胞の30%以下、20%以下、10%以下、または5%以下である。本発明の別の態様では、本発明の薬学的組成物のCD8+T細胞の20%は、CD45RAを発現する細胞である。
【0040】
本発明の薬学的組成物は以下の製造方法によって調製され得る。
【0041】
本願の一局面は、癌抗原特異的CD8+T細胞を増殖させかつ単離する方法に関する。この方法の一態様は、a)最初に、癌患者の血液から単離されたPBMC(末梢血単核球)を、癌抗原に由来するそれぞれのペプチドと共に培養し、癌抗原CD8+T細胞エピトープをスクリーニングするように活性化T細胞をスクリーニングする工程;b)癌患者の血液から単離されたPBMCを、スクリーニングされたエピトープと、IL-2、IL-7、IL-15、およびIL-21からなる群より選択される少なくとも1種類のサイトカインとを含む培地中で培養し、それによって、PBMCにおいて4-1BB発現を誘導する工程;ならびにc)4-1BB発現が誘導された細胞を、抗4-1BB抗体と抗CD8抗体を用いて染色し、次いで、これらを単離する工程を含む。
【0042】
抗原特異的CD8+T細胞を産生するために抗原エピトープをスクリーニングし、抗原特異的CD8+T細胞を単離しかつ増殖させるための本発明の方法が以下において段階ごとに説明される。
【0043】
本願に従う方法では、CD8+T細胞エピトープのソーティングまたはスクリーニングの工程は、癌細胞に対するアビディティを増大させるか、または0.1%以下という低濃度で血中に存在する癌抗原特異的CD8+T細胞の濃度を増大させることを目的とし、癌抗原特異的CD8+T細胞を選択的に増殖させかつ単離するのを可能にする第1の工程である。
【0044】
この工程では、CD8+T細胞が認識することができる、様々な癌抗原(例えば、EBV、CMV、hTERT、NY-ESO-1、WT1、MAGE-A3など)に由来するエピトープが使用され得る。しかしながら、これは患者一人一人の状態に左右される。言い換えると、癌抗原において同じタイプの癌抗原、例えば、EBV、CMV、hTERT、NY-ESO-1、WT1、MAGE-A3などであっても、エピトープとして働く可能性がある部分は各患者のHLA-A型および状態に左右される。従って、同じ癌抗原の中にあっても、癌患者一人一人の血中に存在する癌抗原CD8+T細胞エピトープをエピトープスクリーニングによって選択および使用することが重要である。なぜなら、抗原エピトープとして働く可能性があるペプチド部分は各癌患者について異なるからである。一般的に、T細胞治療剤の調製において使用するためには、エピトープとして働く3~4種類のペプチドが選択される。
【0045】
本願に従う方法は、様々な癌抗原に由来する、個体においてCD8+T細胞を選択しかつ増殖させるのに最適なエピトープを選択する工程を含む。自己由来抗原と非自己抗原の両方を含む、この目標を果たす様々な癌抗原が使用され得る。
【0046】
例えば、患者自身の遺伝子に由来する自己癌抗原は、hTERT(GenBank:BAC11010.1; 配列番号:1)、WT1(GenBank:AAO61088.1; 配列番号:2)、NY-ESO1(GenBank:CAA05908.1; 配列番号:3)、MAGE-A3(NCBI参照配列:NP_005353.1; 配列番号:4)、および癌特異的変異抗原、例えば、ネオアンチゲン、変異P53、RASなどを含み、腫瘍サプレッサー遺伝子またはトリガー遺伝子、および外来癌抗原、例えば、発癌性ウイルス抗原、例えば、CMV、EBV、HPVなどを含んでもよい。
【0047】
しかしながら、本願に開示される本発明の特徴は、それぞれのタイプの癌に特異的な様々な癌抗原に由来する各個体に最適なエピトープを選択し、これらを使用してT細胞を産生することであり、これらに限定されない。既知の自己癌抗原は、例えば、WT1、hTERT、NY-ESO1、メソテリン、MAGEなどである。例えば、自己型癌抗原であるhTERTは、テロメア依存性細胞死から逃れるために癌細胞が過剰に活性化する、染色体末端でテロメアDNAを合成する酵素であり、肺癌、胃癌、および膵臓癌を含む様々な固形癌の標的抗原として知られている(Kim NW, et al. Science. 1994; 266: 2011-2015)。WT1は、ウィルムス腫瘍に関連する遺伝子であり、細胞増殖、分化、アポトーシス、および臓器発生に関与するタンパク質であるジンクフィンガー転写因子をコードし、脳脊髄の癌、肺癌などの標的抗原として知られている(Call KM, et al., Cell. 1990. 60: 509-520; Nakahara Y, et al., Brain Tumor Pathol. 2004. 21: 113-6)。さらに、前述したNY-ESO1は癌精巣抗原(CTA)タンパク質であり、主に、生殖細胞、肉腫、および乳癌を含む様々な癌細胞において発現していることが知られている(Gnjatic S, et al., Adv Cancer Res. 2006; 95:1-30)。MAGE-A3は、メラノーマ関連抗原ファミリーに属するタンパク質である。健常細胞におけるその機能は未知であるが、肺癌、肉腫、およびメラノーマを含む様々な癌細胞において過剰発現していることが知られており、癌免疫療法に適した標的抗原だと評価されている(Decoster L, et al., Ann. Oncol. 2012 Jun; 23 (6): 1387-93)。従って、本願の方法では、個々の癌抗原CD8+T細胞を産生するために、特定の癌に関連することが知られている癌抗原が使用され得る。
【0048】
さらに、例えば、EBV、HPV、MCポリオーマウイルス、HBV、HCV、およびCMVを含むウイルス癌抗原が知られている。エプスタイン-バーウイルス抗原は、ホジキンリンパ腫、鼻咽頭癌、胃癌、バーキットリンパ腫、およびNK/Tリンパ腫の標的抗原として知られ、ヒトパピローマウイルス抗原は子宮癌および頭頚部癌の標的抗原として知られ、これに対して、MCポリオーマウイルスはメルケル細胞癌の標的抗原として知られている。B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルスも肝臓癌の標的抗原として知られている。
【0049】
組織特異的癌抗原として、チロシナーゼ、GP100、およびMNRT-1はメラノーマ標的抗原として知られており、PSMA、PAP、およびPSAは前立腺癌標的抗原として知られている。
【0050】
癌抗原に由来する2種類、3種類、4種類、5種類、またはそれより多いペプチドが用いられる。特に、一般的に、エピトープとして働く3~4種類のペプチドがT細胞治療剤を調製するために用いられることを考慮すると、使用される癌抗原に由来するペプチドの数は、少なくとも、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上、またはそれより多いが、これらに限定されず、本願の方法の特徴および関連分野の技術を考慮すれば当業者の決定に委ねられる場合がある。
【0051】
本願の方法が含むエピトープスクリーニング工程は、スクリーニング中に、活性化T細胞(例えば、4-1BB+CD8+T細胞)をスクリーニングする方法によってエピトープが選択され得る点で従来のエピトープスクリーニングプロセスとは異なる。例えば、抗原刺激後に、活性化T細胞が選択され、このような細胞を誘導することができる抗原エピトープが、存在する活性化T細胞(例えば、4-1BB+CD8+T細胞)の存在および量を検出することによって選択され得る。活性化T細胞(例えば、4-1BB+CD8+T細胞)は自動セルソーターを用いてスクリーニングされ得る。自動セルソーターはGMPプロセスにおいて使用することができるものでもよい。例えば、これは、外部環境から切り離されて閉鎖される閉鎖系自動セルソーターでもよい。
【0052】
次の工程では、癌患者血液から単離されたPBMCにおいて、これらのPBMCを、選択されたエピトープとサイトカインの組み合わせを含む培地中で培養することによって4-1BB発現が誘導される。
【0053】
癌抗原特異的CD8+T細胞は血中には0.1%以下という低濃度で存在するので、1種類または複数種のサイトカインと、エピトープスクリーニングを介して選択された3~4種類のペプチドとを、血液から単離されたPBMCに添加し、次いで、7~9日間インキュベートすることによって、癌抗原に由来するペプチドに特異的なCD8+T細胞を増殖させ、4-1BB発現を誘導することができる(図1.B-1、B-2)。結果として、全インキュベーション期間は29日以下、26日以下、20日以下、18日以下、特に、15日まで短縮され得る。
【0054】
本願に従う一態様では、サイトカインは、IL-2、IL-7、IL-15、およびIL-21からなる群より選択される任意のサイトカインでよい。別の態様では、サイトカインは、IL-2、IL-7、IL-15、およびIL-21からなる群より選択される少なくとも2つの組み合わせでもよい。例えば、サイトカインは、IL-2とIL-7、IL-2とIL-15、IL-2とIL-21、IL-7とIL-15、IL-7とIL-21、またはIL-15とIL-21の組み合わせでもよい。
【0055】
従来の癌抗原特異的CD8+T細胞の増殖を14日間の培養にわたって行い、培養して14日目に、抗原特異的CD8+T細胞において4-1BB発現を誘導するために、24時間にわたってさらに再活性化することが必要である。
【0056】
この態様では、本願の工程b)は、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、または14日間にわたって行われてもよい。
【0057】
本願の目的を考慮して、本願に従う方法の第1の工程および第2の工程において用いられる末梢血単核球(PBMC)は同じ患者に由来する。PBMCは、当技術分野において公知の方法を用いて全血から単離されてもよい。
【0058】
第3の工程では、4-1BB発現が誘導された抗原特異的細胞が、抗4-1BB抗体と抗CD8抗体を用いて染色された後に単離される。単離は、例えば、自動セルソーターを用いて行われてもよい。自動セルソーターを用いて抗原特異的4-1BB+CD8+T細胞を単離すると、4-1BB抗体でコーティングされたプレートを使用する従来のプロセスによって引き起こされる、いくつかの問題、例えば、純度と研究の難しさが改善する可能性がある。4-1BBタンパク質の場合、抗CD8抗体と抗4-1BB抗体とを用いて、抗原によって刺激されたCD8+T細胞の表面にしか発現せず、蛍光標識剤と結合されるマーカーについて染色した後に、両種の蛍光を有する抗原特異的CD8+T細胞が効率的に単離され得る。
【0059】
前記のように、4-1BB+を発現するCD8+T細胞が自動セルソーターを用いて選択される調製方法は、EBV、hTERT、NY-ESO-1、WT1、およびMAGE-A3などの癌抗原に特異的なCD8+T細胞の調製において使用され得る。前記のように、4-1BB+を発現するCD8+T細胞を、自動セルソーターを用いて選択する方法によって調製された薬学的組成物は癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の少なくとも90%(例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)を含む場合がある。
【0060】
前記のように、4-1BB+を発現するCD8+T細胞が自動セルソーターを用いて選択される調製方法によって調製された薬学的組成物(例えば、EBV、CMV、hTERT、NY-ESO-1、WT1、またはMAGE-A3に特異的な細胞傷害性T細胞を含む組成物)は高純度の癌抗原特異的細胞傷害性T細胞を有し、従って、T細胞治療剤として優れた臨床有効性(例えば、抗癌有効性など)を有する。
【0061】
上記のスクリーニング工程において用いられる自動セルソーターは、GMPプロセスにおいて使用することができるものでもよい。例えば、これは閉鎖系自動セルソーターでもよい。
【0062】
本願に従う方法は、これらの単離された4-1BB+CD8+T細胞を大量増殖させる工程をさらに含む。
【0063】
大量増殖工程は、単離された癌抗原特異的CD8+T細胞と、放射線照射済み同種異系PBMCとを、IL-2、抗CD3抗体、および自家血漿を含む培地中で培養する工程を含んでもよい。一態様では、4-1BB+CD8+T細胞(5×105~3×106細胞)と、1L培養容器(培養バックまたはG-Rex装置)中に単離された放射線照射済み同種異系PBMC(1×108~3×108個の細胞)と、1000U/mLIL-2と、30ngの抗CD3 mAbとを混合し、7~11日にわたって定期的に培地に添加し、次いで、癌患者に投与され得る1×109細胞/Lを超えるレベルまで増殖させるように細胞を大量培養する。
【0064】
本発明による癌抗原特異的細胞傷害性T細胞を含む、癌を予防または処置するための薬学的組成物は、約1×106細胞/mL以上、約2×106細胞/mL以上、約3×106細胞/mL以上、約4×106細胞/mL以上、約8×106細胞/mL以上、約6×106細胞/mL以上、約7×106細胞/mL以上、約8×106細胞/mL以上、約9×106細胞/mL以上、約1×107細胞/mL以上、約2×107細胞/mL以上、約3×107細胞/mL以上、約4×107細胞/mL以上、約5×107細胞/mL以上、約6×107細胞/mL以上、約7×107細胞/mL以上、約8×107細胞/mL以上、約9×107細胞/mL以上、約1×108細胞/mL以上、約2×108細胞/mL以上、約3×108細胞/mL以上、約4×108細胞/mL以上、約5×108細胞/mL以上、約6×108細胞/mL以上、約7×108細胞/mL以上、約8×108細胞/mL以上、または約9×108細胞/mL以上を含んでもよいが、当業者は、細胞傷害性T細胞の濃度を、同じ効果が得られる可能性がある範囲内に調節することができる。さらに、本発明の薬学的組成物に含まれる細胞のうちの約90%以上はCD8+T細胞である。
【0065】
癌抗原は、OY-TES-1、hTERT、NY-ESO1、MAGE-A3、WT1、PSMA、TARP、メソテリン、チロシナーゼ、GP100、MNRT-1、PAP、PSA、CMV、HCV、HBV、MCポリオーマウイルス、HPV、およびEBVからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0066】
本発明に開示される「組成物」とは、活性成分である本発明による細胞傷害性T細胞と、不活性成分、例えば、天然または人工の担体、標識、または検出器、活性成分、例えば、アジュバント、希釈剤、カップリング剤、安定剤、緩衝液、塩、親油性溶媒、および防腐剤との組み合わせを指し、薬学的に許容される担体を含む。担体はまた、1~99.99wt%またはvol%で、薬学的賦形剤、ならびにさらなるタンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、および炭水化物(例えば、単糖;二糖;三糖;四糖;オリゴ糖;アルジトール、アルドン酸、糖由来多糖類、例えば、エステル化糖、または糖重合体など)を、単独で、または組み合わせて含んでもよい。タンパク質賦形剤には、例えば、ヒト血清アルブミン、組換えヒトアルブミン、ゼラチン、カゼインなどが含まれるが、これに限定されない。緩衝液の役割を果たし得る代表的なアミノ酸成分には、例えば、アラニン、アルギニン、グリシン、ベタイン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、リジン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、アスパルテームなどが含まれるが、これに限定されない。炭水化物賦形剤には、例えば、単糖、例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、ソルボース;二糖、例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオース;多糖類、例えば、ラフィノース、マルトデキストリン、デキストラン、およびデンプン;ならびにアルジトール、例えば、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、ソルビトール、およびミオイノシトールも含まれるが、これに限定されない。
【0067】
当業者は、当技術分野において公知の方法によって本発明の薬学的組成物を処方することができる。例えば、本発明の薬学的組成物は、必要に応じて、水または別の薬学的に許容される液体を用いた滅菌溶液または滅菌懸濁液の注射液の形で非経口的に使用され得る。例えば、本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体または媒体、特に、滅菌水または食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤などと適切に組み合わされ得る。本発明の薬学的組成物は、一般に認められている薬務によって求められる単位剤形で混合することによって処方され得る。製剤中に使用される活性成分の量は、示された範囲の適切な投与量が得られる可能性がある量である。
【0068】
さらに、注射用の滅菌組成物が、賦形剤液体、例えば、注射用蒸留水を用いて、従来の処方操作に従って処方され得る。注射用水溶液として、例えば、生理食塩水;グルコースまたは他の補助剤、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、および適切な溶解補助剤、例えば、アルコール、特に、エタノール、および多価アルコール、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールを含む等張溶液;ならびに非イオン界面活性剤、例えば、ポリソルベート80(商標)、HCO-50の組み合わせが使用され得る。油性液体は、例えば、ゴマ油およびダイズ油を含み、溶解補助剤である安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコールと組み合わせて使用され得る。
【0069】
注射製剤は、例えば、静脈内注射、動脈内注射、選択的動脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、室内注射、頭蓋内注射、髄内注射などによって投与されてもよい。しかしながら、好ましくは、注射製剤は静脈内注射によって投与される。
【0070】
本発明の組成物は薬学的に有効な量のT細胞を含む。有効量は、本明細書における開示に基づいて当業者によって容易に決定され得る。一般的に、薬学的に有効な量は、最初に、低濃度の活性成分を投与し、次いで、対象において副作用が全くなく望ましい効果が得られるまで(例えば、癌に関連する症状が軽減するか、または無くなるまで)濃度を漸増することによって決定される。本発明による組成物を投与するのに適した投与量または投与間隔を決定する方法は、例えば、Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, Goodman et al., eds., 11th Edition, McGraw-Hill 2005、およびRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th and 21st Editions, Gennaro and University of the Sciences in Philadelphia, Eds., Lippencott Williams & Wilkins (2003 and 2005)に記載されている。
【0071】
本発明に従って組成物を投与する方法は、対象の癌のタイプ、年齢、体重、性別、医学的状態、疾患の重篤度、投与経路、および別々に投与される他の薬物などの様々な要因に基づいて決定され得る。従って、投与方法は多種多様であるが、一般的に用いられる方法に従って決定され得る。
【0072】
対象に投与される本発明による組成物の量は、投与方法、対象の健康状態、体重、および医学的助言などの非常に多くの要因によって決定され得る。これらの要因は全て当業者の知識の範囲内である。
【0073】
本発明による癌抗原特異的細胞傷害性T細胞を含む、癌を予防または処置するための薬学的組成物は、約1×106細胞/mL以上、約2×106細胞/mL以上、約3×106細胞/mL以上、約4×106細胞/mL以上、約8×106細胞/mL以上、約6×106細胞/mL以上、約7×106細胞/mL以上、約8×106細胞/mL以上、約9×106細胞/mL以上、約1×107細胞/mL以上、約2×107細胞/mL以上、約3×107細胞/mL以上、約4×107細胞/mL以上、約5×107細胞/mL以上、約6×107細胞/mL以上、約7×107細胞/mL以上、約8×107細胞/mL以上、約9×107細胞/mL以上、約1×108細胞/mL以上、約2×108細胞/mL以上、約3×108細胞/mL以上、約4×108細胞/mL以上、約5×108細胞/mL以上、約6×108細胞/mL以上、約7×108細胞/mL以上、約8×108細胞/mL以上、または約9×108細胞/mL以上を含んでもよいが、当業者は、細胞傷害性T細胞の濃度を、同じ効果が得られる可能性がある範囲内に調節することができる。
【0074】
これはまた、緩衝液、例えば、リン酸緩衝溶液または酢酸ナトリウム緩衝溶液;鎮痛薬、例えば、塩酸プロカイン;安定剤、例えば、ベンジルアルコール、フェノール、および抗酸化物質と組み合わされてもよい。調製された注射溶液は、通常、適切なアンプルに充填される。
【0075】
懸濁液およびエマルジョンは、担体として、例えば、天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、またはポリビニルアルコールを含んでもよい。活性化合物と一緒になる、筋肉内注射用の懸濁液または溶液は、薬学的に許容される担体、例えば、滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール、例えば、プロピレングリコール、および必要に応じて、適量の塩酸リドカインを含む。
【0076】
本発明による細胞傷害性T細胞を含む薬学的組成物は、対象に、例えば、静脈注射(ボーラス注入)または連続注入によって投与されてもよい。例えば、本発明による薬学的組成物は、連続して、または指定された時間間隔で、1時間以下にわたって、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも3時間、少なくとも4時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月にわたって、または臨床判断によって決定された間隔で、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、または少なくとも5回投与されてもよい。注射調製物はアンプルの形で処方されてもよく、複数回投与容器を用いて単位剤形で処方されてもよい。しかしながら、当業者は、本発明による薬学的組成物の投与量が、対象の年齢、体重、身長、性別、全身の医学的状態、および以前の治療歴などの様々な要因に応じて変化することがあることを理解する。
【0077】
本明細書で使用する「癌」という用語は、異常な、制御されていない細胞増殖によって引き起こされる、非常に多くの、あらゆる疾患または障害を指す。癌の原因となる可能性がある細胞は癌細胞と呼ばれ、制御されていない増殖、不死性、転移能力、急速な成長および増殖などの独特の類型学的特徴を有する。多くの場合、癌細胞は腫瘍の形をとることがあるが、このような細胞は個々に哺乳動物に存在してもよく、白血病細胞などの非腫瘍細胞でもよい。癌は、腫瘍の存在を検出するために臨床方法または放射線学的方法によって検出されてもよく、腫瘍または生検などの手段によって得られた他の生物学的試料に由来する細胞を試験することによって検出されてもよく、CA125、PAP、PSA、CEA、AFP、HCG、CA19-9、CA15-3、CA27-29、LDH、およびNSEなどの癌血液マーカーを検出することによって検出されてもよく、TP53およびATMなどの癌マーカー遺伝子型を検出することによって検出されてもよい。しかしながら、上記の方法による陰性の発見は、必ずしも非癌診断を意味するわけではない。例えば、再発が確認された時、癌から完全に回復したことが判明している対象でも癌がある場合がある。
【0078】
本明細書で使用する「約」という用語は、当技術分野において一般的に用いられる範囲、例えば、平均の2標準偏差以内を指す。「約」は、述べられた値の50%以内、45%以内、40%以内、35%以内、30%以内、25%以内、20%以内、15%以内、10%以内、9%以内、8%以内、7%以内、6%以内、5%以内、4%以内、3%以内、2%以内、1%以内、0.5%以内、0.1%以内、0.05%以内、または0.01%以内を意味すると理解され得る。
【0079】
本明細書で使用する「抗癌」という用語は「予防」および「処置」を包含する。「予防」とは、本発明の抗体を含む組成物を投与することによって癌が阻害されるか、または遅延する任意の行為を意味する。「処置」とは、本発明の抗体を投与することによって癌の症状を改善するか、または有利に変える任意の行為を意味する。
【0080】
本明細書中、以下において、本発明は以下の態様に関連して詳細に説明される。これらの態様は、本発明をもっと具体的に例示することを目的とし、本発明の範囲を限定しない。
【実施例
【0081】
実施例1:癌抗原の選択およびCD8+T細胞エピトープのスクリーニング
EBV(エプスタイン-バーウイルス)は、小児期に感染する最も一般的な、かつ広範にわたる疾患であり、通常、症状を引き起こさないが、免疫記憶は大多数の人々に存在する。EBVは様々なEBV陽性腫瘍の原因でもある。従って、健常個体と癌患者の両方で免疫応答を誘導することができる代表的な抗原としてEBV抗原を用いて患者特異的エピトープのスクリーニングを以下の通りに行った。
【0082】
従来のアルゴリズム(CTLPred: http://www.imtech.res.in/raghava/ctlpred/、NetCTL: http://www.cbs.dtu.dk/services/NetCTL/、SYFPEITHI: http://www.syfpeithi.de/)を用いてEBVアミノ酸配列を解析し、これを用いて、CD8+T細胞エピトープだと推定されたアミノ酸配列を確かめ、選択されたエピトープペプチドを化学合成し(Peptron Inc; www.peptron.com)、エピトープスクリーニングに使用した。
【0083】
EBV抗原から選択されたCD8+T細胞エピトープを以下の表1に示した。
【0084】
【表1】
【0085】
表1において選択されたEBV CD8+T細胞エピトープを用いて、T細胞反応性が高いエピトープのスクリーニングを、図1に記載の工程(A:従来のエピトープスクリーニング方法では計15日;B:本願に従うエピトープスクリーニング方法では計7日)にわたって行った。
【0086】
具体的には、EBV陽性健常個体ドナーの末梢血単核球(PBMC)を用いて、EBV CD8+T細胞エピトープスクリーニングを行った。末梢血からPBMCを単離し、洗浄した後に、CTL(細胞傷害性Tリンパ球)培地(RPMI1640培地+4mM L-グルタミン+12.5mM HEPES+50μM 2-メルカプトエタノール+3%自家血漿)に1×106細胞/mLで懸濁し、14mLラウンドチューブに、それぞれ1mLを分注した。次いで、選択されたエピトープペプチドをそれぞれ、それぞれのチューブに2μg/mLの濃度で添加し、CO2インキュベーターに入れて培養した。
【0087】
次に、本願に従うプロセスでは、培養して2日目に、100U/mL IL-2を含むCTL培地1mLを各チューブに添加した。培養して7日目に培養ブロスを各チューブから収集し、IFN-γ量を、サイトメトリックビーズアレイ(cytometric bead array)(BD Bioscience)を用いて製造業者の方法に従って分析した。
【0088】
従来のエピトープスクリーニング方法の場合、培養して7日目、9日目、11日目、および13日目に1mLの培地を除去し、次いで、100U/mL IL-2を含むCTL培地1mLを添加した。培養して14日目に、RPMI1640培地を各チューブに添加し、細胞を1400rpmで5分間、遠心分離によって3回洗浄した。洗浄した細胞を1mL CTL培地に懸濁した後に、同じエピトープペプチドを2μg/mLで添加し、インキュベートした。24時間後に各チューブからの細胞を回収し、フローサイトメトリーのために抗CD8-PE-Cy5および抗4-1BB-PE抗体(BD Bioscience)で染色し、CD8+T細胞を活性化したエピトープペプチドを分析するために4-1BB発現CD8+Tの割合を分析した。
【0089】
従来のエピトープスクリーニング方法では、CD8+T細胞において4-1BB発現を強力に誘導した抗原エピトープは1番、3番、9番、11番、13番、および14番の抗原エピトープであることが見出された(図2A)。本願に従うエピトープスクリーニング方法では、7日目の培養培地からのIFN-γ量から、エピトープペプチド1、9、11、13が培養ブロス中で強力に産生されたことが分かった(図2B)。
【0090】
結果から、本願に従うエピトープスクリーニング方法におけるIFN-γ産生によって選択された癌抗原エピトープと、従来のCD8+T細胞における4-1BB発現分析によって選択された癌抗原エピトープは似ていたことが分かる。これらの結果から、本願に従う方法は、プロセスを従来の方法と比較して簡単にし、かつ時間を15日から7日と50%より多く短縮しながら、7日以下という短い時間でT細胞治療剤の産生に必要な癌抗原エピトープをスクリーニングできることが分かる。従来の方法は、15日プロセスで、4-1BB発現CD8+T細胞を増加させる4種類までのエピトープを選択する。本願の方法は、7日プロセスで、IFN-γ産生に基づいて4種類までの抗原エピトープを選択する。これらの2種類の方法は、同様の抗原エピトープを選択したが、特に、本願に従うプロセスは、従来のプロセスでは15日間スクリーニングするという問題に対処しただけでなく、目下、増殖している抗原特異的CD8+T細胞によって産生されたIFN-γを測定するので、より正確である。選択されたエピトープを用いたT細胞増殖の例を図5および図6に示した。
【0091】
実施例2:本願の方法に従う抗原特異的細胞治療剤の試験的産生(20日プロセス)
大多数の人々は成長過程で、T細胞の免疫記憶を形成し、抗原特異的CD8+T細胞の増殖を誘導するほど強い抗原性を有するCMV(サイトメガロウイルス)に感染する。抗原特異的CD8+T細胞を検出すること目的としたMHCクラスI五量体も開発されており、市販されている。従って、図3に記載の工程に従って、CMV陽性健常個体の血液を用いて、抗原特異的CD8+T細胞治療剤の試験産生を実施した。T細胞治療剤の産生は、エピトープペプチドに特異的なCD8+T細胞の増殖、単離、および大量培養の3段階からなる。具体的な実験方法と結果は以下の通りである。
【0092】
2-1.抗原特異的CD8+T細胞の増殖
PBMCを以下の通りにCMV陽性健常個体の血液から単離した。7mLの血液を、7mLのフィコール・ハイパック(Ficoll-hypaqu)を充填した15mLコニカルチューブの中にゆっくりと流し込み、フィコール溶液の上にかぶせた。チューブを室温、2000rpmで20分間遠心分離し、フィコールと血漿の間にある白色の細胞層だけを収集し、洗浄し、PBMCに使用した。次いで、自己血漿(autoplasma)を、PBMCの上にある薄い黄色の層から単離し、フィルターを用いて濾過し、次いで、使用した。
【0093】
次いで、単離したPBMCを、CTL培地(RPMI1640培地+4mM L-グルタミン+12.5mM HEPES+50μM 2-メルカプトエタノール+3%自己血漿)に1×106細胞/mLで懸濁し、CMVペプチドを2μg/mLの濃度に達するように2μg/mL(NLVPMVATV, CMV/pp65 495-504, Peptron Ltd.)で添加した。次いで、これらの細胞懸濁液を14mLラウンドチューブ(round tube)に、それぞれ1mLで分注し、CO2インキュベーターに入れてインキュベーションを開始した。
【0094】
培養して2日目に、100U/mL IL-2(Proleukin, Novatis)+3%自己血漿を含むCTL培地1mLを各チューブに添加した。
【0095】
培養して7日後に、1mLの上清培地を除去し、100U/mL IL-2+3%自己血漿を含むCTL培地を添加し、さらに2日間インキュベートした。
【0096】
2-2.抗原特異的CD8+T細胞の選択的単離
培養して9日目に、培養物中のPBMCを収集し、PBS(リン酸緩衝食塩水)で洗浄した。洗浄したPBMCを、抗4-1BB抗体および抗CD8抗体で、4℃で30分間染色し、次いで、PBSで2回洗浄した。染色後、洗浄したPBMCを、自動セルソーター(製造業者とモデル名1: Miltenyi biotec, Tyto;製造業者とモデル名2: BD Bioscience, BD FACSAria)を用いて単離し、RPMI1640培地で2回洗浄した。その後、細胞を、自動セルカウンター(EVE Automatic cell counter, NanoEnTek)を用いて計数し、ALyS505N培地(CELL SCIENCE & TECHNOLOGY INST., INC.)を用いて5×105細胞/mLで懸濁し、次いで、次の工程を行った。
【0097】
2-3.抗原特異的CD8+T細胞の大量培養
PBMCを200mLの健常ドナー血液から単離し、1×107細胞/mLで懸濁し、次いで、細胞死を誘導するために3000ラドで放射線照射し、次いで、T細胞の増殖を誘導するのに必要な同時刺激を与えることができる培養添加物を添加した。
【0098】
50mLコニカルチューブに、実施例2-1で単離した5×105個の抗原特異的CD8+T細胞と、1×108個の放射線照射済み同種異系PBMCとを添加した後に、1,000U/mL IL-2、30ng/mL 抗CD3 mAb(BD Bioscience)、および3%自己血漿を含むALyS505N培地を50mLまで添加した。50mLの細胞懸濁液を1L培養容器(1L培養バック(NIPRO)または1L G-Rex装置(Wilson Wolf))に注入し、次いで、CO2インキュベーターに入れてインキュベートした。
【0099】
培養して3日目に、1,000U/mL IL-2、3%自家血漿を含むALyS505N培地150mLを1L培養容器にさらに注入した。培養して6日目に、1,000U/mL IL-2、3%自家血漿を含むALyS505N培地300mLを1L培養容器にさらに注入した。培養して9日目に、1,000U/mL IL-2、3%自家血漿を含むALyS505N培地500mLを1L培養容器にさらに注入した。培養して11日目に、1L培養容器から全ての細胞を収集し、生理食塩水注射溶液で3回洗浄し、完成したT細胞治療剤に充填するために、5%アルブミンを含む生理食塩水注射溶液に懸濁した。
【0100】
結果として、20日プロセスで産生された抗原特異的CD8+T細胞は、CD3+、CD8+、CD45RO+、CD45RA-、CD62L-(CD62L+;約7.4%)、CCR7-、およびCD27-(CD27+;約7.5%)表現型を有するCMV特異的CD8+T細胞であることが見出された(図3)。
【0101】
完成品を、現在実施されている評価基準に従って、完成したT細胞治療剤であるか分析した(食品医薬品安全処、完成したT細胞治療剤の臨床試験の自己評価基準)。
【0102】
評価基準の試験項目は表2に記載の通りである。すなわち、1)総細胞数試験:産生されたT細胞が完成品評価基準と一致して産生されたかどうかの試験。2)細胞生存率:産生されたT細胞治療剤の生存率が70%という評価基準レベルを上回るかどうかの試験。3)確認試験:完成品のCD8+T細胞比率が少なくとも65%であるかどうかの試験。産生されたT細胞がナイーブCD8+T表現型であるかどうかCD45RAを試験する。産生されたT細胞がエフェクター/記憶CD8+T表現型を有するかどうかCD45ROを試験する。4)純度試験:CD57については、老化CD8+T細胞がいくつ存在するかどうか確かめる残渣試験。PD-1については、非機能的CD8+T細胞(消耗した(exhausted)CD8+T)がいくつ存在するかどうか確かめる。抗CD3については、大量産生に使用した抗体のうちどれだけ完成品に残っているかどうか確かめる。5)細胞機能試験:細胞産生のために導入された抗原エピトープに対する特定のTCR型を有するCD8+T細胞が少なくとも20%のレベルで産生されたかどうか確かめるTCRvβ分類試験。どれくらいのCD8+T細胞が抗原特異的作用機序を有するか確かめるIFN-γ産生およびLAMP1発現試験。
【0103】
【表2】
【0104】
分析から、T細胞治療剤自己評価基準と、食品医薬品安全庁によって承認された試験項目とに一致してT細胞治療剤は産生されたことが確認された(図4)。
【0105】
さらに、表2に示した試験項目および試験基準に基づいて、従来の産生プロセス(4-1BB抗体でコーティングされたプレートを使用する細胞単離プロセス)と、前記のように本願に従う自動セルソーターを使用する細胞単離プロセスとに従って産生されたT細胞治療剤の品質を比較すると、両プロセスで産生されたT細胞治療剤は臨床試験を実施するのに適しているが(図4)、本願の方法に従って産生されたT細胞治療剤の総細胞数、純度、および生存率の方が優れていることが分かった。特に、本願に従うプロセスによって産生されたCD8+T細胞治療剤の大多数は純度が少なくとも95%であることが見出された。これらの結果から、本願に従う方法は、高純度のT細胞を、従来の方法よりも短い時間で直接、かつ素早く産生できることが分かる。
【0106】
実施例3:本願の方法に従うEBV特異的CD8+T細胞治療剤の試験的産生(20日プロセス)
3-1.EBV特異的CD8+T細胞の増殖
PBMCをEBV陽性健常個体の血液から単離し、実施例2の項目2-1のプロセスでは、CMVペプチドの代わりにEBVペプチドを使用し、使用するEBVペプチドを実施例1のプロセスによって選択した。
【0107】
3-2.EBV特異的CD8+T細胞の選択的単離
自動セルソーターにBD BioscienceのFACSMelodyを使用し、自動セルカウンターにLogos BiosystemsのLUNA-FLを使用したが、実施例2の手順2-2を同じように実施した。
【0108】
3-3.抗原特異的CD8+T細胞の大量培養
細胞死を誘導するために健常ドナー血液に放射線照射し、PBMCを単離し、次いで、1×107細胞/mLで懸濁し、凍結させた。T細胞の増殖を誘導するのに必要な同時刺激を与えるために、放射線照射済みPBMC(同種異系PBMC)を培養添加物として使用した。次いで、単離した同種血漿(alloplasma)を、PBMCの上層に接している薄い黄色の層から単離し、フィルターを用いて濾過し、次いで、使用した。
【0109】
50mLチューブ中に、選択的に単離したEBVペプチド特異的CD8+T細胞と、単離した細胞の数の200倍で調製した放射線照射済み同種異系PBMCとを、3%同種血漿を含むALys505N培地30mLに懸濁した。これに、1,000IU/mL IL-2と30ng/mL抗CD3抗体を添加した。次いで、細胞懸濁液30mLを75Tフラスコに入れ、CO2インキュベーターに入れてインキュベーションを開始した。
【0110】
培養して3日目に、1,000IU/mL IL-2、3%同種血漿を含むALys505N培地20mLを75Tフラスコに添加した。培養して5~15日目に、2~3日の間隔で、1,000IU/mL IL-2、3%同種血漿を含む等量のALys505N培地を添加した。培養して15日目に全ての培養細胞を回収した。
【0111】
前記のように、以下の表2に示した、20日プロセスで5人のドナーから産生されたEBV特異的CD8+T細胞の確認および純度試験の結果から、表2に示した全ての基準を満たしたことが確認された。
【0112】
【表3】
【0113】
さらに、以下の表に示したように、効力試験結果は全て表2の評価基準を満たした。
【0114】
【表4】
【0115】
実施例4:本願の方法に従うEBV特異的CD8+T細胞治療剤の試験的産生(26日プロセス)
4-1.EBV特異的CD8+T細胞の増殖
実施例3のプロセス3-1を全く同じように行った。
【0116】
4-2.EBV特異的CD8+T細胞の選択的単離
培養して14日目に、培養物中のPBMCを回収し、RPMI培地で洗浄した。洗浄したPBMCを、自動セルカウンター(Logos Biosystems, LUNA-FL)を用いて計数し、細胞を2×106細胞/mLで培養できるようにCTL培地に懸濁した。細胞を懸濁したCTL培地に3%自己血漿と100IU/mL IL-2を添加し、次いで、1mLあたり2×106個の細胞で懸濁した細胞を24ウェルプレートの各ウェルに入れた。培養の初日に添加するhTERT、WT1、NY-ESO-1ペプチドを2μg/mLの濃度に達するように添加し、CO2インキュベーターに入れてインキュベートした。
【0117】
培養して15日目に、培養物中のPBMCを収集し、RPMI培地で洗浄した。洗浄したPBMCを、抗4-1BB抗体および抗CD8抗体で、4℃で30分間染色し、次いで、RPMI培地で再洗浄した。染色後に、洗浄したPBMCを、4-1BBおよびCD8を発現する細胞から自動セルソーター(BD Biosciences, FACSMelody)を用いて選択的に単離した。選択的に単離した細胞をRPMI培地で洗浄し、自動セルカウンターを用いて細胞を計数した。単離した細胞を、ALyS505N培地を用いて懸濁し、次いで、以下の工程を行った。
【0118】
ドナー5の場合、実施例4のプロセス4-1を、EBV5に対応するペプチドを用いて全く同じように実施した。自動セルソーターを介して単離したCD8+4-1BB+細胞を、PE-MHC Class I Pentamer(Proimmune, A*02: 01 FLYALALLL)を用いて染色し、フローサイトメーター(BD Biosciences, FACSCelesta)を用いて分析した。結果として、細胞の96.9%がEBV特異的CD8+T細胞であることが確認された(図7および図8)。
【0119】
4-3.抗原特異的CD8+T細胞の大量培養
細胞死を誘導するために健常ドナー血液に放射線照射し、PBMCを単離し、1×107細胞/mLで懸濁し、次いで、凍結および保存した。T細胞の増殖を誘導するのに必要な同時刺激を与えるために、放射線照射済みPBMC(同種異系PBMC)を培養添加物として使用した。次いで、単離した同種血漿を、PBMCの上層に接している薄い黄色の層から単離し、フィルターを用いて濾過し、次いで、使用した。
【0120】
50mLチューブ中に、選択的に単離したEBVペプチド特異的CD8+T細胞と、単離した細胞の数の200倍で調製した放射線照射済み同種異系PBMCとを、3%同種血漿を含むALys505N培地30mLに懸濁した。これに、1,000IU/mL IL-2と30ng/mL抗CD3抗体を添加した。次いで、細胞懸濁液30mLを75Tフラスコに入れ、CO2インキュベーターに入れてインキュベーションを開始した。
【0121】
培養して3日目に、1,000IU/mL IL-2、3%同種血漿を含むALys505N培地20mLを75Tフラスコに添加した。培養して5~11日目に、2~3日の間隔で、1,000IU/mL IL-2、3%同種血漿を含む等量のALys505N培地を添加した。培養して11日目に全ての培養細胞を回収した。
【0122】
前記のように、以下の表5に示した、26日プロセスで産生された抗原特異的CD8+T細胞の確認および純度試験の結果から、表2に示した全ての基準を満たしたことが確認された。
【0123】
【表5】
【0124】
さらに、以下の表6に示したように、効力試験結果から、表2の効力試験基準を満たしたことが確認された。
【0125】
【表6】
【0126】
実施例5:本願の方法に従うEBV特異的CD8+T細胞治療剤の試験的産生(29日プロセス)
5-1.EBV特異的CD8+T細胞の増殖
実施例4のプロセス4-1を全く同じように行った。
【0127】
5-2.EBV特異的CD8+T細胞の選択的単離
実施例4のプロセス4-2を全く同じように行った。
【0128】
5-3.EBV特異的CD8+T細胞の大量培養
培養して11日目ではなく14日目まで2~3日間隔で、1,000IU/mL IL-2および3%同種血漿を含むALys505N培地を等量で添加したという違いはあるが、実施例4のプロセス4-3を同じように実施した。培養して14日目に培養細胞を全て収集した。
【0129】
前記のように、以下の表7に示した、29日プロセスで産生された抗原特異的CD8+T細胞の確認および純度試験の結果から、表2に示した全ての基準を満たしたことが確認された。
【0130】
【表7】
【0131】
さらに、以下の表8に示したように、効力試験結果から、表2の効力試験基準を満たしたことが確認された。
【0132】
【表8】
【0133】
大量培養によって産生された細胞の抗原性特異性を確認するために、EBVペプチド5と、PE-MHC Class I Pentamer(Proimmune, A*02: 01 FLYALALLL)およびAPC-MHC Class I Pentamer(Proimmune, A*02: 01 LLWTLVVLL)を用いて産生されたドナー7の細胞に対して細胞表面染色を行った。92.6%がEBV#5特異的CD8+T細胞であることが確認された(図8)。
【0134】
実施例6:本願の方法に従う抗原特異的CD8+T細胞治療剤の試験的産生(15日プロセス)
実施例3の20日プロセスとの違いは以下の通りである。20日プロセスでは、一次増殖のためのインキュベーションをIL-2の存在下で行ったが、15日プロセスでは、CD8+T細胞をサイトカインの組み合わせ、すなわち、例えば、IL-2+IL-21の存在下で増殖させた。20日プロセスで大量培養する場合、5×105個の抗原特異的CD8+T細胞と1×108個の放射線照射済み同種異系PBMCとを使用したが、15日プロセスでは、1.5×106個のCD8+T細胞と3×108個の同種異系PBMCとを使用した。さらに、全培養ブロスは1Lで同じであるが、プロセス中に添加した培養ブロスの量は異なる。
【0135】
従って、抗原特異的T細胞治療剤の試験産生を、図5に記載の工程に従って、EBV陽性健常個体の血液を用いて行った。具体的な実験方法と結果は以下の通りである。
【0136】
6-1.抗原特異的CD8+T細胞の増殖
PBMCを以下の通りにEBV陽性健常個体の血液から単離した。7mLの血液を、7mLのフィコール・ハイパックを充填した15mLコニカルチューブの中にゆっくりと流し込み、フィコール溶液の上にかぶせた。チューブを室温、2000rpmで20分間遠心分離し、フィコールと血漿の間にある白色の細胞層だけを回収し、洗浄し、PBMCに使用した。次いで、自己血漿を、PBMC層の上にある薄い黄色の層から単離し、フィルターを用いて濾過し、次いで、使用した。
【0137】
次に、単離したPBMCをCTL培地(RPMI1640培地+4mM L-グルタミン+12.5mM HEPES+50μM 2-メルカプトエタノール+3%自己血漿)に1×106細胞/mLで懸濁し、EBVペプチド(EBV LMP2a-1 GLGTLGAAI, EBV LMP2a-9 SLGGLLTMV, EBV LMP2a-11 TYGPVFMSL, EBV LMP2a-13 PYLFWLAAI, Keppetron)をそれぞれ2μg/mLの濃度に達するように添加した。次いで、これらの細胞懸濁液を14mLラウンドチューブに、それぞれ1mLで分注し、CO2インキュベーターに入れてインキュベーションを開始した。
【0138】
培養して2日目に、100U/mL IL-2(Proleukin, Novatis)+10U/mL IL-21(Miltenyi Biotec)+3%自己血漿を含有するCTL培地1mLを各チューブに添加し、さらに5日間インキュベートした。
【0139】
6-2.抗原特異的CD8+T細胞の選択的単離
培養して7日目に、培養物中のPBMCを収集し、PBS(リン酸緩衝食塩水)で2回洗浄した。洗浄したPBMCを、抗4-1BB抗体および抗CD8抗体で、4℃で30分間染色し、次いで、PBSで2回洗浄した。染色後、洗浄したPBMCを、自動セルソーター(Miltenyi biotec, Tyto;製造業者とモデル名2: BD Bioscience, BD FACSAria)を用いて単離し、RPMI1640培地で2回洗浄した。細胞を自動セルカウンター(EVE Automatic cell counter, NanoEnTek)を用いて計数し、ALyS505N培地(CELL SCIENCE & TECHNOLOGY INST., INC. (CSTI))を用いて5×105細胞/mLで懸濁した。
【0140】
6-3.抗原特異的CD8+T細胞の大量培養
PBMCを300mLの健常ドナー血液から単離し、1×107細胞/mLで懸濁し、次いで、細胞死を誘導するために3000ラドで放射線照射し、次いで、T細胞の増殖を誘導するのに必要な同時刺激を与えることができる培養添加物を添加した。
【0141】
1.5×106個の単離した抗原特異的CD8+T細胞および3×108個の放射線照射済み同種異系PBMC、1,000U/mL IL-2、30ng/mL抗CD3 mAb(BD Bioscience)、ならびに3%自己血漿を200mLのALyS505N培地に添加した。200mLの細胞懸濁液を1L培養容器(1L培養バック(NIPRO)または1L G-Rex装置(Wilson Wolf))に注入し、次いで、CO2インキュベーターに入れてインキュベートした。
【0142】
培養して3日目に、1,000U/mL IL-2、3%自家血漿を含むALyS505N培地300mLを1L培養容器にさらに注入した。培養して6日目に、1,000U/mL IL-2、3%自家血漿を含むALyS505N培地500mLを1L培養容器にさらに注入し、さらに2日間インキュベートした。培養して8日目に、1L培養容器から全ての細胞を収集し、生理食塩水注射溶液で3回洗浄し、完成したT細胞治療剤に充填するために、5%アルブミンを含む生理食塩水注射溶液に懸濁した。
【0143】
次いで、T細胞治療剤の品質を調べた。
【0144】
結果として、図5に記載のように15日プロセスで産生された抗原特異的CD8+T細胞は、CD3+、CD8+、CD45RO+、CD45RA-、CD62L-、CCR7-、およびCD27-(CD27+ 約6.5%)表現型を有する高純度の抗原特異的CD8+T細胞であった。表2に示したように、細胞治療剤の完成品評価基準に従って完成品を分析した時に、図6に示したように、評価基準に適したT細胞治療剤製品が産生されたことが確認された。
【0145】
実施例7:EBV由来抗原特異的CD8+T細胞(EBViNT細胞)の完成した薬物の毒性試験結果の毒性試験結果
マウス由来CTL処置群およびプラセボ群の反復投与毒性試験結果は以下の通りであった。1)実験期間中に、死亡した動物も全身症状も観察されなかった。2)体重、餌と水の摂取、眼の検査、尿検査、および血液検査の結果の変化は観察されなかった。3)血液生化学検査および臓器重量測定の結果として、試験物質による変化は観察されなかった。4)試験物質による剖検および病理組織学的所見の変化はなかった。
【0146】
従って、C57BL/6N系統の雌マウスおよび雄マウスにおいて3週間にわたって4回、マウス由来CTLを静脈内反復投与しても、死亡率、全身症状、体重変化、餌と水の摂取、眼の検査、尿検査、血液検査および血清化学検査、剖検所見、臓器重量、ならびに病理組織学的検査の点で毒物学的作用は誘導されなかった。従って、これらの試験条件下で、無毒の試験物質量(NOAEL無毒性量)は雄動物と雌動物の両方で6×106細胞/頭部であることが見出され、標的器官は観察されなかった。
【0147】
実施例8:EBViNT細胞完成品の薬物の分布試験結果
EBViNT細胞完成品を投与した後に分布をインビボで検証した。
【0148】
CD8 T細胞を投与して10日目は、投与されたCD8 T細胞応答の最も強力な時期であった。0.7倍のCD8+T細胞が投与された時、一部のマウスの二次リンパ器官にしか低い割合(0.1~0.2%未満)が検出されなかった(雄#3、雌#8)。7倍のCD8+T細胞が投与された時、投与されたCD8+T細胞は二次リンパ器官(鼠径部、腋窩、頸部、腸間膜LN、および脾臓)の大多数において約1~5%で検出された。他の臓器のうち、投与されたCD8+T細胞は肺のみで0.5~7%で検出された。投与されたCD8+T細胞は腎臓、骨髄、脳、肝臓、胸腺、心臓、および精巣/卵巣性器では検出されなかった。
【0149】
CD8+T細胞を投与して30日目は、投与されたCD8+T細胞応答が免疫記憶を形成し、活性機能を示すCD8+T細胞が減少し、免疫記憶を担う一部の記憶T細胞しか残らない時期である。3.32×105個のCD8+T細胞が投与された時、全マウスにおいてCD8+T細胞が観察されなかった。3.32×106個のCD8+T細胞が投与された時、雄#1~5生体マウスの二次リンパ器官(鼠径部、腋窩、頸部、腸間膜LN、および脾臓)に投与されたCD8+T細胞だけが約2%で検出された。腎臓、骨髄、脳、肝臓、肺、胸腺、心臓、および精巣/卵巣性器などの他の臓器では、投与されたCD8+T細胞は検出されなかった。
【0150】
従って、抗原特異的CD8+T細胞の大多数は二次リンパ器官に移動し、蓄積および増殖し、普通の臓器に投与された癌抗原特異的CD8+T細胞は蓄積または増殖を示さないことが確かめられた。
【0151】
例えば、特許請求の範囲を作成する目的で、以下に示された特許請求の範囲が、いかなる方法によっても、その文字通りの言葉よりも狭く解釈されることは意図されず、従って、本明細書からの例示的な態様が特許請求の範囲の意味に読み取られることは意図されない。従って、本発明は例示として説明され、特許請求の範囲を限定するものとして説明されないと理解しなければならない。従って、本発明は以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。本願において引用された全ての刊行物、発行された特許、特許出願、書籍、および学術論文はそれぞれ、その全体が参照により本願に組み入れられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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